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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076719
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
B60G17/015 A
B60G17/015 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188410
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】598172860
【氏名又は名称】株式会社テイン
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 大
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 宏尚
(72)【発明者】
【氏名】加藤 一馬
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA03
3D301AA04
3D301AA05
3D301AB02
3D301AB08
3D301AB10
3D301DA27
3D301DA28
3D301DA33
3D301DB39
3D301DB40
3D301EA21
3D301EA22
3D301EA65
3D301EB13
3D301EC01
3D301EC06
(57)【要約】
【課題】車両制御装置において、簡素な構成で、車両の運動性能を向上させる。
【解決手段】車両制御装置は、車両200のショックアブソーバ(懸架装置130)の減衰力を調整する調整部(ステップモータ139)と、車両200の進行方向に対して垂直な左右方向の左右加速度から算出される左右躍度を取得し、少なくとも左右躍度に基づいて調整部を制御する制御部(中央制御装置110)とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のショックアブソーバの減衰力を調整する調整部と、
前記車両の進行方向に対して垂直な左右方向の左右加速度から算出される左右躍度を取得し、少なくとも当該左右躍度に基づいて前記調整部を制御する制御部と
を備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、少なくとも前記左右加速度及び前記左右躍度に基づいて前記調整部を制御する
ことを特徴とする請求項1記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記左右加速度及び前記左右躍度のそれぞれが複数の調整条件のいずれかに達したときの各調整条件に対応する規定の調整量を用いて、前記左右加速度に対応する前記調整量と前記左右躍度に対応する前記調整量とを足し合わせた複合調整量で前記調整部を制御する
ことを特徴とする請求項2記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記車両の前記進行方向の前後加速度から算出される前後躍度を更に取得し、少なくとも前記左右躍度及び前記前後躍度に基づいて前記調整部を制御する
ことを特徴とする請求項1記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記車両は、前後左右の車輪を有し、
前記制御部は、前外輪側及び後ろ内輪側の前記車輪の減衰力が前内輪側及び後ろ外輪側の前記車輪の減衰力よりも強くなるように前記調整部を制御する
ことを特徴とする請求項1記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記車両は、前後左右の車輪を有し、
前記制御部は、前記左右躍度が大きいほど前記前後左右の車輪の減衰力が強くなるように前記調整部を制御する
ことを特徴とする請求項1記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰力を調整する調整部を制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の車輪と車体との間に配置されたショックアブソーバの減衰力を、車両の走行状態に応じて調整することが行われている。このように減衰力を調整する装置として、例えば、加速度や上下加速度変化率(ジャーク)が基準値よりも大きいか否かに基づいて、ショックアブソーバの減衰力を調整するサスペンション制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-105525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ハンドルを操作することにより発生する左右方向の左右加速度は、車両の運転者により異なり、車両運動開始、車両運動中、車両運動終了の間、常に適切な減衰力は変動し続ける。
【0005】
また、車両運動開始時に左右方向に急荷重移動を行った場合、瞬間的に荷重はオーバーシュートし、タイヤと路面の摩擦係数が低下し、車両の運動性能、旋回性能を低下させる。そのため、ハンドル操作によって車両の旋回時に発生するヨーをコントロールすることは、車両の運動性能、旋回性能向上に重要である。しかしながら、ヨーの発生はヨーレートセンサ等により測定することができるが、ヨーレートセンサを付加的に使用すると、製品として非常に高価なものとなる。
【0006】
また、左右方向の左右加速度によって減衰力を調整することが考えられるが、左右加速度を用いて減衰力を調整するだけでは、急なハンドル操作による車両旋回時に上記のオーバーシュートを十分に低減させることができない。そのため、車両の運動性能を向上させることができない。
【0007】
本発明の目的は、簡素な構成で、車両の運動性能を向上させることができる車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様では、車両制御装置は、車両のショックアブソーバの減衰力を調整する調整部と、前記車両の進行方向に対して垂直な左右方向の左右加速度から算出される左右躍度を取得し、少なくとも当該左右躍度に基づいて前記調整部を制御する制御部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
前記態様によれば、簡素な構成で、車両の運動性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施の形態における車両を模式的に示す概念図である。
図2】一実施の形態における中央制御装置を示すブロック図である。
図3】一実施の形態におけるアクチュエータドライバ及び懸架装置を示すブロック図である。
図4】一実施の形態における中央制御装置の処理を説明するためのフローチャートである。
図5】一実施の形態におけるアクチュエータドライバの処理を説明するためのフローチャートである。
図6】一実施の形態における舵角と時間との関係を示すグラフである。
図7】一実施の形態における減衰係数と躍度との関係を示すグラフである。
図8】一実施の形態の躍度制御を行う場合及び比較例の減衰係数一定の場合におけるロール角と時間との関係を示すグラフである。
図9】一実施の形態の躍度制御を行う場合及び比較例の減衰係数一定の場合における走行軌跡(進行方向距離及び左右方向距離との関係)を示すグラフである。
図10図9の左右方向距離の相対距離と時間との関係を示すグラフである。
図11】一実施の形態における左右躍度と左右加速度との複合制御を説明するための説明図(その1)である。
図12】一実施の形態における左右躍度と左右加速度との複合制御を説明するための説明図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態に係る車両制御装置について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態における車両200を模式的に示す概念図であり、図2は、中央制御装置110を示すブロック図であり、図3は、アクチュエータドライバ120及び懸架装置130を示すブロック図である。
【0013】
図1に例示されるように、車両懸架システム100が実装される車両200は、複数の車輪202と、これらの車輪202に支持された車体201とを備える。
【0014】
車体201の中央部には、運転席を含むキャビン205(車室)が配置され、車体201の前後左右には、計4つの車輪202が配置されている。
【0015】
車両懸架システム100は、複数の車輪202の各々と車体201との間に配置された複数の懸架装置130と、この懸架装置130に装着され、減衰力調整用アクチュエータとして機能する図3に示すステップモータ139を作動させる複数のアクチュエータドライバ120と、キャビン205の内部に設けられ複数のアクチュエータドライバ120を無線通信にて遠隔制御する中央制御装置110とを有する。この場合のアクチュエータ(ステップモータ139)は、油圧緩衝器に内蔵されたものでも、別の装置を油圧緩衝器に追加で取り付けるものであってもよい。このように、本実施の形態に係る車両制御装置は、中央制御装置110及びアクチュエータドライバ120を備え、例えば、着脱可能に車両200に配置されている。なお、着脱可能といえるためには、例えば、固定の解除やケーブルの抜き差しで後付け可能に配置されていればよい。ここで、車両懸架システム100の構成はあくまで一例であり、例えば、中央制御装置110が無線通信ではなく有線通信でアクチュエータドライバ120を制御するなど、構成は適宜変更可能である。
【0016】
図1の例では、前部側の2つの車輪202に設けられる2つの懸架装置130が共通の1つのアクチュエータドライバ120で作動され、後部側の2つの車輪202に設けられる2つの懸架装置130が共通の1つのアクチュエータドライバ120で作動される構成となっている。
【0017】
図2に例示されるように、中央制御装置110は、マイコン111、不揮発メモリ112、操作インターフェイス113、ディスプレイ114、加速度センサ115、GPS装置116、無線通信機能部117、及びアンテナ118を有する。
【0018】
マイコン111は、マイクロプロセッサ等で構成され、不揮発メモリ112に格納された制御プログラム111aを実行することで、後述の図4に示すフローチャートに例示されるような、車両懸架システム100の全体の制御を行う。
【0019】
不揮発メモリ112は、マイコン111の制御プログラム111aや制御データ111b等の情報を、書き換え可能に不揮発に記憶する。
【0020】
操作インターフェイス113は、例えば、ユーザが操作するボタンスイッチやダイヤル、キーボードなどで構成され、ユーザからの中央制御装置110への指令入力に用いられる。
【0021】
ディスプレイ114は、車両懸架システム100の現在の動作状況や制御情報、各種センサ情報を可視化して出力する。
【0022】
加速度センサ115は、車両200に作用する加速度を検出してマイコン111に入力する。この加速度センサ115によって検出される加速度は、例えば、車両200の進行方向及びこの進行方向に直交する水平な左右方向の加速度である。
【0023】
GPS装置116は、全地球測位システムの受信機であり、車両200の位置情報や速度情報を計測してマイコン111に入力する。
【0024】
無線通信機能部(RF)117は、マイコン111から入出力される情報を無線通信でアクチュエータドライバ120と授受する。
【0025】
アンテナ118は、無線通信機能部117の無線通信のための電波の送受信を行う。アンテナ118は、中央制御装置110に内蔵してもよい。
【0026】
電源119は、中央制御装置110を動作させる電力を供給する。この場合、電源119は、車両200に備えられた図示しないバッテリであってもよい。
【0027】
一方、図3に示すアクチュエータドライバ120は、マイコン121、不揮発メモリ122、モータドライバ回路123、無線通信機能部124、アンテナ125、及び電源126を有する。
【0028】
また、懸架装置130は、振動を減衰する例えば油圧緩衝器からなるショックアブソーバを備える。このショックアブソーバは、シリンダ131、ピストン132、ピストンロッド133、作動油134、ガス室与圧タンク135、フリーピストン136、バイパス通路137、ニードル弁138、及びステップモータ139を有する。なお、懸架装置130は、車重を支えて衝撃を吸収する図示しないスプリングを更に備えるとよい。また、図3に示す懸架装置130は、あくまで一例であり、例えば、図3に示す単筒式に代えて複筒式を採用するなど適宜変更可能である。
【0029】
アクチュエータドライバ120において、マイコン121は、マイクロプロセッサ等で構成され、制御プログラム121aを実行することで、後述のフローチャート等に例示されるように、中央制御装置110からの指示に基づいて懸架装置130におけるステップモータ139の回転を制御し、懸架装置130の動作特性(この場合、油圧緩衝器としての減衰特性)を制御する。
【0030】
不揮発メモリ122は、マイコン121の制御プログラム121a等の情報を書き換え可能に不揮発に記憶する。
【0031】
モータドライバ回路123は、マイコン121からの指令に基づいて駆動電流を出力することで、懸架装置130のステップモータ139の回転方向や回転量を制御する。
【0032】
無線通信機能部(RF)124は、上述の中央制御装置110との無線通信を実現する。
【0033】
アンテナ125は、無線通信機能部124の無線通信のために中央制御装置110との間における電波の送受信を行う。アンテナ125は、アクチュエータドライバ120に内蔵してもよい。
【0034】
電源126は、例えば、車両200に備えられた図示しないバッテリである。
【0035】
一方、懸架装置130は、ピストンロッド133の固定部133aが車両200の車体201の側に固定され、シリンダ131の固定部131aが車輪202を支持する図示しないシャーシの側に固定され、車輪202から車体201に作用する衝撃等から発生する振動を減衰させ、車両200の乗り心地や操縦性能を可変に制御する。
【0036】
そして、懸架装置130は、ピストン132とシリンダ131との間に封入された作動油134が、バイパス通路137を通過してガス室与圧タンク135との間で出入りすることでピストンロッド133に減衰力を発生させる。
【0037】
ガス室与圧タンク135には、フリーピストン136を作動油134側に付勢するバネ136aが背面側に設けられている。また、ガス室与圧タンク135内には、窒素ガス等の気体が適性圧力で封入されており、フリーピストン136が、封入された気体と作動油134とを完全に区画している。
【0038】
バイパス通路137には、このバイパス通路137の開度を所定の位置に変化させるニードル弁138が設けられ、このニードル弁138によるバイパス通路137の開度がステップモータ139の回転方向および回転量によって制御される。なお、懸架装置130の構成によっては、各懸架装置130に2つずつステップモータ139が配置される。
【0039】
そして、バイパス通路137の開度が小さいと作動油134の流動抵抗が増大して懸架装置130の減衰力は大きくなり、逆にバイパス通路137の開度が大きいと減衰力は小さくなる。
【0040】
すなわち、アクチュエータドライバ120は、中央制御装置110からの指令に基づいてステップモータ139を制御することで、懸架装置130の減衰特性を随意に設定および変更する。換言すると、ステップモータ139は、車両200のショックアブソーバの減衰力を調整する調整部の一例として機能する。そして、中央制御装置110は、アクチュエータドライバ120を制御することで、間接的にステップモータ139を制御する。
【0041】
以下、本実施の形態の車両懸架システム100の作用の一例を説明する。
【0042】
図4は、中央制御装置110の処理を説明するためのフローチャートである。
【0043】
図5は、アクチュエータドライバ120の処理を説明するためのフローチャートである。
【0044】
本実施の形態の場合、中央制御装置110の不揮発メモリ112に格納された制御データ111bは、例えば、制御テーブルからなり、詳しくは後述するが、加速度センサ115で検出された車両200の加速度から算出により取得されるジャーク(躍度)の値(及び加速度値)に対応した、前部および後部の車輪202に備えられた懸架装置130の減衰特性の設定値が、個々のアクチュエータドライバ120の識別情報(ドライバID)ごとに格納されている。なお、本実施の形態の後述する減衰力調整を行うためには、少なくとも左右方向の加速度から算出される左右躍度(左右ジャーク)を用いればよい。ただし、左右躍度のみならず前後躍度も用いて(例えば、左右躍度に基づく調整量と前後躍度に基づく調整量とを足し合わせて)、アクチュエータドライバ120を制御してもよい。
【0045】
また、制御データ111bには、GPS装置116から検出される車両200の走行速度に対応した、前部および後部の車輪202に備えられた懸架装置130の減衰特性の設定値が個々のアクチュエータドライバ120の識別情報(ドライバID)ごとに格納されていてもよい。
【0046】
なお、懸架装置130は、例えば、車両200の前部に左右合わせて2つ配置され、車両200の後部にも左右合わせて2つ配置される。4輪車両用は、前後輪油圧緩衝器4本同時制御、前輪2本と後輪2本とで独立制御、4本独立制御等、使用用途に応じてアクチュエータドライバ120のマイコン121の制御プログラム121aを変更することで対応可能である。また、油圧緩衝器の種類(伸縮同時、伸縮個別、伸縮及び高速低速個別の減衰力調整)に対しても同様に使用用途に応じ制御プログラム121aを変更することで対応可能である。
【0047】
そして、マイコン111(制御プログラム111a)は、例えば、加速度センサ115から検出される加速度から得られるジャークの値に基づいて、対応した減衰特性に変化させるようにアクチュエータドライバ120に指令を出す。
【0048】
なお、操作インターフェイス113を介してマニュアルで特定のドライバID毎に減衰特性の設定値が入力された場合には、当該設定値を優先して制御対象のアクチュエータドライバ120に指令してもよい。
【0049】
以下、図4および図5等を参照して、車両懸架システム100の動作例を説明する。
【0050】
図4のフローチャートに例示されるように、制御プログラム111aを実行するマイコン111は、アクチュエータドライバ120への送信イベントの発生を待つ(ステップ401)。この送信イベントは、詳しくは後述するが、例えば、左右ジャークの値が複数の調整条件のいずれかに到達したときである。
【0051】
マイコン111は、送信イベントが検出されると、制御データ111bの設定または操作インターフェイス113からの入力値に応じたニードル弁138の開度情報を決定する(ステップ402)。
【0052】
その後、マイコン111は、当該開度情報をドライバIDとともに無線通信機能部117からアクチュエータドライバ120に送信する(ステップ403)。
【0053】
そして、マイコン111は、アクチュエータドライバ120の側からの設定完了の応答を待ち(ステップ404)、受信した設定値をディスプレイ114に表示し(ステップ405)、ステップ401のイベント待機に戻る。
【0054】
一方、図5に例示されるように、アクチュエータドライバ120において、制御プログラム121aを実行するマイコン121は、中央制御装置110からの自ドライバIDを含む無線指令信号の受信を待つ(ステップ501)。
【0055】
そして、自ドライバIDへの指令がないときはモータドライバ回路123(ステップモータ139)への電力供給を停止する(ステップ502)。
【0056】
そして、マイコン121は、自ドライバIDを含む指令を受信すると、受信したニードル弁138の開度情報に基づいて、当該開度を実現するように、ステップモータ139の回転方向および回転量をモータドライバ回路123に指示する(ステップ503)。これにより、ニードル弁138は、中央制御装置110から指令された開度になり、当該開度に応じた懸架装置130の減衰特性が設定される。
【0057】
そして、マイコン121は、モータドライバ回路123からの設定完了を受信すると、設定結果を自ドライバIDとともに中央制御装置110に送信する(ステップ504)。
【0058】
このステップ504の送信によって現在の設定結果が中央制御装置110のディスプレイ114に表示されることは、上述のステップ405のとおりである。
【0059】
次に、図6図12を参照しながら、本実施の形態にかかる減衰力の調整について説明する。
【0060】
図6は、舵角と時間との関係を示すグラフである。
【0061】
図7は、減衰係数と躍度との関係を示すグラフである。
【0062】
図8は、躍度制御を行う場合及び減衰係数一定の場合におけるロール角と時間との関係を示すグラフである。
【0063】
図9は、本実施の形態及び比較例における進行方向距離と左右方向距離との関係を示すグラフである。
【0064】
図10は、図9の左右方向距離の相対距離と時間との関係を示すグラフである。
【0065】
図11及び図12は、左右躍度と左右加速度との複合制御を説明するための説明図である。
【0066】
まず、車両200の電源オンにより、マイコン111は、加速度センサ115から車両200の左右方向加速度及び前後方向加速度を取得する。また、マイコン111は、加速度値から時間変化率である左右方向及び前後方向それぞれのジャーク(躍度)を例えば算出により取得する。マイコン111は、常にリアルタイムで加速度値及びジャーク値を更新し続ける。
【0067】
ここで、車両200の旋回時を考える。前輪に舵角を与えると横加速度は徐々に増加し、車両200はロールを開始し、やがて定常で円旋回する。マイコン111は、加速度の変化量とサンプリング間隔より躍度を計算する。なお、制御に使う躍度を次のように定義する。例えば、図7に示すように横加速度α (t)を用いて躍度j(t)を表すことができる。ここで、Δtはサンプリング間隔であり、横加速度α (t)の符号で右旋回か左旋回かを判定する。また、躍度j(t)>0でターンイン、躍度j(t)<0でターンアウトであることがわかり、上述の加速度センサ115のみで車両200の運動状態を予測可能である。
【0068】
本実施の形態では、躍度に応じて、減衰力調整用アクチュエータとして機能する図3に示す上述のステップモータ139を作動させ、減衰力を高める或いは低くすることを行う。躍度が大きい時とは、すなわち加速度が変化しているときであり、車両200のロール姿勢が変化中であることを意味する。このとき減衰力を高めることで姿勢変化速度を遅くし、結果、2次遅れ系のオーバーシュート量を減少させることができる。乗員が不快と感じる急激な姿勢変化を低下させつつ、高減衰力ダンパ(上述の懸架装置130のショックアブソーバ)特有のゴツゴツ感も感じず、高い車両200の運動特性を有することが期待できる。
【0069】
以下、シミュレーション結果について説明する。
【0070】
一般的な中型セダンを想定し、時速90km/hで直進する車両200に図6に舵角を3度左に与え、その1秒後右に3度切り返すことを考える。
【0071】
また、例えば、図7に示すように、減衰力に対応する減衰係数[Ns/m]を躍度に応じて制御するものとする。一例ではあるが、躍度が0[m/s]の場合、減衰係数は4000[Ns/m]で、減衰力を強める場合には、躍度20まで躍度に比例して減衰係数が20000[Ns/m]まで大きくなる。また、減衰力を弱める場合には、躍度20まで躍度に比例して減衰係数が3000[Ns/m]まで大きくなる。なお、減衰力調整を段階的に行う場合には、減衰係数が対応する複数の段数のいずれかに対応する値になると、各段に対応する減衰力調整が行われればよい。一例ではあるが、中央制御装置110は、旋回時の前外輪側及び後ろ内輪側の車輪202の減衰力が前内輪側及び後ろ外輪側の車輪202の減衰力よりも強くなるようにアクチュエータドライバ120を制御するとよい。この場合、図7に示す減衰力を高める例は、前外輪側及び後ろ内輪側の車輪202に対応し、減衰力を弱める例は、前内輪側及び後ろ外輪側の車輪202に対応する。ただし、中央制御装置110は、左右躍度が大きいほど前後左右の車輪202すべての減衰力が強くなるようにアクチュエータドライバ120を制御してもよい。
【0072】
ロール角の時刻歴を、本実施の形態のように躍度制御を行う場合と、減衰係数一定の場合(比較例)とで比較したものを図8に示す。躍度制御を施した方が、ロールスピードが穏やかになり、ロール角のオーバーシュートも減少していることがわかる。
【0073】
また、走行軌跡の時刻歴の比較を図9に、軌跡の車両200の重心点の差(経過時間ごとの左右方向の距離の差)を比較したものを図10に示す。躍度制御を行う車両200は、減衰係数一定の場合と比べて旋回軌跡の内側を走行していることがわかる。このことより躍度制御されたダンパにより運動性能が向上していることがわかる。
【0074】
次に、左右躍度と左右加速度とを用いた減衰力調整の2つの例について図11及び図12を参照しながら説明する。
【0075】
まず、図11に示すように、時間20[ms]から時間40[ms]にかけて、躍度が2.0[m/s]で加速度が0.00[m/s]から0.04[m/s]に変化し、時間40[ms]から時間80[ms]にかけて、加速度が0.04[m/s]で一定である場合について考える。
【0076】
マイコン111は、左右躍度(J値)に基づく減衰力調整を行うときには、図11の左上図に示すように、時間20[ms]から時間40[ms]までの間、減衰力の調整段数を段数0(一例であるが、図7に示すように減衰係数4000[Ns/m])から、躍度2.0[m/s]に対応する段数3まで上げて減衰力を強くする。
【0077】
また、マイコン111は、左右加速度(G値)に基づく減衰力調整を行うときには、図11の左下図に示すように、時間20[ms]から時間40[ms]までの間、減衰力の調整段数を段数0から段数3まで段階的に上げて減衰力を強くし、時間40[ms]から時間80[ms]までの間、減衰力の調整段数を段数3で維持する。
【0078】
そして、マイコン111は、左右躍度及び左右加速度の両方に基づく減衰力調整を行うときには、上記の調整段数、すなわち、左右加速度及び左右躍度のそれぞれが複数の調整条件のいずれかに達したときの各調整条件に対応する規定の調整量を用いて、左右加速度に対応する段数(調整量)と左右躍度に対応する段数(調整量)とを足し合わせた複合調整量で車両200のショックアブソーバ(懸架装置130)の減衰力を調整するアクチュエータドライバ120を制御する。
【0079】
すなわち、図11の右図に1点鎖線で示すように、マイコン111は、時間20[ms]に減衰力の調整段数を段数3まで一気に上げ、時間40[ms]までの間、減衰力の調整段数を段数3から段数6まで段階的に上げて減衰力を強くし、時間40[ms]から時間80[ms]までの間、減衰力の調整段数を段数3で維持する。
【0080】
なお、マイコン111は、左右加速度(G値)に基づく減衰力調整を行うときに、図11の左下図に示すように、時間20[ms]から時間40[ms]までの間、減衰力の調整段数を段数0から段数3まで段階的に上げて減衰力を強く(リニア制御)するのではなく、図12の左下図に示すように、規定の調整条件(例えば、加速度0.04[m/s])の時間40[ms]になると一気に調整段数を段数3まで一気に上げる制御(ステップ制御)を行う場合もある。
【0081】
この場合、図12の右図に1点鎖線で示すように、マイコン111は、まず時間20[ms]に減衰力の調整段数を左右躍度に対応する段数3まで一気に上げて減衰力を強くし、左右躍度に対応する段数3がなくなる時間40[ms]において左右加速度に対応する段数3に切り替わり、その後、時間80[ms]までの間、減衰力の調整段数を段数3で維持する。なお、上述の図11及び図12の例では、左右加速度に対応する段数(調整量)と左右躍度に対応する段数(調整量)とを足し合わせた複合調整量で車両200のショックアブソーバ(懸架装置130)の減衰力を調整する例について説明したが、単純に足し合わせる以外の手法で複合制御を行ってもよい。例えば、車両200の旋回初期のみ、左右躍度に対応する減衰力調整を行い、その後に左右加速度に対応する減衰力を調整したり、或いは、所定の調整上限量までの間で足し合わせたり、或いは、左右躍度と左右加速度とのうち一方を主として他方で微調整を行ったりしてもよい。
【0082】
以上説明した本実施の形態では、車両制御装置は、車両200のショックアブソーバ(懸架装置130)の減衰力を調整する調整部の一例であるステップモータ139と、車両200の進行方向に対して垂直な左右方向の左右加速度から算出される左右躍度を取得し、少なくとも左右躍度に基づいてステップモータ139(アクチュエータドライバ120)を制御する制御部の一例である中央制御装置110とを備える。
【0083】
これにより、車両200の急旋回時に左右加速度よりも一気に上がる左右躍度に基づいて減衰力を調整することができる。そのため、車両200の左右方向に急荷重移動を行った場合、瞬間的に荷重がオーバーシュートし、タイヤと路面の摩擦係数が低下し、車両の運動性能、旋回性能が低下するのを防止することができる。また、ヨーレートセンサ等の高価なセンサを用いずに既存の加速度センサ115を用いて減衰力を調整することができる。よって、本実施の形態によれば、簡素な構成で、車両200の運動性能を向上させることができる。
【0084】
また、本実施の形態では、中央制御装置110は、少なくとも左右加速度及び左右躍度に基づいてステップモータ139(アクチュエータドライバ120)を制御する。
【0085】
これにより、例えば、急激に上がった後にゼロなどの値に戻りやすい左右躍度のみを用いた場合には、減衰力調整が運転者のハンドル操作の初期のみになってしまうが、左右加速度も用いることで、その後も減衰力調整を行うことができる。
【0086】
また、本実施の形態では、中央制御装置110は、左右加速度及び左右躍度のそれぞれが複数の調整条件のいずれかに達したときの各調整条件に対応する規定の調整量を用いて、左右加速度に対応する調整量と左右躍度に対応する調整量とを足し合わせた複合調整量でステップモータ139(アクチュエータドライバ120)を制御する。
【0087】
これにより、上述のように、運転者のハンドル操作の初期に左右躍度に基づく減衰力調整を行い、その後に左右加速度に基づく減衰力調整を行うことができる。
【0088】
また、本実施の形態では、中央制御装置110は、車両200の進行方向の前後加速度から算出される前後躍度を更に取得し、少なくとも左右躍度及び前後躍度に基づいてステップモータ139(アクチュエータドライバ120)を制御する。
【0089】
これにより、左右躍度による急旋回時などの減衰力調整のほか、前後躍度による急発進時や急停車時などの減衰力調整を行うことができる。そのため、より一層、車両200の運動性能を向上させることができる。
【0090】
また、本実施の形態では、車両200は、前後左右の車輪202を有し、中央制御装置110は、前外輪側及び後ろ内輪側の車輪202の減衰力が前内輪側及び後ろ外輪側の車輪202の減衰力よりも強くなるようにステップモータ139(アクチュエータドライバ120)を制御する。
【0091】
これにより、荷重がオーバーシュートするのをより抑制し、車両200の旋回性能をより一層高めることができる。
【0092】
また、本実施の形態では、車両200は、前後左右の車輪202を有し、中央制御装置110は、左右躍度が大きいほど前後左右の車輪202の減衰力が強くなるようにステップモータ139(アクチュエータドライバ120)を制御する。
【0093】
これによっても、荷重がオーバーシュートするのを抑制し、車両200の旋回性能をより一層高めることができる。
【0094】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0095】
100 車両懸架システム
110 中央制御装置
111 マイコン
111a 制御プログラム
111b 制御データ
112 不揮発メモリ
113 操作インターフェイス
114 ディスプレイ
115 加速度センサ
116 GPS装置
117 無線通信機能部
118 アンテナ
119 電源
120 アクチュエータドライバ
121 マイコン
121a 制御プログラム
122 不揮発メモリ
123 モータドライバ回路
124 無線通信機能部
125 アンテナ
126 電源
130 懸架装置(ショックアブソーバ)
131 シリンダ
131a 固定部
132 ピストン
133 ピストンロッド
133a 固定部
134 作動油
135 ガス室与圧タンク
136 フリーピストン
136a バネ
137 バイパス通路
138 ニードル弁
139 ステップモータ
200 車両
201 車体
202 車輪
205 キャビン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12