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特開2024-76742金属回収装置、金属回収方法、元素分析装置、及び元素分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076742
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】金属回収装置、金属回収方法、元素分析装置、及び元素分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/73 20060101AFI20240530BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
G01N21/73
C22B11/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188449
(22)【出願日】2022-11-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「レーザー元素分離及びその場分析を適用した遠隔自動貴金属回収システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】中西 隆造
(72)【発明者】
【氏名】大場 弘則
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 盛久
【テーマコード(参考)】
2G043
4K001
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA01
2G043CA03
2G043DA05
2G043EA08
2G043HA05
2G043JA01
2G043KA09
2G043NA01
2G043NA11
4K001AA01
4K001AA04
4K001AA41
4K001BA21
4K001BA22
4K001DB16
4K001DB18
4K001DB21
4K001DB36
4K001DB38
(57)【要約】
【課題】本発明の課題の一つは、貴金属元素を含有する溶液からの金属回収において、溶液から金属を回収した処理液中の貴金属濃度について、前処理が不要で、その場分析・オンライン分析による定量を高感度で行う金属回収装置及び金属回収方法を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、溶液から金属を回収した処理液を薄膜流化する薄膜流生成部と、薄膜流に対し集光したレーザー光を照射する励起光照射部と、薄膜流上で発生したプラズマからの発光を分光して検出する分光検出部と、分光検出部の検出結果を基に、処理液に残存する貴金属元素の濃度を算出する貴金属元素定量部を備える金属回収装置及びこの装置を用いた金属回収方法を提供する。
この発明によれば、処理液に対し、その場分析・オンライン分析を行い、貴金属元素の定量を迅速かつ高感度で行うことが可能となる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属元素を含有する溶液から金属を回収する金属回収装置であって、
前記溶液から金属を回収した処理液を薄膜流化する薄膜流生成部と、
前記薄膜流に対し、集光したレーザー光を照射する励起光照射部と、
前記励起光照射部から照射されるレーザー光により前記薄膜流上で発生したプラズマからの発光を分光して検出する分光検出部と、
前記分光検出部の検出結果を基に、前記処理液に残存する前記貴金属元素の濃度を算出する貴金属元素定量部を備えることを特徴とする、金属回収装置。
【請求項2】
貴金属元素を含有する溶液から金属を回収する金属回収方法であって、
前記溶液から金属回収した処理液を薄膜流化する薄膜流生成工程と、
前記薄膜流に対し、集光したレーザー光を照射する励起光照射工程と、
前記励起光照射工程で照射されるレーザー光によって前記薄膜流上で発生したプラズマからの発光を分光して検出する分光検出工程と、
前記分光検出工程の検出結果を基に、前記処理液に残存する前記貴金属元素の濃度を算出する貴金属元素定量工程を備えることを特徴とする、金属回収方法。
【請求項3】
貴金属元素を含有する液体試料を薄膜流化する薄膜流生成部と、
前記薄膜流に対し、集光したレーザー光を照射する励起光照射部と、
前記励起光照射部から照射されたレーザー光により前記薄膜流上で発生したプラズマからの発光を分光して検出する分光検出部と、を備え、
前記液体試料は塩酸、硫酸、又は王水を少なくとも含む酸性溶液であることを特徴とする、元素分析装置。
【請求項4】
前記薄膜流生成部は、耐酸性材料から成る薄膜流生成ノズルを備えることを特徴とする、請求項3に記載の元素分析装置。
【請求項5】
前記耐酸性材料が、石英ガラス、セラミック、フッ素樹脂からなる群から選ばれる1種であることを特徴とする、請求項4に記載の元素分析装置。
【請求項6】
前記貴金属元素は、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム及びプラチナからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする、請求項3~5のいずれか一項に記載の元素分析装置。
【請求項7】
貴金属元素を含有する液体試料を薄膜流化する薄膜流生成工程と、
前記薄膜流に対し、集光したレーザー光を照射する励起光照射工程と、
前記励起光照射工程で照射されたレーザー光により前記薄膜流上で発生したプラズマからの発光を分光して検出する分光検出工程と、を備え、
前記液体試料は塩酸、硫酸、又は王水を少なくとも含む酸性溶液であることを特徴とする、元素分析方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属回収装置及び金属回収方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は貴金属を回収した後の処理液に残存する貴金属元素について、オンラインでの定量を行うことを特徴とする金属回収装置及び金属回収方法に関するものである。
また、本発明は、元素分析装置及び元素分析方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、塩酸、硫酸、又は王水を少なくとも含む酸性溶液に含有される貴金属元素について、安定した連続定量を可能とすることを特徴とする元素分析装置及び元素分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の有効利用と環境汚染防止の観点から、リサイクルについての関心が高まっている。例えば、使用済み小型電子機器・小型家電は有用な金属元素(貴金属・レアメタル)が使用されており、都市鉱山とも呼ばれる金属資源として取り扱われ、リサイクル処理(金属回収)が行われている。
【0003】
ここで、貴金属のリサイクル処理(貴金属リサイクル事業)においては、溶解液や廃液から貴金属を回収する工程で貴金属濃度を測定する必要がある。
貴金属リサイクル事業において貴金属濃度を測定する手段としては、各種分光分析法が用いられている。
例えば、特許文献1には、燃料電池の電極材料から貴金属を回収する方法において、湿式浸出処理により貴金属成分の抽出を行った後、残った固形残渣中に残留する貴金属含有量を測定する工程において、蛍光X線分析法を用いることが記載されている。
また、非特許文献1には、金属資源分析として、環境省告示に基づく測定方法(環境省告示第19号)や、廃棄物資源循環学会物質フロー研究部会により2010年に提唱されたレアメタルの分析方法など、複数の分析方法による分析値(定量値)を比較した結果が記載されており、各分析方法における定量手段としては高周波誘導結合プラズマ(ICP)を利用した発光分光分析法(ICP発光分析法)のほか、ICP質量分析法、原子吸光法、吸光光度法が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-100908号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】飯野成憲・茂木敏・宮脇健太郎、「環境・精錬分野における金属資源の分析方法に関する考察」、廃棄物資源循環学会論文誌、Vol.27、176~187ページ、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や非特許文献1に記載されるように、貴金属リサイクル事業において一般的に用いられる分析手段としては、ICP発光分光分析(以下、「ICP-OES」と呼ぶ)や蛍光X線分析(以下、「XRF」と呼ぶ)が知られている。ICP-OESは、測定対象溶液を分取・希釈し、オフラインでアルゴンガスと共に噴霧させて対象元素をプラズマ励起させ、励起原子やイオンの発光を観測することで溶存元素の定量分析を行うものである。ICP-OESを行う分析装置は比較的大型で、付帯設備としてアルゴンガス供給源が必要であり、かつ適切な前処理を必要とするバッチ式の分析手法である。また、XRFは、特に溶液中元素の計測には時間を要するため、迅速なその場分析には適していない。すなわち、従来の貴金属リサイクル事業では、貴金属のリサイクル処理過程における貴金属元素濃度をその場(in-situ)やオンラインで把握することが困難であった。
しかし、貴金属のリサイクル処理に係る処理経過や処理効率等を的確かつ迅速に把握するには、溶解液や廃液等の溶液中に溶存した貴金属元素を、その場、かつオンラインで精度良く測定する分析手法が求められる。特に、貴金属を回収した後の処理液に含まれる残存貴金属濃度が高感度かつオンラインで測定可能となることで、貴金属のリサイクル処理全体の効率化を図ることが可能となる。
【0007】
一方で、迅速にその場での元素分析が可能な手法として、レーザー誘起ブレークダウン発光分光(以下、「LIBS」と呼ぶ)がある。LIBSは、高エネルギー密度のレーザー照射により試料の照射部位をプラズマ化し、励起原子またはイオンを生成させ、この励起した原子またはイオンが脱励起する際に放射する元素固有の光の波長と強度を測定することで元素分析を行うものであり、前処理が不要なことから、近年注目されている。
【0008】
LIBSは、測定原理上、試料形態を問わず、気体、液体、固体のいずれであっても測定可能であるが、試料形態によりレーザー照射によって生成する発光プラズマの変動が大きくなることも知られている。特に、液体試料に適用する場合、試料を静水や液柱とすると、発光プラズマの寿命が短く、観測信号が不安定となるため、感度良く分析することに課題がある。また、LIBSを用いる場合、測定対象元素以外の元素の存在が定量に影響する場合があることが知られており、試料に含有される成分に応じた検討や対応が必要とされる。
【0009】
そこで、本発明の課題は、貴金属元素を含有する溶液から金属を回収する金属回収において、溶液から金属を回収した処理液中の貴金属濃度について、前処理が不要で、その場分析・オンライン分析による定量を高感度で行うことを可能とする金属回収装置及び金属回収方法を提供することである。
併せて、本発明の課題は、測定対象となる液体試料が、貴金属元素及び塩酸、硫酸、又は王水を少なくとも含む酸性溶液であるものに対し、前処理が不要で、高感度な測定を可能とする元素分析装置及び元素分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、貴金属元素を含有する溶液に対する貴金属濃度測定に関して、LIBSに基づく構成を設けることで、その場分析・オンライン分析を高感度、かつ迅速に実施できる金属回収や元素分析が可能となることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の金属回収装置、金属回収方法、元素分析装置、及び元素分析方法である。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の金属回収装置は、貴金属元素を含有する溶液から金属を回収する金属回収装置であって、溶液から金属を回収した処理液を薄膜流化する薄膜流生成部と、薄膜流に対し、集光したレーザー光を照射する励起光照射部と、励起光照射部から照射されるレーザー光により薄膜流上で発生したプラズマからの発光を分光して検出する分光検出部と、分光検出部の検出結果を基に、処理液に残存する貴金属元素の濃度を算出する貴金属元素定量部を備えることを特徴とする。
金属回収において、貴金属元素の効率的な回収のためには、金属を回収した後の処理液内に貴金属元素が残存しているか否かを測定し、把握する必要がある。従来、このような処理液に残存した貴金属濃度の測定には、ICP-OESやXRFのように、前処理やサンプリングを必要とし、測定時間を要する分析が行われており、その場分析・オンライン分析は困難であった。
一方、この特徴によれば、処理液に対し、その場分析・オンライン分析が可能なLIBSに基づく分析を行うことができ、処理液中の貴金属元素の濃度測定(定量)を迅速かつ高感度で行うことが可能となる。これにより、金属回収における処理(分析)について大幅な時間短縮を可能とし、大幅なコスト削減を図ることが可能となる。また、処理液に残存する貴金属元素濃度に係る判定を迅速に行うことが可能となるため、処理液を循環させて再度金属回収処理に供するなど、貴金属元素の回収率向上に係る操作の自動化が容易となる。
【0012】
また、上記課題を解決するための本発明の金属回収方法は、貴金属元素を含有する溶液から金属を回収する金属回収方法であって、溶液から金属回収した処理液を薄膜流化する薄膜流生成工程と、薄膜流に対し、集光したレーザー光を照射する励起光照射工程と、励起光照射工程で照射されるレーザー光によって薄膜流上で発生したプラズマからの発光を分光して検出する分光検出工程と、分光検出工程の検出結果を基に、処理液に残存する貴金属元素の濃度を算出する貴金属元素定量工程を備えることを特徴とする。
この特徴によれば、処理液に対し、その場分析・オンライン分析が可能なLIBSに基づく分析を行うことができ、処理液中の貴金属元素の濃度測定(定量)を迅速かつ高感度で行うことが可能となる。これにより、金属回収における処理(分析)工程の大幅な時間短縮を可能とし、大幅なコスト削減を図ることが可能となる。また、処理液に残存する貴金属元素濃度に係る判定を迅速に行うことが可能となるため、処理液を循環させて再度金属回収処理に供するなど、貴金属元素の回収率向上に係る工程の自動化が容易となる。
【0013】
また、上記課題を解決するための本発明の元素分析装置は、貴金属元素を含有する液体試料を薄膜流化する薄膜流生成部と、薄膜流に対し、集光したレーザー光を照射する励起光照射部と、励起光照射部から照射されたレーザー光により薄膜流上で発生したプラズマからの発光を分光して検出する分光検出部を備え、液体試料は塩酸、硫酸、又は王水を少なくとも含む酸性溶液であることを特徴とする。
一般に、LIBSによる分析は、測定対象元素以外の元素の存在が定量に影響する場合があることが知られている。
一方、この特徴によれば、測定対象となる液体試料が、貴金属元素及び塩酸、硫酸、又は王水を少なくとも含む酸性溶液であるものに対し、液体試料を薄膜流化することで、前処理が不要で、高感度な測定を可能とするLIBSに基づく元素分析を行うことが可能となる。特に、金属回収過程で生じる貴金属元素を含有した溶液については、その原料等により異なるが、一般に酸溶解を経て、塩酸や硫酸、王水を含む強酸性となる。したがって、本発明の元素分析装置は、金属回収における貴金属元素を含有する液体試料に対する元素分析を行う分析装置として好適に利用されるものとなる。
【0014】
また、本発明の元素分析装置の一実施態様としては、薄膜流生成部は、耐酸性材料から成る薄膜流生成ノズルを備えることを特徴とする。
この特徴によれば、試料溶液が塩酸、硫酸、又は王水を少なくとも含む強酸性であることによる薄膜流生成部のノズルの腐食や劣化を防止することができ、安定して定量を継続することができる。特に、金属回収における貴金属を回収した後の処理液に残存する貴金属元素の定量において、その場分析・オンライン分析を安定して行うことが可能となる。
【0015】
また、本発明の元素分析装置の一実施態様としては、薄膜流生成部の耐酸性材料が、石英ガラス、セラミック、フッ素樹脂からなる群から選ばれる1種であることを特徴とする。
この特徴によれば、耐酸性に優れるとともに、加工が容易で、かつ十分な強度を有する材料を用い、薄膜流生成部としてのノズルを得ることが可能となる。これにより、安定した薄膜流を継続して形成することが可能となり、その場分析・オンライン分析をより安定して行うことが可能となる。
【0016】
また、本発明の元素分析装置の一実施態様としては、液体試料に含有される貴金属元素は、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム及びプラチナからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする。
この特徴によれば、工業的・商業的に価値のある貴金属について、安定した定量を行うことが可能となる。特に、金属回収における貴金属を回収した後の処理液に残存する貴金属元素の定量に好適に利用することが可能となる。
【0017】
また、上記課題を解決するための本発明の元素分析方法は、貴金属元素を含有する液体試料を薄膜流化する薄膜流生成工程と、薄膜流に対し、集光したレーザー光を照射する励起光照射工程と、励起光照射工程で照射されたレーザー光により薄膜流上で発生したプラズマからの発光を分光して検出する分光検出工程を備え、液体試料は塩酸、硫酸、又は王水を少なくとも含む酸性溶液であることを特徴とする。
この特徴によれば、測定対象となる液体試料が、貴金属元素及び塩酸、硫酸、又は王水を少なくとも含む酸性溶液であるものに対し、液体試料を薄膜流化することで、前処理が不要で、高感度な測定を可能とするLIBSに基づく元素分析を行うことが可能となる。特に、金属回収過程で生じる貴金属元素を含有した溶液については、一般に酸溶解を経て、塩酸や硫酸、王水を含む強酸性となる。したがって、本発明の元素分析方法は、金属回収における貴金属元素を含有する液体試料に対する元素分析を行う分析方法として好適に利用されるものとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、貴金属元素を含有する溶液から金属を回収する金属回収において、溶液から金属を回収した処理液中の貴金属濃度について、前処理が不要で、その場分析・オンライン分析による定量を高感度で行うことを可能とする金属回収装置及び金属回収方法を提供することができる。
併せて、本発明によれば、測定対象となる液体試料が、貴金属元素及び塩酸、硫酸、又は王水を少なくとも含む酸性溶液であるものに対し、前処理が不要で、高感度な測定を可能とする元素分析装置及び元素分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施態様に係る金属回収装置の概略説明図である。
図2】本発明の実施態様に係る金属回収装置における元素分析手段の概略説明図である。
図3】本発明の実施態様に係る金属回収装置における元素分析手段により作成された検量線(測定対象:金(Au))を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る金属回収装置、金属回収方法、元素分析装置、及び元素分析方法の実施態様を詳細に説明する。なお、本発明における金属回収方法は、本発明における金属回収装置の作動の説明に置き換えるものである。また、本発明における元素分析方法は、本発明における元素分析装置の作動の説明に置き換えるものである。
なお、実施態様に記載する金属回収装置、金属回収方法、元素分析装置、及び元素分析方法については、本発明に係る金属回収装置、金属回収方法、元素分析装置、及び元素分析方法を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0021】
[金属回収装置]
図1は、本発明の実施態様における金属回収装置の構造を示す概略説明図である。
本実施態様の金属回収装置1は、図1に示すとおり、金属源Mから貴金属元素Rを回収するためのものであって、貴金属元素Rを含有する溶液W1から金属を回収する回収部10と、回収部10の後段に設けられ、回収部10から排出される処理液W2中に含まれる貴金属元素Rの定量を行う元素分析手段20とを備える。
また、本実施態様の金属回収装置1は、貴金属リサイクル事業で一般に行われる工程を実施するための各種設備を付帯設備として有するものとしてもよく、例えば、回収部10の前段に、金属源Mを収集し、受け入れる受入部30と、受入部30に受け入れた金属源Mにおける貴金属元素Rの含有量を評価する評価部40とを備える一方、回収部10の後段に、回収した貴金属元素Rを精製する精製部50を設けることが挙げられる。
【0022】
本実施態様における金属源Mとしては、固体・液体を問わず、例えば、使用済み小型電子機器・小型家電のような貴金属リサイクル原料のほか、工場・研究施設等の製造・実験プロセスから排出される貴金属元素Rを含有した廃液等が挙げられる。
また、金属源Mに含有され、回収する対象となる貴金属元素Rとしては、金(Au)、銀(Ag)と併せて、白金族金属と呼ばれるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、プラチナ(Pt)からなる群から選択される。特に、本発明における貴金属元素Rとしては、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム及びプラチナからなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。これにより、工業的・商業的価値の高い貴金属を回収し、有効活用することが可能となる。
【0023】
図1に基づき、金属回収装置1全体について説明する。なお、本実施態様における金属回収装置1は、少なくとも回収部10及び元素分析手段20を備えるものであればよく、それ以外の構成については省略するものとしてもよい。
図1に示すように、本実施態様における金属回収装置1は、受入部30により、回収対象である貴金属元素Rを含有する金属源Mを受け入れ、ラインL1を介して評価部40に導入する。評価部40で金属源Mにおける貴金属元素Rの含有量に係る評価(分析)を行った後、ラインL2を介して回収部10に導入し、評価対象となった金属源M(貴金属元素Rを含有する溶液W1)から貴金属元素Rを回収する。回収後の貴金属元素Rは、ラインL3を介して精製部50に導入され、貴金属元素Rの精製や製品化を行う。一方、回収部10で貴金属元素Rを回収した後の処理液W2については、ラインL4を介して排出される。このとき、処理液W2中に残存する貴金属元素Rの濃度測定を、元素分析手段20によって行うものである。
【0024】
以下、金属回収装置1の各構成について説明を行う。
まず、受入部30により、含有する金属(貴金属元素R)を回収する対象とする金属源Mの受入れを行う。また、受入部30は、受け入れた金属源Mの種類や受入れ日時など、管理に係る情報を付す機能を有するものとしてもよい。
【0025】
次に、評価部40により、金属源Mにおける貴金属元素Rの含有量の評価を行う。特に、貴金属リサイクル事業では、金属回収による採算性について検討する必要がある。したがって、評価部40により、金属源Mにおける貴金属元素Rの含有量についての測定を行い、金属回収に掛かるコストに見合う対象であるか否かの評価を行うことが望ましい。なお、上述したように、評価部40については省略することも可能である。
【0026】
このとき、金属源Mが液体状態であれば、受入れ時の状態のまま、あるいはろ過処理のような簡易な前処理を行ったものについて、貴金属元素Rの含有量測定を行う。
一方、金属源Mが固体状態であれば、必要に応じて粉砕・焼成を行った後、酸・アルカリ溶液による溶解を行い、液体状態とした上で、貴金属元素Rの含有量測定を行う。
評価部40において貴金属元素Rの含有量測定を行う分析手段は、金属源Mから金属回収を行う際の採算性を正確に見積もるために、精度の高い分析方法であればよく、特に限定されない。例えば、重量法に基づく分析や、公知の各種分光分析(ICP-OES、XRF、原子吸光分析等)のように、前処理やサンプリングを必要とし、測定時間を要する一方で、高精度定量を可能とする公知の分析機器を用いた分析を行うこと以外に、後述する元素分析手段20を用い、迅速かつ高感度な分析を行うこと等が挙げられる。
特に金属源Mが液体の場合は、図1に示すように、オンライン分析が可能な元素分析手段20を用いてモニタリングを行うことが好ましい。後述する回収部10以外に評価部40においても元素分析手段20を同様に適用することによって、回収前の貴金属含有量の評価を迅速かつ高感度で行うことができ、金属回収に係る工程全体としての大幅な時間短縮及びコスト削減を図ることが可能となる。あるいは、金属源Mが固体である場合も含め、金属回収前の溶液W1の継続的なモニタリングに用いてもよい。
また、評価部40における貴金属元素Rの含有量に係る評価については、継続的なモニタリング以外に、必要に応じて適時行うものとしてもよい。この場合、評価部40に対して必要時のみ分析を可能とする分析手段を用いることが好ましい。例えば、後述する元素分析手段20及び元素分析手段20を備える元素分析装置のように、前処理が不要で装置構成として小型化が容易であり、可搬性を備えるものなどが挙げられる。
【0027】
回収部10は、貴金属元素Rを含有する溶液W1から金属を回収するためのものである。ここで、金属源Mが液体状態であれば、金属源M自体が溶液W1として扱われる。一方、金属源Mが固体状態であれば、上述した評価部40と同様に処理を行い、酸またはアルカリ溶液としたものを溶液W1として扱う。すなわち、評価部40を設ける場合、評価部40における評価を経た金属源Mが、本発明における貴金属元素Rを含有する溶液W1となる。
【0028】
本実施態様における回収部10は、溶液W1内に溶存する貴金属元素Rを回収できるものであればよく、特に限定されない。回収部10における回収手段としては、例えば、溶液W1に還元剤・沈殿剤等の薬品や卑金属(鉄、亜鉛など)を添加し、化学反応(析出)を利用した回収を行うもの(沈殿分離、セメンテーションなど)、溶液W1に吸着剤を添加して回収を行うもの(吸着)、溶液W1内に電極を配置し直流電流を印加することでカソード上に貴金属元素Rを析出させて回収を行うもの(電解)などが挙げられる。
【0029】
そして、回収部10で回収した貴金属元素Rは、精製部50に導入され、再利用に適した純度に到達するまで処理が行われる。
精製部50は、回収した貴金属元素Rの純度を高めることができるものであればよく、回収部10における回収手段と同内容のものを繰り返すことや、有機溶媒と抽出剤を用いた溶媒抽出により貴金属元素Rのイオンを選択的に抽出することなどが挙げられる。
また、精製部50において純度を高めた貴金属元素Rは、再利用における用途などに合わせて成形(製品化)され、有効活用されることとなる。
【0030】
一方、回収部10で貴金属元素Rが回収された後の処理液W2は、精製部50とは別経路(ラインL4)で回収部10から排出される。
このとき、貴金属元素Rの効率的な回収のためには、処理液W2内に貴金属元素Rが残存しているか否かを測定し、把握する必要がある。
【0031】
本実施態様における金属回収装置1は、回収部10から排出された処理液W2に残存する貴金属元素Rの濃度測定を行う元素分析手段20を備える。
従来、処理液W2に残存した貴金属濃度の測定には、ICP-OESやXRFによる分析が行われていたが、前処理やサンプリングを必要とし、測定時間を要することから、その場分析・オンライン分析を行うことは困難であった。
一方、本実施態様における元素分析手段20は、その場分析・オンライン分析が可能なLIBSに基づく分析手段であり、回収部10から排出された処理液W2中の貴金属元素Rの濃度測定(定量)を迅速かつ高感度で行うことが可能となる。これにより、金属回収時において分析に要する時間を大幅に短縮することを可能とし、併せて大幅なコスト削減を図ることが可能となる。
【0032】
以下、本実施態様における元素分析手段20の詳細について説明する。
図2は、本実施態様の金属回収装置における元素分析手段の構造を示す概略説明図である。
本実施態様における元素分析手段20としては、薄膜流生成部210と、励起光照射部220と、分光検出部230と、貴金属元素定量部240とを備えているものが挙げられる。また、本実施態様における元素分析手段20は、回収部10から排出された処理液W2が移送されるラインL4に接続して設けられるものである。なお、図2中、矢印は処理液W2の流れ方向を示し、一点鎖線は入出力可能あるいは制御可能となるように接続されていることを示している。
【0033】
元素分析手段20は、LIBSに基づく構造を備えるものである。
LIBS(Laser-Induced Breakdown Spectroscopy)は、レーザーを用いた分光分析の一種である。LIBSでは、測定対象(試料)に集光したレーザー光の照射を行う。そして、このレーザー光の照射箇所でプラズマ(発光プラズマ)が生じるとともに、プラズマ内で励起原子またはイオンが生成し、この励起原子またはイオンが脱励起するときに各原子またはイオン固有の波長の光を放射する。この発光プラズマから放射される光(以下、「プラズマ光」とも呼ぶ)について、光の波長及び強度を測定することで、試料の定性・定量を行うものである。
【0034】
一方、LIBSによって液体状態の試料を測定する際に、試料を静水や液柱とすると、発光プラズマの寿命が短く、観測信号が不安定となる。そこで、本実施態様における元素分析手段20は、処理液W2に残存する貴金属元素Rの濃度を迅速かつ高感度で定量するための構成として、薄膜流生成部210を備えるものである。
【0035】
薄膜流生成部210は、回収部10で金属が回収された処理液W2を薄膜流化する薄膜流生成工程を行うためのものである。
薄膜流生成部210は、処理液W2を薄膜流化させることができるものであればよく、このとき薄膜流の厚さとしては、下限として好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上とし、上限として好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下とすることが挙げられる。これにより、後述する励起光照射部220によるレーザー光照射により、薄膜流上において寿命の長い発光プラズマを安定して発生させることが可能となる。
【0036】
薄膜流生成部210の具体例としては、図2に示すように、処理液W2をラインL4からバイパス配管引込用バルブ219aを介して吸い上げるバイパス配管211と、送液ポンプ212と、薄膜流生成ノズル213と、薄膜流生成ノズル213を固定し位置調整を行うためのステージ214とを備えるものが挙げられる。これにより、ラインL4内を移送される処理液W2の一部を、送液ポンプ212を介してバイパス配管211内に吸い上げ、バイパス配管211と接続した薄膜流生成ノズル213から処理液W2を噴出することで、処理液W2を薄膜流化することが可能となる。また、薄膜流生成ノズル213から薄膜流として噴出される処理液W2は、ファンネル215で受け、主配管戻し用バルブ219bを経てラインL4側に返送する。これにより、処理液W2は、薄膜流生成部210内を循環することとなる。
このとき、薄膜流を生成する位置の調整は、ステージ214を介した薄膜流生成ノズル213の位置調整により可能となる。なお、ステージ214は、薄膜流生成の位置を調整するために、薄膜流生成ノズル213の位置を適切に移動させることができるものであればよく、例えば、XYステージ、XYZステージ、あるいはXYZ/回転ステージとして公知のものを用いることが挙げられる。
【0037】
また、薄膜流生成部210としては、図2に示すように、配管211上に脈動低減器(パルスダンパー)216及び流量計217を設けることが好ましい。これにより、薄膜流生成ノズル213を介し、安定した薄膜流を継続して噴出することが容易となる。
【0038】
薄膜流生成ノズル213は、上述したように、処理液W2を噴出した時に生成する薄膜流の厚さが所定範囲を満たすような構造を有するものであればよい。例えば、色素レーザー(液体レーザー)における液膜生成用ノズルの構造を流用あるいは改良したものなどが挙げられる。
ステージ114直下の薄膜流生成ノズル213からファンネル215までの間には、処理液W2の飛散を防止するための手段を設けることが好ましい。例えば、図2に示すように、円筒形状の飛散防止用スクリーン218を設け、薄膜流の周囲を覆うことが挙げられる。ここで、飛散防止用スクリーン218としては、レーザー光及びプラズマからの発光を透過する材質からなるものが挙げられる。
【0039】
本実施態様における薄膜流生成ノズル213の材質は、処理液W2の液性に応じて選択することが好ましい。
特に、金属回収においては、回収対象となる貴金属元素Rを含有する溶液W1は、金属源Mの種類によって異なるが、一般に溶液W1中において貴金属元素Rを溶解状態とするため、塩酸や硫酸、王水を含む酸性溶液であることが多く、処理液W2の液性についても酸性寄りとなる。
したがって、薄膜流生成ノズル213は、耐酸性材料からなることが好ましく、石英ガラス、セラミック、フッ素樹脂からなる群から選ばれる1種であることが特に好ましい。これにより、薄膜流生成ノズル213の腐食や劣化を防止することができ、安定して定量を継続することができる。特に、耐酸性材料として、石英ガラス、セラミック、フッ素樹脂のいずれかを選択することで、耐酸性に優れるとともに、加工が容易で、かつ十分な強度を有する材料を用いた薄膜流生成ノズル213を作製し、安定した薄膜流を継続して形成することが可能となる。その結果、その場分析・オンライン分析をより安定して行うことが可能となる。
【0040】
薄膜流生成部210により生成した処理液W2の薄膜流(以下、「薄膜流T」と呼ぶ)が、本実施態様の元素分析手段20における測定対象試料となる。
【0041】
励起光照射部220は、薄膜流Tに対し、集光したレーザー光照射を行う励起光照射工程を行うためのものである。
本実施態様における励起光照射部220としては、励起光源221と、集光用レンズ222とを備えるものが挙げられる。
【0042】
励起光源221は、レーザー光を照射できるものであればよいが、測定対象(薄膜流T)を安定してプラズマ化するために、大きなピーク出力を得ることができるパルスレーザー光を照射できるものが好ましく、例えば、フェムト秒レーザー、ピコ秒レーザー、ナノ秒レーザーが挙げられる。本実施態様における励起光源221の具体例としては、Nd:YAGレーザー、Nd:ガラスレーザー、ルビーレーザーなどが挙げられる。なお、ナノ秒レーザーにおいては、数十ナノ秒から数百ナノ秒のパルス幅を持つ発振器が効果的なプラズマ化に適している。
【0043】
集光用レンズ222は、励起光源221からのレーザー光を集光した状態で薄膜流T表面に照射するためのものであり、使用するレンズの種類や枚数については特に限定されない。また、集光用レンズ222の位置調整を行うための位置調整機構を設けるものとしてもよい(不図示)。
【0044】
薄膜流Tに対し、励起光照射部220からのレーザー光を照射することで、照射箇所では発光プラズマが生成する。このとき、上述したように、レーザー光及びプラズマからの発光を透過する飛散防止用スクリーン218を備えることで、励起光照射部220を構成する測定機器等へ溶液(処理液W2)の一部が飛散することを防止することができる。
【0045】
分光検出部230は、生成したプラズマからの発光(プラズマ光)を分光して検出する分光検出工程を行うためのものである。
本実施態様における分光検出部230としては、分光器導入手段231と、分光器232と、検出器233とを備えるものが挙げられる。
【0046】
分光器導入手段231は、薄膜流T上に発生した発光プラズマ由来のプラズマ光を分光器232に導入するためのものであり、例えば、プラズマ光を集光するレンズ231aと、光ファイバー231bからなるものが挙げられる。
【0047】
分光器232は、分光器導入手段231を介して導入されたプラズマ光を分光するためのものであり、例えば、広い波長範囲を同時観測可能なエシェル型や、波長掃引が可能なツェルニー・ターナー型を用いることが挙げられる。これにより、複数の貴金属元素Rをまとめて測定することが可能となり、分析に係る時間短縮を図ることが可能となる。
【0048】
検出器233は、分光器232で分光された各波長におけるピーク値(スペクトル強度)を検出するためのものであり、例えば、光電子増倍管、CCDカメラ、イメージインテンシファイア付CCD(ICCD)カメラなどを用いることが挙げられる。特に、高感度での定量を可能とするために、ICCDカメラを用いることが好ましい。
なお、分光器232と検出器233は別体として設けるものとしてもよく、分光器232と検出器233の機能が一体化された公知の分光器又は光検出器を用いるものとしてもよい。
【0049】
また、分光検出部230は、励起光照射部220からレーザー光が照射された後、所定時間経過後にプラズマ光の分光・検出を行うことが好ましい。これにより、薄膜流T上で発生した発光プラズマが安定的に熱平衡に達した状態となり、発光プラズマからのプラズマ光の検出において、高感度、高精度での検出が可能となる。具体的には、図2に示すように、励起光源222と分光検出部230(分光器232及び/又は検出器233)とを接続する遅延発生器234を備えることが挙げられる。また、他の例としては、励起光源222の反射光をフォトダイオードで検出した信号を、分光検出部230に対するプラズマ光導入のトリガーとすることなどが挙げられる。
【0050】
分光検出部230において得られる検出結果(検出波長範囲、スペクトル強度)は、薄膜流T中の貴金属元素Rの種類及び濃度に依存するものである。したがって、この検出結果を基に、処理液W2に残存する貴金属元素Rの濃度を求めることが可能となる。
【0051】
貴金属元素定量部240は、分光検出部230の検出結果を基に、処理液W2に残存する貴金属元素Rの濃度を算出する貴金属元素定量工程を行うためのものである。
本実施態様における貴金属元素定量部240は、分光検出部230の検出結果が入力され、この検出結果に基づき、貴金属元素Rの濃度算出(定量)を可能とする演算を行うことができるものであればよく、例えば、貴金属元素Rの定量に必要なデータ取得及び演算に係るプログラムを実行することのできるCPU等のプロセッサを備える計算装置からなるものが挙げられる。
【0052】
貴金属元素定量部240における定量の一例としては、まず各貴金属元素Rに関する検量線を作成し、この検量線を用いて分光検出部230の検出結果から処理液W2中の貴金属元素の濃度算出(定量)を行うこと(検量線法)や、標準物質とのスペクトル強度比に基づく定量を行うこと(内標準法)などが挙げられる。
【0053】
後述する実施例に示すように、本実施態様の元素分析手段20では、溶液中の貴金属元素Rについて、高感度(検出限界1ppm以下)かつ広範囲(広レンジ)での定量が可能である。したがって、特に金属を回収した後の処理液W2のように、含有する貴金属元素R濃度の変動が生じるものについても、希釈や濃縮等の前処理を必要とせず、その場分析・オンライン分析が可能であり、迅速かつ高感度での定量を行うことが可能となる。これにより、金属回収における処理(分析)について大幅な時間短縮を可能とし、大幅なコスト削減を図ることが可能となる。
【0054】
[元素分析装置]
本発明の実施態様における元素分析装置は、貴金属元素及び塩酸、硫酸、又は王水を少なくとも含む酸性溶液を測定対象とし、LIBSに基づく元素分析を可能とするものである。
本実施態様における元素分析装置は、上述した本実施態様における元素分析手段20に係る構成を利用することができる。より具体的には、本実施態様の元素分析装置としては、少なくとも薄膜流生成部210と、励起光照射部220と、分光検出部230とを備えるものとする。また、本実施態様における元素分析装置は、貴金属元素濃度定量部240を系外に別途設けるものとしてもよく、元素分析装置内に組み込むものとしてもよい。
このとき、薄膜流生成部210における薄膜流生成ノズル213については、上述した耐酸性を有する材質からなるものとする。
【0055】
一般に、LIBSによる分析は、測定対象元素以外の元素の存在が定量に影響する場合があることが知られている。
一方、本実施態様の元素分析装置は、貴金属元素及び塩酸、硫酸、又は王水を少なくとも含む酸性溶液である液体試料を測定対象とするに当たり、この液体試料を薄膜流化することで、前処理が不要で、高感度な測定を可能とするLIBSに基づく元素分析を行うことが可能となる。特に、金属回収過程で生じる貴金属元素を含有した溶液については、その原料等により異なるが、一般に酸溶解を経て、塩酸や硫酸、王水を含む強酸性となる。したがって、本実施態様の元素分析装置は、金属回収における貴金属元素を含有する液体試料に対する元素分析を行う分析装置として好適に利用されるものとなる。
また、上述したように、本実施態様における元素分析装置は、前処理が不要であることから、装置構成としての小型化が容易であり、可搬性を備えるものとすることができる。したがって、その場分析・オンライン分析による継続的なモニタリングに加え、分析が必要な箇所に都度搬送して用いることも可能である。
【0056】
以下、本実施態様の元素分析手段20による貴金属元素定量に係る実施例について示す。なお、この実施例は、本実施態様の元素分析装置による元素分析に係る実施例にも相当する。
【0057】
実施例に用いた元素分析手段20における各構成は以下のとおりである。
・薄膜流生成部210
薄膜流生成ノズル213として、石英ガラスノズルを用い、厚さが20μmの薄膜流Tを生成した。
・励起光照射部220
励起光源221として、Nd:YAGレーザーを用い、レーザー照射条件を532nm、60mJ/pulse、10Hzとした。
・分光検出部230
分光器232としてツェルニー・ターナー型分光器を用い、検出器233としてICCDカメラを用いた。
【0058】
各貴金属元素Rを含む液体試料について、上述した構成からなる元素分析手段20によりプラズマ光からのスペクトルを取得し、貴金属元素Rごとに取得したスペクトルのピーク強度のS/B比が最大となる測定条件(波長(発光線波長)や遅延発生器234による遅延時間等)を設定した。なお、表1は、各貴金属元素Rにおける測定条件のうち、発光線波長を示したものである。
【0059】
【表1】
【0060】
上述した測定条件に基づき、各貴金属元素R(Au、Ag、Ru、Rh、Pd、Pt)を含有する液体試料について元素分析を行った。このとき、貴金属元素Rごとに濃度既知の検量線用試料を用い、貴金属元素Rに固有の波長(発光線波長)におけるスペクトルのピーク値と濃度の関係から、検量線を作成し、各貴金属元素Rの検出限界を算出した。
【0061】
図3は、本実施態様における元素分析手段20により作成した検量線であり、貴金属元素Rとして金(Au)を用いた場合の検量線を示すものである。なお、図3に示す検量線は、1mol/Lの塩酸溶液に金(Au)を溶解したものを液体試料として用いて作成したものであり、横軸が濃度〔mg/L〕を、縦軸が発光線波長(267.6nm)におけるピーク値〔カウント数(×10)〕を示すものである。
図3に示すように、発光線波長(267.6nm)におけるピーク値と貴金属元素(Au)の濃度は比例関係を示し、検量線の決定係数(R)は0.9995となった。また、他の貴金属元素Rについても、検量線は良好な決定係数(0.999以上)を示した。なお、RhとPtは、1mol/Lの塩酸溶液に溶解したものを液体試料とし、Ag、Ru、Pdは、1mol/Lの硝酸溶液に溶解したものを液体試料とした。
【0062】
ここで、得られた検量線を用い、各貴金属元素Rにおける検出限界を算定する。
検量線の傾きをb、ブランク信号の標準偏差をσとし、検出限界を3σ/bとして計算した。計算結果を、各貴金属元素Rにおける検出限界として表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示すように、本実施態様における元素分析手段20(あるいは本実施態様における元素分析装置)により、実施例として示した貴金属元素Rについて、全て1ppmを下回る検出限界が得られることが分かった。すなわち、本実施態様における金属回収装置1及び元素分析装置において、貴金属元素を含有する液体試料に対し、前処理なしで、貴金属元素の定量を迅速かつ高感度で行うことが可能であることが示された。
【0065】
なお、上述した実施態様は、本発明の金属回収装置、金属回収方法、元素分析装置、及び元素分析方法の一例を示すものである。本発明に係る金属回収装置、金属回収方法、元素分析装置、及び元素分析方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る金属回収装置、金属回収方法、元素分析装置、及び元素分析方法を変形してもよい。
【0066】
例えば、本実施態様における金属回収装置及び金属回収方法について、処理液W2を回収部10側に循環させる流路を設け、金属回収処理を繰り返し行うための構造あるいは工程を有するものとしてもよい。
より具体的には、排出された処理液W2を移送するラインL4に分岐管を設け、分岐管の先端を回収部10の前段(ラインL上)に接続するとともに、ラインL4と分岐管の交点に切替弁を設けることが挙げられる。そして、元素分析手段20により、排出される処理液W2に残存する貴金属元素R濃度に係る判定を迅速に行うことが可能であることから、判定の結果、設定値(閾値)を超えた場合には速やかに切替弁を操作し、所定値以上の貴金属元素Rが残存する処理液W2を回収部10側に返送(循環)させることで、貴金属元素の回収率向上に係る操作を適切なタイミングで行うことが可能となる。また、元素分析手段20はその場分析・オンライン分析を行うことができるため、一連の操作を自動化することが容易である。これにより、金属回収における処理全体について大幅な時間短縮を可能とし、貴金属元素の回収率向上と併せて大幅なコスト削減を図ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の金属回収装置及び金属回収方法は、貴金属を含有する溶液から貴金属元素を回収する貴金属リサイクル事業に好適に用いられる。
また、本発明の元素分析装置及び元素分析方法は、貴金属元素と塩酸、硫酸、又は王水を少なくとも含む液体試料に対する貴金属元素の定量において、好適に用いられる。特に、溶液中から貴金属元素の回収を行う金属回収において、貴金属元素を酸溶解した溶液または貴金属元素を回収した後の処理液中に含有される貴金属元素の定量に対し、好適に利用される。
【符号の説明】
【0068】
1…金属回収装置、10…回収部、20…元素分析手段、210…薄膜流生成部、211…バイパス配管、212…送液ポンプ、213…薄膜流生成ノズル、214…ステージ、215…ファンネル、216…パルスダンパー、217…流量計、218…飛散防止用スクリ-ン、219a…バイパス配管引込用バルブ、219b…主配管戻し用バルブ、220…励起光照射部、221…励起光源、222…集光用レンズ、230…分光検出部、231…分光器導入手段、231a…レンズ、231b…光ファイバー、232…分光器、233…検出器、234…遅延発生器、240…貴金属元素定量部、30…受入部、40…評価部、50…精製部、L1~L4…ライン、M…金属源、R…貴金属元素、T…薄膜流、W1…溶液、W2…処理液

図1
図2
図3