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特開2024-7675タッチセンサ用入力装置及びタッチセンサへの入力システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007675
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】タッチセンサ用入力装置及びタッチセンサへの入力システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/044 20060101AFI20240112BHJP
   G06F 3/03 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G06F3/044 B
G06F3/03 400
G06F3/044 126
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108904
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】西本 拓也
(57)【要約】
【課題】伝統的な筆の特徴を損なわずに、筆によるタッチセンサへ入力が可能な入力システムを実現する。
【解決手段】タッチセンサを有するコンピュータの入力画面に入力装置を用いて入力するシステムであって、前記入力装置は、穂首60と軸70を有し、前記穂首60は、絶縁物である毛で構成され、前記軸70は絶縁物であり、前記軸70の外側には、導電性塗料80が塗布されており、前記入力装置は、前記穂首60(62)に導電性の液体を含侵させて入力画面に入力を行うものであることを特徴とする入力するシステム。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穂首との軸を有するタッチセンサ用の入力装置であって、
前記穂首は、絶縁物である毛で構成され、
前記軸は絶縁物であり、
前記軸の外側には、導電性塗料が塗布されていることを特徴とするタッチセンサ用の入力装置。
【請求項2】
前記穂首の前記絶縁物である毛は、長さの異なる毛の集合体となっていることを特徴とする請求項1に記載のタッチセンサ用の入力装置。
【請求項3】
前記導電性塗料の体積抵抗値は、10Ωcm以下であることを特徴とする請求項1に記載のタッチセンサ用の入力装置。
【請求項4】
前記導電性塗料は、樹脂にカーボン粒子が分散された構成を有することを特徴とする請求項1に記載のタッチセンサ用の入力装置。
【請求項5】
前記導電性塗料は、樹脂に金属粒子が分散された構成を有することを特徴とする請求項1に記載のタッチセンサ用の入力装置。
【請求項6】
前記軸の芯には、導電性物質が充填されていることを特徴とする請求項1に記載のタッチセンサ用の入力装置。
【請求項7】
前記導電性物質の体積抵抗率は、10Ωcm以下であることを特徴とする請求項6に記載のタッチセンサ用の入力装置。
【請求項8】
前記導電性物質は、樹脂にカーボンが分散されたものであることを特徴とする請求項6に記載のタッチセンサ用の入力装置。
【請求項9】
前記穂首と前記軸とは、導電性接着材によって接着していることを特徴とする請求項1に記載のタッチセンサ用の入力装置。
【請求項10】
前記軸の芯には、導電性物質が充填されており、
前記穂首と前記軸とは、導電性接着材によって接着していることを特徴とする請求項1に記載のタッチセンサ用の入力装置。
【請求項11】
前記導電性物質と前記導電性接着材とは電気的に導通していることを特徴とする請求項10に記載のタッチセンサ用の入力装置。
【請求項12】
タッチセンサを有するコンピュータの入力画面に入力装置を用いて入力するシステムであって、
前記入力装置は、穂首と軸を有し、
前記穂首は、絶縁物である毛で構成され、
前記軸は絶縁物であり、
前記軸の外側には、導電性塗料が塗布されており、
前記入力装置は、前記穂首に導電性の液体を含侵させて入力画面に入力を行うものであることを特徴とする入力するシステム。
【請求項13】
前記導電性の液体は、体積抵抗率が10Ωcm以下であることを特徴とする請求項12に記載の入力するシステム。
【請求項14】
前記導電性の液体は、水道水であることを特徴とする請求項12に記載の入力するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示装置に係り、特に、タッチセンサあるいはタッチパネルを有する表示装置において、筆による入力を可能にする構成に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置の表面を指等でタッチして入力する方式が、いわゆるスマートフォンやタブレット表示装置で一般化されている。表示領域の上にタッチパネルを配置する方式もあるが、液晶表示装置等では、液晶表示パネル内にタッチパネル機能を内蔵したものが開発されている。
【0003】
液晶表示パネル内にタッチパネル機能を内蔵させた方式を記載したものとして特許文献1が挙げられる。この方式は、対向基板の外側にタッチパネルの一方の電極を配置し、液晶表示パネル内のコモン電極をタッチパネルの他方の電極として使用するものである。
【0004】
一方、タッチパネルへの入力手段として、人間の指の他に、スタイラスペンを用いる方法も一般化している。特許文献2乃至6には種々のスタイラスペンの構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-1233号公報
【特許文献2】特開2014-52881号公報
【特許文献3】特開2015-84182号公報
【特許文献4】特開2015-5106号公報
【特許文献5】特開2014-95978号公報
【特許文献6】WO2013/057862
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タッチパネルへの毛筆(以後、単に筆とも言う)入力のために、特別な構成の毛筆が開発されている。これは、筆先(穂首)の毛に導電性の毛を用いるものであり、従来からの伝統的は穂先とは相当異なったものである。すなわち、伝統的な筆の穂先は、動物の毛を加工したものが使用され、この動物の毛に対して工程を加えることによって、伝統的な筆が製造される。
【0007】
単なる筆タッチのための入力装置としては、このような、導電性の毛を用いたスタイラスペンでもよいが、タッチパネルに、書道家が「書」を書く場合は、このような、導電性の毛を用いたものではなく、伝統的な毛筆が好まれる。伝統的な毛筆以外の毛筆を用いて、デジタルアーツとしての「書」が書けるが否かは不明である。書道家は、筆を選ぶことも技量の一つだからである。
【0008】
一方、学童や成人が習字の練習をする場合、使用する毛筆は、伝統的な筆を使用することが前提となっている。つまり、伝統的な筆を使用しなければ、習字の練習という目的が変化してしまう。習字の練習において、墨、硯、紙を使用せずに、タッチパネル上で練習をしたいという要求もある。このような、タッチパネル上で習字の練習をしたい場合、使用する入力装置は、出来る限り、伝統的な筆に近い構成である必要がある。そうでなければ、習字の練習にならないからである。
【0009】
本発明の課題は、伝統的な筆に近い構成を有する、タッチパネルへの入力装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を克服するものであり、代表的な手段は次のとおりである。
【0011】
(1)穂首と軸を有するタッチセンサ用の入力装置であって、前記穂首は、絶縁物である毛で構成され、前記軸は絶縁物であり、前記軸の外側には、導電性塗料が塗布されていることを特徴とするタッチセンサ用の入力装置。
【0012】
(2)タッチセンサを有するコンピュータの入力画面に入力装置を用いて入力するシステムであって、前記入力装置は、穂首と軸を有し、前記穂首は、絶縁物である毛で構成され、前記軸は絶縁物であり、
前記軸の外側には、導電性塗料が塗布されており、前記入力装置は、前記穂首に導電性の液体を含侵させて入力画面に入力を行うものであることを特徴とする入力するシステム。
【0013】
(3)前記導電性の液体は、体積抵抗率が10Ωcm以下であることを特徴とする(2)に記載の入力するシステム。
【0014】
(4)前記導電性の液体は、水道水であることを特徴とする(2)に記載の入力するシステム。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】タッチセンサを有するタブレットにスタイラスペンを用いて入力している状態を示す斜視図である。
図2】タッチセンサを有する液晶表示装置の斜視図である。
図3図2のA-A断面図である。
図4】タッチセンサの動作を示す回路図である。
図5図4の動作を示すタイミングチャートである。
図6】容量変化を検出する原理を示す断面図である。
図7】容量の変化を検出した状態を示すタイミングチャートである。
図8】伝統的な筆の外観図である。
図9】穂首を構成する毛の詳細を説明する図である。
図10図8の穂首をほぐした状態を示す筆の外観図である。
図11図10の筆をタッチセンサの入力装置として用いた状態を示す斜視図である。
図12図11の動作を示す等価回路である。
図13】本発明による入力装置(筆)の外観図である。
図14図13のB-B断面図である。
図15図13のC-C断面図である。
図16】穂首に水を含ませた状態の、本発明の入力装置(筆)の外観図である。
図17図16の入力装置(筆)を用いた場合の動作を示す等価回路である。
図18】穂首の根本が水を含まない状態における、本発明の入力装置(筆)を示す外観図である。
図19】軸の半分に導電性塗料の塗布した場合を示す、本発明による入力装置(筆)の外観図である。
図20】実施例2の入力装置(筆)を示す外観図である。
図21図20のD-D断面図である。
図22図20のE-E断面図である。
図23図20の入力装置(筆)を用いた場合の動作を示す等価回路である。
図24】筆の穂首と軸を示す断面図である。
図25】実施例3における入力装置の穂首と軸を示す断面図である。
図26】実施例3の他の態様における入力装置の穂首と軸を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に実施例を用いて本発明の内容を詳細に説明する。以下の説明では、タッチパネル機能が組み込まれた表示装置として液晶表示装置の例について説明しているが、本発明は、有機EL表示装置、マイクロLEDディスプレイ等の他の表示装置にも同様に適用することができる。また、表示装置とは独立したタッチパネルを使用する場合も同様である。なお、本明細書において、タッチパネルという場合、必ずしも、表示装置から独立したタッチパネルのみでなく、表示装置に組み込まれたタッチセンサについていう場合もある。
【実施例0017】
図1は、タッチセンサを内蔵した液晶表示装置を用いたタブレット1にスタイラスペン20で入力している状態を示す斜視図である。タブレット1において、表示領域10の周辺は、金属、あるいは樹脂で形成された筐体410に囲まれている。タブレット1の表示領域がタッチセンサの入力面10(以後、単に、入力面10ともいう)を兼用している。
【0018】
図1において、入力面10にスタイラスペン20によって入力をおこなっている。スタイラスペン20は、従来は、金属等で形成された導電性の硬いペンで構成される場合が多かった。一方、タブレット1の入力面10が傷つくことを防止するために、タッチ面がソフトであるスタイラスペンも開発されている。例えば、綿状にした樹脂に導電性微粒子を含む導電性塗料を含侵させ、これを、バインダを用いて整形したものが開発されている。
【0019】
さらには、先端を筆状あるいは刷毛状にして、毛筆書体の入力を可能にするスタイラスペンも開発され、このシステムを可能にするための、アプリケーションも種々開発されている。しかし、このような従来例でのスタイラスペンは、ペン先端が導電性の毛で形成され、また、軸も伝統的な筆の軸とは異なるものである。
【0020】
一方、筆で書いた「書」がうまくなりたいという人の数は多く、習字の塾は、全国に多数存在する。しかし、以前のように、多数の人を1部屋に集めて、書道家の先生が指導するという方式はとりにくくなっている。そこで、タブレットを用いて、通信で書の指導を出来るようにしたいという要求が出ている。
【0021】
また、「書」の練習では、多数の紙を必要とし、使用後の紙の破棄も問題となっていた。さらに、墨による汚れなども防止したいという要求もあった。タブレットを用いて、「書」の練習が出来れば、このような問題を解決することが出来る。
【0022】
毛筆のような筆先を有するスタイラスペンが開発され、これを用いて、毛筆で書いたような書体を実現するアプリケーションも開発されている。しかし、このようなスタイラスペンは、筆先に導電性の毛を用い、スタイラスペンの軸も、従来の筆の軸とは異なったものである。
【0023】
一方、書道における、模範的な「良い字」というのは、伝統的な毛筆を用いて初めて実現できる場合が多い。「良い字」を書くために、書道家は、技量を磨くが、この技量には、良い筆を選ぶ技量というものも含まれる。すなわち、導電性の毛を用い、また、これに対応する軸を有するスタイラスペンを用いる入力方法では、伝統的な「筆」を用いた書道の練習という目的を達成することは困難である。
【0024】
また、優れた書道家の「書」は、デジタルアーツとして登録することが出来るが、このような書は伝統的な「筆」を用いて初めて可能になる場合が多い。本発明の課題は、タブレットの入力画面に、毛筆による書を書く場合、伝統的な筆の特徴を生かすことが出来る入力装置を実現することである。
【0025】
図2は、図1のタブレット1に収容されている、タッチパネル機能を有している液晶表示装置2の斜視図である。図2において、画素電極等がマトリクス状に形成されたTFT基板100の上にブラックマトリクス等を有する対向基板200が配置している。TFT基板100と対向基板200の間に液晶が挟持されている。TFT基板100と対向基板200が重なった部分に液晶表示装置の表示領域が形成されている。この表示領域に重複して、インセルタッチパネル(液晶表示装置に組み込まれたタッチパネル)のタッチパネル入力面10が形成されている。
【0026】
入力面10において、平面で視て、ドライブ電極Rxが横方向(x方向)に延在し、縦方向(y方向)に配列している。また、検出電極Txが縦方向に延在し、横方向に配列している。図3等に示すように、ドライブ電極Rxは対向基板200の外面に形成され、検出電極TxはTFT基板100の内面に形成されている。ドライブ電極Rxと検出電極Txの交点に容量が形成され、タッチ信号は、この容量の変化を検出する。
【0027】
図2において、TFT基板100が対向基板200と重なっていない部分は端子領域150であり、この部分にドライバIC160が配置し、また、液晶表示装置に信号や電源を供給するためのフレキシブル配線基板170が接続している。対向基板200の外面端部には、ドライブ電極Rxにドライブ信号を供給するためにタッチパネル用フレキシブル配線基板180が接続している。
【0028】
図2では記載を省略しているが、TFT基板100の背面にバックライトが配置している。図2において、タッチパネル用フレキシブル配線基板180はフレキシブル配線基板170接続し、フレキシブル配線基板170はバックライトの背面に折り返されて、タブレットの外形をコンパクトにまとめている。
【0029】
図3図2のA-A断面図である。図3において、TFT基板100の内面に横方向(y方向)に検出電極Txが延在している。これは、実際には、TFT基板100に形成されたコモン電極が兼用している。液晶層300を挟んで、対向基板200が配置し、対向基板200の外側に、ドライブ電極Rxが紙面垂直方向(x方向)に延在し、横方向(y方向)に配列している。TFT基板100と対向基板200の交点にタッチパネル用容量Ctが形成される。なお、実際の製品では、液晶の層厚は数μmであるのに対し、TFT基板100や対向基板200の厚さは0.5mm程度ある。図3では、液晶層300の層厚を誇張して記載している。
【0030】
図4はドライブ電極Rxと検出電極Txの配置を示す平面図である。図4において、ドライブ電極Rxが縦方向(座標ではx方向)に延在し、横方向(座標では縦方向)に配列している。また、検出電極Txが横方向に延在し、縦方向に配列している。ドライブ電極Rxと検出電極Txの交点に容量Ctが形成される。
【0031】
図4において、ドライブ電極Rxに左から順に、VR1、VR2、VR3のようにドライブ電圧が印加される。そうすると、選択された検出電極TxにVR1、VR2、VR3等に対応した電圧が出力される。この電圧は各交点における容量Ctに応じた値となる。図4において、VT1とあるのは、電極Tx1に現れる検出信号という意味であり、VR1、VR2、VR3等に対応して順番に生ずる電圧、例えば、VT11、VT12、VT13等の総称である。VT2以下も同様である。検出電圧は、図4の右側矢印のように、検出電極Tx1、Tx2等から順次検出される。
【0032】
図5は以上で説明した内容をタイムチャートで示したものである。図5において、横方向は時間軸である。図5において、上側に記載されているTx1、Tx2等は、ONの状態の各検出電極において、信号電圧が取り込まれる状態を示している。
【0033】
図5において、検出電極Tx1が選択されたとすると、この検出電極に対応して、ドライブ電極にRx1、Rx2・・・に、VR1、VR2・・・のようにドライブ電圧が順番に印加される。そうすると、検出電極Tx1、に、ドライブ電圧に対応して、検出信号VT11、VT12・・・等の検出電圧が検出される。ここで、VT11、VT12等は、検出電極Tx1に順番に検出される信号の意味である。同様に、VT21、VT22等は、検出電極Tx2に順番に検出される信号の意味である。
【0034】
図6は、検出電極Tx1とドライブ電極Rx2との交点に、スタイラスペン、あるいは、人間の指が接触して、ドライブ電極Rxと基準電位との間に容量CAが並列に加わった状態を示す断面図である。その結果、検出電極Tx1において検出される検出電圧が変化する。
【0035】
図7はこの状態を示すタイムチャートである。図7図5と異なる点は、検出電極Tx1において、第2ドライバ電圧VR2が印加されている時の、検出電圧VT12である。図7において、白矢印で指すVT12は、対応する図5におけるVT12よりも小さくなっている。すなわち、対応する部分において、容量CAが並列に加わったことによって、検出電圧が低下したことを示している。この低下した検出電圧VT12等を検出することによって、タッチパネルにおける、指やスタイラスペンのタッチ位置を検出することが出来る。
【0036】
以上で説明したタッチパネルの動作原理は、入力装置が毛筆の場合も同様である。図8は、伝統的な筆50の外観図である。伝統的な筆50は、大きく分けて、穂首(筆先)60と軸70で構成されている。穂首60を構成する毛は、動物の毛が使用される。筆50の用途、あるいは、筆50の産地によって色々な動物の毛が使用される。そして、この毛は、筆職人の技量により、筆に適するように加工される。1個の筆であっても、図9に示すように、複数の長さの毛に加工し、これをまとめて、1個の筆にする。図9の600は、穂首60の片側の断面図である。複数の長さの毛から構成されていることを示している。図9において、例えば、600は「命毛」、602は「のど」、603及び604は「腹」、605及び606は「腰」などと呼ばれている。これらの長さが異なる毛がアレンジされ、1個の筆にまとめられる。
【0037】
筆70の軸の材料は、竹が最も多く用いられ、次に木が多く、その他の材料はごくわずかである。このような、穂首60の材料、軸70の材料が選定されるのは、書道家にとって、伝統的に、「書」を書く上で、筆の重量、筆の接触の具合等を最も適したもと出来るからである。
【0038】
筆が完成した時点では、穂先(穂首)の毛は、布海苔(ふのり)で固められている。したがって、使用前にこの布海苔(ふのり)を除去する必要がある。図10は、布海苔を水等で除去し、再び乾燥させた状態を示す外観図である。穂首60の毛は、絶縁物で出来ているので、穂首全体としても絶縁物であり、筆の軸70も絶縁物である。ここで、絶縁物とは、体積抵抗率が10Ωcm以上であると定義される。
【0039】
図11は、図10に示すような筆50を、タッチセンサを有するタブレット1の入力面10への入力装置として使用している状態を示す斜視図である。図11では、タブレット1の入力面10に、筆50によって、字を書いている状態を示している。しかしながら、図11に示すような構成では、タッチセンサを有するタブレット1への入力装置としては動作をしない。つまり、人間は導体であるが、筆50の穂首60も軸70も絶縁物なので、筆50を介してタッチパネルに形成されたドライブ電極との容量は非常に小さい。したがって、ドライブ電極Rxと検出電極Txとの間の容量の変化は小さい。したがって、検出信号として認識できるほどの電圧変化を生じさせないからである。
【0040】
図12は、この様子を示す等価回路である。図12において、ドライブ電極Rxと検出電極Txの間に容量Ctが形成されている。図12では、ドライブ電極Rxと基準電位の間に容量CA1と容量CHが接続している。CHは人間と基準電位との間の容量である。CA1は、人間とドライブ電極の間の容量であり、図11における筆の部分である。
【0041】
図12において、筆50の穂首60も軸70も絶縁物なので、これを介した容量は非常に小さい。容量CA1と容量CHの直列容量は、小さいほうの容量によって決定される。つまり、容量CA1の容量をC1とし、容量CHの容量をC2とした場合、直列容量C12は、C1×C2/(C1+C2)となる。ドライブ電極Rxに印加される電圧をVRとすると、検出電極に検出される電圧は、VR×Ct/(Ct+C12)となる。C12がCtに比べて非常に小さいと、筆50をタブレット入力面10にタッチした場合の電位の変化は殆ど生じない。言い換えると、タッチ位置の検出は出来ないことになる。
【0042】
このような問題を解決するために、穂首が導電性の毛で形成され、人間と、ドライブ電極Rxの間のインピーダンスを小さくすることによって、筆によってタッチした場合の容量変化を大きくした方式が開発されている。しかし、この方式は、先に述べたような課題を有するものである。本発明は、従来の伝統的な筆の特質を保ちつつ、タッチパネルの入力面に入力することが可能な入力装置を実現するものである。
【0043】
図13は、本発明によるタッチパネルへの入力装置としての、筆50の外観図である。図13は、図9に示す伝統的な筆とほぼ同じ構成としている。図13図9と異なる点は、軸70の外面に対して導電性の塗料80を塗布し、外面を導電性としていることである。図14図13のB-B断面図であり、図15図13のC-C断面図である。図14及び図15において、軸70の基材は竹であり、内部が空洞になっている。断面が円形の軸70の外側に所定の厚さで導電性塗料80が塗布されている。
【0044】
筆50の軸70の外側を導電性とするのは、人体が形成する容量と、タッチパネルにおけるドライブ電極Rxのカップリングを向上させるためである。筆50において、穂首60と軸70は、別々に製造する。穂首60は、多くの工程を経て完成する。一方、軸70は、筆全体の重さや感触等をきめるものであり、やはり重要である。軸70の端部に、凹部を形成し、この凹部に穂首を、接着剤を介して、接着することによって筆は完成する。
【0045】
図13に記載の筆50は従来の筆と同様な工程で製造する。図13乃至図15に示す導電性塗料80は、軸を制作する最後の工程で塗布する。導電性塗料80は、例えば、エポキシ、アクリル、ウレタン等の樹脂に、導電材として、カーボン、ニッケル、銅などの微粒子を分散させたものを使用する。すなわち、このような塗膜を形成するためのビークルに導電性の微粒子を混錬させ、これを軸70の外側に塗布する。
【0046】
塗布後、塗膜80を焼結(乾燥)、硬化させる。ところで、軸70は、竹で形成されているので、低温で焼結可能な材料である必要がある。エポキシ、ウレタン等の2液性反応タイプであれば、60℃程度で短時間での乾燥、硬化が可能である。また、アクリル樹脂の1液ラッカータイプでも、低温で乾燥、硬化させることが可能である。
【0047】
導電性フィラーとしては、カーボン、ニッケル、アルミニウム、銅などの微粒子を使用することが出来る。カーボンは最も安価であり、導電性も安定しているが、塗膜の色がほぼ黒色に限られる。つまり、軸の色が黒色でよいならば、カーボン微粒子が最も適している。
【0048】
一方、フィラーとして、ニッケル、アルミニウム、銅等の微粒子を用いた場合、塗膜としては、ほぼ透明な膜を形成することが可能である。したがって、塗料内に適当な顔料を分散させることによって所望の色の塗膜を形成することが出来る。なお、上記の金属材料による微粒子としては、ニッケルが酸化しにくく、最も適している。
【0049】
導電性塗膜80の体積抵抗率は、本発明の目的からは、10Ωcm以下であれば十分であり、100Ωcm以下であればなおよい。また、塗膜80の厚さは、塗りやすい厚さに選定すればよい。但し、伝統的な筆の筆感を、塗膜80によって損ねない程度の厚さとすることが好ましい。これらを考慮すると、導電性塗膜80の厚さは、10μm乃至100μmが適当である。
【0050】
しかし、図13に示す筆をタッチパネルへの入力手段として用いても、十分な検出信号を得ることはできない。穂首60は、動物の毛で出来ており、絶縁物だからである。すなわち、人間と筆50のカップリングは筆の軸70に形成された導電膜80によって改善できるが、タッチパネルのドライバ電極Rxと人間によって形成される容量のカップリングは、絶縁物である穂首60の存在によって損なわれる。
【0051】
これに対して、本発明では、図16に示すように、筆50の穂首60に水を含侵させることによって、穂首60に導電性を付与し、この状態の筆をタッチパネルの入力装置として用いる。図16において、穂首60は水を含侵した状態であり、この状態を穂首60におけるハッチングで示している。
【0052】
ところで、図13に示す筆50は、新品の筆であり、穂首60は布海苔によって形が整えられている。実際に筆50を使用するには、水等によって布海苔を除去し、穂筆60をほぐしておく必要がある。図16に示す筆50は、すでに布海苔が除去された状態の穂首60に対して水を含ませることによって、穂首60の形状が整えられた状態になっている。すなわち、穂首60(62)に水を含ませることによって、穂首60(62)の形状を、墨を含ませたと同じように、整えることが出来る。
【0053】
このように、筆に水を含ませることによって、穂首60に導電性を与えることが出来るとともに、実際に墨を使用して「書」を書く場合と同様な筆形状に整えることが出来る。使用する水は、日常生活に用いる飲料水等の通常の水道水でよい。通常の水道水の体積抵抗率は、例えば5×10Ωcmである。人間の容量とタッチパネルのドライブ電極Rxとのカップリングの向上という目的からは、10Ωcm以下の体積抵抗率であれば十分である。なお、穂首60に含侵された水には、穂首60に含まれる物質のイオンも加わることを考慮すると、穂首60に含侵された水の体積抵抗率はさらに低下することになる。
【0054】
このような、構成を持つ、図16のような筆を用いてタッチパネルに入力したところ、十分な検出信号を得ることが出来た。そして、毛筆入力用のアプリケーションを適用してタッチパネルの入力面に「書」を書いたところ、伝統的な筆を使用して書いたのと同様な「書」を書くことができた。
【0055】
水道水以外の液体を使用することも可能である。例えば、メタノール、エタノール等は、ほぼ水道水と同等の体積抵抗率を有しているので、この目的に使用することが出来る。純水の体積抵抗率は、水道水に比べて高く、5×10Ωcm程度である。しかし、純水を使用して本発明を実験した場合も、十分な検出信号を検出することが出来た。したがって、液体の体積抵抗率が10Ωcm以下、好ましくは、10Ωcm以下であれば本発明の目的を達成することが出来る。その他の液体であっても、筆やタッチパネルの入力面10を劣化させない液体であれば使用することが出来る。
【0056】
図17は、図16のような「筆」を用いてタッチパネルの入力面に字を書く場合の等価回路である。図17において、人体の容量とタッチパネルの入力面に形成されたドライブ電極Rxとの間に存在するカップリング容量CA2は図12におけるCA1よりも大きくなっている。その結果、CA2とCHの直列容量は、ドライブ電極Rxと検出電極Txとの間で形成される容量Ctの大きさに近い大きさになっている。
【0057】
図17において、容量CA2の容量をC3とし、容量CHの容量をC2とした場合、直列容量C23は、C3×C2/(C3+C2)となる。ドライブ電極Rxに印加される電圧をVRとすると、検出電極に検出される電圧は、VR×Ct/(Ct+C23)となる。C23がCtに匹敵できる大きさになると、筆50をタブレット入力面10にタッチした場合の電位の変化は、検出電極Txによって十分に検出可能な大きさとなる。
【0058】
図18は、筆50の穂首60の布海苔を穂首60の根本63においては、除去せずに、残した場合の外観図である。穂首60の根本63における布海苔を除去した場合と除去しない場合とでは、筆で書くときの、筆の弾力性が異なって来る。したがって、筆の使用者の好みによっていずれかが選択される場合もあるし、同じ使用者でも、書体によって穂首60のほぐしの範囲を変えた筆を使用する場合がある。
【0059】
図18のような筆50を用いてタッチパネルの入力面10に字を書いたところ、図16のような筆50を使用した場合と比べて大きな差を生ずることなく、毛筆体による字を書くことが出来た。これは、穂首60の根本63における、ほぐしてない部分は、幅が小さく、カップリング容量には大きな影響を与えないためである。
【0060】
図19は、実施例1の他の態様を示す筆50の外観図である。何らかの事情によって、軸70全体に導電性塗料80を形成できない場合がある。それでも、本発明の目的のためには、図19に示すように、軸70の長さ方向で、1/2以上の範囲に導電性塗料80を塗布しておくことが望ましい。この場合の導電性塗料80の塗布領域は、図19に示すように、穂首60に近い部分に塗布するのが良い。穂首60との容量によるカップリングに有利だからである。
【実施例0061】
図20は実施例2による筆50の外観図である。図20においても、軸70の外部に導電性塗料80が形成されている。図20が実施例1の図13と異なる点は、筆の軸70の内部の芯の部分に導電物質75が充填されていることである。これによって、軸70の外側と軸の内部との間にも大きな容量が形成されるので、タッチパネルに対して、より感度の良い入力装置とすることが出来る。
【0062】
図21図20のD-D断面図、図22図20のE-E断面図である。図21及び図22において、軸70は竹で形成され、軸70の周りには、導電性塗料80が形成されていることは実施例1と同じである。図21及び図22において、竹の中空部には、導電性の物質75(以後導電性充填材75)が充填されている。これによって、導電性充填材75と軸70の外側の導電性塗料80との間に容量CBが形成される。この容量CBは筆の穂首60と人体との間のカップリング容量として加わるので、入力感度をより上げることが出来る。
【0063】
実施例2における導電性充填材75の体積抵抗率は、本発明の目的からは、広い範囲から選択することが出来る。例えば、軸70の外側の導電性塗料80と同様、10Ωcm以下であれば十分であり、100Ωcm以下であればなおよい。導電性充填材75の材料としては、材料費が安く、かつ、充填しやすいものを使用すればよい。さらに、筆50の重量に大きな影響を与えないように、充填材としては重量が小さいほうがよい。筆の重量も、伝統的な「筆」の使用感に影響を与えるためである。
【0064】
このような導電性充填材75として、樹脂にカーボンを導電性フィラーとした導電性の塗料を空洞に流し込んでもよい。このとき、2液性の反応性のエポキシ樹脂などをバインダとして用いれば低温にて硬化させることが出来る。外側の導電性塗料80と同じ材料を用いれば、製造プロセスの単純化が可能である。
【0065】
なお、エポキシ樹脂に導電性微粒子を含んだ材料を導電性の芯に焼結し、これを軸の中空に差し込んだ構成であってもよい。この他に、ポリウレタン、アクリル等の樹脂に導電性微粒子としてのカーボンを分散させたものを焼結し、導電性の芯に整形して、軸の中空に差し込んでもよい。また、基材といて合成繊維を用い、これに例えば、導電性微粒子を含む樹脂を含侵させ、導電性の芯に整形して、軸70の中空部に差し込んでもよい。重量の問題とコストが許せば、金属の芯を軸70の中空部に差し込んでもよい。
【0066】
図20乃至図22では、軸70は竹で形成されているとして説明した。伝統的な筆において、軸70の材料として竹の次の多く使用されているものは木である。軸70が木である場合、軸70に軸心に沿ってドリルで孔を形成し、この孔に竹の場合と同様にして導電性充填材を挿入することになる。
【0067】
ところで、鉛筆では、木の軸において、黒鉛の芯が用いられている。黒鉛の芯は、黒鉛粒子と粘土を混錬して焼結したものである。したがって、鉛筆の芯は良導体である。実施例2の目的からは、軸を鉛筆と同じ工法によって作成し、外側に導電性塗料を塗布したものを用いることが出来る。鉛筆は、安価に製造する技術が確立しているので、実施例2のための筆50の軸70として好適である。
【0068】
図23は、図20のような「筆」を用いてタッチパネルの入力面に字を書く場合の等価回路である。図23において、人体の容量CHとタッチパネルの入力面に形成されたドライブ電極Rxとの間に存在するカップリング容量CA3は図17におけるCA2よりも大きくなっている。その結果、CA3とCHの直列容量も同様に大きくなっている。
【0069】
図23において、容量CA3の容量をC4とし、容量CHの容量をC2とした場合、直列容量C33は、C4×C2/(C4+C2)となる。ドライブ電極に印加される電圧をVRとすると、検出電極に検出される電圧は、VR×Ct/(Ct+C33)となる。C33が大きくなるにつれて、電圧の変化、すなわち、検出電圧は大きくなる。したがって、より正確なタッチセンサの動作が可能になる。
【実施例0070】
筆50の製造工程では、穂首60と軸70とを別々に制作する。図24に示すように、軸70には、穂首60を挿入する凹部77を形成しておく。穂首60が完成後、穂首60の根本に接着剤65を塗布し、その後、穂首60を軸70の凹部77に挿入し、接着し、固定する。
【0071】
実施例3では、図25に示すように、穂首60と軸70との接着に導電性接着材66を用いる。導電性の接着材66は、例えば、接着材としてのエポキシ系あるいはアクリル系等の樹脂に、導電性微粒子を分散させたものである。導電性微粒子としては、コスト上、黒鉛が最も適している。その他には、ニッケル、アルミニウム、銅等の微粒子を用いることが出来る。導電性接着材66の体積抵抗率は、導電性充填物質75と同様、10Ωcm以下であれば十分であり、100Ωcm以下であればなおよい。
【0072】
導電性接着材66を用いることによって、軸70の周囲に形成された導電膜80と水を含んだときの穂首60とのカップリングをさらに向上させることが出来る。したがって、筆50をタッチパネルの入力面に接触した場合の検出信号をより大きくすることが出来る。なお、穂首60と軸70とは導電性ではない接着材で接着されていても良い。この場合でも、水を含んだときの穂首60と導電性を有した軸70とが接触すれば導通し、問題なく検出信号を検出できる。
【0073】
図26は、軸70に導電性充填材75を充填した場合における実施例3の他の態様を示す断面図である。図26において、穂首60の根本に導電性接着材66を塗布することは、図25と同じである。図26では、軸70の芯に導電性物質75が充填され、これが、穂首60に塗布された導電性接着66と接触し、導通している。
図26の構成では、穂首60が水を含んだ状態においては、穂首60と軸70の芯である、導電性充填物75とが導通することになるので、人体とタッチパネルの入力面との容量がさらに大きくなり、穂首60をタッチパネル入力画面10にタッチした場合の検出信号をさらに大きくすることが出来る。
【0074】
このように、本発明によれば、伝統的な筆の特質を維持したまま、タッチパネルの入力面に、筆によって「書」を書くことができる。したがって、タッチパネル機能を有するタブレットを用いて、習字の練習、毛筆による書体を忠実にタッチパネルの入力面に入力することが出来る。さらに、デジタルアーツとしての「書」をタブレット画面から書くことも可能になる。
【符号の説明】
【0075】
1…タッチパネル機能を有するタブレット、 2…タッチパネル機能付き液晶表示装置、 10…タッチパネルの入力面、 20…スタイラスペン、 50…筆、 60…穂首、 61…ほぐされた穂首、 62…水を含んだ穂首、 63…ほぐされていない穂首の根本、 65…接着材、 60…導電性接着材、 70…軸、 71…中空部、 75…導電性充填物質、 80…導電性塗料、 100…TFT基板、 150…端子領域、 160…ドライバIC、 170…フレキシブル配線基板、 180タッチセンサ用フレキシブル配線基板、 200…対向基板、 250…保護膜、 300…液晶層、 410…筐体、 600…筆の穂首の片側断面図、 601…筆の命毛、 602…筆の命毛、 601…筆の命毛、 601…(筆の)命毛、 602…(筆の)のど、 603…(筆の)腹、 604…(筆の)腹、 605…(筆の)腰、 606…(筆の)腰、 Rx…ドライブ電極、 Tx…検出電極、 CA1…容量、 CA2…容量、 CA3…容量、 CB…軸における導電性塗料と導電性充填物質間の容量、 CH…人間の容量、 Ct…Rx電極とTx電極間の容量
図1
図2
図3
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