(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076750
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】船舶診断支援システム、ならびに船舶診断支援システムのためのサーバ、通信機およびクライアント
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/20 20230101AFI20240530BHJP
B63B 49/00 20060101ALI20240530BHJP
B63B 79/30 20200101ALI20240530BHJP
【FI】
G06Q10/20
B63B49/00 Z
B63B79/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188464
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 良太
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC15
(57)【要約】
【課題】様々な構成の船舶に適応して適切な検査項目を提供することができる船舶診断支援システムを提供する。
【解決手段】船舶診断支援システム100は、船舶5の構成情報を送信する通信機1と、通信機から送信される構成情報を受信して、複数の船舶の少なくとも構成情報を蓄積し、蓄積された構成情報に基づいて個々の船舶の検査項目を生成するサーバ2と、サーバと通信するクライアント3とを含む。クライアントは、サーバに対して、船舶を特定して症状データを送信して、検査項目を要求し、サーバから当該要求に係る検査項目を受信して使用者に提供する。構成情報は、船舶を構成する一つ以上の機器(たとえば主推進機)の情報を含むことが好ましい。サーバは、船舶に搭載される可能性のある様々な種類の機器に関して、症状と、当該症状に対応する検査項目とが記述された機種別作業マスタ情報を含むことが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の構成情報を送信する通信機と、
前記通信機から送信される構成情報を受信して、複数の船舶の少なくとも前記構成情報を蓄積し、蓄積された構成情報に基づいて個々の船舶の検査項目を生成するサーバと、
前記サーバと通信し、船舶を特定して症状データを送信して、検査項目を要求し、前記サーバから当該要求に係る検査項目を受信して使用者に提供するクライアントと、を含む、船舶診断支援システム。
【請求項2】
前記構成情報は、船舶を構成する一つ以上の機器の情報を含む、請求項1に記載の船舶診断支援システム。
【請求項3】
前記一つ以上の機器は、少なくとも一つの主機を含む、請求項2に記載の船舶診断支援システム。
【請求項4】
前記構成情報は、前記一つ以上の機器に関して、機器の種類、個数、配置、および接続状態のうちの少なくとも一つを表す情報を含む、請求項2に記載の船舶診断支援システム。
【請求項5】
前記サーバは、船舶に搭載される可能性のある様々な種類の機器に関して、症状と、当該症状に対応する検査項目とが記述された機種別作業マスタ情報を含む作業マスタを含み、前記クライアントからの要求に係る船舶の構成情報および症状データに基づいて前記作業マスタを検索することによって検査項目を特定し、当該特定された検査項目を前記クライアントに通知する、請求項1に記載の船舶診断支援システム。
【請求項6】
前記機種別作業マスタ情報は、当該機器または他の機器の異常の可能性を表す異常スコアの演算規則を記述した異常スコアリング情報を含み、前記サーバは、前記異常スコアリング情報に基づいて一つ以上の機器の異常スコアを演算し、演算された異常スコアに基づいて、検査対象の機器を特定し、当該特定された機器の機種別作業マスタ情報に従って検査項目を特定する、請求項5に記載の船舶診断支援システム。
【請求項7】
前記異常スコアリング情報は、前記構成情報、前記クライアントから送信される症状データ、および前記船舶に備えられるセンサの検出値のうちの少なくとも一つと関連付けられた、異常スコアの演算規則を含む、請求項6に記載の船舶診断支援システム。
【請求項8】
前記サーバは、前記検査項目の実施結果の情報を受信し、受信した情報に基づいて、次に実施すべき検査項目を生成して前記クライアントに送信する、請求項7に記載の船舶診断支援システム。
【請求項9】
前記通信機は、船舶内で生じるフェール情報、および船舶に搭載されるセンサの検出値の少なくとも一つを前記サーバに送信する、請求項1に記載の船舶診断支援システム。
【請求項10】
前記通信機は、船舶内で収集される情報を自発的に前記サーバに送信する自発送信機能と、前記サーバからの要求に応答して、船舶内で収集される情報を前記サーバに送信する応答送信機能とのうちの少なくとも一つを有している、請求項1に記載の船舶診断支援システム。
【請求項11】
前記クライアントは、前記サーバから指定された検査項目の実施結果の情報を前記サーバに送信する機能を有する、請求項1に記載の船舶診断支援システム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の船舶診断支援システムにおいて用いられる前記サーバ。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の船舶診断支援システムにおいて用いられる前記通信機。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか一項に記載の船舶診断支援システムにおいて用いられる前記クライアント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶診断支援システム、ならびに船舶診断支援システムのためのサーバ、通信機およびクライアントに関する。
【背景技術】
【0002】
船外機艇に代表される小型船舶は、個々の船舶ごとの構成が大きく異なる。すなわち、車種およびモデルによって大半の構成が特定される自動車とは事情が全く異なり、船舶の分野においては、顧客に要望および使用法に応じて、一艇ごとに船舶の構成が決定される。ボートビルダは、顧客の要望等に基づき、船体、主機(主推進機)、補機類等を選択して、船舶を組み立てる。加えて、販売後にも船舶の改造が行われ、機器類の追加、削除または交換が行われることも一般的である。その結果、船舶の構成パターンは多岐に渡り、実質的には、一艇毎に構成が異なる。構成に応じて船舶の挙動も異なる。たとえば、プロペラの構造、船底の形状、漁具等の装備などに応じて、加速特性、船速特性、エンジン回転速度特性等が個々の船舶ごとに異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船舶の使用者は、船舶に不調の兆候があると、ディーラ等に相談する。すると、ディーラ等の技術者は、船舶の点検を行い、必要に応じて修理を施す。しかし、とりわけ船体の内部に組み込まれた補機類や配線等は、外観からは有無が分からず、むろんその構成(種類、個数、接続状態等)も分からないことが多い。しかも、前述のとおり、一艇ごとに船舶の構成が異なるので、標準検査手順を定めることも難しい。仮に標準検査手順を定めたとしても、その標準検査手順において想定されている構成に合致しなければ、無駄な作業が発生する。とりわけ、船体の内部に組み込まれた補機類や配線等は、防水構造の船体部品を引き剥がさなければ到達できない場所に配置されていることが多いので、その作業が無駄になることは、時間と労力の大きな損失となる。そのうえ、船舶の構成によっては、標準検査手順によって異常の有無や異常発生箇所等を適切に判断できない可能性もある。
【0005】
特許文献1は、船舶に配置された複数の装置の状態を示す装置状態データを取得し、装置状態データが異常を示すときには、その異常に対処すべき職責の作業者を特定し、その作業者が携帯する端末装置に作業データを送信する作業管理システムを開示している。しかし、この作業管理システムは、大型の船舶内にサーバ装置を備え、このサーバ装置によって、当該船舶に配置された複数の装置の異常に関する作業データを発生するように構成されており、いわば、一つの大型船舶のための専用の作業管理システムである。したがって、様々な構成を有する複数の船舶(とくに小型船舶)に対してそれぞれ適した作業手順を発生できるものではない。
【0006】
そこで、この発明の一実施形態は、様々な構成の船舶に適応して適切な検査項目を提供することができる船舶診断支援システムを提供する。
【0007】
また、この発明の一実施形態は、上記のような船舶診断支援システムを構成する、サーバ、通信機、およびクライアントを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一実施形態は、船舶の構成情報を送信する通信機と、前記通信機から送信される構成情報を受信して、複数の船舶の少なくとも前記構成情報を蓄積し、蓄積された構成情報に基づいて個々の船舶の検査項目を生成するサーバと、前記サーバと通信し、船舶を特定して症状データを送信して、検査項目を要求し、前記サーバから当該要求に係る検査項目を受信して使用者に提供するクライアントと、を含む、船舶診断支援システムを提供する。
【0009】
この構成によれば、通信機によって船舶の構成情報がサーバに送信されるので、サーバは、個々の船舶の構成に応じた検査項目を生成できる。船舶の構成情報が通信機からサーバに送信されるので、機器の交換や追加などによって船舶の構成が事後的に変動しても、サーバは、船舶の最新の構成に適応した検査項目を生成できる。
【0010】
船舶に不具合症状が顕れたときには、クライアントから症状データがサーバに送信され、それに応じて、サーバからは検査項目がクライアントへ送信される。したがって、作業者は、クライアントを操作することによって、個々の船舶の構成に適合した適切な検査項目を知ることができる。それにより、無駄な検査手順を少なくでき、船舶に生じた不具合を少ない労力でかつ短時間に解消できる。すなわち、作業者は、状況を把握および整理したうえで、膨大な検査項目から要否とその優先順位を判断する作業から解放される。
【0011】
通信機は、船舶の構成情報を定期的にサーバに送信してもよい。また、通信機は、船舶内で収集される構成情報に変動があったときに、最新の構成情報をサーバに送信してもよい。
【0012】
この発明の一実施形態では、前記構成情報は、船舶を構成する一つ以上の機器の情報を含む。船舶を構成する機器とは、ここでは、船体と、船体に艤装される艤装機器との両方を含む。船体の構成情報とは、たとえば船体の構造(船底の形状等)を特定できる情報であってもよく、具体的には船体のモデル名であってもよい。艤装機器とは、典型的には、主機と、補機類とに分類できる。主機とは、船体に航行のための推進力を与える主推進機である。補機類は、主機以外の機器であり、ステアリングホイール、リモコン(アクセルレバー)、ステアリング、ゲージ等の操船機器のほか、オートパイロット、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機等の操船補助機器、魚群探知機等の漁具機器、空調装置や制振装置等の快適機器などが該当する。
【0013】
構成情報の全てが通信機によってサーバにアップロードされる必要はなく、構成情報の一部の情報(たとえば船体の情報など)は、前記クライアント等の適切な端末装置によってサーバに書き込まれてもよい。
【0014】
この発明の一実施形態では、前記一つ以上の機器は、少なくとも一つの主機を含む。この構成により、船舶の重要な構成機器である主機(主推進機)の情報がサーバに蓄積されるので、少なくとも主機に関する不具合症状が生じたときには、適切な検査項目の情報を速やかに得ることができる。それにより、主機の不具合を速やかに解消できる。
【0015】
この発明の一実施形態では、前記構成情報は、前記一つ以上の機器(とくに主機)に関して、機器の種類、個数、配置、および接続状態(たとえば、推進機制御信号線の接続状態)のうちの少なくとも一つを表す情報を含む。この構成により、機器の具体的な情報がサーバに蓄積されるので、不具合症状が生じたときに、適切な検査項目をサーバから得ることができる。
【0016】
たとえば、主機の種類(機種名)、個数、配置および接続状態に関する情報が通信機からサーバにアップロードされて蓄積されることにより、主機の不具合症状に対して、速やかに適切な検査項目を得ることができる。接続状態の情報とは、たとえば、ステアリングホイールからの操舵指令線が直接接続されているか、または別の機器(複数の主機が設けられているときの他の主機など)を介して接続されているか、などといった接続態様を表す情報である。
【0017】
この発明の一実施形態では、前記サーバは、船舶に搭載される可能性のある様々な種類の機器に関して、症状と、当該症状に対応する検査項目とが記述された機種別作業マスタ情報を含む作業マスタを含む。前記サーバは、前記クライアントからの要求に係る船舶の構成情報(たとえば、機器の種類、個数、配置の情報)および症状データに基づいて前記作業マスタを検索することによって検査項目を特定し、当該特定された検査項目を前記クライアントに通知する。
【0018】
この構成によれば、サーバには、作業マスタが備えられており、この作業マスタに、様々な種類の機器に関して、症状および検査項目を記述した機種別作業マスタ情報が登録されている。特定の船舶に関してクライアントから検査項目の要求を受けると、サーバは、その船舶の構成情報に基づいて、作業マスタを検索し、それによって、当該船舶に備えられた機器の機種別作業マスタ情報を参照する。また、サーバは、クライアントから送信される症状データに基づいて、当該症状に関連する機種別作業マスタ情報を参照して、適切な検査項目を探し出す。そうして探し出された検査項目が、クライアントに通知される。こうして、様々な種類の機器の機種別作業マスタ情報が登録された作業マスタを検索することにより、当該船舶の構成に適合する適切な検査項目が動的に生成される。それにより、作業者は、当該船舶の構成および症状に応じて、適切な検査項目を実行することができるので、無駄な検査作業を省いて、速やかに不具合症状からの復旧を図ることができる。
【0019】
市場に新たな製品が供給されたときには、その製品の機種別作業マスタ情報を作業マスタに登録しておくことにより、当該製品を備える船舶にも適応できる。すなわち、作業マスタを適切にメンテナンスすることによって、新製品にも対応可能な船舶診断支援システムを構築できる。
【0020】
前述のとおり、船舶の構成は多岐に渡り、実際上、全ての船舶の構成が異なると言っても過言ではない。したがって、船舶の全ての構成パターンを網羅する作業マスタを予め作成することは現実的ではない。一方、代表的な構成パターンについてのみ作業マスタを作成しても、個々の船舶に適用できず、適切な検査項目を生成することができない可能性が高く、無駄な検査作業が発生する可能性が高くなる。とくに、船舶の具体的な構成によって、検査項目および/または検査手順が複雑に枝分かれする場合もある。より具体的には、主機に対する指令信号線の接続態様によって、検査項目/検査手順が異なる場合がある。このように、全ての構成パターンを網羅する作業マスタを作成することは現実的でなく、一部の代表的な構成パターンに対応する作業マスタを準備しても、適切な検査項目/検査手順を生成できない。
【0021】
これに対して、この実施形態では、船舶の構成情報および機種別作業マスタ情報に基づいて検査項目が動的に生成されるので、上記の課題を解決できる。
【0022】
この発明の一実施形態では、前記機種別作業マスタ情報は、当該機器または他の機器の異常の可能性を表す異常スコアの演算規則を記述した異常スコアリング情報を含む。前記サーバは、前記異常スコアリング情報に基づいて一つ以上の機器の異常スコアを演算し、演算された異常スコアに基づいて、検査対象の機器を特定し、当該特定された機器の機種別作業マスタ情報に従って検査項目を特定する。
【0023】
この構成によれば、機種別作業マスタ情報に記述された異常スコアリング情報に基づいて、不具合症状の原因箇所(たとえば、特定の機器またはその部品)を適切に絞り込むことができる。具体的には、原因箇所の複数の候補に関して異常スコアが演算され、異常スコアの最も高い(異常が生じている可能性が最も高い)機器(またはその部品)が検査対象として特定され、当該機器に対応した検査項目が特定される。
【0024】
この発明の一実施形態では、前記異常スコアリング情報は、前記構成情報、前記クライアントから送信される症状データ、および前記船舶に備えられるセンサの検出値のうちの少なくとも一つと関連付けられた、異常スコアの演算規則を含む。
【0025】
この構成により、異常スコアが適切に演算される。異常スコアの演算規則が構成情報と関連付けられていれば、船舶の構成に対応した適切なスコアリングが可能になる。また、異常スコアの演算規則が症状データと関連付けられていれば、不具合症状に対応した適切なスコアリングが可能になる。さらに、異常スコアの演算規則がセンサの検出値に関連付けられていれば、船舶に生じている不具合事象を客観的に反映したスコアリングが可能になる。
【0026】
構成情報に関連付けられた演算規則は、症状に関連する機器の種類に基づく演算規則、および不具合症状に関連する特定の条件(たとえば、関連する機器の接続状態等)に基づく演算規則のうちの一つ以上を含んでいてもよい。
【0027】
センサの検出値に関連付けられた演算規則は、症状に関連するセンサの検出値と比較すべき判定条件を含んでいてもよい。判定条件は、判定閾値を含んでいてもよく、判定式を含んでいてもよい。判定条件は、症状およびそれに関連する機器の少なくとも一方に応じて設定されていてもよい。たとえば、異なる機種の機種別作業マスタ情報の異常スコア演算規則において、同じセンサのセンサ値を参照すべきことが記述されていてもよいが、その場合の判定条件は、異なっていてもよい。また、判定条件は、構成情報に基づいて修正されて適用されてもよい。それにより、作業者は、状況を把握および整理したうえで、それに応じて判定条件を調整する作業から解放される。
【0028】
センサの検出値は、通信機からサーバに送信されてもよい。通信機はサーバに対して定期的にセンサの検出値を送信してもよい。また、通信機は、サーバからの要求に応じてセンサの検出値をサーバに送信してもよい。また、通信機は、構成情報とともにセンサの検出値をサーバに送信してもよいし、構成情報とは別にセンサの検出値をサーバに送信してもよい。
【0029】
この発明の一実施形態では、前記サーバは、前記検査項目の実施結果の情報(たとえば、症状、センサ値等)を受信し、受信した情報に基づいて、次に実施すべき検査項目を生成して前記クライアントに送信する。
【0030】
この構成により、最初の検査項目の実施によって異常箇所を特定できない場合には、その検査項目の結果を踏まえて、別の検査項目をサーバから生成させることができる。それにより、船舶の構成および実際の状況に応じて、原因究明のための検査を妥当な手順で実施することができる。それにより、速やかに原因を究明して、不具合症状からの復旧を図ることができる。
【0031】
前記検査項目の実施結果の少なくとも一部(たとえば、センサの検出値)は、前記通信機から前記サーバに送信されてもよい。また、前記検査項目の実施結果の少なくとも一部(たとえば検査項目の実施によって観測される症状)は、前記クライアントから前記サーバに送信されてもよい。
【0032】
この発明の一実施形態では、前記通信機は、船舶内で生じるフェール情報、および船舶に搭載されるセンサの検出値の少なくとも一つを前記サーバに送信する。
【0033】
この構成により、船舶の構成情報に加えて、船舶の状態を客観的に表す情報がサーバに供給されるので、サーバは、一層適切な検査項目を生成して、クライアントに与えることができる。しかも、作業者による情報伝達の手間がなくなるうえに、部品番号等の情報を正確にサーバに伝達でき、かつ不具合の情報(フェール情報)も伝達してサーバに記録できる。
【0034】
この発明の一実施形態では、前記通信機は、船舶内で収集される情報を自発的に前記サーバに送信する自発送信機能と、前記サーバからの要求に応答して、船舶内で収集される情報を前記サーバに送信する応答送信機能とのうちの少なくとも一つを有している。
【0035】
この構成によれば、自発送信機能または応答送信機能によって、構成情報等をサーバにアップロードして蓄積できる。また、検査項目が実行されるときに、たとえばクライアントからの要求に応じてサーバから通信機に対して応答送信機能による情報送信を要求することができる。それにより、たとえば、当該検査項目に係るセンサの検出値を通信機からサーバへとアップロードさせることができる。アップロードされた検出値は、サーバにおける判断等のために用いられてもよいし、作業者による判断のためにクライアントに送信されてもよい。
【0036】
この発明の一実施形態では、前記クライアントは、前記サーバから指定された検査項目の実施結果の情報を前記サーバに送信する機能を有する。前記クライアントは、症状および検査項目の実施結果のうちの少なくとも一方の入力を受け付ける入力装置を備え、前記入力装置によって入力される情報を前記サーバに送信するように構成されていてもよい。
【0037】
この発明の一実施形態は、前述のような特徴を有する船舶診断支援システムにおいて用いられる前記サーバを提供する。
【0038】
この発明の一実施形態は、前述のような特徴を有する船舶診断支援システムにおいて用いられる前記通信機を提供する。
【0039】
この発明の一実施形態は、前述のような特徴を有する船舶診断支援システムにおいて用いられる前記クライアントを提供する。
【発明の効果】
【0040】
この発明によれば、様々な構成の船舶に適応して適切な検査項目を提供することができる船舶診断支援システム、ならびにこのような船舶診断支援システムを構成する、サーバ、通信機、およびクライアントを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、この発明の一実施形態に係る船舶診断支援システムの概要を説明するための図である。
【
図2】
図2は、船舶の構成例を説明するためのブロック図である。
【
図3】
図3は、サーバの構成例を説明するためのブロック図である。
【
図4】
図4は、サーバに備えられる作業マスタの一例を示す。
【
図5】
図5は、通信機の構成例を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、クライアントの構成例を説明するためのブロック図である。
【
図7】
図7は、サーバにおける処理例を説明するためのフローチャートである。
【
図8】
図8は、通信機における処理例を説明するためのフローチャートである。
【
図9】
図9は、異常スコアリングおよび検査項目の例を示す。
【
図10】
図10は、船舶において不具合症状が発生したときの手順の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0043】
図1は、この発明の一実施形態に係る船舶診断支援システムの概要を説明するための図である。船舶診断支援システム100は、船舶5に装備される機器の情報を収集して送信する通信機1と、通信機1からの情報を受信して蓄積するサーバ2と、サーバ2と通信するクライアント3とを含む。通信機1は、船舶5に備え付けられていてもよい。また、通信機1は、持ち運び可能な形態の装置として構成され、必要に応じて、乗船者によって船舶5に持ち込まれる装置であってもよい。
【0044】
通信機1およびサーバ2は、ネットワーク4を介して通信可能である。すなわち、通信機1およびサーバ2は、それぞれネットワーク4に対して通信可能に接続されている。ネットワーク4は、典型的にはインターネット4Aを含む。通信機1は、たとえば、携帯電話網等の無線データ通信網4Bに通信可能に接続されており、その無線データ通信網4Bを介してインターネット4Aに通信可能に接続されている。
【0045】
クライアント3は、ディーラのオフィスおよび/またはマリーナのオフィスに備えられるクライアント端末装置(以下、「クライアント3」という。)であってもよい。
【0046】
クライアント3は、オフィスに構築されたローカルエリアネットワーク(図示せず)を介してインターネット4Aに接続可能に構成されていてもよいし、無線データ通信網4Bを介してインターネット4Aに接続可能に構成されていてもよい。典型的には、ディーラまたはマリーナのオフィスでクライアント3が用いられるときには、クライアント3は、ローカルエリアネットワークを介してインターネット4Aに接続可能であることが好ましい。また、船舶5が置かれた遠隔地に出向いた作業者がクライアント3を用いるときには、クライアント3は無線データ通信網4Bを介してインターネット4Aに接続可能であることが好ましい。クライアント3は、さらに、通信機1を介してネットワーク4に接続可能であってもよい。
【0047】
図2は、船舶5の構成例を説明するためのブロック図である。船舶5は、船体51と、船体51に艤装された様々な機器(艤装機器)とを含む。艤装機器は、典型的には、操船のための入力機器(操船機器)、船舶5に艤装された機器を統括制御するためのコントローラ81、船体51に推進力を与える推進機、船体51の進行方向を変更するための転舵機器(操船機器)を含む。
【0048】
入力機器は、この例では、ステアリングホイール52およびリモコン55を含む。
【0049】
推進機は、この例では、主機(主推進機)としての船外機60を含む。具体的には、一機以上の船外機60が船尾に配置されている。この例では複数機(より具体的には3機)の船外機60が、船尾に左右に並んで取り付けられている。この例では、船外機60は、エンジン61(内燃機関)を動力源としてプロペラ65を駆動するエンジン船外機である。むろん、電動モータを動力源とする電動船外機が適用されてもよい。3機の船外機60を区別するときには、中央の船外機60を「中央船外機60C」といい、その左右の船外機60をそれぞれ「左舷船外機60P」および「右舷船外機60S」という。
【0050】
転舵機器は、この例では、船外機60を左右に転舵させるステアリング70である。各船外機60に対して一つのステアリング70が設けられており、この例では、3個のステアリング70が設けられている。中央船外機60C、左舷船外機60Pおよび右舷船外機60Sにそれぞれ対応するステアリング70を区別するときには、「中央ステアリング70C」、「左舷ステアリング70P」および「右舷ステアリング70S」という。
【0051】
ステアリングホイール52は、操船者によって回動操作される。ステアリングホイール52の操作角は、操作角センサ53によって検出され、ヘルムECU(電子制御ユニット)54に入力される。リモコン55は、船外機60が発生する推進力の方向(前進または後進)および推進力の大きさを調整するために操船者によって操作されるアクセルレバー56を備えている。アクセルレバー56の操作位置は、アクセル位置センサ57によって検出され、リモコンECU58に入力される。
【0052】
船外機60は、エンジン61と、エンジン61によって駆動されるプロペラ65と、シフト機構66と、エンジンECU63とを含む。シフト機構66は、複数のシフト位置、すなわち、前進位置、後進位置および中立位置を有する。前進位置は、エンジン61の駆動力によってプロペラ65を前進回転させるシフト位置である。後進位置は、エンジン61の駆動力によってプロペラ65を後進回転させるシフト位置である。中立位置は、エンジン61とプロペラ65との間の動力伝達を遮断するシフト位置である。エンジンECU63は、シフト機構66を作動させるシフトアクチュエータ67の動作を制御し、それによって、推進力の方向を制御する。また、エンジンECU63は、エンジン61のスロットルバルブを駆動するスロットルアクチュエータ62の動作を制御し、それによって、推進力の大きさを制御する。
【0053】
ステアリング70は、ステアリングアクチュエータ71と、それを制御するステアリングECU72とを含む。ステアリングアクチュエータ71は、ステアリング軸(図示せず)まわりに船外機60を左右に回動させるための動力を発生する。それにより、船外機60が船体51に与える推進力の方向が左右に変化し、船舶5の進行方向が変化する。ステアリング70は、船外機60と一体のユニットであってもよいし、船外機60とは別体のユニットであってもよい。
図2には、ステアリング70が船外機60と一体のユニットとして構成されている(たとえば、船外機60に内蔵されている)例を示す。
【0054】
ヘルムECU54は、操舵指令線75を介して、ステアリングECU72に接続されている。操舵指令線75は、図示のように、ヘルムECU54と全てのステアリング70とを直接接続していてもよい。また、操舵指令線75は、ヘルムECU54と左舷ステアリング70Pおよび/または右舷ステアリング70Sの各ステアリングECU72とを直接接続し、中央ステアリング70CのステアリングECU72は、ヘルムECU54に直接接続していなくてもよい。すなわち、中央ステアリング70CのステアリングECU72が、左舷ステアリング70Pおよび/または右舷ステアリング70SのステアリングECU72を介して間接的にヘルムECU54に接続されるように、操舵指令線75が構成されていてもよい。操舵指令線75は、ヘルムECU54が発生する操舵指令信号を伝送する。操舵指令信号は、ステアリングホイール52の操作方向(回動方向)および操作角に対応する信号であり、船外機60の転舵方向および転舵角を指令する信号である。
【0055】
リモコンECU58は、出力指令線76を介して、エンジンECU63に接続されている。出力指令線76は、この例では、リモコンECU58と全ての船外機60のエンジンECU63とを直接接続している。ただし、操舵指令線75の場合と同様に、出力指令線76は、中央船外機60CのエンジンECU63を、左舷船外機60Pおよび/または右舷船外機60SのエンジンECU63を経由して、リモコンECU58に接続していてもよい。出力指令線76は、リモコンECU58が発生する出力指令を伝送する。出力指令は、各船外機60の推進力の方向および大きさを指令する信号である。
【0056】
船内には、データ通信のためのネットワーク、すなわち、船内LAN(ローカルエリアネットワーク)80が構築されている。コントローラ81は、船内LAN80に接続されている。さらに、ヘルムECU54、リモコンECU58、ステアリングECU72、およびエンジンECU63は、いずれも、船内LAN80に接続されている。
【0057】
コントローラ81は、ヘルムECU54から操舵指令の情報を得ることができ、リモコンECU58から出力指令の情報を得ることができる。
【0058】
また、コントローラ81は、ステアリングECU72から各種の情報を得ることができる。たとえば、ステアリングECU72が受信した操舵指令の情報、ステアリング70に備えられる各種センサ類73の検出結果の情報を得ることができる。センサ類73は、たとえば、転舵角センサを含む。転舵角センサは、船外機60の実際の転舵角を検出する。転舵角センサは、ステアリングアクチュエータ71の作動量を検出するセンサであってもよい。
【0059】
さらに、コントローラ81は、エンジンECU63から各種の情報を得ることができる。たとえば、エンジンECU63が受信した出力指令の情報、船外機60に備えられる各種センサ類64の検出結果の情報を得ることができる。センサ類64は、たとえば、スロットル開度センサ、エンジン回転速度センサ、エンジン温度センサを含む。スロットル開度センサは、スロットルバルブの開度を検出するセンサである。エンジン回転速度は、エンジン61の回転速度を検出するセンサであり、クランク角センサであってもよい。クランク角センサの出力をエンジンECU63で処理することにより、エンジン回転速度情報が生成されてもよい。エンジン温度センサは、エンジン61のシリンダブロックの温度(たとえば冷却水の温度)を検出するセンサであってもよいし、エンジン61の排気温度を検出するセンサであってもよい。
【0060】
船内LAN80には、さらに、各種情報を表示するゲージ82、および通信機1が接続されている。通信機1は、船舶5の状況等の情報、より具体的には、船舶5の構成情報、船舶5内で生じるフェールの情報、センサ類の検出値等を、サーバ2(
図1参照)に送信するための装置である。
【0061】
ゲージ82は、たとえば、燃料残量、各船外機60のエンジン回転速度およびシフト位置、バッテリ残量等を表示する表示装置の機能を有する。バッテリ残量とは、エンジン始動のために船外機60に内蔵されるスタータモータ(図示せず)を作動させるために船体51に搭載されるバッテリ88の残容量である。バッテリ88は、エンジン始動の際に放電し、エンジン運転中は船外機60に内蔵の発電機(図示せず)によって充電される。ゲージ82は、入力ボタンやタッチパネル等の入力装置83を備えていてもよく、使用者がその入力装置83を操作することによって、各種の指令を入力できるようになっていてもよい。入力装置83は、ゲージ82とは別に設けられてもよい。
【0062】
これらの他にも、船内LAN80には各種の艤装機器をデータ通信可能に接続することができる。サードパーティ製の艤装機器は、典型的には、ゲートウェイ84を介して船内LAN80に接続される。
図2には、サードパーティ製の艤装機器の例として、GPS(Global Positioning System)受信機85、魚群探知機86およびオートパイロット装置87を示す。
【0063】
ステアリングホイール52およびリモコン55が配置される操船席には、船外機60の電源を投入/遮断し、さらにそれらのエンジン61を始動/停止するために操作されるメインスイッチ77が備えられている。また、操船席には、緊急時に船外機60の推進力を無効化する(典型的にはエンジン61を停止する)ためのキルスイッチ78(緊急停止スイッチ)が備えられている。キルスイッチ78は、たとえば、操船者が装着するランヤードケーブルに結合される操作端を備えており、操船者の落水時に作動して、船外機60のエンジン61を緊急停止させる。
【0064】
図3は、サーバ2の構成例を説明するためのブロック図である。サーバ2は、コンピュータとしての基本構成を有する。すなわち、プロセッサ21、メモリ22、ストレージ23、通信インタフェース24および入出力インタフェース25を備え、それらが、内部でデータ通信可能に接続されている。
【0065】
プロセッサ21は、メモリ22に格納されたプログラムに従って動作することにより、様々な機能を実現する。具体的には、通信機1(
図1参照)と通信し、通信機1からデータを収集してストレージ23に蓄積する機能が実現される。また、蓄積された情報に基づいて、船舶5を検査するための検査項目を生成する機能が実現される。さらに、クライアント3(
図1参照)と通信し、クライアント3にウェブページを提供し、そのウェブページ上でウェブアプリケーションサービスを提供する機能が実現される。ウェブアプリケーションサービスを提供するために、メモリ22にはウェブアプリケーションプログラムが備えられている。ストレージ23は、データを蓄積するための記憶領域を提供する。通信インタフェース24は、ネットワーク4との通信を仲介する。入出力インタフェース25は、キーボード等の入力装置26およびディスプレイ等の出力装置27を含み、マンマシンインタフェースを提供する。
【0066】
ストレージ23には、複数の船舶のそれぞれについて、各船舶の構成を表す構成情報Cが蓄積される。蓄積される構成情報Cは、複数の船舶5に関して、各船舶5の通信機1から送信される構成情報を含む。また、ストレージ23に蓄積される構成情報Cは、通信機1からアップロードされる情報だけでなく、ディーラ、使用者等がネットワーク4を介してサーバ2にアクセスして記入する構成情報を含んでいてもよい。
【0067】
各船舶5の構成情報Cは、船舶5を構成する一つ以上の機器の情報を含む。機器とは、ここでは、船体51と、船体51に艤装された艤装機器との両方を含む。船体51の構成情報とは、たとえば船体51の構造(船底の形状等)を特定できる情報であってもよく、具体的には船体51のモデル名であってもよい。艤装機器の構成情報とは、艤装機器の種類、すなわち機種名を表す情報であってもよい。構成情報Cは、さらに、艤装機器の個数、配置、および接続状態のうちの少なくとも一つ(好ましくは全部)に関する情報を含んでいてもよい。とくに、構成情報Cは、主機としての船外機60およびそれに内蔵されたステアリング70の種類(機種名)、個数、配置および接続状態に関する情報を含むことが好ましい。接続状態とは、たとえば、操舵指令線75および出力指令線76の接続状態である。
【0068】
ストレージ23には、さらに、個々の船舶5の検査項目を生成するために用いられる作業マスタMが格納されている。プロセッサ21は、構成情報Cおよび作業マスタMを参照することによって、個々の船舶5の構成および症状に応じた検査項目を動的に生成する機能を有している。
【0069】
図4は、作業マスタMの一例を示す。作業マスタMは、船舶を構成する様々な種類の機器について、各機器の機種毎の検査作業を定義する機種別作業マスタ情報の群で構成されている。前述のとおり、機器とは、船体およびそれに艤装される艤装機器をいう。機種別作業マスタ情報は、船舶を構成する可能性のある様々な機器について作成され、ストレージ23に予め登録される。また、新たな製品が市場に投入されれば、当該製品についての機種別作業マスタ情報が追加される。
【0070】
一つの機種別作業マスタ情報は、当該機種の機種名、当該機種の機器に含まれる部品の情報を表す部品情報、および個別作業情報を含む。個別作業情報は、作業対象部品を表す対象部品名、当該作業対象部品の不具合時の症状、当該作業対象部品に関連するセンサ値、異常スコアリング情報、復旧作業情報等を含む。異常スコアリング情報は、不具合症状、センサ値、特殊条件に応じた異常スコア(異常判定のための指標値)の演算規則を定義する情報である。復旧作業情報は、当該作業対象部品が異常原因箇所と疑われるときに実行すべき検査項目を表す情報である。作業マスタ情報は、必要に応じて、随時、編集されてもよい。
【0071】
たとえば、主機(主推進機)の一例である船外機に関して、製造メーカが提供する複数の機種の個々に対して、機種別作業マスタ情報が予め作成されて、サーバ2のストレージ23に格納される。船外機の一機種に関する機種別作業マスタ情報には、その船外機の機種名が記入され、当該機種の船外機の部品情報として、たとえば「内蔵型電動ステアリングあり」と記入され、部品である電動ステアリングに対応した個別作業情報が記入されている。つまり、電動ステアリングが船外機に内蔵されている機種が相当する。その個別作業情報には、作業対象部品の部品名として、たとえば「電動ステアリング」と記入され、不具合症状として「ステアリング不動」と記入され、関連センサ値の情報として「入力指令値、ステアリング電流値、実舵角」と記入されている。
【0072】
異常スコアリング情報の一つは、たとえば、「ステアリングエラー検出時、異常スコア+10」と定義されている。これは、ステアリング不動の症状が入力されたときには、電動ステアリングの異常を疑うべきスコア(異常スコア)を+10すべきことを表している。これは、症状に関連付けられた演算規則の一例であり、かつ症状に関連する機器の種類に基づく演算規則の一例でもある。他の異常スコアリング情報は、たとえば、「操作量と出力値のギャップが30%超の時、異常スコア+5」と定義されている。これは、センサの検出値と関連付けられた演算規則の一例であり、ステアリングホイールの操作角である入力指令値(操作角センサ53の検出値)と、転舵角センサによって検出される実舵角との差が30%(判定閾値の一例)を超えたときには(判定条件の一例)、電動ステアリングの異常スコアを+5すべきことを表している。判定条件は数式(判定式)の形式で表されてもよい。
【0073】
特殊条件としては、たとえば、「ポジションCでステアリングエラー検出の場合、ポジションPの異常スコアを+5」と定義されている。これは、左舷船外機(P機)、中央船外機(C機)および右舷船外機(S機)が艤装された船舶において、中央船外機(C機)についてステアリング不動の症状が入力されたときに、左舷船外機(P機)の電動ステアリングについての異常スコアを+5すべきことを表している。これは、当該機器(たとえば中央船外機(C機))以外の機器(たとえば左舷船外機(P機))の異常スコアの演算規則の記述に該当する。ただし、この特殊条件による異常スコアリングが行われるためには、前提条件として、ヘルムECU54と中央ステアリング70Cとの間に操舵指令線75が直接接続されておらず、ヘルムECU54から左舷ステアリング70Pを介して中央ステアリング70Cに操舵指令が与えられていることが必要である(
図2参照)。これは、構成情報(とくに接続状態の情報)に関連付けられた演算規則の一例であり、不具合症状に関連する特定の条件を前提とする演算規則の一例でもある。
【0074】
復旧作業としては、この例では、電源電圧が14V以上であること、およびステアリング間通信線(操舵指令線)の導通有無が、検査項目として記入されている。
【0075】
判定条件は、構成情報に基づいて修正されて適用されてもよい。たとえば、同一機種の船外機であっても、燃料ポンプが1個の場合と、2個の場合とがあるとする。燃料ポンプが1個の場合と、燃料ポンプが2個の場合とでは、始動時の負荷が異なるので、それに応じて、電装設計が異なる。したがって、船外機のエンジン始動不可の場合の検査項目として、電源電圧を検査する場合に、電源電圧に適用すべき閾値は、燃料ポンプの個数に応じて異なる。そこで、構成情報(燃料ポンプの個数)に応じて、判定条件としての閾値が修正されて適用され、それによって、適切な異常スコアリングが可能になる。
【0076】
図5は、通信機1の構成例を示すブロック図である。通信機1は、プロセッサ11、メモリ12、通信インタフェース13、無線通信器14を含む。プロセッサ11は、メモリ12に格納されたプログラムに従って動作することにより、複数の機能を実現する。通信インタフェース13は、船内LAN80を介するデータ通信のためのインタフェースである。無線通信器14は、ネットワーク4を介してサーバ2にデータを無線送信するための装置である。
【0077】
プロセッサ11は、船内LAN80を介して、船体51に装備された複数の機器からの情報を収集し、メモリ12に格納するデータ収集機能を実行する。収集される情報は、船体51に装備されている機器の機種名、個数、接続状況等を表す構成情報を含む。また、収集される情報は、様々なセンサ類の検出値を含む。具体的には、ヘルムECU54、リモコンECU58、ステアリングECU72およびエンジンECU63に接続されたセンサ類53,57,64,73の検出値が収集可能である。収集される情報は、さらに、ヘルムECU54、リモコンECU58、ステアリングECU72およびエンジンECU63が生成する情報を含んでいてもよい。このような情報は、各ECUが内部で生成する制御情報(制御指令その他のデータ)、各ECUが検出する故障情報などを含んでいてもよい。前述のとおり、メインスイッチ77、キルスイッチ78、スタートスイッチ等のスイッチ類もセンサと見なされ、それらの状態が検出値として収集される。プロセッサ11は、さらに、船内LAN80に接続された様々な機器の状態を監視して、故障情報(フェール情報)を生成する故障検知機能を有していてもよい。たとえば、各ECUの状態を監視し、電源電圧の瞬間的な低下に伴う動作の中断を故障(瞬停)として検出してもよい。収集された情報および生成された故障情報等は、メモリ12に格納される。船内LAN80に接続された全ての機器からの情報が収集される必要はなく、たとえば、ゲートウェイ84を介して接続されるサードパーティ製の機器は対象外であってもよい。
【0078】
プロセッサ11は、これらの収集および/または自身が生成してメモリ12に格納した情報の全部または一部を、無線通信器14によって、サーバ2に向けて送信させる機能を有する。この実施形態では、2つの送信モード、すなわち、定期送信モードおよび高速送信モードが備えられている。
【0079】
定期送信モードは、定期送信周期でサーバ2へ情報を自発的に送信する通常送信モードである(自発送信機能の一例)。定期送信周期は、たとえば10分程度であってもよい。定期送信モードで送信される情報は、メモリ12に格納した情報のうち、予め定めた定期送信情報に限られてもよい。故障情報(フェール情報)等のとくに重要な情報は、定期送信情報に含められることが好ましい。定期送信情報は、サーバ2にアップロードされて蓄積され、主として、異常の有無、異常発生時の状況当を事後的に調査する目的で使用される。
【0080】
前述のとおり、通信機1は、船舶5の構成情報を収集する動作を行っている。構成情報も定期送信情報に含められてもよい。たとえば、構成情報に変動があったときに、その変動後の構成情報を定期送信情報に含めてサーバ2にアップロードして、サーバ2に蓄積される構成情報を更新してもよい。最新の構成情報の送信は、定期送信情報に含めるのではなく、構成情報の変動があったときに、通信機1からサーバ2へと、随時、送信されてもよい(自発送信機能の一例)。
【0081】
高速送信モードは、定期送信周期よりも短い高速送信周期でサーバ2へ情報を送信する随時送信モードである。高速送信モードによる送信機能は、サーバ2からの要求に応答して情報を送信する応答送信機能の一例である。高速送信周期は、たとえば1秒程度であってもよい。高速送信モードで送信される情報は、定期送信モードで送信される情報よりも多いことが好ましい。具体的には、定期送信情報のほかに、故障原因の特定に有用な情報(たとえばサーバ2から要求される情報)を可能な限り多く、サーバ2に送信することが好ましい。高速送信モードでサーバ2にアップロードされる情報は、主として、船舶5の状況をリアルタイムで調べる目的で使用される。
【0082】
図6は、クライアント3の構成例を説明するためのブロック図である。クライアント3は、コンピュータとしての基本構成を有している。たとえば、クライアント3は、クラムシェル型またはタブレット型のパーソナルコンピュータの形態を有していてもよい。
【0083】
クライアント3は、プロセッサ31、メモリ32、入力装置33、表示装置34、および通信インタフェース35を含む。プロセッサ31は、メモリ32に格納されたプログラムを実行することにより様々な機能を実現する。入力装置33は、表示装置34の表示画面上のタッチパネルであってもよい。通信インタフェース35は、ネットワーク4とのデータ通信を仲介する。通信インタフェース35は、ディーラまたはマリーナ等のオフィスに設けられたローカルエリアネットワーク(図示せず)を介して、ネットワーク4(
図1参照)と有線または無線でデータ通信するものであってもよい。また、通信インタフェース35は、無線データ通信網4B(
図1参照)に接続可能に構成されていてもよい。さらに、通信インタフェース35は、通信機1と通信可能であってもよく、通信機1を介してネットワーク4に接続可能であってもよい。
【0084】
メモリ32には、少なくともウェブブラウザのプログラムが格納されており、これをプロセッサ31が実行することによって、クライアント3の使用者(ディーラスタッフ、マリーナスタッフ等)は、サーバ2が提供するウェブページを閲覧し、そのウェブページ上で提供されるウェブアプリケーションサービスを利用することができる。
【0085】
クライアント3の使用者は、ウェブページを表示装置34に表示させることができ、表示されたウェブページから、顧客の船舶5に生じている症状を入力して症状データをサーバ2に送信したり、サーバ2に対して、検査項目の提示を要求したりすることができる。さらに、クライアント3の使用者は、表示されたウェブページから、サーバ2に対して、顧客の船舶5の診断を要求することができる。
【0086】
図7は、サーバ2における処理例を説明するためのフローチャートである。クライアント3からの症状データおよび検査項目要求の受信がない通常時には(ステップS1:NO)、サーバ2は、通信機1から定期送信周期で送信されてくる情報を受信し、その受信した情報をストレージ23に蓄積する、通常ロギング動作(ステップS2,S3)を実行する。これにより、個々の船舶5の構成情報、センサ値データ、故障情報(フェール情報)などがストレージ23に蓄積される。
【0087】
クライアント3から個別の船舶5を特定して症状データおよび検査項目要求が送られてくると(ステップS1:YES)、サーバ2は、ストレージ23に蓄積した構成情報C、およびクライアント3から入力された情報(症状データ)に基づいて作業マスタMを検索する。それにより、サーバ2は、関連する情報を収集し(ステップS4)、検査項目(復旧作業手順)を動的に生成し(ステップS5)、生成した検査項目をクライアント3に送信する(ステップS6)。具体的には、クライアント3において表示可能なウェブページに検査項目を記入する。
【0088】
より具体的には、サーバ2は、ストレージ23に蓄積された当該船舶5の構成情報Cと、入力された症状データとに基づいて、作業マスタMを検索し、不具合症状に関連する機種の機種別作業マスタ情報を収集する。さらに、サーバ2は、収集された機種別作業マスタ情報の個別作業情報に基づき、不具合症状に関連する異常スコアリング情報を参照して、異常スコアリングを実行する。この異常スコアリングは、異常スコアリング情報に従って、異常が疑われる作業対象部品に関して、異常スコアを演算する処理である。そして、異常スコアリングによって、異常スコアの順に、作業対象部品を順位付けして、作業対象部品の優先順位を決定する。サーバ2は、優先順位が1位の作業対象部品について、復旧作業情報を参照し、その復旧作業情報を検査項目としてウェブページに表示してクライアント3に提供する。
【0089】
クライアント3の使用者は、こうして検査項目の情報を得ることができる。その検査項目を実行するために、クライアント3は、船舶5を特定し、かつ検査項目を指定して、サーバ2に対して診断要求を送信することができる。サーバ2は、診断要求を受信すると(ステップS7:YES)、該当船舶5の通信機1に対して、指定された検査項目に関連するセンサの検出値を送信すべきことを指令する高速送信モード指令を送信する(ステップS8)。これにより、通信機1の送信モードが、高速送信モードに切り替わり、通信機1は、該当するセンサの検出値を高速送信周期でサーバ2に送信する。
【0090】
サーバ2は、通信機1から高速送信周期で送信されてくる情報を受信し、ストレージ23に蓄積する高速ロギング動作を実行する(ステップS9)。サーバ2は、必要な情報を受信すると、高速送信モード解除指令を通信機1へと送信してもよい(ステップS10)。高速送信モード解除指令を受信すると、通信機1は、その送信モードを定期送信モードへと切り替える。こうして、サーバ2は、リアルタイムのセンサ値を取得する。
【0091】
図8は、通信機1における処理例を説明するためのフローチャートである。通信機1のデフォルト送信モードは定期送信モードである(ステップS21:YES)。高速送信モード指令が入力されない通常時には(ステップS22:NO)、通信機1は、定期送信モードで動作し、定期送信動作を実行する。すなわち、通信機1は、定期送信周期が到来するたびに(ステップS23:YES)、所定の定期送信情報を送信する(ステップS24)。高速送信モード指令が入力されると(ステップS22:YES)、通信機1は、送信モードを高速送信モードに切り替え(ステップS25)、高速送信動作を実行する。すなわち、通信機1は、高速送信周期が到来するたびに(ステップS26:YES)、所定の高速送信情報を送信する(ステップS27)。高速送信情報は、定期送信情報とは異なる情報を含み得る。典型的には、高速送信情報は、サーバ2から送信指令される情報を含む。通信機1は、高速送信モード解除指令を受信するか(ステップS28:YES)、または必要な情報の送信にかかる時間を考慮して予め定められる所定時間が経過すると(ステップS29:YES)、高速送信モードを解除して、送信モードを定期送信モードに切り替える(ステップS30)。
【0092】
高速送信モード指令は、サーバ2から通信機1へと送信される代わりに、船舶5に備えられた入力装置83(
図2参照)の操作によって通信機1に与えられてもよい。また、クライアント3が通信機1に通信可能に接続されているときには、クライアント3から通信機1に対して高速送信モード指令が与えられてもよい。高速送信モード解除指令についても同様である。前述のように、通信機1が、所定時間の経過によって高速送信モードを解除するように構成されている場合には、高速送信モード解除指令は省かれてもよい。
【0093】
図9に、異常スコアリングの一例と、それに基づいて提示される検査項目の情報の例とを示す。この例では、症状データとして、クライアント3から、中央ステアリング(C)の不動がサーバ2に通知され、サーバ2のストレージ23には、該当船舶の構成情報として船外機が3機備えられていることが記述されている。また、ストレージ23には、該当船舶の通信機から取得されたセンサの検出値として、ステアリング操作量と、ステアリング出力とに不整合があることが記録されている。この情報も症状データとして扱われる。
【0094】
サーバ2は、症状データおよび構成情報に基づいて、作業マスタMを検索することにより、異常スコアリングを実行する。その結果、この例では、中央ステアリング(C)の異常スコアが「15」で最も大きく、続いて、左舷ステアリング(P)、ヘルムユニット(ステアリングホイール)、リモコンユニットの順に異常スコアが小さくなっている。したがって、中央ステアリング(C)が第1優先順位の作業対象部品となる。そして、その復旧作業、すなわち、検査項目として、電源電圧の確認、およびステアリングユニット間の通信線の導通確認が提示され、クライアント3に表示される。
【0095】
作業者(たとえば、ディーラまたはマリーナのスタッフ)は、クライアント3の画面から上記の情報を得て、対応する検査作業を実施する。この検査作業は、作業者が船舶5に出向いて検査機器を用いて行うことができる。そのほか、前述のとおり、クライアント3からサーバ2に対して診断要求を送信することによっても行うことができる。この場合、サーバ2は、該当船舶5の通信機1に対して対応するセンサの検出値を要求して高速送信モード指令を与え、これに応答して、通信機1から要求された情報がサーバ2にアップロードされる。そして、その情報がクライアント3に提供されて表示される。
【0096】
こうして検査項目を実施した結果、いずれの異常も見つからなかったときには、作業者は、クライアント3から、検査の結果を入力する。サーバ2は、第1優先順位の作業対象部品が正常であるという検査結果を受信すると、第2優先順位の作業対象部品の復旧作業情報を検索して、ウェブページを介して、クライアント3に当該情報(検査項目)を提供する。あるいは、サーバ2は、新たな検査結果を考慮して異常スコアリングをやり直し、それに基づいて、別の検査項目を提示してもよい。
【0097】
サーバ2とクライアント3との間で同様のやり取りを繰り返すことにより、作業者は、船舶5の構成および症状に基づいて合理的に決定された優先順位に従って検査項目を実行して、不具合の原因を究明できる。それにより、無駄な検査作業を可及的に省いて、不具合症状からの早期の復旧を図ることができる。
【0098】
サーバ2に診断要求を送信して検査項目を実施する場合には、サーバ2は通信機1からセンサの検出値を取得する。したがって、クライアント3からに入力を待つことなく、検査項目の実施結果の情報を得ることができる。したがって、この場合には、サーバ2は、クライアント3からの指令を待つことなく、次に実行すべき検査項目をクライアント3に提示してもよい。
【0099】
図10は、船舶5において不具合症状が発生したときの流れの一例を示す。典型的には、船舶5の所有者または使用者からディーラまたはマリーナの担当者に不具合症状が報告される。報告を受けた担当者は、クライアント3を操作し、サーバ2が提供するウェブページから、当該船舶5の不具合症状を入力し、検査項目を要求する。
【0100】
症状データおよび検査項目要求を受診したサーバ2は、構成情報Cおよび作業マスタMを参照し、
図7を参照して説明した処理を実行し、復旧作業情報(検査項目)を、ウェブページ上でクライアント3に提供する。この処理のために必要な構成情報Cやその他の情報は、通信機1からサーバ2に送信されて蓄積されている。サーバ2は、必要に応じて、該当船舶5の通信機1に対して高速送信モード指令を送信して、構成情報Cおよびその他の情報を収集してもよい。それにより、通信機1は、高速送信モードに切り替わり、当該船舶5に関する情報(構成情報、故障情報、各種センサ値)が高速でサーバ2へとアップロードされ(高速ロギング)、サーバ2のストレージ23に蓄積される。
【0101】
ディーラまたはマリーナの担当者(たとえば整備士)は、クライアント3に表示された情報に基づいて、検査作業等を実行する。船舶5がディーラまたはマリーナから離れた場所にあるときには、整備士が船舶5まで出向いて検査作業等を実行する。この場合、整備士は、船舶5の近くでクライアント3を操作および参照してもよい。また、ディーラまたはマリーナのスタッフがクライアント3を操作および参照し、検査項目等を船舶5の近くの整備士に伝えてもよい。
【0102】
以上のように、この実施形態によれば、通信機1によって船舶5の構成情報Cがサーバ2に送信されて蓄積されるので、サーバ2は、個々の船舶5の構成に適応した検査項目を生成できる。また、機器の交換や追加などによって船舶5の構成が事後的に変動しても、サーバ2は、船舶5の最新の構成に適応した検査項目を生成できる。
【0103】
船舶5に不具合症状が顕れたときには、クライアント3から症状データがサーバ2に送信され、それに応じて、サーバ2からは検査項目がクライアント3へ送信される。したがって、作業者は、クライアント3を操作することによって、個々の船舶5の構成に適合した適切な検査項目を知ることができる。それにより、無駄な検査手順を少なくでき、船舶5に生じた不具合を少ない労力でかつ短時間に解消できる。すなわち、作業者は、状況を把握および整理したうえで、膨大な検査項目から要否とその優先順位を判断する作業から解放される。
【0104】
また、この実施形態においては、サーバ2には、作業マスタMが備えられており、この作業マスタMに、様々な種類の機器に関して、症状および検査項目を記述した機種別作業マスタ情報が登録されている。特定の船舶5に関してクライアント3から検査項目の要求を受けると、サーバ2は、その船舶5の構成情報Cに基づいて、作業マスタMを検索し、それによって、当該船舶5に備えられた機器の機種別作業マスタ情報を参照する。また、サーバ2は、クライアント3から送信される症状データに基づいて、当該症状に関連する機種別作業マスタ情報を参照して、適切な検査項目を探し出す。そうして探し出された検査項目が、クライアント3に通知される。こうして、様々な種類の機器の機種別作業マスタ情報が登録された作業マスタMを検索することにより、当該船舶5の構成に適合する適切な検査項目が動的に生成される。それにより、作業者は、当該船舶5の構成および症状に応じて、適切な検査項目を実行することができるので、無駄な検査作業を省いて、速やかに不具合症状からの復旧を図ることができる。
【0105】
市場に新たな製品が供給されたときには、その製品の機種別作業マスタ情報を作業マスタMに登録しておくことにより、当該製品を備える船舶にも適応できる。すなわち、作業マスタMを適切にメンテナンスしてアップデートすることによって、新製品にも対応可能な船舶診断支援システム100を構築できる。
【0106】
また、この実施形態によれば、機種別作業マスタ情報に記述された異常スコアリング情報に基づいて、不具合症状の原因箇所(たとえば、特定の機器またはその部品)を適切に絞り込むことができる。具体的には、原因箇所の複数の候補に関して異常スコアが演算され、異常スコアの最も高い機器またはその部品が検査対象として特定され、当該機器に対応した検査項目が特定される。それにより、個々の船舶の構成と、不具合症状とに応じて、適切な検査項目を特定することができる。また、検査項目の実施結果が入力されたときには、それに応じて、次に実行すべき適切な検査項目を提示することができる。
【0107】
この実施形態では、異常スコアリング情報は、構成情報、クライアント3から送信される症状データ、および船舶5に備えられるセンサの検出値のうちの少なくとも一つと関連付けられた、異常スコアの演算規則を含む。それにより、異常スコアが適切に演算される。異常スコアの演算規則が構成情報と関連付けられていることにより、船舶5の構成に対応した適切なスコアリングが可能になる。また、異常スコアの演算規則が症状データと関連付けられていることにより、不具合症状に対応した適切なスコアリングが可能になる。さらに、異常スコアの演算規則がセンサの検出値に関連付けられていることにより、船舶5に生じている不具合事象を客観的に反映したスコアリングが可能になる。それにより、適切な検査項目をクライアント3に提示することができる。
【0108】
以上、この発明の一実施形態について説明してきたが、この発明は、さらに他の形態で実施することもできる。
【0109】
たとえば、前述の実施形態では、クライアント3は、サーバ2が提供するウェブアプリケーションをウェブブラウザ上で使用する構成となっている。しかし、クライアント3にインストールされた専用のアプリケーションプログラムを使用する構成としてもよい。
【0110】
また、前述の実施形態では、推進機の例として船外機を挙げているが、船舶に備えられる推進機の構成は、船内機、船内外機、ジェット推進機等の様々な形態であり得る。
【0111】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0112】
1 通信機、2 サーバ、3 クライアント、4 ネットワーク、5 船舶、23 ストレージ、33 入力装置、34 表示装置、51 船体、52 ステアリングホイール、53,57,64,73 センサ類、55 リモコン、56 アクセルレバー、60 船外機、70 ステアリング、75 操舵指令線、76 出力指令線、80 船内LAN、81 コントローラ、82 ゲージ、88 バッテリ、100 船舶診断支援システム、C 構成情報、M 作業マスタ