(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076756
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】複合体及びその製造方法、複合体を含む触媒、液状組成物又は電極、並びに電極を有する燃料電池又は金属空気電池
(51)【国際特許分類】
B01J 31/28 20060101AFI20240530BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240530BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240530BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20240530BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20240530BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20240530BHJP
C07D 487/22 20060101ALI20240530BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240530BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240530BHJP
C07F 15/02 20060101ALN20240530BHJP
【FI】
B01J31/28 M
H01M4/86 B
H01M4/88 C
H01M12/06 F
H01M12/08 K
C01B32/168
C07D487/22
H01M8/10 101
H01M8/12 101
C07F15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188470
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】阿部 博弥
【テーマコード(参考)】
4C050
4G146
4G169
4H050
5H018
5H032
5H126
【Fターム(参考)】
4C050PA11
4G146AA11
4G146AA12
4G146AB06
4G146AD35
4G146BA04
4G146CA16
4G146CB11
4G146CB13
4G146CB19
4G146CB22
4G146CB35
4G169AA04
4G169AA08
4G169AA11
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA32A
4G169BC66B
4G169BE01A
4G169BE14A
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE20A
4G169BE33A
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169BE39A
4G169BE39B
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EA03X
4G169EA03Y
4G169EA08
4G169EB18Y
4G169EB19
4G169EC02Y
4G169EC03Y
4G169EC04Y
4G169EC05Y
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB05
4G169FB27
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB91
4H050WB21
5H018AA03
5H018AA06
5H018AA10
5H018AS03
5H018DD05
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE07
5H018EE08
5H032AA01
5H032AS01
5H032AS03
5H032AS06
5H032AS11
5H032CC11
5H032EE04
5H032EE15
5H032HH01
5H126BB06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた酸素還元触媒能を具備する、複合体及びその製造方法、複合体を含む触媒、液状組成物又は電極、並びに電極を有する燃料電池又は金属空気電池を提供する。
【解決手段】リンカー構造が結合した炭素材料及び下式(1)で表される金属錯体構造
(式中、X
1~X
8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D
1~D
4は窒素原子又は炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは金属原子である)を含む、複合体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I)又は(II)で表されるリンカー構造が結合した炭素材料
【化1】
(式中、
Y
1~Y
4は窒素原子又は炭素原子であり、ただし、Y
1~Y
4のうち少なくとも2つは炭素原子であり、
Y
1~Y
4の炭素原子には水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基又はニトロ基が結合し、
Zは単結合又はアルキレン基である)
【化2】
(式中、
Y
5~Y
7は窒素原子又は炭素原子であり、ただし、Y
5~Y
7のうち少なくとも2つは炭素原子であり、
Y
5~Y
7の炭素原子には水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基又はニトロ基が結合し、
Zは単結合又はアルキレン基である)、及び
下式(1)で表される金属錯体構造
【化3】
(式中、
X
1~X
8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、
D
1~D
4は窒素原子又は炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、
Mは金属原子である)
を含む、複合体。
【請求項2】
式(I)において、Y1~Y4の全てが水素原子もしくはハロゲン原子が結合した炭素原子である、または
式(II)において、Y5及びY7が水素原子もしくはハロゲン原子が結合した炭素原子であり、Y6が窒素原子である、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
式(1)において、D1~D4が炭素原子である、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
式(I)または(II)において、Zが単結合である、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
前記リンカー構造は、式(I)で表される、請求項1に記載の複合体。
【請求項6】
前記リンカー構造中の少なくとも1つの窒素原子と前記金属錯体中の金属原子とが、配位結合している、請求項1に記載の複合体。
【請求項7】
前記炭素材料が、カーボンナノチューブ、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、及びカーボンナノホーンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の複合体。
【請求項8】
炭素材料中の少なくとも1つの炭素原子にリンカー構造を結合させる工程、及び
前記リンカー構造中の少なくとも1つの窒素原子と金属錯体構造とを結合させる工程
を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の複合体を製造する方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の複合体を含む、触媒。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載の複合体と液状媒体とを含む、液状組成物。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載の複合体を含む、電極。
【請求項12】
請求項11に記載の電極を有する、燃料電池。
【請求項13】
請求項11に記載の電極を有する、金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体及びその製造方法、複合体を含む触媒、液状組成物又は電極、並びに電極を有する燃料電池又は金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電極における酸化還元反応を利用して化学エネルギーを電気エネルギーに変換するデバイスとして、燃料電池及び金属空気電池が知られている。従来、燃料電池及び金属空気電池の正極(空気極)に用いられる酸素還元触媒として、炭素材料上に白金を担持したものが用いられている。
【0003】
しかし、白金は非常に高価であるとともにその資源量が限られている。そのため、白金の使用量を低減した、又は白金を使用しない、より安価で資源量が豊富な材料を用いた電極触媒の開発が課題となっている。
【0004】
白金代替触媒としては、例えば、貴金属元素を含有しない遷移金属錯体が用いられている。特許文献1では、特定の化学構造を有する鉄テトラピリドポリフィラジンの金属錯体を触媒に適用すると、優れた酸素還元触媒能を示すため、白金の代替材料として有用であることが報告されている。また、特許文献2では、優れた酸素還元触媒能を有し、安価に製造でき、電極とした際の耐久性に優れる非白金触媒及びその製造方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/167407号
【特許文献2】国際公開第2021/045121号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2では、金属錯体を導電性粉体の表面上に吸着させて複合体を形成したものを非白金触媒としており、金属錯体と導電性粉体との間での結合に関しては十分な検討が行われていない。そのため、従来の非白金触媒において、酸素還元特性を向上するうえで、さらに改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題を解決すべくなされたものであり、優れた酸素還元触媒能を具備する、複合体及びその製造方法、複合体を含む触媒、液状組成物又は電極、並びに電極を有する燃料電池又は金属空気電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、予期しないことに、特定の化学構造を有するリンカー構造が結合した炭素材料と、特定の化学構造を有する金属錯体と、を含む複合体が、優れた酸素還元触媒能を有することを見出し、本発明に到達した。
【0009】
本発明の目的は、下式(I)又は(II)で表されるリンカー構造が結合した炭素材料
【化1】
(式中、
Y
1~Y
4は窒素原子又は炭素原子であり、ただし、Y
1~Y
4のうち少なくとも2つは炭素原子であり、
Y
1~Y
4の炭素原子には水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基又はニトロ基が結合し、
Zは単結合又はアルキレン基である)
【化2】
(式中、
Y
5~Y
7は窒素原子又は炭素原子であり、ただし、Y
5~Y
7のうち少なくとも2つは炭素原子であり、
Y
5~Y
7の炭素原子には水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基又はニトロ基が結合し、
Zは単結合又はアルキレン基である)、及び
下式(1)で表される金属錯体構造
【化3】
(式中、
X
1~X
8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、
D
1~D
4は窒素原子又は炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、
Mは金属原子である)
を含む、複合体によって達成される。
【0010】
式(I)において、Y1~Y4の全てが水素原子もしくはハロゲン原子が結合した炭素原子であるか、または
式(II)において、Y5及びY7が水素原子もしくはハロゲン原子が結合した炭素原子であり、Y6が窒素原子であることが好ましい。
【0011】
式(1)において、D1~D4が炭素原子であるであることが好ましい。
【0012】
式(I)または(II)において、Zが単結合であることが好ましい。
【0013】
前記リンカー構造は、式(I)で表されることが好ましい。
【0014】
前記リンカー構造中の少なくとも1つの窒素原子と前記金属錯体中の金属原子とが、配位結合していることが好ましい。
【0015】
前記炭素材料が、カーボンナノチューブ、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、及びカーボンナノホーンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
本発明はまた、リンカー構造が結合した炭素材料及び金属錯体構造を含む複合体を製造する方法であって、
炭素材料中の少なくとも1つの炭素原子にリンカー構造を結合させる工程、及び
前記リンカー構造中の少なくとも1つの窒素原子と金属錯体構造とを結合させる工程
を含む、方法にも関する。
【0017】
本発明はまた、本発明の複合体を含む、触媒にも関する。
【0018】
本発明はまた、本発明の複合体及び液状媒体を含む、液状組成物にも関する。
【0019】
本発明はまた、本発明の複合体を含む、電極にも関する。
【0020】
本発明はまた、本発明の電極を有する、燃料電池又は金属空気電池にも関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた酸素還元触媒能を具備する複合体を提供することができる。
【0022】
また、本発明によれば、白金を使用することなく優れた酸素還元触媒能を有する複合体を得ることができるため、比較的安価に燃料電池又は金属空気電池に用いられる電極用の触媒に含まれる複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1の複合体の構造を示す模式図である。
【
図2】比較例1の複合体の構造を示す模式図である。
【
図3】比較例2の複合体の構造を示す模式図である。
【
図4】比較例3の複合体の構造を示す模式図である。
【
図5】アルカリ性電解液を用いた場合の、比較例2から4の各電極の1600rpmにおけるLSVの測定結果である。
【
図6】アルカリ性電解液を用いた場合の、実施例1並びに比較例1及び4の各電極の1600rpmにおけるLSVの測定結果である。
【
図7】中性電解液を用いた場合の、比較例2及び3の各電極の1600rpmにおけるLSVの測定結果である。
【
図8】中性電解液を用いた場合の、実施例1及び比較例1の各電極の1600rpmにおけるLSVの測定結果である。
【
図9】実施例1及び比較例1から3の各電極の開始電位に対する半波電位の関係を示す。
【
図10】比較例2及び3の各電極のサイクリックボルタモグラムの測定結果である。
【
図11】実施例1及び比較例1の各電極のサイクリックボルタモグラムの測定結果である。
【
図12】実施例1及び比較例4の各電極を用いたバッテリーについて、電流密度(mA/cm
2)に対する電圧(V)及び電流密度(mA/cm
2)に対する出力密度(mW/cm
2)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[複合体]
本発明の複合体は、リンカー構造が結合した炭素材料及び金属錯体構造を含み、前記リンカー構造は下式(I)又は(II)で表され、前記金属錯体構造は下式(1)で表されることを特徴とする。
【化4】
(式(I)において、Y
1~Y
4は窒素原子又は炭素原子であり、ただし、Y
1~Y
4のうち少なくとも2つは炭素原子であり、Y
1~Y
4の炭素原子には水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基又はニトロ基が結合し、Zは単結合又はアルキレン基である。)
【化5】
(式(II)において、Y
5~Y
7は窒素原子又は炭素原子であり、ただし、Y
5~Y
7のうち、少なくとも2つは炭素原子であり、Y
5~Y
7の炭素原子には水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基又はニトロ基が結合し、Zは単結合又はアルキレン基である。)
【化6】
(式(1)において、X
1~X
8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D
1~D
4は窒素原子又は炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは金属原子である。)
【0025】
<金属錯体構造>
本発明の複合体に含まれる金属錯体構造は、下式(1)で表される。
【化7】
式(1)において、
X
1~X
8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、
D
1~D
4は、窒素原子又は炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、
Mは金属原子である。
【0026】
式(1)において、金属原子Mとしては、スカンジウム原子、チタン原子、バナジウム原子、クロム原子、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、亜鉛原子、イットリウム原子、ジルコニウム原子、ニオブ原子、ルテニウム原子、ロジウム原子、パラジウム原子、ランタン原子、セリウム原子、プラセオジム原子、ネオジム原子、プロメチウム原子、サマリウム原子、ユウロピウム原子、ガドリニウム原子、テルビウム原子、ジスプロシウム原子、ホルミウム原子、エルビウム原子、ツリウム原子、イッテルビウム原子、ルテチウム、アクチニウム原子、トリウム原子、プロトアクチニウム原子、ウラン原子、ネプツニウム原子、プルトニウム原子、アメリシウム原子、キュリウム原子、バークリウム原子、カリホルニウム原子、アインスタイニウム原子、フェルミウム原子、メンデレビウム原子、ノーベリウム原子、ローレンシウム原子が例示される。これらの中でも、鉄原子、マンガン原子、コバルト原子、銅原子、亜鉛原子が好ましく、鉄原子、マンガン原子、コバルト原子がより好ましく、鉄原子が特に好ましい。
【0027】
式(1)で表される金属錯体構造においては、下式(1’)に示すような異性体が存在し得る。
【0028】
【0029】
式(1’)中、X1~X8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、D1’、D2~D4は、窒素原子又は炭素原子であり、前記炭素原子には水素原子又はハロゲン原子が結合し、Mは金属原子である。
【0030】
本発明における金属錯体構造は、式(1’)に示すような異性体でもよい。よって、式(1)においては、D1を有する環状構造で窒素原子の位置とD1の位置とは交換可能であるとも言える。
【0031】
本発明においては、金属錯体構造の異性体は式(1’)に示すものに限定されない。例えば、上記式(1)又は上記式(1’)中、D2~D4のそれぞれが含まれるそれぞれの環状構造から選ばれる少なくとも一つにおいて、窒素原子の位置がD2~D4のいずれかの位置と同一の環状構造内で交換されていてもよい。
【0032】
以下、式(1)の金属錯体構造の好ましい態様についてさらに詳細に説明するが、いずれの好ましい態様においても、式(1’)に示すような異性体が存在し得る。これらの異性体は、本発明の金属錯体構造の好ましい態様に含まれるものである。
【0033】
金属錯体構造においては、D1~D4が炭素原子であり、前記炭素原子に水素原子が結合していることが好ましい。即ち、本発明において、金属錯体構造は下式(2)で表される化合物が好ましい。本発明において、金属錯体構造が下式(2)で表される化合物である場合、本発明の複合体の酸素還元触媒能能がさらに優れる。
【0034】
【0035】
式(2)中、X1~X8はそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子であり、Mは金属原子である。
【0036】
金属錯体構造においては、D1~D4が炭素原子であり、前記炭素原子に水素原子が結合し、X1~X8が水素原子であることが、より好ましい。即ち、本発明において、金属錯体構造は下式(3)で表される化合物がより好ましい。本発明において、金属錯体構造が下式(3)で表される化合物である場合、本発明の複合体の酸素還元触媒能がさらに優れる。
【0037】
【0038】
式(3)中、Mは金属原子である。
【0039】
さらに、金属錯体構造が式(3)で表される化合物である場合において、Mは鉄原子であることがさらに好ましい。即ち、本発明において、金属錯体構造は下式(4)で表される鉄テトラピリドポリフィラジン(FeTPP)であることがさらに好ましい。金属錯体構造がFeTPPである場合、本発明の複合体の酸素還元触媒能が特に優れる。
【0040】
【0041】
金属錯体構造において、窒素原子とMとの間の結合は、窒素原子のMへ配位を意味する。金属錯体構造において、Mの価数は特に制限されない。Mの価数は、例えば、1、2、3又は4である。
【0042】
本発明において、以下で説明する炭素材料が有するリンカー構造の少なくとも1つの窒素原子が金属錯体構造の金属原子Mに結合していることが好ましい。特に、炭素材料が有するリンカー構造の少なくとも1つの窒素原子が金属錯体構造の金属原子Mに配位結合していることがより好ましい。従来、酸素還元触媒能を有する遷移金属錯体としては、4配位型の立体構造を有する錯体を用いることが一般的であった。これに対し、本発明においては、炭素材料が有するリンカー構造の少なくとも1つの窒素原子と金属錯体構造の金属原子Mとが配位結合することにより、5配位型の立体構造を有する錯体を形成することができる。これにより、本発明の複合体の酸素還元触媒能がさらに優れ、本発明の複合体を含む電極の起電力及び半波電位を非常に向上させることができる。
【0043】
金属錯体構造において、窒素原子の含有量は、金属錯体構造100質量%に対し、14質量%以上が好ましく、16質量%以上がより好ましく、18質量%以上がさらに好ましく、19質量%以上が特に好ましい。金属錯体構造中の窒素原子の含有量が14質量%以上であると、本発明の複合体の酸化還元触媒能にさらに優れる。
【0044】
金属錯体構造において、窒素原子の含有量は、金属錯体構造100質量%に対し、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、28質量%以下がさらに好ましく、25質量%以下が特に好ましい。金属錯体構造中の窒素原子の含有量が40質量%以下であると、本発明の複合体の導電性が優れる。
【0045】
金属錯体構造において、窒素原子の含有量は、金属錯体構造100質量%に対し、14~40質量%が好ましいとも言え、16~30質量%がより好ましいとも言え、18~28質量%がさらに好ましいとも言え、19~25質量%が特に好ましいとも言える。
【0046】
<リンカー構造が結合した炭素材料>
本発明の複合体に含まれる炭素材料は、下式(I)又は(II)で表されるリンカー構造が結合していることを特徴とする。
【化12】
(式(I)において、Y
1~Y
4は窒素原子又は炭素原子であり、ただし、Y
1~Y
4のうち少なくとも2つは炭素原子であり、Y
1~Y
4の炭素原子には水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基又はニトロ基が結合し、Zは単結合又はアルキレン基である。)
【化13】
(式(II)において、Y
5~Y
7は窒素原子又は炭素原子であり、ただし、Y
5~Y
7のうち少なくとも2つは炭素原子であり、Y
5~Y
7の炭素原子には水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、又はニトロ基が結合し、Zは単結合又はアルキレン基である。)
【0047】
本発明において、上記式(I)又は(II)で表されるリンカー構造が炭素材料に結合していることにより、リンカー構造に含まれる少なくとも1つの窒素原子が、金属錯体構造中の金属原子Mと結合することができる。本発明において、リンカー構造に含まれる少なくとも1つの窒素原子が金属錯体構造中の金属原子Mと配位結合することが好ましい。本発明の複合体は、金属錯体構造中の金属原子Mがリンカー構造に含まれる少なくとも1つの窒素原子と配位結合することにより、本発明の複合体の酸素還元触媒能がさらに優れ、本発明の複合体を含む電極の起電力及び半波電位を非常に向上させることができる。
【0048】
式(I)において、Y1~Y4のうち少なくとも3つは炭素原子であることが好ましく、Y1~Y4の全てが炭素原子であることがより好ましい。
【0049】
式(II)において、Y5~Y7のうち2つが炭素原子であり、1つが窒素原子であることが好ましく、Y5及びY7が炭素原子であり、Y6が窒素原子であることがより好ましい。
【0050】
式(I)又は(II)において、好ましくは、炭素原子には、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基が結合している。より好ましくは、炭素原子には、水素原子又はハロゲン原子が結合している。さらに好ましくは、炭素原子には、水素原子が結合している。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素又は臭素が好ましく、フッ素又は塩素がより好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基又はプロピル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0051】
一実施形態において、式(I)で表されるリンカー構造中のY1~Y4の全てが水素原子またはハロゲン原子が結合した炭素原子であることがさらに好ましく、Y1~Y4の全てが水素原子が結合した炭素原子であることが特に好ましい。別の実施形態において、式(II)で表されるリンカー構造中のY5及びY7が水素原子またはハロゲン原子が結合した炭素原子であり、Y6が窒素原子であることが特に好ましい。式(I)で表されるリンカー構造中のY1~Y4の全てが水素原子が結合した炭素原子である場合、あるいは式(II)で表されるリンカー構造中のY5及びY7が水素原子またはハロゲン原子が結合した炭素原子であり、Y6が窒素原子である場合、本発明の複合体の導電性がより優れる。
【0052】
式(I)又は(II)において、Zは単結合又はアルキレン基である。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基又はプロピレン基であることが好ましい。より好ましくは、Zは単結合である。本発明にいて、リンカー構造中のZが単結合である場合、本発明の複合体の導電性がより優れる。
【0053】
一実施形態において、炭素材料に式(I)で表されるリンカー構造が結合し、Y
1~Y
4の全てが水素原子が結合した炭素原子であり、Zが単結合であることがより好ましい。即ち、本発明において、炭素材料に式(I’)で表されるリンカー構造が結合していることがより好ましい。本発明の複合体が、式(I’)で表されるリンカー構造が結合した炭素材料を含む場合、本発明の複合体の酸素還元触媒能能が特に優れる。
【化14】
【0054】
別の実施形態において、炭素材料に式(II)で表されるリンカー構造が結合し、Y
5及びY
7が水素原子が結合した炭素原子であり、Y
6が窒素原子であり、Zが単結合であることがより好ましい。即ち、本発明において、炭素材料に式(II’)で表されるリンカー構造が結合していることがより好ましい。本発明の複合体が、式(II’)で表されるリンカー構造が結合した炭素材料を含む場合、本発明の複合体の酸素還元触媒能能がより優れる。
【化15】
【0055】
本発明において、炭素材料に式(I)で表されるリンカー構造が結合していることが好ましく、炭素材料に式(I’)で表されるリンカー構造が結合していることがより好ましい。本発明において、炭素材料に式(I)で表されるリンカー構造が結合している場合、本発明の複合体の酸素還元触媒能がさらに優れる。
【0056】
炭素材料は、導電性炭素由来であることが好ましい。炭素材料の具体例としては、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等が例示される。これらの中でも、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブが好ましく、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェンがより好ましく、カーボンナノチューブがさらに好ましい。
【0057】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブが例示される。これらの中でも、比表面積が大きいことから、単層カーボンナノチューブがより好ましい。
【0058】
炭素材料は、官能基を有してもよい。官能基としては、水酸基、カルボキシル基、窒素含有基、ケイ素含有基、リン酸基等のリン含有基、スルホン酸基等の硫黄含有基等の官能基が例示される。炭素材料が官能基を有する場合において、炭素材料は官能基の1種を単独で含んでもよく、2種以上の官能基を含んでもよい。
【0059】
炭素材料は、ヘテロ原子を有してもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子、ケイ素原子等が例示される。炭素材料がヘテロ原子を有する場合において、炭素材料はヘテロ原子の1種を単独で含んでもよく、2種以上のヘテロ原子を含んでもよい。なお、炭素材料は酸化されていてもよく、水酸化されていてもよく、窒化されていてもよく、リン化されていてもよく、硫化されていてもよく、珪化されていてもよい。
【0060】
炭素材料の比表面積は0.8m2/g以上が好ましく、1.0m2/g以上がより好ましく、1.1m2/g以上がさらに好ましく、1.5m2/g以上が特に好ましく、2.0m2/g以上が最も好ましい。比表面積が0.8m2/g以上であると、複合体の凝集を防ぎやすくなり、複合体の酸素還元触媒能がさらに優れる。比表面積の上限値は特に限定されない。比表面積の上限値は、例えば、2000m2/gとすることができる。炭素材料の比表面積は、例えば、0.8~2000m2/gでもよく、1.0~2000m2/gでもよく、1.1~2000m2/gでもよく、1.5~2000m2/gでもよく、2.0~2000m2/gでもよい。前記比表面積は、窒素吸着BET法で比表面積測定装置により測定できる。
【0061】
炭素材料の平均粒径は、特に制限されない。炭素材料の平均粒径は、例えば、5nm~1000μmが好ましい。炭素材料の平均粒径を前記数値範囲に調整する方法としては、以下の(A1)~(A3)が例示される。
(A1):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子を分散剤に分散させて所望の粒子径にした後に乾固する方法。
(A2):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法。
(A3):炭素材料を製造する際に、製造条件を最適化し、粒子の粒径を調整する方法。
平均粒子径は、粒度分布測定装置、電子顕微鏡等により測定できる。
【0062】
本発明において、金属錯体構造の割合は、複合体100質量%に対して、75質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。本発明において、金属錯体構造の割合が前記範囲内であると、本発明の複合体の導電性がさらに優れる。
【0063】
金属錯体構造の割合は、複合体100質量%に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。本発明において、金属錯体構造の割合が前記範囲内であると、本発明の複合体の酸素還元触媒能がさらに優れる。
【0064】
金属錯体構造の割合は、複合体100質量%に対して、0.1~75質量%が好ましいとも言え、0.5~50質量%がより好ましいとも言え、1~30質量%がさらに好ましいとも言える。
【0065】
[複合体の製造方法]
本発明の複合体の製造方法は、以下の工程(a)及び工程(b)を含む。
工程(a):炭素材料中の少なくとも1つの炭素原子にリンカー構造を結合させる工程。
工程(b):前記リンカー構造中の少なくとも1つの窒素原子と金属錯体構造とを結合させる工程。
【0066】
<工程(a)>
リンカー構造が結合した炭素材料の製造方法は特に限定されない。例えば、含窒素複素環化合物により炭素材料を官能化する方法が例示される。
【0067】
炭素材料としては、カーボンナノチューブ、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、及びカーボンナノホーンなどが挙げられる。この中でも、炭素材料としてカーボンナノチューブを使用することが好ましく、単層カーボンナノチューブを使用することがより好ましい。
【0068】
含窒素複素環化合物としては、4-アミノピリジン、4-アミノ-2-メチルピリジン、4-アミノ-3-メチルピリジン、4-アミノ-2,6-ジメチルピリジン、4-アミノ-3,5-ジメチルピリジン、4-アミノ-2-クロロピリジン、4-アミノ-3-クロロピリジン、4-アミノ-3,5-ジクロロピリジン、4-アミノ-2,6-ジクロロピリジン、4-アミノ-2,3,5,6-テトラクロロピリジン、4-アミノ-2-フルオロピリジン、4-アミノ-3-フルオロピリジン、4-アミノ-3,5-ジフルオロピリジン、4-アミノ-2,6-ジフルオロピリジン、4-アミノ-2,3,5,6-テトラフルオロピリジン、4-アミノ-2-ブロモピリジン、4-アミノ-3-ブロモピリジン、4-アミノ-3,5-ジブロモピリジン、4-アミノ-2,6-ジブロモピリジン、4-アミノ-3-ニトロピリジン、3,4-ジアミノピリジンなどのピリジン類;4-アミノピリミジン、4-アミノ-2,6-ジメチルピリミジン、4-アミノ-2-クロロピリミジン、4-アミノ-6-クロロピリミジン、4-アミノ-2-フルオロピリミジン、4-アミノ-6-フルオロピリミジン、4-アミノ-2-ブロモピリミジン、4-アミノ-6-ブロモピリミジン、4,5-ピリミジンジアミンなどのピリミジン類;5-アミノピリダジンなどのピリダジン類;2-アミノ-1,3,5-トリアジンなどのトリアジン類;3-アミノピロールなどのピロール類;4-アミノイミダゾール、5-アミノイミダゾールなどのイミダゾール類;3-アミノピラゾール、4-アミノピラゾールなどのピラゾール類;4-アミノキノリン,3-アミノキノリンなどのキノリン類が例示される。好ましくは、含窒素複素環化合物は、4-アミノピリジン、4-アミノ-2-メチルピリジン、4-アミノ-3-メチルピリジン、4-アミノ-2,6-ジメチルピリジン、4-アミノ-3,5-ジメチルピリジン、4-アミノ-2-クロロピリジン、4-アミノ-3-クロロピリジン、4-アミノ-3,5-ジクロロピリジン、4-アミノ-2,6-ジクロロピリジン、4-アミノ-2,3,5,6-テトラクロロピリジン、4-アミノ-2-フルオロピリジン、4-アミノ-3-フルオロピリジン、4-アミノ-3,5-ジフルオロピリジン、4-アミノ-2,6-ジフルオロピリジン、4-アミノ-2,3,5,6-テトラフルオロピリジン、4-アミノ-2-ブロモピリジン、4-アミノ-3-ブロモピリジン、4-アミノ-3,5-ジブロモピリジン、4-アミノ-2,6-ジブロモピリジン、4-アミノ-3-ニトロピリジン、3,4-ジアミノピリジンなどのピリジン類;4-アミノイミダゾール、5-アミノイミダゾールなどのイミダゾール類;4-アミノキノリン,3-アミノキノリンなどのキノリン類から選択される。より好ましくは、含窒素複素環化合物は、4-アミノピリジン、4-アミノ-2-メチルピリジン、4-アミノ-3-メチルピリジン、4-アミノ-2,6-ジメチルピリジン、4-アミノ-3,5-ジメチルピリジン、4-アミノ-2-クロロピリジン、4-アミノ-3-クロロピリジン、4-アミノ-3,5-ジクロロピリジン、4-アミノ-2,6-ジクロロピリジン、4-アミノ-2,3,5,6-テトラクロロピリジン、4-アミノ-2-フルオロピリジン、4-アミノ-3-フルオロピリジン、4-アミノ-3,5-ジフルオロピリジン、4-アミノ-2,6-ジフルオロピリジン、4-アミノ-2,3,5,6-テトラフルオロピリジン、4-アミノ-2-ブロモピリジン、4-アミノ-3-ブロモピリジン、4-アミノ-3,5-ジブロモピリジン、4-アミノ-2,6-ジブロモピリジン、4-アミノ-3-ニトロピリジン、3,4-ジアミノピリジンなどのピリジン類から選択される。さらに好ましくは、含窒素複素環化合物は、4-アミノピリジン、4-アミノ-2-クロロピリジン、4-アミノ-3-クロロピリジン、4-アミノ-2-フルオロピリジン、4-アミノ-3-フルオロピリジン、4-アミノ-2-ブロモピリジン、4-アミノ-3-ブロモピリジンから選択される。本発明において、含窒素複素環化合物として4-アミノピリジンを使用することが特に好ましい。
【0069】
<工程(b)>
リンカー構造中の少なくとも1つの窒素原子と金属錯体構造とを結合させる方法は、特に限定されない。例えば、リンカー構造が結合した炭素材料と、金属錯体構造を有する化合物(以下、「金属錯体」と記す)の混合物を、N,N-ジメチルホルムアミド中で、アルゴン雰囲気下で還流することにより、リンカー構造中の少なくとも1つの窒素原子と金属錯体構造とを結合させて本発明の複合体を得る方法が例示される。本発明において、リンカー構造中の少なくとも1つの窒素原子と金属錯体構造とが、配位結合していることが好ましい。
【0070】
金属錯体の製造方法は特に限定されない。例えば、ピリジン-2,3-ジカルボニトリル等のジシアノ化合物と金属原子とを塩基性物質の存在下にアルコール溶媒中で加熱する方法が例示される。ここで塩基性物質としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム等の無機塩基;トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン等の有機塩基が例示される。
【0071】
前記混合物中の前記金属錯体の濃度は、0.0001~5g/Lが好ましく、0.01~1g/Lがより好ましく、0.1~1g/Lが好ましい。前記金属錯体の濃度が前記範囲内であると、金属錯体の結合効率がさらによくなる。その結果、本発明の複合体の酸素還元触媒能がさらに優れるという効果が得られる。
【0072】
[触媒]
本発明の触媒は、本発明の複合体を含む。本発明の触媒は、本発明の複合体以外の任意成分をさらに含んでもよい。
【0073】
本発明の触媒は、酸素還元用の触媒であることが好ましい。本発明の触媒は、好ましくは電池の正極(空気極)における酸素還元用の触媒である。本発明の触媒は、より好ましくは燃料電池又は金属空気電池の正極(空気極)における酸素還元用の触媒である。
【0074】
[液状組成物]
本発明の液状組成物は、本発明の複合体と液状媒体とを含む。本発明の液状組成物は、本発明の複合体及び液状媒体以外の任意成分をさらに含んでもよい。
【0075】
液状媒体は、本発明の複合体を溶解しやすい(即ち、本発明の複合体の溶解度が高い)化合物でもよく、本発明の複合体を溶解しにくい(即ち、本発明の複合体の溶解度が低い)化合物でもよい。液状媒体が本発明の複合体を溶解しやすい化合物である場合、本発明の液状組成物は溶液の形態である。液状媒体が本発明の複合体を溶解しにくい化合物である場合、本発明の液状組成物は分散液の形態である。
【0076】
液状媒体は、水等の無機質媒体であってもよく、有機媒体であってもよい。
【0077】
有機媒体の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(2-プロパノール)、1-ヘキサノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド;テトラヒドロフラン;N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトン等の非プロトン性極性溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、1,4―ジオキサン、ベンゼン、トルエン等の非極性溶媒が例示される。ただし、液状媒体はこれらの例示に限定されない。液状媒体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
本発明の液状組成物は、任意成分として、ポリテトラフルオロエチレンに基づく構成単位とスルホン酸基を有するパーフルオロ側鎖とを含むパーフルオロカーボン材料を含んでもよい。パーフルオロカーボン材料の具体例としては、Nafion(製品名:デュポン社製)が例示される。本発明の液状組成物は、本発明の複合体と液状媒体と必要に応じてパーフルオロカーボン材料とを混合又は混練することにより、製造できる。
【0079】
混合又は混練に際しては、超音波処理、ミキサー、ブレンダー、ニーダー、ホモジナイザー、ビーズミル、ボールミル等を使用してもよい。混練操作の前後においては、ふるい等を使用して、粒子の平均粒子径を調整してもよい。
【0080】
パーフルオロカーボン材料を含む液状組成物を調製する際には、本発明の複合体とパーフルオロカーボン材料と必要に応じて水とアルコールとを混合し、均一になるまで撹拌してもよい。
【0081】
[電極]
本発明の電極は、本発明の複合体を含む。本発明の電極は、本発明の触媒を含むものであってもよい。本発明の電極は、本発明の液状組成物を塗工液として用いて形成されてもよい。本発明の液状組成物を用いて電極を形成する場合、本発明の液状組成物を導電性の基材の表面に塗布し、本発明の複合体以外の成分(例えば、液状媒体、パーフルオロカーボン材料等)を除去する。本発明の複合体以外の成分を除去する際は、加熱乾燥をしてもよく、乾燥後にプレスを行ってもよい。
【0082】
本発明の電極は、導電性の基材の表面に本発明の複合体を含む層が設けられている形態でもよい。この場合、本発明の複合体を含む層の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.01~100μmとすることができる。厚みが前記下限値以上であると、電極が耐久性に優れる。厚みが前記上限値以下であると、電極の性能が低下しにくくなる。
【0083】
基材は特に限定されないが、アルミニウム箔、電解アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ(エキスパンドメタル)、発泡アルミニウム、パンチングアルミニウム、ジュラルミン等のアルミニウム合金、銅箔、電解銅箔、銅メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡銅、パンチング銅、真鍮等の銅合金、真鍮箔、真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡真鍮、パンチング真鍮、ニッケル箔、ニッケルメッシュ、耐食性ニッケル、ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)、パンチングニッケル、発泡ニッケル、スポンジニッケル、金属亜鉛、耐食性金属亜鉛、亜鉛箔、亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)、鋼板、パンチング鋼板、銀等が例示される。基材は、シリコン基板;金、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、リチウム等の金属基板;これらの金属の任意の組み合わせを含む合金基板;インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アンチモン錫酸化物(ATO)等の酸化物基板;グラッシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンフェルト等の炭素基板等の基板状の基材でもよい。
【0084】
本発明の電極は、本発明の複合体を含む層を基材の片面に有してもよく、基材の両面に有してもよい。
【0085】
本発明の電極は、燃料電池の電極として利用できる。燃料電池の電極として利用する場合、一対の電極の間に電解質膜を配置してもよい。
本発明の電極を燃料電池の電極として利用する場合、酸性条件下では下式に示す酸素の還元反応が進行しやすくなる。
O2+4H++4e-→2H2O
本発明の電極を燃料電池の電極として利用する場合、アルカリ性条件下では下式に示す還元反応が進行しやすくなる。
O2+2H2O+4e-→4OH-
【0086】
基材として、例えば多孔質支持層を有する基板を用いることで、本発明の電極を燃料電池用の電極として利用してもよい。燃料電池の電極として利用する場合、本発明の電極はカソード又はアノードのいずれの電極に用いてもよい。
【0087】
多孔質支持層とは、ガスを拡散する層である。多孔質支持層としては、電子伝導性を具備し、ガスの拡散性が高く、耐食性の高いものであれば特に限定されない。多孔質支持層としては、カーボンペーパー、カーボンクロス等の炭素系多孔質材料、ステンレスメッシュ、チタンメッシュ、ステンレス箔、耐食材を被覆したアルミニウム箔等が例示される。
【0088】
本発明の電極は、燃料電池、空気電池等の蓄電デバイス(発電デバイス)用の電極に好適に適用できる。
【0089】
[燃料電池]
本発明の燃料電池は、本発明の電極を有する。本発明の燃料電池は、第2の電極、電解質、セパレータをさらに有してもよい。本発明の燃料電池は本発明の電極を有するため、電極における酸素還元反応の酸素還元特性がよくなる。その結果、本燃料電池はエネルギー変換効率に優れる。
【0090】
本発明の燃料電池において、本発明の電極はカソードでもアノードでもよい。ただし、本発明の電極はカソードが好ましく、酸素極がより好ましい。なお、酸素極とは酸素を含む気体(空気等)が供給される電極を意味する。
【0091】
第2の電極は本発明の電極と組み合せて用いられる電極である。本発明の電極がカソードである場合、第2の電極はアノードであり、本発明の電極がアノードである場合、第2の電極はカソードである。第2の電極としては、アルミニウム、亜鉛等の金属単体、これらの金属酸化物が例示される。ただし、第2の電極はこれらの例示に限定されない。
【0092】
電解質としては、水性電解液が好ましい。水性電解液としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液;硫酸水溶液等の酸性水溶液が例示される。電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ただし、電解質はこれらの例示に限定されず、無機固体電解質でもよい。
【0093】
セパレータは、本発明の電極と第2の電極とを隔離し、電解質を保持して本発明の電極と第2の電極との間のイオン伝導性を確保する部材である。
【0094】
セパレータの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、セロファン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ビニロン、ポリ(メタ)アクリル酸等のマイクロポアを有する重合体、ゲル化合物、イオン交換膜、環化重合体、ポリ(メタ)アクリル酸塩含有重合体、スルホン酸塩含有重合体、第四級アンモニウム塩含有重合体、第四級ホスホニウム塩含有重合体等が例示される。ただし、セパレータはこれらの例示に限定されない。
【0095】
本発明の燃料電池は一次電池でもよく、二次電池でもよい。
【0096】
本発明の燃料電池の形態としては、微生物燃料電池、酵素燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、固体高分子型燃料電池(PEFC)等が例示される。本発明の燃料電池の形態はこれらの例示に限定されないが、微生物燃料電池、酵素燃料電池、またはPEFCが好ましく、微生物燃料電池または酵素燃料電池がより好ましい。
【0097】
[金属空気電池]
本発明の金属空気電池は、本発明の電極を有する。本発明の金属空気電池は本発明の電極を有するため、電極における酸素還元反応の酸素還元特性がよくなる。その結果、本発明の燃料電池はエネルギー変換効率に優れる。
【0098】
本発明の空気電池においては、本発明の電極を酸素極として適用することが好ましい。本発明の空気電池は、燃料極、電解質、セパレータをさらに有してもよい。
【0099】
燃料極は本発明の電極と組み合せて用いられる電極である。燃料極としては、「第2の電極」の項で説明した具体例と同様のものが例示される。電解質としては、「燃料電池」の項で説明した電解質と同様のものが例示される。セパレータとしては、「燃料電池」の項で説明したセパレータと同様のものが例示される。
【実施例0100】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0101】
<実施例1>
実施例1の複合体は、リンカー構造が結合した炭素材料と金属錯体構造を含むものである。実施例1の複合体において、炭素材料が有するリンカー構造中の少なくとも1つの窒素原子が金属錯体構造中の金属原子と配位結合している。以下の方法により、実施例1の複合体を製造した。
【0102】
1.金属錯体構造の準備
ピリジン-2,3-ジカルボニトリル258mgと塩化鉄(III)六水和物135mgとジアザビシクロウンデセン(DBU)20mgとを試験管内で混合し、ペンタノール20mLに溶解させた。次いで溶解液を窒素置換しながら、150℃で8時間加熱し、下式(4)で表される鉄テトラピリドポリフィラジン(FeTPP)を含む反応生成物を得た。反応生成物をアセトンで3回遠心分離し、乾燥させた。遠心分離後の沈殿物を濃硫酸に溶解させ、水に滴下し、FeTPPを析出させた。析出したFeTPPを遠心分離で回収し、メタノールで洗浄し、FeTPPを得た。
【化16】
【0103】
2.リンカー構造が結合した炭素材料の準備
4.90gのNaNO
2を7mLのH
2Oに溶解し、氷浴で0℃に冷却した。全体で、6.58gの4-アミノピリジンを4MのHCl 5mLに溶解し、氷浴で0℃に冷却した。NaNO
2溶液を4-アミノピリジン溶液に滴下した。得られた溶液を氷浴で0℃に保ち、30分間攪拌した。合成に使用する前に、単層カーボンナノチューブを濃縮HCl溶液に5日間浸漬し、その後5時間還流して精製し、続いて水とアセトンで十分に洗浄した。精製された単層カーボンナノチューブを真空オーブン内で80℃で一晩乾燥させた。100mgの精製単層カーボンナノチューブを200mLのN,N-ジメチルホルムアミドに分散させた。単層カーボンナノチューブ溶液を氷浴で0℃に冷却し、次にNaNO
2と4-アミノピリジンの溶液を滴下し、ジアゾニウム塩の分解を防ぐために0℃に維持した。混合物を0℃で3時間反応させ、次いで室温で15時間撹拌して、下式(I’)で表されるリンカー構造が結合した炭素材料(ピリジン-カーボンナノチューブ)を得た。得られた生成物(ピリジン-カーボンナノチューブ)をろ過により回収し、2MのHCl、2MのNaOH、水、及びアセトンで十分に洗浄した後、真空オーブン内で80℃で一晩乾燥させた。
【化17】
【0104】
3.本発明の複合体の製造
得られたFeTPP 20mgを20mLのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中に溶解させ、FeTPPの濃度が1g/Lである溶液を調製した。得られた溶液にピリジン-カーボンナノチューブを40mgを分散させた。FeTPPとピリジン-カーボンナノチューブの混合物を、DMF中でアルゴン雰囲気下で還流した。得られた分散液から固液分離を行った後、DMF洗浄及びメタノール洗浄によって余分なFeTPP及び溶媒であるDMFを除去することにより、本発明の複合体(実施例1の複合体)を調製した。実施例1の複合体の構造を
図1に示す。なお、
図1において、ピリジン環中のNとFeの間の点線(‐‐‐)は、配位結合を示す。
【0105】
4.本発明の電極の製造
次いで、得られた実施例1の複合体0.82mgと、Milli-Q水84μLと、イソプロピルアルコール336μLと、0.5質量%のNafion水溶液6μLを超音波撹拌機で混練し、GC電極に塗布し、実施例1の電極を得た。
【0106】
<比較例1>
比較例1の複合体は、リンカー構造を有しない炭素材料と金属錯体構造を含むものである。比較例1の複合体において、金属錯体構造を有する化合物(以下、「金属錯体」と記す)が炭素材料の表面上に吸着している。以下の方法により、比較例1の複合体を製造した。
【0107】
実施例1と同様にしてFeTPPを得た。得られたFeTPP 20mgを20mLのDMFに溶解させ、FeTPPの濃度が1g/Lである溶液を調製した。得られた溶液に、単層カーボンナノチューブ100mgを分散させた。分散に際しては、超音波処理(20kHz)を15分間行った。得られた分散液から固液分離及びメタノール洗浄によって溶媒であるDMFを除去し、室温で24時間乾燥させて比較例1の複合体を得た。比較例1の複合体の構造を
図2に示す。
【0108】
次いで、得られた比較例1の触媒0.82mgと、Milli-Q水84μLと、イソプロピルアルコール336μLと、0.5質量%のNafion水溶液6μLを超音波撹拌機で混練し、GC電極に塗布し、比較例1の電極を得た。
【0109】
<比較例2>
比較例2では、FeTPPの代わりにFePc:鉄フタロシアニン(東京化成工業社製「P0774」)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして複合体を製造した。比較例2の複合体の構造を
図3に示す。次いで、実施例1と同様にして、比較例2の複合体を含む電極を製造した。
【0110】
<比較例3>
比較例3では、FeTPPの代わりにFePc:鉄フタロシアニン(東京化成工業社製「P0774」)を使用したこと以外は、比較例1と同様にして複合体を製造した。比較例3の複合体の構造を
図4に示す。次いで、比較例1と同様にして、比較例3の複合体を含む電極を製造した。
【0111】
<比較例4>
比較例4では、実施例1の複合体の代わりにPt/Cを使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例4の電極(Pt/C電極)を製造した。
【0112】
(RRDEによるLSV測定)
実施例1及び比較例1から3の電極について、アルカリ性電解液又は中性電解液を用いた場合における、RRDEによるLSV測定を行った。
【0113】
(アルカリ性電解液を用いたRRDEによるLSV測定)
RRDEによるLSV測定は、回転リングディスク電極(BAS株式会社製、RRDE-3A)およびポテンショスタット(BAS株式会社製、2325)によって0.1M水酸化カリウム水溶液を電解液として使用し、標準的な3電極式の電気化学セルでO2を使用することで行った。掃引速度を10mV/s、回転ディスクの回転数を1600rpmとしてLSVを測定した。対極としてPtを使用し、参照極としてAg/AgClを使用した。
【0114】
(中性電解液を用いたRRDEによるLSV測定)
RRDEによるLSV測定は、回転リングディスク電極(BAS株式会社製、RRDE-3A)によってリン酸緩衝生理食塩水溶液:PBSを電解液として使用し、標準的な3電極式の電気化学セルでO2を使用することで行った。掃引速度を10mV/s、回転ディスクの回転数を1600rpmとしてLSVを測定した。対極としてPtを使用し、参照極としてAg/AgClを使用した。
【0115】
RRDEによるLSV測定の結果を示すグラフにおいて、縦軸に示す電流の発生が始まるときの横軸に示す付与電位が高いほど、酸素還元触媒能に優れることを意味する。
【0116】
(アルカリ性電解液を用いたRRDEによるLSV測定の場合)
図5は、比較例2から4の各電極のアルカリ性、1600rpmにおけるLSVの測定結果から酸化還元特性を比較して示すグラフである。この結果から、リンカー構造が結合した炭素材料と金属錯体構造を含む複合体を用いる比較例2の場合、炭素材料の表面上に金属錯体構造が吸着した複合体を用いる比較例3及びPt/Cを用いる比較例4の場合と比べて、優れた酸素還元触媒能を具備することが確認できた。
【0117】
図6は、実施例1並びに比較例1及び4の各電極のアルカリ性、1600rpmにおけるLSVの測定結果から酸化還元特性を比較して示すグラフである。この結果から、特定の化学構造を有するリンカー構造が結合した炭素材料と、特定の化学構造を有する金属錯体構造と、を含む本発明の複合体を用いる実施例1の場合、炭素材料の表面上に金属錯体構造が吸着した複合体を用いる比較例1及びPt/Cを用いる比較例4の場合と比べて、優れた酸素還元触媒能を具備することが確認できた。また、
図5及び
図6に示す結果から、本発明の複合体を含む電極(実施例1の電極)は、比較例1から4の各電極と比較して最も優れた酸素還元触媒能を具備することが確認できた。
【0118】
(中性電解液を用いたRRDEによるLSV測定の場合)
図7は、比較例2及び3の各電極の中性、1600rpmにおけるLSVの測定結果から酸化還元特性を比較して示すグラフである。この結果から、リンカー構造が結合した炭素材料と金属錯体構造を含む複合体を用いる比較例2の場合、炭素材料の表面上に金属錯体構造が吸着した複合体を用いる比較例3の場合と比べて、優れた酸素還元触媒能を具備することが確認できた。
【0119】
図8は、実施例1及び比較例1の各電極の中性、1600rpmにおけるLSVの測定結果から酸化還元特性を比較して示すグラフである。この結果から、特定の化学構造を有するリンカー構造が結合した炭素材料と、特定の化学構造を有する金属錯体構造と、を含む本発明の複合体を用いる実施例1の場合、炭素材料の表面上に金属錯体構造が吸着した複合体を用いる比較例1の場合と比べて、優れた酸素還元触媒能を具備することが確認できた。また、
図7及び
図8に示す結果から、本発明の複合体を含む電極(実施例1の電極)は、比較例1から3の各電極と比較して最も優れた酸素還元触媒能を具備することが確認できた。
【0120】
(開始電位)
LSV曲線において、電流の発生が始まる時の電位(ボルタモグラムにおいて酸化・還元電流が急激に増加する部分を外挿し、残余電流との交点を導き、その交点における電位)を開始電位と定義し、酸素還元反応の開始電位をEonsetと表記した。
【0121】
(半波電位)
酸素還元反応のLSV曲線において、限界電流値の半分の電流値に対応する電位を酸素還元反応における半波電位と定義した。酸素還元反応の半波電位をE1/2と表記した。
【0122】
実施例1及び比較例1から3の電極について、アルカリ性電解液を用いた場合の酸素還元反応の開始電位及び半波電位の測定を行った。それぞれの結果を表1に示す。また、実施例1及び比較例1から3の電極について、開始電位に対する半波電位の関係を
図9に示す。これらの結果から、本発明の複合体を含む電極(実施例1の電極)は、比較例1から3の各電極と比べて、開始電位及び半波電位のいずれも高いことが確認でき、優れた酸素還元触媒能を具備することが分かった。
【0123】
【0124】
(サイクリックボルタモグラム)
サイクリックボルタモグラムは、0.1M水酸化カリウム水溶液を電解液として使用し、標準的な3電極式の電気化学セルでN2を使用することで行った。白金板を対極として使用し、Ag/AgClを参照極として使用した。
【0125】
掃引速度:0.01V/sec
電位範囲:0.164~1.164(VvsRHE)
上記の電位範囲で、電位を変化させながら容量特性を測定した。サイクリックボルタモグラムの結果を示すグラフにおいて、0.75~1.1(VvsRHE)付近における金属錯体の2価/3価の酸化還元に由来する曲線のピークの起伏が大きいほど、炭素材料に結合又は吸着する金属錯体構造が多いことを意味する。
【0126】
図10は、比較例2及び3の電極を使用して、上記の条件でサイクリックボルタモグラム測定を行ったときの結果である。この結果から、リンカー構造が結合した炭素材料と金属錯体構造を含む複合体を用いる比較例2の場合、炭素材料の表面上に金属錯体構造が吸着した複合体を用いる比較例3の場合と比べて、0.75~1.1(VvsRHE)付近におけるピークの起伏が大きいことが確認できた。したがって、比較例3の複合体において炭素材料の表面上に吸着した金属錯体構造の量よりも、比較例2の複合体において炭素材料が有するリンカー構造に結合した金属錯体構造の量が多いことが確認できた。
【0127】
図11は、実施例1及び比較例1の電極を使用して、上記の条件でサイクリックボルタモグラム測定を行ったときの結果である。この結果から、リンカー構造が結合した炭素材料と金属錯体構造を含む複合体を用いる実施例1の場合、炭素材料の表面上に金属錯体構造が吸着した複合体を用いる比較例1の場合と比べて、0.75~1.1(VvsRHE)付近におけるピークの起伏が大きいことが確認できた。したがって、比較例1の複合体において炭素材料の表面上に吸着した金属錯体構造の量よりも、実施例1の複合体において炭素材料が有するリンカー構造に結合した金属錯体構造の量が多いことが確認できた。
【0128】
実施例1及び比較例1から4の電極について、窒素中で測定したサイクリックボルタモグラムにおける0.7V(vs.RHE)の時の反応電子数nを測定した。また、実施例1及び比較例1から3の電極について、窒素中で測定したサイクリックボルタモグラムにおける金属錯体の2価/3価の面積から算出して、金属錯体構造の吸着量Γを測定した。それぞれの結果を表2に示す。これらの結果から、本発明の複合体を含む電極(実施例1の電極)は、比較例1から3の各電極と比べて、酸素還元反応の活性が高く、金属錯体構造の吸着量が多いことが確認できた。
【0129】
【0130】
さらに、本発明の複合体を含む電極を使用した電池の特性評価を行うために、以下の工程によってバッテリーを作成した。
【0131】
<バッテリーの作成>
実施例1の電極(本発明の複合体を含む電極)及び比較例4の電極(Pt/C)を用いて、バッテリーを作成した。
【0132】
バッテリーの製造方法
実施例1の電極 2mgを0.98mLのエタノール及び0.5質量%のNafion水溶液20μLに分散させ、インクを作成した。インクをカーボンペーパー(e-5-4、筑波物質情報研究所有限会社)上に1.0mg/cm2の量で塗布し、バッテリーのカソードとした。0.02cm×1cm×1cmの亜鉛板(ZN-483381、株式会社ニラコ)をアノードとして用いた。直径0.8cmの開口部を側面に有する任意の容器に、開口部にカソード、容器内に亜鉛板を設置し、容器内を6MのKOHで満たすことで作成した。
【0133】
実施例1及び比較例4の電極を用いたバッテリーについて、それぞれ、電流密度(mA/cm
2)に対する電圧(V)を測定した。また、実施例1及び比較例4の電極を用いたバッテリーについて、それぞれ、電流密度(mA/cm
2)に対する出力密度(mW/cm
2)を測定した。これらの結果を
図12に示す。
【0134】
図12の結果より、Pt/C電極を用いた場合と比較して、本発明の複合体を含む電極を用いた場合、バッテリーの起電力が向上したことが確認できた。また、Pt/C電極を用いた場合と比較して、本発明の複合体を含む電極を用いた場合、バッテリーの出力密度が著しく向上したことが確認できた。
本発明の複合体は、燃料電池又は金属空気電池の正極において酸素還元反応を促進するため、有用である。また、本発明の複合体は、白金などのレアメタルを使用しないため、製造コストを抑えることができ、大量生産に適した製造工程を設計することができる。