(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076773
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】乳腺密度の算出方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20240101AFI20240530BHJP
【FI】
A61B6/00 330Z
A61B6/00 350Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188516
(22)【出願日】2022-11-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 集会名 :第31回日本乳癌検診学会学術総会 開催日 :2021年11月26日(2021年11月26日・27日) 〔刊行物等〕 配信年月日:2021年12月10日~24日(オンデマンド配信) 配信アドレス:https://convention.jtbcom.co.jp/jabcs2021/
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】浅井 義行
(72)【発明者】
【氏名】山室 美佳
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA01
4C093AA07
4C093CA18
4C093DA06
4C093FD03
4C093FD09
4C093FD11
4C093FF16
4C093FF28
4C093FG13
(57)【要約】
【課題】マンモグラフィの画像から乳腺密度を算出する際に基準値となる脂肪領域の画素値を求めるのは容易でなかった。
【解決手段】検査乳房厚(Dmt)と検査X線量(DRmt)と検査乳房X線画像を得る工程と、
予め複数の乳房X線サンプル撮影より得られる乳房厚(mt)とX線量(Rmt)と脂肪画素値(Ymt)の情報から、前記脂肪画素値(Ymt)を前記X線量(Rmt)で除して得られた単位X線量あたりの単位脂肪画素値(Ymt/Rmt=Zmt)と前記乳房厚(mt)を平準化することで求めた規格化乳房厚脂肪画素値(ZEmt)のうち前記検査乳房厚(Dmt)に対応する前記規格化乳房厚脂肪画素値(ZEmt)を前記検査X線量(DRmt)に乗じて検査乳房厚脂肪画素値(DY)を求める工程と
前記検査乳房厚脂肪画素値(DY)を用いて乳腺密度を求める工程を有する乳腺密度の算出方法は、妥当な脂肪画素値を容易に求めることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳房X線撮影装置で得られるマンモグラフィ画像から乳腺密度を算出する際に用いられる検査乳房厚脂肪画素値(DY)を前記マンモグラフィ画像の撮影時に得られる検査乳房厚(Dmt)に対応し、前記撮影時の検査X線量(DRmt)に乗ずることで前記検査脂肪画素値(DY)を算出できる規格化乳房厚脂肪画素値(ZEmt)の算出方法であって、
乳房厚(mt)とX線量(Rmt)と脂肪画素値(Ymt)の情報を有する複数の乳房X線サンプル画像データに対して前記脂肪画素値(Ymt)を前記X線量(Rmt)で除し、単位X線量あたりの脂肪画素値(Ymt/Rmt=Zmt)を算出する工程と、
前記単位X線量あたりの脂肪画素値(Zmt)と前記乳房厚(mt)を平準化し、前記乳房厚(mt)毎の前記規格化乳房厚脂肪画素値(ZEmt)を算出する工程を有する規格化乳房厚脂肪画素値の算出方法。
【請求項2】
乳房X線撮影時の検査乳房厚(Dmt)と検査X線量(DRmt)と検査乳房X線画像を得る工程と、
予め複数の乳房X線サンプル撮影より得られる乳房厚(mt)とX線量(Rmt)と脂肪画素値(Ymt)の情報から、前記脂肪画素値(Ymt)を前記X線量(Rmt)で除して得られた単位X線量あたりの脂肪画素値(Ymt/Rmt=Zmt)と前記乳房厚(mt)を平準化することで求めた規格化乳房厚脂肪画素値(ZEmt)のうち前記検査乳房厚(Dmt)に対応する前記規格化乳房厚脂肪画素値(ZEmt)を前記検査X線量(DRmt)に乗じて検査乳房厚脂肪画素値(DY)を求める工程と
前記検査乳房厚脂肪画素値(DY)を用いて乳腺密度を求める工程を有する乳腺密度の算出方法。
【請求項3】
前記乳腺密度を求める工程は、
前記検査乳房X線画像において前記検査乳房厚脂肪画素値(DY)より胸筋側の領域で乳腺密度を測定する工程である請求項2に記載された乳腺密度の算出方法。
【請求項4】
少なくとも圧迫板で挟んだ乳房をX線撮影し、前記乳房のX線画像を表示する表示装置を持った乳房X線撮影装置であって、
予め複数の乳房X線サンプル撮影より得られる乳房厚(mt)とX線量(Rmt)と脂肪画素値(Ymt)の情報から、前記脂肪画素値(Ymt)を前記X線量(Rmt)で除して得られた単位X線量あたりの脂肪画素値(Ymt/Rmt=Zmt)と前記乳房厚(mt)を平準化することで求めた規格化乳房厚脂肪画素値(ZEmt)と前記乳房厚(mt)を対応付ける参照テーブルと、
撮影された乳房のデータのうち前記検査乳房厚(Dmt)に対応する前記規格化乳房厚脂肪画素値(ZEmt)を前記検査X線量(DRmt)に乗じて算出した検査乳房厚脂肪画素値(DY)を算出し、
前記撮影された乳房のX線画像上に前記検査乳房厚脂肪画素値(DY)を有する画素のうち、前記検査乳房厚脂肪画素値(DY)より画素値の大きな画素と隣接する画素をマークする制御部を有する乳房X線撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマンモグラフィで得られる乳房のX線画像から乳腺密度を算出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌は乳腺密度と関連するといわれており、乳腺密度を観測できる乳房X線装置(マンモグラフィ)が利用されている。マンモグラフィ画像から3次元乳腺密度(乳腺密度と呼ぶ)を計測するためには画像に含まれる脂肪領域と乳腺領域の画素値が要求される。このうち、基準となるのは脂肪領域の画素値(以後「脂肪画素値」と呼ぶ)であり、その精度が乳腺密度計測の精度を左右する重要な要素となる。
【0003】
特許文献1には、X線画像を所定の表示部において表示する際の表示条件として、当該X線画像を構成する画素の画素値のうち前記所定の表示部にて表示される画素値の範囲と、当該画素値の範囲における中央値とを、被検体の乳房において推定された乳腺密度に応じて算出する表示条件算出手段を有する画像表示装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は撮影したX線画像において乳房部分を常にコントラスト良く表示する手法であるが、却ってX線画像毎の脂肪画素値がわかりにくくなり、乳腺密度を数値的に求め比較しようとすると容易でないという課題を有する。
【0006】
現在、市販の乳腺密度自動計測ソフトは基準値の算出法及び算出値を開示しておらず、独自の値を設定して乳腺密度値だけを表示している。そのため、同一のマンモグラフィ画像の乳腺密度を異なる自動解析ソフトで計測すると3~4倍も異なる結果が得られており、臨床の場においてどの値が正しいのか判断できず、乳腺密度と関連する乳癌罹患の危険性や病変見落としの危険性を患者へ詳しく説明することができていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、異なる条件で撮影されたX線画像であっても、精度よく脂肪画素値を得ることができ、安定した乳腺密度を算出するための係数となる規格化乳房厚脂肪画素値を与える方法を提供する。
【0008】
より具体的に本発明に係る規格化乳房厚脂肪画素値の算出方法は、
乳房X線撮影装置で得られるマンモグラフィ画像から乳腺密度を算出する際に用いられる検査乳房厚脂肪画素値(DY)を前記マンモグラフィ画像の撮影時に得られる検査乳房厚(Dmt)に対応し、前記撮影時の検査X線量(DRmt)に乗ずることで前記検査乳房厚脂肪画素値(DY)を算出できる規格化乳房厚脂肪画素値(ZEmt)の算出方法であって、
乳房厚(mt)とX線量(Rmt)と脂肪画素値(Ymt)の情報を有する複数の乳房X線サンプル画像データに対して前記脂肪画素値(Ymt)を前記X線量(Rmt)で除し、単位X線量あたりの脂肪画素値(Ymt/Rmt=Zmt)を算出する工程と、
前記単位X線量あたりの単位脂肪画素値(Zmt)と前記乳房厚(mt)を平準化し、前記乳房厚(mt)毎の前記規格化乳房厚脂肪画素値(ZEmt)を算出する工程を有することを特徴とする。
【0009】
また、この規格化乳房厚脂肪画素値を用いた乳腺密度算出方法も提供する。
【0010】
より具体的に本発明に係る乳腺密度算出方法は、
乳房X線撮影時の検査乳房厚(Dmt)と検査X線量(DRmt)と検査乳房X線画像を得る工程と、
予め複数の乳房X線サンプル撮影より得られる乳房厚(mt)とX線量(Rmt)と脂肪画素値(Ymt)の情報から、前記脂肪画素値(Ymt)を前記X線量(Rmt)で除して得られた単位X線量あたりの脂肪画素値(Ymt/Rmt=Zmt)と前記乳房厚(mt)を平準化することで求めた規格化乳房厚脂肪画素値(ZEmt)のうち前記検査乳房厚(Dmt)に対応する前記規格化乳房厚脂肪画素値(ZEmt)を前記検査X線量(DRmt)に乗じて検査乳房厚脂肪画素値(DY)を求める工程と
前記検査乳房厚脂肪画素値(DY)を用いて乳腺密度を求める工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る乳腺密度算出方法は、乳房厚毎に求められた撮影時のX線量当たりの脂肪画素値である規格化乳房厚脂肪画素値を用いるので、実際の撮影時の乳房厚(これを検査乳房厚と呼ぶ。)に対応する規格化乳房厚脂肪画素値をX線撮影時のX線量(これを検査X線量と呼ぶ。)に乗じることで、撮影されたX線画像における妥当な脂肪画素値(これを検査脂肪画素値DYmt若しくは単にDYと呼ぶ。)を得ることができ、安定して乳腺密度を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】マンモグラフィの撮影の概略を示す図である。
【
図3】乳房厚mtと単位脂肪画素値Zmtを近似した式を規格化乳房厚脂肪画素式100を示す図である。
【
図4】乳房厚mtと単位脂肪画素値Zmtの実測値例を示すグラフである。
【
図7】乳腺密度を測定する処理を示すフロー図である。
【
図8】圧迫不足で乳腺密度の算出から削除する部分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明に係る乳腺密度の算出方法について図面を用いて説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0014】
本発明に係る乳腺密度の算出方法では、いかなる条件でのX線撮影画像であっても、同一厚みの脂肪領域の単位X線量当たりの画素値は同じであるという発想に基づく。
【0015】
図1にマンモグラフィの撮影の概略図を示す。
図1(a)は、典型的に撮影される乳房のX線画像10を示す。
図1(b)は撮影時の様子を示す。
図1(b)を参照して、乳房12は、被験者の左右から押し当てられる圧迫板30で平たく伸ばされ、左右方向の何れか一方からX線が照射され、他方向の受光部32で画像化される。
【0016】
この時にX線画像10の他、撮影時の乳房厚(以後「検査乳房厚Dmt」と呼ぶ。)、撮影時のX線量(以後「検査X線量DRmt」と呼ぶ。単位はmAsであり、mAs値とも呼ばれる。)も同時に計測される。すなわち、マンモグラフィの撮影では、少なくともX線画像10と検査乳房厚Dmtと検査X線量DRmtは同一被験者からのデータとして一括に扱われる。これをマンモグラフィデータ20と呼ぶ。またX線画像10はデジタルデータとして取得され、各画素での値(画素値)はデジタルデータとして扱うことができる。
【0017】
乳房12は、脂肪領域14と、乳腺領域16とニップル18で構成される。乳腺密度は、脂肪領域14の、面積当たりの重量と乳腺領域16の面積当たりの質量の比で表される。これには、乳腺領域(乳腺組織)16の厚さおよび脂肪領域14の厚さが必要となる。X線画像10からこれらの厚みを算出する手法として(1)式のEngelandの式がよく知られている。
【0018】
【数1】
T
gla:乳腺組織の厚さ
P
gla:乳腺領域の画素値
P
adi:脂肪領域の画素値
μ(eff):脂肪および乳腺組織の実効線減弱係数
N:撮影管電圧での全光子数
n:光子エネルギー毎の光子数
E:光子エネルギー
【0019】
(2)式は、(1)式の分母を算出するための式で、脂肪領域14および乳腺領域16がそれぞれどれだけのX線を減弱させるかを表す。この部分は乳房X線撮影装置毎で決まる値となる。
【0020】
(1)式において、Padiが脂肪領域14の画素値に当たる。この脂肪領域14の画素値を検査乳房厚「Dmt」の時の脂肪画素値という意味で以後「検査脂肪画素値DYmt」と呼ぶ。また、「撮影で得られたマンモグラフィ画像の脂肪画素値DY」もしくは「検査乳房厚脂肪画素値DY」と呼んでもよい。
【0021】
検査脂肪画素値DYmtは従来「閾値法」などの公知の方法で、X線画像10毎にエキスパートがX線画像10の画素値を特定表示させながら、乳腺領域16の形状分布などを考慮し逐次マニュアルで決められていた。本発明は、検査乳房厚Dmt毎に求めた規格化乳房厚脂肪画素値ZEmtを検査X線量DRmtに乗ずるだけで検査脂肪画素値DYmtすなわち撮影で得られたマンモグラフィ画像の脂肪画素値DYを算出する方法を提供する。
【0022】
規格化乳房厚脂肪画素値ZEmtは以下のように求める。
図2を参照して、まず、多くのサンプル用マンモグラフィデータ24を収集する。これらは乳房X線サンプル撮影によって得られるが、通常のマンモグラフィの撮影であってよい。この際(i)脂肪の含有量が顕著に少ないマンモグラフィ画像、(ii)ポジショニングが適切に行われていないマンモグラフィ画像、(iii)乳房の形状が標準的でないケース、においては脂肪画素値Ymtを求める際の誤差が大きくなる場合があるので、削除するのが望ましい。
【0023】
サンプル用マンモグラフィデータ24には、X線画像XG、乳房厚mt、X線量Rmt、脂肪画素値Ymtが含まれる。すなわち、エキスパートによる脂肪画素値Ymtが付与されている。サンプル用マンモグラフィデータ24はn個あるとして、それぞれのパラメータの右下に添え字で示す。例えば、1番目のサンプル用マンモグラフィデータ24には、X線画像XG1、乳房厚mt1、X線量Rmt1、脂肪画素値Ymt1が含まれる。
【0024】
また、これらのサンプル用マンモグラフィデータ24の集合をマンモグラフィデータ母集団26と呼ぶ。マンモグラフィデータ母集団26は同一機種の乳房X線撮影装置のデータが好ましい。機種が異なると、X線量の設定や受光部32の構成や感度が異なる場合があるからである。
【0025】
図2(b)には、乳房厚mt、X線量Rmt、脂肪画素値Ymtをまとめたテーブル形式で示す。さらに脂肪画素値YmtをX線量Rmtで除したものを示す。これは単位X線量あたりの脂肪画素値であり、単位脂肪画素値Zmtと呼ぶ。乳房厚mtは
図1(b)で示す様に、撮影時には乳房を一定の圧力で押さえつけており、乳腺領域16のない脂肪領域14の厚みとほぼ考えられる。したがって、いかなる条件でのX線撮影画像であっても、同一厚みの脂肪領域の単位X線量当たりの画素値は同じであるならば、単位脂肪画素値Zmtは、乳房厚mtと比例関係にあるはずである。
【0026】
実際は、使用するX線のエネルギーに幅があり、また、脂肪画素値Ymtの決定にも誤差が入る。そこで、乳房厚mtと単位脂肪画素値Zmtを最小二乗法により平準化する。このように乳房厚mtと単位脂肪画素値Zmtを近似した式を規格化乳房厚脂肪画素式100と呼ぶ。
【0027】
図3にその様子を示す。
図3において、横軸は乳房厚mtであり、縦軸は単位脂肪画素値Zmtである。黒丸は、乳房厚mt毎の単位脂肪画素値Zmtの平均を表す。単位脂肪画素値Zmtは、乳房厚mtに対して明らかに不連続となる点DCPを有する。これは、乳房厚mtの変化に伴い撮影装置の管電流のレンジが切り替わることで生じると考えられる。このような場合は、不連続点DCPを除いた領域に分け、領域ごとに平準化を行う。
図3では、領域AM1とAM2とAM3である。なお、不連続点DCPはそれ毎に扱ってよいし、それ以降の領域の先頭データとして扱ってもよい。
【0028】
図4には、ある乳房X線撮影装置において、サンプル用マンモグラフィデータ24が300枚のマンモグラフィデータ母集団26を用いて乳房厚mtと単位脂肪画素値Zmtをプロットしたものである。各黒丸はその乳房厚mtにおける平均値である。この装置では、乳房厚mtが10mmから80mmの間に7つの不連続点DCPがあり、7つの領域に分けて平準化を行う。
【0029】
再度
図3を参照し、乳房厚mtと単位脂肪画素値Zmtを近似する近似式の型式は特に限定されないが、指数関数や多項式が好適に利用できる。
図3では、乳房厚mtの2次多項式で近似した様子を示す。言い換えれば
図3では、規格化乳房厚脂肪画素式100を乳房厚mtの2次多項式として表した。
図3では、乳房厚mtの3つの領域ごとに規格化乳房厚脂肪画素式100が求められている。
【0030】
この多項式は、乳房厚mtを与えると、単位脂肪画素値Zmtの推定値を算出する式である。この推定値を規格化乳房厚脂肪画素値ZEmtと呼ぶ。この規格化乳房厚脂肪画素値ZEmtは、その乳房X線撮影装置において、「同一厚みの脂肪領域の単位X線量当たりの画素値は同じ」という思想から求められたもので、ある検査乳房厚Dmtに対して検査X線量DRmtを照射したとすれば、DRmt×ZEmtが検査脂肪画素値DYmtであり、撮影で得られたマンモグラフィ画像の脂肪画素値DYとなる。
【0031】
実際の乳房X線撮影装置では、規格化乳房厚脂肪画素式100を内蔵しておき、その都度規格化乳房厚脂肪画素値ZEmtを算出してもよいが、参照テーブルにしておくとアクセスも早い。特に不連続点DCPが存在する場合は参照テーブルにして保持するのが望ましい。
図5には、この参照テーブルを例示する。
図5(a)は
図2(b)の情報も含めた参照テーブルT1である。参照テーブルとしては、
図5(b)のように乳房厚mtと規格化乳房厚脂肪画素値ZEmtを有した参照テーブルT2であれば足りる。
【0032】
図6に本発明による検査脂肪画素値DYmtの算出方法を示す。新たなマンモグラフィデータ20が得られたとする。ここにはX線画像10と検査乳房厚Dmtと検査X線量DRmtが含まれる。まず検査乳房厚Dmtと同じ乳房厚mt
iを参照テーブルT2から探す(P1)。そして、乳房厚mt
iに対応する規格化乳房厚脂肪画素値ZEmt
iを参照テーブルT2から選出する。そして、撮影で得たX線画像10の検査脂肪画素値DYmtを検査X線量DRmtと規格化乳房厚脂肪画素値ZEmt
iの積として求める(P2)。これが撮影で得られたマンモグラフィ画像の脂肪画素値DYである。
【0033】
また、規格化乳房厚脂肪画素値ZEmtiを規格化乳房厚脂肪画素式100から求めてもよい。P11には、規格化乳房厚脂肪画素式100に検査乳房厚Dmtを代入して規格化乳房厚脂肪画素値ZEmt*を算出し、P12でこれに検査X線量DRmtを乗ずることで検査脂肪画素値DYmtを求めるプロセスを示した。なお、不連続点DCPが規格化乳房厚脂肪画素式100に組み込まれていない場合は、その時の検査乳房厚Dmtについては、別途参照テーブルから引いてくる。
【0034】
以上にようにして検査脂肪画素値DYmt(検査乳房厚脂肪画素値DY)を求め、これを(1)式のPadiとすることで、乳腺密度を求めることができる。
【0035】
図7には、(1)式のEngelandの式を用いた乳腺密度の具体的な算出フローの一例を示す。乳腺密度MaMdを算出する際には、対象となるマンモグラフィデータ20が得られている事、規格化乳房厚脂肪画素値ZEmtが求められている事、撮影した乳房X線撮影装置の設定から(2)式について求められている事が必要である。また、規格化乳房厚脂肪画素値ZEmtは、
図5(b)に示した参照テーブルT2の状態で算出されているものとする。
【0036】
図7を参照して、処理が開始されると(ステップS100)、脂肪領域の画素値Padiに撮影されたマンモグラフィデータ20の検査乳房厚Dmtに対応する乳房厚mtの規格化乳房厚脂肪画素値ZEmtが入力される(ステップS102)。
【0037】
次に乳腺密度を算出したい領域の画素値(乳腺領域16の画素値)を入力する(ステップS104)。実際は乳腺領域16と考えられる一定の領域を指定し、その領域の画素値の平均値を入力するようにしてもよい。
【0038】
次に(1)式のEngelandの式を用いて乳腺組織の厚さTgla(mm)を算出する(ステップS106)。そして、脂肪組織の厚さTadi(mm)を乳房厚mtから乳腺組織の厚さTglaを引くことで求める(ステップS108)。
【0039】
乳腺密度MaMdは、乳房に対する乳腺組織の質量比として表される。乳腺組織と脂肪組織の比重を、それらをρadi(g/mm3)、ρgla(g/mm3)とすれば、Tgla*ρglaとTadi*ρadi、はそれぞれ乳腺組織の面積質量(g/mm2)と脂肪組織の面積質量(g/mm2)となる。従って、乳腺密度はこれらの比として算出される(ステップS110)。その後処理は停止する(ステップS120)が、他の処理に移ることも可能である。
【0040】
このフローは乳房X線撮影装置の制御装置で行われてもよい。またこのフローを実行できるプログラムとして提供されることもできる。乳房X線撮影装置としては、
図5の参照テーブルT2と上記のフローを実行する制御装置を有していれば本発明を実施する乳房X線撮影装置と言える。
【0041】
図8には、再度X線画像10(
図8(a))と圧迫板30で圧迫した乳房12(
図8(b))を示した。
図8(b)を参照して、領域S2は圧迫板30で両側から圧迫している領域で、しかも脂肪だけの領域である。この領域S2の画素値は検査脂肪画素値DYmtとして求めることができる。一方領域S1は圧迫板30では押しきれていない部分である。すなわち、脂肪画素値Ymtを正しく適用できない範囲であるので、領域S1は乳腺密度の算出としては、省くべき領域である。
【0042】
領域S1と領域S2の境界SPは、検査脂肪画素値DYmtを境界値として識別することができる。つまり、検査脂肪画素値DYmtより画素値が高い部分が領域S1となる。このように、本発明によって与えられる規格化乳房厚脂肪画素値ZEmtを用いて検査脂肪画素値DYmtを算出すると、乳腺密度を算出するのに好適な領域S2を得ることができる。
【0043】
図8(a)のX線画像10でこの境界SPを例示した。つまり、検査脂肪画素値DYmtで作られるニップル側の境界SPよりニップル側の領域S1は乳腺密度を算出する際には除外する。言い換えると、境界SPより胸筋側の領域が乳腺密度を測定するのに好適な領域である。
【0044】
すなわち、少なくとも圧迫板で挟んだ乳房をX線撮影し、そのX線画像を表示する表示装置を持った乳房X線撮影装置において、表示された乳房のX線画像に本発明によって得られる規格化乳房厚脂肪画素値ZEtmを用いた検査脂肪画素値DYmtと、検査脂肪画素値DYmtより画素値の大きな領域との境界線を表示できれば、乳腺密度の算出の際に誤った部分を指定することを排除できる。
【0045】
具体的に境界SPは、検査乳房厚脂肪画素値(DY)を有する画素のうち、検査乳房厚脂肪画素値(DY)より画素値の大きな画素と隣接する画素をマーキングすることで、得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は乳腺密度の算出ソフトだけでなく乳腺X線撮影装置にも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0047】
10 X線画像
12 乳房
14 脂肪領域
16 乳腺領域
18 ニップル
20 マンモグラフィデータ
30 圧迫板
32 受光部
100 規格化乳房厚脂肪画素式
Dmt 検査乳房厚
DRmt 検査X線量
DYmt 検査脂肪画素値
ZEmt 規格化乳房厚脂肪画素値
24 サンプル用マンモグラフィデータ
mt 乳房厚
Rmt X線量
Ymt 脂肪画素値
26 マンモグラフィデータ母集団
Zmt 単位脂肪画素値
DCP 不連続点