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特開2024-76786電子制御ユニットの評価システムおよび評価方法
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  • 特開-電子制御ユニットの評価システムおよび評価方法 図1
  • 特開-電子制御ユニットの評価システムおよび評価方法 図2
  • 特開-電子制御ユニットの評価システムおよび評価方法 図3
  • 特開-電子制御ユニットの評価システムおよび評価方法 図4
  • 特開-電子制御ユニットの評価システムおよび評価方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076786
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】電子制御ユニットの評価システムおよび評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/00 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
G01R31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188544
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 幸
(72)【発明者】
【氏名】梶田 治
(72)【発明者】
【氏名】米山 武志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 政伎
【テーマコード(参考)】
2G036
【Fターム(参考)】
2G036AA28
2G036BA36
(57)【要約】
【課題】信号改善機能(SIC)を有する通信トランシーバICを搭載した電子制御ユニット(ECU)の評価を実現するための評価システムおよび評価方法を提供する。
【解決手段】信号改善機能を有する通信トランシーバICを搭載した電子制御ユニットの評価システムであって、電子制御ユニットを実装した送信側の通信装置と受信側の通信装置とを差動接続する、長さ1.8m以上の一対の通信線と、一対の通信線の中央部に接続されるリンギングを発生させる回路と、を備え、リンギングを発生させる回路の構成をSパラメータの解析によって導出している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号改善機能を有する通信トランシーバICを搭載した電子制御ユニットの評価システムであって、
前記電子制御ユニットを実装した送信側の通信装置と受信側の通信装置とを差動接続する、長さ1.8m以上の一対の通信線と、
前記一対の通信線の中央部に接続されるリンギングを発生させる回路と、を備え、
前記リンギングを発生させる回路の構成をSパラメータの解析によって導出した、評価システム。
【請求項2】
請求項1に記載の前記評価システムを用いた評価方法であって、
前記一対の通信線と前記リンギングを発生させる回路とを有した前記評価システムの状態でEMC性能の評価を実施する、評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号改善機能(SIC:Signal Improvement Capability)を有する通信トランシーバICを搭載した電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)の性能評価に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、通信速度が高速に切り替えられて通信信号が送信されてきた場合でも、通信信号に発生するリンギングの影響を受けることなく、送信されてくる通信信号からデータを正確に復元できる通信装置が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-195082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CAN(Controller Area Network)の標準化団体であるCiA(CAN in Automation)の国際規格「601-4 version 2.0」では、通信トランシーバICの単体における信号改善機能の評価方法(SIC評価方法)を規格化している。しかしながら、信号改善機能(SIC)を有する通信トランシーバICを搭載した電子制御ユニット(ECU)の評価方法については、その定義もされておらず規格が存在しない。
【0005】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、信号改善機能(SIC)を有する通信トランシーバICを搭載した電子制御ユニット(ECU)の評価を実現するための評価システムおよび評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、信号改善機能を有する通信トランシーバICを搭載した電子制御ユニットの評価システムであって、電子制御ユニットを実装した送信側の通信装置と受信側の通信装置とを差動接続する、長さ1.8m以上の一対の通信線と、一対の通信線の中央部に接続されるリンギングを発生させる回路と、を備え、リンギングを発生させる回路の構成をSパラメータの解析によって導出した、評価システムである。
【発明の効果】
【0007】
上記本開示によれば、信号改善機能(SIC)を有する通信トランシーバICを搭載した電子制御ユニット(ECU)の評価を実現するための評価システムおよび評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係るSIC対応通信トランシーバICを搭載したECUの評価システムの構成例を示す図
図2】リンギング発生回路の構成例を示す図
図3】ミックスドモードSパラメータSdd21の信号通過特性の一例を示す図
図4】受信側のECUが受信する差動信号に発生するリンギング波形の一例を示す図
図5】SIC用のBCI試験を行う回路構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、信号改善機能(SIC)を有する通信トランシーバICを搭載する電子制御ユニット(ECU)を基板に実装した状態における評価試験が未定義という課題に対して、規格済みである通信トランシーバIC単体の評価を行うときと同等のリンギング波形を発生させる回路構成を、通信路を含むSパラメータ解析によって明確化する手法を見出した。
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
<実施形態>
[評価システムの構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る電子制御ユニット(ECU)の評価システム10の構成の一例を示す図である。図1に例示した評価システム10は、送信側のECU100と、受信側のECU200と、一対の通信線300と、リンギング発生回路500と、を備える。
【0011】
送信側のECU100は、通信トランシーバIC110を搭載した電子制御ユニットである。評価システム10における送信側のECU100は、送信側のECU100がテスト基板(または製品基板)に実装されたテスト試験用の通信装置として構成される。この送信側のECU100には、一対の通信線300を接続するコネクタ120が設けられている。
【0012】
通信トランシーバIC110は、信号改善機能(SIC)を有しており、受信側のECU200との間で、差動信号を用いた通信(例えば、CAN(Controller Area Network)やCAN-FD(CAN with Flexible Data-Rate)など)を行うことができる通信ICである。
【0013】
受信側のECU200は、送信側のECU100との間で、差動信号を用いた通信を行うことができる通信装置である。この受信側のECU200には、一対の通信線300を接続するコネクタ220が設けられている。
【0014】
一対の通信線300は、長さ1.8m以上の2本の信号線が一対となった差動通信用のペアケーブル(撚り線タイプ)である。この一対の通信線300は、コネクタ120およびコネクタ220を介して、送信側のECU100と受信側のECU200とを通信可能に接続する。また、一対の通信線300は、その中央部にリンギング発生回路500を接続する。ここで、中央部には、一対の通信線300の中間点およびその中間点の近傍範囲が含まれる。
【0015】
本実施形態の評価システム10では、一対の通信線300を車載相当の線長(例えば10m)の長さとして、送信側のECU100および受信側のECU200のどちらからも同じ距離(例えば5mの距離)となる中間点に、リンギング発生回路500が接続されている。
【0016】
リンギング発生回路500は、一対の通信線300を通信する差動信号にリンギング波形を発生させるための回路である。図2に、電子制御ユニット用のリンギング発生回路500の回路構成の一例を示す。図2に例示するリンギング発生回路500は、反射発生源およびLC通信路を模擬したものであり、抵抗Rを60ΩおよびインダクタLを1.2μHからなる回路構成としている。このリンギング発生回路500の回路構成は、Sパラメータの解析によって導出される。
【0017】
[リンギング発生回路の回路構成の導出例]
上述した通信トランシーバIC110の単体におけるSIC評価方法に用いられるCiAのリンギング発生回路は、通信トランシーバIC110を一対一の状態で車両に搭載したときの配索(通信線や分岐など)を再現するものである。しかし、この一対一配索状態における電子制御ユニット評価では、通常はリンギングが発生しない。
【0018】
本実施形態では、一対の通信線300(通信線モデル)とリンギング発生回路500(電子制御ユニット用のリンギング発生回路)とによって、一対一配索におけるリンギング発生状態の表現は可能であると考え、さらに国際規格相当とするためには、一対の通信線300(回路構成の一部)の長さが変化することからSパラメータ解析により必要な構成を明確化する。
【0019】
図3に、ミックスドモードSパラメータSdd21の信号通過特性の一例を示す。また、図4に、受信側のECU200が受信する差動信号に発生するリンギング波形の一例を示す。
【0020】
一対の通信線300とリンギング発生回路500とによって一対一配索におけるリンギング発生状態の表現するためには、リンギング発生に寄与する低周波数のインピーダンスを合わせる必要がある。図3の例では、目標とするCiAリンギング発生回路の特性(破線)に、本実施形態のリンギング発生回路500の特性を合わせるべく、長さ10mの一対の通信線300の中間点(5m地点)に抵抗R=60ΩかつインダクタL=1.2μHのリンギング発生回路500を接続した回路構成の特性(実線)を合わせている。なお、図3に示した解析例は、信号通過特性であるが、例えばスミスチャートによるインピーダンスなど、その他の解析であってもよい。
【0021】
これによって、図4に例示するように、長さ10mの一対の通信線300の中間点(5m地点)に抵抗R=60ΩかつインダクタL=1.2μHのリンギング発生回路500を接続した回路構成によるリンギング波形(実線)を、CiA規定のリンギング発生回路によるリンギング波形(破線)に近づけることができる。
【0022】
[EMC性能の評価試験例]
送信側のECU100と受信側のECU200とを長さ10mの一対の通信線300で接続し、一対の通信線300の中間点となる送信側のECU100から5mかつ受信側のECU200から5mの地点に、抵抗R=60ΩかつインダクタL=1.2μHからなるリンギング発生回路500を接続した回路構成の状態で、電磁波ノイズ対策の効果を確認するためのEMC(Electro-Magnetic Compatibility)性能の評価を実施する。
【0023】
車両の電装機器などのEMC性能を評価する試験としては、通常、BCI(Bulk Current Injection)試験が採用される。このBCI試験は、図5に例示するように、BCIプローブ400を介して、例えば1~400MHz程度の高周波妨害電流(ノイズ信号)を一対の通信線300に注入して、一対の通信線300を伝搬するノイズ信号を測定することで耐ノイズ性能を推定し、イミュニティ性能を評価するものである。
【0024】
<作用・効果>
以上説明したように、本開示の一実施形態に係る信号改善機能(SIC)を有する通信トランシーバIC110を搭載した電子制御ユニットの評価システム10は、送信側のECU100と受信側のECU200とを一対の通信線300によって差動接続し、さらに一対の通信線300の中央部にリンギング発生回路500を接続する構成を備えている。そして、この評価システム10は、リンギング発生回路500の回路構成をSパラメータの解析によって導出する。
【0025】
これによって、CiAの国際規格「601-4 version 2.0」において規格化されている通信トランシーバIC110の単体評価のときと同等のリンギング波形を発生させることができるリンギング発生回路500の構成を、特定することができる。また、この回路構成では、一対の通信線300の長さが異なる場合においても、必要なリンギング発生回路500を明確化することができる。
【0026】
また、本開示の一実施形態に係る信号改善機能(SIC)を有する通信トランシーバIC110を搭載した電子制御ユニットの評価方法によれば、一対の通信線300とリンギング発生回路500とを有した評価システム10の状態においてEMC性能の評価を実施する。
【0027】
この電子制御ユニットの評価方法によって、イミュニティ性能の推定誤差を低減させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本開示の電子制御ユニットの評価システムおよび評価方法は、特に一対一通信時に国際規格相当のリンギング発生回路の要件を導出する(リンギング動作を実現したい)場合などに有用である。
【符号の説明】
【0029】
10 評価システム
100 送信側のECU
110 通信トランシーバIC
120 コネクタ
200 受信側のECU
220 コネクタ
300 一対の通信線
400 BCIプローブ
500 リンギング発生回路
図1
図2
図3
図4
図5