(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076809
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
B23B 13/02 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
B23B13/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188588
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000107642
【氏名又は名称】スター精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】石井 克典
(72)【発明者】
【氏名】杉本 隆
【テーマコード(参考)】
3C045
【Fターム(参考)】
3C045FC04
3C045FC14
(57)【要約】
【課題】棒材のとび出しを防止した工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法を提供する。
【解決手段】旋盤システム1は、把持解除可能に棒材Wを把持する主軸25と、棒材Wの先端部分を加工する第1加工工具T1が取り付けられて棒材Wの軸心方向とは直交する方向に移動可能な第1刃物台27と、付勢解除可能に棒材Wの後端側から棒材Wの先端側に向かって棒材Wを付勢する送り矢44と、送り矢44が棒材Wを付勢した状態でかつ主軸25が棒材Wの把持を解除した状態にある場合に、第1刃物台27が棒材Wから離間する方向に移動することを禁止する刃物台移動禁止部20bとを備えている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持解除可能に棒材を把持する主軸と、
前記棒材の先端部分を加工する加工工具が取り付けられて該棒材の軸心方向とは直交する方向に移動可能な刃物台と、
付勢解除可能に前記棒材の後端側から該棒材の先端側に向かって該棒材を付勢する送り矢と、
前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態にある場合に、前記刃物台が該棒材から離間する方向に移動することを禁止する刃物台移動禁止部とを備えたことを特徴とする工作機械システム。
【請求項2】
把持解除可能に棒材を把持する主軸と、
付勢解除可能に前記棒材の後端側から該棒材の先端側に向かって該棒材を付勢する送り矢と、
前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態にある場合に、前記送り矢が所定距離を超えて移動したら該送り矢の付勢を解除させる付勢解除部とを備えたことを特徴とする工作機械システム。
【請求項3】
把持解除可能に棒材を把持する主軸と、移動可能な刃物台と、前記棒材の後端側から該棒材の先端側に向かって該棒材を付勢する送り矢とを備えた工作機械システムの制御方法において、
前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態であるか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程において前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態であると判定した場合に、前記刃物台が該棒材から離間する方向に移動することを禁止する刃物台移動禁止工程とを有することを特徴とする工作機械システムの制御方法。
【請求項4】
把持解除可能に棒材を把持する主軸と、前記棒材の後端側から該棒材の先端側に向かって該棒材を付勢する送り矢とを備えた工作機械システムの制御方法において、
前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態であるか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程において前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態であると判定した場合に、該送り矢が所定距離を超えて移動したら該送り矢の付勢を解除させる付勢解除工程とを備えたことを特徴とする工作機械システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、把持解除可能に棒材を把持する主軸と、前記棒材の後端側から該棒材の先端側に向かって該棒材を付勢する送り矢とを備えた工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械システムには、主軸や刃物台が設けられた加工装置と、加工装置に長尺状の棒材を供給する給材機とを備えたものがある(例えば特許文献1参照)。加工装置の主軸は、把持解除可能に棒材を把持して回転する。主軸は、棒材を把持した状態および把持解除した状態の何れの状態においても棒材の軸心方向に移動可能に構成されている。加工装置には第1制御装置が組み込まれている。第1制御装置は、工作機械システムのオペレータなどが作成した加工プログラム(NCプログラム)や加工装置に設けられた操作パネルを用いた入力操作に従って加工工具が取り付けられた刃物台や主軸などの動作を制御する。第1制御装置が加工プログラムに従って刃物台や主軸の動作を制御することで、棒材の先端部分が所望の形状に加工され、加工された加工済み部分が切り離される。
【0003】
給材機は、加工装置と並んで加工装置よりも棒材の後端側に設置される。給材機は、送り矢と、送り矢を棒材の軸心方向に移動させる送り矢駆動機構と、送り矢駆動機構の動作を制御する第2制御装置とを備えている。送り矢は、先端にフィンガーチャックを備えている。そのフィンガーチャックが棒材の後端部分を掴むことで、送り矢は棒材と連結される。そして、送り矢駆動機構によって送り矢が棒材の先端側に向かって送り出されることで給材機に投入された棒材が加工装置に供給される。また、送り矢は、供給した棒材を所定の荷重で棒材の後端側から棒材の先端側に向かって付勢する。この荷重は、主軸が棒材を把持しているときに棒材と主軸の間に滑りが生じない比較的弱い荷重に設定されている。また、給材機は、加工によって短くなった棒材である残材を加工装置から引き抜いて排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、加工装置と給材機を備えた工作機械システムでは、基本的に加工装置と給材機が独立してそれぞれの動作を制御している。このため、刃物台に取り付けられたストッパが棒材の先端側への移動を防止する位置に存在しておらず且つ主軸が棒材の把持を解除している状態で、給材機が送り矢で棒材を付勢していると、棒材が先端側に向かってとび出してしまうという問題があった。棒材が飛び出してしまうと、棒材の先端側にある部材や棒材の先端側で作業をしているオペレータの手などに棒材が衝突してしまう虞がある。
【0006】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、棒材のとび出しを防止した工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の工作機械システムは、
把持解除可能に棒材を把持する主軸と、
前記棒材の先端部分を加工する加工工具が取り付けられて該棒材の軸心方向とは直交する方向に移動可能な刃物台と、
付勢解除可能に前記棒材の後端側から該棒材の先端側に向かって該棒材を付勢する送り矢と、
前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態にある場合に、前記刃物台が該棒材から離間する方向に移動することを禁止する刃物台移動禁止部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
この工作機械システムによれば、前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態にある場合には前記刃物台の移動を禁止することで該刃物台に取り付けられたストッパが該棒材から離間してしまうことがなくなるので、該棒材のとび出しを防止できる。
【0009】
また、上記課題を解決する本発明の工作機械システムは、
把持解除可能に棒材を把持する主軸と、
付勢解除可能に前記棒材の後端側から該棒材の先端側に向かって該棒材を付勢する送り矢と、
前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態にある場合に、前記送り矢が所定距離を超えて移動したら前記送り矢の付勢を解除させる付勢解除部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
この工作機械システムによれば、前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態にある場合には前記送り矢が所定距離を超えて移動したら該送り矢の付勢が解除されて該棒材がそれ以上移動することが阻止されるので、該棒材のとび出しを防止できる。
【0011】
上記課題を解決する本発明の工作機械システムの制御方法は、
把持解除可能に棒材を把持する主軸と、移動可能な刃物台と、前記棒材の後端側から該棒材の先端側に向かって該棒材を付勢する送り矢とを備えた工作機械システムの制御方法において、
前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態であるか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程において前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態であると判定した場合に、前記刃物台が該棒材から離間する方向に移動することを禁止する刃物台移動禁止工程とを有することを特徴とする。
【0012】
この工作機械システムの制御方法によれば、前記刃物台移動禁止工程が実施されることで該棒材のとび出しを防止できる。
【0013】
また、上記課題を解決する本発明の工作機械システムの制御方法は、
把持解除可能に棒材を把持する主軸と、前記棒材の後端側から該棒材の先端側に向かって該棒材を付勢する送り矢とを備えた工作機械システムの制御方法において、
前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態であるか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程において前記送り矢が前記棒材を付勢した状態でかつ前記主軸が該棒材の把持を解除した状態であると判定した場合に、該送り矢が所定距離を超えて移動したら該送り矢の付勢を解除させる付勢解除工程とを備えたことを特徴とする。
【0014】
この工作機械システムの制御方法によれば、前記付勢解除工程が実施されることで該棒材のとび出しを防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、棒材のとび出しを防止した工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法を提供するこができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態にかかる旋盤システムの正面図である。
【
図2】
図1に示した旋盤システムの内部構成を簡易的に示す平面図である。
【
図3】
図1に示した旋盤システムのハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】
図1に示した旋盤システムの機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】
図1に示した旋盤システムの第1の動作を示すフローチャートである。
【
図6】
図1に示した旋盤システムの第2の動作を示すフローチャートである。
【
図7】
図6に示した第2の動作の変形例を示すフローチャートである。
【
図8】他の実施形態の旋盤システムにおける機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図9】
図8に示した旋盤システムの動作を示すフローチャートである。
【
図10】
図8に示した旋盤システムの変形例の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図11】
図10に示した旋盤システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。本実施形態では、本発明をNC旋盤と給材機とを備えた旋盤システムに適用した例を用いて説明する。
【0018】
図1は、本実施形態にかかる旋盤システムの正面図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の旋盤システム1は、加工装置であるNC旋盤2と、材料供給装置である給材機4とを備えている。この旋盤システム1が、工作機械システムの一例に相当する。本実施形態のNC旋盤2は、いわゆるスイス型旋盤である。NC旋盤2は、切削室22と、主軸室23と、旋盤操作パネル24とを備えている。切削室22は、棒材W(
図2参照)の先端部分を加工する空間が形成された部屋であり、正面側から見てNC旋盤2の右側に配置されている。この切削室22の前面部分には開閉自在な扉が設けられている。主軸室23は、主軸25(
図2参照)が配置された部屋であり、正面側から見てNC旋盤2の左側に配置されている。主軸室23にも前面部分に開閉自在な扉が設けられている。
図1には切削室22および主軸室23の扉が閉められた様子が示されている。
【0020】
旋盤操作パネル24は、旋盤操作部241と旋盤表示画面242とを有している。旋盤操作部241は、旋盤システム1のオペレータによる入力操作を受け付ける複数のボタンやキー等からなる。なお、旋盤操作部241は、旋盤表示画面242と一体化されたタッチパネルであってもよい。旋盤システム1のオペレータは、旋盤操作部241や外部コンピューターを用いて作成した加工プログラムを後述する記憶部203(
図3参照)に記憶させることができる。さらに、旋盤システム1のオペレータは、旋盤操作部241を用いて加工プログラムの修正を行い、修正した加工プログラムを記憶部203に記憶させることもできる。さらに、旋盤システム1のオペレータは、旋盤操作部241を用いて旋盤システム1の各構成要素を個別または連携して動作させることもできる。旋盤表示画面242は、記憶部203に記憶された加工プログラム、旋盤システム1の各種設定値およびエラー内容などの旋盤システム1に関する各種情報を表示するディスプレイである。
【0021】
給材機4は、長尺な棒材W(
図2参照)をNC旋盤2に供給する。給材機4は、NC旋盤2と並んで設置される。給材機4には、複数の棒材Wが格納されている。給材機4は、格納された棒材Wのうちの1本をNC旋盤2に向かって送り出す。また、給材機4は、加工によって短くなった棒材Wである残材をNC旋盤2から引き抜いて排出する。残材を排出した後、給材機4は、格納された棒材Wからあらたに1本をNC旋盤2に向かって送り出す。給材機4には、給材機4を操作するための入力装置である給材機操作パネル42が設けられている。
【0022】
図2は、
図1に示した旋盤システムの内部構成を簡易的に示す平面図である。
【0023】
図2に示すように、NC旋盤2は、主軸25と、ガイドブッシュ26と、第1刃物台27と、背面主軸28と、第2刃物台29とを備えている。主軸25、ガイドブッシュ26、第1刃物台27、背面主軸28および第2刃物台29は、土台である脚の上に配置されている。主軸25、第1刃物台27、背面主軸28および第2刃物台29は、加工プログラムや旋盤操作パネル24(
図1参照)からの入力に従って動作する。この加工プログラムには、棒材Wを加工するための動作が記述されており、実際の加工における主軸25、第1刃物台27、背面主軸28および第2刃物台29の動作の他に、主軸25が棒材を掴みかえるための掴みかえの動作も記述されている。
【0024】
主軸25は、Z1軸方向に移動可能である。主軸25は、主軸台によって主軸台とともにZ1軸方向に移動するが、主軸台は図示省略し説明も省略する。Z1軸方向は、水平方向であり、
図2においては左右方向である。このZ1軸方向は、棒材Wの軸心方向の一例に相当する。主軸25は、その内部を貫通している棒材Wを把持解除可能に把持するためのコレットチャック251を先端部分に有している。主軸25は、棒材Wを把持して主軸中心線CLを中心として回転可能である。主軸中心線CLの方向はZ1軸方向と一致している。以下、主軸25が棒材Wの先端側に移動することを前進と称し、主軸25が棒材Wの後端側に移動することを後退と称することがある。
図2においては、右方向が前進方向であり、左方向が後退方向である。
【0025】
ガイドブッシュ26は、土台である脚に固定されている。ガイドブッシュ26の、主軸25が配置された側とは反対側の端面は、切削室22(
図1参照)内に露出している。ガイドブッシュ26は、主軸25の内部を貫通した棒材Wの先端側部分をZ1軸方向へ摺動自在に支持する。このガイドブッシュ26の、棒材Wを支持している部分は、主軸25と同期して主軸中心線CLを中心にして回転可能である。ガイドブッシュ26から切削室22内に突出した棒材Wの先端部分が第1刃物台27に取り付けられた第1工具T1によって加工される。この第1工具T1が、加工工具の一例に相当する。このNC旋盤2では、ガイドブッシュ26により加工時の棒材Wの撓みが抑制されるので、特に細長い棒材WをNC旋盤2によって高精度に加工できる。
【0026】
第1刃物台27は、Z1軸方向と直交しかつ水平方向を向いたX1軸方向と、垂直方向を向いたY1軸方向に移動可能である。この第1刃物台27が、刃物台の一例に相当する。
図2では、上下方向がX1軸方向であり、紙面に直交する方向がY1軸方向である。第1刃物台27には、切削工具、突切工具などを含む複数種類の第1工具T1がY1軸方向に並んで櫛歯状に取り付けられている。また、第1工具T1として、エンドミルやドリルなどの回転工具を第1刃物台27に取り付けることもできる。第1刃物台27がY1軸方向に移動することで、これらの複数種類の第1工具T1から任意の第1工具T1が選択される。そして、第1刃物台27がX1軸方向のマイナス側(
図2における下側)に移動することで、主軸25に把持されガイドブッシュ26に支持された棒材Wの先端部分に、選択されている第1工具T1が切り込んで加工したり棒材Wの加工済み部分を切り離したりする。加工済み部分を切り離すための工具が突切工具である。突切工具は、加工済み部分を切り離した後に、棒材Wの先端が当接して棒材Wがそれ以上先端側に移動することを防止するストッパとしても機能する。なお、ストッパとして機能する工具が突切工具とは別に第1工具T1の一つとして第1刃物台27に取り付けられることもある。また、第1刃物台27がX1軸のプラス方向(
図2における上方向)に移動することで、第1刃物台27が棒材Wから離間する。第1刃物台27が棒材Wから離間することで、第1工具T1も棒材Wから離間する。
【0027】
背面主軸28は、X2軸方向およびZ2軸方向に移動可能である。背面主軸28は、背面主軸台によって背面主軸台とともにX2軸方向およびZ2軸方向に移動するが、背面主軸台は図示省略し説明も省略する。X2軸方向は上述したX1軸方向と同一の方向であり、Z2軸方向は上述したZ1軸方向と同一の方向である。また、Z2軸方向は、背面主軸28の軸線方向に相当する。
図2には、背面主軸28が、ガイドブッシュ26を挟んで主軸25に対向した位置にある様子が示されている。この位置では背面主軸28の回転中心である背面主軸中心線は、主軸中心線CLと同一線上に配置されている。背面主軸中心線の方向はZ2軸方向と一致している。背面主軸28には、主軸25を用いた加工が完了した棒材Wの加工済み部分が、突切工具によって切り離されて受け渡される。以下、切り離された加工済み部分を切断済み部分と称する。背面主軸28は、主軸25から受け渡された切断済み部分を把持解除可能に把持する。また、背面主軸28は、X2軸方向およびZ2軸方向に移動することで把持した切断済み部分を移送する。
【0028】
第2刃物台29は、Y2軸方向へ移動可能である。なお、第2刃物台29は、X2軸方向に移動可能に構成されていてもよい。Y2軸方向は上述したY1軸方向と同一の方向である。第2刃物台29には、切断済み部分を加工するドリルやエンドミル等の第2工具T2が取り付けられている。第2工具T2は、Y2軸方向に並んで第2刃物台29に複数取り付けられている。第2刃物台29のY2軸方向への移動によって、これらの複数の第2工具T2から任意の第2工具T2が選択される。そして、背面主軸28がX2軸方向やZ2軸方向に移動することで、背面主軸28に把持された切断済み部分の切断端側が加工される。この切断端側の加工が完了した切断済み部分が旋盤システム1によって製造された製品になる。ただし、背面主軸28を用いた加工を行わない場合もある。その場合、切断済み部分がそのまま製品になる。第2刃物台29には、製品を受け入れる製品受入口291と不図示のシューターとが設けられている。シューターは、第2刃物台29内に設けられている。背面主軸28は、製品を製品受入口291に挿入した後、把持を解除して背面主軸28に設けられたシリンダーによって押し出すことでシューターに製品を投下する。投下された製品は、不図示のコンベアによって所定位置まで移送されて旋盤システム1の外部に設けられた製品貯留部に排出される。
【0029】
給材機4は、上述した給材機操作パネル42(
図1参照)の他に、送り矢44と、送り矢駆動機構45と、送り矢モータ46と、先端センサ47と、原点センサ48とを有している。送り矢44は、不図示のガイドによってZ1軸方向に移動自在に案内されている。送り矢44の先端には、棒材Wの後端を把持するフィンガーチャック441が設けられている。このフィンガーチャック441は、送り矢44の他の部分に対して回転自在に取り付けられることで、主軸中心線CLを回転中心軸として回転自在になっている。フィンガーチャック441が棒材Wの後端を把持することで、送り矢44は棒材Wに連結される。すなわち、フィンガーチャック441が棒材Wを把持している間、送り矢44は棒材ととともにZ1軸方向に移動する。
【0030】
送り矢駆動機構45は、給材機4の先端側と後端側それぞれに設けられた不図示のプーリと、そのプーリに掛け渡された駆動ベルトによって構成されている。駆動ベルトには、連結部451が固定されている。この連結部451によって駆動ベルトと送り矢44の後端部分とが連結されている。給材機4の後端側に設けられたプーリは、送り矢モータ46の出力軸に固定されている。
【0031】
送り矢モータ46の出力軸が一方向に回転すると、送り矢駆動機構45と連結部451によって送り矢44はZ1軸に沿ってNC旋盤2に向かって移動する。反対に、送り矢モータ46の出力軸が他方向に回転すると、送り矢駆動機構45と連結部451によって送り矢44はZ1軸に沿ってNC旋盤2から離間する方向に移動する。給材機4内に格納された複数の棒材Wのうち軸心が主軸中心線CLと一致した位置にある棒材Wがフィンガーチャック441によって把持される。そして、送り矢44が移動することで、フィンガーチャック441に把持された棒材Wは、棒材Wの軸心方向に移動する。すなわち、送り矢モータ46の出力軸が一方向に回転すると、棒材Wはその先端側に移動し、送り矢モータ46の出力軸が他方向に回転すると、棒材Wはその後端側に移動する。送り矢モータ46は、送り矢エンコーダ461を有している。なお、送り矢エンコーダ461は、送り矢モータ46とは別に設置されていてもよい。送り矢エンコーダ461によって、送り矢モータ46の回転数や回転量が検出される。送り矢エンコーダ461の検出結果は、第2制御装置40(
図3参照)に送信される。
【0032】
先端センサ47は、棒材Wの先端を検出する。また、原点センサ48は、送り矢44が原点に位置しているか否かを検出する。送り矢44の原点は、送り矢44の移動範囲のうち最も後端側に位置している。原点センサ48は、送り矢44の後端を検出するセンサである。これらの先端センサ47と原点センサ48の検出結果は、それぞれ第2制御装置40(
図3参照)に送信される。第2制御装置40は、先端センサ47の検出結果と送り矢エンコーダ461の検出結果によって、電源投入後最初にNC旋盤2に棒材Wを供給する際やあらたに棒材WをNC旋盤2に供給する際の棒材Wの先端位置がどの位置にあるかを把握する。また、第2制御装置40は、原点センサ48の検出結果と送り矢エンコーダ461の検出結果によって、送り矢44の位置を把握する。
【0033】
図3は、
図1に示した旋盤システムのハードウェア構成を示すブロック図である。なお、この
図3では、旋盤システム1のハードウェア構成のうち本発明との関連性の低いものは、これまで説明した構成要素を動作させるものであっても図示省略している。
【0034】
図3に示すように、NC旋盤2は、第1制御装置20と、上述した旋盤操作パネル24と、Z1軸モータ252と、主軸モータ253と、主軸アクチュエータ254と、X1軸モータ271とを有している。第1制御装置20は、いわゆるNC(Numerical Control)装置であり、CPU201と、PLC(Programmable Logic Controller)202と、記憶部203と、タイマー204とを有している。第1制御装置20は、CPU201による演算機能を有するコンピュータである。第1制御装置20は、記憶部203に記憶されている加工プログラムや旋盤操作パネル24からの入力に従って
図2に示した主軸25、第1刃物台27、背面主軸28および第2刃物台29等の各構成要素の動作を制御する。
図3には、各構成要素を駆動するモータやアクチュエータのうちの一部が示されている。第1制御装置20は、主にNC旋盤2に設けられたサーボモータに対して数値制御を行う。また、第1制御装置20が有しているPLC202は、主にNC旋盤2に設けられたシリンダーやバルブ等のサーボモータ以外の機器の動作をシーケンス制御する。
【0035】
記憶部203には、ラダープログラムやマクロプログラムなどの各種プログラムがあらかじめ記憶されている。さらに、記憶部203には、加工プログラムの他に、工具に関するデータ、棒材Wの径データおよび製品長データなどの諸情報がオペレータによって記憶される。記憶部203は、ROM、HDDおよびSSD等の不揮発性メモリーとRAM等の揮発性メモリーとから構成されている。
【0036】
タイマー204は、CPU201からの要求に応じて時間の計測を開始し、CPUから送信要求があった場合や指定された時間に到達したときにCPU201に経過した時間や指定された時間に到達した旨を送信する。
【0037】
Z1軸モータ252は、第1制御装置20からの指令を受けて回転するサーボモータである。Z1軸モータ252が回転することで主軸25(
図2参照)はZ1軸方向に移動する。なお、第1制御装置20とZ1軸モータ252の間には不図示のアンプが設けられており、第1制御装置20がアンプに指令を送信することでZ1軸モータ252が制御されている。以下、アンプについては説明を省略する。Z1軸モータ252は、Z1軸エンコーダ2521を有している。Z1軸エンコーダ2521の出力が第1制御装置20にフィードバックされることで、第1制御装置20は、主軸25(
図2参照)のZ1軸方向における位置を常時把握している。
【0038】
主軸25(
図2参照)には、ビルトインモーター等の主軸モータ253が設けられている。主軸モータ253は、第1制御装置20から指令を受けて回転する。主軸モータ253が回転することで、主軸25および主軸25に把持された棒材W(
図2参照)は、主軸中心線CL(
図2参照)を中心にして回転する。なお、主軸25と同様に、背面主軸28にも背面主軸モータが設けられているが説明は省略する。主軸アクチュエータ254は、コレットチャック251(
図2参照)を動作させるための油圧シリンダー等のアクチュエータである。主軸アクチュエータ254によって不図示のチャックスリーブが前進方向に移動することで、コレットチャック251が閉じて棒材Wが主軸25によって把持される。また、チャックスリーブが後退方向に移動することで、コレットチャック251が開いて主軸25による棒材Wの把持が解除される。なお、主軸25と同様に、背面主軸28にも背面主軸28が有する背面コレットチャックを開閉する背面主軸アクチュエータが設けられているが説明は省略する。
【0039】
X1軸モータ271は、第1制御装置20からの指令を受けて回転するサーボモータである。X1軸モータ271が回転することで第1刃物台27(
図2参照)はX1軸方向に移動する。X1軸モータ271には、X1軸エンコーダ2711が設けられている。X1軸エンコーダ2711の出力が第1制御装置20にフィードバックされることで、第1制御装置20は、第1刃物台27のX1軸方向における位置を常時把握している。
【0040】
給材機4は、上述した給材機操作パネル42、送り矢モータ46、先端センサ47および原点センサ48の他に第2制御装置40を有している。第2制御装置40は、給材機4の各構成要素についてシーケンス制御を行う制御装置である。第2制御装置40は、各センサや送り矢エンコーダ461等から受信した情報に基づいて送り矢モータ46や給材機4に設けられた不図示のアクチュエータの動作を制御する。また、第2制御装置40は、第1制御装置20からの動作要求に応じて給材機4の動作を制御する。第2制御装置40には、給材記憶部401が設けられている。その給材記憶部401には、送り矢44がそれ以上前進したら掴みかえ前に棒材Wを交換する位置である材欠位置の情報などが保存されている。
【0041】
送り矢モータ46は、第2制御装置40からの指令を受けて回転するサーボモータである。送り矢モータ46が回転することで送り矢44(
図2参照)はZ1軸方向に移動する。上述したように、第2制御装置40は、送り矢44の原点からの移動距離を原点センサ48の検出結果と送り矢エンコーダ461の検出結果によって把握することで、送り矢44のZ1軸方向における位置を常時把握し、給材機4に関する情報として第1制御装置20に随時送信している。また、第2制御装置40は、あらたに供給する棒材Wの先端や電源投入後最初にNC旋盤2に送り出した棒材Wの先端のZ1軸方向における位置を第1制御装置20に送信する。通常、第2制御装置40には、NC旋盤2が加工を開始した後、残材の引き抜き開始までの間、送り矢モータ46を一定のトルクで一方向に回転させるように制御する設定がなされている。これにより、棒材Wは、設定された荷重で棒材Wの先端側に向かって送り矢44によって付勢される。この荷重は、主軸25が棒材Wを把持しているときに棒材Wと主軸25との間に滑りが生じる虞がない比較的弱い荷重に設定される。ただし、加工開始から残材の引き抜き開始までの間であっても、給材機操作パネル42からの入力、第1制御装置20からの動作要求および加工プログラムにおいて付勢解除指示がある場合、第2制御装置40は、送り矢44による付勢を解除させる。第2制御装置40は、送り矢44が棒材Wを付勢しているか否かを第1制御装置20に随時送信している。
【0042】
給材機操作パネル42は、操作部と表示画面とが一体になったタッチパネルである。なお、給材機4には、給材機操作パネル42の他に非常停止ボタンや送り矢モータ46のトルク設定スイッチ等が設けられている。旋盤システム1のオペレータは、給材機操作パネル42を用いて、送り矢44(
図2参照)をZ1軸方向に手動操作で移動させたり、材欠位置などの給材機4の各種設定値を入力することができる。また、給材機操作パネル42には、給材機4の各種設定値およびエラー内容などの給材機4に関する各種情報並びに給材機4の操作ボタンが表示される。
【0043】
第1制御装置20と第2制御装置40とは信号ケーブルで接続されている。第1制御装置20は、信号ケーブルを介して第2制御装置40に動作要求などを送信する。また、第2制御装置40は、信号ケーブルを介して第1制御装置20に送り矢44の位置情報や送り矢44が棒材Wを付勢しているか否かの情報を含む給材機4に関する各種情報を随時送信する。また、第2制御装置40は、第1制御装置20からの情報送信要求に応じて要求された情報を第1制御装置20に送信する。
【0044】
図4は、
図1に示した旋盤システムの機能構成を示す機能ブロック図である。なお、
図4でも、本発明に特に関連性の高い機能構成のみを示し、旋盤システム1が有するその他の機能構成は図示省略し説明も省略する。
【0045】
図4に示すように、第1制御装置20によって、機械制御部20aと刃物台移動禁止部20bと付勢解除部20cとが構成されている。機械制御部20aは、主に
図3に示したCPU201とPLC202と記憶部203によって達成される機能構成である。刃物台移動禁止部20bと付勢解除部20cは、それぞれ主にCPU201と記憶部203によって達成される機能構成である。また、第2制御装置40によって、給材制御部40aと送り矢位置把握部40bとが構成されている。
【0046】
機械制御部20aは、NC旋盤2の各構成要素の動作を制御するものである。また、機械制御部20aは、第2制御装置40に動作要求や情報送信要求を送信することもある。刃物台移動禁止部20bは、送り矢44(
図2参照)が棒材Wを付勢した状態でかつ主軸25(
図2参照)が棒材W(
図2参照)の把持を解除した状態にある場合に、第1刃物台27(
図2参照)が移動することを禁止するものである。付勢解除部20cは、送り矢44が棒材Wを付勢した状態でかつ主軸25が棒材Wの把持を解除した状態にある場合に、送り矢44が所定距離を超えて移動したら送り矢44の付勢を解除させるものである。
【0047】
給材制御部40aは、給材機4に設けられた各種センサからの出力、給材機操作パネル42からの入力および第1制御装置20からの動作要求に従って送り矢モータ46などの動作を制御するものである。送り矢位置把握部40bは、原点センサ48の検出結果と送り矢エンコーダ461の検出結果を用いて原点センサ48からの送り矢44のZ1軸方向の位置を演算することで原点センサ48からの送り矢44(
図2参照)の前進距離である送り矢位置を把握する。給材記憶部401(
図3参照)には、送り矢44の長さ情報が保存されている。送り矢位置把握部40bは、送り矢44の前進距離に送り矢44の長さを加算することで原点センサ48から送り矢44の先端位置までの距離も把握している。
【0048】
図5は、
図1に示した旋盤システムの第1の動作を示すフローチャートである。
【0049】
図5に示すフローチャートは、電源投入後の初期動作が完了した後や新しい製品を加工するための段取り作業が完了した後の旋盤システム1の第1の動作を示している。初期動作や段取り動作では、棒材Wの先端が突切工具で切断される。初期動作や段取り動作が完了した状態は、突切工具がストッパとして作用して棒材Wの先端が突切工具に当接している状態である。この状態では、棒材Wは送り矢44によって先端側に向かって付勢されることで突切工具に押し付けられている。
【0050】
図5に示すように、刃物台移動禁止部20bは、第2制御装置40から随時送信されてくる情報に基づいて送り矢44が棒材Wを付勢しているか否かを判定する(ステップS11)。送り矢44が棒材Wを付勢していると判定した場合(ステップS11でYES)、刃物台移動禁止部20bは、主軸25が棒材Wの把持を解除しているか否かを判定する(ステップS12)。これらステップS11およびステップS12が、判定工程の一例に相当する。主軸25が棒材Wの把持を解除していると判定した場合(ステップS12でYES)、刃物台移動禁止部20bは、第1刃物台27が移動することを禁止する(ステップS13)。このステップS13が、刃物台移動禁止工程の一例に相当する。なお、ステップS13において刃物台移動禁止部20bは、第1刃物台27のX1軸方向における移動を禁止しているが、第1刃物台27が棒材Wから離間する方向(
図2における上方向)への移動を禁止し、棒材Wに接近する方向(
図2における下方向)への移動は許可してもよい。また、ステップS11とステップS12は逆の順番で実施してもよい。
【0051】
一方、送り矢44が棒材Wを付勢していないと判定した場合(ステップS11でNO)又は主軸25が棒材Wを把持していると判定した場合(ステップS12でNO)、刃物台移動禁止部20bは、第1刃物台27の移動を許可する(ステップS14)。これらステップS11からステップS14までの動作は、所定の第1周期で旋盤システム1が動作を停止するまで繰り返し実行される。この第1周期は、CPU201の負担を考慮して適宜設定可能であるが、例えば0.25ミリ秒周期である。
【0052】
例えば棒材Wの先端部分の加工と加工が行われた加工済み部分の切り離しと主軸25による棒材Wの掴みかえとを含む加工サイクルを繰り返し実行する自動運転時にステップS11とステップS12の両方がYESの状態が生じたとする。その場合、刃物台移動禁止部20bは、第1刃物台27の移動を一時的に禁止する。その後、刃物台移動禁止部20bは、上述の周期でステップS11及びステップS12の判定を繰り返し実行し、ステップS11とステップS12の何れかがNOになったら第1刃物台27の移動を許可する。なお、刃物台移動禁止部20bは、第1刃物台27の移動を禁止するとともに旋盤表示画面242に不具合発生を示すアラームを表示させてもよい。このアラームは、例えば棒材Wのとび出しの虞がある旨または第1刃物台27の移動を禁止した旨を示す内容であってもよい。
【0053】
図6は、
図1に示した旋盤システムの第2の動作を示すフローチャートである。
【0054】
図6に示すフローチャートは、電源投入後の初期動作が完了した後や新しい製品を加工するための段取り作業が完了した後の旋盤システム1の第2の動作を示している。この第2の動作は、上述の第1の動作と並行して実行される。ただし、旋盤操作パネル24からの入力操作や加工プログラムによって停止の指示があった場合、旋盤システム1は、第1の動作と第2の動作のうちの一方または両方の実行を停止する。なお、デフォルトでは第1の動作と第2の動作を実行しないで、旋盤操作パネル24からの入力操作や加工プログラムによって指示があった場合にのみ第1の動作と第2の動作のうちの一方または両方を実行するように構成してもよい。また、第2の動作は、棒材Wの先端部分の加工と加工が行われた加工済み部分の切り離しと主軸25による棒材Wの掴みかえとを含む加工サイクルを繰り返し実行する自動運転中は実行しないようにしてもよい。これは、切削室22の扉が閉塞されているときにしか自動運転を実行できないようにインターロックがかけられているので、自動運転中は棒材Wが飛び出してもオペレータが怪我をする可能性がないためである。
【0055】
図6に示すように、付勢解除部20cは、第2制御装置40から随時送信されてくる情報に基づいて送り矢44が棒材Wを付勢しているか否かを判定する(ステップS31)。送り矢44が棒材Wを付勢していると判定した場合(ステップS31でYES)、付勢解除部20cは、主軸25が棒材Wの把持を解除しているか否かを判定する(ステップS32)。これらステップS31とステップS32は、判定主体が異なる他は上述したステップS11およびステップS12と同様の工程であり、判定工程の一例に相当する。主軸25が棒材Wの把持を解除していると判定した場合(ステップS32でYES)、付勢解除部20cは、第2制御装置40から随時送信されてくる情報に基づいてその時点における送り矢44の位置を基準位置B1として記憶部203に記憶する。すなわち、付勢解除部20cは、送り矢44が棒材Wを付勢していて主軸25が棒材Wの把持を解除しているという状態になったときの送り矢44の位置を基準位置B1として記憶部203に記憶する。
【0056】
一方、送り矢44が棒材Wを付勢していないと判定した場合(ステップS31でNO)又は主軸25が棒材Wを把持していると判定した場合(ステップS32でNO)、はステップS31に戻る。これらステップS31とステップS32の動作は、所定の第2周期で旋盤システム1が動作を停止するまで繰り返し実行される。この第2周期は、CPU201の負担を考慮して適宜設定可能であるが、例えば0.25ミリ秒周期である。なお、ステップS31とステップS32は逆の順番で実施してもよい。
【0057】
ステップS33で送り矢44の基準位置B1を記憶部203に記憶した後、付勢解除部20cは、その時点における送り矢44の位置である現在位置Bから基準位置B1を減算した値と閾値Eとを比較する(ステップS34)。この閾値Eが、所定距離の一例に相当する。この閾値Eは、オペレータによって変更自在であるが、例えば5mmである。また、現在位置Bから基準位置B1を減算した値は、基準位置B1から送り矢44が移動した移動距離に相当する。
【0058】
現在位置Bから基準位置B1を減算した値が閾値E以下であれば(ステップS34でNO)、付勢解除部20cは、基準位置B1を記憶部203に記憶してから10秒が経過したか否かを判定する(ステップS35)。10秒が経過していないと判定した場合(ステップS35でNO)、ステップS34に戻って付勢解除部20cは基準位置B1を減算した値と閾値Eを比較する。これらステップS34とステップS35の動作は、基準位置B1を記憶部203に記憶してから10秒が経過したと判定する(ステップS35でYES)まで所定の第3周期で繰り返し実行される。この第3周期は、CPU201の負担を考慮して適宜設定可能であるが、例えば0.25ミリ秒周期である。10秒が経過したと判定したら(ステップS35でYES)、ステップS31に戻る。なお、ステップS35において判断基準としている秒数(10秒)は一例であり10秒以外であってもよい。さらに、その秒数は、旋盤操作パネル24からの入力操作や加工プログラムによって変更可能であってもよい。また、その秒数の計測開始時を、ステップS31の判定とステップS32の判定の両方がYESとなった時点としてもよい。
【0059】
現在位置Bから基準位置B1を減算した値が閾値Eを超えていたら(ステップS34でYES)、付勢解除部20cは、第2制御装置40に送り矢44の付勢を解除させるように動作要求を送信する。その動作要求に応じて第2制御装置40は、送り矢モータ46を制御して送り矢44の付勢を解除させる(ステップS36)。これらステップS33~ステップS36が、付勢解除工程の一例に相当する。また、付勢解除部20cは、旋盤表示画面242に不具合発生を示すアラームを表示させる(ステップS37)。このアラームは、例えば棒材Wのとび出しの虞がある旨または送り矢の付勢を解除した旨を示す内容であってもよい。ステップS37でアラームを表示したら、付勢解除部20cは第2の動作を終了する。なお、オペレータによってアラームが解除されたら、ステップS31に戻って付勢解除部20cは第2の動作を再開する。
【0060】
以上説明した旋盤システム1によれば、送り矢44が棒材Wを付勢した状態でかつ主軸25が棒材Wの把持を解除した状態にあるときには刃物台移動禁止部20bによって第1刃物台27の移動が禁止される。これにより、第1刃物台27に取り付けられてストッパとして作用している第1工具T1が棒材Wの先端から離れる方向に移動することがないので、送り矢44による付勢によって棒材Wが切削室22内にとび出してしまうことがない。
【0061】
また、この旋盤システム1によれば、送り矢44が棒材Wを付勢した状態でかつ主軸25が棒材Wの把持を解除した状態にあるときには付勢解除部20cが送り矢44の移動を監視して送り矢44が閾値Eを超えて移動したら送り矢44の付勢を解除させている。これにより、送り矢44による付勢によって棒材Wが切削室22内に大きくとび出してしまうことがない。
【0062】
続いて、本実施形態の変形例について説明する。以下の説明では、これまで説明した構成要素の名称と同じ構成要素には、これまで用いた符号と同じ符号を付して重複する説明は省略することがある。
【0063】
図7は、
図6に示した第2の動作の変形例を示すフローチャートである。
【0064】
図7に示すように、変形例の旋盤システム1は、ステップS35の代わりにステップS351とステップS352を有している点が先の実施形態の旋盤システム1と異なる。現在位置Bから基準位置B1を減算した値が閾値E以下であれば(ステップS34でNO)、付勢解除部20cは、送り矢44が棒材Wを付勢しているか否かを判定する(ステップS351)。送り矢44が棒材Wを付勢していると判定した場合(ステップS351でYES)、付勢解除部20cは、主軸25が棒材Wの把持を解除しているか否かを判定する(ステップS352)。主軸25が棒材Wの把持を解除していると判定した場合(ステップS352でYES)、ステップS34に戻って現在位置Bから基準位置B1を減算した値と閾値Eを比較する。なお、ステップS351とステップS352は逆の順番で実施してもよい。送り矢44が棒材Wを付勢していないと判定した場合(ステップS351でNO)又は主軸25が棒材Wを把持していると判定した場合(ステップS352でNO)、ステップS31に戻る。この変形例の、ステップS33、ステップS34、ステップS351、ステップS352、ステップS36が、付勢解除工程の一例に相当する。
【0065】
以上説明した変形例の変形例の旋盤システム1も、先の実施形態と同様の効果を奏する。
【0066】
ところで、送り矢44は、残材の引き抜きからあらたに棒材WをNC旋盤2に供給する期間を除いた殆どの場面で棒材Wをその先端側に向かって付勢するように設定されている。しかしながら、設定し忘れや操作ミスなどによって、送り矢44による付勢がないまま加工を開始してしまうことも考えられる。送り矢44の付勢がないまま加工を開始すると、主軸25の回転にともない棒材Wの後端側が大きく振れながら回転して旋盤システム1を傷つけてしまうことがある。また、旋盤システム1を傷つけないまでも、棒材Wの後端側が大きく振れながら回転することで棒材Wを把持している主軸25が振動するため加工品質が低下して製造した製品が不良品になってしまう虞もある。
【0067】
以下、送り矢44による付勢がないまま加工が開始されてしてしまうことを防止する他の実施形態について説明する。
【0068】
図8は、他の実施形態の旋盤システムにおける機能構成を示す機能ブロック図である。なお、
図8でも、本発明に特に関連性の高い機能構成のみを示し、旋盤システム1が有するその他の機能構成は図示省略し説明も省略する。
【0069】
図8に示すように、他の実施形態の旋盤システム1は、
図4に示した刃物台移動禁止部20bと付勢解除部20cに代えて、付勢警告表示部20dと加工禁止部20eを有している。これらの付勢警告表示部20dと加工禁止部20eは、それぞれ主にCPU201と記憶部203によって達成される機能構成である。なお、旋盤システム1は、刃物台移動禁止部20b、付勢解除部20c、付勢警告表示部20dおよび加工禁止部20eを全て有していてもよい。
【0070】
付勢警告表示部20dは、送り矢44が棒材Wの付勢を解除した状態にある状態で加工を開始しようとした際に警告を表示させるものである。また、加工禁止部20eは、送り矢44が棒材Wの付勢を解除した状態にある状態にある場合に、加工の開始を禁止するものである。これら付勢警告表示部20dと加工禁止部20eは、並行してほぼ同一タイミングで動作を実行する。
【0071】
図9は、
図8に示した旋盤システムの動作を示すフローチャートである。
図9に示すフローチャートは、電源投入後の初期動作が完了した後や新しい製品を加工するための段取り作業が完了した後の旋盤システム1の第3の動作を示している。
【0072】
図9に示すように、付勢警告表示部20dおよび加工禁止部20eは、加工の開始を指示する加工実行ボタンが押下されるまで待機する(ステップS50)。加工は、オペレータなどが作成した加工プログラムや加工を行うマクロプログラムが実行されることで行われる。以下、オペレータなどが作成した加工プログラムや加工を行うマクロプログラムを併せて単に加工プログラムと称する。加工実行ボタンが押下されたら(ステップS50でYES)、付勢警告表示部20dおよび加工禁止部20eは、第2制御装置40から随時送信されてくる情報に基づいて送り矢44が棒材Wを付勢しているか否かを判定する(ステップS51)。送り矢44が棒材Wを付勢していると判定した場合(ステップS51でYES)、機械制御部20aは、加工プログラムの実行を開始する(ステップS52)。一方、送り矢44が棒材Wの付勢を解除していると判定した場合(ステップS51でNO)、加工禁止部20eは、加工の開始を禁止する。同時に付勢警告表示部20dは、付勢が解除されている旨の警告を表示する(ステップS53)。
【0073】
その後、付勢警告表示部20dおよび加工禁止部20eは、再度加工実行ボタンが押下されるまで待機する(ステップS54)。再度加工実行ボタンが押下されたら(ステップS54でYES)、加工禁止部20eは、加工の開始を許可する。同時に付勢警告表示部20dは、警告の表示を中止する。また同時に機械制御部20aは、送り矢44で棒材Wを付勢するように第2制御装置40に動作要求を送信する。その動作要求に応じて第2制御装置40は、送り矢モータ46を制御して送り矢44に棒材Wを付勢させる(以上ステップS55)。ステップS55の動作が完了したら、機械制御部20aは、加工プログラムの実行を開始する(ステップS52)。
【0074】
以上説明した他の実施形態の旋盤システム1からは以下の発明概念を抽出できる。
【0075】
把持解除可能に棒材を把持する主軸と、
前記棒材の先端部分を加工する加工工具が取り付けられた刃物台と、
付勢解除可能に前記棒材の後端側から該棒材の先端側に向かって該棒材を付勢する送り矢と、
前記送り矢が前記棒材の付勢を解除した状態で加工を開始しようとした際に警告を表示させる付勢警告表示部とを備えたことを特徴とする工作機械システム。
【0076】
また、以上説明した他の実施形態の旋盤システム1からは以下の発明概念も抽出できる。
【0077】
把持解除可能に棒材を把持する主軸と、
前記棒材の先端部分を加工する加工工具が取り付けられた刃物台と、
付勢解除可能に前記棒材の後端側から該棒材の先端側に向かって該棒材を付勢する送り矢と、
前記送り矢が前記棒材の付勢を解除した状態で加工を開始しようとした際に加工の開始を禁止する加工禁止部とを備えたことを特徴とする工作機械システム。
【0078】
以上説明した他の実施形態の旋盤システム1によれば、送り矢44の付勢がないまま加工が開始されてしてしまうことを防止できる。これにより、棒材Wの後端側が振れながら回転して暴れてしまい、旋盤システム1を傷つけてしまうことや、棒材Wの後端側が大きく振れながら回転することで加工品質が低下してしまうことを防止できる。
【0079】
また、付勢警告表示部20dが警告を表示し、加工禁止部20eが加工の開始を禁止しているときに加工実行ボタンが押下されたら、送り矢44に棒材Wを付勢させた後に機械制御部20aが加工を開始するので、オペレータは簡単な操作で不具合を解消して加工を開始することができる。
【0080】
次に、他の実施形態の変形例について説明する。以下の説明では主に上述の他の実施形態との違いについて説明し、他の実施形態と重複する説明は省略することがある。
【0081】
図10は、
図8に示した旋盤システムの変形例の機能構成を示す機能ブロック図である。なお、
図10でも、本発明に特に関連性の高い機能構成のみを示し、旋盤システム1が有するその他の機能構成は図示省略し説明も省略する。
【0082】
図10に示すように、他の実施形態の変形例の旋盤システム1は、付勢警告表示部20dと加工禁止部20eに代えて付勢実行部20fを有している。この付勢実行部20fは、主にCPU201と記憶部203によって達成される機能構成である。付勢実行部20fは、送り矢44に棒材Wを付勢させるものである。
【0083】
図11は、
図10に示した旋盤システムの動作を示すフローチャートである。
【0084】
図11に示すように、付勢実行部20fは、加工実行ボタンが押下されるまで待機する(ステップS50)。加工実行ボタンが押下されたら(ステップS50でYES)、付勢実行部20fは、棒材Wを付勢するように第2制御装置40に動作要求を送信する。その動作要求に応じて第2制御装置40は、送り矢モータ46を制御して送り矢44に棒材Wを付勢させる(以上ステップS56)。ステップS56の動作が完了したら、機械制御部20aは、加工プログラムの実行を開始する(ステップS52)。なお、ステップS56の前に、送り矢44が棒材Wを付勢しているか否かを判定するステップS51と同様のステップを設け、送り矢44が棒材Wの付勢を解除していると判定した場合にのみステップS56を実行するように構成してもよい。
【0085】
以上説明した他の実施形態の変形例の旋盤システム1からは以下の発明概念を抽出できる。
【0086】
把持解除可能に棒材を把持する主軸と、
前記棒材の先端部分を加工する加工工具が取り付けられた刃物台と、
付勢解除可能に前記棒材の後端側から該棒材の先端側に向かって該棒材を付勢する送り矢と、
前記送り矢が前記棒材の付勢を解除した状態で加工を開始しようとした際に該送り矢に該棒材を付勢させる付勢実行部とを備えたことを特徴とする工作機械システム。
【0087】
この他の実施形態の変形例の旋盤システム1も、他の実施形態の旋盤システム1と同様の効果を奏する。
【0088】
本発明は上述の実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形を行うことができる。例えば、本実施形態では、旋盤システム1が刃物台移動禁止部20bと付勢解除部20cの両方を備えた例を示したが、どちらか一方のみを備えていてもよい。付勢解除部20cは、自動運転時にも動作を実行するものであったが、自動運転時には送り矢44の付勢を解除させる動作を実行しないものであってもよい。こうすることで、自動運転時に送り矢44の付勢が意図せず解除されてしまうことを防止できる。
【0089】
なお、以上説明した各実施形態や各変形例の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を、他の実施形態や他の変形例に適用してもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 旋盤システム(工作機械システム)
20b 刃物台移動禁止部
20c 付勢解除部
25 主軸
27 第1刃物台
44 送り矢
T1 第1加工工具
W 棒材