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特開2024-76823モータ駆動制御システムおよびファンシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076823
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】モータ駆動制御システムおよびファンシステム
(51)【国際特許分類】
   H02P 5/46 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
H02P5/46 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188608
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】青木 政人
(72)【発明者】
【氏名】海津 浩之
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 進
【テーマコード(参考)】
5H572
【Fターム(参考)】
5H572AA10
5H572BB07
5H572DD05
5H572EE03
5H572EE04
5H572GG02
5H572HB09
5H572HC07
5H572JJ03
5H572JJ04
5H572JJ16
5H572LL07
5H572LL10
5H572LL22
5H572LL24
5H572LL32
5H572LL35
5H572LL46
5H572MM01
(57)【要約】
【課題】複数のモータ駆動制御装置を有するモータ駆動制御システムにおいて、モータ駆動制御以外の高負荷の推定処理を実行することができるにもかかわらず、コストの上昇を抑制すること。
【解決手段】モータ駆動制御システム110は、複数のモータ駆動制御装置は、それぞれ、対応する前記モータの駆動を制御するための駆動制御信号Sd_1,Sd_2を生成する駆動制御信号生成部3_1,3_2を有し、前記複数のモータ駆動制御装置の駆動制御信号生成部は、それぞれ、当該モータ駆動制御装置における特徴量を取得する特徴量取得部38_1,38_2を有し、前記複数のモータ駆動制御装置のうちの1つのモータ駆動制御装置における前記駆動制御信号生成部である第1の駆動制御信号生成部のみが、特徴量取得部で取得した特徴量に基づいて、モータ駆動制御以外の付加的なアルゴリズムを実行する推定処理部39を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のモータのそれぞれに対応して設けられた複数のモータ駆動制御装置を備えたモータ駆動制御システムであって、
前記複数のモータ駆動制御装置は、それぞれ、
対応する前記モータの駆動を制御するための駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、
前記駆動制御信号に基づいて前記対応するモータを駆動するモータ駆動回路と、を有し、
前記複数のモータ駆動制御装置の駆動制御信号生成部は、それぞれ、当該モータ駆動制御装置における特徴量を取得する特徴量取得部を有し、
前記複数のモータ駆動制御装置のうちの1つのモータ駆動制御装置における前記駆動制御信号生成部である第1の駆動制御信号生成部は、少なくとも1つの前記モータ駆動制御装置の前記特徴量取得部で取得した前記特徴量に基づいて、モータ駆動制御以外の付加的なアルゴリズムを実行する推定処理部を有し、
前記複数のモータ駆動制御装置のうちの他のモータ駆動制御装置における前記駆動制御信号生成部は、前記推定処理部を有していない、
モータ駆動制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動制御システムであって、
前記第1の駆動制御信号生成部は、前記複数のモータ駆動制御装置のうちの他のモータ駆動制御装置における前記駆動制御信号生成部よりも高い性能を有する、
モータ駆動制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ駆動制御システムであって、
前記推定処理部は、少なくとも1つの前記モータ駆動制御装置の前記特徴量取得部で取得した前記特徴量に基づいて、当該モータ駆動制御装置における異常を推定する異常推定処理を実行する、
モータ駆動制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ駆動制御システムであって、
前記複数の駆動制御信号生成部は、それぞれ通信部を有し、
前記第1の駆動制御信号生成部における前記通信部は、前記推定処理部において実行された前記異常推定処理の結果を、他の駆動制御信号生成部の通信部に送り、
前記異常推定処理の結果を受信した前記他の駆動制御信号生成部は、受信した前記異常推定処理の結果に基づいて、前記駆動制御信号の生成を調整する、
モータ駆動制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ駆動制御システムであって、
前記異常推定処理の結果を受信した前記他の駆動制御信号生成部は、受信した前記異常推定処理の結果が、自身が属するモータ駆動制御装置の異常が推定されることを示す場合に、前記対応するモータの駆動を停止させる、
モータ駆動制御システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のモータ駆動制御システムと、
前記モータと、
前記モータの回転力によって回転可能に構成されたインペラと、を備える
ファンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御システムおよびファンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のファンを含むファンシステムとしては、例えば特許文献1に記載された送風装置が知られている。特許文献1に記載された送風装置では、2つの送風機(ファン)が設けられており、第1の送風機のインペラを回転させる第1のモータを駆動する第1のモータ駆動部に対して第1駆動制御装置が設けられ、第2の送風機のインペラを回転させる第2のモータを駆動する第2のモータ駆動部に対して第2駆動制御装置が設けられている。
【0003】
この送風装置では、第1駆動制御装置および第2駆動制御装置のそれぞれに異常検出手段が設けられている。第1駆動制御装置の異常検出手段は、第1のモータおよび第1の駆動制御装置における異常を検出し、第2駆動制御装置の異常検出手段は、第2のモータおよび第2の駆動制御装置における異常を検出している。
【0004】
第1駆動制御装置および第2駆動制御装置にはそれぞれ通信手段が設けられており、通信手段で互いの異常検出結果をやりとりして、必要に応じて駆動モードを切り替えることにより、一方の送風機が故障したときに、送風装置全体としての風量や静圧を確保することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-41536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、こうしたモータ制御における異常検出など様々な用途でAI(Artificial Intelligence)アルゴリズム(機械学習アルゴリズム)が活用されはじめている。AIアルゴリズムによる異常推定は、検出対象の複数の特徴量に基づいて推定を行うため、特許文献1に記載されたような従来の異常検出に比べてより精度が高く、例えば早期に異常検出をすることができるという利点がある。
【0007】
このような背景から、モータ制御基板に搭載されているマイコンに各種のAIアルゴリズムをファームウェアとして実装することが実現され始めている。そして、それはエンドポイントAIとして市場に導入されつつある。
【0008】
しかしながら、エンドポイントAIにおいては、処理速度が限定されているとはいえ、従来のアルゴリズムよりも高負荷な処理を実行する必要があり、各種のAIアルゴリズムを実使用上問題なく実現するためには、マイコンの中でもハイスペックな製品であることが求められる。ハイスペックなマイコンとは、例えば、従来のマイコンよりも動作周波数が高く、ROM、RAMサイズが大きいマイコンである。このようなマイコンを用いることで製品コストが高くなる。この場合、特許文献1に示すような複数のファンを含むファンシステムでは、ハイスペックなマイコンを複数使用する必要があるため、製品化に向けた問題となる。
【0009】
そこで本発明者らは、こうした高負荷となった異常検出などの処理は、駆動中に継続して行われるモータ駆動制御処理とは異なり、必ずしもモータ毎に設けた処理部で実行される必要はなく、1つの処理部で複数のモータに対する処理が実行できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
本発明は、上述した問題に鑑みなされたものであり、複数のファンをそれぞれ駆動するための複数のモータ駆動制御装置を有するモータ駆動制御システムにおいて、エンドポイントAIなどを用いた異常推定または動作分類などの、モータ駆動制御以外の高負荷の推定処理を実行することができるにもかかわらず、コストの上昇を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御システムは、複数のモータのそれぞれに対応して設けられた複数のモータ駆動制御装置を備えたモータ駆動制御システムであって、前記複数のモータ駆動制御装置は、それぞれ、対応する前記モータの駆動を制御するための駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、前記駆動制御信号に基づいて前記対応するモータを駆動するモータ駆動回路と、を有し、前記複数のモータ駆動制御装置の駆動制御信号生成部は、それぞれ、当該モータ駆動制御装置における特徴量を取得する特徴量取得部を有し、前記複数のモータ駆動制御装置のうちの1つのモータ駆動制御装置における前記駆動制御信号生成部である第1の駆動制御信号生成部は、少なくとも1つのモータ駆動制御装置の特徴量取得部で取得した特徴量に基づいて、モータ駆動制御以外の付加的なアルゴリズムを実行する推定処理部を有し、前記複数のモータ駆動制御装置のうちの他のモータ駆動制御装置における前記駆動制御信号生成部は、前記推定処理部を有していないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、複数のファンをそれぞれ駆動するための複数のモータ駆動制御装置を有するモータ駆動制御システムにおいて、エンドポイントAIなどを用いた異常推定または動作分類などの、モータ駆動制御以外の高負荷の推定処理を実行することができるにもかかわらず、コストの上昇を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態に係るモータ駆動制御システムの概要を説明する図である。
図2】本実施の形態に係るモータ駆動制御システムを搭載したファンシステムの具体的な構成の一例を示す図である。
図3】本実施の形態に係るモータ駆動制御システムにおける異常検出処理の動作タイミングの一例を示すシーケンス図である。
図4】モータ駆動制御システムを搭載したファンシステムの具体的な構成の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0015】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御システム(110)は、複数のモータ(21_1,21_2)のそれぞれに対応して設けられた複数のモータ駆動制御装置(111,112)を備えたモータ駆動制御システムであって、前記複数のモータ駆動制御装置は、それぞれ、対応する前記モータの駆動を制御するための駆動制御信号(Sd_1,Sd_2)を生成する駆動制御信号生成部(3_1,3_2)と、前記駆動制御信号に基づいて前記対応するモータを駆動するモータ駆動回路(2_1,2_2)と、を有し、前記複数のモータ駆動制御装置の駆動制御信号生成部は、それぞれ、当該モータ駆動制御装置における特徴量を取得する特徴量取得部(38_1,38_2)を有し、前記複数のモータ駆動制御装置のうちの1つのモータ駆動制御装置における前記駆動制御信号生成部である第1の駆動制御信号生成部は、少なくとも1つの前記モータ駆動制御装置の前記特徴量取得部で取得した前記特徴量に基づいて、モータ駆動制御以外の付加的なアルゴリズムを実行する推定処理部(39)を有し、前記複数のモータ駆動制御装置のうちの他のモータ駆動制御装置における前記駆動制御信号生成部は、前記推定処理部を有していないことを特徴とする。
【0016】
〔2〕上記〔1〕に記載のモータ駆動制御システムにおいて、前記第1の駆動制御信号生成部は、前記複数のモータ駆動制御装置のうちの他のモータ駆動制御装置における前記駆動制御信号生成部よりも高い性能を有することとしてもよい。
【0017】
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載のモータ駆動制御システムにおいて、前記推定処理部は、少なくとも1つの前記モータ駆動制御装置の前記特徴量取得部で取得した前記特徴量に基づいて、当該モータ駆動制御装置における異常を推定する異常推定処理を実行することとしてもよい。
【0018】
〔4〕上記〔3〕に記載のモータ駆動制御システムにおいて、前記複数の駆動制御信号生成部は、それぞれ通信部を有し、前記第1の駆動制御信号生成部における前記通信部は、前記推定処理部において実行された前記異常推定処理の結果を、他の駆動制御信号生成部の通信部に送り、前記異常推定処理の結果を受信した前記他の駆動制御信号生成部は、受信した前記異常推定処理の結果に基づいて、前記駆動制御信号の生成を調整することとしてもよい。
【0019】
〔5〕上記〔4〕に記載のモータ駆動制御システムにおいて、前記異常推定処理の結果を受信した前記他の駆動制御信号生成部は、受信した前記異常推定処理の結果が、自身が属するモータ駆動制御装置の異常が推定されることを示す場合に、前記対応するモータの駆動を停止することとしてもよい。
【0020】
〔6〕上記〔1〕から〔5〕に記載のモータ駆動制御システムと、前記モータと、前記モータの回転力によって回転可能に構成されたインペラと、を備えるファンシステムとして構成してもよい。
【0021】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0022】
≪実施の形態≫
まず、本実施の形態の具体的な構成を説明する前に、モータ駆動制御システムの概要について説明する。
【0023】
図1は、モータ駆動制御システムの概要を説明する図である。
【0024】
この例では、2つのファンを2つのモータにより駆動するためのモータ駆動制御システム110を例に挙げて説明する。本実施形態のモータ駆動制御システム110は、第1のモータ駆動部2_1および第1のモータ駆動制御部3_1を有する第1のモータ駆動制御装置111と、第2のモータ駆動部2_2および第2のモータ駆動制御部3_2を有する第2のモータ駆動制御装置112と、第1のモータ駆動制御装置111と第2のモータ駆動制御装置112とを互いに通信を行うために接続する通信線45とを備えている。
【0025】
第1のモータ駆動部2_1と第2のモータ駆動部2_2とは、それぞれ、第1のモータ駆動制御部3_1と第2のモータ駆動制御部3_2とにより生成された駆動制御信号Sd_1,Sd_2に基づいて、駆動対象のモータを駆動する駆動手段である。
【0026】
第1のモータ駆動制御部3_1は、モータ駆動制御処理部30_1と、通信部35_1と、特徴量取得部38_1と、推定処理部39とを有している。第2のモータ駆動制御部3_2は、モータ駆動制御処理部30_2と、通信部35_2と、特徴量取得部38_2とを有している。このように、第1のモータ駆動制御部3_1と第2のモータ駆動制御部3_2とは、第1のモータ駆動制御部3_1にのみ推定処理部39が設けられている以外は、ほぼ同じ構成を有している。
【0027】
モータ駆動制御処理部30_1,30_2は、それぞれ、モータを駆動制御するための駆動制御信号Sd_1,Sd_2を生成するモータの駆動制御処理を実行する処理部である。モータ駆動制御処理部30_1,30_2は、それぞれ、例えば、外部装置からの駆動命令に基づいて、第1のモータ駆動部2_1と第2のモータ駆動部2_2に対してそれぞれ駆動制御信号Sd_1,Sd_2を生成する、モータの駆動制御処理を実行する。モータの駆動制御処理については、後述する。
【0028】
通信部35_1,35_2は、通信線45を介して通信を行う処理部である。
【0029】
特徴量取得部38_1は、第1のモータ駆動制御装置111における特徴量を取得する処理部であり、特徴量取得部38_2は、第2のモータ駆動制御装置112における特徴量を取得する処理部である。特徴量としては、例えば、回転速度、電圧、電流、温度、駆動制御信号のデューティ比などが挙げられるが特に限定されない。
【0030】
推定処理部39が設けられている第1のモータ駆動制御装置111の特徴量取得部38_1で取得した特徴量は、推定処理部39に送られる。推定処理部39が設けられていない第2のモータ駆動制御装置112の特徴量取得部38_2で取得した特徴量は、通信部35_1,35_2により、通信線45を介して、第1のモータ駆動制御装置111の推定処理部39に送られる。
【0031】
推定処理部39は、特徴量に基づいて、モータの駆動制御処理以外の付加的なアルゴリズムを実行する処理部である。付加的なアルゴリズムとは、モータの駆動制御処理以外のアルゴリズムであり、例えば、第1のモータ駆動制御装置111および第2のモータ駆動制御装置112における異常を推定する異常推定処理や、第1のモータ駆動制御装置111および第2のモータ駆動制御装置112における動作を分類する動作分類処理などを実行するための高負荷なアルゴリズムである。異常推定処理や動作分類処理は、例えば、いわゆるエンドポイントAIなどの機械学習済みのAIアルゴリズムとして構成される。
【0032】
推定処理部39は、第1のモータ駆動制御装置111の特徴量取得部38_1で取得した特徴量と第2のモータ駆動制御装置112の特徴量取得部38_2で取得した特徴量との両方に基づいて、第1のモータ駆動制御装置111における異常と第2のモータ駆動制御装置112における異常とをそれぞれ推定する処理をし、第1のモータ駆動制御装置111における異常推定処理の結果と第2のモータ駆動制御装置112における異常推定処理の結果とを生成する。
【0033】
モータ駆動制御システム110は、第1のモータ駆動制御装置111を構成する集積回路装置(IC)と第2のモータ駆動制御装置112を構成する集積回路装置(IC)との2つの集積回路装置(IC)によって構成されている。ここで、推定処理部39を有する第1のモータ駆動制御装置111を構成する集積回路装置(IC)は、推定処理部39を設けていない第2のモータ駆動制御装置112を構成する集積回路装置(IC)よりも、高い性能を有するものが用いられる。これは、推定処理部39は、上述したように、機械学習済みのAIアルゴリズムなどの高負荷なアルゴリズムによる処理を実行するからである。
【0034】
複数のファンをそれぞれ駆動するための複数のモータ駆動制御装置を有する従来のモータ駆動制御システムでは、調達コストなどの観点から、複数のモータ駆動制御装置を構成する集積回路装置(IC)は全て同じ性能のものを用いていた。しかしながら、本実施形態のモータ駆動制御システムでは、複数のモータ駆動制御装置のうちの1つのモータ駆動制御装置の駆動制御信号生成部にのみ推定処理部を設けて、推定処理部において機械学習済みのアルゴリズムなどの高負荷なアルゴリズムによる処理を実行することとしている。
【0035】
この構成により、推定処理部を設けた駆動制御信号生成部は、複数のモータ駆動制御装置のうちの他のモータ駆動制御装置における駆動制御信号生成部よりも高い性能を有するものを用い、他のモータ駆動制御装置における駆動制御信号生成部は一般的な性能を有するものを用いるようにすることができる。その結果、複数のファンをそれぞれ駆動するための複数のモータ駆動制御装置を有するモータ駆動制御システムにおいて、近年、要求が高まっているエンドポイントAIなどを用いた異常推定または動作分類などの、モータ駆動制御以外の高負荷のアルゴリズムによる処理を実行することができるにもかかわらず、コストの上昇を抑制することができる。
【0036】
次に、本実施の形態のモータ駆動制御システムを適用したファンシステム1について説明する。
【0037】
図2は、本実施の形態のモータ駆動制御システムを適用したファンシステム1の構成を示すブロック図である。
【0038】
図2に示されるように、ファンシステム1は、上述したモータ駆動制御システム110を搭載しており、インペラ62_1,62_2(第1のインペラ62_1,第2のインペラ62_2)およびこれを回転させるモータ21_1,21_2(第1のモータ21_1,第2のモータ21_2)をそれぞれ有する2つの送風機11、12(第1送風機11、第2送風機12)を備える送風装置として構成されている。本実施の形態において、ファンシステム1は、インレット側(吸気側)の第1送風機11と、アウトレット側(排気側)の第2送風機12とを有している。
【0039】
第1送風機11と第2送風機12とは、それぞれ、互いのインペラ62_1,62_2の回転軸中心が軸流方向に揃うようにして配置されている軸流ファンである。第1送風機11と第2送風機12とは、互いに異なる方向にそれぞれのインペラ62_1,62_2を回転させる。換言すると、軸方向に見て、第1送風機11のインペラ62_1の回転方向は、第2送風機12のインペラ62_2の回転方向とは逆の方向である。すなわち、ファンシステム1は、いわゆる二重反転式の送風機である。本実施の形態において、ファンシステム1は、例えば、電子計算機やOA機器などの電子機器の内部で発生する熱を風力によって外部へ排出することにより電子機器の内部を冷却するファンモータである。
【0040】
第1送風機11は、第1送風機11の第1のインペラ62_1を回転させる第1のモータ21_1と、第1のモータ21_1を駆動する第1のモータ駆動制御装置111とを有して構成されている。第1のモータ21_1のロータの回転軸に、第1のインペラ62_1が取り付けられている。
【0041】
第2送風機12は、第2送風機12の第2のインペラ62_2を回転させる第2のモータ21_2と、第2のモータ21_2を駆動する第2のモータ駆動制御装置112とを有して構成されている。第2のモータ21_2のロータの回転軸に、第2のインペラ62_2が取り付けられている。
【0042】
以下、第1のインペラ62_1と第2のインペラ62_2とを区別せず、インペラ62_1,62_2と表記することがある。第1のモータ21_1と第2のモータ21_2とを区別せず、モータ21_1,21_2と表記することがある。また、第1のモータ駆動制御装置111と第2のモータ駆動制御装置112とを区別せず、モータ駆動制御装置111,112と表記することがある。
【0043】
本実施の形態において、モータ21_1,21_2は、例えば3相のブラシレスモータである。各モータ駆動制御装置111,112は、モータ21_1,21_2のコイルに周期的に駆動電流を流すことで、モータ21_1,21_2を回転させる。
【0044】
第1送風機11と第2送風機12とに用いられる第1のモータ駆動制御装置111と第2のモータ駆動制御装置112とは、互いに通信を行うために通信線45により接続されている。第1のモータ駆動制御装置111と第2のモータ駆動制御装置112と通信線45とは、モータ駆動制御システムとして形成されている。
【0045】
ファンシステム1は、外部装置の一例である制御装置800に接続されている。本実施の形態において、制御装置800は、各送風機11,12に、モータ21_1,21_2の回転速度(回転数)に対応する速度指令信号Scを出力する。速度指令信号Scは、各モータ駆動制御装置111、112に入力される。各モータ駆動制御装置111,112は、速度指令信号Scに対応する回転数でモータ21_1,21_2を駆動することができる。なお、各モータ駆動制御装置111,112は、モータ21_1,21_2に対応する回転数信号S(例えば、FG信号など)を制御装置800に出力する。制御装置800は、回転数信号Sに基づいて、各送風機11,12の駆動状態を検知し、それに応じて、出力する速度指令信号Scの制御などを行うことができる。
【0046】
第1のモータ駆動制御装置111と第2のモータ駆動制御装置112は、第1のモータ駆動制御装置111のみに推定処理部39を設けていること以外は、同一のハードウエア構成を有している。本実施の形態において、第1のモータ駆動制御装置111と第2のモータ駆動制御装置112は、後述のように推定処理部39や互いに通信を行う部分の具体的な動作などを除いて、略同一の動作を行う。以下では、第1のモータ駆動制御装置111の構成と第2のモータ駆動制御装置112とに共通する構成要素については、代表して第1のモータ駆動制御装置111に基づいて説明し、異なる部分についてはそれぞれ説明する。
【0047】
各モータ駆動制御装置111,112は、モータ駆動部2_1,2_2と、制御回路部3_1,3_2(駆動制御信号生成部の一例)とを有している。なお、図2に示されているモータ駆動制御装置111,112の構成要素は、全体の一部であり、モータ駆動制御装置111,112は、図1に示されたものに加えて、他の構成要素を有していてもよい。
【0048】
本実施の形態において、各モータ駆動制御装置111,112は、それぞれ、制御回路部3_1,3_2およびモータ駆動部2_1,2_2がパッケージ化された個別の集積回路装置(IC)である。なお、個別の集積回路装置(IC)として構成された各モータ駆動制御装置111,112が1つの集積回路装置としてパッケージ化されていてもよいし、他の装置と一緒に各モータ駆動制御装置111,112がパッケージ化されて1つの集積回路装置が構成されていてもよい。また、制御回路部3_1,3_2とモータ駆動部2_1,2_2が異なる集積回路装置としてパッケージ化されていてもよい。
【0049】
モータ駆動部2_1は、インバータ回路及びプリドライブ回路を有する。モータ駆動部2_1は、制御回路部3_1から出力された駆動制御信号Sd_1に基づいて、モータ21_1に駆動信号を出力し、モータ21_1を駆動させる。
【0050】
プリドライブ回路は、制御回路部3_1による制御に基づいて、インバータ回路を駆動するための出力信号を生成し、インバータ回路に出力する。インバータ回路は、プリドライブ回路から出力された出力信号に基づいてモータ21_1に駆動信号を出力し、モータ21_1が備えるコイルに通電する。
【0051】
制御回路部3_1には、制御装置800から出力された速度指令信号Sc_1が入力される。また、制御回路部3_1は、制御装置800に回転数信号S_1を出力する。
【0052】
速度指令信号Sc_1は、モータ21_1の回転速度に関する信号である。例えば、速度指令信号Sc_1は、モータ21_1の目標回転速度に対応するPWM(パルス幅変調)信号である。換言すると、速度指令信号Sc_1は、モータ21_1の回転速度の目標値に対応する速度指令情報である。なお、速度指令信号Sc_1として、クロック信号が入力されてもよい。
【0053】
また、本実施の形態において、制御回路部3_1には、モータ21_1から、3つのホール信号(位置検出信号)Hu,Hv,Hwが入力される。ホール信号Hu,Hv,Hwは、例えば、モータ21_1に配置された3つのホール(HALL)素子25u,25v,25wの出力信号である。ホール信号Hu,Hv,Hwは、モータ21_1のロータの回転に対応する信号である。制御回路部3_1は、ホール信号Hu,Hv,Hwを用いてモータ21_1の回転状態を検出し、モータ21_1の駆動を制御する。すなわち、制御回路部3_1は、ホール信号Hu,Hv,Hwを用いてモータ21_1のロータの回転位置を検出し、モータ21_1の駆動を制御する。また、制御回路部3_1は、ホール信号Hu,Hv,Hwを用いてモータ21_1のロータの実際の回転数に関する実回転数情報を得て、モータ21_1の駆動を制御することができる。
【0054】
ホール信号Hu,Hv,Hwを出力する3つのホール素子25_1(図2においては、簡略化のため、モータ21_1について1つのホール素子25_1が示されている)は、例えば、互いに略等間隔(隣り合うものと120度の間隔で)でモータ21_1の回転子の回りに配置されている。3つのホール素子25は、それぞれ、モータ21_1のロータの磁極を検出し、ホール信号Hu,Hv,Hwを出力する。
【0055】
なお、制御回路部3_1には、このようなホール信号Hu,Hv,Hwに加えて、又はホール信号Hu,Hv,Hwに代えて、モータ21_1の回転状態に関する他の情報が入力されるように構成されていてもよい。例えば、モータ21_1の回転子の回転に対応するFG信号として、回転子の側にある基板に設けたコイルパターンを用いて生成される信号(パターンFG)が入力されるようにしてもよい。また、モータ21_1の各相(U、V、W相)に誘起する逆起電圧を検出する回転位置検出回路の検出結果に基づいてモータ21_1の回転状態が検知されるように構成されていてもよい。エンコーダやレゾルバなどを設け、それによりモータ21_1の回転速度等の情報が検出されるようにしてもよい。
【0056】
制御回路部3_1は、モータ駆動制御処理部30_1と、通信部35_1と、特徴量取得部38_1と、推定処理部39とを機能部として有している。制御回路部3_1は、これらの機能部により、モータ駆動制御機能や異常推定機能を実現している。なお、推定処理部39は、第1のモータ駆動制御装置111の制御回路部3_1にのみ設けられている機能である。
【0057】
モータ駆動制御処理部30_1は、回転数算出部31_1と、速度指令解析部32_1と、PWM指令部33_1と、PWM信号生成部34_1とを機能部として有している。通信部35_1は、送受信部36_1と、通信処理部37_1とを機能部として有している。
【0058】
これらの制御回路部3_1における機能部は、例えば、プログラム処理装置によって実現されている。例えば、CPU等のプロセッサと、RAM,ROM等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマ)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力I/F回路等の周辺回路とがバスや専用線を介して互いに接続された構成を有するプログラム処理装置(例えばマイクロコントローラ)において、CPUがメモリに記憶されているプログラムに従って各種演算処理を実行し、その処理結果に基づいてA/D変換回路や入出力インターフェース回路等の周辺回路を制御することによって、上述した機能ブロックが実現されている。
【0059】
制御回路部3_1は、入力される信号に基づいて、モータ21_1を駆動させるための駆動制御信号Sd_1を出力する。具体的には、制御回路部3_1は、速度指令信号Sc_1およびホール信号Hu,Hv,Hwに基づいて、駆動制御信号Sd_1をモータ駆動部2_1に出力する。
【0060】
制御回路部3_1は、モータ21_1を駆動させるための駆動制御信号Sd_1をモータ駆動部2_1に出力し、モータ21_1の回転制御を行う。モータ駆動部2_1は、駆動制御信号Sd_1に基づいて、モータ21_1に駆動信号を出力してモータ21_1を駆動させる。
【0061】
回転数算出部31_1には、3つのホール素子25_1から出力されたホール信号Hu,Hv,Hwが入力される。回転数算出部31_1は、入力されたホール信号Hu,Hv,Hwに基づいて、各相とモータ21_1のロータとの位置関係を示す位置信号を出力する。また、回転数算出部31_1は、ホール信号Hu,Hv,Hwに基づいて、位置信号の周期に対応する実回転数情報を生成して出力する。すなわち、回転数算出部31_1は、モータ21_1のロータの実際の回転数に関する実回転数情報を出力する。図においては、位置信号と実回転数情報とを合わせて、実回転信号S2_1が示されている。実回転信号S2_1は、PWM指令部33_1に出力される。
【0062】
回転数算出部31_1は、生成した実回転数情報を回転数信号S_1として制御装置800に出力することができる。
【0063】
速度指令解析部32_1には、速度指令信号Sc_1が入力される。速度指令解析部32_1は、速度指令信号Sc_1に基づいて、モータ21_1の目標回転数を示す目標回転数信号S1_1を出力する。目標回転数信号S1_1は、速度指令信号Sc_1に対応するデューティ比を示すPWM信号である。目標回転数信号S1_1は、PWM指令部33_1に出力される。
【0064】
PWM指令部33_1には、回転数算出部31_1から出力された実回転信号S2_1と、速度指令解析部32_1から出力された目標回転数信号S1_1とが入力される。PWM指令部33_1は、実回転信号S2_1と目標回転数信号S1_1とに基づいて、実回転信号S2_1が目標回転数信号S1_1に一致するように、いわゆるフィードバック制御処理により調整したPWM設定指示信号S3_1を生成して出力する。PWM設定指示信号S3_1は、PWM信号生成部34_1に出力される。PWM設定指示信号S3_1は、駆動制御信号Sd_1を出力するためのデューティ比を示す信号である。
【0065】
また、PWM指令部33_1には、後述のように通信処理部37_1から出力された調整信号S9_1が入力される。PWM指令部33_1は、通信処理部37_1から調整信号S9_1が入力されると、入力された調整信号S9_1の内容に応じてさらにPWM設定指示信号S3_1を調整して出力する。
【0066】
PWM信号生成部34_1には、PWM設定指示信号S3_1が入力される。PWM信号生成部34_1は、PWM設定指示信号S3_1に基づいて、モータ駆動部2_1を駆動させるためのPWM信号S4_1を生成する。PWM信号S4_1は、例えば、デューティ比がPWM設定指示信号S3_1と同一となる信号である。換言すると、PWM信号S4_1は、PWM設定指示信号S3_1に対応するデューティ比を有する信号である。
【0067】
PWM信号生成部34_1から出力されたPWM信号S4_1は、駆動制御信号Sd_1として制御回路部3_1からモータ駆動部2_1に出力される。これにより、モータ駆動部2_1からモータ21_1に駆動信号が出力され、モータ21_1が駆動される。
【0068】
特徴量取得部38_1は、第1のモータ駆動制御装置111における特徴量を取得する処理部である。特徴量取得部38_1は、第1のモータ駆動制御装置111によるモータ21_1の駆動中にモータ21_1または第1のモータ駆動制御装置111の動作状態に関する物理量を計測して第1のモータ駆動制御装置111における特徴量として取得する。特徴量としては、第1のモータ駆動制御装置111の異常を推定するのに必要な特徴量を取得することができ、例えば、回転速度、電圧、電流、温度、駆動制御信号のデューティ比などが挙げられるが特に限定されない。
【0069】
推定処理部39は、第1のモータ駆動制御装置111の制御回路部3_1にのみ設けられている構成である。推定処理部39は、第1のモータ駆動制御装置111の特徴量取得部38_1で取得した特徴量を、特徴量取得部38_1から直接受け取ることができる。推定処理部39は、第2のモータ駆動制御装置112の特徴量取得部38_2で取得した特徴量を後述するように、送受信部36_1,36_2および通信処理部37_1,37_2を介して受け取ることができる。
【0070】
推定処理部39は、モータ駆動制御装置の特徴量取得部38_1,38_2で取得した特徴量に基づいて、第1のモータ駆動制御装置111と第2のモータ駆動制御装置112とに異常が発生しているか否かについて推定する。推定処理部39は、特徴量取得部38_1,38_2で取得した特徴量に基づいて、機械学習により生成された学習モデル(機械学習済みのAIアルゴリズム)を用いた推定を行う。かかる推定を実行するアルゴリズムは、例えば、ホテリング理論、K近傍法、単純ベイズ法などの公知のAIアルゴリズムを用いることができる。
【0071】
推定処理部39は、第1のモータ駆動制御装置111の推定結果および第2のモータ駆動制御装置112の推定結果を通信処理部37_1に渡す。
【0072】
送受信部36_1は、通信を行うインターフェースである。第1のモータ駆動制御装置111の送受信部36_1は、第2のモータ駆動制御装置112の送受信部36_2と、通信線45を介して接続されている。通信線45は、1本でも複数本であってもよく、通信は、シリアル通信であってもパラレル通信であってもよい。第1のモータ駆動制御装置111の送受信部36_1は、第2のモータ駆動制御装置112の送受信部36_2と通信を行うことができる。第1のモータ駆動制御装置111における通信に関する制御は、通信処理部37_1によって行われ、第2のモータ駆動制御装置112における通信に関する制御は、通信処理部37_2によって行われる。
【0073】
通信処理部37_1は、送受信部36_1の動作を制御し、第1のモータ駆動制御装置111と第2のモータ駆動制御装置112との間の通信を制御する。すなわち、第1のモータ駆動制御装置111の通信処理部37_1は、第1のモータ駆動制御装置111の送受信部36_1を制御し、第2のモータ駆動制御装置112との通信を行う。
【0074】
通信処理部37_1は、例えば、特徴量取得部38_1,38_2において取得した特徴量や推定処理部39における推定結果を、推定処理部39とPWM指令部33_1と第2のモータ駆動制御装置112との間でやりとりを仲介する。通信処理部37_1は、具体的には、第2のモータ駆動制御装置112に対して特徴量取得の要求を送り、特徴量取得部38_2において取得した特徴量を取得する。具体的には、通信処理部37_1は、推定処理部39における推定結果をPWM指令部33_1に調整信号S9_1として出力するとともに、第2のモータ駆動制御装置112に送信する。第2のモータ駆動制御装置112の通信処理部37_2は、第1のモータ駆動制御装置111から受け取った推定処理部39における推定結果を、PWM指令部33_2に調整信号S9_2として出力する。
【0075】
本実施の形態において、第1のモータ駆動制御装置111と第2のモータ駆動制御装置112とは、第1のモータ駆動制御装置111をマスター、第2のモータ駆動制御装置112をスレーブとして、互いの通信を行うように構成されていてもよい。例えば、第1のモータ駆動制御装置111の通信処理部37_1は、送受信部36_1を介して、第2のモータ駆動制御装置112の特徴量取得部38_2に対する問い合わせを第2のモータ駆動制御装置112に対して行う。すなわち、問い合わせは、第2のモータ駆動制御装置112における特徴量を第1のモータ駆動制御装置111に送信するように依頼するものである。第2のモータ駆動制御装置112の通信処理部37_2は、送受信部36_2を介して第1のモータ駆動制御装置111からの問い合わせを受信すると、問い合わせへのレスポンスとして、第2のモータ駆動制御装置112の状態すなわち第2のモータ21_2の駆動状態に関するメッセージを、送受信部36_2を介して第1のモータ駆動制御装置111に対して送信する。その他、第1のモータ駆動制御装置111と第2のモータ駆動制御装置112とは、例えば第1のモータ駆動制御装置111から第2のモータ駆動制御装置112に対して所定の指示コマンドを送信し、第2のモータ駆動制御装置112から第1のモータ駆動制御装置111に対して指示コマンドに対する応答を送信するというようにして、互いに通信を行うことができる。
【0076】
推定処理部39を有する第1のモータ駆動制御装置111では、PWM指令部33_1は、通信処理部37_1から出力される調整信号S9_1として推定処理部39における異常推定処理の結果を受け取ると、その結果に応じて生成する設定指示信号S3_1を調整する。例えば、PWM指令部33_1は、異常推定処理の結果として、スコアを受け取り、受け取ったスコアが閾値(第1の閾値)を超えている場合に、第1のモータ駆動制御装置111の異常であると判定し、第1のモータ駆動制御装置111におけるモータの駆動を停止させるためのPWM設定指示信号S3_1を生成して出力する。すなわち、PWM指令部33_1は、受信した異常推定処理の結果が、第1のモータ駆動制御装置111の異常が推定される場合に、モータ21_1の駆動を停止させるためのPWM設定指示信号S3_1を生成する。モータ21_1の駆動を停止させるためのPWM設定指示信号S3_1は、駆動制御信号Sd_1における駆動量を「0」とする信号であってもよいし、駆動制御信号Sd_1の生成を中止させるための信号であってもよいし、その他、PWM設定指示信号S3_1の生成を中止してもよい。又は、例えば、PWM指令部33_1は、受け取ったスコアが別の閾値(第2の閾値)を超えていた場合は、第2のモータ駆動制御装置112の異常であると判定し、第2のモータ駆動制御装置112における第2のモータ21_2の駆動を補うように、第1のモータ駆動制御装置111における第1のモータ21_1の駆動をより大きいトルクで駆動するPWM設定指示信号S3_1を生成して出力する。
【0077】
推定処理部39を有していない第2のモータ駆動制御装置112では、通信処理部37_2は、通信処理部37_1および送受信部36_1,36_2を介して推定処理部39における異常推定処理の結果を受け取ることができる。通信処理部37_2は、受け取った異常推定処理の結果を、調整信号S9_2としてPWM指令部33_2に出力する。PWM指令部33_2は、通信処理部37_2から出力される調整信号S9_2として、推定処理部39における異常推定処理の結果を受け取ると、その結果に応じて生成する設定指示信号S3_2を調整する。例えば、PWM指令部33_2は、異常推定処理の結果として、スコアを受け取り、受け取ったスコアが閾値(第2の閾値)を超えている場合に、第2のモータ駆動制御装置112の異常であると判定し、第2のモータ駆動制御装置112におけるモータ21_2の駆動を停止させる。すなわち、PWM指令部33_2は、受信した異常推定処理の結果が、第2のモータ駆動制御装置112の異常が推定される場合に、モータ21_2の駆動を停止させるためのPWM設定指示信号S3_2を生成する。モータ21_2の駆動を停止させるためのPWM設定指示信号S3_2は、駆動制御信号Sd_2における駆動量を「0」とする信号であってもよいし、駆動制御信号Sd_2の生成を中止させるための信号であってもよいし、その他、PWM設定指示信号S3_2の生成を中止してもよい。また例えば、PWM指令部33_2は、受け取ったスコアが別の閾値(第1の閾値)を超えていた場合は、第1のモータ駆動制御装置111の異常であると判定し、第1のモータ駆動制御装置111における第1のモータ21_1の駆動を補うように、第2のモータ駆動制御装置112における第2のモータ21_2の駆動をより大きいトルクで駆動するPWM設定指示信号S3_2を生成して出力する。
【0078】
PWM信号生成部34_1は、このようにして異常推定処理の結果に応じて調整したPWM設定指示信号S3_1に基づいて、モータ駆動部2_1に異常推定処理の結果に応じた駆動をさせるためのPWM信号S4_1を生成する。PWM信号生成部34_1から出力されたPWM信号S4_1は、駆動制御信号Sd_1として制御回路部3_1からモータ駆動部2_1に出力される。これにより、モータ駆動部2_1からモータ21_1に駆動信号が出力され、異常推定処理の結果に応じてモータ21_1が駆動される。
【0079】
図3は、本実施の形態のモータ駆動制御システムにおける異常推定処理の動作タイミングの一例を示すシーケンス図である。
【0080】
第1のモータ駆動制御装置111および第2のモータ駆動制御装置112においては、モータ21_1,21_2の駆動中に、特徴量取得部38_1,38_2が特徴量を取得している。この例では、第1のモータ駆動制御装置111および第2のモータ駆動制御装置112の両方の特徴量に基づいて、第1のモータ駆動制御装置111および第2のモータ駆動制御装置112の異常を推定する処理を実行する場合を例に挙げて説明する。
【0081】
まず、第1のモータ駆動制御装置111の推定処理部39は、異常推定処理を開始すると、特徴量取得要求を行う(ステップS1)。特徴量取得要求は、第1のモータ駆動制御装置111の特徴量取得部38_1と第2のモータ駆動制御装置112とに対して、取得していた特徴量を要求する。
【0082】
第2のモータ駆動制御装置112の通信処理部37_2は、通信部35_1,35_2により、通信線45を介して、ステップS1の要求を受け取ると、特徴量取得部38_2において取得済みの特徴量を第1のモータ駆動制御装置111に送信する(ステップS2)。通信処理部37_2は、特徴量取得部38_2に対して、取得していた特徴量を要求し、特徴量取得部38_2は、取得済みの特徴量を通信処理部37_2に渡す。同様に、第1のモータ駆動制御装置111の特徴量取得部38_1は、取得済みの特徴量を推定処理部39に渡す。
【0083】
推定処理部39は、受け取った特徴量に基づいて、異常推定処理を実行する(ステップS3)。推定処理部39は、モータ駆動制御装置の特徴量取得部38_1,38_2で取得した特徴量に基づいて、第1のモータ駆動制御装置111と第2のモータ駆動制御装置112とに異常が発生しているかについて推定する。推定処理部39は、特徴量取得部38_1,38_2で取得した特徴量に基づいて、機械学習により生成された学習モデル(機械学習済みのAIアルゴリズム)を用いた推定を行う。推定処理部39は、例えば、第1のモータ駆動制御装置111と第2のモータ駆動制御装置112とに異常が発生している確からしさを表すスコア(数値)を推定結果として生成することができる。
【0084】
推定処理部39は、推定処理の結果を送信する(ステップS4)。推定処理部39は、推定処理の結果を通信処理部37_1に渡すと、通信処理部37_1は、推定処理の結果を調整信号S9_1として、PWM指令部33_1に送るとともに、送受信部36_1,36_2を介して、第2のモータ駆動制御装置112に送る。さらに、第2のモータ駆動制御装置112の通信処理部37_2は、推定処理の結果を受け取り、推定処理の結果を調整信号S9_2としてPWM指令部33_2に送る。
【0085】
通信処理部37_1は、第1のモータ駆動制御装置111の推定結果を第1のモータ駆動制御装置111のPWM指令部33_1に送り、第2のモータ駆動制御装置112の推定結果を第2のモータ駆動制御装置112のPWM指令部33_2に送ることとしてもよいし、第1のモータ駆動制御装置111の推定結果と第2のモータ駆動制御装置112の推定結果との両方をそれぞれのPWM指令部33_1,33_2に送ることとしてもよい。
【0086】
PWM指令部33_1,33_2は、それぞれ、受け取った推定処理の結果に応じた処理を実行する(ステップS5、S5’)。PWM指令部33_1,33_2は、通信処理部37_1,37_2から調整信号S9_1,S9_2が入力されると、入力された調整信号S9_1,S9_2の内容(異常推定処理の結果)に応じてさらにPWM設定指示信号S3_1,S3_2を調整して出力する。
【0087】
PWM信号生成部34_1は、このようにして異常推定処理の結果に応じて調整されたPWM設定指示信号S3_1に基づいて、モータ駆動部2_1に異常推定処理の結果に応じた駆動をさせるためのPWM信号S4_1を生成する。PWM信号生成部34_1から出力されたPWM信号S4_1は、駆動制御信号Sd_1として制御回路部3_1からモータ駆動部2_1に出力される。これにより、モータ駆動部2_1からモータ21_1に駆動信号が出力され、異常推定処理の結果に応じてモータ21_1が駆動される。
【0088】
《実施形態の拡張》
モータ駆動制御システムやモータ駆動制御システムを搭載したファンシステムの回路構成は、上述の実施の形態に示されるような回路構成に限定されない。本発明の目的に適合するように構成された、様々な回路構成が適用できる。上記の実施の形態の特徴点が部分的に組み合わされて送風機やそのモータ駆動制御装置が構成されていてもよい。上記の実施の形態において、いくつかの構成要素が設けられていなくてもよく、あるいは、いくつかの構成要素が他の態様で構成されていてもよい。
【0089】
ファンシステムは、図4に示すように、3つ以上の送風機を有するものであってもよい。モータ駆動制御システムを適用したファンシステムは、各送風機に対応したモータ駆動制御装置を備えたものを用いることができる。例えば、図4に示すファンシステム1は、4つの送風機11,12,13,14を有しているので、用いられるモータ駆動制御システム120は、4つのモータ駆動制御装置111,112,113,114を有したものを用いることができる。その場合、モータ駆動制御システム120は、複数のモータ駆動制御装置のうちの1つが上述した第1のモータ駆動制御装置として機能し、他のモータ駆動制御装置が上述した第2のモータ駆動制御装置として機能すればよい。
【0090】
以上の実施形態では、推定処理部39は、モータ駆動制御装置の特徴量取得部38_1,38_2で取得した特徴量に基づいて、異常推定処理を実行する対象を例に挙げて説明したがこれに限定されない。例えば、推定処理部39は、モータ駆動制御装置の特徴量取得部38_1,38_2で取得した特徴量に基づいて、モータ21_1とモータ21_2との寿命を推定し、その推定結果に応じて、第1のモータ駆動制御装置111と第2のモータ駆動制御装置112の動作の分類を行う動作分類処理を実行してもよい。
【0091】
推定処理部39において実行される付加的なアルゴリズムは、モータの駆動制御処理以外のアルゴリズムであればよく、異常推定処理や動作分類処理に限定されない。また、付加的なアルゴリズムは、機械学習済みのAIアルゴリズムに限られず、モータの駆動制御処理以外の高負荷なアルゴリズムであってもよい。
【0092】
以上の実施形態では、推定処理部39は、第1のモータ駆動制御装置111の特徴量取得部38_1で取得した特徴量と第2のモータ駆動制御装置112の特徴量取得部38_2で取得した特徴量の両方に基づいて、第1のモータ駆動制御装置111および第2のモータ駆動制御装置112の両方に関する異常を推定して、両方の異常推定処理の結果を生成して、処理していたが、これに限定されない。代替的に、推定処理部39は、第1のモータ駆動制御装置111の特徴量取得部38_1で取得した特徴量に基づいて第1のモータ駆動制御装置111における異常を推定する処理と、第2のモータ駆動制御装置112の特徴量取得部38_2で取得した特徴量に基づいて第2のモータ駆動制御装置112における異常を推定する処理とを別々に、時間で区切って処理を実行することができる。時間で区切って処理を実行する場合、第1のモータ駆動制御装置111の通信処理部37_1は、第1のモータ駆動制御装置111の異常推定結果をPWM指令部33_1に出力するとともに、第2のモータ駆動制御装置112の異常推定結果がPWM指令部33_2に出力されるようにしてもよい。
【0093】
ファンシステムは、回転軸中心が揃わないように配置された第1送風機と第2送風機とを有するものであってもよい。また、第1送風機と第2送風機の少なくとも一方が軸流ファンでなくてもよい。
【0094】
第1送風機のみが第2送風機との通信結果に基づいて第1のモータの駆動を制御し、第2送風機は第1送風機との通信結果にかかわらずに第2のモータの駆動を制御するように
してもよい。
【0095】
第2送風機がインレット側(吸気側)に配置されており、第1送風機がアウトレット側(排気側)に配置されていてもよい。
【0096】
第1のモータ駆動制御装置から第2送風機への問い合わせは、必ずしも定期的に行われるものに限られず、例えば不定期に行われるようにしてもてもよい。例えば、あるときには第1の間隔(例えば、100ミリ秒)をあけて次の問い合わせが行われ、その後の問い合わせが行われるまでの間隔が、第2の間隔(例えば、200ミリ秒)、第3の間隔(例えば、300ミリ秒)と変化するというように、問い合わせの間隔が変わることがあってもよい。このように問い合わせの間隔が不定期である場合であっても、問い合わせの間隔が第1の間隔、第2の間隔、第3の間隔よりも長い所定時間(例えば1秒)を超えた場合に、異常が発生したと検知するようにすればよい。
【0097】
第1送風機と第2送風機との通信方式や通信プロトコルは、上述の実施の形態の内容に限定されない。第1送風機と第2送風機とのいずれが通信におけるマスターとなってもよい。第1送風機と第2送風機とが、互いに無線通信を行うように構成されていてもよい。この場合、通信線が設けられていなくてもよい。
【0098】
本実施の形態のモータ駆動制御装置により駆動されるモータは、3相のブラシレスモータに限られず、他の相数のモータや、他の種類のモータであってもよい。ホール素子の数は、3個に限られない。ホール素子とは異なる検出器を用いて、モータの位置検出信号が得られるようにしてもよい。例えば、ホールIC等を用いてもよい。また、モータは、ホール素子やホールIC等の位置検出器を用いない、センサレス方式により駆動されるようにしてもよい。
【0099】
上述のフローチャートなどは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではなく、例えば、各ステップの順番が変更されたり各ステップ間に他の処理が挿入されたりしてもよいし、処理を並列化してもよい。
【0100】
上述の実施の形態における処理の一部又は全部が、ソフトウエアによって行われるようにしても、ハードウエア回路を用いて行われるようにしてもよい。例えば、制御回路部は、マイコンに限定されない。制御回路部の内部の構成は、少なくとも一部がソフトウエアで処理されるようにしてもよい。
【0101】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0102】
1 ファンシステム、11 第1送風機、12 第2送風機、21_1 第1のモータ、21_2 第2のモータ、2_1,2_2 モータ駆動回路、3_1,3_2 制御回路部(駆動制御信号生成部の一例)、30_1,30_2 モータ駆動制御処理部、31_1,31_2 回転数算出部、32_1,32_2 速度指令解析部、33_1,33_2 PWM指令部、34_1,34_2 PWM信号生成部、35_1,35_2 通信部、36_1,36_2 送受信部、37_1,37_2 通信処理部、38_1,38_2 特徴量取得部、39 推定処理部、45 通信線、62_1,62_2 インペラ、111 第1のモータ駆動制御装置、112 第2のモータ駆動制御装置、800、4 制御装置、S_1,S_2 回転数信号、Sc_1,Sc_2 速度指令信号、S1_1,S1_2 目標回転数信号、S2_1,S2_2 実回転信号、S3_1,S3_2 PWM設定指示信号、S4_1,S4_2 PWM信号、S9_1,S9_2 調整信号
図1
図2
図3
図4