(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007683
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】管拡径工具
(51)【国際特許分類】
B29C 57/04 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
B29C57/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108915
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢加部 晃一
【テーマコード(参考)】
4F209
【Fターム(参考)】
4F209AA04
4F209AG08
4F209AH11
4F209NA22
4F209NB01
4F209NG03
4F209NH06
4F209NM02
4F209NN02
(57)【要約】
【課題】合成樹脂製のPEX管の端部を拡径する管拡径工具において、ジョーの開閉動作の度に操作部材を指先で引き操作する必要があるため、使用者の負担が大きかった。本開示では、使用者の負担の軽減を目的とする。
【解決手段】操作部材6を操作中、電動モータ20を正転と逆転を繰り返し行って、複数のジョーを複数回開けるコントローラ9を有する。これにより、操作部材の1回の操作で複数回ジョーの開閉動作が連続してなされる。この点で使用者の負担が軽減される。ジョーの開閉動作の設定回数は操作パネル7bで予め設定することができる。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の流体管の端部を拡径する管拡径工具であって、
電動モータの正転により正転し、前記電動モータの逆転により逆転する雌ねじ部材と、
前記雌ねじ部材に螺合しかつ前記雌ねじ部材の正転により初期位置から終端位置へ前進し、前記雌ねじ部材の逆転により前記終端位置から前記初期位置に後退するねじ軸と、
前記ねじ軸から前方に延出する楔と、
前記楔が前記ねじ軸とともに前進した際に前記楔に押されて径方向外方に相互に開く複数のジョーと、
前記電動モータを起動させる操作部材と、
前記操作部材を操作中、前記電動モータを正転と逆転を繰り返し行って、前記複数のジョーを複数回開けるコントローラを有する管拡径工具。
【請求項2】
請求項1記載の管拡径工具であって、
前記ねじ軸の前記初期位置と前記終端位置の少なくとも一方を検知する検知手段を有する管拡径工具。
【請求項3】
請求項2記載の管拡径工具であって、
前記初期位置と前記終端位置の双方をそれぞれ検知する検知手段を有する管拡径工具。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1つに記載の管拡径工具であって、
前記コントローラは、前記操作部材の操作の解除後に前記ねじ軸が前記初期位置に戻るように前記電動モータを逆転させる管拡径工具。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1つに記載の管拡径工具であって、
前記操作部材の操作開始時に前記ねじ軸が前記初期位置に位置しない場合に、前記コントローラは、前記操作部材の操作開始時に前記電動モータを逆転させて前記ねじ軸を前記初期位置に戻す管拡径工具。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1つに記載の管拡径工具であって、
前記コントローラは、前記操作部材の操作中、前記ねじ軸の前記初期位置と前記終端位置の間の往復動回数を計測し、前記往復動回数が予め設定した回数に達した時に前記電動モータの回転を停止する管拡径工具。
【請求項7】
請求項6記載の管拡径工具であって、
前記コントローラは、前記電動モータの回転数に基づいて前記往復動回数を算出する管拡径工具。
【請求項8】
請求項2又は3記載の管拡径工具であって、
前記検知手段がホールICセンサである管拡径工具。
【請求項9】
請求項2又は3記載の管拡径工具であって、
前記検知手段は、前記電動モータの回転数に基づいて前記ねじ軸の位置を検知する検知回路である管拡径工具。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1つに記載の管拡径工具であって、
前記ねじ軸と前記雌ねじ部材との間にボールが介在されたボールねじを備える管拡径工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば合成樹脂製の流体管の端部を被接続体に接続するために拡径する管拡径工具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばPEX(Cross-linked polyethylene:架橋ポリエチレン)を材料とする流体管を樹脂製のパイプ等の被接続体に接続する場合がある。PEX管の端部の内径を拡げる管拡径工具が従来提供されている。PEX管の端部を、管拡径工具を用いて拡径して被接続体に装着する。PEX管の端部は、弾性変形によって次第に元の径に戻るように縮径する。端部が縮径したPEX管は、被接続体に対して密に接続される。接続されたPEX管は、自身の弾性を利用して被接続体に強固に保持される。
【0003】
特許文献1には、電動モータを駆動源とする送りねじ機構によりPEX管を拡径する管拡径工具が記載されている。管拡径工具の前部には、PEX管の端部に対して送りねじ機構により前進または後退する略円錐状の楔と、楔の前方で楔の周方向に並ぶ複数のジョーが設けられる。複数のジョーは、前進する楔に押されて楔の径方向外方に相互に開く。複数のジョーをPEX管の端部開口に進入させた状態で径方向外方に開くことで、PEX管の端部を拡げることができる。通常PEX管の拡径作業では、ジョーの開き動作が複数回繰り返されることで規定のサイズまで拡径される。PEX管を規定サイズまで拡径するために必要なジョーの開き動作は、例えば1インチ径のPEX管では通常12~18回とされる。
【0004】
また、例えば管拡径工具が6つのジョーを有する場合、PEX管の端部は周方向等間隔に6箇所で各ジョーから径方向外方に開く力を受ける。そのため1回の拡径動作では、PEX管の端部が略六角形に拡径される。PEX管の端部を円形に拡径するためには、拡径動作と、複数のジョーを楔の周方向に所定の角度(例えば15°~30°)で回転させる回転動作とを交互に繰り返し行う。これにより各ジョーがPEX管の内周面と接触する位置が回転動作によって移動する。そのためPEX管の端部は、均一に拡径されて円形に近づく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第2020/0261959号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の管拡径工具では、使用者の1回の起動操作(トリガのオン操作)によりジョーの開き動作が1回だけなされる。このため、使用者は要求されるジョーの開き動作回数だけ管拡径工具の起動操作を繰り返す必要があり、この点で使用者の負担が大きかった。本開示では、PEX管の拡径作業について使用者の負担を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一つの局面によると、例えば合成樹脂製の流体管の端部が管拡径工具により拡径される。管拡径工具は、例えば電動モータの正転により正転し、電動モータの逆転により逆転する雌ねじ部材を有する。管拡径工具は、例えば雌ねじ部材に螺合しかつ雌ねじ部材の正転により初期位置から終端位置へ前進し、雌ねじ部材の逆転により終端位置から初期位置に後退するねじ軸を有する。管拡径工具は、例えばねじ軸から前方に延出する楔と、楔がねじ軸とともに前進した際に楔に押されて径方向外方に相互に開く複数のジョーを有する。管拡径工具は、例えば電動モータを起動させる操作部材と、操作部材を操作中、電動モータを正転と逆転を繰り返し行って、複数のジョーを複数回開けるコントローラを有する。
【0008】
従って、操作部材の1回の操作中にジョーが複数回開けられる。これにより使用者の負担が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施例に係る管拡径工具の斜視図である。
【
図2】PEX管の端部を拡径する管拡径工具の斜視図である。
【
図3】本体ハウジングを取り外した状態の工具本体を前側右方から見た斜視図である。
【
図5】本体ハウジングを取り外した状態の工具本体を後側右方から見た斜視図である。
【
図6】本体ハウジングを取り外した状態の工具本体を前側左方から見た斜視図である。
【
図7】本体ハウジングを取り外した状態の工具本体を後側左方から見た斜視図であって、出力軸が後端位置に位置する状態を示す斜視図である。
【
図8】本体ハウジングを取り外した状態の工具本体を後側左方から見た斜視図であって、出力軸が前端位置に位置する状態を示す斜視図である。
【
図9】工具本体の本体ハウジングを取り外した状態の後面図である。
【
図10】後シャフトを含むアッセンブリの分解斜視図である。
【
図11】工具本体と後シャフトを含むアッセンブリを示す斜視図である。
【
図12】
図9中のXII-XII線断面矢視図である。
【
図14】出力軸が後端位置に位置する場合の
図13中XIV-XIV線断面矢視図である。
【
図15】出力軸が前端位置に位置する場合の
図13中XIV-XIV線断面矢視図である。
【
図16】出力軸が後端位置に位置する場合の
図13中XVI-XVI線断面矢視図である。
【
図17】出力軸が前端位置に位置する場合の
図13中XVI-XVI線断面矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えばねじ軸の初期位置と終端位置の少なくとも一方が検知手段により検知される。従って、ねじ軸の往復動作が迅速かつ確実になされる。
【0011】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えばねじ軸の初期位置と終端位置の双方がそれぞれ検知手段により検知される。従って、ねじ軸の往復動作がより一層迅速かつ確実になされる。
【0012】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えばコントローラは、操作部材の操作の解除後にねじ軸が初期位置に戻るように電動モータを逆転させる。従って、操作部材の操作が解除されると、ねじ軸が後退して初期位置に戻されることでジョーは閉じ位置に確実に戻される。
【0013】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば操作部材の操作開始時にねじ軸が初期位置に位置しない場合に、コントローラは、操作部材の操作開始時に電動モータを逆転させてねじ軸を初期位置に戻す。従って、ねじ軸が中途位置から前進することが回避される。これによりジョーの開き動作は半開き状態からはなされず、必ず閉じ位置から開始される。
【0014】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えばコントローラは、操作部材の操作中、ねじ軸の初期位置と終端位置の間の往復動回数を計測する。例えばコントローラは、往復動回数が予め設定した回数に達した時に電動モータの回転を停止する。従って、操作部材の操作中であっても、ジョーの開き動作が設定回数なされた時点で電動モータが自動停止される。これにより適切な拡径動作が迅速になされる。
【0015】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えばコントローラは、電動モータの回転数に基づいて往復動回数を算出する。従って、電動モータの回転数が設定数に至ることで、ねじ軸が初期位置に戻された後に電動モータが自動停止される。これによりジョーの複数回の拡径動作について使用者の負担が低減される。
【0016】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば検知手段がホールICセンサである。従って、ねじ軸の初期位置と終端位置の一方または双方がホールICセンサにより検知される。
【0017】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば検知手段は、電動モータの回転数に基づいてねじ軸の位置を検知する検知回路である。従って、ねじ軸の初期位置と終端位置の一方または双方が検知回路により検知される。
【0018】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば管拡径工具は、ねじ軸と雌ねじ部材との間にボールが介在されたボールねじを備える。従って、雌ねじ部材に対してねじ軸ががたつきなく且つ滑らかに螺合される。これによりねじ軸が精確且つ滑らかに往復動する。
【実施例0019】
次に本開示の実施例を
図1~20に基づいて説明する。
図1に示すように本実施例の管拡径工具1は、本体ハウジング11に収容される工具本体10と、本体ハウジング11の下部から下方に延出するグリップ5を有する。使用者は、管拡径工具1の概ね後方(
図1において左方奥側)に位置してグリップ5を把持する。以下の説明において、使用者の手前側を後方、使用者の手前側と反対側を前方とする。上下左右方向については使用者を基準とする。
【0020】
図1,4,12に示すように工具本体10の前部には、リング状のキャップ2が装着される。工具本体10の中央には、前後方向に延出する円柱状の出力軸27が設けられる。出力軸27の前端には、略円錐状の楔3が装着される。楔3は、キャップ2の径方向内方に位置する。出力軸27と楔3は、工具本体10の中央で前後方向に延出する出力軸線K上に配置される。出力軸27と楔3は、出力軸線Kに沿って後方の初期位置と前方の終端位置の間で前後方向に移動可能である。楔3の径方向外方かつキャップ2の径方向内方には、前後方向に延出する複数のジョー4が設けられる。複数のジョー4は、楔3の周方向に等間隔に並ぶ。管拡径工具1は、例えば6つのジョー4を有し、各ジョー4が楔3の周方向に60°間隔で配置される。複数のジョー4は、周方向に互いに密接して楔3を覆う閉じ位置と、径方向外方に相互に開いて楔3の先端を露出する開き位置の間で径方向に開閉可能である。
【0021】
図1,12に示すようにグリップ5の前面には、トリガ式の操作部材6が設けられる。使用者は、グリップ5を把持した状態で操作部材6を指先で引いてオン操作することができる。グリップ5の内部には、操作部材6の操作と連動してオンオフが切り替えられるスイッチ本体6aが設けられる。スイッチ本体6aは、操作部材6を引いていない場合にオフ状態であり、操作部材6を引いた場合にオン状態になる。グリップ5の下端には、前後方向および左右方向に拡径する略矩形箱形の拡径部7が設けられる。
【0022】
拡径部7の上面には、操作パネル7bが設けられる。操作パネル7bには例えばジョー4の開閉動作の回数を予め設定しておくための各種の操作ボタンが配置されている。操作ボタン7cを長押しすると、操作パネル7bが起動する。起動状態は表示部7dが点灯することで報知される。起動状態で操作ボタン7eを押し操作することで設定数の10の位を設定できる。10の位は表示部7fに数値表示される。同じく起動状態で操作ボタン7gを押し操作することで設定数の1の位を設定できる。1の位は表示部7hに数値表示される。使用者は操作ボタン7e,7gを押し操作することでジョー4の開閉動作の回数を予め設定しておくことができる。操作部材6の1回の引き操作中に、ジョー4の開閉動作が設定回数だけ連続してなされる。設定回数だけジョー4が連続して開閉されると電動モータ20が自動的に停止される。
【0023】
拡径部7には、コントローラ9が収容される。コントローラ9は、底浅の矩形箱形のケースと、ケース内に収容されかつ樹脂モールドされた制御基板を有する。コントローラ9は、厚み方向(ケースの最短辺が延びる方向)が上下方向に沿った姿勢で拡径部7に収容される。コントローラ9は、主として後述する電動モータ20の駆動を制御する。
【0024】
図1に示すように拡径部7の下面には、矩形箱形のバッテリ8を取り外し可能に装着できるバッテリ取付部7aが設けられる。バッテリ8は、前方へスライドさせることでバッテリ取付部7aから取り外すことができる。バッテリ8は、バッテリ取付部7aの前方から後方へスライドさせることでバッテリ取付部7aに装着できる。バッテリ8は、バッテリ取付部7aから取り外して別途用意した充電器で繰り返し充電して使用できる。バッテリ8は、他の電動工具の電源として流用することができる。バッテリ8は、電動モータ20に電力を供給する電源として動作する。
【0025】
図2に示すように管拡径工具1を使用する際、使用者は、グリップ5を把持して複数のジョー4を合成樹脂製のPEX管(流体管)51の端部51aに挿入する。操作部材6を引くことで複数のジョー4が径方向に開閉する。これによりPEX管51の端部51aが拡径される。PEX管51は、例えば互いに対向する2つの壁52の間に配管される。管拡径工具1は2つの壁52の間の狭小なスペースで用いられる。
【0026】
図4に示すように工具本体10には、前側機構ハウジング12と第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14と後側機構ハウジング15が前側から後方に順に収容される。前側機構ハウジング12と第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14は、前後方向に貫通する中空路を中央に有する略円筒形状である。後側機構ハウジング15は、前後方向を板厚方向とする板状に設けられる。前側機構ハウジング12と第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14と後側機構ハウジング15は、協働して機構ハウジングを形成する。機構ハウジングには、後述するギヤ軸23とアイドルギヤ24とナット26が収容される。
【0027】
図3,4に示すように前側機構ハウジング12の前部外周面には、雄ねじ12aが設けられる。キャップ2の後部内周面には、雄ねじ12aと螺合する雌ねじ2bが設けられる。雄ねじ12aと雌ねじ2bを螺合させることで、キャップ2が前側機構ハウジング12の前部に連結される。
【0028】
図3,4に示すように前側機構ハウジング12の外周面には、径方向外方に張り出した略円筒形状の4つのボス部12cが設けられる。ボス部12cには、前後方向に貫通するねじ孔12dが形成される。第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14は、径方向外方に張り出す略円筒形状の4つのボス部13g,14jをそれぞれ有する。各ボス部13g,14jには、前後方向に貫通する透孔13h,14kが設けられる。後側機構ハウジング15の4つの角部には、前後方向に貫通する透孔15bが設けられる。ボス部12c,13g,14jと透孔15bを前後方向に並べることにより、ねじ孔12dと透孔13h,14k,15bが前後方向に連通する。4本のボルト16を、連通した各透孔15b,14k,13hに後方から前方へ挿通させ、ねじ孔12dに締結させる。これにより前側機構ハウジング12,第1中央機構ハウジング13,第2中央機構ハウジング14,後側機構ハウジング15は前後方向に並んで連結される。
【0029】
図3,4に示すように第1中央機構ハウジング13は、円筒形状の下方に延出する外形略U字状の下方延出部13bを有する。第2中央機構ハウジング14は、円筒形状の下方に延出する外形略U字状の下方延出部14bを有する。下方延出部13bと下方延出部14bが前後方向に連結されることでギヤ軸23とアイドルギヤ24を収容するスペースが形成される。下方延出部13bには、前後方向に貫通する2つの透孔が前後に並列して設けられる。下側の透孔には、後述するギヤ軸23を支持するための凹部13cが設けられる。上側の透孔13dには、アイドルギヤ24を支持する軸部材24aが圧入される。下方延出部14bには、前後方向に貫通する2つの透孔が前後に並列して設けられる。下側の透孔には、ギヤ軸23を支持するための凹部14cが設けられる。上側の透孔14dには、軸部材24aが挿入される。
【0030】
図3,12に示すように本体ハウジング11の後方下部には、略円柱形状の電動モータ20が収容される。電動モータ20には、例えばDCブラシレスモータと称されるモータが用いられる。電動モータ20は、出力軸27の下方かつグリップ5の上方に位置する。電動モータ20のモータ軸20aは、モータ軸線Jに沿って出力軸27の中心を通る出力軸線Kと平行に前後方向に延出する。モータ軸線Jは、上下方向に延出する仮想平面S上で出力軸線Kと上下に並列する(
図13参照)。モータ軸20aは、軸受20e,20fによってモータ軸線Jを中心に回転可能に支持される。軸受20eは、電動モータ20と後述する遊星減速機構22との間に設けられる。軸受20fは、本体ハウジング11の後面の内壁に支持される。
【0031】
図12に示すように電動モータ20は、本体ハウジング11に対して回転不能に支持された固定子20bを有する。固定子20bは、モータ軸20aの径方向外方に配置される。電動モータ20の回転子20cは、固定子20bの内周側でモータ軸20aと一体に回転可能にモータ軸20aに取付けられる。回転子20cの前方には、回転数検知センサ20dが設けられる。回転数検知センサ20dは、回転子20cの回転角度を検知することでモータ軸20aの回転数を検知する。回転子20cと後方の軸受20fの前後方向の間には、電動モータ20に冷却風を導入するためのファン21がモータ軸20aに一体に取付けられる。モータ軸20aとともにファン21が回転すると、冷却風が電動モータ20の前方から後方に向けて流れる。
【0032】
図12に示すように電動モータ20の前方には、モータ軸20aの出力を減速するための遊星減速機構(変速機構)22が設けられる。遊星減速機構22は、モータ軸線Jを中心としかつ電動モータ20と略同じ径の略円柱形状である。遊星減速機構22は、電動モータ20と前後方向に並んで本体ハウジング11に収容される。遊星減速機構22の第1サンギヤ22aは、軸受20eの前方においてモータ軸20aの前端と一体に設けられる。第1サンギヤ22aの径方向外方には、モータ軸線Jを中心とするリング状の第1インターナルギヤ22bが設けられる。第1サンギヤ22aと第1インターナルギヤ22bの間に複数の第1遊星ギヤ22cが噛み合う。第1遊星ギヤ22cは、第1サンギヤ22aの前方の第1キャリヤ22dと連結される。モータ軸20aの回転駆動は、第1サンギヤ22aと第1遊星ギヤ22cを介して第1キャリヤ22dに減速して伝達される。
【0033】
図12に示すように第1キャリヤ22dは、前方の第2サンギヤ22eと一体に設けられ、かつ第2サンギヤ22eとともにモータ軸線Jを中心に回転可能である。第2サンギヤ22eの径方向外方には、モータ軸線Jを中心とするリング状の第2インターナルギヤ22fが設けられる。第2サンギヤ22eと第2インターナルギヤ22fの間に複数の第2遊星ギヤ22gが噛み合う。第2遊星ギヤ22gは、第2サンギヤ22eの前方に配置された第2キャリヤ22hと連結される。第2キャリヤ22hは、前方のギヤ軸23の後端と一体に設けられ、モータ軸線Jを中心に回転可能である。したがって第1キャリヤ22dの回転駆動は、第2サンギヤ22e、第2遊星ギヤ22g、第2キャリヤ22hを介してギヤ軸23に減速して伝達される。かくしてモータ軸20aの回転駆動が遊星減速機構22を介してギヤ軸23に減速して伝達される。
【0034】
図12に示すようにギヤ軸23は、軸受23b,23cによってモータ軸線Jを中心に回転可能に支持される。前方の軸受23bは、第1中央機構ハウジング13の下部に凹設された凹部13cに圧入される。後方の軸受23cは、第2中央機構ハウジング14の下部に凹設された凹部14cに圧入される。ギヤ軸23は、軸受23b,23cの前後方向の間に駆動側ギヤ23aを有する。駆動側ギヤ23aは、ギヤ軸23と一体になってモータ軸線Jを中心に回転する。
【0035】
図12に示すようにギヤ軸23と出力軸27の上下方向の間には、アイドルギヤ24が設けられる。アイドルギヤ24は、前後方向に延出する円柱状の軸部材24aによって軸部材24aの軸回りに回転可能に支持される。軸部材24aは、第1中央機構ハウジング13の下方延出部13bに設けられた透孔13dと、第2中央機構ハウジング14の下方延出部14bに設けられた透孔14dに挿入されて固定される。軸部材24aの軸線は、モータ軸線Jと出力軸線Kを含む仮想平面S上に位置する(
図9参照)。軸部材24aとアイドルギヤ24の径方向の間にはラジアル軸受24bが設けられる。アイドルギヤ24は、下方の駆動側ギヤ23aと噛合し、かつ上方の従動側ギヤ26aと噛合する。
【0036】
図12に示すように工具本体10には、ボールねじ機構と称される送りねじ機構(動力変換機構)25が設けられる。送りねじ機構25は、出力軸27とナット26を有する。出力軸27の外周面には雄ねじ27aが設けられる。従って、出力軸27がボールねじ機構のねじ軸に相当する。ナット26は、出力軸27を周方向に覆う略円筒形状に形成される。ナット26の内周面には雌ねじ26bが設けられる。雌ねじ26bは、出力軸27の雄ねじ27aとの間に複数のボール27bを介して雄ねじ27aに螺合される。ナット26の外周には、径方向外方に突出してアイドルギヤ24と噛み合う従動側ギヤ26aが設けられる。駆動側ギヤ23aとアイドルギヤ24との噛み合いと、アイドルギヤ24と従動側ギヤ26aとの噛み合いによって、ギヤ軸23の回転駆動がナット26に減速して伝達される。
【0037】
図12に示すようにナット26は、工具本体10内に収容された軸受26c,26dによって出力軸線Kを中心にして回転可能に支持される。前方の軸受26cは、第1中央機構ハウジング13の内周面13aに圧入される。後方の軸受26dは、第2中央機構ハウジング14の内周面14aに圧入される。ナット26の後面と後側機構ハウジング15の前面15aとの間には、ナット26を後方に押すスラスト荷重を受けるためのスラスト軸受26eが設けられる。
【0038】
図3,5に示すように出力軸27の後部には、出力軸27の回り止めをしかつ出力軸27の前後動をガイドする出力軸ガイド28が取付けられる。出力軸ガイド28は、出力軸27の後端に連結されかつ左右方向に延出するローラシャフト28aを有する。出力軸ガイド28は、ローラシャフト28aの左右両端に一対のローラ28bを有する。第2中央機構ハウジング14の左右側部には、前後方向に延出するループ形状の一対のレール28cが取付けられる。ローラ28bは、レール28cと係合してレール28cに沿って前後方向に移動可能である。出力軸27は、ローラ28bに案内されて出力軸ガイド28とともに前後方向に移動する。
【0039】
図6,12に示すように工具本体10は、複数のジョー4を回転させるジョー回転機構30を有する。複数のジョー4は、出力軸線Kの軸回りに回転する。ジョー回転機構30は、モータ軸20aの回転に連動して前後動するプッシュプレート34と、プッシュプレート34の前後動に連動して回転するシャフト31を有する。シャフト31は、前後方向に延出するシャフト軸線L上に配置される。シャフト31は、シャフト軸線Lの軸回りに回転する。シャフト軸線Lは、上下方向において出力軸線Kの下方かつモータ軸線Jの上方に位置する。シャフト軸線Lは、左右方向において出力軸線Kとモータ軸線Jを含む仮想平面Sよりも左方にオフセットして配置される(
図13参照)。
【0040】
図5,14に示すようにジョー回転機構30は、シャフト31に取付けられたボールリテーナ36を有する。ボールリテーナ36は、シャフト軸線Lに沿って前後方向に移動可能である。シャフト31の右方には、シャフト31と平行に延出するガイドシャフト41が設けられる。第2中央機構ハウジング14は、出力軸27の下方かつ遊星減速機構22の上方にガイドシャフト支持部14eを有する。ガイドシャフト支持部14eには、前後方向に貫通する透孔14fが設けられる。ガイドシャフト41は、透孔14fに圧入されて第2中央機構ハウジング14に固定される。
【0041】
図10,11に示すようにボールリテーナ36は、略円筒状のスリーブ装着部36aと、スリーブ装着部36aの右方に延出する側方延出部36eを有する。スリーブ装着部36aの中央には、前後方向に貫通するシャフト挿通孔36cが設けられる。シャフト挿通孔36cには、シャフト31がボールリテーナ36に対してスライド可能に挿通される。側方延出部36eには、前後方向に貫通する透孔36fが設けられる。透孔36fには、ガイドシャフト41がボールリテーナ36に対してスライド可能に挿通される。かくしてボールリテーナ36は、シャフト31とガイドシャフト41に案内されて前後方向にスライド可能であり、かつシャフト31の軸回りの回転が規制される。
【0042】
図5,14に示すようにジョー回転機構30は、ボールリテーナ36を後方から押すプッシュプレート34を有する。板状のプッシュプレート34は、板厚方向を前後方向とする姿勢でローラシャフト28aに一体に取付けられる。プッシュプレート34は、ローラシャフト28aから下方に延出してスリーブ装着部36aの後方に配置される。プッシュプレート34は、前後方向に貫通する透孔34aを有する。透孔34aには、スリーブ装着部36aから後方へ突出したシャフト31が貫通可能である。プッシュプレート34は、出力軸27とともに前方へ移動する際、ボールリテーナ36の後面を前方へ押圧する。プッシュプレート34は、出力軸27とともに後方へ移動する際にはボールリテーナ36から離間するように移動する。そのためプッシュプレート34がボールリテーナ36を移動させる力は作用しない。
【0043】
図10,14に示すようにスリーブ装着部36aには、上下方向に貫通してシャフト挿通孔36cと連通するボール保持孔36bが設けられる。シャフト挿通孔36cに対して上下に位置する一対のボール保持孔36bには、それぞれボール39が挿入される。スリーブ装着部36aには、ボール保持孔36bを径方向外方から覆うスリーブ37が装着される。スリーブ37をスリーブ装着部36aに装着することで、ボール39がボール保持孔36b内で保持される。スリーブ装着部36aの前部には、周方向に延出する凹溝36dが設けられる。凹溝36dには、スリーブ37の脱落を防止するためのOリング38が装着される。
【0044】
図14,15に示すようにシャフト31は、前シャフト32と後シャフト33を前後方向に組付けることで構成される。前シャフト32は、第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14に軸回りに回転可能に支持される。後シャフト33は、第2中央機構ハウジング14に軸回りに回転可能に支持される。後シャフト33は、ボールリテーナ36に挿通される。後シャフト33の前端には、雄ねじ33aが設けられる。前シャフト32には、雄ねじ33aと螺合する雌ねじ32aが設けられる。雄ねじ33aを雌ねじ32aに螺合させることで後シャフト33が前シャフト32に一体に取付けられる。後シャフト33を前シャフト32に対して後方から見て時計回り方向(
図8に示す第1回転R1の方向)に回転させることで、雄ねじ33aと雌ねじ32aが相互に締め付けられる。後シャフト33を前シャフト32に対して後方から見て反時計回り方向(
図7に示す第2回転R2の方向)に回転させることで、雄ねじ33aと雌ねじ32aが相互に緩められる。
【0045】
図10,14,15に示すように後シャフト33の外周面には、一対のボール溝33bが設けられる。ボール溝33bは、概ね後シャフト33の長手方向に延出し、かつ後方から前方に向けてねじ溝のように周方向に延出する。ボール溝33bは、後部33cから前部33eに向けて第1回転R1(
図8参照)の方向に延出する。一対のボール溝33bは、後シャフト33の軸中心に対して点対称の位置関係で配置される。ボール溝33bには、ボールリテーナ36のボール保持孔36bからシャフト挿通孔36cへと径方向内方へ突出したボール39が係合する。
【0046】
図14,15に示すようにボール39は、ボール溝33bの延出方向に沿ってボール溝33b内を移動する。また、ボール39は、シャフト軸線Lの軸回りの回転が規制されたボールリテーナ36に保持されている。ボールリテーナ36を後シャフト33に対して前方へ移動させる場合、ボール39がボール溝33bの後部33cから前部33eへ移動する。そのため後シャフト33は、ボールリテーナ36に対して第2回転R2の方向に回転する。ボールリテーナ36を後シャフト33に対して後方へ移動させる場合、ボール39がボール溝33bの前部33eから後部33cへ移動する。そのため後シャフト33は、ボールリテーナ36に対して第1回転R1の方向に回転する。
【0047】
図14,15に示すように第2中央機構ハウジング14は、前シャフト32と後シャフト33の螺合された領域を支持するシャフト支持部14hを有する。シャフト支持部14hには、径方向に張り出したリブ状のばね受け部14gと、前後方向に貫通してシャフト31を挿通可能な透孔14iが設けられる。ばね受け部14gとボールリテーナ36の前後方向の間には、圧縮ばね40が介装される。圧縮ばね40の中央には、後シャフト33が挿通される。圧縮ばね40は、ボールリテーナ36を後方に向けて付勢する。
【0048】
図14,15に示すように第1中央機構ハウジング13は、前シャフト32を支持するシャフト支持部13eを有する。シャフト支持部13eの中央には、前後方向に貫通して前シャフト32を挿通可能な透孔13fが設けられる。
【0049】
図14,15に示すようにジョー回転機構30は、円筒形状のワンウェイクラッチ42と駆動側ギヤ43を有する。ワンウェイクラッチ42と駆動側ギヤ43は、シャフト支持部13eの前方において前シャフト32の前部に装着される。ワンウェイクラッチ42は、前シャフト32と駆動側ギヤ43の径方向の間に設けられる。ワンウェイクラッチ42は、例えばスプラグ式と称される構造で径方向内周面側の一方向の回転のみを径方向外周面側へ伝達する。ワンウェイクラッチ42は、前シャフト32の第1回転R1(
図8参照)を駆動側ギヤ43へ伝達する。ワンウェイクラッチ42は、前シャフト32の第2回転R2(
図7参照)を駆動側ギヤ43へ伝達せず前シャフト32を空転させる。
【0050】
図11に示すように後シャフト33、ボールリテーナ36、ボール39、スリーブ37は、アッセンブリ35として一体に組付け可能である。アッセンブリ35は、後シャフト33の雄ねじ33aを前シャフト32の雌ねじ32aに螺合させることで工具本体10に組付けることができる。アッセンブリ35を工具本体10に組付ける際には、圧縮ばね40をアッセンブリ35で圧縮するようにして組付ける。
【0051】
図7,8,11に示すように前シャフト32の後部には、前後方向に相互に平行に延出する一対の平面を具備する二面幅部32bが設けられる。二面幅部32bは、第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14の間で機構ハウジングの外側へ露出する。後シャフト33の後端には、前後方向に相互に平行に延出する一対の平面を具備する二面幅部33fが設けられる。二面幅部32bをスパナ等で保持して前シャフト32の回り止めをした状態で、二面幅部33fをスパナ等で保持して後シャフト33を第1回転R1の方向へ回転させる。これにより後シャフト33が前シャフト32に螺合される。かくして後シャフト33を具備するアッセンブリ35を、前シャフト32を支持する工具本体10に一体に組付けることができる。
【0052】
図4,12,16,17に示すようにジョー回転機構30は、略円筒形状の回転駆動リング44と、略円筒形状のジョイント45を有する。回転駆動リング44とジョイント45は、前側機構ハウジング12の内周面12bの径方向内側に支持されて、出力軸線Kを中心にして軸回りに回転する。ジョイント45と前側機構ハウジング12の径方向の間には、Oリング45dが設けられる。回転駆動リング44の中央には、前後方向に貫通して出力軸27を挿通可能な挿通孔44bが設けられる。回転駆動リング44の後部外周には、径方向外方へ張出した従動側ギヤ44aが設けられる。従動側ギヤ44aに、駆動側ギヤ43が噛み合わされている。駆動側ギヤ43の回転動力は、従動側ギヤ44aへ減速して伝達される。回転駆動リング44の前端には、前方へ突出しかつ周方向に並んだ複数の係合凸部44cが設けられる。
【0053】
図4,16,17に示すようにジョイント45の中央には、前後方向に貫通して出力軸27を挿通可能な挿通孔45aが設けられる。ジョイント45の後端には、回転駆動リング44の複数の係合凸部44cと係合する複数の係合凹部45bが設けられる。係合凸部44cが係合凹部45bに篏合することによって、ジョイント45が回転駆動リング44と一体で回転する。ジョイント45の前端には、前方へ突出しかつ周方向に並んだ複数の係合凸部45cが設けられる。
【0054】
図4,16,17に示すようにジョー4の後端には、ジョイント45の複数の係合凸部45cと係合する係合凹部4bが設けられる。複数の係合凸部45cが各ジョー4の係合凹部4bに篏合することによって、ジョー4がジョイント45と一体で出力軸線Kの軸回りに回転する。ジョー4の後部の径方向外周には、断面円弧状のリング収容溝4aが設けられる。複数のジョー4のリング収容溝4aは、周方向に連なって円環状の溝を形成する。複数のジョー4は、リング収容溝4aに挿入されかつ弾性的に伸縮可能なリング4cによって周方向に連結される。キャップ2の内周面には、リング4cを収容可能なジョー支持溝2aが径方向外方および周方向に延出して設けられる。ジョー支持溝2aは、リング4cの径方向の移動は許容するが、リング4cの前後方向の移動は規制する。複数のジョー4は、ジョー支持溝2aに支持されたリング4cを中心にして径方向に開閉する。
【0055】
図14,15に示すようにローラシャフト28aの上部には、磁石46が取付けられる。本体ハウジング11の上部内周面には、初期位置センサ47と終端位置センサ48が設けられる。初期位置センサ47と終端位置センサ48は、ホールICと称される磁界を検知するセンサである。初期位置センサ47は、
図14に示すように出力軸27が後方の初期位置に位置する際の磁石46の直上位置に配置される。初期位置センサ47は、磁石46と前後方向にオーバーラップした時に出力軸27の初期位置を検知し、コントローラ9(
図1参照)に信号を送信する。終端位置センサ48は、
図15に示すように出力軸27が前方の終端位置に位置する際の磁石46の直上位置に配置される。終端位置センサ48は、磁石46と前後方向にオーバーラップした時に出力軸27の前端位置を検知し、コントローラ9に信号を送信する。
【0056】
図7,8,12,14~17を参照して送りねじ機構25とジョー回転機構30の駆動について説明する。先ず操作部材6の引き操作により電動モータ20が起動する。電動モータ20の起動によりモータ軸20aの回転駆動が遊星減速機構22で減速されてギヤ軸23に伝わる。ギヤ軸23が回転すると、駆動側ギヤ23aと噛合したアイドルギヤ24が回転する。さらにアイドルギヤ24と噛合した従動側ギヤ26aとともにナット26が出力軸線Kの軸回りに回転する。ナット26が回転すると、雌ねじ26bが雄ねじ27aと螺合し、かつ出力軸ガイド28が出力軸27を回り止めすることによって、出力軸27が前後方向に移動する。出力軸27が前進する際、出力軸27の前端に装着された楔3が複数のジョー4とリング4cを径方向外方の開き位置に移動するように押圧する。出力軸27が後退する際には、楔3の押圧力が解消されるため、リング4cが収縮して複数のジョー4が径方向内方の閉じ位置に戻る。
【0057】
電動モータ20は、コントローラ9によって正転と逆転が切り替えられる。出力軸27は、電動モータ20が正転する際に前進し、電動モータ20が逆転する際に後退する。コントローラ9は、初期位置センサ47から送信される信号と終端位置センサ48から送信される信号に基づいて電動モータ20の正転と逆転を切り替える。
【0058】
出力軸27が前進する際、ローラシャフト28aに装着されたプッシュプレート34も一体に前進する。プッシュプレート34は、ボールリテーナ36を圧縮ばね40の付勢力に抗して前方へ押圧する。ボールリテーナ36が前進すると、ボール39がボール溝33bと係合し、かつガイドシャフト41がボールリテーナ36を回り止めすることによって、後シャフト33が第2回転R2の方向に回転する。後シャフト33が螺合された前シャフト32も第2回転R2の方向に回転する。この時、ワンウェイクラッチ42は、前シャフト32の回転動力を駆動側ギヤ43に伝達しない。そのため前シャフト32は、後シャフト33との螺合が緩まる第2回転R2の方向に回転するが、空転するため螺合を緩めるトルクの発生は抑制される。従動側ギヤ44aを具備する回転駆動リング44は、駆動側ギヤ43から回転動力が伝達されないため回転しない。そのため回転駆動リング44と連結されるジョイント45と複数のジョー4は回転しない。かくして複数のジョー4は、出力軸線Kの軸回りに回転せず、楔3に押されて径方向外方に開く。
【0059】
出力軸27が後退する際、ローラシャフト28aに装着されたプッシュプレート34も一体に後退する。ボールリテーナ36は、プッシュプレート34の押圧力が解除されることで、圧縮ばね40に付勢されて後方へ移動する。ボールリテーナ36が後退すると、ボール39がボール溝33bと係合し、かつガイドシャフト41がボールリテーナ36を回り止めすることによって、後シャフト33が第1回転R1の方向に回転する。後シャフト33が螺合された前シャフト32も第1回転R1の方向に回転する。この時、ワンウェイクラッチ42は、前シャフト32の回転動力を駆動側ギヤ43に伝達する。そのため前シャフト32は、後シャフト33との螺合がさらに締まる第1回転R1の方向に回転する。従動側ギヤ44aを具備する回転駆動リング44は、駆動側ギヤ43から回転動力が伝達されることで前方から見て時計回り方向に回転する。ジョイント45と複数のジョー4も、回転駆動リング44と一体に回転する。かくして複数のジョー4は、出力軸線Kの軸回りに前方から見て時計回り方向に回転しながら径方向内方へ閉じる。
【0060】
以上のように操作部材6の引き操作により電動モータ20が起動してジョー4の開閉動作と回転動作がなされる。本例の管拡径工具1では、操作部材6を操作中、電動モータ20の正転と逆転が繰り返されることで、ジョー4の開閉動作と回転動作が連続して複数回なされる。コントローラ9の制御基板9aには電動モータ20の正転と逆転が繰り返されるための制御回路Cが設けられている。制御基板9aには、バッテリ8の電力を電動モータ20に供給する電源回路が含まれる。
【0061】
図18に示すように制御回路Cには、操作部材6のオン操作信号、初期位置センサ47のオン信号、終端位置センサ48のオン信号に加えて、回転数検知センサ20dの回転数情報及び操作パネル7bの操作による設定回数情報が入力される。制御基板9aには、回転数検知センサ20dにより電動モータ20の回転数を検知する検知回路が含まれる。予め使用者が操作パネル7bを操作することにより、複数のジョー4の開閉動作(出力軸27の往復動作)の回数が設定される。設定された動作回数の情報は制御回路Cに設定回数Pとして記憶される。ジョー4の開閉動作の設定回数Pは、拡径作業の対象であるPEX管51に合わせて適切に設定される。
【0062】
図19に制御回路Cにより制御される管拡径工具1の一連の動作フローが示されている。バッテリ取付部7aにバッテリ8が取り付けられることで、動作フローが開始待機状態となる(ステップ100、以下ST100と略記する。)。ST101で操作部材6が引き操作されると、出力軸27の位置が検知される(ST102)。ST102では、初期位置センサ47のオンオフ状態が判別されることで出力軸27が初期位置に位置するか否かが判別される。
【0063】
ST102で出力軸27が初期位置に位置しないこと(初期位置センサ47がオフ)が確認されると、ST103で電動モータ20が逆転される。これにより先ず出力軸27が後方の初期位置に戻される。ST102で出力軸27が初期位置に位置すること(初期位置センサ47がオン)が確認されると、ST104で電動モータ20が正転される。これにより出力軸27が前進して複数のジョー4が開かれる。
【0064】
電動モータ20の正転中、ST105では操作部材6の引き操作(スイッチ本体6aのオン状態)が確認される。操作部材6の引き操作が確認されることで電動モータ20の正転が続行されて、ジョー4が開かれていく。ST106で出力軸27が終端位置に至ると終端位置センサ48がオンされる。これにより、複数のジョー4が全開された状態となる。
【0065】
ジョー4の開き動作途中、ST105で操作部材6の引き操作が確認されない場合には、使用者が操作部材6の引き操作を解除したと判断される。この場合、ST110で電動モータ20は逆転に切り替わる。これにより出力軸27が前進途中で後退し始めてジョー4の開き動作は途中で中止される。ST111で出力軸27の初期位置が確認されると、ST112で電動モータ20が停止される。このように、ジョー4の開き動作の途中で操作部材6の引き操作が解除されると、電動モータ20は逆転して出力軸27が初期位置に戻される。これにより、ジョー4は閉じ状態に戻されて、制御フローはST100の待機状態に戻る。
【0066】
図20に示すように例えば出力軸27が終端位置に至ってジョー4により拡径動作がなされた段階で、終端位置センサ48のオン回数(拡径動作の実行回数p)がカウントされる。ST107で、カウントされた実行回数pが予め設定した設定回数Pとの比較がなされる。ジョー4の開き動作の実行回数pが設定回数Pよりも少ない場合(p<P)には、電動モータ20が逆転される(ST108)。これにより出力軸27が後退して複数のジョー4が閉じられる。ジョー4の閉じ段階で、ジョー回転機構30により出力軸線K回りに回転する。
【0067】
ST109で電動モータ20の逆転中における操作部材6の引き操作状態が判別される。ST109で操作部材6の引き操作が確認されないと、制御フローはST110に戻される。従って、電動モータ20が引き続き逆転して出力軸27が初期位置に戻された時点で電動モータ20が停止される。これにより使用者による操作は中止されて制御フローはST100の待機状態に戻される。
【0068】
ST109で操作部材6の引き操作状態が確認されると、制御フローはST102に戻される。ST102で初期位置センサ47のオン信号により出力軸27の初期位置が確認される。出力軸27が初期位置に至って複数のジョー4の閉じ状態が確認されると、ST104で再び電動モータ20が正転に切り替わる。これによりジョー4の2回目の開き動作が開始される。以後ST105で操作部材6の引き操作が確認されることを条件に、ST106で出力軸27が終端位置に至るまで電動モータ20が正転されてジョー4が再度開かれていく。また、ST109で操作部材6の引き操作が確認されることを条件に、ST102で出力軸27が初期位置に至るまで電動モータ20が逆転されてジョー4が閉じられる。
【0069】
こうして複数のジョー4の開き動作が繰り返されてその実行回数pが1つずつ加算される。実行回数pが設定回数Pに達したこと(p=P)が、ST107を経てST120で確認される。ST120でp=Pが確認されると、ST121で電動モータ20が逆転に切り替わって出力軸27が後退される。これによりジョー4が出力軸線K回りに回転しつつ閉じられていく。
【0070】
ST121で電動モータ20が逆転される段階(設定回数Pの最終段階)では、ST108の逆転段階(設定回数Pの途中段階)とは異なって、操作部材6の引き操作は確認されない。ST121の逆転段階では、操作部材6の操作状態に関わらず、電動モータ20の逆転が続行されて出力軸27が初期位置に戻され、その後に電動モータ20が停止される。
【0071】
ST122で出力軸27の初期位置が確認されて、複数のジョー4の閉じ状態が確認されると、ST123で電動モータ20が停止される。その後、ST124で操作部材6の引き操作が解除されて、一連の制御動作が終了する。
【0072】
以上説明したように、本実施例では、電動モータ20の正転と逆転が切り替わって出力軸27が初期位置と終端位置との間を複数回往復動作される。これにより、操作部材6を1回引き操作した状態のままで、ジョー4の開閉動作が繰り返される。従って使用者の負担が低減される。
【0073】
実施例によれば、出力軸27(ねじ軸)の初期位置と終端位置がそれぞれ初期位置センサ47と終端位置センサ48により検知される。これにより、出力軸27の往復動作が迅速かつ確実になされる。
【0074】
実施例によれば、操作部材6(操作部材)の引き操作の解除後に出力軸27(ねじ軸)が初期位置に戻るように電動モータ20が逆転する(ST110、ST111)。従って、設定回数Pの途中において操作部材6の操作が解除される場合に、出力軸27が初期位置に戻されてジョー4が確実に閉じ位置に戻される。これにより次回の作業が迅速になされる。
【0075】
実施例によれば、例えば操作部材6の引き操作開始時に出力軸27が初期位置に位置しない場合には、一旦電動モータ20が逆転して出力軸27が初期位置に戻される。従って、出力軸27が中途位置から前進することが回避される。これによりジョーの開き動作は半開き状態からはなされず、必ず閉じ位置から開始される。従って、拡径作業が効率良くなされる。
【0076】
実施例によれば、操作部材6の引き操作中、出力軸27の初期位置と終端位置の間の往復動作の実行回数pが計測される。往復動作の実行回数pが予め設定した設定回数Pに達した時に電動モータ20の回転が停止される。従って、操作部材6の引き操作中であっても、ジョー4の開き動作が設定回数Pだけなされた時点で電動モータ20が自動停止される。これにより適切な拡径動作が迅速になされる。
【0077】
実施例によれば、出力軸27の往復動作の実行回数pが予め設定した設定回数Pに達した時(ST120)に出力軸27を初期位置に停止させるように電動モータ20が逆転される(ST121)。出力軸27が初期位置に戻された後(ST122)に電動モータ20が停止する(ST123)。従って、複数のジョー4の開き動作が設定回数Pだけなされると、出力軸27が初期位置に戻された後に電動モータ20が自動停止される。これにより次回の拡径動作が迅速に開始される。
【0078】
実施例によれば、出力軸27の初期位置と終端位置がホールICセンサ(初期位置センサ47と終端位置センサ48)より検知される。従って、出力軸27の初期位置と終端位置を検知する検知手段の精確性及びコンパクト性が確保される。
【0079】
実施例によれば、管拡径工具1は、出力軸27(ねじ軸)とナット26(雌ねじ部材)との間にボール27bが介在された送りねじ機構25(ボールねじ)を備える。従って、ナット26に対して出力軸27ががたつきなく且つ滑らかに螺合される。これにより出力軸27が精確且つ滑らかに往復動する。
【0080】
以上説明した本実施例の管拡径工具1には様々な変更を加えることができる。例えば、出力軸27(ねじ軸)の初期位置と終端位置の双方をホールICセンサにより検知する構成としたが、何れか一方のみをセンサで検知する構成に変更してもよい。
【0081】
実施例によれば電動モータ20の回転数が回転数検知センサ20dにより検知される。出力軸27の初期位置と終端位置をホールICセンサに代えて、回転数検知センサ20dにより検知される電動モータ20の回転数に基づいて検知する構成としてもよい。この場合、初期位置と終端位置の一方または双方を電動モータ20の回転数検知回路により検知する構成とすることができる。
【0082】
ジョー4を6つ有する管拡径工具1を例示した。これに代えて、例えば5つ以下または7つ以上のジョー4を有していてもよい。
【0083】
実施例では出力軸27の雄ねじ27aとナット26の雌ねじ26bの間にボール27bが介在されるボールねじ機構と称される送りねじ機構25を例示した。これに代えて、例えば雄ねじ27aと雌ねじ26bが直接螺合してボールが介在されない滑りねじ機構であってもよい。
【0084】
実施例の管拡径工具1が本開示の1つの局面における管拡径工具の一例である。実施例のPEX管51が本開示の1つの局面における流体管の一例である。実施例の端部51aが本開示の1つの局面における端部の一例である。
【0085】
実施例の電動モータ20が本開示の1つの局面における電動モータの一例である。実施例のナット26が本開示の1つの局面における雌ねじ部材の一例である。実施例の出力軸27が本開示の1つの局面におけるねじ軸の一例である。実施例の楔3が本開示の1つの局面における楔の一例である。実施例のジョー4が本開示の1つの局面におけるジョーの一例である。
【0086】
実施例の操作部材6が本開示の1つの局面における操作部材の一例である。実施例のコントローラ9が本開示の1つの局面におけるコントローラの一例である。