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  • 特開-加飾用表皮材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076846
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】加飾用表皮材
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/507 20060101AFI20240530BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20240530BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20240530BHJP
   D03D 15/54 20210101ALI20240530BHJP
   B60R 13/02 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
D06M15/507
D03D15/283
D03D15/20 100
D03D15/54
B60R13/02 B
B60R13/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188638
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000150774
【氏名又は名称】株式会社槌屋
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】冨田 隆介
(72)【発明者】
【氏名】山田 有
【テーマコード(参考)】
3D023
4L033
4L048
【Fターム(参考)】
3D023BA01
3D023BB01
3D023BC01
3D023BD01
3D023BD03
3D023BD12
3D023BD27
3D023BE02
3D023BE12
3D023BE31
4L033AA07
4L033AA08
4L033AB05
4L033AC15
4L033CA45
4L048AA34
4L048AA56
4L048AB11
4L048AB13
4L048AC01
4L048BA01
4L048CA00
4L048DA24
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】高級感を醸し出すことができる加飾用表皮材を提供する。
【解決手段】加飾用表皮材11は、共に合成樹脂製の無撚のマルチフィラメント糸からなる経糸12及び緯糸13で織ってなる織布14を有している。織布14は、合成樹脂製のコーティング剤15によってコーティングされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共に合成樹脂製の無撚のマルチフィラメント糸からなる経糸及び緯糸で織ってなる織布を有し、
前記織布は、合成樹脂製のコーティング剤によってコーティングされていることを特徴とする加飾用表皮材。
【請求項2】
前記経糸及び前記緯糸は、共に繊維径が5μm以上60μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の加飾用表皮材。
【請求項3】
前記織布は、共に黒色に着色された複数の前記経糸及び複数の前記緯糸で織ってなることを特徴とする請求項2に記載の加飾用表皮材。
【請求項4】
前記コーティング剤は、エマルジョン型コーティング剤であることを特徴とする請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の加飾用表皮材。
【請求項5】
前記コーティング剤の前記織布に対する使用量は、前記織布の目付量の0.5wt%以上50wt%以下の範囲であることを特徴とする請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の加飾用表皮材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両や建築物などに用いられる加飾用表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、カーボンクロスは、見た目に高級感があるため、加飾品として使用されることがある。このような加飾品としては、例えば、カーボンクロスをエポキシ樹脂やアクリル樹脂などで固めてパネル状にしたものが知られている。こうした加飾品は、カーボンクロスを構成する炭素繊維が折れやすいので、折り曲げることによって三次元曲面に追従させることが困難である。
【0003】
そこで、従来は、炭素繊維を用いずにカーボンクロスの模様が醸し出す風合いや質感による意匠を表現する化粧材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この化粧材は、黒色の樹脂シートにエンボス加工によって織物状凹凸模様を形成することによって製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-113894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の化粧材は、繊維を用いずに織物状凹凸模様を表現しているため、カーボンクロスのような高級感を醸し出すことが困難であるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための加飾用表皮材の各態様を記載する。
[態様1]共に合成樹脂製の無撚のマルチフィラメント糸からなる経糸及び緯糸で織ってなる織布を有し、前記織布は、合成樹脂製のコーティング剤によってコーティングされていることを特徴とする加飾用表皮材。
【0007】
上記構成によれば、織布によって高級感を醸し出しつつ、コーティング剤によって織布の耐目ずれ性及び耐摩耗性を向上することができる。したがって、耐久性を向上させつつ高級感を醸し出すことができる。
【0008】
[態様2]前記経糸及び前記緯糸は、共に繊維径が5μm以上60μm以下の範囲であることを特徴とする[態様1]に記載の加飾用表皮材。
一般に、カーボンクロスのような光沢を有した高級感のある外観を表現するには、経糸及び緯糸の繊維径をできるだけ細くする必要があるが、経糸及び緯糸の繊維径を細くしすぎると、耐摩耗性が低下する。この点、上記構成によれば、経糸及び緯糸の繊維径を共に繊維径が5μm以上60μm以下の範囲に設定することで、織布によってカーボンクロスのような光沢を有した高級感のある外観を表現しつつ、織布の耐摩耗性を確保できる。
【0009】
[態様3]前記織布は、共に黒色に着色された複数の前記経糸及び複数の前記緯糸で織ってなることを特徴とする[態様2]に記載の加飾用表皮材。
上記構成によれば、織布の外観がカーボンクロスの外観に近づくので、炭素繊維を用いずにカーボンクロスに近い外観を織布によって表現することができる。したがって、炭素繊維を用いずにカーボンクロスのような高級感を醸し出すことができる。
【0010】
[態様4]前記コーティング剤は、エマルジョン型コーティング剤であることを特徴とする[態様1]~[態様3]のうちいずれか一つに記載の加飾用表皮材。
上記構成によれば、コーティング剤に有機溶剤が使用されないので、環境負荷を低減できる。
【0011】
[態様5]前記コーティング剤の前記織布に対する使用量は、前記織布の目付量の0.5wt%以上50wt%以下の範囲であることを特徴とする[態様1]~[態様4]のうちいずれか一つに記載の加飾用表皮材。
【0012】
上記構成によれば、織布の風合いを維持しつつ織布の耐摩耗性を向上できる。因みに、コーティング剤の織布に対する使用量が織布の目付量の0.5wt%未満である場合には、織布の耐摩耗性などが不足するおそれがある。一方、コーティング剤の織布に対する使用量が織布の目付量の50wt%よりも大きい場合には、織布の風合いが低下するおそれがある。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、高級感を醸し出すことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態の加飾用表皮材の平面模式図である。
図2図1の断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、加飾用表皮材の一実施形態を図面に基づいて説明する。
<加飾用表皮材11>
図1及び図2に示すように、加飾用表皮材11は、例えば、車両の内外装の加飾、建築物の内外壁の加飾、家具や家電の表面の加飾などに使用される。加飾用表皮材11は、共に合成樹脂製の無撚のマルチフィラメント糸からなる経糸12及び緯糸13で織ってなる柔軟性を有した織布14を有している。織布14は、合成樹脂製のコーティング剤15によって全体がコーティングされている。
【0016】
<織布14>
図1及び図2に示すように、織布14は、揃えられた複数本(本例では3本)の経糸12及び揃えられた複数本(本例では3本)の緯糸13で平織りすることによって形成される。この場合、ロービングの幅Aは、例えば、2.3mm以上4.3mm以下の範囲に設定される。このロービングの幅Aの範囲は、カーボンクロス6Kに相当する。この場合の6Kとは、フィラメント数のことであって、1束あたり6000本の炭素繊維が使われているという意味である。
【0017】
織布14を構成する経糸12及び緯糸13は、共に熱可塑性樹脂によって構成されている。この場合、熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリプロピレンなどを用いることができる。経糸12及び緯糸13は、織布14の耐久性向上の観点から考慮すると、ポリエステルまたはポリアミドによって構成することが好ましい。
【0018】
経糸12及び緯糸13は、一例として、共に黒色に着色されている。この場合、経糸12及び緯糸13は、原着によって着色されている。すなわち、経糸12及び緯糸13は、原液着色糸である。つまり、経糸12及び緯糸13は、原料自体に顔料などの着色剤を混ぜることによって着色されている。原着による着色は、染色による着色に比べて色が落ちにくいので、耐久性の面で有利である。
【0019】
経糸12及び緯糸13は、繊度が200デシテックス以上5000デシテックス以下の範囲に設定される。さらに、マルチフィラメント糸からなる経糸12及び緯糸13を構成する単繊維の繊維径は、5μm以上60μm以下の範囲に設定することが好ましく、20μm以上60μm以下の範囲に設定することがより好ましい。これにより、織布14によってカーボンクロスのような光沢を有した高級感のある外観を表現しつつ、織布14の耐摩耗性を確保できる。
【0020】
因みに、経糸12及び緯糸13を構成する単繊維の繊維径が5μm未満である場合には、単繊維が細くなりすぎるので、耐摩耗性が低下してしまう。一方、経糸12及び緯糸13を構成する単繊維の繊維径が60μmよりも大きい場合には、織布14によるカーボンクロスのような光沢を有した高級感のある外観の表現が困難になってしまう。なお、織布14の目付は、例えば、1平方メートル当たり400グラム程度となるように設定される。
【0021】
<コーティング剤15>
図2に示すように、コーティング剤15には、無色透明のエマルジョン型コーティング剤が採用される。コーティング剤15は、無色透明であることで、織布14の外観を活かすことができる。コーティング剤15は、エマルジョン型コーティング剤とすることで、有機溶剤が不要となるので、環境負荷の低減に寄与できる。
【0022】
コーティング剤15は、ポリエステル系、アクリル系、ポリアミド系などのものを採用できる。特に、加飾用表皮材11の使用場所に難燃性が要求される場合には、コーティング剤15をポリエステル系のものにすることが好ましい。
【0023】
コーティング剤15は、JIS K5600-5-4で規定される鉛筆硬度が、HB~6Bの範囲であることが好ましく、Bであることがより好ましい。これにより、織布14の風合い(織布らしい触感や凹凸感など)を損なうことなく、織布14の耐摩耗性、耐目ずれ性、耐傷性を向上できる。
【0024】
コーティング剤15の織布14に対する使用量(塗布量)は、織布14の目付量の0.5wt%以上50wt%以下の範囲であることが好ましく、織布14の目付量の1wt%以上20wt%以下の範囲であることがより好ましく、織布14の目付量の2wt%以上16wt%以下の範囲であることがさらに好ましい。これらのコーティング剤15のwt%の値は、全て乾燥後の溶媒を含まない状態のコーティング剤15のwt%の値である。
【0025】
因みに、コーティング剤15の織布14に対する使用量が織布14の目付量の0.5wt%未満である場合には、織布14の耐摩耗性、耐目ずれ性、及び耐傷性が不足するおそれがある。一方、コーティング剤15の織布14に対する使用量が織布14の目付量の50wt%よりも大きい場合には、織布14の風合いが低下するおそれがある。
【0026】
織布14をコーティング剤15でコーティングする場合、織布14の風合いと、織布14の耐摩耗性、耐目ずれ性、及び耐傷性とは、トレードオフの関係になっている。このため、加飾用表皮材11の使用用途に応じて、織布14に対するコーティング剤15の使用量を適宜調整することが好ましい。
【0027】
織布14に対するコーティング剤15の使用量を調整しやすくするため、コーティング剤15の固形分は、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。なお、織布14に対するコーティング剤15の付与方法(塗布方法)としては、含浸やグラビアコーター(ロールコーター)などが挙げられる。
【0028】
<加飾用表皮材11の作用>
上述のように、加飾用表皮材11は、合成樹脂製の織布14に合成樹脂製のコーティング剤15によるコーティングが施された構成になっている。このため、加飾用表皮材11は、折れやすく高価な炭素繊維を用いることなく外観が高級感のあるカーボンクロスの外観に非常に近いものとなる上に、柔軟性も有しているため、3次元曲面に対する追従性が良好となる。したがって、加飾用表皮材11は、カーボンクロスよりも安価で製造され、且つカーボンクロスが使用できない3次元曲面に対して好適に使用される。
【0029】
特に、加飾用表皮材11は、コーティング剤15によって耐久性が向上されるため、例えば、車室内であれば、乗員が見たり触ったりする、インストルメントパネル、コンソールボックス、ドアトリム、天井パネル、シートなどの表面に使用できる。これにより、乗員(ユーザー)は、カーボンクロスに酷似した見た目の高級感や織布14特有の凹凸感を視覚及び触覚を通じて楽しむことができる。
【0030】
<実施形態の効果>
以上詳述した実施形態によれば次のような効果が発揮される。
(1)加飾用表皮材11は、共に合成樹脂製の無撚のマルチフィラメント糸からなる経糸12及び緯糸13で織ってなる織布14を有している。織布14は、合成樹脂製のコーティング剤15によってコーティングされている。
【0031】
上記構成によれば、織布14によって高級感を醸し出しつつ、コーティング剤15によって織布14の耐目ずれ性及び耐摩耗性を向上することができる。したがって、耐久性を向上させつつ高級感を醸し出すことができる。
【0032】
(2)加飾用表皮材11において、経糸12及び緯糸13は、共に繊維径が5μm以上60μm以下の範囲である。
一般に、カーボンクロスのような光沢を有した高級感のある外観を表現するには、経糸12及び緯糸13の繊維径をできるだけ細くする必要があるが、経糸12及び緯糸13の繊維径を細くしすぎると、耐摩耗性が低下する。この点、上記構成によれば、経糸12及び緯糸13の繊維径を共に繊維径が5μm以上60μm以下の範囲に設定することで、織布14によってカーボンクロスのような光沢を有した高級感のある外観を表現つつ、織布14の耐摩耗性を確保できる。
【0033】
(3)加飾用表皮材11において、織布14は、共に黒色に着色された複数の経糸12及び複数の緯糸13で織ってなる。
上記構成によれば、織布14の外観がカーボンクロスの外観に近づくので、炭素繊維を用いずにカーボンクロスに近い外観を織布14によって表現することができる。したがって、カーボンクロスのような高級感を醸し出すことができる。また、加飾用表皮材11は、高価な炭素繊維を用いないので、カーボンクロスよりも安価で製造できる。
【0034】
(4)加飾用表皮材11において、コーティング剤15は、エマルジョン型コーティング剤である。
上記構成によれば、コーティング剤15に有機溶剤が使用されないので、環境負荷を低減できる。
【0035】
(5)加飾用表皮材11において、コーティング剤15の織布14に対する使用量は、織布14の目付量の0.5wt%以上50wt%以下の範囲である。
上記構成によれば、織布14の風合いを維持しつつ織布14の耐摩耗性を向上できる。因みに、コーティング剤15の織布14に対する使用量が織布14の目付量の0.5wt%未満である場合には、織布14の耐摩耗性などが不足するおそれがある。一方、コーティング剤15の織布14に対する使用量が織布14の目付量の50wt%よりも大きい場合には、織布14の風合いが低下するおそれがある。
【0036】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0037】
・加飾用表皮材11において、コーティング剤15の織布14に対する使用量は、必ずしも織布14の目付量の0.5wt%以上50wt%以下の範囲である必要はない。
・加飾用表皮材11において、コーティング剤15は、必ずしもエマルジョン型コーティング剤である必要はない。すなわち、コーティング剤15は、例えば、溶剤型コーティング剤であってもよい。
【0038】
・加飾用表皮材11において、経糸12及び緯糸13は、必ずしも共に繊維径が5μm以上60μm以下の範囲である必要はない。
・織布14は、1本ずつ、2本ずつ、あるいは4本ずつ以上の経糸12及び緯糸13を揃えて織ることによって形成してもよい。
【0039】
・経糸12及び緯糸13は、黒色以外の色に着色してもよい。すなわち、経糸12及び緯糸13は、例えば、赤色、青色、緑色などに着色してもよい。
・経糸12及び緯糸13は、1本単位で色を変更してもよい。このようにすれば、経糸12及び緯糸13を平織りだけでなく綾織りや朱子織りしてなる織布によって様々な模様や色彩を表現できるので、加飾用表皮材11の意匠性向上に寄与できる。
【0040】
・加飾用表皮材11は、意匠面側(表側)とは反対側の裏面に板状のフォーム材を設けてもよい。このようにすれば、加飾用表皮材11にクッション性を付与することができる。
【0041】
・織布14は、経糸12及び緯糸13で綾織りや朱子織りすることによって形成してもよい。
・織布14、すなわち経糸12及び緯糸13は、染色によって着色してもよい。
【0042】
・共に無色または淡色の経糸12及び緯糸13で織ることによって織布14を形成した後、織布14に対してカラーインクジェット式プリンターによって様々な色の文字や模様などを印刷してもよい。このようにすれば、加飾用表皮材11による意匠表現の自由度が向上する。
【符号の説明】
【0043】
11…加飾用表皮材
12…経糸
13…緯糸
14…織布
15…コーティング剤
A…ロービングの幅
図1
図2