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特開2024-76854陽子発生システムおよび核融合システム
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  • 特開-陽子発生システムおよび核融合システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076854
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】陽子発生システムおよび核融合システム
(51)【国際特許分類】
   G21K 1/00 20060101AFI20240530BHJP
   G21K 5/08 20060101ALI20240530BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20240530BHJP
   G21K 5/02 20060101ALI20240530BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20240530BHJP
   G21B 3/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
G21K1/00 A
G21K5/08 N
G21K5/04 A
G21K5/02 N
H05H1/24
G21B3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188651
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】591214033
【氏名又は名称】李 勤三
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(72)【発明者】
【氏名】李 勤三
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084AA12
2G084AA21
2G084CC27
(57)【要約】
【課題】容易な温度管理において、純度の高い陽子ビームを発生させる技術を提供する。さらに、従来核融合に比べて低温または省エネルギーで核融合反応する核融合技術を提供する。
【解決手段】二ホウ化金属とイオン交換樹脂を極性有機溶媒中で混合し、二次元水素化ホウ素化合物を生成する。二次元水素化ホウ素化合物にレーザ光を照射し、水素をプラズマ化し、クーロン爆発させ、陽子を加速させる。さらに、一般的なD-T反応に、陽子と電子とを供給し、副反応を発生させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素とホウ素の化合物にレーザ光を照射し、水素をプラズマ化し、陽子を発生させることを特徴とする陽子発生システム。
【請求項2】
重水素とホウ素の化合物にレーザ光を照射し、重水素をプラズマ化し、中性子とともに陽子を発生させることを特徴とする陽子発生システム。
【請求項3】
D-T反応を主反応とする核融合システムであって、
請求項1で発生した前記陽子を供給する
ことを特徴とする核融合システム。
【請求項4】
ヘリウム3-重水素反応を主反応とする核融合システムであって、
請求項2で発生した前記中性子を供給する
ことを特徴とする核融合システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子発生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子は原子核とその周りを回る電子から構成されている。原子核はプラスの電荷を持つ陽子と電荷を持たない中性子から構成されている。原子から陽子を取り出し、エネルギ分野や医療分野において利用されている。
【0003】
ナノクラスタに超短・超高強度レーザを照射することで、イオンビームを生成する方法がある(例えば特許文献1)。
【0004】
例えば、ナノスケールの水クラスタをノズルから噴霧し、これに超短・超高強度レーザを照射すると、クーロン爆発が発生し、電子が飛ばされプラズマ化し、酸素イオンビームと水素イオンビーム(陽子ビーム)とが球対象に加速する(非特許文献1)。
【0005】
レーザ駆動型のイオンビーム照射は従来型大型装置による加速と比べ、短い距離で高エネルギーの加速をすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許5542341号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】村上匡且, ナノサイズの水クラスター・クーロン爆発とその応用, 大阪大学 レーザー科学研究所特別パビリオン「レーザー科学研究所100」,[令和4年11月18日検索]、インターネット<URL:https://www.opt-v-expo.com/detailosaka/%E3%83%8A%E3%83%8E%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%BA%E3%81%AE%E6%B0%B4%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%B3%E7%88%86%E7%99%BA%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記方法では、陽子ビームとともに酸素イオンビームも発生し、酸素イオンビームの取り扱いに工夫が必要である。陽子ビームのみを発生できれば、取り扱いが容易である。
【0009】
なお、従来型大型装置による加速では、単色イオンビーム(陽子ビームを含む)の加速が原則である。
【0010】
これに対し、水クラスタに変えて、水素クラスタとし、水素クラスタに超短・超高強度レーザを照射することも検討されている。水素クラスタからは純度の高い陽子ビームが発生する。一方で、水素は常温(例えば20℃)において気体であり、液体水素や固体水素は非常に低温であり、温度管理が困難である。
【0011】
本願は上記課題を解決するものであり、容易な温度管理において、純度の高い陽子ビームを発生させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明の陽子発生システムは、水素とホウ素の化合物にレーザ光を照射し、水素をプラズマ化し、陽子を発生させる。
【0013】
水素とホウ素の化合物は高密度で水素を吸蔵できる。これにより疑似クラスタを再現できる。
【0014】
水素とホウ素の化合物は常温常圧でにて取り扱い可能である。したがって、容易な温度管理において、純度の高い陽子ビームを発生させる。
【0015】
上記の目的を達成するための本発明の陽子発生システムは、重水素とホウ素の化合物にレーザ光を照射し、重水素をプラズマ化し、中性子とともに陽子を発生させる。
【0016】
水素とホウ素の化合物において、水素の一部を重水素に置き換えて吸蔵できる。
【0017】
上記の目的を達成するための本発明の核融合システムは、D-T反応を主反応とし、上記で発生した陽子を供給する。
【0018】
これにより、主反応を補助する補助反応が発生する。
【0019】
上記の目的を達成するための本発明の核融合システムは、ヘリウム3-重水素反応を主反応とする核融合システムであって、上記で発生した前記中性子を供給する。
【0020】
これにより、主反応を補助する補助反応が発生する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の陽子発生システムによれば、容易な温度管理において、純度の高い陽子ビームを発生させることができる。
【0022】
本発明の核融合システムによれば、低温で核融合反応を発生させる、または、従来に比べ簡易に高温を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本願システム
図2】主反応と補助反応
図3】本願推定反応
【発明を実施するための形態】
【0024】
~ホウ化水素~
近年、注目されている素材にグラフェンがある。グラフェンは、炭素原子が六角形格子構造を平面的に繰り返し、一層から数層の非常に薄い厚さで構成される二次元物質である。三次元物質に比べて表面積が大きく、機械的柔軟性があり、特異な電子状態を持っている場合が多い。
【0025】
ボロフェンはグラフェンと似た物質である。すなわち、ホウ素原子が平面において格子構造を繰り返す。ボロファンはボロフェンと似た物質である。
【0026】
ボロフェンがホウ素原子のみから構成されるのに対し、ボロファン(ホウ化水素)はホウ素原子と水素原子とから構成される。
【0027】
ボロファンの製造例について説明する。スタート物質として二ホウ化金属を用いる。二ホウ化金属の例として二ホウ化アルミニウム、二ホウ化マグネシウム、二ホウ化タンタル、二ホウ化ジルコニウム、二ホウ化レニウム、二ホウ化クロム、二ホウ化チタン、二ホウ化バナジウムが挙げられる。二ホウ化金属ではホウ素が六角形格子となって層状に積層した間に、金属が挿入される。
【0028】
二ホウ化金属とイオン交換樹脂を極性有機溶媒中で混合する。イオン交換樹脂はスルホ基、カルボキシ基等のイオン交換可能な官能基を有する。例えば、スチレンの重合体、ジビニルベンゼンの重合体およびスチレンとジビニルベンゼン等の共重合体が挙げられる。
【0029】
二ホウ化金属の金属イオンとイオン交換樹脂の官能基の水素イオンとが置換することにより、常温・常圧で、水素とホウ素の組成比が1:1の二次元水素化ホウ素が得られる。質量水素密度8.5%に相当する。沈殿物を取り除いて溶媒を乾燥させると、粉末状のホウ化水素が得られる。
MgB2 + 2H+ → Mg2+ + 2HB
【0030】
なお、ホウ化水素に200℃以上に加熱したり、紫外線や可視光を照射することで水素を放出する。安定したホウ素単体が残る。
2HB→H2 ↑+2B
【0031】
ホウ化水素においてもホウ素原子は平面的な六角形格子の骨格を維持しており、水素原子はホウ素原子に対応して配置される。水素原子の間隔は0.3-0.6nm程度となる。これにより疑似水素クラスタが形成される。
【0032】
本願において、粉末状のホウ化水素を連続的に空送して、反応後排気してもよい。粉末状のホウ化水素をベルト状とし、映画のフィルムの様に順送りしてもよい。
【0033】
当該ホウ化水素は常温・常圧で取り扱いが可能である。本願における常温・常圧とは具体的な数値基準を示すものではなく、極端な高温や低温、極端な高圧や低圧を除くという意味である。
【0034】
~レーザ照射~
図1は本願システムのイメージ図である。
【0035】
上記ホウ化水素にレーザ照射する。レーザが照射されると、水素クラスタがプラズマ化し、クーロン爆発が発生し、陽子が加速する。このとき、水素がプラズマ化するのに対し、ホウ素はプラズマ化しない。
【0036】
レーザには近年急成長を遂げている超高強度・超短パルスレーザを用いるとよい。
【0037】
レーザ光源として、チタンサファイアレーザー、ガラスレーザー等を用いることができる。チタンサファイアレーザーの場合、波長が650nm~1100nmの範囲のレーザ光を得ることができる。ガラスレーザーの場合、波長が900nm~1100nmの範囲のレーザ光を得ることができる。
【0038】
パルス長を15fs ~200fsの範囲とし、ピークパワーを1015~1020W/cmとする。1016~1017W/cmとすることが実用的である。
【0039】
なお、電子の相対論的効果を期待する場合、近年技術革新によりピークパワー1024W/cmまで高出力とすることにより対応できる。
【0040】
~核融合システム~
本願陽子の用途は限定されない。一例として核融合における補助反応に利用してもよい。
【0041】
図2は、一般的なD-T反応と本願補助反応を比較する概念図である。
【0042】
重水素は陽子1と中性子1とから構成される。質量は2である。三重水素は陽子1と中性子2とから構成される。質量は3である。
【0043】
一般的なD-T反応においては、ヘリウム(陽子2中性子2質量4)が生成されるとともに、中性子1とエネルギーが放出される。
【0044】
一方、本願補助反応は、一般的なD-T反応と併存して発生する。
【0045】
三重水素は陽子1と中性子2とから構成される。ここに加速した陽子が供給されると、ヘリウム(陽子2中性子2質量4)が生成されるとともに、エネルギーが放出される。本願補助反応では中性子を放出しない点でも有利である。
【0046】
また、本願D-T反応は一般的なD-T反応と併存するとともに、多少異なった反応も発生するものと推定される。
【0047】
図3は、一般的なD-T反応と本願推定反応を比較する概念図である。
【0048】
更に、水素をプラズマ化する結果、超高速の電子が発生する。
【0049】
電子は重水素に衝突する。なお、三重水素にも衝突するが、三重水素に比べ重水素が多いため、三重水素への衝突は無視できる。
【0050】
重水素は陽子1と中性子1とから構成される。中性子1においてβ崩壊が発生し、中性子が陽子となる。すなわち、陽子1と中性子1との構成が、陽子2となる。
【0051】
2つの陽子は互いに反発し合い分離する。
【0052】
さらに、レーザ照射や陽子線ビーム照射により、β崩壊により発生した陽子1は三重水素(陽子1中性子2)と反応し、ヘリウム(陽子2中性子2質量4)が生成される。重水素から分離した陽子1は水素となる。
【0053】
一般的なD-T反応と本願推定反応とでは、共にヘリウムが生成され、放出されるエネルギーも同等と推測される。
【0054】
一方で、一般的なD-T反応と異なり、重水素が直接に三重水素と反応するのでなく、一度、重水素を分解することにより、反応率が高い。一般的なD-T反応の反応率は5~7割と推測されるが、本願推定反応の反応率は7~9割と期待できる。
【0055】
その結果、従来に比べ低い温度で核融合反応が起きる可能性がある。または、従来に比べ省エネルギで、従来と同等の高温を実現できる可能性がある。
【0056】
また、一般的なD-T反応では中性子を放出し、その処理をする必要があるが、本願推定反応では中性子を放出しない点でも有利である。
【0057】
なお、本願においては、一般的なD-T反応に加え、上記補助反応と上記推定反応が発生する。したがって、中性子放出がないわけではないが、中性子リスクは確実に低減する。
【0058】
また、一部の中性子は反応触媒(電子供給)により陽子となる。これによっても、中性子リスクは確実に低減する。
【0059】
なお、核融合炉ブランケット内のリチウムを含む微小球に中性子を当て、三重水素を生成する。当該三重水素は核融合反応に用いられる。
【0060】
~変形例~
本願ではホウ化水素の水素吸蔵能力に着目している。水素の一部を重水素としても、重水素を吸蔵できる。重水素を一部に含むホウ化水素が得られる。
【0061】
これにレーザを照射すると、重水素クラスタがプラズマ化し、クーロン爆発が発生し、陽子と中性子が加速する。
【0062】
ところで、上記一般的なD-T反応と並んで、重水素とヘリウム3(陽子2中性子1質量3)とを反応させてヘリウムを生成する核融合反応もある。
【0063】
ここで補助反応として、ヘリウム3と中性子を反応させると、一部ヘリウムを生成しエネルギーを放出し、一部重水素を生成し陽子を放出する。
【0064】
重水素は上記D-T反応に用いられ、陽子はD-T反応の補助反応に用いられる。
図1
図2
図3