(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076860
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】缶蓋用エンド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 17/32 20060101AFI20240530BHJP
B21D 51/44 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
B65D17/32
B21D51/44 H
B21D51/44 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188661
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】興 敬宏
(72)【発明者】
【氏名】西本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】磯村 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 優歌
(72)【発明者】
【氏名】中野 修治
【テーマコード(参考)】
3E093
【Fターム(参考)】
3E093AA02
3E093AA13
3E093BB02
3E093CC02
3E093CC10
(57)【要約】
【課題】スコアの強度が向上され、意図外の開口や開封時の内容物の噴出等が有効に防止されていると共に、スコア加工部内面の有機被覆のマイクロクラックの発生がなく耐食性にも優れたエンドを提供する。
【解決手段】破断可能なスコアが形成されているエンドにおいて、前記スコアが、スコアの幅方向の垂直断面において、下方に行くに従ってスコア幅が減少する対向する傾斜面と、前記傾斜面と曲面で連続する底面を有しており、前記底面の幅が、前記傾斜面の仮想延長線と、前記底面中心を通る仮想延長線により規定される仮想底面の幅の65%以下である部分を少なくとも一部に有することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
破断可能なスコアが形成されているエンドにおいて、
前記スコアが、スコアの幅方向の垂直断面において、下方に行くに従ってスコア幅が減少する対向する傾斜面と、前記傾斜面と曲面で連続する底面を有しており、前記底面の幅が、前記傾斜面の仮想延長線と、前記底面中心を通る仮想延長線により規定される仮想底面の幅の65%以下である部分を少なくとも一部に有することを特徴とするエンド。
【請求項2】
前記底面の中央には平坦部が形成され、該平坦部の幅が、前記仮想底面の幅の65%以下である請求項1記載のエンド。
【請求項3】
前記傾斜面の仮想延長線と、前記底面中心を通る仮想延長線により規定される幅が15~40μmである請求項1又は2記載のエンド。
【請求項4】
前記傾斜面により形成される角度が40~60度である請求項1又は2記載のエンド。
【請求項5】
前記エンドの非加工部の厚みが0.19~0.30mmである請求項4記載のエンド。
【請求項6】
使用済みアルミニウム製飲料缶のリサイクル材を含有する請求項1又は2記載のエンド。
【請求項7】
破断可能なスコアが形成されているエンドの製造方法において、
前記エンドへのスコアの形成に用いるスコア形成刃が、スコア形成刃の幅方向の垂直断面において、先端に行くに従って刃幅が減少する相対する傾斜側面及び該傾斜側面の下端に位置する先端部から成り、該先端部の両側が前記傾斜側面と曲面で連続しており、前記先端部の幅が、前記傾斜側面の仮想延長線と、前記先端部中心を通る仮想延長線により規定される仮想先端面の幅の65%以下である部分を少なくとも一部に有することを特徴とするエンドの製造方法。
【請求項8】
前記先端部の中央には平坦部が形成され、該平坦部の幅が、前記仮想先端面の幅の65%以下である請求項7記載のエンドの製造方法。
【請求項9】
前記傾斜側面の仮想延長線と、前記先端部中心を通る仮想延長線により規定される幅が15~40μmである請求項7又は8記載のエンドの製造方法。
【請求項10】
前記傾斜側面により形成される前記スコア形成刃の角度が40~60度である請求項7又は8記載のエンドの製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2記載のエンドを備えた飲食品用缶蓋を、飲食品が充填された缶に適用して成ることを特徴とする飲食品充填缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品用缶蓋に用いられる、開口形成のためのスコアが形成されたエンドに関するものであり、より詳細には、スコアの強度が向上され、意図外の開口や落下衝撃を受けた際の内容物の漏洩等が有効に防止されていると共に、耐食性にも優れたエンド及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや清涼飲料等の飲料や食品を充填するための缶として、アルミニウムやスチール等の金属から成る缶体にアルミニウム製缶蓋を取り付けて成る飲食品缶が広く使用されている。かかるアルミニウム製缶蓋は、一般に、エンドと、エンドに形成されたスコアを引裂き、スコアで区画された開口を形成するためのタブとから成っている。
缶蓋に利用される材料には、強度、成形性及び耐食性等が要求される。すなわちエンドには、炭酸飲料等を内容物とする陽圧缶の場合や、内容物の高温充填による温度低下により減圧となる陰圧缶の場合でも、缶蓋が変形しない優れた耐圧強度を有することや、スコアが意図せず破断することがない靭性が要求される。一方、タブは、開口を形成する際に折れや裂け等が生じない破断強度や靭性が要求される。
【0003】
このような問題を解決するものとして、下記特許文献1には、主スコアのうち前記缶蓋本体の最外周位置に配置される前記開口片先端と前記缶蓋本体の中心とを結ぶ線の前記主スコアとの二つの交点の中間位置を基準とし、前記開口片先端と相対する方向を0時とすると、前記補助スコアの残厚部と前記主スコアの残厚部との残厚差は、前記0時を含む局部領域が他の部分よりも大きく設定されている缶蓋が提案されており、この缶蓋においては、初期開封部の領域で主スコアと補助スコアの残厚差を設定することで、開缶初期の破断力を低下させることが可能であると共に、落下や振動などによって不用意な破断が防止できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、缶蓋はスコアの刃幅やスコア角度等のスコア加工部の断面形状によっても、落下衝撃や振動等を受けた場合に、スコアが意図外に破断して内容物の漏洩を生じる場合がある。
またスコア加工に際して、スコア加工部の裏側(エンド内面側)において有機被覆にマイクロクラックが発生しやすく、経時保管によりエンドに腐食が発生するという別の問題が生じるおそれもある。
【0006】
ところで、内容物を消費した飲料缶(Used Beverage Cans、以下「UBC」ということがある)は、ほぼ100%に近い割合で回収されて、アルミニウム製飲料缶においては、アルミニウム地金に再生されてリサイクルに使用される。缶体(缶ボディ)は、一般にMn含有量の多い3000系アルミニウム合金が用いられているが、缶蓋(エンド及びタブ)は、強度、成形性及び耐食性等の観点から、3000系アルミニウム合金よりも強度に優れるMg含有量の多い5000系アルミニウム合金が使用されている。
従って、UBCから成る再生アルミニウム合金は、アルミニウム製飲料缶全体の重量に占める割合が大きい3000系アルミニウム合金に近い組成となり、5000系アルミニウム合金に比してMn含有量が多く、Mg含有量が少ないことから、缶蓋への使用は難しく、缶蓋においては、新規アルミニウム地金を使用せざるを得なかった。しかしながら、新規アルミニウム地金の製造には、多量の電力が必要であり、それに伴う二酸化炭素の排出量も大きく環境負荷の観点から、缶蓋においてもリサイクル材を利用できることが要望されている。
【0007】
またエンドの成形に用いるアルミニウム合金に含まれる合金元素の量によっても、エンドのスコア強度は影響を受け、上述したように、UBCから成る再生アルミニウム合金を用いたMn量の多いアルミニウム合金においては、Al-Fe-Mn-Si系晶出物が増加することに起因して、特にエンドに形成されたスコアの強度が低下しやすい等の問題が生じやすい。
【0008】
従って本発明の目的は、汎用のアルミニウム合金を用いた場合はもちろん、UBCから成る再生アルミニウム合金を用いたMn量の多いアルミニウム合金を用いた場合でも、スコア強度が高く、落下衝撃や振動を受けた場合の意図外のスコアの破断が有効に防止されていると共に、スコア加工部裏面の有機被膜の損傷がないエンド及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、破断可能なスコアが形成されているエンドにおいて、前記スコアが、スコアの幅方向の垂直断面において、下方に行くに従ってスコア幅が減少する対向する傾斜面と、前記傾斜面と曲面を介して連続する底面を有しており、前記底面の幅が、前記傾斜面の仮想延長線と、前記底面中心を通る仮想延長線により規定される仮想底面の幅の65%以下である部分を少なくとも一部に有することを特徴とするエンドが提供される。
【0010】
本発明のエンドにおいては、
(1)前記底面の中央には平坦部が形成され、該平坦部の幅が、前記仮想底面の幅の65%以下であること、
(2)前記傾斜面の仮想延長線と、前記底面中心を通る仮想延長線により規定される幅が15~40μmであること、
(3)前記傾斜面により形成される角度が40~60度であること、
(4)前記エンドの非加工部の厚みが0.19~0.30mmであること、
(5)使用済みアルミニウム製飲料缶のリサイクル材を含有すること、
が好適である。
【0011】
本発明によればまた、破断可能なスコアが形成されているエンドの製造方法において、前記エンドへのスコアの形成に用いるスコア形成刃が、スコア形成刃の幅方向の垂直断面において、先端に行くに従って刃幅が減少する相対する傾斜側面及び該傾斜側面の下端に位置する先端部から成り、該先端部の両側が前記傾斜側面と曲面で連続しており、前記先端部の幅が、前記傾斜側面の仮想延長線と、前記先端部中心を通る仮想延長線により規定される仮想先端面の幅の65%以下である部分を少なくとも一部に有することを特徴とするエンドの製造方法が提供される。
【0012】
本発明のエンドの製造方法においては、
(1)前記先端部の中央には平坦部が形成され、該平坦部の幅が、前記仮想先端面の幅の65%以下であること、
(2)前記傾斜側面の仮想延長線と、前記先端部中心を通る仮想延長線により規定される幅が15~40μmであること、
(3)前記傾斜側面により形成される前記スコア形成刃の角度が40~60度であること、
が好適である。
【0013】
本発明によればまた、上記エンドを備えた飲食品用缶蓋を、飲食品が充填された缶に適用して成ることを特徴とする飲食品充填缶が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、スコアの形状を上述した特定の形状とすることにより、Mnの含有量が多く、Al-Fe-Mn-Si系晶出物が増加しやすいアルミニウムUBCを用いた場合でも、高いスコア強度を有し、落下衝撃等を受けた場合にもスコアの意図外の破断を生じることが有効に防止されている。またスコア加工部の裏面(エンド内面側)における有機被覆のマイクロクラックの発生が有効に防止され、耐食性に優れたエンドを提供できる。
さらに本発明のエンドの製造方法によれば、Mnの含有量が多く、Al-Fe-Mn-Si系晶出物が増加しやすいアルミニウムUBCを用いた場合でも、上記のようなスコア強度の高いスコアを形成することが可能であり、しかも上記スコアの形状によれば、スコア形成による刃先への影響が低減されており、工具の耐久性にも優れている。
【0015】
さらに、アルミニウムUBCの再生リサイクル材を利用できることから、二酸化炭素排出量の多い新規アルミニウムの使用量を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のエンドを用いた缶蓋の一例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【
図2】エンドのスコア加工部を説明するため図であり、スコアの幅方向における軸方向断面における一部拡大断面図である。
【
図3】本発明のエンドの製造方法に用いるスコア形成刃を説明するための図であり、スコア形成刃の幅方向断面における拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(エンド)
本発明のエンドは、特に飲食品用缶蓋に好適に用いられるものであり、このような缶蓋は、一般にエンドと、エンドに形成されたスコアを破断し開口を形成するためのタブを有しており、その形態は限定されず、種々の形態を採用できる。
図1は缶蓋の一例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は断面図である。
全体を1で表す缶蓋は、エンド2及びこのエンド2にリベット3で固定されたタブ4とからなるステイオンタブの缶蓋である。
エンド2は、円形のセンターパネル21、センターパネル21の周縁から下方に突出するチャックウォールラジアス22、チャックウォールラジアス22の外側壁から立ち上がるチャックウォール23、及びチャックウォール23に連続して形成されたシーミングパネル24を有している。
センターパネル21には、スコア25が形成されており、このスコア25は、破断可能な主スコア25aと主スコア25aの内側に設けられる補助スコア25bとからなっている。補助スコア25bは主スコアの加工時の割れを防止するためのものであり、主スコア25aよりも浅く破断されない。
一方タブ4は、タブ本体41と、内容物の注出方向側となる位置に形成された円弧状のタブノーズ部42と、タブノーズ部42の反対側に形成された把持部43と、タブ本体41がリベット3で固定される固定部44を備えている。またタブ本体41は、把持部43の外周縁45においては曲げ加工が施され、把持部43以外の外周縁では下方に折り返されたカール部46が全周にわたって形成されている。
【0018】
上記のような基本構成を有するエンドにおいて、本発明のエンドでは、スコアの幅方向における軸方向断面を示す
図2から明らかなように、主スコア25aの少なくとも一部に、下方に行くに従ってスコア幅が減少する対向する傾斜面26a,26bと、中央に平坦面27aを有する底面27を有し、傾斜面26a,26bと底面27は曲面Rを介して連続しており、底面の平坦面27aの幅W1が、傾斜面26a,26bの仮想延長線La,Lbと、底面27中心を通る仮想延長線Lcにより規定される仮想底面27の幅W0の65%以下である部分を少なくとも一部に有することが重要な特徴である。
このように、破断可能な主スコアが傾斜面と底面が曲面を介して連続し、底面の幅(
図2に示す具体例では平坦部27aの幅)が仮想底面の65%以下となるように形成されていることにより、スコア強度を向上することが可能となり、内容物が充填された状態で、落下衝撃や輸送時の振動等を受けた場合にもスコアの破断を有効に防止できる。
すなわち、後述する実施例の結果からも明らかなように、上記範囲よりも平坦面の幅W1が大きくなると、スコアから内容物の漏洩が生じる。
尚、上記底面の幅は、傾斜面と底面を連結する曲面を除いた底面中央における距離であり、
図2に示すように、中央に平坦面を有する場合は平坦面の幅であるが、その幅は可及的にゼロに近い場合を含むものであり、このような場合、底面は上記曲面と連続した略弧状となる。
本発明のエンドにおいて、主スコアが底面の平坦面が上記数値範囲にある部分は、スコア強度の向上という観点からは主スコアの全域にわたって形成されていることが好適であるが、例えば、開口後半部分等、スコア残厚が少ない薄肉部分等に部分的に形成されていてもよい。
【0019】
またスコア底面の仮想底面の幅W0は、15~40μmの範囲にあることが好適である。これによりスコア部内面側(エンドの裏側)の有機被覆(熱可塑性樹脂被覆又は塗膜)にマイクロクラックが発生することがなく、エンド内面における金属露出が有効に防止され、耐食性に優れたエンドを提供することが可能となる。
上記範囲よりも仮想底面の幅W0が小さい場合には、用いる材料にもよるが、応力腐食割れを発生するおそれがあり、その一方上記範囲よりも大きい場合には、上記範囲にある場合に比してスコア部内面側にマイクロクラックが発生するおそれがある。
【0020】
さらにスコアの傾斜面26a,26bにより形成されるスコア角度Θは、40~60度の範囲にあることが好適である。スコア角度Θが上記範囲にあることにより、スコア部内面側(エンドの裏側)の有機被覆にマイクロクラックが発生することがなく、エンド内面における金属露出が有効に防止され、耐食性に優れたエンドを提供することが可能となる。
上記範囲よりもスコア角度が大きくなると、スコア部内面側(エンドの裏側)の有機被覆にマイクロクラックが発生するおそれがあり、上記範囲よりもスコア角度が小さいと、スコア形成刃が長期間の使用により、刃先の欠落や、根元からの欠損・亀裂等の損傷が生じるおそれがある。
【0021】
本明細書において、エンドのスコアの深さは、
図2に示すように、エンド2のセンターパネル21の非加工部(元板厚)t
0に対する、スコア残厚(スコア加工部の厚み)t
1の割合{(t
1/t
0)×100(%)}であるスコア残厚率で表されており、このスコア残厚率は、用いるアルミニウム合金の種類、及び元板厚の厚みによって異なり、適宜変更することが可能であるが、元板厚が厚くなるに従ってその割合が小さくなる。
【0022】
(アルミニウム合金)
本発明のエンドは、スコア形状を上記のように形成することにより、スコア強度を高めると共に、スコア加工部の裏側(エンドの内面側)の有機被覆のマイクロクラックの発生を有効に防止できることから、5000系アルミニウム合金等、従来缶蓋用途に使用されていた全ての材料により成形することができる。
また本発明においては、Mn:0.5~1.0質量%、Mg:2.0~3.0質量%、Si:0.35質量%以下、Fe:0.6質量%以下、Cu:0.25質量%以下、Cr:0.10質量%以下、Zn:0.25質量%以下、Ti:0.10質量%以下を含有するアルミニウム合金でも成形することができる。
また、アルミニウムUBCから成るリサイクル材は、Mg量が少なくMn量が多い3000系アルミニウム合金から成る缶体がその多くを占めることから、3000系アルミニウム合金に近似した合金組成を有しているが、このようなリサイクル材を用いる場合でも、Mg量を調整した上記合金組成のアルミニウム合金であることにより、3000系主体のUBCから成るリサイクル材を含有する場合であっても、耐圧強度の低下がなく、蓋の変形のないエンドを提供できる。
【0023】
エンドを構成する上記アルミニウム合金において、Mnはアルミニウム合金の強度を向上させるために必須の元素であり、上記範囲よりもMn量が多い場合には、Al-Fe-Mn-Si系晶出物の増加により、靭性が低下することから、上記範囲にある場合に比してスコアが意図外に破断するおそれがある。
またMgは、引張強さ、耐力、伸び等、缶蓋に要求される強度を得るために必須の元素であり、Mg量が上記範囲にあるアルミニウム合金においては応力腐食割れのおそれがないため、スコア残厚やスコア形状の調整をしやすいという利点がある。Mg量が上記範囲よりも少ない場合には、陽圧缶や殺菌処理等に付された場合に変形するおそれがあり、またMg量が上記範囲よりも多い場合には、鋳塊割れや熱間圧延時及び缶蓋成形時に割れを引き起こすおそれがある。
【0024】
Si及びFeは、上述したAl-Fe-Mn-Si系晶出物を形成し、熱間圧延時の再結晶核となって種々の方位の結晶粒を形成して、熱間圧延終了時点においてCube方位への集中を抑制する。このような観点から、Siは0.35質量%以下であることが好適であり、Feは0.6質量%以下であることが好適である。
またCu及びCrは、アルミニウム合金の強度を増大させるために含有されるが、Cuが上記範囲よりも多い場合には、熱間圧延時に割れが生じるおそれがあり、またCrが上記範囲よりも多い場合には、粗大な金属間化合物が生じるおそれがある。
更に、Zn、Tiは不可避的にアルミニウム合金に含有される不純物であり、上記値以下であれば本発明のエンドへの影響はない。
【0025】
上記アルミニウム合金は、アルミニウムUBCから成るリサイクル材にMgを添加すると共に、必要により新規アルミニウムを含有させることにより、上記合金組成に調整されている。尚、上記アルミニウムUBCから成るリサイクル材は、前述した通り、缶体を構成していた3000系アルミニウム合金が主体であることから、Mnを0.5~1.0質量%の量で含有している。またアルミニウムのリサイクル材として、アルミニウムUBCのリサイクル材と共に、アルミニウム合金板製造工程及びアルミニウム製缶の製造工程で排出されるスクラップ材を使用することもできる。
【0026】
本発明のエンドの成形に用いられるアルミニウム合金板としては、前述した通り、5000系アルミニウム合金等の従来から缶蓋の成形に用いられていた汎用材の他、上述したアルミニウムのリサイクル材に必要により新規アルミニウムを溶解すると共にMg等の合金成分量を調整した上記アルミニウム合金を用いることができるが、これらのアルミニウム合金板は、熱間圧延及び冷間圧延を実施し製造される。冷間圧延の途中で中間焼鈍を行うことが好適である。
これらのアルミニウム合金板には、従来公知の方法により、必要により各種表面処理を施した後、従来公知の方法により熱可塑性樹脂被覆或いは塗膜等の有機被覆を形成することができる。
表面処理としては、これに限定されないが、リン酸クロメート処理、ジルコニウム及び/又はチタンの酸化物を主成分とする化成処理等従来公知の表面処理を例示できる。
【0027】
熱可塑性樹脂被覆としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリルエステル共重合体、アイオノマー等のオレフィン系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム等を例示できる。かかる熱可塑性樹脂フィルムは未延伸又は二軸延伸したものであってもよい。
また塗膜形成可能な塗料としては、フェノール-エポキシ、アミノ-エポキシ等の変性エポキシ塗料、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体けん化物、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、エポキシ変性-、エポキシアミノ変性-、エポキシフェノール変性-ビニル塗料または変性ビニル塗料、アクリル塗料、スチレン-ブタジエン系共重合体等の合成ゴム系塗料等を例示できる。
【0028】
本発明のエンドの成形に用いられるアルミニウム合金板は、エポキシ系塗料、ポリエステル系塗料等を塗装焼付した塗装アルミニウム合金板の状態で、圧延0°方向における板の引張強度が350~410MPa、特に370~400MPaの範囲にあることが好適である。この引っ張り強度が上記範囲内にあることにより、陽圧缶用の缶蓋としても使用することも可能となる。
アルミニウム合金板の厚みは、これに限定されるものではないが、エンド材としての板厚(非加工部の厚み)は、0.19~0.30mmの範囲にあることが好適である。
【0029】
また本発明のエンドに用いるタブとしては、従来缶蓋用のタブとして使用されていた5000系アルミニウム合金から成るタブ等を制限なく使用できるが、タブにおいても上述した組成を有するアルミニウム合金から成るタブを使用することができる。
【0030】
(エンドの製造方法)
本発明のエンドの製造方法においては、後述する特定のスコア形成刃を用いる以外は従来公知のエンドの製造方法と同様である。すなわち、これに限定されるものではないが、アルミニウム合金板等の金属板をプレス成形工程で円形に打抜くと共に、前述したシーミングパネル部やチャックウォールラジアス部等を有するシェルの形に成形し、ライニング工程にてシーミングパネル部の溝にコンパウンドを適用する。次いで円柱状のリベット用突出部を成形し、スコア形成工程でエンドの外面側からスコアの刻設を行う。最後にタブをリベット用突出部に嵌合した後、該リベット用突出部の頭部をかしめてタブを取り付けることにより缶体に取り付け可能なエンドとして製造される。成形されたエンドは、シーミングパネル部の溝にコンパウンドを適用するライニング工程を経て、缶体に取り付け可能なエンドとして製造される。
【0031】
本発明においては、上記製造方法におけるスコア形成工程に用いるスコア形成刃が、
図3に示すように、スコア形成刃50の幅方向の垂直断面において、先端に行くに従って刃幅が減少する、相対する傾斜側面51a,51b及び傾斜側面51a,51bの下端に位置する先端部52から成り、この先端部52の両側が傾斜側面51a,51bと曲面Rを介して連続しており、先端部52の幅w1が、傾斜側面51a,51bの仮想延長線La,Lbと、先端部52の中心を通る仮想延長線Lcにより規定される仮想先端面の幅W0の65%以下である部分を少なくとも一部に有するものであることが重要な特徴である。
尚、上記先端部の幅は、傾斜側面と先端部を連結する曲面を除いた先端部中央における距離であり、
図3に示すように、中央に平坦面を有する場合は平坦面の幅であるが、その幅は可及的にゼロに近い場合を含むものであり、このような場合、先端面は上記曲面と連続した略弧状となる。
エンドへのスコア加工に際して上記特徴を有するスコア形成刃を用いることにより、前述したようなスコア形成刃の特徴が反映されたスコアが形成される。これにより前述したような、スコア強度が向上されたスコアを形成することが可能であると共に、スコア加工部の内面側にマイクロクラックが発生することを防止できる。
【0032】
また
図3に示すスコア形成刃の傾斜側面51a,51bの仮想延長線La,Lbと、スコア形成刃の先端部52の中心を通る仮想延長線Lcにより規定される仮想先端の幅W0は、15~40μmの範囲にあることが好適である。これにより、スコア部内面側(エンドの裏側)の有機被覆(熱可塑性樹脂被覆又は塗膜)にマイクロクラックが発生することがなく、エンド内面における金属露出が有効に防止され、耐食性に優れたエンドを成形することが可能になる。
上記範囲よりも仮想先端の幅W0が小さい場合には、用いる材料にもよるが、エンドに応力腐食割れを発生するおそれがあり、その一方上記範囲よりも大きい場合には、上記範囲にある場合に比してスコア部内面側にマイクロクラックが発生するおそれがある。
【0033】
さらにまた、
図3に示すスコア形成刃の傾斜側面51a,51により形成されるスコア形成刃の角度Θが、40~60度であることが好適である。
スコア形成刃の角度Θが上記範囲にあることにより、スコア部内面側(エンドの裏側)の有機被覆にマイクロクラックが発生することがなく、エンド内面における金属露出が有効に防止され、耐食性に優れたエンドを成形することが可能となる。
上記範囲よりもスコア形成刃の角度が大きくなると、スコア部内面側(エンドの裏側)の有機被覆にマイクロクラックが発生するおそれがあり、上記範囲よりもスコア角度が小さいと、スコア形成刃が長期間の使用により、刃先の欠落や、根元からの欠損・亀裂等の損傷が生じるおそれがある。
【実施例0034】
(実験例1)
板厚が0.235mmの、アルミニウム合金板S(Mn:0.9質量%、Mg:2.3質量%、Si:0.3質量%、Fe:0.5質量%、Cu:0.2質量%、Cr:0.01質量%、Zn:0.14質量%、Ti:0.01質量%の組成で、冷間圧延途中で中間焼鈍を実施)を用い、204径シェルを作成した。
同様に、板厚が0.235mmの5000系アルミニウム合金板(5182材、冷間圧延途中で中間焼鈍を実施)から成るシェルを作成した。
得られたシェルに、表1~表4に示すスコア形成刃(刃幅35μm、傾斜面角度50度)の刃先底面に対する平坦部の割合を変化させた加工工具を用い、表1及び表2に示す開口初期部のスコア残存率、表3及び表4に示す最薄肉部のスコア残存率、となるように主スコアを形成しエンドを作成した。また上記エンドに5000系アルミニウム合金板(5182材)から成るタブを取り付け、缶蓋を作成した。
上記で得られた缶蓋を、シームレス缶の開口に取り付け、5℃に冷やしたビールを350ml充填した。
【0035】
[振動試験]
表1及び表2に示す開口初期部のスコア残存率を有するビール充填缶について、振動試験機(株式会社振研製 動電型振動試験機)を使用し、下記の条件で実施した。
振動方向:缶軸方向、振動数:10Hz、振動時間:60分、振幅:5mm、積み重ね数:24缶入りケースを3箱、缶温:30℃、内圧:約300kPa
スコア部からの漏洩を生じなかったものを「○」、漏洩したものを「×」と評価した。アルミニウム合金Sについての結果を表1、5182材についての結果を表2にそれぞれ示した。
【0036】
[倒立落下試験]
表3及び表4に示す最薄肉部のスコア残存率を有するビール充填缶について、缶温30℃、内圧約300kPaの条件150cmの高さから、エンド側を下面にして落下させ、スコア部からのビールの漏洩を確認した。漏洩を生じなかったものを「○」、漏洩したものを「×」として、アルミニウム合金Sについての結果を表3、5182材についての結果を表4にそれぞれ示した。
【0037】
[開口試験]
表1~表4に示したビール充填缶について、開口形成を行い、正常に開口した場合を「○」、正常に開口しない(初期開口できない、脱線する、或いは途中までしか開かない等)場合を「×」と評価した。アルミニウム合金Sについての結果を表1及び表3、5182材についての結果を表2及び表4にそれぞれ示した。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
(実験例2)
実験例1で得られた204径シェル(アルミニウム合金板S)と、板厚が0.235mmの5182材から成る204径シェルに、
図2に示すW0の値が表5に示す値のスコア加工工具を使用して主スコアを形成した。刃先底面(刃幅)に対する平坦部の割合は65%である。
エンドの主スコア部裏面の表面を確認し、有機被覆のマイクロクラックの有無を顕微鏡観察にて確認した。マイクロクラックがないものを「○」、マイクロクラックの発生したものを「×」で表5に示す。
またスコア形成後のエンドにタブを取り付けた缶蓋を、シームレス缶の開口に取り付け、5℃に冷却したビールを350ml充填した。その後、37℃80%RHの環境で2週間保管した。漏洩が生じなかったものを応力腐食割れ耐性ありとして「○」、漏洩が生じたものを応力腐食耐性無しとして「×」で表5に示す。
【0043】
【0044】
(実験例3)
実験例1で得られた204径シェルに、
図2に示すスコア角度Θの値が表6に示す値のスコア加工工具を使用して主スコアを形成した。刃先底面(刃幅)に対する平坦部の割合は65%である。
エンドの主スコア部裏面の表面を確認し、有機被覆のマイクロクラックの有無を顕微鏡観察にて確認した。マイクロクラックがないものを「○」、マイクロクラックの発生したものを「×」で表6に示す。アルミニウム合金S及び5182材いずれも同じ結果となった。
【0045】
本発明のエンドは、スコアの強度が向上され、意図外の開口や落下衝撃等を受けた場合の内容物の漏洩等が有効に防止されていると共に耐食性にも優れており、陽圧缶にも好適に使用することができる。またリサイクル材を含有する特定のアルミニウム合金を用いることもでき、新規アルミニウムを用いた場合と同様の飲食品用缶蓋を得ることができることから、二酸化炭素排出量の低減が求められる用途に好適に使用できる。
1 缶蓋、2 エンド、3 リベット、4 タブ、21 センターパネル、22 チャックウォールラジアス、23 チャックウォール、24 シーミングパネル、25 スコア、26 傾斜面、27 底面、41 タブ本体、42 タブノーズ部、43 把持部、44 固定部、46 カール部。