(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076861
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】飲食品用缶蓋
(51)【国際特許分類】
B65D 17/32 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
B65D17/32 BRH
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188662
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯村 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】西本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】興 敬宏
(72)【発明者】
【氏名】中野 修治
【テーマコード(参考)】
3E093
【Fターム(参考)】
3E093AA03
3E093AA13
3E093BB02
3E093BB06
3E093CC02
3E093CC03
3E093DD01
(57)【要約】
【課題】開口形成に際してスコア以外の箇所での破断が有効に防止され、スムーズに開口形成可能なスコアが形成された飲食品用缶蓋を提供する。
【解決手段】エンドとタブから成り、前記エンドには、開口予定部を区画するスコアが形成され、前記タブがリベット加工によりエンドに取付けられて成る飲食品用缶蓋において、前記スコアが、破断可能な主スコアと、該主スコアに隣接し且つ主スコアよりも内方に位置する補助スコアとから成り、前記主スコアは、スコア加工部においてスコアを形成しなかった場合の仮想厚みに対するスコア残厚が、主スコア残厚率よりも大きく且つ91%以下である高スコア残厚部分を有することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドとタブから成り、前記エンドには、開口予定部を区画するスコアが形成され、前記タブがリベット加工によりエンドに取付けられて成る飲食品用缶蓋において、
前記スコアが、破断可能な主スコアと、該主スコアに隣接し且つ主スコアよりも内方に位置する補助スコアとから成り、
前記主スコアは、スコア加工部においてスコアを形成しなかった場合の仮想厚みに対するスコア残厚が、主スコア残厚率よりも大きく且つ91%以下である高スコア残厚部分を有することを特徴とする飲食品用缶蓋。
【請求項2】
前記アルミニウム合金が、使用済みアルミニウム製飲料缶のリサイクル材を含有する請求項1記載の飲食品用缶蓋。
【請求項3】
請求項1又は2記載の飲食品用缶蓋を、飲食品が充填された缶に適用して成ることを特徴とする飲食品充填缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドと、該エンドに形成されたスコアを引裂き開封するためのタブとから成るアルミニウム合金製の缶蓋に関するものであり、より詳細には、開口形成に際してスコア以外の箇所での破断が有効に防止され、スムーズに開口形成可能なスコアが形成された飲食品用缶蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや清涼飲料等の飲料や食品を充填するための缶として、アルミニウムやスチール等の金属から成る缶体にアルミニウム製缶蓋を取り付けて成る飲食品缶が広く使用されている。かかるアルミニウム製缶蓋は、一般に、エンドと、エンドに形成されたスコアを引裂き、スコアで区画された開口を形成するためのタブとから成っている。
缶蓋に利用される材料には、強度、成形性及び耐食性等が要求される。すなわちエンドには、炭酸飲料等を内容物とする陽圧缶の場合や、内容物の殺菌等により減圧となる陰圧缶の場合でも、缶蓋が変形しない優れた耐圧強度を有することや、スコアが意図せず破断することがない靭性が要求される。一方、タブは、開口を形成する際に折れや裂け等が生じない破断強度が要求される。
【0003】
ところで、飲食品用缶蓋においては、エンドに取り付けられたタブを引き上げ、スコアに沿ってエンドを引裂くことにより開口形成を行うが、初期開封部分は、タブの取り付けのためのコイニング加工によりパネル部等に比して薄肉化されているため、スコアの破断に際してスコア以外の箇所での破断(脱線)が生じやすいという問題がある。
缶蓋に使用されるアルミニウム合金板として、下記特許文献1には、Si:0.05~0.20質量%、Fe:0.10~0.30質量%、Cu:0.05~0.20質量%、Mn:0.30~0.70質量%、Mg:3.5~6.0質量%を含有するとともに、Cr:0.01~0.15質量%、及び、Zr:0.01~0.15質量%のうちの少なくとも1種を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、板厚方向中央であって表面と平行な面をSEMで観察したときの圧延方向における方位変化間隔の平均値が500~750nmである、アルミニウム合金板が記載されており、このアルミニウム合金板から成る缶蓋によれば、耐圧強度の低下が防止できると共に、スコア部の引裂き性の低下や、開缶時にスコア脱線や開缶力の増大によるタブ折れといった開缶不良を防止できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1においては、特定の組成を有するアルミニウム合金板を用いることが必要であり、汎用のアルミニウム材はもちろん、後述するリサイクル材を含有するアルミニウム合金を用いた場合にも、スコアの破断に際してスコア以外の箇所での破断(脱線)の発生を防止し得ることが望まれている。
【0006】
すなわち、内容物を消費した飲料缶(Used Beverage Cans、以下「UBC」ということがある)は、ほぼ100%に近い割合で回収されて、アルミニウム製飲料缶においては、アルミニウム地金に再生されてリサイクルに使用される。缶体(缶ボディ)は、一般にMn含有量の多い3000系アルミニウム合金が用いられているが、缶蓋(エンド及びタブ)は、強度、成形性及び耐食性等の観点から、3000系アルミニウム合金よりも強度に優れるMg含有量の多い5000系アルミニウム合金が使用されている。
【0007】
従って、UBCから成る再生アルミニウム合金は、アルミニウム製飲料缶全体の重量に占める割合が大きい3000系アルミニウム合金に近い組成となり、5000系アルミニウム合金に比してMn含有量が多く、Mg含有量が少ないことから、缶蓋への使用は難しく、缶蓋においては、新規アルミニウム地金を使用せざるを得なかった。しかしながら、新規アルミニウム地金の製造には、多量の電力が必要であり、それに伴う二酸化炭素の排出量も大きく環境負荷の観点から、缶蓋においてもリサイクル材を利用できることが要望されている。
【0008】
UBCから成る再生アルミニウム合金を用いることに起因するこのような問題を解決した缶蓋として、本出願人は、合金元素の各成分量を調整することにより、優れた耐圧強度を有する缶蓋が提供できることを見出した(特願2021-191242)。
しかしながら、上記UBCから成る再生アルミニウム合金のようにMn量の多いアルミニウム合金においては、Al-Fe-Mn-Si系晶出物が増加することに起因して、エンドに亀裂が生じやすい傾向があり、5000系アルミニウム合金板から成る缶蓋よりも開封操作に際してスコア以外の箇所でエンドが破断されてしまうおそれがある。
【0009】
また内容物がビールや炭酸飲料等のように、缶内が陽圧になる場合に、スコアの初期開封時に、内圧の解放と同時にそのガス圧により開口予定部が急激に上方に押し上げられ、スコアが破断されてしまい、その勢いによってはその開口予定部がパネル部から分離して吹き飛ばされるという所謂ポップミサイル現象を生じる場合がある。このポップミサイル現象を防止するために、部分的に高残厚スコアを設けることにより急激な開口予定部の押し上げを抑制することが一般的である。この高残厚スコア部は意図的に開きづらくしているため、最も開封時の破断(脱線)リスクが高い個所でもある。
このような開封時のスコアの脱線が生じるとスムーズにスコアの破断ができないだけでなく、開口形成ができない等の問題を生じる場合もある。
【0010】
従って本発明の目的は、原材料の種類にかかわらず、開口形成に際してスコア以外の箇所での破断が有効に防止され、スムーズに開口形成可能なスコアが形成された飲食品用缶蓋を提供することである。
また本発明の目的は、アルミニウムUBCを原料とする再生アルミニウム合金を含有する場合であっても、開口形成に際してスコア以外の箇所での破断が有効に防止された飲食品用缶蓋を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、エンドとタブから成り、前記エンドには、開口予定部を区画するスコアが形成され、前記タブがリベット加工によりエンドに取付けられて成る飲食品用缶蓋において、前記スコアが、破断可能な主スコアと、該主スコアに隣接し且つ主スコアよりも内方に位置する補助スコアとから成り、前記主スコアは、スコア加工部においてスコアを形成しなかった場合の仮想厚みに対するスコア残厚率が、主スコア残厚率よりも大きく且つ91%以下である高スコア残厚部分を有することを特徴とする飲食品用缶蓋が提供される。
【0012】
本発明の飲食品用缶蓋においては、前記アルミニウム合金が、使用済みアルミニウム製飲料缶のリサイクル材を含有することができる。
【0013】
本発明によれば更に、上記飲食品用缶蓋を、飲食品が充填された缶に適用して成ることを特徴とする飲食品充填缶が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エンドに形成されるスコアに適切なスコア残厚率に加工した高スコア残厚部分を形成することにより、スコアの破断に際して、スコア以外の箇所に破断が進行することを防ぐことができることから、開口形成をスムーズに行うことが可能である。
またMnの含有量が多く、Al-Fe-Mn-Si系晶出物が増加しやすいアルミニウムUBCを含有するアルミニウム合金のように、靭性に劣り、裂けやすい材料から成る場合でも、スコアの脱線が有効に防止することができる。
さらに、アルミニウムUBCの再生リサイクル材を利用できることから、二酸化炭素排出量の多い新規アルミニウムの使用量を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の缶蓋の一例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【
図2】スコアの長さ方向における軸方向断面を示す一部拡大断面図である。
【
図3】開口初期部のスコアにおける高残厚スコア部を説明するための図である。
【
図4】スコア形状を説明するための一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(エンド)
本発明のエンドは、特に飲食品用缶蓋に好適に用いられるものであり、このような缶蓋は、一般にエンドと、エンドに形成されたスコアを破断し開口を形成するためのタブを有しており、その形態は限定されず、種々の形態を採用できる。
図1は缶蓋の一例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は断面図である。
全体を1で表す缶蓋は、エンド2及びこのエンド2にリベット3で固定されたタブ4とからなるステイオンタブの缶蓋である。
エンド2は、円形のセンターパネル21、センターパネル21の周縁から下方に突出するチャックウォールラジアス22、チャックウォールラジアス22の外側壁から立ち上がるチャックウォール23、及びチャックウォール23に連続して形成されたシーミングパネル24を有している。
センターパネル21には、スコア25が形成されており、このスコア25は、破断可能な主スコア25aと主スコア25aの内側に設けられる補助スコア25bとからなっている。補助スコア25bは主スコアの加工時の割れを防止するためのものであり、主スコア25aよりも浅く破断されない。
一方タブ4は、タブ本体41と、内容物の注出方向側となる位置に形成された円弧状のタブノーズ部42と、タブノーズ部42の反対側に形成された把持部43と、タブ本体41がリベット3で固定される固定部44を備えている。またタブ本体41は、把持部43の外周縁45においては曲げ加工が施され、把持部43以外の外周縁では下方に折り返されたカール部46が全周にわたって形成されている。
【0017】
上記のような基本構成を有するエンドにおいて、本発明においては、主スコア25aのスコア長さ方向の軸方向断面を示す
図2に示すように、主スコア25aには、主スコアよりもスコア残厚の大きい高スコア残厚部分26が部分的に形成されており、この高スコア残厚部分26のスコア残厚率が主スコアのスコア残厚率より高く且つ91%以下、好適には85%以下であることが重要である。
すなわち、
図2に示すように、主スコア25aのスコア残厚率R1は、スコア25aを形成しなかった場合の仮想厚み(t0)に対する主スコア残厚(t1:スコア加工部の厚み)の割合[(t1/t0)×100(%)]であり、一方、高スコア残厚部分26のスコア残厚率R2は高スコア残厚部分における残厚(t2)の割合[(t2/t0)×100(%)]で表され、本発明においては、R1<R2≦91%となるように、高スコア残厚部分が形成されている。
尚、高残厚スコア部分は、主スコアのスコア残厚率より高く且つ91%以下、好適には85%以下であれば主スコア残厚との関係性は問わないが、主スコアからの段差量(
図2における残厚差(t2-t1))が大きすぎると、開口動作が滑らかに進まず、開口に要する力が上がるので、主スコアとの残厚差は50μm以下であることが好ましい。
【0018】
スコア残厚率が上記範囲にあることにより、スコアが脱線することなくスムーズに破断できることは、後述する実施例の結果からも明らかである。すなわち、スコア残厚率が85%以下の高スコア残厚部分が形成されている場合には、従来よりエンドに使用されている5000系アルミニウム合金から成るエンドはもちろん、Mnの含有量が多く、Al-Fe-Mn-Si系晶出物が増加しやすいアルミニウムUBCを含有するアルミニウム合金から成るエンドにおいても、スコア以外の部分が破断されることなくスムーズにスコアの破断が行われている。
一方上記範囲よりも高スコア残厚部分のスコア残厚率が大きい場合、5000系アルミニウム合金から成るエンドではスコア残存率が91%まではスコアの脱線は生じないが、Al-Fe-Mn-Si系晶出物が増加しやすいアルミニウムUBCを含有するアルミニウム合金から成るエンドには、高スコア残厚部分26でスコアの破断が停止してしまい、この部分から逸れてエンドの破断が進行するおそれがあるため、85%以下とすることが好適である。
尚、高スコア残厚部分のスコア長さ方向の長さ(
図2中、Lで示す)は、高スコア残厚部分の残厚率や形成位置、求める耐ポップミサイル効果等によって適宜変更することができるが、3mm~10mmの範囲にあることが好適である。
【0019】
図3は、
図1のリベット3によるタブ取付け部分付近に形成されたスコアを説明するための一部拡大平面図である。
図3中、点線で外縁を示す領域Aは、リベット成形に伴うコイニング加工領域であり、この領域内の板厚は他の箇所よりコイニング加工により板厚が減少している。
図3から明らかなように、コイニング加工領域A内には主スコア25a及び補助スコア25bが形成されており、コイニング加工領域A内の主スコア25aに高スコア残厚部分26が形成されている。この高スコア残厚部分26は
図3に示すように、コイニング領域内の開始点26aからコイニング領域外の終点26bまで延びる長さを有するように形成されている。コイニング加工領域Aよりも外側に位置する高スコア残厚部分の終点26bは、エンドを構成するアルミニウム合金版の元板厚の厚みが維持されている部分に位置している
【0020】
尚、本発明においては、高スコア残厚部分の残厚率は、高スコア残厚部分を形成する箇所におけるスコアを形成しなかった場合の仮想厚みを基準とすることから、
図3のように基準となる仮想厚み(t0)が異なる箇所にそれぞれ高スコア残厚部分を形成する場合でも、主スコアに対して効果的な高スコア残厚部分を形成することが可能となる。すなわち、高スコア残厚部分の開始点26aは領域A内でも外でもよい。この高残厚スコアを設ける場所や個数は問わないが、開口初期部またはコイニング領域部周辺に設けることが好ましい。
【0021】
本発明の缶蓋においては、主スコアに上述した高スコア残厚部分を有する以外は、従来公知のエンド及びタブと同様に成形することができる。
【0022】
(アルミニウム合金)
本発明のエンドは、前述した通り、エンドに形成される破断可能なスコア(主スコア)に高スコア残厚部分を形成することにより、スコア破断に際してスコア以外の箇所の破断(脱線)を有効に防止できることから、従来缶蓋に使用されていたアルミニウム合金等の全ての材料により成形することができる。
また本発明においては、Mn:0.5~1.0質量%、Mg:2.0~3.0質量%、Si:0.35質量%以下、Fe:0.6質量%以下、Cu:0.25質量%以下、Cr:0.10質量%以下、Zn:0.25質量%以下、Ti:0.10質量%以下を含有するアルミニウム合金でも成形することができる。
前述した通り、アルミニウムUBCから成るリサイクル材は、Mg量が少なくMn量が多い3000系アルミニウム合金から成る缶体がその多くを占めることから、3000系アルミニウム合金に近似した合金組成を有しているが、このようなリサイクル材を用いる場合でも、Mg量を調整した上記合金組成のアルミニウム合金であることにより、3000系主体のUBCから成るリサイクル材を含有する場合であっても、耐圧強度の低下がなく、蓋の変形がないエンドを提供できる。
【0023】
エンドを構成する上記アルミニウム合金において、Mnはアルミニウム合金の強度を向上させるために必須の元素であり、上記範囲よりもMn量が多い場合には、Al-Fe-Mn-Si系晶出物の増加により、靭性が低下することから、上記範囲にある場合に比してスコアの破断に際して脱線を生じるそれがある。
またMgは、引張強さ、耐力、伸び等、缶蓋に要求される強度を得るために必須の元素であり、Mg量が上記範囲にあるアルミニウム合金においては応力腐食割れのおそれがないため、開口性を損なうことなく、スコア残厚やスコア形状の調整をしやすいという利点がある。Mg量が上記範囲よりも少ない場合には、陽圧缶や殺菌処理等に付された場合に変形するおそれがあり、またMg量が上記範囲よりも多い場合には、鋳塊割れや熱間圧延時及び缶蓋成形時に割れを引き起こすおそれがある。
尚、本発明の缶蓋においては、Mg量が上記範囲にあることと前述したように、主スコアの適切な範囲に高スコア残厚部分を形成することで、スコアの破断に際して、スコア以外の箇所に破断が進行することを防ぐことができる。
【0024】
Si及びFeは、上述したAl-Fe-Mn-Si系晶出物を形成し、熱間圧延時の再結晶核となって種々の方位の結晶粒を形成して、熱間圧延終了時点においてCube方位への集中を抑制する。このような観点から、Siは0.35質量%以下であることが好適であり、Feは0.6質量%以下であることが好適である。
またCu及びCrは、アルミニウム合金の強度を増大させるために含有されるが、Cuが上記範囲よりも多い場合には、熱間圧延時に割れが生じるおそれがあり、またCrが上記範囲よりも多い場合には、粗大な金属間化合物が生じるおそれがある。
更に、Zn、Tiは不可避的にアルミニウム合金に含有される不純物であり、上記値以下であれば本発明のエンドへの影響はない。
【0025】
上記アルミニウム合金は、アルミニウムUBCから成るリサイクル材にMgを添加すると共に、必要により新規アルミニウムを含有させることにより、上記合金組成に調整されている。尚、上記アルミニウムUBCから成るリサイクル材は、前述した通り、缶体を構成していた3000系アルミニウム合金が主体であることから、Mnを0.5~1.4質量%の量で含有している。またアルミニウムのリサイクル材として、アルミニウムUBCのリサイクル材と共に、アルミニウム合金板製造工程及びアルミニウム製缶の製造工程で排出されるスクラップ材を使用することもできる。
【0026】
本発明のエンドの成形に用いられるアルミニウム合金板としては、前述した通り、5000系アルミニウム合金等の従来から缶蓋の成形に用いられていた汎用材の他、上述したアルミニウムのリサイクル材に、必要により新規アルミニウムを溶解すると共にMg等の合金成分量を調整した上記アルミニウム合金を用いることができるが、これらのアルミニウム合金板は、熱間圧延及び冷間圧延を実施し製造される。冷間圧延の途中で中間焼鈍を行うことが好適である。
これらのアルミニウム合金板には、従来公知の方法により、必要により各種表面処理を施した後、従来公知の方法により熱可塑性樹脂被覆或いは塗膜等の有機被覆を形成することができる。
表面処理としては、これに限定されないが、リン酸クロメート処理、ジルコニウム及び/又はチタンの酸化物を主成分とする化成処理等従来公知の表面処理を例示できる。
【0027】
熱可塑性樹脂被覆としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリルエステル共重合体、アイオノマー等のオレフィン系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム等を例示できる。かかる熱可塑性樹脂フィルムは未延伸又は二軸延伸したものであってもよい。
また塗膜形成可能な塗料としては、フェノール-エポキシ、アミノ-エポキシ等の変性エポキシ塗料、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体けん化物、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、エポキシ変性-、エポキシアミノ変性-、エポキシフェノール変性-ビニル塗料または変性ビニル塗料、アクリル塗料、スチレン-ブタジエン系共重合体等の合成ゴム系塗料等を例示できる。
【0028】
本発明のエンドの成形に用いられるアルミニウム合金板は、エポキシ系塗料、ポリエステル系塗料等を塗装焼付した塗装アルミニウム合金板の状態で、圧延0°方向における板の引張強度が350~410MPa、特に370~400MPaの範囲にあることが好適である。この引っ張り強度が上記範囲内にあることにより、陽圧缶用の缶蓋としても使用することも可能となる。
アルミニウム合金板の厚みは、これに限定されるものではないが、エンド材としての板厚(非加工部の厚み)は、0.19~0.30mmの範囲にあることが好適である。
【0029】
また本発明のエンドに用いるタブとしては、従来缶蓋用のタブとして使用されていた5000系アルミニウム合金から成るタブ等を制限なく使用できるが、タブにおいても上述した組成を有するアルミニウム合金から成るタブを使用することができる。
【実施例0030】
板厚が0.235mmの、アルミニウム合金板S(Mn:0.9質量%、Mg:2.3質量%、Si:0.3質量%、Fe:0.5質量%、Cu:0.2質量%、Cr:0.01質量%、Zn:0.14質量%、Ti:0.01質量%の組成で、冷間圧延途中で中間焼鈍を実施)を用い、204径シェルを作成した。
同様に、板厚が0.235mmの5000系アルミニウム合金板(5182材、冷間圧延途中で中間焼鈍を実施))から成るシェルを作成した。
得られたシェルに
図3に示した2か所(元板厚よりも板厚が減少しているコイニング領域内26a,元板厚の領域であるコイニング領域外26b)に高スコア残厚部分を有するスコアが形成されたエンドを作成し、5000系アルミニウム合金板(5182材)から成るタブを取り付けて缶蓋を作成した。スコアは、高スコア残厚部分の残厚率が表1~4に示す残厚率となるようにスコア残厚を調整したスコア形成工具を用いて、初期開口部のスコア残厚率が元板厚の50%程度となるよう形成した。
上記で得られた缶蓋を、ビール350mlを充填し、5℃条件下で内圧120kPaとしたシームレス缶の開口に取り付け、ビール充填缶を作成した。
得られたビール充填缶を開口し、正常開口した場合は「○」、高スコア残厚部分から脱線してしまった場合を「×」として評価した。
【0031】
アルミニウム合金Sについて、高スコア残存部分をコイニング領域外に形成した場合についての結果を表1、コイニング領域内に形成した場合についての結果を表2、5182材について、高スコア残存部分をコイニング領域外に形成した場合についての結果を表3、コイニング領域内に形成した場合についての結果を表4にそれぞれ示した。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
本発明の缶蓋は、破断可能なスコア(主スコア)以外の箇所での破断が有効に防止されており、開口形成に際してスコアを脱線することなくスムーズに破断することが可能であり、特に、靭性に劣るリサイクル材を含有する特定のアルミニウム合金を用いた場合でもスコアから脱線することなく破断でき、新規アルミニウムを用いた場合と同様の飲食品用缶蓋を得ることができることから、二酸化炭素排出量の低減が求められる用途に好適に使用できる。
1 缶蓋、2 エンド、3 リベット、4 タブ、21 センターパネル、22 チャックウォールラジアス、23 チャックウォール、24 シーミングパネル、25 スコア、26 高スコア残厚部部分、41 タブ本体、42 タブノーズ部、43 把持部、44 固定部、46 カール部。