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特開2024-7687新規な材料を使用する有機発光素子、および有機発光素子の寿命の延長方法
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  • 特開-新規な材料を使用する有機発光素子、および有機発光素子の寿命の延長方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007687
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】新規な材料を使用する有機発光素子、および有機発光素子の寿命の延長方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/10 20230101AFI20240112BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240112BHJP
   C07D 405/04 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
H05B33/14 B
C09K11/06 690
C07D405/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108922
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】小澤 寛晃
(72)【発明者】
【氏名】後藤 亜衣子
(72)【発明者】
【氏名】児玉 夕佳
(72)【発明者】
【氏名】金原 幸誠
【テーマコード(参考)】
3K107
4C063
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC22
3K107DD59
3K107DD68
4C063AA01
4C063BB02
4C063CC76
4C063DD08
4C063EE10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新規な化合物を発光層に含む長寿命の有機発光素子を提供する。
【解決手段】有機発光素子の発光層は、下記式(I)で示される新規な化合物を含むものである。

また、該化合物を有機発光素子の発光層でホスト化合物として使用することにより、有機発光素子のデバイス寿命を延長することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機発光素子であって、発光層に下記式(I)で示される化合物を含む、有機発光素子。
【化1】
(ここで、Rはフェニレン基を表し、
ジベンゾフラン骨格の水素原子は、1または複数の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
有機発光素子であって、発光層に含まれる式(I)で示される化合物が
【化2】
である、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
下記式(I)で示される、有機発光素子用ホスト化合物。
【化3】
(ここで、Rはフェニレン基を表し、
ジベンゾフラン骨格の水素原子は、1または複数の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項4】
式(I)で示される化合物が、
【化4】
である、請求項3に記載の有機発光素子用ホスト化合物。
【請求項5】
下記式(I)で示される化合物。
【化5】
(ここで、Rはフェニレン基を表し、
ジベンゾフラン骨格の水素原子は、1または複数の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項6】
式(I)で示される化合物が、
【化6】
である、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
以下の式(I)で示される化合物を使用する、有機発光素子の寿命を延長する方法。
【化7】
(ここで、Rはフェニレン基を表し、
ジベンゾフラン骨格の水素原子は、1または複数の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基で置換されていてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な材料を用いた有機発光素子に関する。また、有機発光素子の寿命の向上方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの有機発光素子に関する研究が盛んに行われている。
ある種のエネルギー刺激を与えられたとき、それに対する応答として光(蛍光)を放出する機能を有する有機発光材料が知られている。このとき、エネルギー源として電気エネルギーを使用した発光は、エレクトロルミネッセンスとよばれ、これを利用した有機発光素子を有機EL素子という。さまざまな構成の有機EL素子が知られており、単純な有機EL素子のデバイス構造は、基板の上に、少なくとも陽極、陰極、および前記陽極と前記陰極との間に、発光層など各種の層を含む有機層を含むものである。
【0003】
これまでに、様々な構造を有する化合物が、有機EL素子の発光層などの有機層で使用できものとして提案されている(特許文献1~3)。
そのような有機発光素子のデバイス寿命を向上するために、これまで様々な試みがなされてきている。
たとえば、発光層に含まれる発光性ドーパント化合物として、嵩高いアルキルで置換されたねじれたアリールを有する構造を有する化合物を使用することで、デバイス寿命が延長することが知られている(特許文献4)。また、熱活性化遅延蛍光(TADF)材料を発光層に含有する有機発光素子において、デバイス構造の最適化、具体的には、有機発光素子の有機層界面にhydroxyquinolinato lithium (Liq)を数ナノメーターの膜厚で挿入することにより、デバイス寿命を延長できることも知られている(非特許文献1)。さらに、有機層中の発光材料化合物の全ての水素を重水素に置き換えることで、発光素子の耐久性が向上したことも報告されている(非特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/166552号
【特許文献2】国際公開第2021/166553号
【特許文献3】中国特許公開第104560018号公報
【特許文献4】特開2016-155858号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Scientific Reports volume 6, Article number: 22463 (2016)
【非特許文献2】太陽日酸技報No.32 pp.5-8(2013)
【非特許文献3】Wako Organic Square, No.36 pp.2-3
【非特許文献4】https://www.bunsekik.com/有機elニュース/過去のニュース/重水素置換の蛍光材料-次世代青色材料の主流となるか/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願は、デバイス寿命の改善された、特定の構造を有する新規な材料を用いた有機発光素子を提供することを目的とするものである。また、有機発光素子の寿命を向上する新規な方法を提供することも目的とする。
以下で詳述する式(I)で示される化合物は、本発明者らが初めて見出したものである。斯かる化合物を有機発光素子の発光層でホスト化合物として使用することにより、有機発光素子のデバイス寿命を延長(デバイス寿命を改善)することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
具体的には、下記の態様を含むものである。
[1]有機発光素子であって、発光層に下記式(I)で示される化合物を含む、有機発光素子。
【化1】
(ここで、Rはフェニレン基を表し、
ジベンゾフラン骨格の水素原子は、1または複数の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基で置換されていてもよい。)
[2]有機発光素子であって、発光層に含まれる式(I)で示される化合物が
【化2】
である、[1]の有機発光素子。
[3]下記式(I)で示される、有機発光素子用ホスト化合物。
【化3】
(ここで、Rはフェニレン基を表し、
ジベンゾフラン骨格の水素原子は、1または複数の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基で置換されていてもよい。)
【0008】
[4]式(I)で示される化合物が、
【化4】
である、[3]の有機発光素子用ホスト化合物。
[5]下記式(I)で示される化合物。
【化5】
(ここで、Rはフェニレン基を表し、
ジベンゾフラン骨格の水素原子は、1または複数の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基で置換されていてもよい。)
[6]式(I)で示される化合物が、
【化6】
である、[5]の化合物。
【0009】
[7]以下の式(I)で示される化合物を使用する、有機発光素子の寿命を延長する方法。
【化7】
(ここで、Rはフェニレン基を表し、
ジベンゾフラン骨格の水素原子は、1または複数の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基で置換されていてもよい。)
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】有機発光素子の層構成例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
有機EL素子について、改めて説明する。
代表的な有機EL素子は、基板の上に、少なくとも陽極、陰極、および前記陽極と前記陰極との間の有機層を含むものであって、該有機層の例として、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子注入層、電子輸送層、正孔障壁層、電子障壁層などが挙げられる。
有機EL素子の具体的な構成の例を図1に示すが、本発明の有機発光素子はそのような構成に限定されるものではない。
以下で、各層等について簡単に説明する。
【0012】
[基板]
有機EL素子は、基板に支持されていることが好ましい。
この基板については、特に制限はなく、従来から有機EL素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英、シリコンなどからなるものを用いることができる。
【0013】
[陽極]
いくつかの実施形態では、陽極は、金属、合金、導電性化合物またはそれらの組み合わせから製造される。例えば、CuI、酸化インジウム・スズ(ITO)、SnO2およびZnOが例示される。
いくつかの実施形態では、陽極の厚みは10~1,000nmである。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは10~200nmである。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは用いる材料に応じて変動する。
【0014】
[陰極]
いくつかの実施形態では、陰極は、合金、導電性化合物またはその組み合わせなどの電極材料で作製される。そのような材料として、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム-銅混合物、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-アルミニウム混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-酸化アルミニウム(Al23)混合物、インジウム、リチウム-アルミニウム混合物、希土類元素が例示される。
いくつかの実施形態では、前記陰極の厚は10nm~5μmである。いくつかの実施形態では、前記陰極の厚は50~200nmである。
【0015】
[発光層]
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層であり、発光材料を単独で発光層に使用しても良いが、好ましくは発光材料とホスト材料を含む。
ホスト材料を用いる場合、発光層中に含有される量に特段の制限はなく、0.1重量%~99.9重量%とすることができる。1重量%以上であることがより好ましく、また、50重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
発光層におけるホスト材料は、正孔輸送能、電子輸送能を有する有機化合物であり、および/または、発光の長波長化を防ぐ化合物であり、および/または、高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。
本願の化合物はホスト材料として使用するものであるが、ホスト材料として、以下のものも併せて使用することができる。使用できるホスト材料は以下のものに限られるわけではない。
【0016】
【化8】
【化9】
【化10】
【0017】
[正孔輸送層]
正孔輸送層は、正孔輸送材料を含む。いくつかの実施形態では、正孔輸送層は単層である。いくつかの実施形態では、正孔輸送層は複数の層を有する。
いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は、正孔の注入または輸送特性および電子の障壁特性のうちの1つの特性を有する。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は有機材料である。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は無機材料である。
正孔輸送材料の例としては、限定されないが、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール
誘導剤、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導剤、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリルアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導剤、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリンコポリマーおよび導電性ポリマーオリゴマー(特にチオフェンオリゴマー)、またはその組合せが挙げられる。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料はポルフィリン化合物、芳香族三級アミン化合物およびスチリルアミン化合物から選択される。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は芳香族三級アミン化合物である。
【0018】
正孔輸送材料として以下のものを使用することができるが、これらに限られるわけではない。
【化11】
【化12】
【0019】
[電子輸送層]
電子輸送層は、電子輸送材料を含む。いくつかの実施形態では、電子輸送層は単層である。いくつかの実施形態では、電子輸送層は複数の層を有する。
いくつかの実施形態では、電子輸送材料は、陰極から注入された電子を発光層に輸送する機能さえあればよい。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はまた、正孔障壁材料としても機能する。
電子輸送層の例としては、限定されないが、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン、アントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アゾール誘導体、アジン誘導体またはその組合せ、またはそのポリマーが挙げられる。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はチアジアゾール誘導剤またはキノキサリン誘導体である。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はポリマー材料である。(さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0020】
電子輸送材料として以下のものを使用することができるが、これらに限られるわけではない。
【化13】
【0021】
[注入層]
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために、電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層とがある。陽極と発光層(正孔輸送層)の間に、あるいは、陰極と発光層(電子輸送層)との間に、必要に応じて設けることができる。
以下に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げるが、これらに限られるわけではない。
【化14】
【0022】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げるが、これらに限られるわけではない。
【化15】
【0023】
[障壁層]
障壁層は、発光層に存在する電荷(電子または正孔)および/または励起子が、発光層の外側に拡散することを阻止できる層である。
いくつかの実施形態では、電子障壁層は、発光層と正孔輸送層との間に(図1で、4:正孔輸送層と5:発光層との間に)存在し、電子が発光層を通過して正孔輸送層へ至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、正孔障壁層は、発光層と電子輸送層との間に(図1で、5:発光層と6:電子輸送層との間に)存在し、正孔が発光層を通過して電子輸送層へ至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、障壁層は、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止する。いくつかの実施形態では、電子障壁層および正孔障壁層は励起子障壁層を構成する。本明細書で用いる用語「電子障壁層」または「励起子障壁層」には、電子障壁層の、および励起子障壁層の機能の両方を有する層が含まれる。
【0024】
[電子障壁層]
電子障壁層は、正孔を輸送する。いくつかの実施形態では、正孔の輸送の間、電子障壁層は電子が正孔輸送層に至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、電子障壁層は、発光層における電子と正孔との再結合の確率を高める。電子障壁層に用いる材料は、正孔輸送層について前述したのと同じ材料であってもよい。以下に電子障壁材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げるが、これらに限られるわけではない。
【0025】
【化16】
【化17】
【0026】
[正孔障壁層]
正孔障壁層は、電子輸送層として機能する。いくつかの実施形態では、電子の輸送の間、正孔障壁層は正孔が電子輸送層に至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、正孔障壁層は、発光層における電子と正孔との再結合の確率を高める。正孔障壁層に用いる材料は、電子輸送層について前述したのと同じ材料であってもよい。
以下に、正孔障壁層に用いることができる好ましい化合物例を挙げるが、これらに限られるわけではない。
【化18】
【0027】
本発明に係る有機発光素子の発光層で使用される化合物は、以下の式(I)で示される化合物である。
【化19】
(ここで、Rはフェニレン基を表し、
ジベンゾフラン骨格の水素原子は、1または複数の置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基で置換されていてもよい。)
【0028】
ジベンゾフラン骨格を置換することが可能なアルキル基としては、直鎖、または分岐であることができ、その炭素数は、例えば1以上、2以上、4以上とすることができる。また、炭素数は30以下、20以下、10以下、6以下、4以下とすることができる。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、n-ノニル基、イソノニル基、n-デカニル基、イソデカニル基を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
ジベンゾフラン骨格を置換することが可能なシクロアルキル基としては、単環または縮合のシクロアルキルであることができ、その炭素数は、例えば1以上、2以上、4以上とすることができる。また、炭素数は30以下、20以下、10以下、6以下、4以下とすることができる。具体例として、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお、アダマンチル基で置換されるものは、本発明に係るものではない。
ジベンゾフラン骨格を置換することが可能なアリール基、ヘテロアリール基としては、炭素数5~12の単環または縮合のアリール基、ヘテロアリール基を例示することができ、具体的には、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、トリフェニレニル基、ジベンゾフラン基等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
ジベンゾフラン骨格の水素原子を置換するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基は、さらに、アルキル基、シアノ基など各種の置換基で置換されていてもよい。
ジベンゾフラン骨格の水素原子を置換するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基は、1または複数であることが可能であって、該置換基が複数ある場合には、それぞれの基は同じであることもできるし、また、それぞれが炭素数や置換基の種類などの点で異なるものであることもできる。
【0029】
式(I)のRのフェニレン基において、ジベンゾフラン環は、カルバゾール環のオルト位、メタ位、パラ位のいずれに位置していてもよい。また、フェニレンはジベンゾフラン環のいかなる位置にも結合することもできる。
【0030】
以下に、本発明の有機発光素子で使用される、式(I)で示される化合物の具体的な構造を例示する。しかしながら、本発明の有機発光素子に使用される化合物を限定する意図のものではない。
【化20】
【0031】
なお、上記で、たとえば、
【化21】
として示される構造式は、ジベンゾフラン環のフェニル基上の置換可能な4つの水素原子のいずれか1つが、カルバゾール環のN原子に結合するフェニル基(メタ位)で置換されている化合物を集合的に示したもの(ジベンゾフラン環上の置換位置が異なる4つの化合物を一の構造式で示したもの)である。
【0032】
上記式(I)で示される化合物は、たとえば、重水素置換カルバゾールとハロゲン置換のジベンゾフラン骨格部分とを反応させて製造することができる。
【0033】
発光層中の、式(I)で示される化合物の量には特段の制限はないが、発光層中に式(I)で示される化合物は0.1重量%以上存在することが好ましく、1重量%以上であることがより好ましい。また、発光層中に99重量%以下存在することもできる。
【0034】
本発明は、上記式(I)で示される化合物を用いた、有機発光素子のデバイス寿命の延長(改善)に関するものでもあるが、本願において、有機発光素子のデバイス寿命の延長(改善)は、実施例で示すように、特定の電流密度で素子の輝度を測定し、初期発光強度が5%減少するまでの時間(LT95)の長短で確認している。
【0035】
上記式(I)で示される化合物は、特に有機発光素子の発光層で、遅延蛍光を放射する化合物(遅延蛍光化合物)と組み合わせて、ホスト化合物として用いることが望ましい。
以下に、式(I)で示される化合物と共に使用することができる遅延蛍光化合物を挙げるが、式(I)で示される化合物と共に使用することができる遅延蛍光化合物はこれらの化合物の例示によって、限定的に解釈されることはない。
【0036】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0037】
また、式(I)で示される化合物は、上記以外の公知の遅延蛍光化合物と組み合わせて用いることもできる。また、現時点で知られていない遅延蛍光化合物と組み合わせて用いることも可能である。
遅延蛍光化合物として、たとえば、WO2013/154064号公報の段落0008~0048および0095~0133、WO2013/011954号公報の段落000
7~0047および0073~0085、WO2013/011955号公報の段落0007~0033および0059~0066、WO2013/081088号公報の段落0008~0071および0118~0133、特開2013-256490号公報の段落0009~0046および0093~0134、特開2013-116975号公報の段落0008~0020および0038~0040、WO2013/133359号公報の段落0007~0032および0079~0084、WO2013/161437号公報の段落0008~0054および0101~0121、特開2014-9352号公報の段落0007~0041および0060~0069、特開2014-9224号公報の段落0008~0048および0067~0076、特開2017-119663号公報の段落0013~0025、特開2017-119664号公報の段落0013~0026、特開2017-222623号公報の段落0012~0025、特開2017-226838号公報の段落0010~0050、特開2018-100411号公報の段落0012~0043、WO2018/047853号公報の段落0016~0044に記載される一般式に包含される化合物、特に例示化合物であって、遅延蛍光を放射するものを挙げることができる。また、特開2013-253121号公報、WO2013/133359号公報、WO2014/034535号公報、WO2014/115743号公報、WO2014/122895号公報、WO2014/126200号公報、WO2014/136758号公報、WO2014/133121号公報、WO2014/136860号公報、WO2014/196585号公報、WO2014/189122号公報、WO2014/168101号公報、WO2015/008580号公報、WO2014/203840号公報、WO2015/002213号公報、WO2015/016200号公報、WO2015/019725号公報、WO2015/072470号公報、WO2015/108049号公報、WO2015/080182号公報、WO2015/072537号公報、WO2015/080183号公報、特開2015-129240号公報、WO2015/129714号公報、WO2015/129715号公報、WO2015/133501号公報、WO2015/136880号公報、WO2015/137244号公報、WO2015/137202号公報、WO2015/137136号公報、WO2015/146541号公報、WO2015/159541号公報に記載される発光材料であって、遅延蛍光を放射するものを採用することもできる。なお、この段落に記載される上記の公報は、本明細書の一部としてここに引用している。
【0038】
また、本発明に係る有機発光素子の発光層においては、上記の式(I)の化合物、上記で示されるような遅延蛍光化合物に加えて、さらに遅延蛍光を放射しない蛍光化合物も加えることができる。
そのような蛍光化合物の例は、アントラセン誘導体、テトラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、クリセン誘導体、ルブレン誘導体、クマリン誘導体、ピラン誘導体、スチルベン誘導体、フルオレン誘導体、アントリル誘導体、ピロメテン誘導体、ターフェニル誘導体、ターフェニレン誘導体、フルオランテン誘導体、アミン誘導体、キナクリドン誘導体、オキサジアゾール誘導体、マロノニトリル誘導体、ピラン誘導体、カルバゾール誘導体、ジュロリジン誘導体、チアゾール誘導体、金属(Al,Zn)を有する誘導体等である。これらの例示骨格には置換基を有してもよいし、置換基を有していなくてもよい。また、これらの例示骨格どうしを組み合わせてもよい。蛍光化合物は、上記に限定されるものでない。
【0039】
本発明に係る有機発光素子は、たとえば、膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基材上に、真空蒸着法(真空度1×10-5Pa)で、以下の順に積層して製造することができる。しかしながら、使用している化合物の種類やその使用量、層の厚さなど、下記に限定されるわけではないし、また、当該技術分野で採用されている他の方法を用いることも当然にできる。
【0040】
(1)ITO上にHAT-CNを10nmの厚さに形成。
(2)NPDを30nmの厚さに形成。
(3)TrisPCzを10nmの厚さに形成。
(4)H1を5nmの厚さに形成。
(5)H1、遅延蛍光化合物、本発明に係る化合物を異なる蒸着源から共蒸着し、40nmの厚さの発光層を形成。(H1、遅延蛍光化合物、本発明に係る化合物の含有量は、順に64.5質量%、35.0質量%、0.5質量%)。
(6)SF3-TRZを10nmの厚さに形成。
(7)LiqとSF3-TRZを異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成。(LiqとSF3-TRZの含有量はそれぞれ30質量%と70質量%)。
(8)Liqを2nmの厚さに形成。
(9)アルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成。
【0041】
上記で使用した各種化合物の構造は、以下のとおりである。
【化22】
【化23】
【実施例0042】
以下に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
なお、以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に具体的に示す実施例によって、限定的に解釈されるべきではない。
有機発光素子の発光特性の評価は、
・ハイパフォーマンス紫外可視近赤外分光光度計(パーキンエルマー社製:Lambda950)、
・蛍光分光光度計(堀場製作所社製:FluoroMax-4)、
・絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製:C11347)、
・ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)、
・半導体パラメータ・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:E5273A)、
・光パワーメータ測定装置(ニューポート社製:1930C)、
・光学分光器(オーシャンオプティクス社製:USB2000)、
・分光放射計(トプコン社製:SR-3)および
・ストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)
を用いて行った。
【0043】
実施例1(化合物1の製造)
【化24】
窒素雰囲気化、2-(3-ブロモフェニル)ジベンゾフラン(16.8 g, 51.9 mmol)、カルバゾール-1,2,3,4,5,6,7,8-d8(10 g, 57.1 mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(4.75 g, 5.19 mmol)、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート(3.01 g, 10.4 mmol)およびナトリウム tert-ブトキシド(9.97 g, 103.7 mmol)を330 mlのトルエンに加え、24時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、クロロホルムを加えた。得られた有機層を水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を除去した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/ n-ヘキサン= 2:8)により精製した。さらに再結晶(トルエン/ヘキサン)により、化合物1を白色固体として得た(15.1 g, 70%)。
1H NMR (400MHz, CDCl3, δ): 8.20 (s, 1H), 7.98 (d, J = 7 Hz, 1H), 7.90 (s, 1H), 7.80-7.70 (m, 3H), 7.65 (d, J = 9 Hz, 1H), 7.61-7.57 (m, 2H), 7.49 (t, J = 7 Hz, 1H), 7.37 (t, J = 7 Hz, 1H).
MS (ASAP): 418.27 (M+H+). Calcd for C30H11D8NO: 417.20.
【0044】
実施例2(有機発光素子の作製、比較)
(EL素子1の作製)
膜厚50nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度5.0×10-5Paで積層した。まず、ITO上にHAT-CNを10nmの厚さに形成し、その上に、NPDを30nmの厚さに形成した。次にPTCzを10nmの厚さに形成した。次に、下記の構造の遅延蛍光化合物、実施例1で製造した化合物1を異なる蒸着源から共蒸着し、40nmの厚さの層を形成して発光層とした。遅延蛍光化合物と化合物1の含有量は、遅延蛍光化合物:70質量%、化合物1:30質量%とした。次に、SF3-TRZを10nmの厚さに形成した後、LiqとSF3-TRZを異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成した。この層におけるLiqとSF3-TRZの含有量はそれぞれ30質量%と70質量%とした。さらにLiqを2nmの厚さに形成し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子(EL素子1)とした。
【化25】
【0045】
(比較EL素子1の作製)
化合物1の代わりに以下の比較化合物1(上記特許文献3に記載)を用い、それ以外は素子1を作製した工程と同じ工程を行うことにより、有機エレクトロルミネッセンス素子(比較EL素子1)を作製した。
【化26】
(比較EL素子2の作製)
化合物1のかわりに以下の比較化合物2を用い、それ以外は素子1を作製した工程と同じ工程を行うことにより、有機エレクトロルミネッセンス素子(比較EL素子2)を作製した。
【化27】
【0046】
(素子の寿命)
上記の方法により作製した各素子の駆動電圧、発光効率(EQE)、LT95を測定した(2.0mA/cm2)。その結果を、比較化合物1を用いた比較EL素子1と対比する形で、下記表1に取りまとめた。
【0047】
【表7】
【0048】
発光層に、比較化合物1を用いた比較EL素子1と比較して、化合物1を用いたEL素子1は、駆動電圧、発光効率は略同等であるが、LT95は約30%上昇した。
また、比較化合物2を用いた比較EL素子2は、比較EL素子1よりも、駆動電圧、LT95の点で大きく劣るものであり、これと比較して、化合物1を用いたEL素子1の優秀さはより一層顕著であった。
遅延蛍光化合物として、実施例3に例示したもの以外を使用した場合でも、有機発光素子のデバイス寿命の延長(改善)に関し同様の効果を確認できる。
【符号の説明】
【0049】
1:基板
2:陽極
3:正孔注入層
4:正孔輸送層
5:発光層
6:電子輸送層
7:陰極
図1