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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076877
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】多孔質膜及び多孔質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20240530BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240530BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240530BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20240530BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C08J9/26 CES
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/08
B01D71/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188685
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【弁理士】
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】三木 雄揮
【テーマコード(参考)】
4D006
4F074
【Fターム(参考)】
4D006GA07
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA22
4D006MA23
4D006MA28
4D006MA31
4D006MB02
4D006MC44X
4D006NA23
4D006NA27
4D006NA28
4D006NA75
4D006PA01
4D006PB15
4D006PB20
4D006PB55
4D006PC01
4D006PC80
4F074AA27
4F074CB04
4F074CB13
4F074CB34
4F074CB45
4F074DA08
4F074DA14
4F074DA24
4F074DA43
4F074DA44
(57)【要約】
【課題】高い耐有機溶媒性及び耐薬品性を有するポリケトン製で高濾過性能かつ高強度の多孔質膜。
【解決手段】一方の表面の開孔率が15%以上であり、破断強度が1.0MPa以上であり、オレフィンと一酸化炭素との共重合により形成された構造を有するポリケトンを加工することによって得られる、もしくはオレフィンと一酸化炭素との共重合により形成された構造を有するポリケトンを含む、多孔質膜。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の表面の開孔率が15%以上であり、破断強度が1.0MPa以上であり、オレフィンと一酸化炭素との共重合により形成された構造を有するポリケトンを加工することによって得られる、もしくはオレフィンと一酸化炭素との共重合により形成された構造を有するポリケトンを含む、多孔質膜。
【請求項2】
他方の表面に15%以上の開孔率である部分が存在する、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記一方の表面の開孔率が20%以上である、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
破断強度が8.0MPa以上である、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項5】
前記一方の表面の孔径が1μm以下である、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項6】
純水透水量が300LMH以上である、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項7】
前記多孔質膜が三次元網目構造を有する、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項8】
前記多孔質膜が中空糸状である、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項9】
前記一方の表面が中空糸状多孔質膜の内表面であり、他方の表面が中空糸状多孔質膜の外表面である、請求項8に記載の多孔質膜。
【請求項10】
オレフィンと一酸化炭素の共重合により形成された構造を有するポリケトンと、有機液体と、無機微粉とを溶融混練する工程、溶融混練物を二重円環状のノズルから吐出し、吐出された溶融混練物を冷却固化することによって中空糸状物を成型する工程、及び中空糸状物を成型した後、前記中空糸状物から前記有機液体と無機微粉を抽出除去することによって中空糸状多孔質膜を得る工程を含む、熱誘起相分離法による多孔質膜の製造方法。
【請求項11】
前記溶融混練工程での溶融温度が、前記ポリケトンと有機液体の溶解開始温度以上前記溶解開始温度+50℃以下である、請求項10に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項12】
前記溶融混練工程での溶融温度が、前記ポリケトンと有機液体の二層分離開始温度以上前記二層分離開始温度+50℃以下である、請求項10に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項13】
少なくとも1つの溶融混練工程での溶融時間が30分以下である、請求項10~12のいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項14】
少なくとも1つの溶融混練工程での溶融時間が3分以上30分以下である、請求項13に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項15】
前記有機液体が、フタル酸エステル、セバシン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、クエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選ばれる少なくとも1種である、請求項10~12のいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜及び多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造プロセス、バイオ医薬品製造プロセス等において、製品の信頼性及び収率の観点から、ごく微小な粒子、ウィルス等の不純物を効率的に除去することができる濾材が求められている。濾過対称物のサイズよりも小さい孔径の濾材を使用すれば、上記不純物はある程度までは除去可能である。しかし、一般的に孔径が小さくなるほど、濾過における圧力損失が大きくなり、また透過流束が減少してしまう。そこで、極めて小さい不純物を十分に濾過でき、なおかつ圧力損失が少ない濾材が求められている。また、上記プロセスでは多種多様な薬品及び有機溶剤を使用するため、濾材には耐薬品性が必要となる。一部のフィルターは、処理気液が有機溶媒である場合、腐食性を有する場合があり、また高温環境下で使用される場合もある。このような場合、フィルターには耐薬品性、化学的安定性、耐熱性等が要求される場合が多い。現在、微小な不純物等の除去が可能で、かつ耐薬品性を持つ濾材として、ポリエチレン多孔膜又はポリテトラフルオロエチレン多孔膜が用いられている。しかし、ポリエチレン多孔膜は耐熱性が低いという問題がある。また、ポリテトラフルオロエチレン多孔膜は非常に高価であり、微小な不純物を除去できる孔径を持った濾材を作りにくいという問題がある。
【0003】
一方、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサ等における、陽極と陰極との接触を防止するための構成部材であるセパレータとしても、多孔膜が用いられている。近年、前記セパレータに対して、安全性及び製品寿命の観点から、耐熱性及び絶縁性の要求が高まっている。現在使用されているリチウムイオン二次電池のセパレータとしては、主にポリエチレン製又はポリプロピレン製の多孔膜が使用されている。しかしポリエチレン及びポリプロピレンは耐熱性に乏しいために、これらの樹脂を用いたセパレータが高温下で溶融軟化して収縮し、陽極と陰極とが接触してショートする危険性が考えられる。電気二重層キャパシタ、及び電解コンデンサにおいては、セルロース素材の紙が主に使用されているが、耐高温用に開発されている、γ-ブチロラクトン等の溶媒に1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸等のイオン液体が電解質として溶解している電解液によって、高温下でセルロースが分解又は溶解してしまうために、製品の寿命が短いという問題がある。
【0004】
ところで、ポリケトンは、その高い結晶性により、繊維又はフィルムとしたときに、高力学物性、高融点、耐有機溶媒性及び耐薬品性等の特性を有する。従って、ポリケトンを加工して多孔膜とすることで得られるポリケトン多孔膜も、耐熱性と耐薬品性とを持つ。更に、ポリケトンは水及び各種有機溶媒との親和性があること、また原料の一酸化炭素及びエチレンは比較的安価であり、ポリケトンのポリマー価格が安くなる可能性があることから、孔径の小さいポリケトン多孔膜は濾材として産業上の活用が期待できる。
【0005】
多孔質膜の製法として、熱誘起相分離法が知られている。この製法では熱可塑性樹脂と有機液体を用いる。有機液体として、該熱可塑性樹脂を室温では溶解しないが、高温では溶解する溶剤、すなわち潜在的溶剤を用いる。熱誘起相分離法は、熱可塑性樹脂と有機液体を高温で混練し、熱可塑性樹脂を有機液体に溶解させた後、室温まで冷却することで相分離を誘発させ、更に有機液体を除去して多孔体を製造する方法である。この方法は以下の利点を持つ。
(a)室温で溶解できる適当な溶剤のないポリエチレン等のポリマーでも製膜が可能になる。
(b)高温で溶解したのち冷却固化させて製膜するので、特に熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合、製膜時に結晶化が促進され高強度膜が得られやすい。
【0006】
上記の利点から、多孔性膜の製造方法として多用されている(例えば非特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国特許第101984059号
【特許文献2】特開2022-133095号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】プラスチック・機能性高分子材料事典編集委員会、「プラスチック・機能性高分子材料事典」、産業調査会、2004年2月、672-679頁
【非特許文献2】松山秀人、「熱誘起相分離法(TIPS法)による高分子系多孔膜の作製」、ケミカル・エンジニアリング誌、化学工業社、1998年6月号、45-56頁
【非特許文献3】滝澤章、「膜」、アイピーシー社、平成4年1月、404-406頁
【非特許文献4】D.R.Lloyd,et.al., 「Jounal of Membrane Science」、64、1991年、1-11頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、特許文献1(韓国特許第101984059号)によりポリケトンを用いて熱誘起相分離法により多孔質膜を製膜することは公知であった。しかし、ポリケトン製の多孔質膜であるが、表面の開孔率が高くすることで高い濾過性能を発現する多孔質膜を得ることはできていなかった。また特許文献2(特開2022-133095号公報)より非溶媒誘起相分離法にて極度にポリマー濃度を下げることにより膜の強度を犠牲にして一方の表面の開孔率を高めることはできていた。しかし、高強度でかつ膜の両表面の開孔率を高めることはできていなかった。
【0010】
本発明は、高い有機溶剤耐性を有するポリケトンを用いて、高い濾過性能と高強度を有する多孔質膜を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]一方の表面の開孔率が15%以上であり、破断強度が1.0MPa以上でり、オレフィンと一酸化炭素との共重合により形成された構造を有するポリケトンを加工することによって得られる、もしくはオレフィンと一酸化炭素との共重合により形成された構造を有するポリケトンを含む、多孔質膜。
[2]
他方の表面に15%以上の開孔率である部分が存在する、[1]に記載の多孔質膜。
[3]
前記一方の表面の開孔率が20%以上である、[1]又は[2]に記載の多孔質膜。
[4]
破断強度が8.0MPa以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質膜。
[5]
前記一方の表面の孔径が1μm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の多孔質膜。
[6]
純水透水量が300LMH以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の多孔質膜。
[7]
前記多孔質膜が三次元網目構造を有する、[1]~[6]のいずれかに記載の多孔質膜。
[8]
前記多孔質膜が中空糸状である、[1]~[7]のいずれかに記載の多孔質膜。
[9]
一方の表面が中空糸状多孔質膜の内表面であり、他方の表面が中空糸状多孔質膜の外表面である、[8]に記載の多孔質膜。
[10]
オレフィンと一酸化炭素の共重合により形成された構造を有するポリケトンと、有機液体と、無機微粉とを溶融混練する工程、溶融混練物を二重円環状のノズルから吐出し、吐出された溶融混練物を冷却固化することによって中空糸状物を成型する工程、及び中空糸状物を成型した後、前記中空糸状物から前記有機液体と無機微粉を抽出除去することによって中空糸状多孔質膜を得る工程を含む、熱誘起相分離法による多孔質膜の製造方法。
[11]
前記溶融混練工程での溶融温度が、前記ポリケトンと有機液体の溶解開始温度以上前記溶解開始温度+50℃以下である、[10]に記載の多孔質膜の製造方法。
[12]
前記溶融混練工程での溶融温度が、前記ポリケトンと有機液体の二層分離開始温度以上前記二層分離開始温度+50℃以下である、[10]に記載の多孔質膜の製造方法。
[13]
少なくとも1つの溶融混練工程での溶融時間が30分以内である、[10]~[12]のいずれか記載の多孔質膜の製造方法。
[14]
少なくとも1つの溶融混練工程での溶融時間が3分以上30分以下である、[13]に記載の多孔質膜の製造方法。
[15]
前記有機液体が、フタル酸エステル、セバシン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、クエン酸エステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、オレイン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、炭素数6以上30以下の脂肪酸、およびエポキシ化植物油から選ばれる少なくとも1種である、[10]~[12]のいずれか記載の多孔質膜の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔質膜の製造方法によれば、高い耐有機溶媒性及び耐薬品性を有するポリケトン製で高濾過性能かつ高強度の多孔質膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】三次元網目構造の模式図である。
図2】中空糸状多孔質膜を製造する装置の一例の概略図である。
図3】実施例1で製造した中空糸状多孔質膜の内表面の電子顕微鏡写真である。
図4】実施例1で製造した中空糸状多孔質膜の断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
以下、本実施形態の製造方法で得られる多孔質膜について説明する。
【0016】
本実施形態の製造方法で得られる多孔質膜は、熱可塑性樹脂を含む。上記多孔質膜は、熱可塑性樹脂のみからなっていてもよいし、さらに他の成分を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の多孔膜中のポリケトンとしては、種々の液体、特に水に対する親和性が高く、オイルに対する耐久性が高いものであることが好ましく、下記式(1):
【化1】
{式(1)中、複数あるRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、又は炭素数1~4のアルキル基を有するアルコキシカルボニル基であり、複数のRが互いに結合して脂環を形成していてもよい。}で表される構造の繰り返し単位を含むポリケトンを用いてもよい。
【0018】
このようなポリケトンは、オレフィンと一酸化炭素との共重合により形成された構造を有するポリケトン(即ち、オレフィンと一酸化炭素との共重合体又はそれと同じ構造を有するポリマー)であることが好ましい。ポリケトンの合成において、一酸化炭素と共重合させるオレフィンとしては、目的に応じて任意の種類の化合物を選択できる。オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、デセン等の鎖状オレフィン;スチレン、α-メチルスチレン等のアルケニル芳香族化合物;シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチルノルボルネン、テトラシクロドデセン、トリシクロデセン、ペンタシクロペンタデセン、ペンタシクロヘキサデセン等の環状オレフィン;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化アルケン;エチルアクリレート、メチルメタクリレート等のアクリル酸エステル;酢酸ビニル等が挙げられる。強度を確保する点からは、共重合させるオレフィンの種類は、1~3種類であることが好ましく、1~2種類であることがより好ましい。
【0019】
本発明は、下記の一般式(2)と(3)で表される繰り返し単位からなるポリケトン三元系共重合体を用いてもよい。
-(CHCH-CO)- (2)
-(CHCH(CH)-CO)- (3)
(x、yは、ポリマー中の一般式(2)及び(3)それぞれのモル%)
yは強度を維持するため好ましくは30モル%以下であり、より好ましくは20モル%以下である。
【0020】
ポリケトンについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は、5,000以上5,000,000以下であることが好ましく、10,000以上1,000,000以下であることがより好ましく、50,000以上750,000以下であることが更に好ましく、特に好ましくは100,000以上500,000以下である。
【0021】
ポリケトンは、例えば、パラジウム、ニッケル等を触媒として用いて、一酸化炭素とオレフィンとを重合させることにより得ることができる。
本実施形態の多孔質膜は該ポリケトンを加工することによって得られる、もしくはポリケトンを主成分として含むことを特徴とする多孔質膜である。ここで、「主成分として含む」とは、高分子成分の固形分換算で50質量%以上含むことを意味する。上記高分子成分は、一種のみであってもよいし、同一高分子成分で複数の分子量の組み合わせであってもよい。
【0022】
上記多孔質膜の形態として、例えば、中空糸状膜の膜構造を有する形態とすることができる。上記多孔質膜は中空糸状多孔質膜であることが好ましい。ここで、中空糸状膜とは、中空環状の形態をもつ膜を意味する。多孔質膜が中空糸状膜の膜構造を有することにより、平面状の膜に比べて、モジュール単位体積当たりの膜面積を大きくすることが可能である。
但し、上記多孔質膜は、中空糸状膜の膜構造を有する多孔質膜(中空糸状の多孔質膜)に限定されるものではなく、平膜、管状膜などの他の膜構造を有するものであってもよい。
また本実施形態において一方の表面と他方の表面は任意に決めて良く、例えば一方の表面を中空糸状膜の内表面とした場合は、他方の表面は外表面である。
多孔質膜は、例えば、後述の実施例で測定される純水透水量が300LMH(L/m/hr)以上が好ましく、さらに好ましくは400LMH以上である。
【0023】
上記多孔質膜は、中空糸状膜であり熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、中空糸状膜であり熱可塑性樹脂のみからなっていてもよい。
【0024】
上記多孔質膜(好ましくは中空糸状多孔質膜)は、三次元網目構造を有することが好ましい。本明細書において三次元網目構造とは、模式的には図1で表したような構造を指す。例えば、熱可塑性樹脂aが接合して網目を形成し、空隙部bが形成されている。三次元網目構造では、いわゆる球晶構造の樹脂の塊状物がほとんど見られない。三次元網目構造の空隙部bは、熱可塑性樹脂aに囲まれており、空隙部bの各部分は互いに連通していることが好ましい。用いられた熱可塑性樹脂のほとんどが、多孔質膜(好ましくは中空糸状多孔質膜)の強度に寄与しうる三次元網目構造を形成しているので、高い強度の支持層を形成することが可能になる。また、耐薬品性も向上する。耐薬品性が向上する理由は明確ではないが、強度に寄与しうる網目を形成する熱可塑性樹脂の量が多いため、網目の一部が薬品に侵されても、層全体としての強度には大きな影響が及ばないためではないかと考えられる。
【0025】
上記多孔質膜(好ましくは、中空糸状多孔質膜)は、単層構造でもよいし、二層以上の多層構造であってもよい。被濾過液側表面を有する層を層(A)とし、濾過液側表面を有する層を層(B)とする。
例えば、層(A)を、いわゆる阻止層とし、小さい表面孔径により被処理液(原水)中に含まれる異物の膜透過を阻止する機能を発揮させ、層(B)をいわゆる支持層とし、この支持層は高い機械的強度を担保すると共に、透水性をできるだけ低下させない機能を有するというような機能分担にしてよい。層(A)と層(B)の機能の分担は上記に限定されるものではない。上記多孔質膜は、一方の表面のみが被濾過液側表面であってよい。
【0026】
以下は、層(A)を阻止層とし、層(B)を支持層とした二層構造の場合について説明する。
層(A)の厚みは、全膜厚の1/100以上40/100未満とすることが好ましい。このように層(A)の厚みを比較的厚くすることで、原水に砂や凝集物等の不溶物が含まれていても使用可能となる。多少磨耗しても、表面孔径が変化しないからである。この厚みの範囲内であれば、望ましい阻止性能と高い透水性能のバランスがとれる。より好ましくは膜厚の2/100以上30/100以下である。層(A)の厚さは1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上80μm以下がさらに好ましい。
【0027】
本実施形態の多孔質膜は一方の表面の開孔率が15%以上であり、20%以上であることが好ましい。一方の表面の開孔率が15%以上であると高い濾過性能を有することができる。一方の表面の開孔率が高いと、膜内部への閉塞物に対する孔1個当たりの膜汚れの負荷量が小さく、完全に閉塞される孔が少ないため長時間高い濾過性能を発現できると推定している。本実施形態の多孔質膜が中空糸状多孔質膜である場合、前記一方の表面は、中空糸状多孔質膜の内表面であることが好ましい。
【0028】
また本実施形態の多孔質膜は他方の表面の開孔率が15%以上である部分が存在することが好ましい。開孔率15%以上である部分が存在することにより表面が完全に閉塞されることが少なく高い濾過性能を有することができると推定している。本実施形態の多孔質膜が中空糸状多孔質膜である場合、前記他方の表面は、中空糸状多孔質膜の外表面であることが好ましい。
【0029】
本実施形態の多孔質膜は前記一方の表面の孔径が1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。前記一方の表面孔径が1.0μm以下であると多孔質膜として十分な阻止性能を有することができる。
【0030】
本実施形態の多孔質膜の破断強度は1.0MPa以上であり、好ましくは3.0MPa以上であり、より好ましくは8.0MPa以上である。破断強度が1.0MPa以上であれば多孔質膜として十分な強度を有する。
【0031】
本実施形態の多孔質膜(好ましくは中空糸状多孔質膜)の製造方法は、ペレット又は粒状の熱可塑性樹脂を破砕及び/又は粉砕により、粒子径分散度V=(D90-D10)/D50と定義した際の粒子径分散度VがV≧0.8となるように粒径調整した粒子を用いる方法である。本実施形態の多孔質膜の製造方法は、上記粒子及び有機液状体からなる混合物、又は上記粒子、有機液状体及び無機微粉体からなる混合物を、溶融混練し押し出した後、有機液状体又は有機液状体及び無機微粉体を抽出してペレット又は粒状の熱可塑性樹脂を得たのちに、上記ペレット又は粒状の熱可塑性樹脂を破砕及び/又は粉砕により粒子径分散度V=(D90-D10)/D50と定義した際の粒子径分散度VがV≧0.8となるように粒径調整した粒子から多孔質膜を作製する方法であることがより好ましい。
本明細書において、上記混合物を溶融混錬したものを溶融混錬物という。
【0032】
本実施形態の多孔質膜の製造方法は、熱可塑性樹脂、有機液状体及び無機微粉体を溶融混練する工程、熱可塑性樹脂、有機液状体及び無機微粉体を含む溶融混練物を、円環状(例、二重円環状)吐出口を有する紡糸口金(ノズル)から吐出して中空糸状溶融混練物を成形する工程と、中空糸状溶融混練物を凝固(例、冷却固化)することによって中空糸状物を成型する工程、及び中空糸状物を成型した後、前記中空糸状物から有機液体及び無機微粉体を抽出除去して多孔質膜(好ましくは中空糸状多孔質膜)を作製する工程を備える方法が好ましい。溶融混練物は、熱可塑性樹脂及び溶媒の二成分からなるものでもよく、熱可塑性樹脂、無機微粉体及び溶媒の三成分からなるものであってもよい。
【0033】
本実施形態の多孔質膜(好ましくは中空糸状多孔質膜)の製造方法において用いられる熱可塑性樹脂は、常温では弾性を有し塑性を示さないが、適当な加熱により塑性を現し、成形が可能になる樹脂である。また、熱可塑性樹脂は、冷却して温度が下がると再びもとの弾性体に戻り、その間に分子構造など化学変化を生じない樹脂である(たとえば「化学大辞典編集委員会編集、化学大辞典6縮刷版、共立出版、第860頁及び867頁、1963年」参照)。
【0034】
本実施形態における熱可塑性樹脂は上述のようなポリケトンが好ましい。
【0035】
溶融混練物における熱可塑性樹脂の質量割合は20質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以上45質量%以下である。20質量%以上であれば、機械的強度、開孔率を担保しやすく、50質量%以下であれば、透水性能の低下が生じない。
【0036】
また、多孔質膜が二層構造の膜である場合、層(B)の溶融混錬物における熱可塑性樹脂の質量割合は、20質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以上45質量%以下である。
層(A)の溶融混錬物における熱可塑性樹脂の質量割合は、5質量%以上35質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以上35質量%未満である。5質量%以上であれば、表面の孔径と機械的強度を両立することができ、35質量%以下であれば、透水性能の低下が生じない。
【0037】
有機液状体は、本実施形態で用いる熱可塑性樹脂に対し、潜在的溶剤となるものを用いる。本実施形態では、潜在的溶剤とは、該熱可塑性樹脂を室温(25℃)ではほとんど溶解しないが、室温よりも高い温度では該熱可塑性樹脂を溶解できる溶剤を言う。熱可塑性樹脂との溶融混練温度にて液状であればよく、必ずしも常温で液体である必要はない。
【0038】
有機液状体の例として、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)等のフタル酸エステル類;セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル類;アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル類;トリメリット酸トリオクチル等のトリメリット酸エステル類;メチルベンゾエイト、エチルベンゾエイト等の安息香酸エステル類;リン酸トリフェニル、リン酸トリブチル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル類;プロピレングリコールジカプレート、プロピレングリコールジオレエート等のグリセリンエステル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類、流動パラフィン等のパラフィン類;γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;およびこれらの混合物等を挙げることができる。
【0039】
上記溶融混練物中に占める有機液状体の質量割合は、10質量%以上70質量%以下が好ましく、より好ましくは20質量%以上60質量%以下である。有機液状体の質量割合が10質量%以上であれば、熱可塑性樹脂を安定的に溶解でき、70質量%以下であれば、多孔質膜の紡糸に十分な粘度を有するため安定的に製造することができる。
【0040】
無機微粉体としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニア、炭酸カルシウム等が挙げられ、シリカが好ましい。
無機微粉体の平均一次粒子径は、3nm以上500nm以下であることが好ましく、より好ましくは5nm以上100nm以下である。中でも、平均一次粒子径が3nm以上500nm以下である微粉シリカが好ましい。
凝集しにくく分散性の良い疎水性シリカ微粉がより好ましく、さらに好ましくはMW(メタノールウェッタビリティ)値が30容量%以上である疎水性シリカである。
ここでいうMW値とは、粉体が完全に濡れるメタノールの容量%の値である。具体的には、純水中にシリカを入れ、攪拌した状態で液面下にメタノールを添加していった時に、シリカの50質量%が沈降した時の水溶液中におけるメタノールの容量%を求めて決定される。
上述の「無機微粉体の平均一次粒子径」は電子顕微鏡写真の解析から求めた値を意味する。すなわち、まず無機微粉体の一群をASTM D3849の方法によって前処理を行う。その後、透過型電子顕微鏡写真に写された3000~5000個の粒子直径を測定し、これらの値を算術平均することで無機微粉体の平均一次粒子径を算出する。
【0041】
上記溶融混練物中に占める無機微粉体の質量割合は、5質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。無機微粉体の質量割合が5質量%以上であれば、無機微粉体混練による効果が十分に発現でき、40質量%以下であれば、安定に紡糸できる。
【0042】
ポリケトン等の熱可塑性樹脂及び有機液状体からなる混合物、又はポリケトン等の熱可塑性樹脂、有機液状体及び無機微粉体からなる混合物は、ヘンシェルミキサーやバンバリーミキサー、プロシェアミキサー等を用いて混合することにより得られる。
ポリケトン等の熱可塑性樹脂、有機液状体及び無機微粉体の3成分を混合する場合の順序としては、3成分を同時に混合するよりも、まず無機微粉体と有機液状体を混合して無機微粉体に有機液状体を十分に吸着させ、次いでポリケトン等の熱可塑性樹脂を配合して混合することが、溶融成形性や得られる多孔膜の空孔率及び機械的強度の向上の点で有利である。
ヘンシェルミキサー等による予備混練を行わずに、直接ポリケトン等の熱可塑性樹脂及び有機液状体を別々に2軸押出し機等の溶融混練押出し装置に供給しても良い。混練性を上げるために、混合後に一度溶融混練を行ってペレット化し、このペレットを溶融混練押出し装置に供給し、中空糸状に押し出し成形し、冷却固化して中空繊維としても良い。
【0043】
混合物の溶融混練は、通常の溶融混練手段、例えば押出機を用いて行うことができる。以下に押出機を用いた場合について述べるが、溶融混練の手段は押出機に限るものではない。本実施形態の製造方法を実施するために用いられる製造装置の一例を図2に示す。
【0044】
図2に示す中空糸状多孔質膜の製造装置は、押出機10と、中空糸成形用ノズル20と、製膜原液を凝固させる溶液が貯留される凝固浴槽30と、中空糸状多孔質膜40を搬送して巻き取るための複数のローラ50を備えている。図2に示すSの空間は、中空糸成形用ノズル20から吐出された成膜原液が凝固浴槽30中の溶液に到達するまでに通過する空走部である。
【0045】
溶融混練物は、同心円状に配置された1つ以上の円環状(例、二重円環状)吐出口を有する中空糸成形用ノズル20が押出機10の先端に装着され、溶融混錬物が押出機10によって押し出されて中空糸成形用ノズル20から吐出される。多層構造の膜を製造する場合、2つ以上の円環状吐出口を有する中空糸成形用ノズル20を押出機10の先端に装着し、それぞれの円環状吐出口にはそれぞれ異なる押出機10より溶融混練物を供給して押出しする方法や、多層中の一層を製造した後、残りの層を塗布する方法がある。例えば、前者の異なる押出機を使用して製造する方法は、各々供給される溶融混練物を吐出口で合流させ重ね合わせることで、多層構造を有する中空糸状押出物を得ることができる。このとき、互いに隣り合う円環状吐出口から組成の異なる溶融混練物を押出すことで、互いに隣り合う層の孔径が異なる多層膜を得ることができる。互いに異なる組成とは、溶融混練物の構成物質が異なる場合、または、構成物質が同じでも構成比率が異なる場合を指す。同種の熱可塑性樹脂であっても、分子量や分子量分布が明確に異なる場合は、構成物質が異なるとみなす。互いに異なる組成の溶融混練物の合流位置は、中空糸成形用ノズル20下端面であっても、中空糸成形用ノズル20の下端面とは異なっていてもよい。
【0046】
円環状吐出口から溶融混練物を押出す際には、紡口吐出パラメータR(1/秒)が10以上1000以下の値になるように吐出すると、高い生産性と紡糸安定性さらに高強度の膜が得られるため、好ましい。ここで紡口吐出パラメータRとは、吐出線速V(m/秒)を、吐出口のスリット幅d(m)で除した値である。吐出線速V(m/秒)は、溶融混練物の時間当たりの吐出容量(m/秒)を吐出口の断面積(m)で除した値である。Rが10以上であれば、中空状押出し物の糸径が脈動する等の問題が無く、生産性良く安定に紡糸できる。またRが1000以下であれば、得られる中空糸状多孔質膜の重要な強度の一つである破断伸度が十分に高く維持できる。破断伸度とは、膜長手方向に引っ張った時の元の長さに対する伸び率のことである。
多層構造の中空糸状多孔質膜である場合は、樹脂が合流後の積層された溶融混練物の吐出線速Vを吐出口のスリット幅dで除した値を紡口吐出パラメータRの範囲は、より好ましくは50以上1000以下である。
【0047】
吐出口から吐出された中空糸状溶融混練物は、空気や水等の冷媒を通過して凝固させるが、目的とする中空糸状多孔質膜によって、空気層からなる上述した空走部Sを通過させたのちに、水等が入った凝固浴槽30を通過させる。すなわち空走部Sとは、中空糸成形用ノズル20の吐出口から凝固浴槽30の水面までの部分である。吐出口から必要に応じて空走部Sには筒等の容器を用いても良い。凝固浴槽30を通過後、必要に応じてかせ等に巻き取られる。
【0048】
上記押出機10に投入する熱可塑性樹脂は、粉状のポリマーでもよくペレット又は粒状の熱可塑性樹脂を破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子でもよい。熱可塑性樹脂としてペレット又は粒状の熱可塑性樹脂を破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子を用いた場合、高い濾過性能を有し、膜性能のばらつきが小さい多孔質膜を製造することができる。
ペレット・粒状の熱可塑性樹脂を破砕及び/又は粉砕する手段としては、ペレットを粗粉砕しその後微粉砕する多段粉砕方式や、微細化まで一段で行う方式等があるが、その方式は限定されるものではない。微粉砕機によっても、粉砕後の粒子が所定の粒径に達しない場合は、更なる微粉砕が可能な超微粉砕機により粉砕してよい。具体的な粉砕手段としては、ハンマーミル、ターボミル、ジェットミル、ピンミル、遠心ミル、ロートプレックス、パルベルイザー、湿式粉砕、チョッパーミル、ウルトラローター等を用いる粉砕手段が挙げられ、常温あるいは凍結粉砕方式を用いることができる。例えば、ガラス転移点が約-35℃と低いフッ化ビニリデン系樹脂は凍結粉砕方式をとることが好適である。
【0049】
所定の粒径範囲の粒子を得るために適切な分級機を使用して分級が行われる。分級後の粒子から所定粒径範囲のものを得る場合は、さらに別の分級機で分級した後、所定粒径以下の微細粉を除去し、残った粒子(中粉)を製品としてもよい。分級し、目的とする粒子径範囲より大きい範囲の粒子は再度、粉砕して所定粒子径範囲のものを得ることもできる。分級に用いられる装置として、振動篩機や慣性気流式分級機、回転羽根式分級機などがあり特に限定されるものではない。
【0050】
また2種類のポリマー混合させる場合は、各ポリマーを粉砕してから、混合機を用いて混合して用いてもよい。分級は粉砕後に実施もしくは混合後に分級してもよく特に限定されるものではない。
【0051】
粉砕後の粒子の粒子径分布は、レーザー回折、散乱式粒度分布測定装置を使用して測定することができる。
【0052】
破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子は、粒子径分布から得られる体積基準のメディアン径(D50粒子径)が、50~500μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは70~400μmである。50μm以上であれば、例えば押出機等で溶融混練する際に投入時にスクリューへの噛み込み不良などが発生せず安定して投入することができる。500μm以下であれば、溶解不良などが発生せず安定して多孔質膜を製造することができる。
本明細書において、D10粒子径、D50粒子径、D90粒子径は、レーザー回折式粒子径サイズ測定装置を使用することにより測定される値をいう。
【0053】
同様に粒子径分布からD10粒子径、D90粒子径が得られる。得られたD10、D50、D90粒子径から粒子径分散度V=(D90-D10)/D50と定義した場合に、破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子のVが、0.8以上であることが好ましい。より好ましくは1.3以上である。
凝固後の中空糸状物中には、ポリマー濃厚部分相と有機液状体濃厚部分相とが微細に分かれて存在する。なお、例えば、無機微粉体を添加した場合に、その無機微粉体が微粉シリカである場合、微粉シリカは有機液状体濃厚部分相に偏在する。この中空糸状物から有機液状体と無機微粉体を抽出除去することで、有機液状体濃厚部分相が空孔となる。よって中空糸状多孔質膜を得ることができる。
粒子径分散度が大きい方が熱可塑性樹脂の粒子が、凝集した無機微粉体間や無機微粉体と無機微粉体の間に入り込むことで、多孔質膜のポリマー部と空孔部を形成する熱可塑性樹脂と無機微粉体の混合性が向上し、より均一な多孔質膜の構造を得ることができ膜性能のばらつきを低減することができる。多孔質膜の均一性は膜性能のばらつきにより評価することができる。
【0054】
破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子のD50粒子径と無機微粉体の一次粒子径の比(粒子のD50粒子径(nm)/無機微粉体の一次粒子径(nm))は3200以上35000以下であることが好ましく、より好ましくは5000~33000である。3200以上であれば、ポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂、有機液状体及び無機微粉体の3成分を混合して押出機に投入した場合に、押出機の温度が安定する時間が早くなる。混合後は、ポリマー壁面にシリカが付着すると想定されるが、3200以上であれば、ポリマー壁面がシリカで覆われず露出される面が大きくなるため熱がポリマーへの熱が伝わりやすくなり温度の安定が早くなると推定される。特に、理由はないが35000以下であれば安定的に混合することができる。
【0055】
本実施形態の多孔質膜において、溶融時間を30分以下にすることが好ましい。溶融時間とは原料を溶融混練機に投入し、中空糸成型用ノズルで吐出するまでの時間である。溶融時間とはすなわち溶融混練機等における滞留時間とも言いかえることが可能である。溶融時間が30分以下であれば、一方の表面と他方の表面の両表面の開孔率を高くすることができる。無機微粉が表面に存在することにより開孔率を高くすることができるのは、樹脂内部から表面付近へ無機微粉が移動することによる。無機微粉の表面への移動は特に線速が早い樹脂吐出直前の中空糸成形用ノズル内で発生する。溶融時間が30分以下であれば、樹脂が熱劣化せず樹脂の流動性が維持できるため、樹脂吐出直前の中空糸成形用ノズル内において無機微粉が移動することができ両表面の開孔率を高くすることできる。また熱劣化による強度低下も発生しない。
また、溶融時間を好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上にすれば未溶融物の発生なく安定的に樹脂を吐出することができ、分子内架橋が進むことによるものと推定される破断強度の向上も観察される。
【0056】
溶融時間の制御方法としては、吐出量や溶融混練機の条件、溶融混練機以降のヘッド、ノズルの流路を変更することにより滞留時間を変更することができる。溶融混練機が2段以上になる場合は、溶融時間の総和が本願における溶融時間である。
【0057】
溶融混練機内の溶融時間は、例えばカーボンブラックなどの溶融混練物などと異なる色の添加剤添加し、投入から異なる色の混練物が吐出されるまでの時間により計測することができる。
【0058】
溶融混練機の温度は、二層分離開始温度以上二層分離開始温度+50℃以下、もしくは溶解開始温度以上溶解開始温度+50℃以下が好ましい。二層分離開始温度とは熱可塑剤樹脂と有機液体を混合した場合に溶解せず懸濁状態から二層に分離する温度である。見かけ上、二層に分離した場合でも、熱可塑性樹脂と有機液体の混合物が入った容器を振盪させた場合に懸濁状態に戻る場合は本願では二層分離開始にあたらない。本実施例でのポリケトンとDBPでは200℃であった。通常、熱可塑性樹脂と有機液体の混合系では二層に分離する場合は溶融混練機から吐出することが困難であるが、無機微粉を添加することにより有機液体を吸油させることでポリマーの流動性を維持でき、さらに二層分離開始温度以上50℃以内で吐出することにより高性能かつ安定した製造が可能になる。
また溶解開始温度とは昇温した際に溶解する温度である。例えば溶解とは屈折率等を用いた場合に、混合液のどの部分を測定しても同じ屈折率を示すのが溶解している状態である。溶融混練機の温度が二層分離開始温度以上二層分離開始温度+50℃以下、もしくは溶解開始温度以上溶解開始温度+50℃以下であれば安定的に樹脂を吐出することができる。溶融混練機の温度が二層分離開始温度+50℃超、もしくは溶解開始温度+50℃超であると熱劣化による樹脂の吐出不良が生じる。
【0059】
有機液状体の抽出除去および無機微粉体の抽出除去は、同じ溶剤にて抽出除去できる場合であれば同時に行うことができる。通常は別々に抽出除去する。
【0060】
有機液状体の抽出除去は、用いた熱可塑性樹脂を溶解あるいは変性させずに有機液状体とは混和する、抽出に適した液体を用いる。具体的には浸漬等の手法により接触させることで行うことができる。該液体は、抽出後に中空糸状膜から除去しやすいように、揮発性であることが好ましい。該液体の例としては、アルコール類や塩化メチレン等がある。有機液状体が水溶性であれば水も抽出用液体として使うことが可能である。
【0061】
無機微粉体の抽出除去は、通常、水系の液体を用いて行う。例えば無機微粉体がシリカである場合、まずアルカリ性溶液と接触させてシリカをケイ酸塩に転化させ、次いで水と接触させてケイ酸塩を抽出除去することで行うことができる。
【0062】
有機液状体の抽出除去と無機微粉体の抽出除去とは、どちらが先でも差し支えはない。有機液状体が水と非混和性の場合は、先に有機液状体の抽出除去を行い、その後に無機微粉体の抽出除去を行う方が好ましい。通常有機液状体および無機微粉体は有機液状体濃厚部分相に混和共存しているため、無機微粉体の抽出除去をスムーズに進めることができ、有利である。
【0063】
このように、凝固した中空糸状多孔質膜から有機液状体や無機微粉体を抽出除去することにより、中空糸状多孔質膜を得ることができる。
なお、凝固後の中空糸状膜に対し、(i)有機液状体および無機微粉体の抽出除去前、(ii)有機液状体の抽出除去後で無機微粉体の抽出除去前、(iii)無機微粉体の抽出除去後で有機液状体の抽出除去前、(iv)有機液体および無機微粉体の抽出除去後、のいずれかの段階で、中空糸状多孔質膜の長手方向への延伸を、延伸倍率3倍以内の範囲で行うことができる。一般に中空糸状膜を長手方向に延伸すると透水性能は向上するが、耐圧性能(例えば、破裂強度および耐圧縮強度)が低下するため、延伸後は実用的な強度の膜にならない場合が多い。しかしながら、本実施形態の製造方法で得られる多孔質膜(例えば、中空糸状多孔質膜)は機械的強度が高い。よって延伸倍率1.1倍以上3.0倍以内の延伸は実施可能である。延伸により、多孔質膜(例えば、中空糸状多孔質膜)の透水性能が向上する。ここで言う延伸倍率とは、延伸後の中空糸長を延伸前の中空糸長で割った値を指す。例えば、中空糸長10cmの中空糸状多孔質膜を、延伸して中空糸長を20cmまで伸ばした場合、下記式より、延伸倍率は2倍である。
20cm÷10cm=2
【0064】
延伸は、空間温度0℃以上160℃以下で行うことが好ましい。160℃より高い場合には延伸斑が大きいうえに破断伸度の低下及び透水性能が低くなり好ましくなく、0℃未満では延伸破断の可能性が高く実用的でない。延伸工程中の空間温度を10℃以上140℃以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは20℃以上100℃以下である。
【0065】
本実施形態においては、有機液状体を含んだ中空糸状膜を延伸することが好ましい。有機液状体を含んだ中空糸状膜の方が、有機液状体を含んでいない中空糸状膜よりも、延伸時の破断が少ない。更に、有機液状体を含んだ中空糸状膜の方が、延伸後の中空糸状膜の収縮を大きくさせることができるため、延伸後の収縮率設定の自由度が増す。
【0066】
また、無機微粉体を含んだ中空糸状膜を延伸することが好ましい。無機微粉体を含んだ中空糸状膜の方が、中空糸状膜に含まれる無機微粉体の存在による中空糸状膜の硬さのために、延伸する際において中空糸状膜が扁平につぶれにくくなる。また、最終的に得られる中空糸状膜の孔径が小さくなりすぎたり、糸径が細くなりすぎたりすることを防止することもできる。
本実施形態においては、有機液状体及び無機微粉体の両方を含む中空糸状膜を延伸することがより好ましい。
【0067】
上述の理由により、抽出終了後に中空糸状膜を延伸するよりも、有機液状体又は無機微粉体のいずれか一方を含んだ中空糸状膜を延伸する方が好ましく、更に、有機液状体又は無機微粉体のいずれか一方を含んだ中空糸状膜を延伸するよりも、有機液状体及び無機微粉体の両方を含んだ中空糸状膜を延伸することがより好ましい。
【0068】
また、延伸した中空糸状膜を抽出する方法は、延伸により中空糸状膜の表面及び内部に空隙が増加しているため、抽出溶剤が中空糸状膜内部に浸透し易いという利点がある。また、延伸し、次いで収縮させる工程の後に抽出を行う方法は、後述のように、引っ張り弾性率の低い、曲がり易い中空糸状膜となるために、抽出を液流中で行う場合には、中空糸状膜が液流により揺れ易くなり、攪拌効果が増すために短時間で効率の高い抽出が可能となるという利点を有する。
【0069】
本実施形態では、中空糸状膜を延伸し、次いで収縮させる工程を有する場合、最終的に引っ張り弾性率の低い中空糸状膜を得ることができる。ここで、「引っ張り弾性率が低い」とは、糸が小さな力で伸びやすく、力がなくなればまた元に戻ることを意味する。引っ張り弾性率が低いと、中空糸状膜が扁平につぶれることなく、曲がりやすく、濾過の際に水流で揺れやすい。水流に従って糸の曲がりが一定せずに揺れることで、膜表面に付着堆積する汚染物質の層が成長せずに剥がれやすく、濾過水量を高く維持できる。更にはフラッシングやエアースクラビングで強制的に糸を揺らす場合に、揺れが大きく洗浄回復効果が高くなる。
【0070】
延伸した後に収縮を行う際の糸長収縮の程度については、延伸による糸長増分に対する糸長収縮率を0.3以上0.9以下の範囲とすることが好ましい。例えば、10cmの糸を延伸して20cmにし、その後14cmにさせた時は、以下の式より、糸長収縮率は0.6となる。
糸長収縮率={(延伸時最大糸長)-(収縮後糸長)}/[(延伸時最大糸長)-(元糸長)]=(20-14)/(20-10)=0.6
糸長収縮率が0.9超の場合は透水性能が低くなり易く、0.3未満の場合は引っ張り弾性率が高くなり易いため好ましくない。本実施形態においては、糸長収縮率が0.50以上0.85以下の範囲内であることがより好ましい。
【0071】
また、中空糸状膜を延伸時最大糸長まで延伸し、次いで収縮させる工程を採ることにより、最終的に得られる中空糸状膜は使用中に延伸時最大糸長まで伸ばした際にも切れることがなくなる。
ここで、延伸倍率をX、延伸による糸長増分に対する糸長収縮率をYとしたとき、破断伸度の保障の程度を表す率Zは、以下の式で定義できる。
Z=(延伸時最大糸長-収縮後糸長)/収縮後糸長=(XY-Y)/(X+Y-XY)
Zは0.2以上1.5以下が好ましく、より好ましくは0.3以上1.0以下である。Zが小さすぎると破断伸度の保障が少なくなり、Zが大きすぎると延伸時の破断の可能性が高くなるわりに透水性能が低くなる。
【0072】
また本実施形態の製造方法では、延伸し、次いで収縮させる工程を含む場合、引っ張り破断伸度は低伸度での破断が極めて少なくなり、引っ張り破断伸度の分布を狭くすることができる。
【0073】
延伸し、次いで収縮させる工程における空間温度は、収縮の時間や物性の点から、0℃以上160℃以下の範囲が好ましい。0℃より低いと収縮に時間がかかり実用的でなく、160℃を超えると破断伸度の低下及び透水性能が低くなり好ましくない。
【0074】
本実施形態において、収縮工程中、中空糸状膜を捲縮することが好ましい。これにより捲縮度の高い中空糸状膜を、つぶれる又は傷つけることなく得ることができる。
【0075】
一般に、中空糸状膜は、曲がりの無い直管状の形態をなしているため、束ねて濾過用モジュールとした場合に、中空糸間の隙間が取れずに空隙度の低い糸束になる可能性が高い。これに対して、捲縮度が高い中空糸状膜を用いると、個々の糸の曲がりにより平均的に中空糸状膜間隔が広がり空隙度の高い糸束とすることができる。また、捲縮度の低い中空糸状膜からなる濾過モジュールは、特に外圧で用いる際に糸束の空隙が少なくなり流動抵抗が増大し、糸束の中央部まで濾過圧力が有効に伝わらなくなる。更には、逆洗やフラッシングで濾過堆積物を中空糸状膜から剥ぎ落とす際にも糸束内部の洗浄効果が小さくなる。捲縮度の
高い中空糸状膜からなる糸束は、空隙度が大きく外圧濾過でも中空糸状膜間隙が保たれ、偏流が起こりにくい。
【0076】
本実施形態の製造方法で得られる多孔質膜(好ましくは中空糸状膜)は、捲縮度が1.5以上2.5以下の範囲であることが好ましい。1.5以上の場合、上記の理由から好ましく、また、2.5以下であると容積当たりの濾過面積の低下を抑制できる。
【0077】
中空糸状膜の捲縮方法としては、延伸し、次いで収縮させる工程中において、中空糸状膜を収縮させながら、例えば、周期的に凹凸のついた一対のギアロール又は凹凸のついた一対のスポンジベルトで挟み込みながら引き取る方法等が挙げられる。
【0078】
また、本実施形態の製造方法においては、延伸を、相対する一対の無限軌道式ベルトからなる引き取り機を用いて行うことが好ましい。この場合、引取り機を延伸の上流側と下流側とで使用し、それぞれの引取り機においては、相対するベルト間に中空糸状膜を挟み、双方のベルトを同速度で同方向へ移動させることにより糸送りを行う。また、この場合、下流側の糸送り速度を上流側の糸送り速度より速くして延伸を行うことが好ましい。このようにして延伸を行うと、延伸時に延伸張力に負けずにスリップすること無しに延伸し、且つ糸が扁平につぶれるのを防ぐことが可能となる。
【0079】
ここで、無限軌道式ベルトとは、駆動ロールと接する内側は繊維強化ベルト等の高弾性のベルトで出来ており、中空糸状膜と接する外側の表面が弾性体で出来ていることが好ましい。また、弾性体の厚み方向の圧縮弾性率が0.1MPa以上2MPa以下であり、該弾性体の厚みが2mm以上20mmであることが更に好ましい。特に、外側表面の弾性体をシリコーンゴムにすることが、耐薬品性、耐熱性の点から好ましい。
【0080】
また、必要に応じて延伸後の膜に熱処理をおこない、耐圧縮強度を高めても良い。熱処理は80℃以上160℃以下で行うことが好ましい。160℃以下であると破断伸度の低下及び透水性能を抑制でき、100℃以上であると耐圧強度高くすることができる。また、熱処理は抽出終了後の中空糸状膜に対して行うことが、糸径、空孔率、孔径、透水性能の変化が小さくなるという点から好ましい。
【実施例0081】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0082】
なお、本実施の形態に用いられる測定方法は以下のとおりである。
【0083】
以下の測定は特に記載がない限り全て25℃で行っている。以下では、評価方法について説明した後、実施例及び比較例の製造方法及び評価結果について説明する。
【0084】
また膜の配合組成及び製造条件、並びに各種性能を表1に示す。
【0085】
(1)外径、内径及び膜厚
中空糸状膜を膜長手方向に15cm間隔で垂直な向きにカミソリなどで薄く切り、顕微鏡を用いて断面の内径の長径と短径、外径の長径と短径を測定し、以下の式(2)、(3)により、それぞれ内径と外径を計算し、その計算した外径から内径を減算し、2で除した値を膜厚として計算した。20点測定し、その平均値を、その条件における内径(mm)、外径(mm)、膜厚(mm)とした。
【数1】
【数2】
【0086】
(2)純水透水量(L/m/hr)
中空糸状膜を50質量%のエタノール水溶液中に30分間浸漬させた後、水中に30分間浸漬し、中空糸状膜を湿潤化した。約10cm長の湿潤中空糸状膜の一端を封止し、他端の中空部内へ注射針を入れ、注射針から0.1MPaの圧力にて25℃の純水を中空部内へ注入し、外表面へと透過してくる純水の透過水量を測定し、以下の式(4)により純水透過流束を決定した。ここに膜有効長とは、注射針が挿入されている部分を除いた、正味の膜長を指す。また、測定数は10点とし、その平均値を各条件における純水透水量とした。
【数3】
【0087】
(3)破断強度(MPa)
引張り、破断時の荷重と変位を以下の条件で測定した。
サンプル:(2)の方法で作製した湿潤中空糸状膜
測定機器:インストロン型引張試験機(島津製作所製AGS-X)チャック間距離:5cm
引張り速度:20cm/分
以下の式により破断強度および破断伸度を決定した。
【数4】
膜断面積は以下の式により求められる。
【数5】
(4)粒子径分布
粒子径分布測定装置としてMS3000(Malvern Panalytical社製)を使用し、分散媒に水を使用し、分散媒屈折率は1.330、粒子屈折率には1.420で測定を実施した。D10、D50、D90は粒子体積基準にて算出されたものを採用した。
(5)溶解試験
溶解状態の判断には、屈折率等を利用することができる。例えば、ガラス製容器に熱可塑性樹脂と有機液体を投入し混合液のどの部分を測定しても同じ屈折率を示すのが溶解している状態である。本願では10℃刻みで昇温を実施し、未溶解の熱可塑性樹脂と有機液体の懸濁状態から、二層に分離した温度を二層分離開始温度、もしくは溶解した温度を溶解温度とした。上述の通り、見かけ上、二層に分離した場合でも、熱可塑性樹脂と有機液体の混合物が入った容器を振盪させた場合に懸濁状態に戻る場合は二層分離開始ではない。
【0088】
(6)内外表面孔径と開孔率
HITACHI製電子顕微鏡SU8000シリーズを使用し、加速電圧3kVにて、多孔質膜の外表面と内表面を撮影した。20個以上の孔の形状が確認できる倍率で撮影を行った。
撮影した画像を用いて、国際公開第2001/53213号公報に記載されているように、画像のコピーの上に透明シートを重ね、黒いペン等を用いて孔部分を黒く塗り潰し、透明シートを白紙にコピーすることにより、孔部分は黒、非孔部分は白と明確に区別した。その後に市販の画像解析ソフトWinroof2018 Ver4.23.1を使い、判別分析法により二値化を行った。こうして得た二値化画像の占有面積を求めることにより、開孔率を求めた。さらに、10枚以上の画像を撮影後、各画像で開孔率を測定し、そのうちの最大値を採用する場合は、その表面上に最大値以上の開孔率である部分が存在すると定義し、平均値を採用する場合はその表面上の開孔率が平均値に相当する値であると定義した。
孔径は、表面に存在した各孔に対し、円相当径を算出し、孔径の大きい方から順に各孔の孔面積を足していき、その和が、各孔の孔面積の総和の50%に達するところの孔の孔径で決定した。
【0089】
(8)濾過実験
金コロイド(BBISolutions社製)を純水で1ppmに調整し、水溶液を作製した。金コロイド溶液をビーカーに入れ、ペリスタポンプにて有効長約10cmの湿潤中空糸に対し、流速0.1m/sにて、外表面から流出圧0.05MPaにて供給し、中空糸の両端(大気開放)から透過液を出すことで金コロイド溶液の濾過を行った。
【0090】
濾過開始から30分、90分が経過した時点で金コロイド溶液と濾液をそれぞれサンプリングして、紫外・可視光分光光度計UV-mini1240(島津製作所製)を用いて金コロイド溶液と濾液のそれぞれについて金コロイドの最大吸収波長における金コロイド溶液の吸光度Aと濾液の吸光度をBとし、(1-(B/A))×100により阻止率を算出した。また0-1分、29-30分、89-90分の3回濾過量を測定した。89-90分の濾過量を0-1分の濾過量で除算して100を掛けることにより透水保持率を算出した。実施例では粒子径40nmの金コロイドを使用した。濾過量の低下が早い場合は、29-30分の値を用いることとした。
【0091】
(実施例1)
熱可塑性樹脂としてポリケトン(ヒョソン社製M630A)を使用した。ペレット状のM630Aの粉砕は凍結粉砕方式にてリンレックスミル(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて粉砕を行った。粉砕後のD50粒径は200μmであった。
粉砕したポリケトンと、有機液体としてフタル酸ジブチル(DBP)(シージーエスター株式会社製)との混合物、無機微粉体として微粉シリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名:AEROSIL-R972、1次粒子径が約16nm)を用い、中空糸成形用ノズルを用いて押出機による中空糸状膜の溶融押出を行った。溶融混練物として組成がポリケトン:フタル酸ジブチル:微粉シリカ=40.0:37.0:23.0(質量比)の溶融混練物を、中空部形成用流体として空気を用い、押出機を240℃に設定し、同じく240℃にて樹脂を吐出した。溶融時間は10分とした。中空糸成形用ノズルとして外径1.7mm、内径0.9mmのノズルを用いた。吐出温度240℃で押出した中空糸状溶融混練物は、1.0秒の空中走行を経た後30℃の水を入れた凝固浴槽へ導いた。10m/分の速度で引き取った。
得られた中空糸状物をイソプロピルアルコール中に浸漬させてフタル酸ジブチルを抽出除去した後、乾燥させた。次いで、50質量%のエタノール水溶液中に30分間浸漬させた後、水中に30分間浸漬し、次いで、20質量%水酸化ナトリウム水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、さらに水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去し、中空糸状多孔質膜を得た。その後、金コロイド溶液を用いた濾過実験を実施し終始安定した濾過挙動であった。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0092】
(実施例2)
溶融時間が20分となるような押出成形ノズルを用い、実施例1と同様の方法で中空糸状多孔質膜を得た。
【0093】
(実施例3)
溶融混練物の組成をポリケトン:フタル酸ジブチル:微粉シリカ=36.0:39.0:25.0(質量比)とした以外は、実施例1と同様の方法で中空糸状多孔質膜を得た。
【0094】
(実施例4)
巻取速度を10m/minとし溶融時間を5分とした以外は実施例1と同様の方法で中空糸状多孔質膜を得た。
【0095】
(実施例5)
巻取速度を1.5m/minとし押出成形ノズルを調整することにより、溶融時間を30分とした以外は実施例1と同様の方法で中空糸状多孔質膜を得た。
【0096】
(実施例6)
押出機の設定温度、溶融混練物の吐出温度を240℃とした以外は、実施例1と同様の方法で中空糸状多孔質膜を得た。
【0097】
(比較例1)
巻取速度を1.5m/minとし押出成形ノズルを調整することにより、溶融時間を35分とした以外は実施例1と同様の方法で中空糸状多孔質膜を得た。その後、金コロイド溶液を用いた濾過実験を実施したところ、透水保持率が大きく低下した。
【0098】
(比較例2)
巻取速度を1.5m/minとし押出成形ノズルを調整することにより、溶融時間を40分とした以外は実施例1と同様の方法で実験を実施した。滞留時間が長いため熱劣化により安定的に樹脂を吐出することができず中空糸状多孔質膜を得られなかった。
【0099】
(比較例3)
巻取速度を20m/minとし押出成形ノズルを調整することにより、溶融時間を2分とした以外は実施例1と同様の方法で実験を実施した。滞留時間が短いため未溶融により安定的に樹脂を吐出することができず中空糸状多孔質膜を得られなかった。
【0100】
(比較例4)
押出機の設定温度、溶融混練物の吐出温度を190℃とした以外は、実施例1と同様の方法で実験を実施したが、押出が不可であった。
【0101】
(比較例5)
有機液体としてフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)(シージーエスター株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で実験を実施したが、二層分離開始温度以下のため押出が不可であった。
【0102】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の多孔質膜の製造方法によれば、高い耐有機溶媒性及び耐薬品性を有するポリケトン製で高濾過性能かつ高強度の多孔質膜を得ることができる。
【符号の説明】
【0104】
a 熱可塑性樹脂
b 空隙部
10 押出機
20 中空糸成形用ノズル
30 凝固浴槽
40 中空糸状多孔質膜
50 ローラ
S 空走部
図1
図2
図3
図4