(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076881
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/14 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
H02K1/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188690
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】山下 祐司
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA22
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601EE34
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5H601GB05
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5H601GB48
5H601GC12
5H601GC25
5H601GD02
5H601GD09
(57)【要約】
【課題】特定の磁極数及びスロット数を有する回転電機において静粛性を向上させる。
【解決手段】回転電機は、周方向に並ぶ複数の磁極を有する回転子と、周方向に複数のティースを有する固定子コアと、集中巻によりティースに巻回される多相の固定子巻線とを有する固定子と、を備えている。回転電機において、回転子の磁極数は「14」であって、かつティース間のスロット数は「18」である。固定子コア31には、電気8次成分及び電気10次成分の径方向振動を抑制するようにスキューが施されている。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に並ぶ複数の磁極を有する回転子(40)と、
周方向に複数のティース(34)を有する固定子コア(31)と、集中巻により前記ティースに巻回される多相の固定子巻線(32)とを有する固定子(30)と、を備える回転電機(10)において、
前記回転子の磁極数が(18±4)であって、かつ前記ティース間のスロット数が18であるか、又は、
前記回転子の磁極数が(18±2)であって、かつ前記ティース間のスロット数が18であり、
電気8次成分及び電気10次成分の径方向振動を抑制するように前記固定子又は前記回転子にスキューが施されている、回転電機。
【請求項2】
前記固定子又は前記回転子は、軸方向において段差状のスキューが施された段スキュー構造により構成されており、
前記固定子において、前記ティースの先端部に設けられ周方向に延びる鍔部(62b)がスキュー部であり、前記鍔部の周方向中央点のずれ角度であるスキュー角度が、電気角で14~23°の範囲に設定されているか、又は、
前記回転子において、周方向に並ぶ磁極ごとに磁極中心位置が軸方向に段差状にずれており、そのずれ角度であるスキュー角度が、電気角で14~23°の範囲に設定されている、請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
軸方向に3段以上でスキューが設けられている、請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記固定子又は前記回転子は、軸方向に連続的に傾斜するスキューが施されたリニアスキュー構造により構成されており、
周方向のずれ角度であるスキュー角度が、電気角で28~46°の範囲に設定されている、請求項1に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
集中巻コイルを有する回転電機として、例えば特許文献1に記載の回転電機が知られている。この特許文献1には、回転子の磁極数として特定の磁極数を有し、かつ固定子におけるティース間のスロット数として特定のスロット数を有する回転電機が記載されており、具体的には、磁極数が14であり、かつスロット数が18である回転電機や、磁極数が22であり、かつスロット数が18である回転電機、磁極数が16であり、かつスロット数が18である回転電機、磁極数が20であり、かつスロット数が18である回転電機が開示されている。そして、これらの回転電機において、相間の各コイル体における起磁力の位相差が電気角で20度を含む所定の位相範囲内となるようにすることで、電気6次又は電気12次の高調波成分を打ち消し、トルクリプルを抑制できるものとしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1は、本願出願人によりなされた出願であったが、本願出願人によればさらに、上記のごとく特定の磁極数及びスロット数とした回転電機では、電気8次成分及び電気10次成分により固定子に楕円状に変形する向きの径方向電磁力が生じ、それに起因して径方向振動が生じることが見出された。この場合、回転電機に騒音等の不都合が生じ、静粛性が低下することが懸念される。なお、こうした径方向振動は、14極、18スロットのような特定の磁極数及びスロット数を有する回転電機にて生じ、例えば8極、12スロットとした回転電機では問題にならないことも確認されている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、特定の磁極数及びスロット数を有する回転電機において静粛性を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
周方向に並ぶ複数の磁極を有する回転子と、
周方向に複数のティースを有する固定子コアと、集中巻により前記ティースに巻回される多相の固定子巻線とを有する固定子と、を備える回転電機において、
前記回転子の磁極数が(18±4)であって、かつ前記ティース間のスロット数が18であるか、又は、
前記回転子の磁極数が(18±2)であって、かつ前記ティース間のスロット数が18であり、
電気8次成分及び電気10次成分の径方向振動を抑制するように前記固定子又は前記回転子にスキューが施されていることを特徴とする。
【0007】
集中巻構造の固定子を有する回転電機において、回転子の磁極数が(18±4)、かつ固定子のスロット数が18である構成、又は回転子の磁極数が(18±2)、かつ固定子のスロット数が18である構成とする場合には、電気8次成分及び電気10次成分に起因して、固定子に楕円状に変形する向きの径方向電磁力が生じ、静粛性が低下することが懸念される。この点、上記回転電機において、電気8次成分及び電気10次成分の径方向振動を抑制するように固定子及び回転子の少なくともいずれかにスキューを施す構成とした。この場合、スキュー構造を付加することで、電気8次成分及び電気10次成分に起因する径方向電磁力を低減でき、固定子の変形を抑制できる。その結果、特定の磁極数及びスロット数を有する回転電機において静粛性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図7】固定子巻線の各部分巻線についてティースとの対応関係を示す図。
【
図8】8次成分及び10次成分により径方向加速度が生じることを説明する図。
【
図11】電気8次、10次の径方向振動加速度とスキュー角度との関係を示す図。
【
図12】固定子コアのリニアスキュー構造を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。本実施形態では、回転電機としてのモータ10を例示して説明する。
【0010】
図1に示すモータ10は、永久磁石界磁型のものであり、具体的には3相巻線を有する永久磁石界磁型同期機である。つまり、モータ10は、ブラシレスモータである。この3相巻線は2系統有していてもよい。モータ10は、ハウジング20と、ハウジング20に固定される固定子30と、固定子30に対して回転する回転子40と、回転子40が固定される回転軸11と、を備える。以下、本実施形態において、軸方向とは回転軸11の軸方向のことを示し、径方向とは回転軸11の径方向のことを示し、周方向とは回転軸11の周方向のことを示す。
【0011】
ハウジング20は円筒形状に形成されており、ハウジング20内には、固定子30及び回転子40等が収容されている。ハウジング20には、軸受23,24が設けられており、この軸受23,24により回転軸11が回転自在に支持されている。ハウジング20の内周面の軸心は回転軸11と同軸となっている。回転軸11の先端側には、角度センサ12が設けられている。角度センサ12は、磁気センサでもレゾルバでもよい。
【0012】
固定子30は、ハウジング20の軸方向略中央において、ハウジング20の内周に沿って円筒状に設けられている。そして、固定子30は、回転軸11の軸心Oを中心にして、ハウジング20の内周面に固定されている。固定子30は、磁気回路の一部を構成するものであり、円環状をなし回転子40の外周側において径方向に対向して配置される固定子コア31と、固定子コア31に巻回された固定子巻線32とを有している。
【0013】
図2に示すように、固定子コア31は、円環状のバックヨーク33と、バックヨーク33から径方向内側に向けて突出し、周方向に所定距離を隔てて配列された複数のティース34とを有し、隣り合うティース34の間にスロット35が形成されている。固定子コア31においてティース34は周方向に等間隔に設けられ、そのティース34に固定子巻線32が巻回されている。これにより、各スロット35内に固定子巻線32の導体が収容されている。本実施形態では、ティース34の数、スロット35の数をそれぞれ「18」としている。説明の都合上、各ティース34には、周方向の配列順で反時計回りに符号T1~18を付しており、ティース番号を示す必要のある場合には、ティース34をティースT1,T2,T3・・・としても記載する。固定子巻線32は、スロット35に収容された状態で保持されており、電力(交流電力)が供給されることで磁束を発生する。
【0014】
固定子コア31は、薄板状の磁性体である複数の鋼板(コアシート)を用い、その複数の鋼板が固定子コア31の軸方向に積層されることで形成されている。鋼板は、例えば帯状の電磁鋼板材をプレス打ち抜きすることで形成されているとよい。
【0015】
回転子40は、磁気回路の一部を構成するものであり、周方向に複数の磁極を有し、固定子30に対して径方向に対向するように配置されている。本実施形態において、回転子40は、14個の磁極(すなわち7個の磁極対)を有する。回転子40は、磁性体からなる回転子コア41と、回転子コア41に固定される複数の永久磁石42と、を備える。具体的には、
図2に示すように、回転子40は、周方向に極性が交互となるように磁極ごとに磁石部としての永久磁石42を備えており、回転子コア41に軸方向に沿って設けられた収容孔に永久磁石42が埋め込まれている。
【0016】
回転子40は、周知の構成でよく、例えば、IPM型(Interior Permanent Magnet:埋め込み磁石型)の回転子であっても、SPM型(Surface Permanent Magnet:表面磁石側)の回転子であってもよい。また、回転子40として、界磁巻線側の回転子を採用してもよい。本実施形態では、IPM型の回転子を採用している。回転子40には、回転軸11が挿通され、回転軸11を中心にして回転軸11と一体回転するように回転軸11に固定されている。
【0017】
モータ10には、制御装置50が接続されている。制御装置50は、CPU、ROM、RAM及びI/O等を備えたマイクロコンピュータを主体として構成されており、CPUがROMに記憶されているプログラムを実行することにより、各種機能を実現する。なお、各種機能は、ハードウェアである電子回路によって実現されてもよく、あるいは、少なくとも一部をソフトウェア、すなわちコンピュータ上で実行される処理によって実現されてもよい。
【0018】
制御装置50が備える機能としては、例えば、外部(例えばバッテリ)からの電力を変換し、モータ10に供給して駆動力を発生させる機能を有する。また、例えば、制御装置50は、角度センサ12から入力された回転角度に関する情報を利用して、モータ10の制御(電流制御など)を行う機能を備える。
【0019】
図3は、本実施形態における制御装置50の電気的構成を示す図である。
【0020】
本実施形態では、固定子巻線32が第1固定子巻線32aと第2固定子巻線32bとから構成されており、制御装置50には、固定子巻線32a,32bごとに第1インバータ回路51及び第2インバータ回路52が設けられている。各インバータ回路51,52は、それぞれ3相の相数と同数の上下アームを有するフルブリッジ回路により構成されている。制御装置50は、各アームに設けられたスイッチング素子のオンオフにより、各相における電流を制御する。
【0021】
詳しく説明すると、第1インバータ回路51は、U相、V相及びW相からなる3相において、スイッチング素子としての上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの直列接続体をそれぞれ備えている。本実施形態では、各相における上アームスイッチSp及び下アームスイッチSnとして、電圧制御形の半導体スイッチング素子を用いており、具体的にはIGBTを用いている。なお、スイッチング素子としてMOSFETを用いてもよい。各相における上アームスイッチSp及び下アームスイッチSnには、それぞれフリーホイールダイオード(還流ダイオード)Dp,Dnが逆並列に接続されている。
【0022】
各相の上アームスイッチSpの高電位側端子(コレクタ)は、バッテリの正極端子に接続されている。また、各相の下アームスイッチSnの低電位側端子(エミッタ)は、バッテリの負極端子(グランド)に接続されている。各相の上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの間の中間接続点は、それぞれ第1固定子巻線32aにおける各相の相巻線の一端に接続されている。第1固定子巻線32aはU相、V相、W相の相巻線を有しており、第1インバータ回路51では、それら各相の相巻線の一端がそれぞれ上下アームのスイッチSp,Snの中間接続点に接続されている。
【0023】
第2インバータ回路52は、第1インバータ回路51と同様の構成を有するものであるため、ここでは詳細な説明を省略する。第2固定子巻線32bは、X相、Y相、Z相の相巻線を有しており、第2インバータ回路52では、それら各相の相巻線の一端がそれぞれ上下アームのスイッチSp,Snの中間接続点に接続されている。
【0024】
第1インバータ回路51から供給される3相の電流と、第2インバータ回路52から供給される3相の電流とは、互いに所定の電流位相差を有するものとなっている。
【0025】
図4は、固定子30について具体的な構成を示す斜視図であり、
図5は、固定子コア31の構成を示す斜視図である。なお、
図4に示す固定子30は、
図2に示す固定子30に相当する。
【0026】
固定子30において、固定子コア31は複数の分割コア61により構成されており、各分割コア61が周方向に並べて配置されることで固定子コア31が円筒状に形成されている。各分割コア61はティース34を有しており、各分割コア61が周方向に並ぶことにより、
図2に示すとおりティース34とスロット35とが周方向に交互に配置されるようになっている。本実施形態では、18個の分割コア61により固定子コア31が構成されている。固定子巻線32は、各ティース34に導線材が集中巻により巻回されることで構成されている。周方向に隣り合う分割コア61は接着等により互いに接合されているとよい。
【0027】
なお、分割コア61はそれぞれ、鋼板積層体であるコア本体62と、絶縁性の樹脂材料等により構成された絶縁部材63,64とを有している。絶縁部材63,64は、ティース34の軸方向一端側及び他端側(図の上側及び下側)に装着されており、各絶縁部材63,64に架け渡すようにして導線材が多重に巻かれることで、ティース34に部分巻線が巻回されている。
【0028】
図4に示す構成では、各ティース34に巻回された各巻線から巻線端部が引き出されており、それら各巻線端部が、固定子30のコイルエンドに組み付けられる不図示の配線モジュールによって所定順序で接続されるようになっている。
【0029】
固定子巻線32の電気的な構成について一例を
図6に示す。
図6(a)は、第1固定子巻線32aにおいてU相、V相、W相の相巻線の構成を示し、
図6(b)は、第2固定子巻線32bにおいてX相、Y相、Z相の相巻線の構成を示している。これら各固定子巻線32a,32bは、星形結線(Y結線)により各相の相巻線が互いに接続されている。
【0030】
図6(a)に示すように、第1固定子巻線32aは、U相の相巻線として部分巻線U1,U2,U3,U4を有し、V相の相巻線として部分巻線V1,V2,V3,V4を有し、W相の相巻線として部分巻線W1,W2,W3,W4を有している。そして、部分巻線U1,U2の直列接続体の一端と、部分巻線V1,V2の直列接続体の一端と、部分巻線W1,W2の直列接続体の一端とが中性点N1aにて互いに接続されるとともに、部分巻線U3,U4の直列接続体の一端と、部分巻線V3,V4の直列接続体の一端と、部分巻線W3,W4の直列接続体の一端とが中性点N1bにて互いに接続されている。
【0031】
また、
図6(b)に示すように、第2固定子巻線32bは、X相の相巻線として部分巻線X1,X2,X3,X4を有し、Y相の相巻線として部分巻線Y1,Y2,Y3,Y4を有し、Z相の相巻線として部分巻線Z1,Z2,Z3,Z4を有している。そして、部分巻線X1,X2の直列接続体の一端と、部分巻線Y1,Y2の直列接続体の一端と、部分巻線Z1,Z2の直列接続体の一端とが中性点N2aにて互いに接続されるとともに、部分巻線X3,X4の直列接続体の一端と、部分巻線Y3,Y4の直列接続体の一端と、部分巻線Z3,Z4の直列接続体の一端とが中性点N2bにて互いに接続されている。
【0032】
なお、各固定子巻線32a,32bにおける相巻線ごとの4つの部分巻線は、上記のごとく2つずつに分けてそれぞれ星形結線される構成以外に、相巻線ごとの4つの部分巻線が2並列に接続された上で星形結線される構成であってもよい。この場合、第1固定子巻線32aでは中性点(N1a,N1b)が1つにまとめられ、第2固定子巻線32bでも同様に中性点(N2a,N2b)が1つにまとめられる。
【0033】
その他、第1固定子巻線32aにおいて、各相の部分巻線U1~U4,V1~V4,W1~W4をそれぞれ直列接続し、それら3相の直列接続体を星形結線により接続するとともに、第2固定子巻線32bにおいても同様に、各相の部分巻線X1~X4,Y1~Y4,Z1~Z4をそれぞれ直列接続し、それら3相の直列接続体を星形結線により接続する構成としてもよい。各固定子巻線32a,32bにおいて、星形結線(Y結線)に代えて、Δ結線により各相の相巻線を接続することも可能である。
【0034】
固定子コア31では、全18個のティース34において周方向に連続する3つずつを一組として、各組3つのティース34に、互いに異相となる2つの相巻線の部分巻線がそれぞれ集中巻により巻回されている。この場合、3つを一組とする各ティース群には、第1固定子巻線32aの部分巻線U1~U4,V1~V4,W1~W4のうち2つの部分巻線と、第2固定子巻線32bの部分巻線X1~X4,Y1~Y4,Z1~Z4のうち2つの部分巻線とが振り分けられた状態で巻回されている。具体的には、各ティース群において、周方向の両側となる各ティース34の一方には、第1固定子巻線32aの部分巻線が巻回されるとともに、各ティース34の他方には、第2固定子巻線32bの部分巻線が巻回されている。また、各ティース群の中央となるティース34には、第1,第2固定子巻線32a,32bにおける両方の部分巻線が巻回されている。
【0035】
図7は、固定子巻線32a,32bの各部分巻線について各ティースT1~T18との対応関係を示す図である。
図7では、ティースT1~T3,T4~T6,T7~T9,・・・といったティース群(3連ティース)ごとに、4つ分の部分巻線が巻回されている。例えば、
・ティースT1には、第2固定子巻線32bの部分巻線W1が巻回され、
・ティースT2には、第2固定子巻線32bの部分巻線W2と第1固定子巻線32aの部分巻線X2とが巻回され、
・ティースT3には、第1固定子巻線32aの部分巻線X1が巻回されている。
その他のティース群については説明を省くが、同様の態様で各部分巻線が巻回されており、各ティース群の第1~第3ティースにおいて図示のごとく各部分巻線が巻回されている。
【0036】
回転電機では、トルクリプルに基づく騒音や振動が問題となりうる。トルクリプルは、主に電気6次の高調波成分又は電気12次の高調波成分が主要成分となるため、これらの抑制することが望ましい。そこで、上記構成のモータ10を用い、制御装置50において以下のような制御が行われるとよい。
【0037】
上記構成のモータ10では、
・各ティース群の第1ティース(T1,T4,T7,T10,T13,T16)に、第1固定子巻線32aにおけるU相、V相、W相の各部分巻線(第1コイル体)が巻回され、
・各ティース群の第2ティース(T2,T5,T8,T10,T14,T17)に、第1,第2固定子巻線32a,32bにおけるいずれか1相ずつの部分巻線(第2コイル体)が巻回され、
・各ティース群の第3ティース(T3,T6,T9,T12,T15,T18)に、第2固定子巻線32bにおけるX相、Y相、Z相の各部分巻線(第3コイル体)が巻回されている。
【0038】
そしてかかる構成において、制御装置50が、各相の第1コイル体の起磁力に対する各相の第2コイル体の起磁力の各位相差と、各相の第2コイル体の起磁力に対する各相の第3コイル体の起磁力の各位相差と、が電気角で20度を含む所定の位相範囲内となるように、又は、各相の第1コイル体の起磁力に対する各相の第3コイル体の起磁力の各位相差と、各相の第3コイル体の起磁力に対する各相の第2コイル体の起磁力の各位相差と、が電気角で20度を含む所定の位相範囲内となるように、第2ティースに巻回される第1固定子巻線32aの部分巻線により発生する起磁力と当該第2ティースに巻回される第2固定子巻線32bの部分巻線により発生する起磁力との合算位相差を設定する。合算位相差は、例えば電気角で72~88度の範囲で設定されるとよい。若しくは、制御装置50は、第2ティースに巻回される第1固定子巻線32aの部分巻線に流れる電流と当該第2ティースに巻回される第2固定子巻線32bの部分巻線に流れる電流との合算位相差を設定する。なお、本制御の詳細は、本願出願人の出願による特許第7103299号公報に詳細に記載されている。
【0039】
上述したとおり本実施形態のモータ10では、集中巻構造の固定子30を有し、かつ回転子40の磁極数を「14」、固定子30のスロット数を「18」としており、こうした磁極数及びスロット数のコンビネーションに起因して電気8次の高調波成分及び電気10次の高調波成分の径方向振動が生じることが懸念される。
図8(a)は、本実施形態における対策前の固定子コア構造を示す斜視図であり、
図8(b)は、
図8(a)の固定子コアにおいて8次成分及び10次成分による径方向加速度が生じる範囲を示す図である。なお、
図8(a)では、固定子コア31において各ティース34は軸方向に平行に延び、かつティース先端部に設けられた鍔部は、周方向両側で均等となっている。
【0040】
図8(b)に示す径方向加速度は、本願発明者の解析により得られた結果に基づくものであり、周方向に概ね180°離れた位置において径方向内側に向けて径方向内側加速度が生じるとともに、同じく周方向に概ね180°離れ、かつ径方向内側加速度とは約90°ずれた位置において径方向外側に向けて径方向外側加速度が生じるものとなっている。この場合、固定子コア31に楕円状に変形する向きの径方向電磁力が生じ、同次数の騒音が生じることが懸念される。
【0041】
そこで本実施形態では、電気8次及び電気10次の径方向振動の対策を講じるものとしている。以下には、径方向振動の対策として、固定子コア31のティース先端部にスキュー構造とした構成を説明する。
図9は、固定子コア31の段スキュー構造を示す斜視図である。
図9には、
図5の構成から絶縁部材63,64を取り除いた構成(つまり、コア本体62の集合体)が示されている。
【0042】
コア本体62は、径方向に延びるティース34と、その径方向一端側に設けられたヨーク部62aとを有し、ティース34の先端部には、周方向に延びる鍔部62bが設けられている。ヨーク部62aは、
図2に示す固定子コア31のバックヨーク33に相当する部位である。
【0043】
また、コア本体62は、軸方向(図の上下方向)に複数のブロックが結合された状態で形成されている。本実施形態では、コア本体62を、軸方向に4ブロックを結合することで形成しており、上下に隣り合う各ブロックにおいて、ティース先端部の鍔部62bの形状が相違するものとなっている。具体的には、各ブロックにおいて、ティース34における周方向中心位置に対して、周方向両側(左右両側)の鍔部62bの突出量が相違しており、かつ、上下に隣り合う各ブロックで突出量の大小が左右逆になっている。つまり、
図9の構成では、鍔部62bが周方向一方の側に偏っている第1ティースブロックB1と、鍔部62bが周方向他方の側に偏っている第2ティースブロックB2とが含まれ、これら各ティースブロックB1,B2が軸方向に交互に配置されるものとなっている。なお、各ティースブロックB1,B2は、同形状のものを用い、軸方向の向きを互いに逆にして重ねられたものであるとよい。
【0044】
各コア本体62の鍔部62bが、段スキューが施されたスキュー部に相当する。なお、各ティースブロックにおいてコイル巻回部分(鍔部62bを除く部分)では、いずれも周方向中心位置が同一位置となっている。本実施形態では、固定子30の軸方向のスキュー段数を4段とするが、スキュー段数は軸方向に3段以上であるとよい。
【0045】
図10は、固定子コア31のスキュー角度を説明する図である。
図10は、コア本体62の平面図であり、第1ティースブロックB1と第2ティースブロックB2とが軸方向に重なった状態が示されている。
【0046】
ここでは、周方向のティース中心位置と軸心O(固定子中心点)とを結ぶ直線をL、ティース先端部において、第1ティースブロックB1の周方向中心位置をP1、第2ティースブロックB2の周方向中心位置をP2としている。この場合、直線Lに対して、第1ティースブロックB1側のO-P1の直線により形成される角度θ1と、直線Lに対して、第2ティースブロックB2側のO-P2の直線により形成される角度θ2とは同じ角度であり(θ1=θ2)、角度θ1,θ2を加算した角度θeがスキュー角度となっている。
【0047】
スキュー角度θeは、鍔部62bの周方向中央点のずれ角度であり、具体的には、電気8次成分、電気10次成分の径方向振動を抑制すべく、以下のようにスキュー角度θeが設定されているとよい。すなわち、電気8次成分の対策としては、電気角180°/8=22.5°がスキュー角度θeの理想角度であり、電気10次成分の対策としては、電気角180°/10=18°がスキュー角度θeの理想角度である。これらを鑑みて、スキュー角度θeは、電気角で14~23°の範囲に設定されているとよい。
【0048】
上記のスキュー構造によれば、固定子30に生じる電気8次及び電気10次の径方向電磁力が打ち消され、ひいては径方向振動が抑制されるものとなっている。
図11は、固定子コア31において電気8次、10次成分の径方向振動加速度が最大となる部位について、径方向振動加速度とスキュー角度θeとの関係を示す図である。
図11によれば、スキュー角度θeと径方向振動加速度の大きさとには相関があり、スキュー角度θeの調整により径方向振動加速度の低減が可能となることが分かる。本実施形態では、スキュー角度θeを14~23°の範囲に設定することにより、径方向振動加速度を軽減するものとしている。
【0049】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0050】
回転子40の磁極数を「14」、かつ固定子30のスロット数を「18」とした集中巻構造のモータ10において、電気8次成分及び電気10次成分の径方向振動を抑制するように固定子30にスキューを施す構成とした。この場合、スキュー構造を付加することで、電気8次成分及び電気10次成分に起因する径方向電磁力を低減でき、固定子30の変形を抑制できる。その結果、特定の磁極数及びスロット数を有するモータ10において静粛性を向上させることができる。
【0051】
なお、固定子30において径方向振動が生じる回転電機では、その対策として例えば樹脂含浸による構造強化が行われることが考えられるが、上記のとおり径方向振動を抑制した構成によれば、樹脂含浸等による構造強化が不要となり、コスト低減の効果を見込むこともできる。
【0052】
固定子30の段スキュー構造において、ティース先端部における鍔部62bの周方向中央点のずれ角度をスキュー角度θeとし、そのスキュー角度θeを、電気角で14~23°の範囲に設定した。これにより、電気8次成分及び電気10次成分の径方向振動を好適に抑制することができる。
【0053】
固定子コア31のティース先端部に段スキューを施した構成によれば、コアシートの変更のみで所望の構成を実現でき、コスト面でのメリットが考えられる。この場合、軸方向に重ねられるティースブロック(又はコアシート)を裏返すことで、ティース先端部の鍔部62bの偏り方向を変更でき、スキュー構造を実現する上でのコストアップを最小限にすることができる。
【0054】
固定子30の軸方向のスキュー段数を3段以上にすることとし、具体的には4段とした。この場合、例えばスキュー段数を2段にする場合に比べて、径方向振動抑制効果の寸法ばらつきに対するロバスト性を向上できる。
【0055】
(他の実施形態)
上記実施形態を例えば次のように変更してもよい。
【0056】
・
図12に示すように、固定子30を、軸方向に連続的に傾斜するスキューが施されたリニアスキュー構造としてもよい。この場合、固定子コア31において、ティース34が軸方向に対して傾斜する向きに延びるよう設けられており、ティース先端部における軸方向一端側の中心位置P11と、軸方向他端側の中心位置P12とが周方向にずれた構成となっている。なお本構成では、ティース先端部の鍔部62bおいて、周方向の両側の突出寸法は軸方向で見て均一であり、例えば周方向一方側及び他方側で突出寸法が同じであるとよい。
【0057】
スキュー角度θeは、ティース先端部における軸方向一端側の中心位置P11及び固定子中心点(不図示)を結ぶ直線と、ティース先端部における軸方向他端側の中心位置P12及び固定子中心点を結ぶ直線とがなす角度である。リニアスキュー構造では、スキュー角度θeは電気角で28~46°の範囲に設定されているとよい。スキュー角度θeは、リニアスキューにより生じる周方向のずれ角度に相当する。すなわち、電気8次成分の対策としては、電気角360°/8=45°がスキュー角度θeの理想角度であり、電気10次成分の対策としては、電気角360°/10=36°がスキュー角度θeの理想角度である。これらを鑑みて、スキュー角度θeは、電気角で28~46°の範囲に設定されているとよい。上記のリニアスキュー構造とした場合でもあっても、電気8次成分及び電気10次成分の径方向振動を好適に抑制することができる。なお、リニアスキュー構造とする場合にも、スキュー角度θeと径方向振動加速度の大きさとには相関があり(
図11参照)、所定角度範囲(電気角28~46°)において径方向振動加速度を所望レベルに低減できるものとなっている。
【0058】
・固定子30をスキュー構造とすることに代えて、回転子40をスキュー構造とすることも可能である。具体的には、
図13(a)に示すように、回転子40において、周方向に並ぶ磁極ごとに磁極中心位置が軸方向に段差状にずれており、そのずれ角度であるスキュー角度θeが、電気角で14~23°の範囲に設定されているとよい。
図13(a)では、回転子コア41の外周面に複数の永久磁石42が固定され、その永久磁石42により各磁極が構成されている。各磁極では、軸方向に並ぶ各永久磁石42の位置が段差状にずれることで段スキュー構造となっている。スキュー角度θeは、軸方向一端側における磁石中心位置及び回転中心点を結ぶ直線と、軸方向他端側における磁石中心位置及び回転中心点を結ぶ直線とがなす角度である。なお、図示の構成では、軸方向の段数が2段であるが、3段以上(例えば4段)にすることも可能である。
【0059】
又は、
図13(b)に示すように、回転子40を、軸方向に連続的に傾斜するスキューが施されたリニアスキュー構造としてもよい。この場合、各磁極の永久磁石42は、軸方向に対して傾斜する向きに延びるよう設けられており、周方向のずれ角度であるスキュー角度θeが、電気角で28~46°の範囲に設定されているとよい。
【0060】
・モータ10として、回転子40の磁極数、及び固定子30のスロット数を以下のように定めた回転電機を用いることも可能である。
・モータ10において、磁極数を「22」、スロット数を「18」とする。
・モータ10において、磁極数を「16」、スロット数を「18」とする。
・モータ10において、磁極数を「20」、スロット数を「18」とする。
これら各回転電機においても、上記同様、電気8次成分及び電気10次成分の径方向振動を抑制するように固定子30又は回転子40にスキューが施されているとよい。
【0061】
・固定子コア31において、各分割コア61は周方向に複数個ずつのティース34を有するものであってもよい。例えば、分割コア61は3つのティース34を有するものであるとよい。また、固定子コア31は、分割コア構造でない構成、すなわち周方向に分割不可な一体の円環状をなす構成であってもよい。
【0062】
・上記実施形態では、固定子巻線32が、第1固定子巻線32aと第2固定子巻線32bとを有し、合計6相の相巻線を有する構成としたが、これを変更し、固定子巻線32が3相の相巻線を有する構成であってもよい。
【0063】
・回転電機は、インナロータ式の回転電機に代えて、アウタロータ式の回転電機であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
10…回転電機、30…固定子、31…固定子コア、32…固定子巻線、34…ティース、40…回転子。