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特開2024-76882太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法およびフッ化カルシウムの製造方法
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  • 特開-太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法およびフッ化カルシウムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076882
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法およびフッ化カルシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/049 20140101AFI20240530BHJP
   B29B 17/02 20060101ALI20240530BHJP
   B29B 17/04 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
H01L31/04 562
B29B17/02
B29B17/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188691
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】森田 宜典
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亮栄
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 敏明
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 将吾
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 優子
【テーマコード(参考)】
4F401
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
4F401AA14
4F401AA22
4F401AC20
4F401AD01
4F401AD07
4F401BA06
4F401BA13
4F401CA14
4F401CA31
4F401CA46
4F401CA49
4F401CA53
4F401CA63
4F401DA14
4F401EA35
4F401EA77
5F151JA05
5F251JA05
(57)【要約】
【課題】太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法およびフッ化カルシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】 太陽光パネルに用いられる、フッ素樹脂とPET樹脂とを含むバックシートの前記フッ素樹脂からのフッ素の回収方法であって、触媒の存在下において、前記フッ素樹脂をアルカリ処理してフッ素を脱離させる脱フッ素工程と、前記脱離したフッ素へカルシウムを反応させ、フッ化カルシウムとして回収する回収工程とを有する、太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法およびフッ化カルシウムの製造方法を提供する。
を提供する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光パネルに用いられる、フッ素樹脂とPET樹脂とを含むバックシートの前記フッ素樹脂からのフッ素の回収方法であって、
触媒の存在下において、前記フッ素樹脂をアルカリ処理してフッ素を脱離させる脱フッ素工程と、
前記脱離したフッ素へカルシウムを反応させ、フッ化カルシウムとして回収する回収工程とを有する、太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法。
【請求項2】
太陽光パネルに用いられる、フッ素樹脂とPET樹脂とを含むバックシートの前記フッ素樹脂からのフッ素の回収方法であって、
前記バックシートから得られた前記フッ素樹脂と前記PET樹脂とを含む混合物をアルカリ処理して、前記PET樹脂をろ過により前記混合物から除去した後、
触媒の存在下において、前記PET樹脂が除去された混合物をアルカリ処理してフッ素を脱離させる、太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法。
【請求項3】
前記バックシートが太陽光パネルから取り外したものである、請求項1または2に記載の太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法。
【請求項4】
前記バックシートを破砕して、破砕物を得、
前記破砕物ヘ、前記脱フッ素工程を実施する、請求項1に記載の太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法。
【請求項5】
前記フッ素樹脂と前記PET樹脂とを含む前記混合物が、前記バックシートを破砕して得られた破砕物である請求項2に記載の太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法。
【請求項6】
前記触媒として、水にも有機溶媒にも可溶な、第四級アンモニウムの水酸化物塩、第四級アンモニウムの塩化物塩、第四級アンモニウムの臭化物塩、および、第四級アンモニウムのヨウ化物塩から選択されるいずれかのものを用いる、請求項1または2に記載の太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法。
【請求項7】
前記フッ素樹脂とは、ポリフッ化ビニリデン樹脂および/またはポリフッ化ビニル樹脂である、請求項1または2に記載の太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法。
【請求項8】
太陽光パネルに用いられる、フッ素樹脂とPET樹脂とを含むバックシートの前記フッ素樹脂からのフッ化カルシウムの製造方法であって、
触媒の存在下において、前記フッ素樹脂をアルカリ処理してフッ素を脱離させる脱フッ素工程と、
前記脱離したフッ素へカルシウムを反応させ、フッ化カルシウムを生成させる生成工程とを有する、太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ化カルシウムの製造方法。
【請求項9】
太陽光パネルに用いられる、フッ素樹脂とPET樹脂とを含むバックシートの前記フッ素樹脂からのフッ化カルシウムの製造方法であって、
前記バックシートが太陽光パネルから取り外したものであり、前記バックシートを破砕して、前記バックシートから得られた前記フッ素樹脂とPET樹脂とを含む破砕物を得、この破砕物をアルカリ処理して、前記PET樹脂をろ過により前記混合物から除去した後、
触媒の存在下において、前記PET樹脂が除去された混合物をアルカリ処理してフッ素を脱離させ、前記脱離したフッ素へカルシウムを反応させ、フッ化カルシウムを生成させる、太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ化カルシウムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法およびフッ化カルシウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池発電は、太陽光というクリーンエネルギーを利用し、環境負荷が小さいことから、再生可能エネルギーとして着目されている。この太陽電池発電に使用される太陽光パネルは、例えば、ガラス基板と、太陽電池セルと、太陽電池セルを封止する封止材と、バックシートと、太陽電池セルから配線される金属パターンと、封止材の周囲に設けられるフレーム部材等、を備えて構成される。
【0003】
これまで太陽光パネルは、一定期間、使用された後に廃棄処分されていたが、近年、リサイクルの観点から有価物質を回収することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-180063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、当該有価物質として、太陽光パネルのバックシート等に用いられるフッ素樹脂に含まれるフッ素に注目した。
【0006】
これは、太陽光パネルの普及拡大により今後もフッ素樹脂の需要は拡大すると見込まれることによる。一方、主要なフッ素源である蛍石(フッ化カルシウムを主成分とする。)は、産出国が特定地域に集中していることから世界的にも供給リスクの高い資源として評価されている。そのため、フッ素樹脂に含まれるフッ素を回収する方法は、使用済み太陽光パネルからのフッ素の循環利用を可能とし、フッ素樹脂の持続的な生産と消費に貢献することによる。
【0007】
しかしながら、太陽光パネルに使用されるフッ素樹脂からのフッ素の回収方法に関しては有効な方法がない。
【0008】
例えば、特許文献1には、太陽電池モジュールから太陽電池素子を回収する際に、太陽電池素子の割れ、欠けを抑制し、太陽電池素子の回収率を向上させたとする、太陽電池モジュールの解体方法が提案されている。しかし、特許文献1の提案は、太陽電池素子の回収を目的としているもので、バックシート等に含まれるフッ素樹脂は熱分解されており有効利用されていない。さらには、フッ素樹脂の熱分解による有機フッ素の発生など環境への悪影響も懸念される。
【0009】
本発明は、上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法およびフッ化カルシウムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述の課題を解決する為、研究を行った結果、太陽光パネルに用いられるバックシート等に用いられているフッ素樹脂へ、触媒の存在下でアルカリ処理を施すことにより、当該フッ素樹脂からフッ素を脱離させ、当該フッ素を回収する方法に想到して本発明を完成した。
【0011】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
太陽光パネルに用いられる、フッ素樹脂とPET樹脂とを含むバックシートの前記フッ素樹脂からのフッ素の回収方法であって、
触媒の存在下において、前記フッ素樹脂をアルカリ処理してフッ素を脱離させる脱フッ素工程と、
前記脱離したフッ素へカルシウムを反応させ、フッ化カルシウムとして回収する回収工程とを有する、太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法である。
第2の発明は、
太陽光パネルに用いられる、フッ素樹脂とPET樹脂とを含むバックシートの前記フッ素樹脂からのフッ素の回収方法であって、
前記バックシートから得られた前記フッ素樹脂と前記PET樹脂とを含む混合物をアルカリ処理して、前記PET樹脂をろ過により前記混合物から除去した後、
触媒の存在下において、前記PET樹脂が除去された混合物をアルカリ処理してフッ素を脱離させる、太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法である。
第3の発明は、
前記バックシートが太陽光パネルから取り外したものである、第1または第2の発明に記載の太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法である。
第4の発明は、
前記バックシートを破砕して、破砕物を得、
前記破砕物ヘ、前記脱フッ素工程を実施する、第1から第3の発明のいずれかに記載の太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法である。
第5の発明は、
前記フッ素樹脂と前記PET樹脂とを含む前記混合物が、前記バックシートを破砕して得られた破砕物である第2の発明に記載の太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法である。
第6の発明は、
前記触媒として、水にも有機溶媒にも可溶な、第四級アンモニウムの水酸化物塩、第四級アンモニウムの塩化物塩、第四級アンモニウムの臭化物塩、および、第四級アンモニウムのヨウ化物塩から選択されるいずれかのものを用いる、第1から第4の発明のいずれかに記載の太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法である。
第7の発明は、
前記フッ素樹脂とは、ポリフッ化ビニリデン樹脂および/またはポリフッ化ビニル樹脂である、第1から第5の発明のいずれかに記載の太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法である。
第8の発明は、
太陽光パネルに用いられる、フッ素樹脂とPET樹脂とを含むバックシートの前記フッ素樹脂からのフッ化カルシウムの製造方法であって、
触媒の存在下において、前記フッ素樹脂をアルカリ処理してフッ素を脱離させる脱フッ素工程と、
前記脱離したフッ素へカルシウムを反応させ、フッ化カルシウムを生成させる生成工程とを有する、太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ化カルシウムの製造方法である。
第9の発明は、
太陽光パネルに用いられる、フッ素樹脂とPET樹脂とを含むバックシートの前記フッ素樹脂からのフッ化カルシウムの製造方法であって、
前記バックシートが太陽光パネルから取り外したものであり、前記バックシートを破砕して、前記バックシートから得られた前記フッ素樹脂とPET樹脂とを含む破砕物を得、この破砕物をアルカリ処理して、前記PET樹脂をろ過により前記混合物から除去した後、
触媒の存在下において、前記PET樹脂が除去された混合物をアルカリ処理してフッ素を脱離させ、前記脱離したフッ素へカルシウムを反応させ、フッ化カルシウムを生成させる、太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ化カルシウムの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る太陽光パネルに使用されるバックシートからのフッ素の回収方法およびフッ化カルシウムの製造方法によれば、当該バックシート用いられているフッ素樹脂よりフッ素を回収すると共に、フッ化カルシウムを製造することが可能となり、有効利用されずに焼却や埋め立て処分されていた樹脂成分の循環利用が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】太陽光パネルの断面概略図である。
図2】バックシートに用いられている、フッ素樹脂とPET樹脂との混合物の断面写真である。
図3】太陽光パネルからガラス基板およびフレーム部材を除去した、太陽電池シート状構造物の断面概略図である。
図4】実施例1に係るフッ素樹脂(PVDF)とPET樹脂との混合物から形成された樹脂粒子の外観写真である。
図5】実施例1に係るフッ素樹脂(PVDF)粒子の外観写真である。
図6】実施例1に係る白色殿物の外観写真である。
図7】実施例1に係るフッ素樹脂(PVDF)粒子の残滓、その他の不純物粒子の外観写真である。
図8】実施例1に係る白色殿物に対するXRDスペクトルである。
図9】実施例1に係る白色殿物に対するXRF分析およびICP-AES分析による分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、太陽光パネルに用いられるバックシート等に用いられているフッ素樹脂から湿式法によりフッ素を脱離させ、当該フッ素を回収すると共に、フッ化カルシウムを製造する方法に関するものである。
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0015】
1.太陽光パネルの構造
太陽光パネルの構造とバックシートについて、図面を参照しながら簡単に説明する。
図1は、太陽光パネルの断面概略図である。
図1に示すように、太陽光パネル1は、複数の太陽電池セル11と、太陽電池セル11から配線される金属パターン12と、太陽電池セル11および金属パターン12を封止する封止材13と、封止材13の一方の面に設けられるバックシート14と、封止材13の他方の面に設けられるガラス基板15と、封止材13やガラス基板15などの積層体の周囲を囲むフレーム部材16と、を備えて構成される。
【0016】
太陽光パネル1において、太陽電池セル11は、例えばシリコンなどを含む半導体から形成される。金属パターン12は、太陽電池セル11から配線される金属部材であって、例えば太陽電池セル11の表面に設けられる表面電極や太陽電池セル11の間を電気的に接続するバスバー電極を備えて構成されている。金属パターン12は、例えば銅(Cu)や銀(Ag)などの有価金属を含み、表面電極は主にAgから形成され、バスバー電極は主にCuから形成される。封止材13は、例えばエチレン‐酢酸ビニル共重合体(EVA)やポリエチレンなどの樹脂から形成されている。バックシート14は、例えばフッ素樹脂とPET樹脂との混合物から形成される。ガラス基板15は例えばガラスから形成される。フレーム部材16は、例えば金属や樹脂などから形成されている。
【0017】
図2は、バックシートに用いられている、フッ素樹脂とPET樹脂との混合物の1例の断面写真である。
図2に示すように、バックシートは、PET樹脂シートの表裏側または片側にポリフッ化ビニリデン樹脂(本発明において「PVDF」と記載する場合がある。)シートがラミネートされたものである。この他、PET樹脂シートの表裏側または片側にポリフッ化ビニル樹脂(本発明において「PVF」と記載する場合がある。)シートがラミネートされたものもある。
【0018】
2.フッ素を回収する対象物
本発明は、太陽光パネルに用いられたフッ素樹脂とPET樹脂とを含むバックシートからフッ素を回収するものである。フッ素樹脂とPET樹脂とを含むバックシートからフッ素を回収するにあたり、バックシートは、太陽光パネルから取り出したものを使用することができる。フッ素の回収効率を考慮すると、破砕処理をしたバックシートを用いることが好ましい。また、太陽光パネルからガラス基板およびフレーム部材を除去した太陽電池シート状構造物を破砕して得られる破砕物を選別してフッ素樹脂とPET樹脂とを含むバックシートの成分を分離してフッ素を回収する対象物としてもよい。
【0019】
フッ素を回収する対象物として、太陽光パネルから1からバックシート14を外した物を用いることができる。好ましくは、当該外したバックシート14を破砕して、フッ素樹脂とPET樹脂との混合物から形成された樹脂粒子を回収しても良い。
【0020】
以下、太陽光パネルからガラス基板およびフレーム部材を除去した太陽電池シート状構造物を破砕して得られる破砕物を、フッ素を回収する対象物とする場合について説明する。
太陽電池シート状構造物の破砕方法について、本発明者らが開示している特許第7021392号や特許第7091571号を初めとして、いくつかの方法が公知である。これらの方法を用いて太陽電池シート状構造物を破砕し、破砕物として、上述したバックシートに由来するフッ素樹脂とPET樹脂との混合物から形成された樹脂粒子を得ることが出来る。
以下、太陽光パネルの破砕方法の1例を簡単に説明する。
【0021】
図3は、太陽光パネルからガラス基板およびフレーム部材を除去した、太陽電池シート状構造物の断面概略図である。
上述した太陽光パネル1からガラス基板15およびフレーム部材16を除去し、図3に示す太陽電池シート状構造物10を得た後、これに破砕処理および分級処理を施す。
【0022】
具体的には、まず、太陽電池シート状構造物10(以下、単にシート状構造物10ともいう)を破砕する。これにより、各部材に由来する粒子を含む破砕物が形成される。破砕物には、例えば、金属成分とシリコンとが接合した接合粒子、金属単体粒子、樹脂粒子、シリコン単体粒子などが含まれる。
【0023】
破砕物の大きさは、特に限定されないが、樹脂と金属やシリコンとの分離を進めること、また後述の「3.PET樹脂除去工程」において、樹脂粒子の粒径が小さい方が好ましいとの観点からは、破砕物の粒径が10mm以下となるようにシート状構造物10を破砕することが好ましい。より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは3mm以下となるように破砕するとよい。このように破砕することにより、各構成材料の分離が進み、後段の分級が容易になる。
【0024】
破砕方法としては、破砕物の粒径を細かくする観点から、シート状構造物10にせん断作用を与えることができるせん断破砕が好ましい。使用する破砕機としては、例えば一軸破砕機や二軸破砕機など公知の破砕機を用いることができるが、一軸破砕機が好ましい。二軸破砕機では、破砕条件によっては破砕が粗くなってしまい、後段での各構成材料ごとの分離が困難になりやすいのに対して、一軸破砕機では、破砕が細かく、後段で各構成材料ごとの分離が容易になる。つまり、一軸破砕機によれば、封止材13やバックシート14を細かく破砕し、容易に金属やシリコンとの分離をすることができる。一軸破砕機としては、刃の形状によって一軸破砕機や一軸ハンマーミルなどがあるが、せん断破砕する観点から、一軸破砕機が好ましい。
【0025】
なお、破砕条件は、特に限定されず、破砕物の粒度分布が広くなるように、破砕機における刃の数、刃のクリアランス、および刃の回転数などを適宜調整するとよい。また、シート状構造物10は一段階で破砕してもよく、一次破砕、二次破砕といったように多段階で徐々に破砕してもよい。
【0026】
破砕物に含まれる各粒子は、構成材料に応じた粒径を有する。例えば樹脂のような軟質で粘りのある材料から形成された部材ほど、粗く破砕され、金属やシリコンのような硬くて脆い材料から形成された部材は、細かく破砕される傾向がある。そのため、破砕物中の樹脂粒子の粒径は比較的大きく、それ以外の成分を含む粒子(金属単体粒子など)の粒径は比較的小さくなる。つまり、破砕物において、粒径の大きな範囲は、樹脂などが多く含まれ、金属成分の比率が低くなる一方、粒径の小さな範囲は、樹脂などが混入しにくく、金属成分の比率が高くなる。
【0027】
上述した粒径の差を利用して、分級により樹脂粒子と接合粒子や金属単体粒子、シリコン単体粒子金属成分との選別が可能となる。
【0028】
さらに、樹脂粒子には、封止材13由来の樹脂粒子とバックシート14由来の樹脂粒子とが含まれている。そこで、これらの樹脂粒子の比重差、静電特性の差を用いて両者を分離し、バックシート14に由来するフッ素樹脂とPET樹脂との混合物から形成された樹脂粒子を回収することが好ましい。
【0029】
3.PET樹脂除去工程
バックシート14由来の樹脂粒子には、フッ素樹脂とPET樹脂との複合粒子が含まれている。
当該複合粒子は、後述する実施例1にて図4として写真データを示すように、フッ素樹脂粒子とPET樹脂とが付着した構造を有している。そこで、当該複合粒子からPET樹脂を除去することが好ましい。
【0030】
前記複合粒子からPET樹脂を除去するには、濃度1~10M(本発明において「M」とは、「mol/L」のことである。)のアルカリ水溶液を、PET樹脂が十分に除去されるように添加し、90℃以上に加熱して1時間以上攪拌してアルカリ処理を実施すれば良い。アルカリ水溶液としては水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液が好ましい。反応容器としてはSUS製の容器が好ましい。
すると、複合粒子中のPET樹脂はテレフタル酸に分解し、アルカリ水溶液に溶解して溶液となるので、ろ紙を初めとする公知のフィルターを用いて当該溶液を除去することにより、複合粒子から除去出来る。この結果、複合粒子はフッ素樹脂粒子のみとなるが、PET樹脂に含まれる酸化チタンなどの不純物が含まれる場合もある。これらの不純物は後工程である「6.フッ化カルシウムを生成し回収する生成工程および回収工程」にて除去することが出来る。そこで、ろ紙を初めとする公知のフィルターを用いて溶液をろ過して除き、フィルター上に残ったフッ素樹脂粒子を回収することが出来る。
尚、このとき溶液が酸性になると、テレフタル酸が析出するので留意する。
【0031】
4.フッ素樹脂粒子の粉砕工程
後工程である「5.脱フッ素工程」において、脱フッ素反応の反応速度を上げる観点からフッ素樹脂粒子の粒径は小さいことが好ましい。一方、フッ素樹脂粒子を粉砕して粒径を小さくするには、粉砕時間も粉砕エネルギーも必要である。
これらを勘案すると、前記回収されたフッ素樹脂粒子の粒径が1mm以下、好ましくは100~500μmとなるように粉砕する。
粉砕方法は、公知の方法で良いが、一軸破砕機やミキサーミルを用いることが出来る。
【0032】
このフッ素樹脂粒子の粉砕工程において、上述した「3.PET樹脂除去工程」は非常に有益である。これは、PET樹脂が軟かい樹脂である為、フッ素樹脂とPET樹脂との複合粒子を粉砕しようとする際の障害となり、粉砕時間や粉砕エネルギーの増加につながるからである。本発明においては、予め、複合粒子からPET樹脂を除去し、フッ素樹脂粒子の形にしてから粉砕工程や後述する「5.脱フッ素工程」を実施するという、2段階の処理を実施することで、PET樹脂の存在に起因する粉砕時間や粉砕エネルギーの増加を回避している。
【0033】
5.脱フッ素工程
本発明者らの検討によれば、フッ素樹脂粒子へアルカリ水溶液を反応させ、アルカリ処理によってフッ素を脱離させることは反応速度が遅い為、困難である。
ここで、本発明者らは研究の結果、触媒の存在下で、フッ素樹脂粒子へアルカリ水溶液を反応させてアルカリ処理を実施すれば、短時間の反応でフッ素樹脂粒子からフッ素を脱離させることが可能になることを知見した。
【0034】
ここで、本発明において用いている触媒について説明する。
本発明で用いている触媒は、所謂「相間移動触媒」と呼称されるものである。
相間移動触媒は、水に不溶の有機化合物と有機溶媒に不溶の試薬を反応させるために使用される触媒物質のことである。本発明においては、固体であるフッ素樹脂と、液体であるアルカリ水溶液との2相間において、アルカリ水溶液からフッ素樹脂へOHを移動させ、後述するように、・・・-CH-CF-・・・鎖へのOHの求核攻撃を増加させていると考えられる。
【0035】
本発明に係る脱フッ素反応に好適な触媒の例としては、水にも有機溶媒にも可溶な、長鎖アルキルアンモニウムカチオンを持つ第四級アンモニウム塩、クラウンエーテル、ホスホニウム化合物などが挙げられる。
例えば、水にも有機溶媒にも可溶な第四級アンモニウムの臭化物塩として、臭化テトラブチルアンモニウム(本発明において「TBAB」と記載する場合がある。)、臭化テトラプロピルアンモニウム(本発明において「TPAB」と記載する場合がある。)、臭化トリエチルベンジルアンモニウム(本発明において「TEBAB」と記載する場合がある。)、臭化ブチルエチルアンモニウム(本発明において「TBEAB」と記載する場合がある。)、臭化エチルデシルアンモニウム(本発明において「TEDAB」と記載する場合がある。)、臭化テトラブチルフォスフォニウム(本発明において「TBPB」と記載する場合がある。)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(本発明において「HTAB」と記載する場合がある。)、あるいは、臭化テトラブチルフォスフォニウム「TBPB」と記載する場合がある。)を挙げることが出来る。
また、例えば、水にも有機溶媒にも可溶な第四級アンモニウムの水酸化物塩として、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化トリエチルベンジルアンモニウム、水酸化ブチルエチルアンモニウム、水酸化エチルデシルアンモニウム、水酸化テトラブチルフォスフォニウム、水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、あるいは、水酸化テトラブチルフォスフォニウムを挙げることが出来る。
また、例えば、水にも有機溶媒にも可溶な第四級アンモニウムの塩化物塩として、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化トリエチルベンジルアンモニウム、塩化ブチルエチルアンモニウム、塩化エチルデシルアンモニウム、塩化テトラブチルフォスフォニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、あるいは、塩化テトラブチルフォスフォニウムを挙げることが出来る。
また、例えば、水にも有機溶媒にも可溶な第四級アンモニウムのヨウ化物塩として、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化トリエチルベンジルアンモニウム、ヨウ化ブチルエチルアンモニウム、ヨウ化エチルデシルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルフォスフォニウム、ヨウ化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、あるいは、ヨウ化テトラブチルフォスフォニウムを挙げることが出来る。
本発明者らの検討によれば、これらの触媒の中でも、TBABが好ましい。
【0036】
フッ素樹脂粒子からフッ素を脱離させるには、濃度1~10Mのアルカリ水溶液を十分に添加し、触媒を、溶液中の濃度が25~50mMになるよう添加する。添加する前記アルカリ水溶液中に含まれるアルカリは、フッ素樹脂粒子1gに対して0.05モル以上とすることができる。そして、当該溶液を50℃以上に加熱して10時間以上攪拌し、アルカリ処理を実施すれば良い。アルカリ水溶液としては水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。反応容器としてはSUS製の容器がましい。
尚、脱フッ素工程にて用いるアルカリ水溶液と、上述した「3.PET樹脂除去工程」にて用いたアルカリ水溶液とは、触媒の有無以外の点では、同一のアルカリ水溶液を用いることが出来る。そこで、両工程におけるアルカリ水溶液を同一のものとしておくことは、工程管理の観点から有益である。
【0037】
本発明者らは、触媒存在下におけるフッ素樹脂粒子へのアルカリ処理による、フッ素樹脂粒子からのフッ素の脱離のメカニズムを以下のように考えている。
フッ素樹脂であるポリフッ化ビニリデン樹脂の・・・-CH-CF-・・・鎖や、ポリフッ化ビニル樹脂の・・・-CH-CHF-・・・鎖のCHへOHが求核反応により攻撃し、Hが脱離する。続いてHの脱離に伴い、・・・-CH=CF-・・・鎖や、・・・-CH=CH-・・・鎖が形成されることでF-が脱離する。
この反応は、通常、反応速度が遅いが、本発明者らは、触媒の存在によりOHの活性が増加し、反応速度が増加するのであると考えている。
【0038】
6.フッ化カルシウムを生成し回収する生成工程および回収工程
脱フッ素工程で得られたフッ素イオンを含む溶液から、ろ紙を初めとする公知のフィルターを用いて、フィルター上に残ったフッ素樹脂粒子の残滓、酸化チタンなどのPET樹脂に由来する不純物を除去する。そして、得られた溶液を中性に中和し、さらに当該溶液へ、存在するフッ素イオンのモル当量以上の十分な塩化カルシウム等のカルシウムイオン源を添加する。塩化カルシウムを用いることにより、空気中の二酸化炭素の溶解による炭酸カルシウムの生成を回避しながら、フッ素イオンよりフッ化カルシウムを十分に生成し回収する生成工程および回収工程となる。
【0039】
7.異なる実施の形態
上述した実施の形態においては、「フッ素樹脂微粒子からのPET樹脂除去工程」と、「フッ素樹脂微粒子からフッ素を脱離させる脱フッ素工程」とを分離した工程として実施したが、工程簡略化の観点から、これらの工程を同時に実施することも可能である。
【0040】
この場合は、太陽光パネルから回収されたバックシートに由来するフッ素樹脂とPET樹脂との混合物から形成された樹脂粒子を、「4.フッ素樹脂粒子の粉砕工程」にて説明した方法で粉砕し、得られたフッ素樹脂とPET樹脂との混合物から形成された樹脂粒子へ、濃度1~10Mのアルカリ水溶液を、十分に添加し、触媒を溶液中で25~50mMの濃度になるよう添加し、50℃以上に加熱して10時間以上攪拌すれば良い。
【0041】
すると、「PET樹脂除去工程」と「脱フッ素工程」とが同時に進行するので、脱離したフッ素イオンを含む溶液から、ろ紙を初めとする公知のフィルターを用いて、フッ素樹脂微粒子の残滓や、酸化チタンなどのPET樹脂に由来する不純物、等を除去する。そして、得られた溶液を中性に中和し、さらに溶液へ塩化カルシウム等のカルシウムイオン源を添加する。塩化カルシウムを用いることにより、炭酸カルシウムの生成を抑制しながら、フッ素イオンをフッ化カルシウムとして回収することが出来る。
【実施例0042】
以下、本発明について実施例を参照しながら具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
太陽光パネルからガラス基板およびフレーム部材、太陽電池セル等を取り除き、バックシートを準備した。当該バックシートは、PET樹脂シートの表裏側にPVDF樹脂シートがラミネートされた混合物である。続いて、一軸破砕機を用いてバックシートが3mm以下に破砕されるよう、3mmスクリーンを通過するまで破砕し、通過しない場合は繰り返し処理した。当該PVDF樹脂とPET樹脂との混合物から形成された樹脂粒子の外観写真を図4に示す。
【0044】
回収したPVDF樹脂とPET樹脂との混合物10g(フッ素量は0.93g)に、濃度4Mの水酸化ナトリウム水溶液100mlを加えて、90℃に加熱し、10時間攪拌してアルカリ処理して第1のアルカリ処理液とし、PVDF樹脂とPET樹脂との混合物から形成された樹脂粒子からPET樹脂のみを分解した。なお、反応容器としてはSUS304製の容器を使用した。この後、ろ紙を用いて第1のアルカリ処理液をろ過し、ろ紙上に残ったフッ素樹脂(PVDF)粒子を回収した。当該回収されたフッ素樹脂(PVDF)粒子の外観写真を図5に示す。
【0045】
回収されたフッ素樹脂(PVDF)粒子を、ミキサーミルを用いて粉砕し、平均粒径が100μmであるフッ素樹脂(PVDF)粒子を得た。
【0046】
当該粉砕されたフッ素樹脂(PVDF)粒子2gへ、濃度4Mの水酸化ナトリウム水溶液100mlを加え、さらに、触媒としてTBABを、濃度が50mMとなるように加え、90℃に加熱し、10時間攪拌して、フッ素樹脂(PVDF)からフッ素イオンを脱離させる脱フッ素工程を行うことにより第2のアルカリ処理液を得た。なお、反応容器としてはSUS304製の容器を使用した。
【0047】
脱フッ素工程の後、第2のアルカリ処理液をろ紙を用いてろ過し、ろ紙上に残った脱フッ素されたフッ素樹脂(PVDF)粒子の残滓、PET樹脂に含まれる酸化チタンなどの不純物を除去した後、溶液のpHを中性に調整した。その後、モル比でフッ素の1.5倍量の塩化カルシウムを添加して白色殿物を生成させ、ろ紙を用いて当該白色殿物を回収する回収工程を行ったところ1.68gの白色殿物が回収された。当該白色殿物の外観写真を図6に示す。一方、ろ紙上に残った脱フッ素されたフッ素樹脂(PVDF)粒子の残滓、PET樹脂に含まれる酸化チタンなどの不純物の外観写真を図7に示す。
【0048】
回収した白色殿物の分析結果について説明する。
回収した白色殿物およびフッ化カルシウム試薬のXRDスペクトルを図8に示す。図8において上欄は実施例1に係る白色殿物のXRDスペクトルであり、下欄は試薬(Wako社製、フッ化カルシウム)のXRDスペクトルである。両XRDスペクトルの比較から、白色殿物はフッ化カルシウムに特異的なスペクトルが確認された。
【0049】
また、実施例1に係る白色殿物に対する波長分散型XRF分析結果から、白色殿物は構成物質として97.5%のフッ化カルシウムを含むことが明らかとなり、含有されているフッ素量は0.82gであることが判明した。従って、実施例1に係る工程全体でのフッ素の回収率は88%であることが判明した。
さらに、S、As、Pb等に関するICP-AES分析結果より、実施例1に係る白色殿物が含む不純物であるAs、Pb等の含有量において、商業ベースでのアシッドグレードおよび冶金・セラミックグレードの蛍石に適用される品質基準項目を満足していた。
実施例1に係る白色殿物に対する、XRF分析およびICP-AES分析による分析結果、および、アシッドグレードおよび冶金・セラミックグレードの蛍石に適用される品質基準項目を図9の表に示す。
【0050】
以上より、太陽光パネルのバックシートより、リサイクル品質を満たすフッ化カルシウムの回収およびフッ化カルシウムの製造が可能であることが判明した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9