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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007691
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】高速炉の炉心
(51)【国際特許分類】
   G21C 1/02 20060101AFI20240112BHJP
   G21C 3/60 20060101ALI20240112BHJP
   G21C 3/62 20060101ALI20240112BHJP
   G21C 3/30 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G21C1/02
G21C3/60
G21C3/62 700
G21C3/30 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108926
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤村 幸治
(72)【発明者】
【氏名】三輪 順一
(72)【発明者】
【氏名】渕田 翔
(57)【要約】
【課題】
炉心性能の悪化を抑制しつつ、出力分布の平坦化をはかり、冷却材出口温度を高めて、溶融塩蓄熱システムへの適合性が高いナトリウム冷却金属燃料高速炉を実現し得る高速炉の炉心を提供する。
【解決手段】
高速炉の炉心1は、Pu富化度を11~13wt%の範囲内で所定のPu富化度とした中空燃料を被覆管内に収納する燃料棒をラッパ管内に稠密配置する燃料集合体であって、中空燃料の中空径が大きい燃料棒を有する第1の燃料集合体2を炉心の中心側に装荷し、第1の燃料集合体2の中空燃料の中空径よりも小さい中空径の燃料棒を有する第2の燃料集合体3を炉心の周辺側に装荷する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pu富化度を11~13wt%の範囲内で所定のPu富化度とした中空燃料を被覆管内に収納する燃料棒をラッパ管内に稠密配置する燃料集合体であって、
前記中空燃料の中空径が大きい燃料棒を有する第1の燃料集合体を炉心の中心側に装荷し、前記第1の燃料集合体の中空燃料の中空径よりも小さい中空径の燃料棒を有する第2の燃料集合体を炉心の周辺側に装荷することを特徴とする高速炉の炉心。
【請求項2】
請求項1に記載の高速炉の炉心において、
前記中空燃料をU-Pu-Zrの金属燃料合金としたことを特徴とする高速炉の炉心。
【請求項3】
請求項1に記載の高速炉の炉心において、
前記燃料棒の上部にラッパ管と流動ナトリウムで構成されるナトリウムプレナムを有し、前記第1の燃料集合体の中空燃料が中空のU-Pu-Zrの金属燃料合金であって中空燃料の長さが、前記第2の燃料集合体の中空燃料が中空のU-Pu-Zrの金属燃料合金であって中空燃料の長さより短く、前記第1の燃料集合体のナトリウムプレナムの高さが前記第2の燃料集合体のナトリウムプレナムの高さより長いことを特徴とする高速炉の炉心。
【請求項4】
請求項2に記載の高速炉の炉心において、
前記燃料棒の上部にラッパ管と流動ナトリウムで構成されるナトリウムプレナムを有し、前記第1の燃料集合体の中空のU-Pu-Zrの金属燃料合金の長さが、前記第2の燃料集合体の中空のU-Pu-Zrの金属燃料合金の長さより短く、前記第1の燃料集合体のナトリウムプレナムの高さが前記第2の燃料集合体のナトリウムプレナムの高さより長いことを特徴とする高速炉の炉心。
【請求項5】
請求項3に記載の高速炉の炉心において、
前記中空のU-Pu-Zrの金属燃料の長さと前記ナトリウムプレナムの高さの合計が、前記第1の燃料集合体と前記第2の燃料集合体とで同一であることを特徴とする高速炉の炉心。
【請求項6】
請求項4に記載の高速炉の炉心において、
前記中空のU-Pu-Zrの金属燃料の長さと前記ナトリウムプレナムの高さの合計が、前記第1の燃料集合体と前記第2の燃料集合体とで同一であることを特徴とする高速炉の炉心。
【請求項7】
請求項1に記載の高速炉の炉心において、
前記中空燃料が中空のU-Pu-Zrの金属燃料合金であって、前記中空のU-Pu-Zrの金属燃料合金をボンドナトリウムに浸漬した燃料棒であることを特徴とする高速炉の炉心。
【請求項8】
請求項2に記載の高速炉の炉心において、
前記中空のU-Pu-Zrの金属燃料合金をボンドナトリウムに浸漬した燃料棒であることを特徴とする高速炉の炉心。
【請求項9】
請求項1に記載の高速炉の炉心において、
前記第1の燃料集合体の燃料体積割合に対する中性子無限増倍率と前記第2の燃料集合体の燃料体積割合に対する中性子無限増倍率の燃焼度依存性を同一とし、燃焼サイクルを通じた半径方向の出力分担平坦化を維持することを特徴とする高速炉の炉心。
【請求項10】
請求項2に記載の高速炉の炉心において、
前記第1の燃料集合体の燃料体積割合に対する中性子無限増倍率と前記第2の燃料集合体の燃料体積割合に対する中性子無限増倍率の燃焼度依存性を同一とし、燃焼サイクルを通じた半径方向の出力分担平坦化を維持することを特徴とする高速炉の炉心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の冷却材出口温度を高くして、溶融塩を用いる蓄熱システムへの適用性を増大するナトリウム冷却金属燃料高速炉の炉心に関する。
【背景技術】
【0002】
高速炉の燃料集合体、炉心に関しては、一般的に、高速増殖炉は、原子炉容器内に炉心を配置しており、冷却材である液体ナトリウムを原子炉容器内に充填している。その炉心に装荷される燃料集合体は、プルトニウムを富化した劣化ウラン(U-238)を封入した複数の燃料棒、束ねられた複数の燃料棒を取り囲むラッパ管、これらの燃料棒の下端部、及び燃料棒の下方に位置する中性子遮へい体を支持するエントランスノズル、及び燃料棒の上方に位置する冷却材流出部を有する。
【0003】
高速増殖炉の炉心は、内側炉心領域及びこの内側炉心領域を取り囲む外側炉心領域を有する炉心燃料領域、炉心燃料領域を取り囲むブランケット燃料領域及びブランケット領域を取り囲む遮蔽体領域を有する。標準的な均質炉心の場合、外側炉心領域に装荷される燃料集合体のPu富化度は、内側炉心領域に装荷される燃料集合体のPu富化度よりも高くなっている。この結果、炉心の半径方向における出力分布が平坦化される。
【0004】
燃料集合体の各燃料棒に収納される核燃料物質の形態としては、金属燃料、窒化物燃料及び酸化物燃料がある。これらのうち、酸化物燃料が最も実績が豊富である。
Pu及び劣化ウランのそれぞれの酸化物を混合した混合酸化物燃料、すなわち、MOX燃料のペレットが、燃料棒内で軸方向の中央部において80~100cm程度の高さに充填される。さらに、燃料棒内には、劣化ウランで作られた複数の二酸化ウランペレットを充填した軸方向ブランケット領域が、MOX燃料の充填領域の上方及び下方にそれぞれ配置されている。内側炉心領域に装荷される内側炉心燃料集合体及び外側炉心領域に装荷される外側炉心燃料集合体は、そのように、MOX燃料の複数のペレットを充填した複数の燃料棒を有する。外側炉心燃料集合体のPu富化度は、内側炉心燃料集合体のPu富化度よりも高くなっている。
【0005】
炉心燃料領域を取り囲むブランケット燃料領域には、劣化ウランで作られた複数の二酸化ウランペレットを充填した複数の燃料棒を有するブランケット燃料集合体が装荷される。炉心燃料領域に装荷された燃料集合体内で生じる核分裂反応で発生した中性子のうち、炉心燃料領域から漏れた中性子が、ブランケット燃料領域に装荷されたブランケット燃料集合体の各燃料棒内のU-238に吸収される。この結果、ブランケット燃料集合体の各燃料棒内で核分裂性核種であるPu-239が新たに生成される。
【0006】
また、高速増殖炉の起動時、停止時及び原子炉出力の調節時には、制御棒が用いられる。制御棒は、炭化ホウ素(BC)ペレットをステンレス製の被覆管に封入した複数の中性子吸収棒を有し、これらの中性子吸収棒を、内側炉心燃料集合体及び外側炉心燃料集合体と同様に、横断面が正六角形をしたラッパ管に収納されて構成される。制御棒は、主炉停止系及び後備炉停止系の独立した2系統の構成となっており、主炉停止系及び後備炉停止系のいずれか一方のみで高速増殖炉の緊急停止が可能になる。
【0007】
2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーの大量導入に伴う負荷変動への適合性が原子力発電に求められている。米国において、小型のナトリウム冷却金属燃料高速炉に、太陽光発電で実績を有する溶融塩を用いた蓄熱システムを併設することによって、負荷変動に対応するプラントが、提案されている。金属燃料高速炉は、金属燃料の健全性を確保する観点から、酸化物燃料高速炉と比べて原子炉の1次系冷却材出口温度を50℃程度低い設計とする例が多く、本発明が主な対象とする、小型ナトリウム冷却金属燃料高速炉の場合、約500℃を想定している。一方で、上述の太陽光発電で実績を有する蓄熱システムで使用される硝酸塩系の溶融塩の場合、溶融塩の融点や、蓄熱システムの高温側のタンクの温度の条件から、原子炉冷却材出口温度を540℃から550℃程度とすることが望まれる。
【0008】
ナトリウム冷却金属燃料高速炉の冷却材出口温度を向上するためには、出力分布を平坦化して、無駄流量を抑制し、冷却材の流量を減らす必要がある。出力分布を平坦化するために、全ての炉心燃料のPu富化度を一種類とし、中性子の漏れが大きい、外側炉心の金属燃料、U-Pu-ZrのZr含有率よりも内側炉心のZr含有率を高くする方法が、特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-83966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に示される、全ての炉心燃料のPu富化度を一種類とした金属燃料高速炉の炉心において、内側炉心の金属燃料のZr含有率を外側炉心よりも高くすると、内側炉心の重金属(UやPu)の装荷量が減るため、燃料装荷量が減少し、増殖比や燃焼反応度などの炉心性能が低下する課題が発生する。
そこで、本発明は、炉心性能の悪化を抑制しつつ、出力分布の平坦化をはかり、冷却材出口温度を高めて、溶融塩蓄熱システムへの適合性が高いナトリウム冷却金属燃料高速炉を実現し得る高速炉の炉心を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る高速炉の炉心は、Pu富化度を11~13wt%の範囲内で所定のPu富化度とした中空燃料を被覆管内に収納する燃料棒をラッパ管内に稠密配置する燃料集合体であって、前記中空燃料の中空径が大きい燃料棒を有する第1の燃料集合体を炉心の中心側に装荷し、前記第1の燃料集合体の中空燃料の中空径よりも小さい中空径の燃料棒を有する第2の燃料集合体を炉心の周辺側に装荷することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、炉心性能の悪化を抑制しつつ、出力分布の平坦化をはかり、冷却材出口温度を高めて、溶融塩蓄熱システムへの適合性が高いナトリウム冷却金属燃料高速炉を実現し得る高速炉の炉心を提供することが可能となる。
例えば、高速炉の炉心燃料集合体に装荷する燃料のPu富化度を11~13wt%の範囲で一定とした中空燃料を用い、中空燃料の中空径が大きい燃料集合体を炉心の中心側に装荷し、中空燃料の中空径が小さい燃料集合体を炉心の周辺側に装荷することによって、炉心の性能を低下せずに、出力分布の空間的、時間的な変動を抑制し、無駄流量を排除して原子炉冷却材出口温度を高くして、溶融塩蓄熱システムへの適合性が高いナトリウム冷却金属燃料高速炉の炉心が実現できる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1に係る高速炉の炉心燃料集合体の水平断面図であり、(a)は内側炉心燃料集合体の水平断面であり、(b)は外側炉心燃料集合体の水平断面であり、(c)内側炉心燃料集合体及び外側炉心燃料集合体を装荷する高速炉の1/2炉心の水平断面図である。
図2図1に示す内側炉心燃料集合体及び外側炉心燃料集合体の縦断面図である。
図3】Pu富化度をパラメータとした、高速炉の炉心燃料集合体の中性子無限増倍率の燃焼度依存性を示す図である。
図4】燃焼期間中の最大反応度変化のPu富化度依存性を示す図である。
図5】燃料体積割合をパラメータとした金属燃料集合体の中性子無限増倍率の燃焼度依存性を示す図である。
図6】本発明の実施例2に係る高速炉における炉心の縦断面図である。
図7図6に示す内側炉心燃料集合体及び外側炉心燃料集合体の縦断面図である。
図8】本発明の実施例3に係る内側炉心燃料集合体及び外側炉心燃料集合体の縦断面図である。
図9図8に示す内側炉心燃料集合体及び外側炉心燃料集合体が装荷される高速炉における炉心の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【実施例0015】
本実施例に係る高速炉における、炉心燃料集合体と1/2炉心の水平断面を示す図1、炉心燃料集合体の縦断面を示す図2、Pu富化度をパラメータとした炉心燃料集合体の中性子無限増倍率の燃焼変化を示す図3、炉心燃料集合体の燃焼期間中の最大反応度変化のPu富化度依存性を示す図4、及び、内側炉心燃料集合体と外側炉心燃料集合体の中性子無限増倍率の燃焼変化を比較した図5及び炉心燃料集合体の仕様を示す表1を用いて本実施例について説明する。
【0016】
本実施例では、中空金属燃料を用いることによって、燃料のスミヤ密度を通常の金属燃料の75%かそれ以下として燃料スエリングの吸収を達成しつつ、燃料合金と燃料被覆管間の間隙をMOX燃料炉心の場合と同程度に小さくしてHeボンド化を可能としたナトリウム冷却金属燃料高速炉の燃料集合体とそれを装荷する高速炉の炉心を対象とする。
【0017】
図1(a)に本実施例に係る内側炉心燃料集合体、図1(b)に外側炉心燃料集合体のそれぞれ水平断面図を、図1(c)にそれらを装荷した高速炉の1/2炉心水平断面図をそれぞれ示す。
図1に示すように、内側炉心燃料集合体2は、六角形状のステンレス鋼製のラッパ管9の内部に、中空を有するU-Pu-Zr合金7を内包する燃料棒(図示せず)を三角ピッチ稠密配置している。ラッパ管9の内側の燃料棒7同志の間の領域(冷却材ナトリウムが通流する領域)10は、燃料集合体の下方から上流に流れる冷却材であるナトリウムで満たされている。一例として、燃料集合体のピッチは157.2mmで、燃料棒の直径は8.5mm、中空の直径は2.82mmである。図1では簡略化しているが、燃料集合体1体の燃料棒の本数は217本である。内側炉心燃料集合体2(含燃料集合体同志の間隙)に占める燃料の体積割合は30.0%である。一方、外側炉心燃料集合体3において、内側炉心燃料集合体2と異なるのは、中空を有するU-Pu-Zr合金(外側炉心燃料集合体の中空金属燃料)8の中空の直径が2.27mmと細い点であり、その結果、外側炉心燃料集合体3における燃料の体積割合は33.6%と大きい。
【0018】
燃料集合体の高さ方向の構造を説明する。図2は、図1に示す内側炉心燃料集合体及び外側炉心燃料集合体の縦断面図である。図2に示すように、内側炉心燃料集合体2に装荷された燃料棒110は、中空(内側炉心燃料集合体の金属燃料の中空)114を有する円筒形状のU-Pu-Zr燃料合金(内側炉心燃料集合体の金属燃料)113をステンレス製の円管形状の被覆管の内部に収納され、気体状の核分裂生成物FP(fission product)を保持するガスプレナム116の上部に設置した金属燃料支持部材115上に配置され、上部端栓111と下部端栓112を溶接してヘリウム(He)ガスと一緒に封入されている。U-Pu-Zr合金の縦方向の長さは100cmである。外側炉心燃料集合体3も同様の構造、寸法であるが、上述したように、U-Pu-Zr燃料合金(外側炉心燃料集合体の金属燃料)118の中空119の直径が内側炉心燃料集合体2のU-Pu-Zr燃料合金(内側炉心燃料集合体の金属燃料)113の中空114の直径より小さい点が異なる。
【0019】
金属燃料U-Pu-Zrを装荷した高速炉の燃料集合体において、Pu富化度をパラメータとした時の中性子無限増倍率(k)の燃焼度(GWd/t)に対する依存性の曲線を高速炉の解析手法で計算した結果をプロットした結果を図3に示す。なお、図3では、横軸に燃焼度(GWd/t)を、縦軸に中性子無限増倍率(k)をとり、Pu富化度18wt%の中性子無限増倍率23、Pu富化度15wt%の中性子無限増倍率24、Pu富化度12wt%の中性子無限増倍率25、Pu富化度9wt%の中性子無限増倍率26、及び、Pu富化度6wt%の中性子無限増倍率27の曲線を示している。図3から、Pu富化度が高い場合、初期の中性子無限増倍率(k)が大きいが、転換比が小さくPuの消費が生成を上回るので燃焼に伴い中性子無限増倍率(k)の低下割合が大きいことが分かる。逆に、Pu富化度が低い場合には、転換比が大きくPuの生成が消費を上回るので、初期の中性子無限増倍率(k)は小さいが、燃焼に伴い中性子無限増倍率(k)の増加割合が大きいことが分かる。図3に基づき、燃料集合体の燃焼期間を通じた最大反応度の変化のPu富化度依存性を整理した図、すなわち、燃焼期間中の最大反応度変化のPu富化度依存性を示す図を図4に示す。図4から、反応度1$(=実効遅発中性子割合、Puを燃料として用いる高速炉の場合の約0.3%で定義)を目安の制限値として、それを下回る小さな最大反応度変化となるPu富化度の範囲は11wt%から13wt%の範囲であり、本実施例ではこの範囲で特にPu富化度が12wt%で臨界となる様に燃料集合体の仕様や炉心に装荷される燃料集合体数を設定する。加えて、中性子の漏れ量が大きい、外側炉心燃料集合体の出力を、炉心中心側の内側炉心燃料集合体の出力に近づける必要がある。従来の高速炉の炉心設計では、外側炉心燃料集合体のPu富化度を内側炉心燃料集合体のPu富化度よりも高くすることによって、炉心半径方向の出力分布の平坦化を実現しているが、図3に示したように、Pu富化度が変わると、燃料集合体の中性子無限増倍率(k)の燃焼度依存性が大きくことなるため、燃焼サイクルを通じた半径方向の出力平坦化を維持することは困難である。そこで、本実施例では、図5に示すように、金属燃料U-Pu-Zr合金のPu富化度は12wt%一定に保ち、外側炉心燃料集合体の燃料体積割合を内側炉心燃料集合体の燃料体積割合よりも高くすることによって、内側炉心燃料の燃料体積割合に対する中性子無限増倍率(k)45と外側炉心燃料集合体の燃料体積割合に対する中性子無限増倍率(k)43の燃焼度依存性を同じとして、燃焼サイクルを通じた半径方向の出力分担平坦化を維持することによって、無駄流量を削減して、原子炉の冷却材出口温度の増大を実現する。内側炉心燃料集合体と外側炉心燃料集合体の燃料体積割合は、表1に示すように、金属燃料U-Pu-Zr合金の中空径を、内側炉心燃料集合体で大きく、外側炉心燃料集合体で小さく設定することで実現する。なお、図5の中性子無限増倍率(k)44は炉心の平均的な中性子無限増倍率の燃焼度依存性を示している。
【0020】
【表1】
【0021】
本実施例では、原子炉の電気出力300MW、熱出力714MW、炉心燃料の取出平均燃焼度約100GWd/tの条件のもと、表1に示す仕様の炉心燃料集合体を装荷することによって、半径方向の出力分布を平坦化し、さらに、燃焼サイクルを通じた時間的な出力変動を最小化することによって、無駄流量を削減して、原子炉冷却材の出口温度を約500℃から約550℃に高くできることを、炉心計算によって確認している。
【0022】
以上によって、溶融塩を用いる蓄熱システムへの適合性を向上できると共に、原子炉冷却材の出口温度を約50℃高くすることによって熱効率を増大でき、経済性向上の効果も得られた。
【0023】
以上の通り本実施例によれば、炉心性能の悪化を抑制しつつ、出力分布の平坦化をはかり、冷却材出口温度を高めて、溶融塩蓄熱システムへの適合性が高いナトリウム冷却金属燃料高速炉を実現し得る高速炉の炉心を提供することが可能となる。
【0024】
また、高速炉の炉心燃料集合体に装荷する燃料のPu富化度を11~13wt%の範囲で一定とした中空燃料を用い、中空燃料の中空径が大きい燃料集合体を炉心の中心側に装荷し、中空燃料の中空径が小さい燃料集合体を炉心の周辺側に装荷することによって、炉心の性能を低下せずに、出力分布の空間的、時間的な変動を抑制し、無駄流量を排除して原子炉冷却材出口温度を高くして、溶融塩蓄熱システムへの適合性が高いナトリウム冷却金属燃料高速炉の炉心が実現できる。
【実施例0025】
図6は、本発明の実施例2に係る高速炉における炉心の縦断面図であり、図7は、図6に示す内側炉心燃料集合体及び外側炉心燃料集合体の縦断面図である。本実施例では内側炉心燃料集合体及び外側炉心燃料集合体において、中空金属燃料U-Pu-Zrを収納した燃料棒の上部にラッパ管と流動ナトリウムより構成されるナトリウプレナムを設置した点が実施例1と異なる。
【0026】
図7に示すように、内側炉心燃料集合体51において、上述の実施例1における図2に示したものと同様の中空金属燃料U-Pu-Zr(内側炉心燃料集合体の金属燃料)66を収納した燃料棒62の上部にラッパ管9と流動ナトリウムより構成されるナトリウプレナム601を設置した点が実施例1の炉心燃料集合体の構造と異なる。さらに、外側炉心燃料集合体52における燃料棒602に収納した中空金属燃料U-Pu-Zr合金(外側炉心燃料集合体の金属燃料)603の縦方向の長さが、内側炉心燃料集合体の中空金属燃料U-Pu-Zr合金66より長く、この長くなった分だけナトリウムプレナム606の高さが短くなっている。
【0027】
炉心の水平断面の配置図は、上述の実施例1の図1(c)と同じである。炉心の縦断面図は図6の通りで、内側炉心燃料集合体51を装荷した内側炉心領域53の高さが、外側炉心燃料集合体52を装荷した外側炉心領域54よりも低く、逆にナトリウムプレナム56が内側炉心領域で厚く、外側炉心領域で薄くなっている。ナトリウムプレナム56は定常運転時には中性子の反射体として機能するため、炉心性能は損なわれずに、上述の実施例1と同様の空間的および時間的な出力平坦化効果を奏する。従って、冷却材出口温度を高くする効果は本実施例においても奏し得る。
【0028】
高速炉のスクラム失敗を想定した流量喪失事象ULOF(Unticipated Loss of Flow)において、流量喪失時には炉心燃料集合体の燃料領域上端の冷却材温度が最初に上昇してナトリウムの密度が減少するため、炉心燃料上端のナトリウムプレナムやその上方への中性子の漏えい量が増大して、大きな負の反応度が印加されるので、反応度や出力の増大が抑制される。本実施例では、ボイド反応度への寄与が大きい、内側炉心領域の炉心燃料が低く、上述の印加される負の反応度の絶対値が増大するため、正味の反応度が負となり、ULOF時の冷却材ナトリウムの沸騰を回避でき、固有の安全性が向上する効果が得られる。
【0029】
以上の通り本実施例によれば、実施例1の効果に加え、ULOF時の冷却材ナトリウムの沸騰を回避でき、固有の安全性が向上する効果が得られる。
【実施例0030】
図8は、本発明の実施例3に係る内側炉心燃料集合体及び外側炉心燃料集合体の縦断面図であり、図9は、図8に示す内側炉心燃料集合体及び外側炉心燃料集合体が装荷される高速炉における炉心の縦断面図である。本実施例では、中空金属燃料と被覆管の間の間隙が広く設定されており、ギャップコンダクタンスを改善するために液体状のボンドNaに浸漬されている点が実施例1と異なる。
【0031】
図8に示すように、内側炉心燃料集合体70の燃料棒71には、実施例1と同様の中空金属燃料U-Pu-Zr合金75がステンレス製の被覆管74に収納され、上部端栓72と下部端栓73によって封止されている。上述の実施例1の金属燃料との相違は、中空金属燃料U-Pu-Zr合金75と被覆管74の間の間隙が広く設定されており、ギャップコンダクタンスを改善するために液体状のボンドNaに浸漬されている点である。外側炉心燃料集合体78も同様の構造であるが、内側炉心燃料集合体70との相違は、実施例1と同様に、外側炉心燃料集合体の中空金属燃料合金701の中空702の直径が、内側炉心燃料集合体の中空金属燃料合金75の中空76の直径よりも小さいことである。内側炉心燃料集合体70と外側炉心燃料集合体78における燃料体積割合は、上述の実施例1の表1に示したものと同じである。
【0032】
炉心の縦断面図は図9の通りで、図8に示した内側炉心燃料集合体70を内側炉心領域81に装荷し、外側炉心燃料集合体78を外側炉心領域82に装荷する。実施例1及び実施例2と異なり、ガスプレナム領域83は炉心燃料領域の上部に配置されている。また、実施例2との相違は、内側炉心領域と外側炉心領域でにおける炉心燃料の高さは同じである。
【0033】
本実施例では、金属燃料が熱伝導率の高い液体状のボンドNaに浸漬された状態で被覆管に収納されており、定常運転時の金属燃料の温度を、上述の実施例1及び実施例2よりも低く、また過渡時の冷却材温度に追随するため、特にULOF時に冷却材温度が上昇した場合、大きな負のドップラー反応度の印加が期待でき、固有の安全性が向上する。
【0034】
以上の通り本実施例によれば、実施例1の効果に加え、ULOF時に冷却材温度が上昇した場合、大きな負のドップラー反応度の印加が期待でき、固有の安全性を向上することが可能となる。
【0035】
以上の実施例1乃至実施例3では、冷却材をナトリウムとしていたが、鉛や鉛-ビスマスとしても同様の効果が達成できる。また、燃料を金属燃料U-Pu-Zr合金としていたが、MOX燃料や窒化物燃料としても同様の効果が得られる。さらに、上記のそれぞれの冷却材とそれぞれの燃料の任意の組合せに対しても同様の効果が得られる。
【0036】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…高速炉の1/2炉心
2…内側炉心燃料集合体
3…外側炉心燃料集合体
4…径方向ブランケット燃料集合体
5…遮蔽体集合体
6…制御棒集合体
7…内側炉心燃料集合体の中空金属燃料
8…外側炉心燃料集合体の中空金属燃料
9…ラッパ管
10…冷却材ナトリウム通流する領域
23…Pu富化度18wt%の中性子無限増倍率
24…Pu富化度15wt%の中性子無限増倍率
25…Pu富化度12wt%の中性子無限増倍率
26…Pu富化度9wt%の中性子無限増倍率
27…Pu富化度6wt%の中性子無限増倍率
43…外側炉心燃料集合体の燃料体積割合に対する中性子無限増倍率
44…炉心平均の燃料体積割合に対する中性子無限増倍率
45…内側炉心燃料の燃料体積割合に対する中性子無限増倍率
51,70…内側炉心燃料集合体
52,78…外側炉心燃料集合体
53,81…内側炉心領域
54,82…外側炉心領域
55,84…遮蔽体集合体
56,601,606…ナトリウムプレナム
57,69,77,83,116,605…ガスプレナム
58…中心
62,71,110…内側炉心燃料集合体の燃料棒
63,72,111…上部端栓
64,73,112…下部端栓
65,74…被覆管
66,75,113…内側炉心燃料集合体の金属燃料
67,76,114…内側炉心燃料集合体の金属燃料の中空
68,115…金属燃料支持部材
79,117,602…外側炉心燃料集合体の燃料棒
118,603,701…外側炉心燃料集合体の金属燃料
119,604,702…外側炉心燃料集合体の金属燃料の中空
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9