(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076914
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】脱水システムの運転制御方法および脱水システム
(51)【国際特許分類】
C02F 11/121 20190101AFI20240530BHJP
【FI】
C02F11/121 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188751
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】萩野 隆生
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美有
(72)【発明者】
【氏名】飯倉 智弘
【テーマコード(参考)】
4D059
【Fターム(参考)】
4D059AA03
4D059BE04
4D059BE15
4D059BE26
4D059BE56
4D059BJ00
4D059CB06
4D059CB07
4D059EA01
4D059EA02
4D059EA20
4D059EB20
(57)【要約】
【課題】所定の目標性能および汚泥の処理コストの最小化を同時に満足することができる脱水システムの運転制御方法が提供される。
【解決手段】脱水システムの運転制御方法が提供される。脱水システムの運転制御方法は、複数の処理装置ごとに異なる設定値を適用し、測定値を設定値に反映して、複数の処理装置のそれぞれの運転を制御する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測困難な性状変化が起こり得る有機性廃棄物を処理する複数の処理装置を備える脱水システムの運転制御方法であって、
前記複数の処理装置に共通する運転条件を決定する運転操作項目に関して、前記複数の処理装置ごとに異なる設定値を適用し、
前記複数の処理装置のそれぞれの処理性能を評価する計装機器に基づいて取得した測定値を前記設定値に反映して、前記複数の処理装置のそれぞれの運転を制御する、脱水システムの運転制御方法。
【請求項2】
前記複数の処理装置のそれぞれは、前記有機性廃棄物としての汚泥の圧搾により、前記汚泥から水が分離された脱水ケーキを排出する脱水装置であり、
前記測定値は、投入口の汚泥量レベル、前記汚泥の、前記脱水装置のろ過筒内の圧力、および前記脱水ケーキの含水率のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の脱水システムの運転制御方法。
【請求項3】
前記測定値および前記運転操作項目から特定される座標系上にある相関関係で示される複数のデータ点を決定し、
前記決定された複数のデータ点に基づいて、前記運転操作項目の変化に対する前記測定値の変化が所定の許容範囲内である運転操作安定領域と、前記変化が所定の許容範囲を超える運転操作変化領域と、を決定し、
前記複数の処理装置の一方に対応する、前記設定値としての基準設定値が前記運転操作安定領域に属するように、かつ前記複数の処理装置の他方に対応する、前記設定値としての変化設定値が前記運転操作変化領域に属するように、前記複数の処理装置のそれぞれの運転を制御する、請求項1に記載の脱水システムの運転制御方法。
【請求項4】
前記基準設定値と前記変化設定値におけるそれぞれの前記測定値との差分が所定の値よりも大きくなった場合、前記基準設定値および前記変化設定値を再設定し、
前記基準設定値と前記変化設定値におけるそれぞれの前記測定値との差分が所定の値よりも小さくなった場合、前記基準設定値および前記変化設定値を再設定する、請求項3に記載の脱水システムの運転制御方法。
【請求項5】
前記計装機器から得られた測定値を時系列に沿って連続的に記録し、
前記記録された測定値に基づいて、前記測定値の経時変化量を算出し、
前記経時変化量を前記設定値の再設定の計算に用いる、請求項1に記載の脱水システムの運転制御方法。
【請求項6】
機械学習アルゴリズムにより構築されたモデルを用いた演算によって、前記運転操作項目に関する最適値を決定し、
前記最適値に基づいて、前記設定値を決定する、請求項5に記載の脱水システムの運転制御方法。
【請求項7】
前記設定値は、前記最適値の±25%の範囲内の値である、請求項6に記載の脱水システムの運転制御方法。
【請求項8】
前記記録された測定値に基づいて、前記モデルを更新する、請求項6に記載の脱水システムの運転制御方法。
【請求項9】
予測困難な性状変化が起こり得る有機性廃棄物を処理する複数の処理装置と、
前記複数の処理装置のそれぞれの処理性能を評価する計装機器と、
前記複数の処理装置の運転を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記複数の処理装置に共通する運転条件を決定する運転操作項目に関して、前記複数の処理装置ごとに異なる設定値を適用し、
前記計装機器に基づいて取得した測定値を前記設定値に反映して、前記複数の処理装置のそれぞれの運転を制御する、脱水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水システムの運転制御方法および脱水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃棄物としての汚泥(有機汚泥)に対して脱水処理を行うための脱水システムが知られている。脱水システムは、汚泥を処理する複数の処理装置を備えている。これら複数の処理装置は、基本的に、年間を通じて、24時間、連続的に運転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-121356号公報
【特許文献2】特開2022-140787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脱水システムにおいては、所定の目標性能を満足しつつ、汚泥の処理コストの最小化を満足することが理想である。しかしながら、処理装置の運転中において、処理装置に供給される汚泥の性状は経時的に変化している中で、現状の運転状況がベストであるか不明な状態で複数の処理装置のいずれも、常時、同じ設定条件に基づいて汚泥を処理している。このような処理により、脱水システムは、所定の目標性能および汚泥の処理コストの最小化を同時に満足することができないおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、所定の目標性能および汚泥の処理コストの最小化を同時に満足することができる脱水システムの運転制御方法および脱水システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、予測困難な性状変化が起こり得る有機性廃棄物を処理する複数の処理装置を備える脱水システムの運転制御方法が提供される。脱水システムの運転制御方法は、前記複数の処理装置に共通する運転条件を決定する運転操作項目に関して、前記複数の処理装置ごとに異なる設定値を適用し、前記複数の処理装置のそれぞれの処理性能を評価する計装機器に基づいて取得した測定値を前記設定値に反映して、前記複数の処理装置のそれぞれの運転を制御する。
【0007】
一態様では、前記複数の処理装置のそれぞれは、前記有機性廃棄物としての汚泥の圧搾により、前記汚泥から水が分離された脱水ケーキを排出する脱水装置であり、前記測定値は、投入口の汚泥量レベル、前記汚泥の、前記脱水装置のろ過筒内の圧力、および前記脱水ケーキの含水率のうちの少なくとも1つを含む。
一態様では、前記測定値および前記運転操作項目から特定される座標系上にある相関関係で示される複数のデータ点を決定し、前記決定された複数のデータ点に基づいて、前記運転操作項目の変化に対する前記測定値の変化が所定の許容範囲内である運転操作安定領域と、前記変化が所定の許容範囲を超える運転操作変化領域と、を決定し、前記複数の処理装置の一方に対応する、前記設定値としての基準設定値が前記運転操作安定領域に属するように、かつ前記複数の処理装置の他方に対応する、前記設定値としての変化設定値が前記運転操作変化領域に属するように、前記複数の処理装置のそれぞれの運転を制御する。
一態様では、前記基準設定値と前記変化設定値におけるそれぞれの前記測定値との差分が所定の値よりも大きくなった場合、前記基準設定値および前記変化設定値を再設定し、前記基準設定値と前記変化設定値におけるそれぞれの前記測定値との差分が所定の値よりも小さくなった場合、前記基準設定値および前記変化設定値を再設定する。
【0008】
一態様では、前記計装機器から得られた測定値を時系列に沿って連続的に記録し、前記記録された測定値に基づいて、前記測定値の経時変化量を算出し、前記経時変化量を前記設定値の再設定の計算に用いる。
一態様では、機械学習アルゴリズムにより構築されたモデルを用いた演算によって、前記運転操作項目に関する最適値を決定し、前記最適値に基づいて、前記設定値を決定する。
一態様では、前記設定値は、前記最適値の±25%の範囲内の値である。
一態様では、前記記録された測定値に基づいて、前記モデルを更新する。
【0009】
一態様では、予測困難な性状変化が起こり得る有機性廃棄物を処理する複数の処理装置と、前記複数の処理装置のそれぞれの処理性能を評価する計装機器と、前記複数の処理装置の運転を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記複数の処理装置に共通する運転条件を決定する運転操作項目に関して、前記複数の処理装置ごとに異なる設定値を適用し、前記計装機器に基づいて取得した測定値を前記設定値に反映して、前記複数の処理装置のそれぞれの運転を制御する、脱水システムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
処理装置の処理性能を評価するための指標となる測定値を、処理装置の運転条件を決定づける設定値に反映することにより、複数の処理装置の全体的な性能を最大化する運転条件で汚泥を処理する。結果として、脱水システムは、所定の目標性能を達成しつつ、汚泥の処理コストの最小化を満足することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】計装機器に基づいて測定値を取得する制御装置を示す図である。
【
図4】脱水装置の運転制御方法に関する制御フローを示す図である。
【
図5】脱水ケーキの含水率と薬液注入率との関係を示すグラフである。
【
図6】脱水ケーキの含水率とスクリューの回転周波数(すなわち、回転速度)との関係を示すグラフである。
【
図7】薬品抑制モードと、コスト最小化モードと、のイメージ図である。
【
図10】本実施形態(実施形態1)の実験結果を示すグラフである。
【
図11】脱水ケーキの含水率と薬液注入率との関係を示すグラフである。
【
図13】本実施形態(実施形態2)の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、脱水システムの一実施形態を示す図である。脱水システム200は、有機性廃棄物としての汚泥(有機汚泥)に対して脱水処理を行うためのシステムである。
図1に示すように、脱水システム200は、汚泥を貯留する汚泥貯留槽201と、凝集汚泥を調製する複数の凝集槽203と、汚泥貯留槽201内の汚泥を複数の凝集槽203に供給する複数の汚泥供給ポンプ202と、を備えている。
【0013】
脱水システム200は、薬液の一例であるポリマ剤(すなわち、凝集剤)が溶解されたポリマ溶解槽205と、ポリマ溶解槽205内のポリマ剤を複数の凝集槽203に供給する複数のポリマ供給ポンプ206と、を備えている。各凝集槽203内の凝集汚泥は、ポリマ剤を汚泥に添加することによって、調製される。
【0014】
脱水システム200は、複数の凝集槽203で凝集された凝集汚泥から水分を分離して流動性の低い濃縮汚泥を生成する複数の濃縮機204と、濃縮機204で濃縮された濃縮汚泥(液体含有物)を脱水する複数の脱水装置100と、を備えている。複数の脱水装置100は同一の構造を有しているため、以下、単一の脱水装置100の構造について説明する。
【0015】
図2は、脱水装置の一実施形態を示す図である。
図2に示すように、脱水装置100は、円筒状のスクリーンケーシング(ろ過筒)1と、スクリーンケーシング1内で、スクリーンケーシング1と同心状に配置され、濃縮汚泥を所定の移送方向Dに移送する、同軸(2軸)の第1スクリュー3および第2スクリュー4と、第1スクリュー3を回転させる第1回転機構7と、第1スクリュー3とは独立に第2スクリュー4を回転させる第2回転機構20と、を備えている。以下、脱水装置100をスクリュープレス100と呼ぶことがある。
【0016】
スクリーンケーシング1は、パンチングメタルなどのスクリーン(多孔板)から形成されており、外筒および内筒を有する二重構造を有している。スクリーンケーシング1の上流側端部には、汚泥の投入口(言い換えれば、ホッパ)2が形成されている。投入口2からスクリーンケーシング1に投入された汚泥は、回転する第1スクリュー3および第2スクリュー4により、スクリーンケーシング1内で所定の移送方向Dに移送される。
【0017】
脱水システム200は、その構成要素としての装置の動作を制御する制御装置6を備えている。
図1に示すように、制御装置6は、汚泥供給ポンプ202、ポリマ供給ポンプ206、凝集槽203、濃縮機204、およびスクリュープレス100の動作を制御するように構成されている。より具体的には、制御装置6は、凝集槽203内のポリマ剤および汚泥の混合液を攪拌する攪拌機203aの動作を制御するように構成されている。
【0018】
図2に示すように、制御装置6は、第1回転機構7および第2回転機構20の動作を制御するように構成されている。第2スクリュー4は、第1スクリュー3とは独立に回転可能なように、第1スクリュー3に連結されている。第1スクリュー3および第2スクリュー4は、スクリーンケーシング1および排出チャンバー33をそれぞれ貫通して延びている。排出チャンバー33は、スクリーンケーシング1に接続されている。この排出チャンバー33に、後述するプラグケーキ(言い換えれば、脱水ケーキ)がスクリーンケーシング1から排出される。
【0019】
第1スクリュー3は、汚泥の移送方向Dにおける下流側に向かってその径が徐々に大きくなる円錐台形状(テーパ形状)の第1スクリュー軸3Aと、第1スクリュー軸3Aの外面に固定された第1スクリュー羽根3Bと、を有している。第2スクリュー4は、円筒形状の第2スクリュー軸4Aと、第2スクリュー軸4Aの外面に固定された第2スクリュー羽根4Bと、を有している。第2スクリュー4は、汚泥の移送方向Dにおいて第1スクリュー3の下流側に配置されている。
【0020】
スクリーンケーシング1の上流側の端部は閉塞壁8によって密封されている。第1スクリュー軸3Aの一方の端部(移送方向Dにおける上流側端部)はこの閉塞壁8を貫通して延びている。
【0021】
第1スクリュー軸3Aの上流側端部は、第1スクリュー3を回転させるための第1回転機構7に連結されている。本実施形態では、第1回転機構7は、第1駆動機(例えば、電動機)14と、第1駆動機14の回転軸に固定されたスプロケット15と、第1スクリュー軸3Aに固定されたスプロケット16と、これらスプロケット15,16に巻きかけられたチェーン17と、を備える。
【0022】
第1回転機構7の第1駆動機14を駆動すると、この第1駆動機14の回転軸に固定されたスプロケット15が回転し、チェーン17を介して第1スクリュー軸3Aに固定されたスプロケット16を回転させる。その結果、第1スクリュー3が第1回転機構7により回転させられる。第1駆動機14は、制御装置6に電気的に接続され、制御装置6は、第1駆動機14の動作を制御するように構成されている。
【0023】
第2スクリュー4の第2スクリュー軸4Aは、第1スクリュー軸3Aと同心状に配置される。第2スクリュー軸4Aの外径は第1スクリュー軸3Aの最大径と同一である。第2スクリュー軸4Aには、排出チャンバー33の内壁33Aを貫通して延びる縮径部が形成されている。
【0024】
第2スクリュー軸4Aの下流側端部は、第2スクリュー4を回転させるための第2回転機構20に連結されている。本実施形態では、第2回転機構20は、第2駆動機(例えば、電動機)24と、第2駆動機24の回転軸に固定されたスプロケット25と、第2スクリュー軸4Aに固定されたスプロケット26と、これらスプロケット25,26に巻きかけられたチェーン27と、を備える。
【0025】
第2回転機構20の第2駆動機24を駆動すると、この第2駆動機24の回転軸に固定されたスプロケット25が回転し、チェーン27を介して第2スクリュー軸4Aに固定されたスプロケット26を回転させる。その結果、第2スクリュー4が第2回転機構20により回転させられる。
【0026】
第2駆動機24は、制御装置6に電気的に接続される。制御装置6は、第2駆動機24の回転速度および回転方向を制御することができる。第2駆動機24は、第2スクリュー4を第1スクリュー3とは独立して回転させることが可能である。
【0027】
回転する第1スクリュー羽根3Bおよび第2スクリュー羽根4Bは、スクリーンケーシング1の上流側端部に形成された投入口2からスクリーンケーシング1に投入された汚泥を排出チャンバー33に向かって(すなわち、移送方向Dに)移送することができる。
【0028】
本実施形態では、第2スクリュー羽根4Bの巻き方向(すなわち、螺旋方向)は、第1スクリュー羽根3Bの巻き方向とは逆である。したがって、投入口2から投入された汚泥を、排出チャンバー33へ送り出すときは、
図2に示すように、第2スクリュー4を第1スクリュー3とは逆方向に回転させることになる。
【0029】
一実施形態では、第2スクリュー羽根4Bの巻き方向を、第1スクリュー羽根3Bの巻き方向と同一にしてもよい。この場合、投入口2から投入された汚泥を、排出チャンバー33へ送り出すときは、第2スクリュー4を第1スクリュー3と同方向に回転させることになる。
【0030】
図2に示すように、スクリーンケーシング1は、第1スクリュー3が配置された脱水領域1Aと、第2スクリュー4が配置されたプラグ形成領域1Bと、に分割される。脱水領域1Aで汚泥が移送される空間は、スクリーンケーシング1の内面と、第1スクリュー羽根3Bと、第1スクリュー軸3Aと、によって形成される。
【0031】
この移送空間の断面積は、
図2に示すように、汚泥の移送方向Dに沿って漸次減少する。したがって、投入口2から投入された汚泥がこの移送空間を第1スクリュー羽根3Bによって移送されるに従って、汚泥は圧搾され、脱水される。
【0032】
スクリーンケーシング1のスクリーン(多孔板)を通過したろ液は、スクリーンケーシング1の下方に配置されたろ液受け38によって回収される。ろ液受け38には、ドレイン39が接続されており、ろ液受け38によって回収されたろ液は、ドレイン39を介してスクリュープレス100から排出される。
【0033】
プラグ形成領域1B内のケーキは、第2スクリュー羽根4Bによって移動を妨げられることで圧搾され、低含水率のケーキとなる。この低含水率のケーキが、後続のケーキの移動を妨げるプラグケーキを形成する。第2スクリュー軸4Aの周りに形成されたプラグケーキによって、後続のケーキには背圧が加えられ、後続のケーキはさらに圧搾される。プラグ形成領域1Bでプラグケーキから分離された液体は、ろ液受け38によって回収され、ドレイン39を介してスクリュープレス100から排出される。
【0034】
プラグケーキを形成した後、制御装置6は、第2回転機構20を駆動させて、第2スクリュー4を回転させる(または第2回転機構20を操作して、第2スクリュー4の回転速度を大きくする)。第2スクリュー4を第1スクリュー3の回転方向とは逆方向に回転させることにより、プラグケーキは、少しずつ排出チャンバー33に送り出される(すなわち、排出される)。このように、プラグケーキの形成とプラグケーキの排出とが連続的に行なわれるので、常にプラグ形成領域1Bにプラグケーキが存在する状態で、スクリュープレス100を運転することができる。
【0035】
スクリュープレス100は、ホッパレベルに相当する信号を検出するレベルセンサ(例えば、レーザー距離計)50を備えている。制御装置6は、レベルセンサ50に電気的に接続されており、レベルセンサ50によって検出された信号に基づいて、ホッパレベルを測定するように構成されている。
【0036】
スクリュープレス100は、汚泥の、スクリーンケーシング1に対する圧力を検出する圧力センサ60を備えている。圧力センサ60は、制御装置6に電気的に接続されている。したがって、制御装置6は、圧力センサ60から送られる信号に基づいて、汚泥の、スクリーンケーシング1に対する圧力を測定するように構成されている。
【0037】
スクリュープレス100は、排出チャンバー33から排出されるプラグケーキ(すなわち、脱水ケーキ)の含水率を検出する水分センサ(例えば、近赤外線式やマイクロ波式のセンサ)70を備えている。水分センサ70は、制御装置6に電気的に接続されている。したがって、制御装置6は、水分センサ70から送られる信号に基づいて、脱水ケーキの含水率を測定するように構成されている。
【0038】
上述したように、複数の脱水装置100のそれぞれには、常時、汚泥が供給され続け、結果として、複数の脱水装置100は、年間を通じて、24時間、連続的に運転する。脱水システム200においては、所定の目標性能(例えば、所望の含水率を有する脱水ケーキの排出)を満足する必要がある。その一方で、汚泥の処理コスト(例えば、薬液の汚泥への注入率)の最小化を実現することも重要な課題の一つである。そこで、以下に説明する実施形態では、所定の目標性能を満足しつつ、汚泥の処理コストの最小化を実現することができる構成について説明する。
【0039】
以下に示す実施形態では、レベルセンサ50、圧力センサ60、および水分センサ70を総称して、計装機器と呼ぶことがある。計装機器は、レベルセンサ50、圧力センサ60、および水分センサ70の少なくとも1つを備えており、脱水装置100の処理性能を評価するように構成されている。なお、圧力センサ60の数および配置場所は、特に限定されない。
【0040】
図3は、計装機器に基づいて測定値を取得する制御装置を示す図である。
図3に示すように、制御装置6は、計装機器によって検出された信号(すなわち、数値)に基づいて、脱水装置100の処理性能に関連する測定値を取得するように構成されている。測定値は、投入口2からスクリーンケーシング1に投入された汚泥量(すなわち、汚泥量レベル)と、汚泥の、スクリーンケーシング1に対する圧力と、脱水ケーキの含水率と、のうちの少なくとも1つを含む。
【0041】
制御装置6は、プログラム(各種データを含む)を格納する記憶装置6aと、記憶装置6aに格納されたプログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置6bと、演算装置6bによる演算に基づいて、プログラムを実行する運転設定装置6cと、を備えている。運転設定装置6cは、例えば、マイクロプロセッサを内蔵したPLC(プログラマブルロジックコントローラ)である。
【0042】
図4は、脱水装置の運転制御方法に関する制御フローを示す図である。
図4に示すように、制御装置6は、脱水装置100の運転を開始する前に、脱水装置100の運転設定を行う。制御装置6は、複数の脱水装置100に共通する運転条件を決定する運転操作項目に関して、複数の脱水装置100ごとに異なる設定値を適用する。
【0043】
運転操作項目は、ポリマ供給ポンプ206(
図1参照)によって供給される薬液の汚泥への注入率(言い換えれば、薬液注入率)と、脱水装置100のスクリューの回転速度(すなわち、第1スクリュー3および第2スクリュー4)と、のうちの少なくとも1つを含む。制御装置6は、運転操作項目に関して、複数の脱水装置100ごとに異なる(または同一の)設定値を設定可能である。制御装置6が設定値を脱水装置100に設定すると、脱水装置100は、設定された設定値に基づいて、運転を開始する。
【0044】
脱水装置100の運転開始後、制御装置6は、計装機器(例えば、レベルセンサ50、圧力センサ60、および水分センサ70の少なくとも1つ)によって検出された信号に基づいて、測定値(すなわち、性能結果)を取得する。制御装置6は、取得した測定値を設定値に反映して、複数の脱水装置100のそれぞれの運転を制御する。
【0045】
一実施形態では、記憶装置6aは、機械学習アルゴリズムにより構築された少なくとも1つのモデル(すなわち、学習モデル)を格納している。機械学習アルゴリズムの例としては、SVR法(サポートベクター回帰法)、PLS法(部分最小二乗法:Partial Least Squares)、ディープラーニング法(深層学習法)、ランダムフォレスト法、または決定木法などが挙げられる。本実施形態では、機械学習にディープラーニング法(深層学習法)が採用されるが、本発明はこれに限定されない。なお、ディープラーニング法が好適である。
【0046】
図4に示すように、制御装置6は、機械学習アルゴリズムにより構築されたモデルを用いた演算によって、運転操作項目に関する最適値を決定し、最適値に基づいて、複数の脱水装置100ごとに異なる設定値を決定してもよい。例えば、設定値は、最適値の±25%の範囲内の値であってもよい。
【0047】
本実施形態によれば、脱水装置100の処理性能を評価するための指標となる測定値を、脱水装置100の運転条件を決定づける設定値に反映することにより、複数の脱水装置100のそれぞれは、最適な運転条件に基づいて汚泥を処理する。結果として、脱水システム200は、所定の目標性能および汚泥の処理コストの最小化を満足することができる。
【0048】
特許文献1(および特許文献2)は、凝集フロックの画像からフロックの状態を取得する構成を開示している。しかしながら、このような画像から取得されたフロックの状態は、脱水ケーキの脱水性能を示す情報量としては不十分である。
【0049】
フロックの状態は、大きさなどの見た目の情報だけでなく、凝集フロックの水切れの良さや弾力性などの質の情報が脱水性能に大きく影響する。本実施形態では、凝集フロックの質の情報を把握するために、計装機器(ホッパレベル・スクリーンケーシング1に作用する汚泥の圧力)の測定値により、汚泥性状の変化による凝集状態の変化をいち早く察知することが可能となる。
【0050】
汚泥の性状変化により、脱水装置100の脱水性能が変化する。脱水装置100の運転条件を、変化した汚泥の性状に最適な脱水運転条件に変更することにより、脱水性能を所定の目標性能を満足しつつ、汚泥の処理コストの最小化を実現することができる。以下、制御装置6による脱水装置100の運転制御方法について、図面を参照して説明する。
【0051】
図5は、脱水ケーキの含水率と薬液注入率との関係を示すグラフである。
図5では、横軸は薬液注入率を示しており、縦軸は脱水ケーキの含水率を示している。制御装置6は、計装機器に基づいて取得した測定値と、運転操作項目と、から特定される座標系上の複数のデータセットの関係性を決定する。
【0052】
制御装置6は、これら複数のデータ点に回帰分析を実行して二次関数で表される回帰式を算出してもよい。このような回帰式は、過去における実際の脱水装置100の運転結果や試験運転を繰り返すことによって得られた結果であってもよい。記憶装置6aは、このような結果から導かれる回帰式を格納している。
【0053】
制御装置6は、決定された複数のデータ点に基づいて、運転操作項目の変化に対する測定値の変化が所定の許容範囲内である運転操作安定領域と、運転操作項目の変化に対する測定値の変化が所定の許容範囲を超える運転操作変化領域と、を決定する。運転操作安定領域および運転操作変化領域を決定する方法の一例は以下の通りである。
【0054】
まず、運転操作安定領域および運転操作変化領域を決定するために、任意の汚泥濃度、汚泥量に対する含水率と薬液注入率との関係図を作成する。関係図は、機械学習による回帰予測モデルを用いて各薬注率に対する含水率を予測し作成する。
【0055】
その後、関係図から導かれた関係式の傾きから、運転操作安定領域および運転操作変化領域を区分する。一実施形態では、上記関係式の傾きが所定の値よりも大きくなる領域を運転操作変化領域に決定し、上記関係式の傾きが所定の値よりも小さくなる領域を運転操作安定領域に決定してもよい。
【0056】
機械学習の目的変数および説明変数の組み合わせは特に限定されないが、例えば目的変数を含水率とし、説明変数を、汚泥量および汚泥性状、運転パラメータとし、これらのデータを、機械学習に用いるデータセットとする。
【0057】
データセットの汚泥性状は、例えば、以下の通りである。しかしながら、データセットの汚泥性状は、以下の例には限定されない。温度、粘度、pH、アルカリ度、TS、VTS、SS、VSS、粗浮遊物
【0058】
データセットの運転パラメータは、例えば、以下の通りである。しかしながら、データセットの運転パラメータは、以下の例には限定されない。
a)汚泥供給量
b)薬品の物性情報(カチオン度、分子量)
c)薬剤注入量
d)凝集攪拌機の攪拌速度
e)濃縮装置の運転速度(濃縮装置4の駆動モータの回転速度)
f)濃縮装置の調整変数(例えば、圧搾板圧力調整)
g)スクリュー軸の回転速度
h)背圧板の開度(背圧板機構を備えるスクリュープレスが対象である。本実施形態では、スクリュープレス100は、背圧板を備えていない)
i)背圧板の圧力設定値(背圧板機構を備えるスクリュープレスが対象である。本実施形態では、スクリュープレス100は、背圧板を備えていない)
j)計装機器の測定値(ホッパレベル、スクリーンケーシング1に作用する汚泥の圧力)
【0059】
データセットの汚泥濃度(TS)は変動するため、機械学習の入力(説明変数)として、汚泥濃度計による測定値でもよく、当日あるいは前日など、想定される汚泥濃度を入力してもよい。
【0060】
汚泥濃度以外の汚泥性状が刻一刻と変化する場合があるため、計装機器の測定値情報(ホッパレベル、スクリーンケーシング1に作用する汚泥の圧力)を機械学習のデータセットに含めることが有効である。汚泥濃度以外の汚泥性状が刻一刻と変化する場合があるため、上記関係図は逐次、更新することが望ましい。
【0061】
図5に示す実施形態では、運転操作安定領域は、薬液注入率の変化に対して脱水ケーキの含水率の変化が小さい領域であり、二次曲線で表される二次関数の傾きが小さな領域である。運転操作変化領域は、薬液注入率の変化に対して脱水ケーキの含水率の変化が大きい領域であり、二次曲線で表される二次関数の傾きが大きな領域である。
【0062】
例えば、運転操作安定領域に属する設定値を脱水装置100に適用して、脱水装置100を運転した場合、薬液注入率が多少変化しても脱水ケーキの含水率は大きく変化しない。その一方で、運転操作変化領域に属する設定値を脱水装置100に適用して、脱水装置100を運転した場合、薬液注入率が僅かに変化するだけで脱水ケーキの含水率は大きく変化してしまう。
【0063】
脱水装置100の運転中において、薬液注入率は、汚泥の性状変化により、常に変化しうる。汚泥の性状変化に起因して薬液注入率を上げなければならない場合としての一例は以下の通りである。
a)濃縮機204における汚泥の水切り不良によりホッパレベルが高くなる。
b)脱水装置100における凝集不良により、スクリーンケーシング1に作用する汚泥の圧力が低下する。
c)ろ液受け38に回収されるろ液の量が低下する。
d)脱水ケーキの含水率が高くなる。
【0064】
汚泥の性状変化に起因して薬液注入率を下げることができる場合としての一例は以下の通りである。
a)濃縮機204における適切な汚泥の水切りによりホッパレベルが低くなる。
b)脱水装置100における適切な凝集により、スクリーンケーシング1に作用する汚泥の圧力が高くなる。
c)ろ液受け38に回収されるろ液の量が増大する。
d)脱水ケーキの含水率が低下する。
【0065】
制御装置6は、複数の脱水装置100のそれぞれに対して、個別の設定値を設定する。例えば、制御装置6は、複数の脱水装置100の一方に対して、設定値としての基準設定値を設定し、複数の脱水装置100の他方に対して、設定値としての変化設定値を設定する。その後、制御装置6は、基準設定値が運転操作安定領域に属するように、脱水装置100の運転を制御し、変化設定値が運転操作変化領域に属するように、脱水装置100の運転を制御する。
【0066】
図5の比較例に示すように、単一の設定値が運転操作安定領域に属するように、脱水装置100の運転を制御しても、運転操作安定領域内の上限値付近か下限値付近か中間地付近かなどの位置を特定することができない。したがって、脱水ケーキの含水率を下げるために必要な薬液注入率を特定することができず、所定の目標性能を満たすために、必要な薬液注入率に達しなかったり、または薬液注入率が必要以上に高くなるなど、結果として、処理性能に到達しなかったり、処理コストが必要以上に増大するおそれがある。
【0067】
本実施形態によれば、制御装置6は、汚泥の性状が変化した場合であっても、計装機器に基づいて取得した測定値から、薬液注入率を増加(または減少)させるべきか否かを適切に判断することができる。制御装置6は、判断結果に基づいて、ポリマ供給ポンプ206を通じて、適切な量の薬液を汚泥に供給することができる。
【0068】
所定の目標性能を満たすために、脱水ケーキの含水率は、所望の含水率を満たす必要がある。したがって、基準設定値に対応する薬液注入率および変化設定値に対応する薬液注入率は、脱水ケーキの所望の含水率を満たすように決定される。その一方で、所望の脱水ケーキの含水率の範囲内であれば、薬液注入率を下げることにより、汚泥の処理コストを低減することができる。
【0069】
そこで、制御装置6は、脱水ケーキの所望の含水率を満たしつつ、運転操作安定領域のうち、最も低い薬液注入率になるように、基準設定値を決定する。同様に、制御装置6は、脱水ケーキの所望の含水率を満たしつつ、運転操作変化領域のうち、最も低い薬液注入率になるように、変化設定値を決定する。また、一実施形態では、薬液注入率は、所定の余裕代(幅)を含むレートになるように決定されてもよい。
【0070】
図5に示す実施形態に係る薬液注入率と脱水ケーキの含水率との関係性は、汚泥の性状変化や脱水装置100の運転条件の変化に伴い常に変化しうる。したがって、運転操作安定領域も、汚泥の性状変化に伴い変化しうる。運転操作安定領域が変化すると、基準設定値が運転操作安定領域の範囲から外れる可能性がある。
【0071】
そこで、制御装置6は、基準設定値と変化設定値との差分に基づいて、基準設定値が運転操作安定領域内に収まるように、脱水装置100の運転を制御してもよい。
【0072】
制御装置6は、基準設定値と変化設定値との差分が所定の上限値よりも大きくなった場合、差分が上限値を超えて大きくならないように(言い換えれば、基準設定値と変化設定値との差分が小さくなるように)、基準設定値および変化設定値を再設定(シフト)する。
【0073】
制御装置6は、基準設定値と変化設定値との差分が所定の下限値よりも小さくなった場合、差分が下限値を超えて小さくならないように(言い換えれば、基準設定値と変化設定値との差分が大きくなるように)、基準設定値および変化設定値を再設定(シフト)する。
【0074】
記憶装置6aは計装機器から得られた測定値を時系列に沿って連続的に記録し、演算装置6bは記憶装置6aに記録された測定値に基づいて、測定値の経時変化量を算出してもよい。このような構成により、制御装置6は、経時変化量を設定値に反映して、基準設定値および変化設定値を再設定(シフト)してもよい(
図4参照)。
【0075】
ディープラーニングなどの機械学習アルゴリズムにより、脱水ケーキの状態を、多様な要素を含めて学習(教師あり学習または教師なし学習)し、脱水ケーキの状態の判定が可能なモデルを構築することができる。
【0076】
機械学習アルゴリズムを用いた上記モデルは、そのモデルを用いた運転を実施している脱水システム200において、新たに得られるデータ(例えば、測定値)を基に継続的に更新される。実情に合わせて更新されていくモデルは、適切な判定結果を継続的に出力することが可能となる。計装機器によって測定される含水率の値は、手動分析などの実測値とずれることがある。したがって、手動分析による結果を基準に、計装機器の測定値(含水率)を補正したデータを用いてモデルを更新してもよい。
【0077】
図6は、脱水ケーキの含水率とスクリューの回転周波数(すなわち、回転速度)との関係を示すグラフである。
図6において、横軸はスクリューの回転周波数を示しており、縦軸は脱水ケーキの含水率を示している。
図6では、複数の薬液注入率のそれぞれにおいて、スクリューの回転周波数と脱水ケーキの含水率との関係が表されている。点線で示された曲線は、最も高い薬液注入率を示しており、太線で示された曲線は、最も低い薬液注入率を示しており、細い実線で示された曲線は、最も高い薬液注入率と最も低い薬液注入率との間の薬液注入率を示している。
【0078】
図6に示すグラフは、回転周波数の増加に伴い、脱水ケーキの含水率が大きくなる傾向を示している。複数の薬液注入率ごとの回転周波数と脱水ケーキの含水率との間には、相関関係が存在している。本実施形態においても、上述した実施形態と同様に、制御装置6は、脱水装置100の運転制御方法を実行する。したがって、制御装置6による制御フローの詳細な説明を省略する。
【0079】
本実施形態においても、制御装置6は、測定値の一例である脱水ケーキの含水率と、運転操作項目の一例であるスクリューの回転速度と、から特定される座標系上の複数のデータ点を決定し、決定された複数のデータ点に基づいて、スクリューの回転速度の変化に対する脱水ケーキの含水率の変化が所定の許容範囲内である運転操作安定領域と、変化が所定の許容範囲を超える運転操作変化領域と、を決定する。
【0080】
まず、運転操作安定領域および運転操作変化領域を決定するために、任意の汚泥濃度、汚泥量、各薬液注入率および各回転周波数に対する含水率の関係図を作成する。関係図は、機械学習モデルを用いて、各薬液注入率および各回転軸周波数に対する含水率を予測し作成する。
【0081】
その後、関係図から導かれた関係式の傾きから、運転操作安定領域および運転操作変化領域を区分する。その他の構成は、上述した実施形態(任意の汚泥濃度、汚泥量に対する含水率と薬液注入率および回転周波数との関係図の作成)と同一である。
【0082】
機械学習による最適値を決定する。ここで、「最適」のパターンは特に限定されないが、例えば、以下の通りである。
1.目標の含水率を維持しながら薬液注入率をできるだけ抑制する(薬品抑制モード)パターン
2.脱水ケーキの廃棄にかかるコストと、使用する薬品(薬液)のコストと、の合計コストを最小化する(コスト最小化モード)パターン
【0083】
なお、コスト最小化モードでは、脱水ケーキの廃棄単価、薬品単価を計算に用いて運転パラメータの最適値を算出する。他のパターンとしては、電力消費量やCO2排出を勘案した「最適」パターンを実装することもできる。
【0084】
図7は、薬品抑制モードと、コスト最小化モードと、のイメージ図である。薬品抑制モードでは、薬液注入率が高いほど、含水率が低くなる傾向があるが、目標含水率に対する薬液注入率をできるだけ抑制するプログラムが組まれ、最適値が設定される。
【0085】
コスト最小化モードは、薬液注入率によるコストと、脱水ケーキの廃棄コストと、をバランスさせて、コストが最小となる薬液注入率で運転するモードである。コスト最小化モードでの薬液注入率は、当然、薬品と脱水ケーキの廃棄単価に依存して、決定される。例えば、脱水ケーキの廃棄単価が高い場合、薬液注入率をできるだけ高くして、含水率を低減してもよく、逆に薬品単価が高い場合、薬液注入率を抑制してもよい。
【0086】
2つの運転モード(すなわち、薬品抑制モードおよびコスト最小化モード)は、機械学習モデルによる回帰予測を用いて、計算される。上述したデータセットは、薬品量を含む運転パラメータと、含水率と、を含むため、制御装置6(より具体的には、演算装置6b)は、シミュレーションにより最適値を算出することができる。
【0087】
制御装置6は、基準設定値が運転操作安定領域に属し、かつ変化設定値が運転操作変化領域に属するように、複数の脱水装置100のそれぞれの運転を制御する。制御装置6は、基準設定値と変化設定値におけるそれぞれの測定値の差分が所定の上限値よりも大きくなった場合、基準設定値および変化設定値を再設定し、基準設定値と変化設定値におけるそれぞれの測定値の差分が所定の下限値よりも小さくなった場合、基準設定値および変化設定値を再設定する。
【0088】
図8は、比較例1の実験結果を示すグラフである。
図9は、比較例2の実験結果を示すグラフである。
図10は、本実施形態(実施形態1)の実験結果を示すグラフである。
図8乃至
図10において、横軸は日数を示しており、縦軸は薬液注入率および脱水ケーキの含水率を示している。薬液注入率は棒グラフで示されており、脱水ケーキの含水率は折れ線グラフで示されている。
【0089】
比較例1の運転条件は、以下の通りである。比較例1では、自動制御運転を行わない従来型運転方式を採用している。複数の脱水装置の運転条件はすべて同一であり、運転期間は、1ヶ月間である。比較例1の運転制御方法は、手動での薬液注入率を制御する方法である。毎日、12時間の間隔で、2回、複数の脱水装置100のすべての脱水ケーキを採取し、その脱水ケーキの含水率を参考にして、翌日の薬液注入率の設定値を決定する。
【0090】
脱水ケーキの含水率が、連続で48時間、目標の含水率から1ポイント(%)以上、下がるごとに、薬液注入率を0.1ポイント下げる。脱水ケーキの含水率が、連続で24時間、目標の含水率を上回るごとに、薬液注入率を0.1ポイント上げる。
図8のグラフから明らかなように、比較例1では、脱水ケーキの含水率には、大きなばらつきが生じており、薬液注入率も比較的高い。
【0091】
比較例2の運転条件は、以下の通りである。比較例2では、自動運転制御を行う運転方式を採用している。複数の脱水装置の運転条件はすべて同一であり、運転期間は、1ヶ月間である。比較例2の運転制御方法は、手動での薬液注入率を制御する方法と、自動での薬液注入率を制御する方法と、である。
【0092】
ある特定の運転状態を第1状態と規定し、その状態が6時間以上継続した場合、薬液注入率を0.1ポイント下げる。当該第1状態は、1時間当たりの移動平均におけるホッパレベルが所定の下限値以下になる状態と、1時間当たりの移動平均におけるスクリーンケーシング1に作用する汚泥の圧力が所定の上限値以上になる状態と、を含む。
【0093】
他の特定の運転状態を第2状態と規定し、その状態が6時間以上継続した場合、薬液注入率を0.1ポイント上げる。第2状態は、1時間当たりの移動平均におけるホッパレベルが所定の上限値以上になる状態と、1時間当たりの移動平均におけるスクリーンケーシング1に作用する汚泥の圧力が所定の下限値以下になる状態と、を含む。
図9のグラフから明らかなように、比較例2では、脱水ケーキの含水率には、大きなばらつきが生じており、薬液注入率も比較的高い。
【0094】
本実施形態の運転条件は、以下の通りである。本実施形態では、上述した運転制御方法を採用し、3台の脱水装置100のうち、1台目の脱水装置100の運転条件(薬液注入率および回転速度)を基準とする。2台目の脱水装置100は、1台目の脱水装置100と同じ回転速度を採用し、1台目の脱水装置100とは異なる薬液注入率を採用している。3台目の脱水装置100は、1台目の脱水装置100と同じ薬液注入率を採用し、1台目の脱水装置100とは異なる回転速度を採用している。
【0095】
本実施形態では、ホッパレベルと、スクリーンケーシング1に作用する汚泥の圧力と、をリアルタイムで測定し、3台の脱水装置100の運転を開始した後、24時間経過後の各脱水装置100の2つの測定値の3時間当たりの移動平均値を取得した。
【0096】
本実施形態の運転制御方法は、以下の通りである。1台目の脱水装置100における薬液注入率と、2台目の脱水装置100における薬液注入率と、の差分が所定の上限値よりも大きくなるごとに、すべての脱水装置100の薬液注入率を0.05ポイント上げる。差分が所定の下限値よりも小さくなるごとに、すべての脱水装置100の薬液注入率を0.05ポイント下げる。薬液の注入量を変更した場合には、変更した直後、6時間、薬液注入率を変更しない。6時間が経過した後、再度、同じ工程を繰り返す。
【0097】
1台目の脱水装置100における回転速度と、3台目の脱水装置100における回転速度と、の差分が所定の上限値よりも大きくなるごとに、すべての脱水装置100の回転速度(すなわち、回転周波数)を0.5Hzだけ低下させる。差分が所定の下限値よりも小さくなるごとに、すべての脱水装置100の回転速度を0.5Hzだけ上昇させる。以下、実施形態1に係る脱水システム200の実験結果の詳細について説明する。
【0098】
実施形態1では、A下水処理場において嫌気性消化汚泥を脱水処理する装置として稼働する5台のスクリュープレス100の運転方法を、3種類に分類して運転することにより実施した。スクリュープレス100による汚泥処理においては、所定の目標性能である薬液注入率と脱水ケーキの含水率の性能保障値を満足するとともに汚泥の処理コストの最小化を同時に満足することができる脱水システム100の採用が望ましい。
【0099】
3種類の運転方法として、スクリュープレス100の1号機(すなわち、1号脱水機)は比較例1として使用した。スクリュープレス100の2号機(すなわち、2号脱水機)は比較例2として使用した。スクリュープレス100の3,4,5号機(すなわち、3,4,5号脱水機)は実施形態1として使用した。比較の方法としては、元々3台の脱水機が稼働する施設において、3台の脱水機の運転条件の設定を同一にする比較例1および比較例2に対して、設定条件が異なる条件下で運転する実施形態1に係る3台の脱水機との脱水性能と処理コストとを比較した。
【0100】
1号機(比較例1)および2号機(比較例2)では、1台での運転であるが、3台での運転時では、3台とも同一運転条件での運転となるため、コスト評価としてはこの1号機の性能値×3倍として評価した。その一方で、実施形態1では、異なる運転条件の3台の運転実績をそのまま合計してコスト評価した。
【0101】
比較例1,2および実施形態1の計5台の脱水機は、24時間、連続運転した(実質23h/日)。固形物処理量:汚泥流量10m3/h×3台×23h×約15g/L(汚泥濃度)=約10tDS/日、高分子凝集剤単価:700円/kg、ケーキ処分費:12000円/t、平均ケーキ含水率保証値:83%、目標平均ケーキ含水率:82%とした。脱水ケーキ含水率測定頻度は2回/日とし、脱水ケーキの含水率は翌日平均値として記録し、脱水ケーキの含水率を測定する測定装置の測定値と照合し、必要に応じて毎日測定装置の補正を行った。
【0102】
(1号機:比較例1の運転条件)
自動制御運転を行わない従来型運転方式であり、3台の運転条件は全て同じである。期間は1か月である。運転制御方法は手動での薬液注入率の制御であり、毎日2回12時間の間隔を置いて、3台の脱水機(すなわち、スクリュープレス100)のそれぞれで、脱水ケーキを採取し、その脱水ケーキ含水率を参考にして翌日の薬注率設定値を決める方法とした。
【0103】
また、一日合計6点の脱水ケーキの含水率の平均値が目標の82%から連続48時間1pt以上、下がるごとに薬注率を0.1ptだけ下げる方法を採用した。また、脱水ケーキの含水率が82%を連続24時間、上回るごとに薬液注入率を0.1ptだけ上げる方法を採用した。一般的に、脱水ケーキの含水率は、±1pt%程度、変動(日変動)するので、数日間の連続的な変化傾向を確認してから対応する場合が多い。したがって、即時対応が遅れて結果的に性能未達であったり、コスト高となる場合が多い。
【0104】
(比較例1の運転結果)
1か月の運転の結果は、平均ケーキ含水率:81.3%、平均薬液注入率:2.24%、処理コストは相対値として100とした。
(評価)
脱水ケーキの含水率の結果を確認してからの調整は日変動誤差±1%程度はあるため、数日間の確認期間を空けてからの薬液注入率の変更を行うことになり、リアルタイムでの汚泥性状変化に追随した最適化運転は難しく、処理コスト低減効果は十分でないと思われた。
【0105】
(比較例2の運転条件)
自動運転制御を採用し、運転制御方法は比較例1での手動薬液注入制御を採用し、かつ同時に薬液注入自動制御を採用した。自動薬液注入制御方法は、ホッパレベル(HL)の1時間移動平均が50mm以下であり、かつスクリュープレス100に作用する汚泥の圧力(すなわち、機内圧力)の1時間移動平均が70kPa以上の状態が6時間以上、継続した場合に、薬液注入率を0.1ptだけ下げた。逆に、ホッパレベル(HL)が400mm以上であり、または機内圧力が50kPa以下の状態が6時間以上、継続した場合に、薬液注入率を0.1ptだけ上げる方法とした。薬液注入率の変更があった場合は、その時点を起点とし以後、同様の操作を継続することとした。
【0106】
汚泥流量10m3/h
薬液注入率(初期)2.3%(対汚泥TS)
スクリュー軸の回転周波数15Hz(約0.22rpm)
【0107】
(処理成績)
脱水ケーキの平均含水率:81.0%
平均薬液注入率:2.27%
処理コスト:99
【0108】
(評価)
比較例1よりも汚泥性状変化により追随する運転を行うことができたことから、脱水ケーキの含水率の変動幅は小さくなり、安定的に運転を行うことができた。一定期間の平均の薬液注入率は比較例1よりもやや大きくなり、脱水ケーキの含水率は比較例1のそれよりもやや改善したことからコストは比較例1より1pt%のみ低下した。しかしながら、自動薬液注入制御による汚泥性状変化に対する追随調整に一部誤差や遅れが生じたことから、適正な薬液注入自動制御ができなかった。したがって、コスト削減率は比較的小さいと判断せざるを得なかった。
【0109】
(実施形態1の運転条件)
実施形態1における3台の運転条件は以下の通りである。
(1)汚泥流量10m3/h、薬液注入率薬注率2.3%(初期)、回転周波数15Hz(基準運転)
(2)汚泥流量10m3/h、薬液注入率2.1%(初期)、回転周波数15Hz(薬液注入率低運転)
(3)汚泥流量10m3/h、薬液注入率2.3%(初期)、回転周波数16.5Hz(回転周波数高運転)
【0110】
運転制御方法は、比較例1および比較例2の運転方式をそのまま採用した上で、さらに各3台ともにホッパレベル(HL)、脱水機内の所定位置における平均圧力(P)の2つをリアルタイムで計測(測定)し、実施形態1に係る脱水機の運転開始24時間後の各3台のそれぞれの2つの計測値(測定値)の3時間平均値を各脱水機の運転条件における基準計測値とし、このときの各3台間の計測値の差を基準偏差とし、自動制御は薬液注入率と回転周波数(すなわち、回転速度)の2つを制御する方法を採用した。
【0111】
薬液注入率の制御は、(2)のHLの基準偏差が150mm増大する毎に3台すべての薬液注入率を0.05ptだけ上昇させた。150mm低下すると、3台すべての薬液注入率を0.05ptだけ低下させた。薬液注入量を変化させた場合、変更直後6時間、薬液注入率の変更は行わず、6時間後から再度、同じ制御を繰り返す。
【0112】
また、実施形態1では、回転周波数制御も採用し、(3)のP基準偏差が7kPaだけ大きくなる毎に、3台すべての回転周波数を0.5Hzだけ低下させた。P基準偏差が7kPaだけ小さくなる毎に、3台すべての回転周波数を0.5Hzだけ増加させる方式を採用した。なお、表1の各項目別基準偏差は定期的に更新することで、より正確な現在の汚泥性状に即した薬液注入率と回転周波数の制御が可能になる。
【表1】
【0113】
汚泥流量10m3/h
薬液注入率(初期)2.1~2.3%((対汚泥TS)
回転周波数15~16.5Hz(約0.22~0.25rpm)
(処理成績)
脱水ケーキの平均含水率:81.0%
平均薬液注入率:2.15%
処理コスト:96
【0114】
(評価)
一定期間の平均の薬液注入率も脱水ケーキの含水率も比較例1よりも改善したことから、コストは比較例1より4pt%だけ低下した。汚泥性状の変化の予兆を複数台設定差運転により一早く察知し、比較例2よりもさらに正確に汚泥性状変化の追随適正化運転ができたことによると思われる。
【0115】
図10のグラフから明らかなように、本実施形態では、脱水ケーキの含水率には、大きなばらつきは生じておらず、薬液注入率も全期間を通じて比較的低い。
図8乃至
図10のグラフを比較すると、本実施形態によれば、脱水ケーキの含水率を安定させることができ、かつ薬液注入率を低減することができる。したがって、本実施形態に係る脱水システム200は、所定の目標性能を満足しつつ、汚泥の処理コストの最小化を実現することができる。以下、脱水システム200の他の実施形態(実施形態2)について、図面を参照して説明する。
【0116】
図11は、脱水ケーキの含水率と薬液注入率との関係を示すグラフである。
図11では、横軸は薬液注入率を示しており、縦軸は脱水ケーキの含水率を示している。上述した実施形態では、薬品抑制モードと、コスト最小化モードと、を採用した運転について説明したが、以下に示す実施形態では、上述したモードとは異なるコスト重視運転モードを採用した運転について説明する。
【0117】
実施形態2は、実施形態1の「含水率一定運転モード」(すなわち、所定の目標含水率以下に維持する運転モード)とは異なる「コスト重視運転モード」を採用可能である。コスト重視運転モードは、必要に応じて(脱水ケーキの含水率を大幅に低下させることを含む)、変動する薬品単価および脱水ケーキの処分費単価に応じて、スクリュープレス100のコストを最小化するための運転方法である。
【0118】
図11に示すように、制御装置6は、決定された複数のデータ点に基づいて、運転操作項目の変化に対する測定値の変化が所定の許容範囲内である運転操作安定領域と、運転操作項目の変化に対する測定値の変化が所定の許容範囲を超える運転操作変化領域と、を決定する。その後、制御装置6は、複数の脱水装置100の一方に対して、設定値としての基準設定値を設定し、複数の脱水装置100の他方に対して、設定値としての変化設定値を設定する。その後、制御装置6は、基準設定値が運転操作安定領域に属するように、脱水装置100の運転を制御し、変化設定値が運転操作変化領域に属するように、脱水装置100の運転を制御する。
【0119】
図12は、比較例3の実験結果を示すグラフである。
図13は、本実施形態(実施形態2)の実験結果を示すグラフである。
図12および
図13において、横軸は日数を示しており、縦軸は薬液注入率および脱水ケーキの含水率を示している。薬液注入率は棒グラフで示されており、脱水ケーキの含水率は折れ線グラフで示されている。
【0120】
本実施形態(実施形態2)の運転条件は、基本的に、実施形態1に係る運転条件と同じである。本実施形態では、さらに、1台目の脱水装置100における回転速度と、3台目の脱水装置100における回転速度と、の差分が所定の上限値よりも大きくなるごとに、すべての脱水装置100の回転速度(すなわち、回転周波数)を0.5Hzだけ低下させる。差分が所定の下限値よりも小さくなるごとに、すべての脱水装置100の回転速度を0.5Hzだけ上昇させる。
【0121】
さらに、本実施形態では、コスト重視運転モードは、その特徴として、以下の運転条件を有する。「薬品コストおよび脱水ケーキの廃棄コスト」が最も小さくなるように、6時間毎に薬液注入率を0.1%ずつ、スクリューの回転速度を0.5Hzずつ、すべてのスクリュープレス100を同時に変化させる。ここで、「薬品コストおよび脱水ケーキの廃棄コスト」は、脱水システム200の運転開始時における薬品単価、脱水ケーキの処分費、随時更新される薬液注入率と脱水ケーキの含水率との関係性、およびスクリューの回転速度を含む4つの関係性に基づいて算出される。
【0122】
図12および
図13に示すように、一定期間における、比較例3および本実施形態の平均薬液注入率は、概ね同じであるが、実施形態2における脱水ケーキの含水率は、比較例3における含水率よりも大きく改善(低下)されている。このような事実から、本実施形態におけるコストは、比較例3におけるコストよりも低下している。
【0123】
難脱水性汚泥の処理時における薬品単価と、脱水ケーキの処分費単価と、の関係から、以下の関係を導くことができる。薬液注入率を0.1%だけ増加させるときのコスト増大分の割合と、脱水ケーキの含水率が0.2%だけ低下するときのコスト減少分の割合と、は、相殺する。
【0124】
したがって、薬液注入率を0.1%だけ増加させ、かつ脱水ケーキの含水率が0.2%だけ低下する領域においては、最も高い薬液注入率を採用すると、最も低コストを実現することができる。以下、実施形態2に係る脱水システム200の実験結果の詳細について説明する。
【0125】
実施形態2は、実施形態1と同一の処理場のスクリュープレス4台を使用したケースであり、実施した時期が異なる。実施形態2では、新たに「コスト重視運転モード」を採用した運転である。
【0126】
実施形態2では、目標の脱水ケーキの含水率の82%以下を維持する実施形態1の「含水率一定運転モード」とは異なり、場合によっては、脱水ケーキの含水率を大幅に低下させることも含めて、変動する薬品単価と、脱水ケーキ処分費単価と、を念頭に最も低コストの運転条件になるように制御された運転方法である。また、実施形態2に係る脱水機を運転したときの汚泥性状は、実施形態1を行った時の汚泥性状よりも脱水性が悪化しており、実施形態1の時よりもより高い薬液注入率での運転を行った。
【0127】
(使用脱水機)
2号機:比較例3に係る脱水機
3,4,5号機:実施形態2に係る脱水機
【0128】
(実施形態2の運転条件)
本実施形態に係る運転における3台の運転条件は以下の通りである。
(1)汚泥流量10m3/h、薬注率2.7%(初期)、回転周波数15Hz(基準運転)
(2)汚泥流量10m3/h、薬注率2.5%(初期)、回転周波数15Hz(薬液注入率低運転)
(3)汚泥流量10m3/h、薬注率2.7%(初期)、回転周波数16.5Hz(回転周波数高運転)
【0129】
運転制御方法は、比較例2の運転方式をそのまま採用した上で、さらに各3台ともにホッパレベル(HL)、脱水機内の所定位置における平均圧力(P)の2つをリアルタイムで計測(測定)し、実施形態2に係る脱水機の運転開始24時間後の各3台のそれぞれの2つの計測値(測定値)の3時間平均値を各脱水機運転条件における基準計測値とした。このときの各3台間の計測値の差を基準偏差とし、自動制御は薬液注入率と回転周波数の2つを制御する方法を採用した。
【0130】
薬液注入制御は、(2)のHL基準偏差が150mm増大する毎に3台すべての薬液注入率を0.05ptだけ上昇させ、150mm低下すると、3台すべての薬液注入率を0.05ptだけ低下させた。薬液注入量を変化させた場合、変更直後6時間は薬液注入率の変更は行わず、6時間後から再度同じ制御を繰り返す。
【0131】
また、実施形態2では、回転周波数制御も採用し、(3)のP基準偏差が7kPaだけ大きくなる毎に、3台すべての回転周波数を0.5Hzだけ低下させ、P基準偏差が7kPaだけ小さくなる毎に3台すべての回転周波数を0.5Hzだけ増加させる方式を採用した。
【0132】
また、実施形態2では、コスト重視運転モードの特徴として、実施形態2に係る脱水機の運転実施当時の高分子凝集剤単価:700円/kg、脱水ケーキの処分費:12000円/t、随時更新される薬液注入率と、脱水ケーキの含水率と、の関係性、および回転周波数と、脱水ケーキの含水率と、の関係性の4つから算出される「高分子凝集剤コスト+ケーキ処分コスト」が最も小さくなる運転条件に近づけるべく、6時間毎に薬液注入率は0.1%ずつ、回転周波数は0.5Hzずつ、それぞれ3台すべて同時に変化させる方式を採用した。
【表2】
【0133】
汚泥流量10m3/h
薬液注入率(初期)2.5~2.7%(対汚泥TS)
回転周波数15~16.5Hz(約0.22~0.25rpm)
【0134】
(処理成績)(比較例3)
脱水ケーキの平均含水率:81.7%
平均薬液注入率:2.66%
処理コスト:100(相対比)
【0135】
(実施形態2)
脱水ケーキの平均含水率:80.6%
平均薬液注入率:2.66%
処理コスト:95(相対比)
【0136】
(評価)
一定期間の平均の薬液注入率は、比較例3および実施形態2ともに2.66%と同じ値であるにもかかわらず、脱水ケーキの含水率は比較例3の81.7%よりも1.1%と大きく改善したことから、コストは比較例1より5pt%低下した。
【0137】
実施形態2における難脱水性汚泥時における薬品単価と脱水ケーキの処分費単価の関係より、薬液注入率を0.1%だけ増加させるときのコスト増および脱水ケーキの含水率が0.2%だけ低下するときのコスト減がほぼ相殺する割合である。したがって、薬液注入率0.1%増で、脱水ケーキの含水率0.2%以上、減少する領域においては、最も高い薬液注入率を採用する方がより低コストとなることから、実施形態2では、平均薬液注入率は、ほぼ2.6%以上のデータが多い。したがって、脱水性がやや易脱水性にシフトしていた3日目、18日目などは、脱水ケーキの含水率が80%を下回るケースもあり、低コスト化に寄与している。
【0138】
上述した実施形態では、複数の脱水装置100の運転を制御する方法について説明したが、上述した実施形態に係る運転制御方法は、攪拌機203aを備える凝集槽203に適用されてもよい。この場合、脱水システム200は、複数の凝集槽203を備えてもよい。脱水装置100および凝集槽203を総称して、処理装置と呼ばれる。したがって、脱水システム200は、予測困難な性状変化が起こり得る有機性廃棄物を処理する複数の処理装置(例えば、脱水装置100および凝集槽203)を備える。
【0139】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0140】
1 スクリーンケーシング
1A 脱水領域
1B プラグ形成領域
2 投入口
3 第1スクリュー
3A 第1スクリュー軸
3B 第1スクリュー羽根
4 第2スクリュー
4A 第2スクリュー軸
4B 第2スクリュー羽根
6 制御装置
6a 記憶装置
6b 演算装置
6c 運転設定装置
7 第1回転機構
8 閉塞壁
14 第1駆動機
15 スプロケット
16 スプロケット
17 チェーン
20 第2回転機構
24 第2駆動機
25 スプロケット
26 スプロケット
27 チェーン
33 排出チャンバー
33A 内壁
38 ろ液受け
39 ドレイン
50 レベルセンサ
60 圧力センサ
70 水分センサ
100 脱水装置(スクリュープレス)
200 脱水システム
201 汚泥貯留槽
202 汚泥供給ポンプ
203 凝集槽
203a 攪拌機
204 濃縮機
205 ポリマ熔解槽
206 ポリマ供給ポンプ