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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076915
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂成形体及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/10 20060101AFI20240530BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20240530BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20240530BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240530BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240530BHJP
   B32B 23/04 20060101ALI20240530BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240530BHJP
【FI】
C08L1/10 ZBP
C08L67/04
C08K5/10
C08K5/13
C08K3/22
B32B23/04
C08L101/16
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188753
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八百 健二
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4F100AA17A
4F100AJ06A
4F100AK18
4F100AK41A
4F100AK42B
4F100AL05A
4F100AT00B
4F100AT00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DE01A
4F100EA02
4F100EH17
4F100EJ20
4F100GB41
4F100JC00B
4F100JK06
4F100JK10
4F100YY00A
4J002AB021
4J002BN123
4J002BN143
4J002CF182
4J002DE107
4J002DE117
4J002DE137
4J002DE187
4J002EH046
4J002EH096
4J002EH126
4J002EJ026
4J002EW046
4J002FD203
4J002FD206
4J002FD207
4J002GF00
4J002GN00
4J002GQ00
4J200AA04
4J200BA14
4J200BA38
4J200CA01
4J200CA03
4J200DA24
4J200DA28
4J200EA04
4J200EA09
(57)【要約】
【課題】他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物及びその応用の提供。
【解決手段】セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含み、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記ポリ乳酸Bの含有量が0.5を超え0.9以下であり、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記化合物Cの含有量が0.15を超え0.3以下である樹脂組成物
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートAと、
ポリ乳酸Bと、
エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含み、
前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記ポリ乳酸Bの含有量が0.5を超え0.9以下であり、
前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記化合物Cの含有量が0.15を超え0.3以下である樹脂組成物。
【請求項2】
コア層と前記コア層の表面にシェル層とを有するコアシェル構造の粒子Dを含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記粒子Dの含有量が0.05以上0.15以下である請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
金属酸化物Eを含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記金属酸化物Eの含有量が0.05以上0.15以下である請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記セルロースアシレートAがセルロースアセテートプロピオネートである請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
セルロースアシレートAと、
ポリ乳酸Bと、
エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含み、
ウエルドライン衝撃強度が10kJ/m未満であり、
シャルピー衝撃強度に対するウエルドライン衝撃強度が0.5未満である樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む樹脂成形体。
【請求項9】
請求項8に記載の樹脂成形体と、他の部材と、が積層している積層体。
【請求項10】
前記樹脂成形体と、他の部材と、の間に部品を含む請求項9に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂成形体及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートから選択される少なくとも1種を含むセルロースアシレートと、ポリ乳酸と、分子量250以上2000以下のエステル化合物と、コア層および前記コア層の表面上に(メタ)アクリル重合体を含むシェル層を有するコアシェル構造の重合体と、を含み、前記セルロースアシレートの質量(A)に対する前記ポリ乳酸の質量(B)の比((B)/(A))が0.03以上0.5以下であり、前記セルロースアシレートの質量(A)に対する前記エステル化合物の質量(C)の比((C)/(A))が0.03以上0.15以下であり、前記セルロースアシレートの質量(A)に対する前記コアシェル構造の重合体の質量(D)の比((D)/(A))が0.01以上0.1以下である樹脂組成物。」が提案されている。
特許文献2には、「(A)セルロースエステル樹脂と、前記(A)セルロースエステル樹脂100質量部に対する量が5質量部以上10質量部以下である(B)エポキシ基含有可塑剤と、前記(A)セルロースエステル樹脂100質量部に対する量が10質量部以上30質量部以下であり、前記(A)セルロースエステル樹脂と反応し得る官能基を有しない、ポリエーテルエステル化合物である(C)非反応性可塑剤と、を含む樹脂組成物。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-15787号公報
【特許文献2】特許第6524633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含む樹脂組成物において、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記ポリ乳酸Bの含有量が0.5以下若しくは0.9を超える場合、又は、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記化合物Cの含有量が0.15以下若しくは0.3を超える場合と比較して、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物を提供することである。
本発明の他の一実施形態が解決しようとする課題は、セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含む樹脂組成物において、ウエルドライン衝撃強度が10kJ/m以上である場合、又は、シャルピー衝撃強度に対するウエルドライン衝撃強度が0.5以上である場合と比較して、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段には、以下の手段が含まれる。
<1> セルロースアシレートAと、
ポリ乳酸Bと、
エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含み、
前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記ポリ乳酸Bの含有量が0.5を超え0.9以下であり、
前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記化合物Cの含有量が0.15を超え0.3以下である樹脂組成物。
<2> コア層と前記コア層の表面にシェル層とを有するコアシェル構造の粒子Dを含む<1>に記載の樹脂組成物。
<3> 前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記粒子Dの含有量が0.05以上0.15以下である<2>に記載の樹脂組成物。
<4> 金属酸化物Eを含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5> 前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記金属酸化物Eの含有量が0.05以上0.15以下である<4>に記載の樹脂組成物。
<6> 前記セルロースアシレートAがセルロースアセテートプロピオネートである<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7> セルロースアシレートAと、
ポリ乳酸Bと、
エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含み、
ウエルドライン衝撃強度が10kJ/m未満であり、
シャルピー衝撃強度に対するウエルドライン衝撃強度が0.5未満である樹脂組成物。
<8> <1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物を含む樹脂成形体。
<9> <8>に記載の樹脂成形体と、他の部材と、が積層している積層体。
<10> 前記樹脂成形体と、他の部材と、の間に部品を含む<9>に記載の積層体。
【発明の効果】
【0006】
<1>に係る発明によれば、セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含む樹脂組成物において、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記ポリ乳酸Bの含有量が0.5以下若しくは0.9を超える場合、又は、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記化合物Cの含有量が0.15以下若しくは0.3を超える場合と比較して、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
<2>に係る発明によれば、粒子Dを含まない場合と比較して他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
<3>に係る発明によれば、セルロースアシレートAの含有量に対する、前記粒子Dの含有量が0.05未満又は0.15を超える場合と比較して他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
<4>に係る発明によれば、金属酸化物Eを含まない場合と比較して他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
<5>に係る発明によれば、セルロースアシレートAの含有量に対する、前記金属酸化物Eの含有量が0.05未満又は0.15を超える場合と比較して他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
<6>に係る発明によれば、セルロースアシレートAがジアセチルセルロースである場合及びセルロースアシレートAがセルロースアセテートブチレートである場合と比較して他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
<7>に係る発明によれば、セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含む樹脂組成物において、ウエルドライン衝撃強度が10kJ/m以上である場合、又は、シャルピー衝撃強度に対するウエルドライン衝撃強度が0.5以上である場合と比較して他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
<8>、<9>又は<10>に係る発明によれば、セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含み、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記ポリ乳酸Bの含有量が0.5以下若しくは0.9を超える場合、又は、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記化合物Cの含有量が0.15以下若しくは0.3を超える場合と比較して、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体、又は当該樹脂成形体を含む積層体が提供される。また、セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含み、ウエルドライン衝撃強度が10kJ/m以上である場合、又は、シャルピー衝撃強度に対するウエルドライン衝撃強度が0.5以上である場合と比較して、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体、又は当該樹脂成形体を含む積層体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0008】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
「工程」とは、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0009】
<樹脂組成物>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物(以下「第一実施形態に係る樹脂組成物」ともいう)は、セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含み、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記ポリ乳酸Bの含有量が0.5を超え0.9以下であり、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記化合物Cの含有量が0.15を超え0.3以下である。
【0010】
第一実施形態に係る樹脂組成物は、上記構成により、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる。その理由は、次の通り推測される。
【0011】
セルロースアシレートA及びポリ乳酸Bは、ともに単独では融着性が低い傾向にある。その原因は、セルロースアシレートAは熱変形温度が高温であるため、表面軟化しにくいためであり、ポリ乳酸Bは熱変形温度は低いものの弾性率が高く、表面軟化しにくいためである。
【0012】
第一実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースアシレートA及びポリ乳酸Bを含む。セルロースアシレートA及びポリ乳酸Bを含むことで、熱変形温度を低下させ、且つ弾性率も低下させることができ、表面軟化を促すことができる。表面軟化効果をより向上するためにはセルロースアシレートAの含有量に対する、ポリ乳酸Bの含有量が0.5を超え0.9以下である必要がある。これが0.5以下だと熱変形温度の低減効果が不足して表面軟化が不十分になる。逆に、0.9を超えると弾性率が高くなりすぎるため表面軟化が不十分になる。
樹脂組成物の表面軟化は融着性に有利に働くが、これだけでは十分ではない。そこで第一実施形態に係る樹脂組成物は、さらに、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cを含む。そうすることで、化合物Cが可塑剤として働き、樹脂組成物の表面軟化をより加速し、また融着のために樹脂組成物及び他の部材に圧力をかけた時に接触表面で微量の化合物Cが染み出しして、樹脂組成物及び他の部材の表面に溶け込むことで、優れた融着性が発現する。化合物Cは親和性の高さからポリ乳酸BよりセルロースアシレートA中に偏在する傾向にあるが、セルロースアシレートAの含有量に対する、化合物Cの含有量は0.15を超え0.3以下である必要がある。これが0.15以下だと化合物Cの染み出しが少なくなり、融着性が不十分になる。逆に0.3を超えると、化合物Cの染み出しが過剰になり、融着界面から染み出すことで外観不良などを引き起こす。
【0013】
以上のことから、第一実施形態に係る樹脂組成物は、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られると推測される。
【0014】
本発明の他の一実施形態に係る樹脂組成物(以下「第二実施形態に係る樹脂組成物」ともいう)は、セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含み、ウエルドライン衝撃強度が10kJ/m未満であり、シャルピー衝撃強度に対するウエルドライン衝撃強度が0.5未満である。
【0015】
第二実施形態に係る樹脂組成物は、上記構成により、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる。その理由は、次の通り推測される。
【0016】
セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含む樹脂組成物同士の接触面で分子の入り込みが強すぎると、接触面自体が曖昧になってしまい、樹脂組成物の表面軟化及び溶け込みの効果が発現しにくくなる。分子の入り込みが強いとウエルドライン衝撃強度が増加し、結果としてシャルピー衝撃強度に対するウエルドライン衝撃強度の比が大きくなる。この比が0.5以上になると、融着性が不十分になる。また、ウエルドライン衝撃強度を10kJ/m以上とすると、樹脂流動で衝突した時に、衝突面すなわち樹脂組成物における接触面に垂直な方向にのみ分子が配列する傾向が強くなり、接触面に平行な分子の絡み合いが少なくなることから、樹脂成形体としたときの融着強度が不十分になる。
【0017】
以上のことから、第二実施形態に係る樹脂組成物は、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られると推測される。
【0018】
以下、第一実施形態及び第二実施形態に係る樹脂組成物のいずれにも該当する樹脂組成物(以下、「本実施形態に係る樹脂組成物」と称する)について詳細に説明する。ただし、本実施形態に係る樹脂組成物は、第一実施形態又は第二実施形態に係る樹脂組成物のいずれか一つに該当する樹脂組成物であればよい。
【0019】
(セルロースアシレートA)
本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースアシレートAを含む。
以下セルロースアシレートAを単に「セルロースアシレート」と称することがある。
セルロースアシレートは、セルロースにおけるヒドロキシ基の少なくも一部がアシル基により置換(アシル化)されたセルロース誘導体である。アシル基とは、-CO-RAC(RACは、水素原子又は炭化水素基を表す。)の構造を有する基である。
【0020】
セルロースアシレートは、例えば、下記の一般式(CA)で表されるセルロース誘導体である。
【0021】
【化1】
【0022】
一般式(CA)中、A、A及びAはそれぞれ独立に、水素原子又はアシル基を表し、nは2以上の整数を表す。ただし、n個のA、n個のA及びn個のAのうちの少なくとも一部はアシル基を表す。分子中にn個あるAは、全て同一でも一部同一でも互いに異なっていてもよい。同様に、分子中にn個あるA及びn個あるAもそれぞれ、全て同一でも一部同一でも互いに異なっていてもよい。
【0023】
、A及びAが表すアシル基は、当該アシル基中の炭化水素基が、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよいが、直鎖状又は分岐状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
【0024】
、A及びAが表すアシル基は、当該アシル基中の炭化水素基が、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよいが、飽和炭化水素基であることがより好ましい。
【0025】
、A及びAが表すアシル基は、炭素数1以上6以下のアシル基が好ましい。すなわち、セルロースアシレートとしては、アシル基の炭素数が1以上6以下であるセルロースアシレートが好ましい。
【0026】
、A及びAが表すアシル基は、当該アシル基中の水素原子がハロゲン原子(例えば、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、酸素原子、窒素原子などで置換された基でもよいが、無置換であることが好ましい。
【0027】
、A及びAが表すアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基(ブタノイル基)、プロペノイル基、ヘキサノイル基等が挙げられる。これらの中でもアシル基としては、樹脂粒子の生分解速度向上の観点から、炭素数2以上4以下のアシル基がより好ましく、炭素数2又は3のアシル基が更に好ましい。
【0028】
セルロースアシレートとしては、セルロースアセテート(セルロースモノアセテート、セルロースジアセテート(DAC)、セルローストリアセテート)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)等が挙げられる。
【0029】
融着性の観点から、セルロースアシレートとしては、セルロースアセテートプロピオネートであることが好ましい。
セルロースアシレートとしてセルロースアセテートプロピオネートを適用することで、セルロースアシレートが有する置換基の種類が2種類になり、分子間反発力が低減し、更には置換基が大きすぎないことから、分子鎖の絡み合いを維持でき、優れた融着性を実現できる。
【0030】
セルロースアシレートは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
セルロースアシレートの重量平均重合度は、200以上1000以下が好ましく、500以上1000以下がより好ましく、600以上1000以下が更に好ましい。
【0032】
セルロースアシレートの重量平均重合度は、以下の手順で重量平均分子量(Mw)から求める。
まず、セルロースアシレートの重量平均分子量(Mw)を、テトラヒドロフランを用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ装置(GPC装置:東ソー社製、HLC-8320GPC、カラム:TSKgelα-M)にてポリスチレン換算で測定する。
次いで、セルロースアシレートの構成単位分子量で除算することで、セルロースアシレートの重合度を求める。例えば、セルロースアシレートの置換基がアセチル基の場合、構成単位分子量は、置換度が2.4のとき263、置換度が2.9のとき284である。
【0033】
セルロースアシレートの置換度は、生分解性の観点から、1.7以上2.9以下が好ましく、置換度1.9以上2.9以下がより好ましく、2.0以上2.9以下が更に好ましく、2.1以上2.9以下が特に好ましい。
【0034】
セルロースアシレートの置換度とは、セルロースが有するヒドロキシ基がアシル基により置換されている程度を示す指標である。つまり、置換度は、セルロースアシレートのアシル化の程度を示す指標となる。具体的には、置換度は、セルロースアシレートのD-グルコピラノース単位に3個あるヒドロキシ基がアシル基で置換された置換個数の分子内平均を意味する。置換度は、H-NMR(JMN-ECA/JEOL RESONANCE社製)にて、セルロース由来水素とアシル基由来水素とのピークの積分比から求める。
【0035】
(ポリ乳酸B)
本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリ乳酸Bを含む。
以下、ポリ乳酸Bを単に「ポリ乳酸」とも称する。
【0036】
ポリ乳酸は、乳酸の単独重合体であり、下記式(PLA)で表される化合物である。
【0037】
【化2】
【0038】
上記式(PLA)中、nは2以上の整数を表す。
nの上限は特に限定されないが、例えば、20000以下が挙げられる。nの範囲は、500以上10000以下が好ましく、1000以上8000以下がより好ましい。
【0039】
(化合物C)
本実施形態に係る樹脂組成物は、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cを含む。
【0040】
-エステル化合物-
エステル化合物は、セルロースアシレート、ポリ乳酸及びカルダノール化合物以外のエステル基(*-CO-O-*、左記*は結合手を意味する)を含有する化合物である。
エステル化合物としては、例えば、脂肪酸エステル(アジピン酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、フタル酸エステル、酢酸エステル)、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、グリコールエステル(例えば、安息香酸グリコールエステル)、脂肪酸エステルの変性体(例えば、エポキシ化脂肪酸エステル)等が挙げられる。上記エステルとしては、モノエステル、ジエステル、トリエステル、ポリエステル等が挙げられる。中でも、ジカルボン酸ジエステル(アジピン酸ジエステル、セバシン酸ジエステル、アゼライン酸ジエステル、フタル酸ジエステル等)が好ましい。
【0041】
エステル化合物としては、アジピン酸エステル、クエン酸エステル、及びセバシン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0042】
アジピン酸エステルとしては、アジピン酸エステルとそれ以外の成分との混合物を用いてもよい。当該混合物の市販品として、大八化学工業製のDaifatty101等が挙げられる。
【0043】
クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、フタル酸エステル、酢酸エステル等の脂肪酸エステルとしては、脂肪酸とアルコールとのエステルが挙げられる。前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-エチルヘキサノール等の一価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(ジグリセリン等)、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、糖アルコール等の多価アルコール;などが挙げられる。
【0044】
安息香酸グリコールエステルにおけるグリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0045】
エポキシ化脂肪酸エステルは、不飽和脂肪酸エステルの炭素-炭素不飽和結合がエポキシ化された構造(つまり、オキサシクロプロパン)を有するエステル化合物である。エポキシ化脂肪酸エステルとしては、例えば、不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、ネルボン酸等)における炭素-炭素不飽和結合の一部又は全部がエポキシ化された脂肪酸とアルコールとのエステルが挙げられる。前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-エチルヘキサノール等の一価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(ジグリセリン等)、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、糖アルコール等の多価アルコール;などが挙げられる。
【0046】
エステル化合物は、分子量(又は重量平均分子量)が、200以上2000以下であることが好ましく、250以上1500以下であることがより好ましく、280以上1000以下であることが更に好ましい。エステル化合物の重量平均分子量は、特に断りのない限り、セルロースアシレートの重量平均分子量の測定方法に準拠して測定される値である。
【0047】
エステル化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
-カルダノール化合物-
カルダノール化合物とは、カシューを原料とする天然由来の化合物に含まれる成分(例えば、下記の構造式(b-1)~(b-4)で表される化合物)又は前記成分からの誘導体を指す。
【0049】
【化3】
【0050】
カルダノール化合物は、カシューを原料とする天然由来の化合物の混合物(以下「カシュー由来混合物」ともいう。)であってもよい。
【0051】
カルダノール化合物は、カシュー由来混合物からの誘導体であってもよい。カシュー由来混合物からの誘導体としては、例えば以下の混合物や単体等が挙げられる。
【0052】
・カシュー由来混合物中の各成分の組成比を調整した混合物
・カシュー由来混合物中から特定の成分のみを単離した単体
・カシュー由来混合物中の成分を変性した変性体を含む混合物
・カシュー由来混合物中の成分を重合した重合体を含む混合物
・カシュー由来混合物中の成分を変性し且つ重合した変性重合体を含む混合物
・前記組成比を調整した混合物中の成分をさらに変性した変性体を含む混合物
・前記組成比を調整した混合物中の成分をさらに重合した重合体を含む混合物
・前記組成比を調整した混合物中の成分をさらに変性し且つ重合した変性重合体を含む混合物
・前記単離した単体をさらに変性した変性体
・前記単離した単体をさらに重合した重合体
・前記単離した単体をさらに変性し且つ重合した変性重合体
ここで単体には、2量体及び3量体等の多量体も含まれるものとする。
【0053】
カルダノール化合物は、樹脂粒子の生分解速度向上の観点から、一般式(CDN1)で表される化合物、及び、一般式(CDN1)で表される化合物が重合された重合体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0054】
【化4】
【0055】
一般式(CDN1)中、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、又は二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基を表す。Rは、ヒドロキシ基、カルボキシ基、置換基を有していてもよいアルキル基、又は二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基を表す。P2は0以上4以下の整数を表す。P2が2以上である場合において複数存在するRは、同じ基であっても異なる基であってもよい。
【0056】
一般式(CDN1)において、Rが表す置換基を有していてもよいアルキル基は、炭素数3以上30以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数5以上25以下のアルキル基であることがより好ましく、炭素数8以上20以下のアルキル基であることが更に好ましい。
置換基としては、例えば、ヒドロキシ基;エポキシ基、メトキシ基等のエーテル結合を含む置換基;アセチル基、プロピオニル基等のエステル結合を含む置換基;等が挙げられる。
置換基を有していてもよいアルキル基の例としては、ペンタデカン-1-イル基、ヘプタン-1-イル基、オクタン-1-イル基、ノナン-1-イル基、デカン-1-イル基、ウンデカン-1-イル基、ドデカン-1-イル基、テトラデカン-1-イル基等が挙げられる。
【0057】
一般式(CDN1)において、Rが表す二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基は、炭素数3以上30以下の不飽和脂肪族基であることが好ましく、炭素数5以上25以下の不飽和脂肪族基であることがより好ましく、炭素数8以上20以下の不飽和脂肪族基であることが更に好ましい。
不飽和脂肪族基が有する二重結合の数は、1以上3以下であることが好ましい。
置換基としては、前記アルキル基の置換基として列挙したものが同様に挙げられる。
二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基の例としては、ペンタデカ-8-エン-1-イル基、ペンタデカ-8,11-ジエン-1-イル基、ペンタデカ-8,11,14-トリエン-1-イル基、ペンタデカ-7-エン-1-イル基、ペンタデカ-7,10-ジエン-1-イル基、ペンタデカ-7,10,14-トリエン-1-イル基等が挙げられる。
【0058】
一般式(CDN1)において、Rとしては、ペンタデカ-8-エン-1-イル基、ペンタデカ-8,11-ジエン-1-イル基、ペンタデカ-8,11,14-トリエン-1-イル基、ペンタデカ-7-エン-1-イル基、ペンタデカ-7,10-ジエン-1-イル基、ペンタデカ-7,10,14-トリエン-1-イル基が好ましい。
【0059】
一般式(CDN1)において、Rが表す置換基を有していてもよいアルキル基及び二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基としては、前記Rが表す置換基を有していてもよいアルキル基及び二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基として列挙したものが同様に好ましい例として挙げられる。
【0060】
一般式(CDN1)で表される化合物はさらに変性されていてもよい。例えば、エポキシ化されていてもよく、樹脂粒子の生分解速度向上の観点から、具体的には一般式(CDN1)で表される化合物が有するヒドロキシ基が下記の基(EP)に置き換えられた構造の化合物、つまり、下記の一般式(CDN1-e)で表される化合物であることが好ましい。
【0061】
【化5】
【0062】
基(EP)及び一般式(CDN1-e)中、LEPは、単結合又は2価の連結基を表す。一般式(CDN1-e)中、R、R及びP2はそれぞれ、一般式(CDN1)におけるR、R及びP2と同義である。
【0063】
基(EP)及び一般式(CDN1-e)において、LEPが表す2価の連結基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキレン基(好ましくは炭素数1以上4以下のアルキレン基、より好ましくは炭素数1のアルキレン基)、-CHCHOCHCH-基等が挙げられる。
上記置換基としては、一般式(CDN1)のRにおいて置換基として列挙したものが同様に挙げられる。
【0064】
EPとしては、メチレン基が好ましい。
【0065】
一般式(CDN1)で表される化合物が重合された重合体とは、少なくとも2つ以上の一般式(CDN1)で表される化合物が、連結基を介して又は介さずに重合された重合体をいう。
【0066】
一般式(CDN1)で表される化合物が重合された重合体としては、例えば、下記の一般式(CDN2)で表される化合物が挙げられる。
【0067】
【化6】
【0068】
一般式(CDN2)中、R11、R12及びR13はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、又は二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基を表す。R21、R22及びR23はそれぞれ独立に、ヒドロキシ基、カルボキシ基、置換基を有していてもよいアルキル基、又は二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基を表す。P21及びP23はそれぞれ独立に、0以上3以下の整数を表し、P22は0以上2以下の整数を表す。L及びLはそれぞれ独立に、2価の連結基を表す。nは、0以上10以下の整数を表す。P21が2以上である場合において複数存在するR21、P22が2以上である場合において複数存在するR22、及びP23が2以上である場合において複数存在するR23はそれぞれ、同じ基であっても異なる基であってもよい。nが2以上である場合において複数存在するR12、R22及びLはそれぞれ、同じ基であっても異なる基であってもよく、nが2以上である場合において複数存在するP22は、同じ数であっても異なる数であってもよい。
【0069】
一般式(CDN2)において、R11、R12、R13、R21、R22及びR23が表す置換基を有していてもよいアルキル基及び二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基としては、一般式(CDN1)のRとして列挙したものが同様に好ましい例として挙げられる。
【0070】
一般式(CDN2)において、L及びLが表す2価の連結基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキレン基(好ましくは炭素数2以上30以下のアルキレン基、より好ましくは炭素数5以上20以下のアルキレン基)等が挙げられる。
上記置換基としては、一般式(CDN1)のRにおいて置換基として列挙したものが同様に挙げられる。
【0071】
一般式(CDN2)において、nとしては、1以上10以下が好ましく、1以上5以下がより好ましい。
【0072】
一般式(CDN2)で表される化合物はさらに変性されていてもよい。例えば、エポキシ化されていてもよく、具体的には一般式(CDN2)で表される化合物が有するヒドロキシ基が基(EP)に置き換えられた構造の化合物、つまり、下記の一般式(CDN2-e)で表される化合物であってもよい。
【0073】
【化7】
【0074】
一般式(CDN2-e)中、R11、R12、R13、R21、R22、R23、P21、P22、P23、L、L及びnはそれぞれ、一般式(CDN2)におけるR11、R12、R13、R21、R22、R23、P21、P22、P23、L、L及びnと同義である。
一般式(CDN2-e)中、LEP1、LEP2及びLEP3はそれぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を表す。nが2以上である場合において複数存在するLEP2は、同じ基であっても異なる基であってもよい。
【0075】
一般式(CDN2-e)において、LEP1、LEP2及びLEP3が表す2価の連結基としては、一般式(CDN1-e)におけるLEPが表す2価の連結基として列挙したものが同様に好ましい例として挙げられる。
【0076】
一般式(CDN1)で表される化合物が重合された重合体としては、例えば、少なくとも3つ以上の一般式(CDN1)で表される化合物が、連結基を介して又は介さずに三次元的に架橋重合された重合体であってもよい。一般式(CDN1)で表される化合物が三次元的に架橋重合された重合体としては、例えば以下の構造式で表される化合物が挙げられる。
【0077】
【化8】
【0078】
上記構造式において、R10、R20及びP20はそれぞれ、一般式(CDN1)におけるR、R及びP2と同義である。L10は、単結合又は2価の連結基を表す。複数存在するR10、R20及びL10はそれぞれ、同じ基であっても異なる基であってもよい。複数存在するP20は、同じ数であっても異なる数であってもよい。
【0079】
上記構造式において、L10が表す2価の連結基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキレン基(好ましくは炭素数2以上30以下のアルキレン基、より好ましくは炭素数5以上20以下のアルキレン基)等が挙げられる。
上記置換基としては、一般式(CDN1)のRにおいて置換基として列挙したものが同様に挙げられる。
【0080】
上記構造式で表される化合物はさらに変性されていてもよく、例えば、エポキシ化されていてもよい。具体的には、上記構造式で表される化合物が有するヒドロキシ基が基(EP)に置き換えられた構造の化合物であってもよく、例えば以下の構造式で表される化合物、つまり、一般式(CDN1-e)で表される化合物が三次元的に架橋重合された重合体が挙げられる。
【0081】
【化9】
【0082】
上記構造式において、R10、R20及びP20はそれぞれ、一般式(CDN1-e)におけるR、R及びP2と同義である。L10は、単結合又は2価の連結基を表す。複数存在するR10、R20及びL10はそれぞれ、同じ基であっても異なる基であってもよい。複数存在するP20は、同じ数であっても異なる数であってもよい。
【0083】
上記構造式において、L10が表す2価の連結基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキレン基(好ましくは炭素数2以上30以下のアルキレン基、より好ましくは炭素数5以上20以下のアルキレン基)等が挙げられる。
上記置換基としては、一般式(CDN1)のRにおいて置換基として列挙したものが同様に挙げられる。
【0084】
カルダノール化合物は、樹脂成形体の透明性を向上する観点から、エポキシ基を有するカルダノール化合物を含むことが好ましく、エポキシ基を有するカルダノール化合物であることがより好ましい。
【0085】
カルダノール化合物としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、Cardolite社製のNX-2024、Ultra LITE 2023、NX-2026、GX-2503、NC-510、LITE 2020、NX-9001、NX-9004、NX-9007、NX-9008、NX-9201、NX-9203、東北化工社製のLB-7000、LB-7250、CD-5L等が挙げられる。エポキシ基を有するカルダノール化合物の市販品としては、例えば、Cardolite社製のNC-513、NC-514S、NC-547、LITE513E、Ultra LTE 513等が挙げられる。
【0086】
カルダノール化合物の水酸基価は、樹脂成形体の生分解速度向上の観点から、100mgKOH/g以上が好ましく、120mgKOH/g以上がより好ましく、150mgKOH/g以上が更に好ましい。カルダノール化合物の水酸基価の測定は、ISO14900のA法に従って行われる。
【0087】
カルダノール化合物として、エポキシ基を有するカルダノール化合物を用いる場合、そのエポキシ当量は、樹脂成形体の透明性を向上する観点から、300以上500以下が好ましく、350以上480以下がより好ましく、400以上470以下が更に好ましい。エポキシ基を有するカルダノール化合物のエポキシ当量の測定は、ISO3001に従って行われる。
【0088】
カルダノール化合物の分子量は、樹脂成形体の生分解速度向上の観点から、250以上1000以下が好ましく、280以上800以下がより好ましく、300以上500以下が更に好ましい。
【0089】
カルダノール化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
(粒子D)
融着性の観点から、本実施形態に係る樹脂組成物は、コア層と前記コア層の表面にシェル層とを有するコアシェル構造の粒子Dを含むことが好ましい。
本実施形態に係る樹脂組成物が粒子Dを含むことで、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られやすくなる。その理由としては、粒子Dが選択的にポリ乳酸中に偏在し、ポリ乳酸を低弾性率化するためと推測される。
【0091】
コアシェル構造の粒子Dにおいて、コア層とシェル層との間には、1層以外の他のシェル層を有してよい。
コアシェル構造の粒子Dは、コア層を最内層とし、シェル層を最外層とする粒子(具体的には、コア層となる重合体に、他の重合体をグラフト重合してシェル層とした重合体)である。
なお、コア層とシェル層との間には、1層以上の他の層(例えば1層以上6層以下の他の層)を有してよい。なお、他の層を有する場合、コアシェル構造の粒子Dは、コア層となる重合体に、複数種の重合体をグラフト重合して多層化した重合体である。
【0092】
コア層は、ゴム層であることがよい。ゴム層は、(メタ)アクリルゴム、シリコーンゴム、スチレンゴム、共役ジエンゴム、α-オレフィンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、ポリエステルゴム、ポリアミドゴム、ブタジエンゴム、これら2種以上の共重合体ゴム等の層が挙げられる。
これらの中も、ゴム層は、(メタ)アクリルゴム、シリコーンゴム、スチレンゴム、共役ジエンゴム、α-オレフィンゴム、これら2種以上の共重合体ゴム等の層が好ましい。
なお、ゴム層は、架橋剤(ジビニルベンゼン、アリルアクリレート、ブチレングリコールジアクリレート等)を共重合して架橋させたゴム層であってもよい。
【0093】
(メタ)アクリルゴムとしては、例えば、(メタ)アクリル成分(例えば、(メタ)アクリル酸の炭素数2以上6以下のアルキルエステル等)を重合した重合体ゴムが挙げられる。
シリコーンゴムとしては、例えば、シリコーン成分(ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルシロキサン等)で構成されたゴムが挙げられる。
スチレンゴムとしては、例えば、スチレン成分(スチレン、α-メチルスチレン等)を重合した重合体ゴムが挙げられる。
共役ジエンゴムとしては、例えば、共役ジエン成分(ブタジエン、イソプレン等)を重合した重合体ゴムが挙げられる。
α-オレフィンゴムは、α-オレフィン成分(エチレン、プロピレン、2-メチルプロピレン)を重合した重合体ゴムが挙げられる。
共重合体ゴムとしては、例えば、2種以上の(メタ)アクリル成分を重合した共重合体ゴム、(メタ)アクリル成分とシリコーン成分を重合した共重合体ゴム、(メタ)アクリル成分と共役ジエン成分とスチレン成分との共重合体等が挙げられる。
【0094】
シェル層は、例えば、グリシジル基含有ビニル化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、不飽和ジカルボン酸無水物、脂肪族ビニル化合物、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、マレイミド化合物、及び(メタ)アクリル酸から選択される少なくとも1種の重合体を含む層が挙げられる。シェル層を構成する重合体は、上記以外の他のビニル化合物が重合されていてもよい。
これらの中でも、シェル層は、グリシジル基含有ビニル化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び不飽和ジカルボン酸無水物から選択される少なくとも1を重合した重合体を含む層であることが好ましい。
【0095】
グリシジル基含有ビニル化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン-4-グリシジルエーテル、4-グリシジルスチレン等が挙げられる。
【0096】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル鎖の水素の少なくとも一部が置換されていてもよい。その置換基としては、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基等が挙げられる。
【0097】
不飽和ジカルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸等が挙げられる。これらの中も出、無水マレイン酸が好ましい。
【0098】
コア層とシェル層との間に有する1層以上の他の層は、シェル層で説明した重合体の層が例示される。
【0099】
コアシェル構造の粒子Dの平均一次粒子径は、特に限定されるものではないが、融着性の観点から、50nm以上500nm以下であることが好ましく、さらに、50nm以上400nm以下であることがより好ましく、100nm以上300nm以下であることが特に好ましく、150nm以上250nm以下であることが最も好ましい。
なお、平均一次粒径とは、次の方法により測定された値をいう。走査型電子顕微鏡により粒子を観察し、一次粒子の最大径を一次粒子径とし、粒子100個について、一次粒子径を測定し、平均した数平均一次粒子径である。具体的には、樹脂組成物中のコアシェル構造の粒子Dの分散形態を走査型電子顕微鏡により観察することにより求める。
【0100】
コアシェル構造の粒子Dは、公知の方法により作製することもできる。
公知の方法としては、乳化重合法が挙げられる。製造方法として具体的には次の方法が例示される。まず単量体の混合物を乳化重合させてコア粒子(コア層)を作った後、他の単量体の混合物をコア粒子(コア層)の存在下において乳化重合させてコア粒子(コア層)の周囲にシェル層を形成するコアシェル構造の重合体を作る。
また、コア層とシェル層との間に他の層を形成する場合は、他の単量体の混合物の乳化重合を繰り返して、目的とするコア層と他の層とシェル層とから構成されるコアシェル構造の粒子Dを得る。
【0101】
粒子Dの市販品としては、例えば、三菱ケミカル(株)製“メタブレン”(登録商標)、(株)カネカ製“カネエース”(登録商標)、ロームアンドハース社製“パラロイド”(登録商標)、アイカ工業(株)製“スタフィロイド”(登録商標)、(株)クラレ製“パラフェイス”(登録商標)等が挙げられる。
【0102】
粒子Dは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0103】
(金属酸化物E)
融着性の観点から、本実施形態に係る樹脂組成物は、金属酸化物Eを含むことが好ましい。
本実施形態に係る樹脂組成物が金属酸化物Eを含むことで、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られやすくなる。その理由としては、金属酸化物Eの一部が樹脂組成物の表面に露出し、融着後にアンカーとして働くためと推測される。
【0104】
金属酸化物Eとしては、特に限定されず、金属の酸化物が適用可能である。
ここで、金属にはケイ素を含まないものとする。
金属酸化物Eとしては、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化鉄、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム等が挙げられ、融着性の観点から、酸化チタン又は酸化亜鉛であることが好ましく、酸化チタンであることがより好ましい。
【0105】
粒子Dは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0106】
(各種材料の含有量)
本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースアシレートAの含有量に対する、ポリ乳酸Bの含有量(即ち、ポリ乳酸Bの含有量/セルロースアシレートAの含有量)が0.5を超え0.9以下であり、融着性の観点から、0.6以上0.8以下であることが好ましく、0.6以上0.7以下であることがより好ましい。
【0107】
本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースアシレートAの含有量に対する、化合物Cの含有量(即ち、化合物Cの含有量/セルロースアシレートAの含有量)が0.15を超え0.3以下であり、融着性の観点から、0.17以上0.3以下であることが好ましく、0.2以上0.3以下であることがより好ましい。
【0108】
本実施形態に係る樹脂組成物が、粒子Dを含む場合、セルロースアシレートAの含有量に対する、粒子Dの含有量(即ち、粒子Dの含有量/セルロースアシレートAの含有量)が0.05以上0.15以下であることが好ましく、0.07以上0.13以下であることがより好ましく、0.10以上0.12以下であることが更に好ましい。
【0109】
セルロースアシレートAの含有量に対する、粒子Dの含有量を0.05以上とすることで、ポリ乳酸の低弾性率化が十分に高くなりやすい。また、当該値を0.15以下とすることでポリ乳酸が柔軟になりすぎることが抑制され、樹脂組成物を用いて得られる樹脂成形体の形状が保たれやすくなり、ひいては他の部材に対する融着性が向上する。
【0110】
本実施形態に係る樹脂組成物が、金属酸化物Eを含む場合、セルロースアシレートAの含有量に対する、金属酸化物Eの含有量(即ち、金属酸化物Eの含有量/セルロースアシレートAの含有量)が0.05以上0.15以下であることが好ましく、0.07以上0.13以下であることがより好ましく、0.08以上0.12以下であることが更に好ましい。
【0111】
セルロースアシレートAの含有量に対する、金属酸化物Eの含有量を0.05以上とすることで、金属酸化物Eのアンカー効果が高くなりやすい。また、当該値を0.15以下とすることで樹脂組成物を用いて得られる樹脂成形体の柔軟性が保たれ、樹脂成形体が割れ等を引き起こすことが抑制される。
【0112】
融着性の観点から、本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースアシレートAを、樹脂組成物全体の質量に対して、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、45質量%以上55質量%以下であることが更に好ましい。
【0113】
(ウエルドライン衝撃強度)
本実施形態に係る樹脂組成物は、ウエルドライン衝撃強度10kJ/m未満であり、融着性の観点から、2kJ/m以上9kJ/m以下であることが好ましく、3kJ/m以上7kJ/m以下であることがより好ましく、3kJ/m以上5kJ/m以下であることが更に好ましい。
【0114】
・ウエルドライン衝撃強度の測定手順
ウエルドライン衝撃強度は、下記の手順で測定する。
長手方向中心にウエルドラインを有する多目的ダンベル試験片(測定部幅10mm、厚さ4mm)を作製する。当該試験片を用いて、ISO179-1(2010)に準拠した方法でウエルドライン部のノッチが形成されるように、シングルノッチ、ノッチタイプA及びノッチ付試験片の残り幅を8mmとなるように、ノッチングツール(東洋精機製作所社製、A4E)を用いてノッチ加工する。ノッチ加工した試験片について衝撃強度測定装置(東洋精機製作所社製、シャルピーオートインパクテスタCHN3型)にてエッジワイズ衝撃となるように試験片を設置し、23℃におけるウエルドライン衝撃強度を測定する。
【0115】
本実施形態に係る樹脂組成物は、シャルピー衝撃強度に対するウエルドライン衝撃強度(即ち、ウエルドライン衝撃強度/シャルピー衝撃強度)が0.5未満であり、融着性の観点から、0.25以上0.47以下であることが好ましく、0.27以上0.46以下であることがより好ましく、0.30以上0.42以下であることが更に好ましい。
【0116】
シャルピー衝撃強度に対するウエルドライン衝撃強度の値は、上記「・ウエルドライン衝撃強度の測定手順」に記載の手順で測定されるウエルドライン衝撃強度の値を、下記「・シャルピー衝撃強度の測定手順」に記載の手順で測定されるシャルピー衝撃強度の値で割ることで算出する。
【0117】
・シャルピー衝撃強度の測定手順
ISO多目的ダンベル試験片(測定部幅10mm、厚さ4mm)を作製する。当該試験片を用いて、を用いてISO179-1(2010)に準拠した方法で、シングルノッチ、ノッチタイプA及びノッチ付試験片の残り幅を8mmとなるように、ノッチングツール(東洋精機製作所社製、A4E)を用いてノッチ加工する。ノッチ加工した試験片について衝撃強度測定装置(東洋精機製作所社製、シャルピーオートインパクテスタCHN3型)にてエッジワイズ衝撃となるように試験片を設置し、23℃におけるシャルピー衝撃強度を測定する(測定値の単位は、kJ/mである)。
【0118】
<樹脂成形体>
本実施形態に係る樹脂成形体は、既述の本実施形態に係る樹脂組成物を含む。
樹脂組成物に含まれる成分の組成は既述の本実施形態に係る樹脂組成物と同様であり、好ましい態様についても同様である。
【0119】
樹脂成形体の形状としては、特に限定されず、シート状、立方体状、球状等が挙げられる。
【0120】
本実施形態に係る樹脂成形体の製造方法は、形状の自由度が高い観点から、本実施形態に係る樹脂組成物を射出成形する方法であってもよい。
【0121】
射出成形する際のシリンダ温度は、例えば160℃以上280℃以下であり、好ましくは180℃以上240℃以下である。射出成形する際の金型温度は、例えば40℃以上90℃以下であり、40℃以上60℃以下がより好ましい。
射出成形は、例えば、日精樹脂工業社製NEX500、日精樹脂工業社製NEX150、日精樹脂工業社製NEX7000、日精樹脂工業社製PNX40、住友機械社製SE50D等の市販の装置を用いて行ってもよい。
【0122】
本実施形態に係る樹脂成形体は、他の成形方法によって得られた樹脂成形体であってもよい。他の成形方法としては、例えば、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーティング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などを適用してよい。
【0123】
本実施形態に係る樹脂成形体は、電子・電気機器、事務機器、家電製品、自動車内装材、玩具、容器などの用途に好適に用いられる。本実施形態に係る樹脂成形体の具体的な用途として、電子・電気機器又は家電製品の筐体;電子・電気機器又は家電製品の各種部品;自動車の内装部品;ブロック組み立て玩具;プラスチックモデルキット;CD-ROM又はDVDの収納ケース;食器;飲料ボトル;食品トレイ;ラップ材;フィルム;シート;ICチップ内蔵カードなどが挙げられる。
【0124】
<積層体>
本実施形態に係る積層体は、本実施形態に係る樹脂成形体と、他の部材と、が積層している。
本実施形態に係る樹脂成形体は、他の部材に対する融着性が高いため、本実施形態に係る積層体は、樹脂成形体と、他の部材と、が剥がれにくくなる。
【0125】
積層体に適用される樹脂成形体としては、既述の本実施形態に係る樹脂成形体が適用され、好ましい態様も同様である。
積層体に適用される樹脂成形体の形状としては、特に限定されず、シート状、立方体状、球状等が挙げられ、融着性の観点から、シート状であることが好ましい。
【0126】
他の部材としては、特に限定されないが、本実施形態に係る樹脂成形体であってもよく、本実施形態に係る樹脂成形体とは異なる樹脂組成を有する他の樹脂成形体であってもよい。
他の樹脂成形体としては、例えば公知の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む樹脂成形体が挙げられる。
他の樹脂成形体の形状としては、特に限定されず、シート状、立方体状、球状等が挙げられ、融着性の観点から、シート状であることが好ましい。
【0127】
本実施形態に係る積層体は、樹脂成形体と、他の部材と、の間に部品を含むことが好ましい。
積層体に適用される本実施形態に係る樹脂成形体は、他の部材に対する融着性が高い。そのため、樹脂成形体と、他の部材と、の間に部品を含む場合であっても、本実施形態に係る積層体は、樹脂成形体と、他の部材と、が剥がれにくくなり、部品が保持されやすくなる。
【0128】
部品としては特に限定されないが、例えば、ICチップ、フィルム電極、金属板、薄膜電池、紙写真等が挙げられる。
【0129】
本実施形態に係る積層体の具体例としては、例えば、ICチップ内蔵カード、カード電源、デザインカード等が挙げられ、融着性の効果が発揮されやすい観点から、ICチップ内蔵カードであることが好ましい。
【0130】
ICチップ内蔵カードとしては、具体的には、フェリカカード(登録商標)、各種IDカード、各種クレジットカード、各種ポイントカード、マイナンバーカード、各種資格免許証等が挙げられる。
【実施例0131】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0132】
<実施例1~26及び比較例1~5>
(樹脂組成物の作製)
表1に記載の通りの種類のセルロースアシレートA、ポリ乳酸B、化合物C、粒子D及び金属酸化物Eを、表1に記載の通りの質量部で混合し、2軸押出装置(芝浦機械社製、TEM26SX)を用いて、表1に記載の通りの混練条件及び射出成形条件で押出成形を行った。得られたストランドをクエンチプールで冷却後、ストランドカッターでカットし、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0133】
(積層体Aの作製)
上記手順で得た樹脂組成物をフィルム加工装置(東洋精機製作所社製、ラボプラストミルTダイ引き取り装置付き)を用いて、表2に示すシリンダ温度で、フィルム加工し、幅200mm、厚さ200μmのロールフィルムを作製し、これを幅50mm、長さ100mmにカットして、樹脂成形体であるサンプルシートを2枚得た。一方を樹脂成形体として、他方を他の部材とし当該サンプルシートを2枚重ね、端部に幅50mm×20mmのテフロン(テフロンは登録商標)シートを2枚のサンプルシートの間に挟み込み、単動プレス装置(東洋精機製作所社製、ラボプレスP2-30T)を用いて、温度140℃、プレス圧50kNでプレスし、端部20mmのみ未融着の積層体Aを得た。
【0134】
(積層体Bの作製)
上記手順で得た樹脂組成物から、[積層体Aの作製]と同一の手順で樹脂成形体であるサンプルシート1を1枚得た。バイオマスポリエチレンテレフタレート(ロッテケミカル社製、BIO BCB80)を上記フィルム加工装置により、シリンダ温度を280℃にてフィルム加工し、幅200mm、厚さ200μmのロールフィルムを作製し、これを幅50mm、長さ100mmにカットして、他の部材である幅50mm、長さ100mmのサンプルシート2を得た。サンプルシート1及びサンプルシート2を重ね、端部に幅50mm×20mmのテフロンシートを2枚のサンプルシートの間に挟み込み、上記単動プレス装置を用いて、温度160℃、プレス圧100kNでプレスし、端部20mmのみ未融着の積層体Bを得た。
【0135】
(積層体Cの作製)
単動プレス装置によりプレスする対象物を、樹脂成形体であるサンプルシート1及び他の部材であるサンプルシート2を、これらの間に部品であるICチップ(日立パワーシステムズ社製、ECN30110F/P/PN/S)を挟んだ状態で重ねたものとすること以外は、[積層体Bの作製]と同一の手順で端部20mmのみ未融着の積層体Cを得た。
【0136】
<評価>
(ウエルドライン衝撃強度の測定)
各例で得た樹脂組成物のウエルドライン衝撃強度を、下記手順で作製した長手方向中心にウエルドラインを有する多目的ダンベル試験片(測定部幅10mm、厚さ4mm)を用いて、既述の「・ウエルドライン衝撃強度の測定手順」に従って測定した。その結果を表1中に示す(表1中、「ウエルドライン」と記載した欄の下欄に記載)。
【0137】
-ウエルドラインを有する多目的ダンベル試験片の作製手順-
各例で得た樹脂組成物を、射出成形装置(日精樹脂工業社製、NEX15III)を用いて、表1に示す表1に記載の通りの混練条件及び射出成形条件で、多目的ダンベル試験片金型を用いて、多目的ダンベル試験片を、またダンベルの両端から樹脂が流入するよう作製された、多目的ダンベル試験片金型を用いて、長手方法の中央近傍にウエルドラインを有する多目的ダンベル試験片を作製した。
【0138】
(シャルピー衝撃強度の測定、及びウエルドライン衝撃強度/シャルピー衝撃強度の算出)
各例で得た樹脂組成物のシャルピー衝撃強度を、下記手順で作製したISO多目的ダンベル試験片(測定部幅10mm、厚さ4mm)を用いて、既述の「・シャルピー衝撃強度の測定手順」に従って測定した。シャルピー衝撃強度に対するウエルドライン衝撃強度(即ち、ウエルドライン衝撃強度/シャルピー衝撃強度)を算出し、その結果を表1中に示す(表1中、「ウエルドライン/シャルピー」と記載した欄の下欄に記載)。
【0139】
-ISO多目的ダンベル試験片の作製手順-
各例で得た樹脂組成物を、射出成形装置(日精樹脂工業社製、NEX15III)を用いて、表1に示す表1に記載の通りの混練条件及び射出成形条件で押出成形を行いISO多目的ダンベル試験片を作製した。
【0140】
(剥離強度評価)
各例で得た積層体A、積層体B及び積層体Cについて、オートグラフ(島津製作所社製、AG-Xplus)にて、各積層体の未融着端部をクランプし、剥離強度を測定した。剥離強度が高いほど、樹脂成形体の融着性が高いことを示す。その結果を表2に示す。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
【0143】
表1中、斜線は、該当する成分を含有していないことを示す。
表1中の略称は以下の通りである。
<セルロースアシレートA>
CA-1:セルロースアセテートプロピオネート、イーストマンケミカル社製CAP482-20、重量平均重合度820、置換度2.8
CA-2:セルロースアセテートプロピオネート、イーストマンケミカル社製CAP482-0.5、重量平均重合度510、置換度2.8
CA-3:ジアセチルセルロース、ダイセル社製L50、重量平均重合度560、置換度2.4
CA-4:セルロースアセテートブチレート、イーストマンケミカル社製CAB381-20、重量平均重合度770、置換度2.6
【0144】
<ポリ乳酸B>
PL-1:ポリ乳酸、ネイチャーワークス社製Ingeo3001D、上記式(PLA)中、nが1800
PL-2:ポリ乳酸、ユニチカ社製テラマックTE2000、上記式(PLA)中、nが2200
PL-3:ポリ乳酸、ネイチャーワークス社製Ingeo6252D、上記式(PLA)中、nが2500
【0145】
<化合物C>
CC-1:エステル化合物、大八化学社製Daifatty101、重量平均分子量450
CC-2:エステル化合物、ADEKA社製アデカサイザーRS1000、重量平均分子量500
CC-3:カルダノール化合物、カードライト社製GX2053
CC-4:縮合リン酸エステル、大八化学社製TPP
【0146】
<粒子D>
CS-1:コアシェル構造の粒子D(コア層となる「アクリル酸2-エチルヘキシルとアクリル酸n-ブチルの共重合体ゴム」に、「メタクリル酸メチルとアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体ゴム」をグラフト重合してシェル層とした重合体)、平均一次粒径=200nm、三菱ケミカル社製メタブレンW600A
CS-2:コアシェル構造の粒子D(コア層となる「アクリル酸メチルとスチレンの共重合体ゴム」に、「アクリル酸エチルの単独重合体ゴム」をグラフト重合してシェル層とした重合体)、平均一次粒径=300nm、三菱ケミカル社製メタブレンW300A
CS-3:コアシェル構造の粒子D(コア層となる「ブタジエンの単独重合体ゴム」に、「メタクリル酸メチルとスチレンの共重合体」をグラフト重合してシェル層とした重合体(MSB))、平均一次粒径=300nm、三菱ケミカル社製メタブレンW223A
【0147】
<金属酸化物E>
MO-1:酸化チタン、テイカ社製JR-403
MO-2:酸化チタン、堺化学社製SR-1
MO-3:酸化亜鉛、堺化学社製微砕酸化亜鉛
【0148】
表1中、「B/A」は、セルロースアシレートAの含有量に対する、ポリ乳酸Bの含有量を意味する。
表1中、「C/A」は、セルロースアシレートAの含有量に対する、化合物Cの含有量を意味する。
表1中、「D/A」は、セルロースアシレートAの含有量に対する、粒子Dの含有量を意味する。
表1中、「E/A」は、セルロースアシレートAの含有量に対する、金属酸化物Eの含有量を意味する。
【0149】
上記結果から、本実施例の樹脂組成物は、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られることがわかる。
【0150】
(((1))) セルロースアシレートAと、
ポリ乳酸Bと、
エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含み、
前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記ポリ乳酸Bの含有量が0.5を超え0.9以下であり、
前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記化合物Cの含有量が0.15を超え0.3以下である樹脂組成物。
(((2))) コア層と前記コア層の表面にシェル層とを有するコアシェル構造の粒子Dを含む(((1)))に記載の樹脂組成物。
(((3))) 前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記粒子Dの含有量が0.05以上0.15以下である(((2)))に記載の樹脂組成物。
(((4))) 金属酸化物Eを含む(((1)))~(((3)))のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
(((5))) 前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記金属酸化物Eの含有量が0.05以上0.15以下である(((4)))に記載の樹脂組成物。
(((6))) 前記セルロースアシレートAがセルロースアセテートプロピオネートである(((1)))~(((5)))のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
(((7))) セルロースアシレートAと、
ポリ乳酸Bと、
エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含み、
ウエルドライン衝撃強度が10kJ/m未満であり、
シャルピー衝撃強度に対するウエルドライン衝撃強度が0.5未満である樹脂組成物。
(((8))) (((1)))~(((7)))のいずれか1つに記載の樹脂組成物を含む樹脂成形体。
(((9))) (((8)))に記載の樹脂成形体と、他の部材と、が積層している積層体。
(((10))) 前記樹脂成形体と、他の部材と、の間に部品を含む(((9)))に記載の積層体。
【0151】
(((1)))に係る発明によれば、セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含む樹脂組成物において、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記ポリ乳酸Bの含有量が0.5以下若しくは0.9を超える場合、又は、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記化合物Cの含有量が0.15以下若しくは0.3を超える場合と比較して、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
(((2)))に係る発明によれば、粒子Dを含まない場合と比較して他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
(((3)))に係る発明によれば、セルロースアシレートAの含有量に対する、前記粒子Dの含有量が0.05未満又は0.15を超える場合と比較して他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
(((4)))に係る発明によれば、金属酸化物Eを含まない場合と比較して他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
(((5)))に係る発明によれば、セルロースアシレートAの含有量に対する、前記金属酸化物Eの含有量が0.05未満又は0.15を超える場合と比較して他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
(((6)))に係る発明によれば、セルロースアシレートAがジアセチルセルロースである場合及びセルロースアシレートAがセルロースアセテートブチレートである場合と比較して他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
(((7)))に係る発明によれば、セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含む樹脂組成物において、ウエルドライン衝撃強度が10kJ/m以上である場合、又は、シャルピー衝撃強度に対するウエルドライン衝撃強度が0.5以上である場合と比較して他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
(((8)))、(((9)))又は(((10)))に係る発明によれば、セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含み、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記ポリ乳酸Bの含有量が0.5以下若しくは0.9を超える場合、又は、前記セルロースアシレートAの含有量に対する、前記化合物Cの含有量が0.15以下若しくは0.3を超える場合と比較して、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体、又は当該樹脂成形体を含む積層体が提供される。また、セルロースアシレートAと、ポリ乳酸Bと、エステル化合物及びカルダノール化合物からなる群から選択される少なくとも1種である化合物Cと、を含み、ウエルドライン衝撃強度が10kJ/m以上である場合、又は、シャルピー衝撃強度に対するウエルドライン衝撃強度が0.5以上である場合と比較して、他の部材に対する融着性が高い樹脂成形体、又は当該樹脂成形体を含む積層体が提供される。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0003
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0003】
【特許文献1】特開2019-151787号公報
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0040
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0040】
エステル化合物としては、例えば、脂肪酸エステル(アジピン酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、フタル酸エステル、酢酸エステル)、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、グリコールエステル(例えば、安息香酸グリコールエステル)、脂肪酸エステルの変性体(例えば、エポキシ化脂肪酸エステル)等が挙げられる。