(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076916
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】トンネル切羽の施工管理システム
(51)【国際特許分類】
E21D 9/10 20060101AFI20240530BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
E21D9/10 Z
G01C15/00 104A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188754
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000149594
【氏名又は名称】株式会社大本組
(71)【出願人】
【識別番号】591248223
【氏名又は名称】株式会社計測リサーチコンサルタント
(74)【代理人】
【識別番号】110003546
【氏名又は名称】弁理士法人伊藤IP特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 伸一
(72)【発明者】
【氏名】都川 信吾
(72)【発明者】
【氏名】家村 享明
(72)【発明者】
【氏名】藏重 裕俊
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC20
2D054GA42
2D054GA62
2D054GA82
2D054GA92
(57)【要約】
【課題】トンネル切羽の当たり取りに関する作業を可及的に安全に管理することができる技術を提供する。
【解決手段】本開示のトンネル切羽の施工管理システム1は、トンネルの設計データを格納する記憶部302と、トンネル切羽20の切羽形状を現状データとして取得する3Dレーザスキャナ200と、取得された切羽座標を中心線分座標系に座標変換する座標変換処理部3031と、切羽座標を中心線分座標系に変換したy座標に基づいて、設計データによって定義されるトンネル10の設計掘削断面であってトンネル切羽20に対応する設計掘削断面に対する、トンネル切羽20の凹凸量を演算する演算処理部3032と、この凹凸量に基づいて定義される情報をトンネル切羽20に投影するプロジェクタ100と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの切羽に対して当たり取りに必要な情報を投影することによりトンネル切羽の施工管理を行うトンネル切羽の施工管理システムであって、
前記トンネルの設計データを格納する設計データ記憶手段と、
前記トンネル切羽の切羽形状を現状データとして該切羽形状の3次元座標で取得する現状データ取得手段と、
前記現状データ取得手段によって取得された前記3次元座標である切羽座標を、前記トンネルの中心線をy軸とし前記トンネルの鉛直方向をz軸としこれら2軸によって画定される平面の直角方向をx軸とする中心線分座標系に座標変換する座標変換手段と、
前記切羽座標を前記中心線分座標系に変換したy座標に基づいて、前記設計データによって定義される前記トンネルの設計掘削断面であって前記トンネル切羽に対応する設計掘削断面に対する、前記トンネル切羽の凹凸量を演算する演算手段と、
前記凹凸量に基づいて定義される情報を前記トンネル切羽に投影する投影手段と、
を備える、トンネル切羽の施工管理システム。
【請求項2】
前記演算手段は、
前記切羽座標を前記中心線分座標系に変換したx座標及びz座標に基づいて、該切羽座標によって表される計測点が前記設計掘削断面の外縁である設計掘削断面線の内側に位置するか外側に位置するかを判定し、該計測点が該設計掘削断面線の内側に位置する場合には、前記凹凸量を演算し、該計測点が該設計掘削断面線の外側に位置する場合には、該計測点と該設計掘削断面線との距離を前記トンネル切羽の側壁の凹量として演算し、
前記投影手段は、
前記凹凸量及び前記側壁の凹量に基づいて定義される情報を前記トンネル切羽に投影する、
請求項1に記載のトンネル切羽の施工管理システム。
【請求項3】
前記演算手段は、
前記設計掘削断面線からの距離が画素値として定義される距離画像であって、前記設計掘削断面内の点が負の値として定義され、前記設計掘削断面外の点が正の値として定義される距離画像に基づいて、前記切羽座標を前記中心線分座標系に変換したxz座標に対応する前記距離画像の画素値が負の値である場合は、前記計測点が前記設計掘削断面線の内側に位置すると判定し、前記切羽座標を前記中心線分座標系に変換したxz座標に対応する前記距離画像の画素値が正の値である場合は、前記計測点が前記設計掘削断面線の外側に位置すると判定する、
請求項2に記載のトンネル切羽の施工管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの切羽に対して当たり取りに必要な情報を投影することによりトンネル切羽の施工管理を行うトンネル切羽の施工管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にトンネルの掘削工事では、発破後に地山の当たり取りを行い、支保工、一次覆工(切羽へのコンクリートの吹き付け)、ロックボルトの打設を行っている。
【0003】
ここで、地山の当たり取りを行うにあたって、人の目視によってアタリ箇所を確認・判断する場合には、作業員が鏡面(切羽)直下で確認作業を行わなければならないため、肌落ち災害のリスクが生じ得る。そこで、掘削不足領域を示すマーカーを作業者が容易に認識できるように切羽に直接投影表示する技術が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、測定時の切羽形状と予め記録した設計上の切羽形状との差分から掘削不足領域を検出し、掘削不足領域であることを示すマーカーを切羽に直接投影して表示する掘削支援システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トンネルの掘削工事では、トンネルを掘り進めながら所定間隔毎(例えば、1m毎)に鋼アーチ支保工が設置されることがある。そして、鋼アーチ支保工を設置する際、当たり取りが適切に行われていないと支保工を設置することができない事態が生じ得る。そこで、トンネルの掘削工事では、トンネル切羽の当たり取りのようなトンネル切羽の施工管理を適切に行う必要がある。
【0007】
ここで、作業員が鏡面(切羽)直下でアタリ箇所の確認作業を行う場合は肌落ち災害のリスクが生じ得る一方、特許文献1に記載の技術によれば、鏡面(切羽)直下での人の目視によらずアタリ箇所を比較的容易に認識することができる。そのため、トンネル切羽の当たり取りに関する作業を適切に管理できるようにも思われる。しかしながら、当該技術は、アタリ箇所を正確に検出可能な技術であるとは言い難く、トンネル切羽の当たり取りに関する作業を可及的に安全に管理するための技術については、未だ改善の余地を残すものである。
【0008】
本開示の目的は、トンネル切羽の当たり取りに関する作業を可及的に安全に管理することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のトンネル切羽の施工管理システムは、トンネルの切羽に対して当たり取りに必要な情報を投影することによりトンネル切羽の施工管理を行うシステムである。そして、このトンネル切羽の施工管理システムは、前記トンネルの設計データを格納する設計データ記憶手段と、前記トンネル切羽の切羽形状を現状データとして該切羽形状の3次元座標で取得する現状データ取得手段と、前記現状データ取得手段によって取得された前記3次元座標である切羽座標を、前記トンネルの中心線をy軸とし前記トンネルの鉛直方向をz軸としこれら2軸によって画定される平面の直角方向をx軸とする中心線分座標系に座標変換する座標変換手段と、前記切羽座標を前記中心線分座標系に変換したy座標に基づいて、前記設計データによって定義される前記トンネルの設計掘削断面であって前記トンネル切羽に対応する設計掘削断面に対する、前記トンネル切羽の凹凸量を演算する演算手段と、前記凹凸量に基づいて定義される情報を前記トンネル切羽に投影する投影手段と、を備える。
【0010】
上記のトンネル切羽の施工管理システムでは、トンネル切羽の凹凸量が、例えば、RGBカラーとしてトンネル切羽にプロジェクションマッピングされ得る。そうすると、トンネル切羽直下での人の目視によらずアタリ箇所を容易に認識することができるため、肌落ち災害のリスクを軽減することができる。更に、現状データ取得手段(例えば、3Dレーザスキャナ)によって計測された切羽座標を中心線分座標系に変換してトンネル切羽の凹凸量を演算することで、アタリ箇所を正確に検出することができる。
【0011】
そして、本開示のトンネル切羽の施工管理システムにおいて、前記演算手段は、前記切羽座標を前記中心線分座標系に変換したx座標及びz座標に基づいて、該切羽座標によって表される計測点が前記設計掘削断面の外縁である設計掘削断面線の内側に位置するか外側に位置するかを判定し、該計測点が該設計掘削断面線の内側に位置する場合には、前記凹凸量を演算し、該計測点が該設計掘削断面線の外側に位置する場合には、該計測点と該設計掘削断面線との距離を前記トンネル切羽の側壁の凹量として演算してもよい。そして、前記投影手段は、前記凹凸量及び前記側壁の凹量に基づいて定義される情報を前記トンネル切羽に投影してもよい。これによれば、トンネル切羽の鏡面のアタリ箇所だけでなくトンネル切羽の側壁面のアタリ箇所もプロジェクションマッピングされることになるため、作業員が鏡面(切羽)直下で側壁面のアタリ箇所の確認作業を行う必要がなくなり、肌落ち災害のリスクを軽減することができる。また、この場合、前記演算手段は、前記設計掘削断面線からの距離が画素値として定義される距離画像であって、前記設計掘削断面内の点が負の値として定義され、前記設計掘削断面外の点が正の値として定義される距離画像に基づいて、前記切羽座標を前記中心線分座標系に変換したxz座標に対応する前記距離画像の画素値が負の値である場合は、前記計測点が前記設計掘削断面線の内側に位置すると判定し、前記切羽座標を前記中心線分座標系に変換したxz座標に対応する前記距離画像の画素値が正の値である場合は、前記計測点が前記設計掘削断面線の外側に位置すると判定してもよい。これにより、画素値の符号に基づいて、切羽座標によって表される計測点が、設計掘削断面線の内側に位置するか外側に位置するかを簡単に判別することができ、以て、判定処理の速度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、トンネル切羽の当たり取りに関する作業を可及的に安全に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態における施工管理システムの概略構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態における施工管理システムの動作の流れを例示する図である。
【
図3】トンネル切羽の凹凸量について説明するための図である。
【
図4】プロジェクタによってトンネル切羽に投影されるプロジェクションマッピングのRGBカラーを説明するための第1の図である。
【
図5】第2実施形態における施工管理システムの動作の流れを例示する図である。
【
図6】距離画像を説明するための図であって、設計掘削断面をメッシュ状に分割したものである。
【
図7】プロジェクタによってトンネル切羽に投影されるプロジェクションマッピングのRGBカラーを説明するための第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本開示の実施の形態を説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本開示は実施形態の構成に限定されない。
【0015】
<第1実施形態>
第1実施形態におけるトンネル切羽の施工管理システムの概要について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態におけるトンネル切羽の施工管理システムの概略構成を示す図である。本実施形態に係る施工管理システム1は、トンネル10の切羽20(トンネル切羽20)に対して当たり取りに必要な情報を投影するシステムであって、プロジェクタ100と、3Dレーザスキャナ200と、情報処理装置300と、を備える。
【0016】
プロジェクタ100は、トンネル切羽20の当たり取りに必要な情報を投影する投影手段であって、該情報を映像光の色彩によりプロジェクションマッピングするための手段である。なお、トンネル切羽20の当たり取りに必要な情報は、情報処理装置300から入力される。
【0017】
3Dレーザスキャナ200は、トンネル切羽20の切羽形状を現状データとして該切羽形状の3次元座標で取得する現状データ取得手段であって、トンネル切羽20に対してレーザのスキャンを行うLiDARスキャナである。そして、3Dレーザスキャナ200によって取得された3Dの点群データ(3次元座標)は、切羽座標の現状データとして情報処理装置300に送信される。
【0018】
情報処理装置300は、トンネル10の設計データと、切羽座標と、に基づいて、所定の処理を実行する。ここで、情報処理装置300は、データの取得、生成、更新等の演算処理及び加工処理のための処理能力のある機器であればどの様な電子機器でもよく、例えば、コンピュータである。すなわち、情報処理装置300は、CPUやGPU等のプロセッサ、RAMやROM等の主記憶装置、EPROM、ハードディスクドライブ、リムーバブルメディア等の補助記憶装置を有するコンピュータとして構成することができる。なお、リムーバブルメディアは、例えば、USBメモリ、あるいは、CDやDVDのようなディスク記録媒体であってもよい。補助記憶装置には、オペレーティングシステム(OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納されている。なお、情報処理装置300は、本実施形態に係る施工管理システム1専用のソフトウェアやハードウェア、OS等を設けずに、クラウドサーバによるSaaS(Software as a Service)、Paas(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)を適宜用いてもよい。
【0019】
そして、情報処理装置300は、機能部として通信部301、記憶部302、制御部303を有しており、補助記憶装置に格納されたプログラムを主記憶装置の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各機能部等が制御されることによって、各機能部における所定の目的に合致した各機能を実現することができる。ただし、一部または全部の機能はASICやFPGAのようなハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0020】
ここで、通信部301は、情報処理装置300を各種装置に接続するための通信インタフェースであって、情報処理装置300は、通信部301を介して、プロジェクタ100や3Dレーザスキャナ200と通信可能に接続される。
【0021】
記憶部302は、主記憶装置と補助記憶装置を含んで構成される。主記憶装置は、制御部303によって実行されるプログラムや、当該制御プログラムが利用するデータが展開されるメモリである。補助記憶装置は、制御部303において実行されるプログラムや、当該制御プログラムが利用するデータが記憶される装置である。記憶部302には、トンネル10の設計データや、現状データとしての切羽形状の3次元座標が記憶される。なお、情報処理装置300は、通信部301を介して3Dレーザスキャナ200から送信された3次元座標を取得することができる。
【0022】
制御部303は、情報処理装置300が行う処理を司る機能部である。制御部303は、CPUなどの演算処理装置によって実現することができる。制御部303は、更に、座標変換処理部3031と、演算処理部3032と、の2つの機能部を有して構成される。各機能部は、記憶されたプログラムをCPUによって実行することで実現してもよい。
【0023】
ここで、座標変換処理部3031は、3Dレーザスキャナ200によって取得された切羽座標を、トンネル10の中心線をy軸としトンネル10の鉛直方向をz軸としこれら2軸によって画定される平面の直角方向をx軸とする中心線分座標系に座標変換する。
【0024】
また、演算処理部3032は、切羽座標を中心線分座標系に変換したy座標に基づいて、トンネル10の設計掘削断面に対するトンネル切羽20の凹凸量を演算する。ここで、上記の設計掘削断面は、記憶部302に格納されたトンネル10の設計データによって定義され、現在のトンネル切羽20に対応するトンネル10の設計掘削断面を表している。
【0025】
次に、本実施形態における施工管理システム1の動作の流れについて説明する。
図2は、本実施形態における施工管理システム1の動作の流れを例示する図である。
図2では、本実施形態における施工管理システム1における、情報処理装置300と、プロジェクタ100および3Dレーザスキャナ200との間の動作の流れ、およびこれらが実行する処理を説明する。
【0026】
本実施形態では、先ず、情報処理装置300が設計データを取得する(S101)。ここで、設計データは、トンネル10の設計掘削断面に関する情報や、トンネル10の中心線座標(例えば、1m間隔の座標値)に関する情報、各設計掘削断面までの掘削目標距離を含んだデータであって、予め情報処理装置300に入力され記憶部302に格納される。
【0027】
そして、情報処理装置300は、測量座標を取得する(S102)。ここで、測量座標は、トンネル10内の所定の位置(例えば、トンネル切羽20から10~15mの位置)に配置されたプロジェクタ100および3Dレーザスキャナ200の座標であって、国家座標(平面直角座標系であって、高さ方向が標高である。)によって表される。なお、このような座標は、周知のプリズム方式によって測量され得る。そして、測量されたデータ(測量座標)は、情報処理装置300に入力され記憶部302に格納される。
【0028】
次に、3Dレーザスキャナ200によって、切羽座標が計測される(S103)。切羽座標は、トンネル切羽20の現状データ(3Dの点群データ)であって、計測された切羽座標は、無線または有線による通信によって情報処理装置300に送信される。
【0029】
そして、情報処理装置300は、3Dレーザスキャナ200から送信された切羽座標を取得する(S104)。このとき、情報処理装置300は、S102の処理で取得した測量座標および予めキャリブレーションされた3Dレーザスキャナ200の位置姿勢に基づいて、切羽座標を国家座標によって定義することができる。
【0030】
また、情報処理装置300は、トンネル切羽20の点群データを間引いて上記の切羽座標を定義してもよい。この場合、3Dレーザスキャナ200によって計測された点群データが、プロジェクタ100の液晶の画素数に基づいて間引かれることになる。
【0031】
詳しくは、情報処理装置300は、上記のようにして国家座標によって定義された切羽座標を、先ず、プロジェクタ100本体の座標系(プロジェクタ100のレンズ中心を原点とする3次元座標系)に変換する。そして、この変換された座標を、更に、プロジェクタ100画像の座標系(プロジェクタ100の液晶パネル内の位置を表す2次元座標系)に変換するとともに、プロジェクタ100の液晶の画素数に基づいて、例えば、プロジェクタ100の液晶の1画素に1点となるように、変換された座標をプロジェクタ100の液晶の画素数分に間引くことができる。そして、この座標を再度国家座標に変換することで、切羽座標を定義してもよい。これにより、プロジェクタ100によってプロジェクションマッピングすることが可能な解像度に対応したデータ数でS105以降の処理を行えばよいことになるため、施工管理システム1の処理速度を向上させることができる。
【0032】
次に、情報処理装置300は、国家座標によって定義された上記の切羽座標を中心線分座標系に座標変換する(S105)。ここで、中心線分座標系は、トンネル10の中心線をy軸としトンネル10の鉛直方向をz軸としこれら2軸によって画定される平面の直角方向をx軸とする座標系であって、現在のトンネル切羽20に対応するトンネル10の設計掘削断面を原点とするものである。情報処理装置300の記憶部302には、設計データとして、トンネル10の設計掘削断面に関する情報や、トンネル10の中心線座標に関する情報等が国家座標によって格納されているため、情報処理装置300は、これら情報を用いて、上記の座標変換を行うことができる。
【0033】
そして、情報処理装置300は、切羽座標を中心線分座標系に変換したy座標に基づいて、トンネル切羽20の凹凸量を演算する(S106)。トンネル切羽20の凹凸量について、
図3に基づいて以下に説明する。
【0034】
図3は、トンネル切羽20の凹凸量について説明するための図である。
図3(a)は、トンネル10の中心線と中心線分座標系との関係を表していて、
図3(b)は、
図3(a)のyz断面を表す図であって、トンネル切羽20に対応する設計掘削断面に対する凹凸量を説明するための図である。
【0035】
図3(b)に示すように、切羽座標を中心線分座標系に変換したy座標に基づいて、y座標が正の場合はその絶対値がトンネル切羽20の凸量として定義され、y座標が負の場合はその絶対値がトンネル切羽20の凹量として定義される。そして、情報処理装置300は、このようにしてトンネル切羽20の凹凸量を演算する。
【0036】
情報処理装置300によって演算されたトンネル切羽20の凹凸量は、プロジェクタ100に送信される。このとき、情報処理装置300は、演算した凹凸量から割り当てられるRGBカラーを設定し(詳しくは、後述する
図4(a)に基づいて説明する。)、該RGBカラーを含んだ情報をプロジェクタ100に送信する。
【0037】
そして、
図2に戻って、プロジェクタ100は、情報処理装置300から送信された上記の情報を取得し(S107)、トンネル切羽20に対してプロジェクションマッピングを実行する(S108)。これについて、
図4に基づいて以下に説明する。
【0038】
図4は、プロジェクタ100によってトンネル切羽20に投影されるプロジェクションマッピングのRGBカラーを説明するための第1の図である。
図4(a)は、トンネル切羽20の凹凸量に応じて割り当てられるRGBカラーを表していて、
図4(b)は、トンネル切羽20に投影されるプロジェクションマッピングを例示する図である。
【0039】
図4(a)に示すように、S106の処理で演算された凹凸量が、予め定められた設定凸量以上の場合には、RGBカラーが赤に割り当てられ、予め定められた設定凹量以上の場合には、RGBカラーが青に割り当てられ、これら設定量の範囲内の場合には、赤から青の色相が割り当てられる。そして、
図4(b)に示すように、このようにして割り当てられたRGBカラーが、プロジェクタ100によってトンネル切羽20にプロジェクションマッピングされる。
【0040】
以上に述べた処理によれば、トンネル切羽20直下での人の目視によらずアタリ箇所を容易に認識することができるため、肌落ち災害のリスクを軽減することができる。更に、3Dレーザスキャナ200によって計測された切羽座標を中心線分座標系に変換してトンネル切羽20の凹凸量を演算することで、アタリ箇所を正確に検出することができる。
【0041】
なお、上記の
図2のS102の処理でその位置が測量されるプロジェクタ100および3Dレーザスキャナ200は、車両に配置されていてもよい。この場合、プロジェクタ100および3Dレーザスキャナ200が配置された車両が、治具台車としてトンネル10内の所定の位置(例えば、トンネル切羽20から10~15mの位置)に静止され、プロジェクタ100および3Dレーザスキャナ200の座標が測量される。
【0042】
このように、本実施形態の施工管理システム1によれば、トンネル切羽20の当たり取りに関する作業を可及的に安全に管理することができる。
【0043】
<第2実施形態>
第2実施形態について、
図5~
図7に基づいて説明する。本実施形態では、プロジェクタ100によって、トンネル10の切羽面だけでなく側壁面にもプロジェクションマッピングが行われる。
【0044】
ここで、トンネルの掘削工事において鋼アーチ支保工が設置される場合、鏡面(切羽)に隣接した側壁面のアタリを除去しなければ鋼アーチ支保工を設置できない事態が生じ得る。この場合、側壁面のアタリ箇所も確認する必要があるが、鏡面の凹凸量をプロジェクションマッピングするのみでは側壁面のアタリ箇所を可視化することができず、結局は、作業員が鏡面(切羽)直下でアタリ箇所の確認作業を行わなければならない。そのため、肌落ち災害のリスクを軽減できない事態が生じ得る。
【0045】
そこで、本実施形態に係る施工管理システム1では、情報処理装置300の演算処理部3032が、切羽座標を中心線分座標系に変換したx座標及びz座標に基づいて、該切羽座標によって表される計測点が設計掘削断面の外縁である設計掘削断面線の内側に位置するか外側に位置するかを判定する。そして、上記の計測点が設計掘削断面線の内側に位置する場合には、トンネル切羽20の鏡面の凹凸量を演算し、上記の計測点が設計掘削断面線の外側に位置する場合には、該計測点と該設計掘削断面線との距離をトンネル切羽20の側壁面の凹量として演算する。そうすると、プロジェクタ100は、トンネル切羽20の鏡面の凹凸量およびトンネル切羽20の側壁面の凹量に基づいて定義される情報をトンネル切羽20に投影することができる。
【0046】
図5は、本実施形態における施工管理システム1の動作の流れを例示する図である。
図5では、本実施形態における施工管理システム1における、情報処理装置300と、プロジェクタ100および3Dレーザスキャナ200との間の動作の流れ、およびこれらが実行する処理を説明する。なお、
図5に示す各処理において、上記の
図2に示した処理と実質的に同一の処理については、同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0047】
図5に示す例では、情報処理装置300は、S101の処理の後に、距離画像を生成する(S201)。ここで、距離画像は、設計掘削断面における設計掘削断面線からの距離が画素値として定義されたものである。これについて、
図6に基づいて説明する。
【0048】
図6は、距離画像を説明するための図であって、設計掘削断面をメッシュ状に分割したものである。距離画像では、
図6に示すようなメッシュと設計掘削断面線との距離が定義される。このとき、設計掘削断面内の点は距離が負の値で定義され、設計掘削断面外の点は距離が正の値で定義される。設計データから事前にこのような距離画像が生成されることで、後述する判定処理の速度を向上させることができる。
【0049】
そして、
図5に示す例では、S105の処理の後に、情報処理装置300によって、切羽座標を中心線分座標系に変換したxz座標に対応する距離画像の画素値を抽出する処理が実行される(S202)。S202の処理では、S105の処理で変換されたxz座標に対応する点について、S201の処理で生成された距離画像から該点に対応する画素値が抽出される。
【0050】
次に、切羽座標によって表される計測点(中心線分座標系に変換されたxz座標)が、設計掘削断面線の内側に位置するか外側に位置するかが判定される。具体的には、情報処理装置300が、S202の処理で抽出した画素値が負の値であるか否かを判別する(S203)。上述したように、設計掘削断面内の点は画素値が負の値で定義され、設計掘削断面外の点は画素値が正の値で定義される。そのため、画素値の符号に基づいて、切羽座標によって表される計測点(中心線分座標系に変換されたxz座標)が、設計掘削断面線の内側に位置するか外側に位置するかを簡単に判別することができ、以て、判定処理の速度を向上させることができる。そして、S203の処理で肯定判定された場合、本フローはS106の処理へ進み、S203の処理で否定判定された場合、本フローはS204の処理へ進む。
【0051】
S203の処理で肯定判定された場合、つまり、切羽座標によって表される計測点(中心線分座標系に変換されたxz座標)が設計掘削断面線の内側に位置する場合、次に、S106において、トンネル切羽20の凹凸量が演算される。この凹凸量は、トンネル切羽20の鏡面の凹凸量であって、上記の第1実施形態の説明で述べたとおりである。
【0052】
一方、S203の処理で否定判定された場合、つまり、切羽座標によって表される計測点(中心線分座標系に変換されたxz座標)が設計掘削断面線の外側に位置する場合、次に、S204において、トンネル切羽20の側壁面の凹量が演算される。この場合、情報処理装置300は、上記の計測点と設計掘削断面線との距離(距離画像の画素値の絶対値)を、トンネル切羽20の側壁面の凹量として演算する。
【0053】
そして、情報処理装置300によって演算されたトンネル切羽20の鏡面の凹凸量およびトンネル切羽20の側壁面の凹量は、プロジェクタ100に送信される。このとき、情報処理装置300は、上記の凹凸量および凹量から割り当てられるRGBカラーを設定し、該RGBカラーを含んだ情報をプロジェクタ100に送信する。
【0054】
プロジェクタ100は、情報処理装置300から送信されたこれら情報を取得し(S107)、トンネル切羽20に対してプロジェクションマッピングを実行する(S108)。これについて、
図7に基づいて以下に説明する。
【0055】
図7は、プロジェクタ100によってトンネル切羽20に投影されるプロジェクションマッピングのRGBカラーを説明するための第2の図である。
図7(a)は、トンネル切羽20の側壁面の凹量に応じて割り当てられるRGBカラーを表していて、
図7(b)は、トンネル切羽20に投影されるプロジェクションマッピングを例示する図である。
【0056】
図7(a)に示すように、S204の処理で演算された凹量が、予め定められた設定凹量以上の場合には、RGBカラーが青に割り当てられ、予め定められた設定凹量未満の場合には、緑から青の色相が割り当てられる。そして、
図7(b)に示すように、このようにして割り当てられたRGBカラーが、プロジェクタ100によってトンネル切羽20の側壁面にもプロジェクションマッピングされる。
【0057】
なお、トンネル切羽20の側壁面の凸部分は、切羽座標によって表される計測点(中心線分座標系に変換されたxz座標)が設計掘削断面線の内側に位置することになる。つまり、S203の処理で肯定判定されることになるため、S106において、切羽座標を中心線分座標系に変換したy座標に基づいて、トンネル切羽20の凸量として演算される。その結果、トンネル切羽20の側壁面の凸部分は、アタリ箇所としてプロジェクションマッピングされることになる。
【0058】
このように、本実施形態の施工管理システム1では、トンネル切羽20の鏡面のアタリ箇所だけでなくトンネル切羽20の側壁面のアタリ箇所もプロジェクションマッピングされることになるため、作業員が鏡面(切羽)直下で側壁面のアタリ箇所の確認作業を行う必要がなくなり、肌落ち災害のリスクを軽減することができる。
【0059】
そして、以上に述べた施工管理システム1によっても、トンネル切羽20の当たり取りに関する作業を可及的に安全に管理することができる。
【0060】
<その他の変形例>
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施しうる。例えば、本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【0061】
また、1つの装置が行うものとして説明した処理が、複数の装置によって分担して実行されてもよいし、異なる装置が行うものとして説明した処理が、1つの装置によって実行されても構わない。集積回路において、各機能をどのようなハードウェア構成によって実現するかは柔軟に変更可能である。
【0062】
本開示は、上記の実施形態で説明した機能を実装したコンピュータプログラムをコンピュータに供給し、当該コンピュータが有する1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。このようなコンピュータプログラムは、コンピュータのシステムバスに接続可能な非一時的なコンピュータ可読記憶媒体によってコンピュータに提供されてもよい。非一時的なコンピュータ可読記憶媒体は、例えば、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクドライブ(HDD)等)、光ディスク(CD-ROM、DVDディスク・ブルーレイディスク等)など任意のタイプのディスク、読み込み専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気カード、フラッシュメモリ、光学式カード、電子的命令を格納するために適した任意のタイプの媒体を含む。
【符号の説明】
【0063】
1・・・・・トンネル切羽の施工管理システム
10・・・・トンネル
20・・・・トンネル切羽
100・・・プロジェクタ
200・・・3Dレーザスキャナ
300・・・情報処理装置
302・・・記憶部
303・・・制御部
3031・・座標変換処理部
3032・・演算処理部