(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076917
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】トンネル切羽の地山可視化システム
(51)【国際特許分類】
E21D 9/00 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188755
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000149594
【氏名又は名称】株式会社大本組
(71)【出願人】
【識別番号】591248223
【氏名又は名称】株式会社計測リサーチコンサルタント
(74)【代理人】
【識別番号】110003546
【氏名又は名称】弁理士法人伊藤IP特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 伸一
(72)【発明者】
【氏名】都川 信吾
(72)【発明者】
【氏名】家村 享明
(72)【発明者】
【氏名】藏重 裕俊
(57)【要約】
【課題】トンネル切羽の地山状態を可視化することで、トンネルの掘削工事を安全に管理する。
【解決手段】本開示のトンネル切羽の地山可視化システム1は、コンクリート吹付けを行う前のトンネル切羽20を撮影するRGBカメラ200と、撮影されたトンネル切羽20の画像を表す撮影画像データを取得し、該撮影画像データに基づいて所定の処理を実行することで画像加工データを生成し、該画像加工データをトンネル切羽20の地山状態として記憶する画像処理装置300と、画像加工データを、コンクリート吹付けを行ったトンネル切羽20に投影するプロジェクタ100と、を備える。そして、画像処理装置300は、撮影画像データと、複数の岩質の外観データと、に基づいて、撮影画像データに地山の地質の境界を描画する処理を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの切羽にコンクリート吹付けを行ったトンネル切羽に対して地山の状態を可視化するトンネル切羽の地山可視化システムであって、
コンクリート吹付けを行う前の前記トンネル切羽を撮影する撮影装置と、
前記撮影装置によって撮影された前記トンネル切羽の画像を表す撮影画像データを取得し、該撮影画像データに基づいて所定の処理を実行することで画像加工データを生成し、該画像加工データを前記トンネル切羽の地山状態として記憶する画像処理装置と、
前記画像加工データを、コンクリート吹付けを行った前記トンネル切羽に投影する投影手段と、
を備え、
前記画像処理装置は、
前記撮影画像データと、予め所定のデータベースに格納された複数の岩質の外観データと、に基づいて、前記撮影画像データに地山の地質の境界を描画する処理を実行する、
トンネル切羽の地山可視化システム。
【請求項2】
前記画像処理装置は、
前記撮影画像データに地山の地質の特徴をテキスト情報として併せて描画する処理を実行する、
請求項1に記載のトンネル切羽の地山可視化システム。
【請求項3】
前記画像処理装置は、
前記撮影画像データと、予め所定のデータベースに格納された、岩盤に対する複数の亀裂形態を表す亀裂形態データと、に基づいて、前記撮影画像データに地山の亀裂部を描画する処理を実行する、
請求項1に記載のトンネル切羽の地山可視化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの切羽にコンクリート吹付けを行ったトンネル切羽に対して地山の状態を可視化するトンネル切羽の地山可視化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にトンネルの掘削工事では、発破後に地山の当たり取りを行い、支保工、一次覆工(切羽へのコンクリートの吹き付け)、ロックボルトの打設を行っている。
【0003】
このような掘削工事においては、上記の一連の掘削サイクルを繰り返しながらトンネルを掘り進めることになるが、工事の安全性の観点から、トンネル切羽の地山を適切に評価することが求められている。
【0004】
そして、例えば、特許文献1には、トンネル切羽面に穿孔した孔の検出機械データを切羽面のモニタ画面に表示することにより切羽前方の地質分布を評価するトンネル切羽前方の地山評価システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一連の掘削サイクルを繰り返しながらトンネルを掘り進めるトンネルの掘削工事においては、掘削により露出した地山を早期に吹付けコンクリートで覆うことで、肌落ち災害のリスクを軽減することができる。しかしながら、このようにして地山がコンクリートで覆われると、岩質等の地山の状態や湧水箇所などを視認することができなくなる。
【0007】
そこで、従来は、例えば、切羽へのコンクリートの吹付け前に地山の状態を記録した資料を作成し、これを作業員間で共有することで、地山状態の情報を共有していた。しかしながら、このような資料の作成は手間であり、また、作業員間での資料の確実な共有にも課題があった。一方、特許文献1に記載の技術によれば、発破作業を繰り返す現場において切羽前方の面的な地質状況を迅速に把握できるようにも思われるが、これは、切羽面の複数の孔の削孔時機械データに基づく評価であって、より簡単に且つ作業員が直観的にトンネル切羽の地山状態を認識することができる技術が求められていた。
【0008】
本開示の目的は、トンネル切羽の地山状態を可視化することで、トンネルの掘削工事を安全に管理することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のトンネル切羽の地山可視化システムは、トンネルの切羽にコンクリート吹付けを行ったトンネル切羽に対して地山の状態を可視化するトンネル切羽の地山可視化システムである。このトンネル切羽の地山可視化システムは、コンクリート吹付けを行う前の前記トンネル切羽を撮影する撮影装置と、前記撮影装置によって撮影された前記トンネル切羽の画像を表す撮影画像データを取得し、該撮影画像データに基づいて所定の処理を実行することで画像加工データを生成し、該画像加工データを前記トンネル切羽の地山状態として記憶する画像処理装置と、前記画像加工データを、コンクリート吹付けを行った前記トンネル切羽に投影する投影手段と、を備える。そして、前記画像処理装置は、前記撮影画像データと、予め所定のデータベースに格納された複数の岩質の外観データと、に基づいて、前記撮影画像データに地山の地質の境界を描画する処理を実行する。
【0010】
上記のトンネル切羽の地山可視化システムでは、肌落ち災害のリスクを軽減するために一次覆工(切羽へのコンクリートの吹き付け)を行ったトンネル切羽に対して、該トンネル切羽の地山状態を可視化することができる。このとき、実際のトンネル切羽上に実物大の地山の状態がプロジェクションマッピングされ得る。そのため、トンネル掘削工事の作業員が、簡単に且つ直観的にトンネル切羽の地山状態を認識することができる。そうすると、従来のように地山の状態を記録した資料を作成する手間をかけることなく、より確実に作業員間で地山状態の情報を共有することができ、作業員は、直感的にトンネルの掘削工事の危険箇所を察知できるとともに、現地における施工手順の検討の高度化や施工・対策位置を正確に把握することができる。
【0011】
そして、上記のトンネル切羽の地山可視化システムにおいて、前記画像処理装置は、前記撮影画像データに地山の地質の特徴をテキスト情報として併せて描画する処理を実行してもよい。これによれば、トンネル掘削工事の作業員は、地山状態の情報について、より多くを得ることができる。
【0012】
また、本開示のトンネル切羽の地山可視化システムにおいて、前記画像処理装置は、前記撮影画像データと、予め所定のデータベースに格納された、岩盤に対する複数の亀裂形態を表す亀裂形態データと、に基づいて、前記撮影画像データに地山の亀裂部を描画する処理を実行してもよい。これによれば、実際のトンネル切羽上に実物大の地山の亀裂の状態が再現されるため、トンネル掘削工事の作業員は、より直感的にトンネルの掘削工事の危険箇所を察知することができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、トンネル切羽の地山状態を可視化することで、トンネルの掘削工事を安全に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態における地山可視化システムの概略構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態における地山可視化システムの動作の流れを例示する図である。
【
図3】第1実施形態における事前学習モデルに対する入力から得られる識別結果と、該事前学習モデルを構成するニューラルネットワークを説明するための図である。
【
図4】トンネル切羽の地山状態として、プロジェクタによってトンネル切羽に投影されるプロジェクションマッピングを例示する第1の図である。
【
図5】トンネル切羽の地山状態として、プロジェクタによってトンネル切羽に投影されるプロジェクションマッピングを例示する第2の図である。
【
図6】トンネル切羽の地山状態として、プロジェクタによってトンネル切羽に投影されるプロジェクションマッピングを例示する第3の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて、本開示の実施の形態を説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本開示は実施形態の構成に限定されない。
【0016】
<第1実施形態>
第1実施形態におけるトンネル切羽の地山可視化システムの概要について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態におけるトンネル切羽の地山可視化システムの概略構成を示す図である。本実施形態に係る地山可視化システム1は、トンネル10の切羽20(トンネル切羽20)に対して地山の状態を可視化するシステムであって、プロジェクタ100と、RGBカメラ200と、画像処理装置300と、を備える。
【0017】
プロジェクタ100は、コンクリート吹付けを行う前のトンネル切羽20の撮影画像に基づくトンネル切羽20の地山状態に関する情報を、コンクリート吹付けを行ったトンネル切羽20に投影する投影手段であって、該情報を映像光の色彩によりプロジェクションマッピングするための手段である。なお、上記の情報は、画像処理装置300から入力される。
【0018】
RGBカメラ200は、コンクリート吹付けを行う前のトンネル切羽20を撮影する撮影装置であって、静止画や動画等の画像の入力を受け付ける機能を有し、具体的には、Charged-Coupled Devices(CCD)、Metal-oxide-semiconductor(MOS)あるいはComplementary Metal-Oxide-Semiconductor(CMOS)等のイメージセンサを用いたカメラにより実現される。そして、RGBカメラ200によって撮影されたトンネル切羽20の画像を表す撮影画像データは、コンクリート吹付けを行う前のトンネル切羽20の状態を表すデータとして画像処理装置300に送信される。
【0019】
画像処理装置300は、上記の撮影画像データに基づいて所定の処理を実行することで画像加工データを生成する。ここで、画像処理装置300は、データの取得、生成、更新等の演算処理及び加工処理のための処理能力のある機器であればどの様な電子機器でもよく、例えば、コンピュータである。すなわち、画像処理装置300は、CPUやGPU等のプロセッサ、RAMやROM等の主記憶装置、EPROM、ハードディスクドライブ、リムーバブルメディア等の補助記憶装置を有するコンピュータとして構成することができる。なお、リムーバブルメディアは、例えば、USBメモリ、あるいは、CDやDVDのようなディスク記録媒体であってもよい。補助記憶装置には、オペレーティングシステム(OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納されている。なお、画像処理装置300は、本実施形態に係る地山可視化システム1専用のソフトウェアやハードウェア、OS等を設けずに、クラウドサーバによるSaaS(Software as a Service)、Paas(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)を適宜用いてもよい。
【0020】
そして、画像処理装置300は、機能部として通信部301、記憶部302、制御部303を有しており、補助記憶装置に格納されたプログラムを主記憶装置の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各機能部等が制御されることによって、各機能部における所定の目的に合致した各機能を実現することができる。ただし、一部または全部の機能はASICやFPGAのようなハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0021】
ここで、通信部301は、画像処理装置300を各種装置に接続するための通信インタフェースであって、画像処理装置300は、通信部301を介して、プロジェクタ100やRGBカメラ200と通信可能に接続される。
【0022】
記憶部302は、主記憶装置と補助記憶装置を含んで構成される。主記憶装置は、制御部303によって実行されるプログラムや、当該制御プログラムが利用するデータが展開されるメモリである。補助記憶装置は、制御部303において実行されるプログラムや、当該制御プログラムが利用するデータが記憶される装置である。記憶部302には、複数の岩質の外観データや、RGBカメラ200によって撮影された撮影画像データが記憶される。なお、画像処理装置300は、通信部301を介してRGBカメラ200から送信された撮影画像データを取得することができる。
【0023】
制御部303は、画像処理装置300が行う処理を司る機能部である。制御部303は、CPUなどの演算処理装置によって実現することができ、記憶されたプログラムをCPUによって実行することで実現してもよい。
【0024】
そして、制御部303は、取得した撮影画像データに基づいて所定の処理を実行することで画像加工データを生成する。更に、該画像加工データをトンネル切羽20の地山状態として記憶部302に記憶させる。なお、制御部303が実行する上記の処理の詳細については、後述する
図2に基づいて説明する。
【0025】
次に、本実施形態における地山可視化システム1の動作の流れについて説明する。
図2は、本実施形態における地山可視化システム1の動作の流れを例示する図である。
図2では、本実施形態における地山可視化システム1における、画像処理装置300と、プロジェクタ100およびRGBカメラ200との間の動作の流れ、およびこれらが実行する処理を説明する。
【0026】
本実施形態では、先ず、画像処理装置300が岩質の外観データを取得する(S101)。ここで、岩質の外観データは、他の外部装置等の所定のデータベースに予め格納されていて、画像処理装置300は、該データベースにアクセスすることで複数の岩質の外観データを取得することができる。また、岩質の外観データは、複数の岩石について、該岩石と、該岩石の色調や外観組織等と、が対応づけられたデータである。そして、画像処理装置300は、取得した複数の岩質の外観データを記憶部302に記憶させる。
【0027】
そして、画像処理装置300は、測量座標を取得する(S102)。ここで、測量座標は、トンネル10内の所定の位置(例えば、トンネル切羽20から10~15mの位置)に配置されたプロジェクタ100およびRGBカメラ200の座標であって、国家座標(平面直角座標系であって、高さ方向が標高である。)によって表される。なお、このような座標は、周知のプリズム方式によって測量され得る。そして、測量されたデータ(測量座標)は、画像処理装置300に入力され記憶部302に格納される。
【0028】
次に、RGBカメラ200によって、コンクリート吹付けを行う前のトンネル切羽20が撮影される(S103)。そして、RGBカメラ200によって撮影されたトンネル切羽20の画像を表す撮影画像データは、無線または有線による通信によって画像処理装置300に送信される。
【0029】
そして、画像処理装置300は、RGBカメラ200から送信された撮影画像データを取得する(S104)。このとき、画像処理装置300は、S102の処理で取得した測量座標および予めキャリブレーションされたRGBカメラ200の位置姿勢を、取得した撮影画像データに紐づけることができる。
【0030】
次に、画像処理装置300は、画像加工データを生成する(S105)。ここで、画像加工データは、コンクリート吹付けを行う前のトンネル切羽20の撮影画像データに基づくトンネル切羽20の地山状態を表すデータであって、本実施形態では、該撮影画像データに地山の地質の境界が描画されることで生成される。
【0031】
ここで、上述したように、複数の岩石について、該岩石と、該岩石の色調や外観組織等と、が対応づけられたデータ(岩質の外観データ)が事前に取得される。そのため、画像処理装置300は、撮影画像データに含まれる岩石の外観データと、岩質の外観データと、を比較することで、撮影画像データに含まれる岩石の種類を判別することができる。これにより、画像処理装置300が、撮影画像データにおける地山の地質の境界を判定し、画像データに該境界の描画を追加することが可能になる。画像処理装置300は、例えば、撮影画像データに含まれる岩石の外観データにおいて、灰黒色である部分を粘板岩と判別し、白色~灰色である部分を石灰岩と判別し、これら岩石間において色調が変化している箇所を地質の境界と判定することができる。
【0032】
また、画像処理装置300は、所定の画像データの入力を受け付ける入力層と、入力された該画像データから岩石の種類を表す特徴量を抽出する中間層と、該特徴量に基づく識別結果を出力する出力層と、を有するニューラルネットワークモデルであって、複数の岩石を表す画像を含んだデータを用いて学習を行うことにより構築された事前学習モデルに、上記の撮影画像データを入力することで、撮影画像データに含まれる岩石の種類を判別してもよい。
【0033】
ここで、
図3は、本実施形態における事前学習モデルに対する入力から得られる識別結果と、該事前学習モデルを構成するニューラルネットワークを説明するための図である。本実施形態では、事前学習モデルとして、ディープラーニングにより生成されるニューラルネットワークモデルを用いる。本実施形態における事前学習モデル30は、所定の画像データの入力を受け付ける入力層31と、入力層31に入力された該画像データから岩石の種類を表す特徴量を抽出する中間層(隠れ層)32と、特徴量に基づく識別結果を出力する出力層33とを有する。なお、
図3の例では、事前学習モデル30は、1層の中間層32を有しており、入力層31の出力が中間層32に入力され、中間層32の出力が出力層33に入力されている。ただし、中間層32の数は、1層に限られなくてもよく、事前学習モデル30は、2層以上の中間層32を有してもよい。
【0034】
また、
図3によると、各層31~33は、1又は複数のニューロンを備えている。例えば、入力層31のニューロンの数は、入力される画像データに応じて設定することができる。また、出力層33のニューロンの数は、識別結果である岩石の種類に応じて設定することができる。
【0035】
そして、隣接する層のニューロン同士は適宜結合され、各結合には重み(結合荷重)が機械学習の結果に基づいて設定される。
図3の例では、各ニューロンは、隣接する層の全てのニューロンと結合されているが、ニューロンの結合は、このような例に限定されなくてもよく、適宜設定することができる。
【0036】
このような事前学習モデル30は、例えば、複数の岩石を表す画像を含んだ画像データと、岩石の種類を表す画像のラベルと、の組みである教師データを用いて教師あり学習を行うことで構築される。具体的には、特徴量とラベルとの組みをニューラルネットワークに与え、ニューラルネットワークの出力がラベルと同じとなるように、ニューロン同士の結合の重みがチューニングされる。このようにして、教師データの特徴を学習し、入力から結果を推定するための事前学習モデルが帰納的に獲得される。
【0037】
なお、事前学習モデル30は、教師なし学習を行うことで構築されてもよい。教師なし学習には、例えば、転移学習の一種であるドメイン適応を用いることができる。これによれば、ラベルが付された教師データを大量に用意することなく、事前学習モデルを獲得することができる。
【0038】
そして、
図2に戻って、上述したようにして生成された画像加工データは、プロジェクタ100に送信される。このとき、画像処理装置300は、撮影画像データに紐づけた上記の測量座標やRGBカメラ200の位置姿勢に基づいて、画像加工データをトンネル切羽20の形状にマッチさせるための情報を含めてプロジェクタ100に送信することができる。なお、この場合、画像処理装置300は、トンネル10の設計掘削断面に関する情報等を含んだトンネル10の設計データを予め取得し、該設計データも用いて上記の情報を生成してもよい。
【0039】
そして、プロジェクタ100は、画像処理装置300から送信された上記の情報を取得し(S106)、コンクリート吹付けを行ったトンネル切羽20に対してプロジェクションマッピングを実行する(S107)。これについて、
図4に基づいて以下に説明する。
【0040】
図4は、トンネル切羽20の地山状態として、プロジェクタ100によってトンネル切羽20に投影されるプロジェクションマッピングを例示する第1の図である。
図4に示すように、コンクリート吹付けを行ったトンネル切羽20に対して、コンクリート吹付けを行う前のトンネル切羽20の撮影画像に地山の地質境界の描画が追加された画像加工データが、トンネル切羽20の地山状態を表す画像データとしてプロジェクションマッピングされる。
【0041】
ここで、
図4に例示するようなプロジェクションマッピングを実行するにあたっては、3Dレーザスキャナ400を用いて投影位置を定めることができる。3Dレーザスキャナ400は、トンネル切羽20の切羽形状を3次元座標で取得する手段であって、トンネル切羽20に対してレーザのスキャンを行うLiDARスキャナである。そして、3Dレーザスキャナ400によって取得された3Dの点群データ(3次元座標)は、切羽座標として画像処理装置300に送信され、この切羽座標を用いて上記の投影位置を定めることができる。
【0042】
以上に述べた処理によれば、肌落ち災害のリスクを軽減するために一次覆工(切羽へのコンクリートの吹き付け)を行ったトンネル切羽20に対して、該トンネル切羽20の地山状態を可視化することができる。このとき、(コンクリート吹付け後の)トンネル切羽20に対して、該トンネル切羽20の(コンクリート吹付け前の)撮影画像に地山の地質境界の描画が追加された画像加工データがプロジェクションマッピングされる、つまり、実際のトンネル切羽20上に実物大の地山の状態が再現されるため、作業員が、簡単に且つ直観的にトンネル切羽20の地山状態を認識することができる。そうすると、従来のように地山の状態を記録した資料を作成する手間をかけることなく、より確実に作業員間で地山状態の情報を共有することができ、作業員は、直感的にトンネル10の掘削工事の危険箇所を察知できるとともに、現地における施工手順の検討の高度化や施工・対策位置を正確に把握することができる。
【0043】
なお、画像処理装置300は、上記の撮影画像データに対して、地山の地質の特徴をテキスト情報として地山の地質の境界と併せて描画することで画像加工データを生成し、これをプロジェクションマッピングさせてもよい。
【0044】
図5は、トンネル切羽20の地山状態として、プロジェクタ100によってトンネル切羽20に投影されるプロジェクションマッピングを例示する第2の図である。
図5に示すように、画像処理装置300によって判別された岩石の種類の名称と、該岩石の特徴を表すテキスト情報と、が、撮影画像データに追加される。そうすると、作業員は、地山状態の情報について、より多くを得ることができる。なお、このようなテキスト情報は、上記のデータベースから岩質の外観データとともに取得することができる。
【0045】
このように、本実施形態の地山可視化システム1によれば、トンネル切羽20の地山状態を可視化することで、トンネルの掘削工事を安全に管理することができる。
【0046】
<第2実施形態>
第2実施形態について、
図6に基づいて説明する。本実施形態では、画像処理装置300は、撮影画像データに対して、地山の亀裂部を地山の地質の境界と併せて描画することで画像加工データを生成し、これをプロジェクションマッピングさせる。
【0047】
詳しくは、画像処理装置300は、撮影画像データと、岩盤に対する複数の亀裂形態を表す亀裂形態データと、に基づいて、撮影画像データに地山の亀裂部を描画する処理を実行する。
【0048】
ここで、画像処理装置300は、上記の亀裂形態データを事前に取得する。亀裂形態データは、他の外部装置等の所定のデータベースに予め格納されていて、画像処理装置300は、該データベースにアクセスすることで亀裂形態データを取得することができる。また、亀裂形態データは、岩盤に対する複数の亀裂形態を収容したデータであって、画像処理装置300は、取得した亀裂形態データを記憶部302に記憶させる。
【0049】
そして、画像処理装置300は、撮影画像データに含まれる岩盤の外観データと、亀裂形態の外観データと、を比較することで、撮影画像データに含まれる岩盤の亀裂を判別することができる。これにより、画像処理装置300が、撮影画像データにおける地山の亀裂部を判定し、画像データに該亀裂部の描画を追加することが可能になる。
【0050】
なお、画像処理装置300は、所定の画像データの入力を受け付ける入力層と、入力された該画像データから岩盤の亀裂の有無を表す特徴量を抽出する中間層と、該特徴量に基づく識別結果を出力する出力層と、を有するニューラルネットワークモデルであって、岩盤に対する複数の亀裂形態を表す画像を含んだデータを用いて学習を行うことにより構築された事前学習モデルに、上記の撮影画像データを入力することで、撮影画像データに含まれる岩盤の亀裂を判別してもよい。
【0051】
図6は、トンネル切羽20の地山状態として、プロジェクタ100によってトンネル切羽20に投影されるプロジェクションマッピングを例示する第3の図である。
図6に示すように、コンクリート吹付けを行ったトンネル切羽20に対して、コンクリート吹付けを行う前のトンネル切羽20の撮影画像に地山の地質境界の描画および地山の亀裂部の描画が追加された画像加工データが、トンネル切羽20の地山状態を表す画像データとしてプロジェクションマッピングされる。
【0052】
以上に述べた処理によれば、実際のトンネル切羽20上に実物大の地山の亀裂の状態が再現されるため、作業員は、より直感的にトンネル10の掘削工事の危険箇所を察知することができる。
【0053】
そして、以上に述べた地山可視化システム1によっても、トンネル切羽20の地山状態を可視化することで、トンネルの掘削工事を安全に管理することができる。
【0054】
<その他の変形例>
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施しうる。例えば、本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【0055】
また、1つの装置が行うものとして説明した処理が、複数の装置によって分担して実行されてもよいし、異なる装置が行うものとして説明した処理が、1つの装置によって実行されても構わない。集積回路において、各機能をどのようなハードウェア構成によって実現するかは柔軟に変更可能である。
【0056】
本開示は、上記の実施形態で説明した機能を実装したコンピュータプログラムをコンピュータに供給し、当該コンピュータが有する1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。このようなコンピュータプログラムは、コンピュータのシステムバスに接続可能な非一時的なコンピュータ可読記憶媒体によってコンピュータに提供されてもよい。非一時的なコンピュータ可読記憶媒体は、例えば、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクドライブ(HDD)等)、光ディスク(CD-ROM、DVDディスク・ブルーレイディスク等)など任意のタイプのディスク、読み込み専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気カード、フラッシュメモリ、光学式カード、電子的命令を格納するために適した任意のタイプの媒体を含む。
【符号の説明】
【0057】
1・・・・・トンネル切羽の地山可視化システム
10・・・・トンネル
20・・・・トンネル切羽
100・・・プロジェクタ
200・・・RGBカメラ
300・・・画像処理装置
302・・・記憶部
303・・・制御部
400・・・3Dレーザスキャナ