(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076931
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質材料、電池、および硫化物固体電解質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/10 20060101AFI20240530BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240530BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240530BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240530BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240530BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
H01B1/10
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/054
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188778
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 圭一
(72)【発明者】
【氏名】菅野 了次
(72)【発明者】
【氏名】堀 智
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA12
5G301CA15
5G301CA16
5G301CA17
5G301CA19
5G301CA22
5G301CA23
5G301CA25
5G301CA27
5G301CA28
5G301CD01
5H029AJ02
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM12
5H029HJ02
5H029HJ13
5H050AA02
5H050AA19
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA13
5H050EA15
5H050FA20
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)においても優れた耐水性を示す硫化物固体電解質材料の提供。
【解決手段】M1元素、M2元素、M3元素、およびS元素を含有し、前記M1元素は、Li、Na、K、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Liおよび前記Naの少なくとも一方を含み、前記M2元素は、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Pを少なくとも含む、硫化物固体電解質材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
M1元素、M2元素、M3元素、およびS元素を含有し、
前記M1元素は、Li、Na、K、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Liおよび前記Naの少なくとも一方を含み、
前記M2元素は、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Pを少なくとも含み、
前記M3元素は、第3族~第12族の遷移元素から選択される少なくとも一種であり、
CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、
CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有しないか、
前記2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有する場合、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIAとし、前記2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIBとした際に、IB/IAの値が1.00未満である、硫化物固体電解質材料。
【請求項2】
M1元素およびS元素から構成される八面体Oと、M2a元素およびS元素から構成される四面体T1と、M2b元素およびM3元素からなる群から選択される少なくとも一種並びにS元素から構成される四面体T2と、を有し、前記四面体T1および前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体T2および前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有し、
前記M1元素は、Li、Na、K、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Liおよび前記Naの少なくとも一方を含み、
前記M2a元素および前記M2b元素は、それぞれ独立に、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Pを少なくとも含み、
前記M3元素は、第3族~第12族の遷移元素から選択される少なくとも一種である、硫化物固体電解質材料。
【請求項3】
前記M2元素の含有量に対する前記M3元素の含有量の割合(M3/M2)が0.010~0.040である、請求項1に記載の硫化物固体電解質材料。
【請求項4】
前記M2a元素および前記M2b元素の含有量の総和に対する前記M3元素の含有量の割合(M3/(M2a+M2b))が0.010~0.040である、請求項2に記載の硫化物固体電解質材料。
【請求項5】
前記M3元素は、第5族~第6族の遷移元素から選択される少なくとも一種を含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質材料。
【請求項6】
前記M3元素は、Ta、NbおよびWからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項5に記載の硫化物固体電解質材料。
【請求項7】
前記M3元素は、NbおよびWからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項6に記載の硫化物固体電解質材料。
【請求項8】
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層と、を有する電池であって、
前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記電解質層の少なくとも一つが、請求項1または請求項2に記載の硫化物固体電解質材料を含有する、電池。
【請求項9】
請求項1に記載の硫化物固体電解質材料の製造方法であって、
前記M1元素、前記M2元素、前記M3元素および前記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、
前記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、前記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、
を有する硫化物固体電解質材料の製造方法。
【請求項10】
請求項2に記載の硫化物固体電解質材料の製造方法であって、
前記M1元素、前記M2a元素、前記M2b元素、前記M3元素および前記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、
前記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、前記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、
を有する硫化物固体電解質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硫化物固体電解質材料、電池、および硫化物固体電解質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。現在、種々の電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウム電池が注目を浴びている。
【0003】
現在市販されているリチウム電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質層に変えて、電池を全固体化したリチウム電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
【0004】
全固体リチウム電池に用いられる固体電解質材料として、硫化物固体電解質材料が知られている。
例えば、特許文献1においては、X線回折測定において特定のピークを有するLiGePS系の硫化物固体電解質材料が開示されている。
特許文献2には、M1元素、M2元素およびS元素を含有し、前記M1は、Liと、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種の二価元素との組み合わせであり、前記M2は、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V、Nbからなる群から選択される少なくとも一種である硫化物固体電解質材料が開示されている。
特許文献3には、M1元素、M2元素、S元素およびO元素を含有し、前記M1は、少なくともLiを含み、前記M2は、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V、Nbからなる群から選択される少なくとも一種である硫化物固体電解質材料が開示されている。
特許文献4には、Li元素、Me元素(Meは、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V、Nbからなる群から選択される少なくとも一種である)、P元素およびS元素を含有する硫化物固体電解質材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/118801号
【特許文献2】特開2014-137918号公報
【特許文献3】特開2013-149599号公報
【特許文献4】特開2015-069696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)においても優れた耐水性を示す硫化物固体電解質材料、およびその製造方法、並びに該硫化物固体電解質材料を用いた電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
<1>
M1元素、M2元素、M3元素、およびS元素を含有し、
前記M1元素は、Li、Na、K、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Liおよび前記Naの少なくとも一方を含み、
前記M2元素は、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Pを少なくとも含み、
前記M3元素は、第3族~第12族の遷移元素から選択される少なくとも一種であり、
CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、
CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有しないか、
前記2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有する場合、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIAとし、前記2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIBとした際に、IB/IAの値が1.00未満である、硫化物固体電解質材料。
<2>
M1元素およびS元素から構成される八面体Oと、M2a元素およびS元素から構成される四面体T1と、M2b元素およびM3元素からなる群から選択される少なくとも一種並びにS元素から構成される四面体T2と、を有し、前記四面体T1および前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体T2および前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有し、
前記M1元素は、Li、Na、K、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Liおよび前記Naの少なくとも一方を含み、
前記M2a元素および前記M2b元素は、それぞれ独立に、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Pを少なくとも含み、
前記M3元素は、第3族~第12族の遷移元素から選択される少なくとも一種である、硫化物固体電解質材料。
<3>
前記M2元素の含有量に対する前記M3元素の含有量の割合(M3/M2)が0.010~0.040である、<1>に記載の硫化物固体電解質材料。
<4>
前記M2a元素および前記M2b元素の含有量の総和に対する前記M3元素の含有量の割合(M3/(M2a+M2b))が0.010~0.040である、<2>に記載の硫化物固体電解質材料。
<5>
前記M3元素は、第5族~第6族の遷移元素から選択される少なくとも一種を含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質材料。
<6>
前記M3元素は、Ta、NbおよびWからなる群から選択される少なくとも一種を含む、<5>に記載の硫化物固体電解質材料。
<7>
前記M3元素は、NbおよびWからなる群から選択される少なくとも一種を含む、<6>に記載の硫化物固体電解質材料。
<8>
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層と、を有する電池であって、
前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記電解質層の少なくとも一つが、<1>または<2>に記載の硫化物固体電解質材料を含有する、電池。
<9>
<1>に記載の硫化物固体電解質材料の製造方法であって、
前記M1元素、前記M2元素、前記M3元素および前記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、
前記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、前記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、
を有する硫化物固体電解質材料の製造方法。
<10>
<2>に記載の硫化物固体電解質材料の製造方法であって、
前記M1元素、前記M2a元素、前記M2b元素、前記M3元素および前記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、
前記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、前記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、
を有する硫化物固体電解質材料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)においても優れた耐水性を示す硫化物固体電解質材料、およびその製造方法、並びに該硫化物固体電解質材料を用いた電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】イオン伝導性の高い硫化物固体電解質材料と、イオン伝導性の低い硫化物固体電解質材料との違いを説明するX線回折スペクトルである。
【
図2】本開示の硫化物固体電解質材料の結晶構造の一例を説明する斜視図である。
【
図3】本開示におけるイオン伝導を説明する平面図である。
【
図4】本開示の電池の一例を示す概略断面図である。
【
図5】本開示の硫化物固体電解質材料の製造方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の硫化物固体電解質材料、電池、および硫化物固体電解質材料の製造方法について、詳細に説明する。
【0011】
A.硫化物固体電解質材料
まず、本開示の硫化物固体電解質材料について説明する。本開示の硫化物固体電解質材料は、2つの実施態様に大別することができる。そこで、本開示の硫化物固体電解質材料について、第一実施態様および第二実施態様に分けて説明する。
【0012】
1.第一実施態様
第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、M1元素、M2元素、M3元素、およびS元素を含有し、前記M1元素は、Li、Na、K、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Liおよび前記Naの少なくとも一方を含み、前記M2元素は、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Pを少なくとも含み、前記M3元素は、第3族~第12族の遷移元素から選択される少なくとも一種であり、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有しないか、前記2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有する場合、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIAとし、前記2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIBとした際に、IB/IAの値が1.00未満である。
【0013】
第一実施態様によれば、水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)においても優れた耐水性を示す硫化物固体電解質材料とすることができる。その理由は、以下のように推察される。
【0014】
従来の硫化物固体電解質材料においても、曝露する環境が乾燥した環境下(例えば露点-30℃)であれば、H2Sが発生することはほとんどなく、耐水性は問題とならない。しかし、実使用に近い環境つまり水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)に曝露した場合にH2Sが発生していた。これは、水分濃度が高い環境では水分との反応速度が増加し、バルク内まで反応が進行するためと考えられる。そのため、硫化物固体電解質材料においては耐水性の改善が求められていた。
これに対して本発明者らは、耐水性を向上することができる硫化物固体電解質材料の元素組成について検討した。その結果、大気中で安定な硫化物を形成する遷移元素を含ませることで、水分濃度が高い環境下(例えば露点-30℃の環境に比べて水分量が10倍も多い露点-6℃環境下)に曝露した場合であっても、H2Sの発生量を抑制できることを見出した。
これは、M3元素(つまり遷移元素)が硫化物の表面に濃化して、大気中で安定な硫化物を形成しており、水分との反応が抑制されているためと考えられる。
【0015】
以上により、第一実施態様によれば、水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)においても優れた耐水性を示す硫化物固体電解質材料とすることができる。
【0016】
なお、第一実施態様の硫化物固体電解質材料では、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相の割合が高いため、イオン伝導性に優れる。そのため、第一実施態様の硫化物固体電解質材料を用いることにより、高出力な電池を得ることができる。
【0017】
・ピーク
図1は、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質材料と、イオン伝導性が低い硫化物固体電解質材料との違いを説明するX線回折スペクトルである。なお、
図1における2つの硫化物固体電解質材料は、ともにLi
3.25Ge
0.25P
0.75S
4の組成を有するものである。
図1において、イオン伝導性が高い硫化物固体電解質材料は、2θ=29.58°±0.50°の位置、および、2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有する。また、
図1において、イオン伝導性が低い硫化物固体電解質材料も同様のピークを有する。ここで、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相と、2θ=27.33°付近のピークを有する結晶相とは、互いに異なる結晶相であると考えられる。なお、第一実施態様においては、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相を「結晶相A」と称し、2θ=27.33°付近のピークを有する結晶相を「結晶相B」と称する場合がある。なお、このイオン伝導性が高い硫化物固体電解質材料は、後述するように、第一実施態様の硫化物固体電解質材料と同様の結晶構造を有するものである。
【0018】
結晶相A、Bは、ともにイオン伝導性を示す結晶相であるが、そのイオン伝導性には違いがある。結晶相Aは、結晶相Bに比べて、イオン伝導性が顕著に高いと考えられる。従来の合成方法(例えば固相法)では、イオン伝導性の低い結晶相Bの割合を少なくすることができず、イオン伝導性を十分に高くすることができなかった。これに対して、第一実施態様では、イオン伝導性の高い結晶相Aを積極的に析出させることができるため、イオン伝導性の高い硫化物固体電解質材料を得ることができる。
【0019】
また、第一実施態様においては、イオン伝導性が低い硫化物固体電解質材料と区別するため、2θ=29.58°付近のピークの回折強度をIAとし、2θ=27.33°付近のピークの回折強度をIBとし、IB/IAの値を1.00未満に規定している。なお、IB/IAの値が1.00未満の硫化物固体電解質材料は、従来の合成方法では得ることができないと考えられる。また、イオン伝導性の観点からは、第一実施態様における硫化物固体電解質材料は、イオン伝導性の高い結晶相Aの割合が高いことが好ましい。そのため、IB/IAの値はより小さいことが好ましく、具体的には、0.50以下であることが好ましく、0.45以下であることがより好ましく、0.25以下であることがさらに好ましく、0.15以下であることがさらに好ましく、0.07以下であることがさらに好ましい。また、IB/IAの値は0であることが好ましい。言い換えると、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、結晶相Bのピークである2θ=27.33°付近のピークを有しないことが好ましい。
【0020】
第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、2θ=29.58°付近にピークを有する。このピークは、上述したように、イオン伝導性の高い結晶相Aのピークの一つである。ここで、2θ=29.58°は実測値であり、材料組成等によって結晶格子が若干変化し、ピークの位置が2θ=29.58°から多少前後する場合がある。そのため、第一実施態様においては、結晶相Aの上記ピークを、29.58°±0.50°の位置のピークとして定義する。結晶相Aは、通常、2θ=17.38°、20.18°、20.44°、23.56°、23.96°、24.93°、26.96°、29.07°、29.58°、31.71°、32.66°、33.39°のピークを有すると考えられる。なお、これらのピーク位置も、±0.50°の範囲で前後する場合がある。
【0021】
一方、2θ=27.33°付近のピークは、上述したように、イオン伝導性の低い結晶相Bのピークの一つである。ここで、2θ=27.33°は実測値であり、材料組成等によって結晶格子が若干変化し、ピークの位置が2θ=27.33°から多少前後する場合がある。そのため、第一実施態様においては、結晶相Bの上記ピークを、27.33°±0.50°の位置のピークとして定義する。結晶相Bは、通常、2θ=17.46°、18.12°、19.99°、22.73°、25.72°、27.33°、29.16°、29.78°のピークを有すると考えられる。なお、これらのピーク位置も、±0.5
0°の範囲で前後する場合がある。
【0022】
・元素
第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、M1元素、M2元素、M3元素、およびS元素を含有するものである。
【0023】
M1元素は、Li、Na、K、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つLiおよびNaの少なくとも一方を含む。つまり、M1元素として、LiおよびNaの一方のみを含んでもよく、LiおよびNaの両方のみを含んでもよい。またM1元素として、LiおよびNaの少なくとも一方に加えて、K、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種を組み合わせてもよい。
【0024】
M2元素は、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つPを少なくとも含む。つまり、M2元素として、Pのみを含んでもよく、Pに加えて、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも一種を組み合わせてもよい。中でも、第一実施態様においては、上記M2元素が、Pと、Si、Ge、Al、Zr、Sn、およびBからなる群から選択される少なくとも一種と、を少なくとも含むことが好ましく、PおよびGeを少なくとも含むこと、または、PおよびSiを少なくとも含むことがより好ましい。
【0025】
M3元素は、第3族~第12族の遷移元素から選択される少なくとも一種である。つまりM3元素としては、周期表における第3族の第4周期元素であるScから、第12族の第7周期元素であるCnまでの元素が含まれる。第一実施態様では、M3元素として遷移元素を含むことで、水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)においても優れた耐水性が得られる。
中でも、第一実施態様においては、水分濃度が高い環境下での耐水性を向上させる観点から、M3元素が、第5族~第6族の遷移元素から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。さらにはM3元素が、Ta、NbおよびWからなる群から選択される少なくとも一種を含むことがより好ましく、NbおよびWからなる群から選択される少なくとも一種を含むことがさらに好ましい。
【0026】
M2元素の含有量に対するM3元素の含有量の割合(M3/M2)は、0.010~0.040であることが好ましく、0.015~0.035であることがより好ましい。割合(M3/M2)が上記範囲であることで、高いイオン伝導性と、水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)での優れた耐水性とが両立できる。
【0027】
さらに、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、S元素を含有する。
【0028】
また、後述する実施例では、LiGePS系の元素にさらにTa、NbまたはWを含む硫化物固体電解質材料を実際に合成し、得られたサンプルのX線回折測定を行い、IB/IAが所定の値以下であることを確認している。この後述する実施例で示す硫化物固体電解質材料は、M1元素がLi元素であり、M2元素がGe元素およびP元素であり、M3元素がTa元素、Nb元素またはW元素に該当するものである。
【0029】
一方、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、通常、後述する第二実施態様に記載する特定の結晶構造を有する。M1元素およびM2元素は、その任意の組み合わせにおいて、LiGePS系の硫化物固体電解質材料に同様の結晶構造を取ることが可能であると推測される。そのため、M1元素およびM2元素の任意の組み合わせにおいて、いずれも良好なイオン伝導性を有する硫化物固体電解質材料が得られると考えられる。また、X線回折のピークの位置は、結晶構造に依存することから、硫化物固体電解質材料が上記結晶構造を有していれば、M1元素およびM2元素の種類に依らず、類似したXRDパターンが得られると考えられる。
【0030】
第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、Li元素、Ge元素、P元素、S元素およびM3元素を少なくとも含有することが好ましい。
【0031】
第一実施態様では、LiGePS系の元素にさらにM3元素を含む硫化物固体電解質材料の組成は、所定のIB/IAの値を得ることができる組成であれば特に限定されるものではないが、[Li]、[M3元素]、[Ge]、[P]、および[S]の比率が[Li](4-x)[M3元素]y[Ge](1-x)[P]x[S]4(xは0<x<1を満たし、yは0.010≦y≦0.040を満たす)の組成であることが好ましい。この組成を満たすことで、高いイオン伝導性と、水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)での優れた耐水性とが両立できる。
ここで、M3元素を有しないLi(4-x)Ge(1-x)PxS4の組成は、Li3PS4およびLi4GeS4の固溶体の組成に該当する。すなわち、この組成は、Li3PS4およびLi4GeS4のタイライン上の組成に該当する。なお、Li3PS4およびLi4GeS4は、いずれもオルト組成に該当し、化学的安定性が高いという利点を有する。このようなLi(4-x)Ge(1-x)PxS4の組成を有する硫化物固体電解質材料は、従来からチオリシコンとして知られており、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、組成上は、従来のチオリシコンと同一であってもよい。ただし、上述したように、第一実施態様の硫化物固体電解質材料に含まれる結晶相の割合は、従来における結晶相の割合とは全く異なるものである。さらに、第一実施態様の硫化物固体電解質材料はM3元素を含有するため、水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)で耐水性に優れるという利点がある。
【0032】
また、[Li](4-x)[M3元素]y[Ge](1-x)[P]x[S]4におけるxは、所定のIB/IAの値を得ることができる値であれば特に限定されるものではないが、例えば、0.4≦xを満たすことが好ましく、0.5≦xを満たすことがより好ましい。一方、上記xは、x≦0.8を満たすことが好ましく、x≦0.75を満たすことがより好ましい。このようなxの範囲とすることにより、IB/IAの値をより小さくできるからである。
また、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、少なくともLi2S、P2S5およびGeS2を用いてなるものであることが好ましい。
【0033】
また、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、Li元素、Si元素、P元素、S元素およびM3元素を少なくとも含有することが好ましい。
【0034】
第一実施態様では、LiSiPS系の元素にさらにM3元素を含む硫化物固体電解質材料の組成は、所定のIB/IAの値を得ることができる組成であれば特に限定されるものではないが、[Li]、[M3元素]、[Si]、[P]、および[S]の比率が[Li](4-x)[M3元素]y[Si](1-x)[P]x[S]4(xは0<x<1を満たし、yは0.010≦y≦0.040を満たす)の組成であることが好ましい。この組成を満たすことで、高いイオン伝導性と、水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)での優れた耐水性とが両立できる。
ここで、M3元素を有しないLi(4-x)Ge(1-x)PxS4の組成は、Li3PS4およびLi4GeS4の固溶体の組成に該当する。すなわち、この組成は、Li3PS4およびLi4GeS4のタイライン上の組成に該当する。なお、Li3PS4およびLi4GeS4は、いずれもオルト組成に該当し、化学的安定性が高いという利点を有する。
【0035】
また、[Li](4-x)[M3元素]y[Si](1-x)[P]x[S]4におけるxは、所定のIB/IAの値を得ることができる値であれば特に限定されるものではないが、例えば、0.4≦xを満たすことが好ましく、0.5≦xを満たすことがより好ましい。一方、上記xは、x≦0.8を満たすことが好ましく、x≦0.75を満たすことがより好ましい。このようなxの範囲とすることにより、IB/IAの値をより小さくできるからである。
また、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、少なくともLi2S、P2S5およびSiS2を用いてなるものであることが好ましい。
【0036】
第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、通常、結晶質の硫化物固体電解質材料である。また、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、イオン伝導性が高いことが好ましく、25℃における硫化物固体電解質材料のイオン伝導性は、1.0×10-3S/cm以上であることが好ましく、2.3×10-3S/cm以上であることがより好ましい。また、第一実施態様の硫化物固体電解質材料の形状は特に限定されるものではないが、例えば粉末状を挙げることができる。さらに、粉末状の硫化物固体電解質材料の平均粒径は、例えば0.1μm~50μmの範囲内であることが好ましい。
【0037】
第一実施態様の硫化物固体電解質材料は任意の用途に用いることができる。中でも、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、電池に用いられるものであることが好ましい。電池の高出力化に大きく寄与することができるからである。また、第一実施態様の硫化物固体電解質材料の製造方法については、後述する「C.硫化物固体電解質材料の製造方法」で詳細に説明する。また、第一実施態様の硫化物固体電解質材料は、後述する第二実施態様の特徴を兼ね備えたものであってもよい。
【0038】
なお、第一実施態様においては、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有しないか、上記2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有する場合、上記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIAとし、上記2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIBとした際に、IB/IAの値が1.00未満である硫化物固体電解質材料を提供することができる。第一実施態様の硫化物固体電解質材料が結晶相Bのピークである2θ=27.33°付近のピークを有しない場合を包含することは、上述した記載から明らかであるが、この表現により、2θ=27.33°付近のピークを有しない場合をさらに明確に規定できる。
【0039】
2.第二実施態様
次に、本開示の硫化物固体電解質材料の第二実施態様について説明する。第二実施態様の硫化物固体電解質材料は、M1元素およびS元素から構成される八面体Oと、M2a元素およびS元素から構成される四面体T1と、M2b元素およびM3元素からなる群から選択される少なくとも一種並びにS元素から構成される四面体T2と、を有し、上記四面体T1および上記八面体Oは稜を共有し、上記四面体T2および上記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有し、上記M1元素は、Li、Na、K、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ上記Liおよび上記Naの少なくとも一方を含み、上記M2a元素および上記M2b元素は、それぞれ独立に、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ上記Pを少なくとも含み、上記M3元素は、第3族~第12族の遷移元素から選択される少なくとも一種である。
【0040】
第二実施態様によれば、水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)においても優れた耐水性を示す硫化物固体電解質材料とすることができる。
本発明者らは、硫化物固体電解質材料中に、大気中で安定な硫化物を形成する遷移元素を含ませることで、水分濃度が高い環境下(例えば露点-30℃の環境に比べて水分量が10倍も多い露点-6℃環境下)に曝露した場合であっても、H2Sの発生量を抑制できることを見出した。
これは、M3元素(つまり遷移元素)が硫化物の表面に濃化して、大気中で安定な硫化物を形成しており、水分との反応が抑制されているためと考えられる。
【0041】
また、第二実施態様によれば、八面体O、四面体T1および四面体T2が所定の結晶構造(三次元構造)を有することから、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料とすることができる。八面体O、四面体T1および四面体T2の少なくとも一つは、S元素の一部がO元素に置換されたものであるため、イオン伝導性がさらに向上した硫化物固体電解質材料とすることができる。そのため、第二実施態様の硫化物固体電解質材料を用いることにより、高出力な電池を得ることができる。
【0042】
図2は、第二実施態様の硫化物固体電解質材料の結晶構造の一例を説明する斜視図である。
図2に示す結晶構造において、八面体Oは、中心元素としてM
1を有し、八面体の頂点に6個のSを有しており、典型的にはLiS
6八面体である。四面体T
1は、中心元素としてM
2aを有し、四面体の頂点に4個のSを有しており、典型的にはGeS
4四面体およびPS
4四面体の両方である。四面体T
2は、中心元素としてM
2bを有し(なお、M
2bの一部はM
3で置換されていてもよい)、四面体の頂点に4個のSを有しており、典型的にはPS
4四面体および[M
3]S
4四面体(M
3は例えばTa、Nb、およびW等である)である。第二実施態様の硫化物固体電解質材料は、四面体T
2の少なくとも一部が、M
2b元素の一部はM
3元素で置換されたものである。なお、M
2b元素の一部がM
3元素で置換されていることは、例えば、リートベルト法によるXRDパターンの解析、中性子回折等により確認することができる。さらに、四面体T
1および八面体Oは稜を共有し、四面体T
2および八面体Oは頂点を共有している。
【0043】
図3は、第二実施態様におけるイオン伝導を説明する平面図である。
図3においては、八面体O、四面体T
1および四面体T
2から構成される結晶構造の内部(トンネルT)を、Liイオンがc軸方向(紙面垂直方向)に伝導する。なお、Liイオンは若干ジグザグに配置されている。トンネルTのサイズは、各多面体の頂点元素および中心元素の大きさで決定される。第二実施態様においては、多面体の頂点元素であるS元素の一部を、サイズの小さいO元素に置換することで、Liイオンが伝導しやすいトンネルサイズが形成され、硫化物固体電解質材料のイオン伝導性が向上したと考えられる。
【0044】
第二実施態様の硫化物固体電解質材料は、上記結晶構造を主体として含有する。硫化物固体電解質材料の全結晶構造における上記結晶構造の割合は特に限定されるものではないが、より高いことが好ましい。イオン伝導性の高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。上記結晶構造の割合は、具体的には、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。なお、上記結晶構造の割合は、例えば、放射光XRDにより測定することができる。特に、第二実施態様の硫化物固体電解質材料は、上記結晶構造の単相材料であることが好ましい。イオン伝導性を極めて高くすることができるからである。
【0045】
なお、第二実施態様におけるM1元素、M2元素(M2a元素、M2b元素)、M3元素およびその他の事項については、上述した第一実施態様と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0046】
B.電池
次に、本開示の電池について説明する。本開示の電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された電解質層とを含有する電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記電解質層の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質材料を含有することを特徴とするものである。
【0047】
本開示によれば、上述した硫化物固体電解質材料を用いることにより、高出力な電池とすることができる。
【0048】
図4は、本開示の電池の一例を示す概略断面図である。
図4における電池10は、正極活物質を含有する正極活物質層1と、負極活物質を含有する負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された電解質層3と、正極活物質層1の集電を行
う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有するものである。本開示においては、正極活物質層1、負極活物質層2および電解質層3の少なくとも一つが、上記「A.硫化物固体電解質材料」に記載した硫化物固体電解質材料を含有することを大きな特徴とする。
以下、本開示の電池について、構成ごとに説明する。
【0049】
1.電解質層
本開示における電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層である。電解質層は、イオンの伝導を行うことができる層であれば特に限定されるものではないが、固体電解質材料から構成される固体電解質層であることが好ましい。電解液を用いる電池に比べて、安全性の高い電池を得ることができるからである。さらに、本開示においては、固体電解質層が、上述した硫化物固体電解質材料を含有することが好ましい。固体電解質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、例えば10体積%~100体積%の範囲内、中でも50体積%~100体積%の範囲内であることが好ましい。特に、本開示においては、固体電解質層が上記硫化物固体電解質材料のみから構成されていることが好ましい。高出力な電池を得ることができるからである。固体電解質層の厚さは、例えば0.1μm~1000μmの範囲内、中でも0.1μm~300μmの範囲内であることが好ましい。また、固体電解質層の形成方法としては、例えば、固体電解質材料を圧縮成形する方法等を挙げることができる。
【0050】
また、本開示における電解質層は、電解液から構成される層であってもよい。電解液を用いる場合、固体電解質層を用いる場合に比べて安全性をさらに配慮する必要があるが、より高出力な電池を得ることができる。また、この場合は、通常、正極活物質層および負極活物質層の少なくとも一方が、上述した硫化物固体電解質材料を含有することになる。電解液は、通常、リチウム塩および有機溶媒(非水溶媒)を含有する。リチウム塩としては、例えばLiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6等の無機リチウム塩、およびLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiC(CF3SO2)3等の有機リチウム塩等を挙げることができる。上記有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート(BC)等を挙げることができる。
【0051】
2.正極活物質層
本開示における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していてもよい。特に、本開示においては、正極活物質層が固体電解質材料を含有し、その固体電解質材料が、上述した硫化物固体電解質材料であることが好ましい。イオン伝導性の高い正極活物質層を得ることができるからである。正極活物質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、電池の種類によって異なるものであるが、例えば0.1体積%~80体積%の範囲内、中でも1体積%~60体積%の範囲内、特に10体積%~50体積%の範囲内であることが好ましい。また、正極活物質としては、例えばLiCoO2、LiMnO2、Li2NiMn3O8、LiVO2、LiCrO2、LiFePO4、LiCoPO4、LiNiO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等を挙げることができる。
【0052】
本開示における正極活物質層は、さらに導電化材を含有していてもよい。導電化材の添加により、正極活物質層の導電性を向上させることができる。導電化材としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等を挙げることができる。また、正極活物質層は、結着材を含有していてもよい。結着材の種類としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有結着材等を挙げることができる。また、正極活物質層の厚さは、例えば0.1μm~1000μmの範囲内であること
が好ましい。
【0053】
3.負極活物質層
次に、本開示における負極活物質層について説明する。本開示における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つを含有していてもよい。特に、本開示においては、負極活物質層が固体電解質材料を含有し、その固体電解質材料が、上述した硫化物固体電解質材料であることが好ましい。イオン伝導性の高い負極活物質層を得ることができるからである。負極活物質層に含まれる上記硫化物固体電解質材料の割合は、電池の種類によって異なるものであるが、例えば0.1体積%~80体積%の範囲内、中でも1体積%~60体積%の範囲内、特に10体積%~50体積%の範囲内であることが好ましい。また、負極活物質としては、例えば金属活物質およびカーボン活物質を挙げることができる。金属活物質としては、例えばIn、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。なお、負極活物質層に用いられる導電化材および結着材については、上述した正極活物質層における場合と同様である。また、負極活物質層の厚さは、例えば0.1μm~1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0054】
4.その他の構成
本開示の電池は、上述した電解質層、正極活物質層および負極活物質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができ、中でもSUSが好ましい。一方、負極集電体の材料としては、例えばSUS、銅、ニッケルおよびカーボン等を挙げることができ、中でもSUSが好ましい。また、正極集電体および負極集電体の厚さや形状等については、電池の用途等に応じて適宜選択することが好ましい。また、本開示に用いられる電池ケースには、一般的な電池の電池ケースを用いることができる。電池ケースとしては、例えばSUS製電池ケース等を挙げることができる。
【0055】
5.電池
本開示の電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でも二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。本開示の電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。また、本開示の電池の製造方法は、上述した電池を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。例えば、本開示の電池が全固体電池である場合、その製造方法の一例としては、正極活物質層を構成する材料、固体電解質層を構成する材料、および負極活物質層を構成する材料を順次プレスすることにより、発電要素を作製し、この発電要素を電池ケースの内部に収納し、電池ケースをかしめる方法等を挙げることができる。
【0056】
C.硫化物固体電解質材料の製造方法
次に、本開示の硫化物固体電解質材料の製造方法について説明する。本開示の硫化物固体電解質材料の製造方法は、2つの実施態様に大別することができる。そこで、本開示の硫化物固体電解質材料の製造方法について、第一実施態様および第二実施態様に分けて説明する。
【0057】
1.第一実施態様
第一実施態様の硫化物固体電解質材料の製造方法は、「A.硫化物固体電解質材料 1.第一実施態様」に記載した硫化物固体電解質材料の製造方法であって、上記M1元素、上記M2元素、上記M3元素および上記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、上記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、上記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、を有することを特徴とするものである。
【0058】
第一実施態様によれば、イオン伝導性材料合成工程で非晶質化を行い、その後、加熱工程を行うことにより、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相の割合が高い硫化物固体電解質材料を得ることができる。そのため、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料を得ることができる。さらに、原料組成物がO元素を含有することから、イオン伝導性がさらに向上した硫化物固体電解質材料を得ることができる。
【0059】
図5は、第一実施態様の硫化物固体電解質材料の製造方法の一例を示す説明図である。
図5における硫化物固体電解質材料の製造方法では、まず、Li
2S、P
2S
5、GeS
2およびM
3元素の硫化物(例えばTa
2S
5、Nb
2S
5、WS
2等)を混合することにより、原料組成物を作製する。この際、空気中の水分によって原料組成物が劣化することを防止するために、不活性ガス雰囲気下で原料組成物を作製することが好ましい。次に、原料組成物にボールミルを行い、非晶質化したイオン伝導性材料を得る。次に、非晶質化したイオン伝導性材料を加熱し、結晶性を向上させることで、硫化物固体電解質材料を得る。
【0060】
第一実施態様においては、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相の割合が高い硫化物固体電解質材料を得ることができるが、以下、その理由について説明する。第一実施態様においては、従来の合成方法である固相法と異なり、一度、非晶質化したイオン伝導性材料を合成する。これにより、イオン伝導性の高い結晶相A(2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相)が析出しやすい環境になり、その後の加熱工程により、結晶相Aを積極的に析出させることができ、IB/IAの値を、従来不可能であった1.00未満にすることができると考えられる。非晶質化により結晶相Aが析出しやすい環境になる理由は、完全には明らかではないが、メカニカルミリングによりイオン伝導性材料における固溶域が変化し、結晶相Aが析出しにくい環境から析出しやすい環境に変化した可能性が考えられる。
以下、第一実施態様の硫化物固体電解質材料の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0061】
(1)イオン伝導性材料合成工程
まず、第一実施態様におけるイオン伝導性材料合成工程について説明する。第一実施態様におけるイオン伝導性材料合成工程は、上記M1元素、上記M2元素、上記M3元素、および上記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成する工程である。
【0062】
第一実施態様における原料組成物は、M1元素、M2元素、M3元素、およびS元素を含有するものであれば特に限定されるものではない。なお、原料組成物におけるM1元素、M2元素およびM3元素については、上記「A.硫化物固体電解質材料」に記載した事項と同様である。
M1元素を含有する化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、M1の単体およびM1の硫化物を挙げることができる。M1の硫化物としては、例えばLi2S、Na2S、K2S、MgS、CaS、ZnS等を挙げることができる。
M2元素を含有する化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、M2の単体およびM2の硫化物を挙げることができる。M2の硫化物としては、Me2S3(Meは三価の元素であり、例えばAl、B、Ga、In、Sbである)、MeS2(Meは四価の元素であり、例えばGe、Si、Sn、Zr、Ti、Nbである)、Me2S5(Meは五価の元素であり、例えばP、Vである)等を挙げることができる。
M3元素を含有する化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、M3の単体およびM3の硫化物を挙げることができる。M3の硫化物としては、例えばTa2S5、Nb2S5、WS2、(NH4)2WS4、TaS2、NbS2等を挙げることができる。
【0063】
S元素を含有する化合物は、特に限定されるものではなく、単体であってもよく、硫化物であってもよい。硫化物としては、上述したM1元素、M2元素またはM3元素を含有する硫化物を挙げることができる。
【0064】
さらに、原料組成物は、[Li](4-x)[M3元素]y[Ge](1-x)[P]x[S]4(xは0<x<1を満たし、yは0.010≦y≦0.040を満たす)の組成を有することが好ましい。イオン伝導性が高く、且つ水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)においても優れた耐水性を示す硫化物固体電解質材料を得ることができるからである。なお、上述したように、M3元素を有しないLi(4-x)Ge(1-x)PxS4の組成は、Li3PS4およびLi4GeS4の固溶体の組成に該当する。ここで、原料組成物がLi2S、P2S5およびGeS2を含有する場合を考えると、Li3PS4を得るためのLi2SおよびP2S5の割合は、モル基準で、Li2S:P2S5=75:25である。一方、Li4GeS4を得るためのLi2SおよびGeS2の割合は、モル基準で、Li2S:GeS2=66.7:33.3である。そのため、これらの割合を考慮した上で、Li2S、P2S5およびGeS2の使用量を決定することが好ましい。また、xおよびyの好ましい範囲については、上記「A.硫化物固体電解質材料」に記載した内容と同様である。
【0065】
さらに、原料組成物は、[Li](4-x)[M3元素]y[Si](1-x)[P]x[S]4(xは0<x<1を満たし、yは0.010≦y≦0.040を満たす)の組成を有することが好ましい。イオン伝導性が高く、且つ水分濃度が高い環境下(例えば露点-6℃)においても優れた耐水性を示す硫化物固体電解質材料を得ることができるからである。なお、上述したように、M3元素を有しないLi(4-x)Si(1-x)PxS4の組成は、Li3PS4およびLi4SiS4の固溶体の組成に該当する。ここで、原料組成物がLi2S、P2S5およびSiS2を含有する場合を考えると、Li3PS4を得るためのLi2SおよびP2S5の割合は、モル基準で、Li2S:P2S5=75:25である。一方、Li4SiS4を得るためのLi2SおよびSiS2の割合は、モル基準で、Li2S:SiS2=66.7:33.3である。そのため、これらの割合を考慮した上で、Li2S、P2S5およびSiS2の使用量を決定することが好ましい。また、xおよびyの好ましい範囲については、上記「A.硫化物固体電解質材料」に記載した内容と同様である。
【0066】
メカニカルミリングは、試料を、機械的エネルギーを付与しながら粉砕する方法である。第一実施態様においては、原料組成物に対して、機械的エネルギーを付与することで、非晶質化したイオン伝導性材料を合成する。このようなメカニカルミリングとしては、例えば、振動ミル、ボールミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でも振動ミルおよびボールミルが好ましい。
【0067】
振動ミルの条件は、非晶質化したイオン伝導性材料を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。振動ミルの振動振幅は、例えば5mm~15mmの範囲内、中でも6mm~10mmの範囲内であることが好ましい。振動ミルの振動周波数は、例えば500rpm~2000rpmの範囲内、中でも1000rpm~1800rpmの範囲内であることが好ましい。振動ミルの試料の充填率は、例えば1体積%~80体積%の範囲内、中でも5体積%~60体積%の範囲内、特に10体積%~50体積%の範囲内であることが好ましい。また、振動ミルには、振動子(例えばアルミナ製振動子)を用いることが好ましい。
【0068】
ボールミルの条件は、非晶質化したイオン伝導性材料を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。一般的に、回転数が大きいほど、イオン伝導性材料の生成速度は速くなり、処理時間が長いほど、原料組成物からイオン伝導性材料への転化率は高くなる。遊星型ボールミルを行う際の台盤回転数としては、例えば200rpm~500rpmの範囲内、中でも250rpm~400rpmの範囲内であることが好ましい。また、遊星型ボールミルを行う際の処理時間は、例えば1時間~100時間の範囲内、中でも1時間~70時間の範囲内であることが好ましい。
【0069】
なお、第一実施態様においては、2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相が析出しやすい環境となるように、非晶質化したイオン伝導性材料を合成することが好ましい。
【0070】
(2)加熱工程
第一実施態様における加熱工程は、上記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、上記硫化物固体電解質材料を得る工程である。
【0071】
第一実施態様においては、非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、結晶性の向上を図る。この加熱を行うことで、イオン伝導性の高い結晶相A(2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相)を積極的に析出させることができ、IB/IAの値を、従来不可能であった1.00未満にすることができる。
【0072】
第一実施態様における加熱温度は、所望の硫化物固体電解質材料を得ることができる温度であれば特に限定されるものではないが、結晶相A(2θ=29.58°付近のピークを有する結晶相)の結晶化温度以上の温度であることが好ましい。具体的には、上記加熱温度が300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることがさらに好ましく、450℃以上であることが特に好ましい。一方、上記加熱温度は、1000℃以下であることが好ましく、700℃以下であることがより好ましく、650℃以下であることがさらに好ましく、600℃以下であることが特に好ましい。また、加熱時間は、所望の硫化物固体電解質材料が得られるように適宜調整することが好ましい。また、第一実施態様における加熱は、酸化を防止する観点から、不活性ガス雰囲気下または真空中で行うことが好ましい。また、第一実施態様により得られる硫化物固体電解質材料については、上記「A.硫化物固体電解質材料 1.第一実施態様」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0073】
2.第二実施態様
第二実施態様の硫化物固体電解質材料の製造方法は、「A.硫化物固体電解質材料 2.第二実施態様」に記載した硫化物固体電解質材料の製造方法であって、上記M1元素、上記M2a元素、上記M2b元素、上記M3元素および上記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、上記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、上記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、を有することを特徴とするものである。
【0074】
第二実施態様によれば、イオン伝導性材料合成工程で非晶質化を行い、その後、加熱工程を行うことにより、八面体O、四面体T1および四面体T2が所定の結晶構造(三次元構造)を有する硫化物固体電解質材料を得ることができる。そのため、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質材料を得ることができる。
【0075】
第二実施態様におけるイオン伝導性材料合成工程および加熱工程については、基本的に、上述した「C.硫化物固体電解質材料の製造方法 1.第一実施態様」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。所望の硫化物固体電解質材料が得られるように、各種条件を設定することが好ましい。
【0076】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【実施例0077】
以下に実施例を示して本開示をさらに具体的に説明する。
【0078】
[比較例1]
出発原料として、硫化リチウム(Li2S、三津和化学社製)と、五硫化二リン(P2S5、アルドリッチ社製)と、硫化ゲルマニウム(GeS2、高純度化学社製)とを用いた。これらの粉末を、Li2Sを0.3925g、P2S5を0.3027g、GeS2を0.3048gの割合で乳鉢にて混合し、原料組成物を得た。
次に、原料組成物1gをジルコニアボール(10mmφ、18個)とともに、ジルコニア製のポット(45ml)に入れ、ポットを完全に密閉した(アルゴン雰囲気)。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチュ製P7)に取り付け、台盤回転数380rpmで、40時間ボールミル処理することによってメカニカルミリングを行った。これにより、非晶質化したイオン伝導性材料を得た。
【0079】
次に、得られたイオン伝導性材料をアルミニウム製の容器に入れ、Arガスフロー下(80mL/min)で室温から3時間かけて550℃まで昇温し、その後8時間焼成した。これにより、表1に示す組成を有する硫化物固体電解質材料を得た。
【0080】
[実施例1]
出発原料として、硫化リチウム(Li2S、三津和化学社製)と、五硫化二リン(P2S5、アルドリッチ社製)と、硫化ゲルマニウム(GeS2、高純度化学社製)、硫化タンタル(TaS2、高純度化学社製)、硫黄(S、高純度化学社製)を用い、組成が表1に示す組成となるよう、各出発原料の量を調整したこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質材料を得た。
【0081】
[実施例2]
出発原料として、硫化リチウム(Li2S、三津和化学社製)と、五硫化二リン(P2S5、アルドリッチ社製)と、硫化ゲルマニウム(GeS2、高純度化学社製)、硫化ニオブ(NbS2、高純度化学社製))、硫黄(S、高純度化学社製)を用い、組成が表1に示す組成となるよう、各出発原料の量を調整したこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質材料を得た。
【0082】
[実施例3]
出発原料として、硫化リチウム(Li2S、三津和化学社製)と、五硫化二リン(P2S5、アルドリッチ社製)と、硫化ゲルマニウム(GeS2、高純度化学社製)、硫化タングステン(WS2、高純度化学社製))、硫黄(S、高純度化学社製)を用い、組成が表1に示す組成となるよう、各出発原料の量を調整したこと以外は、比較例1と同様にして硫化物固体電解質材料を得た。
【0083】
[評価1]
(X線回折測定)
実施例1~3および比較例1で得られた硫化物固体電解質材料を用いて、X線回折(XRD)測定を行った。XRD測定は、粉末試料に対して、不活性雰囲気下、CuKα線使用の条件で行った。比較例1では単相の硫化物固体電解質材料が得られた。ピークの位置は、2θ=17.38°、20.18°、20.44°、23.56°、23.96°、24.93°、26.96°、29.07°、29.58°、31.71°、32.66°、33.39°であった。すなわち、これらのピークが、イオン伝導性の高い結晶相Aのピークであると考えられる。なお、イオン伝導性の低い結晶相Bのピークである2θ=27.33°±0.50°のピークは確認されなかった。また、実施例1~3は、比較例1と同様の回折パターンを有することが確認された。
【0084】
(X線構造解析)
比較例1で得られた硫化物固体電解質材料の結晶構造をX線構造解析により同定した。XRDで得られた回折図形を基に直接法で晶系・結晶群を決定し、その後、実空間法により結晶構造を同定した。その結果、上述した
図2、
図3のような結晶構造を有することが確認された。すなわち、四面体T
1(GeS
4四面体およびPS
4四面体)と、八面体O(LiS
6八面体)とは稜を共有し、四面体T
2(PS
4四面体)と、八面体O(LiS
6八面体)とは頂点を共有している結晶構造であった。また、上述したように実施例1~3は比較例1と同様の回折パターンを有することから、実施例1~3においても同様の結晶構造が形成されていることが確認された。
【0085】
(H2S発生量の測定)
実施例1~3および比較例1で得られた硫化物固体電解質材料を用いて、露点-6℃環境下でのH2Sの発生量を測定した。まず、露点-6℃のドライエアグローブボックス内に1.5Lのデシケータを入れ、試料を5mg秤量してアルミニウム容器内に入れ、この試料入りのアルミニウム容器をデシケータに入れた。ファンを回した状態でデシケータの蓋を閉めて、試料を露点-6℃環境に1時間曝露させた。その際に発生したH2Sをセンサー(メーカー:ToxiRAEPro、型番:0-100ppm、測定モード:なし)にて測定し、単位比表面積当たりのH2S発生量として算出した。結果を表1に示す。
【0086】
(Liイオン伝導度の測定)
実施例1~3および比較例1で得られた硫化物固体電解質材料を用いて、25℃でのLiイオン伝導度を測定した。まず、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、試料を適量秤量し、ポリエチレンテレフタラート管(PET管、内径10mm、外径30mm、高さ20mm)に入れ、上下から、炭素工具鋼S45Cアンビルからなる粉末成型治具で挟んだ。次に、一軸プレス機(理研精機社製P-6)を用いて、表示圧力6MPa(成型圧力約110MPa)でプレスし、直径10mm、任意の厚さのペレットを成型した。次に、ペレットの両面に、金粉末(ニラコ社製、樹状、粒径約10μm)を13mg~15mgずつ乗せて、均一にペレット表面上に分散させ、表示圧力30MPa(成型圧力約560MPa)で成型した。その後、得られたペレットを、アルゴン雰囲気を維持できる密閉式電気化学セルに入れた。
【0087】
測定には、周波数応答解析装置FRA(Frequency Response Analyzer)として、ソーラトロン社製のインピーダンス・ゲインフェーズアナライザー(solartron 1260)を用い、恒温装置として小型環境試験機(Espec corp, SU-241, -40℃~150℃)を用いた。交流電圧10mV~1000mV、周波数範囲1Hz~10MHz、積算時間0.2秒、温度23℃の条件で、高周波領域から測定を開始した。測定ソフトにはZplotを用い、解析ソフトにはZviewを用いた。得られた結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
表1に示す通り、M1元素、M2元素、M3元素、およびS元素を含有する実施例1~3では、M3元素を含有しない比較例1に比べて、水分濃度が高い環境下(露点-6℃)においても優れた耐水性を示すことが分かる。
【0090】
本実施形態は、以下の態様を含む。
<<1>>
M1元素、M2元素、M3元素、およびS元素を含有し、
前記M1元素は、Li、Na、K、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Liおよび前記Naの少なくとも一方を含み、
前記M2元素は、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Pを少なくとも含み、
前記M3元素は、第3族~第12族の遷移元素から選択される少なくとも一種であり、
CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.58°±0.50°の位置にピークを有し、
CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有しないか、
前記2θ=27.33°±0.50°の位置にピークを有する場合、前記2θ=29.58°±0.50°のピークの回折強度をIAとし、前記2θ=27.33°±0.50°のピークの回折強度をIBとした際に、IB/IAの値が1.00未満である、硫化物固体電解質材料。
<<2>>
M1元素およびS元素から構成される八面体Oと、M2a元素およびS元素から構成される四面体T1と、M2b元素およびM3元素からなる群から選択される少なくとも一種並びにS元素から構成される四面体T2と、を有し、前記四面体T1および前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体T2および前記八面体Oは頂点を共有する結晶構造を主体として含有し、
前記M1元素は、Li、Na、K、Mg、CaおよびZnからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Liおよび前記Naの少なくとも一方を含み、
前記M2a元素および前記M2b元素は、それぞれ独立に、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、ZrおよびVからなる群から選択される少なくとも一種であり、且つ前記Pを少なくとも含み、
前記M3元素は、第3族~第12族の遷移元素から選択される少なくとも一種である、硫化物固体電解質材料。
<<3>>
前記M2元素の含有量に対する前記M3元素の含有量の割合(M3/M2)が0.010~0.040である、<<1>>に記載の硫化物固体電解質材料。
<<4>>
前記M2a元素および前記M2b元素の含有量の総和に対する前記M3元素の含有量の割合(M3/(M2a+M2b))が0.010~0.040である、<<2>>に記載の硫化物固体電解質材料。
<<5>>
前記M3元素は、第5族~第6族の遷移元素から選択される少なくとも一種を含む、<<1>>~<<4>>のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質材料。
<<6>>
前記M3元素は、Ta、NbおよびWからなる群から選択される少なくとも一種を含む、<<5>>に記載の硫化物固体電解質材料。
<<7>>
前記M3元素は、NbおよびWからなる群から選択される少なくとも一種を含む、<<6>>に記載の硫化物固体電解質材料。
<<8>>
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層と、を有する電池であって、
前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記電解質層の少なくとも一つが、<<1>>~<<7>>のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質材料を含有する、電池。
<<9>>
<<1>>、<<3>>または<<5>>~<<8>>のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質材料の製造方法であって、
前記M1元素、前記M2元素、前記M3元素および前記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、
前記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、前記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、
を有する硫化物固体電解質材料の製造方法。
<<10>>
<<2>>、<<4>>または<<5>>~<<8>>のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質材料の製造方法であって、
前記M1元素、前記M2a元素、前記M2b元素、前記M3元素および前記S元素を含有する原料組成物を用いて、メカニカルミリングにより、非晶質化したイオン伝導性材料を合成するイオン伝導性材料合成工程と、
前記非晶質化したイオン伝導性材料を加熱することにより、前記硫化物固体電解質材料を得る加熱工程と、
を有する硫化物固体電解質材料の製造方法。