IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社タチエスの特許一覧

特開2024-7694力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート
<>
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図1
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図2
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図3
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図4
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図5
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図6
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図7
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図8
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図9
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図10
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図11
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図12
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図13
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図14
  • 特開-力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007694
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】力布の固定構造およびこれを備えた車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
B60R21/207
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108936
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聖吾
(72)【発明者】
【氏名】小池 敦
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA07
3D054AA21
3D054DD15
3D054FF17
(57)【要約】
【課題】力布を取り付ける際の作業性を向上させることができ、また、コスト低減にも寄与しうる力布の固定構造およびこれを備えた車両用シートを提供することを目的とする。
【解決手段】エアバッグ装置を備えた車両用シートにおける力布の固定構造1であって、車両用シートのシートフレーム102に固定されるエアバッグモジュール202と、シートフレーム102とともにエアバッグモジュール202を取り囲み、膨張するエアバッグをシート表面のエアバッグ出口106に案内する第1力布20および第2力布20と、第1力布10の第1端部10tに設けられた被係止部15と、第2力布20の第2端部20tに設けられた被固定部25と、剛性を有する部材からなり、第2力布20の被固定部25が固定される固定部42と、第1力布10の被係止部15を引っ掛けて係止させる係止部41と、を有する係止部材40と、を備える、力布の固定構造1である。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグ装置を備えた車両用シートにおける力布の固定構造であって、
前記車両用シートのシートフレームに固定されるエアバッグモジュールと、
前記シートフレームとともに前記エアバッグモジュールを取り囲み、膨張するエアバッグをシート表面のエアバッグ出口に案内する第1力布および第2力布と、
前記第1力布の前記エアバッグ出口側とは反対側の第1端部に設けられた被係止部と、
前記第2力布の前記エアバッグ出口側とは反対側の第2端部に設けられた被固定部と、
剛性を有する部材からなり、前記第2力布の前記被固定部が固定される固定部と、前記第1力布の前記被係止部を引っ掛けて係止させる係止部と、を有する係止部材と、
を備える、力布の固定構造。
【請求項2】
前記係止部材の前記係止部はフック状に形成されたものである、請求項1に記載の力布の固定構造。
【請求項3】
前記係止部は、前記第1力布の前記被係止部を差し込むことができる形状のスリット部によってフック状に形成されている、請求項2に記載に記載の力布の固定構造。
【請求項4】
前記係止部に、前記スリット部に差し込まれた前記被係止部が当該スリット部から抜けるのを抑止する抜け止め部が形成されている、請求項3に記載に記載の力布の固定構造。
【請求項5】
前記係止部に、前記被係止部を前記スリット部へ差し込む際に当該スリット部へと誘導する誘導部が形成されている、請求項3に記載の力布の固定構造。
【請求項6】
前記誘導部は、前記スリット部の入り口から前記被係止部が位置する方向へ突出するように形成されている、請求項5に記載の力布の固定構造。
【請求項7】
前記第1力布の前記被係止部は、当該第1力布の前記第1端部が折り返されループ状に縫製されて構成されている、請求項3に記載の力布の固定構造。
【請求項8】
前記第1力布の前記被係止部を前記係止部材の前記係止部に係止させた状態で前記係止部材を前記シートフレームに固定する固定部材をさらに含む、請求項1に記載の力布の固定構造。
【請求項9】
前記係止部材に、前記固定部材が係止する被固定部が設けられている、請求項8に記載の力布の固定構造。
【請求項10】
前記係止部材は、L字状に折れ曲げられた板金で構成されている、請求項1に記載の力布の固定構造。
【請求項11】
エアバッグ装置を備えた車両用シートにおける力布の固定構造であって、
前記車両用シートのシートフレームに固定されるエアバッグモジュールと、
前記シートフレームとともに前記エアバッグモジュールを取り囲み、膨張するエアバッグをシート表面のエアバッグ出口に案内する第1力布および第2力布と、
前記第1力布の前記エアバッグ出口側とは反対側の第1端部に設けられた剛性を有する差込部材と、
前記第2力布の前記エアバッグ出口側とは反対側の第2端部に設けられた、前記差込部材を差し込み可能な袋状の被差込部と、
を備える、力布の固定構造。
【請求項12】
前記被差込部に前記差込部材を差し込んだ状態で前記第1力布の前記第1端部および前記第2力布の前記第2端部を前記シートフレームに固定する固定部材をさらに備える、請求項11に記載の力布の固定構造。
【請求項13】
前記被差込部は、前記第2力布の前記第2端部の一部を折り返して重なりあった部分の両側を縫合することにより袋状に形成されている、請求項11に記載に記載の力布の固定構造。
【請求項14】
前記差込部材は、剛性を有する芯材を含む、請求項12に記載の力布の固定構造。
【請求項15】
前記芯材に、前記固定部材を通す固定用透孔が設けられている、請求項14に記載の力布の固定構造。
【請求項16】
前記被差込部のうち、当該被差込部に前記芯材を差し込んだ状態で前記固定用透孔と重なる位置に固定用透孔が設けられている、請求項15に記載の力布の固定構造。
【請求項17】
前記被差込部に前記差込部材を差し込んでから当該被差込部を中心に前記第1力布の前記第1端部および前記第2力布の前記第2端部を回転させて巻き取り重ね合わせた状態で前記固定部材により前記シートフレームに固定する構造である、請求項16に記載に記載の力布の固定構造。
【請求項18】
前記第1力布の前記第1端部および前記第2力布の前記第2端部に、回転させて重ね合わせた状態で前記固定用透孔を露出させる開口部が設けられている、請求項17に記載に記載の力布の固定構造。
【請求項19】
前記開口部は、第1力布の前記第1端部および前記第2力布の前記第2端部の長手方向に沿って設けられたスリットで構成されている、請求項18に記載に記載の力布の固定構造。
【請求項20】
前記被差込部に前記差込部材を差し込んだ状態でこれら被差込部と差込部材とを緊締する緊締部材をさらに備える、請求項11に記載に記載の力布の固定構造。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか一項に記載の力布の固定構造を備えた車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力布の固定構造およびこれを備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートにおいて、車両が衝突等した際、エアバッグモジュールのガス発生手段を作動させて乗員の上体とサイドドアとの間にサイドエアバッグを膨張、展開させるサイドエアバッグ装置が利用されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このようなサイドエアバッグ装置はシート内部のドア側もしくは車両中央側の側部に配置されていて、エアバッグモジュールが作動した場合に、内部に収納されているエアバッグが膨張し、シートパッドやトリムカバー(シートカバー)を破ってシート外部へ飛び出すように構成されている。エアバッグモジュールが適切に機能するには、シートの所定部位に設けられているエアバッグ出口からエアバッグが飛び出すことが必要である。そこで、エアバッグがエアバッグ出口106’から確実に飛び出るようにするべく、エアバッグモジュールとエアバッグ出口106’とを繋ぎ、膨張するエアバッグをエアバッグ出口106’に案内する力布10’,20’がシート内部に設けられている(図13図15参照)。力布10’,20’は、典型的にはエアバッグモジュール202’とシートパッド104’との間に配置され、力布10’,20’の端部は、固定部材300’を介してシートフレーム102’に固定される。
【0004】
かかる力布10’,20’を固定するための構造の代表的なものに、袋構造(いわゆる袋タイプ)と板金構造(いわゆる板金タイプ)とがある。袋構造は、2枚の力布10’,20’のそれぞれの端部をシートフレーム102’に固定して袋状にしてからシートパッド104’やエアバッグモジュール202’を取り付けるというもので、部品点数が少なく低コストではあるが、シートパッド104’を押し広げるようにしながら袋状にした力布10’,20’の間にエアバッグモジュール202’を設置するといった場合の作業がかなり煩雑であり、作業性に劣る。この点、板金構造は、先にエアバッグモジュール202’をシートフレーム102’に固定してから力布10’,20’を被せ、力布10’,20’の端部に設けられた板金310’,320’をリベット303’やボルトで固定するというもので、エアバッグモジュール202’の設置という点からすればきわめて作業性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-037261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のごとき利点を有する板金構造は、板金構造自体の重量や板金取付時の作業性といった点においてなお改善の余地が認められる。すなわち、2枚の力布10’,20’の端部それぞれに板金310’,320’を設けた構造とすると重量が嵩みやすく、コスト高となりやすくもある。また、2つの板金310’,320’を片手で押さえながらリベット303’を打つといった実際の取付作業は決して簡単なものではない。
【0007】
そこで、本発明は、力布を取り付ける際の作業性を向上させることができ、また、コスト低減にも寄与しうる力布の固定構造およびこれを備えた車両用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、エアバッグ装置を備えた車両用シートにおける力布の固定構造であって、
車両用シートのシートフレームに固定されるエアバッグモジュールと、
シートフレームとともにエアバッグモジュールを取り囲み、膨張するエアバッグをシート表面のエアバッグ出口に案内する第1力布および第2力布と、
第1力布のエアバッグ出口側とは反対側の第1端部に設けられた被係止部と、
第2力布のエアバッグ出口側とは反対側の第2端部に設けられた被固定部と、
剛性を有する部材からなり、第2力布の被固定部が固定される固定部と、第1力布の被係止部を引っ掛けて係止させる係止部と、を有する係止部材と、
を備える、力布の固定構造である。
【0009】
上記のごとき固定構造によれば、第2力布の第2端部が固定された状態となっている係止部材の係止部に第1力布の第1端部の被係止部を引っ掛けて係止させるという簡単な操作をするだけで力布どうしを係合した状態とすることができる。また、このように力布どうしを係合した状態を維持したままこれらをシートフレームに固定することができる。したがって、2つの板金を片手で押さえながらリベットを打つといった従来の作業に比べて力布を取り付ける際の作業がしやすく、作業性が大きく向上する。しかも、このような構成の固定構造であれば係合部や被係合部に板金が用いられていた従来構造よりも部品点数が少なくて済むから、金属材料を減らしてそのぶん軽量化や低コスト化を図ることが可能でもある。
【0010】
上記のごとき態様の力布の固定構造における係止部材の係止部はフック状に形成されたものであってもよい。
【0011】
上記のごとき態様の力布の固定構造における係止部は、第1力布の被係止部を差し込むことができる形状のスリット部によってフック状に形成されていてもよい。
【0012】
上記のごとき態様の力布の固定構造における係止部に、スリット部に差し込まれた被係止部が当該スリット部から抜けるのを抑止する抜け止め部が形成されていてもよい。
【0013】
上記のごとき態様の力布の固定構造における係止部に、被係止部をスリット部へ差し込む際に当該スリット部へと誘導する誘導部が形成されていてもよい。
【0014】
上記のごとき態様の力布の固定構造における誘導部は、スリット部の入り口から被係止部が位置する方向へ突出するように形成されていてもよい。
【0015】
上記のごとき態様の力布の固定構造において、第1力布の被係止部は、当該第1力布の第1端部が折り返されループ状に縫製されて構成されていてもよい。
【0016】
上記のごとき態様の力布の固定構造は、第1力布の被係止部を係止部材の係止部に係止させた状態で係止部材をシートフレームに固定する固定部材をさらに含むものであってもよい。
【0017】
上記のごとき態様の力布の固定構造における係止部材に、固定部材が係止する被固定部が設けられていてもよい。
【0018】
上記のごとき態様の力布の固定構造における係止部材は、L字状に折れ曲げられた板金で構成されていてもよい。
【0019】
本発明の別の一態様は、エアバッグ装置を備えた車両用シートにおける力布の固定構造であって、
車両用シートのシートフレームに固定されるエアバッグモジュールと、
シートフレームとともにエアバッグモジュールを取り囲み、膨張するエアバッグをシート表面のエアバッグ出口に案内する第1力布および第2力布と、
第1力布のエアバッグ出口側とは反対側の第1端部に設けられた剛性を有する差込部材と、
第2力布のエアバッグ出口側とは反対側の第2端部に設けられた、差込部材を差し込み可能な袋状の被差込部と、
を備える、力布の固定構造である。
【0020】
上記のごとき固定構造によれば、第1力布の第1端部に設けられた剛性を有する差込部材を第2力布の第2端部の被差込部に差し込み力布どうしを係合した状態としてからこれらをシートフレームに固定することができる。したがって、2つの板金を片手で押さえながらリベットを打つといった従来の作業に比べて力布を取り付ける際の作業がしやすく、作業性が大きく向上する。しかも、このような構成の固定構造であれば係合部や被係合部に板金が用いられていた従来構造よりも部品点数が少なくて済むから、金属材料を減らしてそのぶん軽量化や低コスト化を図ることが可能でもある。
【0021】
上記のごとき態様の力布の固定構造は、被差込部に差込部材を差し込んだ状態で第1力布の第1端部および第2力布の第2端部をシートフレームに固定する固定部材をさらに備えていてもよい。
【0022】
上記のごとき態様の力布の固定構造における被差込部は、第2力布の第2端部の一部を折り返して重なりあった部分の両側を縫合することにより袋状に形成されていてもよい。
【0023】
上記のごとき態様の力布の固定構造における差込部材は、剛性を有する芯材を含むものであってもよい。
【0024】
上記のごとき態様の力布の固定構造における芯材に、固定部材を通す固定用透孔が設けられていてもよい。
【0025】
上記のごとき態様の力布の固定構造における被差込部のうち、当該被差込部に芯材を差し込んだ状態で固定用透孔と重なる位置に固定用透孔が設けられていてもよい。
【0026】
上記のごとき態様の力布の固定構造は、被差込部に差込部材を差し込んでから当該被差込部を中心に第1力布の第1端部および第2力布の第2端部を回転させて巻き取り重ね合わせた状態で固定部材によりシートフレームに固定する構造であってもよい。
【0027】
上記のごとき態様の力布の固定構造において、第1力布の第1端部および第2力布の第2端部に、回転させて重ね合わせた状態で固定用透孔を露出させる開口部が設けられていてもよい。
【0028】
上記のごとき態様の力布の固定構造において、開口部は、第1力布の第1端部および第2力布の第2端部の長手方向に沿って設けられたスリットで構成されていてもよい。
【0029】
上記のごとき態様の力布の固定構造は、被差込部に差込部材を差し込んだ状態でこれら被差込部と差込部材とを緊締する緊締部材をさらに備えていてもよい。
【0030】
本発明の一態様である車両用シートは、上記のごとき力布の固定構造を備えたものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、力布を取り付ける際の作業性を向上させることができ、また、コスト低減にも寄与しうる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】サイドエアバッグ装置を搭載した車両用シートの一例を示す斜視図である。
図2】本発明の第1の実施形態における力布の固定構造の一例を示す平面図である。
図3図2中において破線で丸く囲む部分を拡大して示す図である。
図4】第1力布と第2力布および係止部材の一例を示す図である。
図5】係止部材のスリット部に第1力布の被係止部を差し込む際の様子を示す図である。
図6】リベットでシートフレームに固定された係止部材を示す図である。
図7】車両用シートの内部における力布の固定構造の一例を示す図である。
図8】本発明の第2の実施形態における第1力布と第2力布を示す図である。
図9】第2力布の被差込部に第1力布の差込部材を差し込む様子を示す図である。
図10】第2力布の被差込部に第1力布の差込部材を差し込んだ状態を示す図である。
図11】第2力布の被差込部に第1力布の差込部材を差し込んだ状態でこれら被差込部と差込部材とを緊締部材で緊締する様子を示す図である。
図12】第2力布の被差込部に第1力布の差込部材を差し込んでから当該被差込部を中心に第1力布の第1端部と第2力布の第2端部を回転させて巻き取り重ね合わせた状態を示す図である。
図13】従来の力布の固定構造の一例を参考として示す平面図である。
図14】従来の力布の一例を参考として示す図である。
図15】車両用シートの内部における従来の力布の固定構造の一例を参考として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する(図1図12参照)。
【0034】
本発明に係る力布の固定構造1は、エアバッグ装置200を備えた車両用シート100において力布を当該車両用シート100内に固定するための構造である(図1図7等参照)。以下では、まず、エアバッグ装置200を備えた車両用シート100について説明し、その後、力布の固定構造1について説明する。
【0035】
<エアバッグ装置を備えた車両用シート>
車両用シート100は、例えば自動車等の車両に設置されるシートであり、着座した乗員の臀部や大腿部を支持するシートクッション120と、乗員の腰部や背部を支持するシートバック130と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト140と、エアバッグモジュール202とを備える(図1参照)。
【0036】
シートバック130は、当該シートバック130の骨格を形成するシートフレーム102を内蔵している(図7等参照)。特に詳しく示してはいないが、シートフレーム102は、シート幅方向に間隔をあけて配置されシート上下方向に延びる一対のバックサイドフレームと、バックサイドフレームの上端部どうしを連結するアッパーフレーム(図示省略)とを含む構成であってもよい。本実施形態では、これらのうちバックサイドフレームの部分に符号102を付した形でシートフレームを図示している(図7参照)。シートフレーム102は、ウレタンフォーム等の比較的軟質な樹脂発泡材からなるシートパッド104によって覆われ、さらに皮革、織布、不織布等の表皮材からなるトリムカバー108によって覆われている。
【0037】
エアバッグモジュール202は、シートフレーム102のバックサイドフレームに固定された状態でシートパッド104およびトリムカバー108によって覆われ、シートバック130内に内蔵されている(図7参照)。本実施形態のエアバッグモジュール202は、エアバッグ204(図1参照)と、エアバッグ204を膨張させるインフレーター206とを有する。 エアバッグモジュール202が作動した場合、エアバッグ204は、シートバック130およびヘッドレスト140の側方に展開し、車両用シート100に着座した乗員の衝突(例えば、当該車両用シート100に隣設されている他のシートに着座した同乗者との衝突、あるいは当該車両のドア等との衝突)を防止する。
【0038】
トリムカバー108のうちエアバッグ出口106となる部分には、容易に破断する破断部109が設けられている(図2図3等参照)。破断部109は、複数の表皮材が、エアバッグモジュール202の作動時に容易に破断する状態で縫合された部分で構成されている。シートパッド104には、エアバッグモジュール202から破断部109に通じるスリット105が設けられている(図7参照)。
【0039】
なお、特に図示してはいないが、車両には、当該車両の衝突を検知する加速度センサと、加速度センサから出力される信号に基づいてインフレーター206の作動の要否を判断するECU(Electronic Control Unit)とが搭載されている。ECUから所定の信号が送信されるとインフレーター206が作動してガスを発生させ、エアバッグ204を膨張させる。膨張したエアバッグ204は、スリット105を通して破断部109に達し、膨張圧により当該破断部109を破断させてシートバック130の外部に飛び出す。
【0040】
車両用シート100は、膨張するエアバッグ204を破断部109に案内する力布を備える。本実施形態の車両用シート100は、力布として、第1力布10および第2力布20を備えている(図2図3等参照)。これら第1力布10および第2力布20は伸縮性に乏しい材料、例えばポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維を用いた織布、不織布などで構成されている。第1力布10と第2力布20それぞれのエアバッグ出口106側の端部10a、20aは、トリムカバー108を形成する表皮材と破断部109にて共縫いされており、スリット105を通してエアバッグモジュール202まで引き込まれている(図2図3図7参照)。エアバッグモジュール202まで引き込まれた第1力布10と第2力布20は、シートフレーム102ごとエアバッグモジュール202を取り囲むように、当該エアバッグモジュール202の両側に分岐する(図7参照)。これら第1力布10と第2力布20それぞれのエアバッグ出口106側とは反対側の端部(本明細書ではそれぞれを第1端部、第2端部といい、符号10t、20tで示す)は、力布の固定構造1によってシートフレーム102に固定される。
【0041】
<力布の固定構造(第1の実施形態)>
本実施形態における力布の固定構造1は、エアバッグモジュール202、第1力布10および第2力布20、第1力布10の第1端部10tに設けられた被係止部15、第2力布20の第2端部20tに設けられた被固定部25、フック部材(係止部材)40等で構成されている(図4図7等参照)。
【0042】
フック部材40は、第1力布10の第1端部10tと第2力布20の第2端部20tとを簡単な操作で係止させ、かつ、係止させた状態を維持するように構成された、剛性を備える部材である。一例として、本実施形態では、板金からなり、シートフレーム102に沿ってL字状に折れ曲げられた形状のフック部材40を採用している(図2参照)。このフック部材40には、係止部41、固定部42、被固定部45が設けられている(図4図6参照)。
【0043】
係止部41は、第1力布10の第1端部10tに設けられた被係止部15を係止させるように設けられている。本実施形態では、フック部材40に、第1力布10の被係止部15を差し込むことができる形状のスリット部41sを設け、このスリット部41sにより、フック部材40の一部をフック状の係止部41として機能させている(図5図6参照)。このようにフック状に形成された係止部41に対しては、第1力布10の被係止部15を引っ掛け、スリット部が41sに向け滑らせるようにして係止させることが可能である。また、係止部41には抜け止め部41nと誘導部41gがさらに設けられている。抜け止め部41nは、スリット部41sに差し込まれた被係止部15が当該スリット部41sから抜けるのを抑止するものであり、例えば、スリット部41sの一部を狭めるように係止部41からスリット部41sに向けて突出した丸みを帯びた部分で構成される(図5図6参照)。誘導部41gは、第1力布10の被係止部15をスリット部41sへと誘導することにより、当該被係止部15wをスリット部41sに差し込む作業を行いやすくするように設けられている。例えば本実施形態では、スリット部41sの入り口から外側(被係止部15が位置する方向)へ突出して段差が形成されるように係止部41に形成された突出部分を誘導部41gとして機能させている(図5参照)。
【0044】
固定部42は、第2力布20の被固定部25が固定される部分である。本実施形態ではとくに詳しい図示はしていないが、例えば、第2力布20の第2端部20tを通過させるスリット状の縦孔を固定部42として機能させている(図2参照)。スリット状の縦孔に通された第2力布20は折り返され、固定糸24で縫合されてループ状の被固定部25が形成されている。
【0045】
被固定部45は、フック部材40をシートフレーム102に固定する際にリベット30などの固定部材を係止させるために設けられた部分である。本実施形態ではリベット30を通すための丸い透孔を被固定部45として設けているが形状は特に限定されないし、透孔以外の態様(たとえば切り欠き、等)であってもよい。本実施形態のフック部材40には被固定部45として2つの透孔が設けられていて(図5参照)、それぞれの透孔に通したリベット30でシートフレーム102に取り付けられたフック部材40がより強固に固定され、回りづらい(図6参照)。また、リベット30を用いてフック部材40をシートフレーム102に所定の姿勢で固定することで、係止部41から第1力布10の被係止部15が外れにくい状態とすることができる(図6参照)。
【0046】
第1力布10の第1端部10tの被係止部15は、フック部材40の係止部41に引っ掛けられて係止した状態となるように形成されている。本実施形態では、第1力布10の第1端部10tを折り返し、固定糸14で縫合して形成したループ状の縫製部分を被係止部15として機能させている(図2図4図5等参照)。
【0047】
第2力布20の第2端部20tの被固定部25は、フック部材40の固定部42に固定されている。上記のごとく、本実施形態では、フック部材40のスリット状の縦孔(図示省略)に第2力布20を通して折り返し、固定糸24で縫合してループ状の被固定部25を形成している(図2参照)。
【0048】
上記のごとく構成された力布の固定構造1によれば、第2力布20の第2端部20tがあらかじめ固定された状態となっているフック部材40の係止部41に第1力布10の第1端部10tの被係止部15の一部を引っ掛け(図5参照)、滑らせるようにスリット部41sに差し込んで係止させるという簡単な操作をするだけで力布どうしを係合した状態とすることができる(図6等参照)。また、このように力布どうしを係合した状態を維持したままリベット30等の固定部材を用いてフック部材40をシートフレーム102に固定することができることから、2つの板金を片手で押さえながらリベットを打つといった従来の作業に比べて力布を取り付ける際の作業がしやすく、作業性に優れる。しかも、このような構成の固定構造1であれば係合部や被係合部に板金が用いられていた従来構造よりも部品点数が少なくて済むから、金属材料を減らしてそのぶん軽量化や低コスト化を図ることが可能でもある。
【0049】
<力布の固定構造(第2の実施形態)>
本実施形態における力布の固定構造1は、エアバッグモジュール202、第1力布10および第2力布20、第1力布10の第1端部10tに設けられた差込部材17、第2力布20の第2端部20tに設けられた被差込部27等で構成されている(図4図7等参照)。
【0050】
差込部材17は、第1力布10のエアバッグ出口側とは反対側の第1端部10tに設けられた剛性を有する部材である。本実施形態では、第1力布10の第1端部10tに板金からなる芯材を取り付け、当該芯材を差込部材17として用いている(図8参照)。芯材の取り付け手法は特に限定されない。本実施形態では、第1力布10の第1端部10tを折り返し、板金を挟み込んだ状態でその周囲を固定糸19で縫合することにより当該板金を取り付けている(図9等参照)。また、差込部材(本実施形態では、芯材)17には、リベット30等の固定部材を通すための固定用透孔17hが設けられている(図8図9参照)。
【0051】
被差込部27は、第2力布20のエアバッグ出口側とは反対側の第2端部20tに、上記の差込部材17を差し込むことができるように袋状に形成されている(図8等参照)。本実施形態の固定構造1においては、第2力布20の第2端部20tの一部を折り返し、重なりあった部分の両側(両縁)を縫合糸29で縫合することによりポケット状の被差込部27を形成している(図9等参照)。また、被差込部27のうち、うち、当該被差込部27に差込部材(本実施形態では、芯材)17を差し込んだ状態で固定用透孔17hと重なる位置には固定用透孔27hが設けられている(図9図10参照)。
【0052】
上記のごとき固定構造1によれば、第1力布10の差込部材17を折り返した状態とし、第2力布20の被差込部27に差し込むだけで第1力布10と第2力布20とを係合させた状態とすることができる(図9等参照)。また、重なり合った固定用透孔17hと固定用透孔27hにリベット30を通し、当該リベット30をシートフレーム102に打ち込めば、これら第1力布10と第2力布20を係合させた状態のままシートフレーム102に固定することができる(図10参照)。
【0053】
また、上記のごとき固定構造1において、被差込部27に差込部材17を差し込んだ状態でこれら被差込部27と差込部材17とを緊締部材50で緊締してもよい(図11参照)。これらを緊締部材50で緊締することで、第1力布10と第2力布20とをより強固に係合した状態とし、被差込部27から差込部材17が脱落するのを抑止することが可能なる。これは、エアバッグ装置200が作動した際の、第1力布10と第2力布20との係合部分に作用する張力に対抗するという観点からすればより好ましい構成であるということができる。緊締締材50としては、例えば、第2力布20にループ状の紐を追加し、第1力布10と第2力布20を係合させた状態で当該紐を差込部材(本実施形態では、芯材)17に通すようにしたものを用いてもよい(図11参照)。
【0054】
また、上記のごとき固定構造1において、被差込部27に差込部材17を差し込んでから当該被差込部27を中心に第1力布10の第1端部10tおよび第2力布20の第2端部20tを回転させて巻き取り、重ね合わせた状態(巻回した状態)としてからリベット30でシートフレーム102に固定することしてもよい(図10図12参照)。このように第1力布10の第1端部10tおよび第2力布20の第2端部20tを回転させて巻き取るようにした場合、両者の係合力を高めることができ、第1力布10と第2力布20により大きな張力を作用させることもできる。このように両者を回転させ巻き取るように巻回してからリベット30で固定する固定構造1とする場合には、第1力布10の第1端部10tおよび第2力布20の第2端部20tに、回転させて重ね合わせた状態で固定用透孔17h,27hを露出させる開口部が設けられていてもよい。本実施形態では、第1力布10の第1端部10tと第2力布20の第2端部20tのそれぞれに、長手方向に沿って延びるスリット18,28を設けている(図8図10参照)。第1力布10の第1端部10tおよび第2力布20の第2端部20tを回転させて重ね合わせたとき、これらスリット18,28があることで第1力布10、第2力布20は固定用透孔17h,27hに干渉することなく露出させた状態とする(図10等参照)。
【0055】
なお、本実施形態ではリベット(固定部材)30を用いて第1力布10の第1端部10tおよび第2力布20の第2端部20tをシートフレーム102に固定する形態を説明したがこれは好適な一例にすぎない。特に図示してはいないが、例えば、第1力布10(の第1端部10t)と第2力布20(の第2端部20t)がそれぞれシートフレーム102の別の部分に取り付けられる構造としたり、シートフレーム102の一部をフック状に切り欠いておき、第1力布10と第2力布20に設けた袋状の被差込部のごとき部分をこの切り欠き部分に引っ掛ける構造としたりすることで、リベット等を用いることなく第1力布10と第2力布20をシートフレーム102に固定するようにしてもよい。
【0056】
本実施形態の固定構造1によれば、第1力布10の第1端部10tに設けられた剛性を有する差込部材17を第2力布20の第2端部20tの被差込部27に差し込み力布どうしを係合した状態としてからこれらをシートフレーム102に固定することができる(図10等参照)。したがって、2つの板金を片手で押さえながらリベットを打つといった従来の作業に比べて力布を取り付ける際の作業がしやすく、作業性が大きく向上する。しかも、このような構成の固定構造1であれば係合部や被係合部に板金が用いられていた従来構造よりも部品点数が少なくて済むし、芯材に用いる金属材料の大きさも小さくて済むから、金属材料を減らしてそのぶん軽量化や低コスト化を図ることが可能でもある。
【0057】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、エアバッグ装置を備えた車両用シートにおける力布の固定構造に適用して好適である。
【符号の説明】
【0059】
1…力布の固定構造
10…第1力布(力布)
10a…第1力布のエアバッグ出口側の端部
10t…第1端部(第1力布のエアバッグ出口側とは反対側の端部)
14…固定糸
15…被係止部
17…芯材(差込部材)
17h…固定用透孔
18…スリット(開口部)
19…固定糸
20…第2力布(力布)
20a…第2力布のエアバッグ出口側の端部
20t…第2端部(第2力布のエアバッグ出口側とは反対側の端部)
24…固定糸
25…被固定部
27…ポケット(被差込部)
27h…固定用透孔
28…スリット(開口部)
29…縫合糸
30…リベット(固定部材)
40…フック部材(係止部材)
41…係止部
41g…誘導部
41n…抜け止め部
41s…スリット部
42…固定部
45…被固定部
50…緊締部材
100…車両用シート
102,102’…シートフレーム
104…シートパッド
105…スリット
106,106’…エアバッグ出口
108…トリムカバー
109…破断部
120…シートクッション
130…シートバック
140…ヘッドレスト
200…エアバッグ装置
202,202’…エアバッグモジュール
204…エアバッグ
206…インフレーター
300’…固定部材
303’…リベット
310’…板金
320’…板金
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15