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特開2024-76977異常検知装置、異常検知方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076977
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】異常検知装置、異常検知方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
G05B23/02 302Z
G05B23/02 301W
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191697
(22)【出願日】2023-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2022188535
(32)【優先日】2022-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】村上 賢哉
(72)【発明者】
【氏名】吉見 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】徳増 匠
(72)【発明者】
【氏名】高橋 貴範
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA02
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF12
3C223FF24
3C223FF42
3C223GG01
3C223HH04
(57)【要約】
【課題】正常状態が遷移する対象の異常検知を実現する技術を提供すること。
【解決手段】本開示の一態様による異常検知装置は、対象の状態を表すデータを取得するように構成されている取得部と、前記対象の正常状態をモデル化した正常モデルに基づいて、前記データが表す状態の異常度合いを示す異常指標値を算出するように構成されている異常指標算出部と、を有し、前記異常指標算出部は、前記対象の正常状態が遷移した場合、遷移前の正常状態をモデル化した正常モデルである第1の正常モデルと、遷移後の正常状態をモデル化した正常モデルである第2の正常モデルとに基づいて、前記遷移期間中の正常領域として定義された領域を示す正常遷移領域内に前記データが含まれる場合は前記異常指標値を低く、前記正常遷移領域内に前記データが含まれない場合は前記異常指標値を高く算出するように構成されている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の状態を表すデータを取得するように構成されている取得部と、
前記対象の正常状態をモデル化した正常モデルに基づいて、前記データが表す状態の異常度合いを示す異常指標値を算出するように構成されている異常指標算出部と、を有し、
前記異常指標算出部は、
前記対象の正常状態が遷移した場合、遷移前の正常状態をモデル化した正常モデルである第1の正常モデルと、遷移後の正常状態をモデル化した正常モデルである第2の正常モデルとに基づいて、前記遷移期間中の正常領域として定義された領域を示す正常遷移領域内に前記データが含まれる場合は前記異常指標値を低く、前記正常遷移領域内に前記データが含まれない場合は前記異常指標値を高く算出するように構成されている、異常検知装置。
【請求項2】
前記正常遷移領域は、
前記第1の正常モデルの作成に用いられた第1の正常データ集合が表す第1の領域の代表点と、前記第2の正常モデルの作成に用いられた第2の正常データ集合が表す第2の領域の代表点とを結ぶ線分を中心軸として定義された領域である、請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記正常遷移領域は、
前記中心軸を持つ円柱又は超円柱内の領域である、請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記正常遷移領域は、
前記中心軸を持ち、かつ、互いに底面を共有する2つの円錐又は超円錐内の領域である、請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項5】
前記正常遷移領域は、
前記中心軸を持つ立方体又は超立方体内の領域である、請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項6】
前記第1の領域の代表点は、前記第1の正常データ集合に含まれる正常データの平均値、中央値、又は最頻値のいずれかであり、
前記第2の領域の代表点は、前記第2の正常データ集合に含まれる正常データの平均値、中央値、又は最頻値のいずれかである、請求項2乃至5の何れか一項に記載の異常検知装置。
【請求項7】
前記正常遷移領域は、
過去の前記遷移期間中における前記データを用いて前記遷移期間に含まれる各時間区分で前記データが含まれる領域を定義したときに、前記領域の和集合で表される領域である、請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項8】
前記正常遷移領域は、
前記第1の領域に外接し、かつ、前記線分上で前記線分の中点よりも前記第2の領域の代表点側に頂点を持つ第1の円錐領域と、第2の領域に外接し、かつ、前記線分上で前記中点よりも前記第1の領域の代表点側に頂点を持つ第2の円錐領域との和集合で表される領域である、請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項9】
前記正常遷移領域は、
前記第1の領域と前記第2の領域とに外接する一葉双曲面と、前記一葉双曲面との外接点における前記第1の領域の断面と、前記一葉双曲面との外接点における前記第2の領域の断面とで定義される領域である、請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項10】
対象の状態を表すデータを取得する取得手順と、
前記対象の正常状態をモデル化した正常モデルに基づいて、前記データが表す状態の異常度合いを示す異常指標値を算出する異常指標算出手順と、をコンピュータが実行し、
前記異常指標算出手順は、
前記対象の正常状態が遷移した場合、遷移前の正常状態をモデル化した正常モデルである第1の正常モデルと、遷移後の正常状態をモデル化した正常モデルである第2の正常モデルとに基づいて、前記遷移期間中の正常領域として定義された領域を示す正常遷移領域内に前記データが含まれる場合は前記異常指標値を低く、前記正常遷移領域内に前記データが含まれない場合は前記異常指標値を高く算出する、異常検知方法。
【請求項11】
対象の状態を表すデータを取得する取得手順と、
前記対象の正常状態をモデル化した正常モデルに基づいて、前記データが表す状態の異常度合いを示す異常指標値を算出する異常指標算出手順と、をコンピュータに実行させ、
前記異常指標算出手順は、
前記対象の正常状態が遷移した場合、遷移前の正常状態をモデル化した正常モデルである第1の正常モデルと、遷移後の正常状態をモデル化した正常モデルである第2の正常モデルとに基づいて、前記遷移期間中の正常領域として定義された領域を示す正常遷移領域内に前記データが含まれる場合は前記異常指標値を低く、前記正常遷移領域内に前記データが含まれない場合は前記異常指標値を高く算出する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常検知装置、異常検知方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種プラント(例えば、石油化学プラント、発電プラント、鉄鋼プラント、食品プラント等)や各種設備、機器、装置等を対象として、その対象の監視及び制御のための異常検知技術が従来から知られている。例えば、特許文献1には、運転データが分類されるカテゴリの基準点と現在の運転データとを比較して、現在の運転データの異常度を計算する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-149259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来では、対象の正常状態が遷移する場合、遷移期間中は正常な運転データであっても異常と判定されてしまい、異常検知を行うことができなかった。
【0005】
本開示は、上記の点に鑑みてなされたもので、正常状態が遷移する対象の異常検知を実現する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様による異常検知装置は、対象の状態を表すデータを取得するように構成されている取得部と、前記対象の正常状態をモデル化した正常モデルに基づいて、前記データが表す状態の異常度合いを示す異常指標値を算出するように構成されている異常指標算出部と、を有し、前記異常指標算出部は、前記対象の正常状態が遷移した場合、遷移前の正常状態をモデル化した正常モデルである第1の正常モデルと、遷移後の正常状態をモデル化した正常モデルである第2の正常モデルとに基づいて、前記遷移期間中の正常領域として定義された領域を示す正常遷移領域内に前記データが含まれる場合は前記異常指標値を低く、前記正常遷移領域内に前記データが含まれない場合は前記異常指標値を高く算出するように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
正常状態が遷移する対象の異常検知を実現する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】正常状態の遷移期間とその遷移期間における異常指標値の一例を説明するための図である。
図2】正常状態の遷移期間におけるサンプルデータの一例を説明するための図である。
図3】本実施形態に係る異常検知装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図4】本実施形態に係る異常検知装置の機能構成の一例を示す図である。
図5】本実施形態に係るモデル作成処理の一例を示すフローチャートである。
図6】本実施形態に係る異常検知処理の一例を示すフローチャートである。
図7】切替前後の正常モデルと遷移期間における正常遷移領域の一例を説明するための図(その1)である。
図8】切替前後の正常モデルと遷移期間における正常遷移領域の一例を説明するための図(その2)である。
図9】相互に切替可能な複数の正常モデルと各遷移期間における正常遷移領域の一例を説明するための図である。
図10】正常状態の遷移期間におけるサンプルデータの他の例を説明するための図(その1)である。
図11】切替前後の正常モデルと遷移期間における正常遷移領域の一例を説明するための図(その3)である。
図12】正常状態の遷移期間におけるサンプルデータの他の例を説明するための図(その2)である。
図13】切替前後の正常モデルと遷移期間における正常遷移領域の一例を説明するための図(その4)である。
図14】切替前後の正常モデルと遷移期間における正常遷移領域の一例を説明するための図(その5)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。以下の実施形態では、正常状態が遷移するプラントや設備、機器、装置等を対象として、その対象の異常検知を実現する異常検知装置10について説明する。ここで、正常状態が遷移するとは、何等かの要因によって対象の正常状態が変化することをいう。例えば、発電プラント等では、季節変動や気候変動等の要因によって正常状態が変化し得る。また、例えば、食品プラントや化学プラント等では、製造又は生産対象の製品・食品の切替等によって正常状態が変化し得る。その他、例えば、プラントの動作モードによって正常状態が変化し得ることもある。なお、動作モードとはプラントをどのように動作させるかを表す動作方法のことであり、例えば、蒸気ボイラーが含まれるプラントを想定した場合、蒸気ボイラー内の圧力が低いときの動作モード、蒸気ボイラー内の圧力が高いときの動作モード等が存在し得る。
【0010】
本実施形態に係る異常検知装置10には、各正常状態における対象の運転データ(以下、「サンプルデータ」ともいう。)から各正常モデルを作成する「モデル作成処理」と、対象の現在のサンプルデータと正常モデルから対象の異常有無を判定する「異常検知処理」とを実行する。一般に、モデル作成処理はオフライン、異常検知処理はオンラインで実行されるが、これに限られるものではなく、例えば、モデル作成処理は、オンライン中に異常検知処理のバックグラウンドで実行されてもよい。
【0011】
なお、対象には各種センサが設置されており、これらのセンサによって当該対象の状態を表す物理量が計測され、サンプルデータはそれらの物理量の計測値で構成される。サンプルデータを構成する各計測値が表す物理量又はその物理量の計測値が格納される変数は「プロセス変数」又は「状態変数」とも呼ばれる。以下では、サンプルデータを構成する計測値が表す物理量又はその物理量の計測値が格納される変数を「状態変数」と呼ぶことにする。状態変数としては様々なものが挙げられるが、例えば、温度、圧力、流量等が挙げられる。
【0012】
以下、サンプルデータを構成する状態変数の数をNとして各状態変数をx(1≦n≦N)と表し、サンプルデータを縦ベクトルで表現してx=(x,・・・,xΤと表す。また、サンプルデータxが得られた時刻tを明示する場合は、x(t)=(x(t),・・・,x(t))Τと表す。ここで、Τは転置を表す記号である。
【0013】
<正常状態の遷移期間とその遷移期間における異常指標値>
一般に、対象が或る状態であるときにその状態が正常であるか否か(言い換えれば、異常であるか否か)は、当該状態に対応する正常モデルによって判定される。ここで、正常モデルは、対象の正常状態をモデル化したデータのことであり、対象が正常状態であるときのサンプルデータから作成される。以下、正常モデルとしては、主成分分析(PCA:Principal Component Analysis)を利用した多変量統計的プロセス管理(MSPC:Multivariate Statistical Process Control)の手法によって作成されたモデルを想定する(参考文献1)。なお、この手法によって作成された正常モデルは「PCAモデル」等と呼ばれることもある。
【0014】
ただし、多変量統計的プロセス管理の手法によって正常モデルを作成することは一例であって、本実施形態は、多変量統計的プロセス管理以外の手法によって作成された正常モデルに対しても同様に適用することが可能である。
【0015】
例えば、図1に示すように、サンプルデータxの或る状態変数xに関して、時刻t=0~t=Tの間は比較的低い値が正常であり、時刻t=T~t=Tの間は比較的高い値が正常であるものとする。すなわち、時刻t=Tで対象の正常状態が他の正常状態に遷移しているものとする。この場合、遷移前の正常状態をモデル化した正常モデルMを、遷移後の正常状態をモデル化した正常モデルMに切り替える必要がある。
【0016】
上記の切替前の時刻t=0~t=Tでは正常モデルMを用いてQ統計量等といった異常度合いを表す異常指標の値(以下、「異常指標値」ともいう。)が算出され、この異常指標値と予め設定された閾値thとの比較によって異常判定が行われる。一方で、切替後の時刻t=T~t=Tでは正常モデルMを用いて異常指標値が算出され、この異常指標値と予め設定された閾値thとの比較によって異常判定が行われる。これに対して、時刻t=T~t=Tの間(つまり、正常状態の遷移期間)では正常モデルが存在しないため、異常判定を行うことができない。
【0017】
仮に、正常状態の遷移期間t=T~t=Tの間の異常指標値を正常モデルM又は正常モデルMのいずれかを用いて算出したとしても、当該遷移期間t=T~t=Tでは対象が正常であっても異常と判定されてしまう(つまり、誤検知が発生する。)。すなわち、例えば、図1に示すように、正常モデルMを用いて符号1100で示す異常指標値を算出した場合、仮に対象が正常であっても遷移期間では閾値th以上となり、異常と判定されてしまう。同様に、正常モデルMを用いて符号1200で示す異常指標値を算出した場合、仮に対象が正常であっても遷移期間では閾値th以上となり、異常と判定されてしまう。
【0018】
このように、対象の正常状態が他の正常状態に遷移した場合、その遷移期間では仮に対象が正常であっても異常と判定されてしまう。そこで、以下では、この遷移期間でも正しく異常判定を行って誤検知を防止することを考える。
【0019】
なお、遷移期間中は異常指標値を算出しないことで異常の誤検知は防止できると考えられるが、一般に、遷移期間の長さは不明又は予測が困難であることが多いため、遷移期間中は異常指標値を算出しないようにすることは困難である。
【0020】
<正常状態の遷移期間におけるサンプルデータ>
対象の正常状態が他の正常状態に遷移するものとして、遷移前の正常状態に対応する正常モデルMの作成に用いられた正常データ集合が表す領域をR、遷移後の正常状態に対応する正常モデルMの作成に用いられた正常データ集合が表す領域をRとする。ここで、正常データ集合とは、正常状態を表すサンプルデータ(以下、「正常データ」ともいう。)の集合のことである。また、正常データ集合が表す領域とは、その正常データ集合に含まれる正常データをすべて包含する領域のことである。
【0021】
このとき、図2に示すように、仮に対象が遷移期間中も正常であれば、遷移期間のサンプルデータは、領域Rの代表点から領域Rの代表点に向かってプロットされると考えられる。ここで、代表点とは当該領域を代表する点を表すデータのことであり、例えば、当該領域を表す正常データ集合に含まれる正常データxの平均値(重心)、中央値、最頻値等が挙げられる。なお、図2に示す例では、簡単のため、N=3として3次元空間内にサンプルデータxをプロットした場合を表している。
【0022】
このため、領域Rと領域Rの代表点同士を結ぶ線分を軸とする(超)円柱等の領域を定義し、この領域(以下、「正常遷移領域」ともいう。)内に異常判定対象のサンプルデータが含まれる場合は異常指標値を低く、そうでない場合は異常指標値を高く算出することで、遷移期間でも正しく異常判定を行うことが可能になり、遷移期間における誤検知を防止できると考えられる。本実施形態に係る異常検知装置10は、この方法により、正常状態の遷移期間中における対象の異常検知を実現する。
【0023】
<異常検知装置10のハードウェア構成例>
本実施形態に係る異常検知装置10のハードウェア構成例を図3に示す。図3に示すように、本実施形態に係る異常検知装置10は、入力装置101と、表示装置102と、外部I/F103と、通信I/F104と、RAM(Random Access Memory)105と、ROM(Read Only Memory)106と、補助記憶装置107と、プロセッサ108とを有する。これらの各ハードウェアは、それぞれがバス109を介して通信可能に接続される。
【0024】
入力装置101は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、物理ボタン等である。表示装置102は、例えば、ディスプレイ、表示パネル等である。なお、異常検知装置10は、例えば、入力装置101及び表示装置102のうちの少なくとも一方を有していなくてもよい。
【0025】
外部I/F103は、記録媒体103a等の外部装置とのインタフェースである。記録媒体103aとしては、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、SDメモリカード(Secure Digital memory card)、USB(Universal Serial Bus)メモリカード等が挙げられる。
【0026】
通信I/F104は、異常検知装置10を通信ネットワークに接続するためのインタフェースである。RAM105は、プログラムやデータを一時保持する揮発性の半導体メモリ(記憶装置)である。ROM106は、電源を切ってもプログラムやデータを保持することができる不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)である。補助記憶装置107は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性の記憶装置であり、プログラムやデータが格納される。プロセッサ108は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の各種演算装置である。
【0027】
なお、図3に示すハードウェア構成は一例であって、異常検知装置10のハードウェア構成はこれに限られるものではない。例えば、異常検知装置10は、複数の補助記憶装置107や複数のプロセッサ108を有していてもよいし、図示したハードウェアの一部を有していなくてもよいし、図示したハードウェア以外の種々のハードウェアを有していてもよい。
【0028】
<異常検知装置10の機能構成例>
本実施形態に係る異常検知装置10の機能構成例を図4に示す。図4に示すように、本実施形態に係る異常検知装置10は、モデル作成処理部210と、異常検知処理部220と、記憶部230とを有する。モデル作成処理部210及び異常検知処理部220は、例えば、異常検知装置10にインストールされた1以上のプログラムが、プロセッサ108等に実行させる処理により実現される。また、記憶部230は、例えば、補助記憶装置107等により実現される。なお、記憶部230は、例えば、異常検知装置10と通信ネットワークを介して接続されたデータベースサーバ等の記憶装置により実現されていてもよい。
【0029】
なお、図4に示す例では、モデル作成処理部210と異常検知処理部220と記憶部230とを1台のコンピュータで実現される異常検知装置10が有しているが、これに限られるものではない。例えば、モデル作成処理部210と異常検知処理部220と記憶部230とを複数台のコンピュータが分散して有していてもよい。この場合、これら複数台のコンピュータで実現されるシステムは「異常検知システム」等と呼ばれてもよい。
【0030】
モデル作成処理部210は、モデル作成処理を実行する。ここで、モデル作成処理部210には、モデル作成用データ取得部211と、モデル作成部212とが含まれる。
【0031】
モデル作成用データ取得部211は、正常モデルを作成するためのモデル作成用データとして複数の正常データ集合を取得する。以下、対象の正常状態をS(1≦i≦I)、正常状態Sをモデル化した正常モデルをM(1≦i≦I)、正常モデルMを作成するための正常データ集合をX:={x(i,k)|k=1,・・・,K}とする。ここで、Iは対象の正常状態の総数(言い換えれば、正常モデルの総数)、Kは正常データ集合Xに含まれる正常データ数、x(i,k)は正常データ集合Xに含まれるk番目の正常データである。なお、モデル作成用データ取得部211は、例えば、対象の運転データを蓄積しているデータベースサーバ等から正常データ集合Xを取得すればよい。
【0032】
モデル作成部212は、正常データ集合X毎に、その正常データ集合Xから正常モデルMを作成する。また、モデル作成部212は、正常モデルM(1≦i≦I)を記憶部230に保存する。これにより、対象の複数の正常状態S(1≦i≦I)にそれぞれ対応する複数の正常モデルM(1≦i≦I)が得られる。なお、モデル作成部212は、例えば、主成分分析を利用した多変量統計的プロセス管理の手法(参考文献1)により、正常データ集合Xから正常モデルMを作成すればよい。
【0033】
異常検知処理部220は、異常検知処理を実行する。ここで、異常検知処理部220には、判定対象データ取得部221と、異常指標算出部222と、異常判定部223と、出力部224とが含まれる。
【0034】
判定対象データ取得部221は、異常判定対象のサンプルデータ(以下、「判定対象データ」ともいう。)x'を取得する。なお、判定対象データ取得部221は、例えば、対象から判定対象データx'を取得すればよい。
【0035】
異常指標算出部222は、正常モデルの切り替えが発生していない場合、又は、正常モデルの切り替え後に十分な時間が経過している場合、判定対象データx'と現在の正常状態Sに対応する正常モデルMとを用いて、当該正常モデルMに対応する異常指標値を算出する。一方で、異常指標算出部222は、正常モデルの切り替えが発生し、かつ、その切り替え後に十分な時間が経過していない場合、切替前の正常モデルMと、切替後の正常モデルMと、正常データ集合Xが表す領域と正常データ集合Xが表す領域の代表点同士を結ぶ線分によって定義される正常遷移領域(以下、この正常遷移領域をRijと表す。)とを用いて、正常モデルMに対応する異常指標値と、正常モデルMに対応する異常指標値と、正常遷移領域Rijに対応する異常指標値とを算出する。なお、1≦j≦I、j≠iである。このことは以降も同様である。
【0036】
ここで、十分な時間とは遷移期間が経過したものと高い確実性を持って推定できる時間のことであり、例えば、遷移期間が数時間~10数時間程度である場合、数日程度であれば十分な時間といえる。なお、遷移期間は対象の種類・種別等によって異なり得るため、どの程度の時間が十分な時間であるかは対象に関する経験則等を利用してオペレータ等といった人によって決定される。
【0037】
以下、正常モデルMに対応する異常指標値はQ統計量であるものとして、Qと表す。なお、異常指標算出部222は、例えば、主成分分析を利用した多変量統計的プロセス管理の手法(参考文献1)により、判定対象データx'と正常モデルMから異常指標値Qを算出すればよい。ただし、これは一例であって、正常モデルMに対応する異常指標値はQ統計量に限られるものではなく、例えば、T統計量であってもよいし、Q統計量とT統計量の両方であってもよい。なお、Q統計量及びT統計量はいずれも多変量統計的プロセス管理の手法によって正常モデルが作成された場合の異常指標であって、多変量統計的プロセス管理以外の手法によって正常モデルが作成された場合には、異常度合いが大きいほどその値が大きくなるような他の異常指標を用いる。
【0038】
一方で、正常遷移領域Rijに対応する異常指標値としては、判定対象データx'が正常遷移領域Rij内に存在する場合は閾値thij未満の値を出力し、判定対象データx'が正常遷移領域Rij内に存在しない場合は閾値thij以上の値を出力する関数の出力値が挙げられる。ここで、閾値thijは正常遷移領域Rijに対して予め設定される値である。
【0039】
異常判定部223は、異常指標算出部222によって算出された異常指標値から異常有無を判定する。すなわち、異常判定部223は、正常モデルの切り替えが発生していない場合、又は、正常モデルの切り替え後に十分な時間が経過している場合、異常指標値Qとそれに対応する閾値thとを比較し、異常指標値Qが閾値th以上であれば異常、そうでなければ正常と判定する。一方で、異常判定部223は、正常モデルの切り替えが発生し、かつ、その切り替え後に十分な時間が経過していない場合、異常指標値Qとそれに対応する閾値th、異常指標値Qとそれに対応する閾値th、異常指標値Qijとそれに対応する閾値thijをそれぞれ比較し、すべての異常指標値が閾値以上であれば異常、そうでなければ正常と判定する。
【0040】
出力部224は、異常判定部223による異常判定の結果(つまり、異常有無)を予め決められた所定の出力先に出力する。ここで、所定の出力先としては、例えば、表示装置102、通信ネットワークを介して接続される他の機器や他の端末等、記憶部230等が挙げられる。
【0041】
記憶部230は、モデル作成用データ取得部211によって取得された正常データ集合X(1≦i≦I)、モデル作成部212によって作成された正常モデルM(1≦i≦I)、正常モデルMに対応する閾値th(1≦i≦I)、正常遷移領域Rijに対応する閾値thij(1≦i,j≦I、i≠j)等を記憶する。なお、記憶部230には、これら以外にも、例えば、何等かの処理の途中の結果を表すデータ等といった種々のデータが記憶されてもよい。
【0042】
<モデル作成処理>
以下、本実施形態に係るモデル作成処理について、図5を参照しながら説明する。
【0043】
モデル作成用データ取得部211は、モデル作成用データとして複数の正常データ集合X(1≦i≦I)を取得する(ステップS101)。
【0044】
次に、モデル作成部212は、正常データ集合X毎に、その正常データ集合Xから正常モデルMを作成する(ステップS102)。なお、モデル作成部212は、例えば、主成分分析を利用した多変量統計的プロセス管理の手法(参考文献1)により正常データ集合Xから正常モデルMを作成すればよいが、これ以外の手法により正常モデルMを作成してもよい。
【0045】
そして、モデル作成部212は、各正常モデルM(1≦i≦I)を記憶部230に保存する(ステップS103)。これにより、対象の正常状態S毎に、その正常状態Sに対応する正常モデルMが得られる。
【0046】
<異常検知処理>
以下、本実施形態に係る異常検知処理について、図6を参照しながら説明する。以下では、記憶部230には、正常モデルM(1≦i≦I)と、閾値th(1≦i≦I)と、閾値thij(1≦i,j≦I)とが少なくとも記憶されているものとする。
【0047】
判定対象データ取得部221は、判定対象データx'を取得する(ステップS201)。
【0048】
異常指標算出部222は、以下の(1-1)~(1-3)のいずれかにより異常指標値を算出する(ステップS202)。以下では異常指標値はQ統計量(参考文献1)であるものとするが、例えば、T統計量であってもよいし、Q統計量とT統計量の両方であってもよい。なお、正常状態の遷移に応じて正常モデルの切り替えが行われる場合、その切り替えは異常検知装置10によって自動的に行われてもよいし、オペレータ等といったユーザの手動操作により行われてもよい。
【0049】
(1-1)正常モデルの切り替えが発生していない場合
現在の正常状態をSとする。この場合、異常指標算出部222は、正常状態Sに対応する正常モデルMと判定対象データx'から異常指標値Qを算出する。
【0050】
(1-2)正常モデルの切り替え後、十分な時間が経過している場合
正常状態の遷移が発生しているため、遷移前の正常状態をS、遷移後の正常状態をSとする。正常状態の遷移後に十分な時間が経過しているため、遷移期間は経過しており、判定対象データx'は遷移期間中のサンプルデータではないと考えられる。そこで、この場合、異常指標算出部222は、正常状態Sに対応する正常モデルMと判定対象データx'から異常指標値Qを算出する。
【0051】
(1-3)正常モデルの切り替え後、十分な時間が経過していない場合
正常状態の遷移が発生しているため、遷移前の正常状態をS、遷移後の正常状態をSとする。正常状態の遷移後に十分な時間が経過していないため、判定対象データx'は遷移期間中のサンプルデータである可能性がある。また、遷移直後である場合には判定対象データx'は正常データ集合Xが表す領域中に出現することもあるし、遷移後に或る程度の時間が経過した場合には判定対象データx'は正常データ集合Xが表す領域中に出現することもある。そこで、この場合、異常指標算出部222は、切替前の正常モデルMと判定対象データx'から異常指標値Q、切替後の正常モデルMと判定対象データx'から異常指標値Q、正常遷移領域Rijによって定義される関数(以下、関数Fと表す。)と判定対象データx'から異常指標値Qijをそれぞれ算出する。
【0052】
上記の関数Fとしては、例えば、x'∈RijであるときはF(x')<thij、そうでないときはF(x')≧thijとなる値を取る関数が挙げられる。異常指標算出部222は、この関数Fを用いて、Qij=F(x')と異常指標値Qijを算出すればよい。以下、このような関数Fを定義するための正常遷移領域Rijの定義例について説明する。
【0053】
・正常遷移領域Rijの定義例(その1)
切替前の正常モデルMに対応する正常データ集合Xが表す領域をR、切替後の正常モデルMに対応する正常データ集合Xが表す領域をRとする。また、以下では、領域の代表点としてその領域に含まれる正常データの平均値(重心)を用いるものとして、領域Rの代表点をμ、領域Rの代表点をμとする。なお、代表点は、平均値(重心)に限られず、例えば、その領域に含まれる正常データの中央値や最頻値等であってもよい。
【0054】
このとき、2つの代表点μ及びμ同士を結ぶ線分を中心軸とする(超)円柱内の領域を正常遷移領域Rijとする。言い換えれば、2つの代表点μ及びμ同士を結ぶ線分へ射影したときの射影点との距離が一定以下となる点xの集合を正常遷移領域Rijとする。
【0055】
具体的には、2つの代表点μ及びμ同士を結ぶ単位ベクトルをa=(μ-μ)/||μ-μ||とする。このとき、(超)円柱の断面の半径をαとすれば、Rij={x|||(aaΤ-E)x||≦α、かつ、(x-μΤ(x-μ)<0}と定義できる。ここで、||・||はノルム、Eは単位行列を表す。また、αの値は予め決められる。なお、(x-μΤ(x-μ)<0は、xからμに向かうベクトルとxからμに向かうベクトルとの角度を鈍角に制限し、(超)円柱の中心軸の長さをμ及びμ同士を結ぶ線分の長さに制限していることを意味する。
【0056】
一例として、N=3である場合の切替前後の正常モデルM及びMと正常遷移領域Rijとを図7に示す。図7に示すように、本定義例では、正常遷移領域Rijは、(超)円柱内の領域となる。
【0057】
・正常遷移領域Rijの定義例(その2)
上記の定義例(その1)と同様に、領域Rの代表点をμ、領域Rの代表点をμとする。
【0058】
このとき、代表点μを頂点、2つの代表点μ及びμ同士を結ぶ線分を中心軸とする(超)円錐と、代表点μを頂点、2つの代表点μ及びμ同士を結ぶ線分を中心軸とする(超)円錐とで構成される領域を正常遷移領域Rijとする。
【0059】
具体的には、2つの代表点μ及びμ同士を結ぶ単位ベクトルをa=(μ-μ)/||μ-μ||とする。このとき、任意の点xに関して、μ-μとx-μとのなす角、及び、μ-μとx-μとのなす角を制限するための値をβ(ただし、0<β<1)とすれば、Rij={x|aΤ(x-μ)/||x-μ||>β、かつ、aΤ(x-μ)/||x-μ||>β}と定義できる。なお、βの値は予め決められる。また、aΤ(x-μ)/||x-μ||>βは、μ-μとx-μとのなす角をθ=cos-1β以下に制限していることを意味している。同様に、aΤ(x-μ)/||x-μ||>βは、μ-μとx-μとのなす角をθ=cos-1β以下に制限していることを意味している。
【0060】
一例として、N=3である場合の切替前後の正常モデルM及びMと正常遷移領域Rijとを図8に示す。図8に示すように、本定義例では、正常遷移領域Rijは、互いに底面を共有する2つの(超)円錐内の領域となる。
【0061】
・正常遷移領域Rijの定義例(その3)
上記の定義例(その1)では(超)円柱、定義例(その2)では互いに底面を共有する2つの(超)円錐を正常遷移領域Rijと定義したが、これに限られるものではない。例えば、上記の定義例(その1)で(超)円柱の代わりに、(超)立方体を正常遷移領域Rijと定義してもよい。
【0062】
図6の説明に戻る。ステップS202に続いて、異常判定部223は、以下の(2-1)~(2-3)のいずれかにより異常有無を判定する(ステップS203)。
【0063】
(2-1)正常モデルの切り替えが発生していない場合
この場合、上記のステップS202では異常指標値Qが算出されているため、異常判定部223は、この異常指標値Qと閾値thとを比較し、異常指標値Qが閾値th以上であれば異常、そうでなければ正常と判定する。なお、例えば、Q統計量とT統計量の2つの異常指標値が算出された場合には、これら2つの異常指標値がいずれも閾値未満であれば正常、そうでなければ異常と判定される。このことは以下の(2-2)でも同様である。
【0064】
(2-2)正常モデルの切り替え後、十分な時間が経過している場合
この場合、上記のステップS202では異常指標値Qが算出されているため、異常判定部223は、この異常指標値Qと閾値thとを比較し、異常指標値Qが閾値th以上であれば異常、そうでなければ正常と判定する。
【0065】
(2-3)正常モデルの切り替え後、十分な時間が経過していない場合
この場合、上記のステップS202では異常指標値Qと異常指標値Qと異常指標値Qijとが算出されているため、異常判定部223は、異常指標値Qと閾値th、異常指標値Qと閾値th、異常指標値Qijと閾値thijをそれぞれ比較し、異常指標値Qが閾値th以上かつ異常指標値Qが閾値th以上かつ異常指標値Qijが閾値thij以上であれば異常、そうでなければ正常と判定する。すなわち、異常判定部223は、切替前の正常モデルMと切替後の正常モデルMと正常遷移領域Rijのすべてで異常と判定された場合にのみ異常と判定し、そうでなければ正常と判定する。
【0066】
なお、切替前の正常モデルMと切替後の正常モデルMに関して、例えば、Q統計量とT統計量の2つの異常指標値が算出された場合、切替前後の正常モデルM及びMに関しては、これら2つの異常指標値がいずれも閾値未満であれば正常、そうでなければ異常と判定される。
【0067】
そして、出力部224は、上記のステップS203の異常判定の結果を予め決められた所定の出力先に出力する(ステップS204)。これにより、当該出力先に異常判定の結果(つまり、異常有無を示す情報)が出力され、異常検知が実現される。
【0068】
<まとめ>
以上のように、本実施形態に係る異常検知装置10では、2つの正常モデルの作成にそれぞれ用いられた2つの正常データ集合に基づいて、これら2つの正常データ集合がそれぞれ表す領域間に正常遷移領域と呼ぶ領域を定義し、この正常遷移領域内に含まれるサンプルデータを正常と判定する。これにより、対象の正常状態の遷移によって正常モデルが切り替わった場合であっても、従来と異なり誤検知が防止されるため、当該遷移期間中のサンプルデータを用いて異常検知を実現することが可能となる。
【0069】
なお、上記の実施形態では、主に、或る正常モデルMから別の或る正常モデルMに切り替わった場合を想定し、切替前後の正常モデルM及びMに関して正常遷移領域Rijを定義したが、I個の正常モデルM(1≦i≦I)が相互に切り替わる場合には切替前後の正常モデルM及びMに関して正常遷移領域Rijが定義できることに留意されたい。一例として、I=4、正常遷移領域が(超)円柱内の領域である場合の切替前後の正常モデルM及びMと各遷移期間における正常遷移領域Rij図9に示す。図9に示すように、任意の(i,j)(ただし、1≦i,j≦4、i≠j)に対して正常遷移領域Rijが定義できる。
【0070】
また、上記の実施形態では、異常検知を行う場合について説明したが、本実施形態に係る異常検知装置10は、例えば、異常検知の結果に基づいて、対象の制御を更に行うものであってもよい。例えば、異常検知の結果が異常を示すものである場合、異常検知装置10は、対象の運転を停止させたり縮退運転させたりする等といった制御を行ってもよい。
【0071】
<変形例>
・変形例1
上記の実施形態は、x'∈RijであるときはF(x')<thij、そうでないときはF(x')≧thijとなる値を取る関数Fを定義したが、例えば、x'∈Rij∪R∪RであるときはF(x')<thij、そうでないときはF(x')≧thijとなる値を取る関数Fを定義してもよい。この場合、上記のステップS202の(1-3)では異常指標値Q及びQを算出する必要はなく、上記のステップS203の(2-3)では異常指標値Qijが閾値thij以上であれば異常、そうでなければ正常と判定すればよい。これにより、例えば、遷移後の正常状態(言い換えれば、切替後の正常モデルM)が既知である場合だけでなく未知である場合であっても、正常モデルの切り替えを不要することができる。
【0072】
・変形例2
上記の実施形態では、図6のステップS202で(1-1)正常モデルの切り替えが発生していない場合、(1-2)正常モデルの切り替え後、十分な時間が経過している場合、(1-3)正常モデルの切り替え後、十分な時間が経過していない場合で場合分けしたが、例えば、正常状態の遷移が発生したことを表す情報が外部から与えられる場合には、これらの(1-1)~(1-3)の代わりに、以下の(1-1')~(1-3')で場合分けしてもよい。
【0073】
(1-1')正常状態の遷移が発生していない場合
(1-2')正常状態の遷移が発生してから十分な時間が経過している場合
(1-3')正常状態の遷移が発生してから十分な時間が経過していない場合
これにより、例えば、正常状態の遷移が完了した後に正常モデルが切り替わるような場合にも、上記の実施形態を同様に適用することが可能となる。
【0074】
・変形例3
上記の実施形態では、切替前の正常モデルMに対応する正常データ集合Xが表す領域Rの代表点と、切替後の正常モデルMに対応する正常データ集合Xが表す領域Rとの代表点とを結ぶ線分を中心軸とする正常遷移領域Rijを定義したが、中心軸は線分以外であってもよい。
【0075】
例えば、領域Rの代表点と領域Rとの代表点とを結ぶ折れ線や曲線を中心軸とする領域を正常遷移領域Rijと定義してもよい。
【0076】
・変形例4
一般に、プラントや設備、機器、装置等の対象には運転パターンが存在し、その運転パターンに応じてサンプルデータも変化する。このため、遷移期間中のサンプルデータの遷移パターンも運転パターンに応じて変化し、例えば、領域Rの代表点と領域Rとの代表点とを結ぶ線分を中心軸とする(超)円柱等で定義される正常遷移領域Rij内にサンプルデータが含まれないこともあり得る。
【0077】
例えば、正常モデルMが表す領域Rと正常モデルMが表す領域Rはいずれも楕円領域であるものとする。このとき、例えば、図10に示すように、遷移期間中のサンプルデータが、正常モデルMが表す楕円領域の長軸方向から正常モデルMが表す楕円領域の長軸方向へと遷移する場合、(超)円柱等で定義される正常遷移領域Rij内には遷移期間中のサンプルデータは含まれない。
【0078】
そこで、変形例4では、過去の遷移期間中のサンプルデータから正常遷移領域を定義する。領域Rから領域Rへのサンプルデータをx(ij)(t)(ただし、t∈[T (ij),T (ij)])とする。ここで、T (ij)は領域Rから領域Rへの遷移開始時刻、T (ij)は領域Rから領域Rへの遷移終了時刻である。また、遷移時間[T (ij),T (ij)]を或る時間幅で分割したS個の時間区間をΔ,・・・,Δとする。ただし、Δ:=[t,ts+1]、t=T (ij)、tS+1=T (ij)である。
【0079】
このとき、各時間区間Δにおいて、その時間区間Δのサンプルデータx(ij)(t)が含まれる(超)円柱(又は、(超)立方体でもよい。)Rij (s)を定義し、それらの和集合を正常遷移領域Rij:=Rij (1)∪・・・∪Rij (S)とする。すなわち、過去の遷移期間中のサンプルデータから区分的に(超)円柱を定義し、それらの和集合を正常遷移領域Rijとする。
【0080】
一例として、N=3、S=3である場合における正常遷移領域Rij:=Rij (1)∪Rij (2)∪Rij (3)図11に示す。図11に示すように、正常遷移領域Rij:=Rij (1)∪Rij (2)∪Rij (3)は過去の遷移期間中のサンプルデータx(ij)(t)(t∈[T (ij),T (ij)])の遷移パターンを考慮した領域となる。このため、対象の運転パターンに応じて遷移パターンが変化する場合であっても、遷移期間中に適切な異常検知が可能となる。
【0081】
・変形例5
変形例4と同様に、遷移ターンによっては、領域Rの代表点と領域Rとの代表点とを結ぶ線分を中心軸とする(超)円柱等で定義される正常遷移領域Rij内にサンプルデータが含まれないこともあり得る。
【0082】
例えば、正常モデルMが表す領域Rと正常モデルMが表す領域Rはいずれも楕円領域であるものとする。このとき、例えば、図12に示すように、遷移期間中のサンプルデータが、正常モデルMが表す楕円領域の長軸方向にある周付近から正常モデルMが表す楕円領域へと遷移する場合、(超)円柱等で定義される正常遷移領域Rij内には遷移期間中のサンプルデータは含まれない。
【0083】
そこで、変形例5では、正常モデルMが表す領域Rに外接し、かつ、正常モデルMが表す領域Rの代表点μ方向に頂点が存在する(超)円錐と、正常モデルMが表す領域Rに外接し、かつ、正常モデルMが表す領域Rの代表点μ方向に頂点が存在する(超)円錐とを定義し、それらの和集合を正常遷移領域Rijとする。
【0084】
より具体的には、代表点μと代表点μとを結ぶ線分の中点をμとする。また、当該線分上で中点μから或る距離だけ代表点μ方向にある点をPとし、当該線分上で中点μから或る距離だけ代表点μ方向にある点をPとする。このとき、正常モデルMが表す領域Rに外接し、かつ、Pを頂点とする(超)円錐Rij (1)と、正常モデルMが表す領域Rに外接し、かつ、Pを頂点とする(超)円錐Rij (2)とを定義し、正常遷移領域Rij:=Rij (1)∪Rij (2)とする。なお、(超)円錐Rij (1)の底面は、例えば、(超)円錐Rij (1)との外接点における領域Rの断面とすればよい。同様に、(超)円錐Rij (2)の底面は、例えば、(超)円錐Rij (2)との外接点における領域Rの断面とすればよい。
【0085】
一例として、N=3である場合における正常遷移領域Rij:=Rij (1)∪Rij (2)図13に示す。図13に示すように、正常遷移領域Rij:=Rij (1)∪Rij (2)は2つの円錐Rij (1)及びRij (2)の和集合で表される領域である。また、Rij (1)は、領域Rの代表点μと領域Rの代表点μとを結ぶ線分上でその線分の中点よりも代表点μ側にある点Pを頂点とし、かつ、領域Rの或る断面を底面とする円錐領域である。同様に、Rij (2)は、当該線分上でその線分の中点よりも代表点μ側にある点Pを頂点とし、かつ、領域Rの或る断面を底面とする円錐領域である。このため、例えば、遷移期間中のサンプルデータが、正常モデルMが表す楕円領域の長軸方向にある周付近から正常モデルMが表す楕円領域へと遷移する場合であっても、遷移期間中に適切な異常検知が可能となる。
【0086】
・変形例6
変形例5で2つの(超)円錐の和集合の代わりに、正常モデルMが表す領域Rと正常モデルMが表す領域Rとの両方に外接する一葉双曲面と、当該一葉双曲面との外接点における領域Rの断面と、当該一葉双曲面との外接点における領域Rの断面とで囲まれる領域を正常遷移領域Rijとしてもよい。
【0087】
一例として、N=3である場合における正常遷移領域Rij図14に示す。図14に示すように、正常遷移領域Rijは、正常モデルMが表す領域Rと正常モデルMが表す領域Rとの両方に外接する一葉双曲面と、当該一葉双曲面との外接点における領域Rの断面と、当該一葉双曲面との外接点における領域Rの断面とで囲まれる領域である。このため、変形例5と同様に、例えば、遷移期間中のサンプルデータが、正常モデルMが表す領域Rの長軸方向にある周付近から正常モデルMが表す領域Rへと遷移する場合であっても、遷移期間中に適切な異常検知が可能となる。
【0088】
本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から逸脱することなく、種々の変形や変更、既知の技術との組み合わせ等が可能である。
【0089】
[参考文献]
参考文献1:加納 学,「多変量統計的プロセス管理」,インタネット<URL:http://manabukano.brilliant-future.net/research/report/Report2005_MSPC.pdf>
【符号の説明】
【0090】
10 異常検知装置
101 入力装置
102 表示装置
103 外部I/F
103a 記録媒体
104 通信I/F
105 RAM
106 ROM
107 補助記憶装置
108 プロセッサ
109 バス
210 モデル作成処理部
211 モデル作成用データ取得部
212 モデル作成部
220 異常検知処理部
221 判定対象データ取得部
222 異常指標算出部
223 異常判定部
224 出力部
230 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14