IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特開2024-77化合物、発光素子材料、それを用いた発光素子
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000077
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】化合物、発光素子材料、それを用いた発光素子
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20231225BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231225BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20231225BHJP
   H10K 50/16 20230101ALI20231225BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C07F5/02 D CSP
H05B33/14 B
H05B33/12 C
H05B33/22 B
C09K11/06 660
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098609
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】星野 秀尭
(72)【発明者】
【氏名】川本 一成
(72)【発明者】
【氏名】徳田 貴士
(72)【発明者】
【氏名】長尾 和真
【テーマコード(参考)】
3K107
4H048
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC04
3K107CC07
3K107DD03
3K107DD52
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD66
3K107DD74
3K107DD78
3K107FF19
4H048AA01
4H048AB92
4H048AD17
4H048BA51
4H048BB12
4H048BE56
4H048VA77
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】光スペクトルがシャープな発光材料および、素子効率や色純度に優れた発光素子を得ることのできる発光素子材料を提供すること。
【解決手段】特定の構造を有する化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】
(Arは芳香族炭素環または芳香族複素環である。
Arはアリール基またはヘテロアリール基である。
、Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。ただし、RとRの少なくとも一方はアルキル基もしくはシクロアルキル基である。
は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、の中から選ばれる。ただし、Rは隣接する基との間で環構造を形成しない。
4はアルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、の中から選ばれる。
は、CR111112、N-R113、酸素、または硫黄の中から選ばれる。さらにこれらの原子は隣接原子との間に二重結合を形成してもよい。Yは、単結合、CR111112、N-R113、酸素、または硫黄の中から選ばれる。さらにこれらの原子は隣接原子との間に二重結合を形成してもよい。前記R111、R112およびR113はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、の中から選ばれる。またこれらは互いに結合して環構造を形成してもよい。
、Xはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基の中から選ばれる。
これらの基はさらに置換基を有していてもよい。)
【請求項2】
、Xがフッ素であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
とRの片方がアルキル基もしくはシクロアルキル基であり、他方がアリール基もしくはヘテロアリール基であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
がアリール基もしくはヘテロアリール基であり、Rがアルキル基もしくはシクロアルキル基であることを特徴とする請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
がアルキル基もしくはシクロアルキル基であり、Rがアリール基もしくはヘテロアリール基であることを特徴とする請求項3に記載の化合物。
【請求項6】
下記一般式(3-1)で表されることを特徴とする請求項4に記載の化合物。
【化2】
(R21~R25は同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。ただし、R21およびR25は同時に水素原子であることはない。
31はアルキル基もしくはシクロアルキル基である。
32は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基の中から選ばれる。ただし、R32は隣接する基との間で環構造を形成しない。
Ar31、Ar32はアリール基もしくはヘテロアリール基である。
311~R324は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホンアルコキシカルボニル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、オキソ基、および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。
これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
は下記一般式(4-1)または下記一般式(4-2)で表される。
【化3】
*と**は炭素原子との結合部を示す。R411~R414は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。)
【請求項7】
下記一般式(3-2)で表されることを特徴とする請求項5に記載の化合物。
【化4】
(R21~R25は同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。ただし、R21およびR25は同時に水素原子であることはない。
31はアルキル基もしくはシクロアルキル基である。
32は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基の中から選ばれる。ただし、R32は隣接する基との間で環構造を形成しない。
Ar31、Ar32はアリール基もしくはヘテロアリール基である。
311~R324は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホンアルコキシカルボニル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、オキソ基、および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。
これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
は下記一般式(4-1)または下記一般式(4-2)で表される。
【化5】
*と**は炭素原子との結合部を示す。R411~R414は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。)
【請求項8】
が前記一般式(4-1)で表されることを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
が前記一般式(4-1)で表されることを特徴とする請求項7に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の化合物からなる発光素子材料。
【請求項11】
陽極と、発光層と、陰極と、を含み、前記発光層に請求項10に記載の発光素子材料を含有することを特徴とする電気エネルギーにより発光する発光素子。
【請求項12】
前記発光層が、第一の化合物とドーパントである第二の化合物を有する発光素子であって、第二の化合物が、請求項10に記載の発光素子材料である請求項11に記載の発光素子。
【請求項13】
前記第一の化合物が、遅延蛍光性の化合物である請求項12に記載の発光素子。
【請求項14】
前記発光層がさらに第三の化合物を含有する発光素子であって、前記第三の化合物の励起一重項エネルギーが、前記第一の化合物の励起一重項エネルギーよりも大きいことを特徴とする、請求項13に記載の発光素子。
【請求項15】
陽極と陰極の間に2層以上の発光層を有し、それぞれの発光層と発光層の間に1層以上の電荷発生層を有する請求項11に記載の発光素子。
【請求項16】
前記電荷発生層に下記一般式(5)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体を含有する請求項15に記載の発光素子。
【化6】
(Ar51は、p価の芳香族炭化水素基またはp価の芳香族複素環基を示す。pは1~3の自然数を示す。R51~R58は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アリール基またはヘテロアリール基を示す。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。)
【請求項17】
陰極と電子輸送層の間に電子注入層を有し、電子注入層に下記一般式(5)で表されるフェナントロリン誘導体を含有する請求項11に記載の発光素子。
【化7】
(Ar51は、p価の芳香族炭化水素基またはp価の芳香族複素環基を示す。pは1~3の自然数を示す。R51~R58は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アリール基またはヘテロアリール基を示す。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。)
【請求項18】
トップエミッション型発光素子である請求項11に記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、発光素子材料、それを用いた発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔が、両極に挟まれた発光層内で再結合することにより発光する有機薄膜発光素子は、薄型化が可能であること、駆動電圧が低いこと、輝度が高いこと、多色発光が可能であることなどの特徴を有する。特に、発光層にホスト材料とドーパント材料を組み合わせることにより、青、緑、赤の三原色の光を高効率に発光する発光素子を得ることができる。
【0003】
高輝度かつ高純度の発光素子を提供することのできるドーパント材料として、これまでに、種々の構造を有するピロメテンホウ素錯体が報告されている(例えば、特許文献1参照)。また、近年、より高い素子効率を目指して、TADF(Thermally Activated Delayed Fluorescence、熱活性化遅延蛍光)材料とピロメテンホウ素錯体とを組み合わせた発光素子が検討されている(例えば、特許文献2~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/184369号
【特許文献2】国際公開第2016/056559号
【特許文献3】国際公開第2019/013063号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでに、前述のとおり、ドーパント材料としてピロメテンホウ素錯体を用いた発光素子が提案されてきたものの、素子効率と色純度が十分でないという課題があった。色純度は発光スペクトルの幅により決まり、幅が狭くなり単色光に近づくほど色純度が高くなる。すなわち発光スペクトルがシャープであることで、色純度を高めることができる。本発明は、発光スペクトルがシャープな化合物および、素子効率や色純度に優れた発光素子を得ることのできる発光素子材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の化合物、発光素子材料、それを用いた発光素子に関する。
[1]下記一般式(1)で表される化合物。
【0007】
【化1】
【0008】
(Ar1は芳香族炭素環または芳香族複素環である。
Ar2はアリール基またはヘテロアリール基である。
、Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。ただし、RとRの少なくとも一方はアルキル基もしくはシクロアルキル基である。
は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、の中から選ばれる。ただし、Rは隣接する基との間で環構造を形成しない。
4はアルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、の中から選ばれる。
は、CR111112、N-R113、酸素、または硫黄の中から選ばれる。さらにこれらの原子は隣接原子との間に二重結合を形成してもよい。Yは、単結合、CR111112、N-R113、酸素、または硫黄の中から選ばれる。さらにこれらの原子は隣接原子との間に二重結合を形成してもよい。前記R111、R112およびR113はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、の中から選ばれる。またこれらは互いに結合して環構造を形成してもよい。
、Xはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基の中から選ばれる。
これらの基はさらに置換基を有していてもよい。)
[2]X、Xがフッ素であることを特徴とする[1]に記載の化合物。
[3]RとRの片方がアルキル基もしくはシクロアルキル基であり、他方がアリール基もしくはヘテロアリール基であることを特徴とする[1]または[2]に記載の化合物。
[4]Rがアリール基もしくはヘテロアリール基であり、Rがアルキル基もしくはシクロアルキル基であることを特徴とする[3]に記載の化合物。
[5]Rがアルキル基もしくはシクロアルキル基であり、Rがアリール基もしくはヘテロアリール基であることを特徴とする[3]に記載の化合物。
[6]後述する一般式(3-1)で表されることを特徴とする[4]に記載の化合物。
[7]後述する一般式(3-2)で表されることを特徴とする[5]に記載の化合物。
[8]後述する一般式(3-1)のYが後述する一般式(4-1)で表されることを特徴とする[6]に記載の化合物。
[9]後述する一般式(3-2)のYが後述する一般式(4-1)で表されることを特徴とする[7]に記載の化合物。
[10][1]~[9]のいずれかに記載の化合物からなる発光素子材料。
[11]陽極と、発光層と、陰極と、を含み、前記発光層に[10]に記載の発光素子材料を含有することを特徴とする電気エネルギーにより発光する発光素子。
[12]前記発光層が、第一の化合物とドーパントである第二の化合物を有する発光素子であって、第二の化合物が、[10]に記載の発光素子材料である[11]に記載の発光素子。
[13]前記第一の化合物が、遅延蛍光性の化合物である[12]に記載の発光素子。
[14]前記発光層がさらに第三の化合物を含有する発光素子であって、前記第三の化合物の励起一重項エネルギーが、前記第一の化合物の励起一重項エネルギーよりも大きいことを特徴とする、[13]に記載の発光素子。
[15]陽極と陰極の間に2層以上の発光層を有し、それぞれの発光層と発光層の間に1層以上の電荷発生層を有する[11]~[14]のいずれかに記載の発光素子。
[16]前記電荷発生層に後述する一般式(5)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体を含有する[15]に記載の発光素子。
[17]陰極と電子輸送層の間に電子注入層を有し、電子注入層に後述する一般式(5)で表されるフェナントロリン誘導体を含有する[11]~[16]のいずれかに記載の発光素子。
[18]トップエミッション型発光素子である[11]~[17]のいずれかに記載の発光素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化合物により、発光スペクトルがシャープな化合物および、素子効率や色純度に優れた発光素子を得ることのできる発光素子材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る化合物、発光素子材料、それを用いた発光素子の好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0011】
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される。
【0012】
【化2】
【0013】
上記一般式(1)中、Arは芳香族炭素環または芳香族複素環である。
【0014】
上記一般式(1)中、Arはアリール基またはヘテロアリール基である。
【0015】
上記一般式(1)中、R、Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。ただし、RとRの少なくとも一方はアルキル基もしくはシクロアルキル基である。これらの基を選択することにより、発光スペクトルがシャープとなる。素子効率向上の観点から、RとRの片方はアルキル基もしくはシクロアルキル基であり、他方はアリール基もしくはヘテロアリール基であることが好ましい。 さらに、Rがアリール基もしくはヘテロアリール基であり、Rがアルキル基もしくはシクロアルキル基であることが好ましい。 また、Rがアルキル基もしくはシクロアルキル基であり、Rがアリール基もしくはヘテロアリール基であることが好ましい。
【0016】
上記一般式(1)中、Rは、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、の中から選ばれる。ただし、Rは隣接する基との間で環構造を形成しない。これらの中でも、熱安定性の観点から、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基が好ましく、色純度の観点から、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基であることがより好ましい。
【0017】
上記一般式(1)中、R4はアルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、の中から選ばれる。これらの中でも、熱安定性の観点からアリール基もしくはヘテロアリール基が好ましい。これらの中でも、素子効率向上の観点からRは一般式(2)で表される構造を有することがより好ましい。
【0018】
【化3】
【0019】
(***は炭素原子との結合部を示す。R21~R25は同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。これらの官能基はさらに置換基を有していてもよい。ただし、R21およびR25は同時に水素原子であることはない。)
は、CR111112、N-R113、酸素、または硫黄の中から選ばれる。さらにこれらの原子は隣接原子との間に二重結合を形成してもよい。Yは、単結合、CR111112、N-R113、酸素、または硫黄の中から選ばれる。さらにこれらの原子は隣接原子との間に二重結合を形成してもよい。前記R111、R112およびR113はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、の中から選ばれる。またこれらは互いに結合して環構造を形成してもよい。例えばYとYが炭素原子であるとき、下記一般式(1-2)のような6員環の環状構造をとり、Yが炭素原子でYが単結合であるとき、下記一般式(1-3)のような5員環の環状構造をとる。
【0020】
【化4】
【0021】
【化5】
【0022】
とYによって環構造が形成されることにより、励起状態における分子の振動を抑えることができるため、発光スペクトルがシャープとなる。熱安定性の観点からYはCR111112であることが好ましく、Yは単結合であるかCR111112であることが好ましい。この中でも、発光素子の耐久性の観点からYはCR111112であることがより好ましい。
【0023】
、Xはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基の中から選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。これらの基を選択することにより、発光素子材料の熱安定性を向上させることができる。これらの基の中でも、素子効率の観点から、X、Xがフッ素であることが好ましい。
【0024】
一般式(1)で表される化合物は、素子効率向上と熱安定性の観点から、一般式(3-1)や一般式(3-2)で表される化合物であることが特に好ましい。
【0025】
【化6】
【0026】
【化7】
【0027】
上記一般式(3-1)と一般式(3-2)中、R21~R25は同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。ただし、R21およびR25は同時に水素原子であることはない。
31はアルキル基もしくはシクロアルキル基である。
32は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、およびヘテロアリール基の中から選ばれる。ただし、R32は隣接する基との間で環構造を形成しない。
Ar31、Ar32はアリール基もしくはヘテロアリール基である。
311~R324は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、水酸基、チオール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、シアノ基、アルデヒド基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、スルホニル基、スルホンアルコキシカルボニル基、スルホンアミド基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、ボリル基、ホスフィンオキシド基、オキソ基、および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
は一般式(4-1)または一般式(4-2)で表される。
【0028】
【化8】
【0029】
上記一般式(4-1)と一般式(4-2)中、*と**は炭素原子との結合部を示す。R411~R414は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、および隣接基との間の環構造の中から選ばれる。発光素子の耐久性の観点からYは一般式(4-1)で表されることが好ましい。
【0030】
本発明の説明において、「無置換」とは、対象となる基本骨格または基に結合する原子が水素原子または重水素原子のみであることを意味する。また、対象となる基が置換基を有する場合、その置換基としては、例えば、アルキル基、ハロゲン、アリール基、ヘテロアリール基などが挙げられる。また、各基に示す好ましい炭素数範囲には、置換基の炭素は含めないものとする。
【0031】
本発明の説明において、全ての基において、水素は重水素であってもよい。
【0032】
アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、好ましくは1以上20以下、より好ましくは1以上8以下の範囲である。
【0033】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは、3以上20以下の範囲である。
【0034】
アリール基とは、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、ヘリセニル基などの芳香族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。中でも、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基が好ましい。環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは6以上40以下、より好ましくは6以上30以下の範囲である。また、フェニル基においては、そのフェニル基中の隣接する2つの炭素原子上に各々置換基がある場合、それらの置換基同士で環構造を形成していてもよい。
【0035】
ヘテロアリール基とは、例えば、ピリジル基、フラニル基、チオフェニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、カルボリニル基、インドロカルバゾリル基、ベンゾフロカルバゾリル基、ベンゾチエノカルバゾリル基、ジヒドロインデノカルバゾリル基、ベンゾキノリニル基、アクリジニル基、ジベンゾアクリジニル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基などの、炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。ヘテロアリール基の環形成原子数は特に限定されないが、好ましくは、3以上40以下、より好ましくは3以上30以下の範囲である。
【0036】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した基を示し、この脂肪族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0037】
アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アルキルチオ基の炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルチオ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0038】
アリールオキシ基とは、例えば、フェノキシ基など、エーテル結合を介して芳香族炭化水素基が結合した基を示し、芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリールオキシ基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0039】
アリールチオ基とは、アリールオキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アリールチオ基における芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリールチオ基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0040】
アルケニル基とは、例えば、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0041】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは、3以上20以下の範囲である。
【0042】
アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルキニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上20以下の範囲である。
【0043】
アミノ基は、置換基を有していてもいなくてもよい。
【0044】
ニトロ基とは、-NOで表される基である。ここで他の官能基と結合するのは窒素原子である。
【0045】
シリル基とは、置換もしくは無置換のケイ素原子が結合した基を示し、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、プロピルジメチルシリル基、ビニルジメチルシリル基などのアルキルシリル基や、フェニルジメチルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、トリナフチルシリル基などのアリールシリル基などが挙げられる。ケイ素上の置換基はさらに置換されてもよい。シリル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上30以下の範囲である。
【0046】
シロキサニル基とは、例えば、トリメチルシロキサニル基などのエーテル結合を介したケイ素化合物基を示す。ケイ素上の置換基はさらに置換されてもよい。
【0047】
カルボニル基とは、-C(=O)-で表される基である。ここで他の官能基と結合するのは炭素原子である。
【0048】
カルボキシル基とは、カルボニル基に水酸基が結合した基である。
【0049】
アルコキシカルボニル基とは、カルボニル基にアルコキシ基やアリールオキシ基が結合した基である。
【0050】
カルバモイル基とは、カルボニル基にアミノ基が結合した官能基である。
【0051】
ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選ばれる原子を示す。
【0052】
シアノ基とは、構造が-C≡Nで表される基である。ここで他の官能基と結合するのは炭素原子である。
【0053】
一般式(1)で表される化合物の例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0054】
【化9】
【0055】
【化10】
【0056】
【化11】
【0057】
【化12】
【0058】
【化13】
【0059】
【化14】
【0060】
【化15】
【0061】
【化16】
【0062】
【化17】
【0063】
【化18】
【0064】
【化19】
【0065】
【化20】
【0066】
【化21】
【0067】
【化22】
【0068】
【化23】
【0069】
【化24】
【0070】
【化25】
【0071】
【化26】
【0072】
【化27】
【0073】
【化28】
【0074】
【化29】
【0075】
【化30】
【0076】
【化31】
【0077】
【化32】
【0078】
【化33】
【0079】
【化34】
【0080】
【化35】
【0081】
【化36】
【0082】
【化37】
【0083】
【化38】
【0084】
一般式(1)で表される構造を有するピロメテンホウ素錯体は、例えば、J.Org.Chem.,vol.64,No.21,pp.7813-7819(1999)、Angew.Chem.,Int.Ed.Engl.,vol.36,pp.1333-1335(1997)、Org.Lett.,vol.12,pp.296(2010)などに記載されている方法を参考に製造することができる。
【0085】
得られたピロメテンホウ素錯体は、再結晶やカラムクロマトグラフィーなどの有機合成的な精製を行った後、さらに、一般的に昇華精製と呼ばれる減圧加熱による精製により低沸点成分を除去し、純度を向上させることが好ましい。昇華精製における加熱温度は特に限定されないが、ピロメテンホウ素錯体の熱分解を防ぐ観点から、330℃以下が好ましい。
【0086】
ピロメテンホウ素錯体の純度は、発光素子特性の安定化の観点から、99重量%以上であることが好ましい。
【0087】
色純度を向上させる観点から、一般式(1)で表される構造を有するピロメテンホウ素錯体が励起光の照射により発する光の発光スペクトルが、シャープであることが好ましい。また、表示装置や照明装置において主流となっているトップエミッション素子では、マイクロキャビティ構造による共振効果により、高輝度および高色純度を達成できるが、発光スペクトルがシャープであると、この共振効果がより強く表れ、高効率化に有利である。この観点から、発光スペクトルの半値幅は、45nm以下であることが好ましく、35nm以下であることがより好ましい。
【0088】
<発光素子材料>
本発明に係る発光素子材料とは、一般式(1)で表される化合物からなり、発光素子のいずれかの層に使用される材料を表す。つまり、発光素子材料とは、本発明の化合物、すなわち前述の一般式(1)で表される構造を有するピロメテンホウ素錯体の用途を意味する。発光素子材料としては、例えば、後述する正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層および/または電極の保護膜(キャップ層)に使用される材料などが挙げられる。これらの中でも、高い素子効率と耐久性を有することから、発光層に好適に使用される。
【0089】
<発光素子>
次に、本発明の発光素子の実施の形態について説明する。本発明の発光素子は、陽極と陰極の間に、本発明の発光素子材料を含有する発光層を有し、電気エネルギーによって発光する。
【0090】
本発明の発光素子は、ボトムエミッション型、またはトップエミッション型のいずれであってもよい。これらの中でも、本発明の発光素子材料は、発光スペクトルの半値幅が狭く、素子効率が高いため、トップエミッション型発光素子に好ましく用いることができる。すなわち、本発明の発光素子はトップエミッション型発光素子であることが好ましい。トップエミッション型発光素子は、マイクロキャビティによる共振効果により、半値幅が狭いほど素子効率が高くなる。そのため、色純度と素子効率をより高いレベルで両立することができる。
【0091】
このような発光素子における陽極と陰極の間の層構成は、発光層のみからなる構成の他に、1)発光層/電子輸送層、2)正孔輸送層/発光層、3)正孔輸送層/発光層/電子輸送層、4)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層、5)正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、6)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、7)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層、8)正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層などの積層構成が挙げられる。
【0092】
さらに、上記の積層構成を、中間層を介して複数積層したタンデム型であってもよい。中間層としては、一般的に、中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層などが挙げられ、公知の材料構成を用いることができる。タンデム型の好ましい具体例として、9)正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷発生層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層、10)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/電荷発生層/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層などの、陽極と陰極の間に2層以上の発光層を有し、それぞれの発光層と発光層の間に、1層以上の電荷発生層を含む積層構成が挙げられる。
【0093】
また、上記各層は、それぞれ単一層、複数層のいずれでもよく、ドーピングされていてもよい。また、上記各層に加えて、保護層をさらに有してもよく、光学干渉効果により素子効率をより向上させることができる。
【0094】
以下に発光素子の構成の具体例を挙げるが、本発明の構成はこれらに限定されるものではない。
【0095】
(基板)
発光素子の機械的強度を保ち、熱変形が少なく、発光層に水蒸気や酸素が侵入することを防ぐバリア性を有するために、発光素子を基板上に形成することが好ましい。基板としては、特に限定されないが、例えば、ガラス板、セラミック版、樹脂製フィルム、樹脂薄膜、金属製薄板などが挙げられる。これらの中でも、透明であり、加工が容易である観点から、ガラス基板が好適に用いられる。特に、基板を通して光を取り出すボトムエミッション型発光素子の場合、高い透明性を有するガラス基板が好ましい。また、主にスマートフォンなどのモバイル機器において、フレキシブルディスプレイやフォルダブルディスプレイが増加しており、この用途には、樹脂製フィルムやワニスを硬化した樹脂薄膜が好適に用いられる。樹脂製フィルムとしては、耐熱フィルムが使用されており、具体的には、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムなどが例示される。
【0096】
また、基板の表面には、有機ELを駆動させるための各種配線、回路およびTFTによるスイッチング素子が設けられていてもよい。
【0097】
(陽極)
陽極は、前記基板上に形成されることが好ましい。基板と陽極の間に、各種配線、回路およびスイッチング素子が介在してもよい。陽極に用いる材料は、正孔を有機層に効率よく注入できる材料であれば特に限定されないが、ボトムエミッション型発光素子の場合、透明または半透明電極であることが好ましく、トップエミッション型発光素子の場合、反射電極であることが好ましい。
【0098】
透明または半透明電極を構成する材料としては、例えば、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物、金、銀、アルミニウム、クロムなどの金属;ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーなどが挙げられる。ただし、金属を用いるときは、光を半透過できるように、膜厚を薄くすることが好ましい。これらの中でも、透明性と安定性の観点から、酸化錫インジウム(ITO)がより好ましい。
【0099】
反射電極を構成する材料としては、全ての光に対し吸収がなく高い反射率を有するものが好ましく、例えば、アルミニウム、銀、白金などの金属が挙げられる。
【0100】
これらの電極材料を2種以上用いてもよく、複数の材料を積層してもよい。
【0101】
陽極の膜厚は、特に限定されないが、数nm~数百nmが好ましい。
【0102】
陽極の形成方法は、その形成材料に応じて最適な方法を選択することができるが、例えば、スパッタ法、蒸着法、インクジェット法などが挙げられる。例えば、金属酸化物によって陽極を形成する場合にはスパッタ法、金属によって陽極を形成する場合には蒸着法が好ましく用いられる。
【0103】
(陰極)
陰極は、有機層を挟んで陽極の反対側の表面に形成され、特に電子輸送層または電子注入層に接して形成されることが好ましい。陰極に用いる材料は、電子を効率よく発光層に注入できる材料であれば特に限定されないが、ボトムエミッション型発光素子の場合、反射電極であることが好ましく、トップエミッション型発光素子の場合、半透明電極であることが好ましい。
【0104】
陰極を構成する材料としては、一般的には、白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウム、インジウムなどの金属、これらの金属とリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの低仕事関数金属との合金や多層積層膜、酸化亜鉛、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物などが好ましい。これらの中でも、主成分としては、電気抵抗値や製膜しやすさ、膜の安定性、素子効率などの観点から、アルミニウム、銀、マグネシウムが好ましい。また、マグネシウムと銀で構成されると、電子輸送層および電子注入層への電子注入が容易になり、駆動電圧を低減することができるため好ましい。
【0105】
陰極の膜厚は、特に限定されないが、数nm~数μmが好ましい。
【0106】
陰極の形成方法は、その形成材料に応じて最適な方法を選択することができるが、例えば、スパッタ法、蒸着法などが挙げられる。例えば、金属によって陰極を形成する場合には蒸着法が好ましく用いられる。
【0107】
(保護層)
陰極保護のために、陰極上に保護層(キャップ層)を積層することが好ましい。保護層を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウムおよびインジウムなどの金属、これら金属を用いた合金、シリカ、チタニアおよび窒化ケイ素などの無機物、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、炭化水素系高分子化合物などの有機高分子化合物などが挙げられる。ただし、トップエミッション型発光素子の場合、保護層に用いられる材料は、可視光領域で光透過性のある材料から選択されることが好ましい。
【0108】
(正孔注入層)
正孔注入層は、陽極と正孔輸送層の間に挿入され、正孔注入を容易にする層である。正孔注入層は1層であっても複数の層が積層されていてもよい。正孔輸送層と陽極の間に正孔注入層が存在すると、より低電圧で駆動することができ、耐久性をより向上させることができる。さらに、素子のキャリアバランスが向上して、素子効率をより向上させることができる。
【0109】
正孔注入層を構成する正孔注入材料の好ましい一例として、電子供与性正孔注入材料(ドナー材料)が挙げられる。これらはHOMO準位が正孔輸送層より浅く、かつ陽極の仕事関数に近いため、陽極とのエネルギー障壁を小さくできる材料である。具体的には、ベンジジン誘導体、4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4’,4”-トリス(1-ナフチル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(1-TNATA)などのスターバーストアリールアミンなどの芳香族アミン系材料群、カルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体、チオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物、前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、PEDOT/PSSなどのポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾール、ポリシランのポリマーなどが例示される。これらを2種以上用いてもよい。また、複数の材料を積層して正孔注入層としてもよい。
【0110】
また正孔注入材料の別の好ましい一例として、電子受容性正孔注入材料(アクセプター材料)が挙げられる。ここで正孔注入層はアクセプター材料単独で構成されていても、前記のドナー材料にアクセプター材料をドープして用いられていてもよい。アクセプター材料は、単独で用いる場合は隣接している正孔輸送層との間で、またドナー材料にドープして用いる場合はドナー材料との間で電荷移動錯体を形成する材料である。このような材料を用いると、正孔注入層の導電性向上と、素子の駆動電圧低下に寄与し、素子効率および耐久性をより向上させる効果が得られるため、より好ましい。アクセプター材料としては、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ルテニウムなどの金属酸化物、トリス(4-ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネート(TBPAH)などの電荷移動錯体、1,4,5,8,9,11-ヘキサアザトリフェニレン-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN6)、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)、テトラシアノキノジメタン誘導体、ラジアレン誘導体、フッ素化銅フタロシアニンなどのn型有機半導体化合物、フラーレンなどが例示される。正孔注入層にアクセプター性化合物を含む場合、正孔注入層は1層であってもよいし、複数の層が積層されて構成されていてもよい。
【0111】
(正孔輸送層および電子阻止層)
正孔輸送層は、陽極から注入された正孔を発光層まで輸送する層であり、電子阻止層は、電子の移動を効率よく阻止する層である。正孔輸送層および電子阻止層はいずれも単層であっても複数の層が積層されて構成されていてもよい。また、正孔輸送層および電子阻止層に用いられる正孔輸送材料は、正孔注入効率が高く、注入された正孔を効率良く輸送することが好ましい。そのためには、適切なイオン化ポテンシャルを持ち、正孔移動度が大きく、に安定性に優れ、トラップとなる不純物が発生しにくい物質であることが好ましい。
【0112】
このような条件を満たす物質として、特に限定されるものではないが、例えば、ベンジジン誘導体、スターバーストアリールアミンと呼ばれる芳香族アミン系材料群、カルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、チオフェン誘導体、ベンゾチオフェン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、フルオレン誘導体、スピロフルオレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物、前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどのポリマーなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0113】
(発光層)
発光層は、正孔と電子の再結合によって発生した励起エネルギーにより発光する層である。発光層は単一の材料で構成されていてもよいが、色純度の観点から第一の化合物と、強い発光を示すドーパントである第二の化合物とを有することが好ましい。第一の化合物として、例えば、電荷移動を担うホスト材料や、TADF材料が好適な例として挙げられる。
【0114】
本発明の一般式(1)で表される構造を有する化合物からなる発光素子材料は、発光スペクトルの半値幅が狭く高色純度を達成できること、嵩高い構造によって分子間の距離を離し、濃度消光を防ぐことが可能となることから、発光層のドーパントである第二の化合物として用いることが好ましい。第二の化合物の含有量は、濃度消光現象をより抑制する観点から、発光層中、5重量%以下が好ましく、2重量%以下がより好ましい。一方、エネルギー移動をより効率よく行う観点から、第二の化合物の含有量は、発光層中、0.1重量%以上が好ましい。
【0115】
ホスト材料としては、特に限定されないが、例えば、ナフタセン、ピレン、アントラセン、フルオランテンなどの縮合アリール環を有する化合物やその誘導体、N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニル-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミンなどの芳香族アミン誘導体、トリス(8-キノリナート)アルミニウム(III)をはじめとする金属キレート化オキシノイド化合物、ジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、ピロロピロール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、トリアジン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体などのポリマーなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよいし、2種以上のホスト材料を積層してもよい。これらの中でも、カルバゾール誘導体、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体が好ましい。
【0116】
ドーパント材料として、一般式(1)で表される構造を有するピロメテンホウ素錯体以外の蛍光発光材料を含有してもよい。具体的には、ナフタセン、ピレン、アントラセン、フルオランテンなどの縮合アリール環を有する化合物やその誘導体、ヘテロアリール環を有する化合物やその誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、アミノスチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、スチルベン誘導体、アルダジン誘導体、ピロメテン誘導体、ジケトピロロ[3,4-c]ピロール誘導体、クマリン誘導体、アゾール誘導体およびその金属錯体、芳香族アミン誘導体などが挙げられる。また同一分子内にホウ素と窒素を含有することにより、多重共鳴効果を利用した分子でもよい。これらを2種以上用いてもよい。
【0117】
また、ドーパント材料として、リン光発光材料を含有してもよい。リン光発光材料としては、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)およびレニウム(Re)からなる群から選択される少なくとも一つの金属を含む金属錯体化合物が好ましく、高効率発光の観点から、イリジウム錯体または白金錯体がより好ましい。配位子は、フェニルピリジン骨格、フェニルキノリン骨格、カルベン骨格などの含窒素ヘテロアリール基を有することが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0118】
ドーパント材料は、一般式(1)で表される構造を有する発光素子材料のみからなることが好ましい。
【0119】
発光層には、上記ホスト材料またはドーパント材料の他に、発光層内のキャリアバランスを調整するためや発光層の層構造を安定化させるための第3成分を更に含有してもよい。ただし、第3成分としては、ホスト材料およびドーパント材料との間で相互作用を起こさないような材料を選択することが好ましい。
【0120】
遅延蛍光材料は、一重項励起状態と三重項励起状態間のエネルギーギャップを小さくすることにより、三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差を促進し、一重項励起子の生成確率を向上させた材料である。このTADF機構による遅延蛍光を利用することにより、理論的内部効率を100%まで高めることができる。さらに遅延蛍光性を有する第一の化合物の一重項励起状態から第二の化合物の一重項励起状態へとフェルスター型のエネルギー移動が起こる場合、第二の化合物の一重項励起状態からの蛍光発光が観測される。ここで、第二の化合物がシャープな発光スペクトルを有する蛍光発光材である場合、素子効率および色純度により優れた発光素子を得ることができる。このように、発光層が遅延蛍光材料を含有すると、素子効率がより向上し、ディスプレイの低消費電力化に寄与する。遅延蛍光材料は、単一の材料で遅延蛍光を示す材料であってもいいし、エキサイプレックス錯体を形成する場合のように複数の材料で遅延蛍光を示す材料であってもよい。
【0121】
遅延蛍光性の化合物としては、単一でも複数の材料でもよく、公知の材料を用いることができる。具体的には、例えば、ベンゾニトリル誘導体、トリアジン誘導体、ジスルホキシド誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ジヒドロフェナジン誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体などが挙げられる。このような遅延蛍光性化合物として、特に限定されるものではないが、以下のような例が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0122】
【化39】
【0123】
【化40】
【0124】
【化41】
【0125】
【化42】
【0126】
【化43】
【0127】
【化44】
【0128】
上記第一の化合物が、遅延蛍光性の化合物であり、上記第二の化合物が、本発明の一般式(1)で表される構造を有する化合物からなる発光素子材料であることが好ましい。また、第一の化合物が遅延蛍光性の化合物である場合、発光層が、励起一重項エネルギーが第一の化合物の励起一重項エネルギーよりも大きい第三の化合物をさらに含むことが好ましい。これにより、第三の化合物は発光材料のエネルギーを発光層内に閉じ込める機能を有することができ、効率よく発光させることが可能となる。また、第三の化合物の最低励起三重項エネルギーが、第一の化合物の最低励起三重項エネルギーよりも大きいことが好ましい。
【0129】
第三の化合物としては、電荷輸送能が高く、かつガラス転移温度が高い有機化合物であることが好ましい。第三の化合物として、特に限定されるものではないが、以下のような例が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0130】
【化45】
【0131】
【化46】
【0132】
【化47】
【0133】
【化48】
【0134】
【化49】
【0135】
【化50】
【0136】
【化51】
【0137】
【化52】
【0138】
【化53】
【0139】
【化54】
【0140】
(電子輸送層および正孔阻止層)
電子輸送層は、陰極から電子が注入され、さらに電子を輸送する層であり、正孔阻止層は、正孔の移動を効率よく阻止する層である。電子輸送層および正孔阻止層に用いられる電子輸送材料は、電子親和力が大きいこと、電子移動度が大きいこと、安定性に優れること、およびトラップとなる不純物が発生しにくい物質であることが好ましい。また、結晶化による膜質劣化を抑制する観点から、分子量400以上の化合物が好ましい。
【0141】
電子輸送材料としては、多環芳香族誘導体、スチリル系芳香環誘導体、キノン誘導体、リンオキサイド誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)などのキノリノール錯体、ベンゾキノリノール錯体、ヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体およびフラボノール金属錯体などの各種金属錯体が挙げられる。駆動電圧を低減し、素子効率をより向上させる観点から、電子受容性窒素を含むヘテロアリール基を有する化合物を用いることが好ましい。ここで、電子受容性窒素とは、隣接原子との間に多重結合を形成している窒素原子を表す。電子受容性窒素を含むヘテロアリール基は、電子親和力が大きいため、陰極から電子が注入しやすくなり、より駆動電圧を低減することができる。また、発光層への電子の供給が多くなり、再結合確率が高くなるため素子効率がより向上する。電子受容性窒素を含むヘテロアリール基構造を有する化合物としては、例えば、ピリジン誘導体、トリアジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、キナゾリン誘導体、ナフチリジン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、フェナンスロイミダゾール誘導体、ビピリジンやターピリジンなどのオリゴピリジン誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0142】
また、電子輸送材料が縮合多環芳香族骨格を有していると、ガラス転移温度が向上し、電子移動度が大きく、駆動電圧を低減することができるためより好ましい。このような縮合多環芳香族骨格としては、キノリノール錯体、トリアジン誘導体、フルオランテン骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格またはフェナントロリン骨格が好ましい。
【0143】
電子輸送層は、ドナー性材料を含有してもよい。ここで、ドナー性材料とは、電子注入障壁の改善により、陰極または電子注入層からの電子輸送層への電子注入を容易にし、さらに電子輸送層の電気伝導性を向上させる化合物である。ドナー性材料の好ましい例としては、Liなどのアルカリ金属、LiFなどのアルカリ金属を含有する無機塩、リチウムキノリノールなどのアルカリ金属と有機物との錯体、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属を含有する無機塩、アルカリ土類金属と有機物との錯体、EuやYbなどの希土類金属、希土類金属を含有する無機塩、希土類金属と有機物との錯体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、金属リチウム、希土類金属、リチウムキノリノール(Lq)が好ましい。
【0144】
(電荷発生層)
本発明における電荷発生層は、電圧の印加により電荷を発生または分離し、隣接する層へ電荷を注入する層である。電荷発生層は、一つの層で形成されていてもよく、複数の層が積層されていてもよい。一般的に、電荷として電子を発生しやすいものはn型電荷発生層と呼ばれ、正孔を発生しやすいものはp型電荷発生層と呼ばれる。電荷発生層は二重層からなることが好ましく、n型電荷発生層およびp型電荷発生層からなるpn接合型電荷発生層がより好ましい。pn接合型電荷発生層は、発光素子中において、電圧が印加されることにより電荷を発生、または電荷を正孔および電子に分離し、これらの正孔および電子を正孔輸送層および電子輸送層を経由して発光層に注入する。具体的には、複数の発光層が積層された発光素子において、中間層である電荷発生層として機能する。n型電荷発生層は陽極側に存在する第一発光層に電子を供給し、p型電荷発生層は陰極側に存在する第二発光層に正孔を供給する。そのため、複数の発光層を積層した発光素子における素子効率をより向上させ、駆動電圧を低減することができ、素子の耐久性をより向上させることができる。すなわち、本発明の発光素子は、陽極と陰極の間に2層以上の発光層を有し、それぞれの発光層と発光層の間に1層以上の電荷発生層を有することが好ましい。
【0145】
n型電荷発生層は、n型ドーパントおよびn型ホストからなり、これらは従来の材料を用いることができる。例えば、n型ドーパントとして、電子輸送層の材料として例示したドナー性材料が好適に用いられる。これらの中でも、アルカリ金属もしくはその塩、希土類金属が好ましく、金属リチウム、フッ化リチウム(LiF)、リチウムキノリノール(Liq)、金属イッテルビウムがさらに好ましい。また、n型ホストとしては、電子輸送材料として例示したものが好適に用いられる。これらの中でも、トリアジン誘導体、フェナントロリン誘導体、オリゴピリジン誘導体が好ましく、フェナントロリン誘導体、ターピリジン誘導体がより好ましく、下記一般式(5)で表されるフェナントロリン誘導体がさらに好ましい。すなわち、本発明の発光素子は、電荷発生層に一般式(5)で表されるフェナントロリン誘導体を含有することが好ましい。
【0146】
【化55】
【0147】
上記一般式(5)中、Ar51は、p価の芳香族炭化水素基、およびp価の芳香族複素環基からなる群より選ばれる。pは1~3の自然数である。R51~R58は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、複素環基、置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基を示す。Ar51のうち、p個のフェナントロリル基による置換位置は任意の位置である。
【0148】
芳香族炭化水素基は、例えば、1価の場合、アリール基である。芳香族炭化水素基としては、合成容易性、昇華性の観点から、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基や、これらの水素原子の少なくとも1部を除いた基が好ましい。芳香族炭化水素基の環形成炭素数は、好ましくは6以上40以下、より好ましくは6以上30以下の範囲である。また、隣接する2つの炭素原子上に各々置換基がある場合、それらの置換基同士で環構造を形成していてもよい。
【0149】
芳香族複素環基とは、炭素以外の原子を1個以上環内に有する環状芳香族基を示し、例えば、1価の場合、ヘテロアリール基である。芳香族複素環基の環形成原子数特に限定されないが、好ましくは3以上40以下、より好ましくは3以上30以下の範囲である。
【0150】
芳香族炭化水素基または芳香族複素環基は、フェナントリル基以外にさらに置換基を有していてもよい。
【0151】
昇華性および薄膜形成性の観点から、pは2が好ましい。
【0152】
一般式(5)で表されるフェナントロリン誘導体の一例を以下に示す。
【0153】
【化56】
【0154】
上記p型電荷発生層は、p型ドーパントおよびp型ホストからなり、これらは従来の材料を用いることができる。例えば、p型ドーパントとして、正孔注入層の材料として例示したアクセプター材料や、ヨウ素、FeCl、FeF、SbClなどが好適に用いられる。具体的には、HAT-CN6、F4-TCNQ、テトラシアノキノジメタン誘導体、ラジアレン誘導体、ヨウ素、FeCl、FeF、SbClなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、HAT-CN6や、(2E,2’E,2’’E)-2,2’,2’’-(シクロプロパン-1,2,3-トリイリデン)トリス(2-(ペルフルオロフェニル)-アセトニトリル)、(2E,2’E,2’’E)-2,2’,2’’-(シクロプロパン-1,2,3-トリイリデン)トリス(2-(4-シアノペルフルオロフェニル)-アセトニトリル)などのラジアレン誘導体がより好ましい。p型ドーパントの薄膜を形成してもよく、その膜厚は10nm以下が好ましい。また、p型ホストとして、アリールアミン誘導体が好ましい。
【0155】
(電子注入層)
電子注入層は、陰極から電子輸送層への電子の注入を助ける層であり、陰極と電子輸送層の間に形成されることが好ましい。電子注入層に用いられる電子注入材料としては、例えば、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環構造を有する化合物や、上記のドナー性材料などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、トリアジン誘導体、フェナントロリン誘導体、オリゴピリジン誘導体が好ましく、フェナントロリン誘導体、ターピリジン誘導体がより好ましく、上記一般式(5)で表されるフェナントロリン誘導体がさらに好ましい。すなわち、本発明の発光素子は、陰極と電子輸送層の間に電子注入層を有し、電子注入層に一般式(5)で表されるフェナントロリン誘導体を含有することが好ましい。
【0156】
また、電子注入層に絶縁体や半導体の無機物を用いることもできる。これらの材料を用いることにより、発光素子の短絡を抑制し、電子注入性を向上させることができる。
【0157】
このような絶縁体としては、アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物などの金属化合物が好ましい。これらを2種以上用いてもよい。
【0158】
(発光素子の製造方法)
発光素子を構成する上記各層の形成方法は、ドライプロセスまたはウェットプロセスのいずれでもよく、例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、コーティング法、インクジェット法、印刷法などが挙げられる。これらの中でも、素子特性の観点から、抵抗加熱蒸着が好ましい。
【0159】
有機層の厚みは、発光物質の抵抗値によるため限定することはできないが、1~1000nmであることが好ましい。発光層、電子輸送層、正孔阻止層、正孔輸送層、電子阻止層、電荷発生層の膜厚はそれぞれ、好ましくは1nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上100nm以下である。
【0160】
(発光素子の特性)
本発明の実施の形態に係る発光素子は、電気エネルギーを光に変換できる機能を有する。ここで電気エネルギーとしては主に直流電流が使用されるが、パルス電流や交流電流を用いることも可能である。電流値および電圧値は特に制限はなく、素子の目的によって要求される特性値が異なるが、素子の消費電力や寿命の観点から低電圧で高い輝度が得られることが好ましい。
【0161】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、色純度をより高める観点から、通電による蛍光発光スペクトルにおいて、半値幅が、45nm以下であることが好ましく、35nm以下がより好ましい。
【0162】
(発光素子の用途)
本発明の実施の形態に係る発光素子は、例えば、マトリクスおよび/またはセグメント方式で表示するディスプレイ等の表示装置として好適に用いられる。
【0163】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、各種機器等のバックライトとしても好ましく用いられる。バックライトは、主に自発光しないディスプレイ等の表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶ディスプレイ、時計、オーディオ装置、自動車パネル、表示板および標識などの表示装置に使用される。特に、液晶ディスプレイ、中でも薄型化が検討されているパソコン用途のバックライトに本発明の発光素子は好ましく用いられ、従来のものより薄型で軽量なバックライトを提供できる。
【0164】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、各種照明装置としても好ましく用いられる。本発明の実施の形態に係る発光素子は、高い素子効率と高色純度との両立が可能であり、さらに、薄型化や軽量化が可能であることから、低消費電力と鮮やかな発光色、高いデザイン性を合わせ持った照明装置が実現できる。
【実施例0165】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0166】
まず、各実施例および比較例における評価方法を以下に記載する。
【0167】
H-NMR)
実施例1~2により得られたピロメテンホウ素錯体について、超伝導FTNMR EX-270(日本電子(株)製)を用いて、重クロロホルム溶液にて、H-NMR測定を行い、その構造を同定した。
【0168】
(純度測定および質量分析)
実施例1~2により得られたピロメテンホウ素錯体について、超高速液体クロマトグラフNexera X2((株)島津製作所製)と質量分析計LCMS-2020((株)島津製作所制)を用いて、液体クロマトグラフによる純度測定と質量分析を行った。なお、純度の指標として、液体クロマトグラフィー面積百分率の値を用いた。
【0169】
(吸収スペクトル)
実施例1~2により得られたピロメテンホウ素錯体をトルエンに溶解した濃度10-5mol/Lの希釈溶液について、(株)日立ハイテクサイエンス製の分光光度計(U-3010)を用いて吸収スペクトルを測定し、ピーク波長を求めた。
【0170】
(発光スペクトル)
実施例1~2により得られたピロメテンホウ素錯体をトルエンに溶解した濃度10-5mol/Lの希釈溶液について、(株)堀場製作所製の蛍光分光光度計(FluoroMax-4P)を用いて、発光スペクトルを測定し、ピーク波長と半値幅を求めた。
【0171】
(発光素子特性)
各実施例および比較例により得られた発光素子に、電流密度が10mA/cmとなるように電圧を印加し、コニカミノルタ(株)製分光放射輝度計CS-1000を用いて、発光スペクトルを測定した。得られた発光スペクトルから、ランバシアン放射を行ったと仮定し、外部量子効率EQEを算出し、素子効率の指標とした。
【0172】
また、各実施例および比較例により得られた発光素子に、電流密度が10mA/cmとなるように電圧を印加した時の発光スペクトルを同様に測定し、ピーク波長および半値幅を算出した。
【0173】
(耐久性)
また、各実施例および比較例により得られた発光素子に、電流密度が10mA/cmとなるように電圧を印加しながら、フォトダイオードを用いて、発光素子の輝度を測定し、初期輝度の90%の輝度となる時間(LT90)を測定し、耐久性の指標とした。
【0174】
各実施例および比較例において、正孔注入層、正孔輸送層、正孔阻止層、ホスト材料、TADF材料、電子阻止層、電子輸送層、電荷発生層、電子注入層に用いた化合物の構造を以下に示す。
【0175】
【化57】
【0176】
実施例1
(化合物D-1の合成)
下記の反応スキームに従って化合物D-1を合成した。
【0177】
【化58】
【0178】
4-メチル-2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1H-ピロール5.00gと1-ブロモ-4-ターシャリーブチルベンゼン5.40gとリン酸カリウム10.2gと酢酸パラジウム0.11gとSPhos0.40gを反応容器に入れ、ブタノール48mLを加え、窒素気流下、2時間加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却し、セライトろ過後、溶媒を留去し、シリカゲル化カラムクロマトグラフィーにより精製することにより、2-(4-ターシャリーブチルフェニル)-4-メチル-1H-ピロール2.72gを得た。
【0179】
次に、2-(4-ターシャリーブチルフェニル)-4-メチル-1H-ピロール1.30gとo-キシレン30mLを反応容器に入れ、1-ナフトイルクロリド1.39gを加え、窒素気流下2.5時間加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却し、溶媒を留去し、メタノールで洗浄することにより、化合物D-1A1.77gを得た。
【0180】
続いて、化合物D-1A1.77gと3-(4-ターシャリーブチルフェニル)-4,5-ジヒドロ-1H-べンゾ[g]インドール1.60gとジクロロエタン100mLを反応容器に入れ、トリフルオロメタンスルホン酸無水物2.72gを加え、窒素気流下、60℃で2時間加熱攪拌した。室温まで冷却し、水を加え、ジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムを添加し、ろ過し、溶媒を留去した。そこにジクロロエタン25mLとジイソプロピルエチルアミン4.10mLと三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体3.03mLを加え、窒素気流下、室温で1時間撹拌した。水を加え、ジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムを添加し、ろ過し、溶媒を留去した。シリカゲル化カラムクロマトグラフィーにより精製することにより、紫色粉末2.76gを得た。得られた粉末をH-NMRおよびLC-MSにより分析し、紫色粉末がピロメテンホウ素錯体である化合物D-1であることを確認した。
H-NMR(CDCl (d=ppm)):H-NMR(CDCl(d=ppm)):8.72(d、1H),7.89-7.82(m、3H),7.57-7.12(m,11H),6.78(d,1H),6.56(d,1H),6.27-6.24(m,2H),6.03(d,1H),2.79(t,2H),2.30(t,2H),1.37(s,9H),1.12(s,9H),1.01(s,3H)。
【0181】
化合物D-1の溶液中の発光特性を以下に示す。
吸収スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 595nm
蛍光スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 621nm、半値幅 28nm。
【0182】
さらに純度を上げるために昇華精製を行った。化合物D-1の入った金属容器をガラス管中に設置し、油拡散ポンプを用いて、1×10-3Paの圧力下、290℃で加熱して化合物D-1を昇華させた。ガラス管壁に付着した固体を回収し、前述の方法により分子量と純度を測定したところ、分子量は699、純度は99%であった。
【0183】
(発光素子の作製)
陽極としてITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄し、乾燥した。この基板を素子作製の直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の圧力が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT-CN6を5nm、正孔輸送層として、HT-1を85nm蒸着した。次に、第二正孔輸送層として、H-1を10nm蒸着した。発光層として、ホスト材料としてH-1と、TADF材料であるH-2と、ドーパント材料として化合物D-1を、重量比で80:0.5:19.5になるようにして40nmの厚さに蒸着した。さらに正孔阻止層としてET-1を10nm、電子輸送層としてET-2を35nm蒸着した。電子注入層として2E-1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を100nm共蒸着して陰極とし、5mm×5mm角の発光素子を作製した。
【0184】
この発光素子について、前述の方法により素子特性を評価したところ、発光ピーク波長624nm、半値幅30nm、外部量子効率11.2%であった。また、前述の方法により耐久性を評価したところ、LT90は165時間であった。
【0185】
実施例2
(化合物D-2の合成)
下記の反応スキームに従って化合物D-2を合成した。
【0186】
【化59】
【0187】
2-(4-ターシャリーブチルフェニル)-4-メチル-1H-ピロール0.70gとo-キシレン16mLを反応容器に入れ、4-メトキシ-2-メチル-ベンゾイルクロリド0.80gを加え、窒素気流下1.5時間加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却し、溶媒を留去し、メタノールで洗浄することにより、化合物D-2A0.87gを得た。
【0188】
続いて、化合物D-2A0.87gと3-(4-ターシャリーブチルフェニル)-4,5-ジヒドロ-1H-べンゾ[g]インドール0.80gとジクロロエタン48mLを反応容器に入れ、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1.36gを加え、窒素気流下、60℃で4.5時間加熱攪拌した。室温まで冷却し、水を加え、ジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムを添加し、ろ過し、溶媒を留去した。そこにジクロロエタン48mLとジイソプロピルエチルアミン2.00mLと三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体1.50mLを加え、窒素気流下、室温で撹拌した。水を加え、ジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムを添加し、ろ過し、溶媒を留去した。シリカゲル化カラムクロマトグラフィーにより精製することにより、紫色粉末0.70gを得た。得られた粉末をH-NMRおよびLC-MSにより分析し、紫色粉末がピロメテンホウ素錯体である化合物D-2であることを確認した。
H-NMR(CDCl (d=ppm)):H-NMR(CDCl(d=ppm)):8.67(d、1H),7.85(s、2H),7.48-7.19(m,5H),6.99(d,1H),6.93(d、1H),6.86(d、1H),6.77(d,1H),6.61(d,1H),6.44(d,1H),6.30(s,1H),6.25(s,1H),3.78(s,3H),2.81(t,2H),2.42-2.35(m,2H),2.06(s,3H),1.35(m,12H),1.25(s,9H)。
【0189】
化合物D-2の溶液中の発光特性を以下に示す。
吸収スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 592nm
蛍光スペクトル(溶媒:トルエン):λmax 617nm、半値幅 27nm。
【0190】
さらに純度を上げるために昇華精製を行った。化合物D-2の入った金属容器をガラス管中に設置し、油拡散ポンプを用いて、1×10-3Paの圧力下、260℃で加熱して化合物D-2を昇華させた。ガラス管壁に付着した固体を回収し、前述の方法により分子量と純度を測定したところ、分子量は693、純度は99%であった。
【0191】
(発光素子の作製)
ドーパント材料として、化合物D-1に代えて化合物D-2を用いた以外は実施例1と同様にして発光素子を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0192】
(実施例3~4、比較例1~3)
各実施例および比較例に用いた発光素子材料D-3~D-4、C-1~C-3の構造を以下に示す。
【0193】
【化60】
【0194】
実施例3~4、比較例1~3
ドーパント材料として、化合物D-1に代えて表1に記載した化合物を用いた以外は実施例1と同様にして発光素子材料および発光素子を作製した。評価結果を表1に示す。
【0195】
【表1】
【0196】
実施例1~4は、比較例1~3に比べて、素子効率(外部量子効率)と耐久性(LT90)が向上した。
【0197】
実施例5
(トップエミッション型発光素子の作製)
金属アルミニウムによる反射膜100nmとITO透明導電膜50nmを順に堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄し、乾燥した。この基板を素子作製の直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の圧力が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT-CN6を5nm、正孔輸送層として、HT-1を190nm蒸着した。次に、第二正孔輸送層として、H-1を10nm蒸着した。発光層として、ホスト材料としてH-1と、TADF材料であるH-2と、ドーパント材料として化合物D-1とを、重量比で80:0.5:19.5になるようにして40nmの厚さに蒸着した。さらに正孔阻止層としてET-1を10nm、電子輸送層としてET-2を30nmを蒸着した。電子注入層として2E-1を0.8nm蒸着した後、マグネシウムと銀を15nm共蒸着して陰極とし、5mm×5mm角の発光素子を作製した。
【0198】
この発光素子について、前述の方法により素子特性を評価したところ、発光ピーク波長624nm、電流効率38cd/Aであった。
【0199】
実施例6~8、比較例4
ドーパント材料として、化合物D-1に代えて表2に記載した化合物を用いた以外は実施例5と同様にして発光素子材料および発光素子を作製した。評価結果を表2に示す。
【0200】
【表2】
【0201】
実施例5~8は、比較例4に比べて、半値幅の狭い材料を用いることで、電流効率が向上した。
【0202】
実施例9
(トップエミッション型発光素子の作製)
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38mm×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン”56(商品名、フルウチ化学(株)製)を用いて15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT-CN6を5nm、続いて正孔輸送層として、HT-1を50nm蒸着した。次に、正孔阻止層としてH-1を10nm、発光層として、ホスト材料H-1と、化合物D-1を、重量比で99.5:0.5になるようにして、20nmの厚さに蒸着した。さらに電子阻止層としてET-1を10nm、電子輸送層として化合物ET-3を35nmの厚さに積層した。続いてn型電荷発生層として、n型ホストである化合物ET-3と、n型ドーパントである金属リチウムを、蒸着速度比が99:1になるようにして10nm積層した。さらにp型電荷発生層としてHAT-CN6を10nm積層した。その上に上記と同様に正孔輸送層50nm、正孔阻止層10mn、発光層20nmを形成した。さらに電子阻止層としてET-2を10nm、電子輸送層としてET-3を35nm順に蒸着した。次に、電子注入層として2E-1を0.5nm蒸着した後、マグネシウムと銀を1000nm共蒸着して陰極とし、5mm×5mm角のタンデム型発光素子を作製した。
【0203】
得られた発光素子について前述の方法により評価したところ、発光ピーク波長626nm、半値幅32nm、外部量子効率20.0%、LT90は170時間であった。