(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077005
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】自動巻き上げ連鎖用伝達機構
(51)【国際特許分類】
G04B 5/02 20060101AFI20240530BHJP
G04B 11/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
G04B5/02
G04B11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023198889
(22)【出願日】2023-11-24
(31)【優先権主張番号】22209734.7
(32)【優先日】2022-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴィラレー, ピエール
(57)【要約】 (修正有)
【課題】手動巻き上げ中にユーザが感じる感覚の最適化を可能にする、時計自動巻き上げ連鎖用伝達機構を提供する。
【解決手段】楔止めにより機能する、第一フリーホイール40、障害物により機能する少なくとも1つの一方向連結器、または障害物により機能する少なくとも1つの第二フリーホイール51a、51bを含む、逆転器5、及び巻き上げ可動錘60、の連続組立体を含む、時計400の自動巻き上げ連鎖用伝達機構110。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
楔止めにより機能する、第一フリーホイール(40)、
障害物により機能する少なくとも1つの一方向連結器、または障害物により機能する少なくとも1つの第二フリーホイール(51a、51b)を含む、逆転器(50)、及び
巻き上げ可動錘(60)、
の連続組立体を含む、
時計(400)の自動巻き上げ連鎖用伝達機構(110)。
【請求項2】
前記逆転器(50)と前記第一フリーホイール(40)は、互いに直接機械的に連結される、特に前記逆転器(50)の出力部と前記第一フリーホイール(40)の入力部との直接噛み合いにより直接接続される、
請求項1に記載の伝達機構(110)。
【請求項3】
前記逆転器(50)の出力部、及び
前記第一フリーホイール(40)の入力部、
の間の第一減速比は、8より小さい、または6より小さい、または5より小さい、
請求項1または2に記載の伝達機構(110)。
【請求項4】
少なくとも1つの第二フリーホイール(51a、51b)は、少なくとも1つの爪(53)を有するフリーホイールである、
請求項1から3のいずれか一項に記載の伝達機構(110)。
【請求項5】
前記少なくとも1つの爪(53a、53b)は、セラミック製である、
請求項4に記載の伝達機構(110)。
【請求項6】
前記第一フリーホイール(40)は、楔止めにより機能する、少なくとも1つの阻止要素(43)を、特に
- ボールまたはローラまたはランナといった転がり要素、特にセラミックボールまたはセラミックローラまたはセラミックランナといったセラミック転がり要素、または
- シェイプランナまたはカムといった摺動要素、特にセラミックシェイプランナまたはセラミックカムといったセラミック摺動要素、
を含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載の伝達機構(110)。
【請求項7】
前記逆転器は、前記逆転器の出力部が、前記逆転器の入力部の方向に関わらず、同一の所定の方向に回転するよう、2つの第二フリーホイール(51a、51b)を含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載の伝達機構(110)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の伝達機構(110)を含む、自動巻き上げ連鎖(200)または自動巻き上げモジュール(250)。
【請求項9】
前記巻き上げ可動錘(60)から前記第一フリーホイール(40)へ延長し、6より小さい、または5より小さい、または4より小さい第二減速比を有する、第一減速連鎖を含む、及びまたは
前記第一フリーホイール(40)から前記香箱(20)のラチェット(21)へ延長し、20より大きい、または25より大きい、または30より大きい第三減速比を有する、第二減速連鎖を含む、
請求項8に記載の自動巻き上げ連鎖(200)または自動巻き上げモジュール(250)。
【請求項10】
前記逆転器(50)の入力部と前記巻き上げ可動錘(60)は、互いに直接、機械的に接続される、特に前記巻き上げ可動錘(60)の歯(61)と噛み合う、前記逆転器(50)の入力部により、直接接続される、
請求項8または9に記載の自動巻き上げ連鎖(200)または自動巻き上げモジュール(250)。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載の伝達機構(110)、及びまたは請求項8から10のいずれか一項に記載の自動巻き上げ連鎖(200)、及びまたは請求項8から10のいずれか一項に記載の自動巻き上げモジュール(250)を含む、時計ムーブメント(300)。
【請求項12】
手動巻き上げ連鎖(100)、特に作動部材、特に軸(10)によりユーザが操作可能な手動巻き上げ連鎖を含む、
請求項11に記載の時計ムーブメント(300)。
【請求項13】
前記軸(10)を操作することによる手動巻き上げ中に解放されるよう適合された自動巻き上げ連鎖(200)を含む、
請求項11または12に記載の時計ムーブメント(300)。
【請求項14】
- 請求項11から13に記載のムーブメント(300)、及びまたは
- 請求項8から10に記載の自動巻き上げ連鎖(200)、及びまたは
- 請求項8から10に記載の自動巻き上げモジュール(250)、及びまたは
- 請求項1から7のいずれか一項に記載の伝達機構(110)
を含む、時計(400)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動巻き上げ連鎖用伝達機構に関する。本発明はまた、当該種類の伝達機構を含む、自動巻き上げ連鎖に関する。本発明はまた、当該種類の伝達機構または当該種類の自動巻き上げ連鎖を含む、時計ムーブメントに関する。本発明は最後に、当該種類の伝達機構または当該種類の自動巻き上げ連鎖または当該種類の時計ムーブメントを含む、時計に関する。
【背景技術】
【0002】
爪フリーホイールを用いた逆転システムは、今日、時計において、香箱ばねの自動巻き上げ用に広く使用されている。爪フリーホイールは、
- 特に低い死角による、高性能の自動巻き上げ、
- 汚染への低い感度、及び
- 低い固有摩擦
という利点を可能にする、信頼性がある頑強な解決策を構成する。
【0003】
揺動錘に対する逆転システムの死角を可能な限り低くするため、逆転システムを揺動錘に可能な限り近づけて配置することが好ましい。しかしながら、自動巻き上げ連鎖の高い伝達率のため、この種の配置は、手動巻き上げ中に、逆転システムの歯車に過大な機械的負荷を発生させる。実際、逆転システムが揺動錘に近づくにつれて、巻き上げ軸からの伝達率が高くなり、このため、手動巻き上げ中に逆転システムの一部を構成する歯車が早く回転することになる。この種の配置において、逆転システムの歯車の回転速度は、3000Hzより大きい、または5000Hzより大きい振動数で、爪の揺動を発生しかねない。こうした過度の負荷は、爪及びまたは補完歯の時期尚早な摩耗を通じて、爪フリーホイールを悪化させる傾向にある。更に、手動巻き上げ中、揺動錘に最も近い爪フリーホイールの爪の揺動は、巻き上げ軸に伝達される高いトルクを発生する。このため、運動学的システムが耐えなければならないトルクも高くなり、これはまた、各種歯車列の時期尚早な経年劣化を引き起こしかねない。
【0004】
感覚的観点から、こうした負荷は、巻き上げ軸に引っかく感覚と、小型時計のユーザに対する不愉快な騒音を発生しかねない。
【0005】
逆転システムの時期尚早な摩耗を軽減する、手動巻き上げ中の自動巻き上げ連鎖の解放を可能にする、フリーホイール解決策が知られている。解放が手動巻き上げ中、即ちユーザが発揮するトルクの影響によってのみに効果を発揮すると仮定すると、従来技術から既知のフリーホイールは、より単純な設計であり、逆転システムを構成するものに比べて低い性能を提供する。当該フリーホイールは、歯付歯車と障害物により協働するよう適合された1以上の板ばねまたは爪を有する、高い解放トルクを発生可能な、基本的な形状を有してもよい。フリーホイールは、通常、手動巻き上げ中の高すぎる回転速度を防止し、時期尚早な摩耗を防止するため、香箱ラチェットに可能な限り近く配置される。
【0006】
この比較的単純な設計のため、従来技術から既知のフリーホイールは、
- 手動巻き上げ中にユーザが感じる、巻き上げ軸のトルクの変動、
- 板ばねまたは爪の揺動により生じる、引っかく感覚及びまたは騒音、
- 手動巻き上げに続く自動巻き上げの効率の減少、
といった欠点を生じかねない。
【0007】
非特許文献1において、手動巻き上げ中の自動巻き上げ連鎖の解放が説明される。フリーホイールが、ラチェット駆動可動部に配置される。当該フリーホイールは、例えば、ピニオン周りのラチェット駆動歯車と協働することが意図される、ピニオンに固定されたアームを有するばねを含む。当該タイプのフリーホイールを解放するのに必要なトルクは、比較的高いことがある。この高い解放トルクは、それが逆転システム解放トルクよりも大きい場合には、単純にフリーホイールが部分的にしか機能しないまたは全く機能しなくなるため、問題となりかねない。実際、フリーホイールは、逆転システムの著しい楔止めまたは引っかきの場合を除き解放しなくなるかもしれず、その場合には、ユーザにとって潜在的に不快な、様々な騒音や巻き上げ軸の感覚を不可避的に発生することになる。ラチェット近くに当該フリーホイールを配置することはまた、自動巻き上げ中に耐えねばならないトルクが高いことを暗示する。
【0008】
弾性爪を用いた自動巻き上げ連鎖の解放は、特許文献1にも説明される。前述の解決策同様、当該フリーホイールは、ラチェットと係合するラチェットドライバに配置される。
【0009】
特許文献2は、内部歯と協働することが意図される弾性爪を有するフリーホイールの特定の構成を開示する。自動巻き上げ連鎖中のフリーホイールの配置は、上述の解決策と同様のままである。
【0010】
特許文献3は、ペラトン型逆転システムの可動部に配置されたフリーホイールを用いた解決策を開示する。これは、障害物により機能するフリーホイールにより、手動巻き上げ中の逆転システムの解放を可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】スイス国許出願公開第277730号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2392975号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第2634650号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第3285123号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】“Theorie d’horlogerie”(時計理論) (Reymondin et al.、editions de la Federation des Ecoles Techniques, 1998年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上述の問題を解決し、従来技術から既知の伝達機構の改善を可能にする、伝達機構を提供することである。特に本発明は、性能と、手動巻き上げ中にユーザが感じる感覚の最適化を可能にする、伝達機構を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかる伝達機構は、請求項1で定義される。
【0015】
本発明にかかる伝達機構の実施形態は、請求項2から7で定義される。
【0016】
本発明にかかる自動巻き上げ連鎖または自動巻き上げモジュールは、請求項8で定義される。
【0017】
本発明にかかる自動巻き上げ連鎖または自動巻き上げモジュールの実施形態は、請求項9及び10で定義される。
【0018】
本発明にかかる時計ムーブメントは、請求項11で定義される。
【0019】
本発明にかかる時計ムーブメントの実施形態は、請求項12及び13で定義される。
【0020】
本発明にかかる時計は、請求項14で定義される。
【0021】
添付の図面は、本発明にかかる時計の一実施形態を、例として図示する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明にかかる時計の一実施形態の模式図である。
【
図2】
図2は、伝達機構の実施形態の一部の斜視図である。
【
図3】
図3は、伝達機構の実施形態の一部の上面図である。
【
図4】
図4は、本発明にかかる時計の実施形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
時計400の第一実施形態を、
図1から4を参照して以下に詳細に説明する。
【0024】
時計400は、例えば小型時計、特に腕時計である。時計400は、自身を外部環境から保護するために、時計ケース内に搭載されることが意図される、時計ムーブメント300を含む。
【0025】
時計ムーブメント300は、自動ムーブメントまたはハイブリッドムーブメントである。
【0026】
時計ムーブメント300は、自動巻き上げ連鎖200を含む。当該自動巻き上げ連鎖は、時計ムーブメントの残部上に搭載される、自動巻き上げモジュール250、特に
- 時計ムーブメント300のフレームのプレートまたは少なくとも1つの受に固定された、及び
- 時計ムーブメント300の香箱20に機械的に接続された、
自動巻き上げモジュール250内に含まれてもよい。
【0027】
自動巻き上げ連鎖200は、伝達機構110を含む。
【0028】
伝達機構110は、
- 楔止めにより機能する第一フリーホイール40、
- 障害物により機能する少なくとも1つの一方向連結器、または障害物により機能する少なくとも1つの第二フリーホイール51a、51bを含む、逆転器50、及び
- 巻き上げ可動錘60または揺動錘60、
の連続組立体を含む。
【0029】
「楔止めにより機能するフリーホイール」とは、フリーホイールの係合機能が、ボールやローラやランナといった転がり要素、またはカムやシェイプローラといった摺動要素の摩擦により生じる、楔止めまたは妨害により達成されることを意味する。
【0030】
「障害物により機能する一方向連結器」とは、特に非特許文献1の178、179ページに記載の逆転器を意味する、即ち、
- 障害物の態様で機能する、カムまたは爪-レバーを用いる機構、または
- 障害物の態様で機能する、交互に噛み合う歯付歯車を有する機構、または
- 障害物により機能する係合可動部を用いる機構、
を意味する。
【0031】
「障害物により機能するフリーホイール」とは、フリーホイールの係合機能が、互いに対する障害物を構成する要素により保証される(このため、両要素間の摩擦がない場合にも機能する)ことを意味する。
【0032】
「フリーホイール」とは、
- フレームに対して回転可能に搭載された、入力部、
- フレームに対して回転可能に搭載された、出力部、及び
- 第一方向への入力部と出力部との間の相対運動が要求されると入力部と出力部とが互いに結合または固定されることを可能にし、第一方向と反対の第二方向への入力部と出力部との間の自由相対運動を可能にする、結合機構
を含む、組立体を意味する。
【0033】
逆転器50は、方向逆転器または逆転システム50であり、
- 時計が装着された際に、回転のランダムな運動を特に含むことができる、巻き上げ可動錘60の運動を、
- 回転の一方向の運動へ、
転換することを可能にする。
このため、巻き上げ可動錘は、逆転器の入力部へ機械的に接続され、回転の一方向の運動は、反転器の出力部で得られる。
【0034】
第一フリーホイール40は、手動巻き上げ中に、即ちユーザが手動巻き上げ部材に、例えば竜頭を介して軸10に回転の運動を付与する作用を実施することで、香箱20を充填または巻き上げる際に、逆転器50の解放を可能にする。当該解放は、逆転器と、第一フリーホイールより下流のシステムの部分の、分離または外しを可能にする。
【0035】
自動巻き上げ連鎖または自動巻き上げ運動学的システム200は、巻き上げ可動錘60の運動からのエネルギーの伝達のおかげで、香箱20の充填または自動巻き上げを可能にする。
【0036】
香箱20はまた、手動巻き上げ運動学的連鎖100を介して、巻き上げ軸10により、手動で巻き上げることができる。
【0037】
図示した実施形態において、少なくとも1つの第二フリーホイール51a、51bは、有利には障害物により機能する一方向連結器を形成する。換言すれば、当該一方向連結器は、爪、フック、板ばね、または可動ピニオンといった、第一可動部に対する障害物を構成することで、第一可動部を駆動可能な少なくとも1つの要素を含む。このタイプの一方向連結器は、有利には、低い死角と性能を下げかねない汚染に対する低い感度を有し、非常に頑強であり、巻き上げ可動錘60の回転方向の多数の反転に耐えることができる。一方、一方向連結器は、(本実施形態のような第一フリーホイール40が無い場合)手動巻き上げにより引き起こされる高回転速度中の摩耗にある程度の感度を有する。これは、特に、フリーホイールが巻き上げ可動錘に直接係合される場合である。代替的に、逆転器50は、少なくとも1つの可動ピニオンを、即ち、
- 逆転器の入力部と出力部とを互いに締結する、第一構成と、
- 逆転器の入力部を出力部から解放する、第二構成と、
の間で可動のピニオンを含んでもよい。
【0038】
図示する実施形態において、第一フリーホイール40は、有利には、
- ボール、ローラ、ランナといった、少なくとも1つの転がり要素43を楔止めする、または
- 特にシェイプランナ、カムといった、少なくとも1つの摺動要素を楔止めする、
ことで機能する。これら部品の全ては、任意で、弾性戻し手段により、係合位置にプレストレスされてもよい。可動ピニオンまたは第二フリーホイール51a、51bとは異なり、当該第一フリーホイール40は、解放中に揺動する恐れのあるあらゆる要素を含まない、一方向連結器を構成する、またはその一部を構成する。従って、当該タイプのフリーホイールは、有利には、トルク及び騒音の変化を発生しないまたは少ししか発生しない。他方で、楔止めにより機能するフリーホイールの死角は、固有摩擦係数によって直接決まる。このため、第一フリーホイール40は、汚染に感度がより高い。このため、逆転器には、当該種類のフリーホイール構造を使用しないことが好ましい。しかしながら、一度第一フリーホイール40が係合されると、当該死角は自動巻き上げ性能に影響を与えないまたはもはや影響を与えないことから、当該側面は、巻き上げシステムの解放においては二次的な重要性しか有さない。
【0039】
フリーホイールの要素43は、阻止要素である。阻止要素は、有利には、セラミック、特に工業用セラミック製であってもよい。
【0040】
上述のように、自動巻き上げ運動学的連鎖200は、巻き上げ可動錘60の運動により誘発されたエネルギーのおかげで、香箱20のばねの巻き上げを可能にする。巻き上げは、方向性を有してもよい、即ち、巻き上げ可動錘60の回転方向にかかわらず、効果的であってもよい。巻き上げ可動錘60は、ムーブメントのフレーム上の、または自動巻き上げモジュールのフレーム上の、転がり軸受内で旋回してもよい。自動巻き上げ連鎖200は、上流側(巻き上げ可動錘)から下流側(香箱)に向かい、
- 巻き上げ可動錘60、
- 逆転器50、
- 第一フリーホイール40、及び
- 香箱20のばねに接続されたラチェット21と噛み合う、ラチェットドライバ30、
を含む、複数の可動部を含む。
【0041】
様々な可動部または要素は、好ましくは、互いに噛み合うことで、互いに機械的に接続される。機械的接続は、直接であっても間接であってもよい。互いに間接的に接続された2つの要素の場合、1以上の中間歯車が、要素間に設けられてもよい。これら中間歯車は、要素間の最適化された伝達率を生成するのに寄与してもよい。
【0042】
1以上の中間歯車は、
- 巻き上げ可動錘60と逆転器50、及びまたは
- 逆転器50と第一フリーホイール40、及びまたは
- 第一フリーホイール40とドライバ30、
の間に配置されてもよい。
【0043】
逆転器50と第一フリーホイール40は、有利には、互いに機械的に接続される、特に第一フリーホイール40の入力部と、逆転器50の出力部との、または逆転器50の複数の出力部との、直接噛み合いにより直接接続される。
【0044】
逆転器50の入力部、または逆転器50の複数の入力部と、巻き上げ可動錘60は、有利には、互いに機械的に直接接続される、特に巻き上げ可動錘60の歯61と、逆転器50の入力部との、または逆転器50の複数の入力部との、噛み合いにより直接接続される。
【0045】
- 巻き上げ可動錘は、軸A60周りに回転可動である、
- 逆転器50は、軸A51a、A51b周りに回転可動な、2つの一方向連結器51a、51bを含む、
- 第一フリーホイール40は、軸A40周りに回転可動である、
- ラチェットドライバ30は、軸A30周りに回転可動である、及び
- 香箱20、特にラチェット21は、軸A20周りに回転可動である、
ことが好ましい。
【0046】
様々な軸A60、A51a、A51b、A40、A30、及びA20は、好ましくは、互いに平行である。
【0047】
巻き上げ可動錘、一方向連結器51a、51b、第一フリーホイール40、ラチェットドライバ30、及び香箱20は、好ましくは、ムーブメントのフレーム上及びまたは自動巻き上げモジュールのフレーム上で、回転案内される。
【0048】
巻き上げ可動錘60とラチェット21との間の伝達率または減速比は、110から180程度である。換言すれば、ラチェット21の1回転の回転を引き起こすために、巻き上げ可動錘60は、110から180回、回転する必要がある。
【0049】
時計400は、好ましくは、香箱20のばねの手動巻き上げまたは充填を可能にするため、手動巻き上げ連鎖100によりラチェット21に接続された、巻き上げ軸10を含む。
【0050】
逆転器50は、好ましくは、2つの爪フリーホイール51a、51bを含む。逆転器50は、有利には、巻き上げ可動錘60に対する逆転器50の死角が最小になるよう、従って自動巻き上げ性能を最適化するよう、巻き上げ可動錘60と、特に巻き上げ可動錘60の歯61と、直接係合する。更に、図示する実施形態において、2つの第二フリーホイールの入力部52a、52bは、有利には、噛み合いにより直接、互いに回転可能に連結される。2つの入力部52a、52bのうちの1つの入力部52aのみが、噛み合いにより、巻き上げ可動部60に直接、回転接続される。
【0051】
代替的に、2つの第二フリーホイールの2つの出力部は、噛み合いに直接、互いに回転可能に連結されてもよく、2つの入力部はそれぞれ、噛み合いにより直接、巻き上げ可動錘に回転可能に連結されてもよい。
【0052】
爪フリーホイール51a、51bは、それぞれ、爪キャリア歯車52a、52b、カバー56a、56b、及び2つの爪53a、53bを含む。爪53a、53bは、爪キャリア歯車52a、52b及びまたはカバー56a、56b上で旋回する。カバー56a、56bと爪キャリア歯車52a、52bの協働により、爪53a、53bを少なくとも1つの第二フリーホイール51a、51bに保持することが可能になる。爪53a、53bは、有利には、セラミック、特に工業用セラミック製である。
【0053】
爪53a、53bは、ピニオン55a、55bに固定された鋸歯歯付歯車54a、54bと協働するよう設計される。歯付歯車54a、54bは、爪キャリア歯車52a、52bに対して旋回可能である。爪53a、53bと歯付歯車54a、54bのそれぞれの非対称形状は、一方向連結を可能にする。歯付歯車54a、54bは、例えば、セラミック、特に工業用セラミック製である。この種のフリーホイールの働きは、例えば特許文献4で説明される。
【0054】
自動巻き上げ連鎖200において、楔止めタイプの第一フリーホイール40は、有利には、逆転器とラチェット21との間で、逆転器50と直接係合する、ボールタイプフリーホイール40である。第一フリーホイール40は、より具体的には、2つの第二歯車51a、51bの2つのピニオン55a、55bの少なくとも1つと直接係合する、歯車41を含む。第一フリーホイール40は、更に、第一フリーホイール40のピニオン45を介して、ラチェットドライバ30と係合する。
【0055】
自動巻き上げ連鎖200において、このように逆転器50と直接係合して配置された第一フリーホイール40は、巻き上げ可動錘60に対して最小化された死角という利点を得る。この種の配置により、手動巻き上げ後、当該死角の埋め合わせをし、再度自動巻き上げを有効にするために必要となる、巻き上げ可動錘の回転数が少なくなる。更に、第一フリーホイール40の当該配置はまた、例えば第一フリーホイール40をラチェット21近くに配置するのに比べて、当該第一フリーホイールが耐えなければならない伝達トルクの減少を可能にする。
【0056】
当該実施形態において、転がり軸受同様、第一フリーホイール40は、歯車41とピニオン45に固定されたリング46との接触面を定義する、摺動または転がりトラック44内で案内される6つのボール43を含む。更に、第一構成において、互いに固定するための歯車41とリング46との不動化に際し、ボールは、第二構成において、歯車41に対するリング46の回転を案内する、または当該案内に参加することを可能にする。
【0057】
各ボール43は、セパレータ42内に機械加工された傾斜面が設けられたハウジング内に位置する。セパレータ42は、複数のパーツ、ここでは3つのパーツを含んでもよい。当該傾斜面は、一方向連結に参加する。実際、第一のいわゆる係合相対回転方向において、ボールは、ハウジング内に楔止めされるよう、またセパレータ42を用いてリング46と回転させるため歯車41を拘束するよう、傾斜面と協働する。セパレータ42は、その後、リング46の半径方向係合または半径方向アクションブレーキのように、リング46周りで再度締め付けられる。第二のいわゆる自由相対回転方向(第一方向と反対の第二方向)において、ボールは、リング46から歯車41を解放し、これら2つの要素間の相対回転を可能にするよう、ボール43を楔止めするよう適合された傾斜面の部分の範囲外である。
【0058】
自動巻き上げフェーズ中、ボールタイプ第一フリーホイール40は、係合構成にあるまたは解放構成から係合構成へ移動する。実際、当該フェーズ中、逆転器50は、未だ歯車41を係合相対方向へ、即ち
図3において反時計回り方向へ駆動する。歯車41の回転は、セパレータ42のハウジングの傾斜面上へのボール43の楔止めのおかげで、ピニオン45の係合を発生させる。
【0059】
第一フリーホイール40は、巻き上げ可動錘60の回転方向に関わらず、係合を維持する。実際、巻き上げ可動錘60は、
- 巻き上げ可動錘60と直接噛み合う爪キャリア歯車52aが、
図3で反時計回りに回転する、
- 巻き上げ可動錘60と間接的に噛み合う爪キャリア歯車52bが、
図3で時計回りに回転する、
噛み合いの結果、
図3で時計回り方向に回転する。
巻き上げ可動錘60と直接噛み合う、爪キャリア歯車52aと関連するピニオン55aは、(歯車51aが解放され)時計回り方向において自由に回転可能であり、巻き上げ可動錘60と間接的に噛み合う、爪キャリア歯車52bと関連するピニオン55bは、(歯車51bが係合され)時計回り方向に回転する。ここで、歯車41は反時計回りに回転するという結果になる。2つの第二フリーホイール51a、51bは、それぞれ、解放され、係合される。
【0060】
巻き上げ可動錘60は、
- 巻き上げ可動錘60と直接噛み合う爪キャリア歯車52aが、
図3で時計回りに回転する、
- 巻き上げ可動錘60と間接的に噛み合う爪キャリア歯車52bが、
図3で反時計回りに回転する、
噛み合いの結果、
図3で反時計回り方向に回転する。
巻き上げ可動錘60と間接的に噛み合う、爪キャリア歯車52bと関連するピニオン55bは、(歯車51bが解放され)時計回り方向において自由に回転可能であり、巻き上げ可動錘60と直接噛み合う、爪キャリア歯車52aと関連するピニオン55aは、(歯車51aが係合され)時計回り方向に回転する。ここで、歯車41は反時計回りに回転するという結果になる。2つの第二フリーホイール51a、51bは、それぞれ、係合され、解放される。
【0061】
上述のように、逆転器は、有利には、2つの第二フリーホイール51a、51bを含む。逆転器の出力部は、このため、逆転器の入力部の回転の方向にかかわらず、同一の所定の方向に回転する。
【0062】
手動巻き上げのみが、ドライバ30とピニオン45を介して第一フリーホイール40の解放を可能にする。
【0063】
手動巻き上げフェーズ中、第一フリーホイールは解放され、逆転器50は、有利には、第一フリーホイール40により、ドライバ30から解放される。実際、当該フェーズにおいて、互いに固定されたピニオン45とリング46は、自由相対回転(
図3において、歯車41に対するピニオン45の反時計回り回転方向)に駆動される。ピニオン45に締結されたリング46の回転は、ボール43を、ボールを楔止めするよう適合されたセパレータ42のハウジングの傾斜面の部分の範囲外に駆動する。ボール43は、その後解除され、セパレータはリング46から緩められる。当該フェーズ中、第一フリーホイール40は、リング46に対するピニオン45の回転の案内として振る舞う。換言すれば、第一フリーホイールが解放されると、第一フリーホイール40の固有機能は、あたかもピニオンが軸受といった案内部上に組み立てられたように、実質的に無視できるトルク、摩擦及び摩耗により、要素のこすれる騒音または揺動なくして、ピニオン45の自由回転を実質的に可能にする。
【0064】
これは、有利には、逆転器50の第二歯車51a、51bを保護しながら、自動巻き上げシステムの無いムーブメントの運動と同等の、巻き上げ軸10の感覚及び巻き上げトルクをもたらす。
【0065】
第一フリーホイール40が逆転器50と直接係合するため、当該第一フリーホイールが耐えねばならない、巻き上げ可動錘60が発生する自動巻き上げトルクは、第一フリーホイールがラチェット21近くに配置された場合に比べて、低い。このため、当該配置は、更に有利な伝達率を提供し、有利には、自動巻き上げ連鎖を解放するのに用いられる従来技術に比べて、特に死角と固有摩擦の意味で、更に良好な性能を有する、最適化されたボールタイプ第一フリーホイール40の使用を可能にする。
【0066】
手動巻き上げ中、第一フリーホイール40が常時解放されること、従って第一フリーホイールが逆転器50に負荷をかけることが不可能なことを保証することが好ましい。このため、逆転器50に搭載された第一フリーホイール40を解放するトルクは、逆転器50の解放トルクよりも低くなければならない。ここで、上述の解決策により達成される、
- 第一フリーホイール40と、
- 逆転器50と
の間の低い伝達率と、第一フリーホイール40の使用は、回転速度に関わらず非常に低い解放トルクを保証することを可能にする。ボールタイプ第一フリーホイール40のような、楔止めにより機能するフリーホイールは、有利には、非常に低い解放トルクを提供する。
【0067】
第一フリーホイール40における死角は、手動巻き上げ性能に全く影響しないまたは少しの影響しか有しない。第一フリーホイール40の死角は、歯車41とリング46が再度互いに固定されるまでに、リング46に対して歯車41が移動しなければならない、最大角度である。
【0068】
しかしながら、手動巻き上げ後、ラチェット21がラチェット爪により不動化されると、自動巻きが有効になるのは、第一フリーホイール40の死角が補われた場合だけである。その結果、巻き上げ可動錘60の最初の運動は、当該死角を埋め合わせるためのみに用いられ、自動巻き上げの瞬間的な非有効化につながる。
【0069】
適合された第一フリーホイール40のタイプと、ここで提案するアーキテクチャは、当該欠点を制限することを可能にする。実際、第一フリーホイール40の固有機能は、有利には、非常に小さな死角の達成を可能にする。更に、第一フリーホイール40が逆転器50と直接係合すると仮定すると、第一フリーホイールは、有利には、巻き上げ可動錘60との伝達率が最小の場所に位置する。その結果、第一フリーホイール40の死角は、第一フリーホイール40がラチェット21の近くに位置された場合に比べて、巻き上げ可動錘60の運動により素早く埋め合わされる。
【0070】
第一フリーホイール40が係合すると、次回の手動巻き上げまで常時係合を維持するため、第一フリーホイール40の死角は、もはや自動巻き上げの性能になんら影響を及ぼさない。
【0071】
- 逆転器50の出力部と、
- 第一フリーホイール40の入力部と、
の間の第一減速比は、好ましくは8より小さい、または6より小さい、または5より小さい。
【0072】
自動巻き上げ連鎖200は、好ましくは、巻き上げ可動錘60から第一フリーホイール40、特に歯車41へ延長し、6より小さい、または5より小さい、または4より小さい第二減速比を有する、第一減速連鎖を含む。
【0073】
自動巻き上げ連鎖200は、好ましくは、第一フリーホイール40、特にピニオン45から、香箱20のラチェット21へ延長し、20より大きい、または25より大きい、または30より大きい第三減速比を有する、第二減速連鎖を含む。
【0074】
第一減速比に対する第二減速比の比率は、好ましくは、3より小さい、または2より小さい、または1より小さい。
【0075】
上述した解決策は、巻き上げ可動錘と直接係合する、爪または障害物タイプ逆転器を用い、有利には、性能と手動巻き上げ中のユーザの感覚の最適化を可能にする、ボールフリーホイールタイプの一方向軸受を含む。
【0076】
提案する解決策は、最後に、一方向転がり軸受といった、有利には楔止めにより機能するフリーホイールの助けにより、自動巻き上げ連鎖の解放を可能にする。フリーホイールは、有利には、爪タイプフリーホイールといった、障害物により機能するフリーホイールが設けられた逆転器と、直接係合する。当該解決策は、低く一定の手動巻き上げトルクという利点を得ることを可能にする。実際、揺動する部品なくして解放が達成されるため、トルクの変動と摩耗の問題が解決される。更に、当該一方向軸受は、逆転器へ可能な限り近づけて配置することよっても、既知の解決策より大幅に少ない(5から8倍ほど低い)巻き上げ可動錘の回転数によって埋め合わせ可能な低い死角という利点を得ることを可能にする。
【0077】
自動巻き上げ連鎖200の上流要素と直接協働するよう適合された、連結部、特に歯は、入力部である、または入力部を構成し、自動巻き上げ連鎖200の下流にある要素と直接協働するよう適合された連結部、特に歯は、出力部である、または出力部を構成する。
【0078】
一連の組立体において、一要素の入力部は、先行要素または上流要素の出力部に接続され、要素の出力部は、追従要素または下流要素の入力部に接続される。
【符号の説明】
【0079】
10 軸
20 香箱
40 第一フリーホイール
50 逆転器
51a 第二フリーホイール
51b 第二フリーホイール
60 巻き上げ可動錘
61 歯
110 伝達機構
200 自動巻き上げ連鎖
250 自動巻き上げモジュール
300 時計ムーブメント
400 時計
【外国語明細書】