(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077006
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】マイクロポンプ
(51)【国際特許分類】
A61M 5/142 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
A61M5/142 500
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023198970
(22)【出願日】2023-11-24
(31)【優先権主張番号】22209732.1
(32)【優先日】2022-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】514207337
【氏名又は名称】ゼンジーレ・メディカル・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【弁理士】
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー・マティアス
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD13
4C066EE03
4C066HH05
4C066HH08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】信頼性が高く安全な方法で少量の液体をポンピングすることができるマイクロポンプを提供する。
【解決手段】ポンプであって、ステータに対して軸方向に、また回転可能に移動可能なロータと、ステータは、ピストンチャンバと、入口開口を含む入口と、半径方向表面に形成された出口開口を含む出口と、ピストン部分は、半径方向表面と、端面と、ピストン部分の半径方向表面と端面との間に形成された非軸対称くぼみと、を含み、入口開口に少なくとも部分的に重なるように配置され、ステータに対するロータの角度位置の範囲にわたって、出口開口に少なくとも部分的に重なるように配置され、ピストン部分の半径方向表面は、ポンプ吸入段階とポンプ吐出段階との間では入口開口および出口開口の両方を閉じるように構成されている、ポンプ。ステータは、ピストン部分をピストンチャンバから密閉的に分離する可撓性弾性膜を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ(1)であって、
ステータ(4)と、前記ステータに対して軸方向に、また回転可能に移動可能なロータ(6)と、を含み、前記ステータ(4)は、半径方向表面(30)を含むピストンチャンバ(10)と、前記半径方向表面に形成された入口開口(28)を含む入口(3)と、前記半径方向表面に形成された出口開口(29)を含む出口(5)と、を含み、前記ロータ(6)は、ピストン部分(13)を含み、前記ピストン部分(13)は、半径方向表面(16)と、端面(15)と、前記ピストン部分(13)の前記半径方向表面(16)と前記端面(15)との間に形成された非軸対称くぼみ(14)と、を含み、
前記くぼみ(14)は、ポンプ吸入段階に対応する、前記ステータに対する前記ロータの角度位置の範囲にわたって、前記入口開口(28)に少なくとも部分的に重なるように配置され、ポンプ吐出段階に対応する、前記ステータに対する前記ロータの角度位置の範囲にわたって、前記出口開口(29)に少なくとも部分的に重なるように配置され、
前記ピストン部分(13)の前記半径方向表面(16)は、前記ポンプ吸入段階の間に前記出口開口(29)を閉じ、前記ポンプ吐出段階の間に前記入口開口(28)を閉じ、前記ポンプ吸入段階と前記ポンプ吐出段階との間では前記入口開口(28)および前記出口開口の両方を閉じるように構成され、
前記ステータ(4)は、前記ピストン部分(13)を前記ピストンチャンバ(10)から密閉的に分離する可撓性弾性膜(7)を含むことを特徴とする、ポンプ。
【請求項2】
前記可撓性弾性膜(7)は、可撓性材料の単一の層または複数の層を含む、請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
前記可撓性材料は、シリコーンゴムまたは熱可塑性エラストマーである、請求項2に記載のポンプ。
【請求項4】
前記単一の層、または前記複数の層のそれぞれの厚さは、0.1mm~1mmである、請求項2に記載のポンプ。
【請求項5】
前記単一の層、または前記複数の層のそれぞれは、射出成形または圧縮成形によって作られている、請求項2に記載のポンプ。
【請求項6】
前記複数の層のうちの少なくとも2つの間に潤滑剤を含む、請求項2に記載のポンプ。
【請求項7】
前記ピストン部分(13)と前記可撓性弾性膜(7)との間に潤滑剤を含む、請求項1に記載のポンプ。
【請求項8】
ポンプサイクル全体にわたって、前記ピストン部分(13)の前記くぼみ(14)、前記端面(15)、および前記半径方向表面(16)に対して、ぴったり合った、弾性的に張力をかける様式で、前記膜を弾性的に適合させるように、前記ピストン部分(13)が成形され、前記膜が構成されている、請求項1に記載のポンプ。
【請求項9】
前記ピストン部分(13)の直径に対するピストンストロークの比は、0.5より小さく、好ましくは0.2より小さい、請求項1に記載のポンプ。
【請求項10】
前記ステータ(4)は、キャップ部分(4b)と、ベース部分(4a)と、を含み、
前記膜(7)のリム部分が、前記キャップ部分(4b)と前記ベース部分(4a)との間に固定されている、請求項1に記載のポンプ。
【請求項11】
前記キャップ部分(4b)は、スナップロック構造によって前記ベース部分(4a)に固定されている、請求項10に記載のポンプ。
【請求項12】
前記可撓性弾性膜(7)を密閉式に挟み、少なくとも前記入口開口および前記出口開口の上方で前記ピストンチャンバを密閉するように構成された、前記ロータ(6)または前記ピストンチャンバ(10)の表面から突出する密閉リブ(17、18、23、24)をさらに含む、請求項11に記載のポンプ。
【請求項13】
前記密閉リブは、前記入口(3)の開放段階中に前記出口開口(29)の下方および前記入口開口(28)の上方で、または、前記出口(5)の開放段階中に前記入口開口(28)の下方および前記出口開口(29)の上方で、前記弾性膜(7)を密閉式に挟むように構成された、前記ロータから突出する少なくとも1つの下側密閉リブ(18)を含む、請求項12に記載のポンプ。
【請求項14】
前記密閉リブは、前記入口開口(28)および前記出口開口(29)を囲む前記ピストンチャンバ(10)の前記半径方向表面(30)から突出する密閉リブ(24)を含む、請求項12に記載のポンプ。
【請求項15】
前記ステータ(4)に対する前記ロータ(6)の角度位置(φ)に応じて前記ステータ(4)に対する前記ロータ(6)の軸方向位置(z)を画定するカムシステム(8)を含む、請求項1に記載のポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロポンプに関する。マイクロポンプは、特に医療用途、例えば薬剤送達装置で使用される、少量の液体を分配するために使用され得る。本発明に関連するマイクロポンプは、少量の液体を高精度で送達する必要のある非医療用途にも使用され得る。
【背景技術】
【0002】
特に医療および非医療用途で使用され得る少量の液体を送達するためのマイクロポンプが、EP1803934およびEP1677859に記載されている。前述の文献に記載されたマイクロポンプは、異なる直径の第1および第2の軸方向延長部を有するロータを含み、第1および第2の軸方向延長部は、ステータの第1および第2のシールと係合して、ロータの角変位および軸方向変位に応じてそれぞれのシールを横切る液体連通を開閉する、第1および第2のバルブを形成する。ポンプチャンバが、ステータの第1のシールと第2のシールとの間に形成され、それにより、ロータの1回転サイクル当たりの液体のポンピング体積は、ロータの第1の軸方向延長部と第2の軸方向延長部との直径の差、およびステータに対するロータの角度位置に応じてカムシステムによってもたらされるロータの軸方向変位の両方の関数となる。
【0003】
ロータの連続回転によって少量の液体をポンピングする能力は、多くの状況において有利である。1回転サイクル当たりでポンピングされる液体の体積が小さいことを考慮すると、回転駆動部の出力部は、ピストンポンプのピストンを前進させるためのねじ機構の速度よりも一般に大きい速度で回転することができる。回転駆動部は制御が簡単で、ピストン機構が回避されることにより、ポンプを非常にコンパクトにすることができる。また、ポンプモジュールは、低コストの使い捨て部品で、例えば注入されたポリマーで、作られ得る。
【0004】
しかしながら、特に摩擦に敏感な分子を含有する液体をポンピングするための、特定の用途では、EP1803934に記載されるようなポンプのロータシャフトとバルブシールとの間の摩擦は望ましくない場合がある。これは、例えば、剪断応力に敏感である、特定のタンパク質などの大きな分子では問題となり得る。
【0005】
上記の問題は、他のポンプシステム、特にピストンポンプ、またはピストンロッドによって前進されるプランジャを備えたカートリッジを含むポンプを提供することによって克服することができる。しかしながら、このようなポンプシステムは、あまり経済的でなく、また、ピストン機構の長さを考慮すると、あまりコンパクトではない。ピストンポンプシステムの信頼性および安全性もまた、液体容器とポンプシステムの出口との間の直接的な流体連通をポンプシステムが本質的に遮断しないので、問題となり得る。
【0006】
特に医療および非医療用途で使用され得る少量の液体を送達するための別のマイクロポンプが、EP3732375に記載されている。この文献に記載されたマイクロポンプは、ステータに対して軸方向にかつ回転可能に移動可能なロータを含む。ロータは、ロータシャフトの外側表面上に配置されたポートを含む。ポートは、ポンプ吸入段階に対応するロータの回転角にわたって入口に少なくとも部分的に重なるように配置され、ポンプの吐出段階に対応するロータの回転角にわたって出口に少なくとも部分的に重なるように配置される。ステータは、ロータシャフト受容キャビティを含み、入口および出口は、ロータシャフト受容キャビティに流体接続され、ロータは、ロータシャフト受容キャビティに受容されるシャフトを含む。ロータシャフトは、ステータのピストン部分を受容してピストンチャンバを形成するキャビティと、ピストン部分とキャビティの内側側壁との間に装着されてピストンチャンバの端部を密閉的に閉じるシールと、を含む。
【0007】
ロータは、ピストンチャンバをロータシャフトの外側表面に流体接続するポートをさらに含む。EP3732375のポンプでは、ポンピングされている液体は、ポンプサイクル中に互いに対して移動するロータの部分とステータの部分との間で静止しており、これは、ポンピングされている繊細な物質にとって潜在的に有害である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した事柄を考慮して、本発明の目的は、信頼性が高く安全な方法で少量の液体をポンピングすることができるマイクロポンプを提供することである。
【0009】
ポンピングされている液体に剪断応力を加えないマイクロポンプを提供することが、特定の用途において有利である。
【0010】
ポンピングされている液体を汚染しないマイクロポンプを提供することが有利である。
【0011】
非常にコンパクトなマイクロポンプを提供することが有利である。
【0012】
デッドボリュームの小さいマイクロポンプを提供することが有利である。
【0013】
製造が経済的であり、かつ、薬剤送達装置の使い捨て部品など、使い捨ての再利用不可能な構成要素に組み込まれ得る、マイクロポンプを提供することが有利である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、請求項1に記載のマイクロポンプによって達成される。
【0015】
本明細書では、ステータと、ステータに対して軸方向に、また回転可能に移動可能なロータと、を含むポンプが開示され、ステータは、半径方向表面を含むピストンチャンバと、半径方向表面に形成された入口開口を含む入口と、半径方向表面に形成された出口開口を含む出口と、を含み、ロータは、ピストン部分を含み、ピストン部分は、半径方向表面と、端面と、ピストン部分の半径方向表面と端面との間に形成された非軸対称くぼみと、を含み、くぼみは、ポンプ吸入段階に対応する、ステータに対するロータの角度位置の範囲にわたって、入口開口に少なくとも部分的に重なるように配置され、ポンプ吐出段階に対応する、ステータに対するロータの角度位置の範囲にわたって、出口開口に少なくとも部分的に重なるように配置され、ピストン部分の半径方向表面は、ポンプ吸入段階の間に出口開口を閉じ、ポンプ吐出段階の間に入口開口を閉じ、ポンプ吸入段階とポンプ吐出段階との間では入口開口および出口開口の両方を閉じるように構成される。ステータは、ピストン部分をピストンチャンバから密閉的に分離する可撓性弾性膜を含む。
【0016】
有利な実施形態では、可撓性弾性膜は、可撓性材料の単一の層または複数の層を含む。
【0017】
有利な実施形態では、可撓性材料はシリコーンゴムまたは熱可塑性エラストマーである。
【0018】
有利な実施形態では、単一の層、または複数の層のそれぞれの厚さは、0.1mm~1mmである。
【0019】
有利な実施形態では、単一の層、または複数の層のそれぞれは、射出成形または圧縮成形によって作られる。
【0020】
有利な実施形態では、ポンプは、複数の層のうちの少なくとも2つの間に潤滑剤を含む。
【0021】
有利な実施形態では、ポンプは、ピストン部分と可撓性弾性膜との間に潤滑剤を含む。
【0022】
有利な実施形態では、ポンプサイクル全体にわたって、ピストン部分のくぼみ、端面、および半径方向表面に対して、ぴったり合った、弾性的に張力をかける様式(in a form fitting elastically tensioned manner)で、膜を弾性的に適合させるように、ピストン部分が成形され、膜が構成される。
【0023】
有利な実施形態では、ピストン部分の直径に対するピストンストロークの比は0.5より小さく、好ましくは0.2より小さい。
【0024】
有利な実施形態では、ステータは、キャップ部分と、ベース部分と、を含み、膜のリム部分がキャップ部分とベース部分との間に固定されている。
【0025】
有利な実施形態では、キャップ部分は、スナップロック構造によってベース部分に固定される。
【0026】
有利な実施形態では、ポンプは、可撓性弾性膜を密閉式に挟み、少なくとも入口開口および出口開口の上方でピストンチャンバを密閉するように構成された、ロータまたはピストンチャンバの表面から突出する密閉リブをさらに含む。
【0027】
有利な実施形態では、密閉リブは、入口の開放段階中に出口開口の下方および入口開口の上方で、または、出口の開放段階中に入口開口の下方および出口開口の上方で、弾性膜を密閉式に挟むように構成された、ロータから突出する少なくとも1つの下側密閉リブを含む。
【0028】
有利な実施形態では、密閉リブは、入口開口および出口開口を囲むピストンチャンバの半径方向表面から突出する密閉リブを含む。
【0029】
有利な実施形態では、ポンプは、ステータに対するロータの角度位置に応じて、ステータに対するロータの軸方向位置を画定するカムシステムを含む。
【0030】
本発明のさらなる目的および有利な特徴は、特許請求の範囲、詳細な説明および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態によるマイクロポンプの概略斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるマイクロポンプのロータの概略斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるマイクロポンプの概略断面図である。
【
図4】ポンプサイクルの閉鎖段階におけるマイクロポンプの入口または出口を示す詳細部分である。
【
図6a】液体の吸入から吐出までの、本発明の一実施形態によるマイクロポンプのポンプサイクルにおける、あるロータ位置を示す概略断面図(上パネル)および概略上面図(下パネル)である。
【
図6b】液体の吸入から吐出までの、本発明の一実施形態によるマイクロポンプのポンプサイクルにおける、異なるロータ位置を示す概略断面図(上パネル)および概略上面図(下パネル)である。
【
図6c】液体の吸入から吐出までの、本発明の一実施形態によるマイクロポンプのポンプサイクルにおける、異なるロータ位置を示す概略断面図(上パネル)および概略上面図(下パネル)である。
【
図6d】液体の吸入から吐出までの、本発明の一実施形態によるマイクロポンプのポンプサイクルにおける、異なるロータ位置を示す概略断面図(上パネル)および概略上面図(下パネル)である。
【
図6e】液体の吸入から吐出までの、本発明の一実施形態によるマイクロポンプのポンプサイクルにおける、異なるロータ位置を示す概略断面図(上パネル)および概略上面図(下パネル)である。
【
図6f】液体の吸入から吐出までの、本発明の一実施形態によるマイクロポンプのポンプサイクルにおける、異なるロータ位置を示す概略断面図(上パネル)および概略上面図(下パネル)である。
【
図6g】液体の吸入から吐出までの、本発明の一実施形態によるマイクロポンプのポンプサイクルにおける、異なるロータ位置を示す概略断面図(上パネル)および概略上面図(下パネル)である。
【
図6h】液体の吸入から吐出までの、本発明の一実施形態によるマイクロポンプのポンプサイクルにおける、異なるロータ位置を示す概略断面図(上パネル)および概略上面図(下パネル)である。
【
図7】入口バルブおよび出口バルブの開閉時のロータ位置に対するピストンチャンバの内側表面の軸方向位置zおよび角度位置φでのくぼみの密閉外形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図を参照すると、本発明の実施形態によるマイクロポンプ1は、ステータ4と、回転駆動部2に結合されたロータ6と、を含み、回転駆動部2は、ステータ4に対して軸Aを中心としてロータ6を回転させる。ロータ6はまた、ステータ4に対して軸方向に移動可能であり、軸方向zは回転軸Aと整列している。
【0033】
回転駆動部2は、モータに対するロータの軸方向変位Δzを許容しつつ、回転する回転駆動部の出力部をロータに結合するカップリング9を介してロータ6に結合されている。カップリング9は、例えば、ステータ4に向かって軸方向力Fzを加えるコイルバネなど、バネの形態の、付勢機構27を含む。カップリング9は、
図1、
図3、
図6に示されるように、ロータ6のキャビティ内に組み込むことができる。
【0034】
ロータおよびステータは、ステータに対するロータの角度位置φに応じてステータに対するロータの軸方向位置zを画定するカムシステム8を構成する。カムシステム8は、相補的なカムフォロア82aに対して付勢されたカムトラック81aを含み得、付勢機構27は、カムフォロアがカムトラック81aを圧迫することを確実にする。カムトラック81aは、ステータに対するロータの角度位置に応じてステータに対するロータの軸方向位置を画定する外形Pを有する。カムシステム8は、一対以上のカムトラック81a、81bおよび相補的なカムフォロア82a、82bを含み得る。
【0035】
図示の実施形態では、カムシステム8は、二対のカムトラック81a、81bおよび相補的なカムフォロア82a、82bを含む。カムトラック81a、81bはステータ4のリム上に形成されているのに対し、相補的なカムフォロア82a、82bはロータ6のヘッド11上に設けられている。しかし、当業者であれば、1つ以上のカムトラックがロータ上に設けられてよく、対応するカムフォロアがステータ上に設けられてもよいことを理解するであろう。
【0036】
360°の回転サイクルにわたって確立されるカムトラック外形Pの例が、
図7に示されている。
【0037】
図示の実施形態では、付勢機構27およびカムシステム8は、ロータの角度位置に応じてステータに対するロータの軸方向変位を画定する軸方向変位システムを共に形成しているが、本発明の範囲から逸脱することなく他の軸方向変位システムを実施してもよい。例えば、軸方向変位は、回転駆動部に結合された電磁アクチュエータによって行うこともできるし、回転運動と軸方向運動の両方を出力する駆動部によって提供することもできる。
【0038】
ロータ6は、ステータ4のピストンチャンバ10に回転可能かつスライド可能に挿入されたピストン部分13を含むシャフト12を含む。ピストンチャンバ10は、半径方向表面30と端面32とを含む内側表面を有する。ピストン部分13は、半径方向表面16と端面15とを含む外側表面を有する。ピストン部分13の端面15がピストンチャンバ10の端面32に当接するロータの角度位置でピストン部分13がピストンチャンバ10内に完全に挿入されると、ピストンチャンバ10の内側表面はピストン部分13の外側表面に近接する。ピストンチャンバ10およびピストン部分13の半径方向表面30、16は、直円柱の半径方向表面である。
【0039】
図示の実施形態では、ピストンチャンバ10およびピストン部分13の端面32、15は平面である。しかしながら、ピストンチャンバ10およびピストン部分13の端面32、15は、本発明の範囲から逸脱することなく、異なる形状を有してもよく、例えば、ロータのシャフトの軸Aを中心とする曲線の回転によって生成される異なる回転面の形状、特に、球面形状を有してもよい。
【0040】
ステータ4は、ピストンチャンバ10と流体連通する入口3および出口5を含む。ロータの回転方向によって、入口が出口となり得、出口が入口となり得ることが認識されるであろう。変形例では、ポンプは、ポンプを通して液体を双方向にポンピングするために可逆的であってもよく、その方向はロータの回転方向によって決まる。あるいは、ポンプは、一方向になるように構成され得、ロータを一方向にのみ回転させ、ポンプを通して一方向にのみ流体をポンピングすることもできる。
【0041】
図示された実施形態では、入口および出口の両方が、ステータの側壁を通って延びているが、入口および/または出口は、用途および所望の構成に応じて、液体源または液体出力装置にステータの様々な位置で結合するために、ステータの本体内に延びる様々な形状のチャネルとして形成され得ることが理解され得る。
【0042】
本発明の実施形態によるマイクロポンプは、有利には、患者に液体薬剤を投与するための薬剤送達装置に使用され得る。したがって、出口は、薬剤の経皮投与のための針、または患者に接続されたカテーテルもしくは他の液体導管に接続され得る。入口は、薬剤バイアル、カートリッジまたは他の液体薬剤源に接続され得る。
【0043】
ステータ4は、ロータ6のピストン部分13をピストンチャンバ10から流体的に分離する膜7をさらに含む。膜7は、マイクロポンプでポンピングされることが意図された液体に対して不透過性、例えば水に対して不透過性である、可撓性材料で作られている。例えば、膜は、シリコーンゴムまたは熱可塑性エラストマーで作られ得る。膜7は、可撓性材料の単一の層または複数の層を含み得る。膜の単一の層、または複数の層のそれぞれの厚さは、1mm未満であってよいが、0.1mm超とすることができる。
【0044】
マイクロポンプは、ピストン部分13と膜7との間の摩擦を低減するために、ピストン部分13と膜7との間に、シリコーン油、鉱油もしくは合成油またはグリースなどの潤滑剤をさらに含み得る。膜7が可撓性材料の複数の層を含む場合、層間に潤滑剤を添加することができる。膜の単一の層、または複数の層のそれぞれは、平坦な可撓性弾性箔で作られ得る。変形例では、膜の単一の層、または複数の層のそれぞれは、ピストン部分13の外側表面16の形状に類似した、応力を受けない状態の形状を有する膜を得るために、射出成形によって作製され得る。
【0045】
膜7は、ポンプサイクル全体にわたって膜7がピストン部分13の外側表面16と適合することを確実にするように、十分に高いプレストレスを有する。
【0046】
膜7はピストン部分13の軸方向変位に伴って伸縮する。ピストン部分の端面15を覆う膜の部分の動きを小さくするために、膜7の相対的な膨張を小さくすることが有利である。したがって、ピストン部分の直径に対するピストンストロークの比が小さいことが有利である。例えば、ピストン部分の直径に対するピストンストロークの比は、0.5より小さくてよく、特に0.2より小さくてよい。
【0047】
図示の実施形態では、ステータ4は、キャップ部分4bと、ベース部分4aと、を含む。ステータ4のキャップ部分4bは、溶接、接着剤による接着、クランプ、ねじ止め、および、他のそれ自体既知の接着もしくは機械的固定手段などの様々な固定手段によってベース部分4aに固定され得る。図示の実施形態では、キャップ部分4bは、例えばキャップ部分4b上の、ロックラッチの形態の固定要素20bと、ベース部分上で半径方向外側に延びるロック肩部20aの形態の相補的な固定要素20aと、を含むスナップロック構造によって、ステータ4のベース部分4aに固定される。ラッチおよび肩部は、ロックラッチがベース部分上にあり、ロック肩部がキャップ部分上にあるように、逆にしてもよい。
【0048】
キャップ部分4bは、ロータシャフト用の通路19を有する。
【0049】
図示の実施形態では、膜7のリム部分は、キャップ部分4bのクランプ面21とベース部分4aのクランプ面22との間にクランプされる。キャップ部分4bのクランプ面21およびベース部分4aのクランプ面22は、スナップロック構造によって互いに押し付けられる。上方部分およびベース部分のクランプ面21、22は、クランプ面21、22の間に膜7を押し込むための相補的な隆起および溝を有する。
【0050】
さらに、膜7は、カラー26をその周縁に有し得、これは、膜がクランプ面をすり抜けるのをさらに防止するために、クランプ面21、22の外側に配置される。
【0051】
変形例では、ステータ4のキャップ部分4bおよびベース部分4aは単一部品要素として一体的に形成され、膜7は、接着剤などの固定手段を用いて、または溶接によって、またはステータに組み付けられてステータに機械的手段によって固定されるか接着もしくは溶接された剛性リング支持体に固定されることによって、ステータ4に固定される。変形例では、密閉膜は、2液射出成形プロセスでステータまたはステータの一部と一体成形されてもよい。
【0052】
ピストン部分13は、ピストン部分13の端面15と半径方向表面16との間に、例えばテーパまたは面取りの形態の、非軸対称くぼみ14をさらに含む。テーパまたは面取りは、実質的に平坦な(平面の)表面を有してよく、または、変形例では、くぼみがピストンの角部の一部から材料を除去することを条件として、凸状湾曲表面または多面体表面を有していてもよい。くぼみは、少なくともステータの入口3および出口4まで延びる軸方向高さを有し、ピストンの回転中にくぼみが入口開口28または出口開口29のそばを通過するようになっている。
【0053】
入口3は、ピストンチャンバ10の半径方向表面30にある入口開口28と流体連通している。出口5は、ピストンチャンバ10の半径方向表面30にある、入口開口28と直径方向に対向する出口開口29と流体連通している。
【0054】
ピストン部分13の半径方向表面16と端面15との間の縁部、およびくぼみ14の縁部は、ピストン部分13とピストンチャンバ10との間の円周方向密閉外形を画定する。入口開口28および出口開口29は、くぼみ14の縁部によって画定された密閉外形の軸方向位置内に軸方向に位置付けられる。くぼみ14の密閉外形は、ステータに対するロータの角度位置に応じて、カムトラック外形Pに従って軸方向に変位する。くぼみ14の密閉外形は、入口開口28および出口開口29を開閉し、したがって、ピストンチャンバ10と入口3および出口5それぞれとの間の流体連通を可能にし、かつ無効にする。よって、入口開口28および出口開口29とくぼみ14の密閉外形との組み合わせは、ステータに対するロータの角度位置に応じて開閉する、入口バルブおよび出口バルブとして機能する。
【0055】
ピストンチャンバ10の内側表面の軸方向位置zおよび角度位置φでのくぼみ14の密閉外形が、入口バルブおよび出口バルブの開閉時のロータ位置に対して
図7に示されている。座標系の原点は、ピストン部分13がピストンチャンバ10に完全に挿入されたときの入口開口および出口開口の角度位置の中間の角度位置にあるくぼみ14の中心によって定義される。くぼみ14の中心の角度位置は、ロータ6のヘッド11上のインジケータ31によってマークすることができる。
【0056】
入口バルブと出口バルブの両方は、
図6aに示されるように、0°の角度位置で閉じられている。0°~90°の第1の角度φ1では、くぼみ14の密閉外形の第1の側が入口開口28に到達し(
図7の曲線S1)、
図6bに示されるように入口バルブが開き始める。入口バルブが少なくとも部分的に開いた後、ピストン部分は角度の増加に伴い軸方向に動き始め、液体は入口3からピストンチャンバ10内にポンピングされる。入口バルブは、
図6dに示されるように、くぼみ14の密閉外形の第2の側が入口開口28に達すると、閉じ始める。入口バルブが90°~180°の第2の角度φ2で完全に閉じる前に、ロータの軸方向変位、したがって液体の吸入が停止する(
図7の曲線S2)。入口バルブと出口バルブの両方は、
図6eに示されるように、180°の角度位置で閉じられる。180°~270°の第3の角度φ3では、くぼみ14の密閉外形の第1の側が出口開口29に到達し、出口バルブが開き始める(
図7の曲線S3)。出口バルブが少なくとも部分的に開いた後、
図6f~
図6hに示されるように、ピストン部分は角度の増加に伴い反対の軸方向に動き始め、液体がピストンチャンバ10から出口5へポンピングされる。出口バルブは、くぼみ14の密閉外形の第2の側が出口開口29に達すると、閉じ始める。ロータの軸方向変位、したがって液体の吐出は、出口バルブが270°~360°の第4の角度φ4で完全に閉じる前に停止する(
図7の曲線S4)。
【0057】
ピストンチャンバ13内のデッドボリュームは、ピストン部分が0°の角度位置でピストンチャンバ内に完全に挿入されているという条件で、ピストンの軸対称外形に対するくぼみ14の容積である。
【0058】
図2~
図4に示される実施形態では、ロータ6のピストン部分13は、くぼみ14の縁部およびピストン部分13の端面15と半径方向表面16との間の縁部に沿ってピストン部分13から半径方向外向きに延びる下側円周方向密閉リブ18を含む。膜7は、下側円周方向密閉リブ18とピストンチャンバ10の半径方向表面30との間に押し込まれる(挟まれる)。下側円周方向密閉リブ18は、ピストン部分13とピストンチャンバ10との間に円周方向密閉外形を画定する。ピストン部分13は、ピストン部分13から半径方向外向きに延びる上側円周方向密閉リブ17をさらに含む。上側円周方向密閉リブ17は、入口開口および出口開口(28、29)の上方で軸方向近位に、すなわち軸方向において、ポンプサイクル全体を通じて入口開口および出口開口よりもロータヘッドの近くに、配置されている。上側円周方向密閉リブ17および下側円周方向密閉リブ18は、入口バルブおよび出口バルブの密閉、ならびにピストン部分13とピストンチャンバ10との間の密閉を改善する。ピストン部分13は、両バルブが閉じているときに入口と出口との間の漏れを回避するために、上側円周方向密閉リブ17を下側円周方向密閉リブ18と軸方向に接続する、ピストン部分13から半径方向外向きに延びる1つ以上の垂直密閉リブをさらに含み得る。例えば、くぼみの中心の反対に垂直密閉リブを配置してもよい。
【0059】
図5に示す変形例では、入口バルブと出口バルブの密閉、およびピストン部分とピストンチャンバとの間の密閉は、ピストンチャンバに追加された密閉リブによって改善されている。この変形例では、ピストンチャンバ10は、入口開口28を取り囲むピストンチャンバ10の半径方向表面30から半径方向内向きに延びる第1の密閉リブと、出口開口29を取り囲むピストンチャンバ10の半径方向表面30から半径方向内向きに延びる第2の密閉リブ24と、を含む。ピストンチャンバ10は、ピストンチャンバ10の半径方向表面30から半径方向内向きに延びる円周方向密閉リブ23をさらに含む。ピストンチャンバ10の円周方向密閉リブ23は、入口開口および出口開口の上方で軸方向近位に、すなわちポンプサイクル全体を通して入口開口および出口開口よりもロータヘッドの近くに、配置されている。
【0060】
〔特徴部のリスト〕
マイクロポンプ1
ステータ4
キャップ部分4b
ロータシャフト用通路19
固定要素20b
例:ロックラッチ
クランプ面21
ベース部分4a
入口3
入口開口28
出口5
出口開口29
ピストンチャンバ10
半径方向表面30
端面32
固定要素20a
例:ロック肩部
クランプ面22
円周方向密閉リブ23
入口開口および出口開口を囲む密閉リブ24
膜7
カラー26
ロータ6
ヘッド11
インジケータ31
シャフト12
ピストン部分13
くぼみ14
端面15
半径方向表面16
上側円周方向密閉リブ17
下側円周方向密閉リブ18
入口バルブV1
出口バルブV2
ロータ位置
入口バルブの開/閉時のくぼみの密閉外形S1、S2
出口バルブの開/閉時のくぼみの密閉外形S3、S4
軸方向変位システム
カムシステム8
ステータ上のカムトラック81a、81b
ロータ上の相補的なカムフォロア82a、82b
カップリング9
付勢機構27
回転駆動部2
【0061】
〔実施の態様〕
(1) ポンプ(1)であって、
ステータ(4)と、前記ステータに対して軸方向に、また回転可能に移動可能なロータ(6)と、を含み、前記ステータ(4)は、半径方向表面(30)を含むピストンチャンバ(10)と、前記半径方向表面に形成された入口開口(28)を含む入口(3)と、前記半径方向表面に形成された出口開口(29)を含む出口(5)と、を含み、前記ロータ(6)は、ピストン部分(13)を含み、前記ピストン部分(13)は、半径方向表面(16)と、端面(15)と、前記ピストン部分(13)の前記半径方向表面(16)と前記端面(15)との間に形成された非軸対称くぼみ(14)と、を含み、
前記くぼみ(14)は、ポンプ吸入段階に対応する、前記ステータに対する前記ロータの角度位置の範囲にわたって、前記入口開口(28)に少なくとも部分的に重なるように配置され、ポンプ吐出段階に対応する、前記ステータに対する前記ロータの角度位置の範囲にわたって、前記出口開口(29)に少なくとも部分的に重なるように配置され、
前記ピストン部分(13)の前記半径方向表面(16)は、前記ポンプ吸入段階の間に前記出口開口(29)を閉じ、前記ポンプ吐出段階の間に前記入口開口(28)を閉じ、前記ポンプ吸入段階と前記ポンプ吐出段階との間では前記入口開口(28)および前記出口開口の両方を閉じるように構成され、
前記ステータ(4)は、前記ピストン部分(13)を前記ピストンチャンバ(10)から密閉的に分離する可撓性弾性膜(7)を含むことを特徴とする、ポンプ。
(2) 前記可撓性弾性膜(7)は、可撓性材料の単一の層または複数の層を含む、実施態様1に記載のポンプ。
(3) 前記可撓性材料は、シリコーンゴムまたは熱可塑性エラストマーである、実施態様2に記載のポンプ。
(4) 前記単一の層、または前記複数の層のそれぞれの厚さは、0.1mm~1mmである、実施態様2に記載のポンプ。
(5) 前記単一の層、または前記複数の層のそれぞれは、射出成形または圧縮成形によって作られている、実施態様2に記載のポンプ。
【0062】
(6) 前記複数の層のうちの少なくとも2つの間に潤滑剤を含む、実施態様2に記載のポンプ。
(7) 前記ピストン部分(13)と前記可撓性弾性膜(7)との間に潤滑剤を含む、実施態様1に記載のポンプ。
(8) ポンプサイクル全体にわたって、前記ピストン部分(13)の前記くぼみ(14)、前記端面(15)、および前記半径方向表面(16)に対して、ぴったり合った、弾性的に張力をかける様式で、前記膜を弾性的に適合させるように、前記ピストン部分(13)が成形され、前記膜が構成されている、実施態様1に記載のポンプ。
(9) 前記ピストン部分(13)の直径に対するピストンストロークの比は、0.5より小さく、好ましくは0.2より小さい、実施態様1に記載のポンプ。
(10) 前記ステータ(4)は、キャップ部分(4b)と、ベース部分(4a)と、を含み、
前記膜(7)のリム部分が、前記キャップ部分(4b)と前記ベース部分(4a)との間に固定されている、実施態様1に記載のポンプ。
【0063】
(11) 前記キャップ部分(4b)は、スナップロック構造によって前記ベース部分(4a)に固定されている、実施態様10に記載のポンプ。
(12) 前記可撓性弾性膜(7)を密閉式に挟み、少なくとも前記入口開口および前記出口開口の上方で前記ピストンチャンバを密閉するように構成された、前記ロータ(6)または前記ピストンチャンバ(10)の表面から突出する密閉リブ(17、18、23、24)をさらに含む、実施態様11に記載のポンプ。
(13) 前記密閉リブは、前記入口(3)の開放段階中に前記出口開口(29)の下方および前記入口開口(28)の上方で、または、前記出口(5)の開放段階中に前記入口開口(28)の下方および前記出口開口(29)の上方で、前記弾性膜(7)を密閉式に挟むように構成された、前記ロータから突出する少なくとも1つの下側密閉リブ(18)を含む、実施態様12に記載のポンプ。
(14) 前記密閉リブは、前記入口開口(28)および前記出口開口(29)を囲む前記ピストンチャンバ(10)の前記半径方向表面(30)から突出する密閉リブ(24)を含む、実施態様12に記載のポンプ。
(15) 前記ステータ(4)に対する前記ロータ(6)の角度位置(φ)に応じて前記ステータ(4)に対する前記ロータ(6)の軸方向位置(z)を画定するカムシステム(8)を含む、実施態様1に記載のポンプ。
【外国語明細書】