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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077017
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】ポリウレタン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/08 20060101AFI20240530BHJP
   C08K 5/34 20060101ALI20240530BHJP
   C08G 65/20 20060101ALI20240530BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C08L75/08
C08K5/34
C08G65/20
C08G18/48 054
C08G18/48 058
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040902
(22)【出願日】2024-03-15
(62)【分割の表示】P 2022188027の分割
【原出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】502179282
【氏名又は名称】東レ・オペロンテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】田中 利宏
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 昇
【テーマコード(参考)】
4J002
4J005
4J034
【Fターム(参考)】
4J002CK041
4J002EU006
4J002EU026
4J002EU036
4J002EU046
4J002EU096
4J002EU116
4J002EU126
4J002EU146
4J002EU176
4J002EU186
4J002FD010
4J002FD030
4J002FD036
4J002FD040
4J002FD056
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD100
4J002FD170
4J002FD206
4J002GK01
4J005AA08
4J034BA03
4J034CA02
4J034CA13
4J034DB03
4J034DB04
4J034DG06
4J034DG09
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034QC05
4J034QD04
4J034RA09
(57)【要約】
【課題】収縮時の応力、すなわち回復応力が高く、抗酸化性に優れた高耐久性のポリウレタン弾性繊維を与え得るポリウレタン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリエーテル構造を骨格中に有するポリウレタンと、窒素含有芳香族化合物とを含むポリウレタン樹脂組成物であって、ポリエーテル構造が下記一般式(1)で表され、ポリウレタン樹脂組成物中に窒素含有芳香族化合物が0.05質量%以上2.0質量%以下含有される、ポリウレタン樹脂組成物。
【化1】
(Rは炭素数2~6のアルキレン基、Rは炭素数1~2のアルキル基であり、
l,m,nは、4≦n/(l+m+n)×100≦50を満たす)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテル構造を骨格中に有するポリウレタンと、窒素含有芳香族化合物とを含むポリウレタン樹脂組成物であって、
ポリエーテル構造が下記一般式(1)で表され、
ポリウレタン樹脂組成物中に窒素含有芳香族化合物が0.05質量%以上2.0質量%以下含有される、ポリウレタン樹脂組成物。
【化1】
(Rは炭素数2~6のアルキレン基、Rは炭素数1~2のアルキル基であり、
l,m,nは、4≦n/(l+m+n)×100≦50を満たす。)
【請求項2】
前記一般式(1)中のl,m,nが、6≦n/(l+m+n)×100≦16を満たす請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
ポリウレタン樹脂組成物中に窒素含有芳香族化合物が0.2質量%以上0.8質量%以下含有される請求項1または2に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)中の-(CHCHCHCHR-O)n-のうち前記ポリウレタンの末端にあるものの数をn’としたとき、5≦n’/(l+m+n)×100≦30を満たす請求項1または2に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
前記一般式(1)部分の数平均分子量が3000以上30000以下である請求項1または2に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
ISO 16620-2に定められる炭素同位体比測定によるバイオ化率が炭素質量比で3%以上である請求項1または2に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリウレタン樹脂組成物に関し、とくに、収縮時の応力、すなわち回復応力が高く、抗酸化性に優れた高耐久性のポリウレタン弾性繊維を与え得るポリウレタン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、優れた伸縮特性を有することから、塗料、コーティング剤、シーリング材、接着剤、粘着剤、繊維加工剤、人工皮革・合成皮革、ロール等のエラストマー用原料及び繊維製品等に幅広く展開されている。それぞれの用途において、ポリウレタン樹脂を原料として最終製品を生産したり、加工したりする際の熱履歴による劣化の防止や最終製品の耐久性向上のため、ポリウレタン樹脂の伸縮特性(高弾性回復及び高伸度)を維持しつつその耐熱性を向上させることが求められている。
【0003】
ポリウレタン弾性繊維は、その優れた伸縮特性からレッグウエア、インナーウエア、スポーツウエアなどの伸縮性衣料用途や産業資材用途に幅広く使用されている。
【0004】
ポリウレタン弾性繊維にも、同様に高弾性回復、高強伸度、高耐熱性、熱セット性を有することが求められている。なかでも、弾性回復性能については、回復応力の向上を常に追求してきた。
【0005】
また、耐熱性についても高融点化させると耐熱脆化性能は向上するが、特に繊維とした場合に求められる熱セット性が低下してしまうため、表面積の大きい繊維においては高酸化力のある組成が求められてきた。
【0006】
テトラヒドロフランと3-アルキルテトラヒドロフランとのコポリエーテルジオールとジイソシアネートからなるポリウレタン構造では、前者に比べ収縮時の応力、すなわち回復応力がより高いソフトセグメントとなり得ることが知られている(特許文献1および2)。
【0007】
また、ポリウレタン弾性繊維の耐熱性、耐熱老化性には窒素含有芳香族化合物を適正量含有する場合特異的に抗酸化作用を発揮する例が開示されている(特許文献3および4)。
【0008】
さらには、近年、環境問題の諸課題への関心の高まりから、持続可能な社会への転換に向けた取り組みが有機素材全般に求められているが、伸縮部材中の含有率が比較的低いポリウレタン弾性繊維も例外ではない。伸縮性衣料や産業資材中の含有率が比較的低いゆえ、分離、取り出しが困難で、再資源化が難しく、サーマルリサイクルが好ましい場合がある。そのため、カーボンニュートラルなバイオマス資源由来の成分を原料とすることが提案されてきた(特許文献5および6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2-19511号公報
【特許文献2】特開平9-136937号公報
【特許文献3】特開2008-69506号公報
【特許文献4】WO2009/011189
【特許文献5】特表2014-522446号公報
【特許文献6】特開2021-152139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これら従来の技術では、回復応力または抗酸化性が不十分であった。このように、回復応力が高く、抗酸化性に優れたポリウレタン弾性繊維を与え得るポリウレタン樹脂組成物が求められている。
【0011】
本発明の課題は、収縮時の応力、すなわち回復応力が高く、抗酸化性に優れた高耐久性のポリウレタン弾性繊維を与え得るポリウレタン樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題に対して発明者らは、テトラメチレンエーテルにおけるエーテル基に隣接する炭素原子にアルキル基が存在する場合を検討した。すなわち、テトラヒドロフランと2-アルキルテトラヒドロフランとのコポリエーテルジオールとジイソシアネートからなるポリウレタン構造である。その結果、3-アルキル基に比べて、2-アルキル基の方が、ポリウレタン弾性繊維の回復応力が高いポリウレタン樹脂組成物を得ることができることを見出した。また、発明者らは3-アルキル基に比べて、2-アルキル基の場合には全く異なる耐熱挙動を示すことを見出した。すなわち、2-アルキル基の場合には窒素含有芳香族化合物は特定添加量にて耐熱性を極大にすることを見出した。これらの現象は、テトラメチレンエーテルにおけるエーテル基に隣接する炭素原子にアルキル基が存在する場合、アルキル基の立体障害が3-アルキル基より2-アルキル基の方が優位にあること、また、抗酸化の観点ではエーテル基に隣接する炭素原子にアルキル基が存在する場合、エーテル酸素と隣接炭素の開裂を抑制できていると考えられる。よって、回復応力が高く、抗酸化性に優れた高耐久性のポリウレタン弾性繊維を与え得るポリウレタン樹脂組成物を得ることが可能となることを見出した。これによって、低融点・高ヒートセット化しても高耐熱性と高耐久性を兼ね備えたるため、低温加工が可能となり、環境問題に対する省エネルギー化が可能となる。また、従来はサーマルリサイクルに好適な、カーボンニュートラルなバイオマス資源由来の成分を原料とすることが提案されてきた(特許文献5および6)。しかし、新規またはこれまで汎用で無かった特殊な化学構造の原料を使用することは合理的でなく、公知の化学構造の非石油化学でバイオマスの原料、すなわちバイオマスモノマーを使用することが重要である。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のような構成を有する。
(1)ポリエーテル構造を骨格中に有するポリウレタンと、窒素含有芳香族化合物とを含むポリウレタン樹脂組成物であって、
ポリエーテル構造が下記一般式(1)を満たし、
ポリウレタン樹脂組成物中に窒素含有芳香族化合物が0.05質量%以上2.0質量%以下含有される、ポリウレタン樹脂組成物。
【化1】
(Rは炭素数2~6のアルキレン基、Rは炭素数1~2のアルキル基であり、
l,m,nは、4≦n/(l+m+n)×100≦50を満たす)
(2)前記一般式(1)中のl,m,nが、6≦n/(l+m+n)×100≦16を満たす(1)に記載のポリウレタン樹脂組成物。
(3)ポリウレタン樹脂組成物中に窒素含有芳香族化合物が0.2質量%以上0.8質量%以下含有される(1)または(2)に記載のポリウレタン樹脂組成物。
(4)前記一般式(1)中の-(CHCHCHCHR-O)n-のうち末端にあるものの数をn'としたとき、5≦n'/(l+m+n)×100≦30を満たす(1)~(3)のいずれかに記載のポリウレタン樹脂組成物。
(5)前記一般式(1)部分の数平均分子量が3000以上30000以下である(1)~(4)のいずれかに記載のポリウレタン樹脂組成物。
(6)ISO 16620-2に定められる炭素同位体比測定によるバイオ化率が炭素質量比で3%以上である、(1)~(5)のいずれかに記載のポリウレタン樹脂組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、収縮時の応力、すなわち回復応力が高く、抗酸化性に優れた高耐久性のポリウレタン弾性繊維を与え得るポリウレタン樹脂組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について、実施の形態とともに詳細に説明する。
まず本発明のポリウレタン樹脂組成物において使用されるポリウレタンについて述べる。ここで述べるポリウレタンは主構成成分として使用されることが好ましく、ここでいう主構成成分とは、ポリウレタン樹脂組成物に50質量%を超えて含有される成分である。
【0016】
本発明に使用されるポリウレタンは、ポリエーテル構造を骨格中に有するものである。ポリエーテル構造を骨格中に有するポリウレタンは、ポリエーテル構造を有するポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とする構造を有するものである。ここで出発物質とする構造を有するとは、ポリマーの骨格構造を説明するために出発物質の該当部分の構造を参照するものであって、出発物やその合成法は特に限定されるものではない。すなわち、例えば、ポリマージオールとジイソシアネートと鎖伸長剤として低分子量ジアミンとからなるポリウレタンウレアであってもよく、また、ポリマージオールとジイソシアネートと鎖伸長剤として低分子量ジオールとからなるポリウレタンウレタンであってもよい。また、鎖伸長剤として水酸基とアミノ基を分子内に有する化合物を使用したポリウレタンウレアであってもよい。本発明の効果を妨げない範囲で3官能性以上の多官能性のグリコールやイソシアネート等が使用されることも好ましい。さらには、その加工法も特に限定されるものではない。すなわち、再成形、再製糸を経たリサイクルによるポリウレタンでもよい。
【0017】
本発明においてポリエーテル構造を有するポリマージオールはポリエーテル構造が下記一般式(1)を満たすものである。
【0018】
【化2】
(Rは炭素数2~6のアルキレン基、Rは炭素数1~2のアルキル基であり、
l,m,nは、4≦n/(l+m+n)×100≦50を満たす)
【0019】
そして、前記一般式(1)中のl,m,nが、6≦n/(l+m+n)×100≦16を満たす場合、伸長時の応力と伸長回復時の応力のバランスが良好であり、変性テトラメチレンエーテル単位(CHCHCHCHR-O)に相当する従来の技術、例えば(CHCHCHRCH-O)などに対してより少ない変性テトラメチレンエーテル単位で同等の特性が得られることから好ましい。なお、一般式(1)において、l,m,nは比率をのみを表すものである。すなわち、それぞれの単位が繰り返し単位としてl,m,nを有するブロック体のみに限定されず、それぞれの単位がランダムに連結したランダム体であってもよい。
【0020】
前記一般式(1)中の-(CHCHCHCHR-O)n-のうち前記一般式(1)の末端にあるものの数をn’としたとき、5≦n’/(l+m+n)×100≦30を満たす場合、伸長時の応力と伸長回復時の応力のバランスがより良好であり、耐久性、すなわち、窒素含有芳香族化合物との相乗的な作用による耐熱酸化劣化、耐紫外線劣化、耐塩素劣化、これらの複合耐久性が向上することから好ましい。
【0021】
なお、Rは炭素数4以外の2、3、5、6を取る場合も好ましく、2の場合は水蒸気の透過性が増し、吸湿や吸水機能を付与せしめたり、6では逆に疎水性を付与せしめたり、奇数炭素数3および5では、ソフトセグメントの伸長時結晶(歪み誘発結晶)を抑制し、伸長回復性に寄与できる。
【0022】
さらに、(CHCHCHCH-O)および(CHCHCHCHR-O)構造単位の原料となるTHFおよび2-MeTHFはサーマルリサイクルに好適な、カーボンニュートラルなバイオマス資源由来の成分を原料とすることが好ましい。かかる場合において、バイオマス資源由来の成分を原料としている度合いは、バイオ化率として表される。バイオ化率は、放射性炭素(炭素14)の濃度測定同定法であるISO 16620-2により得ることができる。左記ISO 16620-2の放射性炭素(炭素14)の濃度測定同定法を本発明において単に炭素同位体比測定と呼ぶ場合がある。本発明のポリウレタン樹脂組成物は炭素同位体比測定によるバイオ化率が炭素質量比で3%以上であることが好ましい。
【0023】
その他のポリマージオールはポリエーテル系、ポリエステル系ジオール、ポリカーボネートジオール等を含有していることも好ましい。そして、特に柔軟性、伸度を、本発明のポリウレタン樹脂組成物から得られる成形体、及び、本発明のポリウレタン樹脂組成物から得られるポリウレタン弾性繊維に付与する観点からポリエーテル系ジオールが使用されることが好ましい。また、こうしたポリマージオールは2種以上混合して使用してもよい。
【0024】
ポリマージオールの分子量は、弾性繊維にした際の伸度、強度、耐熱性などを得る観点から、数平均分子量が1,000以上のものが好ましく、3000以上がより好ましい。この範囲の分子量のポリオールが使用されることにより、伸度、強度、耐熱性に優れた弾性繊維を得ることができる。また、数平均分子量が30,000以下のものが好ましく、6,000以下がより好ましい。この範囲の分子量のポリオールが使用されることにより、伸度、弾性回復力、耐熱性、窒素含有芳香族化合物との相乗効果による耐久性に優れた弾性繊維を得ることができる。
【0025】
次に、ジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略すこともある)、トリレンジイソシアネート、1,4-ジイソシアネートベンゼン、キシリレンジイソシアネート、2,6-ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが、特に耐熱性や強度の高いポリウレタンを合成するのに好適である。さらに脂環族ジイソシアネートとして、例えば、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,6-ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ1,5-ナフタレンジイソシアネートなどが好ましい。脂環族ジイソシアネートは、特に本発明のポリウレタン樹脂組成物から得られる成形体、及び、本発明のポリウレタン樹脂組成物から得られるポリウレタン弾性繊維の黄変を抑制する際に有効に使用できる。そして、これらのジイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。以降、ポリウレタン樹脂組成物から得られる成形体を、ポリウレタン樹脂成形体と記すこともある。
【0026】
次にポリウレタンを合成するにあたって用いられる鎖伸長剤は、低分子量ジアミンおよび低分子量ジオールのうちの少なくとも1種を使用するのが好ましい。なお、エタノールアミンのような水酸基とアミノ基を一分子中に両方有するものであってもよい。
【0027】
好ましい低分子量ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p,p’-メチレンジアニリン、1,3-シクロヘキシルジアミン、ヘキサヒドロメタフェニレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ビス(4-アミノフェニル)フォスフィンオキシドなどが挙げられる。これらの中から1種または2種以上が使用されることが好ましい。特に好ましくはエチレンジアミンである。エチレンジアミンを用いることにより伸度および弾性回復性、さらに耐熱性に優れた弾性繊維を容易に得ることができる。これらの鎖伸長剤に架橋構造を形成することのできるトリアミン化合物、例えば、ジエチレントリアミン等を効果が失わない程度に加えてもよい。
【0028】
また、低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチレンテレフタレート、1-メチル-1,2-エタンジオールなどが代表的なものである。これらの中から1種または2種以上が使用されることが好ましい。特に好ましくはエチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオールである。これらを用いると、ジオール伸長のポリウレタンとしては耐熱性がより高くなり、また、より強度の高いポリウレタン樹脂成形体、及び、弾性繊維を得ることができるのである。
【0029】
また、本発明においてポリウレタンの分子量は、耐久性や強度の高いポリウレタン樹脂成形体、及び、ポリウレタン弾性繊維を得る観点から、数平均分子量として30,000以上150,000以下の範囲であることが好ましい。なお、分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定し、ポリスチレンにより換算する。
【0030】
ポリウレタンには、末端封鎖剤が1種または2種以上混合使用されることも好ましい。末端封鎖剤としては、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、イソペンチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミンなどのモノアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、アリルアルコール、シクロペンタノールなどのモノオール、フェニルイソシアネートなどのモノイソシアネートなどが好ましい。
【0031】
本発明におけるポリウレタン樹脂組成物は、窒素含有芳香族化合物を0.05質量%以上2.0質量%以下を含有する。前記一般式(1)のポリエーテル構造を骨格中に有するポリウレタンの耐久性、特に抗酸化性に優れた高耐久性を相乗的に発現する。
【0032】
【化3】
(Rは炭素数2~6のアルキレン基、Rは炭素数1~2のアルキル基であり、
l,m,nは、4≦n/(l+m+n)×100≦50を満たす)
【0033】
窒素含有芳香族化合物の含有量が0.05質量%未満であれば、ポリウレタン樹脂成形体、及び、ポリウレタン弾性繊維の耐久性が不足するおそれがあり、2.0質量%を超えると、ポリウレタン樹脂成形体、及び、ポリウレタン弾性繊維の耐熱性の低下が顕著となり、耐黄化性が低下するおそれがある。
【0034】
窒素含有芳香族化合物の含有量の0.05重量%以上2.0重量%以下という値は、一般的に、窒素含有芳香族化合物が樹脂組成物1kg中に0.25~13.3ミリ当量(meq/kg)の範囲で存在することに相当する。これに対し、窒素原子を含む芳香環は熱分解を起こし易いので、窒素含有芳香族化合物の含有量が多すぎる場合(すなわち、芳香環窒素原子が13.3ミリ当量を超える量の場合)には、一般式(1)のポリエーテル構造を骨格中に有するポリウレタンとの相乗効果よりも、熱分解によるラジカル生成の方が優位になり、耐熱性を低下させたり、キノン構造を形成し熱変色を起こしたりするので、高耐熱性などの機能が得られない。また、窒素含有芳香族化合物を耐光剤として多く含有させる場合があるが、その含有量が2.0質量%を超えるほどに多い場合には、本発明の目的である高耐熱性などの効果は得られない。これら点からして、窒素含有芳香族化合物の含有量は多すぎない適正量とすることが好ましく、好ましい範囲は、0.1質量%以上1.0質量%以下、さらには、0.2質量%以上0.8質量%以下である。
【0035】
さらには、前記一般式(1)のポリエーテル構造を骨格中に有するポリウレタンの-(CHCHCHCHR-O)n-のうち末端にあるものの数をn’としたとき、5≦n’/(l+m+n)×100≦30を満たすことが好ましい。かかる場合、窒素含有芳香族化合物との抗酸化性の効果が相乗的に発揮できる。また、10≦n’/(l+m+n)×100≦15であればより好ましく、窒素含有芳香族化合物はより少量含有で有効であり、これらの場合には、窒素含有芳香族化合物の含有量は0.1質量%以上0.6質量%以下であることも好ましい。
【0036】
含有される窒素含有芳香族化合物としては、より具体的には、分子内の芳香環に窒素原子が配されている含窒素芳香族複素環を持つ化合物である。化学構造骨格としては、1窒素芳香族複素環を持つピロール、ピリジン、カルバゾール、キノリン、2窒素芳香族複素環を持つイミザゾール、ピラゾール、ピリダジン、ピラジン、ピリミジン、ナフチリジン、フェナントロリン、3窒素芳香族複素環を持つトリアジン、ベンゾトリアゾール、ナフチリジンなどが挙げられ、ベンゾチアゾールやベンゾオキサゾールなど、窒素以外のヘテロ原子を配していても構わない。かかる含窒素芳香族化合物の具体例としては、紫外線吸収剤として知られているベンゾトリアゾール化合物やトリアジン化合物が好ましく、より具体的には、2-(3、5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ビスフェニル)ベンゾトリアゾール、2,4-ジ(2′,4′-ジメチルフエニル)-6-(2″-ヒドロキシ-4″-アルコキシフエニル)-1,3,5-トリアジン、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス[4H-3,1-ベンザキサジン-4-オン]などの化合物が挙げられる。商品名で記載すると、チバガイギー社製“チヌビン”-P、“チヌビン”-213、“チヌビン”-234、“チヌビン”-327、“チヌビン”-328、“チヌビン”-571、“チヌビン”-1577、住友化学工業(株)製“スミソーブ”250、アメリカンサイナミド社製“サイアソルブ”UV-541 1、UV-1164、UV-3638、旭電化工業(株)製“アデカスタブ”LA-31、等が挙げられる。
【0037】
染色時における高耐熱性、不飽和脂肪酸への耐性、及び重金属への耐性を併せて発揮するとともに、高弾性回復性及び高強伸度を有するポリウレタン弾性繊維とするためには、窒素含有芳香族化合物の含有量は0.05重量%以上2.0重量%以下であることが必要である。
【0038】
窒素含有芳香族化合物のなかでも、紡糸中の揮発減量を抑制する観点から分子量300 以上の化合物群が好ましい。そして、染色時における耐熱性および紡糸性を良好とする観 点から、芳香環に窒素原子を2個以上有する化合物であることがより好ましく、重金属と の錯体形成が容易であり、キレート効果を発揮するためと推察される。さらに該効果を十 分に発揮するためには、窒素含有芳香族化合物の化学構造骨格はトリアジンであることが好ましい。なお、実際に用いる窒素含有芳香族化合物の分子量と芳香環の有効窒素数等や用途等に応じて事前にテストし、最適値を適宜決定することが好ましい。
【0039】
そして、特に高い染色時耐熱性を有するポリウレタン弾性繊維とするためには、窒素含有芳香族化合物として、2,4-ジ(2′,4′-ジメチルフエニル)-6-(2″- ヒドロキシ-4″-アルコキシフエニル)-1,3,5-トリアジンが好適である。
【0040】
さらに、含窒素芳香族化合物として使用する化合物は、ポリウレタンへの分散および溶解を速くし、製造されるポリウレタン弾性繊維に所望の特性を付与し、さらに適度な透明度のポリウレタン弾性繊維とすることができ、さらに紡糸工程で熱などを受けた時でもこれら化合物の含有量が低下せずポリウレタン弾性繊維の変色および黄変色を生じないという観点から、20℃での粘度が100cP以上10000P以下となる液体状の化合物であるものが好ましい。
【0041】
さらに、本発明で使用されるポリウレタンは、末端封鎖剤が1種または2種以上混合使用されたものが好ましい。末端封鎖剤として、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、イソペンチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミンなどのモノアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、アリルアルコール、シクロペンタノールなどのモノオール、フェニルイソシアネートなどのモノイソシアネートなどが好ましい。
【0042】
また、本発明において、ポリウレタン樹脂組成物中に、前述した以外 の各種安定剤であるヒンダートフェノール系、硫黄系、燐系等の酸化防止剤、ヒンダート アミン系、トリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ニッケル系、サリチル 系等の光安定剤、帯電防止剤、滑剤、過酸化物等の分子調整剤、金属不活性化剤、有機及 び無機系の核剤、中和剤、蛍光増白剤、充填剤、難燃剤、難燃助剤、顔料等を本発明の効 果を阻害しない範囲で含有されていてもよい。例えば、耐光剤、酸化防止剤などに2,6 -ジ-tブチル-pクレゾール(BHT)やベンゾフェノン系薬剤、各種のヒンダードア ミン系薬剤、酸化鉄、酸化チタンなどの各種顔料、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネ シウム、カーボンブラックなどの無機物、フッ素系またはシリコーン系樹脂粉体、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸、また、銀や亜鉛やこれらの化合物などを含む殺菌剤 、消臭剤、防菌剤、またシリコーン、鉱物油などの滑剤、硫酸バリウム、酸化セリウム、 ベタインやリン酸系などの各種の帯電防止剤などが含まれることも好ましく、またこれら とポリマとを反応させることも好ましい。そして、特に光や各種の酸化窒素などへの耐久 性をさらに高めるには、例えば、日本ファインケム(株)製のHN-130、HN-150などの酸化窒素捕捉剤が使用されることも好ましい。
【0043】
また、乾式紡糸工程における紡糸速度を上げ易いという観点から、紡糸原液中に二酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物の微粒子を添加してもよい。また、耐熱性向上や機能性向上の観点から、無機物や無機多孔質(例えば、竹炭、木炭、カーボンブラック、多孔質泥、粘土、ケイソウ土、ヤシガラ活性炭、石炭系活性炭、ゼオライト、パーライト等)を、本発明の効果を阻害しない範囲内で添加してもよい。
【0044】
これら添加剤は、ポリウレタン溶液と前記した改質剤との混合により紡糸原液を調製する際に添加してもよいし、また、混合前のポリウレタン溶液中や分散液中に予め含有させておいてもよい。これら添加剤の含有量は目的等に応じて適宜決定される。
【0045】
本発明のポリウレタン樹脂組成物においては、酸化防止剤を含有する場合には、0.002質量%以上5.0質量%以下含有していることが好ましい。酸化防止剤の含有量がこの範囲内にあると、実用上好ましいポリウレタン樹脂組成物の特性、特に好ましい酸化防止剤はヒンダードフェノール化合物であり、一般に抗酸化防止剤として知られているフェノール化合物が挙げられる。例えば、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-トルエン、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6’-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、カルシウム(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジル-モノエチル-フォスフェート)、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-{β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、トコフェロール、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェノール)、N,N’-ビス[3-(3,5-ジーt-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、2,2’-オキサミドビス[エチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、エチレン-1,2-ビス(3,3-ビス[3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]ブチレート)、エチレン-1,2-ビス(3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]ブチレート)、1,1-ビス(2-メチル-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,3-トリス(2-メチル-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-S-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス(3’-t-ブチル-4’-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-S-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、さらには、ポリウレタン樹脂組成物用の抗酸化防止剤として知られている高分子量のヒンダードフェノール化合物も好適に用いられる。
【0046】
かかる高分子量のヒンダードフェノール化合物の好ましい具体例としては、ジビニルベンゼンとクレゾールとの付加重合体、ジシクロペンタジエンとクレゾールとの付加重合体イソブチレン付加物、クロロメチルスチレンと、クレゾール、エチルフェノール、t-ブチルフェノールなどの化合物との重合体が使用される。ここで、ジビニルベンゼン、クロロメチルスチレンは、p-でもm-でもよい。また、クレゾール、エチルフェノール、t-ブチルフェノールは、o-、m-、p-のいずれでもよい。
【0047】
なかでも、ポリウレタン弾性繊維の原料紡糸液の粘度を安定化し、紡糸中の揮発減量を抑制し、良好な紡糸性を得る観点から、分子量300以上の化合物であることが好ましく、さらには、高い紡糸速度、染色時における耐熱性、不飽和脂肪酸への耐性、重金属への耐性を効率よく発揮するためには、1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレン-1,2-ビス(3,3-ビス[3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]ブチレート)、ジビニルベンゼンとp-クレゾールとの付加物であって、6~12の繰り返し数を持つ重合体のいずれかまたはそれらを併用して用いることが好ましい。なかでも1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンが特に好ましい。また、(a)化合物および(c)化合物にトリアジン化合物を選択した場合には染色時における耐熱性において特に高い相乗効果を得ることができる。なかでも、(a)化合物が1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンであり、かつ、(c)化合物が2,4-ジ(2′,4′-ジメチルフエニル)-6-(2″-ヒドロキシ-4″-アルコキシフエニル)-1,3,5-トリアジンであることが特に好ましい。
【0048】
更に、本発明のポリウレタン樹脂組成物には耐熱性、複合耐久性、耐光性、黄変色など酸化による各種耐久性低下を抑制する観点から、片ヒンダードフェノール化合物を含有していることが好ましい。片ヒンダードフェノール化合物としては、片ヒンダードのヒドロキシフェニル基を少なくとも2つ含み、かつ、ビスエステル、アルキリデンから選択される骨格を有する化合物であることが好ましい。ここで、ヒドロキシフェニル基における水酸基に隣接する環位置に存在するアルキル基はターシャリーブチル基であることがより望ましく、水酸基の当量が600以下であることが更に望ましい。
【0049】
さらに、本発明におけるフェノール化合物として、片ヒンダードフェノール化合物も好ましい。片ヒンダードフェノール化合物としては、例えば、片ヒンダードのヒドロキシフェニル基がビスエステル骨格に共有結合した構造のエチレン-1,2-ビス(3,3-ビス[3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]ブチレート)(下記の化学式)が好ましい。
【0050】
【化4】
【0051】
前記した片ヒンダードフェノール化合物を含有させることにより、特性低下抑制効果を高めることができる。そして、このタイプのヒンダードフェノール化合物は下着など高頻度に洗濯および漂白が実施される場合には、特異的にポリウレタン弾性繊維を構成するポリウレタンの分子量抑制に働き、有効である。この効果を十分なものとし、かつ、繊維の物理的特性に悪影響を与えない観点から、片ヒンダードフェノール化合物はポリウレタン樹脂組成物に対し0.15~4質量%含有されるのが好ましく、0.5~3.5質量%含有されるのがより好ましく、破断強伸度、複合耐久性、耐黄変色、場合により耐光性が確保される。より好ましい酸化防止剤の含有量は0.2質量%以上3.0質量%以下の範囲であり、さらに好ましくは0.5質量%以上2.0質量%以下の範囲である。
【0052】
また、ポリウレタン樹脂組成物の酸化防止剤の含有量としては、0.1質量%以上5.0質量%以下の範囲が好ましい。ポリウレタン樹脂組成物の酸化防止剤の含有量がこの範囲内にあると、最終的に製造されるポリウレタン弾性繊維の内部に含有される酸化防止剤の含有量を、上述の望ましい酸化防止剤の含有量に容易に制御することが可能になる。ポリウレタン樹脂組成物の酸化防止剤の含有量としてより好ましくは0.2質量%以上3.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上2.0質量%以下の範囲である。
【0053】
含有される酸化防止剤としては、より具体的には、分子量が1000以上のヒンダードフェノール化合物であり、ポリウレタン樹脂組成物用の抗酸化防止剤として知られている分子量1,000以上のヒンダードフェノール化合物が用いられることが好ましい。分子量が1,000以上と云う比較的高分子量である以外には特に制限はなく、かかる高分子量のヒンダードフェノール化合物の好ましい具体例としては、ジビニルベンゼンとクレゾールとの付加重合体、ジシクロペンタジエンとクレゾールとの付加重合体イソブチレン付加物、クロロメチルスチレンと、クレゾール、エチルフェノール、t-ブチルフェノールなどの化合物との重合体が使用される。ここで、ジビニルベンゼン、クロロメチルスチレンは、p-でもm-でもよい。また、クレゾール、エチルフェノール、t-ブチルフェノールは、o-、m-、p-のいずれでもよい。
【0054】
なかでも、ポリウレタン弾性繊維の原料紡糸液の粘度を安定化し、良好な紡糸性を得る観点から、クレゾールから誘導される重合体のヒンダードフェノール化合物であることが好ましい。さらには、高い紡糸速度、染色時における耐熱性、不飽和脂肪酸への耐性、重金属への耐性を効率よく発揮するためには、その高分子量ヒンダードフェノール化合物をある程度多く含むことが好ましいが、ポリウレタン弾性繊維としてより良好な基本物性を得る観点からすると多過ぎないことが好ましい。
【0055】
本発明のポリウレタン樹脂組成物においては、上記のような酸化防止剤の分解物についても、その含有量が1.0質量%以下に規制されていることが好ましい。酸化防止剤の分解物の含有量がこの範囲内にあると、実用上好ましいポリウレタン樹脂組成物の特性、特にポリウレタン樹脂組成物を用いたポリウレタン弾性繊維の好ましい破断強伸度、耐変色性、耐久性が確保される。好ましい酸化防止剤の分解物の含有量は1.0質量%以下の範囲であり、より好ましくは0.5質量%以下の範囲である。
【0056】
本発明のポリウレタン樹脂組成物においては、三級アミン化合物を含有する場合には、0.2質量%以上5.0質量%以下含有していることが好ましい。三級アミン化合物の含有量がこの範囲内にあると、ポリウレタン樹脂組成物を用いたポリウレタン弾性繊維の実用上好ましい特性、紡糸性、染色性、耐久性、耐黄変色性が向上する。
【0057】
本発明で用いる三級アミン化合物としては、構造中にアミノ基を有する化合物であれば特に限定されるものではないが、ポリウレタン樹脂組成物の耐塩素劣化性および黄変性の観点から1級から3級アミノ基のうち、3級アミノ基のみを分子中に有するものが特に好ましい。
【0058】
三級アミン化合物は数平均分子量が2,000未満であると、ポリウレタン樹脂組成物を用いたポリウレタン弾性繊維の編成時に、ガイドや編み針との擦過により脱落や、染色等の浴中での加工時に流出により、撥水加工性が悪化するため数平均分子量が2,000以上である必要がある。ポリウレタン紡糸原液への溶解性を鑑みると、数平均分子量の範囲としては2,000~10,000の範囲のものが好ましい。より好ましくは2,000~4,000の範囲である。
【0059】
前記した三級アミン化合物を含有させることにより、ポリウレタン樹脂組成物の性能、特に黄変防止性能を高めることができる。この効果を十分なものとし、かつ、ポリウレタン樹脂組成物を用いたポリウレタン弾性繊維の物理的特性に悪影響を与えない観点から、三級アミン化合物は繊維質量に対して、0.2質量%以上、5.0質量%以下含有されるのが好ましく、0.5質量%以上、4.0質量%以下含有させるのがより好ましい。より好ましい三級アミン化合物の含有量は0.5質量%以上3.0質量%以下の範囲であり、さらに好ましくは0.5質量%以上2.0質量%以下の範囲である。
【0060】
含有される三級アミン化合物としては、より具体的には、t-ブチルジエタノールアミンとメチレン-ビス-(4-シクロヘキシルイソシアネ-ト)の反応による、数平均分子量2000以上の線状の高分子化合物、ポリエチレンイミンや分子骨格中に、第一級アミノ基と、第二級アミノ基と、第三級アミノ基とを含む分岐構造を有している高分子量化合物等が挙げられる。
【0061】
本発明のポリウレタン樹脂組成物においては、上記のような三級アミン化合物の分解物についても、その含有量が1.0質量%以下に規制されていることが好ましい。三級アミン化合物の分解物の含有量がこの範囲内にあると、ポリウレタン樹脂組成物を用いたポリウレタン弾性繊維の実用上好ましい特性、特に好ましい巻糸体形状、複合耐久性、耐黄変色が確保される。より好ましい三級アミン化合物の分解物の含有量は1.0質量%以下の範囲であり、さらに好ましくは0.5質量%以下の範囲である。
【0062】
また、本発明のポリウレタン樹脂組成物においては、架橋構造調節剤を含有する場合には、0.002質量%以上2.0質量%以下含有していることが好ましい。架橋構造調節剤はポリウレタンの重合停止剤が投入されて、重合が完了してから添加する剤である。架橋構造調節剤の含有量がこの範囲内にあると、ポリウレタン樹脂組成物を用いたポリウレタン弾性繊維の実用上好ましい特性、特に好ましい破断強伸度、永久歪み率、耐黄化性が確保される。より好ましい架橋構造調節剤の含有量は0.02質量%以上1.5質量%以下の範囲であり、さらに好ましくは0.2質量%以上1.0質量%以下の範囲である。
【0063】
含有される架橋構造調節剤としては、モノアミンおよび/またはジアミンが挙げられる。より具体的には、モノアミンとしてジメチルアミン、ジエチルアミン、シクロヘキシルアミン等、ジアミンとしてエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、1,3-シクロヘキシルジアミン、ヘキサヒドロメタフェニレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミンが挙げられる。特に好ましいのは、モノアミンとジアミンの混合使用である。
【0064】
本発明で得られるポリウレタンの指標は、GPCにより数平均分子量(M)を評価して行われる。GPCで評価した分子量はポリスチレンにより換算する。数平均分子量(Mn)が20000以上120000以下、かつ、数平均分子量が30000以下の領域の検出強度カーブにピークまたはショルダーがないポリウレタンを配合することが好ましい。ポリウレタン弾性繊維の破断強伸度を鑑みると、数平均分子量の範囲としては30000以上100000以下の範囲のものが好ましい。より好ましくは40000以上80000以下の範囲である。なお、検出強度カーブとは微分分子量分布曲線(横軸は分子量、縦軸は濃度分率を分子量の対数値で微分した値)、ショルダーとはショルダーピークのことである。
【0065】
なお、本発明においてポリウレタン樹脂としての分子量は、数平均分子量2,000~10,000の範囲の三級アミン化合物や好んで用いられる分子量1,000以上の酸化防止剤を配合する場合には、数平均分子量として10,000以上50,000以下の範囲となっても好ましい。なお、分子量はGPCで測定し、ポリスチレンにより換算する。
【0066】
次に本発明のポリウレタン樹脂組成物を用いたポリウレタン弾性繊維の製造方法について詳細に説明する。
【0067】
本発明においては最初にポリウレタン溶液を作製するのが好ましい。ポリウレタン溶液 、また、その溶液中の溶質であるポリウレタンを製造する方法は、溶融重合法、溶液重合 法のいずれであってもよく、他の方法であってもよい。しかし、より好ましいのは溶液重 合法である。溶液重合法の場合には、ポリウレタンにゲルなどの異物の発生が少ないので 、紡糸しやすく、低繊度のポリウレタン弾性繊維を製造しやすい。また、溶液重合の場合、溶液 にする操作が省けるという利点がある。
【0068】
本発明のポリウレタン樹脂組成物を用いたポリウレタン弾性繊維としては、様々な用途に利用可能である。その具体的な例としては、パンティーストッキング、ブラジャー、スリップ、キャミソール、ボディースーツ、ショーツ、ガードル、靴下やパンツ等の締め付け用紐、水着、トレーニングウェア、ヨガウェア、登山服、作業服、煙火服、天然短繊維との併用による紳士・婦人用スーツ等の衣服、ウェットスーツ、紙おむつ等のサニタリー品の漏れ防止締め付け部材、人工皮膚、人工血管、人工心臓、電気絶縁材、ワイピングクロス、コピークリーナー、ガスケット、安全衣服の締め付け部材、実験着の締め付け部材、防水資材の締め付け部材、包帯、手袋の締め付け部材など、すなわち、弾性伸縮力を必要とされる部位に好適に使用することができる。
【実施例0069】
(実施例1~18、比較例1~10)
以下に、表1~4に示した実施例1~18、比較例1~10について、ポリウレタン樹脂組成物を用いたポリウレタン弾性繊維および窒素含有芳香族化合物を添加した弾性繊維の製造と評価について説明する。
【0070】
[比較例1]
従来技術である比較例1では、脱水されたテトラヒドロフラン87.5モルと脱水された3―メチル-テトラヒドロフラン4.0モルとを撹拌機付き反応器に仕込み、窒素シール下、温度10℃で、触媒(過塩素酸70重量%及び無水酢酸30重量%の混合物)の存在下で8時間重合反応を行ない、反応終了液に水酸化ナトリウム水溶液で中和する共重合方法により得られた、数平均分子量3500の共重合テトラメチレンエーテルジオール(3-メチル-テトラヒドロフラン由来の構造単位(a)を4.0モル%含む)を、ポリアルキレンエーテルジオールとして用いた。
【0071】
この共重合テトラメチレンエーテルジオール1モルに対し4,4’-MDIを1.97モルになるように容器に仕込み、90℃で反応せしめ、得られた反応生成物をN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に十分に撹拌し、溶解させて溶液を得た。次に、鎖伸長剤として60モル%のエチレンジアミン(EDA)と40モル%の1,2-プロパンジアミン(1,2-PDA)を含むDMAc溶液を、前記反応物を溶解させた溶液に添加し、さらに末端封鎖剤としてジエチルアミンを含むDMAc溶液を添加して、ポリマー固体分が25重量%であるポリウレタンウレア溶液を調製した。得られた溶液は40℃で約2400ポイズの粘度を有していた。重合体はDMAc中で0.5g/100mlの溶液濃度で25℃で測定すると、0.90の極限粘度であった。
【0072】
このポリウレタンウレア溶液を、紡糸口金から高温(350℃)の不活性ガス(窒素ガス)中に4フィラメントで吐出し、この高温ガス中の通過により乾燥し、乾燥途中の糸が撚り合わされるようにエアージェット式撚糸機を通し、4フィラメントを合着させ、540m/分のスピードで巻き取り、4フィラメント合着で44dtexのポリウレタンウレア繊維を製造した。ガラス転移点(Tg)は-74℃であった。なお、このポリウレタンウレア繊維を構成するポリウレタンウレアのウレタン基濃度は0.49mol/kgであり、有効末端アミン濃度は18meq/kgであった。
【0073】
次に、酸化防止剤として、t-ブチルジエタノールアミンとメチレン-ビス-(4-シクロヘキシルイソシアネート)との反応によって生成せしめたポリウレタン(デュポン社製“メタクロール”(登録商標)2462)と、p-クレゾールとジビニルベンゼンの縮合重合体(デュポン社製“メタクロール”(登録商標)2390)との1対1(質量比)の混合物を用い、この混合物のDMAc溶液(35質量%)を調製し、添加剤溶液(B)とした。
【0074】
上記の溶液PUUX1、添加剤溶液(B)、窒素含有芳香族化合物(C)をそれぞれを99質量%、1.0質量%、0.2質量%で均一に混合し、一旦、紡糸溶液(D)とした。
【0075】
こうして得られた紡糸原液を用いて、紡糸溶液中のDMAcおよび浮遊するエチレンジアミンを紡糸原液含有量の1/100以下になる様に乾燥窒素温度300℃以上にて乾式紡糸する。このとき、ゴデローラーと巻取機の速度比を1:1.20として、22dtex/3filのマルチフィラメントのポリウレタン弾性繊維を紡糸して、巻き取り前のオイリングローラーによって後述する処理剤(油剤)をローラー給油し、巻き取り速度が600m/分で、長さ58mmの円筒状紙管に、巻き幅38mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて巻き取り、500gの巻糸体として乾式紡糸ポリウレタン弾性繊維を得た。得られたポリウレタン弾性繊維は3本のフィラメントを合着させた合着糸であった。処理剤付与量が糸に対して所定量になるようにオイリングローラーの回転数を調整した。また、処理剤の付与量は、JIS-L1073(合成繊維フィラメント糸試験方法)に準拠して、抽出溶剤としてn-ヘキサンを用いて測定した。ここで使用した処理剤の組成は、25℃で1×10-5/sの粘度を有するポリジメチルシロキサン80質量部、25℃で1.2×10-5/sの粘度を有する鉱物油15質量部、平均粒子径0.5μmのジステアリン酸マグネシウム塩5質量部の混合物である。
【0076】
[実施例1]
比較例1の3―メチル-テトラヒドロフランの替わりに、2―メチル-テトラヒドロフランを使用した(ポリマ名称:PUU1)以外は全く同様に44dtexのポリウレタンウレア繊維を製造した。ガラス転移点(Tg)は-70℃であった。なお、このポリウレタンウレア繊維を構成するポリウレタンウレアのウレン基濃度は0.49mol/kgであり、有効末端アミン濃度は20meq/kgであった。
【0077】
[実施例2~5]
表1の通り、コポリエーテルポリオール中の2-メチル-テトラヒドロフランの濃度のみを変更し(ポリマ名称:PUU2~PUU5)、実施例1と同様の方法で44dtexのポリウレタンウレア繊維を製造した。
【0078】
[比較例例2~5]
表1の通り、コポリエーテルポリオール中の3-アルキルテトラヒドフランの濃度のみを変更し(ポリマ名称:PUUX2~PUUX5)、実施例1と同様の方法で44dtexのポリウレタンウレア繊維を製造した。
【0079】
[実施例6~10]
表2の通り、実施例2をベースに、ポリウレタン弾性繊維中の窒素含有芳香族化合物の含有量のみを変更し、実施例1と同様の方法で44dtexのポリウレタンウレア繊維を製造した。
【0080】
[比較例6~10]
表2の通り、比較例4をベースに、ポリウレタン弾性繊維中の窒素含有芳香族化合物の含有量のみを変更し、実施例2と同様の方法で44dtexのポリウレタンウレア繊維を製造した。
【0081】
[実施例11~13]
表3の通り、実施例7をベースに、コポリエーテルポリオール中の2級水酸基濃度のみを変更し(ポリマ名称:PUU11~PUU13)、実施例1と同様の方法で44dtexのポリウレタンウレア繊維を製造した。
【0082】
[実施例14~16]
表4の通り、実施例7をベースに、コポリエーテルポリオールの数平均分子量のみを変更し、実施例1と同様の方法で44dtexのポリウレタンウレア繊維を製造した。
【0083】
[実施例17,18]
表4の通り、実施例7をベースに、バイオ化率のみを変更し、実施例1と同様の方法で44dtexのポリウレタンウレア繊維を製造した。
【0084】
表1から分かる通り、200%伸長回復時の応力などの機械物性は2―メチル-テトラヒドロフランの共重合モル濃度が3―メチル-テトラヒドロフランの共重合モル濃度の半量で同じ効果が発現される。
【0085】
表2から分かる通り、2―メチル-テトラヒドロフラン系における窒素含有芳香族化合物量は0.6周辺で耐熱性を極大にする。3―メチル-テトラヒドロフラン系にはそれは起こらないで減衰するだけである。なお、コポリエーテルポリオール中の2-テトラヒドロフランの濃度は8、コポリエーテルポリオール中の3-テトラヒドロフランの濃度は16を採用した。200%伸長回復時の応力などの機械物性が同様の値を示すためである。
【0086】
表3から分かる通り、2―メチル-テトラヒドロフラン系における2級水酸基濃度は回復応力および耐久性の両方に影響する。
【0087】
表4から分かる通り、2―メチル-テトラヒドロフラン系におけるコポリエーテルポリオールの数平均分子量は回復応力および耐久性の両方に影響する。
【0088】
また、実施例17は(CHCHCHCHR-O)構造単位の原料となる2-MeTHFにはサーマルリサイクルに好適な、カーボンニュートラルなバイオマス資源由来の成分を原料とするために、ヘミセルロース起源でD-キシロールとフルフラールを経由して合成した2-MeTHFを用いた。さらに実施例18は、(CHCHCHCH-O)構造単位の原料にも同様にヘミセルロース起源でD-キシロールとフルフラールを経由して合成したTHFを用いた。その結果、石油化学起源の原料を用いた実施例7と同等以上の性能を示した。
【0089】
なお、表1~表4において、含有率とは、紡糸原液中のポリマ固形分100質量部に対する値である。
【0090】
次に、上記で得た乾式紡糸ポリウレタン弾性繊維(以下、試料糸)を下記の評価に供した。
【0091】
<破断伸度、破断強度、永久歪み率、応力緩和率>
破断伸度、破断強度、永久歪み率、応力緩和率は、ポリウレタン弾性繊維を、インストロン5564型引張試験機を用いて引張テストすることにより測定した。
【0092】
試長5cm(L1)の試料を50cm/分の引張速度で300%伸長を5回繰返した。このとき、
200%伸長時の応力を(G+200)、
300%伸長時の応力を(G1)とした。
【0093】
次に試料の長さを300%伸長のまま30秒間保持した。30秒間保持後の応力を(G2)とした。
【0094】
次に試料の伸長を回復せしめ、
200%伸長回復時の応力を(G-200)、
応力が0になった際の試料の長さを(L2)とした。
【0095】
この300%伸張、保持及び回復の操作を繰り返し、6回目の伸張において試料が切断するまで伸長した。この破断時の応力を(G3)、破断時の試料長さを(L3)とした。以下、上記特性は下記式により算出される。
破断強度(cN)=(G3)
20以上:◎、17以上20未満:〇、14以上17未満:△、14未満:×
破断伸度(%)=100×((L3)-(L1))/(L1)
480以上:◎、460以上480未満:〇、430以上460未満:△、430未満:×
200%伸長時の応力(cN)=(G+200)
1.2以上1.4未満:◎、1.4以上1.5未満:〇、1.5以上1.6未満:△、1.6超:×
200%伸長回復時の応力=(G-200)、
1.2以上:◎、1.0以上1.2未満:〇、0.8以上1.0未満:△、0.8未満:×
永久歪み率(%)=100×((L2)-(L1))/(L1)
20未満:◎、20以上22未満:〇、22以上24未満:△、24以上:×
応力緩和率(%)=100×((G1)-(G2))/(G1)
25未満:◎、25以上28未満:〇、28以上31未満:△、31以上:×。
【0096】
<耐熱性>
ナイロンフィラメント(24dtex、7フィラメント)85重量%とポリウレタン弾性繊維(44dtex)15重量%とからなる機上ウエル数9/インチ、機上コース数18/インチの2ウエイハーフトリコットを、通常の編成方法で作製し、生編布帛とした。
【0097】
得られた生編布帛を、170℃、60秒間、3%伸長下の条件でプレセットし、0.1mlの薬剤1を塗布し、続いて(ほぼ同時ないし1分以内に)0.1mlの薬剤2を塗布した後、乾熱処理(175℃、60秒間の乾熱処理後、一旦取り出し室温まで放熱した後、180℃、60秒間で乾熱処理)を行い、次に、縦横両方向交互に最大20%伸長、2回/秒の屈曲試験機にかけた。なお、薬剤1にはオレイン酸1%含有する鉱物油系ナイロン用紡糸油剤を使用した。また、薬剤2には酢酸銅水溶液(銅濃度100ppm)を使用した。このようにして薬剤1及び薬剤2を付着させた生編布帛は、染色前の段階のナイロン系ストレッチ生編布帛に、編成時の機械油(金属分混入)とナイロン用紡糸油剤が微量付着していることをモデル的に再現したものであり、生編布帛0.9gに対する薬剤1の付着量は3.0mg、薬剤2の付着量は3.0mgであった。
【0098】
得られたストレッチ布帛を、常法にて染色した。得られた染色ストレッチ布帛におけるポリウレタン組織の損傷の程度を目視または拡大して観察し、次の基準で判定を行った。なお、判定は5人で行い、最頻値(最も多く現れた判定)を用いた。また、2人、2人、1人と判定が分かれた場合は、判定は「△」とした。
◎:損傷がなく、編組織も均質である。
○:損傷がない。
△:生地にへたり、陥没がみられ、拡大観察するとポリウレタン弾性繊維が脆化している。
×:布帛に穴が空いている。
【0099】
<耐光性、黄変色性、複合耐久性>
以下の(ア)(イ)(ウ)の暴露処理後それぞれの特性を以下に従い求めた。
【0100】
・耐光性
試料糸を100%伸長した状態で、以下の(ア)の暴露処理を行い、その後の破断強度の保持率を求めた。
【0101】
・黄変色性
黄変色性は、試料を(ア)および(イ)の暴露処理後の黄変度(以下Δbと略記)によって評価した。各暴露処理の際、黄変度は下記のようにして算出した。
Δb=暴露処理後のb値-暴露処理前のb値
【0102】
黄変色性の測定サンプル形態および測定は、以下の通り行った。
試料糸を5×5cmの試料板に、試料板の色の影響が現れない程度に密接に最小の荷重で巻き取り、試料とした。試料及び常用標準白色面(JIS Z 8722の4.3.4)の前面を均質平たんで透明な約1mmのガラス板で密着させて覆った。b値の測定は、JIS L 1013のC法(ハンターの方法)に準じ、ハンター形色差計を用い、下記式に基づき算出した。測定回数は、5回とし、その平均値を採用した。
b=7.0(Y-0.847Z)/Y1/2
(但し、X、Y、ZはJIS Z 8701により算出した)
【0103】
・複合耐久性
試料糸を100%伸長した状態で、以下の(ア)(イ)(ウ)の暴露処理を行い、その後の破断強度の保持率を求めた。
【0104】
各暴露処理は下記のとおり実施した。
(ア)紫外線(UV)暴露処理
スガ試験機(株)社製のカーボンアーク型ウェザーメーターを用い、63℃、60%RHの温湿度で試料を25時間暴露処理した。
(イ)窒素酸化物(NOx)暴露処理
試料スタンドが回転する密閉容器(スコットテスター)を用い、NO2ガス10ppm、40℃、60%RHの温湿度で試料を20時間暴露処理した。
(ウ)塩素漂白剤(Cl2)暴露処理
恒温槽中の花王(株)社製「花王ハイター」500ppm水溶液に試料を40℃、30分間暴露後、10分水洗というサイクルを8回繰り返した。
【0105】
判定基準は以下の通りである。
・耐光性
80%以上を◎、60%以上80%未満を〇、40%以上60%未満を△、40%未満を×
・黄変色性
3未満を◎、3以上6未満を〇 6以上10未満を△、10以上を×
・複合耐久性
60%以上を◎、40%以上60%未満を〇、20%以上40%未満を△、20%未満を×
【0106】
<分子量>
GPCによる分子量測定は次の条件で実施した。
カラム:昭和電工(株)製 SHODEX KF-806M2本
溶媒:N,N-ジメチルアセトアミド 1ml/min
温度:40℃
検出器:示差屈折計(RI検出器)
【0107】
<バイオ化率>
バイオ化率(質量%)は放射性炭素(炭素14)の濃度測定同定法であるISO 16620-2により測定した。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
【表4】
【0112】
実施例1~5及び比較例1~5で紡糸に供されたのと同じポリウレタンウレア溶液を用いて、下記方法により測定したポリウレタン樹脂組成物の切断時引張強さ、切断時伸び、残留歪率及び熱軟化点の値を表5に示す。表5から明らかなように、本発明のポリウレタン樹脂組成物は成形形態がフィルムであっても、良好な特性を示す。
【0113】
[1]フィルムの作製
ポリウレタン樹脂溶液を、離型処理したガラス板上に1.0mmの厚みに塗布し、70℃の循風乾燥機で3時間乾燥した後、ガラス板から剥がすことにより、厚さが約0.2mmのフィルムを作製した。
【0114】
[2]フィルムの強度及び伸びの測定方法
前記で得られたフィルムを温度25℃、湿度65%RHに調整した室内に1日間静置した後、JIS K 6251に準じて、切断時引張強さ及び切断時伸びを測定した。これらの値が大きい程、弾性繊維としての性質に優れている。尚、ダンベル状試験片の平行部分の厚さは200μm、平行部分の幅は5mm、初期の標線間距離は20mmである。
【0115】
[3]残留歪率の測定方法
前記で得られたフィルムから、縦100mm×横5mmの短冊状の試験片を切り出して標線間距離が50mmとなるように標線をつけた。この試験片をインストロン型引張り試験機(島津製作所製オートグラフ)のチャックにセットして、25℃の雰囲気下、500mm/分の一定速度で標線間の距離が300%になるまで伸長後、直ちに同じ速度で伸長前のチャック間の距離まで戻す操作を行った。
前記操作後の標線間の距離(D1)を測定してこの値と試験前の標線間の距離(D0=50mm)を用いて下式から残留歪率(%)を求めた。
残留歪率(%)={(D1-D0)/D0}×100
【0116】
[4]熱軟化点の測定方法
前記で得られたフィルムから、縦10mm×横10mmの試験片を切り出し、JIS K 7196に準じて、サンプルを室温から300℃まで5℃/分のスピードで昇温し、熱軟化点を測定した。測定にはTMA/SS6100(SII製)を使用した。
熱軟化点が高い程、ポリウレタン樹脂組成物の耐熱性が良好である。
【0117】
【表5】