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特開2024-77023SOC推定装置、プログラム及び推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077023
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】SOC推定装置、プログラム及び推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/3842 20190101AFI20240531BHJP
   G01R 31/378 20190101ALI20240531BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20240531BHJP
   G01R 31/3828 20190101ALI20240531BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240531BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
G01R31/3842
G01R31/378
G01R31/367
G01R31/3828
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188811
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】521531506
【氏名又は名称】株式会社REF Electronics
(74)【代理人】
【識別番号】100159846
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 尚
(72)【発明者】
【氏名】陳 禹澎
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA02
2G216BA03
2G216BA07
2G216BA17
2G216CA01
2G216CA04
2G216CB07
2G216CB12
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503CB11
5G503EA05
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS20
5H030FF22
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】二次電池のSOCの推定精度を向上させることができるSOC推定装置を提供する。
【解決手段】SOC推定装置は、SOCを推定するSOC推定手段14を備え、SOC推定手段14は、二次電池の電流値と、二次電池の電圧値とを取得するように構成され、SOC推定手段は、さらに、充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す充電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた充電時推定相関関係式を推定し、放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す放電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた放電時推定相関関係式を推定し、さらに、充電時推定相関関係式及び放電時推定相関関係式に基づいてSOCを推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池のSOCを推定するSOC推定装置であって、
SOCを推定するSOC推定手段を備え、
前記SOC推定手段は、電流測定部により得られた二次電池の電流値と、電圧測定部により得られた二次電池の電圧値とを取得するように構成され、
前記SOC推定手段は、さらに、
充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す充電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた充電時推定相関関係式を推定し、
放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す放電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた放電時推定相関関係式を推定し、さらに、前記充電時推定相関関係式及び前記放電時推定相関関係式に基づいてSOCを推定する、SOC推定装置。
【請求項2】
前記SOC推定手段は、二次電池の温度値を温度測定部から取得するように構成され、
前記SOC推定手段は、さらに、前記二次電池を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、SOCの推定精度を向上させるように、前記温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用する調整手段を備える、請求項1に記載のSOC推定装置。
【請求項3】
二次電池のSOCを推定するようにコンピュータを機能させるプログラムであって、
前記プログラムは、SOCを推定するSOC推定手段として前記コンピュータを機能させ、
前記SOC推定手段は、電流測定部により得られた二次電池の電流値と、電圧測定部により得られた二次電池の電圧値とを取得するように構成され、
前記SOC推定手段は、さらに、
充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す充電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた充電時推定相関関係式を推定し、
放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す放電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた放電時推定相関関係式を推定し、さらに、前記充電時推定相関関係式及び前記放電時推定相関関係式に基づいてSOCを推定する、プログラム。
【請求項4】
前記SOC推定手段は、二次電池の温度値を温度測定部から取得するように構成され、
前記SOC推定手段は、さらに、前記二次電池を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、SOCの推定精度を向上させるように、前記温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用する調整手段を備える、請求項3に記載のプログラム。
【請求項5】
二次電池のSOCを推定する推定方法であって、
電流測定部により得られた二次電池の電流値と、電圧測定部により得られた二次電池の電圧値とを取得する取得ステップと、
SOC推定ステップであって、充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す充電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた充電時推定相関関係式を推定し、
放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す放電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた放電時推定相関関係式を推定し、さらに、前記充電時推定相関関係式及び前記放電時推定相関関係式に基づいてSOCを推定する前記SOC推定ステップと、を備える、推定方法。
【請求項6】
前記SOC推定ステップは、さらに、二次電池の温度値を温度測定部から取得すると共に、前記二次電池を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、SOCの推定精度を向上させるように、前記温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用する調整ステップを備える、請求項5に記載の推定方法。
【請求項7】
前記二次電池は、リン酸鉄リチウムイオン電池である、請求項1又は2に記載のSOC推定装置。
【請求項8】
前記二次電池は、リン酸鉄リチウムイオン電池である、請求項3又は4に記載のプログラム。
【請求項9】
前記二次電池は、リン酸鉄リチウムイオン電池である、請求項5又は6に記載の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池のSOCを推定するSOC推定装置、プログラム及び推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、大容量・高エネルギー密度の二次電池として、小型携帯機器用の電源、電気自動車用の駆動電源や電力安定化用の大型蓄電池等の幅広い用途に用いられることが知られている。
【0003】
リチウムイオン電池を、安全かつ長期的に使用するためには、二次電池の内部状態(例えばSOC(State Of Charge:充電状態(以下、「SOC」と称する)))を正確に推定する必要がある。二次電池のSOCを正確に推定できないことにより、規定の電圧を超えて過充電や過放電を行うと、著しく寿命が短くなるだけでなく、過度な温度上昇や内部短絡、爆発の要因になる可能性がある。そのため、二次電池の運用中において、二次電池の充電時と放電時の電圧の差となるヒステリシスを考慮すると共に、二次電池のSOCを推定したいという課題があった。
【0004】
二次電池のSOCを推定する方法として、OCV(Open Circuit Voltage:開回路電圧(以下、「OCV」と称する))を用いる方法が提案されている。この方法は、予め新品状態の二次電池において開回路電圧(OCV)と充電状態(SOC)の相関曲線を作成し、二次電池の使用中に測定された端子電圧からOCVを算出し、このOCVをこの相関曲線に照らし合わせることでSOCを推定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2015/129117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような充電状態のSOCとOCVとの相関曲線と、放電状態のSOCとOCVとの相関曲線との間に、異なる電圧(ヒステリシス電圧)が発生する。このヒステリシス電圧により、OCVからSOCを求める際に推定誤差が生じるという課題があった。
【0007】
また、例えば、充電状態のSOCとOCVとの相関曲線と、放電状態のSOCとOCVとの相関曲線との間の平均値をとることによりOCVからSOCを簡便的に推定する場合には、OCVからSOCを求める際に推定誤差が生じるという課題があった。
【0008】
さらに例えば、このような課題に対し、特許文献1には、相関曲線が充電過程と放電過程との間で異なる二次電池において、実測OCVが大きいほど放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線に重み付けすると共に、実測OCVが小さいほど充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線に重み付けする関係式を用いて、二次電池のSOCをより正確に推定しようとする方法が提案されている。
【0009】
しかしながら、このような従来のSOC推定方法でも、OCVからSOCを推定する際に、電流値や電圧値の測定ノイズの影響により、SOCの推定誤差が依然として生じるという課題があった。
【0010】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題や課題を解決するためになされたものであり、二次電池のSOCの推定精度を向上させることができるSOC推定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明の一実施形態は、二次電池のSOCを推定するSOC推定装置であって、SOCを推定するSOC推定手段を備え、前記SOC推定手段は、電流測定部により得られた二次電池の電流値と、電圧測定部により得られた二次電池の電圧値とを取得するように構成され、前記SOC推定手段は、さらに、充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す充電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた充電時推定相関関係式を推定し、放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す放電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた放電時推定相関関係式を推定し、さらに、前記充電時推定相関関係式及び前記放電時推定相関関係式に基づいてSOCを推定する。
このように構成された本発明の一実施形態によれば、前記SOC推定手段は、充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す充電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた充電時推定相関関係式を推定し、放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す放電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた放電時推定相関関係式を推定できる。充電時推定相関関係式と放電時推定相関関係式とがそれぞれ、測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより推定され、充電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度が向上できると共に、放電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度が向上できる。よって、二次電池のSOCの推定精度を向上させることができると共にヒステリシスの推定精度を向上させることができる。これにより、例えば、二次電池の容量マージンを減少でき、二次電池、例えば比較的大型の二次電池の初期投資コストや運用コストを低下させることができる。
【0012】
本発明の一実施形態において、好ましくは、前記SOC推定手段は、二次電池の温度値を温度測定部から取得するように構成され、前記SOC推定手段は、さらに、前記二次電池を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、SOCの推定精度を向上させるように、前記温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用する調整手段を備える。
このように構成された本発明の一実施形態によれば、SOC推定手段は、調整手段により、前記二次電池を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、前記温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用し、SOCの推定精度を向上させることができる。これにより、充電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度がより向上できると共に、放電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度がより向上できる。
【0013】
本発明の一実施形態において、好ましくは、二次電池のSOCを推定するようにコンピュータを機能させるプログラムであって、前記プログラムは、SOCを推定するSOC推定手段として前記コンピュータを機能させ、前記SOC推定手段は、電流測定部により得られた二次電池の電流値と、電圧測定部により得られた二次電池の電圧値とを取得するように構成され、前記SOC推定手段は、さらに、充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す充電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた充電時推定相関関係式を推定し、放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す放電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた放電時推定相関関係式を推定し、さらに、前記充電時推定相関関係式及び前記放電時推定相関関係式に基づいてSOCを推定する。
このように構成された本発明の一実施形態によれば、プログラムは、SOCを推定するSOC推定手段として前記コンピュータを機能させる。これにより、充電時推定相関関係式と放電時推定相関関係式とがそれぞれ、測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより推定され、充電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度が向上できると共に、放電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度が向上できる。
【0014】
本発明の一実施形態において、好ましくは、前記SOC推定手段は、二次電池の温度値を温度測定部から取得するように構成され、前記SOC推定手段は、さらに、前記二次電池を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、SOCの推定精度を向上させるように、前記温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用する調整手段を備える。
このように構成された本発明の一実施形態によれば、SOC推定手段の調整手段により、前記二次電池を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、前記温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用し、SOCの推定精度を向上させることができる。これにより、充電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度がより向上できると共に、放電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度がより向上できる。
【0015】
本発明の一実施形態において、好ましくは、二次電池のSOCを推定する推定方法であって、電流測定部により得られた二次電池の電流値と、電圧測定部により得られた二次電池の電圧値とを取得する取得ステップと、SOC推定ステップであって、充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す充電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた充電時推定相関関係式を推定し、放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す放電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた放電時推定相関関係式を推定し、さらに、前記充電時推定相関関係式及び前記放電時推定相関関係式に基づいてSOCを推定する前記SOC推定ステップと、を備える。
このように構成された本発明の一実施形態によれば、SOCを推定する推定方法におけるSOC推定ステップにより、充電時推定相関関係式と放電時推定相関関係式とがそれぞれ、測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより推定され、充電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度が向上できると共に、放電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度が向上できる。
【0016】
本発明の一実施形態において、好ましくは、前記SOC推定ステップは、さらに、二次電池の温度値を温度測定部から取得すると共に、前記二次電池を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、SOCの推定精度を向上させるように、前記温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用する調整ステップを備える。
このように構成された本発明の一実施形態によれば、推定方法の調整ステップにより、前記二次電池を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、前記温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用し、SOCの推定精度を向上させることができる。これにより、充電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度がより向上できると共に、放電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度がより向上できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のSOC推定装置、プログラム、及び、推定方法によれば、二次電池のSOCの推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態によるSOC推定装置を備えた二次電池システムの構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態によるSOC推定装置と二次電池との関係を概略的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態によるSOC推定装置において、充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線と、放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線とを示すグラフである。
図4図4のうち図4Aは、リン酸鉄リチウムイオン電池の放電特性の一例を示す図であり、図4Bは、三元系リチウムイオン電池の放電特性の一例を示す図である。
図5】本発明の一実施形態による二次電池の等価回路を示すグラフである。
図6】本発明の一実施形態によるSOCの推定方法においてカルマンフィルタの処理の各ステップを示す図である。
図7】本発明の一実施形態によるSOCの推定方法の各ステップを示す図である。
図8図8のうち図8Aは、本発明の一実施形態によるSOC推定装置により推定されたSOCを、実際に測定されたSOCと比較して示すグラフであり、図8Bは、本発明の一実施形態によるSOC推定装置により推定されたSOCと、実際に測定されたSOCとの誤差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態によるSOC推定装置、プログラム、及び、推定方法について説明する。本開示の実施形態は例示として説明され、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変形、変更及び置換ができることが当業者に明らかとなる。従って、本発明は、開示の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、その形態及び詳細について、種々の変形、変更等が可能である。
【0020】
先ず、図1により、本発明の一実施形態によるSOC推定装置、プログラム、及び、推定方法について説明する。図1は本発明の一実施形態によるSOC推定装置1を備えた二次電池システム2の構成を示す図であり、図2は本発明の一実施形態によるSOC推定装置と二次電池との関係を概略的に示す図であり、図3は本発明の一実施形態によるSOC推定装置において、充電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線と、放電過程におけるSOCとOCVとの関係を表す相関曲線とを示すグラフである。
【0021】
図1に示すように、本発明の一実施形態によるSOC推定装置1は、二次電池システム2に設けられ、二次電池4のSOC(充電状態)を推定するSOC推定装置である。
二次電池システム2は、SOC推定装置1と、二次電池4と、この二次電池4の制御を行うBMU6(Battery Management Unit)と、を備えている。二次電池システム2の二次電池4の正極端子4aと、負極端子4bとは、それぞれ回路7を介して、二次電池4の電力を消費又は二次電池4に電力を回生する機器16、例えばモータ等の負荷機器に接続されている。従って、二次電池4の電力を消費できると共に、二次電池4に電力を充電できる。正極端子4a及び負極端子4bの間の電圧を端子間電圧と称する。機器16は電力消費、充電等の目的に応じて変更できる。なお、図示していないが、二次電池システム2は、二次電池4と機器16との間に、二次電池4の電圧を昇降圧するコンバータ、直流電流と交流電流とを変換するインバータなどを備えていてもよい。また、二次電池4の数は1つに限定されず、複数の二次電池4を直列、並列又はそれらを組み合わせた電池モジュールとして用いてもよい。
【0022】
二次電池4は、充電及び放電可能なリチウムイオン二次電池である。例えば、二次電池4は、リン酸鉄リチウムイオン電池(LiFePO4バッテリー)である。二次電池4の正極にはリン酸鉄リチウムが含まれ、リチウムイオンが正極と負極の間を移動することで電力が発生し充放電を行うように構成されている。二次電池4の負極は、グラファイト等の炭素材により形成され、電解液には有機電解液が使用される。本実施形態による技術は、特にリン酸鉄リチウムイオン電池のSOCの推定精度向上に有効であるが、その他のリチウムイオン電池、例えば三元系リチウムイオン電池に対しても一定程度の推定の向上に有効である。すなわち、二次電池4は、リン酸鉄リチウムイオン電池に限られず、その他のリチウムイオン電池、例えば三元系リチウムイオン電池(ニッケル、マンガン、コバルトを正極に使用する電池)であってもよい。
【0023】
図4のうち図4Aは、本発明の一実施形態による二次電池としてのリン酸鉄リチウムイオン電池の放電特性の一例を示す図であり、図4Bは、リン酸鉄リチウムイオン電池の放電特性との比較として三元系リチウムイオン電池の放電特性の一例を示す図である。図4A及び図4Bにおいては、縦軸に電圧[V]を示し、横軸に放電時間[分]を示している。図4Aにおいては、24V40AhのときにCレートがそれぞれ1C、0.5C、0.2Cの場合の例を示し、図4Bにおいては、24V20AhのときにCレートがそれぞれ1C、0.5C、0.2Cの場合の例を示している。図4Aに示すように、リン酸鉄リチウムイオン電池においては、電池の容量がほぼなくなるまでは電圧がほぼ一定である傾向がみられる。従って、OCVによりSOCを推定することが比較的難しいという特徴を有している。これに対し、本実施形態においては後述するようにSOCの推定精度を向上させることができる。図4Bに示すように、三元系リチウムイオン電池においては、電池の容量が比較的残っている状態(例えば60%~50%等の状態)であっても電圧が比較的線形に降下していく傾向がみられる。従って、OCVによりSOCを推定することが困難となるような課題は従来生じていなかった。
【0024】
二次電池4は、電力貯蔵システム(エネルギーストレージシステム)用の二次電池であり、数百kWh、例えば、300kWh~1MWhの範囲内の電池容量を有する。なお、二次電池4は、電気自動車用の二次電池であってもよく、数十kWh、例えば、40kWh~100kWhの範囲内の電池容量を有していてもよい。これらの比較的大型の二次電池においては、SOCを精度よく推定できれば、安全マージンを持たせる幅を小さくできるので、二次電池の初期投資コストや運用コストを抑える上で特に有利な効果がある。二次電池の安全マージンを低減して容量を低減できれば、正極材、負極材、溶解液、構造材料等の原料を低減し、製造コストを抑制できる。本実施形態は、車載電池より小型の二次電池にも適用でき、一定程度の二次電池の初期投資コストや運用コスト、製造コストを抑える上で有利な効果が得られる。仮に二次電池の残量の推定精度が低い場合には、二次電池に必要な容量分100に対して、マージン分を考慮し、120の容量分を設置せねばならず、余計な20容量分のコストがかかる。他方、仮に残量の推定精度を比較的高く推定できれば、マージン分を低減させて設置や運用を行うことができる。従って、利用側としてその分のコストを節約できるメリットがある。このように、SOCの推定精度を向上させることは安全制御だけではなく、顧客側にもコストメリット上の有利な効果を生じさせる。
【0025】
BMU6は、CPU及びメモリ等を内蔵し、メモリ等に記録された所定の制御プログラムに基づいて二次電池4の制御機能等を実行するように接続された機器を制御する。BMU6は、例えば、二次電池4の過充電や過放電時に回路を遮断する判断機能を有する。BMU6は後述するSOC推定部14により推定されたSOC及び各センサからの情報に基づいて二次電池4に対する充放電の制御指令を行ってもよい。
【0026】
図1及び図2に示すように、SOC推定装置1は、二次電池4の端子間電圧値を測定する電圧測定部である電圧センサ8と、二次電池4の通電電流値を測定する電流測定部である電流センサ10と、二次電池4の温度値を測定する温度測定部である温度センサ12と、SOCを推定するSOC推定手段であるSOC推定部14とを備えている。
【0027】
SOC推定装置1は、二次電池4の状態を推定できるように二次電池4に取り付けられる。このとき、SOC推定装置1は、各々の二次電池4について1つ設けられてもよいが、複数の二次電池4について1つ設けられ各種情報を測定又は推定することで各種情報を得てもよい。
【0028】
SOC推定部14は、電流センサ10により得られた二次電池4の電流値と、電圧センサ8により得られた二次電池4の電圧値とを取得するように構成されると共に、二次電池4の温度値を温度センサ12から取得するように構成される。
【0029】
SOC推定部14は、CPU及びメモリ等を内蔵している。SOC推定部14は電圧センサ8と、電流センサ10と、温度センサ12と、機器16等と、互いに電気的に接続されている。SOC推定部14は、電圧センサ8と、電流センサ10と、温度センサ12と、機器16等と直接の電気的な接続を有するものに限られず、インターネット等を介して無線通信等により電気的に接続されてもよい。SOC推定部14は、BMU6によりその機能が提供されてもよい。すなわち、SOC推定部14はBMU6の一部として構成されてもよい。
【0030】
SOC推定部14は、二次電池4のSOCを推定する以下のSOCの推定方法を実現するようにコンピュータ(例えばSOC推定部14のCPU及びメモリ等)を機能させる推定プログラムを備えている。この推定プログラムは、SOC推定部14のメモリ等に記録されている。SOC推定部14は、電圧センサ8によって測定された二次電池4の端子間の電圧値、電流センサ10によって測定された電流値、及び温度センサ12によって測定された二次電池温度等の情報の入力を受け、これらの情報に基づいてSOCを推定する。なお、SOC推定部14は、二次電池のSOCを推定するようにコンピュータを機能させるプログラムであってもよい。このとき、例えば、SOC推定部14は、インターネットを介したサーバー上にプログラムの形態で設けられていてもよい。仮にSOC推定部14がプログラムである場合には、SOC推定部14は、コンピュータで実行されることにより、以下のSOCの推定方法を実現できる。コンピュータ等の電子計算機は、BMU6により提供されてもよく、またBMU6以外の他の制御部等により提供されてもよい。
【0031】
SOC推定部14は、詳細は後述するが、充電時推定相関関係式及び放電時推定相関関係式を推定し、充電時推定相関関係式及び放電時推定相関関係式に基づいてSOCを推定する。SOC推定部14は、さらに、二次電池4を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、SOCの推定精度を向上させるように、温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用する調整手段である調整部15を備えている。SOC推定部14の調整部15も、コンピュータを機能させる所定のプログラムであってもよい。
【0032】
次に、SOC推定装置1のSOCの推定方法におけるSOCとOCVとの関係について説明する。
図3に示すように、二次電池4の充電を行う場合、充電時におけるSOCとOCVとの関係を表す充電時相関関係式に対応する相関曲線Aに従い、SOCが0%から100%まで増加するにつれてOCVが上昇する。逆に、二次電池4の放電を行う場合、放電時におけるSOCとOCVとの関係を表す放電時相関関係式に対応する相関曲線Bに従い、SOCが100%から0%まで低下するにつれてOCVが下降する。二次電池4の使用中に測定された端子電圧からOCVを算出し、このOCVをこれらの相関曲線に照らし合わせることでSOCを推定する方法である。充電過程となる充電時と放電過程となる放電時とではSOCとOCVとの関係を表す相関曲線が異なり、ヒステリシスが生じている。相関曲線Aに対応する充電時相関関係式は、グラフ上に描かれたものに限られず、数式として関係が把握されていればよい。相関曲線Bに対応する放電時相関関係式も、グラフ上に描かれたものに限られず、数式として関係が把握されていればよい。
【0033】
本実施形態においては、このようなSOCの推定方法に対し、さらに改良したSOCの推定方法を提案することにより、より精度の高いSOCの推定を実現することができる。
以下に、本実施形態におけるSOC推定装置1におけるSOCの推定方法について説明する。
図7に示すように、SOC推定部14は、SOCの推定方法を開始させると、電流測定部により得られた二次電池の電流値と、電圧測定部により得られた二次電池の電圧値とを取得する取得ステップS1を実行させる。SOC推定部14は、取得ステップS1を実行した後、S2に進む。
SOC推定部14は、SOC推定ステップS2であって、充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す充電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた充電時推定相関関係式を推定し、放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す放電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた放電時推定相関関係式を推定し、さらに、前記充電時推定相関関係式及び前記放電時推定相関関係式に基づいてSOCを推定する前記SOC推定ステップS2を実行する。
【0034】
このようなSOC推定ステップS2について以下に説明する。図5に示すように、SOC推定ステップS2においてリチウムイオンバッテリーを等価回路により検討している。
充電時においては、SOCの定義より、各時刻t(秒)、に対応するSOC(定格容量で規格化した百分率)は、数式(1)のように示される。
【数1】
ここで、FCCは満充電容量(Ah)を示し、tは充電開始時からの経過時間(秒)を示し、iは電流(A)を示している。基本的には、電流を積算してSOCを推定する形式の推定方法となる。FCC、Cdl、Rct、Rはシステム同定のため実験的に求められた測定値により設定されている。なお、予め、リチウムイオンバッテリーの等価回路を検討する上で、充電時においてOCVとSOCとの関係を表す相関曲線が得られる程度にOCVとSOCとの対応関係を測定しており、同様に、放電時においてOCVとSOCとの関係を表す相関曲線が得られる程度にOCVとSOCとの対応関係を測定している。これによりFCC、Cdl、Rct、R等のパラメータを設定している。
【0035】
また、キルヒホッフの電流則(KCL)より、各時刻t(秒)の電流iは以下のように示される。ここで、Cdlは電気二重層容量(F)、VPは分極電圧(V)、Rctは電荷移動抵抗(Ω)を示している。
【数2】
また、キルヒホッフの電圧則(KVL)より、各時刻t(秒)における端子部分の電圧Vbat(V)は以下のように示され、VPは分極電圧(V)、Rは溶液抵抗(Ω)を示している。
【数3】
ここで、OCV(SOC)は、OCVがSOCの関数であることを示している。
【0036】
他方、放電時においては、SOCの定義より、
【数4】
各時刻t(秒)に対応するSOC(定格容量で規格化した百分率)は、数式(4)のように示される。ここで、FCCは満充電容量(Ah)を示し、tはサンプリング時間(秒)を示し、iは電流(A)を示している。
【0037】
また、キルヒホッフの電流則(KCL)より、各時刻t(秒)の電流iは以下のように示される。ここで、Cdlは電気二重層容量(F)、VPは分極電圧(V)、RCTは電荷移動抵抗(Ω)を示している。
【数5】
また、キルヒホッフの電圧則(KVL)より、各時刻t(秒)における端子部分の電圧Vbatは以下のように示され、VPは分極電圧(V)、Rは溶液抵抗(Ω)を示している。また、OCV(SOC)は、OCVがSOCの関数であることを示している。
【数6】
【0038】
ここで、離散状態空間方程式の差分方程式は、以下のように示される。
前進オイラー法と時間刻みΔt(サンプリング時間)を適用する。
【0039】
充電時に関して、数式(1)、数式(2)及び数式(3)に基づいて、差分方程式中のパラメータA、B、C、Dが得られ、さらに、以下の数式(7)及び(8)が得られる。
【数7】
【数8】
放電時に関して、数式(4)、数式(5)及び数式(6)に基づいて、差分方程式中のパラメータA、B、C、Dが得られ、さらに、以下の数式(9)及び(10)が得られる。
【数9】
【数10】
このようにして、SOCを含む状態量を示すxk+1や端子間電圧を示すykが算出できる。
【0040】
さらに、調整部15は、等価回路のパラメータ(OCV,R、Rct、Cdl)の温度やSOCによる影響を考慮し、線形パラメータ変動系として、SOCの推定精度を向上させることができる。調整部15は、SOC推定ステップS2において、二次電池4の温度値を温度測定部から取得すると共に、二次電池4を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、SOCの推定精度を向上させるように、温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用する調整ステップを実行する。Rct、Cdlが、温度とSOCに依存する時変パラメータとみなすと、充電時の状態推定に関して、以下の数式が得られる。
この線形パラメータ変動系では、差分方程式中のパラメータAは固定値ではなく、θの関数としてACHG(θk)により表現される。よって、ACHGが温度やSOCにより変動される。同様に、パラメータBも固定値ではなく、θの関数としてBCHG(θk)により表現される。充電時のOCVCHGもSOCの関数として示されている。充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す相関曲線と、放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す相関曲線とを、区別して充電時のOCVCHGを用いる。wkはプロセスノイズ(電流センサによる電流計測ノイズ)、vkは観測ノイズ(電圧センサによる電圧計測ノイズ)を示し、時変パラメータの定義は以下のように示される。
ここで、以下のパラメータを、SOCと温度の関数として、実際に評価して以下に例示するような多項式で近似する。
a、b、c、d、e、f、gは近似係数である。このように、Rct、Cdl等を、温度とSOCに依存する時変パラメータとみなして、充電時の状態を推定できる。
【0041】
また、放電時の状態推定に関しても、以下の数式が得られる。
この線形パラメータ変動系でも、差分方程式中のパラメータAは固定値ではなく、θの関数としてADSG(θk)により表現される。よって、ADSGが温度やSOCにより変動される。同様に、パラメータBも固定値ではなく、θの関数としてBDSG(θk)により表現される。充電時のOCVDSGもSOCの関数として示されている。充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す相関曲線と、放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す相関曲線とを、区別して放電時のOCVDSGを用いる。wkはプロセスノイズ(電流センサによる電流計測ノイズ)、vkは観測ノイズ(電圧センサによる電圧計測ノイズ)を示し、時変パラメータの定義の数式は上述と同様であるので記載を省略する。OCVDSGは放電時の電圧(単位追記V)を示している。OCVDSGを使用することによりOCVのヒステリシス特性を考慮しながらより推定精度を向上させることができる。また、OCV、R、Rct、Cdl等のパラメータについては、上述同様に、SOCと温度の関数として、充電時の状態を推定できる。
【0042】
このように、ヒステリシス電圧の上端となる充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す相関曲線の推定精度(推定関係数式の推定精度)を、温度やSOCを考慮してさらに向上させることができる。また、ヒステリシス電圧の下端となる放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す相関曲線の推定精度(推定関係式の推定精度)を、温度やSOCを考慮してさらに向上させることができる。
よって、充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す相関曲線と放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す相関曲線との中間ライン上に中間相関曲線を簡易的に設定する場合と比べても、各相関曲線の推定精度(推定関係式の推定精度)が向上されている。
【0043】
次いで、図6に示すように、充電時の状態推定、放電時の状態推定に関して、カルマンフィルタを拡張してさらに適用し、誤差の影響を低減し、推定の精度を向上させることができる。例えば、充電時に電流を積算してSOCを推定する関係式に対し、SOCの推定誤差の影響を低減するように、電流値と電圧値との測定ノイズ(電流値の測定誤差及び電圧値の測定誤差)の影響を低減させるカルマンフィルタを拡張した処理を適用する。また、同様の放電時相関関係式にSOCの推定誤差の影響を低減するように、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させるカルマンフィルタを拡張した処理を適用する。
なお、本実施形態においては、等価回路のパラメータ(OCV,R、Rct、Cdl)の温度やSOCによる影響を考慮した実施形態が例示されているが、等価回路のパラメータ(OCV,R、Rct、Cdl)に温度やSOCによる影響を考慮せず、定数と仮定して以下のカルマンフィルタを拡張した処理を適用してもよい。
【0044】
カルマンフィルタを拡張した処理においては、リチウムイオン電池等価回路は非線形のため、共分散推定値を計算する際に、テイラー展開を用いて、現在の動作点を中心に方程式を線形化している。
初期化された値は、以下のように設定される。
は推定値の初期値を示し、
は分散の初期値を示している。
次に、図6に示すように、ステップ1aとして、一つ前のサンプリングの状態のxを計算する。
このときのxは予測値であるため誤差があり、この誤差を以下のようにステップ1bにおいて評価する。つまり一つ前の状態の分散を計算する。
これらのステップ1aの数式及びステップ1bの数式を使って、ステップ1cにおいて端子間電圧に相当する出力値を計算する。
これらのステップ1aからステップ1cまでの数式は、予測ステップとして予測値を算出するが、依然として誤差を含んでいる。この誤差を修正するために、さらに補正ステップを行う。先ず、補正ステップ2aでは、カルマンゲインを算出する。
LKはカルマンゲインを示す。
次に、ステップ2bは現在のサンプリングの状態のxを計算する。一つ前のサンプリングの状態のxを利用すると共に、カルマンゲインに出力の誤差を乗じている。
このときの誤差をさらにステップ2cのように評価する。つまり現在の状態の分散を計算する。Iは単位行列を示す。
このようにして得られたx等の値を次回の初期値として使用して、次回のサンプリングの際に、再び、ステップ1aからステップ2cまでの処理を繰り返す。このようにして、誤差の影響を低減し、推定の精度を向上させることができる。よって、SOC推定部14は、電流値の測定誤差及び電圧値の測定誤差の影響を低減させ、SOCの推定精度を向上させた充電時推定相関関係式を推定することができると共に、電流値の測定誤差及び電圧値の測定誤差の影響を低減させ、SOCの推定精度を向上させた放電時推定相関関係式を推定することができる。SOC推定部14によれば、充電時推定相関関係式と放電時推定相関関係式とをそれぞれ個別に得る事ができる。図3には、充電時推定相関関係式に対応する充電時推定相関曲線例、及び放電時推定相関関係式に対応する放電時推定相関曲線例が示されている。
【0045】
SOC推定部14は、SOCの推定精度を向上させた充電時推定相関関係式に基づいてOCVからSOCを推定することができると共に、SOCの推定精度を向上させた放電時推定相関関係式に基づいてOCVからSOCを推定することができる。図7において、SOC推定部14は、SOC推定ステップS2が終了すると、エンドに進み、SOC推定方法を終了する。
【0046】
図8のうち上段側の図8Aは、本発明の一実施形態によるSOC推定装置により推定されたSOCを、実際に測定されたSOCと比較して示すグラフであり、下段側の図8Bは、本発明の一実施形態によるSOC推定装置により推定されたSOCと、実際に測定されたSOCとの誤差を示すグラフである。図8図8Aに示すように、このように推定されたSOCが、実際に測定されたSOCと比較して約5%以内の精度で対応し、比較的高い精度となっていることが分かる。図8Aにおいては、縦軸にSOC/100%を示し、横軸に時間t(s)を示し、放電時に時間の経過に伴い、SOCが減少していく様子が示されている。また、図8Bにおいては、図8Aにおいて示されている、推定されたSOCと、実際に測定されたSOCとの誤差の大きさが時間経過とともに示されている。図8Bにおいては、縦軸に誤差/100%が示され、横軸に時間t(s)が示されている。推定されたSOCと、実際に測定されたSOCとの誤差の大きさが概ね-5%から+5%の範囲内となっていることが分かる。また、放電開始(SOCが100%の状態)から放電が進みSOCが40%程度の状態となるまで、SOCとの誤差の大きさが概ね-5%から+5%の範囲内となっており、SOCが放電途中においても比較的高精度に推定できていることが示されている。
【0047】
このように構成された本発明の一実施形態によれば、SOC推定部14は、充電時におけるOCVとSOCとの関係を表す充電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた充電時推定相関関係式を推定し、放電時におけるOCVとSOCとの関係を表す放電時相関関係式に、電流値と電圧値との測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより、SOCの推定精度を向上させた放電時推定相関関係式を推定できる。充電時推定相関関係式と放電時推定相関関係式とがそれぞれ、測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより推定され、充電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度が向上できると共に、放電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度が向上できる。よって、二次電池4のSOCの推定精度を向上させることができると共にヒステリシスの推定精度を向上させることができる。これにより、例えば、二次電池4の容量マージンを減少でき、二次電池4、例えば比較的大型の二次電池の初期投資コストや運用コストを低下させることができる。
【0048】
このように構成された本発明の一実施形態によれば、SOC推定部14は、調整手段により、二次電池4を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用し、SOCの推定精度を向上させることができる。これにより、充電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度がより向上できると共に、放電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度がより向上できる。
【0049】
このように構成された本発明の一実施形態によれば、プログラムは、SOCを推定するSOC推定部14としてコンピュータを機能させる。これにより、充電時推定相関関係式と放電時推定相関関係式とがそれぞれ、測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより推定され、充電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度が向上できると共に、放電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度が向上できる。
【0050】
このように構成された本発明の一実施形態によれば、SOC推定部14の調整手段により、二次電池4を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用し、SOCの推定精度を向上させることができる。これにより、充電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度がより向上できると共に、放電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度がより向上できる。
【0051】
このように構成された本発明の一実施形態によれば、SOCを推定する推定方法におけるSOC推定ステップにより、充電時推定相関関係式と放電時推定相関関係式とがそれぞれ、測定ノイズの影響を低減させる処理を適用することにより推定され、充電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度が向上できると共に、放電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度が向上できる。
【0052】
このように構成された本発明の一実施形態によれば、推定方法の調整ステップにより、二次電池4を表現する等価回路の一部のパラメータに対し、温度値及びSOCの影響を低減させる処理を適用し、SOCの推定精度を向上させることができる。これにより、充電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度がより向上できると共に、放電時におけるOCVからSOCを推定する推定精度がより向上できる。
【符号の説明】
【0053】
1 :SOC推定装置
2 :二次電池システム
4 :二次電池
7 :回路
8 :電圧センサ
10 :電流センサ
12 :温度センサ
14 :SOC推定部
15 :調整部
A :相関曲線
B :相関曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8