(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077032
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】水素吸蔵材料
(51)【国際特許分類】
C01B 6/24 20060101AFI20240531BHJP
【FI】
C01B6/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188836
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000231556
【氏名又は名称】日本精線株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】▲まつ▼本 教介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 亮太
(57)【要約】
【課題】 水素化/脱水素化を繰り返しても水素吸蔵性能の低下を抑制することができる水素吸蔵材料を提供する。
【解決手段】 繰り返して水素化及び脱水素化が可能な水素吸蔵材料1であって、水素を吸蔵するための芯材2と、芯材2を囲む外装材3とを含む。芯材2は、第1部分2aを含む。第1部分2aは、マグネシウム又はマグネシウム合金である。外装材3は、鉄又は鉄基合金である。外装材3の少なくとも一部は、第1部分2aと直接接触するように配置されている。外装材3の外側の水素が芯材3側に透過することにより、Mg
2FeH
6を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返して水素化及び脱水素化が可能な水素吸蔵材料であって、
水素を吸蔵するための芯材と、前記芯材を囲む外装材とを含み、
前記芯材は、第1部分を含み、
前記第1部分は、マグネシウム又はマグネシウム合金であり、
前記外装材は、鉄又は鉄基合金であり、
前記外装材の少なくとも一部は、前記第1部分と直接接触するように配置されており、
前記外装材の外側の水素が前記芯材側に透過することにより、Mg2FeH6を生成する、
水素吸蔵材料。
【請求項2】
前記芯材の質量は、前記外装材の質量の10%~60%である、請求項1に記載の水素吸蔵材料。
【請求項3】
前記芯材は、前記第1部分と、Mg2FeH6からなる第3部分とを含む、請求項1又は2に記載の水素吸蔵材料。
【請求項4】
繰り返して水素化及び脱水素化が可能な水素吸蔵材料であって、
水素を吸蔵するための芯材と、前記芯材を囲む外装材とを含み、
前記芯材は、第1部分と、第2部分とを含み、
前記第1部分は、粉状、針状、線状又は薄板状のマグネシウム又はマグネシウム合金の集合体であり、
前記第2部分は、粉状、針状、線状又は薄板状の鉄又は鉄基合金の集合体であり、
前記外装材は、大気圧下において水素を透過するが酸素を透過しない性能を有する金属材料からなり、
前記外装材の少なくとも一部は、前記芯材と直接接触して配置されており、
前記外装材の外側の水素が前記芯材側に透過することにより、Mg2FeH6を生成する、
水素吸蔵材料。
【請求項5】
前記第2部分の全体積は、前記第1部分の全体積よりも小さい、請求項4に記載の水素吸蔵材料。
【請求項6】
前記第1部分の質量は、前記外装材及び前記第2部分の合計の質量の10%以上である、請求項4又は5に記載の水素吸蔵材料。
【請求項7】
前記第2部分のFeの含有量は、前記外装材のFeの含有量よりも大きい、請求項4又は5に記載の水素吸蔵材料。
【請求項8】
前記外装材は、チタン、クロム及びバナジウムの1又は複数を含む、請求項4又は5に記載の水素吸蔵材料。
【請求項9】
前記芯材は、前記第1部分、前記第2部分、及び、Mg2FeH6からなる第3部分を含む、請求項4又は5に記載の水素吸蔵材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返して水素化及び脱水素化が可能な水素吸蔵材料に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、水素吸蔵材料として、金属被覆マグネシウム線を提案している。この金属被覆マグネシウム線は、芯材と、前記芯材の外周面を被覆する金属製の外装層とを含む。前記外装層は、大気圧下において水素を透過する性能を有し、前記芯材は、複数の被覆フィラメントの集合体からなる。前記被覆フィラメントのそれぞれは、マグネシウム又はマグネシウム合金からなるフィラメント本体が被覆層で被覆されている。前記被覆層は、大気圧下において水素を透過するが酸素を透過しない性能を有し、前記被覆層は、前記フィラメント本体との間で相互拡散しない金属材料からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、水素吸蔵材料では、水素化及び脱水素化の反応が繰り返し行われる。しかしながら、水素吸蔵材料は、これらの反応が繰り返されるにつれ、水素吸蔵性能が低下することがあった。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、水素化及び脱水素化を繰り返しても水素吸蔵性能の低下を抑制することができる水素吸蔵材料を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、繰り返して水素化及び脱水素化が可能な水素吸蔵材料であって、水素を吸蔵するための芯材と、前記芯材を囲む外装材とを含み、前記芯材は、第1部分を含み、前記第1部分は、マグネシウム又はマグネシウム合金であり、前記外装材は、鉄又は鉄基合金であり、前記外装材の少なくとも一部は、前記第1部分と直接接触するように配置されており、前記外装材の外側の水素が前記芯材側に透過することにより、Mg2FeH6を生成する、水素吸蔵材料である。
【0007】
第1の態様において、前記芯材の質量は、前記外装材の質量の10%~60%であっても良い。
【0008】
第1の態様において、前記芯材は、前記第1部分と、Mg2FeH6からなる第3部分とを含んでも良い。
【0009】
本発明の第2の態様は、繰り返して水素化及び脱水素化が可能な水素吸蔵材料であって、水素を吸蔵するための芯材と、前記芯材を囲む外装材とを含み、前記芯材は、第1部分と、第2部分とを含み、前記第1部分は、粉状、針状、線状又は薄板状のマグネシウム又はマグネシウム合金の集合体であり、前記第2部分は、粉状、針状、線状又は薄板状の鉄又は鉄基合金の集合体であり、前記外装材は、大気圧下において水素を透過するが酸素を透過しない性能を有する金属材料からなり、前記外装材の少なくとも一部は、前記芯材と直接接触して配置されており、前記外装材の外側の水素が前記芯材側に透過することにより、Mg2FeH6を生成する、水素吸蔵材料である。
【0010】
第2の態様において、前記第2部分の全体積は、前記第1部分の全体積よりも小さくても良い。
【0011】
第2の態様において、前記第1部分の質量は、前記外装材及び前記第2部分の合計の質量の10%以上であっても良い。
【0012】
第2の態様において、前記第2部分のFeの含有量は、前記外装材のFeの含有量よりも大きくても良い。
【0013】
第2の態様において、前記外装材は、チタン、クロム及びバナジウムの1又は複数を含むことができる。
【0014】
第2の態様において、前記芯材は、前記第1部分、前記第2部分、及び、Mg2FeH6からなる第3部分を含むことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水素吸蔵材料は、水素化及び脱水素化を繰り返しても水素吸蔵性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態を示す水素吸蔵材料の断面図である。
【
図2】本発明の第2実施形態を示す水素吸蔵材料の断面図である。
【
図3】実施例の水素吸蔵材料の水素化前の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図4】実施例の時系列の水素化率を示すグラフであり、縦軸は水素化率、横軸は水素化時間をそれぞれ示す。
【
図5】実施例の時系列の脱水素化率を示すグラフであり、縦軸は脱水素化率、横軸は脱水素化時間をそれぞれ示す。
【
図6】(A)~(C)は、実施例の水素吸蔵材料の芯材の一部を拡大した模式図であり、(A)は水素化前、(B)はサイクル1の水素化後、(C)はサイクルn(nは1よりも大)目の水素化後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図面は、本発明の理解を助けるためのもので、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれていることが指摘される。また、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。さらに、複数の実施形態を通して、同一又は共通する要素については、共通又は関連する符号が付されており、重複する説明が省略される場合がある。
【0018】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態を示す水素吸蔵材料1の断面図である。この実施形態の水素吸蔵材料1は、例えば、断面円柱状とされている。他の態様では、水素吸蔵材料1は、例えば、直方体状、板状、球状等、様々な形状で実施され得る。
【0019】
第1実施形態の水素吸蔵材料1は、水素を吸蔵するための芯材2と、芯材2を囲む外装材3とを含んで構成されている。
【0020】
芯材2は、例えば、第1部分2aを含んで構成される。この実施形態では、芯材2は、第1部分2aのみから構成されている。また、
図1では、第1部分2aは、断面円形とされているが、例えば、三角形状、楕円状、多角形状等であっても良い。
【0021】
第1部分2aは、マグネシウム又はマグネシウム合金(以下、これらを総称して「Mg系材料」という場合がある。)である。Mg系材料は、チタン系や希土類元素系の水素吸蔵合金よりも優れた水素吸蔵性能を備える点で好ましい。また、Mg系材料は、比重が小さいため、水素吸蔵材料1を軽量化し、ひいては、その可搬性や輸送性を向上させるのに役立つ。Mg系材料のうち、マグネシウム合金としては、例えば、Mg-Ni合金、Mg-Cu合金、Mg-Zn合金、Mg-Al合金等が挙げられる。これらの合金についても、純Mgと遜色ない水素吸蔵性能が期待され得る。
【0022】
第1部分2aは、例えば、一塊の材料であっても良いし、複数の材料の集合体であっても良い。後者の場合、第1部分2aの個々の材料には、様々な形状が採用でき、例えば、粉状、針状、線状又は薄板状等の各種形状の材料が用いられ得る。本実施形態の第1部分2aは、A部拡大図に示されるように、複数の線状材料4を、その長手方向に引き揃えて束ねた集合体である。このような第1部分2aは、例えば、線状材料4の間に、水素と接触可能な微小隙間が提供されることから、水素吸蔵性能を高めるのに役立つ。この場合、水素吸蔵に適した細線材料1本当たりの直径は、例えば、1~100μmとされ、さらには1~50μmとされるのが望ましい。
【0023】
外装材3は、鉄又は鉄基合金からなる。鉄又は鉄基合金は、大気圧下において、水素を透過するが、酸素(及び酸素を有する活性分子)を透過しない性質を有する。鉄基合金としては、特に制限されないが、例えば、ステンレス鋼(Fe-Cr、Fe-Ni)等が望ましい。
【0024】
また、外装材3の少なくとも一部は、第1部分2aの外周面と直接接触して配置される。本実施形態の外装材3は、第1部分2aの外周面の実質的に全周に亘って接触するような環状体とされる。このような外装材3は、外部から芯材2を拘束することができる。なお、「実質的に全周に亘って接触する」とは、外装材3が芯材2の外周面の全周と途切れることなく完全に接触している態様のみならず、製造工程上において両者の間に不可避的に生じるような微小隙間(例えば、数十ミクロン程度の隙間)等が1ないし複数形成されている態様をも含むことが意図されている。なお、本実施形態の外装材3は、円環状体とされているが、例えば、四角形、三角形等の多角形状の環状体とされても良く、さらには、他の形状とされても良く、その断面形状等は特に限定されるものではない。
【0025】
第1実施形態の水素吸蔵材料1では、外装材3の外側の水素が芯材2側に透過することにより、Mg2FeH6を生成することができる。
【0026】
[第1実施形態の作用]
まず、水素吸蔵材料1を水素化する場合が説明される。
水素吸蔵材料1は、例えば、高温(例えば、300℃以上)、かつ、平衡圧力以上の高水素圧力下に置かれる。これにより、外装材3の外側の水素は、芯材2側へと透過、拡散し、第1部分2aのMgの結晶格子間に取り込まれて吸蔵される。これにより、水素化物MgH2が生成される。ここで、外装材3の一部は、第1部分2aと直接接触しているため、水素の拡散速度を高めることができる。
【0027】
また、MgH2が生成されると、外装材3で拘束された空間の体積が膨張し、内部応力が高められる。また、前記内部応力により、第1部分2aにひずみが発生し、水素化合物相の形成のための活性化エネルギーが低下する。このような条件下、水素吸蔵材料1中にでは、外装材3のFeと水素化物MgH2とが反応することにより、水素化合物Mg2FeH6が生成される。水素化合物Mg2FeH6は、MgH2に比べて、より多くの水素を吸蔵できるという利点を有する。
【0028】
次に、水素化された水素吸蔵材料1を脱水素化する場合が説明される。
水素吸蔵材料1は、例えば、高温、かつ、平衡圧力よりも低い低水素圧力下に置かれる。これにより、水素吸蔵材料1に吸蔵されていた水素が、水素吸蔵材料1の外部へと放出される。また、水素化合物Mg2FeH6は、MgとFeに分相するが、第1部分2aが外装材3によって拘束されているため、MgとFeとが接触した状態が引き続き維持される。これは、次サイクルの水素化時、速やかな水素化合物Mg2FeH6の生成量の増加を可能とし、ひいては、水素吸蔵量を増加させるのに役立つ。
【0029】
外装材3による芯材2への拘束効果をより確実にするために、外装材3の厚さt1は、例えば20μm以上、好ましくは30μm以上が望ましい。また、水素透過抵抗の上昇を抑えるために、外装材3の厚さt1は、例えば80μm以下、好ましくは70μm以下であるのが望ましい。
【0030】
本実施形態の水素吸蔵材料1は、上記のような水素化及び脱水素化を1つのサイクルとした場合、複数のサイクルが実施可能である。その際、本実施形態の水素吸蔵材料1は、サイクル数の増加につれて、水素化時の水素化合物Mg2FeH6の生成量が徐々に増加し、ひいては水素吸蔵性能も徐々に向上するという利点を有する。
【0031】
1サイクル目の水素化では、水素吸蔵材料1の全てのMg及びFeからMg2FeH6が生成されるわけではなく、その一部のMg及びFeからMg2FeH6が生成される。例えば、水素吸蔵材料1の中心側に存在するMgは、外装材3のFeから物理的距離を隔てることから、相対的にMg2FeH6の生成には寄与しにくい。したがって、1サイクル目の水素化時、水素吸蔵材料1において、Mg2FeH6の生成割合は相対的に少なく、芯材2には、Mg、Mg2FeH6及びMgH2が混在し、とりわけ、Mgが比較的多く存在している。
【0032】
その後、水素吸蔵材料1において、水素化及び脱水素化のサイクルが複数回繰り返されていくと、2サイクル目以降の水素化時に、さらにMg、Fe及びHにより、新たなMg2FeH6が生成される。これにより、本実施形態の水素吸蔵材料1は、水素化及び脱水素化のサイクルを繰り返すにつれて、各サイクルでのMg2FeH6の生成割合が累積的に増加し、芯材2中のMg2FeH6の割合も増加する。これにより、本実施形態の水素吸蔵材料1は、水素化及び脱水素化を複数回繰り返しても、水素吸蔵性能の低下を抑制することができ、むしろ向上するという利点を有する。
【0033】
水素吸蔵性能を高めるために、芯材2(ここでは、第1部分2a)の質量は、外装材3の質量(全質量)の10%~60%の範囲が望ましい。このように、外装材3の質量に対する芯材2の質量比率に着目することにより、外装材3による、Mg2FeH6を生成するための十分なFeの供給と、それに伴う拘束力の低下抑制とをバランスさせることができる。すなわち、芯材2の質量を外装材3の質量の10%以上とすることで、十分なMg2FeH6が生成される。とりわけ、芯材2の質量は、外装材3の質量(全質量)の30%以上、さらには40%以上が望ましい。逆に、芯材2の質量を外装材3の質量の60%以下に抑えることにより、Mg2FeH6を生成する過程での外装材3の厚さの過度の減少等を抑制することができ、ひいては、外装材3の拘束力の低下を抑制することができる。とりわけ、芯材2の質量は、外装材3の質量(全質量)の55%以下、さらには50%以下が望ましい。さらには、これらの理想比は、質量%で、Mg:Fe=46.5:53.5とされる。
【0034】
好ましい態様として、芯材2は、予め、水素化合物Mg2FeH6からなる第3部分(図示省略)を含んでいても良い。すなわち、水素吸蔵材料1は、予め、メーカ側で水素化及び脱水素化の少なくとも1サイクルが実施され、その後、市場に流通されても良い。このような水素吸蔵材料1では、芯材2は、Mg系材料からなる第1部分2aと、水素化合物Mg2FeH6からなる第3部分とを含んで構成され得る。
【0035】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態が説明される。
図2は、本発明の第2実施形態を示す水素吸蔵材料10の断面図である。第2実施形態の水素吸蔵材料10は、水素を吸蔵するための芯材20と、芯材20を囲む外装材30とを含む。第2実施形態の水素吸蔵材料10は、例えば、円柱状とされているが、例えば、直方体状、板状、球状等、様々な形状で実施され得る。
【0036】
第2実施形態の芯材20は、第1部分20aと、第2部分20bとを含む。
図2では、芯材20は、全体として、断面円形とされているが、例えば、三角形状、楕円状、多角形状等、様々な形状でも良い。
【0037】
第1部分20aは、第1実施形態と同様、Mg系材料とされる。上で述べたように、Mg系材料は、優れた水素吸蔵性能の他、低比重という利点を有する。また、第2実施形態の第1部分20aは、粉状、針状、線状又は薄板状の複数のMg系材料の集合体とされる。本明細書において、前記「粉状」とは、粒径が数マイクロメートル程度の微細な粉末状のみならず、粒径が比較的大きい(例えば、数ミリないし数十ミリメートル)の「粒状」も含む概念である。また、前記「針状」とは、長手方向を規定する細長い形状が意図されているが、「線状」と比較すると長さがより小さいもの(例えば、数マイクロメートルから数ミリメートルの短繊維等)が対象とされる。このような第1部分20aは、寄せ集めた際に、内部に複数の隙間が形成され得る。そして、これらの隙間には、第2部分20b(後述)が充填される。
【0038】
本実施形態の第1部分20aは、
図1のA部拡大部分で示されたように、複数の線状材料を、その長手方向に引き揃えて束ねた集合体が用いられている。このような第1部分20aは、例えば、隣接する線状材料の間に、水素と接触可能な微小隙間を提供し、ひいては、水素吸蔵性能を高めるのに役立つ。一例として、水素吸蔵に適した線状材料1本当たりの直径は、例えば、1~100μmが望ましく、さらには1~50μmが望ましい。
【0039】
第2部分20bは、粉状、針状、線状又は薄板状の鉄又は鉄基合金の集合体とされる(詳細不図示)。粉状、針状、線状又は薄板状は、第1部分20aで説明されたとおりの性状が意図される。また、第2部分20bの鉄基合金としては、特に制限されないが、例えば、ステンレス鋼(Fe-Cr、Fe-Ni)等が望ましい。なお、第2部分20bの形状は、第1部分20aと同じ形状である必要はなく、様々な形状が採用され得る。
【0040】
本実施形態の第2部分20bは、例えば、粉状のFeが使用されている。Feは水素拡散係数が高い点で好ましい。また、第2部分20bは、第1部分20aの集合体内に形成された隙間を埋めるように、前記隙間に密に充填されている。これにより、芯材20は、マトリックスとしてのMg系材料からなる第1部分20a中に、Feからなる第2部分20bがランダムに分散された配置を備える。好ましい態様では、芯材20は、さらに、第1部分20a及び第2部分20bを寄せ集めた後、外部から圧力を作用させて塊状に圧縮塑性変形させることで実質的に一体化され得る。このような芯材20は、第1部分20aと第2部分20bとの接触面積をより高める。
【0041】
外装材30は、大気圧下において水素を透過するが、酸素を透過しない性能を有する金属材料からなる。酸素を透過しない性能としては、外装材30は、大気圧下かつ温度0~500℃の範囲において、酸素が、外装材30の外側と内側との間で透過できない性能を有していれば良い。これにより、外装材30は、酸素を有する活性分子(例えば、H2O、CO、CO2等)についても透過しない性能を有する。外装材30は、このような条件をみたす限りにおいて、様々な材料を用いることができる。一例として、外装材30の金属材料には、例えば、チタン、クロム及びバナジウムの1又は複数を用いることができる。本実施形態の外装材30は、鉄又は鉄基合金を含まないが、これらの使用を妨げるものではない。
【0042】
外装材30の少なくとも一部は、芯材20と直接接触して配置される。本実施形態の外装材30は、芯材20の外周面と、実質的に全周に亘って接触するような環状体とされる。このような外装材30は、外部から芯材20を拘束するのに役立つ。すなわち、第2実施形態の外装材30は、芯材20を拘束する機能に特化されており、水素吸蔵材料10中にMg2FeH6を生成するためのFeの供給源の機能は要求されていない。なお、本実施形態の外装材30は、円環状体とされているが、例えば、四角形、三角形等の多角形状の環状体とされても良く、さらには、他の形状とされても良く、その断面形状等は特に限定されるものではない。
【0043】
第2実施形態の水素吸蔵材料10は、外装材30の外側の水素が芯材20側に透過することにより、Mg2FeH6を生成することができる。
【0044】
[第2実施形態の作用]
まず、水素吸蔵材料10を水素化する場合が説明される。
水素吸蔵材料10は、例えば、高温(例えば、300℃以上)、かつ、平衡圧力以上の高水素圧力下に置かれる。これにより、外装材30の外側の水素は、芯材20側へと透過、拡散し、第1部分20aのMgの結晶格子間に取り込まれて吸蔵される。これにより、水素化物MgH2が生成される。ここで、外装材30の一部は、芯材20と直接接触しているため、水素の拡散速度を高めることができる。
【0045】
また、MgH2が生成されると、外装材30で拘束された空間の体積が膨張し、内部応力が高められる。また、前記内部応力により、第1部分20aにひずみが発生し、水素化合物相の形成のための活性化エネルギーが低下する。このような条件下、水素吸蔵材料10中にでは、第2部分20bのFeと水素化物MgH2とが反応することにより、水素化合物Mg2FeH6が生成される。水素化合物Mg2FeH6は、MgH2に比べて、より多くの水素を吸蔵できるという利点を有する。
【0046】
第2実施形態では、Feからなる第2部分20bが、第1部分20aに対してランダムに分散配置されているため、第1実施形態に比べ、両部分の接触機会がさらに増加し、より多くの水素化合物Mg2FeH6を1サイクル目の水素化時に満遍なく生成することが可能である。このような観点では、第2部分20bの粒径は、例えば、0.1μm~20μm程度とされ、さらには0.1μm~10μm程度とされるのが望ましい。
【0047】
また、上で述べたように、第2実施形態の外装材30は、Feを含んでおらず、Mg2FeH6の生成のためのFeの供給源とはされていない。したがって、第2実施形態の水素吸蔵材料10では、外装材30からFeの供給が行われないことから、外装材30の拘束力の低下を長期にわたって防止できる利点がある。一方、Mg2FeH6の十分な生成量を確保するために、第2部分20bのFeの含有量は、外装材30のFeの含有量よりも大きく設定されていることが望ましい。
【0048】
次に、水素化した水素吸蔵材料10を脱水素化する場合が説明される。
水素吸蔵材料10は、例えば、高温、かつ、平衡圧力よりも低い低水素圧力下に置かれる。これにより、水素吸蔵材料10に吸蔵されていた水素が、水素吸蔵材料10の外部へと放出される。また、水素化合物Mg2FeH6は、MgとFeに分相するが、第1部分20aが外装材30によって拘束されているため、MgとFeとが接触した状態が引き続き維持される。これは、次サイクルの水素化時、速やかな水素化合物Mg2FeH6の生成量を可能とし、ひいては、水素吸蔵量を増加させるのに役立つ。
【0049】
外装材30による芯材20への拘束効果をより確実にするために、外装材30の厚さt1は、例えば20μm以上、好ましくは30μm以上が望ましい。また、水素透過抵抗の上昇を抑えるために、外装材30の厚さt1は、例えば80μm以下、好ましくは70μm以下であるのが望ましい。
【0050】
第2実施形態の水素吸蔵材料10も、第1実施形態と同様に、水素化及び脱水素化を1サイクルとして、複数のサイクルが繰り返される使用に適する。その際、第2実施形態の水素吸蔵材料10も、サイクル数の増加につれて、水素化時の水素化合物Mg2FeH6の生成量が徐々に増加し、ひいては水素吸蔵性能も徐々に向上するという利点を有する。
【0051】
好ましい態様では、第1部分20aの質量は、外装材30及び第2部分20bの合計の質量の10%以上であるのが望ましい。これにより、安定した水素吸蔵性能を発揮することができる。また、第2部分20bの全体積は、第1部分20aの全体積よりも小さいのが望ましい。
【0052】
[本実施形態の用途]
第1又は第2実施形態の水素吸蔵材料1、10は、例えば、水素吸蔵モジュール用として好適に利用され得る。水素吸蔵モジュールは、例えば、水素を吸蔵する部分として機能的にまとまった装置ないしユニットである。水素吸蔵モジュールは、例えば、水素吸蔵材料1、10の数十ないし数百本を平行に引き揃えた集合体として構成され得る(図示省略)。また、水素吸蔵モジュールは、水素吸蔵材料1、10が巻回されてコイル状とされても良い。
【0053】
[水素吸蔵材料の製造方法]
第1実施形態及び第2実施形態の水素吸蔵材料は、例えば、芯材2、20を、外装材3、30で被覆し、例えば、両者が密に接触するように、塑性加工を施すことにより製造され得る。本実施形態では、芯材2、20は、外装材3、30で被覆された後、例えば、加工率50%以上の伸線加工を施して細線化される。これにより、芯材2、20と、外装材3、30とを、実質的に全範囲で密に接触させることができる。
【0054】
以上、本発明のいくつかの実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【実施例0055】
以下、本発明のより具体的かつ非限定的な実施例が説明される。
第1実施形態及び第2実施形態の構成を満たす水素吸蔵材料の実施例の仕様は、次のとおりである。
線径:0.5mm
長さ:1mm
重量:2.0g
外装材の金属材料:Fe
芯材の構成:第1部分+第2部分
第1部分:平均粒径12μmのMgの粒状材料の集合体
第2部分:平均線径1μm、平均長さ30μmのFe線状材料の集合体
【0056】
図3は、水素吸蔵材料の実施例の断面の顕微鏡写真を示す。
図3において、外装材3(30)は、第1部分2a(20a)の外周面の実質的に全周に亘って接触している。第1部分2a、20aは、灰色の部分であり、粒状のMgの集合体である。第2部分20bは、上述のように、Feの線状材料の集合体であり、これらはそれぞれ、局所的に第1部分2a、20aを囲む複数の環を描くように配列されている。なお、線状材料の長手方向は紙面と直交している。
【0057】
次に、上記水素吸蔵材料を用いて、水素化及び脱水素化を1サイクルとする合計6サイクルの処理が行われた。測定条件は、次のとおりである。
[水素化条件]
初期導入水素圧力:4.0MPa
保持温度:693K
水素化時間:50ks
[脱水素化条件]
初期導入水素圧力:0.1MPa
保持温度:673K
脱水素化時間:10ks
【0058】
図4は、水素化時のMgに対する水素化率と水素化時間との関係を示し、サイクル1からサイクル6までが示されている。同様に、
図5は、脱水素化時のMgに対する脱水素化率と脱水素化時間との関係を示し、サイクル1からサイクル5までが示されている。
図4及び5から明らかなように、実施例の水素吸蔵材料では、サイクル数が増加するにつれて、水素化率及び脱水素化率が徐々に向上していることが確認できる。
【0059】
図6(A)~(C)は、実施例の水素吸蔵材料の芯材2(20)の一部を拡大した模式図であり、(A)は水素化前、(B)はサイクル1の水素化後、(C)はサイクルn(nは1よりも大)の水素化後の状態をそれぞれ示す。なお、模式図であるため、形状等は一部誇張されている点が指摘される。
図6(B)に示されるように、サイクル1の水素化を終えたときには、芯材は、概ね、Feの周囲に、Mg
2FeH
6が隣接して形成され、さらにMg
2FeH
6の周囲に、MgH
2が隣接して形成される。また、
図6(C)に示されるように、水素化及び脱水素化のサイクルをn回繰り返したときの水素化後の状態では、芯材では、Mg
2FeH
6の生成量が増加する一方、FeはMg
2FeH
6の生成に寄与することにより減少する。なお、Feの減少に伴い、Mg
2FeH
6の生成量の増加速度も減少し、水素化率等も頭打ちとなる(
図4のグラフの緩い勾配部分参照)。そして、Feが全てMg
2FeH
6の生成に用いられると、以後、Mg
2FeH
6は増加しない。