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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077044
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】船速計および船速計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01P 5/24 20060101AFI20240531BHJP
   G01P 5/00 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
G01P5/24 A
G01P5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188848
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】八木 佑輔
(57)【要約】
【課題】的確な船速を求める。
【解決手段】船速計1は、水中の少なくとも2つの方向に向けて周波数が異なる音波をそれぞれ発信し、発信された音波の反射波をそれぞれ受信し、受信した反射波から瞬時ドップラ周波数をそれぞれ計算する複数のチャンネル4~7と、異なる方向に向けて発信された音波の瞬時ドップラ周波数の組み合わせに基づいて複数の瞬時船速候補を計算する瞬時船速候補計算部81と、複数の瞬時船速候補をもっともらしさが高い順に正常値であるか否かを判定し、最初に正常値であると判定された瞬時船速候補の値を瞬時船速として採用する瞬時船速候補判定部82と、瞬時船速の値に基づいて船速値を計算する船速値計算部83と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の少なくとも2つの方向に向けて周波数が異なる音波をそれぞれ発信し、発信された音波の反射波をそれぞれ受信し、受信した反射波から瞬時ドップラ周波数をそれぞれ計算する複数のチャンネルと、
異なる方向に向けて発信された音波の瞬時ドップラ周波数の組み合わせに基づいて複数の瞬時船速候補を計算する瞬時船速候補計算手段と、
前記複数の瞬時船速候補をもっともらしさが高い順に正常値であるか否かを判定し、最初に正常値であると判定された瞬時船速候補の値を瞬時船速として採用する瞬時船速候補判定手段と、
前記瞬時船速の値に基づいて船速値を計算する船速値計算手段と、
を備えることを特徴とする船速計。
【請求項2】
前記複数のチャンネルは、受信した1つの反射波から複数の瞬時ドップラ周波数をそれぞれ計算する、ことを特徴とする請求項1に記載の船速計。
【請求項3】
前記瞬時船速候補計算手段は、異なる方向に向けて発信された同一周波数の音波の瞬時ドップラ周波数同士を組み合わせた複数組のペア瞬時ドップラ周波数を生成し、前記ペア瞬時ドップラ周波数のそれぞれに基づいて、複数の瞬時船速候補を計算する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の船速計。
【請求項4】
前記複数のチャンネルにて計算された複数の瞬時ドップラ周波数を船速値に変換する船速値変換手段を備え、
前記瞬時船速候補計算手段は、異なる方向に向けて発信された音波の瞬時ドップラ周波数から変換された船速値同士を組み合わせた複数組のペア船速値を生成し、前記ペア船速値のそれぞれに基づいて複数の瞬時船速候補を計算する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の船速計。
【請求項5】
前記瞬時船速の値を所定の期間だけバッファに蓄え、前記バッファに蓄えられている前記瞬時船速の値を用いて前記船速値を計算する、
ことを特徴とする請求項1に記載の船速計。
【請求項6】
前記瞬時船速候補判定手段は、前記瞬時船速候補に係る加速度が所定範囲内である瞬時船速候補を正常値であると判定する、
ことを特徴とする請求項5に記載の船速計。
【請求項7】
前記瞬時船速候補判定手段は、前記瞬時船速候補の値が過去の船速値を基準とする所定範囲内である瞬時船速候補を正常値であると判定する、
ことを特徴とする請求項5に記載の船速計。
【請求項8】
計算された前記船速値を所定の個数だけ第2のバッファに蓄え、前記第2のバッファに蓄えられている前記船速値を用いて前記所定範囲の基準を設定する、
ことを特徴とする請求項6または7に記載の船速計。
【請求項9】
前記バッファに蓄えられている前記瞬時船速が更新されている場合のみ、前記所定範囲の基準を設定する、
ことを特徴とする請求項8に記載の船速計。
【請求項10】
前記バッファに蓄えられている前記瞬時船速が更新されていない状況で所定の条件を満たす場合に、前記所定範囲を規定する条件を変更する、
ことを特徴とする請求項9に記載の船速計。
【請求項11】
前記瞬時船速候補判定手段は、前記瞬時船速候補の基となった前記音波の周波数に基づいて、前記瞬時船速候補のもっともらしさを判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の船速計。
【請求項12】
前記瞬時船速候補判定手段は、前記瞬時船速候補の基となった音波の周波数と、前記瞬時船速候補の基となった瞬時ドップラ周波数を計算する際に前記チャンネルで行なわれる瞬時ドップラ周波数のもっともらしさの順位付けとに基づいて、前記瞬時船速候補のもっともらしさを判定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の船速計。
【請求項13】
水中の少なくとも2つの方向に向けて周波数が異なる音波をそれぞれ発信し、発信された音波の反射波をそれぞれ受信し、受信した反射波から瞬時ドップラ周波数をそれぞれ計算し、
異なる方向に向けて発信された音波の瞬時ドップラ周波数の組み合わせに基づいて複数の瞬時船速候補を計算し、
前記複数の瞬時船速候補をもっともらしさが高い順に正常値であるか否かを判定し、最初に正常値であると判定された瞬時船速候補の値を瞬時船速として採用し、
前記瞬時船速の値に基づいて船速値を計算する、
ことを特徴とする船速計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船速計および船速計測方法に関し、船速の計測に適用して有用な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
船速を計測する船速計の方式の1つとして音響式(「ドップラ式」とも呼ばれる)が知られている。音響式船速計は、船舶から水中へと向けて音波を発信し、発信した音波の周波数と、水中の浮遊物(具体的には、プランクトンなど)によって反射した音波の反射波の周波数との差(即ち、相対速度に応じたドップラ周波数)に基づき、水に対する船舶の相対的な速度(以下、対水速度または船速ともいう)を算出する(特許文献1参照)。この場合、発信した音波の周波数をf、音波の発信方向の俯角をθ、水中の音速をC、反射波のドップラ周波数をΔfとするとき、船速Vは以下の数式1により求められる。
(数1) V=C・Δf/(2f・cosθ)
【0003】
音響式船速計には、ペアビームと呼ばれる方式がある。ペアビーム方式の音響式船速計は、音波を船舶の進行方向の前後(例えば、船首方向および船尾方向)にそれぞれ同じ俯角θで発信し、各音波の反射波から得られた一対のドップラ周波数からそれぞれ船速を計算し、計算された一対の船速の平均値を計算して真の船速を求める(この手法をビームキャンセルともいう)。このペアビーム方式の音響式船速計によれば、航行中の船舶にピッチングなどの動揺が発生し、船舶が前後方向に傾いて音波の俯角θが変化した場合であっても、その動揺の影響をキャンセルして正確な船速を計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-099868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、船速計によって計測される船速は、異常値を示すことがある。例えば、音響式船速計は、干渉波や泡かみなどに起因した干渉波周波数に基づいて船速値を計算することがある。この場合、干渉波周波数を使用して船速を計算すると、誤った船速値を出力・表示してしまう、という問題がある。
【0006】
そこでこの発明は、的確な船速を求めることが可能な、船速計および船速計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、水中の少なくとも2つの方向に向けて周波数が異なる音波をそれぞれ発信し、発信された音波の反射波をそれぞれ受信し、受信した反射波から瞬時ドップラ周波数をそれぞれ計算する複数のチャンネルと、異なる方向に向けて発信された音波の瞬時ドップラ周波数の組み合わせに基づいて複数の瞬時船速候補を計算する瞬時船速候補計算手段と、前記複数の瞬時船速候補をもっともらしさが高い順に正常値であるか否かを判定し、最初に正常値であると判定された瞬時船速候補の値を瞬時船速として採用する瞬時船速候補判定手段と、前記瞬時船速の値に基づいて船速値を計算する船速値計算手段と、を備えることを特徴とする船速計である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の船速計において、前記複数のチャンネルは、受信した1つの反射波から複数の瞬時ドップラ周波数をそれぞれ計算する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の船速計において、前記瞬時船速候補計算手段は、異なる方向に向けて発信された同一周波数の音波の瞬時ドップラ周波数同士を組み合わせた複数組のペア瞬時ドップラ周波数を生成し、前記ペア瞬時ドップラ周波数のそれぞれに基づいて、複数の瞬時船速候補を計算する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の船速計において、前記複数のチャンネルにて計算された複数の瞬時ドップラ周波数を船速値に変換する船速値変換手段を備え、前記瞬時船速候補計算手段は、異なる方向に向けて発信された音波の瞬時ドップラ周波数から変換された船速値同士を組み合わせた複数組のペア船速値を生成し、前記ペア船速値のそれぞれに基づいて複数の瞬時船速候補を計算する、ことを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の船速計において、前記瞬時船速の値を所定の期間だけバッファに蓄え、前記バッファに蓄えられている前記瞬時船速の値を用いて前記船速値を計算する、ことを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の船速計において、前記瞬時船速候補判定手段は、前記瞬時船速候補に係る加速度が所定範囲内である瞬時船速候補を正常値であると判定する、ことを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の船速計において、前記瞬時船速候補判定手段は、前記瞬時船速候補の値が過去の船速値を基準とする所定範囲内である瞬時船速候補を正常値であると判定する、ことを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の船速計において、計算された前記船速値を所定の個数だけ第2のバッファに蓄え、前記第2のバッファに蓄えられている前記船速値を用いて前記所定範囲の基準を設定する、ことを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の船速計において、前記バッファに蓄えられている前記瞬時船速が更新されている場合のみ、前記所定範囲の基準を設定する、ことを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の船速計において、前記バッファに蓄えられている前記瞬時船速が更新されていない状況で所定の条件を満たす場合に、前記所定範囲を規定する条件を変更する、ことを特徴とする。
【0017】
請求項11に記載の発明は、請求項1に記載の船速計において、前記瞬時船速候補判定手段は、前記瞬時船速候補の基となった前記音波の周波数に基づいて、前記瞬時船速候補のもっともらしさを判定する、ことを特徴とする。
【0018】
請求項12に記載の発明は、請求項2に記載の船速計において、前記瞬時船速候補判定手段は、前記瞬時船速候補の基となった音波の周波数と、前記瞬時船速候補の基となった瞬時ドップラ周波数を計算する際に前記チャンネルで行なわれる瞬時ドップラ周波数のもっともらしさの順位付けとに基づいて、前記瞬時船速候補のもっともらしさを判定する、ことを特徴とする。
【0019】
請求項13に記載の発明は、水中の少なくとも2つの方向に向けて周波数が異なる音波をそれぞれ発信し、発信された音波の反射波をそれぞれ受信し、受信した反射波から瞬時ドップラ周波数をそれぞれ計算し、異なる方向に向けて発信された音波の瞬時ドップラ周波数の組み合わせに基づいて複数の瞬時船速候補を計算し、前記複数の瞬時船速候補をもっともらしさが高い順に正常値であるか否かを判定し、最初に正常値であると判定された瞬時船速候補の値を瞬時船速として採用し、前記瞬時船速の値に基づいて船速値を計算する、ことを特徴とする船速計測方法である。
【発明の効果】
【0020】
請求項1および13に記載の発明によれば、周波数が異なる音波を発信し、受信した反射波から計算した瞬時ドップラ周波数に基づいて複数の瞬時船速候補を計算するので、例えば、音波の減衰量や干渉波周波数との差に違いが生じるので、干渉波周波数の影響を受けにくくなり、的確な船速値を求めることが可能となる。また、複数の瞬時船速候補のなかから、最ももっともらしく、かつ、正常値であると判定された瞬時船速候補を正規の瞬時船速として採用し、採用された瞬時船速に基づいて船速値を計算するので、ペアビーム方式の船速計において船速値を計算する際に、干渉波周波数に基づく瞬時船速候補を排除することができ、精度の高い船速を求めることが可能となる。
【0021】
また、請求項2に記載の発明によれば、受信した1つの反射波から複数の瞬時ドップラ周波数をそれぞれ計算するので、より多くの瞬時船速候補のなかから最ももっともらしく、かつ、正常値であると判定された瞬時船速候補を選択することができるので、より的確な船速値を求めることが可能となる。
【0022】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、同一周波数の音波の瞬時ドップラ周波数同士を組み合わせて複数の瞬時船速候補を計算するので、ペアビーム方式の船速計において船速値を計算する際に、干渉波周波数に基づく瞬時船速候補を排除することができ、精度の高い船速を求めることが可能となる。
【0023】
また、請求項4に記載の発明によれば、複数の瞬時ドップラ周波数を船速値に変換し、変換された船速値同士を組み合わせて複数の瞬時船速候補を計算するので、周波数が異なる音波の瞬時ドップラ周波数の組み合わせでも瞬時船速候補を計算することができる。そのため、ペアビーム方式の船速計において船速値を計算する際に、干渉波周波数に基づく瞬時船速候補をより効果的に排除することができ、精度の高い船速を求めることが可能となる。
【0024】
さらに、請求項5に記載の発明によれば、バッファに蓄えられている所定期間の瞬時船速の値を用いて船速値を計算するので、船舶の揺動などによって瞬時船速に一時的な変化が生じても精度の高い船速を求めることが可能となる。
【0025】
また、請求項6に記載の発明によれば、加速度を判定基準として用いるようにしているので、船速の傾向を判定基準とすることができ、一層自然な船速値の計算を行うことが可能となる。
【0026】
また、請求項7に記載の発明によれば、過去の船速値を判定基準として用いるようにしているので、船速の傾向を判定基準とすることができ、一層自然な船速値の計算を行うことが可能となる。
【0027】
また、請求項8に記載の発明によれば、正常な(言い換えると、許容範囲にある)瞬時船速の値が用いられて計算される船速値に基づいて正常値判定の基準が設定されるので、的確な船速を求めることが可能となる。
【0028】
さらに、請求項9に記載の発明によれば、バッファに蓄えられている瞬時船速が更新されている場合のみ、所定範囲の基準を設定するので、船舶の航行状況に応じて的確で、かつ、安定した船速値の計算を行なうことが可能である。
【0029】
また、請求項10に記載の発明によれば、バッファに蓄えられている瞬時船速が更新されていない状況で所定の条件を満たす場合に所定範囲を規定する条件を変更するので、例えば、瞬時船速候補が正常値と判定されない事象が続いた場合に、所定範囲を規定する条件を変更して所定範囲の基準を設定することができ、船舶の航行状況に応じて的確で、かつ、安定した船速値の計算を行なうことが可能となる。
【0030】
さらに、請求項11に記載の発明によれば、瞬時船速候補の基となった音波の周波数に基づいて、瞬時船速候補のもっともらしさを判定するようにしたので、複数の瞬時船速候補のなかから、最ももっともらしく、かつ、正常値であると判定された瞬時船速候補を正規の瞬時船速として採用することができ、精度の高い船速値を求めることが可能となる。
【0031】
また、請求項12に記載の発明によれば、瞬時船速候補の基となった音波の周波数と、瞬時船速候補の基となった瞬時ドップラ周波数を計算する際にチャンネルで行なわれる瞬時ドップラ周波数のもっともらしさの順位付けとに基づいて、瞬時船速候補のもっともらしさを判定するので、複数の瞬時船速候補のなかから、最ももっともらしく、かつ、正常値であると判定された瞬時船速候補を正規の瞬時船速として採用することができ、精度の高い船速値を求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】この発明の実施の形態1に係る船速計の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2図1の船速計における処理手順であるとともにこの発明の実施の形態1に係る船速計測方法の処理手順の概要を示すフローチャートである。
図3図2の「瞬時船速の計算」の処理手順の概要を示すフローチャートである。
図4】この発明の実施の形態1に係る船速計において瞬時ドップラ周波数から瞬時船速候補を計算して正常値であるか否かを判定する処理の概要を示す機能ブロック図である。
図5図1の船速計において計算される基準加速度を説明する図である。
図6】この発明の実施の形態2に係る船速計において1つの反射波から取得した複数の瞬時ドップラ周波数に基づき瞬時船速候補を計算して正常値であるか否かを判定する処理の概要を示す機能ブロック図である。
図7】この発明の実施の形態3に係る船速計の概略構成を示す機能ブロック図である。
図8】この発明の実施の形態3に係る船速計において瞬時ドップラ周波数を船速値に変換して瞬時船速候補を計算し正常値であるか否かを判定する処理の概要を示す機能ブロック図である。
図9】この発明の実施の形態4に係る船速計において1つの反射波から取得した複数の瞬時ドップラ周波数を船速値に変換して瞬時船速候補を計算し正常値であるか否かを判定する処理の概要を示す機能ブロック図である。
図10】この発明の実施の形態4に係る船速計において複数の船速値から瞬時船速候補を求める組み合わせと瞬時船速候補のもっともらしさの順位とを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(実施の形態1)
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0034】
図1は、この発明の実施の形態に係る船速計1の概略構成を示す機能ブロック図である。図2は、船速計1における処理手順であるとともにこの発明の実施の形態に係る船速計測方法の処理手順の概要を示すフローチャートである。図3は、図2に示すフローチャートのうち、ステップS1の「瞬時船速の計算」の具体的な処理手順の概要を示すフローチャートである。
【0035】
船速計1は、ペアビーム方式の音響式(「ドップラ式」とも呼ばれる)の船速計としての構成・機能を含み、船舶に搭載されて当該船舶の対水速度(即ち、対水船速[kn])を計測して出力するための機序であり、主に、制御部2、記憶部3、第1チャンネル4、第2チャンネル5、第3チャンネル6、第4チャンネル7、船速計算部8、インターフェース部9、および表示部10を有する。
【0036】
実施の形態に係る船速計1は、第1チャンネル4~第4チャンネル7により水中の少なくとも2つの方向に向けて周波数が異なる音波をそれぞれ発信し、発信された音波の反射波をそれぞれ受信し、受信した反射波から瞬時ドップラ周波数を第1チャンネル4~第4チャンネル7ごとに計算する。
【0037】
船速計1は、船速計算部8の瞬時船速候補計算部(瞬時船速候補計算手段)81により、異なる方向に向けて発信された音波の瞬時ドップラ周波数の組み合わせに基づいて複数の瞬時船速候補を計算する。
【0038】
船速計1は、船速計算部8の瞬時船速候補判定部(瞬時船速候補判定手段)82により、複数の瞬時船速候補をもっともらしさが高い順に正常値であるか否かを判定し、最初に正常値であると判定された瞬時船速候補の値を瞬時船速として採用する(ステップS1)。
【0039】
船速計1は、船速計算部8の船速値計算部(船速値計算手段)83により、瞬時船速候補判定部82によって採用された瞬時船速の値に基づいて船速値を算出する(ステップS3)。
【0040】
また、船速計1は、瞬時船速候補判定部82により、瞬時船速候補に係る加速度が所定範囲内である瞬時船速候補を正常値であると判定する。また、瞬時船速候補判定部82は、採用された瞬時船速の値を所定の期間だけ瞬時船速バッファ(バッファ)31に蓄える(ステップS2)。船速計1は、船速値計算部83により、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速の値を用いて船速値を計算する(ステップS3)。
【0041】
さらに、船速計1は、計算された船速値を所定の個数だけ船速値バッファ(第2のバッファ)32に蓄え(ステップS7)、船速計算部8の基準加速度計算部85は、船速値バッファ32に蓄えられている船速値を用いて前記所定範囲の基準とする加速度を計算する(ステップS8)。すなわち、ステップS8では、前記所定範囲の基準を設定している。また、船速計1は、船速計算部8の更新判定部84により、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速が更新されている場合のみ(ステップS5でYES)、基準加速度計算部85に前記所定範囲の基準とする加速度を計算させる(ステップS7、S8)。
【0042】
制御部2は、船速計1を構成する各部の動作を制御する機能を備え、例えば、船舶の対水速度(対水船速)の計測に纏わる演算処理を行う中央処理装置(CPU:Central Processing Unit の略)などを有する機序として構成される。
【0043】
制御部2は、記憶部3に格納されている、船速計1の動作を制御するためのプログラム(図示省略)を中央処理装置が実行することにより、前記プログラムに従って船速計1を構成する各部の処理の開始、内容、および終了を統制して制御する。
【0044】
記憶部3は、中央処理装置が船舶の対水速度(対水船速)の計測に纏わる演算処理を行う際に生成されるデータや情報などを一時的に記憶などするための作業領域となったり各種の情報、プログラム、およびデータなどを記憶して格納などするための記憶領域となったりする機能を備え、例えば、読み出し可能な記憶装置であるROM(Read Only Memory の略)、読み出しおよび書き込み可能な記憶装置であるRAM(Random Access Memory の略)、ならびにハードディスクのうちの少なくとも1つを有する機序として構成される。
【0045】
船速計1は、上述したように、ペアビーム方式の音響式船速計であり、水中の少なくとも2つの方向に向けて周波数が異なる音波をそれぞれ発信し、発信された音波の反射波をそれぞれ受信する複数のチャンネル、例えば、第1チャンネル4、第2チャンネル5、第3チャンネル6および第4チャンネル7を備える。第1チャンネル4~第4チャンネル7は、それぞれ反射波から瞬時ドップラ周波数を計算する(ステップS1a、S1b、S1cおよびS1d)。
【0046】
第1チャンネル4は、第1センサ41および第1計測部42を備える。第1センサ41は、例えば、船体の船底部もしくは船底の近傍に設置され、船首方向の水中へ向けて一定の時間間隔で第1周波数f1[Hz]のパルス状の音波を発信(別言すると、発射、送信)するとともに、音波が発信されてから次の音波が発信されるまでの間、水中の浮遊物(具体的には、プランクトンなど)によって反射した音波の反射波を連続的に受信(別言すると、検出)する機能を備える。第1センサ41は、すなわち、パルス状の音波の発信と、音波の反射波の受信とを交互に繰り返して行う。ただし、第1センサ41の計測の仕法は前記の方式に限定されるものではなく、例えば、連続した信号を送信するとともに前記信号の反射信号を受信するようにしてもよい。
【0047】
第1センサ41は、そのうえで、受信した反射波の受信レベルに応じた受信信号を出力する。第1センサ41は、例えばトランスデューサによって構成されるようにしてもよい。
【0048】
第1センサ41が音波を発信する一定の時間間隔のことを「計測時間間隔」と呼び、その値をΔtと表記する。計測時間間隔Δt[秒]は、特定の時間長さには限定されないものの、例えば、20~80ミリ秒程度の範囲のうちのいずれかの時間長さに設定されることが考えられる。
【0049】
すなわち、第1センサ41は、計測時間間隔Δtごとに受信信号を出力する。なお、第1センサ41は、必要に応じて他の情報/データを出力するようにしてもよい。
【0050】
第1計測部42は、第1センサ41の動作を制御して第1センサ41によって計測を行い、第1センサ41から出力される計測の結果を取得する機能を備える。第1計測部42は、具体的には、計測時間間隔Δtごとに受信信号を取得する。
【0051】
第1計測部42は、第1センサ41から受信信号を取得すると、その受信信号の波形から信号レベルが高い周波数(「反射波周波数」と呼ぶ)のデータを検出する。また、第1計測部42は、検出した反射波周波数[Hz]のデータに、第1計測部42が備える時計機能(図示省略)によって特定される所定時点からの経過時間tick[秒]を対応づける。
【0052】
そして、第1計測部42は、計測時間間隔Δtごとの経過時間tick[秒]および反射波周波数[Hz]の組み合わせデータを出力する。
【0053】
なお、経過時間tick[秒]の基準となる上記所定時点は、特定の時点に限定されるものではなく、例えば、当該の船速計1が起動した時点とすることが考えられる。
【0054】
また、第1計測部42は、第1センサ41から発信される音波の既知の周波数(「発信周波数」と呼ぶ)f1と、経過時間tick[秒]および反射波周波数[Hz]の組み合わせデータとの差に基づいて、瞬時ドップラ周波数[Hz]を計算する(ステップS1a)。
【0055】
ここで、第1チャンネル4において、経過時間tick[秒]が対応づけられている組み合わせデータが用いられて計算された瞬時ドップラ周波数[Hz]の値、すなわち第1チャンネル4の経過時間tick[秒]における瞬時ドップラ周波数[Hz]の値を、「C1_Δf1_tick」と表記する。
【0056】
第2チャンネル5は、第2センサ51および第2計測部52を備える。第2センサ51および第2計測部52は、第1センサ41および第1計測部42と同様のものであるため、詳しい説明は省略するが、第2センサ51は、第1センサ41と同一方向、すなわち、船首方向の水中へ向けて、第1センサ41とは異なる第2周波数f2[Hz]のパルス状の音波を発信して反射波を受信する点で異なる。
【0057】
なお、第1周波数f1[Hz]と、第2周波数f2[Hz]との関係は、第1周波数f1[Hz]>第2周波数f2[Hz]となっている。すなわち、第1周波数f1[Hz]は周波数が高い分だけ船速計測の分解能が高くなるため、第2周波数f2[Hz]を用いて船速計測を行なう場合よりも精度が高くなる。
【0058】
すなわち、第1チャンネル4は、船首方向に発信された第1周波数f1[Hz]の瞬時ドップラ周波数[Hz]を計算するのに対し、第2チャンネル5は、同じく船首方向に発信された第2周波数f2[Hz]の瞬時ドップラ周波数[Hz]を計算する(ステップS1b)。なお、第2チャンネル5において、経過時間tick[秒]が対応づけられている組み合わせデータが用いられて計算された瞬時ドップラ周波数[Hz]の値、すなわち第2チャンネル5の経過時間tick[秒]における瞬時ドップラ周波数[Hz]の値を、「C2_Δf2_tick」と表記する。
【0059】
第3チャンネル6は、第3センサ61および第3計測部62を備える。第3センサ61および第3計測部62は、第1センサ41および第1計測部42と同様のものであるため、詳しい説明は省略するが、第3センサ61は、第1センサ41と異なる方向、すなわち、船尾方向の水中へ向けて、第1センサ41と同じ第1周波数f1[Hz]のパルス状の音波を発信して反射波を受信する点で異なる。
【0060】
すなわち、第1チャンネル4は、船首方向に発信された第1周波数f1[Hz]の瞬時ドップラ周波数[Hz]を計算するのに対し、第3チャンネル6は、船尾方向に発信された第1周波数f1[Hz]の瞬時ドップラ周波数[Hz]を計算する(ステップS1c)。なお、第3チャンネル6において、経過時間tick[秒]が対応づけられている組み合わせデータが用いられて計算された瞬時ドップラ周波数[Hz]の値、すなわち第3チャンネル6の経過時間tick[秒]における瞬時ドップラ周波数[Hz]の値を、「C3_Δf1_tick」と表記する。
【0061】
第4チャンネル7は、第4センサ71および第4計測部72を備える。第4センサ71および第4計測部72は、第1センサ41および第1計測部42と同様のものであるため、詳しい説明は省略するが、第4センサ71は、第1センサ41と異なる方向、すなわち、船尾方向の水中へ向けて、第2センサ51と同じ第2周波数f2[Hz]のパルス状の音波を発信して反射波を受信する点で異なる。
【0062】
すなわち、第1チャンネル4は、船首方向に発信された第1周波数f1[Hz]の瞬時ドップラ周波数[Hz]を計算するのに対し、第4チャンネル7は、船尾方向に発信された第2周波数f2[Hz]の瞬時ドップラ周波数[Hz]を計算する(ステップS1d)。なお、第4チャンネル7において、経過時間tick[秒]が対応づけられている組み合わせデータが用いられて計算された瞬時ドップラ周波数[Hz]の値、すなわち第4チャンネル7の経過時間tick[秒]における瞬時ドップラ周波数[Hz]の値を、「C4_Δf2_tick」と表記する。
【0063】
船速計算部8は、第1チャンネル4~第4チャンネル7によって取得されるデータを用いて対水船速を計算する機能を備え、瞬時船速候補計算部81、瞬時船速候補判定部82、船速値計算部83、更新判定部84、および基準加速度計算部85を有する。
【0064】
瞬時船速候補計算部81は、第1チャンネル4~第4チャンネル7によって取得されるデータを用いて船舶の瞬時の対水速度(「瞬時船速」と呼ぶ)の候補値(瞬時船速候補[kn])を複数個、計算する(ステップS1)。
【0065】
瞬時船速候補計算部81は、異なる方向に向けて発信された同一周波数の音波の瞬時ドップラ周波数同士を組み合わせた複数組のペア瞬時ドップラ周波数のそれぞれに基づいて、経過時間tickごとに複数の瞬時船速候補を計算する。
【0066】
具体的には、瞬時船速候補計算部81は、図4に示すように、船首方向の第1チャンネル4の瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_tick)とに基づいて瞬時船速候補(以下、第1瞬時船速候補と呼ぶ)を計算する(ステップS1e)。
【0067】
具体的には、下記数式(2)に基づいて、船首方向の第1チャンネル4の瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_tick)から瞬時船速vi1を計算し、同様に、下記数式(2)に基づいて、船尾方向の第3チャンネル6の瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_tick)から瞬時船速vi2を計算する。そして、計算した船首方向の瞬時船速vi1と、船尾方向の瞬時船速vi2との平均「(vi1+vi2)/2」を求めるビームキャンセルを実行し、この平均値を第1瞬時船速候補とする。これにより、船舶の前後方向の動揺による影響を排除した正確な瞬時船速を求めることができる。なお、下記数式(2)において、fは発信した音波の周波数、θは音波の発信方向の俯角、Cは水中の音速、Δfは反射波のドップラ周波数(発信周波数と反射波周波数の差:C1_Δf1_tick,C3_Δf1_tick)である。
(数2) vi(vi1,vi2)=C・Δf/(2f・cosθ)
【0068】
なお、経過時間tick[秒]が対応づけられた瞬時ドップラ周波数を用いて計算される第1瞬時船速候補の値、すなわち経過時間tick[秒]における第1瞬時船速候補の値を「v1_tick」と表記する。
【0069】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様の手法により、船首方向の第2チャンネル5の瞬時ドップラ周波数(C2_Δf2_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の瞬時ドップラ周波数(C4_Δf2_tick)とに基づいて瞬時船速候補(以下、第2瞬時船速候補と呼ぶ)を計算する(ステップS1i)。この第2瞬時船速候補の値を「v2_tick」と表記する。
【0070】
瞬時船速候補計算部81は、計算した第1瞬時船速候補(v1_tick)および第2瞬時船速候補(v2_tick)を瞬時船速候補判定部82へ出力する。なお、第1チャンネル4~第4チャンネル7のいずれかにおいて瞬時ドップラ周波数が取得できなかったなどの理由により、瞬時船速候補計算部81で第1瞬時船速候補(v1_tick)または第2瞬時船速候補(v2_tick)が計算できない場合がある。この場合には、計算できなかった瞬時船速候補は瞬時船速候補判定部82に出力されない。例えば、第2チャンネル5から瞬時ドップラ周波数(C2_Δf2_tick)が取得できなかった場合、第2瞬時船速候補(v2_tick)は計算できないため出力されない。
【0071】
なお、瞬時ドップラ周波数が取得できなかった場合に、その取得できなった瞬時ドップラ周波数に基づいて計算される瞬時船速候補は出力されない、と説明したが、ビームキャンセルの手法を変更して瞬時船速候補を計算・出力するようにしてもよい。具体的には、上記のように第1瞬時船速候補(v1_tick)を計算するために、瞬時船速vi1と瞬時船速vi2との平均「(vi1+vi2)/2」を求めてビームキャンセルを行なう際に、例えば、瞬時船速vi2が計算できなかった場合には、平均化計算の母数を「1」として「vi1/1」を計算し、その計算結果を第1瞬時船速候補(v1_tick)として出力するようにしてもよい。
【0072】
瞬時船速候補判定部82は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と、第2瞬時船速候補(v2_tick)とが計算可能であった場合(ステップS1f、S1jでYES)に、第1瞬時船速候補(v1_tick)と、第2瞬時船速候補(v2_tick)とが正常値であるか否かを判定する(ステップS1g、S1k)。
【0073】
ここで、後述するステップS3の処理において船速値V[kn]が計算される時間間隔であるとともに後述するステップS8の処理において基準加速度ar[kn/秒]が計算される時間間隔のことを「計算時間間隔」と呼び、その値をIと表記する。そして、以下の説明では、或る経過時間Tから計算時間間隔Iだけ経過した経過時間「T+I」における船速値V_T+Iが計算される場合を例に挙げて説明する。
【0074】
計算時間間隔Iは、特定の時間長さに限定されるものではなく、例えば船速計1の方式ならびに船種や対水船速に関係する様々な条件などが考慮されたシミュレーションによって得られる結果が考慮されるなどしたうえで適当な時間長さに適宜設定される。
【0075】
計算時間間隔Iは、例えば、0.5~5秒程度の範囲のうちのいずれかの時間長さに設定されることが考えられる。
【0076】
瞬時船速候補判定部82は、具体的には、船速値計算部83から出力される経過時間Tにおける船速値V_Tおよび基準加速度計算部85から出力される経過時間Tについての基準加速度ar_T(なお、船速値Vおよび基準加速度arの計算については後述する)の入力を受けるとともに、瞬時船速候補計算部81から出力される経過時間「T+Δt」から「T+I」までの第1瞬時船速候補(v1_tick)および第2瞬時船速候補(v2_tick)の入力を受け、船速値V_Tおよび基準加速度ar_Tに基づいて、第1瞬時船速候補(v1_tick)および第2瞬時船速候補(v2_tick)の値が正常値であるか否かを判定する(ステップS1g、S1k)。
【0077】
以下では、第1瞬時船速候補(v1_tick)の正常値判定について説明し、第2瞬時船速候補(v2_tick)の正常値判定については、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0078】
第1瞬時船速候補(v1_tick)について、瞬時船速候補判定部82へと入力される経過時間「T+Δt」から「T+I」までについての、経過時間「T+Δt×n」における第1瞬時船速候補の具体的な値を「v1_T+nΔt」と表記する。ただし、n=1,2,3,・・・,kであり、この実施の形態では、Δt×k=Iである。
【0079】
ステップS1gの処理に関し、基準加速度ar[kn/秒]からの加速度の変化の上限に関する閾値(「加速度上限閾値aut」と呼ぶ)および基準加速度arからの加速度の変化の下限に関する閾値(「加速度下限閾値alt」と呼ぶ)が予め設定される。
【0080】
加速度上限閾値aut[kn/秒]や加速度下限閾値alt[kn/秒]は、特定の値に限定されるものではなく、例えば船の種類や性能・仕様などに基づいて通常想定される(別言すると、通常あり得る)加速度の変化の幅が考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。なお、加速度上限閾値autと加速度下限閾値altとは、絶対値が同じであるように設定されるようにしてもよく、或いは、絶対値が相互に異なるように設定されるようにしてもよい。
【0081】
そのうえで、瞬時船速候補判定部82は、経過時間「T+Δt×n」における第1瞬時船速候補の値v1_T+nΔtのそれぞれについて、船速が経過時間Tにおける船速値V_Tから経過時間「T+Δt×n」における瞬時船速の値v1_T+nΔtへと変化する際の加速度(即ち、(|v1_T+nΔt-V_T|)/(Δt×n);「瞬時船速に係る加速度」と呼ぶ)が、基準加速度からの加速度の変化の下限「ar_T-alt」から基準加速度からの加速度の変化の上限「ar_T+aut」までの範囲に入っているか否かを判断する(図5参照)。
【0082】
瞬時船速候補判定部82は、すなわち、下記の数式(3)が成り立つか否かを判断する。
(数3) ar_T-alt≦(|v1_T+nΔt-V_T|)/(Δt×n)≦ar_T+aut
【0083】
上記の数式3は下記の数式4のように変形されて用いられてもよい。
(数4)
V_T+(ar_T-alt)×(Δt×n)≦v1_T+nΔt≦V_T+(ar_T+aut)×(Δt×n)
【0084】
そして、上記の数式3(または、数式4)が成り立つ場合は(ステップS1gでYES)、瞬時船速候補判定部82は、第1瞬時船速候補の値v1_T+nΔtは正常値(言い換えると、許容値)であるとして、第1瞬時船速候補に正常値フラグを付与する(立てる)(ステップS1h)。
【0085】
一方、上記の数式3(または、数式4)が成り立たない場合は(ステップS1gでNO)、瞬時船速候補判定部82は、第1瞬時船速候補の値v1_T+nΔtは正常値ではない(干渉周波数である)として第1瞬時船速候補に正常値フラグを付与しない(立てない)。
【0086】
瞬時船速候補判定部82は、以上で説明した第1瞬時船速候補の正常値判定と同様の判定を、第2瞬時船速候補に対しても行う(ステップS1k)。そして、正常値であると判定された場合(ステップS1kでYES)は、正常値フラグを付与し(ステップS1l)、正常値ではないと判定された場合(ステップS1kでNO)は、正常値フラグを付与しない。
【0087】
上記のように計算された第1瞬時船速候補(v1_tick)および第2瞬時船速候補(v2_tick)は、瞬時船速候補の基となった音波の周波数が高いほど、瞬時船速候補のもっともらしさが高いと判定される。これは、上述したように、発信される音波の周波数が高いほど船速計測の分解能が高くなり、船速計測の精度が高くなるためである。すなわち、本実施の形態では、第1周波数f1[Hz]に基づく第1瞬時船速候補(v1_tick)は、第2周波数f2[Hz]に基づく第2瞬時船速候補(v2_tick)よりも、もっともらしさが高いと判定される。
【0088】
次に、瞬時船速候補判定部82は、もっともらしさが高い順、すなわち、第1瞬時船速候補(v1_tick)、第2瞬時船速候補(v2_tick)の順に、正常値フラグが付与されているか否かを確認(判定)する(ステップS1m)。そして、正常値フラグが付与されている瞬時船速候補が確認できた場合には(ステップS1nでYES)、その瞬時船速候補を正規の瞬時船速として採用する(ステップS1o)。ここで、経過時間tick[秒]における正規の瞬時船速の値を「v_tick」と表記する。
【0089】
例えば、第1瞬時船速候補(v1_tick)に正常値フラグが付与されている場合には、第1瞬時船速候補(v1_tick)が正規の瞬時船速(v_tick)として採用される。また、第1瞬時船速候補(v1_tick)に正常値フラグが付与されておらず、第2瞬時船速候補(v2_tick)に正常値フラグが付与されている場合には、第2瞬時船速候補(v2_tick)が正規の瞬時船速(v_tick)として採用される。確認される瞬時船速候補が1つしかない場合には、その瞬時船速候補が正規の瞬時船速(v_tick)として採用される。
【0090】
また、瞬時船速候補判定部82は、ステップS1pにてもっともらしさの順位が最下位の瞬時船速候補から正常値フラグが確認されなかった場合には(ステップS1pでYES)、正規の瞬時船速を採用せずに、ステップS1a、S1b、S1cおよびS1dへ戻る。
【0091】
なお、上記では、瞬時船速候補の基となった音波の周波数が高いほど、瞬時船速候補のもっともらしさの順位が高くなるように説明したが、瞬時船速候補の基となった音波の周波数が低いほど、瞬時船速候補のもっともらしさの順位が高くなるようにしてもよい。これは、音波の周波数が低いほどノイズ耐性が高くなり、船速計測の精度が高くなるためである。
【0092】
瞬時船速候補判定部82は、正規の瞬時船速(v_tick)を瞬時船速バッファ31の先頭に(言い換えると、時系列で最も新しいデータとして)追加して格納する(ステップS2)。
【0093】
瞬時船速バッファ31は、記憶部3内に構成され、瞬時船速の値v_tickを時系列(具体的には、降順)で記憶して蓄えておく機能を備える。瞬時船速バッファ31には、先頭に格納されている(言い換えると、時系列で最も新しい)瞬時船速の値v_tickに対応づけられている経過時間tickから所定の期間(言い換えると、所定の時間長さぶん)の経過時間と瞬時船速の値vとの組み合わせデータのみが蓄えられ、前記所定の期間よりも前の(言い換えると、時系列で古い)組み合わせデータは廃棄される。
【0094】
船速値計算部83は、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速の値を用いて船速値を計算する(ステップS3)。
【0095】
船速値計算部83は、計算時間間隔Iごとに、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速の値vを読み込み、前記瞬時船速の値vの平均値を計算して船速値V[kn]として出力する。船速値計算部83は、例えば経過時間「T+I」の時点において瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速の値vを用いて平均値を計算して経過時間「T+I」における船速値V_T+Iとする。なお、船速値計算部83は、瞬時船速の値vの平均値として、例えば、単純平均の値を計算するようにしてもよく、或いは、時系列で新しい瞬時船速の値vほど大きく寄与するように経過時間の進みを表す値nで重みづけした加重平均の値を計算するようにしてもよい。
【0096】
ここで、前述のとおり瞬時船速バッファ31には先頭に格納されている(言い換えると、時系列で最も新しい)瞬時船速の値v_tickに対応づけられている経過時間tickから所定の期間の経過時間(この実施の形態では、Δt×n)と瞬時船速の値vとの組み合わせデータのみが蓄えられるところ、前記所定の期間は、すなわち、船速値Vを計算する際の瞬時船速の値vの平均をとる時間幅(別言すると、平均化時間)となる。
【0097】
船速値Vを計算する際の瞬時船速の値vの平均をとる時間幅(また、瞬時船速バッファ31に蓄えられる瞬時船速の値vの時間幅)は、特定の時間長さに限定されるものではなく、例えば船速計1の方式ならびに船種や対水船速に関係する様々な条件などが考慮されたシミュレーションによって得られる結果が考慮されるなどしたうえで適当な時間長さに適宜設定される。
【0098】
船速値Vを計算する際の瞬時船速の値vの平均をとる時間幅は、例えば、1~60秒程度の範囲のうちのいずれかの時間長さに設定されることが考えられる。
【0099】
船速値計算部83は、計算時間間隔Iごとに計算した船速値Vのデータを、インターフェース部9を介して出力する(ステップS4)。
【0100】
インターフェース部9は、船速計算部8に対する入出力のインターフェースを提供する機能を備え、例えば、船速値計算部83によって計算される船速値Vのデータの入力を受け、前記船速値Vを表示部10に表示して出力する。
【0101】
表示部10は、インターフェース部9から出力される船速値Vを含む各種の情報を表示する機能を備え、例えば、液晶ディスプレイを備える機序として構成される。
【0102】
更新判定部84は、前回の処理において船速値Vが計算された後に、瞬時船速バッファ31が更新されたか否かを判定する(ステップS5)。
【0103】
更新判定部84は、例えば、経過時間「T+I」における船速値V_T+Iが計算されたとき、経過時間「T+I」の時点における瞬時船速バッファ31の先頭に格納されている(言い換えると、時系列で最も新しい)経過時間tickと瞬時船速の値v_tickとの組み合わせデータが、経過時間Tの時点における瞬時船速バッファ31の先頭に格納されている(言い換えると、時系列で最も新しい)経過時間tickと瞬時船速の値v_tickとの組み合わせデータと、同じである場合に瞬時船速バッファ31は更新されていないと判断し、異なる場合に瞬時船速バッファ31が更新されていると判断する。
【0104】
そして、瞬時船速バッファ31が更新されていない場合は(ステップS5でNO)、更新判定部84は、今回の処理において計算された船速値(ここではすなわち、経過時間「T+I」における船速値V_T+I)を以降の処理の対象から排除する(ステップS6)。そして、制御部2は、船舶の対水速度(対水船速)の計測の処理手順をステップS1の処理へと移行させる。
【0105】
一方、瞬時船速バッファ31が更新されている場合は(ステップS5でYES)、更新判定部84は、今回の処理において計算された船速値(ここでは即ち、経過時間「T+I」における船速値V_T+I)を以降の処理において採用する値とし、経過時間「T+I」と船速値V_T+Iとの組み合わせデータを船速値バッファ32の先頭に(言い換えると、時系列で最も新しいデータとして)追加して格納する(ステップS7)。
【0106】
船速値バッファ32(なお、瞬時船速バッファ31とは異なるバッファである点において第2のバッファである)は、記憶部3内に構成され、経過時間と船速値Vとの組み合わせデータを時系列(具体的には、降順)で記憶して蓄えておく機能を備える。
【0107】
船速値バッファ32には、所定の個数の経過時間と船速値Vとの組み合わせデータのみが蓄えられ、前記所定の個数を超える場合には時系列で古い組み合わせデータが廃棄される。
【0108】
基準加速度計算部85は、船速値バッファ32に蓄えられている船速値を用いて基準加速度arを計算する(ステップS8)。
【0109】
基準加速度計算部85は、計算時間間隔Iごとに、船速値バッファ32に蓄えられている経過時間と船速値Vとの組み合わせデータを読み込み、前記経過時間の幅(別言すると、時間長さ)と前記船速値Vの変化の幅とに基づいて加速度を計算して基準加速度ar[kn/秒]として瞬時船速候補判定部82に対して出力する。
【0110】
基準加速度計算部85は、例えば経過時間「T+I」における船速値V_T+Iが計算された後に、その時点において船速値バッファ32に蓄えられている経過時間と船速値Vとの組み合わせデータを用いて加速度を計算して経過時間「T+I」についての基準加速度ar_T+Iとする。
【0111】
図5に示す例では、経過時間「T-I」における船速値V_T-Iと経過時間Tにおける船速値V_Tとが用いられて経過時間Tについての基準加速度ar_T(=(V_T-V_T-I)/I)が計算され、前記経過時間Tについての基準加速度ar_Tが用いられて、経過時間「T+Δt」から「T+I」までについての、経過時間「T+Δt×n」における第1瞬時船速候補の値v1_T+nΔtが正常値であるか否かの判定が行われたうえで、経過時間「T+I」における船速値V_T+Iが計算される。
【0112】
ここで、前述のとおり船速値バッファ32には所定の個数の経過時間と船速値Vとの組み合わせデータのみが蓄えられるところ、前記所定の個数は、特定の値に限定されるものではなく、基準加速度として妥当な値が計算され得ることが考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。
【0113】
船速値バッファ32に蓄えられる経過時間と船速値Vとの組み合わせデータの個数は、例えば、2~4個程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0114】
そして、制御部2は、船舶の対水速度(対水船速)の計測の処理手順をステップS1の処理へと移行させる。
【0115】
また、制御部2は、インターフェース部9を介したユーザからの指示を受けたり予め定められる終了事由(例えば、船の停止など)が生じたりするまで、ステップS1からステップS8までの処理を繰り返し、船速値Vの計測および出力の処理を継続する。
【0116】
実施の形態1に係る船速計1および船速計測方法によれば、第1周波数f1[Hz]と、第2周波数f2[Hz]のように、周波数が異なる少なくとも2種類の音波を発信し、受信した反射波から計算した瞬時ドップラ周波数「C1_Δf1_tick」、「C2_Δf2_tick」、「C3_Δf1_tick」および「C4_Δf2_tick」に基づいて複数の第1瞬時船速候補(v1_tick)、第2瞬時船速候補(v2_tick)を計算するので、例えば、音波の減衰量や干渉波周波数との差に違いが生じるので干渉波周波数の影響を受けにくくなり、的確な船速値を求めることが可能となる。また、複数の第1瞬時船速候補(v1_tick)、第2瞬時船速候補(v2_tick)のなかから、最ももっともらしく、かつ、正常値であると判定された瞬時船速候補を正規の瞬時船速として採用し、採用された瞬時船速(v_tick)に基づいて船速値を計算する。したがって、ペアビーム方式の船速計において船速値を計算する際に、干渉波周波数に基づく瞬時船速候補を排除することができ、精度の高い船速を求めることが可能となる。
【0117】
また、実施の形態1に係る船速計1および船速計測方法によれば、同一周波数の音波の瞬時ドップラ周波数同士(例えば、瞬時ドップラ周波数「C1_Δf1_tick」および瞬時ドップラ周波数「C3_Δf1_tick」と、瞬時ドップラ周波数「C2_Δf2_tick」および瞬時ドップラ周波数「C4_Δf2_tick」)を組み合わせて複数の第1瞬時船速候補(v1_tick)、第2瞬時船速候補(v2_tick)を計算するので、ペアビーム方式の船速計において船速値を計算する際に、干渉波周波数に基づく瞬時船速候補を排除することができ、精度の高い船速を求めることが可能となる。
【0118】
さらに、実施の形態1に係る船速計1および船速計測方法によれば、加速度を判定基準として用いるようにしているので、船速の傾向を判定基準とすることができ、一層自然な船速値Vの計算を行うことが可能となる。
【0119】
また、実施の形態1に係る船速計1および船速計測方法によれば、瞬時船速バッファ31に蓄えられている所定期間の瞬時船速の値(v_tick)を用いて船速値Vを計算するので、船舶の揺動などによって瞬時船速(v_tick)に一時的な変化が生じても精度の高い船速値Vを求めることが可能となる。
【0120】
さらに、実施の形態1に係る船速計1および船速計測方法によれば、正常な(言い換えると、許容範囲にある)瞬時船速の値(v_tick)が用いられて計算される船速値Vに基づいて正常値判定の基準とする基準加速度arが計算されるので、船舶の揺動などによって瞬時船速に一時的な変化が生じても精度の高い船速値Vを求めることが可能となる。
【0121】
また、実施の形態1に係る船速計1および船速計測方法によれば、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速(v_tick)が更新されている場合のみ、所定範囲の基準とする基準加速度arを計算するので、船舶の航行状況に応じて的確で、かつ、安定した船速値の計算を行なうことが可能である。
【0122】
さらに、実施の形態1に係る船速計1および船速計測方法によれば、第1瞬時船速候補(v1_tick)、第2瞬時船速候補(v2_tick)の基となった音波の周波数である第1周波数f1[Hz]と第2周波数f2[Hz]について、周波数に基づいて瞬時船速候補のもっともらしさを判定するようにしたので、複数の第1瞬時船速候補(v1_tick)、第2瞬時船速候補(v2_tick)のなかから、最ももっともらしく、かつ、正常値であると判定された瞬時船速候補を正規の瞬時船速として採用することができ、精度の高い船速値を求めることが可能となる。
【0123】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る船速計および船速計測方法について説明する。なお、本実施の形態2は、1つの反射波から複数の瞬時ドップラ周波数を求めて瞬時船速候補を計算する点で実施の形態1と異なり、それ以外は実施の形態1と同様の構成を用いるため、同じ構成についての詳しい説明は省略する。
【0124】
本実施の形態2では、第1チャンネル4の第1計測部42、第2チャンネル5の第2計測部52、第3チャンネル6の第3計測部62および第4チャンネル7の第4計測部72のそれぞれにおいて、1つの反射波から複数(例えば2つ)の瞬時ドップラ周波数[Hz]を計算する。
【0125】
具体的には、第1チャンネル4の第1計測部42は、第1センサ41から受信信号を取得すると、その受信信号の波形から信号レベルが高い反射波周波数のデータを複数、例えば、2つ検出する。また、第1計測部42は、検出した2つの反射波周波数[Hz]のデータに、第1計測部42が備える時計機能(図示省略)によって特定される所定時点からの経過時間tick[秒]を対応づけて、経過時間tick[秒]および反射波周波数[Hz]の組み合わせデータを2つ形成する。そして、第1計測部42は、2つの組み合わせデータごとに第1センサ41から発信される音波の既知の発信周波数(第1周波数f1)との差を求め、2つの瞬時ドップラ周波数[Hz]を計算する。
【0126】
第1計測部42は、2つの瞬時ドップラ周波数[Hz]の値のもっともらしさを判定し、2つの瞬時ドップラ周波数[Hz]をもっともらしさが高い順に順位付けする。ここで、2つの瞬時ドップラ周波数[Hz]のうち、もっともらしさが高い瞬時ドップラ周波数[Hz]を第1瞬時ドップラ周波数[Hz]と呼び、次にもっともらしさが高い瞬時ドップラ周波数[Hz]を第2瞬時ドップラ周波数[Hz]と呼ぶ。すなわち、もっともらしさの順位は、第1瞬時ドップラ周波数[Hz]>第2瞬時ドップラ周波数[Hz]である。
【0127】
2つの瞬時ドップラ周波数[Hz]のもっともらしさの判定は、例えば、瞬時ドップラ周波数[Hz]の信号レベルが高いほどもっともらしいと判定する。なお、瞬時ドップラ周波数[Hz]のもっともらしさの判定には、他の指標、例えば、ノイズとの直交性などを用いてもよい。
【0128】
ここで、第1チャンネル4において、経過時間tick[秒]が対応づけられている組み合わせデータが用いられて計算され、順位付けされた第1瞬時ドップラ周波数[Hz]および第2瞬時ドップラ周波数[Hz]の値、すなわち第1チャンネル4の経過時間tick[秒]における第1瞬時ドップラ周波数[Hz]および第2瞬時ドップラ周波数[Hz]の値を、「C1_Δf1_1_tick」および「C1_Δf1_2_tick」と表記する。
【0129】
第2チャンネル5の第2計測部52、第3チャンネル6の第3計測部62および第4チャンネル7の第4計測部72についても、第1チャンネル4の第1計測部42と同様に、1つの反射波から第1瞬時ドップラ周波数[Hz]および第2瞬時ドップラ周波数[Hz]を計算する。
【0130】
ここで、第2チャンネル5の経過時間tick[秒]における第1瞬時ドップラ周波数[Hz]および第2瞬時ドップラ周波数[Hz]の値を、「C2_Δf1_1_tick」および「C2_Δf1_2_tick」と表記する。また、第3チャンネル6の経過時間tick[秒]における第1瞬時ドップラ周波数[Hz]および第2瞬時ドップラ周波数[Hz]の値を、「C3_Δf2_1_tick」および「C3_Δf2_2_tick」と表記する。さらに、第4チャンネル7の経過時間tick[秒]における第1瞬時ドップラ周波数[Hz]および第2瞬時ドップラ周波数[Hz]の値を、「C4_Δf2_1_tick」および「C4_Δf2_2_tick」と表記する。
【0131】
船速計算部8の瞬時船速候補計算部81は、異なる方向に向けて発信された同一周波数の音波の瞬時ドップラ周波数同士を組み合わせた複数組のペア瞬時ドップラ周波数のそれぞれに基づいて、経過時間tickごとに複数の瞬時船速候補を計算する。
【0132】
具体的には、瞬時船速候補計算部81は、図6に示すように、船首方向の第1チャンネル4の第1瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_1_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の第1瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_1_tick)とに基づいて瞬時船速候補(以下、第1周波数の第1瞬時船速候補と呼ぶ)を計算する。
【0133】
具体的には、下記数式(5)に基づいて、船首方向の第1チャンネル4の第1瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_1_tick)から瞬時船速vi1を計算し、同様に、下記数式(5)に基づいて、船尾方向の第3チャンネル6の第1瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_1_tick)から瞬時船速vi2を計算する。そして、計算した船首方向の瞬時船速vi1と、船尾方向の瞬時船速vi2との平均「(vi1+vi2)/2」を求めるビームキャンセルを実行し、この平均値を第1周波数の第1瞬時船速候補とする。これにより、船舶の前後方向の動揺による影響を排除した正確な瞬時船速を求めることができる。なお、下記数式(5)は上記数式(2)と同一であり、fは発信した音波の周波数、θは音波の発信方向の俯角、Cは水中の音速、Δfは反射波のドップラ周波数(発信周波数と反射波周波数の差:C1_Δf1_1_tick,C3_Δf1_1_tick)である。
(数2) vi(vi1,vi2)=C・Δf/(2f・cosθ)
【0134】
なお、第1チャンネル4の第1瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_1_tick)と、第3チャンネル6の第1瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_1_tick)との組み合わせから計算される第1周波数の第1瞬時船速候補の値を「v1_f1_tick」と表記する。
【0135】
瞬時船速候補計算部81は、第1周波数の第1瞬時船速候補(v1_f1_tick)と同様の手法により、船首方向の第1チャンネル4の第1瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_1_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の第2瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_2_tick)とに基づいて瞬時船速候補(以下、第1周波数の第2瞬時船速候補と呼ぶ)を計算する。この第1周波数の第2瞬時船速候補の値を「v2_f1_tick」と表記する。
【0136】
瞬時船速候補計算部81は、第1周波数の第1瞬時船速候補(v1_f1_tick)と同様の手法により、船首方向の第1チャンネル4の第2瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_2_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の第1瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_1_tick)とに基づいて瞬時船速候補(以下、第1周波数の第3瞬時船速候補と呼ぶ)を計算する。この第1周波数の第3瞬時船速候補の値を「v3_f1_tick」と表記する。
【0137】
瞬時船速候補計算部81は、第1周波数の第1瞬時船速候補(v1_f1_tick)と同様の手法により、船首方向の第1チャンネル4の第2瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_2_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の第2瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_2_tick)とに基づいて瞬時船速候補(以下、第1周波数の第4瞬時船速候補と呼ぶ)を計算する。この第1周波数の第4瞬時船速候補の値を「v4_f1_tick」と表記する。
【0138】
また、瞬時船速候補計算部81は、第1周波数の第1瞬時船速候補(v1_f1_tick)と同様の手法により、船首方向の第2チャンネル5の第1瞬時ドップラ周波数(C2_Δf2_1_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の第1瞬時ドップラ周波数(C4_Δf2_1_tick)とに基づいて瞬時船速候補(以下、第2周波数の第1瞬時船速候補と呼ぶ)を計算する。この第2周波数の第1瞬時船速候補の値を「v1_f2_tick」と表記する。
【0139】
瞬時船速候補計算部81は、第1周波数の第1瞬時船速候補(v1_f1_tick)と同様の手法により、船首方向の第2チャンネル5の第1瞬時ドップラ周波数(C2_Δf2_1_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の第2瞬時ドップラ周波数(C4_Δf2_2_tick)とに基づいて瞬時船速候補(以下、第2周波数の第2瞬時船速候補と呼ぶ)を計算する。この第2周波数の第2瞬時船速候補の値を「v2_f2_tick」と表記する。
【0140】
瞬時船速候補計算部81は、第1周波数の第1瞬時船速候補(v1_f1_tick)と同様の手法により、船首方向の第2チャンネル5の第2瞬時ドップラ周波数(C2_Δf2_2_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の第1瞬時ドップラ周波数(C4_Δf2_1_tick)とに基づいて瞬時船速候補(以下、第2周波数の第3瞬時船速候補と呼ぶ)を計算する。この第2周波数の第3瞬時船速候補の値を「v3_f2_tick」と表記する。
【0141】
瞬時船速候補計算部81は、第1周波数の第1瞬時船速候補(v1_f1_tick)と同様の手法により、船首方向の第2チャンネル5の第2瞬時ドップラ周波数(C2_Δf2_2_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の第2瞬時ドップラ周波数(C4_Δf2_2_tick)とに基づいて瞬時船速候補(以下、第2周波数の第4瞬時船速候補と呼ぶ)を計算する。この第2周波数の第4瞬時船速候補の値を「v4_f2_tick」と表記する。
【0142】
瞬時船速候補計算部81は、計算した8個の瞬時船速候補、すなわち、第1周波数の第1瞬時船速候補(v1_f1_tick)、第1周波数の第2瞬時船速候補(v2_f1_tick)、第1周波数の第3瞬時船速候補(v3_f1_tick)、第1周波数の第4瞬時船速候補(v4_f1_tick)、第2周波数の第1瞬時船速候補(v1_f2_tick)、第2周波数の第2瞬時船速候補(v2_f2_tick)、第2周波数の第3瞬時船速候補(v3_f2_tick)および第2周波数の第4瞬時船速候補(v4_f2_tick)を瞬時船速候補判定部82へ出力する。
【0143】
瞬時船速候補判定部82は、瞬時船速候補計算部81から出力された第1周波数の第1瞬時船速候補(v1_f1_tick)、第1周波数の第2瞬時船速候補(v2_f1_tick)、第1周波数の第3瞬時船速候補(v3_f1_tick)、第1周波数の第4瞬時船速候補(v4_f1_tick)、第2周波数の第1瞬時船速候補(v1_f2_tick)、第2周波数の第2瞬時船速候補(v2_f2_tick)、第2周波数の第3瞬時船速候補(v3_f2_tick)および第2周波数の第4瞬時船速候補(v4_f2_tick)について、実施の形態1と同様の手法により、正常値であるか否かを判定し、正常値であると判定された瞬時船速候補に正常値フラグを付与する。
【0144】
また、瞬時船速候補判定部82は、瞬時船速候補計算部81から出力された8個の瞬時船速候補について、もっともらしさの高い順に順位付けを行なう。本実施の形態2では、発信周波数の高さと、瞬時ドップラ周波数のもっともらしさとに基づいて瞬時船速候補のもっともらしさの順位付けを行い、発信周波数の高さに基づく順位付けが瞬時ドップラ周波数の順位よりも優先される。すなわち、第1周波数f1は第2周波数f2よりも高いため、第1周波数f1に基づく瞬時船速候補が上位に順位付けされ、さらに、第1チャンネル4~7のそれぞれにて複数の瞬時ドップラ周波数を計算する際に付与された順位(第1瞬時ドップラ周波数および第2瞬時ドップラ周波数の順位)が加味される。これにより、瞬時船速候補計算部81により計算された8個の瞬時船速候補は、第1周波数の第1瞬時船速候補(v1_f1_tick)、第1周波数の第2瞬時船速候補(v2_f1_tick)、第1周波数の第3瞬時船速候補(v3_f1_tick)、第1周波数の第4瞬時船速候補(v4_f1_tick)、第2周波数の第1瞬時船速候補(v1_f2_tick)、第2周波数の第2瞬時船速候補(v2_f2_tick)、第2周波数の第3瞬時船速候補(v3_f2_tick)および第2周波数の第4瞬時船速候補(v4_f2_tick)の順に順位付けされる。
【0145】
なお、本実施の形態2においても上述した実施の形態1と同様に、瞬時船速候補の基となった音波の周波数(発信周波数)が低いほど、瞬時船速候補のもっともらしさの順位が高くなるようにしてもよい。
【0146】
瞬時船速候補判定部82は、実施の形態1と同様に、もっともらしさの高い順に8個の瞬時船速候補の正常値フラグを確認する。そして、正常値フラグが付与されている瞬時船速候補が確認できた場合には、その瞬時船速候補を正規の瞬時船速(v_tick)として採用する。
【0147】
船速計算部8は、実施の形態1と同様に、船速値計算部83にて瞬時船速(v_tick)から船速値Vを計算する。また、船速計算部8は、更新判定部84により、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速の更新を確認し、更新されている場合のみ、基準加速度計算部85にて前記所定範囲の基準とする加速度を計算させる。
【0148】
実施の形態2に係る船速計1や船速計測方法によれば、実施の形態1と同様の効果が得ることが可能である。また、受信した1つの反射波から複数の瞬時ドップラ周波数をそれぞれ計算し、より多くの瞬時船速候補を計算するので、多くの瞬時船速候補のなかから最ももっともらしく、かつ、正常値であると判定された瞬時船速候補を選択することができるので、より的確な船速値を求めることが可能となる。
【0149】
また、実施の形態2に係る船速計1および船速計測方法によれば、瞬時船速候補の基となった音波の周波数と、瞬時船速候補の基となった瞬時ドップラ周波数を計算する際に各チャンネルで行なわれる瞬時ドップラ周波数のもっともらしさの順位付けとに基づいて、瞬時船速候補のもっともらしさを判定するので、複数の瞬時船速候補のなかから、最ももっともらしく、かつ、正常値であると判定された瞬時船速候補を正規の瞬時船速として採用することができ、精度の高い船速値を求めることが可能となる。
【0150】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3に係る船速計および船速計測方法について説明する。なお、本実施の形態3は、複数のチャンネルにて計算された複数の瞬時ドップラ周波数を船速値に変換し、異なる方向に向けて発信された音波の瞬時ドップラ周波数から変換された船速値同士を組み合わせた複数組のペア船速値を生成し、ペア船速値のそれぞれに基づいて複数の瞬時船速候補を計算する点で実施の形態1と異なり、それ以外は実施の形態1と同様の構成を用いるため、同じ構成についての詳しい説明は省略する。
【0151】
図7は、本実施の形態3に係る船速計1Aの概略構成を示す機能ブロック図である。船速計1Aは、船速計算部8に船速値変換部(船速値変換手段)86を備えている。図8に示すように、船速値変換部86は、第1チャンネル4の瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_tick)、第2チャンネル5の瞬時ドップラ周波数(C2_Δf2_tick)、第3チャンネル6の瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_tick)および第4チャンネル7の瞬時ドップラ周波数(C4_Δf2_tick)のそれぞれを、下記数式(6)に基づいて、船速値[kn]に変換する。なお、下記数式(6)は上記数式(1)と同一であり、音波の発信周波数をf、音波の発信方向の俯角をθ、水中の音速をC、反射波のドップラ周波数をΔf、ドップラ周波数から変換された船速値をvdとする。
(数6) vd=C・Δf/(2f・cosθ)
【0152】
ここで、第1チャンネル4の瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_tick)から変換された船速値を「C1_vd_tick」と表記する。また、第2チャンネル5の瞬時ドップラ周波数(C2_Δf2_tick)から変換された船速値を「C2_vd_tick」と表記する。第3チャンネル6の瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_tick)から変換された船速値を「C3_vd_tick」と表記する。さらに、第4チャンネル7の瞬時ドップラ周波数(C4_Δf2_tick)から変換された船速値を「C4_vd_tick」と表記する。
【0153】
船速値変換部86は、ドップラ周波数から変換した第1チャンネル4の船速値(C1_vd_tick)、第2チャンネル5の船速値(C2_vd_tick)、第3チャンネル6の船速値(C3_vd_tick)および第4チャンネル7の船速値(C4_vd_tick)を瞬時船速候補計算部81に出力する。
【0154】
瞬時船速候補計算部81は、異なる方向に向けて発信された音波の瞬時ドップラ周波数から変換された船速値同士を組み合わせた複数組のペア船速値を生成し、ペア船速値のそれぞれに基づいて複数の瞬時船速候補を計算する。具体的には、瞬時船速候補計算部81は、船首方向の第1チャンネル4の船速値(C1_vd_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の船速値(C3_vd_tick)との平均「(C1_vd_tick+C3_vd_tick)/2」を求めてビームキャンセルを行い、瞬時船速候補を計算する。ここで、第1チャンネル4の船速値(C1_vd_tick)と、第3チャンネル6の船速値(C3_vd_tick)とから求めた瞬時船速候補を第1瞬時船速候補と呼び、「v1_tick」と表記する。
【0155】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第1チャンネル4の船速値(C1_vd_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の船速値(C4_vd_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第1チャンネル4の船速値(C1_Vd_tick)と、第4チャンネル7の船速値(C4_vd_tick)とから求めた瞬時船速候補を第2瞬時船速候補と呼び、「v2_tick」と表記する。
【0156】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第2チャンネル5の船速値(C2_vd_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の船速値(C3_vd_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第2チャンネル5の船速値(C2_vd_tick)と、第3チャンネル6の船速値(C6_vd_tick)とから求めた瞬時船速候補を第3瞬時船速候補と呼び、「v3_tick」と表記する。
【0157】
また、瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第2チャンネル5の船速値(C2_vd_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の船速値(C4_vd_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第2チャンネル5の船速値(C2_vd_tick)と、第4チャンネル7の船速値(C7_vd_tick)とから求めた瞬時船速候補を第4瞬時船速候補と呼び、「v4_tick」と表記する。
【0158】
瞬時船速候補判定部82は、瞬時船速候補計算部81から出力された第1瞬時船速候補(v1_tick)、第2瞬時船速候補(v2_tick)、第3瞬時船速候補(v3_tick)および第4瞬時船速候補(v4_tick)について、実施の形態1と同様の手法により、正常値であるか否かを判定し、正常値であると判定された瞬時船速候補に正常値フラグを付与する。
【0159】
また、瞬時船速候補判定部82は、瞬時船速候補計算部81から出力された4個の瞬時船速候補について、もっともらしさの高い順に順位付けを行なう。本実施の形態3では、発信周波数の高さに基づいて瞬時船速候補のもっともらしさの順位付けを行なう。すなわち、第1周波数f1は第2周波数f2よりも高いため、第1周波数f1に基づく瞬時船速候補が上位に順位付けされる。これにより、瞬時船速候補計算部81により計算された4個の瞬時船速候補は、第1瞬時船速候補(v1_tick)、第2瞬時船速候補(v2_tick)、第3瞬時船速候補(v3_tick)および第4瞬時船速候補(v4_tick)の順に順位付けされる。
【0160】
なお、本実施の形態3においても上述した実施の形態1と同様に、瞬時船速候補の基となった音波の周波数(発進周波数)が低いほど、瞬時船速候補のもっともらしさの順位が高くなるようにしてもよい。
【0161】
瞬時船速候補判定部82は、実施の形態1と同様に、もっともらしさの高い順に4個の瞬時船速候補の正常値フラグを確認する。そして、正常値フラグが付与されている瞬時船速候補が確認できた場合には、その瞬時船速候補を正規の瞬時船速(v_tick)として採用する。
【0162】
船速計算部8は、実施の形態1と同様に、船速値計算部83にて瞬時船速(v_tick)から船速値Vを計算する。また、船速計算部8は、更新判定部84により、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速の更新を確認し、更新されている場合のみ、基準加速度計算部85にて前記所定範囲の基準とする加速度を計算させる。
【0163】
実施の形態3に係る船速計1Aおよび船速計測方法によれば、実施の形態1と同様の効果が得ることが可能である。また、複数の瞬時ドップラ周波数を船速値に変換し、変換された船速値同士を組み合わせて複数の瞬時船速候補を計算するので、周波数が異なる音波の瞬時ドップラ周波数の組み合わせでも瞬時船速候補を計算することができる。そのため、ペアビーム方式の船速計において船速値を計算する際に、干渉波周波数に基づく瞬時船速候補をより効果的に排除することができ、精度の高い船速を求めることが可能となる。
【0164】
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4に係る船速計および船速計測方法について説明する。なお、本実施の形態4は、1つの反射波から複数の瞬時ドップラ周波数を求めるとともに、瞬時ドップラ周波数を船速値に変換し、異なる方向に向けて発信された音波の瞬時ドップラ周波数から変換された船速値同士を組み合わせた複数組のペア船速値を生成し、ペア船速値のそれぞれに基づいて複数の瞬時船速候補を計算する点で実施の形態1と異なり、それ以外は実施の形態1と同様の構成を用いるため、同じ構成についての詳しい説明は省略する。
【0165】
本実施の形態4に係る船速計は、図7に示す実施の形態3の船速計1Aと同様に、船速計算部8に船速値変換部(船速値変換手段)86を備えている。本実施の形態4に係る船速計では、実施の形態2と同様に、第1チャンネル4の第1計測部42、第2チャンネル5の第2計測部52、第3チャンネル6の第3計測部62および第4チャンネル7の第4計測部72のそれぞれにおいて、1つの反射波から複数(例えば2つ)の瞬時ドップラ周波数[Hz]を計算する。
【0166】
具体的には、第1チャンネル4の第1計測部42は、第1センサ41から受信信号を取得すると、実施の形態2と同様に、その受信信号の波形から信号レベルが高い反射波周波数のデータを複数、例えば、2つ検出する。また、第1計測部42は、検出した2つの反射波周波数[Hz]のデータに、第1計測部42が備える時計機能(図示省略)によって特定される所定時点からの経過時間tick[秒]を対応づけて、経過時間tick[秒]および反射波周波数[Hz]の組み合わせデータを2つ形成する。そして、第1計測部42は、2つの組み合わせデータごとに第1センサ41から発信される音波の既知の発信周波数(第1周波数f1)との差を求め、2つの瞬時ドップラ周波数[Hz]を計算する。
【0167】
第1計測部42は、2つの瞬時ドップラ周波数[Hz]の値のもっともらしさを判定し、2つの瞬時ドップラ周波数[Hz]をもっともらしさが高い順に順位付けする。ここで、2つの瞬時ドップラ周波数[Hz]のうち、もっともらしさが高い瞬時ドップラ周波数[Hz]を第1瞬時ドップラ周波数[Hz]と呼び、次にもっともらしさが高い瞬時ドップラ周波数[Hz]を第2瞬時ドップラ周波数[Hz]と呼ぶ。すなわち、もっともらしさの順位は、第1瞬時ドップラ周波数[Hz]>第2瞬時ドップラ周波数[Hz]である。
【0168】
2つの瞬時ドップラ周波数[Hz]のもっともらしさの判定は、例えば、瞬時ドップラ周波数[Hz]の信号レベルが高いほどもっともらしいと判定する。なお、瞬時ドップラ周波数[Hz]のもっともらしさの判定には、他の指標、例えば、ノイズとの直交性などを用いてもよい。
【0169】
ここで、第1チャンネル4において、経過時間tick[秒]が対応づけられている組み合わせデータが用いられて計算され、順位付けされた第1瞬時ドップラ周波数[Hz]および第2瞬時ドップラ周波数[Hz]の値、すなわち第1チャンネル4の経過時間tick[秒]における第1瞬時ドップラ周波数[Hz]および第2瞬時ドップラ周波数[Hz]の値を、「C1_Δf1_1_tick」および「C1_Δf1_2_tick」と表記する。
【0170】
第2チャンネル5の第2計測部52、第3チャンネル6の第3計測部62および第4チャンネル7の第4計測部72についても、第1チャンネル4の第1計測部42と同様に、1つの反射波から第1瞬時ドップラ周波数[Hz]および第2瞬時ドップラ周波数[Hz]を計算する。
【0171】
ここで、第2チャンネル5の経過時間tick[秒]における第1瞬時ドップラ周波数[Hz]および第2瞬時ドップラ周波数[Hz]の値を、「C2_Δf1_1_tick」および「C2_Δf1_2_tick」と表記する。また、第3チャンネル6の経過時間tick[秒]における第1瞬時ドップラ周波数[Hz]および第2瞬時ドップラ周波数[Hz]の値を、「C3_Δf2_1_tick」および「C3_Δf2_2_tick」と表記する。さらに、第4チャンネル7の経過時間tick[秒]における第1瞬時ドップラ周波数[Hz]および第2瞬時ドップラ周波数[Hz]の値を、「C4_Δf2_1_tick」および「C4_Δf2_2_tick」と表記する。
【0172】
図9に示すように、船速値変換部86は、第1チャンネル4の第1瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_1_tick)および第2瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_2_tick)と、第2チャンネル5の第1瞬時ドップラ周波数(C2_Δf2_1_tick)および第2瞬時ドップラ周波数(C2_Δf2_2_tick)と、第3チャンネル6の第1瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_1_tick)および第2瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_2_tick)と、第4チャンネル7の第1瞬時ドップラ周波数(C4_Δf2_1_tick)および第2瞬時ドップラ周波数(C4_Δf2_2_tick)のそれぞれを、下記数式(7)に基づいて、船速値[kn]に変換する。なお、下記数式(7)は上記数式(6)と同一である。
(数7) vd=C・Δf/(2f・cosθ)
【0173】
ここで、第1チャンネル4の第1瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_1_tick)から変換された第1船速値を「C1_vd1_tick」と表記し、第2瞬時ドップラ周波数(C1_Δf1_2_tick)から変換された第2船速値を「C1_vd2_tick」と表記する。また、第2チャンネル5の第1瞬時ドップラ周波数(C2_Δf2_1_tick)から変換された第1船速値を「C2_vd1_tick」と表記し、第2瞬時ドップラ周波数(C2_Δf2_2_tick)から変換された第2船速値を「C2_vd2_tick」と表記する。第3チャンネル6の第1瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_1_tick)から変換された第1船速値を「C3_vd1_tick」と表記し、第2瞬時ドップラ周波数(C3_Δf1_2_tick)から変換された第2船速値を「C3_vd2_tick」と表記する。さらに、第4チャンネル7の第1瞬時ドップラ周波数(C4_Δf2_1_tick)から変換された第1船速値を「C4_vd1_tick」と表記し、第2瞬時ドップラ周波数(C4_Δf2_2_tick)から変換された第2船速値を「C4_vd2_tick」と表記する。
【0174】
船速値変換部86は、ドップラ周波数から変換した第1チャンネル4の第1船速値(C1_vd1_tick)および第2船速値(C1_vd2_tick)と、第2チャンネル5の第1船速値(C2_vd1_tick)および第2船速値(C2_vd2_tick)と、第3チャンネル6の第1船速値(C3_vd1_tick)および第2船速値(C3_vd2_tick)と、第4チャンネル7の第1船速値(C4_vd1_tick)および第2船速値(C4_vd2_tick)とを瞬時船速候補計算部81に出力する。
【0175】
瞬時船速候補計算部81は、異なる方向に向けて発信された音波の瞬時ドップラ周波数から変換された船速値同士を組み合わせて複数組のペア船速値を生成し、ペア船速値のそれぞれに基づいて複数の瞬時船速候補を計算する。本実施の形態4の瞬時船速候補計算部81は、8個の船速値の組み合わせに基づいて16個の瞬時船速候補を計算する。図10は、8個の船速値の組み合わせに基づいて計算される16個の瞬時船速候補を示している。
【0176】
瞬時船速候補計算部81は、図10に示すように、船首方向の第1チャンネル4の第1船速値(C1_vd1_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の第1船速値(C3_vd1_tick)との平均「(C1_vd1_tick+C3_vd1_tick)/2」を求めてビームキャンセルを行い、瞬時船速候補を計算する。ここで、第1チャンネル4の第1船速値(C1_vd1_tick)と、第3チャンネル6の第1船速値(C3_vd1_tick)とから求めた瞬時船速候補を第1瞬時船速候補と呼び、「v1_tick」と表記する。
【0177】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第1チャンネル4の第1船速値(C1_vd1tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の第2船速値(C3_vd2_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第1チャンネル4の第1船速値(C1_Vd1_tick)と、第3チャンネル6の第2船速値(C3_vd2_tick)とから求めた瞬時船速候補を第2瞬時船速候補と呼び、「v2_tick」と表記する。
【0178】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第1チャンネル4の第2船速値(C1_vd2_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の第1船速値(C3_vd1_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第1チャンネル4の第2船速値(C1_vd2_tick)と、第3チャンネル6の第1船速値(C3_vd1_tick)とから求めた瞬時船速候補を第3瞬時船速候補と呼び、「v3_tick」と表記する。
【0179】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第1チャンネル4の第2船速値(C1_vd2_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の第2船速値(C3_vd2_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第1チャンネル4の第2船速値(C1_vd2_tick)と、第3チャンネル6の第2船速値(C3_vd2_tick)とから求めた瞬時船速候補を第4瞬時船速候補と呼び、「v4_tick」と表記する。
【0180】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第1チャンネル4の第1船速値(C1_vd1_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の第1船速値(C4_vd1_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第1チャンネル4の第1船速値(C1_vd1_tick)と、第4チャンネル7の第1船速値(C4_vd1_tick)とから求めた瞬時船速候補を第5瞬時船速候補と呼び、「v5_tick」と表記する。
【0181】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第2チャンネル5の第1船速値(C2_vd1_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の第1船速値(C3_vd1_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第2チャンネル5の第1船速値(C2_vd1_tick)と、第3チャンネル6の第1船速値(C3_vd1_tick)とから求めた瞬時船速候補を第6瞬時船速候補と呼び、「v6_tick」と表記する。
【0182】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第1チャンネル4の第2船速値(C1_vd2_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の第1船速値(C4_vd1_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第1チャンネル4の第2船速値(C1_vd2_tick)と、第4チャンネル7の第1船速値(C4_vd1_tick)とから求めた瞬時船速候補を第7瞬時船速候補と呼び、「v7_tick」と表記する。
【0183】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第2チャンネル5の第1船速値(C2_vd1_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の第2船速値(C3_vd2_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第2チャンネル5の第1船速値(C2_vd1_tick)と、第3チャンネル6の第2船速値(C3_vd2_tick)とから求めた瞬時船速候補を第8瞬時船速候補と呼び、「v8_tick」と表記する。
【0184】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第2チャンネル5の第1船速値(C2_vd1_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の第1船速値(C4_vd1_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第2チャンネル5の第1船速値(C2_vd1_tick)と、第4チャンネル7の第1船速値(C4_vd1_tick)とから求めた瞬時船速候補を第9瞬時船速候補と呼び、「v9_tick」と表記する。
【0185】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第1チャンネル4の第1船速値(C1_vd1_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の第2船速値(C4_vd2_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第1チャンネル4の第1船速値(C1_vd1_tick)と、第4チャンネル7の第2船速値(C4_vd2_tick)とから求めた瞬時船速候補を第10瞬時船速候補と呼び、「v10_tick」と表記する。
【0186】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第2チャンネル5の第2船速値(C2_vd2_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の第1船速値(C3_vd1_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第2チャンネル5の第2船速値(C2_vd2_tick)と、第3チャンネル6の第1船速値(C3_vd1_tick)とから求めた瞬時船速候補を第11瞬時船速候補と呼び、「v11_tick」と表記する。
【0187】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第1チャンネル4の第2船速値(C1_vd2_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の第2船速値(C4_vd2_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第1チャンネル4の第2船速値(C1_vd2_tick)と、第4チャンネル7の第2船速値(C4_vd2_tick)とから求めた瞬時船速候補を第12瞬時船速候補と呼び、「v12_tick」と表記する。
【0188】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第2チャンネル5の第2船速値(C2_vd2_tick)と、船尾方向の第3チャンネル6の第1船速値(C3_vd1_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第2チャンネル5の第2船速値(C2_vd2_tick)と、第3チャンネル6の第1船速値(C3_vd1_tick)とから求めた瞬時船速候補を第13瞬時船速候補と呼び、「v13_tick」と表記する。
【0189】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第2チャンネル5の第1船速値(C2_vd1_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の第2船速値(C4_vd2_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第2チャンネル5の第1船速値(C2_vd1_tick)と、第4チャンネル7の第2船速値(C4_vd2_tick)とから求めた瞬時船速候補を第14瞬時船速候補と呼び、「v14_tick」と表記する。
【0190】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第2チャンネル5の第2船速値(C2_vd2_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の第1船速値(C4_vd1_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第2チャンネル5の第2船速値(C2_vd2_tick)と、第4チャンネル7の第1船速値(C4_vd1_tick)とから求めた瞬時船速候補を第15瞬時船速候補と呼び、「v15_tick」と表記する。
【0191】
瞬時船速候補計算部81は、第1瞬時船速候補(v1_tick)と同様に、船首方向の第2チャンネル5の第2船速値(C2_vd2_tick)と、船尾方向の第4チャンネル7の第2船速値(C4_vd2_tick)とに基づいて瞬時船速候補を計算する。ここで、第2チャンネル5の第2船速値(C2_vd2_tick)と、第4チャンネル7の第2船速値(C4_vd2_tick)とから求めた瞬時船速候補を第16瞬時船速候補と呼び、「v16_tick」と表記する。
【0192】
瞬時船速候補判定部82は、瞬時船速候補計算部81から出力された第1瞬時船速候補(v1_tick)、第2瞬時船速候補(v2_tick)、第3瞬時船速候補(v3_tick)、第4瞬時船速候補(v4_tick)、第5瞬時船速候補(v5_tick)、第6瞬時船速候補(v6_tick)、第7瞬時船速候補(v7_tick)、第8瞬時船速候補(v8_tick)、第9瞬時船速候補(v9_tick)、第10瞬時船速候補(v10_tick)、第11瞬時船速候補(v11_tick)、第12瞬時船速候補(v12_tick)、第13瞬時船速候補(v13_tick)、第14瞬時船速候補(v14_tick)、第15瞬時船速候補(v15_tick)および第16瞬時船速候補(v16_tick)について、実施の形態1と同様の手法により、正常値であるか否かを判定し、正常値であると判定された瞬時船速候補に正常値フラグを付与する。
【0193】
また、瞬時船速候補判定部82は、瞬時船速候補計算部81から出力された16個の瞬時船速候補について、もっともらしさの高い順に順位付けを行なう。本実施の形態4では、発信周波数の高さと、瞬時ドップラ周波数のもっともらしさとに基づいて瞬時船速候補のもっともらしさの順位付けを行い、発信周波数の高さに基づく順位付けが瞬時ドップラ周波数の順位よりも優先される。すなわち、第1周波数f1は第2周波数f2よりも高いため、第1周波数f1に基づく瞬時船速候補が上位に順位付けされ、さらに、第1チャンネル4~7のそれぞれにて複数の瞬時ドップラ周波数を計算する際に付与された順位(第1瞬時ドップラ周波数および第2瞬時ドップラ周波数の順位)が加味される。
【0194】
これにより、瞬時船速候補計算部81により計算された16個の瞬時船速候補は、第1瞬時船速候補(v1_tick)、第2瞬時船速候補(v2_tick)、第3瞬時船速候補(v3_tick)、第4瞬時船速候補(v4_tick)、第5瞬時船速候補(v5_tick)、第6瞬時船速候補(v6_tick)、第7瞬時船速候補(v7_tick)、第8瞬時船速候補(v8_tick)、第9瞬時船速候補(v9_tick)、第10瞬時船速候補(v10_tick)、第11瞬時船速候補(v11_tick)、第12瞬時船速候補(v12_tick)、第13瞬時船速候補(v13_tick)、第14瞬時船速候補(v14_tick)、第15瞬時船速候補(v15_tick)および第16瞬時船速候補(v16_tick)の順に順位付けされる。図10に示す表では、左上の瞬時船速候補のもっともらしさが最も高く、右下の瞬時船速候補のもっともらしさが最も低くなる。また、これらの瞬時船速候補には、もっともらしさが等しいものが存在し、例えば、第2瞬時船速候補(v2_tick)と第3瞬時船速候補(v3_tick)、および第7瞬時船速候補(v7_tick)と第10瞬時船速候補(v10_tick)は、もっともらしさが等しいため順位を入れ換えることが可能である。
【0195】
瞬時船速候補判定部82は、実施の形態1と同様に、もっともらしさの高い順に16個の瞬時船速候補の正常値フラグを確認する。そして、正常値フラグが付与されている瞬時船速候補が確認できた場合には、その瞬時船速候補を正規の瞬時船速(v_tick)として採用する。
【0196】
なお、本実施の形態4においても上述した実施の形態1と同様に、瞬時船速候補の基となった音波の周波数(発進周波数)が低いほど、瞬時船速候補のもっともらしさの順位が高くなるようにしてもよい。
【0197】
船速計算部8は、実施の形態1と同様に、船速値計算部83にて瞬時船速(v_tick)から船速値Vを計算する。また、船速計算部8は、更新判定部84により、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速の更新を確認し、更新されている場合のみ、基準加速度計算部85にて前記所定範囲の基準とする加速度を計算させる。
【0198】
実施の形態4に係る船速計1および船速計測方法によれば、実施の形態1と同様の効果が得ることが可能である。また、受信した1つの反射波から複数の瞬時ドップラ周波数をそれぞれ計算し、より多くの瞬時船速候補を計算するので、多くの瞬時船速候補のなかから最ももっともらしく、かつ、正常値であると判定された瞬時船速候補を選択することができるので、より的確な船速値を求めることが可能となる。
【0199】
さらに、複数の瞬時ドップラ周波数を船速値に変換し、変換された船速値同士を組み合わせて複数の瞬時船速候補を計算するので、周波数が異なる音波の瞬時ドップラ周波数の組み合わせでも瞬時船速候補を計算することができる。そのため、ペアビーム方式の船速計において船速値を計算する際に、干渉波周波数に基づく瞬時船速候補をより効果的に排除することができ、精度の高い船速を求めることが可能となる。
【0200】
また、実施の形態4に係る船速計1および船速計測方法によれば、瞬時船速候補の基となった音波の周波数と、瞬時船速候補の基となった瞬時ドップラ周波数を計算する際に各チャンネルで行なわれる瞬時ドップラ周波数のもっともらしさの順位付けとに基づいて、瞬時船速候補のもっともらしさを判定するので、複数の瞬時船速候補のなかから、最ももっともらしく、かつ、正常値であると判定された瞬時船速候補を正規の瞬時船速として採用することができ、精度の高い船速値を求めることが可能となる。
【0201】
以上、この発明の実施の形態1~4について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態1~4に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0202】
例えば、上記の実施の形態1~4では、船首方向と船尾方向とのそれぞれに第1周波数f1[Hz]の音波と、第2周波数f2[Hz]の音波とを発信したが、例えば、船首方向に第1周波数f1[Hz]と第2周波数f2[Hz]とのいずれか一方の音波を発信し、船尾方向にいずれか他方の音波を発信するようにしてもよい。この場合、船首方向と船尾方向とで音波の発信周波数が異なるので、瞬時ドップラ周波数を船速値に変換してから瞬時船速候補を求める。これによれば、船首方向と船尾方向とで音波の減衰量や干渉波周波数との差に違いが生じるので、干渉波周波数の影響を受けにくくなり、的確な船速値を求めることが可能となる。
【0203】
また、上記の実施の形態1~4では、船首方向の第1チャンネル4および第2チャンネル5と、船尾方向の第3チャンネル6および第4チャンネル7ごとに瞬時ドップラ周波数を計算するようにしたが、さらに多くのチャンネルごとにさらに多くのドップラ周波数を取得してもよいし、船幅方向の複数チャンネルごとに複数のドップラ周波数を取得してもよい。その場合、取得するドップラ周波数の数に応じて、さらに多数の瞬時船速候補を計算し、それらの瞬時船速候補から正規の瞬時船速を求めるようにしてもよい。
【0204】
また、上記の実施の形態1~4では船速計1が対水船速を計測するようにしているが、この発明は対地船速(即ち、船舶の対地速度)を計測する場合にも適用され得る。さらに、上記の実施の形態1~4では、第1チャンネル4および第2チャンネル5によって船首方向に周波数の異なる音波を発信し、第3チャンネル6および第4チャンネル7によって船尾方向に周波数の異なる音波を発信しているが、船首方向および船尾方向ともに1つのチャンネルを設け、これらのチャンネルにより発信する音波の周波数を切り替えるようにしてもよい。
【0205】
また、上記の実施の形態1~4は、第1瞬時船速候補(v1_tick)および第2瞬時船速候補(v2_tick)が計算できない(ステップS1f、S1jでNO)、あるいは、正常値であると判定されない(ステップS1g、S1kでNO)という事象が連続すると瞬時船速バッファ31が更新されない(ステップS5でNO)ので、瞬時船速バッファ31が更新されない間はステップS3の処理において計算される船速値Vが変化しないことになる。そこで、一定期間連続して瞬時船速バッファ31が更新されない場合の対策として、(例えば船舶が前進している場合に)基準加速度arからの加速度の変化の下限「ar_T-alt」を0[kn/秒]にしたり、基準加速度arからの加速度の変化の上限「ar_T+aut」を解除(つまり、上限無しに)したりしてもよく、また、(例えば船舶が後進している場合に)基準加速度arからの加速度の変化の下限「ar_T-alt」を解除(つまり、下限無しに)したり、基準加速度arからの加速度の変化の上限「ar_T+aut」を0[kn/秒]にしたりしてもよい。
【0206】
この場合、例えば、最後に計算された基準加速度arで航行していると仮定したときに所定の船速(なお、特定の速度には限定されないものの、例えば船の性能・仕様などに基づく最高速度や0に設定されることが考えられる)に達した場合に、瞬時船速バッファ31が更新されない場合の対策が実行されるようにしてもよい。あるいは、所定の時間(なお、特定の時間長さには限定されないものの、例えば5~15秒程度の範囲のうちのいずれかの時間長さに設定されることが考えられる)にわたって瞬時船速バッファ31が更新されない場合に、上記対策が実行されるようにしてもよい。つまり、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速の値vが更新されていない状況で所定の条件を満たす場合に、瞬時船速に係る加速度の範囲を規定する条件(具体的には、基準加速度arからの加速度の変化の下限「ar_T-alt」、基準加速度からの加速度の変化の上限「ar_T+aut」)を変更するようにしてもよい。これにより、船舶の航行状況に応じて的確で、かつ、安定した船速値の計算を行なう可能となる。
【0207】
また、上記の実施の形態1~4では、複数の瞬時船速候補のなかから採用された瞬時船速の値vをすべて瞬時船速バッファ31に追加して格納する(ステップS2)ようにしているが、瞬時船速バッファ31への追加・格納はこの態様に限定されるものではない。例えば、計算時間間隔I(具体的には例えば、経過時間「T+Δt」から「T+I」まで)において採用される瞬時船速の値vの平均値と経過時間の代表値(例えば、T+I/2)との組み合わせデータが瞬時船速バッファ31の先頭に追加されて格納されるようにしてもよく、或いは、計算時間間隔I(具体的には例えば、経過時間「T+Δt」から「T+I」まで)において採用される瞬時船速の値vのうち瞬時船速に係る加速度が基準加速度arに最も近い瞬時船速の値vと経過時間の代表値(例えば、T+I/2)との組み合わせデータが瞬時船速バッファ31の先頭に追加されて格納されるようにしてもよい。
【0208】
また、上記の実施の形態1~4では、第1瞬時船速候補(v1_tick)および第2瞬時船速候補(v2_tick)の正常値判定(ステップS1g、S1k)において、瞬時船速候補に係る加速度が所定範囲内である瞬時船速候補を正常値であると判定したが、瞬時船速候補の値が過去の船速値を基準とする所定範囲内である瞬時船速候補を正常値であると判定するようにしてもよい。
【0209】
基準とする過去の船速値としては、直前に計算された船速値を用いてもよいし、所定期間内の船速値の平均値を用いてもよい。例えば、図5に示す例において、経過時間「T」から「T+I」の間で瞬時船速候補の正常値判定を行なう場合に、直前に計算された船速値を基準船速値として用いるときには、経過時間「T」の船速値V_Tが基準船速値となる。これによれば、船速の傾向を判定基準とすることができ、一層自然な船速値の計算を行うことが可能となる。
【0210】
また、経過時間「T」から「T+I」の間で瞬時船速候補の正常値判定を行なう場合に、所定期間内の船速値の平均値を基準船速値として用いるときには、経過時間「T-I」の船速値V_T-Iと、経過時間「T」の船速値V_Tとの平均値を基準船速値としてもよい。なお、平均値によって基準船速値を求めるための所定期間としては、特定の時間長さに限定されるものではなく、例えば船種や対水船速に関係する様々な条件などが考慮されるなどしたうえで適当な時間長さに適宜設定される。また、所定期間内の船速値の平均値としては、例えば、船速値バッファ32に格納されている複数の船速値の平均値を用いてもよい。
【0211】
さらに、過去の船速値を基準とする所定範囲としては、特定の時間長さに限定されるものではなく、例えば船種や対水船速に関係する様々な条件などが考慮されるなどしたうえで適当な時間長さ(例えば、基準船速値に対して±1~5[Kn])に適宜設定される。また、基準船速値に対する所定範囲は、上限値と下限値との絶対値が同じであるように設定されるようにしてもよく、或いは、絶対値が相互に異なるように設定されるようにしてもよい。
【0212】
また、船速値バッファ32に格納されている複数の船速値から基準船速値を計算する処理(所定範囲の基準を設定する処理)は、上述した基準加速度の計算と同様に、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速が更新されている場合にのみ行なうようにしてもよい。これによれば、船舶の航行状況に応じて的確で、かつ、安定した船速値の計算を行なうことが可能である。
【0213】
さらに、第1瞬時船速候補(v1_tick)および第2瞬時船速候補(v2_tick)が計算できない、あるいは、正常値であると判定されない事象が連続すると瞬時船速バッファ31が更新されないので、瞬時船速バッファ31が更新されない間は船速値Vが変化しないことになる。そのため、一定期間連続して瞬時船速バッファ31が更新されない場合の対策として、(例えば船舶が前進している場合に)基準船速値に基づく所定範囲の下限値を0[kn]にしたり、基準船速値に基づく所定範囲の上限値を解除(つまり、上限無しに)したりしてもよく、また、(例えば船舶が後進している場合に)基準船速値に基づく所定範囲の下限値を解除(つまり、下限無しに)にしたり、基準船速値に基づく所定範囲の上限値を0[kn]にしたりしてもよい。
【0214】
この場合、例えば、最後に計算された基準船速値で航行していると仮定したときに所定の船速(なお、特定の速度には限定されないものの、例えば船の性能・仕様などに基づく最高速度や0に設定されることが考えられる)に達した場合に、瞬時船速バッファ31が更新されない場合の対策が実行されるようにしてもよい。あるいは、所定の時間(なお、特定の時間長さには限定されないものの、例えば5~15秒程度の範囲のうちのいずれかの時間長さに設定されることが考えられる)にわたって瞬時船速バッファ31が更新されない場合に、上記対策が実行されるようにしてもよい。つまり、瞬時船速バッファ31に蓄えられている瞬時船速の値vが更新されていない状況で所定の条件を満たす場合に、基準船速値に基づく所定範囲を規定する条件(具体的には、基準船速値を基準とする下限値および上限値)を変更するようにしてもよい。これにより、船舶の航行状況に応じて的確で、かつ、安定した船速値の計算を行なうことが可能である。
【符号の説明】
【0215】
1、1A 船速計
2 制御部
3 記憶部
31 瞬時船速バッファ(バッファ)
32 船速値バッファ(第2のバッファ)
4 第1チャンネル
5 第2チャンネル
6 第3チャンネル
7 第4チャンネル
8 船速計算部
81 瞬時船速候補計算部(瞬時船速候補計算手段)
82 瞬時船速候補判定部(瞬時船速候補判定手段)
83 船速値計算部(船速値計算手段)
84 更新判定部
85 基準加速度計算部
86 船速値変換部(船速値変換手段)
9 インターフェース部
10 表示部
図1
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図10