(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077053
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】シート状構造物及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20240531BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240531BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20240531BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
B01J19/00 321
B32B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188860
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】文珠 卓也
【テーマコード(参考)】
2G058
4F100
4G075
【Fターム(参考)】
2G058AA09
2G058CC09
2G058DA07
2G058GA01
4F100AT00B
4F100BA02
4F100DJ00A
4F100DJ05B
4F100EC04
4F100GB66
4G075AA13
4G075AA39
4G075AA65
4G075BB10
4G075DA02
4G075EB50
4G075FA01
4G075FA12
4G075FA14
4G075FA16
4G075FB11
4G075FB12
(57)【要約】
【課題】本発明は、反応時間を十分に確保し、定量分析の精度を向上させることができるシート状構造物を提供することを目的とする。
【解決手段】
流体を流通可能な多孔質構造の流路の少なくとも一部が表面に露出した多孔質構造層と、支持体層と、を有し、前記流路が、隣接する前記流路を分離させて前記流路における前記流体の流通を遮断可能な分離部を有することを特徴とするシート状構造物である。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を流通可能な多孔質構造の流路の少なくとも一部が表面に露出した多孔質構造層と、支持体層と、を有し、
前記流路が、隣接する前記流路を分離させて前記流路における前記流体の流通を遮断可能な分離部を有することを特徴とするシート状構造物。
【請求項2】
前記分離部が、前記流路における前記流体の流通方向と交差する方向に前記流路を切断する切断部である、請求項1に記載のシート状構造物。
【請求項3】
表面に露出した前記流路の少なくとも一部が流体受入部である、請求項1に記載のシート状構造物。
【請求項4】
前記分離部が、前記流体受入部と、前記流体受入部に隣接する前記流路とを分離させて、前記流体受入部に受入された前記流体が、前記流体受入部に隣接する前記流路に流通することを遮断可能である、請求項3に記載のシート状構造物。
【請求項5】
前記支持体層は、前記多孔質構造層における前記流体受入部が位置しない領域に配された、請求項3に記載のシート状構造物。
【請求項6】
前記支持体層が非透水性である、請求項1に記載のシート状構造物。
【請求項7】
前記多孔質構造層における、一方の表面に露出する前記流路の露出形状と、他方の表面に露出する前記流路の露出形状とが、互いに異なる、請求項1に記載のシート状構造物。
【請求項8】
表面に露出した前記流路の少なくとも一部が検出部であり、前記検出部が前記流路において前記流体受入部とは異なる位置に配された、請求項3に記載のシート状構造物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のシート状構造物の使用方法であって、
前記分離部を基準として一方の側に位置する第一流路に流体を受入し、前記第一流路に受入された前記流体が、前記分離部を基準として他方の側に位置する第二流路に流入しないように、前記分離部において前記第一流路と前記第二流路とを分離させて前記流体の流通を遮断し、
一定時間経過後に、前記分離部において前記第一流路と前記第二流路とを接触させて前記第一流路と前記第二流路との間で前記流体を流通させることを特徴とするシート状構造物の使用方法。
【請求項10】
前記第一流路が流体受入部であり、前記第二流路の一部に検出部が配された、請求項9に記載のシート状構造物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状構造物及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日常生活や臨床現場において、簡易的で迅速な診断を可能とする検査デバイスの開発が進んでいる。検査デバイスとしては、妊娠検査薬がその代表例として挙げられる。抗原等の対象物質を含有する被検査液が検査デバイスに導入されると、当該被検査液は当該検査デバイス内の流路を流通する。すると、予め流路内に仕込んでおいた抗体等の標識媒体と、当該被検査液内の対象物質とが反応して顕色(発色)し、対象物質の存在を確認することができる。
【0003】
検査デバイスの一例である検査チップは、「μ-PADs(microfluidicpaper-basedanalyticaldevices)」とも称されることがあり、(1)安価、(2)ポンプレス、(3)大がかりな装置が不要、(4)廃棄が容易などといった多くの利点を有するものであり、改良のための研究が世界的に進められている。
【0004】
検査チップ(検査デバイス)としては様々なものが既に報告されており、例えば、検体であるリン系農薬と、当該リン系農薬に対して反応するアセチルコリンエステラーゼ(Acetylcholine esterase:AChE)との反応時間を十分に確保し、より呈色反応の発色強度が強く、精度の高いデバイスを提供する目的で、当該検査デバイスを成す複数枚の紙チップの各層間に、液体吸収パッド(ペーパーディスク)を設けた検査デバイスが提案されている(非特許文献1参照)。当該検査デバイスは、当該液体吸収パッドによって生じる液体の流通遅延を利用して、検体とAChEとの反応時間を確保している。また、発色ムラを有意に抑制する目的で、一枚のシート状素材中に3次元流路が形成された検査チップが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Quoc Trung Huaら,analytical sciences,April,2019,Vol.35,p393-399
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の非特許文献1に記載の技術を含む検査デバイスは、一次反応(検体とAChEとの反応)が十分になされていない液体の流通がみられ、かつ流路が形成された複数枚の基材を両面テープで貼合しているため、基材間において生じる両面テープの厚さ分のギャップを埋める必要があり、組み立て加工が煩雑であることに懸念点があった。また、上述の特許文献1に記載の検査チップにおいては、液体の流通速度が速く、一次反応における反応時間を十分に確保できないため、検体及び検査試薬(例えば、抗原及び抗体)を事前に混合し、反応させてから添加する必要がある。このとき、混合・反応に用いる容器の廃棄や検体のコンタミネーション、簡便さ等に改善の余地があった。
【0008】
本発明は、従来における上記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、本発明は、反応時間を十分に確保し、定量分析の精度を向上させることができるシート状構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。
<1>
流体を流通可能な多孔質構造の流路の少なくとも一部が表面に露出した多孔質構造層と、支持体層と、を有し、
前記流路が、隣接する前記流路を分離させて前記流路における前記流体の流通を遮断可能な分離部を有することを特徴とするシート状構造物である。
<2>
前記分離部が、前記流路における前記流体の流通方向と交差する方向に前記流路を切断する切断部である、前記<1>に記載のシート状構造物である。
<3>
表面に露出した前記流路の少なくとも一部が流体受入部である、前記<1>に記載のシート状構造物である。
<4>
前記分離部が、前記流体受入部と、前記流体受入部に隣接する前記流路とを分離させて、前記流体受入部に受入された前記流体が、前記流体受入部に隣接する前記流路に流通することを遮断可能である、前記<3>に記載のシート状構造物である。
<5>
前記支持体層は、前記多孔質構造層における前記流体受入部が位置しない領域に配された、前記<3>に記載のシート状構造物である。
<6>
前記支持体層が非透水性である、前記<1>に記載のシート状構造物である。
<7>
前記多孔質構造層における、一方の表面に露出する前記流路の露出形状と、他方の表面に露出する前記流路の露出形状とが、互いに異なる、前記<1>に記載のシート状構造物である。
<8>
表面に露出した前記流路の少なくとも一部が検出部であり、前記検出部が前記流路において前記流体受入部とは異なる位置に配された、前記<3>に記載のシート状構造物である。
<9>
前記<1>から前記<8>のいずれかに記載のシート状構造物の使用方法であって、
前記分離部を基準として一方の側に位置する第一流路に流体を受入し、前記第一流路に受入された前記流体が、前記分離部を基準として他方の側に位置する第二流路に流入しないように、前記分離部において前記第一流路と前記第二流路とを分離させて前記流体の流通を遮断し、
一定時間経過後に、前記分離部において前記第一流路と前記第二流路とを接触させて前記第一流路と前記第二流路との間で前記流体を流通させることを特徴とするシート状構造物の使用方法である。
<10>
前記第一流路が流体受入部であり、前記第二流路の一部に検出部が配された、前記<9>に記載のシート状構造物の使用方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反応時間を十分に確保し、定量分析の精度を向上させることができるシート状構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、第1態様のシート状構造物の概略斜視図である。
【
図2A】
図2Aは、分離部の機能を説明するための説明図である。
【
図2B】
図2Bは、分離部の他の機能を説明するための説明図である。
【
図3A】
図3Aは、支持体層の分布の一例を説明するための説明図である。
【
図3B】
図3Bは、支持体層の分布の他の例を説明するための説明図である。
【
図3C】
図3Cは、支持体層の分布のさらに他の例を説明するための説明図である。
【
図4A】
図4Aは、第2態様のシート状構造物の概略断面図である。
【
図5A】
図5Aは、第3態様のシート状構造物の概略断面図である。
【
図6A】
図6Aは、第4態様のシート状構造物の概略断面図である。
【
図7A】
図7Aは、第5態様のシート状構造物における多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図である。
【
図7B】
図7Bは、第5態様のシート状構造物における多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。
【
図8A】
図8Aは、第6態様のシート状構造物における多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図である。
【
図8B】
図8Bは、第6態様のシート状構造物における多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。
【
図9A】
図9Aは、第7態様のシート状構造物における多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図である。
【
図9B】
図9Bは、第7態様のシート状構造物における多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。
【
図10A】
図10Aは、第8態様のシート状構造物における多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図である。
【
図10B】
図10Bは、第8態様のシート状構造物における多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。
【
図11A】
図11Aは、第9態様のシート状構造物における多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図である。
【
図11B】
図11Bは、第9態様のシート状構造物における多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。
【
図12A】
図12Aは、第10態様のシート状構造物における多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図である。
【
図12B】
図12Bは、第10態様のシート状構造物における多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。
【
図13A】
図13Aは、実施例における特定の流路形状を説明するための説明図である。
【
図13B】
図13Bは、実施例における特定の流路形状を説明するための説明図である。
【
図13C】
図13Cは、実施例における欠落した流路形状を説明するための説明図である。
【
図13D】
図13Dは、実施例における欠落した流路形状を説明するための説明図である。
【
図14A】
図14Aは、実施例における片面又は両面印刷流路を説明するための説明図である。
【
図15】
図15は、実施例における多孔質構造層を説明するための概略断面図である。
【
図16】
図16は、実施例におけるシート状構造物を説明するための概略断面図である。
【
図17】
図17は、実施例におけるシート状構造物を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(シート状構造物)
本発明のシート状構造物は、流体を流通可能な多孔質構造の流路の少なくとも一部が表面に露出した多孔質構造層と、支持体層と、を有し、
前記流路が、隣接する前記流路を分離させて前記流路における前記流体の流通を遮断可能な分離部を有することを特徴とする。
【0013】
以下、本発明について、いくつかの実施形態に基づき詳細に説明するが、以下記載により何ら限定されるものではない。
【0014】
<第1態様>
図1Aは、第1態様のシート状構造物の概略斜視図である。
図1Bは、
図1Aのシート状構造物をa-a´線で切断したときの概略断面図である。
シート状構造物11は、多孔質構造層101と、支持体層301と、分離部Xとを有する。詳細は後述するが、当該シート状構造物11は、このような構成を有することで、当該多孔質構造層101の流路内における流体の流通を遮断することができ、例えば、検体と反応試薬との反応時間を十分に確保することができる。
【0015】
―多孔質構造層―
前記シート状構造物11における多孔質構造層101には、毛細管現象等によって流体が流通可能である多孔質構造からなる流路A、流路B、流路C、並びに当該流路A~C以外の領域に非流路Yが設けられている。当該流路Cは、当該流路A及びBのいずれにも接続されており、流路A、流路C、流路Bの順、又は流路B、流路C、流路Aの順で流体が流通可能である。例えば、
図1Bに示されるように、流体が流路Aに受入された場合、当該流体は、流路A、流路C、流路Bの順に流通する。
【0016】
当該多孔質構造の流路は、少なくとも一部が当該多孔質構造層の表面に露出するように形成されていればよく、当該多孔質構造層の全表面に露出するように形成されていてもよい。また、前記多孔質構造層は、多孔質構造(流路)が当該多孔質構造層の一部のみ形成されていてもよく、全体に形成されていてもよい。
前記多孔質構造層において、表面に露出した前記流路の少なくとも一部が流体受入部であることが好ましい。例えば、
図1Bに示した多孔質構造層においては、流体を導入する流路Aを流体受入部とすることができる。また、前記多孔質構造層において、表面に露出した前記流路の少なくとも一部が検出部であり、前記検出部が前記流路において前記流体受入部とは異なる位置に配されることが好ましい。例えば、
図1Bに示した多孔質構造層においては、流路Bを検出部とすることができる。
【0017】
ここで「流体」とは、毛細管現象等によって多孔質構造の流路内を流通可能なものであれば、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。本発明のシート状構造物を検査デバイスに適用する場合は、例えば、検体や当該検体と反応する反応試薬を含む溶液などが挙げられる。
当該流体の粘度としては、当該流体が多孔質構造の流路内を流通可能である粘度であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜調整することができる。
【0018】
ここで「多孔質構造」とは、連通する複数の空孔を有する構造体のことであり、一般的には共連続構造又はモノリス構造とも称されることがある。当該多孔質構造は、連続的に繋がった空孔が三次元的に広がっており、流体が染み込む(即ち、毛細管現象)ことができる。
多孔質構造における空孔の断面形状は、流体の粘度等の物性を考慮して適宜設定することができ、例えば、略円形状、略楕円形状、略多角形状などが挙げられる。多孔質構造における空孔の大きさは、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。当該空孔の断面形状及び大きさは、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)等で撮影した断面写真から求めることができる。
多孔質構造における空隙率としては、液体の粘度等の物性を考慮して適宜設定することができる。当該空隙率を測定する方法としては特に制限されないが、例えば、多孔質構造に不飽和脂肪酸(市販のバター)を充填し、オスミウム染色を施した後で、FIBで内部の断面構造を切り出し、走査電子顕微鏡(SEM)等を用いて空隙率を測定する方法などが挙げられる。
多孔質構造における空孔の分布としては、流体が流通可能であれば、流体の粘度等の物性を考慮して適宜設定することができるが、流路領域内に均一に分布していることが好ましい。
【0019】
流路A~Cの平面視での形状としては、流体が流通可能であれば、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することでき、例えば、円形、楕円形、正方形、矩形などが挙げられる。
流路A~Bの径としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することでき、例えば、φ3mm以上φ10mm以下とすることができる。流路Cの流路幅としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することでき、例えば、1mm以上5mm以下とすることができる。
【0020】
流路A~Cの材料Mとしては、流体が流通可能である多孔質構造を有していれば、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することでき、例えば、ろ紙等の紙、不織布、ニトロセルロース、ポリプロピレンなどが挙げられる。これらの中でも、より簡便で、かつ低コストである観点から、ろ紙がより好ましい。
【0021】
非流路Yは、多孔質構造層における流路A~C以外の領域、即ち、流体の流通が発現されない領域のことである。
非流路Yの材料M´としては、流体の流通が発現されなければ、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記材料Mに対して、疎水性材料を含浸させることにより得ることができる。当該疎水性材料としては、多孔質構造層の製造容易性の観点から、融点が90℃以下であるものが好ましく、例えば、ワックス又はそれを含有する組成物などが挙げられる。当該疎水性材料には、樹脂等の粘度調整成分、分散助剤、フィラーなどを適宜配合することができる。
【0022】
前記流路の材料Mに対して疎水性材料を含浸させる場合、当該疎水性材料は、加熱して溶融させておくことが好ましい。このときの加熱温度は、疎水性材料や粘度調整成分の融点を考慮して適宜設定することができる。
疎水性材料の溶融時の粘度は、多孔質構造層の平均厚みや目付量(密度)等を考慮し、所望通りに多孔質構造層に含浸させることができるよう適宜設定することができる。
【0023】
前記流路の材料Mに対して疎水性材料を含浸させる場合、材料Mに対する疎水性材料の含浸率が、14%以上32%以下の範囲内であることが好ましい。
当該含浸率が14%以上となるように多孔質構造層を製造することで、流路壁面(材料Mと材料M´との界面)が十分に均一となり、例えば、流路から流路までの流体の流通をよりスムーズなものとすることができる。また、当該含浸率が32%以下となるように多孔質構造層を製造することで、材料Mに疎水性材料を含浸させる際の閉塞などの不具合を十分に回避し、所望の流路構造を有する多孔質構造層をより確実に得ることができる。
ここで「含浸率」とは、多孔質構造層のうち、厚み方向全体に亘って材料M´でできている領域における当該材料M´に関する含浸率を指すものとする。また、上記含浸率は、十分に低粘度となるように加熱した(例えば、120℃に加熱した)疎水性材料に材料Mを浸漬させ、温度を保持して十分な時間(例えば、3分間)放置して得られる材料M´については100%とみなすことができる。上記含浸率の調整は、例えば、含浸させる疎水性材料の量(疎水性膜の厚みなど)の調節により行うことができる。
【0024】
材料Mに対する疎水性材料の含浸率の測定方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することでき、例えば、以下の方法が挙げられる。
[含浸率の測定方法]
ろ紙を適当なサイズに切り取り、120℃で3分間乾燥した後、乾燥質量M0(g)を測定する。次いで、当該ろ紙を疎水性材料に浸漬させ、120℃で3分間放置する。浸漬後のろ紙を、同種のろ紙及びスライドガラスで挟持し、100gfの荷重下、120℃で1分間放置して過剰な疎水性材料を除去する。その後、ろ紙の質量M1(g)を測定し、以下の式より、単位面積当たりの最大含浸量Pmax(g/m2)を算出する。
式・・・Pmax(g/m2)=(M1-M0)×1000
【0025】
前記疎水性材料の粘度としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、材料Mに対して含浸させる際の閉塞などの不具合を十分に回避する観点から、140℃、せん断速度3000s-1における粘度が、100mPa・s以下であることが好ましく、50mPa・s以下であることがより好ましく、30mPa・s以下であることがさらに好ましい。当該粘度の測定は、特に制限されないが、例えば、レオメーター(例えば、商品名:AR-G2レオメーター、TAインスツルメント社製)を用いて測定することができる。
【0026】
材料M´は、液体の流通を容易に視認できるようにするため、着色されていることが好ましいが、白色又は透明であってもよく、或いは着色されていなくてもよい。材料M´の着色は、例えば、疎水性材料に加えて着色剤を材料Mに含浸させることで達成することができる。かかる着色剤としては、例えば、カーボンブラック(黒色顔料)をはじめとする顔料などが挙げられ、疎水性であることが好ましい。また、当該着色剤としては、検査等に用いる試薬に悪影響を及ぼさないものを選択することが好ましい。
【0027】
前記多孔質構造層101の平面視での形状は、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、矩形、略円形、略楕円形、略矩形などが挙げられる。
【0028】
―分離部―
前記シート状構造物11における多孔質構造層101には、多孔質構造層101における流路において、隣接する流路を分離させて当該流路における流体の流通を遮断可能な分離部が設けられている。また、前記分離部は、前記流体受入部と、前記流体受入部に隣接する前記流路とを分離させて、前記流体受入部に受入された前記流体が、前記流体受入部に隣接する前記流路に流通することを遮断可能であることが好ましい。より具体的には、例えば、
図1A及び
図1Bにおける流路Aを流体受入部とする場合、前記分離部は、当該流路Aと、当該流路Aに隣接する流路Cとを分離させて、当該流路Aに受入された前記流体が、当該流路Cに流通することを遮断可能であることが好ましい。
ここで「隣接する流路を分離させて流路における流体の流通を遮断する」とは、流路を形成する多孔質構造を、分離部を基準として分離させることにより、流体の流通が発現しない状態にすることである。
【0029】
前記分離部が配される位置は、隣接する流路を分離させることができれば、特に制限はないが、前記流体受入部と前記検出部との間であり、かつ当該流体受入部及び当該検出部を除く領域であることが好ましい。
また、前記分離部の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜設定することができる。当該分離部の数を増やすことにより、複数回の反応(多段階反応)を一シート状構造物内で行うことができる。
【0030】
前記分離部としては、隣接する流路を分離させることができれば、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、切断部であることが好ましい。当該切断部は、
図1A及び
図1Bにも示す通り、前記流路における流体の流通方向と交差する方向に当該流路を切断する領域のことである。ここで、「流体の流通方向と交差する方向」とは、特に制限はなく、例えば、
図1Aに示す通り、流体の流通方向に対して直角方向であってもよいし、略直角方向であってもよい。
また、前記分離部が切断部でない態様としては、例えば、多孔質構造物を上下方向、又は左右方向(
図1Aにおいては左右方向)に引張し、多孔質構造層における多孔質構造同士が分離された領域を分離部とすることができる。このとき、後述する支持体は、上下方向、又は左右方向へ引張可能な材質(例えば、弾性部材)であることが好ましい。
【0031】
前記分離部が切断部である場合、当該切断部は、シート状構造物における多孔質構造層にのみ存在し、後述する支持体層には存在しないことが好ましい。換言すると、当該切断部を基準としてシート状構造物を分離させる際に、当該多孔質構造層は分離し、当該支持体層は分離しないように切断部を設けることが好ましい。当該支持体層が分離せず繋がったままであることにより、当該支持体層がヒンジとして機能し、分離した流路を再度接触させて流体の流通を継続させることが可能となる。
【0032】
ここで、前記分離部の機能を
図2A及び
図2Bを用いて具体的に説明する。
図2Aは、分離部の機能の一例を説明するための説明図である。具体的には、
図1Aで示すシート状構造物11を、分離部Xを基準として約45°折り曲げた状態を示す図である。
図2Bは、分離部の機能の他の一例を説明するための説明図である。具体的には、
図1Aで示すシート状構造物11を、分離部Xを基準として約180°折り曲げた状態を示す図である。なお、上述した通り、
図2A及び
図2Bのいずれの状態においても、支持体層301は分離せず繋がったままである。
図2A及び
図2Bのいずれの状態であっても、多孔質構造層101における多孔質構造は分離、即ち隣接する流路は分離されており、当該流路における流体の流通は遮断されている。より具体的には、例えば、流路Aを流体受入部とする場合、当該分離部により流路Aと、当該流路Aに隣接する流路Cとが分離され、当該流路Aに受入された前記流体が、当該流路Cへ流通することが遮断されている。
【0033】
前記シート状構造物11が、このような構成を有することにより、流路内の流体の流通が生じず、流体受入部において流体を十分に滞留させることができる。また、上述した通り、支持体層301は分離部によって分離されておらず、ヒンジとして機能するため、当該流体を所定時間滞留させた後、
図1Bに示す通り、分離した流路を再度接触させて流体の流通を継続させることができる。
例えば、当該シート状構造物11を検査デバイスとして用いる場合は、
図2A又は
図2Bの状態のシート状構造物の流体受入部に、検体と当該検体に対して反応する試薬(例えば、抗原と抗体等)とを導入することで、当該検体と当該試薬とにおける十分な反応時間を確保することができる。また、反応完了後(又は、所定時間経過後)に、
図1Bに示す通り、分離した流路を再度接触させて、当該検体及び当該試薬の流通を継続させることができる。
【0034】
また、前記シート状構造物11が、このような構成を有することにより、流体受入部に受入された流体を整流することができる。具体的には、分離部によって流路を一度分離することによって、流体受入時の勢いに起因して流路及び流体受入部内に流体が偏在することを防ぐことができる。
【0035】
前記シート状構造物を、分離部Xを基準として折り曲げる角度としては、流路が分離されて流体の流通が遮断される角度であれば、特に制限はなく目的に応じて適宜設定することができる。
【0036】
―支持体層―
前記シート状構造物11は、支持体層301を有する。
上述した通り、当該支持体層301は、当該シート状構造物11のヒンジとして機能し、分離した流路を再度接触させて流体の流通を継続させることができる。また、当該支持体層は、シート状構造物自体の物理的強度を補強する機能をも有する。
【0037】
ここで、前記支持体層の分布を、
図3A~
図3Cを用いて具体的に説明する。
図3Aは、支持体層の分布の一例を説明するための説明図であり、
図3Bは、支持体層の分布の他の一例を説明するための説明図であり、
図3Cは、支持体層の分布のさらに他の例を説明するための説明図である。
前記シート状構造物における支持体層は、前記多孔質構造層における流体受入部が位置しない領域に配することができる。例えば、
図1A及び
図1Bに示す通り、流体受入部に対して流体を導入しない面側のみに配されていてもよいし、
図3Aに示す通り、多孔質構造層の両表面に配されていてもよい。さらに、当該支持体層は、
図3B及び
図3Cに示す通り、露出している流路のみを覆うように配されていてもよい。なお、当該支持体層を当該多孔質構造層の両表面、特に流体受入部に対して流体を導入する面側に配する場合は、前記分離部と重複しないように配することが好ましい。
【0038】
前記シート状構造物がこのような構成を有することで、流路内を流通している流体へのコンタミネーションを防ぐことができる。例えば、当該流体が検体及び試薬(例えば、抗原及び抗体等)である場合には、コンタミネーションに起因する反応阻害等を防ぐことができ好適である。
【0039】
前記支持体層は、非透水性であることが好ましい。非透水性である当該支持体層の材質としては、特に制限はなく目的に応じて適宜設定することができ、例えば、ポリプロピレンなどが挙げられる。
前記支持体層の大きさ、構造、及び形状としては、多孔質構造層における流路を覆うことができれば、特に制限はなく目的に応じて適宜設定することができる。
【0040】
前記支持体層は、市販品を用いることもできる。当該市販品としては、例えば、商品名で、660-PF(ニチバン株式会社製)などが挙げられる。
【0041】
第1態様のシート状構造物11の平均厚みは、特に制限されず目的に応じて適宜選択することができ、例えば、100μm以上300μm以下とすることができる。当該平均厚みは、商品名で、id-c112bs(ミツトヨ製)等の厚み計を用いて測定することができる。
第1態様のシート状構造物11の大きさとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することできる。
【0042】
<第2態様>
前記多孔質構造層は、当該多孔質構造層における、一方の表面に露出する前記流路の露出形状と、他方の表面に露出する前記流路の露出形状とが、互いに異なっていてもよい。換言すると、前記多孔質構造層は、流路形状が異なる2層以上の層を有していてもよい。
【0043】
ここで、第2態様のシート状構造物12について、
図4A~
図4Cを用いて具体的に説明する。
図4Aは、第2態様のシート状構造物の概略断面図であり、
図4Bは、
図4Aの多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図であり、
図4Cは、
図4Aの多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。また、
図4Aは、
図4B及び
図4Cで示されるb-b´線で切断した際の概略断面図でもある。さらに、
図4B及び
図4Cにおいて、分離部Xは省略される。
第2態様のシート状構造物12における第1の多孔質構造層102には、流路A、流路B、並びに当該流路A及び当該流路B以外の領域に非流路Yが設けられている。当該流路A及び当該流路Bは、当該第1の多孔質構造層102中で離隔されている。
第2態様のシート状構造物12における第2の多孔質構造層202には、流路C、流路D、流路E、並びに当該流路C、当該流路D、及び当該流路E以外の領域に非流路Yが設けられている。当該流路Eは、当該流路C及び当該流路Dのいずれにも接続されており、流路C、流路E、流路Dの順、又は流路D、流路E、流路Cの順で流体が流通可能である。
第2態様のシート状構造物12には、前記第2の多孔質構造層202側の表面に支持体層301が設けられている。
なお、第1の多孔質構造層102及び第2の多孔質構造層202には、間に介在するものが存在せず、互いに隣接している。
【0044】
第2態様のシート状構造物12においては、第1の多孔質構造層102の流路Aと第2の多孔質構造層202の流路Cとが隣接しており、また第1の多孔質構造層102の流路Bと第2の多孔質構造層202の流路Dとが隣接している。即ち、第2態様のシート状構造物12では、流路A、流路C、流路E、流路D、流路Bの順、又は流路B、流路D、流路E、流路C、流路Aの順で隣接し、接続されている。
第2態様のシート状構造物12においては、当該流路C及び当該流路Eを遮断するように分離部Xが形成されている。
また、
図4Aにおいて、当該第1の多孔質構造層102から疎水性材料を含浸させた際の先端領域を仮想線として点線で描いた。同様に、当該第2の多孔質構造層202側から疎水性材料を含浸させた際の先端領域を仮想線として点線で描いた。当該仮想線は他の図面においても同様に記載する。
そして、流路A、流路B、流路C、流路D、流路E、非流路Yは、上述の<第1態様>の項目に記載された材料M又は材料M´で形成されている。
【0045】
図4Aに示すように、第2態様のシート状構造物12では、流路A、流路C、流路E、流路D、流路Bの順、又は流路B、流路D、流路E、流路C、流路Aの順で隣接し、接続されている。換言すると、第2態様のシート状構造物12では、例えば、流体を流路Aに滴下したときに、当該流体が毛細管現象等により、流路A、流路C、流路E、流路Dをこの順で経由して、最終的に流路Bに流通するように構成されている。この場合、当該流路Aを流体受入部、流路Bを検出部とすることができる。
【0046】
前記シート状構造物において、第1の多孔質構造層の平均厚み(t1)に対する第2の多孔質構造層(t2)の平均厚みの比(t2/t1)が、0.56以上2.2以下であることが好ましい。当該平均厚みの比(t2/t1)が0.56以上2.2以下となるようにシート状構造物を製造することで、材料Mに疎水性材料を含浸させる際の閉塞などの不具合を十分に回避し、例えば、流路から流路までの液の流通速度及び/又は速度安定性を効果的に高めることができる。同様の観点から当該平均厚みの比(t2/t1)は1.0超である、即ち、第2の多孔質構造層の平均厚み(t2)が第1の多孔質構造層の平均厚み(t1)よりも大きいことがより好ましく、1.3以上であることがさらに好ましく、1.8以上であることが特に好ましい。また当該平均厚みの比(t2/t1)は、特に限定されず、3.0以下とすることができる。
【0047】
第2態様のシート状構造物12の平均厚みは、特に制限されず目的に応じて適宜選択することができ、例えば、100μm以上300μm以下とすることができる。当該平均厚みは、商品名で、id-c112bs(ミツトヨ製)等の厚み計を用いて測定することができる。
第2態様のシート状構造物12の大きさとしては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することできる。
【0048】
<第3態様>
第3態様のシート状構造物13について、
図5A~
図5Cを用いて具体的に説明する。
図5Aは、第3態様のシート状構造物の概略断面図であり、
図5Bは、
図5Aの多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図であり、
図5Cは、
図5Aの多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。なお、
図5A~
図5Cに示されるシート状構造物13は、シート状構造物の流路構造が、第2態様のシート状構造物の流路構造と異なること以外は、第2態様のシート状構造物12と同一である。また、
図5Aは、
図5B及び
図5Cで示されるc-c´線で切断した際の概略断面図でもある。さらに、
図5B及び
図5Cにおいて、分離部Xは省略される。
図5Bに示すように、第3態様のシート状構造物13は、第1の多孔質構造層103に、流路A、流路B、流路Aに接続された流路F、及び流路F以外の部位として非流路Yが設けられている。当該流路A及び当該流路Bは、第3態様のシート状構造物13における第1の多孔質構造層103中で離隔されている。
図5Cに示すように、第3態様のシート状構造物13は、第2の多孔質構造層203に流路D、流路E、流路D及び流路E以外の部位として非流路Yが設けられており、流路Eは、流路Dに接続されている。
第3態様のシート状構造物13には、前記第2の多孔質構造層203側の表面に支持体層301が設けられている。
【0049】
第3態様のシート状構造物13は、第1の多孔質構造層103の流路Bと第2の多孔質構造層203の流路Dとが隣接しており、第1の多孔質構造層103の流路Fと第2の多孔質構造層203の流路Eとが接続されている。即ち、第3態様のシート状構造物13は、流路A、流路F、流路E、流路D、流路Bの順で、又は流路B、流路D、流路E、流路F、流路Aの順で隣接し、接続されている。
第3態様のシート状構造物13においては、当該流路F及び当該流路Eを遮断するように分離部Xが形成されている。
そして、流路A、流路B、流路D、流路E、流路F、及び非流路Yは、上述の<第1態様>の項目に記載された材料M又は材料M´で形成されている。
【0050】
図5Aに示すように、第3態様のシート状構造物13においては、例えば、流体を流路Aに滴下したときに、当該液体が毛細管現象等により、流路A、流路F、流路E、流路Dをこの順で経由して、最終的に流路Bに流通するように構成されている。この場合、当該流路Aを流体受入部、流路Bを検出部とすることができる。
上記以外で、<第1態様>と共通する事項については、説明を省略する。
【0051】
<第4態様>
第4態様のシート状構造物14について、
図6A~
図6Cを用いて具体的に説明する。
図6Aは、第4態様のシート状構造物の概略断面図であり、
図6Bは、
図6Aの多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図であり、
図6Cは、
図6Aの多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。なお、
図6A~
図6Cに示されるシート状構造物14は、シート状構造物の流路構造が、第2態様のシート状構造物の流路構造と異なること以外は、第2態様のシート状構造物12と同一である。また、なお、
図6Aは、
図6B及び
図6Cで示されるd-d´線で切断した際の概略断面図でもある。
図6Bに示すように、第4態様のシート状構造物14は、第1の多孔質構造層104に流路B、及び流路B以外の部位として非流路Yが設けられており、流路Aは設けられていない。
図6Cに示すように、第4態様のシート状構造物14は、第2の多孔質構造層204に流路Aと、流路Dと、流路Eと、流路A、流路E、及び流路D以外の部位として非流路Yとが設けられている。当該流路Eは、当該流路D及び当該流路Aのいずれにも接続されている。
第4態様のシート状構造物14には、前記第2の多孔質構造層204側の表面に支持体層301が設けられている。
【0052】
第4態様のシート状構造物14は、第1の多孔質構造層104の流路Dと第2の多孔質構造層204の流路Bとが隣接している。即ち、第4態様のシート状構造物14においては、流路A、流路E、流路D、流路Bの順、又は流路B、流路D、流路E、流路Aの順で隣接し、接続されている。
第4態様のシート状構造物14においては、当該流路A及び当該流路Eを遮断するように分離部Xが形成されている。
そして、流路A、流路B、流路D、流路E、及び非流路Yは、上述の<第1態様>の項目に記載された材料M又は材料M´で形成されている。
【0053】
図6Aに示すように、第4態様のシート状構造物14においては、例えば、流体を流路Aに滴下したときに、当該液体が毛細管現象等により、流路A、流路E、流路Dをこの順で経由して、最終的に流路Bに流通するように構成されている。この場合、当該流路Aを流体受入部、流路Bを検出部とすることができる。
上記以外で、<第1態様>と共通する事項については、説明を省略する。
【0054】
<第5態様>
第5態様のシート状構造物について、
図7A~
図7Bを用いて具体的に説明する。
図7Aは、第5態様のシート状構造物における多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図であり、
図7Bは、第5態様のシート状構造物における多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。
図7A及び
図7Bに示すように、第5態様のシート状構造物は、第2の多孔質構造層205に設けられた流路Dが環状構造であり、その内側に非流路Y1が形成されているという構造を有する点以外は、
図4B及び
図4Cと同様である。
環状構造である流路Dは、円形、楕円形、矩形等の任意の輪郭形状を有することができるが、シート状構造物の平面視で流路Bと実質的に一致する輪郭形状を有することが好ましい。また、当該流路Dの内側に形成される非流路Yは、シート状構造物の平面視で流路Dの輪郭形状を縮尺した形状を有することが好ましい。
【0055】
<第6態様>
第6態様のシート状構造物について、
図8A~
図8Bを用いて具体的に説明する。
図8Aは、第6態様のシート状構造物における多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図であり、
図8Bは、第6態様のシート状構造物における多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。
図8A及び
図8Bに示すように、第6態様のシート状構造物においては、第2の多孔質構造層206が流路Eを複数本(
図8BではE1及びE2の2本)有するという構造を有する点以外は、
図7A及び
図7Bと同様である。上記の構造に関し、流路Eの数だけ流路Fを複数本設け、第1の多孔質構造層の複数本の流路Fと第2の多孔質構造層の複数本の流路Eとをそれぞれ接続させることができる。
【0056】
<第7態様>
第7態様のシート状構造物について、
図9A~
図9Bを用いて具体的に説明する。
図9Aは、第7態様のシート状構造物における多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図であり、
図9Bは、第7態様のシート状構造物における多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。
図9A及び
図9Bに示すように、第7態様のシート状構造物においては、
図7A、
図7B、
図8A、及び
図8Bで示される流路形状を組み合わせたものである。
【0057】
<第8態様>
第8態様のシート状構造物について、
図10A~
図10Bを用いて具体的に説明する。
図10Aは、第8態様のシート状構造物における多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図であり、
図10Bは、第8態様のシート状構造物における多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。
図10A及び
図10Bに示すように、第8態様のシート状構造物おいては、第2の多孔質構造層208が流路Eを3本(E1及びE2に加え、E3)有するという構造を有する点以外は、
図9Bと概ね同様である。その際、
図10Bに示すシート状構造物においては、3本の流路Eを、互いに対向するように流路Dに接続させている。
【0058】
<第9態様>
第9態様のシート状構造物について、
図11A~
図11Bを用いて具体的に説明する。
図11Aは、第9態様のシート状構造物における多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図であり、
図11Bは、第9態様のシート状構造物における多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。
図11A及び
図11Bに示すように、第9態様のシート状構造物においては、流路E3が2本(E31及びE32)に分岐して、流路Dに接続されているという構造を有する点以外は、
図10Bと概ね同様である。
【0059】
<第10態様>
第10態様のシート状構造物について、
図12A~
図12Bを用いて具体的に説明する。
図12Aは、第10態様のシート状構造物における多孔質構造層をα方向から見たときの概略平面図であり、
図12Bは、第10態様のシート状構造物における多孔質構造層をβ方向から見たときの概略平面図である。
図12A及び
図12Bに示すように、第10態様のシート状構造物においては、流路E1及び流路E2に加えて、流路Eを2本(E3及びE4)有するという構造を有する点以外は、
図11Bと概ね同様である。その際、
図12Bに示すシート状構造物においては、4本の流路Eを、互いに対向するように流路Dに接続させている。
【0060】
図8A~
図12Bに示すようなシート状構造物において、流路E(及び流路F)の本数は、液量が増大することを抑制する観点から、4本以下であることが好ましく、3本以下であることがより好ましく、2本であることがさらに好ましい。また、流路Dへの流路Eの接続箇所の数は、4つ以下であることが好ましく、3つ以下であることがより好ましく、2つであることがさらに好ましい。
複数本の流路Eのうちの少なくとも2本が、互いに対向するように前記流路Dに接続されていることが好ましい。また、複数本の流路Eのうちの少なくとも2本が、略同一の形状を有することが好ましい。
【0061】
上述したシート状構造物は、例えば、シート状素材に所定の部位(流路Bなど)を形成して第1の多孔質構造層を作製するとともに、別のシート状素材に所定の部位(流路Dなど)を形成して第2の多孔質構造層を作製し、これらを積層することで製造することができる。或いは、上述したシート状構造物は、1枚のシート状素材の一部に所定の部位を形成して第1の多孔質構造層を作製するとともに、当該1枚のシート状素材の別の一部に所定の部位を形成して第2の多孔質構造層を作製し、当該1枚のシート状素材を、第1の多孔質構造層及び第2の多孔質構造層の位置調整をしつつ折り畳むことで製造することもできる。
本発明におけるシート状構造物は、1枚のシート状素材の一方の面側に第1の多孔質構造層を形成し、他方の面側に第2の多孔質構造層を形成して作製することが好ましい。このような、1枚のシート状素材の両面に第1の多孔質構造層及び第2の多孔質構造層がそれぞれ形成されてなるシート状構造物は、(1)積層(又は折り畳み)の手間及びコストを回避できる、(2)第1の多孔質構造層及び第2の多孔質構造層の間で、毛細管現象による液体の流通が確実になされる、(3)シート状素材の積層(又は折り畳み)を保持するための治具等が不要であるため、廃棄が容易である等の様々な利点を有する。
【0062】
シート状構造物の具体的な製造方法としては、例えば、以下のような方法によって製造することができる。
[シート状構造物の製造方法の一例]
まず、疎水性材料、着色剤、及び樹脂を配合し、例えば、100℃以上140℃以下で溶融混合することによって、WAXインクを調製する。当該WAXインクを、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の基材上に塗布し、インクリボンを作製する。次に、熱転写プリンタ―(例えば、商品名:レスプリR412v-ex、サトーホールディングス株式会社製)を用いて、上質紙上に特定の流路形状を印刷することによって、インクリボンにおける印刷部に欠落した流路パターンを形成する。当該欠落した流路パターンが形成されたインクリボンを、ろ紙の表裏に固定した後、所定の温度及びライン速度に設定した熱ラミネーター(例えば、商品名:GL535ML、GBG社製)を通すことにより、WAXインクをろ紙へ転写・浸透させて3次元形状の流路を形成し、シート状構造物を作製することができる。
ここで、ろ紙としては、特に制限はなく目的に応じて適宜設定することができ、例えば、平均厚み310μm、坪量94g/m3、CFR(Capillary flow rate)13.9sec/4cmのものを使用することができる。
ここで、「所定の温度及びライン速度」とは、ろ紙に対して、WAXインクの浸透・転写が可能である条件であれば、特に制限はないが、転写においては、85℃にてライン速度10mm/sec、浸透においては、85℃にてライン速度5mm/secとすることができる。
【0063】
(シート状構造物の使用方法)
本発明のシート状構造物の使用方法は、前記分離部を基準として一方の側に位置する第一流路に流体を受入し、前記第一流路に受入された前記流体が、前記分離部を基準として他方の側に位置する第二流路に流入しないように、前記分離部において前記第一流路と前記第二流路とを分離させて前記流体の流通を遮断し、一定時間経過後に、前記分離部において前記第一流路と前記第二流路とを接触させて前記第一流路と前記第二流路との間で前記流体を流通させることを特徴とする。
前記シート状構造物の使用方法において、前記第一流路が前記流体受入部であり、前記第二流路の一部に前記検出部が配されることが好ましい。
【0064】
以下、
図1B、
図2A~
図2Bを用いて具体的に説明する。
前記「第一流路」とは、換言すると、分離部を基準として流路を分離させた際に、流体を受け入れる流体受入部が存在する側の流路であることが好ましい。即ち、
図1Bにおいては、分離部Xよりも図中左側に存在する、流路Aを含む流路であることが好ましい。
前記「第二流路」とは、換言すると、分離部を基準として流路を分離させた際に、前記第一流路ではない側の流路、即ち検出部が存在する側の流路であることが好ましい。即ち、
図1Bにおいては、分離部Xよりも図中右側に存在する、流路B及び流路Cを含む流路であることが好ましい。
ここで、「前記分離部において前記第一流路と前記第二流路とを分離させて前記流体の流通を遮断する」とは、例えば、
図2A及び
図2Bに示す通り、分離部を基準として各流路(多孔質構造)を分離させることを示す。
前記「一定時間」とは、流通させる流体の粘度や、当該流体に含まれる成分(例えば、抗原及び抗体)等の反応時間等に応じて、適宜設定することができる。
ここで、「前記分離部において前記第一流路と前記第二流路とを接触させて前記第一流路と前記第二流路との間で前記流体を流通させる」とは、例えば、
図2Aや
図2Bの状態のシート状構造物を
図1Bの状態に戻すことを示す。
【0065】
前記流体受入部、及び前記検出部には、流体(抗原等の検体、及び抗体等の試薬など)が流通せず、吸着されることを防ぐ観点から、予めブロッキング剤を付与してもよい。当該ブロッキング剤としては、例えば、アルブミン水溶液などが挙げられるが、流体の種類や粘度等の物性に応じて適宜選択することが好ましい。
【0066】
本発明のシート状構造物は、検査デバイスとして好適に使用することができる。当該検査デバイスとしては、例えば、妊娠検査薬、イムノクロマト法と呼ばれる、サンドイッチELISA法の原理とクロマトグラフィーの原理を組み合わせた測定方法を利用した検査デバイスなどが挙げられる。
【実施例0067】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0068】
<インクリボンの作製>
以下材料を配合し、100℃で溶融混合することによりWAXインクを調製した。
・疎水性材料としてのパラフィンワックス(商品名:ParaffinWax-135、日本精鑞株式会社製)72.0質量部
・疎水性材料としての合成ワックス(商品名:ダイヤカルナ(登録商標)30、三菱ケミカル株式会社製)18.0質量部
・着色剤としてのカーボンブラック(商品名:MA-100、三菱ケミカル株式会社製)1.8質量部
・樹脂(商品名:ウルトラセン(登録商標)722、東ソー株式会社製)11.25質量部
得られたWAXインクの粘度は、140℃、せん断速度3000s-1の条件下で、23mPa・sであった。当該粘度は、レオメーターAR-G2(ティー・エイ・インスツルメント社製)によって測定した。
【0069】
得られたWAXインクを、平均厚み6μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:ルミラー(登録商標)♯6C F531、東レ株式会社製)上に、平均厚み5μm~12μmとなるように塗布することによって、インクリボンを製造した。
熱転写プリンタ―(商品名:レスプリR412v-ex、サトーホールディングス株式会社製)を用いて、上質紙上に
図13A及び
図13Bに示した流路形状を印刷することによって、インクリボンにおける印刷部に欠落した流路パターンを形成した(
図13C及び
図13D参照)。
【0070】
<流路形成の確認>
まず、適切に流路が形成されるかを確認した。
プリンタ(商品名:Xerox ColorQube8570、XEROX社製)を用いて、
図14Aに示した流路パターンとなるように、ろ紙(商品名:Whatman #41)の片面にWAXインクを印刷した。その後、オーブン内で、120℃、2分間の条件で熱し、WAXインクをろ紙へ浸透させて片面印刷流路を形成した。当該片面印刷流路に対して蛍光インク(蛍光サインペン、アスクル株式会社製)水溶液を浸漬させた後、
図14Aにおけるf-f´線に対応する位置で切断し、マイクロスコープ(キーエンス製)を用いて、流路断面写真を撮影した。その結果を
図14Bに示す。
同様に、
図14Aに示した流路パターンを、ろ紙(商品名:Whatman #41)の両面に印刷したこと以外は、同条件にて浸透を行い、ろ紙内に両面印刷流路を形成した。当該両面印刷流路に対して蛍光インク(蛍光サインペン、アスクル株式会社製)水溶液を浸漬させた後、
図14Aにおけるf-f´線に対応する位置で切断し、マイクロスコープ(キーエンス製)を用いて、流路断面写真を撮影した。その結果を
図14Cに示す。
図14B~
図14Cにおける点線囲み部のみに蛍光インクが確認され、その他の領域には当該蛍光インクの漏れが観察できなかった。このことから、流路が適切に形成されていることを確認することができた。
図14Bは片面印刷、即ち、ろ紙の片側からWAXインクを浸透させたため、形成される流路は、WAXインクを浸透させる面から反対側の面に向かって広がった形状、即ち、テーパー状となる。
図14Cは両面印刷、即ち、ろ紙の両面からWAXインクを浸透させたため、形成される流路は対称となり、ダイヤ型となる。
【0071】
<パラオキソンエチルの定量分析>
パラオキソンエチル(又はパラオキソン)は、リン系農薬の一種である。作物等に付着している当該パラオキソンは、体内に入ると、神経伝達に関与するアセチルコリンエステラーゼ(AChE:acetylcholinesterase)の機能を阻害し、けいれん、縮瞳等を引き起こす神経毒である。本実施例においては、シート状構造物を用いて、検体中のパラオキソンエチル濃度を定量分析する。
【0072】
-多孔質構造層の作製-
図13C及び
図13Dに示される、欠落した流路パターンが形成されたインクリボンのそれぞれを、ろ紙(平均厚み310μm、坪量94g/m
3、CFR(Capillary flow rate)13.9sec/4cm)の表裏に固定した後、所定の温度に設定した熱ラミネーター(商品名:GL535ML、GBG社製)に通すことにより、WAXインクをろ紙へ転写・浸透させ、ろ紙内に3次元形状の流路を形成し、多孔質構造層を作製した。ここで「所定の温度」とは、転写においては、85℃にてライン速度10mm/sec、浸透においては、85℃にてライン速度5mm/secとした。
得られた多孔質構造層は、
図15に示した構造を有していた。なお、
図15は、
図13A~
図13Dで示したe-e´線に対応する位置で切断した際の概略断面図である。ここで、得られた多孔質構造層において、便宜上、
図15に示した通り、流路A~Hまで流路名を付した。また、流体受入部とする流路A、及び検出部とする流路Bを有する層を第1の多孔質構造層111として示し、当該第1の多孔質構造層111ではない層を第2の多孔質構造層211として示した。
【0073】
―ブロッキング、及び固定―
AChE(シグマアルドリッチ製)のろ紙への吸着を防ぐために、流体受入部(流路A)にブロッキング剤としてアルブミン0.8%水溶液(富士フィルム和光純薬株式会社製)を2μL滴下し、30℃で15分間乾燥させた。
次いで、検出部(流路B)に、酢酸インドキシル(IDA)の固定化剤としてPDDA(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド)水溶液0.25(w/v%)(シグマアルドリッチ製)を2μL滴下し、30℃で15分間乾燥させた。なお、IDAは、AChEと反応して青色に呈色する基質である。
次いで、IDA(シグマアルドリッチ製)をメタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)で溶解させた後、純粋で希釈し、メタノールと水との重量比が70/30であり、かつIDAが40mMである溶液を調製し、当該溶液を検出部(流路B)に3μL滴下し、30℃で15分間乾燥させた。
【0074】
-支持体層の作製-
得られた多孔質構造における流体受入部である流路Aを覆わないように、当該支持体層の両面に、支持体層としての粘着テープ(商品名:660PF、ニチバン株式会社製)を重ね合わせ、室温条件下で、ハンドローラーを用いてラミネートした。ここで、便宜上、
図16に示した通り、前記第1の多孔質構造層111側の支持体層を302とし、前記第2の多孔質構造層211側の支持体層を301とした。
次いで、流体受入部(流路A)と、当該流体受入部に隣接した流路Cの間をカッターで切断して分離部Xを形成し、シート状構造物15を得た。このとき、支持体層301には切れ込みが入らないようにした。得られたシート状構造物15は、
図16に示した構造を有していた。
得られたシート状構造物15を、
図17に示す通り、分離部Xを基準として180°折り曲げてクリップで固定した。
【0075】
―反応―
AChEを100U/mLとなるように、Tris-HCl(pH8.0)(株式会社ニッポンジーン製)を用いて調製し、流体受入部(流路A)に3μL滴下し、30℃で15分間乾燥させた。
EtOH(富士フィルム和光純薬株式会社製)が6vol%となるように添加したTris-HCl(pH8.0)を準備し、パラオキソンエチル(シグマアルドリッチ製)の濃度が、0μg/L、200μg/L、400μg/L、800μg/Lとなる溶液を作製し、各溶液を流体受入部(流路A)に投入し、室温にて反応させた。
5分間静置後、クリップを外し、シート状構造物15の流路を再度接触させて(
図16の状態に戻して)、流体の流通を継続させた。10分間静置後、検出部Bにおける呈色をコニカミノルタ製濃度計FD-05にて、L
*a
*b
*表色系にて示した。結果を表1、
図18A、及び
図18Bに示した。
【0076】
【0077】
シート状構造物を分離部にて折り曲げなかったサンプルに比し、シート状構造物を分離部にて折り曲げたサンプルの方が、L*値の上昇、及びb*値の上昇が確認できた。即ち、シート状構造物を分離部にて折り曲げることにより、隣接した流路を完全に遮断することで、パラオキソンエチルとAChEとの十分な反応時間を確保することができ、定量分析の精度を向上させることができた。