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特開2024-77114スリップ防止用アクリルエマルション組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077114
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】スリップ防止用アクリルエマルション組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/00 20060101AFI20240531BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240531BHJP
   C09D 131/00 20060101ALI20240531BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240531BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20240531BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20240531BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20240531BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C08L51/00
C09D5/02
C09D131/00
C09D7/65
C09D171/02
C08K5/17
C08K5/06
B32B27/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188964
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武志
(72)【発明者】
【氏名】市口 邦宏
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AK25A
4F100AK54A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100JA05
4F100JK07
4F100JL00
4F100JM01A
4J002BN121
4J002ED037
4J002EN127
4J002GH01
4J002GH02
4J002GK04
4J002HA07
4J038CG141
4J038DF011
4J038MA10
4J038NA10
4J038PB04
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】本発明は、防滑性、耐ブロッキング性および版洗浄性に優れたスリップ防止用アクリルエマルション組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
コア部およびシェル部のモノマー組成やTg、酸価を適切に設計したコアシェル型アクリルエマルションに対して、特定のエチレンオキサイド鎖長を有するポリオキシエチレンアルキルアミンおよび/またはポリオキシエチレンアルキルエーテルを組み合わせることで先の課題を解決する
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル型アクリルエマルションと、一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルアミン、および一般式(2)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とを含むスリップ防止用アクリルエマルション組成物であって、
該コアシェル型アクリルエマルションのコア部(A)とシェル部(B)との質量比が、90:10~60:40であり、
該コアシェル型アクリルエマルションが、-30~0℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有し、
該一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルアミンと該一般式(2)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルとの合計の含有率が、アクリルエマルション組成物の固形分100質量%に対して5~20質量%であることを特徴とするスリップ防止用アクリルエマルション組成物。

一般式(1)
【化1】
[一般式(1)において、Rが飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示し、、mおよびnは、それぞれ独立して、0~40の数であり、m+nは、2~40の数である]

一般式(2)
【化2】
[一般式(2)において、R2が飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示し、kは、2~40の数である]
【請求項2】
前記コアシェル型アクリルエマルションのコア部(A)が-50~0℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有し、かつシェル部(B)が10~120℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有する、請求項1記載のスリップ防止用アクリルエマルション組成物。
【請求項3】
0~50℃における貯蔵弾性率E’が2.0×10~ 2.0×10Paである、請求項1記載のスリップ防止用アクリルエマルション組成物。
【請求項4】
前記コアシェル型アクリルエマルションのコア部(A)およびシェル部(B)が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、 (メタ)アクリル酸エチル、 (メタ)アクリル酸ブチル、 (メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、スチレン、およびα-メチルスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー由来の構成単位を含む、請求項1記載のスリップ防止用アクリルエマルション組成物。
【請求項5】
一般式(1)中のRおよび一般式(2)中のRが、オレイル基、ドデシル基およびステアリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭化水素基を含み、m+n、およびkが4~20である、請求項1記載のスリップ防止用アクリルエマルション組成物。
【請求項6】
基材上に、請求項1~5記載のスリップ防止用アクリルエマルション組成物を塗工または印刷してなる積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
スリップ防止用アクリルエマルション組成物、および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
段ボール、カートン等の紙器及び様々な紙袋は、農産物、水産物、飲料品をはじめとする食料品、各種工業製品等の梱包および輸送に使用されている。板紙や段ボール紙などから作製された箱に内容物を入れて、リフトやコンテナーにて輸送する際には荷崩れしないように、バンド掛けやポリプロピレンフィルムで収縮梱包が必要となる場合がある。しかし、この方法は、作業が煩雑となり、また廃棄物も発生することからより簡便な方式が求められている。そこで、近年、ダンボール箱の天面と底面に、防滑効果を有する水性コーティング材を塗工して、荷崩れを防止する方式が主流となっている。
【0003】
従来、段ボール化した後に塗工処理が行われていたが、この方法は生産性が悪く、段ボール加工前に、前もって段ボール原紙に防滑材を塗工するプレコート方式が採られるようになってきている。この場合、段ボール化の際に貼合時に高温度の熱板による圧着加工がなされることから、従来の防滑材に比べより耐熱性が求められ、また段ボール原紙を巻き取る工程において耐ブロッキング性が求められる。
【0004】
一般に、防滑剤としては粘着タイプ( 紙器等表面に塗工された防滑剤の乾燥皮膜表面に粘着性が保持されており、この粘着力で防滑効果を発揮するもの)と非粘着タイプ(紙器等表面に塗工された防滑剤の乾燥皮膜表面に細かな凹凸を形成させ、その摩擦抵抗により防滑効果を発揮するもの)が使用されている。
【0005】
粘着タイプとしては、一般的に粘着性を有するアクリル共重合体エマルジョンやエチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョンが用いられており(特許文献1)、高防滑性を得られ易いが、塗布加工後の乾燥皮膜表面に粘着性を有するためブロッキングが生じ易く紙器等の表面が損傷したり、剥離抵抗が強いため自動包装工程における事故や、輸送の際等に塗布表面にゴミ、ホコリ等の付着による汚染されて商品価値が著しく低下する等の支障があった。更に、防滑性が環境温度に著しく影響され、温度が高いと防滑性が増加してブロッキングし易くなり、低いと防滑性が低下するという問題があった。
【0006】
一方で、非粘着タイプの防滑剤として、無機充填剤とバインダー(共重合体エマルション)とを組み合わせた被覆組成物があり、無色透明のコロイダルシリカとアクリル共重合体とからなる複合体粒子エマルションを使用することが提案されている(特許文献2、3)。この防滑剤は、使用樹脂の適切なガラス転移温度(Tg)の選択による良好な防滑性とコロイダルシリカ添加による耐ブロッキング性を両立することを特徴とする。
【0007】
しかしながら、これらの防滑剤に用いられる樹脂は水溶解性が低く、市販のアルカリ洗浄剤等を用いても溶解性にも乏しいという点で課題がある。軟包装印刷で良く用いられるフレキソ印刷方式では、アニロックスロールや印刷版は繰り返し使用するため印刷後もしくは切り替え時にこれらを洗浄する必要があるが、溶解性が乏しいと洗浄に時間を要することから生産性を低下させる。また、印刷中にアニロックスロールの詰まりといった印刷不良を引き起こす原因ともなる。
【0008】
そこで、比較的高い酸価を有する高分子乳化剤をシェル部に持たせることで水溶解性を担保させることが可能な二重構造のコアシェル型アクリルエマルションをバインダー樹脂に活用することが一つの解決手段として挙げられ、特許文献4では、コア部分のTg が20~90℃ で、シェル部分のTg が-20~10℃ であるコアシェル型アクリルエマルションが提案されている。しかし、防滑性を引き出すためにシェル部分のTgが低く設定されており、高温環境下での耐ブロッキング性が十分ではない(特許文献5)。
【0009】
上記より、低温から高温までの環境下において、防滑性と耐ブロッキング性、更には版洗浄性を満足する防滑用コーティング剤は未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002-363886
【特許文献2】特開2012-192691
【特許文献3】特開平7-304999
【特許文献4】特開平4-306273
【特許文献5】特開2001-151806
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、水性のスリップ防止用アクリルエマルション組成物に関して、一般の段ボールシート、塗工紙、ライナー紙、撥水紙、軽量塗工紙、アート紙等へ塗工されることによって優れた防滑性、耐ブロッキング性、版洗浄性を付与するスリップ防止用アクリルエマルションおよび積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を鑑みて、鋭意検討を行った結果、以下に記載の水性防滑剤組成物を使用することで課題解決できることを見出し、本願発明を成すに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、コアシェル型アクリルエマルションと、一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルアミンおよび一般式(2)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とを含むスリップ防止用アクリルエマルション組成物であって、該コアシェル型アクリルエマルションのコア部(A)とシェル部(B)との質量比が、90:10~60:40であり、該コアシェル型アクリルエマルションが、-30~0℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有し、該一般式(1)で示されるポリオキシエチレンアルキルアミンと該一般式(2)で示されるポリオキシエチレンアルキルエーテルとの合計の含有率が、アクリルエマルション組成物の固形分100質量%に対して5~20質量%であることを特徴とするスリップ防止用アクリルエマルション組成物に関する。

一般式(1)
【化1】

[一般式(1)において、Rが飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示し、mおよびnは、それぞれ独立して、0~40の数であり、m+nは窒素原子に付加させたエチレンオキサイドの平均付加モル数を表し、2~40の数である]

一般式(2)
【化2】
[一般式(2)において、R2が飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示し、kはR2に付加させたエチレンオキサイドの平均付加モル数を表し、2~40の数である]
【0014】
また、本発明は、コア部(A)が-50~0℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有し、かつシェル部(B)10~120℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有する、前記のスリップ防止用アクリルエマルション組成物に関する。
【0015】
また、本発明は、0~50℃における貯蔵弾性率E’が2.0×10~ 2.0×10Paである前記のスリップ防止用アクリルエマルション組成物に関する。
【0016】
また、本発明は、コア部(A)およびシェル部(B)が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、 (メタ)アクリル酸エチル、 (メタ)アクリル酸ブチル、 (メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、スチレン、およびα-メチルスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種のラジカル重合性モノマー由来の構成単位を含む、前記のスリップ防止用アクリルエマルション組成物に関する。
【0017】
また、本発明は、一般式(1)中のRおよび一般式(2)中のRが、オレイル基、ドデシル基およびステアリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭化水素基を含み、m+n、およびkが4~20である前記のスリップ防止用アクリルエマルション組成物に関する。
【0018】
また、本発明は、基材上に、前記のスリップ防止用アクリルエマルション組成物を塗工または印刷してなる積層体に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明者らは、エマルション樹脂設計と界面活性剤の最適な組み合わせを見出したことにより、防滑性を大きく向上させつつ耐ブロッキング性や版洗浄性を高いレベルで提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に例を挙げて本発明の実施形態を詳細に説明するが、以下に記載する事項は本発明の実施形態の一例ないし代表例であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0021】
[スリップ防止用アクリルエマルション組成物]
本発明のスリップ防止用アクリルエマルション組成物は、コアシェル型アクリルエマルションと、一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルアミンおよび一般式(2)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種とを含むスリップ防止用アクリルエマルション組成物であって、該コアシェル型アクリルエマルションのコア部(A)とシェル部(B)との質量比が、85:15~60:40であり、該コアシェル型アクリルエマルションが、-30~0℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とする。

一般式(1)
【化1】

[一般式(1)において、Rが飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示し、mおよびnは、それぞれ独立して、0~40の数であり、m+nは窒素原子に付加させたエチレンオキサイドの平均付加モル数を表し、2~40の数である]

一般式(2)
【化2】
[一般式(2)において、R2が飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示し、kはR2に付加させたエチレンオキサイドの平均付加モル数を表し、2~40の数である]
【0022】
[コアシェル型アクリルエマルション]
コアシェル型アクリルエマルションは、重合性不飽和モノマーを共重合成分とする共重合体であるコア部と重合性不飽和モノマーを共重合成分とする共重合体であるシェル部とからなるアクリル樹脂粒子である。シェル部は樹脂粒子の最外層に存在する重合体層を意味し、コア部は上記シェル部を除く樹脂粒子内層の重合体層を意味し、コアシェル型構造は上記コア部とシェル部を有する構造を意味するものである。コアシェル型アクリルエマルションは、例えば、重合性不飽和モノマーを、既知の方法、例えば、有機溶媒中で溶液重合法で重合した後に水分散して樹脂粒子とする方法や、水中でのエマルション重合法(乳化重合)等の方法により重合することによって得ることができる。これらの方法のうち、水中でのエマルション重合法により得られたものを好適に使用することができる。
【0023】
[重合開始剤]
乳化重合の重合開始剤としては、乳化重合で一般的に使用される重合開始剤のいずれも利用可能であるが、たとえば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩類、ベンゼンパーオキサイドなどの有機過酸化物類、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリルなどのアゾ系化合物類などをあげることができ、これらは単独または混合して使用することができる。
【0024】
[シェル部]
本発明において、シェル部は主として高分子乳化剤を用い、後述するポリオキシエチレンアルキルアミンおよび/またはポリオキシエチレンアルキルエーテルを低分子乳化剤として併用する形態が好ましい。高分子乳化剤は、アクリル酸等の水溶性モノマーを適度に共重合することで得られるアクリル共重合体を、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム等の塩基により中和することで水溶化させた水溶性アクリル樹脂を用いることができる。
水溶性アクリル樹脂は、市販品を使用しても構わない。市販品としては、例えば、BASF社製JONCRYL(ジョンクリル;登録商標)シリーズ(商品名、BASFジャパン社製)、具体的には、JONCRYL 67(重量平均分子量12,500、酸価213mgKOH/g、Tg73℃)、JONCRYL 678(重量平均分子量8,500、酸価215mgKOH/g、Tg85℃)、JONCRYL 586(重量平均分子量4,600、酸価108mgKOH/g、Tg60℃)、JONCRYL 680(重量平均分子量4,900、酸価215mgKOH/g、Tg67℃)、JONCRYL 682(重量平均分子量1,700、酸価238mgKOH/g、Tg56℃)、JONCRYL 683(重量平均分子量8,000、酸価160mgKOH/g、Tg75℃)、JONCRYL 690(重量平均分子量16,500、酸価240mgKOH/g、Tg102℃)、JONCRYL JDX-C3080(重量平均分子量14,000、酸価230mgKOH/g、Tg134℃)等があげられる。これらの水溶性アクリル樹脂の詳細な組成は開示されていないが、主に(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/またはスチレン系モノマーとの共重合体である。
【0025】
これらの水溶性アクリル樹脂の酸価は100~300mgKOH/gである事が好ましい。水溶性アクリル樹脂の酸価が100~300mgKOH/gとすることで、樹脂エマルションの粒度分布を制御しやすく、粗大粒子の増加やエマルション反応時の増粘を抑制しやすい。また、シェル成分とコア部分との相溶性が担保されることで塗膜物性(基材密着性、耐水摩擦性)の低下を防ぐことができる。さらに塗膜の乾燥不良の発生や、水への溶出成分を抑えることにより、塗膜物性(基材密着性、耐水摩擦性、耐ブロッキング性)を確保しやすい。
【0026】
[コア部]
本発明において、コア部はシェル部となる水溶性高分子が溶解した水相に対して、疎水性の重合性不飽和モノマーを滴下し、適度な温度において重合開始剤と反応させることにより水中に油相を形成させる、一般的な重合方法で形成させることができる。
【0027】
[重合性不飽和モノマー]
「シェル部」および「コア部」で用いられる重合性不飽和モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(商品名、大阪有機化学工業社製)、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等のアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート等のイソボルニル基を有する重合性不飽和モノマー;アダマンチル(メタ)アクリレート等のアダマンチル基を有する重合性不飽和モノマー;トリシクロデセニル(メタ)アクリレート等のトリシクロデセニル基を有する重合性不飽和モノマー;ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香環含有重合性不飽和モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基を有する重合性不飽和モノマー;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等のフッ素化アルキル基を有する重合性不飽和モノマー;マレイミド基等の光重合性官能基を有する重合性不飽和モノマー;N-ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等のビニル化合物;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物、該モノエステル化物のε-カプロラクトン変性体、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、アリルアルコール、分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性不飽和モノマー;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β-カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物等の含窒素重合性不飽和モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3 , 4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。さらには、重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマーを使用でき、例えば、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテレフタレート、ジビニルベンゼン等を挙げることができる。これらのモノマーは、要求される性能に応じて1種を単独で、又は2種以上を組合せて使用することができる。
上記の中でも、コア部(A)およびシェル部(B)が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、 (メタ)アクリル酸エチル、 (メタ)アクリル酸ブチル、 (メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、スチレン、およびα-メチルスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種のラジカル重合性モノマー由来の構成単位を含むことが重合安定性、エマルション樹脂生産における原料調達容易性の観点から好ましい。
【0028】
[コアシェル比]
本発明のコアシェル型アクリルエマルションのコアシェル比は、コア部とシェル部との質量比を表し、コア部:シェル部が、90:10~60:40の範囲であることが望ましい。この範囲においてシェル部の質量比を増加させることや、比較的高酸価の樹脂を選択することで、コアシェル重合反応時のエマルション形成が安定化しやすくブツの発生が抑えられる。また、水溶性が高まることで再溶解しやすく版洗浄性が向上する。一方で、粒子の最外殻を構成するシェル部が多くなると防滑性は大きく低下する傾向にある。より好ましくは、85:15~65:35であり、さらに好ましくは82:18~70:30である。
【0029】
[コアおよびシェルのTg]
本発明のコアシェル型アクリルエマルションは、-30~0℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有することが、防滑性および耐ブロッキング性の観点から好ましく、-20~-10℃であるとより好ましい。
さらに詳述すると、上記条件を満たしつつ、コア部(A) が-50~0℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有し、かつシェル部(B)が10~120℃の範囲にガラス転移温度(Tg)を有することが尚好ましい。コア部のモノマーおよびシェル部の水溶性樹脂を高Tg化した樹脂設計とすることで耐ブロッキング性の向上が図られるが、防滑性や版洗浄性の低下が課題となる。
【0030】
[ポリオキシエチレンアルキルアミン]
本発明で用いられる界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルアミンは、下記一般式(1)で示されるポリオキシエチレンアルキルアミンを含むことを特徴とする。

一般式(1)
【化1】

[一般式(1)において、Rが飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示し、m+nは窒素原子に付加させたエチレンオキサイドの平均付加モル数を表し、2~40の数である]
【0031】
[ポリオキシエチレンアルキルエーテル]
本発明で用いられる界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルエーテルは、下記一般式(1)で示されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含むことを特徴とする。
一般式(2)
【化2】
[一般式(2)において、R2が飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基を示し、kはR2に付加させたエチレンオキサイドの平均付加モル数を表し、2~40の数である]
【0032】
上記一般式(1)中のR1、および一般式(2)中のRは、オレイル基、ドデシル基およびステアリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭化水素基を含むことが好ましい。また、m+n、およびkは、4~20であることが好ましい。
【0033】
本発明で用いられる界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルアミンおよび/またはポリオキシエチレンアルキルエーテルは、コアシェル型アクリルエマルションの重合反応後の添加剤として使用することも可能であるが、重合反応時の低分子乳化剤として用いることで重合時に発生するブツの抑制やエマルション反応の不安定化によるエマルション粒子径の増大や増粘を防ぐ効果があるため、後者の活用が望ましい。また、コアシェル型アクリルエマルションのTgや組成、ポリオキシエチレンアルキルアミンおよび/またはポリオキシエチレンアルキルエーテルの添加量と組成を考慮して適切に設計することで塗膜を適度に柔軟化し、防滑性と耐ブロッキング性の両立が可能となり、さらには洗版性の向上を図ることができる。
【0034】
本発明で用いられるポリオキシエチレンアルキルアミンの具体例としては、ポリオキシエチレンカプリルアミン、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンミリスチルアミン、ポリオキシエチレンパルミチルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンヤシ油アルキルアミン、ポリオキシエチレン牛脂アルキルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンヤシ油アルキルアミン、ポリオキシエチレン牛脂アルキルアミン等が挙げられ、なかでも、ポリオキシエチレンラウリルアミンまたはポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミンが好ましい。
【0035】
このようなポリオキシエチレンアルキルアミンの市販品としては、日油社製ナイミーンL-202、L-207、F-202、F-215、T2-202、T2-210、T2-230、S-202、S-210、S-215、S-220、O-205、青木油脂社製ブラウノンL-202、L-205、L-207、L-210、L-230、S-205T、S-207T、S-208T、S-210T、S-215T、S-220T,S-230T、S-240T、花王社製アミ-ト102、105、105A、302、320等が挙げられる。
【0036】
本発明で用いられるポリオキシエチレンアルキルエーテルの具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンミリステルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等が挙げられ、なかでもポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルまたはポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルが好ましい。
【0037】
このようなポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、市販品を用いることができ、例えば、製品名 エマルゲン103、104P、105、106、108、109P、120(花王株式会社製)、ノイゲンET-102(第一工業製薬株式会社製)などのポリオキシエチレンラウリルエーテルを好適に使用することができる。これらのポリオキシエチレンアルキルエーテルは、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0038】
これらポリオキシエチレンアルキルアミンおよびポリオキシエチレンアルキルエーテルのエチレンオキサイドの付加モル数は2~40が好ましく、4~20がさらに好ましい。ポリオキシエチレンアルキルアミンおよびポリオキシエチレンアルキルエーテルの添加量はアクリルエマルション組成物の固形100質量%に対して5~20質量%が好ましく、8~15質量%がより好ましい。
【0039】
[その他の界面活性剤]
本発明のスリップ防止用アクリルエマルション組成物には、上記以外の界面活性剤を用いることもでき、界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤、これらの反応性界面活性剤などが挙げられる。また、これらの界面活性剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0040】
本発明のスリップ防止用アクリルエマルション組成物には、必要に応じて、コアシェル型アクリルエマルション、一般式(1)で示されるポリオキシエチレンアルキルアミンおよび一般式(2)で示されるポリオキシエチレンアルキルエーテル以外の材料を使用することができる。
【0041】
[シリカ]
本発明のスリップ防止用アクリルエマルション組成物には、高い滑り角度を得るために、シリカ粒子を使用することができる。シリカ粒子の平均粒子径は、好ましくは1~10μmであり、より好ましくは2~5μmのシリカ粒子である。
また、アクリルエマルション組成物の固形分中に1.0~20.0質量%の範囲で含有させることにより、防滑性をさらに向上させることができる。耐摩擦性の低下を避ける観点から10質量%以下が好ましい。粒子径が1μm未満のような微細なシリカ粉は耐ブロッキング効果が低いので添加量を多くする必要がある。しかし、これによりアクリルエマルション組成物の流動性が低下してしまい作業性が低下する。また、粒子径が10μmを越えるとアクリルエマルション組成物の塗工塗膜表面が荒れ耐摩擦性が低下し問題を生じるおそれがある。これらは単独で、または複数の異なる粒径のものを組み合わせて用いることが出来る。このようなシリカ粒子を含有させることにより、印刷等によりアクリルエマルション組成物による被膜を形成後において、被膜表面に凹凸が生じ、それにより防滑性をさらに向上させることができる。
【0042】
[架橋剤]
本発明におけるエマルションの樹脂部を構成する共重合体は、架橋されていてもよい。このとき使用できる架橋剤としては、アジリジン系、エポキシ系、オキサゾリン系、カルボジイミド系、金属キレート化合物、ヒドラジン系の各架橋剤を使用することができる
【0043】
[その他添加剤]
さらに本発明のスリップ防止用アクリルエマルション組成物には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メトキシプロパノール、N-メチルピロリドンなどの水混和性溶剤、無機充填剤、ワックス、消泡剤、レベリング剤、増粘剤などの各種添加剤を添加することができる。
【0044】
<スリップ防止用アクリルエマルション組成物の製造方法>
本発明のスリップ防止用アクリルエマルション組成物は、重合して得られるコアシェル型アクリルエマルションと、ポリオキシエチレンアルキルアミンおよび/またはポリオキシエチレンアルキルエーテルとの混合物に対して、任意の割合でシリカ等の添加剤を高速ミキサーで撹拌しながら混合し、分散することで調製する。その際に適正な塗工粘度とすることや、基材への濡れ性確保のための希釈剤として水以外にイソプロパノール等のアルコール溶剤を適宜使用することができる。
【0045】
<スリップ防止用アクリルエマルション組成物の使用方法>
本発明のスリップ防止用アクリルエマルション組成物により、印刷又は塗布等の手段により容器表面の一部又は全面に被膜を形成させる。
防滑剤組成物であるので防滑性が求められる対象、つまり段ボール箱、紙袋等の紙製素
材、樹脂製箱、缶、袋等の樹脂製容器、荷作り用紐、ロープ、テープ等の材料、パレット
等の、内容物を入れるための容器、輸送用の容器等の傾斜、重ねて保管、重ねた状態で移
動されるような用途の容器や関連する材料、あるは、フォークリフトのフォーク部分、手
袋、保管や輸送用の器具や部品等、防滑性を必要とする用途に使用できる。
【0046】
本発明のスリップ防止用アクリルエマルション組成物を使用した紙容器の製造方法について説明する。
まず、本発明の水性防滑剤組成物の塗工方法としては、ロールコーター、バーコーター
などや、フレキソまたはグラビア方式による印刷機を使用して、被塗布物の全面または部
分的に塗布・印刷することができる。また、本発明の水性防滑剤組成物を塗工できる被塗
工体としては、ウェブ状の紙、カートン、段ボールや紙袋などの表面であり、印刷インキ
が印刷された印刷面に塗布・印刷することもできる。
【0047】
塗工量は紙器等の成形物の形状、大きさによっても異なるが、塗工部分の1m2あたり1.5~2.5g(ニスの乾燥重量)の範囲が好ましい。塗布量が少ないと滑り防止効果が十分でなく、多いと耐ブロッキング性が低下する。塗工面はベタ状、網点状等または模様のような何らかの意匠性を持たせてもよい。段ボールの場合、天面部に網点、地面部にベタの組み合わせが最も優れた防滑角度が得られるが、これに限定されない。
【0048】
<アクリルエマルション組成物の貯蔵弾性率>
防滑性を左右する因子は、スリップ防止用アクリルエマルション組成物の塗工膜の表面形状や柔らかさ、表面タック性、表面組成など多岐にわたると推測される。本発明では、アクリルエマルション自体の貯蔵弾性率E’と防滑性との相関性に着目した。貯蔵弾性率E’が低ければ低いほど塗膜は柔らかいため防滑性は発揮されやすくなるが、耐ブロッキング性の面で不利となる。本発明においては、0~50℃の温度域(夏場~冬場の環境想定)で貯蔵弾性率E’を好ましくは2.0×106~2.0×10Pa、より好ましくは2.0×106~5.0×10Paの範囲とすることが望まれる。上記の範囲に設計することで防滑性と耐ブロッキング性が両立することが可能となる。
【実施例0049】
<重量平均分子量>
本明細書における水溶性アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は常法によって測定することができる。TSKgelカラム(東ソー社製)及びRI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC-8420GPC)を用い、展開溶媒にTHF(テトラヒドロフラン)を用いて測定したものであり、いずれもポリスチレン換算値である。
【0050】
<Tg>
本発明におけるTgは、各モノマーから形成され得る各ホモポリマーのガラス転移温度(Tgn)、重合に供される各モノマーの重量分率から以下の式に基づいて求めることができる。
1/Tg=Σ(Wn/Tgn)
Tg :重合体の計算Tg(絶対温度)
Wn :モノマーnの重量分率
Tgn:モノマーnのホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)
なお、計算に使用したホモポリマーのガラス転移温度は後述する。
【0051】
以下に、本発明の具体的な実施例を比較例と併せて説明するが、本発明は、下記実施例
に限定されない。また、下記実施例および比較例中、「部」および「%」は、それぞれ「質量部」および「質量%」を表す。
【0052】
<水溶性アクリル樹脂1の合成および中和による水溶化>
攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イソブチルアルコール392部を仕込み、攪拌しながら、窒素還流下で温度105℃ まで昇温した。次に、滴下ロートに、メタクリル酸メチル64.3部、アクリル酸ブチル114.1部、スチレン46.6部、アクリル酸85.8部、イソブチルアルコール168部を入れ、他方の滴下ロートにはパーブチルO 18.7部およびイソブチルアルコール37.3部を仕込み、それぞれ2時間かけて滴下した。滴下完了後、パーブチルO 0.62部とイソブチルアルコール10.4部を混合した溶液を一時間毎に反応容器へ3回添加した。その後、還流温度で3時間継続し、重合反応を完了させた。反応容器に分留用連結管および冷却管、500mlナスフラスコを取り付け、反応容器を撹拌しながら120℃から140℃まで徐々に昇温させ、イソブチルアルコールの大部分を留去し、さらにダイアフラムポンプと繋げて減圧操作をすることで脱溶剤を完了させた。反応容器を95℃に設定し、溶剤を留去した粘調の固形物に対して30%水酸化ナトリウム水溶液115部を1時間かけて徐々に滴下し中和反応させた後、イオン交換水688部を加えた。固形分が25%となるようにイオン交換水を追加し、水溶性アクリル樹脂1の水溶液を調製した。水溶性アクリル樹脂1の分子量は10,000であった。
【0053】
<水溶性アクリル樹脂2の中和>
攪拌器、温度計、還流器を備えた反応容器にJONCRYL678のペレット状固形物240部とイオン交換水655部を入れ、70℃まで昇温した後、30%水酸化ナトリウム水溶液110部を少しずつ添加することで樹脂を中和し、10時間撹拌することで固形物を完全に溶解させた(中和率90%)。さらに固形分が25%となるようにイオン交換水を追加してアクリル樹脂2の水溶液を調製した。
【0054】
<水溶性アクリル樹脂3および4の中和>
水溶性アクリル樹脂3にはJONCRYL680、水溶性アクリル樹脂4にはJONCRYL690を用いた以外は、水溶性アクリル樹脂2の水溶液と同様の方法でアクリル樹脂水溶液を調製した。
【0055】
【表1】
【0056】
<(実施例1)コアシェル型アクリルエマルション組成物の合成例>
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、上記方法で作製した水溶性アクリル樹脂2の水溶液107.9部(樹脂固形分27.0部;内JONCRYL678が25.0部、Na分が2.0部)およびエマルゲン105を10.0部入れ窒素気流下で温度75℃まで昇温した。次に、滴下ロートにメチルメタクリレート20部、2-エチルヘキシルアクリレート30.0部、ブチルアクリレート25.0部を入れ滴下層の準備を行った。さらに、過硫酸アンモニウム0.50部をイオン交換水2.0部に溶解させ、この水溶液を反応容器に添加し、3分後に滴下層のモノマーを2時間かけて滴下した。滴下完了の1時間後および2時間後に過硫酸アンモニウム0.1部とイオン交換水1.1部の水溶液を添加した。反応容器の温度を80℃にし、さらに3時間撹拌を続け反応を完了した。濾布で濾過することでゲル物やゴミを取り除いた後、固形分が50%となるようにイオン交換水を追加してコアシェル型アクリルエマルション組成物を得た。
【0057】
実施例2~32、比較例1~11に示すコアシェル型アクリルエマルション組成(表2~4参照)は実施例1の上記合成例を基にして、原料組成や使用量を変更した以外は同様の方法を用いて合成を行った。エマルションの粘度が5,000mPa・s以上となる場合は固形分50%以下となるが、イオン交換水で適宜希釈し適正粘度とした。
【0058】
表2~4にはアクリルエマルション重合安定性評価、そして合成したアクリルエマルションを用いて作製した塗膜の物性評価結果を記載した。塗膜物性評価における塗膜作製の際には、添加剤としてコアシェル型アクリルエマルション100部に対してサーフィノール440(日信化学工業製)を0.5部、ミズカシルP-603(水澤化学工業製;沈降タイプ、平均粒径3μm)、ミズカシルP-73(水澤化学工業製;ゲルタイプ、平均粒径4μm)をそれぞれ2.5部ずつ加え、塗工印刷時は適正粘度となるようにイオン交換水を適宜追加して調製した。
【0059】
【表2】

【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
表2~4で用いた原料の略称および性状は以下のとおりである。
<アクリルモノマー略称>
MMA:メチルメタクリレート Tg:105℃(378K)
EA:エチルアクリレート Tg:-24℃(249K)
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート Tg:-70℃(203K)
St:スチレン Tg:100℃(373K)
BA:ブチルアクリレート Tg:-54℃(219K)
OA:オクチルアクリレート Tg:-65℃(208K)
LMA:ラウリルメタクリレート Tg:-65℃(208K)
SA:ステアリルアクリレート Tg:30℃(303K)
なお、 Tgは各モノマーのホモポリマーでの値である。
【0063】
<ポリオキシエチレンラウリルエーテル>
エマルゲン103 (平均EO鎖長3mol)花王(株)製 HLB値=8.1
エマルゲン105 (平均EO鎖長4mol)花王(株)製 HLB値=9.7
エマルゲン108 (平均EO鎖長6mol)花王(株)製 HLB値=12.1
エマルゲン120 (平均EO鎖長12mol)花王(株)製 HLB値=15.3

<ポリオキシエチレンステアリルエーテル>
エマルゲン320P (平均EO鎖長13mol)花王(株)製 HLB値=13.9

<ポリオキシエチレンラウリルアミン>
ブラウノンL-202(平均EO鎖長2mol)青木油脂(株)製 HLB値=6.2
ブラウノンL-205(平均EO鎖長5mol)青木油脂(株)製 HLB値=10.4
ブラウノンL-210(平均EO鎖長10mol)青木油脂(株)製 HLB値=13.6
<ポリオキシエチレンステアリルアミン>
ブラウノンS-215(平均EO鎖長15mol)青木油脂(株)製 HLB値=14.3
ブラウノンS-245P(平均EO鎖長45mol)青木油脂(株)製 HLB値=17.6
【0064】
<その他>
Jeffamine M-1000:メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミン (HUNTSMAN社製 Mw:1000 PO/EOモル比3:19 固形分100%)
ラムテルE-150:ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム 花王(株)製 固形分33%
ノンサールOK-1:オレイン酸カリウム 花王(株)製 固形分20%

なお、表4のラムテルE-150およびノンサールOK-1の配合量は固形分100%換算値を記載した。
【0065】
<アクリルエマルションの重合安定性>
アクリルエマルション合成完了後、40℃の状態で#200メッシュの濾布で濾過した際に発生する不溶化したブツの量、反応容器の撹拌翼についたゲル物の量の多寡で評価した。評点は下記の基準で判断し、A~Dで記載した。

A:ブツ、ゲル発生ほとんどなく優秀
B:ブツ、ゲル発生少なく比較的良好
C:ブツ、ゲル発生するが製造上問題ないレベル
D:製造不可レベル(合成は可能だが濾過等による生産性低下、物性への影響の観点から製造不可と判断されるレベル)
【0066】
実施例1~32及び比較例1~11において、調整したサンプルをミヤバーにて段ボールライナー表面にベタ状に塗布量2g/m2(ニスの乾燥重量) になるように塗工し、塗膜物性評価試料とした。
【0067】
<防滑性>
傾斜式滑り角測定器(日本TMC(株)製)を用い、塗膜面/塗膜面の滑り性を測定した。測定は繰り返し5回行い、平均値を測定値とした。測定環境は室温25℃/湿度50%、室温10℃/湿度23%および室温40℃/湿度70%の3点で行った。
評点は下記の基準で判断し、A~Dで記載した。

滑り角度 > 50° A:極めて優秀
50°≧ 滑り角度 > 45° B:優秀
45°≧ 滑り角度 > 40° C:良好
40°≧ 滑り角度 D:不良
なお、本発明において、滑り角度が大きいことはスリップ防止効果(防滑性)が大きいことを示す。
【0068】
<耐ブロッキング性>
雰囲気温度40℃、湿度80%の環境条件下、防滑剤塗膜面同士を10kg/cm2の荷重をかけて24時間放置したのち、人力にて剥離させる際の感触および塗膜面の状態を目視で観察して評価した。

評点は下記の基準で判断し、A~Dで記載した。
A : 抵抗なく剥離し、紙剥けは認められない
B : 剥離抵抗あるが、紙剥けは認められない
C : 剥離抵抗あり、一部紙剥けが認められる
D : 剥離時に強い抵抗あり、全面紙剥けする
【0069】
<版洗浄性>
セルボリューム4.5cm/mのアニロックスロールを搭載したフレキソハンドプルーファーをアプリケーターとして用い、フレキソ樹脂版の画線部にアクリルエマルションを塗工し、そのままの状態で、25℃で10分間放置し塗膜を形成した。次いで、台所用洗剤(花王株式会社製、商品名「マジックリン」)を水道水で3倍に希釈した希釈液を塗膜の全体が濡れる程度に吹きかけて、柔らかいブラシで塗膜面をこすり。評点は下記の基準で判断し、A~Dで記載した。

A:塗膜がフレキソ樹脂版から容易に脱落し、実用上十分な洗浄性を有している
B:塗膜がフレキソ樹脂版から脱落するまでやや時間を要するが、実用上良好な洗浄性を有している
C:塗膜がフレキソ樹脂版から脱落するまで時間を要し、作業効率がやや悪いが実用上問題のない洗浄性を有している
D:塗膜が時間をかけてもほとんど洗い落とせず、フレキソ樹脂版上にほとんどの塗膜が残存しており、実用上不可レベル
【0070】
<貯蔵弾性率>
アクリルエマルション塗液の乾燥被膜(厚み100~200μm程度のフリーフィルム)を5mm×30mmの大きさに切り出して測定用試験片とし、動的粘弾性測定装置「DVA200」(アイティー計測制御(株)製)を用い、-90℃まで冷却後、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温させ、振動周波数10Hzで粘弾性を測定した。得られた粘弾性曲線から、0℃、50℃における貯蔵弾性率を求め、表2~4では、例えば、「1.0×10」という貯蔵弾性率の値を「1.0E+06」と記した。
【0071】
表2、3のとおり、実施例のワニスは、いずれも測定環境温度変化の影響が低く、十分な防滑角度が得られた。高防滑角度を有する表面は一般にブロッキングが発生し易いが、実施例においては良好な耐ブロッキング性が得られた。