IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ミネベア株式会社の特許一覧

特開2024-77120保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型
<>
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図1
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図2
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図3
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図4
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図5
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図6
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図7
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図8
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図9
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図10
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図11
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図12
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図13
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図14
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図15
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図16
  • 特開-保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077120
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20240531BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240531BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20240531BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20240531BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
B29C33/42
B29C45/27
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188976
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100120846
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 雅也
(72)【発明者】
【氏名】中村 亨
(72)【発明者】
【氏名】愼 圓智
【テーマコード(参考)】
3J701
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701DA14
3J701EA31
3J701FA15
3J701FA31
4F202AG05
4F202AG28
4F202AH14
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK06
4F202CK12
4F202CK13
4F202CK32
4F206AG05
4F206AG28
4F206AH14
4F206JA07
4F206JL02
4F206JN11
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】保持器の強度低下を抑制することができる保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型を提供する。
【解決手段】転がり軸受の保持器5は、軸線x周りに周方向に環状に延びる基部51と、基部51から軸線xに沿って延びる、周方向に配列される複数の柱部52と、互いに隣接する1対の柱部52の間に夫々形成される複数のポケット53と、基部51に形成されて、柱部52に対応する位置で基部51又は柱部52から柱部52の内部に向かって凹む部分である肉盗み55と、保持器5の成形の際のゲート位置に対応し、柱部52もしくは柱部52に隣接する基部51に形成される複数のゲート痕54A~54Eと、を備える。複数のゲート痕54A~54Eの少なくとも一つは、肉盗み55に対応する、柱部52もしくは柱部52に隣接する基部51に形成される。
【選択図】図5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の保持器であって、
軸線周りに周方向に環状に延びる基部と、
前記基部から前記軸線に沿って延び、前記周方向に配列される複数の柱部と、
互いに隣接する1対の前記柱部の間に夫々形成される複数のポケットと、
前記柱部に対応する位置で前記基部又は前記柱部から前記柱部の内部に向かって凹む部分である肉盗みと、
前記保持器の成形の際のゲート位置に対応し、前記柱部もしくは前記柱部に隣接する前記基部に形成される複数のゲート痕と、を備え、
前記複数のゲート痕の少なくとも一つは、前記肉盗みに対応する、前記柱部もしくは前記柱部に隣接する前記基部に形成される、
保持器。
【請求項2】
その間に奇数個の前記ポケットが配置される互いに隣接する1対の前記ゲート痕のうちの一方は、前記軸線に直交する径方向において前記肉盗みに対向する、
請求項1に記載の保持器。
【請求項3】
前記肉盗みは、第1の周方向端部と他方のゲート痕側に位置する第2の周方向端部とを備え、前記一方のゲート痕は、前記第1の周方向端部側に配置されている、
請求項2に記載の保持器。
【請求項4】
前記1対のゲート痕は、前記柱部の中心から同一の周方向にずれている、
請求項3に記載の保持器。
【請求項5】
前記1対のゲート痕の間に配置される前記ポケットの数は、前記1対のゲート痕以外の互いに隣接する他の1対の前記ゲート痕の間に配置される前記ポケットの数よりも小さい、
請求項3に記載の保持器。
【請求項6】
前記肉盗みは、第1の周方向端部と前記他方のゲート痕側に位置する第2の周方向端部とを備え、前記一方のゲート痕は、前記第2の周方向端部側に配置されている、
請求項2に記載の保持器。
【請求項7】
前記1対のゲート痕は、前記柱部の中心から同一の周方向にずれている、
請求項6に記載の保持器。
【請求項8】
前記1対のゲート痕の間に配置される前記ポケットの数は、前記1対のゲート痕以外の互いに隣接する他の1対の前記ゲート痕の間に配置される前記ポケットの数よりも小さい、
請求項6に記載の保持器。
【請求項9】
内輪と、前記内輪の外側に配置された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体と、
前記内輪と前記外輪との間で前記複数の転動体の各々を前記ポケットに収容する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の保持器と、を備える転がり軸受。
【請求項10】
転がり軸受の保持器の外形を象った金型のキャビティ内に複数のゲートから樹脂材料を注入するステップと、
前記キャビティ内で前記樹脂材料を硬化させて前記保持器を形成するステップと、を含み、
前記キャビティは、
軸線周りに周方向に環状に延びる基部と、前記基部から前記軸線に沿って延び、前記周方向に配列される複数の柱部と、互いに隣接する1対の前記柱部の間に夫々形成される複数のポケットと、前記柱部に対応する位置で前記基部又は前記柱部から前記柱部の内部に向かって凹む肉盗みと、の外形を象り、
各前記ゲートは、前記柱部もしくは前記柱部に隣接する前記基部に配置され、前記ゲートの少なくとも一つは、前記肉盗みの外形に対応する、前記柱部もしくは前記柱部に隣接する前記基部に形成される、
保持器の製造方法。
【請求項11】
前記キャビティは、その間に奇数個の前記ポケットの外形が配置される互いに隣接する1対の前記ゲートのうちの一方が、前記軸線に直交する径方向において前記肉盗みの外形に対向する、
請求項10に記載の保持器の製造方法。
【請求項12】
前記肉盗みの外形は、第1の周方向端部と前記一対のゲートのうちの他方のゲート側に位置する第2の周方向端部とを備え、前記一方のゲートは、前記第1の周方向端部側に配置されている、
請求項11に記載の保持器の製造方法。
【請求項13】
前記1対のゲートは、前記柱部の中心から同一の周方向にずれている、
請求項12に記載の保持器の製造方法。
【請求項14】
前記1対のゲートの間に配置される前記ポケットの数は、前記1対のゲート以外の互いに隣接する他の1対の前記ゲートの間に配置される前記ポケットの数よりも小さい、
請求項12に記載の保持器の製造方法。
【請求項15】
前記肉盗みの外形は、第1の周方向端部と前記他方のゲート側に位置する第2の周方向端部とを備え、前記一方のゲートは、前記第2の周方向端部側に配置されている、
請求項11に記載の保持器の製造方法。
【請求項16】
前記1対のゲートは、前記柱部の中心から同一の周方向にずれている、
請求項15に記載の保持器の製造方法。
【請求項17】
前記1対のゲートの間に配置される前記ポケットの数は、前記1対のゲート以外の互いに隣接する他の1対の前記ゲートの間に配置される前記ポケットの数よりも小さい、
請求項15に記載の保持器の製造方法。
【請求項18】
転がり軸受の保持器の外形を象ったキャビティを規定する金型であって、
前記キャビティは、
軸線周りに周方向に環状に延びる基部と、前記基部から前記軸線に沿って延び、前記周方向に配列される複数の柱部と、互いに隣接する1対の前記柱部の間に夫々形成される複数のポケットと、前記柱部に対応する位置で前記基部又は前記柱部から前記柱部の内部に向かって凹む肉盗みと、の外形を象り、
複数のゲートがそれぞれ、異なる前記柱部に対応する位置で前記キャビティに接続され、
前記複数のゲートの少なくとも一つは、前記肉盗みの外形に対応する、前記柱部もしくは前記柱部に隣接する前記基部に形成される、
金型。
【請求項19】
各前記ゲートは、前記柱部に対応する位置で前記キャビティに接続され、その間に奇数個の前記ポケットが配置される互いに隣接する1対の前記ゲートのうちの一方は、前記軸線に直交する径方向において前記肉盗みに対向する、
請求項18に記載の金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばモータには転がり軸受が組み込まれる。転がり軸受は、内輪と、内輪の外側に配置された外輪と、内輪及び外輪の間に配置された複数の転動体と、各々が転動体を収容する複数のポケットを有する保持器と、を備えている。保持器は、例えば樹脂材料から射出成形によって形成される。特許文献1及び2には、保持器に肉盗みを設けてゲートから流入する溶融樹脂材料の流動体積に差をつけることによってウェルドラインの位置を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭60-71728号公報
【特許文献2】特開2014-87941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の保持器においては、上述したウェルドラインの位置を調整する技術を利用することによって、ウェルドラインの位置を、肉薄部であるポケットの底部に対応する位置からずらすことができる。このようにして、従来の転がり軸受においては、保持器の強度低下を抑制することができる構成が求められている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、保持器の強度低下を抑制することができる保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1態様に係る保持器は、転がり軸受の保持器であって、軸線周りに周方向に環状に延びる基部と、前記基部から前記軸線に沿って延び、前記周方向に配列される複数の柱部と、互いに隣接する1対の前記柱部の間に夫々形成される複数のポケットと、前記柱部に対応する位置で前記基部又は前記柱部から前記柱部の内部に向かって凹む部分である肉盗みと、前記保持器の成形の際のゲート位置に対応し、前記柱部もしくは前記柱部に隣接する前記基部に形成される複数のゲート痕と、を備え、前記複数のゲート痕の少なくとも一つは、前記肉盗みに対応する、前記柱部もしくは前記柱部に隣接する前記基部に形成される。
【0007】
本発明の第2態様に係る転がり軸受は、内輪と、前記内輪の外側に配置された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体と、前記内輪と前記外輪との間で前記複数の転動体の各々を前記ポケットに収容する、上述した保持器と、を備える。
【0008】
本発明の第3態様に係る保持器の製造方法は、転がり軸受の保持器の外形を象った金型のキャビティ内に複数のゲートから樹脂材料を注入するステップと、前記キャビティ内で前記樹脂材料を硬化させて前記保持器を形成するステップと、を含み、前記キャビティは、軸線周りに周方向に環状に延びる基部と、前記基部から前記軸線に沿って延び、前記周方向に配列される複数の柱部と、互いに隣接する1対の前記柱部の間に夫々形成される複数のポケットと、前記柱部に対応する位置で前記基部又は前記柱部から前記柱部の内部に向かって凹む肉盗みと、の外形を象り、各前記ゲートは、前記柱部もしくは前記柱部に隣接する前記基部に配置され、前記ゲートの少なくとも一つは、前記肉盗みの外形に対応する、前記柱部もしくは前記柱部に隣接する前記基部に形成される。
【0009】
本発明の第4態様に係る金型は、転がり軸受の保持器の外形を象ったキャビティを規定する金型であって、前記キャビティは、軸線周りに周方向に環状に延びる基部と、前記基部から前記軸線に沿って延び、前記周方向に配列される複数の柱部と、互いに隣接する1対の前記柱部の間に夫々形成される複数のポケットと、前記柱部に対応する位置で前記基部又は前記柱部から前記柱部の内部に向かって凹む肉盗みと、の外形を象り、複数のゲートがそれぞれ、異なる前記柱部に対応する位置で前記キャビティに接続され、前記複数ゲートの少なくとも一つは、前記肉盗みの外形に対応する、前記柱部もしくは前記柱部に隣接する前記基部に形成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保持器の強度低下を抑制することができる保持器、保持器の製造方法、転がり軸受及び金型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る転がり軸受1の構造を概略的に示す部分断面図である。
図2】本発明の第1具体例に係る保持器5の構造を概略的に示す平面図である。
図3】本発明の第1具体例に係る保持器5の構造を概略的に示す斜視図である。
図4】本発明の第1具体例に係る保持器5の構造を概略的に示す部分拡大側面図である。
図5】本発明の第1具体例に係る保持器5の構造を概略的に示す斜視図である。
図6】本発明の第1具体例に係る保持器5の構造を概略的に示す底面図である。
図7図6の7-7線に沿った部分断面図である。
図8】本発明の第1具体例に係る保持器5を製造するための金型100の構造を概略的に示す図である。
図9】本発明の第1具体例に係る保持器5を製造するための金型100のキャビティ101及びゲート110Dの外形を示した斜視図である。
図10】本発明の第2具体例に係る保持器5Aの構造を概略的に示す底面図である。
図11】本発明の第2具体例に係る保持器5Aの構造を概略的に示す斜視図である。
図12】本発明の第2具体例に係る保持器5Aを製造するための金型100Aの構造を概略的に示す図である。
図13】本発明の第2具体例に係る保持器5Aを製造するための金型100のキャビティ101及びゲート110Dの外形を示した底面図である。
図14】本発明の第3具体例に係る保持器5Bの構造を概略的に示す底面図である。
図15】本発明の第3具体例に係る保持器5Bを製造するための金型100Bの構造を概略的に示す図である。
図16】本発明の第4具体例に係る保持器5Cの構造を概略的に示す底面図である。
図17】本発明の第4具体例に係る保持器5Cを製造するための金型100Cの構造を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る転がり軸受1の構造を概略的に示す部分断面図である。この転がり軸受1は、内輪2と、内輪2の外側に配置された外輪3と、内輪2と外輪3との間に配置された複数の転動体4と、複数の転動体4を保持する保持器5と、を備える。内輪2、外輪3及び保持器5はいずれも、軸線xを中心軸又は略中心軸とする環状の部材である。軸線xは転がり軸受1の軸線である。なお、図1には、平面視された転がり軸受1が、内輪2、外輪3及び保持器5を切断して転動体4が表された状態で示されている。この転がり軸受1では、例えば、外輪3がモータ(図示せず)のハウジングに固定され、内輪2がモータのシャフトに固定されることによって、内輪2及び外輪3が軸線x回りに相対回転することができる。
【0013】
軸線xに直交する径方向における内輪2の外周面には軌道溝21が形成される一方で、同様に径方向における外輪3の内周面には軌道溝31が形成される。これら軌道溝21及び軌道溝31の間に複数の転動体4が軸線x周りに周方向に配列される。転動体4は球体(玉)であり、したがって、転がり軸受1は転がり玉軸受である。内輪2及び外輪3は、例えば、ステンレス鋼から形成される。転動体4は、例えば、ステンレス鋼又はセラミックから形成される。保持器5は、例えば、樹脂材料から形成される。内輪2及び外輪3の間にはグリース等の潤滑剤(図示せず)が充填される。潤滑剤は、転動体4と内輪2、外輪3及び保持器5との間の摩擦を低減する。転がり軸受1は、転がり軸受1から外側への潤滑剤の漏出や転がり軸受1内への異物の侵入を回避するために内輪2及び外輪3の間の空間を密閉する1対のシールド部材(図示せず)を備えてもよい。
【0014】
図2は、本発明の第1具体例に係る保持器5の構造を概略的に示す平面図であり、図3は、本発明の第1具体例に係る保持器5の構造を概略的に示す斜視図である。図3は、軸線x方向の一方の側(上側)から保持器5を見た際の斜視図である。図1図3を併せて参照すると、保持器5は、保持器5の径方向内側に面する内周面5aと、保持器5の径方向外側に面する外周面5bと、軸線x方向の他方の側(下側)に規定されて、軸線xに直交する仮想平面に沿って広がる底面5cと、を規定する。図1から明らかなように、内周面5aの径は内輪2の外周面の径よりも大きく、また、外周面5bの径は外輪3の内周面の径よりも小さい。
【0015】
図4は、本発明の第1具体例に係る保持器5の構造を概略的に示す部分拡大側面図である。図4を併せて参照すると、保持器5は、軸線xを中心軸とする円環状の基部51と、基部51から軸線xに沿って延び、周方向に間隔を空けて配列される複数の柱部52と、互いに隣接する1対の柱部52の間に夫々形成される複数のポケット53と、を備えている。本実施形態では、例えば、11個の柱部52と11個のポケット53とが周方向に交互に配列されている。各柱部52は保持器5の肉厚部を構成する。各柱部52は、軸線xに沿って突出する1対の爪部52a、52aと、爪部52a、52aの間に形成されるグリースポケット52bと、を備える。1つの柱部52の一方の爪部52aと、この柱部52に周方向に隣接する柱部52の他方の爪部52aとの間にポケット53が開放される。グリースポケット52bは、前述の潤滑剤を保持して転動体4と内輪2、外輪3及び保持器5との間の摩擦の低減を促進する。
【0016】
各ポケット53は、軸線xに沿って凹む。各ポケット53は、径方向に沿って保持器5の内周面5aから外周面5bまで延びる。各ポケット53に転動体4が収容される。ポケット53は、軸線x方向に一方の側(上側)に規定される開放部53aで開放される。開放部53aは1対の爪部52a、52aの間に形成される。周方向における開放部53aの長さは、例えば、転動体4の直径よりも小さく規定される。各ポケット53はさらに、転動体4の球面に対向する球面53bを規定する。球面53bは、例えば、転動体4の中心周りに転動体4の外周面に部分的に対向する球面から規定される。球面53bは、周方向に規定されるポケット53の中心位置C1において最も深く形成されている(図2参照)。言い換えれば、ポケット53の中心位置C1は、保持器5で最も肉薄の部分である肉薄部を形成する。
【0017】
図2及び図3に示されるように、保持器5は、内周面5aに軸線x周りに周方向に配列される複数、本実施形態では5個のゲート痕54A~54Eをさらに備える。ゲート痕54A~54Eは、保持器5の成形の際のゲート位置に対応する位置に形成される。後述するように、ゲート痕54A~54Eは、保持器5の成形に用いられる金型から取り出された保持器5の成形体からゲートが切り離される際にゲートの先端の形状に象られた凹凸である。ゲート痕54A~54Eの形状はゲートの先端の形状に応じて変化するが、本実施形態では、例えば平たい円柱形状に形成される。ゲート痕54A~54Eは、柱部52もしくは当該柱部52に隣接する基部51における保持器5の内周面5aに形成される。なお、各ゲート痕54A~54Eは、柱部52もしくは当該柱部52に隣接する基部51における保持器5の外周面5bに形成されてもよい。成形性の観点から、各ゲート痕54A~54Eは柱部52側に形成されることが好ましい。図2から明らかなように、各ゲート痕54A~54Eの周方向の中心Cは、周方向に規定される柱部52の中心位置C2に一致する。互いに周方向に隣接する1対のゲート痕54E、54A、1対のゲート痕54A、54B、1対のゲート痕54B、54C及び1対のゲート痕54C、54Dのそれぞれの間に偶数個すなわち2個のポケット53が配置される。一方で、互いに周方向に隣接する1対のゲート痕54D、54Eの間には奇数個すなわち3個のポケット53が配置される。
【0018】
図5は、本発明の第1具体例に係る保持器5の構造を概略的に示す斜視図であり、図6は、本発明の第1具体例に係る保持器5の構造を概略的に示す底面図である。図5は、軸線x方向の他方の側(下側)から見た際の保持器5の斜視図である。図3図5及び図6を併せて参照すると、保持器5は、周方向に柱部52に対応する位置で保持器5の底面5cすなわち基部51から基部51及び柱部52の内部に向かって凹む部分である肉盗み55をさらに備える。本実施形態では、肉盗み55は、ゲート痕54Dが形成される柱部52に対応する位置に形成される。図6から明らかなように、肉盗み55は、周方向に規定される周方向端部(第1の周方向端部)55a及び周方向端部(第2の周方向端部)55bを備え、当該周方向端部55a及び周方向端部55bの間で周方向に所定の周方向長さL1で延びる。周方向において、肉盗み55の中心は柱部52の中心位置C2に一致する。すなわち、周方向において、肉盗み55の中心はゲート痕54Eの中心にも一致する。なお、肉盗み55は、基部51からではなく、柱部52から当該柱部52の内部に向かって凹む部分であってもよい。すなわち、肉盗み55は、柱部52において保持器5の内周面5a又は外周面5bから柱部52の内部に向かって凹んでもよい。
【0019】
図7図6の7-7線に沿った部分断面図である。図7に示されるように、肉盗み55は、底面5cから軸線x方向の一方の側(上側)に向かって所定の深さDを有する。本実施形態では、深さDは、例えば、軸線x方向に底面5cからの保持器5の高さの半分程度に設定される。また、径方向に規定される肉盗み55の径方向長さL2は、同様に径方向に規定される内周面5aから外周面5bまでの長さの例えば半分程度に設定される。一方で、柱部52もしくは当該柱部52に隣接する基部51において内周面5aに形成されるゲート痕54Dは、径方向において肉盗み55の内周面に対向している。本実施形態では、ゲート痕54A~54Eはその全体が柱部52に配置されている。ゲート痕54A~54C及び54Eもゲート痕54Dと同様に配置される。なお、肉盗み55は、径方向長さL2よりも大きい周方向長さL1を有することが好ましく、すなわち、周方向に長く延びた形状を有することが好ましい。
【0020】
次に、本発明の第1具体例に係る保持器5の製造方法について説明する。保持器5の製造にあたって射出成形が実施される。図8は、本発明の第1具体例に係る保持器5を製造するための金型100の構造を概略的に示す図である。図8は、金型100内に形成されるキャビティ101の形状を軸線xの他方の側(下側)から見た際の部分透視断面図である。キャビティ101は、軸線x周りに周方向に円環状に延びる空洞を形成する。軸線xは、円環状のキャビティ101の中心軸又は略中心軸であり、金型100によって製造される保持器5の中心軸に一致する。キャビティ101は、保持器5の基部51、柱部52、ポケット53及び肉盗み55の外形に一致する。金型100は、複数の型を組み合わせてキャビティ101を形成するが、型の組み合わせの詳細についての説明は省略する。
【0021】
金型100のキャビティ101には複数、本実施形態では5個のゲート110A~110Eが接続される。ゲート110A~110Eは軸線x周りに周方向に配列される。ゲート110A~110Eの周方向の位置は、保持器5のゲート痕54A~54Eの位置に夫々一致する。金型100は、軸線xに沿って金型100の内面からキャビティ101内に向かって突出する突出部100aを備えている。突出部100aは肉盗み55の外形に一致している。ゲート110Dは、軸線xに直交する径方向に金型100の突出部100aに対向する。ここでは、説明の便宜上、肉盗み55の外形を象る突出部100aのみに符号を付して説明するが、キャビティ101は、前述したとおり、基部51、柱部52及びポケット53の外形に一致する。本実施形態では、ゲート110A~110Eは柱部52に配置され、ゲート110Dは、肉盗み55の外形に対応する柱部52に配置される。
【0022】
製造にあたって、各ゲート110A~110Eからキャビティ101内にほぼ同時に、溶融樹脂材料が所定の流速で注入される。1対のゲート110A、110Bを例にとると、ゲート110Aから流入した溶融樹脂材料の第1流れF1はゲート110B及び110Eに向かって周方向に流入していく。同様に、ゲート110Bから流入した溶融樹脂材料の第1流れF1はゲート110A及び110Cに向かって周方向に流入していく。その結果、1対のゲート110A、110Bの間では、溶融樹脂材料の第1流れF1は、ゲート110A及びゲート110Bから周方向に等距離の位置で合流する。この溶融樹脂材料の合流位置がいわゆるウェルドラインの位置に対応する。溶融樹脂材料の流動は、1対のゲート110B、110Cの間及び1対のゲート110E、110Aの間においても同様である。
【0023】
図9は、本発明の第1具体例に係る保持器5を製造するための金型100のキャビティ101及びゲート110Dの外形を示した斜視図である。図9は、軸線xの他方の側(下側)から見た際のゲート110D及び突出部100aを部分的に拡大して示している。図9を併せて参照すると、ゲート110Dからキャビティ101内に流入する溶融樹脂材料は、最初に突出部100aの内周面に衝突する。この突出部100aの存在によって、キャビティ101内におけるゲート110Dからの溶融樹脂材料の流入経路の断面積は、突出部100aが形成されていないゲート110A~110C及び110Eからの溶融樹脂材料の流入経路の断面積よりも小さくなる。したがって、金型100の突出部100aは、キャビティ101内において溶融樹脂材料の流入に対する抵抗となる。
【0024】
その結果、ゲート110Dからキャビティ101内に流入する溶融樹脂材料の第2流れF2は、前述のゲート110A~110C及び110Eからキャビティ101内に流入する溶融樹脂材料の第1流れF1よりも流れづらくなる。したがって、ゲート110Dとゲート110Cとの間では、ゲート110Cからゲート110Dに向かう溶融樹脂材料の第1流れF1は、周方向にゲート110D側に偏倚した位置で、ゲート110Dからゲート110Cに向かう溶融樹脂材料の第2流れF2に合流する。同様に、ゲート110Dとゲート110Eとの間では、ゲート110Eからゲート110Dに向かう溶融樹脂材料の第1流れF1は、周方向にゲート110D側に偏倚した位置で、ゲート110Dからゲート110Eに向かう溶融樹脂材料の第2流れF2に合流する。その後、金型100内で樹脂材料が硬化されるとともに、金型100からゲート110A~110Eを備えた保持器5の成形体が取り外される。その後、保持器5の成形体からゲート110A~110Eが切り離される。こうして金型100から保持器5が製造される。
【0025】
ここで、図8には、上述の製造方法と同様の条件に基づいてソフトウェア上で行ったシミュレーション結果によって得られたウェルドラインWLの位置が示されている。周方向に互いに隣接する1対のゲート110A、110Bの間、1対のゲート110B、110Cの間及び1対のゲート110E、110Aの間では、ゲート110A~110C及び110Eから溶融樹脂材料の第1流れF1が流入して、周方向においてそれぞれのゲート110A~110C及び110Eからほぼ等距離の位置にウェルドラインWLが配置された。これらのゲート110A~110C及び110Eの間には偶数個すなわち2個のポケット53が配置されることから、ウェルドラインWLは、柱部52の周方向の中心位置C2にほぼ一致している。すなわち、ウェルドラインWLは、保持器5において肉厚部である柱部52に対応する位置に形成された。また、周方向に互いに隣接する1対のゲート110C、110Dの間には偶数個すなわち2個のポケット53が配置される。これら1対のゲート110C、110Dの間では溶融樹脂材料の流れやすさの差(第2流れF2は第1流れF1より流れづらい)に起因して、周方向において、柱部52の中心位置C2からゲート110D側に偏倚した位置にウェルドラインWLが配置された。ただし、ウェルドラインWLは柱部52の中心位置C2にほぼ一致している。
【0026】
一方で、周方向に互いに隣接する1対のゲート110D、110Eの間には奇数個すなわち3個のポケット53が配置される。これら1対のゲート110D、110Eの間では溶融樹脂材料の流れやすさの差(第2流れF2は第1流れF1より流れづらい)に起因して、周方向において、ゲート110D側に偏倚した位置にウェルドラインWLが配置された。すなわち、1対のゲート110D、110Eからの等距離は、3個のポケット53のうちの真ん中のポケット53の周方向の中心位置C1であるが、ウェルドラインWLは、この中心位置C1からゲート110D側に偏倚して配置された。したがって、ウェルドラインWLは、保持器5において最も肉薄部であるポケット53の中心位置C1からずれて配置された。なお、互いに隣接するゲート110間の距離は、2個のポケット53よりも3個のポケット53を配置する方が大きくなるので、ゲート110D、110Eの間のウェルドラインWLの中心位置C1からのずれ量は、ゲート110C、110Dの間のウェルドラインWLの中心位置C2からのずれ量よりも大きくなるものと考えられる。
【0027】
以上のような保持器5及びその製造方法によれば、その間に3個のポケット53が配置される互いに隣接する1対のゲート痕54D、54E(ゲート110D、110E)のうちの一方のゲート痕54D(ゲート110D)が径方向において肉盗み55(突出部100a)に対向する。こうした構成によれば、保持器5の製造にあたって、ゲート110Dから流入する溶融樹脂材料の第2流れF2は、それ以外のゲート110A~110C及び110Eから流入する溶融樹脂材料の第1流れF1よりも流れづらい。その結果、ゲート痕54D及び54E(ゲート110D及び110E)の間では、ウェルドラインWLの位置はゲート痕54D(ゲート110D)側に偏倚する。ウェルドラインWLは、保持器5において最も肉薄部であるポケット53の中心位置C1からずれて配置される。したがって、保持器5の強度低下を抑制することができる。
【0028】
なお、上述した製造方法において、肉盗み55の外形に一致する突出部100aの周方向長さ、径方向長さ及び深さ(肉盗み55の周方向長さL1、径方向長さL2及び深さD)が大きくなるにつれて、溶融樹脂材料が流動する経路の断面積は小さくなっていく。したがって、溶融樹脂材料の流れやすさの差を大きくするためには、突出部100aの周方向長さ、径方向長さ及び深さを大きくすることが好ましい。特に、経路の断面積の減少には周方向長さの影響が最も大きい。したがって、キャビティ101すなわち保持器5のサイズに応じて限界があるものの、突出部100aの周方向長さ、径方向長さ及び深さを大きくすることによって、ウェルドラインWLの周方向位置を調整することが可能である。例えば、肉盗み55の周方向長さL1は、同様に周方向に規定されるグリースポケット52bの長さよりも大きく設定されることが好ましい。
【0029】
図10は、本発明の第2具体例に係る保持器5Aの構造を概略的に示す底面図である。図11は、本発明の第2具体例に係る保持器5Aの構造を概略的に示す斜視図である。以後の図面においては、第1具体例に係る保持器5の構成と同一の構成には同一の参照符号を付して重複した説明を省略する。以下、第2具体例に係る保持器5Aについて、第1具体例に係る保持器5と異なる構成を説明する。なお、図10は保持器5Aの底面図であるが、説明の便宜上、保持器5Aの底面5c側から透視される柱部52及びポケット53の外形が点線で示されている。図10及び図11に示されるように、第2具体例に係る保持器5Aでは、第1具体例に係る保持器5と比較して、その間に3個のポケット53を配置する1対のゲート痕54D及び54Eが、柱部52の中心位置C2から所定の角度範囲にわたって同一の周方向にずれている点で相違する。第2具体例の保持器5Aのその他の構成は第1具体例の保持器5の構成と同一である。
【0030】
具体的には、第2具体例の保持器5Aでは、底面視において、ゲート痕54D及び54Eが時計回りに角度αにわたってずれている。ただし、ゲート痕54D及び54Eのずれの角度は必ずしも同一でなくてもよい。1対のゲート痕54D、54Eのうちの一方のゲート痕54Dは、他方のゲート痕54E側に位置する肉盗み55の周方向端部55bとは反対側の周方向端部55a側に配置されている。この第2具体例では、周方向において、ゲート痕54Dの中心Cが肉盗み55の周方向端部55aにほぼ一致している。こうしてゲート痕54Dは径方向において肉盗み55に部分的に対向している。一方で、1対のゲート痕54D、54Eのうちの他方のゲート痕54Eは、柱部52の中心位置C2から周方向に肉盗み55側に偏倚して配置されているが、周方向においてゲート痕54Eの位置は柱部52に配置される。なお、第2具体例の保持器5Aにおいて、他方のゲート痕54Eの周方向の中心Cは柱部52の中心位置C2に一致していてもよい。すなわち、一方のゲート痕54Dのみが周方向にずれて配置されていてもよい。
【0031】
次に、本発明の第2具体例に係る保持器5Aの製造方法について説明する。図12は、図8に対応し、本発明の第2具体例に係る保持器5Aを製造するための金型100Aの構造を概略的に示す図である。この金型100Aは、前述の金型100と比較して、その間に3個のポケット53の形成位置を配置する1対のゲート110D、110Eが、柱部52の形成位置の中心位置C2から所定の角度範囲にわたって周方向に同じ方向にずらされている点で相違する。具体的には、底面視において、ゲート110D及び110Eは時計回りに角度αにわたってずれている。ただし、ゲート110D及び110Eのずれの角度は必ずしも同じでなくてもよい。1対のゲート110D、110Eのうちの一方のゲート110Dは、他方のゲート110E側の突出部100aの周方向端部(第2の周方向端部)100a2とは反対側の周方向端部(第1の周方向端部)100a1側に配置されている。この第2具体例では、周方向において、ゲート110Dの中心Cは突出部100aの周方向端部100a1にほぼ一致している。こうしてゲート110Dは径方向において突出部100aに部分的に対向している。一方で、1対のゲート110D、110Eのうちの他方のゲート110Eは、周方向に突出部100a側に偏倚して配置されているが、周方向においてゲート110Eの位置は柱部52の形成位置に配置される。
【0032】
製造にあたって、各ゲート110A~110Eからほぼ同時に、溶融樹脂材料が所定の流速でキャビティ101内に注入される。図13は、本発明の第2具体例に係る保持器5Aを製造するための金型100のキャビティ101及びゲート110Dの外形を示した底面図である。図13は、軸線xに沿って他方の側(下側)から見た際のゲート110D及び突出部100aを部分的に拡大して示している。図13を併せて参照すると、周方向において、ゲート110Dの中心Cは、突出部100aの周方向の端部100a2にほぼ一致していることから、ゲート110Dからゲート110E側に向かう溶融樹脂材料の経路に突出部100のほぼ全体が配置される。その結果、ゲート110Dからゲート110E側に向かう溶融樹脂材料の経路の断面積が減少する。こうして金型100の突出部100aは、キャビティ101内において溶融樹脂材料の流動に対する抵抗となる。一方で、ゲート110Dからゲート110C側に向かう溶融樹脂材料の経路には突出部100aは配置されない。
【0033】
その結果、ゲート110Dからゲート110Eに向かって流動する溶融樹脂材料の第3流れF3は、ゲート110Dからゲート110Cに向かって流動する溶融樹脂材料の第4流れF4よりも相対的に流れづらくなる。一方で、ゲート110A~110Cから流入する溶融樹脂材料の経路には突出部100aは配置されないので、ゲート110A~110Cから流入する溶融樹脂材料の第1流れF1は前述と同様に、隣接するゲート110に向かって流動する。また、ゲート110Eは周方向に突出部100a側に偏倚して配置されているので、ゲート110Eからゲート110A及び110Dに向かって溶融樹脂材料の第5流れF5及び第6流れF6がそれぞれ流動する。
【0034】
図12には、第1具体例と同様に、第2具体例に係る保持器5Aについてソフトウェア上で行ったシミュレーション結果によって得られたウェルドラインWLの位置が示されている。周方向に互いに隣接する1対のゲート110A、110Bの間、1対のゲート110B、110C、1対のゲート110C、110D及び1対のゲート110E、110Aの間では、周方向においてそれぞれのゲート110からほぼ等距離の位置にウェルドラインWLが配置された。すなわち、ウェルドラインWLは、保持器5において肉厚部である柱部52に対応する位置に形成された。一方で、1対のゲート110D、110Eの間では、ゲート110Dからゲート110Eに向かう溶融樹脂材料の第3流れF3が相対的に妨げられることから、ゲート110D、110Eの間のウェルドラインWLの位置は、保持器5において最も肉薄部であるポケット53の中心位置C1からずれて配置された。以上のような保持器5A及びその製造方法によっても、第1具体例と同様に、保持器5Aの強度低下は抑制される。
【0035】
図14は、本発明の第3具体例に係る保持器5Bの構造を概略的に示す底面図である。以下、第3具体例に係る保持器5Bについて、第1及び第2具体例に係る保持器5、5Aと異なる構成を説明する。なお、図14は保持器5Bの底面図を示しているが、説明の便宜上、柱部52及びポケット53の外形が点線で示されている。図14に示されるように、第3具体例に係る保持器5Bは、第1及び第2具体例に係る保持器5、5Aと比較して、6個のゲート痕54A~54Fを備えている点で相違する。また、1対のゲート痕54D及び54Eの間には奇数個すなわち1個のポケット53が配置される。一方で、互いに周方向に隣接する1対のゲート痕54A、54B、1対のゲート痕54B、54C、1対のゲート痕54C、54D、1対のゲート痕54E、54F及び1対のゲート痕54F、54Aのそれぞれの間に偶数個すなわち2個のポケット53が配置される。すなわち、第3具体例では、1対のゲート痕54D、54Eの間に配置されるポケット53の数は、この1対のゲート痕54D、54E以外の他の1対のゲート痕54の間に配置されるポケット53の数よりも小さい。
【0036】
さらに、その間に1個のポケット53が配置される1対のゲート痕54D、54Eは、柱部52の中心位置C2から所定の角度範囲にわたって同一の周方向にずれている。底面視において、ゲート痕54D及び54Eは時計回りに角度αにわたってずれている。ただし、ゲート痕54D及び54Eのずれの角度は必ずしも同一でなくてもよい。1対のゲート痕54D、54Eのうちの一方のゲート痕54Eは、他方のゲート痕54D側の肉盗み55の周方向端部(第2の周方向端部)55a側に配置されている。周方向において、ゲート痕54Eの中心Cは肉盗み55の周方向端部55aにほぼ一致している。その結果、ゲート痕54Eは径方向において部分的に肉盗み55に対向している。一方で、1対のゲート痕54D、54Eのうちの他方のゲート痕54Dは、周方向に肉盗み55とは反対側に偏倚して配置されているが、周方向においてゲート痕54Eの位置は柱部52に配置される。なお、前述の具体例と同様に、他方のゲート痕54Dの周方向の中心Cは柱部52の中心位置C2に一致していてもよい。すなわち、一方のゲート痕54Eのみが周方向にずれて配置されていてもよい。
【0037】
次に、本発明の第3具体例に係る保持器5Bの製造方法について説明する。図15は、図8及び図12に対応し、本発明の第3具体例に係る保持器5Bを製造するための金型100Bの構造を概略的に示す図である。この金型100Bは、前述の金型100、100Aと比較して、キャビティ101に6個のゲート110A~110Fが接続される点で相違する。また、その間に1個のポケット53の形成位置を配置する1対のゲート110D、110Eが、柱部52の形成位置の中心位置C2から所定の角度範囲にわたって同一の周方向にずれている。周方向におけるゲート110A~110Fの位置は保持器5Bにおけるゲート痕54A~54Fに夫々一致する。この第3具体例では、底面視において、ゲート110D及び110Eは時計回りに角度αにわたってずれている。周方向において、1対のゲート110D、110Eのうちの一方のゲート110Eの中心Cは、1対のゲート110D、110Eのうちの他方のゲート110D側の突出部100aの周方向端部(第2の周方向端部)100a1にほぼ一致している。その結果、ゲート110Eは、径方向において部分的に突出部100aに対向している。一方で、他方のゲート110Dは、周方向に突出部100aとは反対側に偏倚して配置されているが、周方向においてゲート110Eの位置は柱部52の形成位置に配置される。
【0038】
製造にあたって、各ゲート110A~110Fからほぼ同時に、溶融樹脂材料が所定の流速でキャビティ101内に注入される。図15のシミュレーション結果に示されるように、その間に2個のポケット53を配置する1対のゲート110A、110Bの間、ゲート110B、110Cの間、ゲート110C、110Dの間、ゲート110E、110Fの間及びゲート110F、110Aの間では、ウェルドラインWLの位置は柱部52の形成位置の中心位置C2にほぼ一致している。一方で、1対のゲート110D、110Eの間では、ゲート110Eが突出片100aの第2の周方向端部100a1に対向しているので、ゲート110Eからゲート110Dに向かう溶融樹脂材料の第4流れF4は、ゲート110Eからゲート110Fに向かう溶融樹脂材料の第3流れF3と比べて相対的に流れやすい。一方で、ゲート110Dは突出片100aに対向していないが、周方向へのずれによって、ゲート110Dからゲート110C側はポケット53の形成位置の肉薄部となり、ゲート110Dからゲート110E側は柱部52の形成位置の肉厚部となる。すなわち、ゲート110Dからゲート110E側に向かう溶融樹脂材料の第5流れF5がウェルドラインWLを形成するまでにキャビティ101内を充填する体積は、ゲート110Dの位置が柱部52の形成位置の中心位置C2にほぼ一致する場合と比べて相対的に大きくなる。その結果、ウェルドラインWLは、保持器5において最も肉薄部であるポケット53の中心位置C1から周方向にずれて配置された。以上のような保持器5B及びその製造方法によっても、第1及び第2具体例と同様に、保持器5Bの強度低下は抑制される。
【0039】
なお、第1及び第2具体例に係る保持器5、5Aは5個のゲート痕54A~54E(ゲート110A~110E)を有しており、1対のゲート痕54D、54Eの間には3個のポケット53が配置される。一方で、第3具体例に係る保持器5Bは6個のゲート痕54A~54F(ゲート110A~110F)を有しており、保持器5、5Aの1対のゲート痕54D、54Eの間に配置される3個のポケットは保持器5Bのゲート痕54D、54E、54Fの間に配置され、したがって、保持器5Bのゲート痕54D、54Eの間には1個のポケット53が配置される。すなわち、各ゲート痕54間に配置されるポケット53の数が減少する。その結果、各ゲート110間で流動する溶融樹脂材料の移動距離が減少するので、キャビティ101内で流動する溶融樹脂材料の充填圧力を増大させることができる。したがって、第3具体例に係る保持器5Bでは、第1及び第2具体例に係る保持器5、5Aと比較してさらに強度低下を抑制することができる。
【0040】
図16は、本発明の第4具体例に係る保持器5Cの構造を概略的に示す底面図である。以下、第4具体例に係る保持器5Cについて、第3具体例に係る保持器5Bと異なる構成を説明する。なお、図16は保持器5Cの底面図を示しているが、説明の便宜上、柱部52及びポケット53の外形が点線で示されている。図16に示されるように、第4具体例に係る保持器5Cでは、第3具体例に係る保持器5Bと比較して、肉盗み55がゲート痕54Eではなくゲート痕54Dに対向している点で相違する。具体的には、1対のゲート痕54D、54Eのうちの一方のゲート痕54Dが、他方のゲート痕54Eとは反対の肉盗み55の周方向端部(第1の周方向端部)55a側に配置されている。周方向において、ゲート痕54Dの中心Cは肉盗み55の周方向端部55aにほぼ一致している。こうしてゲート痕54Dは径方向において部分的に肉盗み55に対向している。
【0041】
次に、本発明の第4具体例に係る保持器5Cの製造方法について説明する。図17は、図15に対応し、本発明の第4具体例に係る保持器5Cを製造するための金型100Cの構造を概略的に示す図である。この金型100Cは、前述の金型100Bと比較して、肉盗み55の外形に一致する突出片100aが、ゲート110Eではなくゲート110Dに対向している。具体的には、周方向において、ゲート110Dの中心Cは、他方のゲート110E側の端部100a2とは反対側の突出部100aの周方向端部(第1の周方向端部)100a1にほぼ一致している。各ゲート110A~110Fからほぼ同時に、溶融樹脂材料が所定の流速でキャビティ101内に注入される。その結果、図17のシミュレーション結果に示されるように、第3具体例の場合とほぼ同様のウェルドラインWLの位置が確保された。
【0042】
具体的には、時計回り方向にずらされて配置された1対のゲート110D、110Eの間では、ゲート110Dが突出片100aの端部100a1に対向しているので、ゲート110Dからゲート110Eに向かう溶融樹脂材料の第3流れF3は、ゲート110Dからゲート110Cに向かう溶融樹脂材料の第4流れF4と比べて相対的に流れづらくなる。その結果、ウェルドラインWLは、保持器5Cにおいて最も肉薄部であるポケット53の中心位置C1からずれて配置された。以上のような保持器5C及びその製造方法によっても、第1~第3具体例と同様に、保持器5Cの強度低下は抑制される。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記発明の実施形態に係る転がり軸受5、5A、5B、5Cに限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施形態における、各構成の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0044】
1…転がり軸受、2…内輪、21…内輪軌道、3…外輪、31…外輪軌道、4…転動体、5、5A、5B、5C…保持器、5a…内周面、5b…外周面、5c…底面、51…基部、52…柱部、52a…爪部、52b…グリースポケット、53…ポケット、53a…開放部、53b…球面、54A~54F…ゲート痕、55…肉盗み、55a…周方向端部、55b…周方向端部、100…金型、100a…突出部、100a1…周方向端部、100a2…周方向端部、101…キャビティ、110A~110F…ゲート、C…中心、C1…中心位置、C2…中心位置、x…軸線、WL…ウェルドライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17