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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077126
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240531BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240531BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240531BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20240531BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/58
F16C19/18
F16J15/3256
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188984
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 明治
(72)【発明者】
【氏名】冨塚 靖史
【テーマコード(参考)】
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J043AA17
3J043CA02
3J043CA05
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA09
3J043DA20
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA30
3J216CA02
3J216CB03
3J216CB04
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC33
3J216CC37
3J216CC41
3J216DA01
3J216DA11
3J216FA09
3J216GA02
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA56
3J701BA73
3J701DA20
3J701EA01
3J701FA35
3J701FA60
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB17
(57)【要約】
【課題】溝肩部に対する嵌合力を確保して、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動することを有効に抑えられるハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】ハブ3の外周面のうち、回転フランジ10と軸方向外側の内輪軌道9aとの間に位置する部分に、中心軸を含む断面の輪郭形状が略凸円弧形のクラウニング部28を備えた溝肩部27を設ける。シール装置5を、摺接環20とシールリング21とを含んで構成し、このうちの摺接環20の嵌合筒部31を、溝肩部27のうちでクラウニング部28を含む範囲に外嵌する。また、シールリング21に備えられた少なくとも1本のシールリップ36a、36b、36c、36dの先端部を、摺接環20を構成する嵌合筒部31の外周面又は側板部32の軸方向内側面に摺接させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有する、ハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
摺接環及びシールリングを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ、シール装置と、を備え、
前記ハブは、外周面のうち、前記回転フランジと軸方向外側の前記内輪軌道との間に位置する部分に、中心軸を含む断面の輪郭形状が略凸円弧形のクラウニング部を備えた溝肩部を有し、
前記摺接環は、前記溝肩部のうちで前記クラウニング部を含む範囲に外嵌される嵌合筒部、及び、該嵌合筒部の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長する側板部を有し、
前記シールリングは、前記外輪の軸方向外側の端部に固定され、かつ、前記嵌合筒部の外周面又は前記側板部の軸方向内側面にその先端部を摺接させた少なくとも1本のシールリップを有する、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記クラウニング部の径方向高さと、前記摺接環の内周面と前記クラウニング部の頂部との締め代(半径値)の合計は、前記クラウニング部の頂部における直径の0.225%未満である、請求項1に記載したハブユニット軸受。
【請求項3】
前記側板部は、前記回転フランジから軸方向内側に離隔して配置されており、
前記シール装置は、前記回転フランジの軸方向内側面と前記側板部の軸方向外側面との間を密封する、複数のリップ部を有する密封部材を備える、
請求項1~2のうちのいずれか1項に記載したハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪は、ハブユニット軸受により、懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有するハブと、複列の外輪軌道と複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。外輪は、懸架装置に支持固定される。ハブの回転フランジには、車輪のホイール及び制動用回転体が結合固定される。
【0003】
なお、ハブユニット軸受に関して、軸方向外側とは、車両に組み付けた状態での車両の幅方向外側をいい、軸方向内側とは、車両に組み付けた状態での車両の幅方向中央側をいう。
【0004】
ハブユニット軸受は、外部からの泥水などの侵入を防止するため、外輪の内周面とハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置をさらに備える。従来、このようなシール装置として、外輪の軸方向外側の端部に支持固定され、かつ、それぞれの先端部をハブの軸方向中間部外周面又は回転フランジの軸方向内側面に全周にわたり摺接させた複数のシールリップを有するシールリングが広く知られている。
【0005】
ハブの軸方向中間部外周面及び回転フランジの軸方向内側面には、総型の研削砥石である回転砥石を用いた仕上げの研削加工が施される。総型の研削砥石を用いてハブの表面に研削加工を施す際には、回転フランジの軸方向内側面に、対数螺旋状、すなわち渦巻状の研削筋目が形成される可能性がある。このような研削筋目が形成されると、シールリップの先端部が回転フランジの軸方向内側面に貼り付いて摩擦抵抗が増大したり、シールリップの先端部が研削筋目の凹部の内側に深く入り込み、ハブが回転した際に、径方向に往復移動させられて振動し、シール鳴きと呼ばれる異音が発生したりする可能性がある。
【0006】
その対策として、特開2017-129197号公報(特許文献1)には、外輪の軸方向外側の端部に支持固定されたシールリングと、ハブの外周面のうち回転フランジと軸方向外側の内輪軌道との間に存在する円筒面状の溝肩部に圧入外嵌された金属板製の摺接環とを備えたシール装置が記載されている。このシール装置では、シールリングを構成する複数のシールリップの先端部を、表面粗さが良好で、加工筋目が素材の長手方向に一定な摺接環の表面に摺接させている。このため、シールリップの先端部の貼り付きによる摩擦抵抗の増大や異音の発生を抑えることができる。
【0007】
ところで、ハブユニット軸受には、主に自動車が旋回走行する際に、路面反力に基づくモーメント荷重が負荷される。この際、溝肩部を含む、回転フランジの根元部の表面には、回転曲げ荷重が加わる。これに伴い、該表面には、半回転するごとに凹形状の変形と凸形状の変形とが交互に繰り返される態様の、繰り返し運動が生じる。このため、溝肩部に対する摺接環の嵌合力が不足していると、溝肩部に生じる凹凸変形の繰り返し運動を推進力として、摺接環がクリープを伴ってハブに対し軸方向内側に移動する可能性がある。摺接環がハブに対して軸方向内側に移動すると、摺接環の表面に対するシールリップの先端部の軸方向の締め代が増大して、シールトルクが増大する可能性があるため、好ましくない。さらに、回転フランジの根元部と摺接環との間に隙間が生じてしまい、該隙間から水が侵入する可能性もある。
【0008】
これに対して、特開2017-129197号公報に記載の従来構造では、摺接環の径方向内側の端部に備えられた嵌合筒部を、素材となる金属板をU字形に折り返してなる高剛性の筒部としている。これにより、溝肩部に対する摺接環の嵌合筒部の嵌合力を高めている。さらに、前記従来構造では、溝肩部に形成された角形(略台形状)の断面形状を有する径方向突起部を、摺接環の嵌合筒部に対し、軸方向内側から対向させている。これにより、嵌合筒部と径方向突起部との係合に基づいて、摺接環がハブに対し軸方向内側に移動することを抑えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-129197号公報
【特許文献2】特開2017-180599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2017-129197号公報に記載の従来構造では、径方向突起部を乗り越えさせてから、溝肩部のうちで径方向突起部よりも軸方向外側部分に摺接環を外嵌するため、溝肩部に対する摺接環の嵌合力を確保することが難しくなる。また、摺接環の嵌合筒部を高剛性としているため、径方向突起部を乗り越えさせるのに大きな力が必要となり、摺接環を溝肩部に圧入外嵌する作業が困難になる。
【0011】
また、摺接環に使用されるSUS304やSUS430などのステンレス鋼板は、引張強度に対する降伏耐力の比が小さく、降伏点がはっきり現れないため、JISでは0.2%の永久ひずみが残る0.2%オフセット耐力を降伏耐力として想定している。嵌合筒部に塑性変形を生じさせることなく径方向突起部を乗り越えさせるためには、径方向突起部を乗り越える際の摺接環の円環応力を0.2%オフセット耐力未満(ひずみで0.45%未満)とする必要がある。このため、例えば、摺接環の嵌合径がφ64mmの場合には、径方向突起部の径方向高さと摺接環の嵌合筒部の締め代の合計を半径値で0.144mm未満とする必要がある。一般的に、摺接環の嵌合筒部の締め代は、嵌合径がφ64mmの場合に、半径値で0.05mm~0.1mm程度あるので、径方向突起部の径方向高さを十分に高くすることはできない。したがって、摺接環の軸方向内側への移動を径方向突起部により十分に抑えることは難しい。
【0012】
なお、特開2017-180599号公報(特許文献2)に記載されるように、ハブの外周面には、中心軸が軸方向内側に向かうほどハブの中心軸に近づく方向に傾斜した総型の研削砥石を用いて仕上げの研削加工が施される。一方、径方向突起部の断面形状を角形とした場合には、径方向突起部は、研削砥石の中心軸とは反対側を向いた円すい面状の軸方向外側面を有する。このため、研削加工時に、径方向突起部の軸方向外側面に研削砥石が届きにくく、径方向突起部の軸方向外側面を研削することが難しくなる。したがって、径方向突起部の断面形状を角形とした場合には、径方向突起部の軸方向外側面に嵌合面としての面精度を持たせることができないため、径方向突起部の軸方向外側面を嵌合面として利用することもできない。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、溝肩部に対する摺接環の嵌合力を確保でき、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動することを有効に抑制できる、ハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、シール装置とを備える。
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有する。
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
前記シール装置は、摺接環及びシールリングを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ。
前記ハブは、外周面のうち、前記回転フランジと軸方向外側の前記内輪軌道との間に位置する部分に、中心軸を含む断面の輪郭形状が略凸円弧形のクラウニング部を備えた溝肩部を有する。
前記摺接環は、前記溝肩部のうちで前記クラウニング部を含む範囲に外嵌される嵌合筒部、及び、該嵌合筒部の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長する側板部を有する。
前記シールリングは、前記外輪の軸方向外側の端部に固定され、かつ、前記嵌合筒部の外周面又は前記側板部の軸方向内側面にその先端部を摺接させた少なくとも1本のシールリップを有する。
【0015】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記クラウニング部の径方向高さ(クラウニング量)と、前記摺接環の内周面と前記クラウニング部の頂部との締め代(半径値)の合計を、前記クラウニング部の頂部における直径(ハブの中心軸から頂部までの径方向距離の2倍)の0.225%未満とすることができる。
前記クラウニング部の径方向高さとは、前記クラウニング部の軸方向端部から頂部までの径方向寸法をいう。
【0016】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記側板部を、前記回転フランジから軸方向内側に離隔して配置し、前記シール装置を、前記回転フランジの軸方向内側面と前記側板部の軸方向外側面との間を密封する、複数のリップ部を有する密封部材を備えるものとすることができる。
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記側板部の軸方向外側面を、前記回転フランジの軸方向内側面に接触させることもできる。
【0017】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記溝肩部を、前記クラウニング部と、円筒面部とを有するものとすることができる。
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記溝肩部の全体(軸方向全範囲)に、前記クラウニング部を設けることもできる。
【0018】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記嵌合筒部を、前記溝肩部に対して前記クラウニング部の全体を覆うように外嵌することができる。
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記嵌合筒部を、前記溝肩部に対して前記クラウニング部の一部を覆うように外嵌することもできる。この場合には、前記嵌合筒部を、前記溝肩部に対して前記クラウニング部の軸方向外側部を覆うように外嵌することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受によれば、溝肩部に対する摺接環の嵌合力を確保できて、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動することを有効に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本開示の実施の形態の第1例のハブユニット軸受を示す断面図である。
図2図2は、図1のA部拡大図である。
図3図3は、シールリングを省略して示す、図2の部分拡大図である。
図4図4は、本開示の実施の形態の第2例を示す、図2に相当する図である。
図5図5は、本開示の実施の形態の第3例を示す、図2に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1図3を用いて説明する。
【0022】
本発明のハブユニット軸受は、各種構造のハブユニット軸受に適用可能であるが、本例では、従動輪用のハブユニット軸受に適用した場合について説明する。
【0023】
本例のハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bと、シール装置5とを備える。
【0024】
なお、ハブユニット軸受1に関する以下の説明中、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側に位置する図1図3の左側を、軸方向外側といい、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側に位置する図1図3の右側を、軸方向内側という。
【0025】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道6a、6bを有する。さらに、外輪2は、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ7を有する。静止フランジ7は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔8を有する。
【0026】
本例では、支持孔8は、ねじ孔により構成されている。外輪2は、懸架装置のナックルに備えられた通孔を挿通した支持ボルトを、静止フランジ7の支持孔8に軸方向内側から螺合することで、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0027】
ハブ3は、外周面に複列の内輪軌道9a、9bを有し、かつ、外輪2よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジ10を有する。さらに、ハブ3は、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部11を有する。ハブ3は、外輪2の径方向内側に、該外輪2と同軸に配置されている。
【0028】
回転フランジ10は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔12を有する。取付孔12のそれぞれには、回転フランジ10に対して、ディスクやドラムなどの制動用回転体、及び、車輪を構成するホイールを結合固定するためのスタッド13が圧入状態でセレーション嵌合されている。すなわち、本例では、取付孔12は、円筒孔により構成されている。
【0029】
回転フランジ10の軸方向内側面は、径方向内側部に内側平面部23を有し、かつ、内側平面部23よりも径方向外側に、内側平面部23よりも軸方向外側に配置された外側平面部24を有する。さらに、回転フランジ10の軸方向内側面は、内側平面部23と外側平面部24との接続部に径方向外側を向いた略円すい筒面状の段部25を有し、かつ、径方向内側の端部に、径方向内側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に曲線状に湾曲した隅R部26を有する。
【0030】
ブレーキディスクなどの制動用回転体及び車輪のホイールは、それぞれの中心部に備えられた中心孔に、パイロット部11を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔に、スタッド13を挿通した状態で、スタッド13の先端部にハブナットを螺合することにより、回転フランジ10に結合固定される。
【0031】
なお、回転フランジの取付孔を、ねじ孔により構成することもできる。この場合には、制動用回転体に備えられた通孔と、ホイールに備えられた通孔とを挿通したハブボルトを、取付孔に軸方向外側から螺合することにより、制動用回転体及び車輪を回転フランジに結合固定する。
【0032】
本例のハブ3は、外周面のうち、回転フランジ10と軸方向外側の内輪軌道9aとの間に位置する部分、すなわち、軸方向外側の内輪軌道9aの軸方向外側に隣接する部分に、溝肩部27を有する。別の言い方をすれば、ハブ3は、外周面のうちで、外輪2の内周面の軸方向外側の端部と径方向に対向する部分に、溝肩部27を備えている。
【0033】
溝肩部27は、回転フランジ10の軸方向内側面に備えられた隅R部26に直接つながっており、かつ、軸方向外側の内輪軌道9aに直接つながっている。
【0034】
本例では、溝肩部27は、ハブ3の中心軸を含む断面の輪郭形状が略凸円弧形のクラウニング部28を備える。別の言い方をすれば、溝肩部27は、母線形状が略凸円弧形のクラウニング部28を備える。
【0035】
ハブ3の中心軸からクラウニング部28までの径方向距離は、クラウニング部28の軸方向両側の端部で最も小さく、クラウニング部28の軸方向中央に位置する頂部Tで最も大きくなる。また、ハブ3の中心軸からクラウニング部28までの径方向距離は、クラウニング部28の軸方向両側の端部から軸方向中央に向かうほどなだらかに大きくなる。
【0036】
本例では、クラウニング部28の輪郭は、軸方向に関して対称形状を有する。ただし、クラウニング部の輪郭を、軸方向に関して非対称形状とすることもできる。クラウニング部28の輪郭は、単一の円弧又は複数の円弧若しくは円弧と直線との組み合わせから構成することもできるし、対数関数で表される曲線によって構成することもできる。クラウニング部28の輪郭を、複数の円弧又は円弧と直線との組み合わせから構成する場合、それぞれの円弧同士又は円弧と直線とを滑らかに(接続部における接線の方向を一致させて)接続することが好ましい。
【0037】
本例では、クラウニング部28の径方向高さHと、摺接環20の内周面と溝肩部27の頂部Tとの締め代(半径値)の合計を、クラウニング部28の頂部Tにおける直径(ハブ3の中心軸から頂部Tまでの径方向距離の2倍)Dの0.225%未満としている。クラウニング部28の径方向高さHとは、クラウニング部28の軸方向端部から頂部Tまでの径方向寸法をいう(図3参照)。本例では、クラウニング部28の径方向高さHは、頂部Tにおける直径と後述する円筒面部30の外径との差の1/2である。クラウニング部28の径方向高さHは、具体的には、例えばクラウニング部28の頂部Tにおける直径Dをφ64mmとした場合、0.033mm~0.107mmである。また、本例では、摺接環20がクラウニング部28を乗り越える際の円環応力を、摺接環20の材料の0.2%オフセット耐力(SUS304やSUS430の場合にはひずみで0.45%)未満となるように、クラウニング部28の径方向高さHを規制している。
【0038】
クラウニング部28は、溝肩部27の全周に備えられている。つまり、クラウニング部28は、円周方向に連続し、全体が環状に構成された凸条である。ただし、クラウニング部を、部分環状とし、溝肩部27の円周方向に2乃至複数設けることもできる。クラウニング部を、部分環状とした場合には、ハブ3の中心軸に直交する断面の輪郭形状を、略凸円弧形のクラウニング形状又は扇形状とすることができる。クラウニング部を複数設ける場合には、溝肩部の円周方向に等間隔に配置することで、摺接環の偏心を防ぐことができ、また、欠円部によるくさび効果で、摺接環20のクリープ防止効果が向上する。
【0039】
本例では、クラウニング部28は、溝肩部27の軸方向外側半部に1つだけ備えられている。ただし、クラウニング部は、溝肩部27の軸方向内側半部に1つだけ設けることもできるし、複数のクラウニング部を軸方向に並べて配置することもできる。
【0040】
クラウニング部28の軸方向外側の端部は、回転フランジ10の軸方向内側面を構成する隅R部26に滑らかに接続されている。本例では、クラウニング部28と隅R部26との間に、面取り加工が施されている。これにより、クラウニング部28の軸方向外側の端部と隅R部26の軸方向内側の端部とは、ハブ3の中心軸を含む断面の輪郭形状が凹円弧形のR面29aを介して滑らかに接続されている。R面29aの曲率半径は、クラウニング部28の曲率半径よりも十分に小さい。
【0041】
本例では、溝肩部27は、直線状の母線形状を有する円筒面部30をさらに有する。円筒面部30は、溝肩部27の軸方向内側半部に備えられている。つまり、円筒面部30は、クラウニング部28の軸方向内側に隣接配置されている。ただし、円筒面部を、クラウニング部28の軸方向両側に備えることもできる。
【0042】
円筒面部30の軸方向外側の端部は、クラウニング部28の軸方向内側の端部に滑らかに接続されている。本例では、円筒面部30とクラウニング部28との間に、面取り加工が施されている。これにより、円筒面部30の軸方向外側の端部とクラウニング部28の軸方向内側の端部とは、ハブ3の中心軸を含む断面の輪郭形状が凹円弧形のR面29bを介して滑らかに接続されている。R面29bの曲率半径は、クラウニング部28の曲率半径よりも十分に小さい。円筒面部30の軸方向内側の端部は、軸方向外側の内輪軌道9aに接続されている。
【0043】
本例では、素材に熱間鍛造加工を施して、ハブ3を構成する後述のハブ輪15の大まかな形状を備えたハブ輪中間体を造る際に、溝肩部27を形成する。
【0044】
溝肩部27には、仕上加工としての研削加工が施されている。具体的には、溝肩部27には、総型の研削砥石を用いて、軸方向外側の内輪軌道9aと同時に研削加工が施されている。本例では、中心軸を軸方向内側に向かうほどハブ輪15の中心軸に近づく方向に傾斜させた研削砥石を用いて、仕上げの研削加工が施されている。
【0045】
本例では、溝肩部27に総型の研削砥石を用いた研削加工を施すことで、溝肩部27に嵌合面としての面精度を持たせている。具体的には、溝肩部27を構成するクラウニング部28及び円筒面部30に、嵌合面として利用できる面精度を持たせている。
【0046】
ここで、クラウニング部28の軸方向外側半部は、研削砥石の中心軸とは反対側を向いているが、軸方向外側の端部から軸方向中央に向けてハブ3の中心軸からの径方向距離がなだらかに変化しており、また、クラウニング量もそれほど大きくないため、中心軸を傾けた研削砥石を用いた場合にも、問題なく研削可能である。
【0047】
また、本例では、鍛造加工後、仕上げ加工(研削加工)前に、クラウニング部28と隅R部26との間、及びクラウニング部28と円筒面部30との間のそれぞれに、R面29a、29bを形成している。このため、研削加工時に、総型の研削砥石を用いて、クラウニング部28と隅R部26との間及びクラウニング部28と円筒面部30との間をそれぞれ研削することができる。したがって、クラウニング部28及び円筒面部30だけでなく、クラウニング部28と隅R部26との間のR面29a及びクラウニング部28と円筒面部30との間のR面29bにも、嵌合面としての面精度を持たせることができる。
【0048】
本例では、ハブ3は、内輪14とハブ輪15とを組み合わせてなる。
【0049】
内輪14は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪14は、外周面に、軸方向内側の内輪軌道9bを有する。
【0050】
ハブ輪15は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪15は、軸方向外側の内輪軌道9aと、回転フランジ10と、パイロット部11と、溝肩部27とを備える。
【0051】
ハブ輪15は、軸方向外側の内輪軌道9aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪14が外嵌される小径段部16を有する。さらに、ハブ輪15は、小径段部16の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面17を有し、かつ、小径段部16の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部18を有する。
【0052】
ハブ3は、ハブ輪15の小径段部16に内輪14を外嵌し、かつ、ハブ輪15の段差面17とかしめ部18との間で内輪14を軸方向両側から挟持することにより、内輪14とハブ輪15とを結合固定することで構成されている。なお、ハブ輪のうちで内輪の軸方向内側の端部から突出した軸方向内側の端部にナットを螺合することで、ハブ輪と内輪とを結合することもできる。
【0053】
本例のハブユニット軸受1は、従動輪用のハブユニット軸受であるため、ハブ3は、中実に構成されている。ただし、本開示のハブユニット軸受は、駆動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。この場合、ハブは、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有する。スプライン孔には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動される駆動軸の先端部が、スプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブを回転駆動することで、ハブの回転フランジに結合固定された車輪及び制動用回転体を回転駆動する。
【0054】
転動体4a、4bは、軸受鋼などの鉄合金製あるいはセラミックス製で、複列の外輪軌道6a、6bと複列の内輪軌道9a、9bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器19a、19bにより保持された状態で転動自在に配置されている。これにより、ハブ3は、外輪2の径方向内側に回転自在に支持される。
【0055】
本例のハブユニット軸受1は、軸方向外側列の転動体4aのピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体4bのピッチ円直径とが等しい、等径PCD型の構造を備える。ただし、本開示のハブユニット軸受は、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径が、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径よりも大きい又は小さい、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。また、本例のハブユニット軸受1では、転動体4a、4bとして玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。
【0056】
シール装置5は、摺接環20及びシールリング21を有し、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する転動体設置空間22の軸方向外側の開口を塞ぐ。
【0057】
摺接環20は、例えばSUS304製やSUS430製のステンレス鋼板などの耐食性を有する金属板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。本例の摺接環20は、円輪形状を有する素材にバーリング加工を施し、L字形の断面形状を有する中間素材を形成した後、該中間素材の内径部にシェービング加工を施して、内径部表面を薄く削り取ることにより形成されている。
【0058】
摺接環20は、軸方向に伸長する嵌合筒部31、及び、該嵌合筒部31の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長する側板部32を有する。
【0059】
本例の摺接環20は、上記工程を経て造られるため、嵌合筒部31の円筒度は良好である。ただし、嵌合筒部31は、軸方向外側の端部のみが側板部32に接続されているため、径方向及び円周方向の剛性が軸方向位置によって異なる。すなわち、嵌合筒部31は、側板部32に接続された軸方向外側の端部の径方向及び円周方向の剛性が、その他の部分の径方向及び円周方向の剛性に比べて高い。
【0060】
嵌合筒部31は、自由状態で円筒形状を有しており、溝肩部27に圧入により外嵌されている。本例では、嵌合筒部31は、溝肩部27のうちでクラウニング部28を含む範囲に外嵌されている。具体的には、嵌合筒部31は、溝肩部27のうちで、クラウニング部28の軸方向外側の端部から円筒面部30の軸方向中間部にわたる範囲に外嵌されている。このため、嵌合筒部31は、クラウニング部28の全体を覆うように溝肩部27に外嵌されている。また、嵌合筒部31の軸方向外側の端部は、クラウニング部28の軸方向外側の端部に外嵌されており、嵌合筒部31の軸方向中間部は、クラウニング部28の軸方向中間部(頂部Tを含む部分)に外嵌されている。
【0061】
溝肩部27に嵌合筒部31を外嵌した状態で、嵌合筒部31の軸方向外側の端部から軸方向中間部にわたる範囲は、クラウニング部28に沿って弾性変形し、略樽形状になる。これに対し、嵌合筒部31の軸方向内側の端部は、円筒面部30に沿って弾性変形し、わずかに拡径する。
【0062】
本例では、溝肩部27に嵌合筒部31を圧入により外嵌する際に、嵌合筒部31の軸方向外側部は、クラウニング部28を乗り越える。つまり、嵌合筒部31の軸方向外側部は、クラウニング部28の頂部Tを超えて軸方向外側に移動する。
【0063】
本例では、側板部32は、傾斜板部33と、円輪板部34と、外径側筒部35とを有する。傾斜板部33は、円環状に構成されており、嵌合筒部31の軸方向外側の端部から軸方向外側に向かうにつれて径方向外側に向かう方向に曲線的に伸長している。円輪板部34は、円輪状に構成されており、傾斜板部33の径方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長している。外径側筒部35は、円輪板部34の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて略直角に折れ曲がって伸長している。外径側筒部35の外径は、回転フランジ10の軸方向内側面を構成する段部25の軸方向内側の端部における外径よりもわずかに大きい。外径側筒部35の軸方向内側の端面は、外輪2の軸方向外側の端面に対し軸方向に近接対向している。
【0064】
本例では、側板部32の軸方向外側面を、回転フランジ10の軸方向内側面に接触させている。具体的には、側板部32を構成する円輪板部34の軸方向外側面を、回転フランジ10の軸方向内側面に備えられた内側平面部23に接触させている。これに対し、傾斜板部33の内周面と、回転フランジ10の軸方向内側面に備えられた隅R部26との間には、隙間を設けている。
【0065】
シールリング21は、外輪2の軸方向外側の端部に固定され、かつ、嵌合筒部31の外周面又は側板部32の軸方向内側面にその先端部を摺接させた少なくとも1本のシールリップ36a、36b、36c、36dを有する。本例では、シールリング21は、4本のシールリップ36a、36b、36c、36dを有する。ただし、本開示のハブユニット軸受を実施する場合、シールリップの本数を、4本よりも少なくあるいは多くすることもできる。
【0066】
本例では、シールリング21は、芯金37と、シール材38とを備える。
【0067】
芯金37は、軟鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。芯金37は、外輪2の軸方向外側の端部に締り嵌めで内嵌固定されたシール嵌合筒部39と、クランク形の断面形状を有し、かつ、径方向外側の端部がシール嵌合筒部39の軸方向外側の端部につながった支持板部40とを備える。
【0068】
シール材38は、ゴムなどのエラストマーを含む弾性材により構成され、芯金37の表面に加硫接着により結合固定されている。4本のシールリップ36a、36b、36c、36dは、シール材38に備えられている。シール材38は、4本のシールリップ36a、36b、36c、36dに加え、シール基部41を備える。
【0069】
シール基部41は、芯金37の表面のうち、支持板部40の軸方向外側面、内周面、及び軸方向内側面の径方向内側の端部を覆っている。
【0070】
4本のシールリップ36a、36b、36c、36dのうち、シールリング21の径方向外側部に配置されたシールリップ36aは、シール基部41のうちで支持板部40の軸方向外側面の径方向外側部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、円輪板部34の軸方向内側面に先端部を摺接させている。シールリング21の径方向中間部に配置されたシールリップ36bは、シール基部41のうちで支持板部40の軸方向外側面の径方向内側部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、円輪板部34の軸方向内側面に先端部を摺接させている。シールリング21の径方向内側部に配置された2本のシールリップ36c、36dのうち、軸方向外側に配置されたシールリップ36cは、シール基部41のうちで支持板部40の内周面を覆う部分から軸方向外側かつ径方向内側に向かう方向に伸長し、かつ、嵌合筒部31のうちでクラウニング部28に外嵌された部分の外周面に先端部を摺接させている。軸方向内側に配置されたシールリップ36dは、シール基部41のうちで支持板部40の内周面を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に伸長し、かつ、嵌合筒部31のうちでクラウニング部28に外嵌された部分の外周面に先端部を摺接させている。本例では、径方向内側に配置された2本のシールリップ36c、36dは、略樽形状に弾性変形した嵌合筒部31のうちで最も外径が最も大きくなった部分を挟んだ両側部分に先端部を摺接させている。
【0071】
これにより、摺接環20とシールリング21との間を通じて、外部空間から泥水などの異物が転動体設置空間22に侵入したり、転動体設置空間22に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。
【0072】
本例のハブユニット軸受1は、転動体設置空間22の軸方向内側の開口部を塞ぐ有底円筒状の軸受キャップ42(図1参照)をさらに備える。これにより、該開口部を通じて、外部空間の異物が転動体設置空間22に侵入したり、転動体設置空間22に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。なお、軸受キャップ42に代えて、組み合わせシールリングにより、転動体設置空間22の軸方向内側の開口を塞ぐこともできる。
【0073】
本例のハブユニット軸受1によれば、溝肩部27に対する摺接環20の嵌合力を確保できて、摺接環20がハブ3に対して軸方向内側に移動することを有効に抑えられる。
【0074】
すなわち、本例では、特開2017-129197号公報に記載の従来構造とは異なり、溝肩部27に嵌合面としての面精度を持たせることができるクラウニング部28を形成し、かつ、摺接環20の嵌合筒部31をクラウニング部28に外嵌する構成を採用している。つまり、本例では、クラウニング部28を乗り越えさせて、溝肩部27のうちでクラウニング部28から外れた部分に摺接環20を外嵌するのではなく、摺接環20の嵌合筒部31をクラウニング部28に外嵌している。このため、嵌合筒部31のうちでクラウニング部28に外嵌した部分の嵌合力を高められる。したがって、溝肩部27に対する摺接環20の嵌合筒部31の嵌合力を確保でき、摺接環20がハブ3に対して軸方向内側に移動することを防止できる。
【0075】
また、クラウニング部28の径方向高さHと、摺接環20の内周面とクラウニング部28の頂部Tとの締め代(半径値)の合計を、クラウニング部28の頂部Tにおける直径Dの0.225%未満としているため、嵌合筒部31を溝肩部27に圧入により外嵌する際に、嵌合筒部31に塑性変形が生じることを抑制できる。また、本例では、クラウニング部28の径方向高さHを、摺接環20がクラウニング部28を乗り越える際の円環応力が、0.2%オフセット耐力(SUS304やSUS430の場合にはひずみで0.45%)未満となるように規制しているため、この面からも嵌合筒部31に塑性変形が生じることを抑制できる。
【0076】
また、クラウニング部28は、ハブ3の中心軸からの径方向距離が軸方向になだらかに変化しているため、嵌合筒部31を溝肩部27に圧入する際に嵌合筒部31に生じる寸法変化を緩やかにできて、嵌合筒部31に塑性変形が発生するのを効果的に抑制できる。また、嵌合筒部31を溝肩部27に押し込むのに必要な力を小さくできるので、組立作業の作業性の向上を図れる。
【0077】
また、本例では、嵌合筒部31のうちで、その他の部分に比べて径方向及び円周方向の剛性の高い軸方向外側の端部を、クラウニング部28の軸方向外側の端部に外嵌し、かつ、軸方向外側の端部に比べて径方向及び円周方向の剛性の低い軸方向中間部を、クラウニング部28の軸方向中間部(頂部Tを含む部分)に外嵌している。このため、嵌合筒部31の内周面を溝肩部27の外周面に密着させることができ、嵌合筒部31による嵌合力を軸方向に平準化できる。したがって、嵌合筒部31の内周面と溝肩部27との間に、摺接環20のクリープの原因となる隙間が生じることを防止できる。さらに、嵌合筒部31のうちで径方向及び円周方向の剛性の高い軸方向外側の端部を、クラウニング部28の頂部Tよりも軸方向外側に配置できるため、摺接環20がハブ3に対して軸方向内側に移動することをより有効に防止できる。
【0078】
さらに本例では、クラウニング部28と隅R部26との間のR面29a及びクラウニング部28と円筒面部30との間のR面29bについても、嵌合面としての面精度を持たせることができる。したがって、クラウニング部28及び円筒面部30だけでなく、R面29a、29bについても、嵌合筒部31の内周面を密着させることができる。
【0079】
[実施の形態の第2例]
本開示の実施の形態の第2例のハブユニット軸受について、図4を用いて説明する。
【0080】
本例は、実施の形態の第1例の変形例であり、溝肩部27a及びシール装置5aの構造のみを、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0081】
本例では、溝肩部27aの全体(軸方向全範囲)に、クラウニング部28aを設けている。このため、溝肩部27aは、円筒面部30(図2参照)を備えていない。溝肩部27aの軸方向内側の端部は、軸方向外側の内輪軌道9aに直接接続されている。
【0082】
本例では、摺接環20aが嵌合しているクラウニング部28aの径方向高さHと、摺接環20aの内周面とクラウニング部28aの頂部Tとの締め代(半径値)の合計を、クラウニング部28aの頂部Tにおける直径Dの0.225%未満とし、実施の形態の第1例のクラウニング部28(図2参照)の径方向高さと同じ大きさとしている。
【0083】
シール装置5aは、摺接環20a及びシールリング21aを有し、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する転動体設置空間22の軸方向外側の開口を塞ぐ。本例のシール装置5aは、ハブ3と摺接環20aとの間を密封する密封部材43をさらに備える。
【0084】
摺接環20aは、軸方向に伸長する嵌合筒部31a、及び、該嵌合筒部31aの軸方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長する側板部32aを有する。
【0085】
嵌合筒部31aは、自由状態で円筒形状を有しており、溝肩部27aに圧入により外嵌されている。本例では、嵌合筒部31aの軸方向寸法は、クラウニング部28aの軸方向寸法よりも短いため、嵌合筒部31aの全体がクラウニング部28aに外嵌されている。また、溝肩部27aに嵌合筒部31aを外嵌した状態で、嵌合筒部31aの全体が、クラウニング部28aに沿って弾性変形し、略樽形状となる。
【0086】
側板部32aは、円輪板部34aと、外径側筒部35aとを有する。円輪板部34aは、円輪状に構成されており、嵌合筒部31aの軸方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長している。円輪板部34aの軸方向内側面は、外輪2の軸方向外側の端面とほぼ同じ軸方向位置に配置されている。外径側筒部35aは、円輪板部34aの径方向外側の端部から軸方向内側に向けて略直角に折れ曲がって伸長している。外径側筒部35aの外径は、回転フランジ10の軸方向内側面を構成する段部25の軸方向内側の端部における外径よりも十分に小さく、外輪2の軸方向外側の端部の内径よりも十分に小さい。外径側筒部35aは、外輪2の軸方向外側の端部の径方向内側に配置されている。外径側筒部35aの軸方向内側の端面は、シールリング21aを構成する後述のシール基部41aの軸方向外側面に対し軸方向に近接対向している。
【0087】
本例では、側板部32aの軸方向外側面を、回転フランジ10の軸方向内側面に接触させずに、回転フランジ10の軸方向内側面に対して軸方向に離隔して配置している。具体的には、側板部32aを構成する円輪板部34aの軸方向外側面を、回転フランジ10の軸方向内側面に備えられた内側平面部23に対して軸方向内側に離隔して配置している。このため、ハブユニット軸受1に加わるモーメント荷重により回転フランジ10が軸方向に倒れるように弾性変形する際にも、回転フランジ10によって摺接環20aの側板部32aが軸方向内側に直接押されることを防止できる。
【0088】
密封部材43は、摺接環20aの側板部32aを構成する円輪板部34aにゴムなどのエラストマーを含む弾性材を円環状に加硫接着してなる、シールリングにより構成されている。
【0089】
密封部材43は、円輪板部34の軸方向外側面に固定された円環状の基部44と、該基部44の径方向内側部に備えられた2つのリップ部45a、45bとからなる。2つのリップ部45a、45bの基端部は、互いに一体に構成されている。
【0090】
2つのリップ部45a、45bのうち、径方向外側に配置されたリップ部45aは、回転フランジ10の軸方向内側面に備えられた隅R部26に先端部を全周にわたり近接対向させている。径方向内側に配置されたリップ部45bは、隅R部26に先端部を全周にわたり接触させている。これにより、泥水などの異物が、溝肩部27aと嵌合筒部31aとの間部分を通じて、転動体設置空間22に侵入することを防止している。
【0091】
シールリング21aを構成する芯金37aは、外輪2の軸方向外側の端部に締り嵌めで内嵌固定されたシール嵌合筒部39aと、シール嵌合筒部39aの軸方向外側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がり、外輪2の軸方向外側の端面に沿って径方向外側に伸長した外向鍔部46と、シール嵌合筒部39aの軸方向内側の端部から径方向内側に向けて伸長した支持板部40aとを備える。
【0092】
シールリング21aを構成するシール材38aは、シール基部41aと、2本のシールリップ36e、36fと、堰部47と、庇リップ48とを有する。
【0093】
シール基部41aは、芯金37aの表面のうち、シール嵌合筒部39aの内周面と、外向鍔部46の軸方向外側面、外周面及び軸方向内側面の径方向外側部と、支持板部40aの軸方向外側面、内周面、及び軸方向内側面の径方向内側の端部とを覆っている。
【0094】
シール基部41aのうちでシール嵌合筒部39aの内周面を覆った部分と、摺接環20aの外径側筒部35aの外周面との間には、軸方向に伸長したラビリンスシールが形成されている。また、シール基部41aのうちで支持板部40aの軸方向外側面を覆った部分と、外径側筒部35aの軸方向内側の端面との間にも、ラビリンスシールが形成されている。
【0095】
2本のシールリップ36e、36fは、シールリング21aの径方向内側部に備えられている。2本のシールリップ36e、36fのうち、軸方向外側に配置されたシールリップ36eは、シール基部41aのうちで支持板部40aの内周面を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、側板部32aの軸方向内側面に先端部を摺接させている。軸方向内側に配置されたシールリップ36fは、シール基部41aのうちで支持板部40aの内周面を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に伸長し、かつ、嵌合筒部31aの外周面に先端部を摺接させている。
【0096】
堰部47は、シールリング21aの径方向外側の端部に備えられている。堰部47は、外輪2の外周面の軸方向外側の端部よりも径方向外側に突出して配置されている。
【0097】
庇リップ48は、堰部47の軸方向外側面の径方向中間部から軸方向外側に向けて伸長し、回転フランジ10の軸方向内側面を構成する段部25に対して先端部を近接対向させている。庇リップ48の内周面と段部25の外周面との間には、ラビリンシールが形成されている。庇リップ48は、軸方向外側に向かうほど径方向外側に向かう方向に伸長している。
【0098】
以上のような本例では、密封部材43に備えられた2つのリップ部45a、45bのうち、径方向外側に配置されたリップ部45aを隅R部26に全周にわたり近接対向させ、かつ、径方向内側に配置されたリップ部45bを隅R部26に全周にわたり接触させている。このため、泥水などの異物が、溝肩部27aと嵌合筒部31aとの間部分を通じて、転動体設置空間22に侵入することを防止できる。
【0099】
また、シールリング21aに備えられた堰部47により、外輪2の外周面を伝って軸方向外側へ流れる水分を堰き止め、外輪2の軸方向外側の端面と回転フランジ10の軸方向内側面との間に水分が侵入するのを抑制できる。さらに、庇リップ48を段部25に近接対向させているため、転動体設置空間22への異物の侵入防止効果をより高めることができる。
【0100】
また、シール基部41aのうちでシール嵌合筒部39aの内周面を覆った部分と、摺接環20aの外径側筒部35aの外周面との間に、軸方向に長いラビリンスシールを備えているため、庇リップ48と段部25との間から侵入した異物が転動体設置空間22に侵入することを有効に防止できる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0101】
[実施の形態の第3例]
本開示の実施の形態の第3例のハブユニット軸受について、図5を用いて説明する。
【0102】
本例は、実施の形態の第2例の変形例であり、シール装置5bを構成する密封部材43aの構造のみを、実施の形態の第2例の構造から変更している。
【0103】
すなわち、密封部材43aは、円輪板部34aの軸方向外側面に固定された円環状の基部44aと、該基部44aの径方向外側の端部から軸方向外側に向かうほど径方向外側に伸長した円すい筒状のリップ部45cと、基部44aの径方向内側の端部から軸方向外側に向かうほど径方向外側に伸長した円すい筒状のリップ部45dとからなる。つまり、密封部材43aは、それぞれが円すい筒状の2つのリップ部45c、45dを径方向に重なるように備えている。そして、リップ部45c、45dのそれぞれの先端部を、内側平面部23に全周にわたり接触させている。
【0104】
以上のような本例では、径方向に重なるように配置された2つのリップ部45c、45dのそれぞれの先端部を、内側平面部23に全周にわたり接触させているため、ハブ輪15の隅R部26の密封性能の向上を図れるとともに、ハブ輪15の隅R部26の発錆により生じるアルカリ性の錆汁により密封部材43aの接着層が破壊されることによる、密封部材43aの剥がれを抑制することができる。また、リップ部45c、45dを円すい筒状に構成することで、リップ部45c、45dの軸方向の剛性を低くできるため、ハブユニット軸受1に加わるモーメント荷重により回転フランジ10が軸方向に倒れるように弾性変形した際にも、リップ部45c、45dを弾性変形させることで、摺接環20aが軸方向内側に押されることを抑制できる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例及び第2例と同じである。
【0105】
以上、本開示の実施の形態について説明したが、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0106】
本開示の技術思想は、実施の形態で説明した構造に限定されない。例えば、溝肩部に備えるクラウニング部の形状、大きさ及び形成位置は、実施の形態の各例の構造に限定されず、適宜変更することができる。また、シール装置を構成する摺接環及びシールリングの構造についても、実施の形態の各例の構造に限定されず、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4a、4b 転動体
5、5a、5b シール装置
6a、6b 外輪軌道
7 静止フランジ
8 支持孔
9a、9b 内輪軌道
10、10a 回転フランジ
11 パイロット部
12 取付孔
13 スタッド
14 内輪
15 ハブ輪
16 小径段部
17 段差面
18 かしめ部
19a、19b 保持器
20、20a 摺接環
21、21a シールリング
22 転動体設置空間
23 内側平面部
24 外側平面部
25 段部
26 隅R部
27、27a 溝肩部
28、28a クラウニング部
29a、29b R面
30 円筒面部
31、31a 嵌合筒部
32、32a 側板部
33 傾斜板部
34、34a 円輪板部
35、35a 外径側筒部
36a~36f シールリップ
37、37a 芯金
38、38a シール材
39、39a シール嵌合筒部
40、40a 支持板部
41、41a シール基部
42 軸受キャップ
43、43a 密封部材
44、44a 基部
45a~45d リップ部
46 外向鍔部
47 堰部
48 庇リップ
図1
図2
図3
図4
図5