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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077127
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/04 20060101AFI20240531BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20240531BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C23C24/04
B05D1/02 Z
B05D7/24 301W
B05D7/24 302A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188985
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】504273254
【氏名又は名称】有限会社 渕田ナノ技研
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渕田 英嗣
【テーマコード(参考)】
4D075
4K044
【Fターム(参考)】
4D075AA06
4D075AA71
4D075AA76
4D075BB81X
4D075DA06
4D075DB07
4D075EA02
4D075EB05
4D075EB57
4K044AA06
4K044BA11
4K044BA13
4K044BB11
4K044BC05
4K044CA23
4K044CA27
4K044CA29
4K044CA71
(57)【要約】
【課題】緻密性および密着性に優れたセラミックス膜を安定に形成することができる成膜方法を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る成膜方法は、3μm以上7μm以下の平均粒子径を有する第1のセラミックス粒子と、前記第1のセラミックス粒子と同一材料からなるセラミックス粒子の粉砕処理粉であり0.2μm以上0.4μm以下の粒子サイズを含む第2のセラミックス粒子とを混合した原料粒子を密閉容器に収容し、前記密閉容器にガスを導入することによって前記原料粒子のエアロゾルを生成し、前記密閉容器に接続された搬送管を介して、前記密閉容器よりも低圧に維持された成膜室に前記エアロゾルを搬送し、前記成膜室に収容された基材上に前記原料微粒子由来の活性種を堆積させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3μm以上7μm以下の平均粒子径を有する第1のセラミックス粒子と、前記第1のセラミックス粒子と同一材料からなるセラミックス粒子の粉砕処理粉であり0.2μm以上0.4μm以下の粒子サイズを含む第2のセラミックス粒子とを混合した原料粒子を密閉容器に収容し、
前記密閉容器にガスを導入することによって前記原料粒子のエアロゾルを生成し、
前記密閉容器に接続された搬送管を介して、前記密閉容器よりも低圧に維持された成膜室に前記エアロゾルを搬送し、
前記成膜室に収容された基材上に前記原料微粒子を堆積させる
成膜方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜方法であって、
前記第2のセラミックス粒子は、前記第1のセラミックス粒子の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有するセラミックス粒子を粉砕処理することで形成される
成膜方法。
【請求項3】
請求項1に記載の成膜方法であって、
前記第2のセラミックス粒子は、前記第1のセラミックス粒子を粉砕処理することで形成される
成膜方法。
【請求項4】
請求項1-3に記載の成膜方法であって、
前記原料粒子の前記密閉容器から前記成膜室への搬送途上で、前記第1のセラミックス粒子を帯電させ、前記第1のセラミックス粒子と前記基材との間に形成される放電により前記第2のセラミックス粒子の表面をスパッタする
成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾル化ガスデポジション法を利用したセラミックス膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゾル化ガスデポジション法(以下、AGD法ともいう)は、エアロゾル化容器に収容された原料粒子(エアロゾル原料)を、ガスによって巻き上げてエアロゾル化し、エアロゾル化容器内と成膜室内との圧力差によるガス流によって搬送して基材に衝突させる過程で、常温成膜させる方法である。当該方法では、成膜速度が他の成膜方法に比して高速であり、一般に、高密度、高密着性を有する膜を成膜することが可能である。
【0003】
例えば特許文献1,2には、エアロゾル化容器に収容された原料粒子をガスによって巻き上げてエアロゾル化し、エアロゾル化容器と成膜室との圧力差によるガス流によって搬送された原料粒子を成膜室に設置された基材に衝突させて堆積させる成膜方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、電気絶縁性の原料粒子を収容した密閉容器にガスを導入して原料粒子のエアロゾルを生成し、密閉容器に接続された搬送管を介して密閉容器よりも低圧の成膜室にエアロゾルを搬送し、搬送管の先端に取り付けられたノズルから成膜室に設置されたターゲットに向けてエアロゾルを噴射し、原料粒子をターゲットに衝突させることで原料粒子をプラスに帯電させ、帯電した原料粒子の放電によって原料粒子の微細粒子を生成し、生成された微細粒子を成膜室に設置された基材上に堆積させる成膜方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-9368号公報
【特許文献2】国際公開2012/81053号公報
【特許文献3】特開2016-27185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、AGD法を用いて成膜されたセラミックス膜において、緻密性および密着性のさらなる向上が求められている。エアロゾル化ガスデポジション法で成膜が可能な原料微粒子の平均粒子径は、一般的には0.5μm程度が最適と考えられており、この粒径付近の粉を利用して成膜が実施されている。一方、原料微粒子の粒子径がこれよりも大きい場合、膜の緻密性や密着性はさらに高まるものと考えられてはいるが、安定に成膜することが困難であった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、緻密性および密着性に優れたセラミックス膜を安定に形成することができる成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係る成膜方法は、
3μm以上7μm以下の平均粒子径を有する第1のセラミックス粒子と、前記第1のセラミックス粒子と同一材料からなるセラミックス粒子の粉砕処理粉であり0.2μm以上0.4μm以下の粒子サイズを含む第2のセラミックス粒子とを混合した原料粒子を密閉容器に収容し、
前記密閉容器にガスを導入することによって前記原料粒子のエアロゾルを生成し、
前記密閉容器に接続された搬送管を介して、前記密閉容器よりも低圧に維持された成膜室に前記エアロゾルを搬送し、
前記成膜室に収容された基材上に前記原料微粒子に由来する活性種を堆積させる。
【0009】
原料粒子として比較的大きな粒子サイズの第1のセラミックス粒子と比較的小さな粒子サイズの第2のセラミックス粒子とを混在させることで、第1のセラミックス粒子で効率よくプラズマを発生させ、第1のセラミックス粒子よりも比表面積が大きい第2のセラミックス粒子で成膜効率を高める。これにより、緻密で密着性の高いセラミックス粒子膜を安定に形成することができる。
【0010】
前記第2のセラミックス粒子は、前記第1のセラミックス粒子の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有するセラミックス粒子を粉砕処理することで形成されてもよい。
【0011】
前記第2のセラミックス粒子は、前記第1のセラミックス粒子を粉砕処理することで形成されてもよい。
【0012】
前記原料粒子の前記密閉容器から前記成膜室への搬送途上で、前記第1のセラミックス粒子を帯電させ、前記第1のセラミックス粒子と前記基材との間に形成される放電により前記第2のセラミックス粒子の表面をスパッタしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、緻密性および密着性に優れたセラミックス膜を安定に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態において用いられるエアロゾル化ガスデポジション装置の概略構成図である。
図2】上記エアロゾル化ガスデポジション装置の動作を説明する概略図である。
図3】実験例2で用いられる粉砕処理前のPZT粉の粒度分布を示す図である。
図4】上記PZT粉の粉砕処理後の粒度分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係るエアロゾル化ガスデポジション装置(以下、AGD装置ともいう)1の概略構成図である。
【0017】
同図に示すように、AGD装置1は、エアロゾル化容器2(密閉容器)と、成膜チャンバ3(成膜室)と、排気系4と、ガス供給系5と、搬送管6とを具備する。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3はそれぞれ独立した室を形成し、各室の内部空間は搬送管6によって相互に接続されている。排気系4は、エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3とに接続されている。ガス供給系5は、エアロゾル化容器2に接続されている。また、エアロゾル化容器2にはエアロゾル原料Pが収容されている。成膜チャンバ3には基材Sが収容されている。
【0018】
エアロゾル化容器2は、エアロゾル原料Pを収容し、その内部でエアロゾルが生成される。エアロゾル化容器2は、接地電位に接続され、密閉可能な構造を有し、また、エアロゾル原料Pを出し入れするための図示しない蓋部を有する。エアロゾル化容器2は、排気系4及びガス供給系5に接続されている。AGD装置1は、エアロゾル原料Pを攪拌するためにエアロゾル化容器2を振動させる振動機構、あるいはエアロゾル原料Pを脱気(水分等の除去)させるために加熱する加熱手段が設けられていてもよい。
【0019】
成膜チャンバ3は、内部に基材Sを収容する。成膜チャンバ3は内部の圧力を維持することが可能に構成されている。成膜チャンバ3は、排気系4に接続されている。また、成膜チャンバ3には、基材Sを保持するためのステージ7と、ステージ7をその面内2軸(X軸、Y軸)方向に移動させるためのステージ駆動機構8が設けられている。ステージ7は、成膜前に基材Sを脱気させるために基材Sを加熱する加熱手段を有していてもよい。また、成膜チャンバ3には、内部の圧力を指示する真空計が設けられてもよい。成膜チャンバ3及びステージ7は、接地電位に接続されている。
【0020】
基材Sは、典型的には板状の部材である。より具体的に、基材Sには、アルミニウム、ステンレス鋼などの金属基材、石英などのガラスあるいはセラミックス基材などが用いられる。基材Sは、金属膜や絶縁膜などの表面層が形成されていてもよい。
【0021】
排気系4は、エアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を真空排気する。排気系4は、真空配管9と、第1バルブ10と、第2バルブ11と、真空ポンプ12とを有する。
【0022】
真空ポンプ12に接続された真空配管9は分岐され、エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3に接続されている。第1バルブ10は真空配管9の分岐点とエアロゾル化容器2の間の真空配管9上に配置され、エアロゾル化容器2の真空排気を遮断することが可能に構成されている。第2バルブ11は真空配管9の分岐点と成膜チャンバ3の間の真空配管9上に配置され、成膜チャンバ3の真空排気を遮断することが可能に構成されている。真空ポンプ12の構成は特に限定されず、複数のポンプユニットからなるものとしてもよい。真空ポンプ12は例えば、直列に接続されたメカニカルブースターポンプとロータリーポンプとすることができる。
【0023】
ガス供給系5は、エアロゾル化容器2に、エアロゾル化容器2の圧力を規定し、かつ、エアロゾルを形成するためのキャリアガスを供給する。キャリアガスは、例えば、N、Ar、He、O2、乾燥空気(エア)等である。ガス供給系5は、ガス配管13と、ガス源14と、第3バルブ15と、ガス流量計16と、ガス噴出体17とを有する。
【0024】
ガス源14とガス噴出体17はガス配管13によって接続され、ガス配管13上に第3バルブ15及びガス流量計16が配置されている。ガス源14は、例えばガスボンベであり、キャリアガスを供給する。ガス噴出体17は、エアロゾル化容器2内に配置され、ガス配管13から供給されたキャリアガスを均一に噴出させる。ガス噴出体17は、例えば、ガス噴出孔が多数設けられた中空体とすることができ、エアロゾル原料Pに被覆される位置に配置されることによりエアロゾル原料Pを有効に巻き上げ、エアロゾル化させることが可能となる。ガス流量計16は、ガス配管13中を流通するキャリアガスの流量を指示する。第3バルブ15は、ガス配管13中を流通するキャリアガスの流量を調節し、あるいは遮断することが可能に構成されている。
【0025】
搬送管6は、エアロゾル化容器2内で形成されたエアロゾルを成膜チャンバ3内に搬送する。搬送管6の一端はエアロゾル化容器2に接続される。搬送管6は、他端に設けられたノズル18を有する。ノズル18は小径の丸孔あるいはスリット状の開口を有し、ノズル18の開口径によってエアロゾルの噴出速度が規定される。ノズル18は、基材Sに対向する位置に設けられる。ノズル18はまた、エアロゾルの基材Sに対する噴出距離あるいは噴出角度を規定するためにノズル18の位置及び角度を規定する、図示しないノズル可動機構に接続されている。搬送管6及びノズル18は、接地電位に接続される。
【0026】
搬送管6の内面は導電体で形成されていても良い。搬送管6はステンレス管等の直線的な金属管が用いられても良い。搬送管6の長さ、内径は適宜設定可能であり、例えば長さは300mm~1000mm、内径は4.5mm~24mmである。また、プラス帯電されたエアロゾル粒子の帯電量を維持するために、絶縁性のフッ素樹脂(例えば、PTFE;ポリテトラフルオロエチレン)管を使用しても良い。
【0027】
ノズル18の開口形状は、円形でもよいしスロット状でもよい。本実施形態では、ノズル18の開口形状はスロット状であり、その長さが幅の10倍以上1000倍以下の大きさを有する。開口の長さと幅との比が10倍未満の場合、ノズル内部で粒子を効果的に帯電させることが困難である。また開口の長さと幅との比が1000倍を超えると、粒子の帯電効率は高められるが、微粒子の噴射量が制限され成膜レートの低下が顕著となる。ノズル開口部の長さと幅との比は、好ましくは、20倍以上800倍以下、さらに好ましくは、30倍以上400倍以下である。
【0028】
基材Sは、ガラス、金属、セラミックス等の材料で構成される。上述のように、AGD法は常温で成膜が可能であり、また、化学的プロセスを経ない物理的成膜法であるため、幅広い材料を基材として選択することが可能である。また、基材Sは平面的なものに限られず、立体的なものであってもよい。
【0029】
AGD装置1は、以上のように構成される。なお、AGD装置1の構成は上述のものに限られない。例えば、エアロゾル化容器2に接続された、ガス供給系5とは別系統のガス供給機構を設けることも可能である。上述の構成では、ガス供給系5によって供給されるキャリアガスによって、エアロゾル化容器2の圧力が調整されるとともに、エアロゾル原料Pが巻き上げられてエアロゾルが形成される。なお、当該別系統のガス供給手段から圧力調節を担うガスを別途供給することにより、エアロゾルの形成状態(形成量、主に巻き上げられる粒子径等)とは独立にエアロゾル化容器2内の圧力を調節することが可能である。
【0030】
エアロゾル原料Pは、エアロゾル化容器2内でエアロゾル化され、基材S上に成膜される。エアロゾル原料Pは、少なくとも表面が絶縁体である微粒子が用いられる。このような微粒子としては、セラミックス粒子が用いられ、セラミックス粒子としては、例えば、アルミナ微粒子、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)微粒子、ジルコニア微粒子、イットリア微粒子等の絶縁体微粒子が挙げられる。また微粒子としては、表面が絶縁性被膜でコーティングされた金属等の導体微粒子も含まれる。エアロゾル原料Pの粒子径は特に限定されないが、例えば0.5μm以上10μm以下の平均粒子径(D50)を有する微粒子が適用可能である。
【0031】
ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、特に断らない限り、レーザー回折式粒度分布測定法で測定した粒度分布の積算%が50%の値(D50)を意味する。また、平均粒子径の値は、島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置「SALD2000」による測定値を用いた。また、「比表面積」は、ガス吸着法により測定された値であり、ここでは島津製作所製「フローソーブII2300」による測定値を用いた。
【0032】
本実施形態では、エアロゾル原料Pとして、3μm以上7μm以下の平均粒子径を有する第1のセラミックス粒子と、第1のセラミックス粒子と同一材料からなるセラミックス粒子の粉砕処理粉である第2のセラミックス粒子とを混合した原料粒子がエアロゾル原料Pとして用いられる。第2のセラミックス粒子は、0.2μm以上0.4μm以下の粒子サイズを含む。
【0033】
後述するように、エアロゾル原料Pに比較的大きな粒子サイズの第1のセラミックス粒子と比較的小さな粒子サイズの第2のセラミックス粒子とを混在させることで、第1のセラミックス粒子で効率よくプラズマを発生させ、第1のセラミックス粒子よりも比表面積が大きい第2のセラミックス粒子で成膜効率を高める。これにより、緻密で密着性の高いセラミックス粒子膜を安定に形成することができる。
【0034】
第2のセラミックス粒子は、第1のセラミックス粒子の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有するセラミックス粒子を粉砕処理することで形成されてもよい。あるいは、第2のセラミックス粒子は、第1のセラミックス粒子をボールミル等によって粉砕処理することで形成されてもよい。粉砕処理方法は特に限定されず、典型的には、ボールミル等の粉砕処理手段が用いられる。
【0035】
続いて、図2を参照して本実施形態の成膜方法について説明する。図2は、AGD装置1の動作を説明する概略図である。以下、AGD装置1を用いた典型的な成膜方法について説明する。
【0036】
エアロゾル化容器2内に所定量のエアロゾル原料Pを収容する。なお、事前にエアロゾル原料Pを加熱し、脱気処理をしてもよい。また、エアロゾル原料Pが収容されている状態でエアロゾル原料Pを脱気するために、エアロゾル化容器2を加熱してもよい。エアロゾル原料Pを脱気することにより、プラズマを誘起するエアロゾル原料Pの荷電確率・効率を上げることができる。
【0037】
次に、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を真空排気する。
真空ポンプ12が運転されている状態で、第1バルブ10及び第2バルブ11を開放し、エアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を十分に圧力が低下するまで真空排気する。エアロゾル化容器2が十分に減圧されたら、第1バルブ10を閉止する。なお、成膜チャンバ3は、成膜中は真空排気されている。
【0038】
次に、ガス供給系5によりエアロゾル化容器2にキャリアガスを導入する。第3バルブ15を開放し、キャリアガスをガス噴出体17からエアロゾル化容器2内に噴出させる。エアロゾル化容器2内に導入されたキャリアガスにより、エアロゾル化容器2内の圧力は上昇する。また、ガス噴出体17から噴出されたキャリアガスにより、図2に示すようにエアロゾル原料Pが巻き上げられ、エアロゾル化容器内に浮遊し、キャリアガス中にエアロゾル原料Pが分散したエアロゾル(図2にAで示す)が形成される。生成されたエアロゾルは、エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の圧力差により、搬送管6に流入し、ノズル18から噴出される。第3バルブ15の開度を調節することにより、エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の圧力差及び、エアロゾルの形成状態が制御される。
【0039】
ノズル18から噴出されるエアロゾル(図2にA'で示す)は、エアロゾル化容器2と成膜チャンバの圧力差及びノズル18の開口径によって規定される流速を持って噴出される。このエアロゾルは、基材Sの表面あるいは既成の膜上に到達し、エアロゾルに含まれるエアロゾル原料P、即ちセラミックス粒子が基材Sの表面あるいは既成の膜上に衝突する。その過程で、セラミックス薄膜が形成される。
【0040】
基材Sを移動させることにより、基材S上の所定の範囲にセラミックス薄膜(図2にFで示す)が成膜される。ステージ7をステージ駆動機構8によって移動させることで、ノズル18に対する基材Sの相対位置が変化する。ステージ7を、基材Sの被成膜面に平行な一方向に移動させることにより、ノズル18の開口径と同一の幅を有する線状に薄膜を形成することができる。ステージ7を往復させることにより、既成の膜上にさらに成膜することが可能であり、これにより、所定の膜厚でセラミックス薄膜を形成することができる。また、ステージ7を2次元的に移動させることにより、所定の領域にセラミックス薄膜が形成される。ノズル18の基材Sの被成膜面に対する角度は直角でもよく、斜めであってもよい。ノズル18を被成膜面に対して斜向させることにより、成膜品質を低下させる微粒子の凝集体が付着した場合であっても、その付着物を除去することが可能となる。
【0041】
本実施形態に係る成膜方法は、エアロゾルAの生成時および搬送管6によるエアロゾルAの搬送時において、原料Pを構成する微粒子同士の衝突あるいは微粒子と搬送管6及びノズル18の内面との衝突により、微粒子の表面に静電気を発生させ、帯電させた微粒子を基材S上へ堆積させる。微粒子の帯電量が大きいほど、膜の緻密性が高まり、成膜速度が向上する。堆積した微粒子の余剰電荷は成膜室内の空間中に放出され、放出電荷の量によっては顕著な発光を伴う。この発光現象は主にプラズマに由来しており、活性種の生成に寄与していると考えている。
【0042】
より詳細には、エアロゾル原料Pがエアロゾル化容器2内でガスによりエアロゾル化される際に、エアロゾル化容器2の底壁とのコンタクトで正荷電されたセラッミック原料粉は、粒子サイズが大きなものの方が荷電効率は上がる。粒子サイズが小さな粒子は何もぶつからずにガス搬送される確率が高まるので、荷電される粒子数が少なくなる。プラスに荷電された粒子がアース(接地)された基材S(ステージ7)近傍に飛来すれば、アース側から電子放出が生じ、それが粒子の近傍のガスを放電させる。これはガスのプラズマとして目視でき、このプラズマを発生させるには、大きな粒子サイズが良いことになる。
【0043】
この際、放電の中を飛行する原料粉の表面をスパッタし、原子、分子を叩き出し、また更に合体成長した微細ナノ粒子(これらを活性種と呼ぶ)が成膜に寄与している。その自己発生的なプラズマ領域は空間的に限定的であり、その中でスパッタされる確率は飛行過程での被スパッタされる粒子の比表面積が多ければ多いほど高まる。つまり、活性種を作るには、小さな粒子(比表面積が多い)がプラズマ中を飛行することが必要条件となり、この活性種の量が多ければ、成膜速度が高くなることになる。
【0044】
本実施形態では、エアロゾル原料Pとして、1μm以上の平均粒子径を有する第1のセラミックス粒子と、第1のセラミックス粒子を粉砕処理した第2のセラミックス粒子とを混合した原料粒子との混合粉末を用いているため、室温でセラミックス粉を吹き付けて膜を作る技術の中で、原料粉末を効率よく静電荷電させ、かつスパッタさせることができる。
【0045】
すなわち、ガス搬送過程で原料粉が擦り合わされ静電気を帯び、プラスに荷電された粒子がアースされた基材Sの近傍に飛来すれば、アース側から電子放出が生じ、それが粒子の近傍のガスを放電・プラズマ化させる。粒子がそのプラズマ中を飛行する過程で、粒子表面がスパッタされ、スパッタされた原子・分子が生成され、合体成長により微細ナノ結晶粒子(活性主)が形成される。その活性種がエアロゾル化ガスデポジションの成膜に寄与していると考えられる。つまり、緻密かつ密着力の高いセラミックス薄膜を安定に形成するには、エアロゾル原料Pとして、効率よく静電荷電させ、プラズマを生じさせる粒子形態(大きさ)と、プラズマ中で効率よくスパッタされる粒子形態(大きさ)が異なるゆえに、最適な混合粉等が必要であると考えられる。
【0046】
[実験例1]
以下、以上のように構成されるAGD装置1を用いた成膜方法の実験例について説明する。ここでは、原料粉としてアルミナ粉を用いた実験例について説明する。
【0047】
(実験例1-1)
平均粒子径0.52μmのアルミナ粉(昭和電工製AL-160SG-3)30gをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのアルミナ粉30gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約30kPa)のアルミナ粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mm×0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのアルミニウム基材上へ噴射・堆積し、アルミナ膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向に50mm、Y軸方向に30mmの長さを40積層成膜した。成膜時間は約12分とし、膜厚7μm、面積50mm×30mmのアルミナ膜を形成した。
膜質は緻密で、アルミニウム基材との密着力の強い膜(HBの鉛筆で擦っても剥がれない)であった。ただし、この膜は白っぽい灰色の膜であった。また、このアルミナ膜は100V以下の印加電圧においても導通が認められ、電気絶縁性が認められないものであった。抵抗は1kΩ以下であった。
【0048】
(実験例1-2)
平均粒子径0.44μmのアルミナ粉(住友化学製AES-12)30gをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのアルミナ粉30gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約30kPa)のアルミナ粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mm×0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのアルミニウム基材上へ噴射・堆積し、アルミナ膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向に50mm、Y軸方向に30mmの長さを40積層成膜した。成膜時間は約12分とし、面積50mm×30mmのアルミナ膜を形成した。
膜は圧粉体であり、緻密ではなく、擦れば剥がれるものであった。原料粉末の粒子径分布から、0.1μm~0.2μmの粒子サイズが多く存在することが圧粉体となる原因と考える。
【0049】
(実験例1-3)
平均粒子径0.52μmのアルミナ粉(昭和電工製AL-160SG-3)150gを遊星ボールミルにて3時間粉砕処理を施し、粉砕処理後の粉30gをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのアルミナ粉30gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約30kPa)のアルミナ粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mmx0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのアルミニウム基材上へ噴射・堆積し、アルミナ膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向に50mm、Y軸方向に30mmの長さを40積層成膜した。成膜時間は約12分とし、膜厚7μm、面積50mm×30mmのアルミナ膜を形成した。
膜質は緻密で、アルミニウム基材との密着力の強い膜(HBの鉛筆で擦っても剥がれない)であった。ミル処理を施さないアルミナ粉を用いて形成した膜(実験例1-1)と比較して、白っぽさが減り、透明感のある灰黒色の膜であった。このアルミナ膜は100V以下の印加電圧においても多くの箇所で導通が認められ、電気絶縁性が認められないものであった。抵抗は1kΩ以下であった。
【0050】
(実験例1-4)
平均粒子径0.44μmのアルミナ粉(住友化学製AES-12)150gを遊星ボールミルにて3時間粉砕処理を施し、粉砕処理後の粉30gをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのアルミナ粉30gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約30kPa)のアルミナ粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mm×0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのアルミニウム基材上へ噴射・堆積し、アルミナ膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向に50mm、Y軸方向に30mmの長さを40積層成膜した。成膜時間は約12分とし、面積50mm×30mmのアルミナ膜を形成したが、膜は緻密ではなく、擦れば剥がれるものであった。
【0051】
(実験例1-5)
平均粒子径3.7μmのアルミナ粉(住友化学製ALM-43)30gをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのアルミナ粉30gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約30kPa)のアルミナ粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mmx0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのアルミニウム基材上へ噴射・堆積し、アルミナ膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向に50mm、Y軸方向に30mmの長さを40積層成膜した。成膜時間は約12分とした。
膜厚は1μm以下であり、面積50mm×30mmの放電痕はあるが、膜の厚みはなく、さらに積層回数を100回としても膜厚が1μmを超えることはなかった。圧粉体の痕跡もなく、成膜中に赤紫色の放電は観察されたが、膜形成はなかった。原料粉の粒子径分布から0.4μm以下の粒子サイズが存在しないため、膜厚が増えなかった原因と考えられる。
【0052】
(実験例1-6)
平均粒子径0.52μmのアルミナ粉(昭和電工製AL-160SG-3)150gを遊星ボールミルにて3時間粉砕処理を施し、粒子サイズが0.2μ以上0.4μm以下のアルミナ粉(第2のセラミックス粒子)を作製した。粉砕処理後の粉60gと、平均粒子径3.7μmのアルミナ粉(第1のセラミックス粒子)(住友化学製ALK-43)20gとを混合してアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのアルミナ粉30gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約30kPa)のアルミナ粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mm×0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのアルミニウム基材上へ噴射・堆積し、アルミナ膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向に50mm、Y軸方向に30mmの長さを200積層成膜した。成膜時間は約108分とし、膜厚4μm、面積50mm×30mmのアルミナ膜を形成した。
膜質は緻密で、アルミニウム基材との密着力の強い膜(HBの鉛筆で擦っても剥がれない)であった。膜の色としては、黒色の光沢のある膜であった。このアルミナ膜の抵抗は成膜全面において40MΩ以上で、高度の電気絶縁性が認められた。
本実験例では、小さな粉に対して、大きなサイズ3.7μmの混合割合が25%の場合のデータであったが、この混合割合を50%にした場合、黒色のアルミナ膜を形成できることが確認されたが、表面の光沢性にムラがある膜となった。
【0053】
以上のとおり、単一粒子サイズの原料粉を用いた成膜例(実験例1-1~1-5)では緻密で密着力が高く、かつ電気絶縁性に優れたアルミナ膜を形成することは困難であったが、粒子サイズの異なる2種類の原料粉を用いた成膜例(実験例1-6)によれば、緻密で密着力が高く、かつ電気絶縁性に優れたアルミナ膜を安定に形成することができた。
【0054】
[実験例2]
続いて、原料粉としてPZT(Pb(Zr0.52Ti0.48)O3)粉を用いた実験例について説明する。
【0055】
(実験例2-1)
平均粒子径2.9μmのPZT粉(高純度化学研究所製)50gをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのPZT粉50gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約30kPa)のPZT粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mmx0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしての石英基材上へ噴射・堆積し、PZT膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向に50mm、Y軸方向に30mmの長さを60積層成膜した。成膜時間は約10分としたが、膜厚は1μm以下であり、面積50mm×30mmの薄い堆積痕はあるが、膜の厚みはなく、さらに積層回数を100回としても膜厚が1μmを超えることはなかった。
【0056】
(実験例2-2)
平均粒子径2.9μmのPZT粉(高純度化学研究所製)150gを遊星ボールミルにて3時間粉砕処理を施し、粒子サイズが0.2μ以上0.4μm以下のPZT粉(第2のセラミックス粒子)を作製した。粉砕処理後の粉15gと、上記平均粒子径2.9μmのPZT粉(第1のセラミックス粒子)45gとを混合してアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのPZT粉60gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約30kPa)のアルミナ粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mm×0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材SとしてのITO付石英基材上へ噴射・堆積し、PZT膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向に50mm、Y軸方向に30mmの長さを50積層成膜した。成膜時間は約27分とし、膜厚2μm、面積50mm×30mmのPZT膜を形成した。
膜質は緻密で、石英基材との密着力の強い膜(HBの鉛筆で擦っても剥がれない)であった。膜の色は、透明感のある黄色い黒みがかった色の光沢のある膜であった。成膜重量は約6mgであった。
【0057】
図3は、粉砕処理前のPZT粉の粒度分布を示しており、図4は、粉砕処理後のPZT粉の粒度分布を示している。同図に示すように、粉砕処理後のPZT粉は微細化され、粉砕処理後のPZT粉には、0.2μm以上0.4μm以下の粒子サイズの原料粉(第2のセラミックス粒子)が多く存在することが確認された。
【0058】
(実験例2-3)
平均粒子径2.9μmのPZT粉(高純度化学研究所製)150gを遊星ボールミルにて3時間粉砕処理を施し、粒子サイズが0.2μ以上0.4μm以下のPZT粉(第2のセラミックス粒子)を作製した。粉砕処理後の粉30gと、上記平均粒子径2.9μmのPZT粉(第1のセラミックス粒子)30gとを混合してアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのPZT粉60gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約30kPa)のアルミナ粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mm×0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材SとしてのITO付石英基材上へ噴射・堆積し、PZT膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向に50mm、Y軸方向に30mmの長さを50積層成膜した。成膜時間は約27分とし、膜厚2μm、面積50mm×30mmのPZT膜を形成した。
膜質は緻密で、石英基材との密着力の強い膜(HBの鉛筆で擦っても剥がれない)であった。ただ、所々に突起状の膜が観察された。膜の色は、黄色い黒みがかった色であった。成膜重量は約29mgであった。
【0059】
[実験例3]
続いて、原料粉としてイットリア安定化ジルコニア粉を用いた実験例について説明する。
【0060】
(実験例3-1)
平均粒子径2.5μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア粉(第一稀元素化学工業製湿式製法の粉)50gをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのイットリア安定化ジルコニア粉50gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、6L/min供給し、また搬送ガスを7L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約32kPa)のイットリア安定化ジルコニア粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mmx0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのφ25mmのSUS基材上へ噴射・堆積し、イットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向のみ30mmの長さを44積層成膜した。成膜時間は約4.5分とし、中心膜厚14μm、面積φ25mmのイットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。
膜質は緻密で、SUS基材との密着力の強い膜(HBの鉛筆で擦っても剥がれない)であった。膜の色は、灰色であった。成膜重量は約25mgであった。
【0061】
(実験例3-2)
平均粒子径6.3μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア粉(第一稀元素化学工業製湿式製法の粉)50gをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのイットリア安定化ジルコニア粉50gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約29kPa)のイットリア安定化ジルコニア粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mmx0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのφ25mmのSUS基材上へ噴射・堆積し、イットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向のみ30mmの長さを240積層成膜した。成膜時間は約24分とし、中心膜厚2.6μm、面積φ25mmのイットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。
膜質は緻密で、SUS基材との密着力の強い膜(HBの鉛筆で擦っても剥がれない)であった。膜の色は、光沢のある黒色であった。成膜重量は約9.8mgであった。
緻密度は高いが、成膜速度が遅い傾向にある。原料粉の粒子径分布から1μm以下の粉が少なく、プラズマは立つが、スパッタされる粉が少ない傾向にあると考えられる。ここで、乾式粉は大きな塊から粉砕して製造することから、成膜過程で基板上に噴射した粉が粉砕し、その粉砕した1μm以下の小さな粉がスパッタされるのではないかと推察している。つまり、成膜は基板上に吹き付けられることにより、粉砕された粉を生成する必要があると思われる。悪くするとブラスト効果により、基材の切削が生じることも考えられるが、硬いSUS基板では、切削は起こっていない。
【0062】
(実験例3-3)
平均粒子径5.4μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア粉(第一稀元素化学工業製湿式製法の粉)50gをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのイットリア安定化ジルコニア粉50gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約32kPa)のイットリア安定化ジルコニア粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mmx0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのφ25mmのSUS基材上へ噴射・堆積し、イットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向のみ30mmの長さを80積層成膜した。成膜時間は約8分とし、中心膜厚11μm、面積φ25mmのイットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。
膜質は緻密で、SUS基材との密着力の強い膜(HBの鉛筆で擦っても剥がれない)であった。膜の色は、黒色であった。成膜重量は約22mgであった。
【0063】
(実験例3-4)
平均粒子径1.4μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア粉(第一稀元素化学工業製湿式製法の粉)50gをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのイットリア安定化ジルコニア粉50gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、6L/min供給し、また搬送ガスを7L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約30kPa)のイットリア安定化ジルコニア粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mmx0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのφ25mmのSUS基材上へ噴射・堆積し、イットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向のみ30mmの長さを64積層成膜した。成膜時間は約6.5分とし、中心膜厚14μm、面積φ25mmのイットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。
膜質は緻密で、SUS基材との密着力の強い膜(HBの鉛筆で擦っても剥がれない)であった。膜の色は、灰色であった。成膜重量は約17.5mgであった。
【0064】
以上の結果より、8mol%イットリア安定化ジルコニア粉による成膜で、緻密度は、使用する粉の粒子径が大きい以下の順で高いことがわかる。ゆえに、高い緻密性を持つ膜を形成するには粒子径の大きな6.3μmを使用したほうが良いことがわかる。
1.平均粒子径6.3μm(乾式) 緻密度が高い 約5.7g/cm
2.平均粒子径5.4μm(乾式) 約4.1g/cm
3.平均粒子径2.5μm(湿式) 約3.7g/cm
4.平均粒子径1.4μm(乾式) 緻密度が低い 約2.5g/cm
【0065】
(実験例3-5)
平均粒子径6.3μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア粉(第一稀元素化学工業製湿式製法の粉)50gをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのイットリア安定化ジルコニア粉50gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約29kPa)のイットリア安定化ジルコニア粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mmx0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのφ25mmのSUS基材上のポーラスなセラミックス下地膜へ噴射・堆積し、イットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向のみ30mmの長さを240積層成膜した。成膜時間は約24分としたが、結果は、ポーラスなセラミックス下地膜が全体の50%(25%から75%)剥離した。成膜中、プラズマは確認できた。
【0066】
(実験例3-6)
平均粒子径5.4μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア粉(第一稀元素化学工業製湿式製法の粉)50gをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのイットリア安定化ジルコニア粉50gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約29kPa)のイットリア安定化ジルコニア粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mmx0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのφ25mmのSUS基材上のポーラスなセラミックス下地膜へ噴射・堆積し、イットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向のみ30mmの長さを240積層成膜した。成膜時間は約24分としたが、結果は、ポーラスなセラミックス下地膜が全体の50%(25%から75%)剥離した。成膜中、プラズマは確認できた。
【0067】
(実験例3-7)
平均粒子径2.5μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア粉(第一稀元素化学工業製湿式製法の粉)150gを遊星ボールミルにて3時間粉砕処理を施し、粉砕処理後の粉50gをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのイットリア安定化ジルコニア粉50gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約30kPa)のイットリア安定化ジルコニア粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mmx0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのφ25mmのSUS基材上のポーラスなセラミックス下地膜へ噴射・堆積し、イットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向のみ30mmの長さを8積層成膜した。成膜時間は約1分とし、膜厚4μm、面積φ25mmのイットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。
ポーラスなセラミックス下地膜との間に剥離は無く、白っぽい膜であった。成膜重量は約4.5mgであった。
【0068】
(実験例3-8)
平均粒子径2.5μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア粉(第一稀元素化学工業製湿式製法の粉)150gを遊星ボールミルにて3時間粉砕処理を施し、粒子サイズが0.2μ以上0.4μm以下のイットリア安定化ジルコニア粉(第2のセラミックス粒子)を作製した。粉砕処理後の粉15gと、平均粒子径6.3μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア粉(第1のセラミックス粒子)(第一稀元素化学工業製乾式製法の粉)35gとをアルミナルツボに入れ、大気中300℃の温度で、1時間加熱処理を施した。その後、素早くガラス製エアロゾル化容器2に、そのイットリア安定化ジルコニア粉50gを移し替え、10Pa以下まで真空排気した。粉の脱気を促進する目的で、エアロゾル化容器2は、マントルヒーターにより150℃加熱した。
エアロゾル化容器2の排気バルブ(第1バルブ10)を閉じ、巻き上げの窒素ガスを、流量計で調節し、8L/min供給し、また搬送ガスを5L/min供給することで、エアロゾル化容器2内(圧力;約30kPa)のイットリア安定化ジルコニア粉をエアロゾル化し、搬送管・ノズル(開口30mmx0.3mm)を通して、成膜チャンバ3内(圧力;約200Pa)のステージ7に取り付けられた基材Sとしてのφ25mmのSUS基材上のポーラスなセラミックス下地膜へ噴射・堆積し、イットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。基材の駆動速度を5mm/sとし、X軸方向のみ30mmの長さを120積層成膜した。成膜時間は約9分とし、膜厚7.8μm、面積φ25mmのイットリア安定化ジルコニア膜を成膜した。
ポーラスなセラミックス下地膜との間に剥離は無く、膜の色としては、黒色膜であった。成膜重量は約14.2mgであった。実験例3-7に比べて、緻密度が増した膜形成が可能となった。
【符号の説明】
【0069】
1…エアロゾル化ガスデポジション装置(AGD装置)
2…エアロゾル化容器
3…成膜チャンバ
6…搬送管
18…ノズル
S…基材
図1
図2
図3
図4