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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077129
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240531BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
B41J2/01 403
B41J2/01 401
B41J2/165 207
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188991
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】荒金 覚
(72)【発明者】
【氏名】平野 美喜雄
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EC07
2C056EC42
2C056EC54
2C056FA10
(57)【要約】
【課題】ノズル近傍の液体の増粘を抑制すると共に、条件に応じた非吐出駆動処理を行うことで種々の問題のうちいずれかを抑制する。
【解決手段】プリンタは、記録指令に基づいて用紙に対して記録を行う記録処理と、記録処理の走査動作中に、複数のノズルからインクを吐出させずに複数のノズル内のインクのメニスカスを振動させる非吐出駆動処理と、を実行可能である。非吐出駆動処理は、第1非吐出駆動処理と、第1非吐出駆動処理よりもインクに与える振動及び使用電流の小さい第2非吐出駆動処理と、を含む。プリンタは、所定条件に基づいて第1非吐出駆動処理と第2非吐出駆動処理とのいずれを実行するかを決定する決定処理をさらに実行可能である。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルを有するヘッドと、
前記ヘッドを走査方向に移動させる移動機構と、
前記ヘッドに対して前記走査方向と交差する搬送方向に相対的に記録媒体を搬送する搬送機構と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
記録指令に基づいて記録媒体に対して記録を行う記録処理であって、前記搬送機構により記録媒体を搬送する搬送動作と前記移動機構により前記ヘッドを移動させながら記録媒体に対して前記複数のノズルから液体を吐出させる走査動作とを含む、記録処理と、
前記走査動作中に、前記複数のノズルから液体を吐出させずに前記複数のノズル内の液体のメニスカスを振動させる非吐出駆動処理と、を実行可能であり、
前記非吐出駆動処理は、第1非吐出駆動処理と、前記第1非吐出駆動処理よりも液体に与える振動及び使用電流の小さい第2非吐出駆動処理と、を含み、
前記制御部は、所定条件に基づいて前記第1非吐出駆動処理と前記第2非吐出駆動処理とのいずれを実行するかを決定する決定処理をさらに実行可能であることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1非吐出駆動処理において、前記複数のノズルから液体を吐出させずに前記複数のノズル内の液体のメニスカスを振動させるための第1非吐出駆動信号を生成するための第1波形、及び、前記第2非吐出駆動処理において、前記複数のノズルから液体を吐出させずに前記複数のノズル内の液体のメニスカスを振動させるための第2非吐出駆動信号を生成するための第2波形のいずれかを選択し、1の信号線を介して選択した波形に基づく波形信号を送信することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記決定処理において、前記非吐出駆動処理を行う期間が前記搬送動作の期間と重なるという前記所定条件が満たされる場合、前記第2非吐出駆動処理を実行すると決定することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記決定処理において、加速期間中であって所定速度に達する前から前記ノズルから液体を吐出するという前記所定条件が満たされる場合、前記加速期間中に前記第2非吐出駆動処理を行うと決定することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記決定処理において、所定速度から減速する減速期間中に前記ノズルから液体を吐出するという前記所定条件が満たされる場合、前記減速期間中に前記第2非吐出駆動処理を行うと決定することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記決定処理において、前記非吐出駆動処理を行う期間が前記搬送動作における記録媒体の前記搬送方向への移動の減速を行う期間と重なるという前記所定条件が満たされる場合、前記第2非吐出駆動処理を行うと決定することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記搬送機構により搬送される記録媒体の搬送領域よりも前記走査方向の外側に配置され、前記複数のノズルから吐出された液体を受ける受け部を、さらに備えており、
前記制御部は、
前記複数のノズルから前記受け部に液体を吐出するフラッシングを実行するフラッシング処理を、さらに実行可能であり、
前記決定処理において、前記非吐出駆動処理を行う期間が、前記フラッシング処理を実行する直前の前記走査動作中、及び、前記フラッシング処理を実行した直後の前記走査動作中のいずれかであるという前記所定条件が満たされる場合、前記第2非吐出駆動処理を実行すると決定することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記第1非吐出駆動処理において、前記複数のノズルから液体を吐出させずに前記複数のノズル内の液体のメニスカスを振動させるための第1非吐出駆動信号を用い、
前記第2非吐出駆動処理において、前記複数のノズルから液体を吐出させずに前記複数のノズル内の液体のメニスカスを振動させるための第2非吐出駆動信号であって、前記第1非吐出駆動信号よりも、単位時間当たりのパルス数が少ない第2非吐出駆動信号を用いることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記制御部は、
前記第1非吐出駆動処理において、前記複数のノズルから液体を吐出させずに前記複数のノズル内の液体のメニスカスを振動させるための第1非吐出駆動信号を用い、
前記第2非吐出駆動処理において、前記複数のノズルから液体を吐出させずに前記複数のノズル内の液体のメニスカスを振動させるための第2非吐出駆動信号であって、前記第1非吐出駆動信号よりも、パルス幅の小さい第2非吐出駆動信号を用いることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記制御部は、
前記第1非吐出駆動処理において、前記複数のノズルから液体を吐出させずに前記複数のノズル内の液体のメニスカスを振動させるための第1非吐出駆動信号を用い、
前記第2非吐出駆動処理において、前記複数のノズルから液体を吐出させずに前記複数のノズル内の液体のメニスカスを振動させるための第2非吐出駆動信号であって、前記第1非吐出駆動信号よりも、波高値の小さい第2非吐出駆動信号を用いることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非吐出駆動処理を実行する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、記録ヘッドを主走査方向に移動させながら複数のノズルから記録紙へインクを吐出する走査動作と、副走査方向へ記録紙を搬送する搬送動作とを交互に行う印刷動作(記録動作)を実行する液体噴射装置(液体吐出装置)について記載されている。この液体噴射装置では、印刷動作を実行する際に、ノズル開口におけるメニスカス近傍のインクに不均一な増粘が生じていると判断された場合、当該ノズルに対して、メニスカス近傍のインクを微振動させてノズル開口付近のインクを攪拌する微振動動作(非吐出駆動処理)が行われる。そして、微振動動作が行われたノズルからフラッシングが実行される。これにより、メニスカス近傍のインクの増粘を解消し、フラッシングを効果的に行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-42314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1には、微振動動作(非吐出駆動処理)が、フラッシング前に行われることが示されているだけであり、走査動作中に行われることは何ら示されていない。このため、乾燥しやすい液体を用いて記録動作を実行した場合、走査動作中に、ノズル近傍の液体が乾燥によって増粘し、ノズルからの吐出にバラツキが生じる問題がある。
【0005】
また、走査動作中に非吐出駆動処理を行う場合において、条件によらず一律に非吐出駆動処理を行うと、使用電流が許容電流を超えるという問題、非吐出駆動処理に伴う残留振動が吐出に影響を及ぼすという問題、ヘッドが劣化するという問題等の、種々の問題のうちいずれかが生じ得る。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ノズル近傍の液体の増粘を抑制すると共に、条件に応じた非吐出駆動処理を行うことで種々の問題のうちいずれかを抑制することが可能な液体吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体吐出装置は、複数のノズルを有するヘッドと、前記ヘッドを走査方向に移動させる移動機構と、前記ヘッドに対して前記走査方向と交差する搬送方向に相対的に記録媒体を搬送する搬送機構と、制御部と、を備え、前記制御部は、記録指令に基づいて記録媒体に対して記録を行う記録処理であって、前記搬送機構により記録媒体を搬送する搬送動作と前記移動機構により前記ヘッドを移動させながら記録媒体に対して前記複数のノズルから液体を吐出させる走査動作とを含む、記録処理と、前記走査動作中に、前記複数のノズルから液体を吐出させずに前記複数のノズル内の液体のメニスカスを振動させる非吐出駆動処理と、を実行可能であり、前記非吐出駆動処理は、第1非吐出駆動処理と、前記第1非吐出駆動処理よりも液体に与える振動及び使用電流の小さい第2非吐出駆動処理と、を含み、前記制御部は、所定条件に基づいて前記第1非吐出駆動処理と前記第2非吐出駆動処理とのいずれを実行するかを決定する決定処理をさらに実行可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液体吐出装置によると、走査動作中に非吐出駆動処理を行うことで、ノズル近傍の液体の増粘を抑制することができる。また、非吐出駆動処理を行う期間が搬送動作の期間と重なるという所定条件が満たされる場合、第2非吐出駆動処理を行うと決定することで、使用電流が許容電流を超えるのを抑制することが可能となる。また、加速期間中であって所定速度に達する前からノズルから液体を吐出するという所定条件が満たされる場合、加速期間中に第2非吐出駆動処理を行うと決定することで、非吐出駆動処理に伴う残留振動が吐出に影響を及ぼしにくくなる。また、減速期間中にノズルから液体を吐出するという所定条件が満たされる場合、減速期間中に第2非吐出駆動処理を行うと決定することで、非吐出駆動処理に伴う残留振動が吐出に影響を及ぼしにくくなる。また、非吐出駆動処理を行う期間が、フラッシング処理を実行する直前の走査動作中及びフラッシング処理を実行した直後の走査動作中のいずれかであるという所定条件が満たされる場合、当該期間に第2非吐出駆動処理を行うと決定することで、ヘッドの劣化を抑制できる。このように、条件に応じた非吐出駆動処理を行うことで、種々の問題のうちいずれかを抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係るプリンタの全体構成を示す平面図である。
図2図1に示すヘッドの断面図である。
図3図1のプリンタの電気的構成を示すブロック図である。
図4】ヘッドのドライバICが出力する吐出駆動信号及び非吐出駆動信号を示すグラフである。
図5】走査動作時のヘッドの移動速度を示す図である。
図6図1のプリンタのCPUが実行するプログラムを示すフロー図である。
図7】記録処理を実行する際にCPUが実行するプログラムを示すフロー図である。
図8図1のプリンタのCPUが実行するプログラムを示すフロー図である。
図9】決定処理を実行する際にCPUが実行するプログラムを示すフロー図である。
図10】記録指令に基づいてCPUが実行するフラッシング処理、及び、記録処理の走査動作及び搬送動作のタイムチャートの一例である。
図11】本発明の第2実施形態に係るプリンタのヘッドのドライバICが出力する非吐出駆動信号を示すグラフである。
図12】本発明の第3実施形態に係るプリンタのヘッドのドライバICが出力する非吐出駆動信号を示すグラフである。
図13】本発明の第4実施形態に係るプリンタの電気的構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
先ず、図1図3を参照し、本発明の第1実施形態に係るプリンタ100の全体構成、及び、プリンタ100の各部の構成について説明する。
【0011】
プリンタ100は、図1に示すように、下面に複数のノズルNが形成されたヘッド10と、ヘッド10を走査方向に移動させる移動機構30と、用紙1(記録媒体)を下方から支持するプラテン40と、用紙1を搬送方向に搬送する搬送機構50と、プラテン40に対して走査方向の一方に配置された受け部材60と、プラテン40に対して走査方向の他方に配置されたキャップ70と、制御装置90とを備えている。走査方向は、図1中左右方向であって、鉛直方向と直交する方向である。搬送方向は、走査方向及び鉛直方向と直交する方向である。
【0012】
ノズルNは、走査方向に並ぶ4つのノズル列Nc,Nm,Ny,Nkを構成している。各ノズル列Nc,Nm,Ny,Nkは、搬送方向に並ぶ複数のノズルNで構成されている。ノズル列Ncを構成するノズルNはシアンのインク、ノズル列Nmを構成するノズルNはマゼンタのインク、ノズル列Nyを構成するノズルNはイエローのインク、ノズル列Nkを構成するノズルNはブラックのインクを、それぞれ吐出する。
【0013】
移動機構30は、キャリッジ31と、一対のガイド32,33と、ベルト34と、キャリッジモータ30M(図3参照)とを含む。キャリッジ31は、ヘッド10を保持する。一対のガイド32,33は、キャリッジ31を支持する。ベルト34は、キャリッジ31に連結されている。ガイド32,33及びベルト34は、走査方向に延びている。制御装置90の制御によりキャリッジモータ30Mが駆動されると、ベルト34が走行し、ガイド32,33に沿ってキャリッジ31が走査方向に移動する。
【0014】
走査方向は、図1において左方に向かう正走査方向と、図1において右方に向かう逆走査方向(正走査方向とは逆の方向)とからなる。移動機構30は、正走査方向及び逆走査方向の双方向に、ヘッド10を移動させることができる。
【0015】
プラテン40は、ヘッド10の下方に配置されている。プラテン40の上面に、用紙1が支持される。
【0016】
搬送機構50は、2つのローラ対51,52と、搬送モータ50M(図3参照)とを有する。搬送方向においてローラ対51とローラ対52との間に、ヘッド10及びプラテン40が配置されている。制御装置90の制御により搬送モータ50Mが駆動されると、ローラ対51,52が用紙1を挟持した状態で回転し、用紙1が搬送方向に搬送される。このように、搬送機構50はヘッド10に対して相対的に用紙1を搬送する。
【0017】
受け部材60は、ノズルNからインクを吐出するフラッシングが行われたときに、当該インクを受ける部材である。受け部材60は、本発明の「受け部」に該当する。受け部材60は、搬送方向においてガイド32,33の間に配置されており、その表面にフラッシング領域60Rを有する。フラッシング領域60Rは、搬送機構50による用紙1の搬送領域外にあり、搬送領域と走査方向に隣接する位置にある。フラッシング領域60Rに向けて、後述するフラッシング処理が行われる。
【0018】
キャップ70は、上面が開口した箱状の部材であり、キャップ昇降モータ70M(図3参照)の駆動により鉛直方向に移動可能である。ヘッド10がキャップ70の上方に位置するときに、制御装置90の制御によりキャップ昇降モータ70Mが駆動され、キャップ70が上方に移動されることで、キャップ70がヘッド10の下面に接触し、キャップ70とヘッド10との間に密閉空間が形成される。このとき、ヘッド10に形成されたすべてのノズルNがキャップ70で覆われる。このときのキャップ70の状態を「キャッピング状態」という。一方、キャップ70がヘッド10から離隔してノズルNを覆わない状態を「アンキャッピング状態」という。アンキャッピング状態は、キャップ70とヘッド10との間に密閉空間が形成されない状態である。
【0019】
キャップ70は、チューブ及び吸引ポンプ70Pを介して、廃インクタンク77と連通している。キャップ70がキャッピング状態にあるときに、制御装置90の制御により吸引ポンプ70Pが駆動されると、キャップ70とヘッド10との間の密閉空間が減圧され、ノズルNからインクが強制的に排出される吸引パージが実行される。吸引パージによって排出されたインクは、キャップ70に受容された後、廃インクタンク77へと流れる。
【0020】
ヘッド10は、図2に示すように、流路ユニット12と、アクチュエータユニット13とを含む。
【0021】
流路ユニット12の下面に、複数のノズルN(図1参照)が形成されている。流路ユニット12の内部には、インクタンク(図示略)に連通する共通流路12Aと、ノズルN毎に個別に連通する複数の個別流路12Bとが形成されている。個別流路12Bは、共通流路12Aの出口から圧力室12Pを経てノズルNに至る流路である。流路ユニット12の上面には、複数の圧力室12Pが開口している。
【0022】
アクチュエータユニット13は、流路ユニット12の上面に複数の圧力室12Pを覆うように配置された金属製の振動板13Aと、振動板13Aの上面に配置された圧電層13Bと、圧電層13Bの上面に複数の圧力室12Pのそれぞれと対向するように配置された複数の個別電極13Cとを含む。
【0023】
振動板13A及び複数の個別電極13Cは、ドライバIC14と電気的に接続されている。ドライバIC14は、振動板13Aの電位をグランド電位に維持する一方、個別電極13Cの電位をグランド電位と駆動電位との間で変化させる。具体的には、ドライバIC14は、制御装置90からの制御信号(波形信号FIRE1~FIRE5及び選択信号SIN)に基づいて駆動信号を生成し、信号線14Sを介して駆動信号を個別電極13Cに供給する。これにより、個別電極13Cの電位が駆動電位とグランド電位との間で変化する。
【0024】
駆動信号は、図4に示すように、吐出駆動信号SA0~SA3と、非吐出駆動信号SB1,SB2とを含む。
【0025】
吐出駆動信号SA0~SA3は、それぞれ、単位時間(時点T0から時点T1までの記録周期)T当たりのノズルNからのインクの吐出量に応じたものである。単位時間Tは、用紙1上に形成される画像の解像度に対応する単位距離だけ用紙1がヘッド10に対して相対移動するのに要する時間であり、1画素に対応する。
【0026】
吐出量「ゼロ」に対応する吐出駆動信号SA0は、単位時間T当たり、パルスを含まず、ノズルNからインクを吐出させない。吐出量「小」に対応する吐出駆動信号SA1は、単位時間T当たり、1つのパルスを含み、ノズルNから小滴のインクを吐出させる。吐出量「中」に対応する吐出駆動信号SA2は、単位時間T当たり、2つのパルスを含み、ノズルNから中滴のインクを吐出させる。吐出量「大」に対応する吐出駆動信号SA3は、単位時間T当たり、3つのパルスを含み、ノズルNから大滴のインクを吐出させる。
【0027】
本実施形態では、初期状態において、個別電極13Cに駆動電位VDDが付与されており、振動板13A及び圧電層13Bにおいて各個別電極13Cと各圧力室12Pとで挟まれた部分(アクチュエータ13X)が圧力室12Pに向かって凸に変形している。
【0028】
吐出駆動信号SA0は、個別電極13Cを駆動電位VDDに維持する。即ち、アクチュエータ13Xが圧力室12Pに向かって凸に変形した状態を維持する。
【0029】
吐出駆動信号SA1~SA3では、個別電極13Cがグランド電位となるタイミングで、アクチュエータ13Xが平坦になり、圧力室12Pの容積が初期状態よりも増加する。このとき、共通流路12Aから個別流路12Bにインクが吸い込まれる。さらにその後、所定のタイミングで再び個別電極13Cに駆動電位VDDが付与され、アクチュエータ13Xが圧力室12Pに向かって凸に変形することで、圧力室12Pの容積低下によりインクの圧力が上昇し、ノズルNからインクが吐出される。
【0030】
アクチュエータ13Xは、個別電極13C毎(即ち、ノズルN毎)に設けられており、当該個別電極13Cに供給される電位に応じて独立して変形可能な駆動素子である。
【0031】
非吐出駆動信号SB1,SB2は、ノズルNからインクを吐出させずにノズルN内のインクのメニスカスを振動させるための信号であり、例えば、吐出駆動信号SA1~SA3に含まれるパルスよりもパルス幅Wが小さい複数のパルスPを含む。
【0032】
非吐出駆動信号SB1,SB2は、それぞれ、単位時間T当たりのノズルN内のインクのメニスカスの振動量に応じたものである。非吐出駆動信号SB1は、単位時間T当たりのパルス数が4つである。一方、非吐出駆動信号SB2は、単位時間T当たりのパルス数が2つであり、非吐出駆動信号SB1よりもメニスカスに与える振動が小さい。また、非吐出駆動信号SB2は、非吐出駆動信号SB1よりもパルス数が少なく、単位時間T当たりにアクチュエータ13Xを変形させる回数も少なくなり、使用電流が小さい。なお、非吐出駆動信号SB1,SB2のパルス数は特に限定するものではなく、適宜設定すればよい。非吐出駆動信号SB1が本発明の「第1非吐出駆動信号」に該当し、非吐出駆動信号SB2が本発明の「第2非吐出駆動信号」に該当する。
【0033】
制御装置90は、図3に示すように、CPU91と、ROM92と、RAM93と、ASIC94とを含む。このうち、CPU91及びASIC94が本発明の「制御部」に該当する。
【0034】
ROM92には、CPU91やASIC94が各種制御を行うためのプログラムやデータが格納されている。RAM93は、CPU91やASIC94がプログラムを実行する際に用いるデータ(画像データ等)を一時的に記憶する。制御装置90は、外部装置(パーソナルコンピュータ等)150と通信可能に接続されており、当該外部装置150やプリンタ100の入力部(プリンタ100の筐体の外面に設けられたスイッチやボタン)から入力されたデータに基づいて、CPU91やASIC94により記録処理等を実行する。
【0035】
記録処理において、ASIC94は、CPU91からの指令にしたがい、外部装置150等から受信した記録指令に基づいて、ドライバIC14、キャリッジモータ30M及び搬送モータ50Mを駆動させ、搬送機構50によって用紙1を搬送方向に所定量搬送する搬送動作と、ヘッド10を走査方向に移動させながらノズルNからインクを吐出させる走査動作とを行わせる。これにより、用紙1上に、インクのドットが形成され、画像が記録される。
【0036】
走査動作は、正走査方向(図1参照)にヘッド10を移動させながらノズルNからインクを吐出させる「正走査動作」と、逆走査方向にヘッド10を移動させながらノズルNからインクを吐出させる「逆走査動作」とを含む。
【0037】
正走査動作及び逆走査動作のそれぞれにおいては、図5に示すように、ヘッド10の移動速度がゼロから所定速度Vtになるまで加速する加速期間、ヘッド10の移動速度を所定速度Vtに保って移動する定速期間、ヘッド10の移動速度を所定速度Vtからゼロとなるまで減速する減速期間を有する。
【0038】
搬送動作においても、用紙1の移動速度がゼロから所定速度Vsになるまで加速する加速期間、用紙1の移動速度を所定速度Vsに保って移動する定速期間、用紙1の移動速度を所定速度Vsからゼロとなるまで減速する減速期間を有する。
【0039】
ASIC94は、図3に示すように、第1の非吐出波形設定回路95、第2の非吐出波形設定回路96、出力回路97及び転送回路98を含む。
【0040】
第1の非吐出波形設定回路95は、非吐出駆動信号SB1,SB2のうち、走査動作中の減速期間に供給される信号に対応する波形を設定する。第2の非吐出波形設定回路96は、非吐出駆動信号SB1,SB2のうち、走査動作中の加速期間に供給される信号に対応する波形を設定する。第1の非吐出波形設定回路95及び第2の非吐出波形設定回路96は、後述の決定処理により決定された非吐出駆動処理に基づいて、当該非吐出駆動処理が実行される期間毎に波形を設定する。
【0041】
出力回路97は、波形信号FIRE1~FIRE5及び選択信号SINを生成し、これら信号を単位時間T毎に転送回路98に出力する。波形信号FIRE1~FIRE4は、上記4つの吐出駆動信号SA0~SA3(図4参照)に順に対応する信号である。
【0042】
出力回路97は、第1の非吐出波形設定回路95で設定された波形に基づく波形信号FIRE5を、走査動作中の減速期間における単位時間T毎に転送回路98に出力する。また、出力回路97は、第2の非吐出波形設定回路96で設定された波形に基づく波形信号FIRE5を、走査動作中の加速期間における単位時間T毎に転送回路98に出力する。
【0043】
選択信号SINは、上記4つの吐出駆動信号SA0~SA3(図4参照)及び上記2つの非吐出駆動信号SB1,SB2の中から1つを選択するための選択データを含む信号であり、記録指令に含まれる画像データに基づいて、アクチュエータ13X毎、かつ、単位時間T毎に生成される。
【0044】
転送回路98は、5つの波形信号FIRE1~FIRE5を5つの信号線(FIRE1~FIRE5)を用いてドライバIC14に転送し、選択信号SINを1つの信号線(SIN)を用いてドライバIC14に転送する。転送回路98は、上記各信号に対応するLow Voltage Differential Signaling(LVDS)ドライバを内蔵しており、各信号をパルス状の差動信号としてドライバIC14に転送する。
【0045】
ASIC94は、記録処理において、ドライバIC14を制御し、画素毎に、波形信号FIRE1~FIRE4及び選択信号SINに基づいて吐出駆動信号SA0~SA3を生成させ、信号線14Sを介して吐出駆動信号SA0~SA3を個別電極13Cに供給させる。これにより、ASIC94は、画素毎に、複数のノズルNのそれぞれから、4種類の吐出量(ゼロ、小、中、大)の中から選択された吐出量のインクを用紙1に向けて吐出させる。
【0046】
ASIC94は、記録処理において、走査動作における加速期間及び減速期間中に、ドライバIC14を制御し、単位時間T毎に、波形信号FIRE5及び選択信号SINに基づいて非吐出駆動信号SB1,SB2を生成させ、信号線14Sを介して非吐出駆動信号SB1,SB2のうちのいずれかを個別電極13Cに供給させる。これにより、ASIC94は、走査動作の加速期間及び減速期間中の単位時間T毎に、複数のノズルNのそれぞれからインクを吐出させずにノズルN内のインクのメニスカスを振動させる。
【0047】
ASIC94は、ドライバIC14、キャリッジモータ30M、搬送モータ50M、キャップ昇降モータ70M及び吸引ポンプ70Pと電気的に接続されている。
【0048】
次いで、図6を参照し、CPU91が実行するプログラムについて説明する。
【0049】
なお、当該プログラムの開始時点において、ヘッド10はキャップ70の上方に位置し(図1参照)、キャップ70はキャッピング状態にある。このとき、ヘッド10に形成された全てのノズルNがキャップ70で覆われている。
【0050】
CPU91は、先ず、図6に示すように、外部装置150等から記録指令を受信したか否かを判断する(S1)。記録指令を受信していない場合(S1:NO)、CPU91は、S1の処理を繰り返す。
【0051】
記録指令を受信した場合(S1:YES)、CPU91は、給送処理を実行する(S2)。給送処理では、CPU91は、搬送モータ50Mを駆動させ、搬送機構50によって用紙1を、最初の走査動作で画像が記録される部分が、搬送方向において複数のノズルNと同じとなる位置まで搬送させる。
【0052】
S2の後、CPU91は、キャップ昇降モータ70Mを駆動させ、キャップ70を下方に移動させることで、キャップ70をキャッピング状態からアンキャッピング状態に移行させる(S3:アンキャップ処理)。なお、S2とS3は並行して行われていてもよい。
【0053】
S3の後、CPU91は、キャリッジモータ30Mを駆動させ、移動機構30によりヘッド10を受け部材60に向けて正走査方向に移動させる(図1参照)。そしてCPU91は、ヘッド10の移動中に、ノズル列Nc,Nm,Ny,Nk毎に、当該ノズル列が受け部材60の上方に位置するタイミングで、画像データとは異なるフラッシングデータに基づいて、ドライバIC14の駆動によりアクチュエータ13Xを変形させ、当該ノズル列に属するノズルNからインクを吐出させる(S4:フラッシング処理)。吐出されたインクは、フラッシング領域60Rに受容され、廃インクタンク77へと流れる。
【0054】
S4の後、CPU91は、変数Mを0にリセットする(S5)。変数Mは、ヘッド10の走査方向への移動回数に対応する。
【0055】
S5の後、CPU91は、記録指令に基づいて、ドライバIC14、キャリッジモータ30M及び搬送モータ50Mを駆動させ、搬送動作と走査動作とを、交互に行わせる(S6:記録処理)。記録処理の詳細については後述する。
【0056】
S6の後、CPU91は、移動機構30によりヘッド10をキャップ70に向けて逆走査方向に移動させ、ヘッド10がキャップ70の上方に配置されたときにヘッド10を停止させる。ヘッド10の停止後、CPU91は、キャップ昇降モータ70Mを駆動させ、キャップ70を上方に移動させることで、キャップ70をアンキャッピング状態からキャッピング状態に移行させる(S7:キャップ処理)。こうして、CPU91は、当該プログラムを終了する。
【0057】
続いて、図7を参照し、記録処理を実行する際に、CPU91が実行するプログラムについて説明する。
【0058】
CPU91は、先ず、図7に示すように、走査処理を実行する。走査処理では、CPU91が、記録指令に基づいてドライバIC14及びキャリッジモータ30Mを駆動させ、ヘッド10を走査方向(正走査方向又は逆走査方向)に移動させながら主に定速期間においてノズルNからインクを吐出させる走査動作を行わせる(S61)。なお、加速期間及び減速期間中であって、後述の非吐出駆動処理が実行されていない期間においても、記録指令に基づいてノズルNからインクを吐出させることもある。
【0059】
CPU91は、走査動作(正走査動作又は逆走査動作)の加速期間及び減速期間において、後述の決定処理によって決定された非吐出駆動処理を実行する。非吐出駆動処理では、CPU91が、ドライバIC14及びキャリッジモータ30Mを駆動させ、複数のノズルNのそれぞれからインクを吐出させずにノズルN内のインクのメニスカスを振動させる。
【0060】
非吐出駆動処理は、第1非吐出駆動処理と、第2非吐出駆動処理とを含む。第1非吐出駆動処理は、ドライバIC14から個別電極13Cに非吐出駆動信号SB1が供給されることで実行される。第2非吐出駆動処理は、ドライバIC14から個別電極13Cに非吐出駆動信号SB2が供給されることで実行される。つまり、第2非吐出駆動処理は、第1非吐出駆動処理よりもノズルN内のインクのメニスカスに与える振動が小さく、且つ、使用電流が小さい処理である。そして、非吐出駆動処理において、第1非吐出駆動処理と第2非吐出駆動処理とのいずれを実行するかが決定処理により決定される。
【0061】
S61の後、CPU91は、変数Mを1増加させる(S62)。この後、CPU91は、用紙1への記録が完了したか否かを判定する(S63)。
【0062】
用紙1への記録が完了していない場合(S63:NO)、CPU91は、変数Mが所定値Ma以上であるか否かを判定する(S64)。所定値Maは、フラッシング間隔を示す値であって次回のフラッシングを実行するタイミングとなる値である。
【0063】
変数Mが所定値Ma以上である場合(S64:YES)、CPU91は、S4と同様なフラッシング処理を実行する(S65)。この後、CPU91は、変数Mを0にリセットする(S66)。
【0064】
一方、変数Mが所定値Ma未満である場合(S64:NO)又はS66の後、CPU91は、搬送処理を実行する(S67)。搬送処理では、CPU91は、搬送モータ50Mを制御して、搬送機構50によって用紙1を搬送方向に所定量搬送する搬送動作を実行する。S67の後、S61に戻る。
【0065】
S63において、用紙1への記録が完了した場合には(S63:YES)、CPU91が搬送モータ50Mを制御して、搬送機構50によって用紙1を排出する。こうして、記録処理が終了し、上記のS7に進む。
【0066】
続いて、図8及び図9を参照し、決定処理を実行する際の、CPU91が実行するプログラムについて説明する。
【0067】
CPU91は、先ず、図8に示すように、上記のS1と同様の処理(S201)が行われ、記録指令を受信した場合(S201:YES)、CPU91は、決定処理を実行する(S202)。
【0068】
決定処理では、図9に示すように、CPU91は、まず、S201で受信した記録指令に基づいて実行予定である走査動作、搬送動作及びフラッシング処理により、各走査動作における非吐出駆動処理を行う期間において、第1~第5条件のいずれかを満たすか否かを判定する。第1~第5条件が本発明の「所定条件」に該当する。
【0069】
第1条件は、走査動作における非吐出駆動処理を行う期間(加速期間又は減速期間)が搬送動作の期間と重なることである。つまり、図10に示すように、記録指令に基づいて実行予定の第1走査動作の減速期間と第1搬送動作の加速期間とが重なる場合、当該第1走査動作の減速期間においては第1条件を満たす。また、記録指令に基づいて実行予定の第2走査動作の加速期間と第1搬送動作の減速期間とが重なる場合も、当該第2走査動作の加速期間においては第1条件を満たす。一方、記録指令に基づいて実行予定の第1走査動作の加速期間、第2走査動作の減速期間、第3走査動作の加速及び減速期間、第4走査動作の加速及び減速期間においては、記録指令に基づいて実行予定の搬送動作の期間と重ならない。つまり、これらの期間については第1条件を満たさない。
【0070】
第2条件は、走査動作における加速期間中にノズルNからインクを吐出することである。つまり、記録指令に基づいて実行予定の走査動作において、ヘッド10の移動速度が所定速度Vtに達する前に、ノズルNからインクを吐出して用紙1に画像を記録する場合、当該加速期間においては第2条件を満たす。一方、記録指令に基づいて実行予定の走査動作において、加速期間中にノズルNからインクを吐出せず定速期間及び減速期間にインクを吐出する場合、当該加速期間においては第2条件を満たさない。
【0071】
第3条件は、走査動作における減速期間中にノズルNからインクを吐出することである。つまり、記録指令に基づいて実行予定の走査動作において、ヘッド10の移動速度が所定速度Vtから減速しているときに、ノズルNからインクを吐出して用紙1に画像を記録する場合、当該減速期間においては第3条件を満たす。一方、記録指令に基づいて実行予定の走査動作において、減速期間中にノズルNからインクを吐出せず加速及び定速期間にインクを吐出する場合、当該減速期間においては第3条件を満たさない。
【0072】
第4条件は、走査動作における非吐出駆動処理を行う期間(加速期間又は減速期間)が搬送動作における減速期間と重なることである。つまり、図10に示すように、記録指令に基づいて実行予定の第2走査動作の加速期間と第1搬送動作の減速期間とが重なる場合、当該第2走査動作の加速期間においては第4条件を満たす。一方、記録指令に基づいて実行予定の第1走査動作の加速及び減速期間、第2走査動作の減速期間、第3走査動作の加速及び減速期間、第4走査動作の加速及び減速期間においては、記録指令に基づいて実行予定の搬送動作における減速期間と重ならない。つまり、これらの期間については第4条件を満たさない。
【0073】
第5条件は、走査動作における非吐出駆動処理を行う期間(加速期間又は減速期間)が、フラッシング処理を実行する直前の走査動作中、及び、フラッシング処理を実行した直後の走査動作中のいずれかであることである。つまり、図10に示すように、フラッシング処理を実行するフラッシング期間の直後の第1及び第4走査動作の加速期間においては第5条件を満たす。また、フラッシング処理を実行するフラッシング期間の直前の第3走査動作の減速期間においても第5条件を満たす。一方、フラッシング期間の直前、直後以外の第1走査動作の減速期間、第2走査動作の加速及び減速期間、第3走査動作の加速期間においては第5条件を満たさない。
【0074】
各走査動作における非吐出駆動処理を行う期間のうち第1~第5条件のいずれも満たさない場合(S203:NO)、CPU91は、当該期間における非吐出駆動処理を第1非吐出駆動処理の実行を決定する(S204)。つまり、図10に示す第1~第4走査動作のうち、第2走査動作の減速期間、第3走査動作の加速期間に実行される非吐出駆動処理を第1非吐出駆動処理に決定する。
【0075】
一方、各走査動作における非吐出駆動処理を行う期間のうち第1~第5条件のいずれかを満たす場合(S203:YES)、CPU91は、当該期間における非吐出駆動処理を第2非吐出駆動処理の実行を決定する(S205)。つまり、図10に示す第1~第4走査動作のうち、第1走査動作の加速及び減速期間、第2走査動作の加速期間、第3走査動作の減速期間、第4走査動作の加速期間に実行される非吐出駆動処理を第2非吐出駆動処理に決定する。こうして、CPU91は、決定処理を実行するプログラムを終了する。
【0076】
上記決定処理により、走査処理S61において実行される非吐出駆動処理が第1非吐出駆動処理に決定された場合、当該非吐出駆動処理が実行される期間(加速期間又は減速期間)において、第1の非吐出波形設定回路95及び第2の非吐出波形設定回路96は、非吐出駆動信号SB1に対応する波形を設定する。つまり、第1非吐出駆動処理は、S61において、ドライバIC14から各個別電極13Cに非吐出駆動信号SB1が供給されることで実行される。
【0077】
一方、上記決定処理により、走査処理S61において実行される非吐出駆動処理が第2非吐出駆動処理に決定された場合、当該非吐出駆動処理が実行される期間(加速期間又は減速期間)において、第1の非吐出波形設定回路95及び第2の非吐出波形設定回路96は、非吐出駆動信号SB2に対応する波形を設定する。つまり、第2非吐出駆動処理は、S61において、ドライバIC14から各個別電極13Cに非吐出駆動信号SB2が供給されることで実行される。
【0078】
以上に述べたように、本実施形態のプリンタ100によると、走査動作の加速期間及び減速期間中に非吐出駆動処理を行うことで、ノズルN近傍のインクのメニスカスを振動させることができ、インクの増粘を抑制することができる。
【0079】
また、非吐出駆動処理を行う期間が搬送動作の期間と重なるという第1条件が満たされる場合、第2非吐出駆動処理を行うと決定することで、第1非吐出駆動処理を実行するよりも使用電流が低く抑えられる。このため、非吐出駆動処理と搬送動作とが同じタイミングで行われていても、プリンタ100の許容電流を超えるのを抑制することが可能となる。
【0080】
また、加速期間中であって所定速度Vtに達する前からノズルNからインクを吐出するという第2条件が満たされる場合、加速期間中に第2非吐出駆動処理を行うと決定することで、第1非吐出駆動処理を実行するときよりもメニスカスに与える振動が小さくなる。このため、非吐出駆動処理に伴う残留振動が吐出に影響を及ぼしにくくなり、ノズルNからのインク吐出特性にバラツキが生じるのを抑制することが可能となる。また、加速期間中にノズルNからインクが吐出されるため、当該ノズルNにおいてインクが吐出されない期間自体が短くなるため、メニスカスに与える振動が小さくてもインクの贈粘を抑制することができる。
【0081】
また、減速期間中にノズルNからインクを吐出するという第3条件が満たされる場合、減速期間中に第2非吐出駆動処理を行うと決定することで、第1非吐出駆動処理を実行するときよりもメニスカスに与える振動が小さくなる。このため、非吐出駆動処理に伴う残留振動が吐出に影響を及ぼしにくくなり、ノズルNからのインク吐出特性にバラツキが生じるのを抑制することが可能となる。また、減速期間中にノズルNからインクが吐出されるため、当該ノズルNにおいてインクが吐出されない期間自体が短くなるため、メニスカスに与える振動が小さくてもインクの贈粘を抑制することができる。
【0082】
また、非吐出駆動処理を行う期間が搬送動作における用紙1の搬送方向への移動の減速を行う期間と重なるという第4条件が満たされる場合、第2非吐出駆動処理を行うと決定することで、第1非吐出駆動処理を実行するよりも使用電流が低く抑えられる。搬送動作における用紙1の移動の減速が行われるときの使用電流は搬送動作における用紙1の移動の加速が行われるときよりも大きい。このように搬送動作における使用電流が大きくなるタイミングが生じる期間に実行される非吐出駆動処理が第2非吐出駆動処理となる。このため、ノズルN内のインクのメニスカスに振動を与えつつも使用電流がプリンタ100の許容電流を超えるのを抑制することが可能となる。
【0083】
また、非吐出駆動処理を行う期間が、フラッシング処理を実行する直前の走査動作中及びフラッシング処理を実行した直後の走査動作中のいずれかであるという第5条件が満たされる場合、当該期間に第2非吐出駆動処理を行うと決定することで、ヘッド10のアクチュエータ13Xの劣化を抑制できる。つまり、フラッシング処理によってノズルN近傍のインクの増粘が解消される。このため、フラッシング処理の直前直後には、振動の大きい非吐出駆動処理を行う必要がない。そこで、このような場合は振動の小さい非吐出駆動処理(第2非吐出駆動処理)を実行することで、ヘッドの劣化を抑制することが可能となる。
【0084】
より詳細には、走査動作の直後にフラッシング処理が実行される場合、当該走査動作の減速期間中にノズルNのインクのメニスカスに大きな振動を与えなくても、フラッシング処理によりノズルNからインクが排出され、次の走査動作によるインク吐出不良を抑制できる。このため、第1非吐出駆動処理よりもメニスカスに与える振動が小さく、アクチュエータ13Xの駆動による劣化を抑制することが可能な第2非吐出駆動処理を実行することで、フラッシング処理でのインク吐出不良を抑制しつつもアクチュエータ13Xの劣化を抑制することができる。また、フラッシング処理の直後に実行される走査動作の加速期間においては、直前にフラッシング処理によりノズルNからインクが排出されているため、当該走査動作の加速期間中にノズルNのインクのメニスカスに大きな振動を与えなくても、走査動作によるインク吐出不良を抑制することができる。このため、第1非吐出駆動処理よりもメニスカスに与える振動が小さく、アクチュエータ13Xの駆動による劣化を抑制することが可能な第2非吐出駆動処理を実行することで、走査動作でのインク吐出不良を抑制しつつもアクチュエータ13Xの劣化を抑制することができる。
【0085】
このように、5つの条件に応じた非吐出駆動処理を行うことで、種々の問題のうちいずれかを抑制することが可能である。
【0086】
第1の非吐出波形設定回路95及び第2の非吐出波形設定回路96のそれぞれが、S202の決定処理の決定に基づいて、非吐出駆動信号SB1を生成するための波形(本発明の「第1波形」)の設定、及び、非吐出駆動信号SB2を生成するための波形(本発明の「第2波形」)の設定を行う。このため、転送回路98から、非吐出駆動信号SB1を生成するための波形、及び、非吐出駆動信号SB2を生成するための波形のうち、選択した波形に基づく波形信号FIRE5を1の信号線を介してドライバIC14に転送することが可能となる。波形信号FIRE5を選択的に送信することで、波形(非吐出駆動信号)の数に応じて信号線を増加させる必要がなくなる。したがって、回路が大型化するのを抑制することができる。
【0087】
第2非吐出駆動処理においては、非吐出駆動信号SB1よりも、単位時間T当たりのパルス数が少ない非吐出駆動信号SB2が用いられる。これにより、第2非吐出駆動処理の使用電流を抑制することが可能となる。また、非吐出駆動信号SB2のパルス幅は、非吐出駆動信号SB1よりも小さくてもよい。また、非吐出駆動信号SB2のパルス幅は、単位時間T当たりの、ノズルN内のインクのメニスカスに与える振動及び使用電流が非吐出駆動信号SB1よりも小さくなる場合は、非吐出駆動信号SB1よりも大きくてもよい。
【0088】
<第2実施形態>
続いて、図11を参照し、本発明の第2実施形態に係るプリンタについて説明する。
【0089】
第1実施形態における第2非吐出駆動処理においては、図4に示すように、非吐出駆動信号SB1よりも、単位時間T当たりのパルス数が少ない非吐出駆動信号SB2が用いられている。これに対し、第2実施形態における第2非吐出駆動処理においては、図11に示すように、非吐出駆動信号SB1よりも、パルス幅が小さい非吐出駆動信号SB2が用いられていてもよい。なお、非吐出駆動信号SB2のパルス数は非吐出駆動信号SB1と同じであってもよいし、少なくてもよい。また、非吐出駆動信号SB2のパルス数は、単位時間T当たりの、ノズルN内のインクのメニスカスに与える振動及び使用電流が非吐出駆動信号SB1よりも小さくなる場合は、非吐出駆動信号SB1よりも多くてもよい。
【0090】
また、第2実施形態における非吐出駆動信号SB2のパルス幅は、非吐出駆動信号SB1のパルス幅Wの半分のサイズであるが、非吐出駆動信号SB2のパルス幅は、非吐出駆動信号SB1のパルス幅よりも小さければよく、特にパルス幅をW/2に限定するものではない。
【0091】
このようなパルス幅を有する非吐出駆動信号SB2を用いることで、第2非吐出駆動処理の使用電流を抑制することが可能となる。
【0092】
<第3実施形態>
続いて、図12を参照し、本発明の第3実施形態に係るプリンタについて説明する。
【0093】
第1実施形態における第2非吐出駆動処理においては、図4に示すように、非吐出駆動信号SB1よりも、単位時間T当たりのパルス数が少ない非吐出駆動信号SB2が用いられている。これに対し、第3実施形態における第2非吐出駆動処理においては、図12に示すように、非吐出駆動信号SB1よりも、波高値(駆動電位VDD)の小さい非吐出駆動信号SB2が用いられていてもよい。なお、非吐出駆動信号SB2のパルス数は非吐出駆動信号SB1と同じであってもよいし、少なくてもよい。また、非吐出駆動信号SB2のパルス数は、単位時間T当たりの、ノズルN内のインクのメニスカスに与える振動及び使用電流が非吐出駆動信号SB1よりも小さくなる場合は、非吐出駆動信号SB1よりも多くてもよい。
【0094】
また、第3実施形態における非吐出駆動信号SB2の波高値は、非吐出駆動信号SB1の波高値の半分の値(駆動電位VDD/2)であるが、非吐出駆動信号SB2の波高値は、非吐出駆動信号SB1の波高値よりも小さければよく、特に波高値をVDD/2に限定するものではない。
【0095】
このような波高値を有する非吐出駆動信号SB2を用いることで、第2非吐出駆動処理の使用電流を抑制することが可能となる。
【0096】
<第4実施形態>
続いて、図13を参照し、本発明の第4実施形態に係るプリンタについて説明する。なお、上記の第1実施形態と同様なものについては同符号で示し説明を省略する。
【0097】
本実施形態におけるASIC291は、出力回路292、転送回路293、第1の非吐出波形設定回路295、第2の非吐出波形設定回路296、第3の非吐出波形設定回路297及び第4の非吐出波形設定回路298を有している。第1の非吐出波形設定回路295は、走査動作中の加速期間に供給される非吐出駆動信号SB1に対応する波形を設定する。第2の非吐出波形設定回路296は、走査動作中の加速期間に供給される非吐出駆動信号SB2に対応する波形を設定する。第3の非吐出波形設定回路297は、走査動作中の減速期間に供給される非吐出駆動信号SB1に対応する波形を設定する。第4の非吐出波形設定回路298は、走査動作中の減速期間に供給される非吐出駆動信号SB2に対応する波形を設定する。
【0098】
出力回路292は、波形信号FIRE1~FIRE6及び選択信号SINを生成し、これら信号を単位時間T毎に転送回路293に出力する。出力回路292は、第1の非吐出波形設定回路295及び第2の非吐出波形設定回路296で設定された2つの波形から、S202の決定処理で決定された非吐出駆動処理(第1非吐出駆動処理又は第2非吐出駆動処理)に応じた波形を選択し、当該波形に基づく波形信号FIRE5を、走査動作中の加速期間における単位時間T毎に転送回路293に出力する。出力回路292は、第3の非吐出波形設定回路297及び第4の非吐出波形設定回路298で設定された2つの波形から、S202の決定処理で決定された非吐出駆動処理(第1非吐出駆動処理又は第2非吐出駆動処理)に応じた波形を選択し、当該波形に基づく波形信号FIRE6を、走査動作中の加速期間における単位時間T毎に転送回路293に出力する。
【0099】
転送回路293は、6つの波形信号FIRE1~FIRE6を6つの信号線(FIRE1~FIRE6)を用いてドライバIC14に転送し、選択信号SINを1つの信号線(SIN)を用いてドライバIC14に転送する。転送回路293は、上記各信号に対応するLVDSドライバを内蔵しており、各信号をパルス状の差動信号としてドライバIC14に転送する。
【0100】
S202の決定処理により、走査処理S61において実行される加速期間の非吐出駆動処理が第1非吐出駆動処理に決定された場合、出力回路292は第1の非吐出波形設定回路295が設定する波形に基づいた波形信号FIRE5を出力する。一方、S202の決定処理により、走査処理S61において実行される加速期間の非吐出駆動処理が第2非吐出駆動処理に決定された場合、出力回路292は第2の非吐出波形設定回路296が設定する波形に基づいた波形信号FIRE5を出力する。
【0101】
S202の決定処理により、走査処理S61において実行される減速期間の非吐出駆動処理が第1非吐出駆動処理に決定された場合、出力回路292は第3の非吐出波形設定回路297が設定する波形に基づいた波形信号FIRE6を出力する。一方、S202の決定処理により、走査処理S61において実行される減速期間の非吐出駆動処理が第2非吐出駆動処理に決定された場合、出力回路292は第4の非吐出波形設定回路298が設定する波形に基づいた波形信号FIRE6を出力する。
【0102】
このように本実施形態においては、4つの非吐出波形設定回路295~298を有していることで、決定処理で決定された非吐出駆動処理に応じて波形を設定する必要がなくなる。このため、本実施形態における記録処理に要する時間が、波形を設定するのに要する時間分だけ短縮され、第1実施形態の記録処理に要する時間よりも短くなる。
【0103】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上記の各実施形態においては、非吐出駆動処理が走査動作の加速期間又は減速期間に実行されるが、走査動作中において、各ノズルNにおけるインクを吐出しない期間に非吐出駆動処理を実行してもよい。この場合、非吐出駆動処理を実行する期間が、上記の第1~第5条件のいずれかを満たす場合、第2非駆動処理を実行することを決定し、上記の第1~第5条件のいずれも満たさない場合、第1非駆動処理を実行することを決定すればよい。こうすることで、上記と同様の効果を得ることができる。
【0104】
S203で判定する条件は5つの条件のうちのいずれか1つ、2つ、3つ、4つのいずれかであってもよい。また、第4条件を満たす場合は、非吐出駆動信号SB2よりもさらに使用電力の小さい非吐出駆動信号を用いてもよい。こうすることで、プリンタ100の許容電流を超えるのを抑制することが可能となる。また、第5条件を満たす場合は、非吐出駆動信号SB2よりもさらにノズルN内のインクのメニスカスに与える振動及び使用電力の小さい非吐出駆動信号を用いてもよい。こうすることで、プリンタ100の許容電流を超えるのを抑制することが可能となる。
【0105】
本発明は、プリンタに限定されず、ファクシミリ、コピー機、複合機等にも適用可能である。また、本発明は、画像の記録以外の用途で使用される液体吐出ヘッドを有する液体吐出装置(例えば、基板に導電性の液体を吐出して導電パターンを形成する液体吐出ヘッドを有する装置)にも適用可能である。吐出対象は、用紙に限定されず、例えば布、基板等であってもよい。ノズルから吐出される液体は、インクに限定されず、任意の液体(例えば、インク中の成分を凝集又は析出させる処理液等)であってよい。
【符号の説明】
【0106】
10 ヘッド
30 移動機構
50 搬送機構
60 受け部材(受け部)
91 CPU(制御部の一部)
94,291 ASIC(制御部の一部)
100 プリンタ(液体吐出装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13