(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077130
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】非水二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240531BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240531BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240531BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0566
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188993
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】泉本 貴昭
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ07
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】電極体内部における非水電解液の分布の偏りによる電池抵抗の増加を抑制可能とした非水二次電池を提供する。
【解決手段】正極板21、負極板24、及びセパレータ27が積層方向に積層された電極体20と、非水電解液と、を備え、負極基材25の各面における単位面積あたりの負極合剤層26が含む負極活物質の質量の和をA〔mg/cm
2〕とし、SOCが0%から100%になるまで充電したときの負極活物質の格子体積変化量をB〔nm
3〕とし、SOCが0%から100%になるまで充電したときに電極体20に作用する積層方向の荷重の変化量をC〔N〕とし、積層方向における正極板21のばね定数の逆数と、セパレータ27のばね定数の逆数との和をD〔mm/kN〕とし、E=A×B/(C×D)としたときに、Eの値は、0.48以上0.69以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板、負極板、及び前記正極板と前記負極板との間に位置するセパレータが積層方向に積層された電極体と、非水電解液と、を備える非水二次電池であって、
前記負極板は、負極基材と、前記負極基材の相反する方向に面する2つの面に設けられた負極合剤層とを備え、
前記負極基材の各面における単位面積あたりの前記負極合剤層が含む負極活物質の質量の和をA〔mg/cm2〕とし、
前記非水二次電池において、SOCが0%から100%になるまで充電したときの前記負極活物質の格子体積変化量をB〔nm3〕とし、
前記非水二次電池において、SOCが0%から100%になるまで充電したときに前記電極体に作用する前記積層方向の荷重の変化量をC〔N〕とし、
前記積層方向において、前記正極板のばね定数の逆数と、前記セパレータのばね定数の逆数との和をD〔mm/kN〕とし、
E=A×B/(C×D)としたときに、
Eの値は、0.48以上0.69以下である
非水二次電池。
【請求項2】
Eの値が0.56以上である
請求項1に記載の非水二次電池。
【請求項3】
Cの値が1650N以上1700N以下である
請求項1または2に記載の非水二次電池。
【請求項4】
Aの値が7.0mg/cm2以上10.0mg/cm2以下である
請求項3に記載の非水二次電池。
【請求項5】
Dの値が0.00011mm/kN以上0.00012mm/kN以下である
請求項4に記載の非水二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車は、その電源として非水二次電池を備える。非水二次電池の一例であるリチウムイオン二次電池は、正極板と負極板とがセパレータを介して積層された電極体を備える。
【0003】
非水二次電池をハイレートで繰り返し充放電した場合には、負極板が備える負極活物質が膨張と収縮とを繰り返すことによって、電極体内部から非水電解液が排出される。これにより、電極体内部における非水電解液の分布に偏りが生じることで、電極体内部における非水電解液の量が部分的に不足して電池抵抗の増加等が生じる。電極体内部の非水電解液の分布の偏りを緩和する技術の一例として、正極板の厚さ方向のばね定数を所定の範囲に規定することで、正極板及び負極板の各々から排出される非水電解液の量のバランスを適正化することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
膨張した負極活物質は、正極板だけでなくセパレータも押圧する。したがって、電極体内部における非水電解液の分布の偏りを抑制するためには、負極活物質の膨張に伴う正極板の変形挙動だけでなく、セパレータの変形挙動も考慮する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための非水二次電池は、正極板、負極板、及び前記正極板と前記負極板との間に位置するセパレータが積層方向に積層された電極体と、非水電解液と、を備える非水二次電池であって、前記負極板は、負極基材と、前記負極基材の相反する方向に面する2つの面に設けられた負極合剤層とを備え、前記負極板について、前記負極基材の各面における単位面積あたりの前記負極合剤層が含む負極活物質の質量の和をA〔mg/cm2〕とし、前記非水二次電池において、SOCが0%から100%になるまで充電したときの前記負極活物質の格子体積変化量をB〔nm3〕とし、前記非水二次電池において、SOCが0%から100%になるまで充電したときに前記電極体に作用する前記積層方向の荷重の変化量をC〔N〕とし、前記積層方向において、前記正極板のばね定数の逆数と、前記セパレータのばね定数の逆数との和をD〔mm/kN〕とし、E=A×B/(C×D)としたときに、Eの値は、0.48以上0.69以下である。
【0007】
A×Bの値は、充放電時に負極活物質が膨張、収縮する際の体積変化量の程度を表す指標となる。したがって、A×Bの値は、負極活物質の膨張、収縮によって負極板から非水電解液が排出される程度を表す指標となる。C×Dの値は、充電時における負極活物質の膨張に伴ってセパレータ及び正極板が積層方向に圧縮されたときの変位量に対して正の相関を有する。すなわち、C×Dの値は、充電時におけるセパレータ及び正極板の体積変化量(減少量)の指標、ひいては、充電時にセパレータ及び正極板から非水電解液が排出される程度を表す指標となる。C×Dの値に対するA×Bの値の割合を適正な範囲内に収めることで、充放電に伴って負極板から排出される非水電解液の量と、セパレータ及び正極板から排出される非水電解液の量とのバランスを適正に保つことができる。
【0008】
上記非水二次電池において、Eの値が0.56以上であることが好ましい。上記構成によれば、充放電サイクルに伴う非水二次電池の抵抗の増加を好適に抑制できる。
上記非水二次電池において、Cの値が1650N以上1700N以下であることが好ましい。上記構成によれば、充放電に伴って正極板及びセパレータから排出される非水電解液の量を適正に保つことができる。
【0009】
上記非水二次電池において、Aの値が7.0mg/cm2以上10.0mg/cm2以下であることが好ましい。上記構成によれば、充放電に伴って負極板から排出される非水電解液の量を適正に保つことができる。
【0010】
上記非水二次電池において、Dの値が0.00011mm/kN以上0.00012mm/kN以下であることが好ましい。上記構成によれば、充放電に伴って正極板及びセパレータから排出される非水電解液の量を適正に保つことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極体内部における非水電解液の分布の偏りによる電池抵抗の増加を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、リチウムイオン二次電池の斜視図である。
【
図2】
図2は、電極体を展開した状態を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III線から見た断面図である。
【
図4】
図4は、リチウムイオン二次電池の製造工程を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、充電時において、負極合剤層が膨張した電極体の断面構造を示す模式図である。
【
図6】
図6は、放電時において、
図5に示す状態から負極合剤層が収縮した電極体の断面構造を示す模式図である。
【
図7】
図7は、SOC0%の状態におけるαグラファイトの結晶構造を模式的に表す平面図である。
【
図8】
図8は、SOC100%の状態におけるLiC
6の結晶構造を模式的に表す平面図である。
【
図9】
図9は、SOC0%の状態におけるαグラファイトから抽出した結晶格子の格子体積を表す式(1)である。
【
図10】
図10は、SOC100%の状態におけるLiC
6から抽出した結晶格子の格子体積を表す式(2)である。
【
図11】
図11は、実施例1~4及び比較例1~3で用いた電極体における正極板、負極板、及びセパレータの材料、物性値を示す表である。
【
図12】
図12は、実施例1~4及び比較例1~3で用いた電極体における各パラメータ及び充放電サイクル後の抵抗増加率を示す表である。
【
図13】
図13は、パラメータEの値に対する充放電サイクル後の抵抗増加率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について
図1~
図13を参照して説明する。
[リチウムイオン二次電池]
図1に示すように、非水二次電池の一例であるリチウムイオン二次電池10は、ケース11と電極体20とを備える。ケース11は、収容部11Aと、蓋体12とを備える。収容部11Aは、上側に開口を有した偏平な有底角型の外形を有する。収容部11Aは、電極体20と非水電解液とを収容する。蓋体12は、収容部11Aの開口を閉塞する。ケース11は、収容部11Aに蓋体12を取り付けることで直方体形状の密閉された電槽を構成する。ケース11は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金等の金属で構成される。
【0014】
蓋体12には、正極の外部端子13Aと、負極の外部端子13Bとが設けられる。外部端子13A,13Bは、電力の充放電に用いられる。電極体20における正極側の端部である正極側集電部20Aは、正極側集電部材14Aを介して正極の外部端子13Aに電気的に接続される。電極体20における負極側の端部である負極側集電部20Bは、負極側集電部材14Bを介して負極の外部端子13Bに電気的に接続される。また、蓋体12は、非水電解液を注入するための注入口15を備える。なお、外部端子13A,13Bの形状は、
図1に示す形状に限定されず、任意の形状であってよい。
【0015】
[電極体]
図2に示すように、電極体20は、長尺の正極板21と負極板24とがセパレータ27を介して積層された積層体を捲回した偏平な捲回体である。正極板21、負極板24、及びセパレータ27は、それぞれの長手となる方向が長手方向D1と一致するように積層される。捲回前の積層体は、正極板21、セパレータ27、負極板24、セパレータ27の順に、積層方向D3(
図3参照)に積層される。電極体20は、セパレータ27を挟んで積層された正極板21と負極板24とが、その帯形状の幅方向D2に延びる捲回軸L1周りに捲回された構造を有している。したがって、正極板21及び負極板24は、それぞれ電極体20において複数の層を構成する。同様に、各セパレータ27は、それぞれ電極体20において複数の層を構成する。
【0016】
[正極板]
図3に示すように、正極板21は、正極基材22と、正極合剤層23とを備える。正極基材22は、長尺状に形成された箔状の部材である。正極合剤層23は、正極基材22の相反する方向に面する2つの面の各々に設けられる。正極基材22は、幅方向D2の一端に、正極合剤層23が形成されずに正極基材22が露出した正極側未塗工部22Aを備える。
【0017】
正極基材22は、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。正極基材22が備える正極側未塗工部22Aは、捲回体の状態において、向かい合う面が互いに圧接されて正極側集電部20Aを構成する。
【0018】
正極合剤層23は、液状体の正極合剤ペーストの硬化体である。正極合剤ペーストは、正極活物質、正極溶媒、正極導電材、及び、正極結着材を含む。正極合剤層23は、正極合剤ペーストが乾燥されて正極溶媒が気化することで形成される。したがって、正極合剤層23は、正極活物質、正極導電材、及び、正極結着材を含む。
【0019】
正極活物質は、リチウムイオン二次電池10における電荷担体であるリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なリチウム含有複合金属酸化物が用いられる。リチウム含有複合酸化物は、リチウムと、リチウム以外の他の金属元素とを含む酸化物である。リチウム以外の他の金属元素は、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム、マグネシウム、モリブデン、ニオブ、チタン、タングステン、アルミニウム、リチウム含有複合酸化物にリン酸鉄として含有される鉄からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0020】
例えば、リチウム含有複合酸化物は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含有する三元系リチウム含有複合酸化物(NCM)であって、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMnO2)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)である。
【0021】
正極溶媒は、有機溶媒の一例であるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液が用いられる。正極導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ等の炭素繊維、黒鉛が用いられる。正極結着材は、正極合剤ペーストに含まれる樹脂成分の一例である。正極結着材は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレンブタジエンラバー(SBR)等が用いられる。
【0022】
なお、正極板21は、正極側未塗工部22Aと正極合剤層23との境界に、絶縁層を備えてもよい。絶縁層は、絶縁性を有した無機成分と、結着材として機能する樹脂成分とを含む。無機成分は、粉末状のベーマイト、チタニア、及びアルミナからなる群から選択される少なくとも1つである。樹脂成分は、PVDF、PVA、アクリルからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0023】
[負極板]
負極板24は、負極基材25と、負極合剤層26とを備える。負極基材25は、長尺状に形成された箔状の部材である。負極合剤層26は、負極基材25の相反する方向に面する2つの面の各々に設けられる。負極基材25は、幅方向D2の一端であって、正極側未塗工部22Aと反対に位置する端部において、負極合剤層26が形成されずに負極基材25が露出した負極側未塗工部25Aを備える。
【0024】
負極基材25は、銅または銅を主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。負極側未塗工部25Aは、捲回体の状態において、向かい合う面が互いに圧接されて負極側集電部20Bを構成する。
【0025】
負極合剤層26は、液状体の負極合剤ペーストの硬化体である。負極合剤ペーストは、負極活物質、負極溶媒、負極分散材、及び、負極結着材を含む。負極合剤層26は、負極合剤ペーストが乾燥されて負極溶媒が気化することで形成される。したがって、負極合剤層26は、負極活物質、負極分散材、及び、負極結着材を含む。なお、負極合剤層26は、導電材のような添加剤をさらに含んでもよい。
【0026】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料である。負極活物質は、例えば、黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、カーボンナノチューブ等の炭素材料等が用いられる。また、負極活物質は、黒鉛粒子を非晶質炭素層で被覆した複合化粒子であってもよい。黒鉛粒子は、炭素の六員環が連なる層が重ねられた結晶性の高い構造を有する粒子であって、天然黒鉛、人造黒鉛等である。黒鉛粒子は、略球状、楕円球状等の形状を有していることが多い。非晶質炭素層は、石油ピッチ、石炭ピッチ、石油コークス、石炭コークス及びこれらの混合物等の非晶質の炭素材料を前駆体として黒鉛粒子とともに加熱されながら混練されることで黒鉛粒子の表面に形成される。混練物は、不活性雰囲気中、前駆体が黒鉛化する黒鉛化温度よりも低い温度で加熱されることによって乾燥される。そして、乾燥物を粉砕して黒鉛粒子の単体を分離することにより、非晶質炭素層で被覆された複合化粒子が生成される。
【0027】
負極溶媒は、一例として、水である。負極分散材は、一例として、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いることができる。負極結着材は、正極結着材と同様のものを用いることができる。負極結着材は、一例としてSBRである。
【0028】
[セパレータ]
セパレータ27は、正極板21と負極板24との接触を防ぐとともに、正極板21及び負極板24の間で非水電解液を保持する。非水電解液に電極体20を浸漬させると、セパレータ27の端部から中央部に向けて非水電解液が浸透する。
【0029】
セパレータ27は、ポリプロピレン製等の不織布である。セパレータ27としては、例えば、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、及びイオン導電性ポリマー電解質膜等を用いることができる。
【0030】
[非水電解液]
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。非水溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートからなる群から選択された一種または二種以上の材料である。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)である。
【0031】
本実施形態では、非水溶媒としてエチレンカーボネートを採用している。非水電解液には、添加剤としてのリチウム塩としてのリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)が添加される。例えば、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.001以上0.1以下[mol/L]となるように、非水電解液にLiBOBを添加する。
【0032】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
図4に示すように、リチウムイオン二次電池10の製造方法は、ステップS1~S6を含む。ステップS1は、正極板21及び負極板24のそれぞれを製造する源泉工程である。正極板21の製造工程は、正極基材22の相反する方向に面する2つの面において、幅方向D2の両端に正極側未塗工部22Aを構成するように正極合剤ペーストを塗工する。その後、正極合剤ペーストを乾燥させて正極合剤層23を形成する。次いで、正極基材22の両面に形成された正極合剤層23を押圧することで、正極合剤層23の厚みを調整する。その後、正極基材22を幅方向D2の中央で切断する。以上の工程によって、一度に2条の正極板21が製造される。
【0033】
負極板24の製造工程は、負極基材25の相反する方向に面する2つの面において、幅方向D2の両端に負極側未塗工部25Aを構成するように負極合剤ペーストを塗工する。その後、負極合剤ペーストを乾燥させて負極合剤層26を形成する。次いで、負極基材25の両面に形成された負極合剤層26を押圧することで、負極合剤層26の厚みを調整する。その後、負極基材25を幅方向D2の中央で切断する。以上の工程によって、一度に2条の負極板24が製造される。
【0034】
ステップS2は、正極板21、負極板24、及びセパレータ27を用いて電極体20を製造する工程である。具体的に、正極板21と負極板24とをセパレータ27を介して積層した後、捲回し、さらに偏平に押圧する。その後、正極側未塗工部22Aを圧接して正極側集電部20Aを形成するとともに、負極側未塗工部25Aを圧接して負極側集電部20Bを形成する。以上の手順により、ステップS2において、電極体20が製造される。
【0035】
ステップS3は、電極体20をケース11内に収容する封缶工程である。このとき、正極側集電部20Aは、正極側集電部材14Aを介して正極の外部端子13Aと電気的に接続される。負極側集電部20Bは、負極側集電部材14Bを介して負極の外部端子13Bと電気的に接続される。収容部11Aの上部は、蓋体12によって塞がれる。
【0036】
ステップS4は、加熱処理によって電極体20の水分を除去する乾燥工程と、ケース11内に非水電解液を注入する注液工程である。以上の手順により、リチウムイオン二次電池10が組み立てられる。
【0037】
ステップS5は、リチウムイオン二次電池10を充電する充電工程である。ステップS6は、充電工程を経たリチウムイオン二次電池10を高温下で一定期間静置するエージング工程である。エージング工程によって、リチウムイオン二次電池10のなかの金属異物を溶解させるとともにSEI被膜を安定化させる。その後、検査等を経たうえでリチウムイオン二次電池10の製造工程が完了する。
【0038】
[充放電サイクルに伴う電池抵抗の増加]
図5に示すように、リチウムイオン二次電池10を充電すると、リチウムイオンが負極活物質の表面から吸蔵されて負極活物質の内部に入り込むことで、負極活物質の結晶格子が歪むようにして負極活物質の体積が増加する。そのため、リチウムイオン二次電池10の充電時には、負極合剤層26の体積が増加することで、正極板21及びセパレータ27が積層方向D3に沿う矢印A1の方向に押圧される。すると、正極板21及びセパレータ27から電極体20の外部に向けて非水電解液が排出される。
【0039】
図6に示すように、リチウムイオン二次電池10を放電すると、リチウムイオンが負極活物質から放出されることで負極活物質の体積が減少する。すると、リチウムイオン二次電池10の放電時には、負極合剤層26が積層方向D3に沿う矢印A2の方向に向かって体積が減少することで、負極合剤層26から電極体20の外部に向けて非水電解液が排出される。
【0040】
リチウムイオン二次電池10を繰り返し充放電した場合には、負極活物質が膨張と収縮とを繰り返すことによって、電極体20の内部から非水電解液が排出される。このとき、充電時における正極板21及びセパレータ27からの非水電解液の排出量と、放電時における負極板24からの非水電解液の排出量との差が大きい場合には、電極体20の内部で非水電解液の分布に偏りが生じる。電極体20の内部における非水電解液の分布の偏りは、電極体20の内部における部分的な非水電解液の量の不足による電池抵抗の増加を引き起こす。上記の現象は、リチウムイオン二次電池10を高出力(ハイレート)で繰り返し充放電した場合に特に生じ易い。
【0041】
リチウムイオン二次電池10は、電極体20内部における非水電解液の分布の偏りを抑制するために、以下のA~Dのパラメータを用いて表されるEの値が所定の数値範囲内となるように決定される。Eの値は、E=A×B/(C×D)として表される。
【0042】
以下、A~Dの各パラメータについて説明する。Aの値は、電極体20の1つの層を構成する負極板24について負極基材25の各面における単位面積あたりの負極合剤層26が含む負極活物質の質量の和〔mg/cm2〕である。Aの値は、例えば、ステップS1において、負極板24を作製する際の単位面積あたりの負極合剤層26の目付量〔mg/cm2〕と、負極合剤層26中の負極活物質の質量比とを用いて算出できる。なお、例えば、ステップS1において、負極板24を作製する際の単位面積あたりの負極合剤層26の目付量、または、負極合剤層26中の負極活物質の質量比、あるいはその両方を変えることでAの値を変えることができる。
【0043】
Aの下限は、充放電に伴って負極板24から排出される非水電解液の量が過剰に少なくなることを抑制する観点から、7.0mg/cm2以上、より好ましくは7.26mg/cm2以上である。Aの上限は、充放電に伴って負極板24から排出される非水電解液の量が過剰に少なくなることを抑制する観点から、10.0mg/cm2以下、より好ましくは9.41mg/cm2以下である。
【0044】
Bの値は、リチウムイオン二次電池10において、SOCが0%から100%になるまで充電したときの負極活物質の格子体積変化量〔nm3〕である。例えば、負極活物質がグラファイトである場合、SOC0%でのαグラファイトの状態の単位格子は、SOC100%においてグラファイトがリチウムを吸蔵したLiC6の状態の単位格子と比較して、単位格子を構成する原子数も単位格子の大きさも異なる。
【0045】
図7に示すように、例えば、SOC0%でのαグラファイトは、六角網目状に結ばれた炭素原子によってシート状に構成されたグラフェンGが積層されて構成される。αグラファイトは、
図7中に実線で示す奇数層目のグラフェンGと破線で示す偶数層目のグラフェンGとが、グラフェンGの面内方向(二次元方向)において互いにずれた状態で配置される。αグラファイトが備える単位格子UC1のa軸格子定数a
1は、六員環の一辺の長さ(六員環の炭素間距離)の√3倍である。αグラファイトが備える単位格子UC1のc軸格子定数c
1は、グラフェンGが積層されるc軸方向において隣り合うグラフェンGの平面間距離の2倍である。αグラファイトが備える単位格子UC1は、4個の炭素原子を含む。
【0046】
図8に示すように、SOC100%でのLiC
6は、αグラファイトが備えるグラフェンGの層間にリチウム(Li)が吸蔵された層間化合物である。LiC
6では、リチウムの吸蔵に伴って奇数層目のグラフェンGと偶数層目のグラフェンGとの面内方向のずれが解消されるため、グラフェンGの炭素原子がc軸方向において重なった状態となる。LiC
6が備える単位格子UC2のa軸格子定数a
2は、六員環の一辺の長さの3倍である。単位格子UC2のc軸格子定数c
2は、c軸方向において隣り合うグラフェンGの平面間距離である。LiC
6が備える単位格子UC2は、6個の炭素原子を含む。
【0047】
リチウムの吸蔵に伴う負極活物質の格子体積変化量の算出方法は、SOC0%のαグラファイト及びSOC100%のLiC6の各々から炭素数が同一の結晶格子を抽出する。そして、LiC6から抽出した結晶格子の体積から、αグラファイトから抽出した結晶格子の体積を減算した値が負極活物質の格子体積変化量である。格子体積変化量の算出において、αグラファイト及びLiC6の各々から抽出する結晶格子は、例えば、αグラファイトの単位格子UC1に含まれる炭素数とLiC6の単位格子UC2に含まれる炭素数との最小公倍数となる12個の炭素原子を含む。
【0048】
図7に示すように、αグラファイトから抽出する結晶格子CL1は、3層のグラフェンGに跨る平行六面体であって、例えば、3層のうち両端の奇数層目のグラフェンGに位置する菱形状の上底面及び下底面と、上底面と下底面とを繋ぐ4つの側面とを備える。結晶格子CL1において、c軸方向に延びる4つの辺は、それぞれ偶数層目のグラフェンGに位置する炭素原子と重なる。上底面及び下底面の菱形の一辺の長さX1は、六員環の一辺の長さの3倍であって、単位格子UC1のa軸格子定数a
1の√3倍である。また、結晶格子CL1において、c軸方向に延びる4つの辺の長さは、c軸方向において隣り合うグラフェンGの平面間距離の2倍であって、単位格子UC1のc軸格子定数c
1と同じ長さである。
【0049】
図8に示すように、LiC
6から抽出する結晶格子CL2は、例えば、LiC
6が備える単位格子UC2をc軸方向に2つ重ねた平行六面体である。結晶格子CL2は、3層のグラフェンGに跨る平行六面体であって、3層のうち両端の2層のグラフェンGに位置する菱形状の上底面及び下底面と、上底面と下底面とを繋ぐ4つの側面とを備える。結晶格子CL2において、c軸方向に延びる4つの辺は、それぞれグラフェンGの平面間に吸蔵されたリチウム原子と重なる。上底面及び下底面の菱形の一辺の長さX2は、六員環の一辺の長さの3倍であって、単位格子UC2のa軸格子定数a
2と同じ長さである。また、結晶格子CL2において、c軸方向に延びる4つの辺の長さは、c軸方向において隣り合うグラフェンGの平面間距離の2倍であって、単位格子UC2のc軸格子定数c
2の2倍である。
【0050】
図9に示すように、例えば、SOC0%におけるαグラファイトから抽出した結晶格子CL1の格子体積M
1〔nm
3〕は、αグラファイトの単位格子UC1におけるa軸格子定数a
1〔Å〕及びc軸格子定数c
1〔Å〕を用いて式(1)で表される。
【0051】
図10に示すように、例えば、SOC100%の状態におけるLiC
6から抽出した結晶格子CL2の格子体積M
2〔nm
3〕は、LiC
6の単位格子UC2におけるa軸格子定数a
2〔Å〕及びc軸格子定数c
2〔Å〕を用いて式(2)で表される。
【0052】
なお、αグラファイトのa軸格子定数a1及びc軸格子定数c1の値は、SOC0%の負極活物質に対するXRD(X線回折法)によって得られたピークから、ブラッグの法則、及び、各ミラー指数の面間隔との関係に基づいて求めることができる。同様に、LiC6のa軸格子定数a2及びc軸格子定数c2の値は、SOC100%の負極活物質に対するXRDによって得られたピークから、ブラッグの法則、及び、各ミラー指数の面間隔との関係に基づいて求めることができる。
【0053】
Bの値は、SOC100%における結晶格子CL2の格子体積M2〔nm3〕からSOC0%における結晶格子CL1の格子体積M1〔nm3〕を引いた値、つまり、B=M2-M1として表される。なお、例えば、負極活物質として用いる材料の種類を変えることでBの値を変えることができる。Bの値は、一例として、0.013nm3以上0.016nm3以下である。
【0054】
なお、αグラファイトにおいて、結晶格子CL1の格子体積M1は、単位格子UC1の体積の3倍となる。また、LiC6において、結晶格子CL2の格子体積M2は、単位格子UC2の体積の2倍となる。したがって、Bの値は、SOC100%の状態のLiC6における単位格子UC2の体積を2倍にした値から、SOC0%の状態のαグラファイトにおける単位格子UC1の体積を3倍にした値を減算することによって求めてもよい。
【0055】
本実施形態では、XRD測定装置として「X’Pert-PRO MPD」(マルバーン・パナリティカル社製)を用いた。検出器として「PIXcel1D detector」(マルバーン・パナリティカル社製)を用いた。管球としてCuターゲットを用いた。ステップ幅を0.013°とした。走査速度を0.0417°/secとした。
【0056】
A×Bの値は、リチウムイオン二次電池10をSOCが0%から100%になるまで充電した際に、単位面積あたりの負極合剤層26が含む負極活物質の体積変化量(増加量)に対して正の相関を有する。また、A×Bの値は、リチウムイオン二次電池10をSOCが100%から0%になるまで放電した際に、単位面積あたりの負極合剤層26が含む負極活物質の体積変化量(減少量)に対して正の相関を有する。したがって、A×Bの値は、リチウムイオン二次電池10の充放電に伴う負極活物質の膨張、収縮によって負極板24から電解液が排出される量に対して正の相関を有する。すなわち、A×Bの値は、リチウムイオン二次電池10の充放電に伴う負極活物質の膨張、収縮によって負極板24から非水電解液が排出される程度を表す指標となる。
【0057】
電極体20の状態において、負極活物質の粒径(メジアン径D50)は、一例として、5μm以上30μm以下である。負極活物質の粒径が上記の範囲にある状態は、A×Bの値が、リチウムイオン二次電池10の充放電に伴う負極活物質の膨張、収縮によって負極板24から非水電解液が排出される量に対して正の相関を有する状態の一例である。
【0058】
Cの値は、リチウムイオン二次電池10において、SOCが0%から100%になるまで充電したときの電極体20に作用する積層方向D3の荷重の変化量〔N〕である。リチウムイオン二次電池10を充電した際には、負極合剤層26中の負極活物質が膨張することで電極体20に積層方向D3の荷重が作用する。すなわち、Cの値は、リチウムイオン二次電池10を充電した際に、負極活物質の膨張に伴って正極板21及びセパレータ27に作用する荷重である。Cの値は、例えば、2つの拘束板によって、リチウムイオン二次電池10とロードセルとを挟み込んだ状態で、SOC0%の状態からSOC100%の状態になるまで充電したときの荷重の変化をロードセルによって計測した値を用いて算出できる。
【0059】
Cの上限は、充放電に伴って正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量が過剰に多くなることを抑制する観点から、一例として、1700N以下、より好ましくは1699N以下である。また、Cの下限は、充放電に伴って正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量が過剰に少なくなることを抑制する観点から、一例として、1650N以上、より好ましくは1652N以上である。
【0060】
Dの値は、積層方向D3において、電極体20の1つの層を構成する正極板21のばね定数K1〔kN/mm〕の逆数と、電極体20の1つの層を構成するセパレータ27のばね定数K2〔kN/mm〕の逆数との和〔mm/kN〕である。
【0061】
正極板21のばね定数K1の値は、電極体20を形成する前の正極板21に対して、積層方向D3に所定の荷重を作用させたときの変位量から求めることができる。例えば、電極体20を形成する前の複数の正極板21を、正極側未塗工部22Aを含まないように55mm×90mmの大きさに切断した試料を65枚重ねた積層体に対して、積層方向D3に1500kgfの荷重を作用させる。そして、1000kgfから1500kgfまでの範囲における積層体の荷重に対する変位量から1枚あたりの正極板21のばね定数K1を求めてもよい。なお、例えば、正極合剤層23の量を変えること、もしくは、正極合剤層23の厚みを調整する際の押圧量を変えることで正極板21のばね定数K1を変えることができる。
【0062】
なお、セパレータ27のばね定数K2の値は、正極板21のばね定数K1の値と同様の考え方で算出することができる。例えば、電極体20を形成する前の複数のセパレータ27を55mm×90mmの大きさに切断した試料を130枚重ねた積層体に対して、積層方向D3に1500kgfの荷重を作用させる。そして、1000kgfから1500kgfまでの範囲における積層体の荷重に対する変位量から1枚あたりのセパレータ27のばね定数K2を求めてもよい。なお、セパレータ27の材質や空孔率(密度)を変えることでセパレータ27のばね定数K2の値を変えることができる。
【0063】
Dの下限は、充放電に伴って正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量が過剰に少なくなることを抑制する観点から、0.00011mm/kN以上、より好ましくは0.000113mm/kN以上である。Dの上限は、充放電に伴って正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量が過剰に多くなることを抑制する観点から、0.00012mm/kN以下、より好ましくは0.000117mm/kN以下である。
【0064】
C×Dの値は、充電時における負極活物質の膨張に伴って正極板21及びセパレータ27への荷重が作用することで、正極板21及びセパレータ27が積層方向D3に圧縮されたときの変位量に対して正の相関を有する。すなわち、C×Dの値は、充電時における正極板21及びセパレータ27の体積変化量(減少量)に対して正の相関を有する。したがって、C×Dの値は、充放電時に正極板21及びセパレータ27から非水電解液が排出される程度を表す指標となる。
【0065】
以上より、Eの値は、充放電時において、正極板21及びセパレータ27から非水電解液が排出される程度を表す指標であるC×Dに対する負極板24から非水電解液が排出される程度を表す指標であるA×Bの割合である。したがって、Eの値は、充放電に伴って負極板24から排出される非水電解液の量と、正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量とのバランスが適正か否かの指標となる。
【0066】
Eの値の下限は、0.48以上、好ましくは0.54以上、より好ましくは0.56以上である。Eの値を上記の下限以上とすることで、充放電に伴って負極板24から排出される非水電解液の量に対して正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量が過剰に多くなることを抑制できる。特に、Eの値が0.56以上であれば、充放電サイクル後の抵抗の増加を好適に低めることができる。Eの値の上限は、0.69以下、好ましくは0.68以下である。Eの値を上記の上限以下とすることで、充放電に伴って正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量に対して負極板24から排出される非水電解液の量が過剰に多くなることを抑制できる。
【0067】
[実施例]
以下、実施例1~4及び比較例1~3を用いてEの値に対する充放電サイクル後の抵抗増加率の関係について説明する。なお、以下の実施例は、上記実施形態の効果を説明するための一例であって、本発明を限定するものではない。
図11及び
図12中の表には、実施例1~4及び比較例1~3で用いた正極板21、負極板24、及びセパレータ27の材料及び物性値について、以下に列挙する項目を示す。
【0068】
正極板21について、正極合剤層23における正極活物質及び導電材の種類、正極基材22の各面における単位面積あたりの正極合剤層23が含む正極活物質の質量の和(mg/cm
2)、正極合剤層23の平均密度(g/cm
3)、並びに、正極板21の積層方向D3におけるばね定数K
1(kN/mm)を
図11に示す。負極板24について、負極合剤層26における負極活物質の種類、負極基材25の各面における単位面積あたりの負極合剤層26が含む負極活物質の質量の和(パラメータA、mg/cm
2)、SOCが0%から100%になるまで充電した際の負極活物質の格子体積変化量(パラメータB、nm
3)、及び、負極合剤層26の平均密度を
図11に示す。
図11中の表において、非晶質黒鉛1及び非晶質黒鉛2は、いずれも鱗片状の天然黒鉛を球形化処理した後、その表面を非晶質黒鉛によって被覆したものである。なお、非晶質黒鉛1は、粒子径(メジアン径D50)を11μmとした。非晶質黒鉛2は、粒子径(メジアン径D50)を7μmとした。
【0069】
セパレータ27について、セパレータ27の1枚あたりの厚さ、及び、セパレータ27の積層方向D3におけるばね定数K
2(kN/mm)を
図11に示す。また、パラメータC(N)、D(mm/kN)、A×B、C×D、Eの値、及び、充放電サイクルを経た後の実施例1~4及び比較例1~3の抵抗増加率を
図12に示す。
【0070】
なお、抵抗増加率を測定するために、25℃の環境下において、30Cの定電流充電によって10秒間充電を行った後、3Cの定電流放電によって100秒間放電を行うハイレート充放電サイクルを1600回繰り返した。このとき、充放電1サイクル後の抵抗値と、1600サイクル後の抵抗値とを測定した。そして、1サイクル後の抵抗値を基準としたときの1600サイクル後の抵抗値の増加率を抵抗増加率とした。また、抵抗値は、25℃の環境下で、電池をSOC60%の充電状態から30Cで放電を行ったときの放電開始から10秒後の電圧降下から算出した。
【0071】
[実施例1]
実施例1では、正極板21の積層方向D3におけるばね定数K1が12869kN/mmであった。負極板24において、Aの値が9.41mg/cm2、Bの値が0.014nm3であった。セパレータ27の積層方向D3におけるばね定数K2が25624kN/mmであった。また、Cの値が1661N、Dの値が0.000117mm/kN、A×Bの値が0.13、C×Dの値が0.194、Eの値が0.68であった。
【0072】
[実施例2]
実施例2では、正極板21の積層方向D3におけるばね定数K1が12869kN/mmであった。負極板24において、Aの値が9.41mg/cm2、Bの値が0.014nm3であった。セパレータ27の積層方向D3におけるばね定数K2が25624kN/mmであった。また、Cの値が1652N、Dの値が0.000117mm/kN、A×Bの値が0.13、C×Dの値が0.193、Eの値が0.68であった。
【0073】
[実施例3]
実施例3では、正極板21の積層方向D3におけるばね定数K1が13304kN/mmであった。負極板24において、Aの値が7.81mg/cm2、Bの値が0.014nm3であった。セパレータ27の積層方向D3におけるばね定数K2が25624kN/mmであった。また、Cの値が1699N、Dの値が0.000114mm/kN、A×Bの値が0.11、C×Dの値が0.194、Eの値が0.56であった。
【0074】
[実施例4]
実施例4では、正極板21の積層方向D3におけるばね定数K1が13497kN/mmであった。負極板24において、Aの値が7.26mg/cm2、Bの値が0.014nm3であった。セパレータ27の積層方向D3におけるばね定数K2が25624kN/mmであった。また、Cの値が1661N、Dの値が0.000113mm/kN、A×Bの値が0.10、C×Dの値が0.188、Eの値が0.54であった。
【0075】
[比較例1]
比較例1では、正極板21の積層方向D3におけるばね定数K1が10688kN/mmであった。負極板24において、Aの値が6.90mg/cm2、Bの値が0.014nm3であった。セパレータ27の積層方向D3におけるばね定数K2が25624kN/mmであった。また、Cの値が1704N、Dの値が0.000133mm/kN、A×Bの値が0.10、C×Dの値が0.226、Eの値が0.43であった。
【0076】
[比較例2]
比較例2では、正極板21の積層方向D3におけるばね定数K1が10688kN/mmであった。負極板24において、Aの値が6.90mg/cm2、Bの値が0.014nm3であった。セパレータ27の積層方向D3におけるばね定数K2が23929kN/mmであった。また、Cの値が1954N、Dの値が0.000135mm/kN、A×Bの値が0.10、C×Dの値が0.265、Eの値が0.36であった。
【0077】
[比較例3]
比較例3では、正極板21の積層方向D3におけるばね定数K1が12869kN/mmであった。負極板24において、Aの値が9.41mg/cm2、Bの値が0.014nm3であった。セパレータ27の積層方向D3におけるばね定数K2が25624kN/mmであった。また、Cの値が1602N、Dの値が0.000117mm/kN、A×Bの値が0.13、C×Dの値が0.187、Eの値が0.70であった。
【0078】
[評価]
図13に示すように、グラフ100中にプロットされた点P11~P14は、実施例1~4におけるEの値に対する抵抗増加率を表す。グラフ100中にプロットされた点P21~P23は、比較例1~3におけるEの値に対する抵抗増加率を表す。グラフ100中の曲線101は、複数の点P11~P14及び点P21~P23に基づく近似曲線であって、Eの値に対する抵抗増加率の変化を表す近似曲線である。
【0079】
Eの値が0.48以上0.69以下を満たす実施例1~4では、充放電サイクル後の抵抗増加率が1.09~1.12程度であった。特に、Eの値が0.56である実施例3において、充放電サイクル後の抵抗増加率が最も低い値となった。
【0080】
これに対して、Eの値が0.48未満である比較例1、2では、充放電サイクル後の抵抗増加率が1.19~1.20程度であった。すなわち、比較例1、2では、実施例1~4と比較して充放電サイクル後の抵抗増加率が高くなっていることが確認された。比較例1、2における抵抗増加率の増大は、充放電に伴って負極板24から排出される非水電解液の量が、正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量に対して少なかったことに起因する。
【0081】
また、Eの値が0.69超である比較例3では、充放電サイクル後の抵抗増加率が1.32程度であった。すなわち、比較例3では、実施例1~4と比較して充放電サイクル後の抵抗増加率が高くなっていることが確認された。比較例3における抵抗増加率の増大は、充放電に伴って正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量が、負極板24から排出される非水電解液の量に対して少なかったことに起因する。以上より、Eの値が0.48以上3.05以下の範囲内とすることで、充放電サイクル後の抵抗増加率が大きくなることを抑制できることが確認された。
【0082】
[実施形態の効果]
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)Eの値を適正な範囲内に収めることで、充放電に伴って負極板24から排出される非水電解液の量と、正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量とのバランスを適正に保つことができる。特に、Eの値が0.56以上であれば、充放電サイクルに伴うリチウムイオン二次電池10の抵抗の増加を好適に抑制できる。
【0083】
(2)Cの値が1700N以下、より好ましくは1699N以下であることで、充放電に伴って正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量が過剰に多くなることを抑制できる。Cの値が1650N以上、より好ましくは1652N以上であることで、充放電に伴って正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量が過剰に少なくなることを抑制できる。
【0084】
(3)Aの値が7.0mg/cm2以上、より好ましくは7.26mg/cm2以上であることで、充放電に伴って負極板24から排出される非水電解液の量が過剰に少なくなることを抑制できる。Aの値が10.0mg/cm2以下、より好ましくは9.41mg/cm2以下であることで、充放電に伴って負極板24から排出される非水電解液の量が過剰に少なくなることを抑制できる。
【0085】
(4)Dの値が0.00011mm/kN、より好ましくは0.000113mm/kN以上であることで、充放電に伴って正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量が過剰に少なくなることを抑制できる。Dの値が0.00012mm/kN以下、より好ましくは0.000117mm/kNであることで、充放電に伴って正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量が過剰に多くなることを抑制できる。
【0086】
[変更例]
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・充放電に伴って負極板24から排出される非水電解液の量に対して、正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量とのバランスを適正に保つことができるのであれば、Cの値、及び、Dの値は限定されない。例えば、Cの値が1650N未満であってもよく、Cの値が1700N超であってもよい。例えば、Dの値が0.00011mm/kN未満であってもよく、Dの値が0.00012mm/kN超であってもよい。
【0087】
・充放電に伴って正極板21及びセパレータ27から排出される非水電解液の量に対して、負極板24から排出される非水電解液の量とのバランスを適正に保つことができるのであれば、Aの値は限定されない。例えば、Aの値が7.0mg/cm2未満であってもよく、Aの値が10.0mg/cm2超であってもよい。例えば、Bの値が0.013nm3未満であってもよく、Bの値が0.016nm3超であってもよい。
【0088】
・Eの値が0.48以上0.69以下の範囲内であれば、その数値は限定されず、例えば、Eの値が0.48以上0.56未満であってもよい。
・電極体20は、捲回体ではなく、正極板21と負極板24とをセパレータ27を介して積層した積層体をケース11に収容したものであってもよい。
【0089】
・リチウムイオン二次電池10は、他の非水二次電池であってもよく、例えば、ニッケル水素蓄電池であってもよい。
・リチウムイオン二次電池10は、自動搬送機や荷役用の特殊自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車等の他、コンピュータ、その他の電子機器に搭載されるものであってもよく、これ以外のシステムを構成するものであってもよい。例えば、船舶、航空機等の移動体に設けられるものであってもよく、発電所から変電所等を介して二次電池が設置されたビルや家庭等に電力を供給する電力供給システムであってもよい。
【符号の説明】
【0090】
D3…積層方向
10…リチウムイオン二次電池
11…ケース
20…電極体
21…正極板
22…正極基材
23…正極合剤層
24…負極板
25…負極基材
26…負極合剤層
27…セパレータ