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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077134
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】植生マットの施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20240531BHJP
   E02B 3/12 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
E02D17/20 102B
E02B3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188998
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000231431
【氏名又は名称】日本植生株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592180627
【氏名又は名称】プリード湯谷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】藤原 壮一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 遥香
(72)【発明者】
【氏名】遠山 宏一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 祐季
(72)【発明者】
【氏名】湯谷 豊
【テーマコード(参考)】
2D044
2D118
【Fターム(参考)】
2D044DA12
2D118AA05
2D118AA24
2D118BA07
2D118BA14
2D118CA07
2D118DA01
2D118FA06
2D118FB33
2D118GA33
(57)【要約】
【課題】越流水による裏法の浸食や洗掘の軽減・防止と、裏法の緑化とを図ることができる植生マットの施工方法を提供すること。
【解決手段】ネット材2に不織布1及び芝3aを一体化して構成した植生マットDを堤防の裏法に複数並べて敷設する。隣接する植生マットDの芝3aどうしが突き合わさるようにする。ネット材2に不織布1及び芝3aが一体化されている主体部4と、主体部4の周縁から張り出し、主体部4より薄い張出部5とを有し、隣接する二つの植生マットDの一方の張出部5が他方の主体部4の下側に敷き込まれるように設置する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネット材に不織布及び芝を一体化して構成した植生マットを堤防の裏法に複数並べて敷設する植生マットの施工方法。
【請求項2】
隣接する植生マットの芝どうしが突き合わさるようにする請求項1に記載の植生マットの施工方法。
【請求項3】
前記植生マットは、ネット材に不織布及び芝が一体化されている主体部と、主体部の周縁から張り出し、主体部よりも薄い張出部とを有し、
隣接する二つの植生マットの一方の張出部が他方の主体部の下側に敷き込まれるように設置する請求項1又は2に記載の植生マットの施工方法。
【請求項4】
法長方向に隣接する二つの植生マットにつき、法尻側の植生マットの張出部が法肩側の植生マットの主体部の下側に敷き込まれた状態となるように設置する請求項3に記載の植生マットの施工方法。
【請求項5】
前記主体部を構成する前記ネット材及び前記不織布は前記張出部へ延在している請求項4に記載の植生マットの施工方法。
【請求項6】
堤防の天端部に差し込み状態で固定した補強用ネットを法肩付近の植生マットに連結する請求項5に記載の植生マットの施工方法。
【請求項7】
補強用ネットを法肩付近の植生マットに対してその上方から被せた状態で連結し、
補強用ネットにおいて、堤防の天端部への差し込み長さを、法肩付近の植生マットへの被せ長さより大きくする請求項6に記載の植生マットの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、河川堤防の裏法の浸食防止のために行う植生マットの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川の増水時に河川水が堤防の天端91を越流した場合、その越流水92により堤防の裏法尻部93が洗掘され(図10(A))、その後、越流水により裏法94の浸食が進むと(図10(B))、破堤する(図10(C))ことが知られている。
【0003】
このようにして生じる破堤の対策としては、越流水92による裏法94(裏法尻部93を含む)の浸食や洗掘の軽減・防止が有効である。例えば、特許文献1の堤防補強装置は、堤内地側法面を合成樹脂製の遮水シートで覆うことにより、上記の浸食や洗掘の軽減・防止を図ろうとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-168571号公報
【特許文献2】特開2021-38642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の堤防補強装置では、裏法94の緑化を図ることが困難であり、景観美観性や環境保護等の面で改善の余地がある。
【0006】
一方、本出願人は、特許文献2に示すように、植生マットの施工方法を先に提案している。しかし、この施工方法は、斜面や平地の緑化に広く用いることを想定したものであり、越流水の影響を受ける可能性のある堤防の裏法への適用に特化したものではない。
【0007】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、越流水による裏法の浸食や洗掘の軽減・防止と、裏法の緑化とを図ることができる植生マットの施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る植生マットの施工方法は、ネット材に不織布及び芝を一体化して構成した植生マットを堤防の裏法に複数並べて敷設する(請求項1)。
【0009】
上記植生マットの施工方法において、隣接する植生マットの芝どうしが突き合わさるようにしてもよい(請求項2)。
【0010】
上記植生マットの施工方法において、前記植生マットは、ネット材に不織布及び芝が一体化されている主体部と、主体部の周縁から張り出し、主体部よりも薄い張出部とを有し、隣接する二つの植生マットの一方の張出部が他方の主体部の下側に敷き込まれるように設置してもよい(請求項3)。
【0011】
上記植生マットの施工方法において、法長方向に隣接する二つの植生マットにつき、法尻側の植生マットの張出部が法肩側の植生マットの主体部の下側に敷き込まれた状態となるように設置してもよく(請求項4)、前記主体部を構成する前記ネット材及び前記不織布は前記張出部へ延在していてもよい(請求項5)。
【0012】
上記植生マットの施工方法において、堤防の天端部に差し込み状態で固定した補強用ネットを法肩付近の植生マットに連結してもよい(請求項6)。
【0013】
上記植生マットの施工方法において、補強用ネットを法肩付近の植生マットに対してその上方から被せた状態で連結し、補強用ネットにおいて、堤防の天端部への差し込み長さを、法肩付近の植生マットへの被せ長さより大きくしてもよい(請求項7)。
【発明の効果】
【0014】
本願発明では、越流水による裏法の浸食や洗掘の軽減・防止と、裏法の緑化とを図ることができる植生マットの施工方法が得られる。
【0015】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の植生マットの施工方法では、越流水による裏法土壌の吸い出しを不織布が阻止するように植生マットを裏法に敷設することにより、裏法の浸食や洗掘の軽減・防止を図ることができる。また、芝は合成樹脂製の遮水シート等に比べて表面の粗度が大きいため、この芝が表側を向くように植生マットを裏法に敷設することにより、越流水の初期の流下速度を低減することができ、ひいては裏法土壌の吸い出しや裏法尻部の洗掘を軽減・防止することができる。しかも、裏法に敷設した植生マットの芝により、裏法の緑化をも図ることができる。そして、上記植生マットでは、不織布及び芝が流亡しないようにこれらをネット材によって保持することができ、このネット材に適宜の目合いを持たせておくことにより、芝の成長を阻害しないようにすることも容易である。
【0016】
裏法に並べて敷設した複数の植生マットの継ぎ目となる箇所に凹部が存在すると、その凹部に流れ込んだ越流水が植生マットを裏法から引き抜くように作用し、植生マットが流亡し易くなるが、請求項2に係る発明の植生マットの施工方法では、隣接する植生マットの芝どうしが突き合わさるようにするので、植生マットの継ぎ目となる箇所に凹部が形成され難くなり、植生マットの継ぎ目が植生で覆われるのを待たずして施工直後から植生マットの流亡防止を図ることができる。
【0017】
隣接する二つの植生マットの主体部の間に隙間が生じると、その隙間において越流水による洗掘や吸い出しが発生する恐れがあるが、請求項3に係る発明の植生マットの施工方法では、そうした隙間を無くし、越流水による洗掘や吸い出しの発生を軽減・防止することができる。また、張出部を主体部よりも薄くしてあることにより、下側に張出部が敷き込まれた主体部と敷き込まれていない主体部とが並ぶことによってその境界に形成される段差を小さくし、その段差による悪影響を抑えることができる。
【0018】
請求項4に係る発明の植生マットの施工方法では、法肩側の植生マットの主体部を、法尻側の植生マットの張出部に上方から重ね合わせるので、河川水が河川堤防の天端を越流した際、植生マットの端縁は越流水に逆らわず、越流水がスムーズに流れるのであって、植生マットの流亡が効果的に防止される。
【0019】
請求項5に係る発明の植生マットの施工方法では、隣接する二つの植生マットの一方の張出部が他方の主体部の下側に敷き込まれるように設置した際、二つの植生マットの一方の主体部を構成する不織布と他方の主体部を構成する不織布とをオーバーラップさせ、芝どうしの突き合わせ部からの吸い出し防止機能を高めることができる。そのため、芝の端部がきれいな直線形状になっておらず、部分的に突き合わさっていない場合でも、その隙間から吸い出しが発生することを防ぐことが期待される。
【0020】
裏法に並べて敷設する複数の植生マットのうち、最も法肩側にある法肩付近の植生マットと、この植生マットの法肩側にある堤防の天端部とは、粗度係数が大きく異なっていたり、両者の間に比較的大きな凹凸(段差)が形成されたりすることが多く、この場合、法肩付近の植生マットが越流水によって流亡し易くなると考えられる。しかし、請求項6に係る発明の植生マットの施工方法では、補強用ネットを法肩付近の植生マットに連結するので、法肩付近の植生マットの流亡の危険性を低減することができる。
【0021】
請求項7に係る発明の植生マットの施工方法では、補強用ネットを堤防の天端部に十分深く差し込むので、法肩付近の植生マットの抜け落ち防止の確実化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施の形態に係る植生マットの施工方法を概略的に示す説明図である。
図2】前記植生マットの施工方法に用いる植生マットの構成を示す斜視図である。
図3】前記植生マットとその製造方法の構成を概略的に示す斜視図である。
図4】(A)~(D)は前記植生マットの製造方法(標準生産方式)の構成を概略的に示す説明図、(E)~(G)は前記植生マットの製造方法の変形例(新生産方式)の構成を概略的に示す説明図である。
図5】(A)及び(B)は、前記植生マットの施工方法の全体構成及び要部構成を概略的に示す縦断面図である。
図6】(A)~(C)は、比較例に係る植生マットの施工方法の施工手順を示す平面図、(D)は同縦断面図、(E)は施工後の裏法における越流水の流れ方を示す説明図である。
図7】(A)~(C)は、本発明の一例に係る植生マットの施工方法の施工手順を示す平面図、(D)は同縦断面図、(E)は施工後の裏法における越流水の流れ方を示す説明図である。
図8】(A)は試験装置の全体を概略的に示す説明図、(B)は試験装置の水路の縦断面図、(C)は試験装置の略全体を示す写真、(D)は供試体の通水状況を示す写真、(E)は試験装置の供試体よりも上流側における通水状況を示す写真である。
図9】(A)は比較例の植生マットの設置方法の説明図、(B)及び(C)は試験前後の比較例における植生マットの継ぎ目の状況を示す写真、(D)は本例の植生マットの設置方法の説明図、(E)及び(F)は試験前後の本例における植生マットの継ぎ目の状況を示す写真である。
図10】(A)~(C)は、破堤が生じるプロセスを示す説明図である。
図11】(A)及び(B)は、本例及び変形例に係る植生マットの連結部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0024】
本実施の形態に係る植生マットの施工方法は、図1に示す河川堤防(堤防の一例)の裏法N1に、図2に示す植生マットDを上下左右に複数並べて敷設するものである。
【0025】
植生マットDは、たとえば平面視が1000mm×3000mmの長方形状のものや、2000mm×2000mmの正方形状のものであって、下面に不織布1が配置された可撓性を有するネット材2に芝生マット3を一体化させて成るものである(図2参照)。
【0026】
不織布1は、平面視がほぼ矩形状で、化学繊維目付量が30~80g/m2 となるように形成された部材であり、耐久性、耐腐食性に富む素材であるポリエステル繊維、やしマットなどを用いてスパンレース製法により形成されている。
【0027】
ネット材2は、平面視において不織布1とほぼ同じ形状であり、かつ幅1m当たりの引っ張り強度が30~80kN程度で、目合いが5~10×5~10mm程度となるように形成されている。ネット材2は、耐久性に富む繊維、たとえばナイロンやポリエステル、アラミド、カーボン、ポリアセタールなどの繊維を用いて、格子状に成形したものであるが、上記の繊維による線条を用いて、上記と同様の目合いの網状体に編組したものにしてもよい。本例のネット材2は、基布をポリエステル系、被覆材をアクリル系熱硬化樹脂とするジオテキスタイルネットである。
【0028】
芝生マット3は、複数の芝3aと、芝3aの根によって保持される土3bとからなる。
【0029】
植生マットDは、ネット材2に不織布1及び芝生マット3(芝3a)が一体化されている主体部4と、この主体部4の周縁から張り出し、主体部4よりも薄い張出部5とからなる。本例では、主体部4を構成する不織布1及びネット材2は主体部4の外側(張出部5側)へ延在し、この延在する部分によって張出部5を構成してある。なお、張出部5は、その全体にわたってネット材2を含むことが好ましく、不織布1を含んでいても含んでいなくても(ネット材2に不織布1が一体化されていてもいなくても)よい。
【0030】
但し、植生マットDの継ぎ目からの吸い出し防止という観点からは、隣り合う植生マットDの不織布1どうしに重なり代を設けることが望ましく、例えば、芝生マット3の下側にある不織布1がわずかながらでも張出部5方向へ延在していればよく、この際、不織布1は張出部5の端部まで(張出部5全面に)延在している必要はない。そして、上記のような重なり代を設ければ、隣接する二つの植生マットDの一方の張出部5が他方の主体部4の下側に敷き込まれるように設置した際、二つの植生マットDの一方の主体部4を構成する不織布1と他方の主体部4を構成する不織布1とをオーバーラップさせ、芝3aどうしの突き合わせ部からの吸い出し防止機能を高めることができる。そのため、芝3aの端部がきれいな直線形状になっておらず、部分的に突き合わさっていない場合でも、その隙間から吸い出しが発生することを防ぐことが期待される。
【0031】
張出部5は、植生マットDの幅方向片側に形成された、たとえば150mm幅の周縁部分5aと、植生マットDの長手方向の一方に形成された、たとえば100mm幅の周縁部分5bとからなる。
【0032】
植生マットDは、以下のようにして製造される。すなわち、まず、図4(A)に示すように、圃場6に不織布1を敷設した後、この不織布1の上に可撓性を有するネット材2を重ね(図4(B))、このネット材2の上から別途圃場6で生育させた芝生マット3を敷き詰める(図4(C))。そして、芝3aの根が不織布1およびネット材2に絡まった段階で(図4(D))、不織布1の下側に伸びた芝3aの根を切断しつつ、ネット材2を不織布1ごと圃場6から剥がし取ることで、植生マットDの製造が完了する(図3参照)。
【0033】
なお、上記の植生マットDの製造方法において、植生マットDの製造開始時にネット材2の周辺部に角材K(図3参照)などを配置し、植生マットDの製造が完了した段階で、この角材Kなどを取り出すようにすれば、植生マットDに、芝生マット3が形成されない張出部5を設けることができる。
【0034】
また、上記の角材Kなどの配置を省略して、植生マットD製造後に芝生マット3の周辺部を崩し取ったり刈払機等でネット材2が見えるようになるまで削り取ったりすることで、張出部5を形成するようにしてもよい。このとき、ネット材2の主として下面側には不織布1に絡んだ芝3aの根や地下茎(根茎)、場合によっては匍匐茎が存在することもあり、つまりは張出部5に芝3aが含まれることもあり得る。そして、不織布1に絡んだ芝3aを取り除こうとすると不織布1が破損する恐れがあり、生産性の低下も懸念される。このような理由から、植生マットDの敷設に支障を来さない範囲で張出部5に芝3aを含ませるようにしてもよい。
【0035】
上記の構成からなる植生マットDの製造方法によれば、植生マットDの下面に不織布1が形成されていることから、植生マットDの下方へ進入する芝3aの根の量が、不織布1を設けない場合に比べて少なくなり、圃場6から植生マットDを剥がし取るという作業を、より小さな力で行うことが可能となる。
【0036】
なお、植生マットDのネット材2に対する不織布1の装着は、芝生マット3の芝3aの根を不織布1およびネット材2に絡ませることによって行うことができるが、これに加えて、たとえば紐や接着剤などを用いて装着するようにしてもよい。
【0037】
植生マットDの製造方法は上記の構成に限るものではなく、たとえば以下に示す構成としてもよい。すなわち、まず、圃場6に不織布1を敷設した後、この不織布1の上に可撓性を有するネット材2を重ね、ネット材2の上から芝3aのランナーを植えて覆土を施し、芝3aの根が不織布1およびネット材2に絡まり、前記ランナーが芝生マット3に育成した段階で、不織布1の下側に伸びた芝3aの根を切断しつつ、ネット材2を不織布1ごと圃場6から剥がし取るようにしてもよい。
【0038】
また、さらに他の植生マットDの製造方法として、不織布1を適宜たとえば作業台上に展開させて、この上に可撓性を有するネット材2を重ね、さらにこの上に芝生マット3を配置し、この三者をステイプルなどによる結束や、その他、縫製などの連結手段(ともに図示せず)によって一体化させることによっても、植生マットDを得ることができる。
【0039】
この製造方法によれば、不織布1およびネット材2には芝生マット3の芝3aの根が絡まっていないものの、この三者が連結手段によって一体化されていることから、植生マットDの敷設に際して、隣接する植生マットDの一方の主体部4と他方の張出部5の重ね合わせ部にアンカー部材を打設することで、実質的に芝生マット3を、不織布1およびネット材2を介して法面に強固に張り付けることができるのであり、やがては時を経て、芝生マット3の芝の根が不織布1およびネット材2に絡みつつ、法面に根張りするのであって、この製造方法によれば、予め生育させた芝生マット3を用いることに加えて、芝生マット3の不織布1およびネット材2への根絡みを待つ必要がないことから、その時間分、植生マットDの製造時間をさらに短縮することができる。
【0040】
図4(A)~(D)に示す植生マットの製造方法では、上述のように、芝3aの根が不織布1およびネット材2に絡まった段階で(図4(D))、不織布1の下側に伸びた芝3aの根を切断しつつ、ネット材2を不織布1ごと圃場6から剥がし取るのであり、その後の圃場6には、図4(E)に示すように、芝3aの根茎が存在する。そこで、この状態の圃場6を利用して新たに植生マットDを製造することも可能である。以下、この製造方法を新生産方式と呼び、図4(A)~(D)に示す植生マットの製造方法を標準生産方式と呼んで、両者の違いを含めた新生産方式の説明を行う。
【0041】
この新生産方式では、図4(E)に示す状態の圃場6に、図4(F)に示すように、不織布1を敷設し、その上から土(目土)3bを掛け(目土かけ又は覆土を行い)、さらにその上にネット材2を敷設し(図4(G))、図外の固定部材(目串等)で圃場6にネット材2を固定する。この場合も、芝3aが育って不織布1およびネット材2に十分に絡まった段階で、不織布1の下側に伸びた芝3aの根を切断しつつ、ネット材2を不織布1ごと圃場6から剥がし取ることで、植生マットDの製造が完了する。
【0042】
ここで、仮に、圃場6に残った芝3aの根茎から成長した茎葉によって比較的軽量な不織布1が持ち上げられてしまうと、芝3aが不織布1にもネット材2にも絡まず、植生マットD全体の一体性が不十分となる。そこで、不織布1の上側に掛ける土3bからなる層に所定の厚み(例えば10~20mm程度)を持たせ、不織布1の持ち上がりを防ぐ重石となるようにするのであり、これにより、圃場6に残った芝3aの根茎から成長した茎葉が不織布1を貫いて通過し易くすることができ、さらにはその茎葉が不織布1やネット材2にしっかりと絡んで植生マットD全体の一体性が高まり易くなる。また、こうして不織布1とネット材2との間に土3bを挟むように構成しておけば、不織布1やネット材2に絡んだ芝3aによって土3bが良好に保持され、完成した植生マットDを川裏側に施工し、その上を越流水が通過する際、土3bが流亡しづらくなるというメリットもある。
【0043】
不織布1に掛ける土(目土)3bには、シラス、ベントナイト等の保水効果のあるものを土壌改良材として混合しておくことが芝3aの生育という観点からは望ましい。なお、この土3bの成分、配合、厚みを変えていくことで、植生マットDとしての透水度(透水係数)をコントロールできるため、各河川護岸に求められる透水係数に応じた製品を製造することも可能となる。
【0044】
そして、図4(A)~(D)に示す標準生産方式では、別の圃場で生育した芝3aを剥ぎ取って、植生マット製造用の圃場6まで運搬する手間が掛かるが、新生産方式ではこうした手間が省け、一つの圃場6で植生マットDの製造が可能となり、つまりは標準生産方式の半分の圃場面積で植生マットDを製造することが可能となる。
【0045】
新生産方式では、上述のように植生マットDを剥がし取った後に圃場6に残存する芝3aの根茎を利用するが、その生育が芳しくなく、時間が掛かり、品質も良くないという場合もあるため、図4(E)に示す状態の圃場6の表面に、図4(F)に示すように不織布1、土3b等を配する前に、別途用意したほぐし芝(匍匐茎を細断したもの)を配置するようにしてもよい。こうすることで、匍匐茎の分けつによる旺盛な繁殖が期待でき、植生マットD剥ぎ取り後に圃場6に残った根茎のみに頼る標準生産方式に比べ、芝3aの生えムラ等の不具合の発生の低減の点で有利となり得る。具体的には、以下の(A)や(B)のような配置方法を採用することが考えられる。
【0046】
(A)図4(E)に示す状態の圃場6(芝3aの根茎が残存する圃場6)の表面に小型管理機等を用いて直線状に延びる開口幅5cm程度、深さ数センチ(2~3cm)程度のV溝を例えば20~30cm間隔で縞状に形成し、各V溝の中にほぐし芝をその長手方向に連続的に埋め覆土していく。この配置方法を採用した場合、やがてV溝間の領域は圃場6に残存する芝3aの根茎から生まれる茎葉や、新たに投入されたほぐし芝の匍匐茎によって埋まり一面芝となる。
【0047】
(B)図4(E)に示す状態の圃場6(芝3aの根茎が残存する圃場6)の表面全体にほぐし芝を撒き、次いで耕うん機で5cm程度薄く圃場6表面を耕耘しながら、ほぐし芝をすき込むことで残存根茎と新たに撒いたほぐし芝とが略均一に分布する新たな表土層を圃場6に形成したのち転圧する。この配置方法を採用した場合も圃場6はやがて一面芝となる。
【0048】
図4(A)~(D)に示す標準生産方式では、基本的に主に芝3aの根がネット材2と不織布1とに絡むことにより、植生マットDとして一体化がなされるが、上記(A)や(B)の配置方法を採用した新生産方式では、(1)芝3aの根よりも強固な匍匐茎がネット材2と不織布1に絡むうえ、さらに、(2)圃場6から剥がし取って得られる植生マットDに含まれる芝3aの根の量をより多くすることが可能となる。このため、(1)植生マットDの一体性が飛躍的に向上し耐久性と吸い出し防止性に優れる、(2)施工後の植生マットDが河川裏法面の地に圧倒的に多くの根を張ることが可能となり、その緊縛力により河川裏法面の表層部をより強固なものにすることができる、といった効果が得られる。
【0049】
上述した新生産方式では、芝3aの根茎が一部残った圃場6を利用しているが、これに限らず、例えば、芝3aの根茎が存在しない圃場にほぐし芝を撒き、その圃場を利用するようにしてもよい。
【0050】
裏法に植生マットDを施工する際は、隣接する植生マットDの一方の主体部4と他方の張出部5の重ね合わせ部にアンカー部材や連結部材を打設するのであり、張出部5は、隣り合う植生マットDのいわば接合部となる部分であり、強化しておくことが望ましい。この強化例としては、張出部5を構成する不織布1及びネット材2のうち、不織布1を、主体部4を構成する不織布1の化学繊維目付量(30~80g/m2 )よりも大なるもので構成することや、ネット材2の目合いを、主体部4を構成する部分より小さくすること、張出部5で不織布1あるいはネット材2を二重以上に設けることが考えられる。
【0051】
次に、植生マットDの施工方法について、図1および図5を用いて説明する。なお、図1において、Rは、河川堤防の川表側において河川水が流れる方向である。河川堤防の裏法N1に植生マットDを施工するには、まず、図1に示すように、裏法尻部(堤脚部となる部分)を適宜掘削して、その掘削部分に、たとえばカゴマット7の張り工法を実施(その他、捨て石やフトンカゴの敷設も好適である。)する。
【0052】
この際、カゴマット7の下側に、上記のネット材2と同様のネット材(補強用ネットの一例)8を適宜の幅にわたって敷き込んで、その上辺部を、カゴマット7の上部の裏法N1側に例えば1m程度の長さを持つように突出させておく。
【0053】
一方、図5(A)及び(B)に示すように、河川堤防の天端部には、下側から、砕石層Sと舗装Hとを設けるのであり、舗装Hは路盤層H1の上にアスファルト層H2を構築した構造を有する。また、河川堤防の裏法N1側の法肩部分(天端部から裏法N1にかけての部分)には法肩保護工を施すのであり、本例の法肩保護工は、例えばコンクリート2次製品であるブロック状の保護部材GをR方向(図1参照)に連結する構成としてある。
【0054】
保護部材Gは、図5(A)及び(B)に示すように、長方形の一つの角を面取りして傾斜面部G1を有するようにした縦断面視形状を呈する部材である。ここで、河川堤防の天端を河川水が越流する場合、水平な天面部G2の裏法N1側の端部で最も流速変化が起こり易く洗掘が生じ易いが、本例の保護部材Gでは上記のように天面部G2の裏法N1側に傾斜面部G1を連ねて設け、洗掘の発生を抑えるようにしてある。
【0055】
そして、砕石層Sの下側及び保護部材Gの下側に、上記のネット材2と同様のネット材(補強用ネットの一例)9を、その裏法N1側の突出辺部9a(図5(B)参照)を突出させて埋設しておく。
【0056】
そして、周縁部分5a(図2参照)を上流側(図1参照)に、周縁部分5b(図2参照)を法肩(天端部)側に向けた状態の植生マットDを、裏法N1の下流側から上流側に向けてかつ法尻側から法肩側に向けて複数張設する。
【0057】
このとき、裏法N1の最も法尻側(法尻付近)に配置される植生マットDについては、カゴマット7の下側に敷き込まれたネット材8から突出させた上辺部を、その上方から重ね合わせて、この両者にネットピン(アンカー部材の一例)10、例えば合成樹脂製の杭(アンカー部材の他の例)11等を適宜打設する(図5(A)参照)。ネットピン10としては、例えば根元付近に返し構造を有する複数(例えば四つ)の差し込み部が一列に設けられたものを用いることができる。
【0058】
また、裏法N1の最も法肩側(法肩付近)に配置される植生マットDについては、砕石層S及び保護部材Gの下側に敷き込まれたネット材9から突出させた突出辺部9aを、その上方から重ね合わせて、この両者にネットピン10、杭11等を適宜打設する(図5(A)及び(B)参照)。なお、植生マットDの長さ寸法の関係で、植生マットDの上端が突出辺部9aを越える場合は、例えばネット材2を切断するなどして、植生マットDの長さ寸法を調整すればよい。
【0059】
一方、裏法N1の法長方向(法尻から法肩、あるいは法肩から法尻に向かう方向)に隣り合う(隣接する)植生マットDについては、法尻側の植生マットDの張出部5の上側部分(周縁部分5b)に、法肩側の植生マットDの主体部4を上方から重ね合わせて、その重ね合わせた部分にネットピン10を打設する(図7(A)~(E)参照)。ネットピン10打設の際、法肩側の植生マットDの芝生マット3の芝3aの一部をネット材2から削り取って穴を空け、その穴にネットピン10等の連結部材を打設し、ネット材2どうしを連結してもよいし(この場合、穴は芝3aのランナーによってやがて覆われる)、法肩側の植生マットDの芝生マット3をネット材2から部分的に引き剥がして捲り上げ、この状態でネットピン10を打設し、その後、捲り上げていた芝生マット3をその上から被せるようにしてもよい。
【0060】
同様に、裏法N1の下流側(図1参照)から上流側(図1参照)に向けて複数の植生マットDを敷設するに際しては、下流側の植生マットDの周縁部分5aに、上流側の植生マットDの主体部4を上方から重ね合わせ、その重なり部分にネットピン10等の連結部材を打設する。
【0061】
上記の植生マットDの施工方法によれば、その施工方法に用いる植生マットDは、芝生マット3の強い表層根茎が不織布1およびネット材2に強固に絡んだ保形性の高い植生マットDであって、隣り合う植生マットDを重ね合わせて、ネットピン10、杭11等で裏法N1に固定することから、実質的に四側辺が互いに連結された芝生マット3を、不織布1およびネット材2を介して裏法N1に強固に張り付けることができるのであり、そして、芝生マット3は時を経て裏法N1に強固に根張りすることになる。
【0062】
従って、裏法N1全体の均一な緑化植生を期することができる上に、たとえば植生マットDの施工直後に河川水が河川堤防の天端を越流したとしても、植生マットDは、その越流水によって簡単に崩れたり剥がれたりしないのであって、施工直後から裏法N1の保護機能を発揮するのであり、景観上で優れることはもちろん、越流水による裏法N1の浸食や洗掘も効果的に軽減・防止されるのである。
【0063】
特に、隣り合う植生マットDにつき、法肩側ならびに上流側の植生マットDの主体部4を、法尻側ならびに下流側の植生マットDの張出部5に上方から重ね合わせているので、河川水が河川堤防の天端を越流した際、植生マットDの端縁は越流水に逆らわず、越流水がスムーズに流れるのであって、植生マットDの流亡が効果的に防止される。
【0064】
また、植生マットDの下面には、不織布1が形成されており、この不織布1は、芝生マット3と同様に、増水時などの流水による植生マットDの裏側からの土の吸い出しを防止する吸出し防止効果を有している。このため、たとえば施工当初において芝3aの生育が不十分であることが原因で芝3aの欠損箇所が生じたり、施工後における雑草の侵入(芝生が株状の植物に置換されることを含む)や芝3aの衰退により芝3aの欠損域が拡大したりすることなどによって、植生マットDに芝生マット3が欠落した部分が生じたとしても、前記不織布1が、その部分から土が吸い出されることを防止し、欠落した芝3aの機能を補完することができる。さらに、芝生マット3が形成されない張出部5や植生マットDのつなぎ目の部分の下側から土や砂が吸い出されることも、不織布1によって防止することが可能となる。
【0065】
また、張出部5にも不織布1を設けることで、芝生マット3どうしを突き合わせる際、芝生マット3の端部が直線状になっておらず、芝生マット3どうしに隙間が生じている場合であっても、その隙間から土が吸い出されることを防止することが可能となる。
【0066】
さらに、芝3aの根茎が残存する圃場6にほぐし芝をも配置して植生マットDを得る新生産方式を用いる場合は、ネット材2と不織布1とが匍匐茎によって強固に一体化されるため、植生マットD全体としての吸い出し防止効果もより向上したものとなる。
【0067】
なお、上記の吸出し防止効果を得るために、不織布1は、裏法N1を形成する土や砂などを通しにくく、かつ芝生マット3の芝3aの根茎をある程度通す複数の穴もしくは隙間を有するものが望ましい。
【0068】
さらに、不織布1が土や砂を通さないことから、施工後の植生マットDに対して周囲から飛散侵入してきた雑草の成長を抑制、妨害し、ひいては雑草の侵入を防止することができる。
【0069】
また、芝生マット3(芝3a)は合成樹脂製の遮水シート等に比べて表面の粗度が大きいため、この芝が表側を向くように植生マットDを裏法N1に敷設することにより、越流水の初期の流下速度を低減することができ、ひいては裏法土壌の吸い出しや裏法尻部の洗掘を軽減・防止することができる。
【0070】
そして、本例の植生マットDでは、不織布1及び芝生マット3(芝3a)が流亡しないようにこれらをネット材2によって保持することができ、このネット材2に適宜の目合いを持たせておくことにより、芝3aの成長を阻害しないようにすることも容易である。
【0071】
ここで、裏法N1に並べて敷設した複数の植生マットDの継ぎ目となる箇所に凹部(図6(E)参照)が存在すると、その凹部に流れ込んだ越流水が植生マットを裏法から引き抜くように作用し、植生マットが流亡し易くなるが、本例では、隣接する植生マットDの芝生マット3どうしが突き合わさるようにするので、植生マットDの継ぎ目となる箇所に凹部が形成され難くなり、ひいては植生マットDの流亡防止を図ることができる。
【0072】
また、隣接する二つの植生マットDの主体部4の間に隙間が生じると(図6(E)参照)、その隙間において越流水による洗掘や吸い出しが発生する恐れがあるが、本例の植生マットの施工方法では、そうした隙間を無くし、越流水による洗掘や吸い出しの発生を軽減・防止することができる。しかも、張出部5を主体部4よりも薄くしてあることにより、下側に張出部5が敷き込まれた主体部4と敷き込まれていない主体部4とが並ぶことによってその境界に形成される段差を小さくし、その段差による悪影響を抑えることもできる。
【0073】
裏法N1に並べて敷設する複数の植生マットDのうち、最も法肩側にある法肩付近の植生マットDと、この植生マットDの法肩側にある堤防の天端部とは、粗度係数が大きく異なっていたり、両者の間に比較的大きな凹凸(段差)が形成されたりすることが多く、この場合、法肩付近の植生マットDが越流水によって浸食、流亡し易くなると考えられる。しかし、本例の植生マットの施工方法では、ネット材9を法肩付近の植生マットDに連結するので、法肩付近の植生マットDの流亡の危険性を低減することができる。なお、このことは、ネット材8に連結した法尻付近の植生マットDについても同様である。
【0074】
また、本例の植生マットの施工方法では、ネット材9を法肩付近の植生マットDに対してその上方から被せた状態で連結し、ネット材9において、堤防の天端部への差し込み長さを、法肩付近の植生マットDへの被せ長さより大きくするのであり、このようにネット材9を堤防の天端部に十分深く差し込むことで引き抜かれにくくなっているので、法肩付近の植生マットDの抜け落ち防止の確実化を図ることができる。なお、このことは、法尻付近の植生マットDの抜け落ち防止のために設けたネット材8についても同様である。但し、法肩側のネット材9と法尻側のネット材8とでは、その設置の仕方(向き等)に違いがあり、越流水の力により引っ張られて引き抜かれてしまう可能性は法肩側のネット材9の方が高いことから、法肩側のネット材9は法尻側のネット材8より深く差し込むのが好ましい。
【0075】
さらに、図5(B)に示すように、ネット材9は、保護部材Gに敷き込まれる部分から砕石層Sに向かって折れ曲がった状態で固定されており、真っすぐの状態で固定されている場合に比べ、越流水(せん断力)によって引き抜かれにくくなっている。
【0076】
上記のように、本例の植生マットの施工方法では、ネット材9によって法肩付近の植生マットDの少なくとも上流部を覆い、ネット材8によって法尻付近の植生マットDの少なくとも下流部を覆うことにより、越流水による両植生マットDの剥がれや流亡等の防止を図ることができる。そして、法肩付近及び法尻付近の植生マットDの剥がれや流亡が生じると、その部分を起点にして、これらに連なる植生マットDの剥がれや流亡が連鎖的に引き起こされるおそれがあるが、本例では、こうした連鎖的な植生マットDの剥がれ等の起点となる法肩付近及び法尻付近の植生マットDの剥がれ等を未然に防ぐことができるので、裏法N1の保護や緑化の確実化を図ることもできる。
【0077】
上記の構成からなる植生マットDの施工方法における植生マットDの裏法N1への張設は、植生マットDの重量に応じて、クレーンなどを利用してもよいし、人力で行ってもよい。クレーンを利用できる現場の場合、植生マットDを長尺化して重量が増しても対応可能であるので、その長手方向の長さが施工領域(裏法N1)の縦方向の長さ(法長)に応じた長さ(3m以上、例えば15m)となるように植生マットDを製造し、ロール状に丸めて現場へ搬送し、クレーンで吊りながら施工領域の縦方向にその長手方向が沿うように植生マットDを施工すれば、植生マットDの短手方向(横方向)にのみ植生マットDを複数並べればよく、長手方向(縦方向)に植生マットDを継ぐ必要がなくなる。このとき、横方向(植生マットDの短手方向)に隣り合う植生マットDどうしの連結は依然として必要であるが、縦方向に植生マットDを継ぐ必要がなくなるので、植生マットDの剥がれや流亡防止には効果が大きい。
【0078】
以下、裏法N1に並べて敷設した植生マットの継ぎ目の構成の違いが、越流水による洗掘にどのように影響するかを確認するために行った試験について説明する。この試験に用いる試験装置は、図8(A)に示すような傾斜を有し、同図(B)のような断面を有する水路15の一部に供試体16を設置して構成した。供試体16は、縦断面視略U型で長尺状の部材(ベンチフリューム)内に、カゴマット、吸い出し防止材を設置し、栗石・砕石を充填し、客土を充填した後、植生マットを設置して構成した。なお、図8(C)は試験装置の略全体を示す写真、同図(D)は供試体16の通水状況を示す写真、同図(E)は試験装置の供試体16よりも上流側における通水状況を示す写真である。
【0079】
そして、供試体16につき、図6(A)~(E)の比較例に対応するように植生マットを設置した場合と、図7(A)~(E)の本例に対応するように植生マットを設置した場合とにつき、それぞれ上記試験装置を用いて、流速3.5~4.0m/sでの通水を24時間連続で行い、継ぎ目の状況を確認した。
【0080】
図9(A)に示すように植生マットを設置した場合(図6(A)~(E)の比較例に対応)、同図(B)に示すように継ぎ目に芝生マットが存在しない領域が形成されるのであり、同図(C)に示すように洗掘が発生することが確認された。
【0081】
これに対して、図9(D)に示すように植生マットを設置した場合(図7(A)~(E)の本例に対応)、同図(E)に示すように継ぎ目に芝生マットが存在しない領域が形成されず、同図(F)に示すように洗掘が防止されることが確認された。
【0082】
上記試験から、植生マットDの継ぎ目に芝生マット3を存在させる本例は、洗掘防止に有効であることが把握される。
【0083】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0084】
上記実施形態では、植生マットDの施工に際し、不織布1を予め一体化した植生マットDを用いているが、これに限らず、まず不織布1を裏法N1に張設し、この不織布1の上から、予め一体化された可撓性を有するネット材2と芝生マット3を、たとえばステイプルなどによる結束や、縫製などの連結手段を用いて張設するようにしてもよい。
【0085】
この場合、不織布1を裏法N1に張設するには、たとえば不織布1の周縁部や適宜の部位をネット材8、9などにアンカー止めすればよく、このアンカー止めを、ネット材2および芝生マット3の張設に兼用させてもよい。
【0086】
上述したように、不織布1を張出部5に設けてあってもなくてもよく、設けた場合には裏法N1土壌の吸い出し防止効果を高めることができ、設けない場合には芝3aの生育に有利となる。
【0087】
上述したように、隣り合う二つの植生マットDにつき、法尻側又は下流側の植生マットDの張出部5に法肩側又は上流側の植生マットDの主体部4を上方から重ね合わせれば、河川水が河川堤防の天端を越流した際、各植生マットDの端縁は越流水に逆らわず、越流水がスムーズに流れるのであって、植生マットDの流亡が効果的に防止される。また、この場合、図11(A)に示すように、植生マットDの継ぎ目となる部分の下側に必ず張出部5が存在することになり、張出部5に不織布1を設けておくことにより吸い出し防止効果を確実に得ることができる。さらに、この場合、図11(A)に示すように、植生マットDの連結部の嵩は、法肩側又は上流側で高く、法尻側又は下流側で低くなるので、この嵩の変化により越流水の流速に変化が生じても、植生マットDを引き抜く力になり難く、有利である。
【0088】
しかし、これに限らず、例えば図11(B)に示すように、隣り合う二つの植生マットDにつき、法尻側又は下流側の植生マットDの主体部4に法肩側又は上流側の植生マットDの張出部5を上方から重ね合わせるようにしてもよい。
【0089】
また、上記実施の形態では、図2に示すように、張出部5を平面視矩形状の主体部4の隣り合う2辺にのみ設けてあるが、これに限らず、張出部5を平面視矩形状の主体部4の3辺又は4辺に設けるようにしてもよい。すなわち、複数の植生マットDを縦横に並べるに際し、縦方向では法肩側の植生マットDが法尻側の植生マットDより高くなり、横方向では上流側の植生マットDが下流側の植生マットDより高くなるように、瓦重ねにすることが理想的である。このように理想的な植生マットDの敷設を行おうとすると、張出部5が2辺にある場合、図2に示す植生マットDを左岸用とすれば、右岸用の植生マットDとして、図2の周縁部分5aを主体部4の右側ではなく左側に設けたもの(又は図2の周縁部分5bを主体部4の手前側ではなく奥側に設けたもの)が必要になる場合があり、つまりは周縁部分5a、5bの位置が鏡像関係にある2種類の植生マットDが必要になる。これに対し、張出部5を主体部4の3辺又は4辺に設けてあれば、左岸用と右岸用を区別することなく共用でき、つまりは一種類の植生マットDで足りることになる。
【0090】
なお、張出部5を3辺又は4辺設ける場合、隣り合う植生マットDの芝生マット3どうしを突き合わせるためには、一方の植生マットDの張出部5を主体部4の下面側に折り畳むようにしてもよいし、切り落とすようにしてもよい。
【0091】
本明細書で挙げた変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0092】
1 不織布
2 ネット材
3 芝生マット
3a 芝
3b 土
4 主体部
5 張出部
5a 周縁部分
5b 周縁部分
6 圃場
7 カゴマット
8 ネット材
9 ネット材
9a 突出辺部
10 ネットピン
11 杭
15 水路
16 供試体
91 天端
92 越流水
93 裏法尻部
94 裏法
D 植生マット
G 保護部材
G1 傾斜面部
G2 天面部
K 角材
N1 裏法
R 河川水が流れる方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11