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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077141
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
   D05B 35/10 20060101AFI20240531BHJP
【FI】
D05B35/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189012
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000114868
【氏名又は名称】ヤマトミシン製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】水▲崎▼ 隆
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA08
3B150CB06
3B150CB23
3B150CC03
3B150CE23
3B150ED01
3B150ED06
3B150ED07
3B150ED09
3B150GD04
3B150GD24
3B150LA37
3B150LB01
3B150NA36
3B150QA04
3B150QA06
(57)【要約】
【課題】生地のぶれ抑制機能を高めたミシンを提供する。
【解決手段】生地の送り方向に対する交差方向の位置を検知する検知部と、前記検知部の検知に基づき、前記生地を前記交差方向に移動させることで位置を修正する生地位置修正機構62と、前記生地位置修正機構62に対して上下方向で対向して設けられ、前記縫製作業を行っている間は常時、前記生地に当接する生地押え部63と、付勢手段64と、前記生地押え部63に強制荷重を発生させる荷重発生源65と、制御部と、を備え、前記制御部は、生地送りの停止中には、前記生地押え部63から前記生地に対して前記強制荷重がかかるように前記荷重発生源65を作動させ、かつ、前記生地位置修正機構62を作動させ、生地送りの途中には、前記荷重発生源65を停止させることで、前記生地押え部63の自重と前記付勢手段64の付勢力の差分のみが前記生地にかかるようにした。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地の位置を調整しつつ縫製を行うミシンであって、
前記生地の、送り方向に対して交わる方向である交差方向の位置を検知する検知部と、
前記検知部の検知に基づき、前記生地を前記交差方向に移動させることで位置を修正する生地位置修正機構と、
前記生地位置修正機構に対して上下方向で対向して設けられ、前記縫製作業を行っている間は常時、前記生地に当接する生地押え部と、
前記生地押え部に接続され、前記生地押え部の自重に対して調整する付勢力を発する付勢手段と、
前記生地押え部に接続され、前記生地押え部を前記生地位置修正機構に対して押し付ける強制荷重を発生させる荷重発生源と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
生地送りの停止中には、前記生地押え部から前記生地に対して前記強制荷重がかかるように前記荷重発生源を作動させ、かつ、前記生地位置修正機構を作動させ、
生地送りの途中には、前記荷重発生源を停止させることで、前記生地押え部の自重と前記付勢手段の付勢力の差分のみが前記生地にかかるようにしたミシン。
【請求項2】
前記付勢手段は、前記生地押え部における前記生地への当接位置の上方に設けられた二つのばねであり、
前記二つのばねのうち一方は、ばね力が一定とされており、
前記二つのばねのうち他方は、ばね力が調整可能とされている、請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記二つのばねのうち一方が発するばね力は、前記生地押え部の自重よりも大きい上向きの力であり、
前記二つのばねのうち他方が発するばね力は下向きの力である、請求項2に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生地の位置を調整しつつ縫製を行うミシンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1、2に記載のように、縫針に縫われる前の時点で生地の位置を調整する機能を有したミシンが存在する。なお、この機能は、生地端部を操作することに着目して「エッジコントロール」と呼ばれている(略して「エジコン」とも呼ばれる)。ミシンにおいて生地は断続的に送られる。つまり、送られる(移動する)状態と停止する状態をそれぞれ、短時間で繰り返す。特許文献1に記載の構成では、上生地を上部爪で引っ掛けることで位置調整を行うと共に、下生地を下部爪で引っ掛けることで位置調整を行う。また、特許文献2に記載の構成では、揺動体の先端に設けられた回転輪が回転することで、当該回転輪に当接した生地の位置調整を行う。
【0003】
ところで、特許文献1、2に記載の構成では、位置調整が行われるのは生地の送りがされない停止中に限られている。具体的に、特許文献1に記載の構成において、上部爪及び下部爪は移動中の生地からは離される。また、特許文献2に記載の構成において、回転輪は移動中の生地からは離される。このように操作される理由は、生地が伸びてしまうことを防止するためである。しかしこのような手法では、生地に爪等の位置調整手段が係合するのが、生地を送らない間だけであるから、生地を送っている最中は生地に位置調整手段が係合しておらず、針板と生地押えの間に至るまでは生地が自由状態になるので、生地送りの際の振動等の影響で、縫針の位置に至るまでに生地がぶれてしまう(すなわち、位置ずれしてしまう)可能性がある。この結果、従来の構成では、位置調整手段が設けられていたとしても、生地のぶれを確実に抑制できないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-319359号公報
【特許文献2】特開平4-132585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、生地のぶれ抑制機能を高めたミシンの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、生地の位置を調整しつつ縫製を行うミシンであって、前記生地の、送り方向に対して交わる方向である交差方向の位置を検知する検知部と、前記検知部の検知に基づき、前記生地を前記交差方向に移動させることで位置を修正する生地位置修正機構と、前記生地位置修正機構に対して上下方向で対向して設けられ、前記縫製作業を行っている間は常時、前記生地に当接する生地押え部と、前記生地押え部に接続され、前記生地押え部の自重に対して調整する付勢力を発する付勢手段と、前記生地押え部に接続され、前記生地押え部を前記生地位置修正機構に対して押し付ける強制荷重を発生させる荷重発生源と、制御部と、を備え、前記制御部は、生地送りの停止中には、前記生地押え部から前記生地に対して前記強制荷重がかかるように前記荷重発生源を作動させ、かつ、前記生地位置修正機構を作動させ、生地送りの途中には、前記荷重発生源を停止させることで、前記生地押え部の自重と前記付勢手段の付勢力の差分のみが前記生地にかかるようにしたミシンである。
【0007】
この構成によれば、生地送りの最中であっても、生地が自由状態にならず、当接する生地押え部の自重と付勢手段の付勢力の差分が、常時生地にかかるようにできるため、生地送りの停止中、実施中を問わず、生地にぶれが生じにくくなる。
【0008】
そして、前記付勢手段は、前記生地押え部における前記生地への当接位置の上方に設けられた二つのばねであり、前記二つのばねのうち一方は、ばね力が一定とされており、前記二つのばねのうち他方は、ばね力が調整可能とされているものとできる。
【0009】
この構成によれば、二つのばねのうち他方側についてばね力が調整可能であるため、生地送りの途中に生地にかかる荷重を適切な値に調整できる。
【0010】
そして、前記二つのばねのうち一方が発するばね力は、前記生地押え部の自重よりも大きい上向きの力であり、前記二つのばねのうち他方が発するばね力は下向きの力であるものとできる。
【0011】
この構成によれば、一方のばねにより生地押え部の自重を相殺し、その上で、他方のばねにより所望の下向き荷重を生地押え部に及ぼすことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、生地押え部の自重と付勢手段の付勢力の差分が生地にかかるようにできるため、生地にぶれが生じにくくなる。よって、生地のぶれ抑制機能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態のミシンを示す斜視図である。
図2図1において主要部を拡大した図である。
図3】前記ミシンにおいて、下生地位置修正機構、下生地押え部、荷重発生源を示す、手前側(縫製作業者側)で斜め上方から見た斜視図である。
図4】前記ミシンにおいて、下生地位置修正機構、下生地押え部、荷重発生源を示す、奥側(縫製作業者の反対側)で斜め下方から見た斜視図である。
図5】前記ミシンにおいて、下生地の位置修正に関連する構成等を示すブロック図である。
図6】前記ミシンにおいて、生地送りの実施と荷重発生源の作動タイミングの関係を示すタイミングチャートである。
図7】前記ミシンにおいて、生地送りの実施と荷重発生源の作動タイミング(図6の場合に比べて延長されている)の関係を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明につき、一実施形態を取り上げて説明を行う。なお、奥行方向(前後方向)の表現に関し、縫製作業者に近い側を「手前側(前側)」とし、遠い側を「奥側(後側)」とする。また、上下左右の表現に関し、縫製作業者からミシンを見た場合の方向で表現している。ちなみに、図1における右側に縫製作業者が位置しており、図1における右側(右下側)から左側(左上側)に向かって生地(本実施形態では上生地及び下生地)が送られ、縫製される。
【0015】
本実施形態のミシン1は、身頃において着用者の腕に対応する部分に対し、袖部となる生地を縫い付ける作業(一例としてTシャツの袖付け作業)等のように、2枚の生地を接合する作業に用いられるオーバーロックミシンである。なお、Tシャツの袖付け作業は一例に過ぎず、本実施形態のミシン1は、2枚の別個の生地の端縁同士を位置合わせしながら縫製する作業に広く用いることができる。なお、本実施形態のミシン1は、筒状にならない平坦な縫製品の形成にも用いることができる。また、場合によっては1枚の生地にも、重ねられた3枚以上の生地にも用いることができる。
【0016】
本実施形態のミシン1において、今回の発明に関連する位置修正部6を除いた部分は、従来から知られている構成を有している。このミシン1は図1及び図2に示すように、主要部分として、生地の下方に位置しており当該生地を手前側から奥側に送る送り機構2、送り機構2に重ねて配置されており、縫針51を受容する針板3、生地を上方から押える押え機構4、往復動する縫針51(本実施形態では2本)によって生地に縫製を行う針棒機構5、縫製前であり位置合わせ終了後の生地に対して設定された範囲の端部を切断するメス機構(図示しない)、の各々を備える。
【0017】
針板3は、ミシン1が有するシリンダ部の上面に設けられており、往復動する縫針51を受容できる針穴を有している。針板3は、シリンダ部に支持された状態である下生地に下方から当接して支持する。押え機構4は、針板3の上方にて上生地を押える。下生地及び上生地は針板3と押え機構4とに挟まれることになるから、縫製時には前記送り機構2によって、二枚とも奥側に送られる。縫製される各生地の端縁は右端縁である。
【0018】
本実施形態のミシン1は、上生地と下生地とを重ね合わせた状態で縫製作業を行うよう構成されている。Tシャツを構成する生地の場合、例えば袖部の生地を下生地とし、身頃側の生地を上生地とできる。本実施形態のミシン1は、下生地(請求項に記載の「生地」に対応)の位置調整に関して改良されたものである。ちなみに、上生地に対する位置調整は、エア供給部7から噴出する気流を上生地に吹き掛けることにより行われる。
【0019】
本実施形態のミシン1において、今回の発明に関する位置修正部6は、検知部61、請求項に記載の「生地位置修正機構」としての下生地位置修正機構62、請求項に記載の「生地押え部」としての下生地押え部63、付勢手段64、荷重発生源65、制御部66、の各部を備える。これら各部はフレーム67に組み付けられている。位置修正部6のうち機械的な構成部分のうち主要部を抜き出して図3図4に示す。
【0020】
検知部61は、下生地の送り方向に対して交わる方向である交差方向(本実施形態では送り方向に直交する左右方向)の位置を検知する。検知部61は、針板3の右方に1個のセンサ(図2には設けられている位置だけを示す。なお、図2における「61」の引出線基端位置に示されている部分はセンサをミシン1の側に固定するためのナットである)を備えていて下生地の端縁(具体的には、下方に折り曲げられた状態とされた右端縁)を検知する。検知結果は制御部66に送られる。制御部66では、所定時間間隔で検知結果を受け入れる。センサとしては非接触センサ、具体的には光学センサが用いられている。センサの光軸方向は左右方向とされている。また、図示していないが、センサに正対する部分に、センサから発する検知用の光線を反射してセンサに戻すための反射板が設けられている。反射板は、例えば前記メス機構の板状部分が兼用することができる。検知状態、つまり、センサから発する光線がセンサに戻ってこない場合は、センサが下生地で隠されている状態であるから、下生地が規定位置よりも右側に寄っていることになる。一方、非検知状態、つまり、センサから発する光線がセンサに戻ってくる場合は、センサが生地で隠されておらず露出した状態であるから、下生地が規定位置よりも左側に寄っていることになる。
【0021】
下生地位置修正機構62は、前記検知部61の検知に基づき、前記下生地を縫針51による縫製位置に至るまでに前記交差方向に移動させることで位置を修正する。下生地位置修正機構62は、図示のように周回移動する軟質樹脂製(具体的にはゴム製)のベルト621を備えている。ベルト621は上方で2箇所のローラ622に支持され、下方で1箇所のローラ623に支持されている。下方のローラ623は、モータ624に接続された駆動ローラである。モータ624は制御部66により時計回り及び反時計回りに回転させられる。なお、ベルト621にはテンション調整用のローラ625が接していて、テンションが保たれている。ベルト621は上端位置にて、水平方向に移動するように構成されている。下生地位置修正機構62はミシン1において上下方向には不動に設けられている。下生地は、ベルト621の上方であって、下生地押え部63の下面との間(図3、4に符号「P」で示した位置)を送られる。このため下生地はベルト621に当接している。よって、検知部61の検知結果を受けた制御部66により制御されたモータ624の回転方向に応じ、ベルト621が移動して、下生地が左右に移動させられる。検知部61が検知状態の場合、ベルト621は左方に移動して下生地が左に移動させられる。一方、検知部61が非検知状態の場合、ベルト621は右方に移動して下生地が右に移動させられる。ミシン1の稼働中は常時、検知部61が生地端の検知を行うことから、ベルト621の左右への移動も常時行われている。ただし、有効な位置調整は、荷重発生源65による強制荷重がかけられた下生地押え部63に下生地が押さえられている間にのみなされる。下生地押え部63によって下方に押さえられた状態の下生地に対して、下生地の下方に位置するベルト621の左右への移動力がかかるからである。一方、強制荷重のかけられていない下生地押え部63が下生地上にあるだけ(荷重がかからない状態でただ触れているだけ)の場合は、ベルト621が左右に移動したとしても、ベルト621と下生地のあいだで滑りが生じて、ベルト621の移動力が下生地に伝わらないから、下生地が左右に移動しない。ちなみに上生地は、検知部61と別のセンサにより位置が検知され、この検知に基づきエア供給部7(図2参照)から噴出する気流を制御することで、左右に移動させられる。
【0022】
下生地押え部63は、針板3の上方に設けられた押え機構4とは別に、下生地位置修正機構62の上方に設けられた、左右方向に細長い板状の部分である。つまり、下生地押え部63は、下生地位置修正機構62に対して上下方向で対向して設けられている。なお、前記「上下方向」は、傾斜を伴う場合も含む。下生地押え部63は、一般鋼材やステンレス鋼材で形成できる。また、後述する付勢手段64の付勢力(ばね力)とのバランスに着目し、軽金属や樹脂(FRPを含む)により軽量化されたものであってもよい。下生地押え部63は、フレーム67に右端部で片持ち支持されており、下生地位置修正機構62に対して上下動可能とされていて、縫製作業を行っている間は常時、下生地に当接するよう構成されている。片持ち支持により、下生地押え部63の右方に支持のための部材を設けなくてもいいため、下生地及び上生地の送りを阻害しにくい。下生地押え部63は、特許文献1、2に記載された従来の構成と異なり、下生地に対して当接したり離れたりする構成ではない。ただし、メンテナンスの際等には、下生地の送られる部分から外すことができる。下生地押え部63の下面は、水平方向に広がる平面とされていて、下生地への当接は面接触となる。下生地押え部63の下面は平滑な平面とされていて、下生地に当接していても、下生地に引っ掛かりが生じないようにされている。ちなみに上生地は、下生地押え部63の上方を通過するよう構成されている。
【0023】
下生地押え部63は、上方に突出したばね支持部631を有している。本実施形態のばね支持部631は、下生地押え部63における下部材よりも小さい板状体であって、ボルト止め等によって前記下部材に一体に連結されている。ばね支持部631の上面には、第2ばね642を支持するためのねじ軸632が一体に設けられている。下生地押え部63には、下生地への当接位置の上方に設けられた付勢手段64としての二つのばね(第1ばね641、第2ばね642)が接続されていて、これら二つのばね641,642によって、下生地押え部63に及ぶばね荷重が発生するよう構成されている。付勢手段64は、下生地押え部63の自重に対して調整する付勢力を発する。各ばね641,642は、上生地の送られる範囲よりも右方に配置されていて、縫製の邪魔にならないようにされている。
【0024】
第1ばね641は、コイルばねであって、ばね力が一定とされている。この第1ばね641のばね力は、上向きの力であって、下生地押え部63の自重よりも大きく設定されている。このため、第1ばね641が下生地押え部63を吊り上げることから、下生地押え部63の自重が第1ばね641で相殺され、下生地押え部63の自重は下生地にかからない。本実施形態の第1ばね641は、引きばねが単体で用いられており、上端が下生地押え部63の上方にてフレーム67に支持されており、下端が下生地押え部63に接続されている。
【0025】
第2ばね642は、コイルばねであって、ばね力が調整可能とされている。本実施形態の第2ばね642は、前述したねじ軸632が通された押しばねである。このため、第2ばね642のばね力は、下向きの力である。ねじ軸632の上部にはワッシャとナット633(例えば外周にローレット加工等が施されたもの)が取り付けられている。第2ばね642の上端はワッシャの下面に当接する。また、第2ばね642の下端はばね支持部631の上面に当接する。ねじ軸632に対するナット633の締め込み度合によって、ばね支持部631の上面からワッシャの下面までの距離を変化させられる。このため、押しばねである第2ばね642のばね力が、ナット633を緩めた場合は小さく、ナット633を締めた場合は大きくなるように変更できる。よって、ばね力が調整された第2ばね642により所望の下向き荷重を下生地押え部63に及ぼすことができる。例えば、下向き荷重がほぼかからない状態(荷重がほぼ0の状態)で下生地押え部63を下生地に当接させられる。第2ばね642は第1ばね641の左側(つまり、下生地の端縁よりも遠い側)に配置されている。このため第2ばね642は、下生地押え部63の重心に対し、左右方向で近い位置に配置される。よって、下生地押え部63の自重に対するばね力の調整を行いやすい。
【0026】
以上の構成から、引きばねである第1ばね641のばね力と、押しばねである第2ばね642のばね力の差分を、下生地押え部63にかけることができる。なお、このように二つのばねを用いる理由は、引きばね(第1ばね641)が、下生地押え部63を含むばね下荷重に対する均衡のためであり、押しばね(第2ばね642)が下生地押え部63の下生地に対する押し付け力を増減させて、送られる際の下生地のばたつき等に対処するための適切な値とする調整を行うためである。すなわち、二つのばねは役割分担させられている。また、第2ばね642についてばね力が調整可能であるため、生地送りの途中に下生地にかかる荷重を、例えば下生地の材質や生地送りの速度に応じて適切な値に、かつ容易に調整できる。
【0027】
荷重発生源65は、下生地押え部63に接続され、下生地押え部63を下生地位置修正機構62に対して押し付ける強制荷重を発生させる。本実施形態の荷重発生源65は、直線方向の往復動を出力するソレノイドであって、下向きの強制荷重を発生させる。このソレノイドは下生地押え部63の下方に固定されていて、上方に軸状のプランジャー652が延びている。プランジャー652は下生地押え部63に固定されている。このソレノイドは、通電によりプランジャー652が、コイルを備えた本体651に引き込まれるように移動する。このため、ソレノイドに通電することで、下生地押え部63に対して下向きの強制荷重をかけられる。これに伴い下生地押え部63は下生地を介して下生地位置修正機構62のベルト621に押し付けられる。この状態で下生地位置修正機構62を作動させると、下生地を確実に左右に移動させることができる。
【0028】
制御部66は、本実施形態では、ミシン1自体が備える制御部(マイコン)が兼ねている。しかしこれに限らず、別個に設けることもできる。タイミングチャートを図6に示す。図6中の上段表示は、送り機構2の動作を示す。送り機構2(具体的には送り機構2が有する送り歯)は楕円運動をしており、この楕円運動における、最上点と最下点との間での上下動を、針板3の上面を基準としたサインカーブで示している。サインカーブにおける上半分のタイミングで生地が送られる。つまり、生地は断続的に送られる。また、図6中の下段表示は、上段表示と同時刻における荷重発生源65(「ソレノイド」と図示)の動作を矩形波状で示している。図中の「ON」が作動時、「OFF」が停止時に対応する。図6に示すように、この制御部66は、送り機構2による生地送りの停止中(送り歯が針板3よりも下方に位置する場合)には、下生地押え部63から下生地に対して強制荷重がかかるように荷重発生源65を作動させ、かつ、下生地位置修正機構62を、検知部61の検知に応じてベルト621が左右いずれかに移動するように作動させる。一方、生地送りの途中(送り歯が針板3よりも上方に位置する場合)には、荷重発生源65を停止させることで、下生地押え部63の自重と付勢手段64の付勢力の差分のみが下生地にかかるようにされる。前記差分の値は、下生地に下生地押え部63が当接しながらも、下生地に伸びが発生しにくい程度に適宜設定すればよい。前記差分の値には、下生地押え部63の自重と付勢手段64の付勢力が完全に釣り合うことにより0となる場合も含まれ、好ましくは、生地送りに伴い下生地押え部63が跳ね上がってしまうことを防止できる程度の、(小さな)下向き荷重が設定される。このような制御により、生地送りの最中であっても、下生地が自由状態にならず、当接する下生地押え部63の自重と付勢手段64の付勢力の差分が、常時下生地にかかるようにできるため、下生地にぶれが生じにくくなる。なお、下生地が自由状態であると、ベルト621が常時左右に移動していることにつられて生地も移動することで、縫製位置に至るまでに位置が変化してしまう可能性があり、しかもこの移動はベルト621の移動量に一致するとは限らない不安定なものであるから、ぶれとなってしまう。前記制御により、このようなぶれを抑制できるから、生地のぶれ抑制機能を高めることができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0030】
例えば、前記実施形態のミシン1はオーバーロックミシンであったが、その他のミシンに適用することもできる。
【0031】
また、前記実施形態よりも、図7(タイミングチャート)に示すように、荷重発生源65を停止するタイミングを遅らせることもできる。図6の内容に比べて矩形波状部分(そのうち立ち上がり部分)の幅が拡大している部分(図7の下段表示で矢印で示した幅の部分)が、タイミングを遅らせた部分である。タイミングを遅らせた部分では、生地送りと荷重発生源65の作動が重なっていることから下生地に伸びが発生する。図7のように荷重発生源65を作動させ、強制荷重のかけられた下生地押え部63により、あえて生地を伸ばした形で縫製を行うことで、生地を伸ばしながらの縫製が必要な場合に応じることができる。荷重発生源65を停止するタイミングの遅延は適宜調整できる。
【0032】
また、検知部61として前記実施形態では光学センサ等の非接触センサを用いたが、接触センサを用いることもできる。また、前記実施形態では、検知部61が1個のセンサを備えていたが、例えば2個のセンサを備えるものとできる。2個のセンサを備える場合、前記実施形態のように下生地の端部を下方に折り曲げた状態で生地送りを行うのであれば、2個のセンサを端部位置の許容範囲に合わせて上下に配置できる。また、下生地位置修正機構62として前記実施形態では左右方向にのみ下生地を移動させるよう構成されていたが、任意の二次元方向に移動させられるよう構成することもできる。具体的には、前記実施形態のベルト621の他に、ローラや移動アーム等を用いることができる。付勢手段64として、前記実施形態ではばねを用いたが、空気動、油圧動、電動のアクチュエータを用いることもできる。また、下生地押え部63の自重に対してバランスをとることのできる錘と滑車の組み合わせを用いることもできる。
【0033】
また、下生地押え部63は、前記実施形態では下生地位置修正機構62の上方に設けられていたが、下生地位置修正機構62の下方に設けることもできる。なおこの場合、荷重発生源65は下生地押え部63の上方に設けることができる。
【0034】
また、付勢手段64は、前記実施形態では下生地押え部63の上方に設けられていたが、下方や同一高さの位置に設けることもできる。また、付勢手段64は、前記実施形態では二つのばね641,642で構成されていたが、ばねを用いる場合の構成個数はこれに限定されず、一つや複数(三つ以上)であってよい。また、コイルばね以外に、板ばね等の種々のばねを用いることができる。また、前記実施形態では、二つのばね641,642が下生地押え部63の上方に設けられていたが、各々の下生地押え部63に対する上下の設置位置は特に限定されない。
【符号の説明】
【0035】
1 ミシン
2 送り機構
3 針板
4 押え機構
5 針棒機構
51 縫針
6 位置修正部
61 検知部
62 生地位置修正機構、下生地位置修正機構
621 ベルト
63 生地押え部、下生地押え部
64 付勢手段
641 一方のばね、第1ばね
642 他方のばね、第2ばね
65 荷重発生源
66 制御部
67 フレーム
7 エア供給部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7