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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007718
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】養生シート
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
E04G21/02 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108977
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野島 省吾
(72)【発明者】
【氏名】松本 憲典
(72)【発明者】
【氏名】川西 貴士
【テーマコード(参考)】
2E172
【Fターム(参考)】
2E172EA02
2E172EA03
(57)【要約】
【課題】一年を通じて養生対象物に安定した保温環境を確保し、養生することである。
【解決手段】養生対象物の表面を被覆し、保温養生を行う養生シートであって、前記養生対象物に対向して配置される湿潤層と、該湿潤層に積層される保温層と、該保温層に積層される遮熱層と、を備え、前記保温層は、黒系顔料を含む黒系シートを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
養生対象物の表面を被覆し、保温養生を行う養生シートであって、
前記養生対象物側に配置される保温層と、該保温層に積層される遮熱層と、
を備え、
前記保温層は、黒系顔料を含む黒系シートを備えることを特徴とする養生シート。
【請求項2】
請求項1に記載の養生シートにおいて、
前記黒系シートが、前記黒系顔料を混合して成形したシート材であることを特徴とする養生シート。
【請求項3】
請求項1に記載の養生シートにおいて、
前記黒系シートが、前記黒系顔料を含む塗料をシート状基材に塗布して成形されたものであることを特徴とする養生シート。
【請求項4】
請求項1に記載の養生シートにおいて、
前記保温層が、前記黒系シートと断熱シートとを積層したものであることを特徴とする養生シート。
【請求項5】
請求項4に記載の養生シートにおいて、
前記断熱シートが、空気層を備えることを特徴とする養生シート。
【請求項6】
請求項1に記載の養生シートにおいて、
前記養生対象物を湿潤養生する湿潤層を備え、
該湿潤層と前記遮熱層の間に、前記保温層が配置されることを特徴とする養生シート。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の養生シートにおいて、
前記養生対象物が、強度発現する前のコンクリートであることを特徴とする養生シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養生対象物を保温する性能を有する養生シートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コンクリートの施工では、コンクリートの中心部と表面部の温度の差(内外温度差)に起因した内部拘束による温度ひび割れが生じやすい。このため、コンクリートの表面部を保温する必要がある。また、材齢初期にコンクリートの表面部を乾燥させると、ひび割れが生じやすいだけでなく、水分の逸散により十分な強度発現が得られない。このため、コンクリートが所定の強度に達するまで表面部を保湿する必要がある。
【0003】
そこで一般には、保温する性能と保湿する性能の両者を確保した養生シートで、打設したコンクリートの表面部を被覆し、養生する。例えば、特許文献1には、気泡緩衝材を積層したシート状の保温材と、この保温材の一方側に設けた金属製フィルムと、保温材の一方側に設けた保水性を有する不織布とにより構成されたコンクリート用養生シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3169229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、コンクリートの表面に発生しやすいひび割れを防止できるとともに、表面の硬化組織を緻密にできる。特に夏季において、日中の輻射熱による温度上昇を抑制する効果が高いことから、温度の日変動を小さくでき、コンクリートの表面部に生じやすいひび割れの発生を効果的に防止できる。
【0006】
ところが、冬季には夜間から明け方にかけて、地表面から熱が放出されて地表が冷える、いわゆる放射冷却と同様の現象が、コンクリートの表面部にも生じやすい。このため、コンクリート用養生シートで被覆していても、必要な養生温度を下回る場合があるなど、コンクリートの表面部を安定して保温することが困難となっていた。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、一年を通じて養生対象物に、安定した保温環境を確保し養生することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため本発明の養生シートは、養生対象物の表面を被覆し、保温養生を行う養生シートであって、前記養生対象物側に配置される保温層と、該保温層に積層される遮熱層と、を備え、前記保温層は、黒系顔料を含む黒系シートを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の養生シートは、前記黒系シートが、前記黒系顔料を混合して成形したシート材であることを特徴とする。
【0010】
本発明の養生シートは、前記黒系シートが、前記黒系顔料を含む塗料をシート状基材に塗布して成形されたものであることを特徴とする。
【0011】
本発明の養生シートは、前記保温層が、前記黒系シートと断熱シートとを積層したものであることを特徴とする。
【0012】
本発明の養生シートは、前記断熱シートが、空気層を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の養生シートは、前記養生対象物を湿潤養生する湿潤層を備え、前記湿潤層と前記遮熱層の間に、前記保温層が配置されることを特徴とする。
【0014】
本発明の養生シートは、前記養生対象物が、強度発現する前のコンクリートであることを特徴とする。
【0015】
本発明の養生シートによれば、遮熱層に加えて保温層を設け、この保温層に黒系顔料を含む黒系シートを備える。これにより、養生対象物の表面部から熱が放出された場合に、黒系シートを利用し、この熱の一部を蓄熱するもしくは養生対象物に反射・放出するなどして、保温することができる。
【0016】
つまり、黒系シートに含まれる黒系顔料が、例えば近赤外線吸収性の黒系顔料であれば、養生対象物の表面部から放出された赤外線を一旦吸収して蓄熱するだけでなく、その一部を養生対象物の表面に向けて放出できる。また、遮熱用複合酸化物顔料であれば、養生対象物の表面部から放出された赤外線を、養生対象物の表面に向けて反射することができる。
【0017】
これにより、養生対象物が外環境の影響を受けやすい場所に打設したコンクリートである場合に、冬季の夜間から明け方にかけて、いわゆる放射冷却と同様の現象で表面部から熱が赤外線として放出されても、上記のとおり黒系シートを利用してコンクリートの表面温度が下降する現象を効果的に抑制できる。
【0018】
一方、日中に太陽光の照射を受けた場合には、遮熱層が日中の輻射熱を反射するため、夏季であってもコンクリート表面部の温度上昇を効果的に抑制する。このように、黒系シートを備える保温層と遮熱層を設けることで、気候特性が大きく異なる夏季や冬季などいずれの季節においてもその影響を最小限に抑えて、一年を通じてコンクリートの表面部における温度の日変動を小さくすることが可能となる。したがって、コンクリートの表面部における温度ひび割れの発生を抑制することができる。
【0019】
また、保温層に黒系シートに加えて断熱シートを設ければ、より一層日変動の小さい安定した温度で、コンクリートの表面部を保温できる。
【0020】
さらに、養生シートは湿潤層を備えることから、養生対象物の表面を養生期間中にわたって湿潤状態に維持できる。例えば、養生対象物が強度発現する前のコンクリートである場合には、表面の水分が散逸する現象を抑制し、コンクリートが所定の強度に達するまで表面部を保湿することができる。
【0021】
したがって、温度の日変動を小さくして安定した温度で保温しながら、湿潤状態を維持できるため、表層部の硬化組織を緻密化しつつひび割れを防止した、高品質なコンクリート躯体を構築することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、遮熱層及び湿潤層に加えて保温層を設け、この保温層に黒系顔料を含む黒系シートを備えることで、一年を通じて養生対象物に、安定した保温環境と保湿環境を確保し、養生することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態における養生シートを示す図である。
図2】本発明の実施の形態における養生シートを構成する黒系シート及び断熱シートの詳細を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における黒系シートの機能を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における養生シートの効果を確認する実験1の詳細を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における養生シートの効果を確認する実験2の詳細を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における養生シートの効果を確認する実験3の詳細を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における養生シートの効果を確認する実験4の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、養生対象物の表面を保温しつつ保湿養生するシート材であり、養生対象物は何ら限定されるものではない。本実施の形態では、脱型したのち強度発現する前のコンクリートを事例に挙げ、その詳細を説明する。
【0025】
≪≪≪養生シート≫≫≫
養生シート100は、打設後のコンクリートCの表面や、図1(a)で示すような脱型したコンクリートCの表面を被覆するシート材であり、遮熱層10、湿潤層20及び保温層30を備えている。保温層30は、図1(b)で示すように、遮熱層10と湿潤層20との間に設けられ、湿潤層20はコンクリートの表面部に接し、遮熱層10は外部(外気や太陽等)に晒される態様で敷設されている。
【0026】
≪≪遮熱層≫≫
遮熱層10は、日中の輻射熱を反射してコンクリートCの表面温度が上昇する現象を抑制するとともに、外部からの冷気を遮断してコンクリートの表面温度が低下する現象を抑制する。このような機能を有する部材、もしくは構造の遮熱シートであれば、いずれも遮熱層10として採用できる。遮熱シートとしては、アルミ箔シート(光沢を残したもの及びエンボス処理などの加工を施したもの両者を含む)を事例に挙げることができる。
【0027】
そのほか、基材の表面にアルミニウムの薄膜を、蒸着により一体形成したアルミ蒸着フィルムや、同じく基材の表面に遮熱塗料を塗布したシート材などを採用してもよい。基材はいずれも、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレン等からなるシート状部材を採用することができる。また、遮熱塗料も何ら限定されるものではないが、例えば、太陽光のうち、近赤外線領域の光を高いレベルで反射する塗料などを採用することができる。
【0028】
≪≪湿潤層≫≫
湿潤層20は、コンクリートCの表面を湿潤状態に保持する部材もしくは構造により構成されている。湿潤層20として採用する材料は、コンクリートCとのなじみが良く、均質な保水力を有する材料であればいずれを採用することもでき、例えば、自然繊維又は化学繊維からなる不織布を事例として挙げることができる。なお、養生対象物が湿潤養生を不要とする場合には、湿潤層20を省略することもできる。
【0029】
≪≪保温層≫≫
保温層30は、遮熱層10と相まってコンクリートの表面温度を保温する構造を有しており、図1(b)で示すように、黒系シート31と断熱シート32とを備えている。
【0030】
≪≪黒系シート≫≫
黒系シート31は、暗褐色から黒色の黒系色をなし、コンクリートCの表面から熱が放出された場合に、この熱の一部を蓄熱する、もしくはコンクリートCに反射・放出するなどして保温する機能を有する材料、もしくは構造により構成されている。
【0031】
例えば、図2(a)で示すように、黒系顔料を混合して成形した農業用の黒色マルチシート、ビニールシートや防水処理した紙材などのシート状部材を採用できる。また、図2(b)及び(c)で示すように、シート状基材311の片面もしくは両面に、例えば黒系顔料を含む水溶性塗料やゴム系塗料などの塗料312を塗布して製作したものでもよい。
【0032】
また、塗料312を塗布するシート状基材311は、上述したアルミ蒸着フィルムに用いる基材を採用できる。もしくは、布材、防水処理を施した紙材、市販養生マットや土木シートなど、いずれを採用してもよい。
【0033】
≪≪黒系顔料≫≫
上記の黒系シート31に含まれる黒系顔料は、暗褐色から黒色の黒系色であればいずれの顔料をも採用することができ、例えば、近赤外線吸収性の黒系顔料や遮熱用複合酸化物顔料などを事例として挙げることができる。
【0034】
≪近赤外線吸収性の黒系顔料≫
近赤外線吸収性の黒系顔料は、赤外線領域の光を吸収する顔料を含むものであり、カーボンブラックなどを事例として挙げることができる。
【0035】
近赤外線吸収性の黒系顔料を含む黒系シート31は、図3(a)で示すように、例えば打設したのちのコンクリートCが水和熱により高温である場合に、この熱がコンクリートCの表面部から赤外線Inとして放出されると、放出された赤外線Inを一旦吸収して蓄熱する。こののち、吸収した赤外線Inの一部を、コンクリートCの表面部に向けて放出する。これにより、コンクリートCは、表面温度の低下を抑制もしくは低減することができる。
【0036】
≪遮熱用複合酸化物顔料≫
遮熱用複合酸化物顔料は、赤外線領域の光を反射する顔料を含むものであり、チタン系黒色遮熱顔料などを事例として挙げることができる。
【0037】
遮熱用複合酸化物顔料を含む黒系シート31は、例えば打設したのちのコンクリートCが水和熱により高温である場合に、図3(b)で示すように、この熱がコンクリートCの表面部から赤外線Inとして放出されると、放出された赤外線Inの一部をコンクリート表面に向けて反射する。これにより、コンクリートCは、表面温度の低下を抑制もしくは低減することができる。
【0038】
上記のとおり黒系シート31は、コンクリートCの表面部から放出された赤外線Inを反射もしくは一端吸収して放出し、コンクリートCを保温する機能を有する。これにより、コンクリート表面部の温度低下を抑制することができる。なお、黒系シート31に含まれる黒系顔料は、上記の機能もしくは類似した機能を有していれば、いずれをも採用することも可能である。
【0039】
≪≪断熱シート≫≫
断熱シート32は、遮熱層10と湿潤層20との間に、空気層323を形成する部材もしくは構造により構成されている。その構造はいずれでもよいが、湿潤層20に保水された水分を吸水することがなく、また、コンクリートCと黒系シート31の間で赤外線Inを遮断することのない材料もしくは構造により構成されているシート材が好ましい。
【0040】
図2(d)では、梱包用の気泡緩衝材321を2枚積層し、空気層323よりなる断熱構造を形成する場合を事例に挙げている。気泡緩衝材321は、空気を封入した複数の突起を有するシート材であり、この突起を対向させて積層し、対向する突起の間にシート状の保護材322を介装させて、空気層323を有する断熱シート32を形成している。
【0041】
上記の構成を有する養生シート100によれば、冬季の夜間から明け方にかけて、いわゆる放射冷却と同様の現象でコンクリートCの表面部から熱が赤外線Inとして放出されても、上記のとおり黒系シート31を利用して、表面温度が下降する現象を効果的に抑制できる。
【0042】
また、保温層30に黒系シート31に加えて断熱シート32を設ければ、冬季であってもより確実に、日変動の小さい安定した温度でコンクリートCの表面部を保温できる。これにより、コンクリートCの表面における温度ひび割れの発生を抑制することができる。一方、日中に太陽光の照射を受けた場合には、遮熱層10が日中の輻射熱を反射するため、夏季であってもコンクリート表面部の温度上昇を効果的に抑制する。
【0043】
このように、気候特性が大きく異なる夏季や冬季などいずれの季節においても、その影響を最小限に抑えることができ、一年を通じてコンクリートCの表面部における温度の日変動を小さくすることが可能となる。したがって、コンクリートCの表面部において、温度ひび割れの発生を抑制することができる。
【0044】
さらに、養生シート100は湿潤層20も備えることから、コンクリートCにおける表面の水分が散逸する現象を抑制し、ひび割れを抑制しつつ所定の強度に達するまで表面部を保湿することができる。
【0045】
このような養生シート100で、打設したのちのコンクリートCを被覆し養生することにより、一年を通じて温度の日変動を小さくして安定した温度で保温しながら、湿潤状態を維持できる。したがって、表面部の硬化組織を緻密化しつつひび割れを防止した、高品質なコンクリート躯体を構築することが可能となる。
【0046】
≪≪効果確認≫≫
以下に、保温層30に黒系シート31を設けた養生シート100の効果を確認するべく実施した実験の概要と、その結果の一部を示す。
【0047】
≪実験1≫
実験1では、図1で示すような養生シート100の保温層30に、黒系シート31を設けることによるコンクリート表面温度の日変動への影響を確認した。
【0048】
図4(a)で示すように、アルミシートALと市販養生マットCMとの間に3種類の色付きシートPSを挟み、実験用シートS(S1~S3)を作成した。実験用シートS1は、色付きシートPSに白ビニールシート(厚地)、実験用シートS2は黒ビニールシート(薄地:マルチシート)、実験用シートS3は黒ビニールシート(厚地)をそれぞれ採用した。
【0049】
なお、黒ビニールシート(薄地:マルチシート)及び黒ビニールシート(厚地)は、図1(b)で示す養生シート100における黒系シート31に対応する。また、アルミシートALは、遮熱層10に対応する。
【0050】
作成した3種類の実験用シートS1~S3でコンクリートCの表面を被覆し、2日間にわたってコンクリートCの表面温度の変化を計測した。図4(b)で示す表面温度の推移を見ると、無対策(外環境に晒された状態)であるコンクリートCの表面は、昼夜の温度変化が大きい様子がわかる。一方、実験用シートS1~S3各々で被覆したコンクリートCの温度変化は、無対策である場合と比較して、温度差が小さい。
【0051】
特に、黒ビニールシートを採用した実験用シートS2、S3を用いると、温度変化がさらになだらかとなる。図4(c)に、3種類の実験用シート200ごとのコンクリートCの表面における計測期間中の最大温度、最小温度及び両者の差(以降、日格差という)に関する棒グラフを示す。
【0052】
これを見ると、白ビニールシートを用いた実験用シートS1では無対策の状態より日格差を約1℃程度低減できるが、黒ビニールシートを用いた実験用シートS2、S3を採用すると無対策の状態より日格差を2℃以上低減できる。また、黒ビニールシートを採用することにより、日格差を2℃以上低減できるという効果は、シート厚によらず得られることがわかる。
【0053】
≪実験2≫
実験2では、市場で取引されているコンクリート養生用の市販シートとの比較実験を行った。
【0054】
実験1で製作した実験用シートS2に加えて、図5(a)で示すように、アルミシートALと不織布よりなる保湿材NFとの間に、黒系シート31と気泡緩衝材よりなる保温材HSとを挟んだ実験用シートS4を準備した。なお、保湿材NF及び保温材HSはそれぞれ、図1(b)で示す養生シート100の湿潤層20及び断熱シート32に対応する。また、比較例として、市場で一般に取引されているコンクリート養生用の市販シートを3種類準備した。これらの構成は、図5(b)に示すとおりである。
【0055】
作成した2種類の実験用シートS2、S4と3種類の市販シート1~3でコンクリートCの表面を被覆し、2日間にわたって表面温度の経時変化を計測した。図5(c)に、3種類の市販シート1~3と2種類の実験用シートS2、S4各々で被覆したコンクリートCの表面温度について、計測期間中の最大温度、最小温度及び両者の差(日格差)に関する棒グラフを示す。
【0056】
図5(c)をみると、無対策であるコンクリートCの表面は昼夜の温度変化が大きく、表面温度の日格差が17℃を超えている。一方、市販シート1~3で被覆したコンクリートCの表面温度を見ると、いずれも日格差が10~15℃程度と、無対策の場合より低減されている。
【0057】
しかし、実験用シートS2、S4を採用すると、さらに高い効果を示しており、コンクリートCにおける表面温度の日格差が7~8℃前後まで低減されている。また、このような黒系シート31を用いることで得られる効果は、保温材HSの有無にかかわらず得られることもわかる。
【0058】
≪実験3≫
実験3では、図1で示すような養生シート100を製造するに際し、黒系シート31の積層位置によるコンクリート表面温度の日変動への影響を確認した。
【0059】
実験2で製作した実験用シートS4に加えて、図6(a)で示すように、2種類の実験用シートS5、S6を作成した。実験用シートS5は下から順に、保湿材NF、黒系シート31、保温材HS、アルミシートALを積層して製作した。実験用シートS6は、下から順に、保湿材NF、黒系シート31、保温材HS、黒系シート31、アルミシートALを積層して製作した。
【0060】
作成した3種類の実験用シートS4~S6でコンクリートCの表面を被覆し、2日間にわたって表面温度の経時変化を計測した。図6(b)に、3種類の実験用シートS4~S6で被覆したコンクリートCの表面温度について、計測期間中の最大温度、最小温度及び両者の差(日格差)に関する棒グラフを示す。図6(b)を見ると、実験用シートS4~S6で被覆したコンクリートCの表面は、いずれも温度の日格差が6~7℃程度に収まっている。
【0061】
したがって、黒系シート31はアルミシートALと保湿材NFの間であれば、その枚数や積層位置はなんら制約を受けるものではないことがわかる。
【0062】
≪実験4≫
実験4では、図1で示すような養生シート100に黒系シート31を採用するに際し、黒系シート31の材料によるコンクリート表面温度の日変動への影響を確認した。
【0063】
まず、黒ビニールシート(薄地:マルチシート)、黒布、一面に黒水性塗料を塗布した市販養生マット、及び一面に黒ゴム塗料を塗布した市販養生マットの4種類の黒系シート31を準備した。各々の諸元(材質、比熱、熱伝導率、厚さ)は、図7(a)に示すとおりである。これらをそれぞれ図4(a)を参照して説明した実験用シートSの色付きシートPSに採用し、4種類の実験用シートS2、S7~S9を作成した。
【0064】
作成した実験用シートS2、S7~S9各々でコンクリートCの表面を被覆し、2日間にわたって表面温度の経時変化を計測した。また、比較例として、アルミシートALと市販養生マットCMとの2枚のみで製作した比較用シートを製作し、同様の実験を行った。
【0065】
図7(b)に、比較用シートと4種類の実験用シートS2、S7~S9各々で被覆したコンクリートCの表面温度について、計測期間中の最大温度、最小温度及び両者の差(日格差)に関する棒グラフを示す。これをみると、無対策(外環境に晒された状態)であるコンクリートCの表面は昼夜の温度変化が大きく、表面温度の日格差が21℃を超えている。
【0066】
一方、実験用シートS2、S7~S9で被覆したコンクリートCの表面は、温度の日格差が6~7℃程度まで低減されていることがわかる。また、実験用シートS2、S7~S9の間では、日格差に大きな変化は見られず、比較用シートで被覆したコンクリートCにおける表面温度の日格差約11℃を、いずれも大きく下回っていることが見て取れる。
【0067】
したがって、黒系シート31は、黒系顔料が含まれていれば、図2(a)~(c)を参照して説明したいずれの構造のものでも効果があり、また、黒系シート31を構成するシート状基材311についても、布やビニールなどいずれを採用しても、日格差を低減する効果を得られることがわかる。
【0068】
本発明の養生シートは、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0069】
例えば、養生シート100は、遮熱層10と湿潤層20と保温層30とを縫製により一体にしてもよいし、接着剤などを用いて一体に製作してもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 遮熱層
20 湿潤層
30 保温層
31 黒系シート
311 シート状基材
312 塗料
32 断熱シート
321 気泡緩衝材
322 保護材
323 空気層
100 養生シート
C コンクリート
In 赤外線
S 実験用シート(S1~S6)
AL アルミシート
PS 色付きシート
CM 市販養生マット
NF 保湿材
HS 保温材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7