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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077201
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】内燃機関の触媒劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/20 20060101AFI20240531BHJP
   F01N 11/00 20060101ALI20240531BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20240531BHJP
   F01N 3/025 20060101ALI20240531BHJP
   F01N 3/032 20060101ALI20240531BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
F01N3/20 C
F01N11/00
F01N3/24 E
F01N3/025 101
F01N3/032
F01N3/035 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189128
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 太郎
【テーマコード(参考)】
3G091
3G190
【Fターム(参考)】
3G091AA11
3G091AA18
3G091AA28
3G091AB02
3G091AB13
3G091BA33
3G091CB03
3G091EA01
3G091EA05
3G091EA06
3G091EA07
3G091EA18
3G091EA32
3G091HA15
3G091HA36
3G091HA37
3G190AA12
3G190BA05
3G190CA01
3G190CB18
3G190CB23
3G190DA04
3G190DB02
3G190DD02
3G190EA25
3G190EA35
(57)【要約】
【課題】酸化触媒の劣化を新たな観点から診断することにより、酸化触媒の劣化を早期に発見できるようにする。
【解決手段】排気通路30に設けられる酸化触媒51と、酸化触媒51よりも排気通路30の下流側に設けられるディーゼルパティキュレートフィルタ52と、酸化触媒51の劣化を判定する触媒劣化判定手段71と、からなり、触媒劣化判定手段71は、ディーゼルパティキュレートフィルタ52の再生中、ディーゼルパティキュレートフィルタ52を再生するためのポスト噴射の積算量であるポスト噴射積算量とディーゼルパティキュレートフィルタ52で燃焼したスートの積算量である燃焼スート積算量との情報に基づき、ポスト噴射積算量に対する燃焼スート積算量の比率が所定閾値よりも低くなったとき、酸化触媒が劣化していると判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出された排気ガスを浄化するために排気通路に設けられ排気ガス中の成分を酸化させる酸化触媒と、当該酸化触媒よりも前記排気通路の下流側に設けられるディーゼルパティキュレートフィルタと、前記酸化触媒の劣化を判定する触媒劣化判定手段と、からなる内燃機関の触媒劣化診断装置であって、
前記触媒劣化判定手段は、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの再生中、当該ディーゼルパティキュレートフィルタを再生するためのポスト噴射の積算量であるポスト噴射積算量とディーゼルパティキュレートフィルタで燃焼したスートの積算量である燃焼スート積算量との情報に基づき、前記ポスト噴射積算量に対する前記燃焼スート積算量の比率が所定閾値よりも低くなったとき、前記酸化触媒が劣化していると判定する
内燃機関の触媒劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化触媒及びディーゼルパティキュレートフィルタを備えた内燃機関の触媒劣化診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどの内燃機関では、内燃機関から排出される排気ガスを浄化する排気浄化装置が設けられている。排気浄化装置は、内燃機関の排気通路上に配置されており、酸化触媒やディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、略して「DPF」ともいう)などが設けられている。
【0003】
例えばディーゼルエンジンの燃料である軽油は硫黄成分が含まれており、硫黄成分が高い軽油が使用される場合がある。そのような場合、硫黄成分が酸化触媒の表面の活性点に吸着・堆積されることによって、酸化触媒の浄化率が低下したり劣化したりすることが知られている。
【0004】
このような酸化触媒の劣化状態を診断するものとして、特許文献1が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-109070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、DPFにスート(煤)が溜まると、いわゆるポスト噴射を行い、DPFの上流の酸化触媒で燃料を燃焼させてDPFに流入する排気ガス温度を上昇させ、高温の排気ガスでディーゼルパティキュレートフィルタ内のスートを燃焼させる。
【0007】
しかし、酸化触媒が劣化すると、DPFの再生時にポスト噴射してもディーゼルパティキュレートフィルタの入口側の温度が目論見通りに上昇しない等の懸念が生じる。ディーゼルパティキュレートフィルタの入口側の温度が再生温度に達しない場合、設定した再生温度に到達させるようフィードバック制御が実行されるが、ポスト噴射量が必要以上増加することにより、燃費の悪化の原因となり得る。
【0008】
本件の目的は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、硫黄成分の吸着・堆積などによる酸化触媒の劣化を新たな観点から診断することにより、酸化触媒の劣化を早期に発見できるようにした内燃機関の触媒劣化診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件は上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現できる。
本適用例に係る内燃機関の触媒劣化診断装置は、内燃機関から排出された排気ガスを浄化するために排気通路に設けられ排気ガス中の成分を酸化させる酸化触媒と、当該酸化触媒よりも前記排気通路の下流側に設けられるディーゼルパティキュレートフィルタと、前記酸化触媒の劣化を判定する触媒劣化判定手段と、からなる内燃機関の触媒劣化診断装置であって、前記触媒劣化判定手段は、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの再生中、当該ディーゼルパティキュレートフィルタを再生するためのポスト噴射の積算量であるポスト噴射積算量とディーゼルパティキュレートフィルタで燃焼したスート(煤)の積算量である燃焼スート積算量との情報に基づき、前記ポスト噴射積算量に対する前記燃焼スート積算量の比率が所定閾値よりも低くなったとき、前記酸化触媒が劣化していると判定する。
【0010】
本適用例によれば、硫黄成分の吸着・堆積などによる酸化触媒の劣化を新たな観点から診断することができ、酸化触媒の劣化を早期に発見することができる。
【発明の効果】
【0011】
本件によれば、酸化触媒の劣化を新たな観点から診断することにより、酸化触媒の劣化を早期に発見できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る内燃機関とその吸排気系及び触媒劣化診断装置を示す概略構成図である。
図2】実施形態に係る触媒劣化診断装置による診断処理を説明するフローチャートである。
図3】実施形態に係る触媒劣化診断装置の判定閾値を示す図であり、(a)は自動再生時の判定閾値を示し、(b)は手動再生時の判定閾値を示す。
図4】実施形態に係る触媒劣化診断装置による診断を利用した車両の処理状況を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本件の実施形態について説明する。以下の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、この実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。下記の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、必要に応じて取捨選択でき、あるいは適宜組み合わせられる。
【0014】
[1.構成]
まず、図1の概略構成図を参照して、本実施形態に係る内燃機関の吸排気系の構成を説明する。なお、本実施形態では、内燃機関は車両に装備されるものとする。
図1に示すように、内燃機関1はディーゼル機関であり、複数(例えば4つ)の気筒11を備えて構成される。ただし、ここでは、そのうちの一つの気筒11のみを図示する。各気筒11には燃料噴射弁12が装備され、共通のコモンレール13から加圧燃料を供給され、開弁に伴って対応する気筒11の筒内に燃料を噴射する。
【0015】
なお、コモンレール13の上流には、高圧ポンプ14が接続される。燃料タンク15内の燃料(ここでは、軽油)は、燃料フィルタ16を介して高圧ポンプ14によって吸引加圧されコモンレール13に供給される。また、コモンレール13には、コモンレールから吐出される燃料の圧力を検出するレール圧センサ27が設けられている。
【0016】
内燃機関1の吸気側には吸気マニホールド17が装着され、吸気マニホールド17には、吸気通路20が接続される。吸気通路20には、上流側よりエアフィルタ21、吸入空気量を計測するエアフローセンサ22、ターボチャージャ60のコンプレッサ61、インタクーラ23、吸気温センサ24,スロットルバルブ25が設けられ、スロットルバルブ25の直下流には、EGR(排ガス再循環)通路40の下流端が合流接続されている。また、この合流接続部分の下流で吸気マニホールド17の上流には、吸気マニホールド17に進入する吸気の圧力を検出するインマニ圧センサ26が設けられている。
【0017】
内燃機関1の排気側には排気マニホールド18が装着され、排気マニホールド18には、排気通路30が接続される。排気通路30には、EGR通路40の上流端が分岐接続され、その下流に、コンプレッサ61と同軸上に連結されたターボチャージャ60のタービン62が設けられ、その下流には、排気ブレーキを作動させる排気フラップ31、触媒コンバータ50及び図示しない消音器がこの順に設けられている。
なお、EGR通路40の中間部には、EGRクーラ41が介装され、EGR通路40の下流の吸気通路20に合流接続される部分の直上流には、EGRバルブ42が設けられている。
【0018】
触媒コンバータ50には、上流側から酸化触媒(以下、DOCともいう)51,ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFともいう)52及び後段触媒(以下、CUCともいう)53がこの順に設けられている。
DOC51は、例えばハニカム型のセラミック担体上にプラチナ(Pt)等の貴金属からなる触媒層を担持して構成され、排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及びパティキュレート・マター(以下、PMともいう)中の可溶有機成分(以下、SOFともいう)を酸化反応させる。
【0019】
DPF52は、例えばハニカム型のセラミック担体からなり、その多数の排ガス通路の上流側と下流側の開口部を交互に閉鎖することにより、通路を形成している多孔質の壁を経て排ガスを流通させながら排ガス中のPMを捕集する。
CUC53は、DPF52で処理しきれずに残った成分(HC、CO)を酸化して除去する。
【0020】
また、DOC51の直上流には、DOC51に流入する排気の温度を検出する入口温度センサ32が設けられ、DOC51の直下流には、DOC51から流出する排気の温度を検出する出口温度センサ33が設けられている。さらに、その下流には、DPF52の直上流と直下流との差圧を検出する差圧センサ34が設けられている。
【0021】
なお、図1に示す内燃機関1の排気系の構成は一例であり、本件を適用しうる排気系の構成はこれに限るものではない。例えば排気系に排ガス中のNOxを浄化するNOx触媒等を備えてもよい。
【0022】
車両には、内燃機関1の各部を制御するECU(電子制御ユニット)7が設置されている。ECU7は、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等を記憶する記憶装置(ROM,RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えている。
【0023】
ECU7の入力側には、エアフローセンサ22、吸気温センサ24、インマニ圧センサ26、レール圧センサ27、DOC入口温度センサ32、DOC出口温度センサ33、DPF差圧センサ34、及び、その他の図示しないセンサ類(例えば、アクセル開度センサ、エンジン回転速度センサ、水温センサ、外気温センサ、外気圧センサ等)やスイッチ類(例えば、スタータースイッチ、オイルレベルスイッチ等)が接続され、各センサ類からの検出信号やスイッチ類からのオンオフ信号が入力される。
【0024】
また、ECU7の出力側には、燃料噴射弁12、定量高圧ポンプ14、スロットルバルブ25、EGRバルブ41、排気フラップ31や、図示しないグロープラグや警告灯が接続され、入力情報に基づいてそれぞれの作動が制御される。
つまり、ECU7は運転者のアクセル操作量(アクセル開度)やエンジン回転速度等の検出情報に基づいて燃料噴射量、噴射時期、コモンレール圧等の目標値を設定し、それらの値に基づいて燃料噴射弁12の駆動制御やコモンレール圧の調整等を実行して内燃機関1を運転する。
【0025】
内燃機関1の運転中には、内燃機関1からの排気ガスは排気マニホールド18から排気通路30に流入しDOC51を経て排気ガス中のHC、CO及び未燃燃料が燃焼されて、DPF52に流入する。DPF52では、その通路の壁を流通する際に含有するPMが捕捉され、その後、CUC53で余剰のHCやCOが酸化除去されて、大気中に排出される。
PMの捕集によりDPF52上のPM捕集量は次第に増加するが、捕集されたPMは、内燃機関1が所定の運転状態(例えば、排ガス温度が比較的高い運転状態)のときに、上流側のDOC51上での酸化反応により排ガス中のNOから生成されたNO2を酸化剤として利用して連続的に焼却除去される。
【0026】
また、このようなDPF52の連続再生作用が得られない運転状態が継続されると、DPF52でのPM捕集量が次第に増加して許容量を越えてしまう。このような状況を回避するため、PM捕集量に関連するパラメータのデータを常時モニタし、このモニタしたデータに基づいてPM捕集量を推定して、PM捕集量の推定値が許容量(閾値)に到達したら、DPF52上のPMを強制的に焼却除去する強制再生(以下、単に「再生」ともいう)を実施する。
【0027】
このPM捕集量の推定は、例えば、ECU7により内燃機関1の運転状態に基づいてDPF52に捕集されるPM量を逐次算出して積算することで求めることができ、このPM積算値がDPF52の許容量に基づいて設定されたPM量閾値以上になったら、PM捕集量が許容量に近づいたと推定し、強制再生を実施する。
【0028】
また、本実施形態では、これと並行して、PM捕集量の増加に伴って上昇するDPF52の前後差圧(DPF52での圧損)を差圧センサ34で検出し、この前後差圧に基づいて、前後差圧が所定の差圧閾値以上になったら、DPF52上のPMを強制的に焼却除去する強制再生を実施している。
【0029】
本実施形態では、これらに加えて、前回の再生後の内燃機関1の累積運転時間が所定時間以上になったら、DPF52上のPMを強制的に焼却除去する強制再生を実施している。つまり、PM積算値がPM量閾値以上になること、DPF52の前後差圧が差圧閾値以上になること、強制再生後の内燃機関1の累積運転時間が所定時間以上になること、の何れかが成立したら、強制再生を実施する。
【0030】
本実施形態では強制再生としてポスト(所謂レイトポスト)噴射を利用しており、メイン噴射後にポスト噴射を実行することによりDOC51上に未燃燃料を供給し、未燃燃料がDOC51上で酸化反応したときの熱により下流側のDPF52を目標温度(PMを焼却除去可能な温度)まで昇温してPMを焼却除去している。なお、強制再生は、出口温度センサ33により検出された出口温度ToutからDPF52のガス温度を推定し、このガス温度を上記目標温度に接近させるように行われる。
【0031】
なお、このようなDPF52の強制再生は、車両の走行中に自動で行われる(自動再生)が、車両停止時に、車両に装備された図示しない手動再生スイッチを操作することで、車両の停止中に手動で行うこと(手動再生)もできるようになっている。
【0032】
ところで、このように強制再生でのDPF52の昇温はDOC51の酸化機能に依存し、DOC51の劣化は強制再生の実行不能、ひいては排気ガス浄化性能や走行性能の低下に直結することから、本実施形態の車両では、ECU7に設けられた触媒劣化判定部(触媒劣化判定手段)71により、強制再生時(自動再生時及び手動再生時)にDOC51の劣化診断を実行している。以下、触媒劣化判定部71によるDOC51の劣化診断の詳細を説明する。
【0033】
本実施形態では、触媒劣化判定部71は、2つの診断手法でDOC51の劣化診断を実施する。
第1の診断手法(手法1)は、ポスト噴射によるDPF52の昇温状態に基づいた周知の劣化診断である。つまり、触媒劣化判定部71は、ポスト噴射を所定時間(又は、所定期間)実施しても、出口温度センサ33により検出されたDOC51の出口温度(=DPF52の入口温度)Toutが、所定の温度閾値以上に上昇しない場合、DOC51が十分に機能していないものとしてDOC51が劣化していると診断する。
【0034】
第2の診断手法(手法2)は、本件に特徴的な診断手法であり、ポスト噴射積算量に対する燃焼スート積算量の比率に基づいた劣化診断である。この劣化診断については、図2を参照して詳しく説明する。
【0035】
図2に示すように、触媒劣化判定部71は、DPF52の強制再生が始まったら、以下の各処理を行う。まず、DPF52を再生するためのポスト噴射の積算量であるポスト噴射積算量Apを算出する(ステップSS10)。DPF52の再生中には、内燃機関1の運転状態に応じてサイクル毎のポスト噴射量が設定されるので、これを積算することで、ポスト噴射積算量Apを算出することができる。
【0036】
また、ポスト噴射積算量Apと並行して、DPF52で燃焼したスート(煤)の積算量である燃焼スート積算量Asを算出する(ステップSS20)。燃焼スート量は、フィルタ温度、ガス流量、酸素流量、空気過剰率(λ)等に依存するので、これらのデータに基づいて、各サイクルにおける燃焼スート量を算出することができ、これらを積算することで、燃焼スート積算量Asを算出することができる。
【0037】
次に、ポスト噴射積算量Apに対する燃焼スート積算量Asの比率R(=As/Ap)を算出する(ステップSS30)。そして、算出した比率Rを予め設定された所定の閾値Rsと比較して、比率Rが閾値Rsよりも低いか否かを判定する(ステップSS40)。この結果、比率Rが閾値Rsよりも低くなったときに、DOC51が劣化していると判定する(ステップSS50)。また、比率Rが閾値Rsよりも低くなければ、DOC51は正常であると判定する(ステップSS60)。
このような処理は、強制再生中に、所定周期で繰り返して行われる。
【0038】
ただし、本実施形態では、閾値Rsは自動再生時と手動再生時とで異なる値が設定されている。これについて図3を参照して説明する。
なお、図3は横軸にポスト噴射積算量Ap及び再生時間(ポスト噴射時間)をとり、縦軸に燃焼スート積算量Asをとっており、図中の直線の傾きSが比率Rを示す。図3(a)は自動再生時の閾値Rs1に関し、図3(b)は手動再生時の閾値Rs2に関し、それぞれ説明するものである。
【0039】
図3(a),(b)に示すように、強制再生によってDPF52内のスートが完全燃焼すると傾きSは最大となるが、実際の強制再生では、理論上の完全燃焼までは至らず、一般的には傾きは完全燃焼時よりも小さくなる。この傾きは再生時のコンディションに左右され、コンディションがよければ完全燃焼の傾きに近づくが、コンディションが悪いほど、完全燃焼の傾きから離れて傾きは小さくなる。この原因となるコンディションには、内燃機関1の運転状態が含まれ、内燃機関1の運転状態が安定していれば傾きSは大きくなる傾向があり、内燃機関1の運転状態が変化すると傾きSは小さくなる傾向がある。また、このコンディションの中には、DOC51の性能も含まれ、DOC51の劣化に伴って傾きSも小さくなる。
【0040】
自動再生は、走行中において内燃機関1の様々な運転状況下で行われるので、コンディションが悪い場合もあり、一方、手動再生は、停止中に行われるので比較的安定して良好なコンディションで行われる。このため、図3(b)に示すように、自動再生時の傾きS(=S1)は手動再生時の傾きS(=S2)よりも小さくなる傾向があり、DOC51が劣化した場合にも、自動再生時の傾きSは手動再生時の傾きSよりも小さくなる。
そこで、本実施形態では、図3(a),(b)に示すように、自動再生時の閾値Rs1は手動再生時の閾値Rs2とは異なった別の値に設定している。これによって、自動再生時の誤検知をするリスクの低減を図っている。
【0041】
本劣化診断装置では、このような触媒劣化判定部71によるDOC51の劣化判定を利用して、図4に示すように車両の診断処理を行う。
つまり、DPF自動再生が開始されたら、DOC51の劣化診断を上記の第1の手法(手法1)と第2の手法(手法2)とを用いて実施する(ステップS10)。この場合の手法2では、自動再生時の閾値Rs1を用いる。手法1,手法2ともに劣化判定されなければ、DOC51は正常(劣化なし)と判定し、自動再生終了前であれば自動再生を継続し、自動再生終了タイミングであれば自動再生を完了する(ステップS20)。一方、手法1,手法2の何れかで劣化判定されれば、DOC51は劣化していると判定し、自動再生を禁止する(ステップS30)。
【0042】
本実施形態では、自動再生が禁止された時点では、手動再生の実行する可能性を残しており、手動再生の条件が成立してDPF手動再生が開始されたら、上記と同様に、DOC51の劣化診断を上記の第1の手法(手法1)と第2の手法(手法2)とを用いて実施する(ステップS40)。この場合の手法2では、手動再生時の閾値Rs2を用いる。手法1,手法2ともに劣化判定されなければ、DOC51は正常(劣化なし)と判定し、手動再生終了前であれば手動再生を継続し、手動再生終了タイミングであれば手動再生を完了する(ステップS50)。その後、自動再生時におけるエラー解除を行い(ステップS60)、自動再生を許可する(ステップS70)。一方、手法1,手法2の何れかで劣化判定されれば、DOC51は劣化していると判定し、手動再生を禁止し、警告ランプを点灯する(ステップS80)。そして、かかる状態にまで至った場合、本実施形態では整備工場への持ち込みを案内し、修理を実施する(ステップS90)。その後は、上記のステップS60及びステップS70の処理を行う。
【0043】
[2.作用及び効果]
本実施形態に係る内燃機関の触媒劣化診断装置は、上記のように構成されているので、周知の診断手法(手法1)に加えて、手法1とは異なる、ポスト噴射積算量に対する燃焼スート積算量の比率に基づいた劣化診断の手法(手法2)を用いてDOC51の劣化診断を実施するので、DOC51の劣化をより速やかに発見することができ、DOC51の劣化対応処理を速やかに行うことができると共に、効率の悪いポスト噴射の実施を抑制し、燃費の悪化を抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態では、自動再生時には自動再生時用の閾値Rs1を用い、手動再生時には手動再生時用の閾値Rs2を用いてDOC51の劣化診断を行うので、精度よく診断することができる。
【0045】
[3.その他]
以上、実施形態を説明したが、かかる実施形態は一例であり、本件の内燃機関の触媒劣化診断装置は、実施形態のものに限定されるものではない。
例えば、上記の実施形態では、手法1と手法2とを併用したが、本件に係る手法2のみを実施してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 内燃機関
7 ECU(電子制御ユニット)
11 気筒
12 燃料噴射弁
13 コモンレール
14 高圧ポンプ
15 燃料タンク
16 燃料フィルタ
17 吸気マニホールド
18 排気マニホールド
20 吸気通路
21 エアフィルタ
22 エアフローセンサ
23 インタクーラ
24 吸気温センサ
25 スロットルバルブ
26 インマニ圧センサ
27 レール圧センサ
30 排気通路
31 排気フラップ
32 DOC入口温度センサ
33 DOC出口温度センサ
34 DPF差圧センサ
40 EGR(排ガス再循環)通路
41 EGRクーラ
42 EGRバルブ
50 触媒コンバータ
51 酸化触媒(DOC)
52 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
53 後段触媒(CUC)
60 ターボチャージャ
61 ターボチャージャ60のコンプレッサ
62 ターボチャージャ60のタービン
71 触媒劣化判定部(触媒劣化判定手段)
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-01-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図2
【補正方法】変更
【補正の内容】
図2