(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077219
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】筆記板用油性インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20240531BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20240531BHJP
B43K 5/00 20060101ALI20240531BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C09D11/16
C01G49/00 A
B43K5/00
B43K8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189167
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000134589
【氏名又は名称】株式会社トンボ鉛筆
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 尚子
【テーマコード(参考)】
2C350
4G002
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA04
4G002AA06
4G002AE02
4G002AE05
4J039AD07
4J039BA13
4J039BA20
4J039BA36
4J039BA37
4J039BA39
4J039BC08
4J039BC20
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE33
4J039CA07
4J039EA26
4J039EA48
4J039FA07
4J039GA26
4J039GA34
(57)【要約】
【課題】従来の筆記板用油性インクと同等の筆記性および消去性を有し、かつ、筆記線を消去した際に発生する消しカスの回収を容易に行うことができる筆記板用油性インク組成物、および、前記筆記板用油性インク組成物を搭載した筆記板用油性マーキングペン、ならびに、筆記線を消去した際に発生する消しカスの回収方法を提供する。
【解決手段】少なくとも軟磁性粉末を全組成物中1~40質量%含み、さらに剥離剤、樹脂、有機溶剤および顔料を含有することを特徴とする筆記板用油性インク組成物、および、前記筆記板用油性インク組成物を搭載した筆記板用油性マーキングペン、ならびに、筆記板用油性インク組成物によって形成された筆記板上の筆記線を、消去具で消去する消去ステップと、前記消去ステップによって発生した消しカスを、軟磁性粉末に対して吸着能を有する吸着具で吸着する吸着ステップを含む消しカス回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも軟磁性粉末を全組成物中1~40質量%含み、さらに剥離剤、樹脂、有機溶剤および顔料を含有することを特徴とする筆記板用油性インク組成物。
【請求項2】
前記軟磁性粉末が、フェライト粉末または鉄を含む合金粉末から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の筆記板用油性インク組成物。
【請求項3】
前記鉄を含む合金粉末が、水アトマイズ法で製造されたものである、請求項2に記載の筆記板用油性インク組成物。
【請求項4】
前記剥離剤が、一塩基酸エステルおよび/または二塩基酸エステルである、請求項1に記載の筆記板用油性インク組成物。
【請求項5】
さらに界面活性剤を含有する、請求項1~4いずれかに記載の筆記板用油性インク組成物。
【請求項6】
請求項1~4いずれかに記載の筆記板用油性インク組成物を搭載してなる筆記板用油性マーキングペン。
【請求項7】
請求項1~4いずれかに記載の筆記板用油性インク組成物によって形成された筆記板上の筆記線を消去具で消去する消去ステップと、前記消去ステップによって発生した消しカスを、軟磁性粉末に対して吸着能を有する吸着具で吸着する吸着ステップを含むことを特徴とする消しカス回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記板用油性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の筆記板(ホワイトボード、ブラックボード)に使用されている油性マーキングペンに搭載されているインク組成物には、顔料、樹脂成分からなるインク剤と、透明油状成分の剥離剤とが含まれている。そして、当該マーキングペンで筆記した際には、筆記線の表側にインク剤からなる着色層が形成され、筆記線のボード側には前記着色層が剥離しやすくなるように剥離剤によって剥離層が形成される。筆記線を消去する際には、先ず着色層側から除去されるが、当該除去された着色層が消しカスとして発生する。すなわち、筆記板用油性マーキングペンの筆記線を消去した際には必ず消しカスが発生することになるが、当該消しカスがホワイトボードや消去具に溜まることで、ボード自体やその周辺に付着し、周囲を汚す問題があった。そこで、発生する消しカスの回収を容易にするため、磁性材料を含有する磁性インクに着目した。
【0003】
インク内に磁性材料を含有させた磁性インクを利用した技術は多岐にわたっている。例えば、紙幣、小切手、商品等の偽造防止用途や、切符、駐車券、手形等の情報書き込み用途等に用いられる印刷用インク等がある。その他にも、磁性インクを筆記具に搭載した例もある。例えば、特許文献1、特許文献2である。
【0004】
特許文献1には、フェライト類微粒子のN-ポリアルキレンポリアミン置換アルケニルコハク酸イミド吸着物を、アニオン界面活性剤の存在下で水中に分散させた水ベース磁性流体が開示されている。当該磁性流体は、湿潤式(中綿式)の筆記用、事務用ペン等として、アンダーライン、カラーペン、筆ペン等に用いられることが記載されている。(特許請求の範囲、段落[0013]等)。しかし、特許文献1は剥離剤を含まないため、筆記板に筆記した筆記線を消去具で消去できない恐れがあり、筆記板用には適さない。
【0005】
特許文献2には、磁性体、色素、樹脂および分散溶媒を組み合わせたビヒクルを主成分とし、前記磁性体がトリアリールメタン基本構造からなり、メチン炭素部位におけるラジカル濃度が少なくとも1017/gの強磁性有機高分子物質である磁性インクが開示されている。当該磁性インクは、印刷用、インクジェットプリンタ用、熱転写リボン用、ホットメルトプリンタ用に有用であるほかに、筆記具用としても有用であることが記載されている。(特許請求の範囲、段落[0001]等)。しかし、特許文献2は剥離剤を含まないため、筆記板に筆記した筆記線を消去具で消去できない恐れがあり、筆記板用には適さない。
【0006】
ホワイトボード等の筆記板に用いることができる油性インクにおいて、消去した筆記線から発生するカスを容易に回収するための磁性材料を含有するインクは、未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05-239489号公報
【特許文献2】特開平10-152636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の筆記板用油性インクと同等の筆記性および消去性を有し、かつ、筆記線を消去した際に発生する消しカスの回収を容易に行うことができる、筆記板用油性インク組成物の提供を課題とするものである。
また、本発明は、前記筆記板用油性インク組成物を搭載した筆記板用油性マーキングペンの提供を課題とするものである。
さらに、本発明は、筆記線を消去した際に発生する消しカスの回収方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、磁性材料としての軟磁性粉末、剥離剤、樹脂、有機溶剤および顔料を含有する筆記板用油性インク組成物を用いることで、従来の筆記板用油性マーキングペンと同等の筆記性、消去性を保持しつつ、ホワイトボード等の非吸着面に対して筆記した筆記線を消去した場合でも、磁石を近づけるだけで容易に消しカスを集めることができることを見出し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)少なくとも軟磁性粉末を全組成物中1~40質量%含み、さらに剥離剤、樹脂、有機溶剤および顔料を含有することを特徴とする筆記板用油性インク組成物。
(2)前記軟磁性粉末が、フェライト粉末または鉄を含む合金粉末から選ばれる少なくとも1種を含む、前記(1)に記載の筆記板用油性インク組成物。
(3)前記鉄を含む合金粉末が、水アトマイズ法で製造されたものである、前記(2)に記載の筆記板用油性インク組成物。
(4)前記剥離剤が、一塩基酸エステルおよび/または二塩基酸エステルである、前記(1)に記載の筆記板用油性インク組成物。
(5)さらに界面活性剤を含有する、前記(1)~(4)いずれかに記載の筆記板用油性インク組成物。
(6)前記(1)~(4)いずれかに記載の筆記板用油性インク組成物を搭載してなる筆記板用油性マーキングペン。
(7)前記(1)~(4)いずれかに記載の筆記板用油性インク組成物によって形成された筆記板上の筆記線を、消去具で消去する消去ステップと、前記消去ステップによって発生した消しカスを、軟磁性粉末に対して吸着能を有する吸着具で吸着する吸着ステップを含むことを特徴とする消しカス回収方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の筆記板用油性インク組成物によれば、従来の筆記板用油性マーキングペンと同等の筆記性、消去性を保持しつつ、かつ、軟磁性粉末を含有させたインク組成物から発生した消しカスに磁石を近づけることで、消しカス中の軟磁性粉末に磁場が印加されて磁化するため、磁石で容易に集めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の筆記板用油性インク組成物は、軟磁性粉末、剥離剤、樹脂、有機溶剤および顔料を含有することを特徴とする。以下、本発明の「筆記板用油性インク組成物」を「油性インク」と称し、当該油性インクを搭載した「筆記板用油性マーキングペン」を「油性マーキングペン」と称する。
【0014】
本発明において「筆記板」とは、ホワイトボード、ブラックボード、ガラス板、ホーロー板、ポリプロピレン等のプラスチック板等、筆記板用油性インク組成物で筆記したときにインクが浸透せずに表面上に筆記線(インク皮膜)が形成される、表面が非吸収面である被筆記体を言う。板状に限らず、シート状等でもよい。
【0015】
[軟磁性粉末]
本発明において、「軟磁性粉末」とは、軟質磁性材料を粉末状にしたものである。「軟質磁性材料」とは、小さな磁場でも容易に磁化され、ヒステリシス(磁気履歴曲線)が小さく保磁力も小さな高透磁率磁性材料のことである。(「金属用語辞典」、株式会社アグネ技術センター発行、初版第4刷、285頁、2013年発行「軟質磁性材料(soft magnetic material)」より)。
【0016】
軟磁性粉末は、本発明の筆記板用油性インク組成物を搭載した筆記板用油性マーキングペンで筆記した筆記線を消去具等で消去した際に発生する消しカスを、磁石に集め易くするために用いられる。つまり、磁石を消しカスに近づけることで、消しカス中の軟磁性粉末に磁場が印加され、磁化する。それによって、消しカスを容易に磁石に集めることができる。
【0017】
軟磁性粉末としては、従来公知の軟磁性粉末を用いることができる。具体的には、フェライト等の酸化鉄を主成分とする複合金属酸化物の粉末状物;軟鉄(鉄)の粉末状物;ケイ素鋼(鉄-ケイ素)、パーマロイ(鉄-ニッケル)、センダスト(鉄-ケイ素-アルミニウム)、パーメンジュール(鉄-コバルト)、Fe-Si-Cr系合金等の鉄を含む合金の粉末状物;アモルファス磁性合金、ナノクリスタル磁性合金等の特殊な微細構造の合金の粉末状物等が挙げられる。これらの中でも、入手容易性、取扱性等の点から、フェライトまたは鉄を含む合金の粉末を用いることが好ましい。これらの軟磁性粉末は、各々を1種単独で、または2種以上を併用して用いることができる。
【0018】
本発明の軟磁性粉末として用いられるフェライトは、組成式がMFe2O4(M:金属)で表されるスピネル型フェライトであり、鉄以外に含まれる金属としては、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛、銅等が挙げられる。例えば、Fe-Mn系フェライト、Mg-Zn系フェライト、Mn-Zn系フェライト、Mn-Mg系フェライト、Cu-Zn系フェライト、Ni-Zn系フェライト、Ba-Zn系フェライト、Ba-Mg系フェライト、Ba-Ni系フェライト、四酸化三鉄等の酸化鉄粉が挙げられる。
【0019】
なかでも、透磁率が高く保磁力が小さい、すなわち磁石を近づけると磁化され易いが、磁石を離すと磁化が元に戻る点で、マンガンを含むフェライト(Fe-Mn系フェライト、Mn-Zn系フェライト、Mn-Mg系フェライト)が好ましく、Fe-Mn系フェライトがより好ましい。
【0020】
Fe-Mn系フェライトは、Fe-Mn系フェライトを100質量%としたとき、Mnの含有量は、0.5~25質量%、より好ましくは3.0~20質量%、さらに好ましくは5.0~15質量%であることが好ましい。
【0021】
軟磁性粉末は、市販品を用いることができ、市販品としては、パウダーテック社、山陽特殊製鋼社、エプソンアトミックス社、JFEケミカル社、戸田工業社、日本重化学工業社、CIKナノテック社、キンセイマテック社、ALDRICH社等により製造されたものを挙げることができる。
【0022】
また、本発明の軟磁性粉末に用いられる鉄を含む合金粉末としては、例えば、Fe-Si系合金粉末、Fe-Si-Al系合金粉末、Fe-Cr系合金粉末、Fe-Si-Cr系合金粉末、Fe-Ni-Cr系合金粉末、Fe-Cr-Al系合金粉末、Fe-Ni系合金粉末、Fe-Ni-Mo系合金粉末、Fe-Ni-Mo-Cu系合金粉末、Fe-Co系合金粉末、あるいはFe-Ni-Co系合金粉末などの鉄合金系金属粉等が挙げられる。これらの中でも、入手容易性等の点から、Si、AlおよびCrから選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0023】
上記の合金粉末は、いかなる方法で製造されたものでも良く、アトマイズ法(例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法等)、還元法、カルボニル法、粉砕法等の各種粉末化法により製造されたもの等が挙げられる。
【0024】
なかでも、水アトマイズ法で製造されたものが好ましい。水アトマイズ法は、溶融金属に高速で噴射した水(アトマイズ水)を衝突させることにより、溶融金属を微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する方法である。水アトマイズ法で製造された金属粒子は、その製造過程で表面が酸化され、酸化鉄を含む酸化物層が自然に形成されるため、微小粉末を効率よく安価に製造することができる。水アトマイズ法により製造された一次粒子は、その形状が球形に近くなるため、液中での分散性のよい軟磁性粉末が得られる。
【0025】
さらに、水アトマイズ法では、溶融金属と水との接触を利用して粉末化するため、コア粒子の表面に適度な膜厚の酸化膜が形成される。その結果、適度な膜厚の酸化膜を備えるコア粒子を効率よく製造することができる。なお、酸化膜の厚さは、コア粒子の製造時、例えば溶融金属の冷却速度によって調整可能である。具体的には、冷却速度が遅くなるようにすることで、酸化膜を厚くすることができる。
【0026】
軟磁性粉末は、酸化鉄を主成分とする複合金属酸化物の粉末状物および鉄を含む合金の粉末状物から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、複合金属酸化物の粉末状物の1種または2種以上と、鉄を含む合金の粉末状物の1種または2種以上を併用しても良い。なかでも、フェライト粉末、または、鉄を含む合金粉末から選ばれる少なくとも1種を含むことが、より好ましい。
【0027】
軟磁性粉末の粒径(平均粒子径)は、0.1μm以上であることが好ましい。粒径が0.1μm未満であると、消去した際に、ボード上に薄く汚れが残る恐れがある。より好ましくは2μm以上、特に好ましくは4μm以上である。一方、軟磁性粉末の粒径は、50μm以下であることが好ましい。粒径が50μmを超える場合には、マーキングペン等の筆記具に用いた際にペン先の中で軟磁性粉末が詰まって筆記不能となる恐れがある。より好ましくは30μm以下、特に好ましくは20μm以下である。
平均粒子径は、レーザー回折法によって測定することができる。測定サンプルは、軟磁性粉末を超音波により水に分散させたものを好ましく使用することができる。
軟磁性粉末の粒子の形状は特に限定されないが、例えば真球状、扁平状、不定形等が挙げられる。
【0028】
軟磁性粉末の含有量は、油性インク組成物全量に対して1~40質量%であることが好ましい。含有量が1質量%(以下、「%」と略記する。)未満であると、消しカスを吸着するためにより強力な(磁力の高い)磁石が必要になり、実用的ではない。また含有量が40%を越える場合には、油性マーキングペンの筆記性を損なう恐れがある。より好ましくは3~37%、特に好ましくは7~35%である。
【0029】
軟磁性粉末は、分散性を高める観点から表面処理が施されていても良い。表面処理方法としては、表面処理剤による処理等が挙げられる。
表面処理剤としては、ビニルシラン系カップリング剤、フッ素含有シランカップリング剤、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、アルコキシシラン、オルガノシラザン化合物、チタネート系カップリング剤、(メタ)アクリル系カップリング剤等が挙げられる。表面処理剤は、1種単独または2種以上を併用してもよい。
【0030】
[剥離剤]
剥離剤は、後述する界面活性剤と合わせて油性インクの消去性付与剤として機能する。
剥離剤としては、筆記初期の消去性が高く、油性インク中での安定性が高い等の点から、一塩基酸エステル、二塩基酸エステルが好ましく用いられる。
具体的には、一塩基酸エステルとしては、イソオクタン酸セチル、ミリスチン酸イソセチル、パルミチン酸イソステアリル、パルミチン酸ブトキシエチル、ステアリン酸ブチル、イソステアリン酸イソセチル、ステアリン酸イソオクチル等が挙げられる。二塩基酸エステルとしては、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジトリデシル、アゼライン酸ジ(2-エチルヘキシル)、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、ドデカン二酸ジ(2-エチルヘキシル)等が挙げられる。これらは1種単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0031】
剥離剤の含有量は、油性インク組成物全量に対して、3~20%、好ましくは5~15%、さらに好ましくは7~13%とすることが望ましい。前記範囲において、剥離剤として高い効果が発現される。
【0032】
[樹脂]
樹脂は、従来公知の油性インクに用いられるものを使用することができる。具体的には、ニトロセルロース、エチルセルロース、テルペンフェノール、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、ロジンエステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独または2種以上を併用して用いてもよい。
これらの中でも、低級アルコール等の溶媒に容易に溶解する点から、ポリビニルブチラール樹脂が好ましい。ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコールにブチルアルデヒドを反応させることにより得られる、ビニルブチラール、酢酸ビニル、ビニルアルコールの共重合体である。
【0033】
樹脂の含有量は、油性インク組成物全量に対して1~10%であることが好ましい。当該範囲であれば、油性インクの筆記性、消去性、消しカス吸着性のいずれも損なう恐れがない。より好ましくは1~5%、特に好ましくは2~4%である。
【0034】
[有機溶剤]
有機溶剤は、従来公知の油性インクに用いられるものを使用することができる。
具体的には、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、tert-アミルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系有機溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル系有機溶剤;n-ヘプタン、n-オクタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の炭化水素系有機溶剤;メチルn-プロピルケトン、メチルn-ブチルケトン、ジ-n-プロピルケトン等のケトン系有機溶剤;酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系有機溶剤;γ-ブチロラクトン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種単独または2種以上を併用して用いてもよい。
これらの中でも、揮発性(低沸点)の溶剤が好ましく、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。低沸点溶剤を用いることにより、筆記板に筆記した際の筆記線の乾燥性に優れ、筆記後に筆記線を手で触っても未乾燥のインクが手に付着したり、筆記線以外の空白部分を汚したりすることがない。
【0035】
有機溶剤の含有量は、油性インク組成物全量に対して30%~90%であることが好ましい。当該範囲であれば、油性インクの乾燥性に優れ、手や筆記線以外の部分を汚す恐れがない。より好ましくは33%~87%、特に好ましくは、37%~85%である。
【0036】
[顔料]
顔料としては、従来公知の油性インクに用いられるものを使用することができる。例えば、無機顔料、有機顔料、加工顔料等を用いることができ、具体的には、カーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、キノフタロン系顔料、スレン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
【0037】
これらの顔料は、上記の樹脂等に練り込んで加工顔料(樹脂分散体)としておくことで、溶剤中に容易に分散できる。顔料と溶剤を混合分散した顔料分散液を使用してもよく、顔料分散液としては、具体的には、MICROPIGMO AMRD-2、MICROPIGMO AMGN-6、MICROPIGMO AMGN-8、MICROPIGMO AMBE-4、MICROPIGMO AMBE-8、MICROPIGMO AMBK-2、MICROPIGMO AMBK-8(以上、オリエント化学工業株式会社製)、CB-E8141、R202-E6141、B1-E5141、Y4-E5141、Y205-E6141(以上、大成化工株式会社製)等が挙げられる。これらの顔料分散液は、1種単独または2種以上を併用して用いてもよい。
【0038】
顔料の含有量は、特に制限はなく、顔料の溶解度や分散性に応じた量、又は、色相や濃度に適した量であれば良い。含有量が多すぎると筆記性能が悪くなり、少なすぎると筆記線の発色が悪くなるので、油性インク組成物全量に対して0.5~30%であることが好ましい。より好ましくは1~15%である。
【0039】
また本発明の効果を損なわない範囲で、前記顔料と共に公知の染料を併用してもよい。染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料や、それらの各種造塩タイプの染料等を用いることができる。具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1621、バリファーストレッド1308、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB-B、BASE OF BASIC DYES RO6G-B、BASE OF BASIC DYES VPB-B、BASE OF BASIC DYES VB-B、BASE OF BASIC DYES MVB-3(以上、オリエント化学工業株式会社製)、アイゼンスピロンブラックGMH-スペシャル、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、アイゼンスピロンブルーGNH、アイゼンスピロンブルー2BNH、アイゼンスピロンブルーC-RH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンレッドC-BH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンイエローC-2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH-スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー510、S.B.N.イエロー530、S.R.C-BH(以上、保土谷化学工業株式会社製)等が挙げられる。これらの染料の中でも、有機溶剤に溶解させ易い点で油溶性染料が好ましい。これらの染料は、1種単独または2種以上を併用して用いてもよい。
【0040】
本発明の筆記板用油性インク組成物は、上記各成分の他、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、界面活性剤、分散剤、無機塩類、乾燥防止剤、防錆剤、防黴剤等を適宜必要に応じて含有することができる。
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの硫酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル又はこれらの塩、ポリアルキレングリコールエステル等の化合物が例示できる。界面活性剤の含有量は、消去性付与の観点から0.1~5%であることが好ましい。前記範囲であれば、上記剥離剤との相乗効果により、消去性をより高めることができる。より好ましくは0.3~3%、さらに好ましくは0.5~1.5%である。
【0041】
本発明の筆記板用油性インク組成物は、上記各成分を所定量配合し、ホモミキサーもしくはディスパー等の撹拌機により撹拌混合することで得られる。さらに、必要に応じて、濾過や遠心分離等の方法によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
【0042】
本発明において、上記で得られた筆記板用油性インク組成物は、例えば、ペン先を筆記先端部に装着したマーキングペンに充填して用いられる。マーキングペンの構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ等のマーキングペン用ペン先を筆記先端部に備えており、マーキングペンの軸筒内部に収容した繊維束からなるインク吸蔵体にインクを含浸させ、筆記先端部にインクを供給する構造、前記軸筒内部に直接インクを収容し、櫛溝状のインク流量調節部材や繊維束からなるインク流量調節部材を介在させて筆記先端部に所定量のインクを供給する構造、前記軸筒内部に直接インクを収容して、弁機構により筆記先端部に所定量のインクを供給する構造等のマーキングペンが挙げられる。また、必要に応じて、軸筒内部に油性インク撹拌用のボール状の撹拌子を搭載していてもよい。
また、マーキングペンは、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式の他に、ノック式、回転式、スライド式等の出没機構を有し、軸筒内部にペン先を収容可能な出没式のマーキングペンであってもよい。
【0043】
本発明の油性インクで筆記板に筆記すると、筆記板表面は非吸収面なので、油性インクは筆記板に染みこむことなく有機溶剤が揮発乾燥して筆記板上に油性インク由来のインク皮膜が形成され、これが筆記線として視認される。このインク皮膜は、下側(筆記板側)に剥離剤の層が形成されるので筆記板表面への固着が弱く、消去具で擦ることでインク皮膜を筆記板から剥がし落とす(つまり、筆記線を消去する)ことができる。
消去具としては、従来公知のホワイトボード用消去具等を用いることができる。具体的には、スポンジやメラミン樹脂発泡体等の多孔体を使用したもの、極細繊維を使用した布やフェルト状のもの等が挙げられる。
【0044】
筆記板上の筆記線を消去すると、筆記板から剥離したインク皮膜が消しカスとなる。このとき、発生した消しカスの一部は消去具の多孔体や繊維に絡めとられて消去具に付着するが、大部分は筆記板上や周囲に散らばったり、筆記板が垂直に立ててある場合は床に落ちて散らばったりしてしまう。このように散らばった消しカスは、従来同様に箒や雑巾、掃除機等の清掃用具を使って回収してもよい。しかし、軟磁性粉末を含有する本発明の筆記板用油性インク組成物は、その筆記線(インク皮膜)から発生した消しカスも当然に軟磁性粉末を含有しており、消しカスに磁石を近づけることで消しカス中の軟磁性粉末に磁場が印加されて磁化するため、磁石を利用した「吸着具」に消しカスを吸着させて容易に集めることができる。
【0045】
すなわち、本発明の消しカス回収方法は、本発明の油性インクによって形成された筆記板上の筆記線を、消去具で消去する消去ステップと、前記消去ステップによって発生した消しカスを、軟磁性粉末に対して吸着能を有する吸着具で吸着する吸着ステップとを含む。
【0046】
吸着具は磁石そのままでもよいが、例えば磁石にスポンジ等を巻きつけたものにすれば、スポンジから磁石を離すだけで印加された磁場が無くなり、吸着した消しカスが容易に吸着具から離れるので、消しカスをゴミ箱等に廃棄しやすい。
【0047】
また、前記消去具の内部に磁石を内蔵して消去具と吸着具を兼ねるものにしてもよい。そうすると、筆記板の周囲や床に消しカスを散らすことなく筆記線の消去と同時に消しカスを吸着回収することができる。つまり、前記消去ステップと前記吸着ステップを一度に行うことができる。
【0048】
吸着具に用いる磁石としては、特に限定されず、公知の永久磁石や電磁石を使用できる。永久磁石としては、例えば、フェライト磁石(セラミック磁石)、アルニコ磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジム磁石等の金属磁石、ゴム磁石、プラスチック磁石等のボンド磁石等が上げられる。これらの中でも、入手が容易で、コスト性、磁気安定性に優れるフェライト磁石、および小さいサイズでも強力な磁場を作り出すことができるネオジム磁石が好ましい。
【実施例0049】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1~9、比較例1~5)
表1に示す各成分を同表に示す配合割合(数字は質量%)で配合し、筆記板用油性インク組成物を作製した。作製方法は、まず有機溶剤と樹脂を加熱攪拌した後常温に戻し、その後、その他の成分を加え、ミキサー(シルバーソン社製、商品名「L4RT」)を用いて、1,500rpmで1時間撹拌して、表1に示す各成分を同表に示す配合割合(数字は質量%)の筆記板用油性インク組成物を得た。作製したインクを三菱鉛筆株式会社製、品名「PC-5M」のマーキングペンの撹拌子入り筐体に充填し、筆記板用油性マーキングペンを得た。
【0051】
得られた油性マーキングペンについて、筆記試験、筆記線の消去性試験、消しカスの吸着試験を実施した。試験方法は下記の通りである。試験結果を表1に示す。
なお、表1の性能評価結果において、「-」の記載は試験を行わなかったことを意味する。
【0052】
[筆記試験]
23℃60%RH環境下で、ホーロー製ホワイトボードに、直径約1cmの円を5個連続した螺旋を3行筆記し(合計15個の円)、筆記線のカスレの有無を目視で確認した。なお、筆記時には、油性マーキングペンを十分に振り、インクを撹拌させてから筆記試験を行った。
○:カスレがない。
×:カスレがある。
【0053】
[筆記線の消去性試験]
23℃60%RH環境下で、筆記面を上にして水平に置いたホーロー製ホワイトボードに、直径約1cmの円を5個連続した螺旋を3行筆記し(合計15個の円)、1分後に200gの重りを乗せたティッシュペーパー(消去具)を筆記線の上で移動させ、消去できるまでの回数を計測した。
◎:2回(1往復)以下の移動で完全に消去できた。
〇:6回(3往復)以下の移動で完全に消去できた。
△:6回(3往復)以下の移動で消去できたが、薄く汚れが残った。
×:6回(3往復)の移動でも消去できなった。
【0054】
[消しカス吸着試験]
23℃60%RH環境下で、筆記面を上にして水平に置いたホーロー製ホワイトボードに、直径約1cmの円を5個連続した螺旋を3行筆記し(合計15個の円)、1分後にEVAスポンジ(消去具)で筆記線を消去したのち、消しカスを一箇所に集めて、ネオジム磁石(モノタロウ、品番「NEO-角20×12×5」、寸法(mm)幅20×奥行12×高さ5、吸着力(N)58.8、表面磁束密度(T)0.30)に厚さ5mmのEVAスポンジを被覆した「吸着具」を徐々に近づけ、消しカスがボードから離れて吸着具に吸着するまでの距離を確認した。
○:ボードから吸着具のスポンジ表面までの距離が5mmで吸着する。
△:ボードから吸着具のスポンジ表面までの距離が2mmで吸着する。
×:ボードから吸着具のスポンジ表面までの距離が2mmでも吸着しない。
【0055】
【0056】
*1;軟磁性粉末A(Mn系フェライト粉、平均粒子径0.5μm、パウダーテック株式会社製)
*2;軟磁性粉末B(Mn系フェライト粉、平均粒子径5.3μm、パウダーテック株式会社製)
*3;軟磁性粉末C(水アトマイズ法Fe-Si-Cr系合金粉末、平均粒子径12.3μm、日本アトマイズ加工株式会社製)
*4;軟磁性粉末D(水アトマイズ法Fe-Si-Cr系合金粉末、平均粒子径17.0μm、日本アトマイズ加工株式会社製)
*5;MICROPIGMO AMBK-8(アルコールベース顔料、オリエント化学工業株式会社製)
*6;エスレックBL-1(ポリビニルブチラール、積水化学工業株式会社製)
*7;プライサーフA208N(リン酸エステル、第一工業製薬株式会社製)
【0057】
表1の結果より、本発明の筆記板用油性インクは、筆記性、消去性に優れ、消しカス吸着性にも優れることが分かる。これに対し、軟磁性粉末を全く含まない場合には当然のことながら消しカス吸着性は得られず(比較例1)、軟磁性粉末を極少量配合した場合も同様である(比較例4)。一方、軟磁性粉末を多量に含有する場合には筆記性が不十分となる(比較例3)。また、剥離剤を含まない場合(比較例2、5)には、消去性が不十分となる。
【0058】
また、実施例1~9の消しカス吸着試験において、吸着具に吸着した消しカスは、EVAスポンジからネオジム磁石を離すことで、容易に取り除くことができた。
本発明の筆記板用油性インク組成物は、ホワイトボード、ブラックボード等の筆記板用、ガラスやプラスチック等の非吸収面筆記に用いるマーキングペンに好適に利用することができる。