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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077226
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】皮膚の抗老化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20240531BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240531BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20240531BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240531BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240531BHJP
   A61K 36/47 20060101ALI20240531BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20240531BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61K8/67
A61P43/00 111
A61P17/00
A61K36/47
A61K31/355
A61P3/02 109
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189181
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】399071421
【氏名又は名称】株式会社実正
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100107939
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 由美子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AD661
4C083AD662
4C083CC02
4C083EE12
4C083FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA09
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC20
4C086ZC29
4C086ZC52
4C088AB46
4C088BA08
4C088BA32
4C088CA10
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC20
4C088ZC29
4C088ZC52
(57)【要約】
【課題】抗老化作用を有する皮膚の抗老化剤を提供すること。
【解決手段】皮膚の抗老化剤は、エラスターゼ活性阻害物質を含有する。エラスターゼ活性阻害物質は、サチャインチナッツから採取された物質である。サチャインチナッツからの採取方法は、例えば、超臨界CO抽出方法であることが特に好ましい.また、エラスターゼ活性阻害物質は、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、および、δ-トコフェロールからなる群から選ばれる少なくとも1つであることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラスターゼ活性阻害物質を含有し、前記エラスターゼ活性阻害物質が、サチャインチナッツから採取されたエラスターゼ活性阻害物質であること、及び/又は、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、および、δ-トコフェロールからなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする皮膚の抗老化剤。
【請求項2】
前記サチャインチナッツから採取されたエラスターゼ活性阻害物質が、低温圧搾法または超臨界抽出方法のいずれか1つの方法により採取された物質であることを特徴とする請求項1に記載の皮膚の抗老化剤。
【請求項3】
前記エラスターゼ活性阻害物質が、超臨界CO抽出サチャインチナッツ油であることを特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載の皮膚の抗老化剤。
【請求項4】
前記超臨界CO抽出サチャインチナッツ油の添加濃度が0.1mg/mL以上であることを特徴とする請求項3に記載の皮膚の抗老化剤。
【請求項5】
前記エラスターゼ活性阻害物質が、低温圧搾サチャインチナッツ油であり、該低温圧搾サチャインチナッツ油の添加濃度が0.25mg/mL以上、1mg/mL未満であることを特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載の皮膚の抗老化剤。
【請求項6】
前記エラスターゼ活性阻害物質がα-トコフェロール、γ-トコフェロール、および、δ-トコフェロールからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、前記エラスターゼ活性阻害物質の含有量が50μg/mL以上であることを特徴とする請求項1に記載の皮膚の抗老化剤。
【請求項7】
請求項1、2または6のいずれか1項に記載の皮膚の抗老化剤を含有することを特徴とする肌用製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の抗老化剤に関し、特に、エラスターゼ活性阻害効果を有する皮膚の抗老化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は表皮層と真皮層の二層からなり、下側の真皮層は水分を保持して皮膚の機能を支えている。この真皮層はコラーゲンやエラスチン等の細胞間マトリックスと真皮線維芽細胞で構成されている。
コラーゲンは、様々な組織において細胞外マトリックスの主成分として働く高分子タンパク質として知られており、線維性のI型コラーゲンは皮膚のハリや弾力を保ち、非線維性のIV型コラーゲンとVII型コラーゲンは、それぞれ基底膜の構成及び基底膜と真皮の接着という役割を担う。
エラスチンは、弾性線維とも称されるしなやかで伸縮性のある線維状タンパク質であり、真皮層においてコラーゲン線維束同士をつなぎ、皮膚の弾力を創出している。エラスチンは、加齢や紫外線の影響により壊れていって年齢と共に減少し、シワ形成の原因となることが分かっている。これは、加齢や紫外線暴露に伴ってエラスターゼが活性化することに起因するものであり、エラスターゼの活性を阻害することにより皮膚の抗老化が期待できるのである。
【0003】
本発明者らは、様々な方法で採取したサチャインチナッツオイル(サチャインチナッツ油)にエラスターゼ活性阻害効果があることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-202990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点に鑑み、なされたものであり、その目的は、エラスターゼ活性阻害機能を有する皮膚の抗老化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の皮膚の抗老化剤は、エラスターゼ活性阻害物質を含有し、前記エラスターゼ活性阻害物質が、サチャインチナッツから採取されたエラスターゼ活性阻害物質であること、及び/又は、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、および、δ-トコフェロールからなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする。
【0007】
本発明において、前記サチャインチナッツから採取されたエラスターゼ活性阻害物質は、低温圧搾法または超臨界抽出方法のいずれか1つの方法により採取された物質であることが好ましい。
【0008】
また、本発明において、前記エラスターゼ活性阻害物質は、超臨界CO抽出サチャインチナッツ油であることが好ましい。
【0009】
ここで、前記超臨界CO抽出サチャインチナッツ油の添加濃度は0.1mg/mL以上であることが好ましい。
【0010】
本発明において、前記エラスターゼ活性阻害物質は、低温圧搾サチャインチナッツ油であり、該低温圧搾サチャインチナッツ油の添加濃度が0.25mg/mL以上、1mg/mL未満であることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記エラスターゼ活性阻害物質は、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、および、δ-トコフェロールからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、前記エラスターゼ活性阻害物質の含有量は50μg/mL以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の肌用製品は、上記いずれかの皮膚の抗老化剤を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エラスターゼ活性阻害効果を促進することができる皮膚の抗老化剤を提供することができる。また、本発明によれば、エラスターゼ活性阻害効果を有する肌用製品を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】異なる採取方法で採取したサチャインチナッツ油を添加したときのエラスターゼ活性阻害効果(酵素活性の割合(%))を示すグラフである。
図2】超臨界CO抽出サチャインチナッツ油の添加濃度の違いによるエラスターゼ活性阻害効果(酵素活性の割合(%))を示すグラフである。
図3】低温圧搾サチャインチナッツ油の添加濃度の違いによるエラスターゼ活性阻害効果(酵素活性の割合(%))を示すグラフである。
図4】α-トコフェロールを異なる濃度で実験系に添加したときのエラスターゼ活性阻害効果(酵素活性の割合(%))を示すグラフである。
図5】γ-トコフェロールを異なる濃度で実験系に添加したときのエラスターゼ活性阻害効果(酵素活性の割合(%))を示すグラフである。
図6】δ-トコフェロールを異なる濃度で実験系に添加したときのエラスターゼ活性阻害効果(酵素活性の割合(%))を示すグラフである。
図7】α-トコフェロール、γ-トコフェロール及びδ-トコフェロールを、それぞれ同一濃度で実験系に添加したときのエラスターゼ活性阻害効果(酵素活性の割合(%))を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の皮膚の抗老化剤は、サチャインチナッツから採取したエラスターゼ活性阻害物質を含有する。本発明者らは、様々な方法で採取したサチャインチナッツ油にエラスターゼ活性阻害物質が含まれていることを見出し、本発明を完成させたのである。
例えば、超臨界抽出法、低温圧搾法などにより採取されたサチャインチナッツ油を含有するものを皮膚の抗老化剤として用いることができる。
【0016】
以下に、低温圧搾法、ヘキサン抽出法、エタノール抽出法および超臨界抽出法について説明する。
低温圧搾法とは、材料に熱を加えずに比較的低い温度で、圧力をかけてオイル(油)を搾り取る方法であり、例えば、材料にゆっくり時間をかけて圧力を加え、摩擦熱の発生を抑える工夫をし、最高でも60℃を超えないように管理してオイルを採取することができる。低温圧搾法は、食用油の採取方法としては最も一般的である。低温圧搾法により得られるサチャインチナッツ油(低温圧搾サチャインチナッツ油)は、サチャインチの種実に、熱を加えずに圧力をかけて搾り取られた油(オイル)である。
【0017】
ヘキサン抽出法とは、材料をn-ヘキサンに浸漬して材料中の油(オイル)を溶出させ、その後、揮発性の高いn-ヘキサンのみを蒸発させる方法であり、一般的に低温圧搾法よりも油の採取効率が高いが、溶剤の残存が不安だとも言われている。n-ヘキサン抽出法により得られるサチャインチナッツ油(n-ヘキサン抽出サチャインチナッツ油)は、例えば、サチャインチナッツ粉末をn-ヘキサン中で攪拌し、濾過した後、シリンジフィルターを通し、その後、インキュベーター中に静置し、さらにロータリーエバポレーターを用いてn-ヘキサンを蒸発させて残った液体を回収することにより得られる。
【0018】
エタノール抽出法とは、n-ヘキサンの替わりにエタノールを用いて抽出する方法であり、油の採取方法としては一般的ではないが、ヘキサン抽出法と同じ原理で油を採取することができる。エタノール抽出法により得られるサチャインチナッツ油(エタノール抽出サチャインチナッツ油)は、例えば、サチャインチナッツ粉末をエタノール中で攪拌し、濾過した後、シリンジフィルターを通し、その後、ロータリーエバポレーターを用いてエタノールを蒸発させ、液体残渣を遠心分離機にかけて分離し、上清を回収することにより得られる。
【0019】
超臨界CO抽出法は、超臨界COを溶媒として用いた抽出法であり、この超臨界COは温度と圧力をかけて超臨界状態にした二酸化炭度であり、油(オイル)を抽出する新しい溶媒として近年注目されている。超臨界CO抽出法により採取されるサチャインチナッツ油(超臨界CO抽出サチャインチナッツ油)は、例えば粉体状のサチャインチナッツを超臨界抽出システムに充填して、超臨界CO抽出サチャインチナッツ油を得ることができる。なお、サチャインチナッツ粉末の粒径は10~10000μmであることが好ましく、更に好ましくは、50~5000μmである。粉体状のサチャインチナッツは、例えば商業的に入手したサチャインチナッツをグラインダー等を用いて粉体状にすることができる。
【0020】
超臨界CO抽出システムを用いて抽出物(サチャインチナッツ油)を得る場合には、温度、圧力、COの流速を所定条件に設定する必要があり、温度は25℃~150℃の範囲内であり、好ましくは32℃~120℃の範囲内であり、更に好ましくは40℃~100℃の範囲内である。また、圧力は5MPa~40MPaの範囲内であり、好ましくは7.5MPa~40MPaの範囲内であり、更に好ましくは15MPa~25MPaの範囲内である。また、COの流速は1mL/min~40mL/minの範囲内であることが好ましい。
なお、本発明においては、本発明の効果を発揮する限りにおいて、超臨界CO抽出物は亜臨界CO抽出物も含むものとする。
【0021】
低温圧搾法、超臨界抽出法などにより採取されたサチャインチナッツ油は、エラスターゼ活性を阻害する効果を有するエラスターゼ活性阻害物質であり、アンチエイジング化粧品などの原料となる。特に、超臨界CO抽出法により採取されたサチャインチナッツ油は、エラスターゼ活性を阻害する効果が非常に高いという利点を有する。例えば、超臨界CO抽出サチャインチナッツ油は、少なくとも、エラスターゼの活性を効率よく阻害することができるので、これを単独で用いることにより、あるいは他の有効成分と組み合わせて用いることにより、有望なアンチエイジング化粧品などの原料となることができる。
【0022】
本発明のエラスターゼ活性阻害物質を含む皮膚の抗老化剤は、皮膚に直接塗布等することにより効果を実現することができ、例えば、該皮膚の抗老化剤を肌用製品に含有させることにより、皮膚の抗老化を実現することができる。
【0023】
本発明において、肌用製品とは、人体の皮膚等に適用される製品(化粧料)であり、基礎化粧品、メーキャップ化粧品、洗顔石鹸やボディー石鹸、ボディー乳液等のボディーケア商品などの化粧品類のみならず、医薬部外品に分類される薬用化粧品なども含む。
【実施例0024】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0025】
(試料の調製)
(1)低温圧搾サチャインチナッツ油
サチャインチナッツ(タイ産)を今川製菓株式会社より商業的に入手した。このサチャインチナッツを低温圧搾機によって圧搾し、採取された粗圧搾油を4000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を1.0μmのシリンジフィルターに通した後、再度0.22μmのシリンジフィルターに通して得られた液体を低温圧搾サチャインチナッツ油として用いた。
【0026】
(2)超臨界CO抽出サチャインチナッツ油
サチャインチナッツ(タイ産)を今川製菓株式会社より商業的に入手した。このサチャインチナッツをグラインダーで粉砕し、このサチャインチナッツの粉末3.0gを、日本分光株式会社製の超臨界抽出システムに充填し、温度40℃、圧力20MPa、CO流速3.0mL/分の条件で超臨界COを抽出溶媒として処理を行い、得られた液体を超臨界CO抽出サチャインチナッツ油として用いた。
【0027】
(3)エタノール抽出サチャインチナッツ油
サチャインチナッツ(タイ産)を今川製菓株式会社より商業的に入手した。このサチャインチナッツをグラインダーで粉砕し、このサチャインチナッツの粉末30.0gを容器に入れ、これに90mLのエタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加え、室温にて3晩撹拌した。撹拌終了後、上清を濾紙により濾過し、液体は更に孔径0.22μmのシリンジフィルターを通してからロータリーエバポレーターにてエタノールを蒸発させた。液体と固体の残渣のうち、液体に4000rpmで10分間遠心分離を行い、上清をエタノール抽出サチャインチナッツ油として回収した。
【0028】
(4)ヘキサン抽出サチャインチナッツ油
サチャインチナッツ(タイ産)を今川製菓株式会社より商業的に入手した。このサチャインチナッツをグラインダーで粉砕し、このサチャインチナッツの粉末30.0gを容器に入れ、これに90mLのn-ヘキサン(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加え、室温にて2晩撹拌した。撹拌終了後、上清を濾紙により濾過し、液体は更に孔径0.22μmのシリンジフィルターを通した後、40℃インキュベーター中に一晩静置し、さらに、その後、ロータリーエバポレーターにてn-ヘキサンを蒸発させた。n-ヘキサン蒸発後に残った液体をヘキサン抽出サチャインチナッツ油として回収した。
【0029】
(5)各種トコフェロール
α-トコフェロールは富士フィルム和光純薬株式会社より商業的に入手し、γ-トコフェロールおよびδ-トコフェロールは、それぞれシグマアルドリッチ社より商業的に入手した。
【0030】
試験例1
(エラスターゼ活性阻害効果の測定)
上記“試料の調製”の操作において作製した各試料、超臨界CO抽出サチャインチナッツ油、低温圧搾サチャインチナッツ油、ヘキサン抽出サチャインチナッツ油、および、エタノール抽出サチャインチナッツ油を、それぞれ、ジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide、以下「DMSO」と称すこともある)(富士フィルム和光純薬株式会社製)に溶解し、所定の濃度となるように0.2M Tris-HCL(pH8.0)に加えた(サチャインチナッツ油の濃度に係わらず0.2M Tris-HCL(pH8.0)に加えるDMSOの量が常に一定になるようにした)。これを比色用96穴プレートのwell中で1mMのN-スクシニル-Ala-Ala-Ala-p-ニトロアニリド(N-Succinyl-Ala-Ala-Ala-p-nitroanilide)(シグマアルドリッチ社製)及び0.75U/mL エラスターゼブタ膵臓由来(富士フィルム和光純薬株式会社製)と2:1:1の割合で混合し、すなわち、所定濃度のサチャインチナッツ油:N-スクシニル-Ala-Ala-Ala-p-ニトロアニリド:エラスターゼブタ膵臓由来=2:1:1の割合で混合し、37℃で反応させた後、試験液(各試料添加群)をマイクロプレートリーダー(CHIROMATE MODEL 4300, Awareness Technology Inc., FL)で405nmの吸光度を測定した。また、 DMSОのみを混合した0.2M Tris-HCL(pH8.0):N-スクシニル-Ala-Ala-Ala-p-ニトロアニリド:エラスターゼブタ膵臓由来=3:1:1の割合で混合し、37℃で反応させて得られた対照の液(対照群)についても、同様にして吸光度を測定した。ただし、対照群および各試料添加群ともに、1群あたり5wellとした。
なお、上記超臨界CO抽出サチャインチナッツ油、低温圧搾サチャインチナッツ油、ヘキサン抽出サチャインチナッツ油、および、エタノール抽出サチャインチナッツ油をそれぞれ添加した試験液、及び対照の液から、酵素のみを除いたものをブランク(BLK)として吸光度を測定し、下記式により、エラスターゼ活性阻害効果として酵素活性の割合(%)を求めた。
【0031】
酵素活性の割合(%)={(各試験液の吸光度-各試験液のBLKの吸光度)/(対照の吸光度-対照のBLKの吸光度)}×100
【0032】
(統計処理)
測定データは、まずハートレイ検定により各群の値の等分散性を確認し、次に一元配置分散分析を行って、差がある可能性が示されたものに対しては、さらにチューキー法またはダネット法により各群の間の有意差の有無を確認した。
なお、実施例においては、後続する試験例においても、全て、同様の統計処理を行った。
【0033】
超臨界CO抽出サチャインチナッツ油、低温圧搾サチャインチナッツ油、ヘキサン抽出サチャインチナッツ油およびエタノール抽出サチャインチナッツ油をそれぞれ0.5mg/mLで上述の方法で加えたときのエラスターゼ活性阻害効果として、酵素活性の割合(%)を図1に示す。
図1から、超臨界CO抽出サチャインチナッツ油の群は、対照群に対し、顕著かつ有意な効果を示し、低温圧搾サチャインチナッツ油の群と比較しても有意にエラスターゼ活性を低下させており、優れたエラスターゼ活性阻害効果を有することが分かった。低温圧搾サチャインチナッツ油の群は、対照群と比較すると有意にエラスターゼ活性を低下させているがその効果は小さく、超臨界CO抽出サチャインチナッツ油よりもエラスターゼ活性阻害効果は劣っていることが分かった。一方、ヘキサン抽出サチャインチナッツ油およびエタノール抽出サチャインチナッツ油はいずれも対照とほぼ同等であり有意差は認められなかった。なお、超臨界CO抽出サチャインチナッツ油の群および低温圧搾サチャインチナッツ油の群はヘキサン抽出サチャインチナッツ油およびエタノール抽出サチャインチナッツ油の群に対し、有意差が認められることが分かった。
【0034】
試験例2
試験例1において、試料を超臨界CO抽出サチャインチナッツ油とし、その添加濃度をそれぞれ0.1mg/mL、0.25mg/mL、0.5mg/mL、1.0mg/mLとなるように変更した以外は試験例1と同様にして、エラスターゼ活性阻害効果として酵素活性の割合(%)を求めた。その結果を図2に示す。
【0035】
図2から、超臨界CO抽出サチャインチナッツ油の添加濃度が0.1mg/mL、0.25mg/mL、0.5mg/mL、1.0mg/mLのいずれの群においても、0と表示した対照群よりエラスターゼ活性を有意に減少させていることが分かった。そして、超臨界CO抽出サチャインチナッツ油のエラスターゼ活性阻害効果は濃度が0.5mg/mLまでは濃度依存的であり、0mg/mLに対して有意にエラスターゼ活性を阻害していた(0.5mg/mLでの阻害率が54.4%)が、それを超えると阻害効果が頭打ちになるように思われた。
【0036】
試験例3
試験例2において、試料を超臨界CO抽出サチャインチナッツ油の替わりに低温圧搾サチャインチナッツ油に変更した以外は試験例2と同様にエラスターゼ活性阻害効果(酵素活性の割合)を求めた。その結果を図3に示す。
【0037】
図3から、低温圧搾サチャインチナッツ油は、0.25mg/mLの群では0mg/mLの対象群に対して有意にエラスターゼ活性を阻害していた(阻害率:19.5%)が、それを超える濃度では阻害効果がほぼ頭打ちになるように思われた。なお、0.5mg/mLの群では阻害率が若干上がる(阻害率:22.4%)が、0.25mg/mLの群とほぼ同等であり、一方、1mg/mLの群では有意差が認められなくなった。
【0038】
試験例4
試験例1において、試料をα-トコフェロールとし、その添加濃度を、50μg/mL、100μg/mL、および150μg/mLに変更した以外は試験例1と同様にして、エラスターゼ活性阻害効果(酵素活性の割合)を求めた。その結果を図4に示す。
【0039】
図4から、α-トコフェロールの添加濃度が、50μg/mL、100μg/mL、150μg/mLのいずれの群においても、0と表示した対照群よりエラスターゼ活性を有意に減少させていることが分かった。そして、α-トコフェロールのエラスターゼ活性阻害効果は濃度依存的であることが分かった。
【0040】
試験例5
試験例4において、試料をα-トコフェロールの替わりにγ-トコフェロールに変更した以外は試験例4と同様にして、エラスターゼ活性阻害効果(酵素活性比の割合)を求めた。その結果を図5に示す。
【0041】
図5から、γ-トコフェロールの添加濃度が、50μg/mL、100μg/mL、150μg/mLのいずれの群においても、0と表示した対照群よりエラスターゼ活性を有意に減少させていることが分かった。そして、γ-トコフェロールのエラスターゼ活性阻害効果は濃度依存的であることが分かった。
【0042】
試験例6
試験例4において、試料をα-トコフェロールの替わりにδ-トコフェロールに変更した以外は試験例4と同様にして、エラスターゼ活性阻害効果(酵素活性比の割合)を求めた。その結果を図6に示す。
【0043】
図6から、δ-トコフェロールの添加濃度が50μg/mL、100μg/mL、150μg/mLのいずれの群においても、0と表示した対照群よりエラスターゼ活性を有意に減少させていることが分かった。そして、δ-トコフェロールのエラスターゼ活性阻害効果は濃度依存的であることが分かった。
【0044】
試験例7
試験例2において、試料を超臨界CO抽出サチャインチナッツ油の替わりに、それぞれ、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールに変更し、かつ、それぞれの添加濃度を150μg/mLに変更した以外は試験例2と同様にして、エラスターゼ活性阻害効果(酵素活性比の割合)を求めた。その結果を図7に示す。
【0045】
図7から、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールのいずれの群においても、0と表示した対照群よりエラスターゼ活性を有意に減少させており、これら3種類のトコフェロールのエラスターゼ活性阻害効果は同等であることが分かった。
【0046】
以上の結果から、超臨界CO抽出サチャインチナッツ油に非常に優れたエラスターゼ活性阻害効果が認められ、また、弱いながらも低温圧搾サチャインチナッツ油も有意にエラスターゼ活性を低下させていることが分かった。また、エタノール抽出サチャインチナッツ油およびヘキサン抽出サチャインチナッツ油にはエラスターゼ活性阻害効果が認められないことが分かった。これは、エラスターゼ活性阻害効果をもたらすサチャインチナッツ油中の有効成分は抽出法の違いにより変わってくることを示唆している。
その具体的な成分や、その成分の含有比率などは明らかではないが、サチャインチナッツ油には、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールが含有されていることが学術文献に報告されており、これら3種類のトコフェロールについてエラスターゼ活性阻害効果を求めたところ、エラスターゼ活性阻害効果を有することが本出願において初めて明らかにされた。すなわち、これら3種類のトコフェロールが、超臨界CO抽出サチャインチナッツ油および低温圧搾サチャインチナッツ油の有効成分である可能性、また、これらの含有量の差が超臨界CO抽出サチャインチナッツ油および低温圧搾サチャインチナッツ油のエラスターゼ活性阻害効果の差として現れる可能性があると考えられる。また、ヘキサン抽出サチャインチナッツ油およびエタノール抽出サチャインチナッツ油がエラスターゼ活性阻害効果を示さない理由として上記3種類のトコフェロールの含有量が原因である可能性も考えられる。したがって、本出願の結果から、上記3種類のトコフェロールを単独で、または適宜組み合わせてもエラスターゼ活性阻害剤として使用できるかも知れないと考えている。
【0047】
サチャインチは南米原産のトウダイグサ科の植物で、その種実からは良質なオイルが採れ、健康に良い食品としては知られていたが、サチャインチナッツ油がエラスターゼ活性阻害効果を有することについての学術的な報告はこれまでに全くなく、本出願において初めてその効果を見出し、サチャインチナッツ油の新しい機能を明らかにしたのである。また、サチャインチナッツ油の採取方法として超臨界抽出法を利用することも本願発明によって初めて見出されたものであり、しかも、超臨界抽出法によって得られたサチャインチナッツ油は、特に優れたエラスターゼ活性阻害効果を発揮することも本出願によって初めて見出されたのである。
これらの効果は、サチャインチナッツ油を経口摂取した場合でも期待できるが、皮膚に直接塗布することによって、より素早く効果が現れるものと予想される。
上記したように、本出願においては、様々な方法により採取したサチャインチナッツ油を開示しているが、例えば超臨界CO抽出サチャインチナッツ油は特に有意なエラスターゼ活性阻害効果をもたらすことが分かり、エラスターゼ活性阻害効果をもたらすサチャインチナッツ油中の有効成分は、抽出法の違いにより有効成分の含有比率が変わってくること、あるいは、有効成分が含有されるか否かが変わってくることと推定される。また、本出願により、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールがエラスターゼ活性阻害効果の有効成分である可能性が示唆されたと考えられ、これら3種類のトコフェロールのいずれかを単独で、あるいは組み合わせて、更には超臨界CO抽出サチャインチナッツ油などとも組み合わせてエラスターゼ活性阻害剤として使用できる可能性も示唆されたと考える。すなわち、超臨界CO抽出サチャインチナッツ油および低温圧搾サチャインチナッツ油のみならず、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールは、有意なエラスターゼ活性阻害効果を有し、今後、抗老化化粧料の素材としての活用が期待されるのである。
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