(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077252
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】渦電流解析方法、渦電流解析装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16Z 99/00 20190101AFI20240531BHJP
【FI】
G16Z99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189225
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 修司
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】時間的に変化する磁場の中に電気伝導体を置いたときに発生する渦電流を、数値的に求めることが可能な渦電流解析方法を提供する。
【解決手段】解析空間内に定義される解析対象物を複数の体積要素に分割し、複数の体積要素のそれぞれに磁気モーメントを付与する。解析対象物に外部から印加する外部磁場を定義する。複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメント、及び外部磁場に基づいて、複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルを計算する手順と、複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルに基づいて、渦電流を計算する手順と、複数の体積要素のそれぞれの位置における誘導磁場を計算する手順と、誘導磁場に基づいて、複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメントを更新する手順とを繰り返す。ベクトルポテンシャルを計算する手順において、解析対象物の表面における渦電流の法線方向の成分がゼロになる束縛条件を課す。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析空間内に定義される解析対象物を複数の体積要素に分割し、
前記複数の体積要素のそれぞれに磁気モーメントを付与し、
前記解析対象物に外部から印加する外部磁場を定義し、
前記複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメント、及び前記外部磁場に基づいて、前記複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルを計算する手順と、
前記複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルに基づいて、渦電流を計算する手順と、
前記複数の体積要素のそれぞれの位置における誘導磁場を計算する手順と、
前記誘導磁場に基づいて、前記複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメントを更新する手順と
を繰り返し、
前記ベクトルポテンシャルを計算する手順において、前記解析対象物の表面における渦電流の法線方向の成分がゼロになる束縛条件を課す渦電流解析方法。
【請求項2】
前記ベクトルポテンシャルを計算する手順において、
前記解析対象物の表面に沿うように複数の仮想的な粒子を配置し、前記複数の仮想的な粒子に電流を付与することにより、前記束縛条件を満たすベクトルポテンシャルを計算する請求項1に記載の渦電流解析方法。
【請求項3】
解析条件が入力される入力装置と、
前記入力装置に入力された解析条件に基づいて、渦電流解析を行う処理装置と
を備え、
前記処理装置は、
前記入力装置に入力された解析条件に基づいて、解析空間内に定義される解析対象物を複数の体積要素に分割し、
前記複数の体積要素のそれぞれに磁気モーメントを付与し、
前記解析対象物に外部から印加する外部磁場を定義し、
前記複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメント、及び前記外部磁場に基づいて、前記複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルを計算する手順と、
前記複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルに基づいて、渦電流を計算する手順と、
前記複数の体積要素のそれぞれの位置における誘導磁場を計算する手順と、
前記誘導磁場に基づいて、前記複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメントを更新する手順と
を繰り返し、
前記ベクトルポテンシャルを計算する手順において、前記解析対象物の表面における渦電流の法線方向の成分がゼロになる束縛条件を課す渦電流解析装置。
【請求項4】
前記処理装置は、前記ベクトルポテンシャルを計算する手順において、
前記解析対象物の表面に沿うように複数の仮想的な粒子を配置し、前記複数の仮想的な粒子に電流を付与することにより、前記束縛条件を満たすベクトルポテンシャルを計算する請求項3に記載の渦電流解析装置。
【請求項5】
解析空間内に定義される解析対象物を複数の体積要素に分割する機能と、
前記複数の体積要素のそれぞれに磁気モーメントを付与する機能と、
前記解析対象物に外部から印加する外部磁場を定義する機能と
をコンピュータに実現させるプログラムであって、
さらに、
前記複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメント、及び前記外部磁場に基づいて、前記複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルを計算する手順と、
前記複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルに基づいて、渦電流を計算する手順と、
前記複数の体積要素のそれぞれの位置における誘導磁場を計算する手順と、
前記誘導磁場に基づいて、前記複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメントを更新する手順と
を繰り返し実行する機能と、
前記ベクトルポテンシャルを計算する手順において、前記解析対象物の表面における渦電流の法線方向の成分がゼロになる束縛条件を課す機能と
を実現させるプログラム。
【請求項6】
前記ベクトルポテンシャルを計算する手順において、
前記解析対象物の表面に沿うように複数の仮想的な粒子を配置し、前記複数の仮想的な粒子に電流を付与することにより、前記束縛条件を満たすベクトルポテンシャルを計算する請求項5に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流解析方法、渦電流解析装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
解析対象物を複数の粒子で表し、外部磁場の時間変動により各粒子に誘起される誘導磁化と、誘導磁化に基づいた磁気モーメント同士の相互作用により得られる磁場とを用いて誘導磁場を数値的に演算する解析装置が公知である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気伝導体(導体)に、時間的に変化する磁場を印加すると、電磁誘導により渦電流が発生する。電磁アクチュエータの動作を解析する際に、渦電流を求めたい場合がある。本発明の目的は、時間的に変化する磁場の中に電気伝導体を置いたときに発生する渦電流を、数値的に求めることが可能な渦電流解析方法、渦電流解析装置、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一観点によると、
解析空間内に定義される解析対象物を複数の体積要素に分割し、
前記複数の体積要素のそれぞれに磁気モーメントを付与し、
前記解析対象物に外部から印加する外部磁場を定義し、
前記複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメント、及び前記外部磁場に基づいて、前記複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルを計算する手順と、
前記複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルに基づいて、渦電流を計算する手順と、
前記複数の体積要素のそれぞれの位置における誘導磁場を計算する手順と、
前記誘導磁場に基づいて、前記複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメントを更新する手順と
を繰り返し、
前記ベクトルポテンシャルを計算する手順において、前記解析対象物の表面における渦電流の法線方向の成分がゼロになる束縛条件を課す渦電流解析方法が提供される。
【0006】
本発明の他の観点によると、
解析条件が入力される入力装置と、
前記入力装置に入力された解析条件に基づいて、渦電流解析を行う処理装置と
を備え、
前記処理装置は、
前記入力装置に入力された解析条件に基づいて、解析空間内に定義される解析対象物を複数の体積要素に分割し、
前記複数の体積要素のそれぞれに磁気モーメントを付与し、
前記解析対象物に外部から印加する外部磁場を定義し、
前記複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメント、及び前記外部磁場に基づいて、前記複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルを計算する手順と、
前記複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルに基づいて、渦電流を計算する手順と、
前記複数の体積要素のそれぞれの位置における誘導磁場を計算する手順と、
前記誘導磁場に基づいて、前記複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメントを更新する手順と
を繰り返し、
前記ベクトルポテンシャルを計算する手順において、前記解析対象物の表面における渦電流の法線方向の成分がゼロになる束縛条件を課す渦電流解析装置が提供される。
【0007】
本発明のさらに他の観点によると、
解析空間内に定義される解析対象物を複数の体積要素に分割する機能と、
前記複数の体積要素のそれぞれに磁気モーメントを付与する機能と、
前記解析対象物に外部から印加する外部磁場を定義する機能と
をコンピュータに実現させるプログラムであって、
さらに、
前記複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメント、及び前記外部磁場に基づいて、前記複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルを計算する手順と、
前記複数の体積要素のそれぞれの位置におけるベクトルポテンシャルに基づいて、渦電流を計算する手順と、
前記複数の体積要素のそれぞれの位置における誘導磁場を計算する手順と、
前記誘導磁場に基づいて、前記複数の体積要素のそれぞれの磁気モーメントを更新する手順と
を繰り返し実行する機能と、
前記ベクトルポテンシャルを計算する手順において、前記解析対象物の表面における渦電流の法線方向の成分がゼロになる束縛条件を課す機能と
を実現させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
解析対象物の表面における渦電流の法線方向の成分がゼロになる束縛条件を課すことにより、渦電流の解析の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1Aは、円柱状の解析対象物の斜視図であり、
図1Bは、渦電流の解析結果を示す模式図である。
【
図2】
図2Aは、正四角柱状の解析対象物の斜視図であり、
図2Bは、渦電流の解析結果を示す模式図である。
【
図3】
図3Aは、四角柱状の解析対象物の高さ方向(z方向)に垂直な断面内における複数のビーズの分布を示す模式図であり、
図3Bは、解析対象物の表面のビーズ及び仮想的な粒子の一部を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施例による渦電流解析装置のブロック図である。
【
図5】
図5は、実施例による渦電流解析方法の手順を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、解析により得られた渦電流の分布を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施例による渦電流解析方法について説明する前に、
図1A~
図2Bを参照して、参考例による渦電流解析方法について説明する。
【0011】
[参考例]
図1Aは、円柱状の解析対象物10の斜視図である。解析対象物10が解析空間内に配置されている。解析対象物10は電気伝導性を有する磁性材料で形成されている。解析対象物10の高さ方向をz方向とするxyz直交座標系を定義する。
【0012】
参考例及び実施例では、解析対象物を複数の体積要素(以下、ビーズという。)に分割し、ビーズ間の磁気的相互作用を計算することにより、解析対象物内の磁場状態を求める。解析対象物10を構成するビーズの個数をN個とし、複数のビーズに0から順番に通し番号を付す。i番目のビーズ上のベクトルポテンシャルA
iは、以下の式で表される。
【数1】
【0013】
ここで、Aextは、外部から印加されたベクトルポテンシャル、μは透磁率、σは導電率、Aは、ビーズ上のベクトルポテンシャル、rは位置ベクトル、vは体積である。添え字のi、jは、それぞれビーズに付された通し番号である。式(1)の右辺のr’は、j番目のビーズの内部の点の位置ベクトルであり、積分の範囲は、j番目のビーズの内部領域である。
【0014】
【0015】
式(1)を用いて円筒状の解析対象物10(
図1A)の渦電流解析を行った。導電率σを10
6S/m、円柱の半径を10mm、高さを100mmとした。振幅1T、周波数50Hzのz方向の外部磁束密度を、解析対象物10が配置された解析空間の全域に与える。外部磁束密度B
extと外部ベクトルポテンシャルA
extとは、以下の関係を有する。
【数3】
【0016】
図1Bは、渦電流の解析結果を示す模式図である。
図1Bは、解析対象物10のz軸に垂直な断面内の渦電流の分布を示す。
図1Bに示した矢印が、渦電流の向きを表す。ほぼ円周方向の渦電流が発生していることがわかる。解析対象物10の表面における渦電流の大きさは2.91MAであった。一般的な有限要素法を用いた解析結果との差は0.5%であった。
【0017】
図2Aは、四角柱状の解析対象物10の斜視図である。解析対象物10の高さ方向をz方向とし、1つの側面の法線方向をx方向とするxyz直交座標系を定義する。
【0018】
図2Bは、渦電流の解析結果を示す模式図である。
図2Bは、解析対象物10のz軸に垂直な断面内の渦電流の分布を示す。
図2Bに示した矢印が、渦電流の向きを表す。解析対象物10の表面において、渦電流が法線方向の成分を有していることがわかる。参考例による解析方法で、正四角柱状の解析対象物10の渦電流の解析を行った結果は、現実の物理現象を表しているとはいえない。これに対して一般的な有限要素法を用いて解析を行った結果では、解析対象物10の表面において、渦電流の法線方向の成分がほぼゼロであった。
【0019】
導体表面の法線ベクトルをnと標記すると、導体表面を流れる電流jは以下の式を満たさなければならない。すなわち、導体の表面を流れる電流の法線方向成分はゼロでなければならない。
【数4】
参考例による解析方法では、式(4)に相当する束縛条件を課していないため、解析結果と現実の物理現象との間に大きな差異が生じている。
図1Aに示した円筒状の解析対象物10の場合には、式(4)の束縛条件が自動的に満たされるため、高精度の解析が可能であったが、正四角柱状の解析対象物10(
図2A)の場合には、式(4)の束縛条件が満たされないため、精度の高い解析を行うことができない。
【0020】
[表面の渦電流の法線方向成分がゼロとなる束縛条件]
以下に説明する実施例では、式(4)の束縛条件を課して解析を行う。次に、
図3A及び
図3Bを参照して、式(4)の束縛条件を課す方法について説明する。
【0021】
図3Aは、四角柱状の解析対象物10のz方向に垂直な断面内における複数のビーズ20の分布を示す模式図である。解析対象物10の表面に位置するビーズ20の外側に、表面に沿うように複数の仮想的な粒子21を配置する。例えば、解析対象物10の表面を、1層分の複数の仮想的な粒子21で覆う。
【0022】
図3Bは、解析対象物10の表面のビーズ20及び仮想的な粒子21の一部を示す模式図である。i番目のビーズ20を流れる渦電流をj
iと標記すると、式(4)の束縛条件は、以下の式(5)で表される。
【数5】
【0023】
解析対象物10の表面のビーズ20について、式(5)と以下の式(6)との連立方程式を解き、仮想的な粒子21に流れる渦電流j
bを計算する。
【数6】
【0024】
ここで、kは、仮想的な粒子21に0から順番に付した通し番号であり、Nbは仮想的な粒子21の個数である。式(6)のrb’は、k番目の仮想的な粒子21の内部の点の位置ベクトルであり、式(6)の右辺第3項の積分の範囲は、k番目の仮想的な粒子21の内部の領域である。式(6)の右辺の第1項及び第2項は、式(1)の右辺の第1項及び第2項と同一である。
【0025】
式(5)及び式(6)の連立方程式の解法には、例えば反復法、ガウス消去法等を用いることができる。式(5)及び式(6)の連立方程式を解いて仮想的な粒子21に流れる渦電流jbが求まると、求まったjbと式(6)とから、解析対象物10の内部のビーズ20についても、ベクトルポテンシャルAiを計算する。これにより、表面の渦電流の法線方向成分がゼロとなる束縛条件を課したときのベクトルポテンシャルが求められる。
【0026】
次に、式(5)と式(6)との連立方程式を解く繰り返し計算の一例について説明する。
式(6)の右辺第2項のA
jドットは、以下の式で計算する。
【数7】
ここで、上付きの添え字nは、数値計算するときの実時間のタイムステップであり、上付きの添え字s+1は、反復計算のステップである。
【0027】
反復計算を行うための式(6)は、反復計算のステップs+1を導入して以下の式で表される。
【数8】
式(7)を用いてA
jドットを計算し、計算結果を式(8)の右辺第2項のA
jドットに代入する。式(8)を計算してA
i
s+1を計算する。計算結果を式(7)に代入してA
jドットを更新する。更新されたA
jドットを式(8)に代入してA
i
s+1を更新する。この手順を、A
i
s+1が変化しなくなるまで繰り返す。A
i
s+1が変化しなくなったら、そのときのA
i
s+1の値を、A
i
n+1とする。この反復計算により、A
iを実時間で1タイムステップ分更新することができる。
【0028】
次に、
図4を参照して、実施例による渦電流解析装置について説明する。
図4は、本実施例による渦電流解析装置30のブロック図である。本実施例による渦電流解析装置30は、処理装置31、入力装置32、出力装置33、及び記憶装置34を含む。処理装置31は、解析情報取得部311、磁化付与部312、演算部313、及び出力制御部314を含む。
【0029】
図4に示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータの中央処理ユニット(CPU)をはじめとする素子や機械装置で実現することができ、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現することができる。
図4では、ハードウェア及びソフトウェアの連携によって実現される機能ブロックが示されている。従って、これらの機能ブロックは、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせによって、種々の態様で実現することが可能である。
【0030】
処理装置31は入力装置32及び出力装置33と接続される。入力装置32は、処理装置31で実行される処理に関係するユーザからのコマンド及びデータの入力を受ける。入力装置32として、例えばユーザが操作を行うことにより入力を行うキーボードやマウス、インターネット等のネットワークを介して入力を行う通信装置、CD、DVD等のリムーバブルメディアから入力を行う読取装置等を用いることができる。
【0031】
解析情報取得部311は、入力装置32を介して渦電流解析のために必要な情報を取得する。渦電流解析のために必要な情報には、例えば、仮想空間内に定義される解析対象物10(
図1A、
図2A)の形状、解析対象物10を複数のビーズ20(
図3A、
図3B)に分割する情報、解析対象物10の物性値等が含まれる。
【0032】
磁化付与部312は、解析情報取得部311が取得した情報に基づき解析空間内の解析対象物10を複数のビーズ20に分割し、ビーズ20のそれぞれに磁化を付与する。複数のビーズ20の各々に、ビーズ20を特定するためのビーズ識別子(通し番号)が付与される。ビーズ20に付与する磁化は初期条件として付与してもよいし、後述する演算部313により求められた外磁場に基づいて各ビーズ20に発生する磁化を計算し、計算によって求められた磁化に基づく磁気モーメントを付与してもよい。なお、磁化は、ビーズ20内の全磁気モーメントのベクトル和の単位体積当たりの値であるから、ビーズ20ごとに求められた磁化から、ビーズ20に付与する磁気モーメントを求めることができる。磁化付与部312は、付与された磁気モーメントの情報をビーズ識別子と関連付けて、記憶装置34に格納する。
【0033】
演算部313は、ビーズ20に付与された磁気モーメント及び外部から与えられた外部磁場に基づいて、解析空間内の複数の観測点における磁場及び渦電流を計算し、計算結果を記憶装置34に格納する。観測点は、例えばビーズ20の各々の中心位置に配置する。演算部313が行う演算については、後に詳しく説明する。
【0034】
出力制御部314は、解析結果、例えば記憶装置34に格納されている観測点ごとの磁場及び渦電流の計算結果を、出力装置33に出力する。出力装置33として、例えばディスプレイ、リムーバブルメディア書き込み装置、通信装置等が用いられる。
【0035】
次に、実施例による渦電流解析方法において計算される種々の物理量の計算方法について説明する。なお、以下の計算方法については、特開2022-112214号公報に説明されているため、ここでは簡単に説明する。
【0036】
[磁性材料内の磁束密度、磁場ベクトル、磁化ベクトル、磁気モーメントの計算]
ビーズ20内の磁束密度、磁場ベクトル、磁束密度の時間微分値の計算について説明する。磁性体内部の位置r
iに生じる磁束密度は、以下の式で表すことができる。
【数9】
ここで、r
iは、任意の位置の位置ベクトルであり、H
o(r
i)は位置r
iにおける全外磁場ベクトルであり、M(H)は磁化ベクトルである。なお、磁化ベクトルM(H)は、磁場ベクトルHに依存する。α
iはi番目のビーズの位置における反磁場係数である。α
iの値はi番目のビーズの形状によって決定される。例えば、i番目のビーズの形状が真球の場合はα
i=1/3である。
【0037】
磁性体内の位置r
iにおける磁場ベクトルは以下の式で表される。
【数10】
磁束密度の時間微分値は、以下の式で表すことができる。
【数11】
ここで、χ(H)は磁気感受率であり、磁場ベクトルに依存する。
【0038】
全外磁場ベクトルH
o(r
i)は、以下の式で表される。
【数12】
ここで、H
m(r
i)は、磁性体内の磁気モーメントによる磁場ベクトルであり、H
ext(r
i)は、外部から印加される外部磁場ベクトルであり、H
ind(r
i)は、外部磁場が時間的に変化したときに解析対象物10に生じる誘導電流に起因する誘導磁場ベクトルである。
【0039】
式(9)及び式(10)の磁化ベクトルM(H)は、磁性材料が線形材料である場合、以下の式で表される。
【数13】
ここで、μ及びμ
0は、それぞれ磁性体の透磁率及び真空の透磁率である。磁性材料が非線形材料である場合、磁化ベクトルM(H)は、以下の式で表される。
【数14】
関数f(H)は、非線形磁性材料を特徴づける関数である。関数fが与えられれば、式(10)と式(14)とから、磁化ベクトルMを、全外磁場ベクトルH
o(r
i)の関数として記述することができる。
【0040】
i番目のビーズ内の磁束密度、及び磁束密度の時間微分値を求める場合には、式(9)及び式(11)の位置ベクトルriに、ビーズの中心位置を代入すればよい。解析対象物10が非磁性体である場合には、磁化ベクトルMはゼロであり、磁気感受率χもゼロである。
【0041】
磁性体が線形磁性材料である場合、式(12)の全外磁場ベクトルHo(ri)が求まると、式(13)から位置riにおける磁化ベクトルMを求めることができる。磁性体が非線形磁性材料である場合、式(10)と式(14)とを用いて磁化ベクトルMを全外磁場ベクトルHo(ri)の関数として記述した式から、位置riにおける磁化ベクトルMを求めることができる。位置riの磁化ベクトルMから、i番目のビーズに付与すべき磁気モーメントmiを求めることができる。
【0042】
[磁性体内の磁気モーメントによる外磁場の計算]
次に、磁性体内の磁気モーメントによる外磁場の計算方法について説明する。磁性体内の磁気モーメントによる外磁場Hmの計算方法については、特許第6249912号公報に詳細に説明されている。ここでは、磁性体内の磁気モーメントによる外磁場Hmの計算方法について簡単に説明する。
【0043】
仮想空間内のj番目のビーズに付与された磁気モーメントをm
jと標記する。磁気モーメントm
jはxyz直交座標系のそれぞれの成分を用いて以下のように表される。
【数15】
ここで、M
jは、j番目のビーズの磁化ベクトルであり、V
jは、j番目のビーズの体積である。
【0044】
位置r
iにおける外磁場ベクトルH
m(r
i)は、以下の式で表される。
【数16】
ここで、磁場ベクトルH(r
ij;m
jx)は、j番目のビーズに付与されている磁気モーメントm
jのx成分が、j番目のビーズから距離r
ijの位置に生じさせる外磁場ベクトルを意味する。距離r
ijは、位置ベクトルr
iで表される位置から、j番目のビーズの重心位置までの距離である。式(16)の右辺のシグマは、位置ベクトルr
iに位置するビーズ以外のj番目のビーズに付与されている磁気モーメントm
jからの作用を足し合わせることを意味する。磁場ベクトルH(r
ij;m
jx)等の詳細な計算方法については、特許第6249912号公報に説明されているため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0045】
[誘導磁場の計算]
次に、解析対象物10内の誘導磁場の計算方法について説明する。
i番目のビーズの重心位置r
iにおける誘導磁場ベクトルH
ind(r
i)を、以下の式を用いて計算することができる。
【数17】
【0046】
次に、
図5を参照して、実施例による渦電流解析方法の手順について説明する。
図5は、本実施例による渦電流解析方法の手順を示すフローチャートである。
図5に示した各ステップは、例えば、渦電流解析装置30(
図4)の処理装置31により実行される。
【0047】
まず、処理装置31が解析条件を取得する(ステップS1)。次に、解析条件に基づいて、解析対象物10(
図1A、
図2A)を複数のビーズに分割し、複数のビーズのそれぞれに磁気モーメントの初期値を付与する(ステップS2)。磁気モーメントの初期値は、例えばゼロである。
【0048】
次に、複数のビーズのそれぞれの位置における全外磁場Ho(ri)(式(12))、及びベクトルポテンシャルAi(式(6))を計算する(ステップS3)。ベクトルポテンシャルAiが求まると、複数のビーズのそれぞれの位置における渦電流ji(式(2))を計算する。
【0049】
次に、複数のビーズのそれぞれの位置における誘導磁場Hind(ri)(式(17))を計算する(ステップS5)。複数のビーズのそれぞれの位置の磁化ベクトルM(式(13)、式(14))から、ビーズのそれぞれに付与された磁気モーメントを更新する(ステップS6)。複数のビームのそれぞれの更新後の磁気モーメントを用いて、複数のビーズのそれぞれの位置において磁気モーメントによる磁場Hm(ri)(式(16))を計算する(ステップS7)。
【0050】
ステップS3からステップS7までの手順を、解析終了条件が満たされるまで繰り返す(ステップS8)。解析終了条件が満たされたら、解析結果、例えば渦電流の分布を出力装置33(
図4)に出力する(ステップS9)。
【0051】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、解析対象物10の表面における渦電流の法線方向成分がゼロになる束縛条件(式(5))を課して計算を行うため、解析結果は、導体の表面における電流の法線方向成分がゼロになるという条件を満たす。このため、より正確な渦電流の解析を行うことができる。
【0052】
次に、
図6を参照して、本実施例による渦電流解析方法を用いて実際に解析を行った結果について説明する。解析対象物10として、
図2Aに示した正四角柱状のものを採用した。解析対象物10が配置された解析空間に、大きさが時間的に変化するz軸方向に平行な外部磁場H
ext(式(12))を発生させた。
【0053】
図6は、解析により得られた渦電流の分布を示す模式図である。矢印の向きが、渦電流の向きを表している。解析対象物10の表面において、渦電流の法線方向の成分がほぼゼロになっていることがわかる。解析対象物10の表面における渦電流のピーク値と、一般的な有限要素法を用いて解析を行った結果から得られる渦電流のピーク値との差は、1.4%であり、両者はほぼ一致することが確認された。式(5)の束縛条件を課さないで解析を行った結果(
図2B)では、解析対象物10の表面における渦電流の法線方向成分がゼロになっていない。式(5)の束縛条件を課すことによって、より正確な渦電流の解析を行うことができることが確認された。
【0054】
上述の実施例は例示であり、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0055】
10 解析対象物
20 ビーズ(体積要素)
21 仮想的な粒子
30 渦電流解析装置
31 処理装置
32 入力装置
33 出力装置
34 記憶装置
311 解析情報取得部
312 磁化付与部
313 演算部
314 出力制御部