(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077271
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、シミュレーション方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20240531BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20240531BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20240531BHJP
【FI】
G06F30/23
B60C19/00 Z
G06F30/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189262
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕介
【テーマコード(参考)】
3D131
5B146
【Fターム(参考)】
3D131BB03
3D131BC55
3D131LA34
5B146AA05
5B146DJ01
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146DJ11
5B146DJ14
(57)【要約】
【課題】タイヤの接地性能を計算するシミュレーション装置において、簡易、かつより高い精度で接地性能を予測できるようにする。
【解決手段】シミュレーション装置20は、タイヤFEMモデルを取得するモデル取得部と、予圧解析部52と、接地解析部55とを含む。予圧解析部は、ベルト部材の弾性率を常温の弾性率より所定以上高く設定すると共に、予圧を、実際の前記予圧工程における実予圧の2.88~7.14倍に設定することを含む予圧解析条件に基づいてタイヤFEMモデルの予圧工程後の形状を計算する。接地解析部は、タイヤFEMモデルのベルト部材を除く各部材について予圧解析部で設定された物性値と同じ物性値を設定すると共に、ベルト部材の弾性率を常温の弾性率に設定することを含む接地解析条件と、予圧工程後のタイヤFEMモデルの形状とに基づいて、タイヤの接地性能を計算する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを取得するモデル取得部と、
前記タイヤの加硫成形直後に行う予圧工程を模擬した予圧解析を実行する予圧解析部と、
前記予圧工程後の前記タイヤの接地状態を模擬した接地解析を実行する接地解析部と、を備え、
前記予圧解析部は、ベルト部材の弾性率を常温の弾性率より所定以上高く設定すると共に、予圧を、実際の前記予圧工程における実予圧の2.88~7.14倍に設定することを含む予圧解析条件に基づいて前記タイヤFEMモデルの前記予圧工程後の形状を計算し、
前記接地解析部は、前記タイヤFEMモデルの前記ベルト部材を除く各部材について前記予圧解析部で設定された物性値と同じ物性値を設定すると共に、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率に設定することを含む接地解析条件と、前記予圧工程後の前記タイヤFEMモデルの形状とに基づいて、前記タイヤの接地性能を計算する、
シミュレーション装置。
【請求項2】
前記タイヤは、前記ベルト部材として3枚以上の前記ベルト部材を含むタイヤであって、トラックまたはバス用、または小型トラック用のタイヤである、
請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを取得するステップと、
前記タイヤの加硫成形直後に行う予圧工程を模擬した予圧解析を実行するステップと、
前記予圧工程後の前記タイヤの接地状態を模擬した接地解析を実行するステップと、を含み、
前記予圧解析は、ベルト部材の弾性率を常温の弾性率より所定以上高く設定すると共に、予圧を、実際の前記予圧工程における実予圧の2.88~7.14倍に設定することを含む予圧解析条件に基づいて前記タイヤFEMモデルの前記予圧工程後の形状を計算し、
前記接地解析は、前記タイヤFEMモデルの前記ベルト部材を除く各部材について前記予圧解析で設定された物性値と同じ物性値を設定すると共に、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率に設定することを含む接地解析条件と、前記予圧工程後の前記タイヤFEMモデルの形状とに基づいて、前記タイヤの接地性能を計算する、
シミュレーション方法。
【請求項4】
前記タイヤは、前記ベルト部材として3枚以上の前記ベルト部材を含むタイヤであって、トラックまたはバス用、または小型トラック用のタイヤである、
請求項3に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
コンピュータにおいて、請求項3に記載のシミュレーション方法を実行させるためのプログラム。
【請求項6】
前記タイヤは、前記ベルト部材として3枚以上の前記ベルト部材を含むタイヤであって、トラックまたはバス用、または小型トラック用のタイヤである、
請求項5に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの接地性能を計算するシミュレーション装置、シミュレーション方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、タイヤの接地性能を計算するシミュレーション装置であって、タイヤの加硫成形直後に行う予圧工程を模擬した予圧解析において、弾性率の温度依存性が低いベルト部材の弾性率のみを予圧工程で高くし、接地解析では常温の弾性率に設定するように、予圧解析と接地解析とで条件を変える装置が記載されている。これにより、接地解析の解析条件で、多くの部材の弾性率を再設定する手間を軽減できるので、予圧工程後のタイヤの外面形状を高精度かつ簡易に再現して接地解析を実行できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のシミュレーション装置では、予圧解析でベルト部材の剛性を実際の剛性よりも上げるので、予圧解析におけるタイヤの変形が小さくなり、タイヤ実物の形状の再現度が十分ではない可能性がある。このため、簡易、かつより高い精度で接地性能を予測する面から改良の余地がある。
【0005】
本発明の目的は、タイヤの接地性能を計算するシミュレーション装置、シミュレーション方法、及びプログラムにおいて、簡易、かつより高い精度で接地性能を予測できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るシミュレーション装置は、タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを取得するモデル取得部と、前記タイヤの加硫成形直後に行う予圧工程を模擬した予圧解析を実行する予圧解析部と、前記予圧工程後の前記タイヤの接地状態を模擬した接地解析を実行する接地解析部と、を備え、前記予圧解析部は、ベルト部材の弾性率を常温の弾性率より所定以上高く設定すると共に、予圧を、実際の前記予圧工程における実予圧の2.88~7.14倍に設定することを含む予圧解析条件に基づいて前記タイヤFEMモデルの前記予圧工程後の形状を計算し、前記接地解析部は、前記タイヤFEMモデルの前記ベルト部材を除く各部材について前記予圧解析部で設定された物性値と同じ物性値を設定すると共に、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率に設定することを含む接地解析条件と、前記予圧工程後の前記タイヤFEMモデルの形状とに基づいて、前記タイヤの接地性能を計算する、シミュレーション装置である。
【0007】
本発明に係るシミュレーション方法は、タイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルを取得するステップと、前記タイヤの加硫成形直後に行う予圧工程を模擬した予圧解析を実行するステップと、前記予圧工程後の前記タイヤの接地状態を模擬した接地解析を実行するステップと、を含み、前記予圧解析は、ベルト部材の弾性率を常温の弾性率より所定以上高く設定すると共に、予圧を、実際の前記予圧工程における実予圧の2.88~7.14倍に設定することを含む予圧解析条件に基づいて前記タイヤFEMモデルの前記予圧工程後の形状を計算し、前記接地解析は、前記タイヤFEMモデルの前記ベルト部材を除く各部材について前記予圧解析で設定された物性値と同じ物性値を設定すると共に、前記ベルト部材の弾性率を常温の弾性率に設定することを含む接地解析条件と、前記予圧工程後の前記タイヤFEMモデルの形状とに基づいて、前記タイヤの接地性能を計算する、シミュレーション方法である。
【0008】
本発明に係るプログラムは、コンピュータにおいて、本発明に係るシミュレーション方法を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るシミュレーション装置、シミュレーション方法及びプログラムによれば、予圧解析条件で設定する予圧を、実予圧に対し適切な範囲で高くできる。これにより、予圧解析でベルト部材を常温の弾性率より高い弾性率に設定するのにもかかわらず、タイヤ断面の外周部について主要な3点を通過するように設定される曲率半径(3点R)の解析値を、実際のタイヤの値に一致または近似させることができる。この曲率半径は、タイヤの接地性能に大きく影響する。このため、簡易、かつより高い精度で接地性能を予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施形態の1例のシミュレーション装置のブロック図である。
【
図3】実施形態の1例のシミュレーション方法を示すフローチャートである。
【
図4】予圧解析部において、予圧解析条件で設定する予圧と、3点Rの解析値の実測値に対する差の割合との関係を示すグラフである。
【
図5】予圧解析条件で設定した予圧を実予圧の5倍としたときの、予圧工程後のタイヤFEMモデルの断面図と、予圧工程後のタイヤの外面形状の実測値から得られたタイヤ断面図とを比較して示す図である。
【
図6】
図5において、曲率半径が3点Rである円弧を重ねた図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るシミュレーション装置、シミュレーション方法及びプログラムの実施形態の一例について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0012】
本実施形態のシミュレーション装置は、自動車等に用いられる空気入りタイヤの接地解析を簡易、かつより高い精度で行うものである。特に本実施形態では、予圧工程後のタイヤの形状を簡易、かつ高精度に再現し、その再現されたタイヤの形状に基づいて、タイヤに所定内圧及び所定荷重をかけて路面に接地させ、所定条件の下、接地性能を算出する。
【0013】
[タイヤの構成]
まず、
図1を用いて、空気入りタイヤ1の構成を説明する。
図1は、空気入りタイヤ1の一例の子午線断面図である。以下では、空気入りタイヤ1は、タイヤ1と記載する。なお、
図1では、断面を示すハッチングは省略している。また、以下では、タイヤ軸方向をXで、タイヤ径方向をYで示す場合がある。
【0014】
タイヤ1は、タイヤ本体10と、リム12とを備える。タイヤ本体10は、一対のビードコア13間にカーカス14が掛け渡され、カーカス14の中間部の外周側に巻き付けられたベルト部材15と、ベルト部材15のタイヤ径方向Y外側に設けられたトレッド16とを有する。ベルト部材15は、トレッド16を補強する。トレッド16のタイヤ軸方向X外側にはサイドウォール17が連続している。サイドウォール17のタイヤ径方向Y内側には、ビード18が連続している。ビード18において、タイヤ本体10がリム12と接続され。
【0015】
リム12は、タイヤ径方向Y外側に向かって開口した段付きの凹形状を有する凹み12aを含む。リム12は、アルミニウム合金製、マグネシウム合金製、または鋼鉄製などの金属製である。
【0016】
本例のシミュレーション装置は、上述の特許文献1に記載された構成と同様に、タイヤ本体10の外面形状を再現する際に予圧工程が考慮される。予圧工程は、タイヤ1の加硫成形後にタイヤを金型から取り出した後、自然冷却で温度低下するときに生じる熱収縮を避けるために、タイヤの加硫成形直後に、タイヤに予圧となる空気圧を付加して、タイヤの内圧を上げながら温度低下をさせる工程である。
【0017】
この際、シミュレーション装置は、予圧工程を模擬した予圧解析において、弾性率の温度依存性が低いベルト部材15の弾性率のみを予圧工程で常温の弾性率より高くし、接地解析では常温の弾性率に設定するように、予圧解析と接地解析とで条件を変える。これにより、接地解析の解析条件で、多くの部材の弾性率を再設定する手間を軽減しながら、タイヤの接地性能を予測できる。
【0018】
一方、予圧解析で単にベルト部材15の剛性を実際の剛性よりも上げた場合には、予圧解析におけるタイヤの変形が小さくなり、タイヤ実物の形状の再現度が十分ではない可能性がある。これにより、簡易、かつより高い精度で接地性能を予測する面から改良の余地がある。
【0019】
本発明の発明者は、このような問題について鋭意分析した結果、予圧解析でベルト部材15の剛性を実際の剛性よりも上げるのにもかかわらず、予圧解析条件で設定する予圧として実予圧を用いていることが、予圧解析でタイヤの変形が小さくなり、タイヤ実物の形状の再現度が十分ではないことの原因であると考えた。一方、予圧解析で設定する予圧が高すぎるとタイヤの変形が大きくなりすぎると考えた。そこで、本発明の発明者は鋭意分析した結果、シミュレーション装置において、予圧解析条件で設定する予圧を、実際の予圧工程における実予圧の2.88~7.14倍に設定し、そのことを含む予圧解析条件に基づいてタイヤFEMモデルの予圧工程後の形状を計算する構成を考えるに至った。この構成によれば、予圧解析でベルト部材を常温の弾性率より高い弾性率に設定するのにもかかわらず、後述のように、簡易、かつより高い精度でタイヤの接地性能を予測できる。以下、実施形態の構成をより具体的に説明する。
【0020】
[シミュレーション装置]
図2は、実施形態の1例のシミュレーション装置20のブロック図である。シミュレーション装置20は、プロセッサ及びメモリを含む制御装置50を備えたコンピュータで構成され、タイヤの接地解析を実行する。シミュレーション装置は、1つのコンピュータで構成されてもよく、また、複数のコンピュータで構成されてもよい。また、シミュレーション装置の機能の一部が、通信網を介して接続されるサーバー等に存在していてもよい。
【0021】
シミュレーション装置20は、入力装置22と、表示装置30と、記憶部40と、制御装置50とを含む。入力装置22は、シミュレーションの実行に必要な情報を入力するための入力インターフェイスであって、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等により構成される。ユーザは、入力装置22を介して解析条件、タイヤモデルの作成条件等を制御装置50に入力できる。
【0022】
表示装置30は、入力装置22を用いた入力情報の画像、解析結果等の出力画像等を表示するディスプレイであり、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等により構成される。
【0023】
記憶部40は、制御装置50で稼働するプログラムや、解析のためのモデル生成に必要なデータ等が記録されている。
【0024】
制御装置50は、タイヤのFEM(Finite Element Method)モデルを作成するFEMモデリング部51と、予圧解析を実行する予圧解析部52と、接地解析を実行する接地解析部55とを含む。これらは、ハードウェア資源であるプロセッサと、記憶部40などに記録されるソフトウェアであるプログラムとの協働により実現される。FEMモデリング部51は、モデル取得部に相当する。
【0025】
FEMモデリング部51は、加硫成形金型(図示せず)の内面形状に対応する外面形状を有するタイヤを複数の要素に分割したタイヤFEMモデルM1を取得する。タイヤFEMモデルM1は、例えば入力装置22により入力されるモデル作成条件として、加硫成形金型の内面形状の情報に基づいて作成される。加硫成形金型の内面形状の情報は、予め記憶部40に記録されていてもよい。
【0026】
予圧解析部52は、タイヤの加硫成形直後に行う予圧工程を模擬した予圧解析を実行する。予圧解析部52は、予圧解析条件設定部53と、予圧解析演算部54とを含んでいる。予圧解析条件設定部53は、予圧解析の解析条件を設定する部分である。予圧解析条件設定部53によって、例えば、トレッドゴム、サイドウォールゴム、ビード18、ベルト部材15、カーカス14等、タイヤを構成する構成材料の物性値や、各種境界条件が設定される。ここで、ベルト部材15の弾性率は、常温の弾性率よりも所定以上高く設定される。例えば、ベルト部材15の弾性率は、常温の弾性率よりも所定倍数以上、または所定量以上高く設定される。ベルト部材15以外の部材の弾性率は常温の弾性率に設定される。
【0027】
好ましくは、予圧解析条件設定部53は、ベルト部材15の弾性率を常温の弾性率よりも2倍以上高く設定する。より好ましくは、予圧解析条件設定部53は、ベルト部材15の弾性率を常温の弾性率よりも10倍以上高く設定する。構成部材の弾性率の設定は、トレッドゴム等、ゴム部材の種類に応じて決定されてもよい。
【0028】
さらに、予圧解析条件設定部53は、予圧工程でタイヤに付与する予圧を、実際の予圧工程における実予圧の2.88~7.14倍に設定する。これにより、予圧解析条件で設定する予圧を、実予圧に対し適切な範囲で高くできる。このため、予圧解析でベルト部材15を常温の弾性率より高い弾性率に設定するのにもかかわらず、タイヤ断面の外周部について主要な3点を通過するように設定される曲率半径である3点Rの予圧工程後の解析値を、実際のタイヤの3点Rの値に一致または近似させることができる。予圧解析での予圧を上記の範囲に設定した理由は、後で詳しく説明する。
【0029】
ここで、「3点R」は、タイヤの子午線断面において、外周部の3点、具体的には、トレッド16の接地面のタイヤ軸方向X中央の点(例えば
図1の点P1)と、タイヤ軸方向X両端の接地端(例えば
図1の点P2、点P3)とを通過するように設定される円弧αの曲率半径Raである。この3点Rは、タイヤの接地性能を算出する際に必要となるタイヤの接地形状に大きく影響するので、3点Rは接地性能に大きく影響する。このため、3点Rの解析値が、実際の値に一致、または近似する場合には、接地性能を高精度に予測できる。
【0030】
ここで、「接地端」とは、未使用のタイヤを正規リムに装着して所定の内圧となるように空気を充填した状態で、所定の内圧における所定の荷重の負荷を加えたときに平坦な路面に接地する領域のタイヤ軸方向両端を意味する。
【0031】
ここで、「正規リム」とは、タイヤ規格により定められたリムであって、JATMAであれば「標準リム」、TRAであれば「Design Rim」、ETRTOであれば「Measuring Rim」である。
【0032】
予圧解析演算部54は、予圧解析条件設定部53によって設定された解析条件に基づいてタイヤFEMモデルM1の予圧工程後の形状を計算する。予圧解析演算部54は、予圧工程を模擬すべく、ビード18を拘束した状態で、付加する内圧である予圧を付与してタイヤFEMモデルM1を変形させる。これにより、変形後のタイヤFEMモデルM2の外面形状は、FEMモデリング部51で取得されたタイヤFEMモデルM1の外面形状から、僅かに膨張する。
【0033】
一方、ベルト部材15の弾性率が常温のベルト部材15の弾性率より高く設定されている。このため、トレッド16においては膨張量が小さく、サイドウォール17(特にショルダー部分)において膨張量が大きい。そして、計算された予圧工程後のタイヤFEMモデルM2の外面形状を自然状態の形状として、後述の接地解析が行われる。
【0034】
接地解析部55は、予圧工程後のタイヤの接地状態を模擬した接地解析を実行する。接地解析部55は、接地解析条件設定部56と、接地解析演算部57とを含んでいる。
【0035】
接地解析条件設定部56は、接地解析の条件を設定する。接地解析条件設定部56によって、例えば、タイヤの構成部材の物性値や各種境界条件が設定される。特に、接地解析条件は、予圧解析演算部54で計算された予圧工程後のタイヤFEMモデルM2のうち、ベルト部材15を除く各部材について、予圧解析条件設定部53において設定された物性値と同じ物性値を設定するとともに、ベルト部材15の弾性率を常温の弾性率に設定することを含む。
【0036】
そして、接地解析条件設定部56は、予圧工程後のタイヤFEMモデルM2を自然状態の形状として、当該モデルに所定内圧及び所定荷重をかけて路面に接地させるように境界条件を設定する。
【0037】
接地解析演算部57は、接地解析条件設定部56において設定された接地解析条件、及び予圧工程後のタイヤFEMモデルM2の形状に基づいて、タイヤの接地性能を計算する。タイヤの接地性能の計算では、接地形状や接地圧などが算出される。
【0038】
これにより、接地形状や接地圧分布が正確に予測されるので、タイヤの転がり抵抗特性、摩耗特性、耐久特性、操縦安定性、振動乗り心地特性、ウェット特性、および騒音特性等を正確に予測できる。
【0039】
[シミュレーション方法及びプログラム]
図3は、実施形態の1例のシミュレーション方法を示すフローチャートである。本例のシミュレーション方法では、まず、ステップS10において、FEMモデリング部51が、タイヤを複数の要素に分割した上記のタイヤFEMモデルM1を取得する。
【0040】
次いで、ステップS12において、予圧解析条件設定部53が、上記のように予圧解析における各部材の物性値や各種境界条件等の予圧解析条件を設定する。特に、予圧解析条件は、上記のように、ベルト部材15の弾性率を常温の弾性率より所定以上高く設定し、その他の部材の弾性率を常温の弾性率に設定すると共に、予圧を、実際の予圧工程における実予圧の2.88~7.14倍に設定することを含む。
【0041】
次いで、ステップS14において、予圧解析演算部54が、上記のように予圧解析条件に基づいて予圧解析を実行し、タイヤFEMモデルの予圧工程後の形状を計算する。
【0042】
次いで、ステップS16において、接地解析条件設定部56が、接地解析条件を設定する。接地解析条件は、上記のように、タイヤFEMモデルのベルト部材15を除く各部材について予圧解析で設定された物性値と同じ物性値を設定すると共に、ベルト部材15の弾性率を常温の弾性率に設定することを含む。
【0043】
次いで、ステップS18において、接地解析演算部57が、上記のように、設定された接地解析条件と、予圧工程後のタイヤFEMモデルの形状とに基づいて、タイヤの接地性能を計算する。
【0044】
次いで、ステップS20において、表示装置30が、接地形状や接地圧等のタイヤの接地性能の解析結果を出力して、シミュレーション方法の処理を終了する。
【0045】
また、シミュレーション装置には、上記のシミュレーション方法を実行させるためのプログラムが、記憶部40に記録されている。
【0046】
[予圧解析における予圧範囲の設定理由]
次に、実施形態で上記のように、予圧解析の予圧工程でタイヤに付与する予圧範囲を、実際の予圧工程における実予圧の2.88~7.14倍に設定した理由を説明する。
【0047】
まず、本発明の発明者は、予圧解析でベルト部材15の剛性を実際の剛性よりも上げた場合に、予圧解析におけるタイヤの変形が小さくなり、タイヤ実物の形状の再現度が十分ではないことから、予圧解析で設定する予圧を実予圧より適切な範囲で大きくすることにより、再現度を上げられる可能性があると考えた。
【0048】
そして、発明者は、その適切な範囲を求めるために、表1の「解析」の欄で示すように、予圧解析で設定する予圧を、0、2kgf/cm
2、6kgf/cm
2、10kgf/cm
2、14kgf/cm
2、20kgf/cm
2の6種類で異ならせ、予圧工程後のタイヤFEMモデルを作成した。また、そのモデルの外径、タイヤ軸方向X全長、及び3点Rを計算した。表1では、「総幅」がタイヤ軸方向X全長を表している。また、解析で用いるタイヤのタイヤサイズは、205/85R16とした。後述の
図5、
図6では、予圧が10kgf/cm
2のときのタイヤFEMモデルの外径d1(
図5)及びタイヤ軸方向X全長W1(
図5)と、3点RであるR1(
図6)とを示している。
【0049】
【0050】
さらに、発明者は、解析で用いたタイヤのモデル作成条件と同じ条件で作製された実際のタイヤの外径、タイヤ軸方向全長及び3点Rを実測した。このとき、予圧工程での実予圧は、2kgf/cm2とした。
【0051】
そして、実際のタイヤの外径、タイヤ軸方向X全長及び3点Rの実測値と、上記の6種類の予圧で作成されたタイヤFEMモデルの外径、タイヤ軸方向X全長及び3点Rとの比較を行った。
【0052】
表1では、「実測」の欄に、実際のタイヤの外径、タイヤ軸方向X全長及び3点Rの実測値を示している。また、「対実測[%]」の欄に、6種類の予圧で作成されたタイヤFEMモデルの外径、タイヤ軸方向全長及び3点Rについて、解析値の実測値に対する差の割合(%)を計算した結果を示している。表1の太線枠部分で示すように、解析で設定する予圧を10kgf/cm2と、実予圧(2kgf/cm2)の5倍とした解析結果によれば、3点Rの解析値の実測値に対する差の割合を-0.59%と十分に小さくできることを確認できた。
【0053】
また、発明者は、
図4に示すように、6種類の解析での予圧とそれに対応する、3点Rの解析値の実測値に対する差の割合との関係を示したグラフを作成した。このグラフの結果から、発明者は、3点Rの解析値の実測値に対する差の割合、すなわち{((3点Rの解析値)-(3点Rの実測値))/(3点Rの実測値)}×100(%)を、0から正負の両側で5%以内の目標域に抑えるために、解析での予圧を
図4のC1からC2の範囲に対応して、実予圧との関係で設定する必要があると考えた。C1は、5.76kgf/cm
2である。C2は、4.28kgf/cm
2である。このことから、予圧解析の予圧範囲を、実予圧(2kgf/cm
2)の2.88~7.14倍の範囲に設定することにより、3点Rの予圧工程後の解析値を、実際のタイヤの3点Rの値に一致または近似させることができると考えた。
【0054】
図5は、表1の解析結果のうち、設定予圧を実予圧の5倍である10kgf/cm
2としたときの、予圧工程後のタイヤFEMモデルの断面の外形を、実線D1で示している。
図5では、表1の解析結果のうち、設定予圧が0の予圧工程後のタイヤFEMモデルの断面の外形を、破線D2で示している。また、実際のタイヤの実測値を細線D3で示している。
図5から分かるように、設定予圧が0の場合、すなわち予圧が付与されない場合には、加硫成形後のタイヤが自然冷却で熱収縮するので、トレッド表面の特にショルダー部分で、タイヤ外形がタイヤ内径側に小さくなっている。これにより、3点Rが小さくなる。
【0055】
一方、設定予圧が実予圧の5倍である場合には、適切な予圧がタイヤに付与される。これにより、解析で取得された接地面形状から得られる3点Rを、実際のタイヤのトレッド16の接地面形状から得られる3点Rに略一致させることができた。
【0056】
図6は、
図5において、曲率半径が3点Rである円弧を重ねた図を示している。
図6の太実線D4が、設定予圧が実予圧の5倍の場合の予圧工程後のタイヤFEMモデルから得られた円弧であって、3点RとしてR1を有する円弧を示している。この3点Rは、
図6の太実線D4の円弧のタイヤ径方向Y内側縁までの曲率半径である。この3点RのR1は、実際のタイヤの実測値から得られた3点Rと略一致している。
【0057】
[他のタイヤサイズでの評価結果]
表2は、表1のタイヤサイズとは異なるサイズである205/80R17.5において、設定予圧を実予圧の5倍としたときの、予圧工程後のタイヤFEMモデルの外径、タイヤ軸方向X全長、及び3点Rの解析値を示している。表2では、実際のタイヤの外径、タイヤ軸方向X全長、及び3点Rの実測値も示している。表2では、外径、タイヤ軸方向X全長、及び3点Rについて、解析値の実測値に対する差の割合(%)も示している。
【0058】
【0059】
表2に示した評価結果から分かるように、表2のようにタイヤサイズを表1の場合と異ならせた場合でも、3点Rの解析値の実測値に対する差の割合を、2.3%と、5%以内に収めることができた。これにより、本発明の効果を確認できた。
【0060】
また、本実施形態のシミュレーション装置、シミュレーション方法、及びプログラムを適用するタイヤは、種々の形状及び寸法のタイヤとすることができる。一方、本実施形態の構成によれば、ベルト部材の弾性率にかかわらず、簡易、かつより高い精度で接地性能を予測できる。これにより、本実施形態の構成を適用するタイヤは、ベルト部材として3枚以上のベルト部材を含むタイヤであって、トラックまたはバス用、または小型トラック用のタイヤとすることが好ましい。
【符号の説明】
【0061】
1 空気入りタイヤ(タイヤ)、10 タイヤ本体、12 リム、12a 凹み、13 ビードコア、14 カーカス、15 ベルト部材、16 トレッド、17 サイドウォール、18 ビード、20 シミュレーション装置、22 入力装置、30 表示装置、40 記憶部、50 制御装置、51 FEMモデリング部、52 予圧解析部、53 予圧解析条件設定部、54 予圧解析演算部、55 接地解析部、56 接地解析条件設定部、57 接地解析演算部。