(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007728
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】放射ノズル
(51)【国際特許分類】
B05B 1/12 20060101AFI20240112BHJP
A62C 31/03 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B05B1/12
A62C31/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108999
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000192073
【氏名又は名称】株式会社モリタホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】廖 赤虹
(72)【発明者】
【氏名】松島 至俊
(72)【発明者】
【氏名】大室 健
(72)【発明者】
【氏名】金川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】坂本 直久
【テーマコード(参考)】
2E189
4F033
【Fターム(参考)】
2E189KB02
4F033AA12
4F033BA03
4F033CA01
4F033CA04
4F033DA05
4F033EA01
4F033GA01
4F033NA01
(57)【要約】
【課題】直線的に放射する棒状放射と拡散的に放射する拡散放射を切り替えて放射できる放射ノズルを提供すること。
【解決手段】放射ノズル1は、外筒10と、放射部20と、軸方向に往復動可能な筒状の内筒30と、内筒ガイド機構40と、内筒ガイド機構40を操作するための操作部50とを備え、放射部20は、流体を第一の放射形態で放射する第一放射口と、流体を第二の放射形態で放射する第二放射口とを有し、第一の放射形態と第二の放射形態の一方は棒状放射、もう一方は拡散放射であり、内筒30の内側は第一流路α、外筒10と内筒30との間は第二流路βとなっており、内筒30を所定の前方位置まで前進させると、第一流路開放状態となり流体が第一流路αを通って第一放射口から放射され、内筒30を所定の後方位置まで後退させると、第二流路開放状態となり流体が第二流路βを通って第二放射口から放射される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端の開口から流体が流入する筒状の外筒と、
前記外筒の前端側に設けられ前記流体を放射する放射部と、
前記外筒に収容され軸方向に往復動可能な筒状の内筒と、
前記内筒を軸方向に往復動させる内筒ガイド機構と、
前記内筒ガイド機構を操作するための操作部とを備え、
前記放射部は、前記流体を第一の放射形態で放射する第一放射口と、前記流体を第二の放射形態で放射する第二放射口とを有し、
前記第一の放射形態と前記第二の放射形態のうち一方は前記流体を直線的に放射する棒状放射、もう一方は前記流体を拡散的に放射する拡散放射であり、
前記内筒の内側は前記第一放射口に連通した第一流路、前記外筒と前記内筒との間は前記第二放射口に連通した第二流路となっており、
前記操作部による操作により前記内筒を所定の前方位置まで前進させると、前記第一流路が開放されて前記第二流路が閉鎖された第一流路開放状態となり、前記流体が前記第一流路を通って前記第一放射口から放射され、
前記操作部による操作により前記内筒を所定の後方位置まで後退させると、前記第一流路が閉鎖されて前記第二流路が開放された第二流路開放状態となり、前記流体が前記第二流路を通って前記第二放射口から放射されることを特徴とする放射ノズル。
【請求項2】
前記内筒よりも後方に位置を固定として設けられた固定弁体と、
前記内筒の中間部の外側にある前記外筒の内面に位置を固定として設けられた固定弁座と、
前記内筒の後端部に設けられ前記内筒の往復動に伴い前記外筒の内側における位置が変わる可動弁座と、
前記内筒の外周に設けられ前記内筒の往復動に伴い前記外筒の内側における位置が変わる可動弁体とを備え、
前記操作部による操作により前記内筒を前記前方位置まで前進させると、前記可動弁座が前記固定弁体から離れると共に、前記可動弁体が前記固定弁座に着座することで前記第一流路開放状態となり、
前記操作部による操作により前記内筒を前記後方位置まで後退させると、前記可動弁座に前記固定弁体が着座すると共に、前記可動弁体が前記固定弁座から離れることで前記第二流路開放状態となることを特徴とする請求項1に記載の放射ノズル。
【請求項3】
前記第一の放射形態は前記棒状放射であり、前記第二の放射形態は前記拡散放射であることを特徴とする請求項1に記載の放射ノズル。
【請求項4】
前記放射部は、所定の厚みをもつ前面を備えた蓋体を有し、
前記第一放射口は、前記内筒の前端側の開口であり、
前記第二放射口は、前記内筒が中央に貫入された前記蓋体の前記前面の外縁に設けられ各々が前記第二流路に連通した複数の小孔であり、
前記小孔のそれぞれの射線は、軸方向に対して斜めに向けられていることを特徴とする請求項3に記載の放射ノズル。
【請求項5】
前記小孔のそれぞれの前記射線は、前記第二放射口から拡散放射された前記流体の断面が四角形状となるように設定されていることを特徴とする請求項4に記載の放射ノズル。
【請求項6】
前記流体の断面が長方形状であり、前記蓋体は軸回りに90度回転可能であることを特徴とする請求項5に記載の放射ノズル。
【請求項7】
前記操作部は、中心軸に対して周方向に斜めの溝が形成され前記外筒の外周に嵌着されている駆動リングであり、
前記内筒ガイド機構は、前記内筒の外周に嵌着されているガイド体と、前記外筒から前記ガイド体にかけて貫通した孔に通されると共に一端が前記ガイド体に固定され他端が前記駆動リングの前記溝に係合しているピンとを有し、
前記駆動リングを回転させると前記ピンが前記溝に沿って前方又は後方に移動し、それに伴い前記内筒が前記前方位置側又は前記後方位置側へ移動することを特徴とする請求項1に記載の放射ノズル。
【請求項8】
前記駆動リングにおいて、斜めに形成された前記溝の端部は中心軸に対して周方向に真っ直ぐ形成されていることを特徴とする請求項7に記載の放射ノズル。
【請求項9】
前記操作部は、一端に把手を備えた操作レバーであり、
前記内筒ガイド機構は、前記内筒の外周に嵌着されているガイド体を有し、
前記外筒には長手方向を軸方向としたスリットが設けられ、前記ガイド体には前記スリットに対応した有底の長溝が設けられ、
前記操作レバーの他端は前記ガイド体の前記長溝に挿入され、前記操作レバーの把手は前記外筒の前記スリットよりも外方に位置し、
前記操作レバーを前方又は後方へ移動させると、それに伴い前記内筒が前記前方位置側又は前記後方位置側へ移動することを特徴とする請求項1に記載の放射ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、必要に応じて容易に放射形態を切り替えて消火剤等の流体を放射することができる放射ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
建物火災、特に耐火建物火災において、救助及び消火活動を妨げる最大の要因は、火災区画内の濃煙と熱気である。濃煙と熱気は、消防(救助)隊員の火災区画への進入を阻止して要救助者や火点の捜索を妨げ、救助及び消火活動の大きな障害となるばかりでなく、消防隊員等の安全を脅かすことにもなる。
このため、火災区画内の濃煙と熱気を除去し、危険要素の少ない環境で救助及び消火活動に従事できるように、強制排煙装置が利用されている。二方向開放の火災区画において、強制排煙装置を使用して進入口から送風すれば、火災区画の温度を低下させ、煙を排除して視界を確保できるため、効率的な消火活動につながる。
しかしながら、救助及び消火活動に用いられる既存の可搬式強制排煙装置は、体積が大きく、重量も数十キロあるため、運搬が大変である。しかも、火災発生時にはエレベーターが使えず階段を使用せざるを得ないため、特に火災区画が高層階になればなるほど消防隊員等にとって大きな負担となる。
【0003】
また、救助及び消火活動に用いられる既存の可搬式強制排煙装置は、駆動動力として、エンジン式と水力駆動式があるが、いずれもプロペラ(送風羽根)の回転により風を発生させる送風方式であり、発生した気流の断面形状は、プロペラの形状と同じく円形となる。一方、一般的な住宅やオフィスの入口等の開口(給気口)は、大抵縦横比2:1の長方形状である。
ここで、
図6は強制排煙装置を給気口の近くに設置し全風量を火災区画に送り込むケースを示す図である。
図6に示すように、強制排煙装置を給気口6の近くにセットすると、発生させた風の殆どすべてを火災区画5内に送ることはできるが、気流は給気口6の一部しか覆うことができない。そのため、気流で覆われない給気口6の他の部分には風圧がかからず、煙は排気口7から排出されはするものの、一部は給気口6の風圧がかかっていない部分から逆流するおそれがある。
また、
図7は強制排煙装置を給気口から離して設置し風圧(気流断面)を給気口全体にかけるケースを示す図、
図8は
図7の場合において火災区画に送り込める風量の割合を示す図である。
図7に示すように、強制排煙装置を給気口6から離してセットすると、給気口6全体が気流により覆われるが、上述のように気流の断面形状は円形であるため、気流のうち周縁部分は給気口6から外れて火災区画5に入らず、送風効率が大きく低下してしまう。例えば、
図8に示すように、幅L、高さ2Lである長方形状の給気口6全体を覆うように送風し、給気口6における気流の断面形状が半径Rの円形であるとした場合、気流の円(送風領域)面積=π・r
2、R
2=(5/4)L
2、給気口6の矩形面積=2L
2であることより、給気口6(矩形)と気流(円形)の面積比は、2L
2/π(5/4)L
2=0.51となり、送風効率が約50%低下する。
【0004】
特許文献1には、上記の問題点を鑑みて、複数の噴射ノズルで構成される噴射ノズル群を、噴射ノズル群から噴射される圧縮空気により形成される送風気流の断面形状が、火災区画の矩形状の開口部の形状に適合する矩形状になるようにノズル配置部材に配置した可搬式排煙装置が開示されている。
また、特許文献2には、流体が流れる流路管と、流路管を流れる流体を噴出する噴流口と、噴流口に配置する拡散部材とを備え、拡散部材は、流体の流れ方向を変更する流れ方向変更部を有し、拡散部材の回転によって、噴流口から噴出する流体を拡散させる流体導出装置が開示されており、
図6には矩形状の第1開口部へ向けて空気と水の混相流を拡散放射する様子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5587234号公報
【特許文献2】特許第6957008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
効率的に排煙するには、また煙や熱気の逆流を防止するには、特許文献1及び2のように、放射された流体が火災区画の開口(給気口)の全面を覆うことが望ましい。
しかしながら、特許文献1の可搬式排煙装置は、ガンタイプノズルに比べると重量及び形状が大きいため、特に火災区画が高層階の場合は持ち運ぶ消防隊員の負荷が高まる。また、消防自動車における搭載スペースもある程度必要になる。
また、特許文献2の流体導出装置は、拡散部材の回転によって流体を拡散させつつ噴射するものであり、噴出した流体を所定範囲に拡げやすいが、流体を拡散させると空気の抵抗を受けやすくなるため、流速の低下を防ぐ工夫が必要となる。また、特定距離での放射面積が確保できる一方で、流体の放射射程は直噴ノズルよりも短くなるため、空気と水の混相流を使用する場合であっても、火点が遠方にある場合は消火効果が限定されることから、排煙後に消火作業を行うにあたっては、直噴ノズルなど他の消火ノズルに交換する必要がある。
そこで、本発明は、直線的に放射する棒状放射と拡散的に放射する拡散放射を切り替えて放射できる放射ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明の放射ノズル1は、後端の開口から流体が流入する筒状の外筒10と、外筒10の前端側に設けられ流体を放射する放射部20と、外筒10に収容され軸方向に往復動可能な筒状の内筒30と、内筒30を軸方向に往復動させる内筒ガイド機構40と、内筒ガイド機構40を操作するための操作部50とを備え、放射部20は、流体を第一の放射形態で放射する第一放射口と、流体を第二の放射形態で放射する第二放射口とを有し、第一の放射形態と第二の放射形態のうち一方は流体を直線的に放射する棒状放射、もう一方は流体を拡散的に放射する拡散放射であり、内筒30の内側は第一放射口に連通した第一流路α、外筒10と内筒30との間は第二放射口に連通した第二流路βとなっており、操作部50による操作により内筒30を所定の前方位置まで前進させると、第一流路αが開放されて第二流路βが閉鎖された第一流路開放状態となり、流体が第一流路αを通って第一放射口から放射され、操作部50による操作により内筒30を所定の後方位置まで後退させると、第一流路αが閉鎖されて第二流路βが開放された第二流路開放状態となり、流体が第二流路βを通って第二放射口から放射されることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の放射ノズル1において、内筒30よりも後方に位置を固定として設けられた固定弁体60と、内筒30の中間部の外側にある外筒10の内面に位置を固定として設けられた固定弁座70と、内筒30の後端部に設けられ内筒30の往復動に伴い外筒10の内側における位置が変わる可動弁座80と、内筒30の外周に設けられ内筒30の往復動に伴い外筒10の内側における位置が変わる可動弁体90とを備え、操作部50による操作により内筒30を前方位置まで前進させると、可動弁座80が固定弁体60から離れると共に、可動弁体90が固定弁座70に着座することで第一流路開放状態となり、操作部50による操作により内筒30を後方位置まで後退させると、可動弁座80に固定弁体60が着座すると共に、可動弁体90が固定弁座70から離れることで第二流路開放状態となることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1に記載の放射ノズル1において、第一の放射形態は棒状放射であり、第二の放射形態は拡散放射であることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の放射ノズル1において、放射部20は、所定の厚みをもつ前面を備えた蓋体21を有し、第一放射口は、内筒30の前端側の開口であり、第二放射口は、内筒30が中央に貫入された蓋体21の前面の外縁に設けられ各々が第二流路βに連通した複数の小孔21Bであり、小孔21Bのそれぞれの射線は、軸方向に対して斜めに向けられていることを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の放射ノズル1において、小孔21Bのそれぞれの射線は、第二放射口から拡散放射された流体の断面が四角形状となるように設定されていることを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項5に記載の放射ノズル1において、流体の断面が長方形状であり、蓋体21は軸回りに90度回転可能であることを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項1に記載の放射ノズル1において、操作部50は、中心軸に対して周方向に斜めの溝51が形成され外筒10の外周に嵌着されている駆動リングであり、内筒ガイド機構40は、内筒30の外周に嵌着されているガイド体41と、外筒10からガイド体41にかけて貫通した孔に通されると共に一端がガイド体41に固定され他端が駆動リング50の溝51に係合しているピン42とを有し、駆動リング50を回転させるとピン42が溝51に沿って前方又は後方に移動し、それに伴い内筒30が前方位置側又は後方位置側へ移動することを特徴とする。
請求項8記載の本発明は、請求項7に記載の放射ノズル1において、駆動リング50において、斜めに形成された溝51の端部は中心軸に対して周方向に真っ直ぐ形成されていることを特徴とする。
請求項9記載の本発明は、請求項1に記載の放射ノズル1において、操作部50は、一端に把手を備えた操作レバーであり、内筒ガイド機構40は、内筒30の外周に嵌着されているガイド体41を有し、外筒10には長手方向を軸方向としたスリットが設けられ、ガイド体41にはスリットに対応した有底の長溝が設けられ、操作レバーの他端はガイド体41の長溝に挿入され、操作レバーの把手は外筒10のスリットよりも外方に位置し、操作レバーを前方又は後方へ移動させると、それに伴い内筒30が前方位置側又は後方位置側へ移動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、直線的に放射する棒状放射と拡散的に放射する拡散放射を切り替えて放射できる放射ノズルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施例による放射ノズル(消火モード)を示す図
【
図6】従来の強制排煙装置を給気口の近くに設置し全風量を火災区画に送り込むケースを示す図
【
図7】従来の強制排煙装置を給気口から離して設置し風圧を給気口全体にかけるケースを示す図
【
図8】
図7のケースにおいて火災区画に送り込める風量の割合を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の実施の形態による放射ノズルは、後端の開口から流体が流入する筒状の外筒と、外筒の前端側に設けられ流体を放射する放射部と、外筒に収容され軸方向に往復動可能な筒状の内筒と、内筒を軸方向に往復動させる内筒ガイド機構と、内筒ガイド機構を操作するための操作部とを備え、放射部は、流体を第一の放射形態で放射する第一放射口と、流体を第二の放射形態で放射する第二放射口とを有し、第一の放射形態と第二の放射形態のうち一方は流体を直線的に放射する棒状放射、もう一方は流体を拡散的に放射する拡散放射であり、内筒の内側は第一放射口に連通した第一流路、外筒と内筒との間は第二放射口に連通した第二流路となっており、操作部による操作により内筒を所定の前方位置まで前進させると、第一流路が開放されて第二流路が閉鎖された第一流路開放状態となり、流体が第一流路を通って第一放射口から放射され、操作部による操作により内筒を所定の後方位置まで後退させると、第一流路が閉鎖されて第二流路が開放された第二流路開放状態となり、流体が第二流路を通って第二放射口から放射されるものである。
本実施の形態によれば、一つの放射ノズルで拡散放射と棒状放射を切り替えて行うことができるため、排煙作業や消火作業等、異なる放射形態が求められる作業を効率的に行うことができる。
【0011】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による放射ノズルにおいて、内筒よりも後方に位置を固定として設けられた固定弁体と、内筒の中間部の外側にある外筒の内面に位置を固定として設けられた固定弁座と、内筒の後端部に設けられ内筒の往復動に伴い外筒の内側における位置が変わる可動弁座と、内筒の外周に設けられ内筒の往復動に伴い外筒の内側における位置が変わる可動弁体とを備え、操作部による操作により内筒を前方位置まで前進させると、可動弁座が固定弁体から離れると共に、可動弁体が固定弁座に着座することで第一流路開放状態となり、操作部による操作により内筒を後方位置まで後退させると、可動弁座に固定弁体が着座すると共に、可動弁体が固定弁座から離れることで第二流路開放状態となるものである。
本実施の形態によれば、第一流路と第二流路の開放又は閉鎖状態を簡便に切り替え、その状態を維持することができる。
【0012】
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態による放射ノズルにおいて、第一の放射形態は棒状放射であり、第二の放射形態は拡散放射である。
本実施の形態によれば、第一放射口からは棒状放射を、第二放射口からは拡散放射を行うことができる。
【0013】
本発明の第4の実施の形態は、第3の実施の形態による放射ノズルにおいて、放射部は、所定の厚みをもつ前面を備えた蓋体を有し、第一放射口は、内筒の前端側の開口であり、第二放射口は、内筒が中央に貫入された蓋体の前面の外縁に設けられ各々が第二流路に連通した複数の小孔であり、小孔のそれぞれの射線は、軸方向に対して斜めに向けられているものである。
本実施の形態によれば、棒状放射と拡散放射のそれぞれにおける流体の指向性や断面積等を、内筒の前端の開口の大きさや、軸方向に対する小孔の角度等により適切に設定することができる。
【0014】
本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態による放射ノズルにおいて、小孔のそれぞれの射線は、第二放射口から拡散放射された流体の断面が四角形状となるように設定されているものである。
本実施の形態によれば、火災区画の開口(給気口)は四角形状であることが多いため、排煙作業時の拡散放射における流体の断面の形状を開口と同じく四角形状とすることで、放射流が部分的に給気口から外れてしまうことを効果的に抑制でき、放射流によって生じる空気の流れを火災区画内に向かう流れとして空気を火災区画内に強く押し込むことができるため、高い排煙効率が得られる。
【0015】
本発明の第6の実施の形態は、第5の実施の形態による放射ノズルにおいて、流体の断面が長方形状であり、蓋体は軸回りに90度回転可能である。
本実施の形態によれば、火災区画の開口(給気口)は四角形状の中でも特に長方形状であることが多いため、排煙作業時の拡散放射における流体の断面の形状がより一層給気口の形状に合致し、高い排煙効率が得られる。また、蓋体が90度回転可能であることで、縦長の給気口と横長の給気口の両方に一つのノズルで対応することができる。
【0016】
本発明の第7の実施の形態は、第1の実施の形態による放射ノズルにおいて、操作部は、中心軸に対して周方向に斜めの溝が形成され外筒の外周に嵌着されている駆動リングであり、内筒ガイド機構は、内筒の外周に嵌着されているガイド体と、外筒からガイド体にかけて貫通した孔に通されると共に一端がガイド体に固定され他端が駆動リングの溝に係合しているピンとを有し、駆動リングを回転させるとピンが溝に沿って前方又は後方に移動し、それに伴い内筒が前方位置側又は後方位置側へ移動するものである。
本実施の形態によれば、簡単な操作で拡散放射と棒状放射を切り替えることができるため、消火活動を効率的に行うことができる。
【0017】
本発明の第8の実施の形態は、第7の実施の形態による放射ノズルにおいて、駆動リングの斜めに形成された溝の端部は中心軸に対して周方向に真っ直ぐ形成されているものである。
本実施の形態によれば、ピンを溝の端部に位置させると軸方向への移動をロックすることができるため、内筒に前方又は後方向きの力が加わった場合に、意図せず駆動リングが回転して内筒の位置がずれてしまうことを防止できる。
【0018】
本発明の第9の実施の形態は、第1の実施の形態による放射ノズルにおいて、操作部は、一端に把手を備えた操作レバーであり、内筒ガイド機構は、内筒の外周に嵌着されているガイド体を有し、外筒には長手方向を軸方向としたスリットが設けられ、ガイド体にはスリットに対応した有底の長溝が設けられ、操作レバーの他端はガイド体の長溝に挿入され、操作レバーの把手は外筒のスリットよりも外方に位置し、操作レバーを前方又は後方へ移動させると、それに伴い内筒が前方位置側又は後方位置側へ移動するものである。
本実施の形態によれば、簡単な操作で拡散放射と棒状放射を切り替えることができるため、消火活動を効率的に行うことができる。
【実施例0019】
以下、本発明の一実施例による放射ノズルについて説明する。
図1は消火モードとした本実施例による放射ノズルを示す図であり、
図1(b)は断面図、
図1(a)は
図1(b)の正面図である。
図2は排煙モードとした放射ノズルを示す図であり、
図2(b)は断面図、
図2(a)は
図2(b)の正面図である。
図3は放射ノズルの写真であり、
図3(a)は排煙モードの形態を前面側から撮影した写真、
図3(b)は消火モードの形態を前面側から撮影した写真、
図3(c)は放水銃の本体の先端に取り付けた状態の写真である。
本実施例の放射ノズル1は、消火ホース又は放水銃の本体等の先端に取り付け、消防ノズルとして用いる。放射ノズル1には、水、泡、又は気液混相流等の消火剤が消防自動車等から供給される。
【0020】
放射ノズル1は、両端が開口しており後端から流体(消火剤)が流入する円筒状の外筒10と、外筒10の前端側に設けられ流体を放射する放射部20と、外筒10に収容され軸方向に往復動可能な円筒状の内筒30と、内筒30を軸方向に往復動させる内筒ガイド機構40と、内筒ガイド機構40を操作するための操作部50と、外筒10の内側において内筒30よりも後方に設けられた固定弁体60と、内筒30の中間部の外側に位置を固定として設けられた固定弁座70と、内筒30の後端部に設けられ内筒30の往復動に伴い外筒10の内側における位置が変わる可動弁座80と、内筒30の外周に設けられ内筒30の往復動に伴い外筒10の内側における位置が変わる可動弁体90と、固定弁体60の後端に接続されている弁棒100と、弁棒100を支持する弁棒支持材110を備え、これらが同軸に配置されている。
【0021】
放射部20は、消火剤を第一の放射形態で放射する第一放射口と、消火剤を第二の放射形態で放射する第二放射口を有する。
内筒30の両端は開口しており、後端から流体が流入可能である。また、内筒30の外面と外筒10の内面との間には隙間が設けられており、流体はこの隙間を流れることも可能である。これにより、内筒30の内側は第一放射口に連通した第一流路α、外筒10と内筒30との間は第二放射口に連通した第二流路βとなっており、外筒10の後端から流入した消火剤は、第一流路α又は第二流路βを通って第一放射口又は第二放射口から放射される。
【0022】
放射部20には、所定の厚みをもつ前面を備えた正面視で略円形の蓋体21が設けられている。蓋体21の前面には、内筒30の外径よりも僅かに大きい中心孔21Aと、中心孔21Aよりも小径で外縁側に配された複数の小孔21Bが形成されている。中心孔21A及び小孔21Bは、蓋体21の前面を厚み方向に貫通している。
【0023】
放射部20の中心孔21Aには内筒30の前端部が貫入されており、内筒30の前端側の開口が第一放射口として用いられる。第一流路αを通過した流体は第一放射口(内筒30の前端側の開口)からストレートに放射されるため、第一放射口による放射形態(第一の放射形態)は棒状放射となる。
放射部20に形成されている複数の小孔21B(小孔群)は、第二放射口として用いられる。小孔21Bの入口は第二流路βに連通しており、内筒30と外筒10との間を通過してきた流体が小孔21Bの出口から放射される。小孔21Bの出口は所定間隔で円形に配置されている。小孔21Bのそれぞれの射線は、内筒30の軸心から離れる方向に軸心に対して斜めに向けられているため、第二放射口による放射形態(第二の放射形態)は拡散放射となる。
このように、第一放射口からは棒状放射を、第二放射口からは拡散放射を行うことができる。また、棒状放射と拡散放射のそれぞれにおける流体の指向性や断面積等は、内筒30の前端の開口の大きさや、軸方向に対する小孔21Bの角度等により適切に設定することができる。
【0024】
小孔21Bの各射線は、第二放射口(小孔群)から拡散放射された流体の断面の形状が四角形状となるように設定されている。火災区画の開口(給気口)は四角形状であることが多いため、排煙作業時の拡散放射における流体の断面の形状を開口と同じく四角形状とすることで、放射流が部分的に給気口から外れてしまうことを効果的に抑制でき、放射流によって生じる空気の流れを火災区画内に向かう流れとして空気を火災区画内に強く押し込むことができるため、高い排煙効率が得られる。
また、第二放射口(小孔群)から拡散放射された流体の断面の形状は長方形状となるように設定することが好ましく、蓋体21が軸周りに90度回転可能であることが更に好ましい。火災区画の開口(給気口)は四角形状の中でも特に長方形状であることが多いため、排煙作業時の拡散放射における流体の断面の形状がより一層給気口の形状に合致し、高い排煙効率が得られる。また、蓋体21が90度回転可能であることで、縦長の給気口と横長の給気口の両方に一つのノズルで対応することができる。
【0025】
固定弁体60は、外筒10の内部において内筒30よりも後方に設けられており、外筒10の内部における位置は不変である。固定弁体60には、可動弁座80のシール面と当接する環状の当接面が設けられている。固定弁体60の後端には弁棒100が接続されており、弁棒100は弁棒支持材110の中心に貫入されている。
弁棒支持材110は、正面視で円形であり、外筒10に固定され、弁棒100が貫入されている中心部分から外筒10との接続部分までの間には、外筒10の後端から流入した流体が通る流通口が形成されている。
【0026】
固定弁座70は、外筒10の内部において内筒30の前端よりも後方かつ内筒30の後端よりも前方の位置で外筒10に固定されており、外筒10の内部における位置は不変である。固定弁座70には、可動弁体90が着座する環状のシール面が設けられている。
内筒30の外面と固定弁座70の内面との間には、流体が通過可能な所定の隙間が設けられている。
【0027】
可動弁体90は、内筒30の中間部において外周に嵌着されている。可動弁体90は正面視で略円形であり、固定弁座70に当接する環状の当接面を有する。
可動弁座80は正面視で略円形であり、内筒30の後端部に挿入されている。可動弁座80には、固定弁体60が着座する環状のシール面が設けられている。
【0028】
内筒30の可動範囲は、可動弁体90が固定弁座70に着座する前方位置から、可動弁座80に固定弁体60が着座する後方位置までとなっている。固定弁体60の当接面と固定弁座70のシール面との距離は、可動弁体90の当接面と可動弁座80のシール面との距離よりも大きく設定されている。
図1に示すように内筒30が前方位置にあるとき、可動弁体90が固定弁座70に着座することにより第二流路βは途中で閉鎖されている一方で、可動弁座80が固定弁体60から離れた位置にあることにより第一流路αの入口(内筒30の後端開口)は開放されている。よって、流体は、第一流路αを通って第一放射口(内筒30の前端開口)に至り、棒状放射される。
図2に示すように内筒30が後方位置にあるとき、固定弁体60が可動弁座80に着座することにより第一流路αの入口が閉鎖されている一方で、可動弁体90が固定弁座70から離れた位置にあることにより第二流路βは開放されている。よって、流体は、第二流路βを通って第二放射口(小孔群)に至り、拡散放射される。
このように、可動弁体90と固定弁座70、及び可動弁座80と固定弁体60の組み合わせにより、第一流路αと第二流路βの開放又は閉鎖状態を簡便に切り替え、その状態を維持することができる。
なお、
図3(a)、(b)に示すように、内筒30は、前方位置にあるときは前端が蓋体21の前面よりも突出し、後方位置にあるときは前端が蓋体21の前面と略面一となる。
【0029】
内筒ガイド機構40は、内筒30の外周に嵌着されているガイド体41と、外筒10からガイド体41にかけて貫通した孔に通されているピン42を有する。また、操作部50は、外筒10の外周に嵌着されている駆動リングである。
【0030】
図4は駆動リングの外観図であり、
図4(a)は斜視図、
図4(b)は側面図である。なお、
図4(b)には溝に係合するピンも示している。
駆動リング(操作部)50には、半周程度にわたる溝51が周方向位置を違えて二つ設けられている。二つの溝51は、基本的に駆動リング50の中心軸に対して周方向に斜めに形成されているが、端部は駆動リング50の中心軸に対して周方向に真っ直ぐ形成されている。
駆動リング50の溝51に対応する位置において、外筒10には厚み方向に貫通孔が形成され、ガイド体41には厚み方向に有底孔が形成されている。ピン42は、外筒10の有底孔に一端が挿入されることによりガイド体41に固定され、他端が駆動リング50の溝51に係合している。
【0031】
ピン42を溝51の斜めになった部分に位置させ、駆動リング50を軸回りに右又は左へ回転させると、ピン42が溝51に沿って前方又は後方に移動し、ガイド体41を介してピン42の動きと連動している内筒30も前方位置側又は後方位置側へ移動する。
駆動リング50による操作により内筒30を所定の前方位置まで前進させると、第一流路αが開放されて第二流路βが閉鎖された第一流路開放状態となり、流体が第一流路αを通って第一放射口から放射される。一方、操作部50による操作により内筒30を所定の後方位置まで後退させると、第一流路αが閉鎖されて第二流路βが開放された第二流路開放状態となり、流体は第二流路βを通って第二放射口から放射される。
このように簡単な操作で排煙モード(拡散放射)と消火モード(棒状放射)を切り替えることができるため、消防隊員等は、消火活動を従来よりも効率的に行うことができる。
また、ピン42は、溝51の端部(中心軸に対して周方向に真っ直ぐな部分)に位置させることで、移動をロックすることができる。よって、放射形態の切り替えを要しないときはピン42を溝51の端部に位置させておくことで、内筒30に前方又は後方向きの力(流体圧等)が加わった場合に、意図せず駆動リング50が回転して内筒30の位置がずれてしまうことを防止できる。
なお、駆動リング50を操作する回転方式に代えて、前後に動くレバーを操作するレバー方式により内筒30を往復動させることもできる。レバー方式の場合、図示は省略するが例えば以下の構成とする。
内筒ガイド機構40は、内筒30の外周に嵌着されているガイド体41と、一端に把手を備えた操作レバーを備える。外筒10には長手方向を軸方向としたスリットを設け、ガイド体41にはスリットに対応した有底の長溝を設ける。操作レバーは、他端をガイド体41の長溝に挿入して固定し、一端側の把手は外筒10のスリットよりも外方に配置する。この操作レバーを前方又は後方へ移動させると、内筒30は前方位置側又は後方位置側へ移動する。
レバー方式の場合も、簡単な操作で排煙モード(拡散放射)と消火モード(棒状放射)を切り替えることができるため、消防隊員等は、消火活動を従来よりも効率的に行うことができる。
【0032】
図5は放射ノズルを用いた排煙作業のイメージ図である。
図5に示すように、放射ノズル1には、消防自動車2に搭載されているポンプ3から消火ホース4を介して水等の消火剤が供給される。
消防隊員等は、消火活動において、火災区画5内の濃煙と熱気を排出し視認性を確保して進入可能な環境を作るための排煙作業を行った後、火災区画5に進入し火点に直接放水する消火作業を行う。
消防隊員等は、排煙作業を行うにあたって、放射ノズル1を排煙モードに切り替える。そして、放射ノズル1を火災区画5の給気口(進入口)6に向け、火災区画5の外側から消火剤を拡散放射する。すると、放射した消火剤とそれによって生じる空気の流れにより火災区画5内が加圧され、排気口7から煙及び熱が排出される。上述のように、第二放射口(小孔群)の射線は、拡散放射した流体の断面の形状が給気口6の形状と同じ四角形状となるように設定されているため、この排煙作業は、送風効率が高く、また給気口6からの煙の逆流も生じない。なお、給気口6は火災区画5の入口等であり、排気口7は窓や破壊した外壁等である。
消防隊員等は、排煙作業後に放射ノズル1を消火モードに切り替え、火災区画5内に入り火点に向けて棒状の直線的な放水を行う。棒状放射は拡散放射よりも遠方まで放水可能であるため、消火作業を行う消防隊員等の安全性や作業効率を高めることができる。
【0033】
このように、放射ノズル1は、主に排煙作業時に使用することを想定した拡散放射(排煙モード)と、主に消火作業時に使用することを想定した棒状放射(消火モード)という二つの放射形態をとることができ、一つの放射ノズル1で拡散放射と棒状放射を切り替えて行うことができるため、従来のように二種類の消防ノズルを準備して作業ごとに付け替える必要が無く、排煙作業や消火作業等、異なる放射形態が求められる消火活動を効率的に行うことができる。
なお、上記の実施例では、第一放射口による第一の放射形態を棒状放射、第二放射口による第二の放射形態を拡散放射としているが、例えば第一放射口に複数の小孔を斜めに設けると共に第二放射口に大径の孔を真っ直ぐ設けるなど、第一放射口による第一の放射形態を拡散放射、第二放射口による第二の放射形態を棒状放射とすることも可能である。
本発明による放射ノズルは、射程が長く消火作業に適した棒状放射を行う放射口と、排煙作業に適した拡散放射を行う放射口とを備え、両放射口の切り替えを一つの動作で行えるため、作業に応じてノズルをその都度付け替える手間が無く、消火作業の効率化を図ることができる。