(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077283
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】テナガエビ幼生の飼育装置
(51)【国際特許分類】
A01K 61/59 20170101AFI20240531BHJP
【FI】
A01K61/59
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189277
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】522464528
【氏名又は名称】株式会社奥井組
(74)【代理人】
【識別番号】100121762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100126767
【弁理士】
【氏名又は名称】白銀 博
(72)【発明者】
【氏名】奥井 利幸
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA17
2B104CA01
2B104CB12
2B104CB17
2B104CB22
2B104CB23
2B104CB24
2B104EA01
2B104EC01
2B104EC08
2B104EC24
2B104EC25
2B104ED05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】飼育水槽内の水温変化を少なくし、飼育水槽内における水の温度分布が生じにくくすると共に、飼育水槽内に強い水流を誘起させることの無いテナガエビの幼生の飼育装置を提供することによって、テナガエビの幼生の死滅を防止し、生存率を向上させることを課題とする。
【解決手段】全壁面を断熱処理したコンテナと、コンテナ内部に設置された飼育水槽と、コンテナ内部に設置された原水槽と、コンテナ内部に設置され、コンテナ内部の雰囲気温度を制御する雰囲気温度制御装置とを備え、温度制御された雰囲気をコンテナ内部に循環させることにより、少なくとも、飼育水槽の水温を一定温度に維持すると共に、飼育水槽内の水温の温度分布を最小化する構成のテナガエビ幼生の飼育装置とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全壁面を断熱処理したコンテナと、
コンテナ内部に設置された飼育水槽と、
コンテナ内部に設置された原水槽と、
コンテナ内部に設置され、コンテナ内部の雰囲気温度を制御する雰囲気温度制御装置とを備え、
温度制御された雰囲気をコンテナ内部に循環させることにより、少なくとも、飼育水槽の水温を一定温度に維持すると共に、飼育水槽内の水温の温度分布を最小化することを特徴とするテナガエビ幼生の飼育装置。
【請求項2】
請求項1に記載のテナガエビ幼生の飼育装置において、飼育水槽の上面、側面、下面と、コンテナの壁面との間に、所定の空間を設けることによって、飼育水槽の上面、側面、下面に温度制御された雰囲気が循環可能なように、飼育水槽を配置したことを特徴とするテナガエビ幼生の飼育装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のテナガエビ幼生の飼育装置において、
前記コンテナが海上コンテナであって、海上コンテナの上面、側面、下面に断熱処理を施したものであることを特徴とするテナガエビ幼生の飼育装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のテナガエビ幼生の飼育装置において、
前記コンテナの下部に車輪を設け、移動可能にしたことを特徴とするテナガエビ幼生の飼育装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テナガエビ幼生の飼育装置に係り、更に詳細には、テナガエビ幼生の飼育水槽の水温を一定温度に維持すると共に、飼育水槽内の水温の温度分布を最小化することが容易であって、テナガエビ幼生の飼育装置の運転コストを抑えることが可能な装置に係る。
【背景技術】
【0002】
テナガエビは、河川河口域や、淡水、汽水の湖沼に生息しているエビであって、河川河口域や汽水湖沼で生活しているテナガエビの幼生は、海水の影響を受ける環境で生育する。
【0003】
テナガエビは、産卵された卵から孵化し、プランクトンとして幼生期を送る。 このテナガエビの幼生は、何回も変態を繰り返し、20~25日程度の期間を経て稚エビへと成長する。
【0004】
テナガエビの幼生は、浮遊している餌を捕捉し、沈降したものは捕捉しないことから、テナガエビの幼生の飼育にあたっては、動物プランクトン等を給餌することによって飼育を行なっている。
【0005】
テナガエビの幼生の飼育に当たっては、飼育水温の管理、飼育水槽の塩分濃度の管理、給餌方法、飼育水槽の水質管理など、非常にデリケートな管理手法が必要になる。
【0006】
特に、テナガエビの幼生が生育するに当たって、飼育水槽内の水温の適温範囲は狭く、特に、飼育水槽内の水温変化が大きい場合や、飼育水槽内における水の温度分布に大きな差異が生じるような場合には、テナガエビの幼生の生存率が大幅に低下したり、死滅することもある。
【0007】
また、飼育水槽内の水温を制御するために、調温された水を注入し、飼育水槽内における水の温度分布に大きな差異が生じないようにするために飼育水槽内の水を撹拌する場合もあり、このような場合、飼育水槽内に強い水流を誘起させることになり、この強い水流の影響でテナガエビの幼生の生存率が低下したり、死滅することもある。 このため、飼育水槽内の水温管理とその方法は、テナガエビ幼生の飼育において極めて重要な要素となる。
【0008】
従来、飼育水槽内の水温を制御する方法としては、予め調温された水を飼育水槽内に直接注入したり、あるいは飼育水槽内に配置されたパイプの中を循環させたりすることにより、飼育水槽内の水温の制御を行なっていた。(特許文献1参照。)
【0009】
このような飼育水槽内の水温制御方法を採用した場合、飼育水槽内の水温変化が大きくなったり、飼育水槽内における水の温度分布に大きな差異が生じたり、あるいは飼育水槽内に強い水流を誘起させてしまうことがあったため、テナガエビの幼生の生存率が大幅に低下したり、死滅してしまうという問題があった。
【0010】
更に、飼育水槽内の水から飼育水槽外に熱が流出したり、あるいは飼育水槽外から飼育水槽内に熱が流入するため、飼育水槽内に予め調温された水を頻繁に注入することにより飼育水槽内の水温を維持する必要があり、この調温された水を準備するために多くの電力を要し、テナガエビの幼生の飼育装置の運転コストが増大するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述したような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、飼育水槽内の水温変化を少なくし、飼育水槽内における水の温度分布が生じにくくすると共に、飼育水槽内に強い水流を誘起させることの無いテナガエビの幼生の飼育装置を提供することによって、テナガエビの幼生の死滅を防止し、生存率を向上させることを課題とする。
【0013】
また、本発明は、飼育水槽内の水から飼育水槽外に熱が流出したり、あるいは飼育水槽外から飼育水槽内に熱が流入することを極力低下させることによって、テナガエビの幼生の飼育装置の運転コストを低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、第1の観点に係る発明では、全壁面を断熱処理したコンテナと、コンテナ内部に設置された飼育水槽と、コンテナ内部に設置された原水槽と、コンテナ内部に設置され、コンテナ内部の雰囲気温度を制御する雰囲気温度制御装置とを備え、温度制御された雰囲気をコンテナ内部に循環させることにより、少なくとも、飼育水槽の水温を一定温度に維持すると共に、飼育水槽内の水温の温度分布を最小化する構成のテナガエビ幼生の飼育装置とした。
【0015】
また、第2の観点に係る発明では、第1の観点に係る発明のテナガエビ幼生の飼育装置において、飼育水槽の上面、側面、下面と、コンテナの壁面との間に、所定の空間を設けることによって、飼育水槽の上面、側面、下面に温度制御された雰囲気が循環可能なように、飼育水槽を配置した構成のテナガエビ幼生の飼育装置とした。
【0016】
また、第3の観点に係る発明では、第1又は第2の観点に係る発明のテナガエビ幼生の飼育装置において、前記コンテナが海上コンテナであって、海上コンテナの上面、側面、下面に断熱処理を施したものである構成のテナガエビ幼生の飼育装置とした。
【0017】
また、第4の観点に係る発明では、第1又は第2の観点に係る発明のテナガエビ幼生の飼育装置において、前記コンテナの下部に車輪を設け、移動可能にした構成のテナガエビ幼生の飼育装置とした。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るテナガエビ幼生の飼育装置では、温度制御された雰囲気を断熱処理したコンテナ内部に循環させることにより、飼育水槽の水温を一定温度に維持し、飼育水槽内の水温の温度分布を最小化することが可能となると共に、飼育水槽内に強い水流を誘起させないことが可能となった結果、テナガエビの幼生の死滅を防止し、生存率を向上させることができた。
【0019】
また、本発明に係るテナガエビ幼生の飼育装置では、飼育水槽内の水から飼育水槽外に熱が流出したり、あるいは飼育水槽外から飼育水槽内に熱が流入することが低減された結果、テナガエビ幼生の飼育装置の運転コストを大幅に低減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明に係るテナガエビ幼生の飼育装置の1つの実施例の構成を示したものであって、その平面図を示したものである。
【
図2】
図2は、
図1に示す飼育装置の断面A-Aを示したものである。
【
図3】
図3は、
図1に示す飼育装置の断面B-Bを示したものである。
【
図4】
図4は、
図1に示す飼育装置の断面C-Cを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。 なお、ここで説明する本発明の実施の形態は、本発明を例示するものであって、これらによって発明の範囲が限定されるものではない。
【0022】
図1~4は、本発明に係るテナガエビ幼生の飼育装置1の1つの実施例の構成図を、平面図として示したものであって、テナガエビ幼生の飼育装置1は、コンテナ2、飼育水槽3、原水槽4、餌培養水槽5、浄水装置6、及び雰囲気温度制御装置7とから構成されている。
【0023】
コンテナ2は、テナガエビ幼生の飼育装置1を構成する各要素を収納するための容器であり、形状は特に限定されるものではないが、飼育装置1を構成する各要素を収納するために直方体の形状が望ましく、鋼板やアルミ板、木材、建築用ボード等を使用して構築することができる。
【0024】
コンテナ2の全ての壁面(コンテナ2が直方体形状の場合、上面、下面、側面の6つの壁面)には、断熱処理が施されている。 断熱処理としては、各壁面に断熱シートや断熱ボードを張り付けたり、断熱材を吹き付けたり、あるいは断熱塗料を塗布することにより施工することができる。
【0025】
コンテナ2を構築するに当たっては、既存の構造物を利用することもできる。 例えば、従来から使用されている海上コンテナを使用し、海上コンテナの上面、下面、側面の6つの壁面に上述した断熱処理を行なって、コンテナ2を構成するようにしても良い。
【0026】
また、コンテナ2の下部、例えば下面の壁面に車輪(図示せず)を設け、コンテナ2を容易に移動できるようにしても良い。
【0027】
飼育水槽3は、親エビの交配のために使用したり、抱卵したテナガエビの親エビを飼育したり、孵化したテナガエビの幼生を飼育するための水槽であり、特に限定されるものではないが、直方体の形状を有し、下面および側面をガラスやプラスチック等で構成することができる。
【0028】
また、飼育水槽3は、1又は複数個の水槽から構成され(
図1に示す例では、飼育水槽3は5個の水槽から構成されている)、全てコンテナ2の内部に配置される。
【0029】
飼育水槽3には、飼育水が満たされていると共に、飼育水を循環させるための給水および排水用配管(図示せず)が接続されている。
【0030】
原水槽4は、飼育水槽3に供給するための飼育水を貯留しておくための水槽であり、飼育水槽3内の水温と同じ水温に維持されている。 原水槽4は、飼育水槽3と同様に、直方体の形状とし、下面および側面をガラスやプラスチック等で構成するようにしても良い。
【0031】
原水槽4へは、コンテナ2の外部から予め所定水温に調温された飼育水が供給されるようになっている。 原水槽4に飼育水を供給する前に、一旦、飼育水を浄水装置6によってろ過・浄化した上で原水槽4に飼育水を供給するようにしても良い。 また、原水槽4は、1個又は複数個の水槽から構成され(
図1に示す例では、原水槽4は1個の水槽から構成されている)、全てコンテナ2の内部に配置される。
【0032】
原水槽4では、エアレーションを行ない、飼育水内の酸素の含有量を高めたり、飼育水内の塩分濃度の調整を行なうようにしても良い。
【0033】
餌培養水槽5は、テナガエビ幼生の餌となる動物性プランクトンを培養するための水槽であり、ここで培養された動物性プランクトンが、テナガエビ幼生に給餌される。
【0034】
本実施例では、餌培養水槽5は、コンテナ2の内部に配置されているが、コンテナ2の外部に設置し、テナガエビ幼生に給餌する際に、コンテナ2外部からテナガエビ幼生の餌を持ち込み、給餌するようにしても良い。
【0035】
浄水装置6は、コンテナ2の外部から予め所定水温に調温された飼育水をろ過・浄化するための装置であり、ここで回収・ろ過された飼育水は、原水槽4に入れられるようになっている。 なお、この浄水装置6は、省略することも可能である。
【0036】
雰囲気温度制御装置7は、コンテナ2内部の雰囲気温度を制御するための装置であり、コンテナ2内部の雰囲気(空気)を吸引し、吸引した雰囲気を所定の温度に調温した上で吐出して、コンテナ2内部を循環させるようになっている。 また、雰囲気温度制御装置7は、コンテナ2外部に設置された熱交換機と配管(図示せず)により接続されている。
【0037】
雰囲気温度制御装置7によって温度制御された雰囲気(空気)は、特に、飼育水槽3および原水槽4の外周であって、コンテナ2内部を循環するようになっている。
【0038】
特に、飼育水槽3および原水槽4の上面、側面、下面に温度制御された雰囲気が循環するようにするために、飼育水槽3および原水槽4の上面、側面、下面と、コンテナ2の壁面(コンテナ2の上面、側面、下面)との間に、所定の空間を設けるようにして、コンテナ2内に飼育水槽3および原水槽4を設置している(
図1~
図4参照)。
また、温度制御された雰囲気のコンテナ2内への循環性を高めるため、雰囲気温度制御装置7を複数台設置するようにしても良い。 飼育水槽3および原水槽4は、
図1~
図4に示すように、架台8の上に載置するようにしても良い。
【0039】
上述したように、飼育水槽3の上面、側面、下面に温度制御された雰囲気が循環可能なように、飼育水槽3を配置することにより、飼育水槽3の水温を一定温度に維持し、飼育水槽3内の水温の温度分布を最小化することが可能となる。
【0040】
特に、循環する温度制御された雰囲気の比熱は、飼育水の比熱に比べ極めて小さいため、循環する温度制御された雰囲気の温度と飼育水の温度に差があったとしても、飼育水の温度変化は極めて緩やかになり、飼育水槽3内の水温の温度分布が生じにくく、飼育水を一定温度に維持しやすくなることから、幼生に影響を与えない。
【0041】
その結果、飼育水槽3内には飼育水の対流が生じにくく、強い水流を誘起させることもないことから、テナガエビの幼生の死滅を防止し、生存率を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1 飼育装置
2 コンテナ
3 飼育水槽
4 原水槽
5 餌培養水槽
6 浄水装置
7 雰囲気温度制御装置
8 架台